セルの熱暴走の伝搬に対する耐性を有するバッテリパック
【課題】複数のバッテリ内における熱暴走の伝搬を抑制する手段を提供する。
【解決手段】セルケース101の側壁部及び底面の双方は、熱膨張性材料層301によって被覆されている。あるいは、セルケース101の側壁部のみが熱膨張性材料層301によって被覆されている。熱暴走中において、バッテリの外面は、加熱し、熱膨張性材料層301は、吸熱化学反応によって過剰な熱を吸収する。熱膨張性材料の膨張開始温度に達すると、熱膨張性材料層301は、膨張し始める。膨張後、熱膨張性材料層301は、一般的に炭化物と称される層に硬化する。
【解決手段】セルケース101の側壁部及び底面の双方は、熱膨張性材料層301によって被覆されている。あるいは、セルケース101の側壁部のみが熱膨張性材料層301によって被覆されている。熱暴走中において、バッテリの外面は、加熱し、熱膨張性材料層301は、吸熱化学反応によって過剰な熱を吸収する。熱膨張性材料の膨張開始温度に達すると、熱膨張性材料層301は、膨張し始める。膨張後、熱膨張性材料層301は、一般的に炭化物と称される層に硬化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的にバッテリに、より具体的には、バッテリパック内におけるセル(cell)の熱暴走作用を最小化する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリは、概して、一次及び二次バッテリにクラス分けされる。一次バッテリは、使い捨てバッテリとも称され、消耗するまで使用されることを目的としており、その後、バッテリは、1以上の新しいバッテリに単純に交換される。二次バッテリは、より一般的には充電式バッテリと称され、繰り返し再充電されかつ再使用されることが可能であり、したがって、使い捨てバッテリと比較して、経済的な、環境的な及び使いやすさの利点をもたらす。
【0003】
充電式バッテリが使い捨て電池よりも多くの有利点をもたらすが、このタイプのバッテリには欠点がないのではない。一般的に、充電式バッテリに関連する欠点の大部分は、これら化学的性質が一次セルに使用される化学的性質よりも安定しない傾向があるため、採用されるバッテリの化学的性質に基づいている。これら比較的安定しない化学的性質により、二次セルは、しばしば製造中に特別な取り扱いを必要とする。また、リチウムイオン電池のような二次電池は、一次電池よりも熱暴走しやすい傾向があり、熱暴走は、取り除かれるよりも多くの熱が発生する点まで内部反応速度が増大すると発生し、反応速度と発熱との双方をさらに増大させる。最終的には、発熱量は、バッテリ及びバッテリに近接する材料の燃焼を引き起こすのに十分となる。熱暴走は、セル内の短絡、不適切なセルの使用、物理的な不正使用、製造欠陥またはセルを過度な外部温度にさらすことによって起きる。
【0004】
熱暴走は、単一の出来事が重大な物的損害、そしてある状況において、人体の損害または人命の喪失を引き起こすことがあるので、重要な懸案事項である。バッテリが熱暴走を受けると、バッテリは、主として、大量の煙、燃焼している液体電解質の噴射及び著しい熱を出し、セルに近接する材料の燃焼及び破損を引き起こす。そして、主としてバッテリパックのように熱暴走を受けるセルが1以上のさらなるセルによって囲まれている場合、単一の熱暴走の出来事は、複数のセルの熱暴走を瞬時に引き起こし、複数のセルの熱暴走は、順に、さらに広範囲な巻き添え被害を引き起こす。この現象を受けるセルが単一であるか複数であるかに拘らず、初期的な炎を瞬時に消さない場合、その結果生じた炎は、物的損害の度合いを劇的に広げることがある。例えば、人がついていないラップトップコンピュータ内のバッテリの熱暴走は、ラップトップコンピュータの破損だけでなくその周辺のもの、例えば家屋、オフィス、車、実験室などの少なくとも部分的な破損を引き起こしうる。ラップトップコンピュータが例えば貨物倉または荷物室内で航空機の機内に搭載されている場合、結果として生じる煙または炎は、緊急着陸またはより急を要する状況において不時着を引き起こすことがある。同様に、ハイブリッドまたは電気自動車のバッテリパック内にある1以上のバッテリの熱暴走は、自動車を破損するだけでなく、自動車を運転している場合に自動車事故、または自動車を駐車している場合に自動車の周辺物の破損を引き起こすことがある。
【0005】
この問題を克服する1つの取り組みは、熱暴走の危険性を減少させることである。例えば、保管中及び/または取り扱い中にバッテリが短絡することを防止するため、事前注意を採用し、例えばバッテリ端子を絶縁することまたは特別に設計されたバッテリ保管容器を使用することによって、バッテリが正確に保管されていることを確実にする。熱暴走の問題を克服する別の取り組みは、新たなセルの化学的性質を開発すること及び/または現在のセルの化学的性質を改良することである。例えば、高充電電位(high charging potential)をより耐える複合カソードを開発する研究が現在進行中である。また、より安定した保護層を電極に形成する電解質添加物を開発する研究が進行中である。この研究が改良したセルの化学的性質及びセルの設計をもたらすが、現在、この研究は、熱暴走の可能性を低減することが期待されているのみであって消滅させない。したがって、熱暴走作用と単一の熱暴走の出来事がバッテリパック内の複数のセルにわたって伝搬する危険性とを抑制する手段が必要とされている。本発明は、このような手段を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、複数のバッテリ内における熱暴走の伝搬を抑制する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも1つの形態において、バッテリパックは、複数のバッテリを保持するように構成され、第1筐体部材内面及び第1筐体部材外面からなる第1筐体部材と、第1筐体部材に結合されるように構成され、第2筐体部材内面及び第2筐体部材外面からなる第2筐体部材と、複数のバッテリと、複数のバッテリに結合された複数のバッテリ相互接続部と、第1筐体部材内面、第2筐体部材内面、複数のバッテリ及び複数のバッテリ相互接続部を被覆する熱膨張性材料層と、からなって提供される。熱膨張性材料層は、第1筐体部材外面及び第2筐体部材外面をさらに被覆する。バッテリパックは、例えば冷却ライン内に収容された冷却液など複数のバッテリを能動的に冷却する手段をさらに備え、熱膨張性材料層は、バッテリパック内に収容された能動的な冷却手段の所定部分を被覆する。熱膨張性材料は、グラファイトを基にした膨張性材料、熱可塑性エラストマ、セラミックを基にした膨張性材料、バーミキュライト/鉱物の繊維を基にした膨張性材料、及びポリリン酸アンモニウムを基にした膨張性材料からなる膨張性材料のグループから選択されている。熱膨張性材料は、75℃から150℃の範囲にある、あるいは100℃から200℃の範囲にある、あるいは200℃から300℃の範囲にあるSET温度を有する。
【0008】
本発明の性質及び有利点のさらなる理解は、明細書の残りの部分及び図面を参照しながら理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】18650フォームファクタを用いたセルを示す概略断面図である。
【図2】従来技術の取り組みにしたがって故障耐性を増加させるために変更された図1のセルを示す図である。
【図3】バッテリケースの外面に塗布された熱膨張性材料の被覆を用いた本発明の好ましい実施形態を示す図である。
【図4】図3に示す構造の変形例を示す図であって、変更された構造がキャップ組立体の所定部分に塗布された熱膨張性材料を有する、図である。
【図5】複数の被覆されていない一連のセル間で熱暴走事象が伝搬することを示すグラフである。
【図6】熱膨張性材料で被覆された一連のセル間で熱暴走事象が伝搬しないことを示すグラフである。
【図7】熱エネルギーを吸収してこれにより熱暴走の開始を遅延させるための熱膨張性材料の能力を示すグラフである。
【図8】1対の熱膨張性層を用いた別の実施形態を示す図である。
【図9】図3に示す構造の変形例を示す図であって、熱膨張性層がセルケースの所定部分のみを被覆しこれによりセルと隣接する冷却導管との間の改良した熱伝達をもたらす、図である。
【図10】図9に示す実施形態を示す上面図である。
【図11】セルケース内面と電極ゼリーロール(jellyroll)部との間に介在された熱膨張性材料層を用いた別の実施形態を示す図である。
