説明

セルラーゼの効率を増大させるスオレニン(swollenin)組成物と方法

ポリペプチドスオレニンを用いてセルロース性バイオマスから糖製造のセルラーゼの効率を向上させることに関し組成物と方法が述べられている。

【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本願発明は、2008年4月29日に出願された米国仮出願第61/048,807号(引用により本願に組み入れる)に基づく優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本組成物と方法は、ポリペプチド、スオレニンを用いて、セルロース性のバイオマスから糖を製造するとき、セルラーゼの効率を高めることに関する。
【背景技術】
【0003】
再生可能な燃料としてのエタノールに関する関心はこれまで以上に強くなっている。燃料添加剤としてのエタノールの使用は、過去数年にわたり増え、近い将来も増え続けると期待される。エタノールの使用は外国の石油への依存を減らし、温室効果ガスの放出を抑え、農村に経済的利益をもたらし、生物由来物質に基づく経済の基礎を確立する。
【0004】
セルロース由来のエタノールの潜在的原料は、トウモロコシの茎、小麦のわら、サトウキビの絞りかす、稲のわら、製紙用パルプ、材木片、及び成長の早い樹木と草(スイッチグラス、プレーリーグラス、かや)のような「エネルギー用作物」由来のバイオマスを含み、エタノールの生産に利用できる原料は劇的に拡大している。セルロース性バイオマスは、大量に入手できるが、商業化の主な問題は、最終的にエタノールを生産する、生物学的な精製工程全体の費用を低減することである。均一で容易に加水分解できるポリマーを含むデンプンと異なり、エタノールの製造に使用する典型的なセルロース性基質/原料は、天然では均一ではない。これらは、変換可能なセルロースとヘミセルロースに加え、発酵を受け得る糖に容易に変換できないリグニンや他の成分も含む。
【0005】
典型的には、未加工バイオマスは化学的、物理的または生物学的に前処理を受け、エタノール製造に適した基質/原料を製造しなければならない。物理的な前処理技術は1以上の種々の製粉、粉砕、照射、水蒸気加熱/水蒸気爆発、及び熱水分解を含む。化学的な前処理技術は、酸、アルカリ、有機溶媒、アンモニア、二酸化硫黄、二酸化炭素、pH-調整された熱水分解を含む。
【0006】
バイオマスを発酵可能な糖に変換するために必要な加水分解酵素の量を低減すること及び/又はこのバイオマスを加水分解酵素で利用できるようにするため必要な前処理を低減することが緊急の課題として残っている。
【発明の概要】
【0007】
一面では、セルラーゼの効率を高める方法が提供され、この方法は(a)セルロース性基質、ある量の全セルラーゼ及びある量のスオレニンを組み合わせ、(b)このセルロース性基質、混合されたセルラーゼ組成物及びスオレニンをセルロースの加水分解が起こる条件で定温反応させることを含む。好ましい方法では、セルロース性基質は水素結合した分子を含む。このセルロース性基質は木材、木材のパルプ、製紙業のヘドロ、製紙用パルプの排液、削片板、トウモロコシの茎、トウモロコシの繊維、コメ、紙及びパルプ処理廃液、本木植物、草本植物、草、籾殻、綿の木のわら、トウモロコシの穂軸、蒸留所の穀粒(distillers grain)、葉、小麦のわら、ココナッツの毛、スイッチグラス(switchgrass)及びそれらの混合物からなる群から選択されても良い。
【0008】
関連する面では、セルラーゼを用いてセルロースの加水分解の効率を高める方法が提供され、本方法は(a)セルロース性基質、セルラーゼ組成物及び組換スオレニンを組み合わせ、(b)セルロース性基質、セルラーゼ組成物、及びスオレニンをセルロースの加水分解が起こる条件下で定温反応させる(ここで、組換えスオレニンにより、セルラーゼ組成物によるセルラーゼの加水分解の効率は、スオレニンがない場合にセルラーゼ組成物を用いて得られるものと比較して増大している。)ことを含む。
【0009】
いくつかの実施態様では、このセルラーゼ組成物は全セルラーゼ組成物である。いくつかの実施態様では、このセルラーゼ組成物は、混合セルラーゼ組成物である。いくつかの実施態様では、このセルラーゼ組成物はエンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及びβ-グルコシダーゼを含む。
【0010】
いくつかの実施態様では、セルラーゼ組成物は1以上のプライマリーセルラーゼ(primary cellulase)を含む。いくつかの実施態様では、本セルラーゼ組成物は、主として1以上のプライマリーセルラーゼを含む。ある実施態様では、このプライマリーセルラーゼは、CBH1、CBH2、EG1、EG2、及びβ-グルコシダーゼから選択される。
【0011】
いくつかの実施態様では、本方法はスオレニン以外のアクセサリー酵素がない状態で行われる。
【0012】
いくつかの実施態様では、本方法はEG4とCIP1なしで行われる。いくつかの実施態様では、本方法は組換えEG4または組換えCIP1なしで行われる。いくつかの実施態様では、本方法は組換えEG4と組換えCIP1なしで行われる。
【0013】
いくつかの実施態様では、セルラーゼ組成物中のセルラーゼのスオレニンに対する比率(重量:重量)は、約20:1と約1:5の間である。いくつかの実施態様では、セルラーゼ組成物中のセルラーゼのスオレニンに対する比率(重量:重量)は約10:1と約1:2の間である。いくつかの実施態様では、セルラーゼ組成物中のセルラーゼのスオレニンに対する比率(重量:重量)は約5:1と約1:1.5の間である。
【0014】
いくつかの実施態様では、スオレニンとセルラーゼは、ほぼ等量(重量:重量)で含まれている。スオレニンの量の例は本方法で使用される酵素の約30%から約70%、約40%から約60%、及び約50%である(重量:重量)。
【0015】
いくつかの実施態様では、セルロース性の基質は木、木材パルプ、製紙業のヘドロ、製紙用パルプの廃液、削片板、トウモロコシの茎、トウモロコシの繊維、コメ、紙及びパルプ処理廃液、本木植物、草本植物、草、籾殻、綿の木のわら、トウモロコシの穂軸、蒸留所の穀粒(distillers grain)、葉、小麦のわら、ココナッツの毛、スイッチグラス(switchgrass)及びそれらの混合物からなる群から選択される。いくつかの実施態様では、セルロース性基質は、軟材である。いくつかの実施態様では、セルロース性基質は、リグニン含量の高い基質である。いくつかの実施態様では、セルロース性基質は80より高いカッパナンバー(kappa number)を有する。
【0016】
いくつかの実施態様では、セルラーゼの効率のパーセントの増大は、少なくとも約10%、少なくとも約15%、さらに少なくとも約20%である。
【0017】
