説明

セルフロッククラッチ

【課題】従動側に回転力が作用した際には高いロックトルクを得ることが可能なセルフロッククラッチを合理的に構成する。
【解決手段】第1軸芯X1を中心に回転するウォームギヤ10と、第2軸芯X2を中心に回転するホイールギヤ20とを備えている。ウォームギヤ10は第1軸芯X1に沿う方向に変位自在に支持され、外力の作用でホイールギヤ20が回転しウォームギヤ10が第1軸芯X1に沿う方向へ変位した場合に、中立位置からロック位置に変位するロック部材31を備え、このロック位置のロック部材31に係合してウォームギヤ10の回転を阻止する係合凹部36を有したロックプレート35を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食い違い関係となる軸芯の一方に駆動側のウォームギヤを備え、軸芯の他方に従動側のホイールギヤをウォームギヤに咬合する状態で備えたギヤ伝動系において、特に、ウォームギヤの進み角が大きくウォームギヤ自体のセルフロック機能が期待しにくい諸元の場合に、ホイールギヤに外力が作用した際のホイールギヤの回転を阻止するセルフロッククラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成されたセルフロッククラッチに関連するものとして、特許文献1には、モータの駆動力によって回転する駆動側回転体と、この駆動側回転体の回転力が当接によって伝えられる従動側回転体とが同軸芯上に配置され、これらを取り囲む位置に軸芯と同軸芯の円筒状となるクラッチハウジングを備え、駆動側回転体の回転力が接当によって伝えられるサポート部材にローラ状に転動体を備えた構成が示されている。
【0003】
特許文献1では、従動側回転体に一体的に形成された制御面の中央部とクラッチハウジング内面との距離を転動体の直径より少し大きく設定し、この中央部から周方向に離れる部位では、クラッチハウジングの内面との距離を転動体の直径より短くしている。この制御面とクラッチハウジングの内面との間に転動体が配置され、クラッチハウジングは回転不能に支持されている。
【0004】
このような構造からモータが駆動回転することにより、従動側回転体とサポート部材とが一体的に回転し、このサポート部材の回転により転動体が前記制御面の中央部の位置で回転する。そして、モータが停止している状態で従動側回転体に外部から回転力が作用した場合には、従動側回転体の回転に伴い制御面とクラッチハウジングの内面との間に転動体が挟み込まれる状態に達し、この回転が阻止されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3887172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、従動側回転体に外力が作用した場合に、ローラ状の転動体を従動体の制御面と円筒状のクラッチハウジングの内面との間に挟み込むことでロック状態に達する構成のものでは、僅かな回転量であってもロック状態に達して逆転を抑制し得るものである。
【0007】
しかし、この特許文献1に記載される構成のものは、高い精度が要求されるだけではなく、転動体の外面とクラッチハウジングの内面との接触によって回転を阻止するトルク(ロックトルク)を発生させているため、接触面積が小さく高負荷が作用した場合には滑りを発生させる虞があった。また、高いロックトルクを得るためには、大型化を招くものとなり改善の余地があった。
【0008】
また、アクチュエータで駆動されるウォームギヤの回転をホイールギヤに伝える減速系の伝動効率を高めるためにウォームギヤとして進み角の大きいものを用いることも考えられている。
【0009】
本発明の目的は、ギヤ効率が高いウォームギヤを使用しても確実で高いロックトルクを得るセルフロックを実現するセルフロッククラッチを合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、食い違い関係となる第1軸芯と第2軸芯とのうち第1軸芯を中心に回転する駆動側のウォームギヤを備え、前記第2軸芯を中心に回転する従動側のホイールギヤを前記ウォームギヤに咬合する位置に備えると共に、
前記ウォームギヤと、これに一体形成された軸部とが前記第1軸芯に沿う方向に変位自在に支持され、前記軸部に外嵌する筒状体が前記第1軸芯の方向に変位不能で前記第1軸芯を中心として回転自在で支持されることにより、前記ホイールギヤに外力が回転方向に作用した場合には、第1軸芯に沿う方向へのウォームの変位に伴い前記筒状体の内部において前記軸部の変位が許される変位構造を備えており、