【図12】バッテリパックの内面及びバッテリパック内に収容された構成部材の外面が熱膨張性材料で被覆された例示的なバッテリパックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の文章において、用語「バッテリ」、「セル」及び「バッテリセル」は、同義的に使用され、リチウムイオン(例えばリン酸鉄リチウム、酸化コバルトリチウム、他の酸化金属リチウムなど)、リチウムイオンポリマー、ニッケルメタルハイドライド(nickel metal hydride)、ニッケルカドミウム、ニッケル水素(nickel hydrogen)、ニッケル亜鉛、銀亜鉛または他のバッテリタイプ/構造を含むがこれに限られないさまざまな異なるセルの化学的性質及び構造のいずれかをいう。本明細書で使用されるような用語「バッテリパック」は、単一部品または複数部品の筐体内に収容された複数の個別のバッテリであって個別のバッテリが電気的に相互接続されて特定の用途についての所望の電圧及び容量を達成する複数の個別のバッテリをいう。理解すべきことは、複数の図面において使用される同一の参照符号が構成部材または同等の機能性からなる複数の構成部材をいうことである。したがって、添付の図面は、説明することを意図するのみであり、本発明の範囲を限定せず、基準化すると考えられないべきである。
【0011】
以下の明細書にわたって、本発明は、18650フォームファクタを用いるセルに関して説明される。しかし、理解すべきことは、本発明が本発明の機能性を維持したまま同様に別のセルの設計、形状、化学的性質、フォームファクタ及び構造に適用されることである。例えば、用途は、角形及びパウチのセルに同様に適用可能である。
【0012】
図1は、例えば18650フォームファクタを使用したリチウムイオンバッテリなどの従来のバッテリ100の簡易化した断面図である。バッテリ100は、シリンダ状ケース101、電極組立体103及びキャップ組立体105を有している。ケース101は、主としてニッケルメッキされた鋼のような金属で形成されており、金属は、例えば電解液、電極組立体などのバッテリ材料と反応しないように選択されている。主として、セルケース101は、底面102がケースに組み込まれ、結果として継目のない下部セルケースが得られるように製造されている。セルケース101の開口端部は、キャップ組立体105によって封止されており、組立体105は、例えば陽極などのバッテリ端子107と、端子107がケース101と電気的に接触することを防止する絶縁体109と、を有している。図示しないが、標準的なキャップ組立体は、内部にある正の温度係数(PTC)電流制限デバイスと、電流断続デバイス(CID)と、排気機構と、を有しており、排気機構は、高圧で裂けてセルの内容物を抜くための経路を形成する。また、キャップ組立体105は、選択された設計/構造に応じて他の封止部または構成要素を有する。
【0013】
電極組立体103は、陽極シート、陰極シート及び介在する隔壁板からなり、これらは、しばしば「ゼリーロール」といわれる螺旋状パターンで共に巻回される。陽極電極タブ111は、巻回された電極組立体の陽極を陰極に接続する一方で、陰極タブ113は、巻回された電極組立体の陰極を陽極に接続する。図示された実施形態において、陰極は、ケース101であり、陽極は、端子107である。多くの構造において、バッテリ100は、一対の絶縁体115/117を有している。ケース101は、例えば封止部、電極組立体などの内部構成部材を保持することを補助するように設計されたクリンプ部分119を有する。
【0014】
図1に示すセルのような従来のセルにおいて、さまざまな異なる不正な動作/充電状況及び/または製造欠陥は、内部発熱量が効果的に取り除かれる発熱量よりも大きい場合に、セルが熱暴走を開始することを引き起こす。その結果、多量の熱エネルギーは、瞬時に解放され、セル全体を900℃以上の温度まで加熱し、さらに温度が1500℃を超える場合に局所的な過熱点の形成を引き起こす。付随して発生するこのエネルギーの解放は、ガスの開放であり、セル内でガス圧を開放させる。
【0015】
熱暴走作用に対抗するため、従来のセルは、主としてキャップ組立体に排気素子を有している。排気素子の目的は、いくらか制御された方法で、熱暴走事象中に発生したガスを開放することであり、これにより、セルの内部ガス圧がセルの所定の動作範囲を超えることを防止する。
【0016】
セルの排気素子が過剰な内圧を防止するが、この素子は、熱暴走事象の熱的側面にほとんど効果がない。例えば、局所的な過熱点が場所121においてセル100に発生する場合、この点で解放される熱エネルギーは、単一層のケース壁部101の隣接領域123をその融点を超えて加熱するのに十分になることがある。たとえ領域123の温度がその融点を超えて上昇されなくても、増加した内部のセルの圧力と接触している領域123の温度は、瞬時にケース壁部をこの場所において穿孔させることがある。いったん穿孔すると、上昇した内部のセルの圧力は、さらなる高温ガスをこの場所に向けさせ、さらにセルをこの場所及び隣接する場所において危険にさらす。
【0017】
留意すべきことは、セルが熱暴走を受けて、所望の排気素子を用いて制御された方法で排気すると、セルが、排気の程度とセル壁部の材料特性と裂けた排気口に向けてガスが勢いよく流れるようにセル壁部に沿って移動する高温ガスの流動にと応じてさらに穿孔することがあることである。いったんセル壁部が危険にさらされる、すなわち穿孔されると、このような過熱点の場所が予測不能であるため及びこのようなセル壁部の穿孔が大きくなりかつ隣接セルに影響を及ぼす予測不能な方法のため、巻き添え被害は、瞬時に発展する。例えば、セルがバッテリパックよりなるセルの大型アレイの1つである場合、セルの穿孔から抜ける高温ガスの噴射は、隣接セルをその臨界温度を超えて加熱し、隣接セルが熱暴走を開始することを引き起こすことがある。したがって、当然のことながら、熱暴走中における1つのセルの壁部の穿孔は、バッテリパックにわたって広がる段階的な反応を起こす。さらに、第1セルにおけるセルの穿孔から抜ける高温ガスの噴射が隣接セルにおける熱暴走を起こさない場合であっても、噴射は、例えば隣接セルの壁部を弱化させることによって隣接セルの健全性にさらに影響を及ぼし、これにより、隣接セルを将来の欠陥の影響を受けやすくさせる。
【0018】
上述のように、セルの穿孔は、集中した熱事象からの高温の加圧ガスがセルの内面近傍を流動する局所化された一時的な過熱点が原因である。セルの一時的な過熱点がセルの壁部を穿孔するまたは単純に消散し、多くの要因に起因してセルケースを無傷のままとする。これら要因は、2つのグループ、すなわち、熱事象の特性に基づく要因と、セルケースの物理的性質に基づく要因と、に分けられる。第1グループに属する要因は、過熱点のサイズ及び温度並びに熱事象の継続時間及び事象によって発生したガス量を含む。第2グループに属する要因は、壁厚並びに温度、熱容量及び熱伝導率の関数としてのケースの降伏強さを含む。
【0019】
図2は、セルの故障耐性を改善する従来の取り組みを示しており、この故障は、熱的に誘導された壁部の穿孔と規定される。図示のように、セル200において、ケース201の厚さは、十分に増大されており、これにより、セルの重量を犠牲にしてセルの故障耐性を改善している。少数のセルのみが使用される大部分の消費者の用途についてセルの質量が問題でないと仮定すると、熱暴走中に壁部の穿孔を防止する従来の取組みは、かなり効果的である。残念ながら、例えば電気自動車のバッテリパックなどバッテリパックが数百または数千のセルを有するこれら用途について、この取り組みからなる質量の増加は、性能が質量に直接関係するため、あまり人目を引かない。例えば、従来の取り組みがセル当たり4グラムのみ加える場合、10000個のセルを有するバッテリパックについて、これは、40kgまで増加させる。したがって、これら用途について、セルの故障耐性を改善する従来の取り組みは、受け入れられない。
【0020】
大型のバッテリパック内のバッテリに置かれる重量の制約と熱膨張中の壁部の穿孔の開始及び成長に寄与する要因とを認識することに加えて、本発明者らは、いったんセルが熱膨張を起こすと、もはや存続可能でなくなることを認識している。したがって、この点において、第1の目的は、隣接セルに影響を及ぼす熱膨張であって段階的な熱膨張事象の始動を引き起こす可能性のある熱膨張の危険性を低減することである。これら設計パラメータ及び目的を認識して、本発明の目的は、影響を受けるセルの隣にあるセルにおける熱膨張差用を最小化し、これにより熱膨張の伝搬を阻止することである。
【0021】
図3は、本発明の好ましい実施形態を示しており、セルケースの外面は、熱膨張性材料層301で被覆されている。好ましくはかつ図示のように、セルケース101の側壁部及び底面の双方は、層301によって被覆されている。あるいは、セルケース101の側壁部のみが層301によって被覆されている。層301は、被覆面を熱膨張性材料の溶液で塗装することによって、セルを熱膨張性材料の溶液に浸漬することによって、または他の手段によって、塗布されている。図において、上側セル面303は、被覆されていない。しかしながら、当然のことながら、この面は、この設計においてセルケース及び端子305からなるバッテリの端子間の短絡を膨張性材料が引き起こさない限り、被覆されてもよい。バッテリの短絡は、非導電性の膨張性材料を用いることによって防止される。あるいは及び図4に示すように、電気絶縁体401は、膨張性材料を塗布したために、セル端子間の短絡を防止するために配置されてもよい。
【0022】