別の面では、混合又は全セルラーゼ組成物とスオレニンを含む酵素組成物が提供される。混合/全セルラーゼ対スオレニンの比率(重量:重量)は、約20:1と約1:5(両端を含む)の間でも良い。混合セルラーゼ対スオレニンの比率(重量:重量)は、さらに約10:1と約2:1(両端を含む)の間でも良い。混合セルラーゼとスオレニンの比率(重量:重量)は、約5:1と約1:1.5(両端を含む)の間でも良い。
【0018】
関連する面では、酵素組成物が提供され、これは、(a)エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びβ-グルコシダーゼを含む混合セルラーゼ組成物と(b)組換えスオレニンを含有する。
【0019】
いくつかの実施態様では、本組成物はEG4もCIP1も含まない。いくつかの実施態様では、本組成物は組換えEG4も組換えCIP1も含まない。いくつかの実施態様では、本組成物は組換えEG4を含まず、かつ組換えCIP1を含まない。
【0020】
いくつかの実施態様では、混合セルラーゼ組成物は、主としてプライマリーセルラーゼを含む。
【0021】
別の関連する面では、(a)エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びβ-グルコシダーゼを含有する混合セルラーゼ組成物と(b)組換えスオレニンを主として含む酵素組成物が提供される。
【0022】
いくつかの実施態様では、いずれかの混合セルラーゼ組成物中のセルラーゼとスオレニンの比率(重量:重量)は約20:1と約1:5の間である。いくつかの実施態様では、いずれかの混合セルラーゼ組成物のセルラーゼとスオレニンの比率(重量:重量)は約10:1と約1:2の間である。請求項20−25のいずれかの請求項の組成物(いずれかの混合セルラーゼ組成物中のセルラーゼとスオレニン(重量:重量)の比率は約5:1と約1:1.5の間である。いくつかの実施態様では、スオレニンとセルラーゼは、ほぼ等量(重量:重量)で含まれている。
【0023】
いくつかの実施態様では、組成物中のスオレニンの量(重量:重量)は、セルロース性基質に対するセルラーゼの効率に関し、組成物中のほぼ等量のセルラーゼ(重量:重量)と置き換えることができる。
【0024】
組成物と方法の以上の及び他の面は以下の記述から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1はスオレニン存在下または、存在しない条件で混合セルラーゼ組成物によるグルコースの産生を示す。
【0026】
【図2】図2Aと2Bは種々のセルロース性基質のセルロース加水分解におけるスオレニンの効果を示す。
【0027】
【図3】図3は1gのセルロース当たり総量30mgの酵素により産生されるグルコースを示し、この酵素は、セルラーゼとスオレニンの混合比率が種々の比率である。
【0028】
【図4】図4は混合セルラーゼとスオレニンの異なる相対濃度での軟材パルプのセルロース分解のパーセントを示す。詳細な説明1. 定義
【0029】
本組成物と方法を述べる前に、以下の用語と語句を定義する。定義されない用語は本技術分野で用いられるその用語の普通の意味をもつ。
【0030】
本明細書で使用される場合、「スオレニン」は、セルロース分解活性(つまり、セルロースの分子鎖を小さいモノマー(グルコース)またはオリゴマー(多糖)に開裂することを含む触媒活性)を有さないが、ろ紙を弱くし、また綿繊維の膨張(swelling)を起こす性能を有するタンパク質/ポリペプチドをいう。McQueen-Masonら(1992)のPlant Cell 4:1425-33で述べられたエクスパンシンタンパク質に関するものとしてスオレニンを広く定義することは有用であるが、微生物のスオレニンが独特の性質をもつことも明らかであって、例えば、微生物のスオレニンは植物のエクスパンシンよりはるかに大きいタンパク質であり、植物のエクスパンシンとは低い水準の配列の同一性しかもたない。さらに、ある微生物のスオレニンタンパク質はセルロース結合ドメインと連結しており、さらに触媒性のセルラーゼドメインと連結しているかもしれない。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「セルロース性基質」または「セルロース性原料」は、互いに交差結合し、またリグニンと結合したセルロース、ヘミ-セルロース及びβ-グルカンからなる物質をいう。そのようなセルロース性の基質はペクチン、タンパク質、デンプン及び脂質のような他の物質も含んでよいが、しかし主要成分として、セルロース、ヘミ-セルロース及びβ-グルカンを含むことが好ましい。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「精製」と「単離」は、スオレニンに関して、天然で組み合わされている天然の構成要素のいくつか又は全てから、または異種が発現の後に組み合わされている構成要素のいくつか又は全てからスオレニンを分離することをいう。用語「成分」は、一般的に他のタンパク質、核酸、脂質、細胞壁の物質及び他の細胞の成分をいう。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「カッパ値」はセルロース基質がリグニン化されている程度をいう。カッパ値は、例えば、国際標準化機構(International Organization for Standardization)の文書ISO 302:2004を用いて決定できる。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「セルロース」は、一般式(C6H10O5)nをもつβ(1→4)結合したD-グルコース単位からなる多糖をいう。セルロースは緑色植物、多くの形態の藻類と卵菌類の一次細胞壁の構造を形成する成分である。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「セルラーゼ」はセルロースポリマーを加水分解して短い分子鎖のオリゴマー及び/又はグルコースにすることのできる酵素をいう。
【0036】
本明細書で使用する場合、用語「全セルラーゼ組成物/調製物/混合物」等は、生物、例えば、糸状菌により産生される複数のセルラーゼを含む天然及び非天然の両組成物をいう。全セルラーゼ組成物の一例は、糸状菌が培養される培地(つまり、液体培地)であり、これは、例えば、ある予定した割合の1以上のセロビオヒドロラーゼ、1以上のエンドグルカナーゼ、及び1以上のβ-グルコシダーゼのように、分泌されたセルラーゼを含んでいる。
【0037】
本明細書で使用する場合、「エンドグルカナーゼ(EG)」とは、主にセルロース繊維の非晶性部分に作用して低結晶性領域の内部β-1,4-グルコース結合を加水分解する酵素(EC3.2.1.4)である。
【0038】