ウォームギヤからホイールギヤに駆動力が伝えられる状態では、前記筒状体及び前記軸部の何れか一方に設けられたロック部材を前記第1軸芯の方向での中立位置に保持し、前記ホイールギヤを回転させる外力が作用する状態では、前記中立位置を基準にして第1軸芯に沿う方向へ変位したロック位置へ前記ロック部材を移動させるガイド機構を備え、
前記筒状体及び前記軸部の何れか他方の外部には、前記中立位置のロック部材には接触せず、前記ロック位置のロック部材と係合して前記軸部の回転を阻止する複数の係合凹部を有する回転阻止体が配置されている点にある。
【0011】
この構成によると、ウォームギヤの駆動力をホイールギヤに伝える際には、ガイド機構がロック部材を中立位置に保持するため回転阻止体の係合凹部にロック部材を接触させることがない。また、例えば、ウォームギヤの回転が停止している状態で外力の作用でホイールギヤが回転力した場合には、このホイールギヤの回転に伴いウォームギヤと軸部とが一体的に第1軸芯に沿って変位し、この変位をガイド機構が許す。このためロック部材は中立位置からロック位置へ移動して回転阻止体の係合凹部に係合することになり、ウォームギヤの回転が阻止される。この回転の阻止は、ロック部材と係合凹部との係合によって実現するので極めて大きいロックトルクを得るものとなり、特許文献1と比較して高い精度も要求されない。このことは進み角の大きいウォームギヤを用いて伝動効率を高める構成を採用しても確実なロック実現するものとなり、更に、駆動源に小容量の電動モータを備える構成を採用しても確実なロックにより電動モータに不要な外力を作用させないものできる。
従って、ギヤ効率が高いウォームギヤを使用しても確実で高いロックトルクを得るセルフロックを実現するセルフロッククラッチが高い精度を必要としない構造で構成された。
【0012】
本発明は、前記回転阻止体が、前記中立位置を挟む2箇所に配置されると共に、前記ガイド機構が、前記筒状体の周方向に沿う姿勢の対角線を有した平行四辺形となる開口として前記筒状体に形成され、この開口に対して貫通し前記対角線上で前記中立位置となる前記ロック部材を前記軸部に形成しても良い。
【0013】
これによると、ウォームギヤの駆動回転によってホイールギヤが回転する方向と逆方向にホイールギヤを回転させる外力が作用した場合や、これとは逆方向にホイールギヤを回転させる外力が作用した場合には、ウォームギヤと軸部とが第1軸芯に沿う方向に変位し、この変位に伴いロック部材は開口の開口縁に沿って移動することからロック位置に変位して回転阻止体の係合凹部に係合することになりホイールギヤの回転が阻止される。
【0014】
本発明は、前記ガイド機構が、前記筒状体の周方向に沿う姿勢の対角線を有した平行四辺形となる凹部として前記軸部の外周に形成され、この凹部に係入し前記対角線上で中立位置となるガイド体を前記筒状体に固設して構成され、
前記軸部、又は、この軸部に一体形成された部材において前記第1軸芯から外方に突出するように前記ロック部材を備え、中立位置にある前記ロック部材を挟む2箇所に前記回転阻止体が配置されても良い。
【0015】
これによると、ウォームギヤの駆動回転によってホイールギヤが回転する方向と逆方向にホイールギヤを回転させる外力が作用した場合や、これとは逆方向にホイールギヤを回転させる外力が作用した場合には、ガイド部材が開口の開口縁に沿って移動する形態でウォームギヤと軸部とが第1軸芯に沿う方向に変位する。この変位に伴いロック部材も第1軸芯に沿ってロック位置に達し、回転阻止体の係合凹部に係合するためホイールギヤの回転が阻止される。
【0016】
本発明は、前記回転阻止体が円板状に形成されると共に、前記凹部が、前記第1軸芯を中心とする放射状で、この回転阻止体の外周側に多数形成されても良い。
【0017】
これによると、ホイールギヤを回転させる外力が作用した場合には、ウォームギヤがどのような回転姿勢にあっても、このウォームギヤを無駄に回転させることなく、ホイールギヤの回転を阻止でき、回転を阻止するまでのホイールギヤの回転量を非常に小さいものにできる。
【0018】
本発明は、前記係合凹部が前記ロック部材の断面形状に沿う係合面を備えても良い。
【0019】