熱暴走中において、バッテリの外面は、加熱し、この加熱処理は、主として、1以上の一時的な過熱点(例えば図1における点121)を誘導する。この処理中において、熱膨張性層301は、吸熱化学反応によって過剰な熱を吸収する。いったん同様に材料の開始膨張温度すなわち「SET」とも称される熱膨張性材料の活性化温度に達すると、層301は、膨張し始める。主として材料の膨張は、一時的な過熱点の近傍で始まり、そしてバッテリ全体がSET温度を越えて加熱するにしたがって継続する。膨張後、熱膨張性材料層301は、一般的に炭化物と称される層に硬化する。
【0023】
本発明者らは、上述のようにセルに直接塗布されるまたは以下で詳細に説明するような構成において使用される熱膨張性材料を用いることが、熱暴走事象の伝搬に対する十分な耐性をもたらすことを見出した。一般的に、熱膨張性材料は、セルが過熱され始めるといくつかの機能を行う。第1に、セルを取り囲む熱膨張性材料は、熱事象中に発生した熱エネルギーを吸収し、これにより熱的平衡に達するのに十分な時間をセルに与えることによって一時的な過熱点(例えば図1における点121)がセルケースを穿孔することを防止することを補助する。第2に、いったんSET温度に達すると、熱膨張性材料は、膨張して影響されたセルと隣接セルとの間に熱バリアを形成する。第3に、いったん熱膨張性材料が炭化物に硬化すると、熱膨張性材料は、影響されたセルを収容し、例えば流出するガスまたは炎が隣のセルに直接影響を及ぼすことを防止する。第4に、一部の用途において、熱膨張性材料は、影響されたセルによって生成された過剰な熱を冷却導管のような熱除去手段に向けるために使用される。
【0024】
熱膨張性被覆をセルの外側ケースに塗布する効果を判断するために設計された1つの試験において、2つのグループのセルは、直列に配置されている。第1グループのセルは、処理されていない一方、第2グループのセルにおけるセルそれぞれは、外側セルケースに塗布された熱膨張性材料を有する。セル間の間隔は、両試験について同一である。各試験において、第1グループのセルは、熱暴走事象を強いられる。未処理セルに対するこの試験の結果は、図5に示すように、第1セルを熱暴走にさらすと3分から4分以内に列をなす次のセルが熱暴走を始めることを示した。対照的にかつ図6に示すように、熱膨張性被覆されたセルについて、熱暴走事象は、隣接セル間で伝搬しなかった。したがって、図5は、一時的な過熱点がセル内の別の場所に形成されるにしたがって、被覆されていないセルがしばしば複数の熱的スパイクを受け、これら一時的な過熱点が明確に隣接セルに影響を及ぼすことを示している。しかしながら、熱膨張性材料が被覆されたセルにおいて、熱膨張性材料によって形成された熱的バリアは、隣接セルが複数の熱的ピークを受けることを防止する。むしろ、熱膨張性被覆されたグループのセルにおいて隣接セルに存在する外部温度は、いったんピークになると、熱的平衡に達するまで熱的エネルギーの漸進的な散逸が続く。留意すべきことは、図5及び図6において報告したように、監視した温度の違いがセルケースと熱電対との間の熱的バリアを示す熱膨張性被覆によることである。
【0025】
上述のように、熱膨張性被覆の利点の1つは、熱的事象中に発生した熱エネルギーの一部を吸収する熱膨張性被覆の能力である。このエネルギーの一部を吸収することによって、熱暴走の開始は、防止され、または少なくとも遅延させる。図7は、熱膨張性被覆のこの態様を示している。具体的には、6つのセルは、熱暴走へ追い込まれており、2つのセルは、被覆されておらず(すなわち、曲線701及び702)、4つのセルは、熱膨張性材料で被覆されている(すなわち、曲線703から706)。同一の条件がセルそれぞれに適用されたが、被覆されたセルに対する熱暴走は、少なくとも100秒遅延された。
【0026】
本発明における熱膨張性層、例えば層301は、例えばグラファイトを基にした膨張性材料(例えばポリマー接着剤にある膨張可能なグラファイト)、熱可塑性エラストマ、セラミックを基にした膨張性材料、バーミキュライト/鉱物の繊維を基にした膨張性材料、及びポリリン酸アンモニウムを基にした膨張性材料など、さまざまな熱膨張性材料のいずれかから製造されてもよい。好ましくは、選択した熱膨張性材料は、100℃から300℃の範囲、より好ましくは200℃から300℃の範囲にあるSET温度を有する。あるいは、選択した熱膨張性材料は、100℃から200℃の範囲、より好ましくは75℃から150℃の範囲にあるSET温度を有する。好ましくは、選択した熱膨張性材料は、生物不活性であり、このため、気流が制限された用途において熱膨張性被覆されたセルが使用される場合、層の活性化は、毒性のない事象である。さらに、好ましいことは、選択した熱膨張性材料が非電気的導電材料からなることである。
【0027】
図8は、図3及び図4に示す実施形態の若干の変形例を図示している。この変形構成において、セルケース101は、一対の熱膨張性材料層801及び803で覆われており、2つの熱膨張性材料層は、異なる材料特性を有している。好ましい構成において、ケース101に続く層801は、外側熱膨張性材料層803よりも高い熱容量を有している。結果として、内側熱膨張性層801は、過剰な熱的エネルギーを迅速に吸収し、このため、セルが熱的平衡を維持することを補助し、かつ過熱点の形成を防止する。セルが加熱し続けると仮定すると、熱的エネルギーが内側層801を通過するにしたがって、外側層803は、過剰な熱的エネルギーを吸収する。この2層を用いる取り組みは、熱的事象を受けるセルから隣接セルに熱的エネルギーが伝達することをさらに遅延させ、これにより、バッテリパックにわたる熱暴走事象の伝搬へのさらなる耐性をもたらす。別の構造において、層801は、外側熱膨張性材料層803よりも低い熱容量を有する。
【0028】
当然ながら、他の材料特性は、2つの熱膨張性層間で変化されてもよい。例えば、このような一形態において、内側層801は、外側層803よりも高いSET温度を有するように設計されている。その結果、熱的事象(例えば熱暴走)の開始時に、外側熱膨張性層803は、瞬時に膨張して影響を受けるセルと隣接セルとの間に熱的バリアを形成する。この期間中に、内側層801は、熱エネルギーを吸収するが、膨張しない。そして、いったんセルの温度が内側層801のより高いSET温度に達すると、内側層は、膨張し始める。しかしながら、層801の膨張は、特に層801がすでに炭化物に変化するように層803のSET温度がなっている場合に、すでに膨張された層803によっていくらか抑制される。主として、層801及び803のSET温度は、セルの化学的性質、セルのフォームファクタ(例えば、大型のセルに対する18650シリンダ状のセル)、セルの間隔などを考慮して、具体的な用途について最適化されている。例示的な構造において、内側層801は、200℃から300℃の範囲にあるSET温度を有している一方、外側層803は、100℃から200℃の範囲にあるSET温度を有している。
【0029】
2層構造を用いた別の例示的な実施形態において、膨張性層間の熱伝導性は、変化されてもよく、好ましくは、外側熱膨張性層803は、内側層801よりも低い熱伝導性を有している。この構造の利点の1つは、内側熱膨張性層801がセルから熱を取り除くことに関する最適な性能について設計される一方、外側熱膨張性層803がセル間の最適な熱的隔離をもたらすように設計されることであり、このため、隣接するセル間の熱エネルギーの伝搬をより抑制する。さらに別の実施形態において、外側層803は、セル間の最適な熱的隔離をもたらすように設計されており、このため熱伝導性の低い熱膨張性材料からなる一方、内側層801は、層の燃焼抑制特性を最適化するように選択されている。当然ながら、膨張性材料の他の組み合わせを使用してもよい。
【0030】
理解すべきことは、図4に関して上述のように、層801及び803が上側セル面303を覆わないで示されているが、膨張性材料が導電性でないか、セルが熱膨張性材料の塗布によって短絡しないことを確実にする予防措置が採られる限り、膨張性材料がセルの上側部を覆ってもよいことである。
【0031】
例えば電気自動車など一部の用途において、バッテリパック内のバッテリは、能動的冷却システムを用いて冷却される。能動的冷却システムは、例えばバッテリパック内のバッテリに近接近してまたはバッテリと接触して取り付けられた1以上の導管からなる。導管を通して冷却液を送り込むことによって、熱は、バッテリ/バッテリパックから取り除かれる。このような用途において、発明者らは、冷却導管に近接近しているまたは冷却導管と接触しているセルケースの部分に膨張性材料がないままとすることが好ましいことを見出した。セルのこの部分を被覆しないままとすることによって、熱は、バッテリからより効率的に取り除かれる。理解すべきことは、上述した実施形態、例えば図3、図4及び図8において図示した実施形態が、熱膨張性材料からなる1以上の層が冷却導管に近接近するまたは冷却導管と接触するセルケース101の部分を完全には被覆しないように変更されてもよいことである。本発明のこの態様は、図9及び図10で図示されており、図9及び図10は、冷却導管901を考慮して変更された図3に示す実施形態の断面図及び上面図を提供する。これら図において、冷却導管901は、3つの冷却液流動チャネル903を有する。熱膨張性層301は、導管901に近接近するまたは導管と接触するセルケース101の部分が熱膨張性材料によって被覆されないままとするように構成されている。当然ながら、本発明の他の実施形態は、同様に変更されてもよい。