本明細書で使用する場合、「セロビオヒドロラーゼ(CBH)」または「エキソグルカナーゼ」は、セルロースの還元又は非還元末端からセロビオースを加水分解し結晶性セルロースを分解する酵素(EC3.2.1.91)である。
【0039】
本明細書で使用する場合、「β-グルコシダーゼ」又は「β-D-グルコシドグルコヒドロラーゼ」は、セロビオース、セロ-オリゴ糖、及び他のグルコシドからD-グルコース単位を遊離させるように作用する酵素(EC 3.2.1.21)である。
【0040】
本明細書で使用する場合、「ヘミセルロース」は、グルコースのみを含むセルロースと異なり、グルコース以外の糖モノマーを含む植物性物質のポリマー成分である。ヘミセルロースは、グルコースに加えて、キシロース、マンノース、ガラクトース、ラムノースとアラビノース等を含んでも良いが、キシロースが最も良く見られる糖モノマーである。ヘミセルロースは、殆どのD-ペントースを含み、時に少量のL-糖を含む。ヘミセルロースの糖はグルコース結合とともにエステル結合により結合されても良い。ヘミセルロースの形態の例には、ガラクタン、マンナン、キシラン、アラバナン、アラビノキシラン、グルコマンナン、ガラクトマンナン等を含むがこれらに限定されない。
【0041】
本明細書で使用する場合、用語「ヘミセルラーゼ」とは、ヘミセルロースをその構成成分の糖又は短いポリマーに切断できる種類の酵素をいい、エンド作用ヒドロラーゼ、エキソ作用ヒドロラーゼ、及び種々のエステラーゼを含む。
【0042】
本明細書で使用する場合、「プライマリーセルラーゼ」または「プライマリーセルラーゼ様酵素」とは、セルロースを効率的に加水分解するため、またはセルロース性基質からグルコースを産生するために必要とされるセルラーゼである。プライマリーセルラーゼはCBH1、CBH2、EG1、EG2、及びβ-グルコシダーゼを含む。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「アクセサリー酵素」はセルラーゼ(またはセルラーゼの組み合わせ)の効率を改善するためにセルラーゼ組成物に含有され得るが、セルロースの効率的な加水分解、またはセルロース性基質からグルコースを産生するためには必要とされない酵素をいう。アクセサリー酵素はスオレニン、EG4、セルロース誘導蛋白質(CIP1)、及びキシラナーゼを含む。
【0044】
本明細書で使用する場合、「天然に生じる」組成物とは自然界で産生される、または自然界で発生する生物により産生されるものである。
【0045】
本明細書で使用する場合、「変異」タンパク質は、「変異」タンパク質が生じた「親」タンパク質と異なるものであり、親タンパク質から少数のアミノ酸残基、例えば、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20個、またはそれより多くのアミノ酸残基、の置換、欠失、又は付加により生じる。いくつかの場合では、親タンパク質は「野生型」、「固有の」又は「天然に生じる」ポリペプチドである。変異タンパク質は親タンパク質とあるパーセントの配列同一性、例えば、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、さらに少なくとも99%の同一性を有すると記述できる。この同一性は本技術分野で知られているいずれかの適したソフトウェアプログラム、例えば、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Ausbelら(編)(1987)補遺30、7.7.18部)に記載されているものを用いて決定できる。好ましいプログラムはVECTOR NTI ADVANCE(商標)9.0 (Invitrogen Corp. Carlsbad, CA)、GCG PILEUPプログラム、FASTA(Pearsonら(1988) Proc.Natl, Acad.Sci USA 85:2444-2448)及びBLAST(BLAST Manual, AltschulらNat’l. Cent. Biotechnol. Inf., Nat’l Lib. Med.(NCIB NLM NIH), Bethesda, Md., 及びAltschulら(1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)を含む。他の好ましい配列合わせプログラムはALIGN Plus(Scientific and Educational Software,PA)であり、初期値を用いることが好ましい。使用できる別の配列ソフトウェアプログラムは、Sequence Software Package Version 6.0(Genetics Computer Group, University of Wisconsin, Madison, WI) で入手できるTFASTA Data Searching Programである。
【0046】
特に別に述べている場合を除き、単数表記は複数も含み、別に述べている場合を除き「または」は「及び/または」を意味する。用語「含む」とは限定することを意図していない。用語「を含むことが不可欠」とは、他の成分または工程は任意に含むことができるが、しかし、述べられている効果を発揮するために必須ではないことを意味する。
【0047】
本明細書に引用されている全て特許と刊行物は、その特許と刊行物に開示されている全てのアミノ酸とヌクレオチド配列を含めて、本明細書に引用により明示的に組み入れられる。
【0048】
以下の略号は、特に別に記載がある場合を除き、以下の意味をもつ。


II. セルロース性原料からの糖収量を増加させるためのスオレニンの使用
【0049】
本組成物と方法の一面は、スオレニンをセルラーゼ組成物に補うことによりセルロース性の原料/基質からの糖の収量を増やすことに関する。一面では、セルロースの酵素的加水分解を向上させる方法が提供され、本方法は、(a)セルロース性基質、混合セルラーゼ組成物及びスオレニンを組み合わせ、そして(b)セルロース性基質、混合セルラーゼ組成物及びスオレニンを、セルロースを加水分解する条件下で反応させることを含む。本組成物と方法は、混合セルラーゼ組成物の50%までスオレニンで置き換えるとセルロース基質から生成する発酵しうる糖の収量を相当に高めるという驚くべき観察に基いている。
【0050】