これによると、ロック部材と係合凹部とが係合する状態で、ロック部材の外周に係合凹部を密接させることが可能となり、局部的に過大な力が集中する不都合を解消して安定的なロックを現出する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】セルフロッククラッチの構成を示す全体図である。
【図2】ロック状態のセルフロッククラッチを示す全体図である。
【図3】ガイド開口の中立位置にロック部材がある状態を示す側面図及び斜視図である。
【図4】逆方向への外力の作用によりガイド開口のロック位置にロック部材がある状態を示す側面図及び斜視図である。
【図5】順方向への外力の作用によりガイド開口のロック位置にロック部材がある状態を示す側面図である。
【図6】ガイド開口の形状を示す図である。
【図7】ロック部材と係合凹部とを示す断面図である。
【図8】別実施形態のセルフロッククラッチの構成を示す全体図である。
【図9】別実施形態のガイド開口の部位の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように本発明のセルフロッククラッチは、第1軸芯X1を中心に回転自在に支持されたウォームギヤ10と、第2軸芯X2を中心に回転自在に支持されたホイールギヤ20とで成るギヤ減速系を備えている。更に、ウォームギヤ10を第1軸芯X1に沿う方向に変位自在に支持する変位構造を備え、外力の作用によってホイールギヤ20が回転した際にウォームギヤ10の第1軸芯X1に沿う方向への変位を許すと同時にロック機構30がロック状態に達してウォームギヤ10の回転を阻止するように機能する。このように構成されたセルフロッククラッチは、例えば、車両のドアガラスの上下に作動させる伝動系に備えられるものであり、その詳細を以下に説明する。
【0022】
〔ギヤ減速系〕
第1軸芯X1と第2軸芯X2とは互いに直交する方向で、食い違い関係に配置され、第1軸芯X1を中心に回転する駆動側のウォームギヤ10が備えられている。また、第2軸芯X2を中心に回転する従動側のホイールギヤ20が備えられ、ウォームギヤ10とホイールギヤ20とが互いに咬合する位置に配置されている。このようにギヤ減速系が構成されている。
【0023】
〔変位構造〕
ウォームギヤ10の一方の端部に断面形状が円形となる制御軸部11(軸部の一例)が一体形成され、他方の端部に断面形状が円形となる支軸部12が一体形成されている。支軸部12はラジアルボールベアリングで成る軸受13によって回転自在、かつ、この軸受13のインナーレースに対して第1軸芯X1に沿う方向に変位自在に支持されている。尚、ウォームギヤ10と制御軸部11とは別個に製造され、ネジ式に連結されることや、接着や溶接により一体化して形成されるものでも良い。
【0024】
第1軸芯X1と同軸芯で回転自在、かつ、第1軸芯X1に沿う方向に変位不能となる筒状体15が備えられている。この筒状体15に対して第1軸芯X1と同軸芯上に形成された孔部15Aに対して制御軸部11が相対回転自在、かつ、第1軸芯X1に沿う方向に変位自在に内嵌支持されている。
【0025】
この筒状体15は、両端部がラジアルボールベアリングで成る軸受16により回転自在に支持さると共に、この一対の軸受16によって第1軸芯X1に沿う方向への移動が阻止されている。尚、一対の軸受16はセルフロッククラッチのフレーム等固定系に支持される。
【0026】
この構成から、ウォームギヤ10を第1軸芯X1に沿う方向への変位させる力が作用した場合には、制御軸部11が筒状体15の孔部15Aに内嵌する状態を維持したまま第1軸芯X1に沿う方向に移動し、かつ、支軸部12が軸受13に対して第1軸芯X1に沿う方向に移動する。これにより、ウォームギヤ10と制御軸部11と支軸部12とを一体的に変位させる。
【0027】
〔ロック機構〕
図7に示すように、制御軸部11に対して直径方向に貫通するピン状のロック部材31を、その両端部が制御軸部11の外面から突出するように嵌合固定している。また、このロック部材31が貫通する一対のガイド開口32(ガイド機構の一例)が筒状体15に形成されている。このガイド開口32は、電動モータ17の回転駆動力をウォームギヤ10からホイールギヤ20に伝える状態においては、図1及び図3に示すように、ロック部材31を第1軸芯X1の方向での中立位置Nに保持する。尚、中立位置Nと一対のロック位置Lとは第1軸芯X1に直交する姿勢の仮想平面上に存在する。
【0028】