【0032】
上述した実施形態の変形例において、熱膨張性材料層1101は、セルケース101の内壁面と電極組立体(図11)の外面との間に介在されている。熱膨張性材料層1101は、過剰な熱エネルギーを吸収し、これにより、例えば電極組立体内の一時的な過熱点から外側のセルケース101への熱エネルギーの伝達を最小化する。層1101が熱エネルギーを吸収するにしたがって、かついったん層のSET温度に達すると、層は、セルケースによって許容された範囲に膨張する。セルケース101によって層1101の膨張部に課せられた制約に起因して、層1101は、好ましくは、層のSET温度に達すると層が膨張する範囲を最小化しながら燃焼抑制特性が最適になるように選択されている。好ましくは、層1101は、層のSET温度に達すると25%未満だけ、あるいは層のSET温度に達すると50%未満だけ、層のSET温度に達すると100%未満だけ、膨張する。
【0033】
層1101は、ケース101の内面を選択した熱膨張性材料で被覆することによって形成されており、この被覆/堆積工程は、電極組立体をセルケース内に組み込む前に実行される。あるいは、電極組立体の外面は、例えば選択した熱膨張性材料を用いた浸漬処理によって、被覆されてもよく、この被覆工程は、電極組立体をセルケース内に組み込む前に実行される。あるいは、熱膨張性材料は、キャリア基材に塗布されてもよく、このキャリア基材は、その後セルケース内に組み込まれる前に電極組立体の外面に巻回される。あるいは、熱膨張性材料は、スリーブの形態をなす第2キャリア基材に塗布されてもよく、熱膨張性被覆されたスリーブは、その後最終的な組み立て前にセルケースに挿入される。
【0034】
本発明の別の実施形態において、セルの外面を被覆することに加えて、バッテリパック内の他の構成部材及び面のすべては、熱膨張性材料で被覆される。さまざまな電気部品(例えばセル、相互接続部など)を被覆前に電気的に隔離することが可能であるが、好ましくは、非導電性の熱膨張性材料は、この実施形態に対して使用されており、これにより、この隔離工程を削除することができかつ製造を単純化する。
【0035】
例示的なバッテリパック1200を図12に示す。このバッテリパックのさらなる説明は、2009年4月22日に出願された同時係属中の米国特許出願番号第12/386684号でなされており、その開示全体は、すべての理由で本明細書に組み込まれる。当然ながら、本発明は、他のバッテリパックに同様に十分に適用可能であり、バッテリパック1200は、単に本発明を説明することを意図している。特に、理解すべきことは、収容されるセルの数、セルのサイズ及び形状、セルをバッテリパック内に取り付ける方法、バッテリパックを所定位置に取り付けるまたは保持するための方法、パック内で使用されるセル相互接続部のタイプ及びバッテリパックとバッテリパックが対象とする用途との間で使用される相互接続部のタイプ、採用されるセル冷却のタイプ(例えば液体など)、並びに、バッテリパックが封止されているか封止されていないか、のような要因に起因して、バッテリパックが、さまざまな形態のいずれかを採ってもよいことである。バッテリパックの構造に拘らず、本発明者らは、バッテリパック、例えバッテリパック1000の内側を熱膨張性材料で被覆することが処理されていないバッテリパックに対する多くの有利点をもたらすことを見出した。理解すべきことは、被覆処理中において、露出面が熱膨張性材料で被覆されることである。これら面は、バッテリパックの内壁並びに、露出しているセル面、冷却部材、及びバッテリパック内に収容される他の構成部材を含んでもよい。上述のように、セルの一部の面は、冷却導管に近接しているため、被覆されないままであってもよい。バッテリパックの内側全体を被覆することによって、例えば熱暴走を受けるセルに起因してバッテリパックで起こる炎は、主としてバッテリパック内に閉じ込められる。その結果、巻き添え被害は、劇的に低減される。さらに、本発明者らは、バッテリパックの内側を完全に被覆することがパックのセル内で熱暴走が伝搬する危険性をさらに低減することを見出した。
【0036】
すくなくとも1つの実施形態において、バッテリパックは、熱膨張性材料で被覆する前に完全に組みたてられる。このため、被覆前に、例えばセルは、パック内に組み込まれており、冷却システムは、取り付けられており、バッテリ相互接続部は、結合される。この処理手順は、冷却導管及びセル面のような互いに接触するまたは互いに近接近する必要がある構成部材が熱膨張性材料によって離間されないことを確実にする。パックを組み立てた後、バッテリパックの内面及びパック内に位置するさまざまな構成部材の露出する外面は、例えば噴霧工程、または、好ましくはバッテリパックを熱膨張性材料の溶液で充填し、過剰な熱膨張性材料を捨て去ること、を用いて被覆される。過剰な熱膨張性材料を捨て去ることは、単純にバッテリパックを引っ繰り返し、過剰な材料を被覆面から垂らしてバッテリパックから外に出すことによって実行される。被覆して過剰な材料を除去した後、熱膨張性材料を嵌挿させることが可能となる。
【0037】
上述した実施形態の変形例において、バッテリパックの外面は、内面と共に熱膨張性材料で被覆される。バッテリパックの内面及び外面双方を被覆することは、パック全体がいったん組み立てられると適切な材料のタンクに浸漬されてそして取り除かれ、これにより過剰な材料が乾燥前に表面から垂れるため、製造を単純化する。
【0038】
当業者により理解されるように、本発明は、本発明の精神または本質的な特徴から逸脱することなく他の具体的な形態で具現化されてもよい。したがって、本明細書における開示及び説明は、例示的であるが、以下の特許請求の範囲において説明される本発明の範囲を限定しないことを意図している。
【符号の説明】
【0039】
101 ケース,ケース壁部,シリンダ状ケース,セルケース、301 熱膨張性材料層,熱膨張性層,層、801 内側熱膨張性層,熱膨張性材料層,内側層,層、803 外側熱膨張性材料層,外側熱膨張性層,外側層,層、901 導管,冷却導管、903 冷却液流動チャネル、1000,1200 バッテリパック、1101 熱膨張性材料層,層
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的にバッテリに、より具体的には、バッテリパック内におけるセル(cell)の熱暴走作用を最小化する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリは、概して、一次及び二次バッテリにクラス分けされる。一次バッテリは、使い捨てバッテリとも称され、消耗するまで使用されることを目的としており、その後、バッテリは、1以上の新しいバッテリに単純に交換される。二次バッテリは、より一般的には充電式バッテリと称され、繰り返し再充電されかつ再使用されることが可能であり、したがって、使い捨てバッテリと比較して、経済的な、環境的な及び使いやすさの利点をもたらす。
【0003】
充電式バッテリが使い捨て電池よりも多くの有利点をもたらすが、このタイプのバッテリには欠点がないのではない。一般的に、充電式バッテリに関連する欠点の大部分は、これら化学的性質が一次セルに使用される化学的性質よりも安定しない傾向があるため、採用されるバッテリの化学的性質に基づいている。これら比較的安定しない化学的性質により、二次セルは、しばしば製造中に特別な取り扱いを必要とする。また、リチウムイオン電池のような二次電池は、一次電池よりも熱暴走しやすい傾向があり、熱暴走は、取り除かれるよりも多くの熱が発生する点まで内部反応速度が増大すると発生し、反応速度と発熱との双方をさらに増大させる。最終的には、発熱量は、バッテリ及びバッテリに近接する材料の燃焼を引き起こすのに十分となる。熱暴走は、セル内の短絡、不適切なセルの使用、物理的な不正使用、製造欠陥またはセルを過度な外部温度にさらすことによって起きる。
【0004】
熱暴走は、単一の出来事が重大な物的損害、そしてある状況において、人体の損害または人命の喪失を引き起こすことがあるので、重要な懸案事項である。バッテリが熱暴走を受けると、バッテリは、主として、大量の煙、燃焼している液体電解質の噴射及び著しい熱を出し、セルに近接する材料の燃焼及び破損を引き起こす。そして、主としてバッテリパックのように熱暴走を受けるセルが1以上のさらなるセルによって囲まれている場合、単一の熱暴走の出来事は、複数のセルの熱暴走を瞬時に引き起こし、複数のセルの熱暴走は、順に、さらに広範囲な巻き添え被害を引き起こす。この現象を受けるセルが単一であるか複数であるかに拘らず、初期的な炎を瞬時に消さない場合、その結果生じた炎は、物的損害の度合いを劇的に広げることがある。例えば、人がついていないラップトップコンピュータ内のバッテリの熱暴走は、ラップトップコンピュータの破損だけでなくその周辺のもの、例えば家屋、オフィス、車、実験室などの少なくとも部分的な破損を引き起こしうる。ラップトップコンピュータが例えば貨物倉または荷物室内で航空機の機内に搭載されている場合、結果として生じる煙または炎は、緊急着陸またはより急を要する状況において不時着を引き起こすことがある。同様に、ハイブリッドまたは電気自動車のバッテリパック内にある1以上のバッテリの熱暴走は、自動車を破損するだけでなく、自動車を運転している場合に自動車事故、または自動車を駐車している場合に自動車の周辺物の破損を引き起こすことがある。