種々のタンパク質、「エクスパンシン」と呼ばれるものは種々の食用植物で同定されてきた。これらのエクスパンシンは水の浸透圧による吸収(植物細胞の拡大の推進力である)を高めると信じられている。水が細胞に入るとき、プロトプラストは拡大するが、細胞壁(細胞壁は、ペクチン、ヘミセルロース及びタンパク質からなる糊状の基礎構造中に埋め込まれているセルロース微小繊維ポリマーの堅固な複合体により結合されている)により制限される。種々の果物、野菜、穀物及びオート麦に見出されるエクスパンシンファミリーのタンパク質は、「細胞壁を緩める」因子(未成熟の細胞壁の機械的性質を変え、細胞壁を伸長させる)(例えば、Shcherbanら(1995)Proc.Nat’l. Acad. Sci, U.S.A.92:9245-49;Wangら(1994) Biotech. Lett. 16:955-58;Kellerら(1995) The Plant Journal 8:795-802;Liら(1993) Planta,Vol.191,pp.349-56参照)として機能する。エクスパンシンは、細胞壁の緩みが生じる、植物細胞の成長、果実の柔軟化、器官離脱、根毛の出現、雄しべの柱頭と花柱への花粉管の侵入、分裂組織の機能、及び他の成長過程で重要な役割を演じる。
【0051】
比較的最近では、エクスパンシン様の酵素が微生物の宿主から同定されている。そのような酵素はスオレニンと呼ばれ、トリコデルマ・レセイに由来し、米国特許第6,458,928号(引用により本明細書に組み入れる)に記載されている。スオレニンの配列は一部、植物のエクスパンシンと類似しており、細胞壁の多糖の間の水素結合を切断すると考えられている。N-末端シグナルペプチドを含む固有のポリペプチド配列は、配列番号1(SEQ ID NO;1)として示されている。成熟ポリペプチドの配列は、配列番号2として示されている。エクシパンシンと異なり、成熟スオレニンは、エクスパンシン様ドメインにリンカー領域を通じて結合しているセルロース-結合領域(CBD)をN-末端に含んでいる。この種のCBDは、また、CBHIとEGIIのような、良く知られたT・レセイセルラーゼにも見られる。スオレニンと異なりセルラーゼは少なくともある程度は、加水分解性である。



【0052】
いくつかの実施態様では、スオレニンは、配列番号1のアミノ酸配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、またさらに少なくとも99%のアミノ酸配列の同一性を有する、天然に生じる変異T・レセイスオレニンである。いくつかの実施態様では、スオレニンは異なる生物から得られ、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、さらに少なくとも99%のアミノ酸配列の同一性を有する。
【0053】
さらなる実施態様では、このスオレニンは遺伝子工学的に操作された変異スオレニンであって、このスオレニンに有利な特徴を与える少なくとも1個の置換、挿入、欠失を含み、アミノ酸配列の残部(つまり、当該1以上の置換、挿入、欠失を含まない)は、配列番号1のアミノ酸配列と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも、91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも、94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%またさらに少なくとも99%のアミノ酸配列の同一性を有する。置換、挿入又は欠失はN-末端CBDに存在しても良く、それにより、セルロース結合に影響を与え、またはCBD以外のポリペプチドの部分にあっても良く、それにより、例えばセルロース性基質の水素結合の切断に影響を与えても良い。関連する実施態様では、このスオレニンは本明細書に記載されている生物学的活性を保持するスオレニンの断片又はドメインである。ある実施態様では、この断片はCBDを欠いている。
【0054】
スオレニンとともに使用するために適したセルロース性基質は木材、木材パルプ、製紙のヘドロ、製紙パルプの廃液、削片板、トウモロコシの茎、トウモロコシの繊維、コメ、紙及びパルプ加工廃棄物、木本又は草本植物、草、籾殻、綿の木のわら、トウモロコシの穂軸、蒸留所の穀粒(distillers grain)、葉、小麦のわら、ココナッツの毛、スイッチグラス(switchgrass)及びそれらの混合物を含む。本組成物と方法の一面は、セルラーゼにスオレニンを加えると木材や草の基質で糖の産生を増やすという発見である。他方、スオレニンは穀物や果実が基礎の基質との使用に有利であるとは信じられていない。一般的に、スオレニンの水素結合を切断する性能により、水素結合が広がっている何れかの基質(例えば、結晶性セルロース)もスオレニン活性に感受性があるらしく、そのため適した基質となる。セルロース性基質には、軟材の場合のように、リグニン含量が高い例がある。いくつかの例では、セルロース性基質は80以上のカッパナンバー、例えば80,81、82、それより大きい数を有す。
【0055】
セルロース性基質は直接に(つまり、前処理なしで)使用でき、または本技術分野で知られている従来の方法を用いて前処理を受けても良い。前処理の例は化学的、物理的、生物学的前処理である。物理的前処理技術に、制限はなく、種々の製粉、粉砕、水蒸気処理/水蒸気爆発、照射及び熱水分解を含む。化学的前処理技術に、制限はなく、稀酸、アルカリ、有機溶媒、アンモニア、二酸化硫黄、二酸化炭素、pH-制御熱水分解を含む。生物学的前処理技術には、制限はなく、リグニン溶解性微生物を基質に使用することを含む。
【0056】
セルロースの酵素による加水分解は約45℃から約75℃の範囲の温度、約3.5から約7.5のpHで行うことが好ましい。加水分解反応器におけるセルロースの初期濃度は、加水分解の開始前は、約4%(重量/重量)から約15%(重量/重量)であることが好ましい。全てのプライマリーセルラーゼ酵素を合わせた量は、1グラムのセルロース当たり、約5から約45mgタンパク質でも良い。加水分解は約12時間から約200時間までの時間で行われても良い。加水分解は15時間から100時間で行われることが好ましい。反応条件は、決して発明を限定するつもりはなく、本技術分野の技術者が望むように調整されても良いことを認識すべきである。
【0057】
加水分解工程は、約80%から約100%、またはその間の範囲のセルロースを可溶性の糖に変換することが好ましい。さらに好ましくは、酵素加水分解工程は、約90%から約100%のセルロースを可溶性の糖に変換し、さらに約98%から約100%のセルロースを可溶性の糖に変換する。
【0058】
混合セルラーゼ組成物とスオレニンを用いる加水分解はバッチ式の加水分解でも良く、連続式の加水分解でも良く、又はそれらの組み合わせでも良い。加水分解は、撹拌されても、混合されなくても、またはそれらの組み合わせでも良い。加水分解は、典型的には加水分解反応器で行われる。プライマリーセルラーゼとスオレニン酵素は、基質を反応器へ加える前、その間、又はその後に前処理されたセルロース性原料(または「基質」と呼ばれる)に加えられる。セルラーゼとスオレニンは、同時に又は加水分解につづいて加えることができる。長期間の加水分解では、追加のセルラーゼ及び/又はスオレニンが部分的に分解されたセルロース基質に加えられる。