そして、外力の作用によってホイールギヤ20が回転した場合には、図2、図4、図5に示すように制御軸部11の変位に伴いロック部材31をロック位置Lまで移動させ得る形状に成形されている。
【0029】
ガイド開口32は、図3〜図6に示すように、前述した中立位置Nが存在する仮想平面と交わる位置の2つの主頂点32Nと、前述したロック位置Lが存在する2つの仮想平面と交わる位置の2つの副頂点32Lとを有する平行四辺形となる形状を有している。また、本発明はガイド開口32を菱形に形成するものを除外するものではない。尚、ガイド開口32を菱形に形成したものでは2つの対角線の1つが中立位置Nに一致するように形成される。
【0030】
ガイド開口32の4つのガイド辺のうち短辺と、第1軸芯X1と平行する基準ラインX1’との角度がθ1に設定され、4つのガイド辺のうち長辺と、第1軸芯X1と平行する基準ラインX1’との角度がθ2に設定されている。また、角度θ1は角度θ2より小さい角度に設定されている。
【0031】
筒状体15の外部で中立位置Nを挟む位置に、第1軸芯X1と直交する姿勢で円板状の一対のロックプレート35(回転阻止体の一例)が備えられている。夫々のロックプレート35は、中央部に筒状体15が配置される開口35Aが形成されると共に、ピン状のロック部材31に向かう面(対向する面)にはロック部材31が係合可能な多数の係合凹部36が形成されている。
【0032】
図3、図4、図7に示すように、多数の係合凹部36は第1軸芯X1を中心にして放射状に形成されると共に、凹部の断面形状をロック部材31の断面形状の一部に沿わせる(一致させる)ことで、係合凹部36にロック部材31が係合した状態では、広い面で互いに接触して安定的に係合保持できるようにしている。また、一対のロックプレート35はスペーサ37により相対的な位置関係が保持されている。このように、ロック部材31、ガイド開口32、ロックプレート35によりロック機構30が構成されている。
【0033】
本発明のセルフロッククラッチでは、一対のロックプレート35をセルフロッククラッチのフレーム等固定系に支持することでスペーサ37を備えないで構成しても良い。
【0034】
〔ロック作動〕
このセルフロッククラッチでは、筒状体15に対して、電動モータ17からの駆動力をウォームギヤ10に直接伝えて駆動回転し、このウォームギヤ10に咬合するホイールギヤ20を駆動回転することになり、減速された回転力をホイールギヤ20と一体回転する出力軸21から取り出せるようにしている。
【0035】
また、この駆動回転時には、筒状体15からロック部材31を介して制御軸部11に回転力を伝えてウォームギヤ10を駆動回転させることになる。また、ロック部材31がガイド開口32の開口縁に接当することで回転力が伝えられることから、ロック部材31は主頂点32Nの位置で安定することになり、ロック部材31は中立位置Nに保持され、このロック部材31がロックプレート35の係合凹部36に接触することはない。
【0036】
そして、例えば、電動モータ17の回転が停止した状態で外力の作用によりホイールギヤ20が回転した場合には、この回転方向が何れの方向であっても、ホイールギヤ20の回転に伴いウォームギヤ10が第1軸芯X1に沿って変位する結果、ロック部材31はガイド開口32の内周面に沿って移動しロック位置Lに達する。
【0037】
特に、このセルフロッククラッチは、ホイールギヤ20に負荷が作用する状況において電動モータ17からの駆動力で図1に示す方向に制御軸部11が回転している状態(例えば、ドアガラスを上昇作動させる状態)では、ホイールギヤ20に対して逆トルク(負荷)が常に作用する。このような場合には、制御軸部11を引き出す方向にスラスト力が作用するとともに、進み角が大きいウォームギヤ10では、この進み角に応じた逆回転トルクが制御軸部11に作用する。
このとき、逆トルクによるスラスト力は、ロック部材31が短辺上を滑ってロック位置Lの方向(図1では左方向)に移動させる力として働くが、同時に作用する逆回転トルクは短辺上でロック部材31を中立位置Nの方向(図1では下方向)に移動させる力として働く。
【0038】
これにより、逆トルクが作用する状況では、逆入力による逆回転トルクとモータ駆動による回転トルクがともにロック解除力として働くため、ロック部材31は中立位置Nに安定的に保持されるのである。
【0039】