【0005】
この問題を克服する1つの取り組みは、熱暴走の危険性を減少させることである。例えば、保管中及び/または取り扱い中にバッテリが短絡することを防止するため、事前注意を採用し、例えばバッテリ端子を絶縁することまたは特別に設計されたバッテリ保管容器を使用することによって、バッテリが正確に保管されていることを確実にする。熱暴走の問題を克服する別の取り組みは、新たなセルの化学的性質を開発すること及び/または現在のセルの化学的性質を改良することである。例えば、高充電電位(high charging potential)をより耐える複合カソードを開発する研究が現在進行中である。また、より安定した保護層を電極に形成する電解質添加物を開発する研究が進行中である。この研究が改良したセルの化学的性質及びセルの設計をもたらすが、現在、この研究は、熱暴走の可能性を低減することが期待されているのみであって消滅させない。したがって、熱暴走作用と単一の熱暴走の出来事がバッテリパック内の複数のセルにわたって伝搬する危険性とを抑制する手段が必要とされている。本発明は、このような手段を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、複数のバッテリ内における熱暴走の伝搬を抑制する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも1つの形態において、バッテリパックは、複数のバッテリを保持するように構成され、第1筐体部材内面及び第1筐体部材外面からなる第1筐体部材と、第1筐体部材に結合されるように構成され、第2筐体部材内面及び第2筐体部材外面からなる第2筐体部材と、複数のバッテリと、複数のバッテリに結合された複数のバッテリ相互接続部と、第1筐体部材内面、第2筐体部材内面、複数のバッテリ及び複数のバッテリ相互接続部を被覆する熱膨張性材料層と、からなって提供される。熱膨張性材料層は、第1筐体部材外面及び第2筐体部材外面をさらに被覆する。バッテリパックは、例えば冷却ライン内に収容された冷却液など複数のバッテリを能動的に冷却する手段をさらに備え、熱膨張性材料層は、バッテリパック内に収容された能動的な冷却手段の所定部分を被覆する。熱膨張性材料は、グラファイトを基にした膨張性材料、熱可塑性エラストマ、セラミックを基にした膨張性材料、バーミキュライト/鉱物の繊維を基にした膨張性材料、及びポリリン酸アンモニウムを基にした膨張性材料からなる膨張性材料のグループから選択されている。熱膨張性材料は、75℃から150℃の範囲にある、あるいは100℃から200℃の範囲にある、あるいは200℃から300℃の範囲にあるSET温度を有する。
【0008】
本発明の性質及び有利点のさらなる理解は、明細書の残りの部分及び図面を参照しながら理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】18650フォームファクタを用いたセルを示す概略断面図である。
【図2】従来技術の取り組みにしたがって故障耐性を増加させるために変更された図1のセルを示す図である。
【図3】バッテリケースの外面に塗布された熱膨張性材料の被覆を用いた本発明の好ましい実施形態を示す図である。
【図4】図3に示す構造の変形例を示す図であって、変更された構造がキャップ組立体の所定部分に塗布された熱膨張性材料を有する、図である。
【図5】複数の被覆されていない一連のセル間で熱暴走事象が伝搬することを示すグラフである。
【図6】熱膨張性材料で被覆された一連のセル間で熱暴走事象が伝搬しないことを示すグラフである。
【図7】熱エネルギーを吸収してこれにより熱暴走の開始を遅延させるための熱膨張性材料の能力を示すグラフである。
【図8】1対の熱膨張性層を用いた別の実施形態を示す図である。
【図9】図3に示す構造の変形例を示す図であって、熱膨張性層がセルケースの所定部分のみを被覆しこれによりセルと隣接する冷却導管との間の改良した熱伝達をもたらす、図である。
【図10】図9に示す実施形態を示す上面図である。
【図11】セルケース内面と電極ゼリーロール(jellyroll)部との間に介在された熱膨張性材料層を用いた別の実施形態を示す図である。
【図12】バッテリパックの内面及びバッテリパック内に収容された構成部材の外面が熱膨張性材料で被覆された例示的なバッテリパックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の文章において、用語「バッテリ」、「セル」及び「バッテリセル」は、同義的に使用され、リチウムイオン(例えばリン酸鉄リチウム、酸化コバルトリチウム、他の酸化金属リチウムなど)、リチウムイオンポリマー、ニッケルメタルハイドライド(nickel metal hydride)、ニッケルカドミウム、ニッケル水素(nickel hydrogen)、ニッケル亜鉛、銀亜鉛または他のバッテリタイプ/構造を含むがこれに限られないさまざまな異なるセルの化学的性質及び構造のいずれかをいう。本明細書で使用されるような用語「バッテリパック」は、単一部品または複数部品の筐体内に収容された複数の個別のバッテリであって個別のバッテリが電気的に相互接続されて特定の用途についての所望の電圧及び容量を達成する複数の個別のバッテリをいう。理解すべきことは、複数の図面において使用される同一の参照符号が構成部材または同等の機能性からなる複数の構成部材をいうことである。したがって、添付の図面は、説明することを意図するのみであり、本発明の範囲を限定せず、基準化すると考えられないべきである。
【0011】
以下の明細書にわたって、本発明は、18650フォームファクタを用いるセルに関して説明される。しかし、理解すべきことは、本発明が本発明の機能性を維持したまま同様に別のセルの設計、形状、化学的性質、フォームファクタ及び構造に適用されることである。例えば、用途は、角形及びパウチのセルに同様に適用可能である。
【0012】
図1は、例えば18650フォームファクタを使用したリチウムイオンバッテリなどの従来のバッテリ100の簡易化した断面図である。バッテリ100は、シリンダ状ケース101、電極組立体103及びキャップ組立体105を有している。ケース101は、主としてニッケルメッキされた鋼のような金属で形成されており、金属は、例えば電解液、電極組立体などのバッテリ材料と反応しないように選択されている。主として、セルケース101は、底面102がケースに組み込まれ、結果として継目のない下部セルケースが得られるように製造されている。セルケース101の開口端部は、キャップ組立体105によって封止されており、組立体105は、例えば陽極などのバッテリ端子107と、端子107がケース101と電気的に接触することを防止する絶縁体109と、を有している。図示しないが、標準的なキャップ組立体は、内部にある正の温度係数(PTC)電流制限デバイスと、電流断続デバイス(CID)と、排気機構と、を有しており、排気機構は、高圧で裂けてセルの内容物を抜くための経路を形成する。また、キャップ組立体105は、選択された設計/構造に応じて他の封止部または構成要素を有する。
【0013】
電極組立体103は、陽極シート、陰極シート及び介在する隔壁板からなり、これらは、しばしば「ゼリーロール」といわれる螺旋状パターンで共に巻回される。陽極電極タブ111は、巻回された電極組立体の陽極を陰極に接続する一方で、陰極タブ113は、巻回された電極組立体の陰極を陽極に接続する。図示された実施形態において、陰極は、ケース101であり、陽極は、端子107である。多くの構造において、バッテリ100は、一対の絶縁体115/117を有している。ケース101は、例えば封止部、電極組立体などの内部構成部材を保持することを補助するように設計されたクリンプ部分119を有する。
【0014】
図1に示すセルのような従来のセルにおいて、さまざまな異なる不正な動作/充電状況及び/または製造欠陥は、内部発熱量が効果的に取り除かれる発熱量よりも大きい場合に、セルが熱暴走を開始することを引き起こす。その結果、多量の熱エネルギーは、瞬時に解放され、セル全体を900℃以上の温度まで加熱し、さらに温度が1500℃を超える場合に局所的な過熱点の形成を引き起こす。付随して発生するこのエネルギーの解放は、ガスの開放であり、セル内でガス圧を開放させる。
【0015】
熱暴走作用に対抗するため、従来のセルは、主としてキャップ組立体に排気素子を有している。排気素子の目的は、いくらか制御された方法で、熱暴走事象中に発生したガスを開放することであり、これにより、セルの内部ガス圧がセルの所定の動作範囲を超えることを防止する。
【0016】
セルの排気素子が過剰な内圧を防止するが、この素子は、熱暴走事象の熱的側面にほとんど効果がない。例えば、局所的な過熱点が場所121においてセル100に発生する場合、この点で解放される熱エネルギーは、単一層のケース壁部101の隣接領域123をその融点を超えて加熱するのに十分になることがある。たとえ領域123の温度がその融点を超えて上昇されなくても、増加した内部のセルの圧力と接触している領域123の温度は、瞬時にケース壁部をこの場所において穿孔させることがある。いったん穿孔すると、上昇した内部のセルの圧力は、さらなる高温ガスをこの場所に向けさせ、さらにセルをこの場所及び隣接する場所において危険にさらす。