【0059】
スオレニンは、スオレニンを天然に産生する微生物株から単離されても良い、しかし、遺伝子的に修飾された生物により産生されることが好ましい。スオレニンまたはその活性な断片をコードする遺伝子は、このタンパク質を過剰発現する強いプロモーターと機能的に連結している。その結果の遺伝子構造(つまり、核酸配列)は、スオレニンをコードする遺伝子の少なくとも一部を含み、異種又は同種の宿主細胞を形質転換するために使用され、宿主はその後、望むタンパク質を発現する条件下で培養される。組換えタンパク質の発現法は本技術分野で知られている。適した宿主細胞は、例えば、トリコデルマ属の種又はアスペルギルス属の種のような糸状菌及び酵母を含む。スオレニンを調製する好ましい方法は、プロモーターに機能的に連結しているスオレニンの一部又は全てをコードしているDNAの少なくとも断片を含むDNA構造体によりトリコデルマ属の種の宿主細胞を形質転換することによる。形質転換された宿主細胞は次に、望むタンパクを発現するような条件下で増殖される。
【0060】
スオレニンは、培地に分泌される細胞外タンパク質として産生されることが好ましく、この培地は直接にスオレニン源(例.液体培地として)として使用でき、または、タンパク質の分野で知られている方法を用いてさらにスオレニンを単離及び又は精製するために使用されても良い。または、スオレニンが細胞内のタンパク質として発現される場合には、この細胞は破砕され、続いて細胞内のスオレニンの単離及び/又は精製が行われる。
【0061】
セルロース分解活性がない条件でスオレニンタンパク質を得ることが望ましい場合、スオレニンをコードするDNA断片を含むDNA構造体又はプラスミドを導入する前に、例えば、1以上のセルラーゼ遺伝子が欠失されているトリコデルマ宿主細胞株を得ることが有用である。そのような株は米国特許第5,246,853号及びWO92/06209に開示されている方法(この開示は引用により明細書に組み込まれる)により調製されても良い。1以上のセルラーゼ遺伝子を欠いている宿主微生物にスオレニンを発現することにより、同定及びその後の精製が単純になる。しかし、本発明で使用するために、精製されたスオレニンからセルロース分解酵素を完全に除く必要はない。
【0062】
ある実施態様では、スオレニン又はその誘導体は、液体培地で増殖後、宿主細胞から活性な形態で回収される。スオレニンは適当な翻訳後の処理を含んでも良い。発現されたスオレニンは遠心分離、ろ過により培地から細胞を分離し、そして塩、例えば硫酸アンモニウムにより上澄液又はろ液中のタンパク質を沈殿させることを含む従来の技術により培地から回収できる。または、加えて、イオン交換クロマトグラフィーまたはアフィニティークロマトグラフィーのようなクロマトグラフ法を使用してよい。抗体(ポリクローナル又はモノクローナル)が、精製したスオレニン、精製したスオレニン断片、またはスオレニンの部分に対応する合成ペプチドに対して調製されても良い。
【0063】
いくつかの実施態様では、スオレニンタンパク質は、スオレニンタンパク質が天然に、それと組み合わされている他の成分または、スオレニンを発現するために使用される細胞の他の成分から単離または精製される。精製されたスオレニンは全ての他の成分を欠いている必要はない。しかし、天然の状態、培養培地、または分解された細胞で見出されるよりも他のタンパク質(及び/または他の成分)に対するスオレニンの比率は高い。精製は既知の分離技術、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性に基く分離、透析、プロテアーゼによる処理、硫酸アンモニウムによる又は別の塩による沈殿、遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、ろ過、精密ろ過、ゲル電気泳動、又は細胞全体、細胞の破片、不純物、最終組成物に必要でない他のタンパク質(酵素を含む)を除くためのグラジエントによる分離により達成できる。その後、スオレニン含有組成物に、他の利点を与える成分、例えば、活性化剤、抗阻害剤、イオン、pHを調整する化合物、又はセルラーゼのような他の酵素を加えることも可能である。
【0064】
加水分解性混合物へ加えるスオレニンの量は、処理を受けるバイオマスにより変わるが、通常、セルロース1gについて約0.1から約30mg、好ましくは、セルロース1gについて約2mgから約20mg、及びさらにセルロース1gについて約5mgから約15mgである。または、本発明で使用されるスオレニンの量はセルロース基質総量、総未処理又は前処理バイオマス量に基づいて決められる。スオレニンによる処理は約20から約80℃で行われ、約30℃から約50℃が好ましく、pHは約3から約10、好ましくは約4から約6で、約0.1から約24時間、好ましくは約2から約6時間、約1%から約30%の固体(乾燥)、好ましくは約15%から約25%の固体が加えられる。
【0065】
通常、酵素は、約5:1から約1:5のセルロース:スオレニンの比率で使用される。より好ましくは、酵素は約2:1から約1:2のセルロース:スオレニンの比率で使用される。酵素の相対的比率は、セルロース性基質のタイプにより変わり得る。いくつかの場合、スオレニンはセルロース性物質を処理する組成物中で、この組成物中のセルラーゼの量とほぼ等量である。ほぼ等量とは、酵素の約40−60%、例えば、約50%がスオレニンであることを意味する。水素結合に富む微結晶性セルロース性基質(つまり、軟材パルプ)は、比較的低水準の水素結合を有する非晶質の基質(つまり、リン酸スオレンセルロース)よりも多くのスオレニンを必要とするかもしれない。
【0066】
述べたように使用される混合セルラーゼ組成物は3個の相乗的セルロース分解活性を有しても良い。:エンド-1,4-β-D-グルカナーゼ、エキソ-1,4-β-グルコシダーゼ、及びβ-D-グルコシダーゼ活性である。これらの活性のそれぞれは、1以上のセルラーゼ酵素により与えられても良く、これは、本組成物及び方法において、プライマリーセルラーゼ(及びその活性)である。混合セルラーゼ組成物中のいずれのセルラーゼ酵素もこの3つのセルロース分解活性の1以上を与えることができる。プライマリーセルラーゼの例は、CBH1、CBH2、EG1、EG2、及びβ-グルコシダーゼを含む。このセルラーゼ組成物はタンパク質の水溶液、タンパク質の水のスラリー、固体粉末又は顆粒、またはゲルでも良い。セルラーゼ酵素を含有するブレンドは、緩衝剤、洗剤、安定化材、充填材又は、本技術分野の技術者に知られている他のそのような添加剤を含んでも良い。
【0067】