そして、電動モータ17の回転を緩め、この電動モータ17の駆動力に対してホイールギヤ20に作用する逆トルク(負荷)が勝ってきた場合には、モータ駆動トルクによるロック解除力だけではロック部材31を中立位置Nに保持する力として不足してくるため、ガイド開口32の短辺に沿ってロック部材31が左方向に移動し、図2及び図4に示すようにロック位置Lに達し、ロック部材31をロックプレート35の係合凹部36に係合させて確実なロック状態に達する。
ここで、短辺の角度θ1(図6参照)を小さくすれば左側のロック方向に移動し易くなり、θ1を大きくすれば左側のロック方向には移動し難くなり、中立位置Nに移動し易くなる。
【0040】
これとは逆に、ホイールギヤ20に対して順トルクが増大して作用する場合には次のように作用する。これは、例えば、ドアガラスを下降作動させている状態で更にドアガラスに対して下げ方向の外力が加わったような場合である。図1においては、電動モータ17が白矢印と反対方向に回転している状態である。ロック部材31は、ガイド開口32の上側の中立位置Nにある。この状態から更なる外力が加わると、制御軸部11には引き出し方向にスラスト力が作用する。ウォームギヤ10の進み角が大きい場合には、この進み角に応じた順回転トルクが制御軸部11に加えられる。この結果、ロック部材31がガイド開口32の長辺上を滑って図1中の左側のロック位置Lに移動する。ロック部材31はロックプレート35の係合凹部36に係合し、制御軸部11の回転が一時停止する。このように、電動モータ17がドアガラスを下げ駆動している場合でも、上記押し下げ外力が作用した場合には制御軸部11の回転が停止され、電動モータ17が破損する等の不都合の発生を有効に防止することができる。
【0041】
筒状体15に形成したガイド開口32は左右非対称に形成してある。これは以下の理由による。例えば、今、図1の状態で定常回転している電動モータ17が停止する場合を想定する。このとき、ホイールギヤ20には時計方向のトルクが作用しており、制御軸部11の回転停止に伴ってホイールギヤ20は制御軸部11を図1中左側に引き出そうとする。よって、ロック部材31は、まず左向きに移動しようとする。同時に、ホイールギヤ20によってウォームギヤ10が、図1中の白抜き矢印の方向とは反対方向への回転を強いられる。この力と、上記引き出し方向の力とが制御軸部11には作用するから、ロック部材31は、図6に示したように左下向きの合力F1を伴って移動しようとする。この結果、ロック部材31はガイド開口32の短辺上を滑って右側の副頂点32Lに到達する。
【0042】
一方、図1の状態で電動モータ17が定常回転している最中に、さらにホイールギヤ20の回転を加速する外力が作用した場合を想定する。このとき、ホイールギヤ20には反時計方向のトルクが作用し、制御軸部11は図1中右側に押し込まれる。よって、ロック部材31は、まず右向きに移動しようとする。同時に、ホイールギヤ20によってウォームギヤ10の回転が、図1中の白抜き矢印の方向に加速される。この加速される力と、上記押し込み方向の力とが制御軸部11には作用するから、ロック部材31は、図6に示したように右上向きの合力F2を伴って移動しようとする。この結果、ロック部材31はガイド開口32の長辺上を滑って右側の副頂点32Lに到達する。
【0043】
本装置では、電動モータ17が定常回転している状態から上記停止或いは加速が行なわれた場合に、トルク変動が略同じであれば、ロック部材31が左右何れにも同じ移動特性を備えるように構成してある。つまり、ガイド開口32の短辺の角度θ1と長辺の角度θ2とを図6のように設定し、合力F1と短辺とのなす角度α1と、合力F2と長辺とのなす角度α2とを略等しく設定してある。これにより、ロック部材31に対して左右何れの方向に力が加わっても、ロック部材31が短辺上を滑る際の抵抗力と、長辺上を滑る際の抵抗力とが略等しくなるように設定してある。
【0044】
〔ロック位置からの離脱〕
上記構成であれば、ロック部材31が左右のロック位置Lから離脱し、中立位置Nに移動する際にも、左右の特性が略同じとなる。例えば、図4に示すように、制御軸部11が引き出されようとする状態でロックしている場合には、上述のごとく左下向きの力F1が作用し続けている。この状態から、制御軸部11を負荷の大きい方に再度回転させるとすると、回転方向は、制御軸部11を上側に移動させる方向であり、ロック部材31は短辺に沿って中立位置N戻る必要がある。よって、ロック部材31をロック位置から離脱させようとする力は、合力F1と短辺とのなす角θ1に基づいて決定される。