【0017】
留意すべきことは、セルが熱暴走を受けて、所望の排気素子を用いて制御された方法で排気すると、セルが、排気の程度とセル壁部の材料特性と裂けた排気口に向けてガスが勢いよく流れるようにセル壁部に沿って移動する高温ガスの流動にと応じてさらに穿孔することがあることである。いったんセル壁部が危険にさらされる、すなわち穿孔されると、このような過熱点の場所が予測不能であるため及びこのようなセル壁部の穿孔が大きくなりかつ隣接セルに影響を及ぼす予測不能な方法のため、巻き添え被害は、瞬時に発展する。例えば、セルがバッテリパックよりなるセルの大型アレイの1つである場合、セルの穿孔から抜ける高温ガスの噴射は、隣接セルをその臨界温度を超えて加熱し、隣接セルが熱暴走を開始することを引き起こすことがある。したがって、当然のことながら、熱暴走中における1つのセルの壁部の穿孔は、バッテリパックにわたって広がる段階的な反応を起こす。さらに、第1セルにおけるセルの穿孔から抜ける高温ガスの噴射が隣接セルにおける熱暴走を起こさない場合であっても、噴射は、例えば隣接セルの壁部を弱化させることによって隣接セルの健全性にさらに影響を及ぼし、これにより、隣接セルを将来の欠陥の影響を受けやすくさせる。
【0018】
上述のように、セルの穿孔は、集中した熱事象からの高温の加圧ガスがセルの内面近傍を流動する局所化された一時的な過熱点が原因である。セルの一時的な過熱点がセルの壁部を穿孔するまたは単純に消散し、多くの要因に起因してセルケースを無傷のままとする。これら要因は、2つのグループ、すなわち、熱事象の特性に基づく要因と、セルケースの物理的性質に基づく要因と、に分けられる。第1グループに属する要因は、過熱点のサイズ及び温度並びに熱事象の継続時間及び事象によって発生したガス量を含む。第2グループに属する要因は、壁厚並びに温度、熱容量及び熱伝導率の関数としてのケースの降伏強さを含む。
【0019】
図2は、セルの故障耐性を改善する従来の取り組みを示しており、この故障は、熱的に誘導された壁部の穿孔と規定される。図示のように、セル200において、ケース201の厚さは、十分に増大されており、これにより、セルの重量を犠牲にしてセルの故障耐性を改善している。少数のセルのみが使用される大部分の消費者の用途についてセルの質量が問題でないと仮定すると、熱暴走中に壁部の穿孔を防止する従来の取組みは、かなり効果的である。残念ながら、例えば電気自動車のバッテリパックなどバッテリパックが数百または数千のセルを有するこれら用途について、この取り組みからなる質量の増加は、性能が質量に直接関係するため、あまり人目を引かない。例えば、従来の取り組みがセル当たり4グラムのみ加える場合、10000個のセルを有するバッテリパックについて、これは、40kgまで増加させる。したがって、これら用途について、セルの故障耐性を改善する従来の取り組みは、受け入れられない。
【0020】
大型のバッテリパック内のバッテリに置かれる重量の制約と熱膨張中の壁部の穿孔の開始及び成長に寄与する要因とを認識することに加えて、本発明者らは、いったんセルが熱膨張を起こすと、もはや存続可能でなくなることを認識している。したがって、この点において、第1の目的は、隣接セルに影響を及ぼす熱膨張であって段階的な熱膨張事象の始動を引き起こす可能性のある熱膨張の危険性を低減することである。これら設計パラメータ及び目的を認識して、本発明の目的は、影響を受けるセルの隣にあるセルにおける熱膨張差用を最小化し、これにより熱膨張の伝搬を阻止することである。
【0021】
図3は、本発明の好ましい実施形態を示しており、セルケースの外面は、熱膨張性材料層301で被覆されている。好ましくはかつ図示のように、セルケース101の側壁部及び底面の双方は、層301によって被覆されている。あるいは、セルケース101の側壁部のみが層301によって被覆されている。層301は、被覆面を熱膨張性材料の溶液で塗装することによって、セルを熱膨張性材料の溶液に浸漬することによって、または他の手段によって、塗布されている。図において、上側セル面303は、被覆されていない。しかしながら、当然のことながら、この面は、この設計においてセルケース及び端子305からなるバッテリの端子間の短絡を膨張性材料が引き起こさない限り、被覆されてもよい。バッテリの短絡は、非導電性の膨張性材料を用いることによって防止される。あるいは及び図4に示すように、電気絶縁体401は、膨張性材料を塗布したために、セル端子間の短絡を防止するために配置されてもよい。
【0022】
熱暴走中において、バッテリの外面は、加熱し、この加熱処理は、主として、1以上の一時的な過熱点(例えば図1における点121)を誘導する。この処理中において、熱膨張性層301は、吸熱化学反応によって過剰な熱を吸収する。いったん同様に材料の開始膨張温度すなわち「SET」とも称される熱膨張性材料の活性化温度に達すると、層301は、膨張し始める。主として材料の膨張は、一時的な過熱点の近傍で始まり、そしてバッテリ全体がSET温度を越えて加熱するにしたがって継続する。膨張後、熱膨張性材料層301は、一般的に炭化物と称される層に硬化する。
【0023】
本発明者らは、上述のようにセルに直接塗布されるまたは以下で詳細に説明するような構成において使用される熱膨張性材料を用いることが、熱暴走事象の伝搬に対する十分な耐性をもたらすことを見出した。一般的に、熱膨張性材料は、セルが過熱され始めるといくつかの機能を行う。第1に、セルを取り囲む熱膨張性材料は、熱事象中に発生した熱エネルギーを吸収し、これにより熱的平衡に達するのに十分な時間をセルに与えることによって一時的な過熱点(例えば図1における点121)がセルケースを穿孔することを防止することを補助する。第2に、いったんSET温度に達すると、熱膨張性材料は、膨張して影響されたセルと隣接セルとの間に熱バリアを形成する。第3に、いったん熱膨張性材料が炭化物に硬化すると、熱膨張性材料は、影響されたセルを収容し、例えば流出するガスまたは炎が隣のセルに直接影響を及ぼすことを防止する。第4に、一部の用途において、熱膨張性材料は、影響されたセルによって生成された過剰な熱を冷却導管のような熱除去手段に向けるために使用される。
【0024】
熱膨張性被覆をセルの外側ケースに塗布する効果を判断するために設計された1つの試験において、2つのグループのセルは、直列に配置されている。第1グループのセルは、処理されていない一方、第2グループのセルにおけるセルそれぞれは、外側セルケースに塗布された熱膨張性材料を有する。セル間の間隔は、両試験について同一である。各試験において、第1グループのセルは、熱暴走事象を強いられる。未処理セルに対するこの試験の結果は、図5に示すように、第1セルを熱暴走にさらすと3分から4分以内に列をなす次のセルが熱暴走を始めることを示した。対照的にかつ図6に示すように、熱膨張性被覆されたセルについて、熱暴走事象は、隣接セル間で伝搬しなかった。したがって、図5は、一時的な過熱点がセル内の別の場所に形成されるにしたがって、被覆されていないセルがしばしば複数の熱的スパイクを受け、これら一時的な過熱点が明確に隣接セルに影響を及ぼすことを示している。しかしながら、熱膨張性材料が被覆されたセルにおいて、熱膨張性材料によって形成された熱的バリアは、隣接セルが複数の熱的ピークを受けることを防止する。むしろ、熱膨張性被覆されたグループのセルにおいて隣接セルに存在する外部温度は、いったんピークになると、熱的平衡に達するまで熱的エネルギーの漸進的な散逸が続く。留意すべきことは、図5及び図6において報告したように、監視した温度の違いがセルケースと熱電対との間の熱的バリアを示す熱膨張性被覆によることである。
【0025】
上述のように、熱膨張性被覆の利点の1つは、熱的事象中に発生した熱エネルギーの一部を吸収する熱膨張性被覆の能力である。このエネルギーの一部を吸収することによって、熱暴走の開始は、防止され、または少なくとも遅延させる。図7は、熱膨張性被覆のこの態様を示している。具体的には、6つのセルは、熱暴走へ追い込まれており、2つのセルは、被覆されておらず(すなわち、曲線701及び702)、4つのセルは、熱膨張性材料で被覆されている(すなわち、曲線703から706)。同一の条件がセルそれぞれに適用されたが、被覆されたセルに対する熱暴走は、少なくとも100秒遅延された。
【0026】
本発明における熱膨張性層、例えば層301は、例えばグラファイトを基にした膨張性材料(例えばポリマー接着剤にある膨張可能なグラファイト)、熱可塑性エラストマ、セラミックを基にした膨張性材料、バーミキュライト/鉱物の繊維を基にした膨張性材料、及びポリリン酸アンモニウムを基にした膨張性材料など、さまざまな熱膨張性材料のいずれかから製造されてもよい。好ましくは、選択した熱膨張性材料は、100℃から300℃の範囲、より好ましくは200℃から300℃の範囲にあるSET温度を有する。あるいは、選択した熱膨張性材料は、100℃から200℃の範囲、より好ましくは75℃から150℃の範囲にあるSET温度を有する。好ましくは、選択した熱膨張性材料は、生物不活性であり、このため、気流が制限された用途において熱膨張性被覆されたセルが使用される場合、層の活性化は、毒性のない事象である。さらに、好ましいことは、選択した熱膨張性材料が非電気的導電材料からなることである。