いくつかの実施態様では、本組成物と方法は、全セルラーゼ液体培地の場合のように、プライマリーセルラーゼまたはセルラーゼと組み合わせた追加のアクセサリー酵素(つまり、スオレニン以外)は必要としない。そのような追加のアクセサリー酵素はEG4、CIP1及びキシラナーゼを含む。従って、ある実施地様では、本組成物と方法は、EG4、CIP1、及び/またはキシラナーゼのようなアクセサリー酵素を含まないが、必ずスオレニンと1以上のプライマリーセルラーゼを含む。さらにある実施態様では、本組成物と方法はEG4とCIP1は含まないが、スオレニンと1以上のプライマリーセルラーゼを含むことが必須である。
【0068】
セルラーゼ及び/またはスオレニンは、微生物由来でも良いが、特に菌類又は細菌由来である。セルロース分解性能をもつ微生物はセルラーゼとスオレニンタンパク質の両者の起源であっても良い。いくつかの実施態様では、セルラーゼ及び/又はスオレニンはトリコデルマ属の種、特にトリコデルマ・レセイ(ロンギブラキアツム)に由来する。しかし、セルラーゼ及び/またはスオレニンはまた、菌類由来でもよい。例えば、アブシディア(Absidia spp)属の種、アクレモニウム属の種(Acremonium spp.)、アガリクス属の種(Agaricus spp.)、アネロマイセス属の種(Anaeromyces spp.)、及び、A・アウクレアツス(A.auculeatus)、A・アワモリ(A.awamori)、A・フラブス(A.flavus)、A・フェチダス(A.foetidus)、A・フマリクス(A.fumaricus)、A・フミガツス(A.fumigatus)、A・ニジュランス(A.nidulans)、A・ニゲル(A.niger)、A・オリゼ(A.oryzae)、A・テレウス(A.terreus)、A・ベルシカラー(A. versicolor)を含むアスペルギルス属の種(Aspergillus spp.)、アエウロバシディウム属の種(Aeurobasidium spp.)、セファロスポラム属の種(Cephalosporum spp.)、カエトミウム属の種(Chaetomium spp.)、クリソスポリウム属の種(Chrysosporium spp.)コプリヌス属の種(Coprinus spp.)、ダクチラム属の種(Dactyllum spp.)、及びF・コングロメランス(F.conglomerans)、F・デセムセルラーレ(F.decemcellulare)、F・ジャバニクム(F.javanicum)、F・リニ(F.lini)を含むフザリウム属の種(Fusarium spp.)、フォキシスポラム(Foxysporum)及びF.ソラニ(F.solani)、グリオクラディウム属の種(Gliocladium spp.)、H.インソレンス(H.insolens)とH.ラヌギノサ(H.lanuginosa)を含むフミコラ属の種(Humicola spp.)、ムコル属の種(Mucor spp.)、及びN・クラッサ(N.crassa)とN.シトフィラ(N.sitophila)、を含むニューロスポラ属の種(Neurospora spp.)、ネオカリマスチックス属の種(Neocallimastix spp.)、オルピノマイセス属の種(Orpinomyces spp.)、ペニシリウム属の種(Penicillium spp.)、ファネロカエテ属の種(Phanerochaete spp.)、フレビア属の種(Phlebia spp.)、ピロマイセス属の種(Piromyces spp.)、シュードモナス属の種(Pseudomonas spp.)、リゾパス属の種(Rhizopus spp.)、シゾフィラム属の種(Schizophyllum spp.)、トラメテス属の種(Trametes spp.)、及びT・レセイ(T.reesei)(ロンギブラキアツム)とT.ビリデ(T.viride)を含むトリコデルマ属の種(Trichoderma spp.)、ジゴリンクス属の種(Zygorhynchus spp.)由来でもよい。同様に、スオレニン及び/またはスオレニンをコードするDNAが、セルロース分解性細菌、例えばバシラス属の種(Bacillus spp.)、セルロモナス属の種(Cellulomonas spp.)、クロストリジウム属の種(Clostridium spp.)、マイセリオフトラ属の種(Myceliophthora spp.)、テルモモノスポラ属の種(Thermomonospora spp.)、S・オリボクロモゲネス (S.olivochromogenes) を含むストレプトマイセス属の種(Streptomyces spp.)、特にフィブロバクター・スクシノゲンズ(Fibrobacter succinogenes)のような繊維分解性の反芻細菌で、またカンジダ・トレシー(Candida torresii)、C・パラプスロシス(C.parapsllosis)、C・セーク(C.sake)、C・ゼイラノイデス(C.zeylanoides)、ピキア・ミヌタ(Pichia minuta)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、R・ムシラギノサ(R.mucilaginosa)、及びスポロボロマイセス・ホルサチクス(Sporobolomyces holsaticus)を含む酵母で見出されることが想定される。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本組成物と方法の種々の局面は以下の実施例(限定するものと解釈してはならない)を考慮するとさらに良く理解できよう。材料や方法の修飾は本技術分野の技術者には明らかであろう。
実施例
【0070】
以下の実施例は本組成物と方法を説明するために提供される。

実施例1:軟材のパルプに対するスオレニンの効果の評価
【0071】
試験ごとに0.1gのセルロースに相当する軟材のパルプが20mlのガラスのシンチレーションバイアルに加えられた。各バイアルには蒸留水が加えられて、総量が10mlから各試験に加えられる酵素量を差し引いた量とされた。各バイアルの内容物は、50℃±1℃に設定された恒温槽内で50℃に加温された。各バイアルへ1又は2mgのトリコデルマから得られたセルラーゼ組成物(つまり、SPEZYME(登録商標)CP、特異的活性=3200-4110IU/g;Genencor International, Inc., Palo Alto, CA, USA)が加えられ、最終セルラーゼ濃度が1gのセルロース当たり10mgのセルラーゼ又は1gのセルロース当たり20mgのセルラーゼ(表1に記載の通り)とされた。精製したスオレニンまたは、対照としてウシ血清アルブミン(BSA, Sigma)が、10mg/g セルロースの最終濃度となるように加えられた(表1)。スオレニンは、Saloheimoら(2000)Eur.J.Biochem.269:4202-11(下記、実施例5参照)に述べられた手順に従い調製、精製及び特徴付けられた。スオレニンタンパク質の濃度はゲル電気泳動で見積もられ、両調製物において約3mg/mlであった。
【0072】