【0045】
一方、図5に示すように、回転している制御軸部11に一時的に加速が加わり、制御軸部11が引き出されようとする状態で右側にロックしている場合には、上述のごとく右上向きの力F2が作用する。しかし、この状態から、一時的な外力の作用が弱まり、再び電動モータ17の駆動力が勝ってきた場合には、ロック部材31はガイド開口32の長辺上を滑って下側の中立位置Nに移動を始める。このとき、ロック部材31をロック位置から離脱させようとする力は、合力F2と長辺とのなす角θ2に基づいて決定される。
【0046】
因みに、ガイド開口32が菱形であるものを想定すると、長辺と短辺との区別がなくなり、ウォームギヤ10の進み角による回転トルクの影響を考慮しないものとなる。このような場合には、モータ回転方向に対しホイールギヤ20に順トルクが作用する側へのロックが入り易く、順トルクが弱くなってもロック解除し難い。モータ回転方向に対して逆トルクが作用する側にはロックが入り難くなり、逆トルクが弱くなると容易にロック解除する。ホイールギヤ20に作用するトルクが変動するとき、トルクの方向によってロックの入り方に差が生ずる。
【0047】
このような現象に対して、前述したように基準ラインX1’に対して短辺の角度θ1を長辺の角度θ2より小さく設定することにより、逆トルクも順トルクも等しいトルク(絶対値が等しいトルク)でロック状態にするようにしている。
【0048】
このように本発明のセルフロッククラッチでは、電動モータ17を停止した状態であっても、電動モータ17が稼働する状況にあっても、外部の作用によってホイールギヤ20が回転した場合には、その回転力でウォームギヤ10を第1軸芯X1に沿う方向に変位させ、ロック部材31をロックプレート35の係合凹部36に係合させて確実なロックを現出できるようにしている。
【0049】
また、ロック部材31が第1軸芯X1を中心にして外方に突出する形態で形成されているので、このロック部材31を複数の係合凹部36の何れかに係合させてロック状態に達した場合には極めて高いロックトルクを得るものにしている。
【0050】
特に、ガイド開口32の形状を平行四辺形に設定し、逆トルクが作用した場合と、順トルクが作用した場合とで、ロック部材31に作用する滑り方向の分力を調節することにより、電動モータ17が作動している状況で逆トルクが作用してロック状態に達する際の逆トルクの絶対値と、順トルクが作用してロック状態に達する際の順トルクの絶対値とを等しくしており、ロック作動のバランスを良くしている。
【0051】
〔別実施形態〕
この別実施形態では前述した実施形態と同じ機能を有するものについて共通する番号・符号を付している。つまり、図8及び図9に示すようにガイド開口32を制御軸部11に凹状に形成し、この凹状のガイド開口32に係入するガイド体15Gを筒状体15に固設してガイド機構を構成する。また、制御軸部11と逆側の端部の支軸部12にロック部材31を突設し、このロック部材31が係入する係合凹部36を有した一対のロックプレート35を、ロック部材31を挟む位置に配置する。
【0052】
ガイド開口32は筒状体15の周方向(制御軸部11の周方向と一致)に沿う姿勢の対角線を有した平行四辺形として形成され、この対角線の位置が中立位置Nに対応する。また、図面には詳細には示していないが、この平行四辺形となるガイド開口32も前述した実施形態と同様に長辺と短辺とを有し、基準ラインに対して角度θ1とθ2とが設定されている。前述した実施形態と同様に、制御軸部11は第1軸芯X1を中心として回転自在に支持され、筒状体15は第1軸芯X1と同軸芯で回転自在、かつ、第1軸芯X1に沿う方向に変位不能に支持されている。
【0053】
このような構成から、電動モータ17の回転駆動力をウォームギヤ10からホイールギヤ20に伝えられる状態においては、ガイド開口32に形成した中立位置Nが、ガイド体15Gに接当保持される位置に移動し、ロック部材31も中立位置に保持される。そして、外力の作用によってホイールギヤ20が回転した場合には、ガイド開口32がガイド体15Gに摺接しながら変位してロック位置に達する。よって、この制御軸部11の変位に伴いロック部材31がロック位置Lまで移動し、ロック部材31がロックプレート35の係合凹部36に係入してロック状態に達する。
【0054】