【0027】
図8は、図3及び図4に示す実施形態の若干の変形例を図示している。この変形構成において、セルケース101は、一対の熱膨張性材料層801及び803で覆われており、2つの熱膨張性材料層は、異なる材料特性を有している。好ましい構成において、ケース101に続く層801は、外側熱膨張性材料層803よりも高い熱容量を有している。結果として、内側熱膨張性層801は、過剰な熱的エネルギーを迅速に吸収し、このため、セルが熱的平衡を維持することを補助し、かつ過熱点の形成を防止する。セルが加熱し続けると仮定すると、熱的エネルギーが内側層801を通過するにしたがって、外側層803は、過剰な熱的エネルギーを吸収する。この2層を用いる取り組みは、熱的事象を受けるセルから隣接セルに熱的エネルギーが伝達することをさらに遅延させ、これにより、バッテリパックにわたる熱暴走事象の伝搬へのさらなる耐性をもたらす。別の構造において、層801は、外側熱膨張性材料層803よりも低い熱容量を有する。
【0028】
当然ながら、他の材料特性は、2つの熱膨張性層間で変化されてもよい。例えば、このような一形態において、内側層801は、外側層803よりも高いSET温度を有するように設計されている。その結果、熱的事象(例えば熱暴走)の開始時に、外側熱膨張性層803は、瞬時に膨張して影響を受けるセルと隣接セルとの間に熱的バリアを形成する。この期間中に、内側層801は、熱エネルギーを吸収するが、膨張しない。そして、いったんセルの温度が内側層801のより高いSET温度に達すると、内側層は、膨張し始める。しかしながら、層801の膨張は、特に層801がすでに炭化物に変化するように層803のSET温度がなっている場合に、すでに膨張された層803によっていくらか抑制される。主として、層801及び803のSET温度は、セルの化学的性質、セルのフォームファクタ(例えば、大型のセルに対する18650シリンダ状のセル)、セルの間隔などを考慮して、具体的な用途について最適化されている。例示的な構造において、内側層801は、200℃から300℃の範囲にあるSET温度を有している一方、外側層803は、100℃から200℃の範囲にあるSET温度を有している。
【0029】
2層構造を用いた別の例示的な実施形態において、膨張性層間の熱伝導性は、変化されてもよく、好ましくは、外側熱膨張性層803は、内側層801よりも低い熱伝導性を有している。この構造の利点の1つは、内側熱膨張性層801がセルから熱を取り除くことに関する最適な性能について設計される一方、外側熱膨張性層803がセル間の最適な熱的隔離をもたらすように設計されることであり、このため、隣接するセル間の熱エネルギーの伝搬をより抑制する。さらに別の実施形態において、外側層803は、セル間の最適な熱的隔離をもたらすように設計されており、このため熱伝導性の低い熱膨張性材料からなる一方、内側層801は、層の燃焼抑制特性を最適化するように選択されている。当然ながら、膨張性材料の他の組み合わせを使用してもよい。
【0030】
理解すべきことは、図4に関して上述のように、層801及び803が上側セル面303を覆わないで示されているが、膨張性材料が導電性でないか、セルが熱膨張性材料の塗布によって短絡しないことを確実にする予防措置が採られる限り、膨張性材料がセルの上側部を覆ってもよいことである。
【0031】
例えば電気自動車など一部の用途において、バッテリパック内のバッテリは、能動的冷却システムを用いて冷却される。能動的冷却システムは、例えばバッテリパック内のバッテリに近接近してまたはバッテリと接触して取り付けられた1以上の導管からなる。導管を通して冷却液を送り込むことによって、熱は、バッテリ/バッテリパックから取り除かれる。このような用途において、発明者らは、冷却導管に近接近しているまたは冷却導管と接触しているセルケースの部分に膨張性材料がないままとすることが好ましいことを見出した。セルのこの部分を被覆しないままとすることによって、熱は、バッテリからより効率的に取り除かれる。理解すべきことは、上述した実施形態、例えば図3、図4及び図8において図示した実施形態が、熱膨張性材料からなる1以上の層が冷却導管に近接近するまたは冷却導管と接触するセルケース101の部分を完全には被覆しないように変更されてもよいことである。本発明のこの態様は、図9及び図10で図示されており、図9及び図10は、冷却導管901を考慮して変更された図3に示す実施形態の断面図及び上面図を提供する。これら図において、冷却導管901は、3つの冷却液流動チャネル903を有する。熱膨張性層301は、導管901に近接近するまたは導管と接触するセルケース101の部分が熱膨張性材料によって被覆されないままとするように構成されている。当然ながら、本発明の他の実施形態は、同様に変更されてもよい。
【0032】
上述した実施形態の変形例において、熱膨張性材料層1101は、セルケース101の内壁面と電極組立体(図11)の外面との間に介在されている。熱膨張性材料層1101は、過剰な熱エネルギーを吸収し、これにより、例えば電極組立体内の一時的な過熱点から外側のセルケース101への熱エネルギーの伝達を最小化する。層1101が熱エネルギーを吸収するにしたがって、かついったん層のSET温度に達すると、層は、セルケースによって許容された範囲に膨張する。セルケース101によって層1101の膨張部に課せられた制約に起因して、層1101は、好ましくは、層のSET温度に達すると層が膨張する範囲を最小化しながら燃焼抑制特性が最適になるように選択されている。好ましくは、層1101は、層のSET温度に達すると25%未満だけ、あるいは層のSET温度に達すると50%未満だけ、層のSET温度に達すると100%未満だけ、膨張する。
【0033】
層1101は、ケース101の内面を選択した熱膨張性材料で被覆することによって形成されており、この被覆/堆積工程は、電極組立体をセルケース内に組み込む前に実行される。あるいは、電極組立体の外面は、例えば選択した熱膨張性材料を用いた浸漬処理によって、被覆されてもよく、この被覆工程は、電極組立体をセルケース内に組み込む前に実行される。あるいは、熱膨張性材料は、キャリア基材に塗布されてもよく、このキャリア基材は、その後セルケース内に組み込まれる前に電極組立体の外面に巻回される。あるいは、熱膨張性材料は、スリーブの形態をなす第2キャリア基材に塗布されてもよく、熱膨張性被覆されたスリーブは、その後最終的な組み立て前にセルケースに挿入される。
【0034】
本発明の別の実施形態において、セルの外面を被覆することに加えて、バッテリパック内の他の構成部材及び面のすべては、熱膨張性材料で被覆される。さまざまな電気部品(例えばセル、相互接続部など)を被覆前に電気的に隔離することが可能であるが、好ましくは、非導電性の熱膨張性材料は、この実施形態に対して使用されており、これにより、この隔離工程を削除することができかつ製造を単純化する。
【0035】
例示的なバッテリパック1200を図12に示す。このバッテリパックのさらなる説明は、2009年4月22日に出願された同時係属中の米国特許出願番号第12/386684号でなされており、その開示全体は、すべての理由で本明細書に組み込まれる。当然ながら、本発明は、他のバッテリパックに同様に十分に適用可能であり、バッテリパック1200は、単に本発明を説明することを意図している。特に、理解すべきことは、収容されるセルの数、セルのサイズ及び形状、セルをバッテリパック内に取り付ける方法、バッテリパックを所定位置に取り付けるまたは保持するための方法、パック内で使用されるセル相互接続部のタイプ及びバッテリパックとバッテリパックが対象とする用途との間で使用される相互接続部のタイプ、採用されるセル冷却のタイプ(例えば液体など)、並びに、バッテリパックが封止されているか封止されていないか、のような要因に起因して、バッテリパックが、さまざまな形態のいずれかを採ってもよいことである。バッテリパックの構造に拘らず、本発明者らは、バッテリパック、例えバッテリパック1000の内側を熱膨張性材料で被覆することが処理されていないバッテリパックに対する多くの有利点をもたらすことを見出した。理解すべきことは、被覆処理中において、露出面が熱膨張性材料で被覆されることである。これら面は、バッテリパックの内壁並びに、露出しているセル面、冷却部材、及びバッテリパック内に収容される他の構成部材を含んでもよい。上述のように、セルの一部の面は、冷却導管に近接しているため、被覆されないままであってもよい。バッテリパックの内側全体を被覆することによって、例えば熱暴走を受けるセルに起因してバッテリパックで起こる炎は、主としてバッテリパック内に閉じ込められる。その結果、巻き添え被害は、劇的に低減される。さらに、本発明者らは、バッテリパックの内側を完全に被覆することがパックのセル内で熱暴走が伝搬する危険性をさらに低減することを見出した。