これらのバイアルは蓋をされ、緩やかに回転(180RPM)されながら50℃で24時間保温された。分析のため一部が採取された。遠心分離により固体が除去された。上澄液はYSIグルコース分析器またはWaters Alliance HPLC システムの何れかを用いてグルコースが分析された。結果は表1と図1に示されている。スオレニンが加えられたとき、24時間でセルラーゼは軟材とPCS基質の両者についてグルコース濃度を高めた。同一のタンパク質総量(20mg)では、10mgのスオレニンは、10mgのセルラーゼを、本質的に置き換えることができた。対照タンパク質(BSA)は同一の効果を生じなかった。
【表1】


実施例2:スオレニンの基質選択性
【0073】
カルボキシメチルセルロース(CMC)、1%; ソルカフロカ(Solka Floc)(合成純粋結晶性セルロース)、1%;軟材(カッパ値=0);軟材(カッパ値=82);混合硬材(カッパ=81);軟材(カッパ=80);及び廃パルプ(カッパ=60);がスオレニンの添加時のグルコース産生の増加について試験を受けた。0.1gのセルロースに相当する量で各セルロース性基質が、各試験のため20mLガラスシンチレーションバイアルへ加えられた。0.1Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)、40μL(400μg)テトラサイクリン、及び30μL(300μg)シクロヘキシミドを含む5.0mLの溶液が各バイアルへ加えられた。各バイアルは蒸留水を加えて、各試験で加えられる酵素量を10mlから差し引いた総量とされた。各バイアルの内容物は50±1℃に設定した恒温槽で50℃にまで加温された。各バイアルへ、トリコデルマから得られた全セルラーゼ組成物(つまり、SPEZYME(登録商標)CP、特異的活性=3200−4110IU/g: Genencor International, Inc., Palo Alto, CA, USA)が加えられ、セルロース1グラム当たり20mgセルラーゼの最終セルラーゼ濃度とされた。加えて、β-グルコシダーゼが64pNPG U/gセルロースの最終濃度となるように加えられた。
【0074】
半精製スオレニンが10mg/gセルロースの最終濃度となるように加えられた(表1参照)。先のように、スオレニンはSaloheimoら(2002)Eur.J.Biochem.269:4202-11(下記、実施例5参照)に述べられた手順に従い調製、精製及び特徴付けられた。スオレニンタンパク質の濃度はゲル電気泳動により評価され、両調製物で約2mg/mlであった。
【0075】
バイアルは蓋をされ、50℃で24時間、緩やかに回転(180RPM)を受けながら保温された。一部が分析のため採取された。固体は遠心分離により除去された。上澄液がYSIグルコース分析機またはWaters Alliance HPLCシステムを用いてグルコースが分析された。結果が表2と図2Aと2Bに示されている。
【表2】

【0076】
より多くのグルコース糖が基質から遊離されたという観察から明らかなように、CMC又はソルカフロカのような合成基質と比較して、軟材や硬材のパルプのようなセルロース性基質を用いるとスオレニンの共存により、より多くの利益が得られた。この効果は、リグニン含量が0の基質(例.軟材パルプ、カッパ=0)よりも高いリグニン含量の基質(例.軟材パルプ、カッパ値=82)で一層明らかである。従って、スオレニンの添加は、特に処理の困難な基質(例えば、基質の前処理工程が最適化されず、リグニンの含量が高く、及び/又は基質中での水素結合がまだそのままであり、切断されていない)の場合により有利である。

実施例3:軟材パルプに対するセルラーゼの加水分解性能に対するスオレニンの効果の評価
【0077】
カッパ値82をもつ漂白を受けていない軟材パルプがSmurft Facture(Biganos,FR)から得られた。この未漂白パルプはクラフト法(Kraft process)から得られ、洗浄され、次いで空気乾燥された。各サンプルは10mlの反応混合物に乾燥量で4%のセルロース(グルカン)を含有する最終組成物を与えるように調製された。酵素が20mlのシンチレーションバイアル中のサンプル基質に加えられ(表2に記載されているように)総液量は10mlとされた。これは、50mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)と抗生物質(テトラサイクリンとシクロヘキサミド)を含んでいた。トリコデルマから得られた全セルラーゼ組成物(つまり、SPEZYME(登録商標)CP、Genencor International, Inc., Palo Alto, CA, USA)が酵素加水分解実験でセルラーゼ源として使用された。SPEZYME CPの特異的活性は3200−4110IU/gである。
【0078】
上澄液が穏やかに振とう(180rpm)されながら50℃で72時間保温された。グルコース含量の分析は標準的手順に従い24及び72時間後に行われた。結果が表3と図3に示されている。
【表3】


実施例4:パルプ及び紙基質に対するスオレニンの使用量の曲線
【0079】
未漂白の軟材パルプの2個のサンプルがSmurft Facture(Biganos, FR)から得られた。1個(「高リグニン」と呼ぶ)はリグニン含量が高く(〜15%)、82のカッパ値(リグニン化の程度)を有した。2番目(「低リグニン」と呼ぶ)は低いリグニン含量(〜5%)と12のカッパ値(リグニン化の程度)を有した。未漂白パルプはクラフト法により得られ、洗浄、風乾された。各サンプルは10ml容量の反応混合物中に乾燥重量で4%のセルロース(グルカン)を含有する最終組成物が得られるよう秤量された。
【0080】
使用された軟材パルプは、各サンプルが乾燥重量で正確に0.4gのセルロース(グルカン)を含むように秤量され、表3に示されるように使用された。酵素が20mlのシンチレーションバイアル中のサンプル基質へ加えられ、総液体量が10mLとされた。これは、50mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)と抗生物質(テトラサイクリンとシクロヘキサアミド)を含んでいた。トリコデルマ・レセイの遺伝子的に修飾を受けた株から産生されたセルラーゼ酵素複合体(つまり、Accellerase 1000(商標)、Genencor)が酵素加水分解試験のセルラーゼ源として使用された。スオレニンは、上記及び実施例5で述べられているように、精製された調製物として使用された。スオレニンの濃度はゲル電気泳動に基づき約2mg/mlと見積もられた。精製抽出物はセルラーゼ活性をもたないことが分かっている。固体量は、総液量10mL中、0.4gのセルロースであり、4%セルロース(グルカン)に当たる。
【0081】