従って、先に説明した実施形態と同様に電動モータ17が停止した状態であっても、電動モータ17が駆動されている状態にあっても、外部の作用によってホイールギヤ20が回転した場合には、その回転力でウォームギヤ10を第1軸芯X1に沿う方向に変位させ、ロック部材31をロックプレート35の係合凹部36に係合させて確実なロックを現出できることになる。特に、本発明によると、外力の作用によりホイールギヤ20が回転した場合には確実なロック状態を現出するので、伝動効率を高くするように進み角の大きいウォームギヤを用いた減速系を構成することが可能となり、また、駆動源に小容量の電動モータを使用することも可能となる。
【0055】
また、この別実施形態では、ロック部材31とロックプレート35とをウォームギヤ10と制御軸部11との中間位置に配置する構成を採用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ウォームギヤの回転力をホイールギヤに伝える減速系において、この減速系自体のセルフロック機能に頼ることなく高いロックトルクを必要とする伝動系全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
10 ウォームギヤ
11 軸部(制御軸部)
15 筒状体
15G ガイド体
20 ホイールギヤ
31 ロック部材
32 ガイド機構(ガイド開口)
35 回転阻止体(ロックプレート)
36 係合凹部
L ロック位置
N 中立位置
X1 第1軸芯
X2 第2軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食い違い関係となる第1軸芯と第2軸芯とのうち第1軸芯を中心に回転する駆動側のウォームギヤを備え、前記第2軸芯を中心に回転する従動側のホイールギヤを前記ウォームギヤに咬合する位置に備えると共に、
前記ウォームギヤと、これに一体形成された軸部とが前記第1軸芯に沿う方向に変位自在に支持され、前記軸部に外嵌する筒状体が前記第1軸芯の方向に変位不能で前記第1軸芯を中心として回転自在で支持されることにより、前記ホイールギヤに外力が回転方向に作用した場合には、第1軸芯に沿う方向へのウォームの変位に伴い前記筒状体の内部において前記軸部の変位が許される変位構造を備えており、
ウォームギヤからホイールギヤに駆動力が伝えられる状態では、前記筒状体及び前記軸部の何れか一方に設けられたロック部材を前記第1軸芯の方向での中立位置に保持し、前記ホイールギヤを回転させる外力が作用する状態では、前記中立位置を基準にして第1軸芯に沿う方向へ変位したロック位置へ前記ロック部材を移動させるガイド機構を備え、
前記筒状体及び前記軸部の何れか他方の外部には、前記中立位置のロック部材には接触せず、前記ロック位置のロック部材と係合して前記軸部の回転を阻止する複数の係合凹部を有する回転阻止体が配置されているセルフロッククラッチ。
【請求項2】
前記回転阻止体が、前記中立位置を挟む2箇所に配置されると共に、前記ガイド機構が、前記筒状体の周方向に沿う姿勢の対角線を有した平行四辺形となる開口として前記筒状体に形成され、この開口に対して貫通し前記対角線上で前記中立位置となる前記ロック部材を前記軸部に形成している請求項1記載のセルフロッククラッチ。
【請求項3】
前記ガイド機構が、前記筒状体の周方向に沿う姿勢の対角線を有した平行四辺形となる凹部として前記軸部の外周に形成され、この凹部に係入し前記対角線上で中立位置となるガイド体を前記筒状体に固設して構成され、
前記軸部、又は、この軸部に一体形成された部材において前記第1軸芯から外方に突出するように前記ロック部材を備え、中立位置にある前記ロック部材を挟む2箇所に前記回転阻止体が配置されている請求項1記載のセルフロッククラッチ。
【請求項4】
前記回転阻止体が円板状に形成されると共に、前記凹部が、前記第1軸芯を中心とする放射状で、この回転阻止体の外周側に多数形成されている請求項3に記載のセルフロッククラッチ。
【請求項5】
前記係合凹部が前記ロック部材の断面形状に沿う係合面を備えている請求項4記載のセルフロッククラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−202766(P2011−202766A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72324(P2010−72324)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】