【0036】
すくなくとも1つの実施形態において、バッテリパックは、熱膨張性材料で被覆する前に完全に組みたてられる。このため、被覆前に、例えばセルは、パック内に組み込まれており、冷却システムは、取り付けられており、バッテリ相互接続部は、結合される。この処理手順は、冷却導管及びセル面のような互いに接触するまたは互いに近接近する必要がある構成部材が熱膨張性材料によって離間されないことを確実にする。パックを組み立てた後、バッテリパックの内面及びパック内に位置するさまざまな構成部材の露出する外面は、例えば噴霧工程、または、好ましくはバッテリパックを熱膨張性材料の溶液で充填し、過剰な熱膨張性材料を捨て去ること、を用いて被覆される。過剰な熱膨張性材料を捨て去ることは、単純にバッテリパックを引っ繰り返し、過剰な材料を被覆面から垂らしてバッテリパックから外に出すことによって実行される。被覆して過剰な材料を除去した後、熱膨張性材料を嵌挿させることが可能となる。
【0037】
上述した実施形態の変形例において、バッテリパックの外面は、内面と共に熱膨張性材料で被覆される。バッテリパックの内面及び外面双方を被覆することは、パック全体がいったん組み立てられると適切な材料のタンクに浸漬されてそして取り除かれ、これにより過剰な材料が乾燥前に表面から垂れるため、製造を単純化する。
【0038】
当業者により理解されるように、本発明は、本発明の精神または本質的な特徴から逸脱することなく他の具体的な形態で具現化されてもよい。したがって、本明細書における開示及び説明は、例示的であるが、以下の特許請求の範囲において説明される本発明の範囲を限定しないことを意図している。
【符号の説明】
【0039】
101 ケース,ケース壁部,シリンダ状ケース,セルケース、301 熱膨張性材料層,熱膨張性層,層、801 内側熱膨張性層,熱膨張性材料層,内側層,層、803 外側熱膨張性材料層,外側熱膨張性層,外側層,層、901 導管,冷却導管、903 冷却液流動チャネル、1000,1200 バッテリパック、1101 熱膨張性材料層,層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリと、
複数の前記バッテリを保持するように構成された第1筐体部材であって、当該第1筐体部材が、第1筐体部材内面及び第1筐体部材外面からなる、第1筐体部材と、
前記第1筐体部材に結合されるように構成された第2筐体部材であって、当該第2筐体部材が、第2筐体部材内面及び第2筐体部材外面からなる、第2筐体部材と、
複数の前記バッテリに電気的に結合された複数のバッテリ相互接続部と、
前記第1筐体部材内面と前記第2筐体部材内面と複数の前記バッテリと複数の前記バッテリ相互接続部とを被覆する膨張性材料層と、
を備えることを特徴とするバッテリパック。
【請求項2】
前記膨張性材料層は、前記第1筐体部材外面と前記第2筐体部材外面とをさらに被覆することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項3】
複数の前記バッテリを能動的に冷却する冷却手段をさらに備え、
前記冷却手段の少なくとも一部分は、当該バッテリパック内に収容されており、
前記膨張性材料層は、当該バッテリパック内に収容された前記冷却手段の前記一部分を被覆することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項4】
前記冷却手段は、複数の前記バッテリと熱接続している冷却部内に収容された液体冷却剤からなることを特徴とする請求項3に記載のバッテリパック。
【請求項5】
少なくとも1つの冷却導管をさらに備え、
前記冷却導管の少なくとも一区分は、当該バッテリパック内に収容され、
当該バッテリパック内に収容されている前記冷却導管の前記区分の少なくとも一部分は、前記膨張性材料層によって被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項6】
前記冷却導管の少なくとも第2区分は、前記熱膨張性材料層によって被覆されないままであり、
前記冷却導管の前記第2区分は、複数の前記バッテリと隣り合っていることを特徴とする請求項5に記載のバッテリパック。
【請求項7】
膨張性材料は、グラファイトを基にした膨張性材料、熱可塑性エラストマ、セラミックを基にした膨張性材料、バーミキュライト/鉱物の繊維を基にした膨張性材料、及びポリリン酸アンモニウムを基にした膨張性材料からなる膨張性材料のグループから選択されていることを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項8】
膨張性材料は、75℃から150℃の範囲にある開始膨張温度を有することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項9】
膨張性材料は、100℃から200℃の範囲にある開始膨張温度を有することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項10】
膨張性材料は、200℃から300℃の範囲にある開始膨張温度を有することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項1】
複数のバッテリと、
複数の前記バッテリを保持するように構成された第1筐体部材であって、当該第1筐体部材が、第1筐体部材内面及び第1筐体部材外面からなる、第1筐体部材と、
前記第1筐体部材に結合されるように構成された第2筐体部材であって、当該第2筐体部材が、第2筐体部材内面及び第2筐体部材外面からなる、第2筐体部材と、
複数の前記バッテリに電気的に結合された複数のバッテリ相互接続部と、
前記第1筐体部材内面と前記第2筐体部材内面と複数の前記バッテリと複数の前記バッテリ相互接続部とを被覆する膨張性材料層と、
を備えることを特徴とするバッテリパック。
【請求項2】
前記膨張性材料層は、前記第1筐体部材外面と前記第2筐体部材外面とをさらに被覆することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項3】
複数の前記バッテリを能動的に冷却する冷却手段をさらに備え、
前記冷却手段の少なくとも一部分は、当該バッテリパック内に収容されており、
前記膨張性材料層は、当該バッテリパック内に収容された前記冷却手段の前記一部分を被覆することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項4】
前記冷却手段は、複数の前記バッテリと熱接続している冷却部内に収容された液体冷却剤からなることを特徴とする請求項3に記載のバッテリパック。
【請求項5】
少なくとも1つの冷却導管をさらに備え、
前記冷却導管の少なくとも一区分は、当該バッテリパック内に収容され、
当該バッテリパック内に収容されている前記冷却導管の前記区分の少なくとも一部分は、前記膨張性材料層によって被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項6】
前記冷却導管の少なくとも第2区分は、前記熱膨張性材料層によって被覆されないままであり、
前記冷却導管の前記第2区分は、複数の前記バッテリと隣り合っていることを特徴とする請求項5に記載のバッテリパック。
【請求項7】
膨張性材料は、グラファイトを基にした膨張性材料、熱可塑性エラストマ、セラミックを基にした膨張性材料、バーミキュライト/鉱物の繊維を基にした膨張性材料、及びポリリン酸アンモニウムを基にした膨張性材料からなる膨張性材料のグループから選択されていることを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項8】
膨張性材料は、75℃から150℃の範囲にある開始膨張温度を有することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項9】
膨張性材料は、100℃から200℃の範囲にある開始膨張温度を有することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【請求項10】
膨張性材料は、200℃から300℃の範囲にある開始膨張温度を有することを特徴とする請求項1に記載のバッテリパック。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−23348(P2011−23348A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156758(P2010−156758)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(509316442)テスラ・モーターズ・インコーポレーテッド (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(509316442)テスラ・モーターズ・インコーポレーテッド (23)
【Fターム(参考)】
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