反応混合物は50℃で72時間穏やかに振とうしながら保温された。グルコースとセロビオース濃度の分析はWaters HPLC システム(Alliance system, Water Corp., Milford, MA)を用いて行われた。糖の分析に使用されるHPLCカラムはBioRad(Aminex HPX-87H, BioRad Inc., Hercules, CA)から購入された。グルコースとセロビオース両者の産生が測定された。セルロース分解のパーセント(産生されたグルコースと産生されたセロビオースを投入したセルロースで割る)が表4と図4にまとめられている。同一の総タンパク質量(30mg)の条件では、スオレニンは、本質的にSpezyme CP(表3)のセルラーゼの50%を置き換えることができる。スオレニンをACCELLERASEに加えると低及び高リグニン基質の両者で有益な効果が得られる(表4)。
【表4】


実施例5:スオレニンの精製
【0082】
撹拌しながら、緩衝液(50mM Tris,pH7.0)と塩化ナトリウム(200mM)が、cbh1プロモーターの制御の下スオレニンを過剰に発現するよう、遺伝子工学的に操作されたT・レセイ株(4個の主要なセルラーゼ(CBH1、CBH2、EG1及びEG2)が欠失している)の培地の2Lの限外ろ過濃縮液(UFC)に加えられた。pHはpH7.0に調整された。この混合液に50mLのセルロース結合ドメイン(CBD)アフィニティー精製剤(つまり、Cbind 200樹脂、Part No. 70121, Novozymes A/S, Bagsvaerd, DK)が加えられ、その後1時間混合された。この混合物は、次にシンタードグラスのろ過器でろ過され、吸着されていない物質が収集された。スオレニンが結合した樹脂は2Lの50mM Tris, pH7.0と200mM塩化ナトリウムを用いて2度洗浄された。スオレニンはスオレニンが結合した樹脂をMilliQ水(2L)と0.5時間混合し、この混合物をシンタードグラスのろ過器で2Lの受器にろ過することにより溶出された。この水-溶出法は、確実にスオレニンが完全に溶出されるように繰り返された。
【0083】
溶出液は10KMWをカットオフする限外ろ過システムを用いて濃縮された。濃縮液(800mL)は、分析とさらなる使用が容易にできる。スオレニンのタンパク質濃度はゲル電気泳動に基づき約3mg/mlと見積もられた。精製前の抽出物は有意なセルラーゼ活性を持たないことが知られていることに留意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルラーゼを用いたセルロース加水分解の効率を上昇させる方法であって、
(a) セルロース性基質、セルラーゼ組成物及び組換えスオレニンを組み合わせ、そして
(b) セルロースの加水分解を行う条件下で、セルロース性基質、セルラーゼ組成物、及びスオレニンを定温反応させることを含み、
組換えスオレニンの存在により、スオレニンが存在しない場合にセルラーゼ組成物を用いて得られるものと比べて、当該セルラーゼ組成物によるセルラーゼ加水分解の効率が上昇する、方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、セルラーゼ組成物は全セルラーゼ組成物である方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、当該セルラーゼ組成物が混合セルラーゼ組成物である方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、当該セルラーゼ組成物がエンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びβ-グルコシダーゼを含むものである方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、当該セルラーゼ組成物は1以上のプライマリーセルラーゼを含むものである方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、当該セルラーゼ組成物が、主として1以上のプライマリーセルラーゼからなるものである方法。
【請求項7】
請求項5又は6の方法であって、当該プライマリーセルラーゼがCBH1、CBH2、EG1、EG2及びβ-グルコシダーゼから選択されるものである方法。
【請求項8】
請求項1−7のいずれかの請求項の方法であって、スオレニン以外のアクセサリー酵素がない条件で行われる方法。
【請求項9】
請求項1−7のいずれかの請求項の方法であって、EG4とCIP1がない条件で行われる方法。
【請求項10】
請求項1−7のいずれかの請求項の方法であって、組換えEG4または組換CIP1がない条件で行われる方法。
【請求項11】
請求項1−10のいずれかの請求項の方法であって、当該セルラーゼ組成物中のセルラーゼのスオレニンに対する比率(重量:重量)は約20:1乃至約1:5である方法。
【請求項12】
請求項1−10のいずれかの請求項の方法であって、当該セルラーゼ組成物中におけるセルラーゼのスオレニンに対する比率(重量:重量)は約10:1乃至約1:2である方法。
【請求項13】
請求項1−10のいずれかの請求項の方法であって、当該セルラーゼ組成物中のセルラーゼのスオレニンに対する比率(重量:重量)が約5:1乃至約1:1.5である方法。
【請求項14】
請求項1−10のいずれかの請求項の方法であって、当該スオレニンとセルラーゼがほぼ等量(重量:重量)で存在する方法。
【請求項15】
請求項1−14のいずれかの請求項の方法であって、当該セルロース性基質が、木材、木材パルプ、製紙のヘドロ、製紙用パルプの廃液、削片板、トウモロコシの茎、トウモロコシの繊維、コメ、紙及びパルプ加工廃棄物、木本又は草本性植物、草、籾殻、綿の木の茎、トウモロコシの穂軸、蒸留所の穀粒(distillers grain)、葉、小麦のワラ、ココナッツの毛、スイッチグラス(switchgrass)、及びそれらの混合物からなる群から選択されるものである方法。
【請求項16】
請求項1−14の方法であって、セルロース性基質が軟材である方法。
【請求項17】
請求項1−14または16のいずれかの請求項の方法であって、当該セルロース性基質が高リグニン含有の基質である方法。
【請求項18】
請求項1−14、16または17のいずれかの請求項の方法であって、当該セルロース性基質が80以上のカッパナンバーを有する方法。
【請求項19】
請求項1−18のいずれかの請求項の方法であって、セルラーゼの効率の当該パーゼントの増大が少なくとも約10%である方法。
【請求項20】
(a) エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及びβ-グルコシダーゼを含む混合セルラーゼ組成物、と
(b) 組換えスオレニン
を含む酵素組成物。
【請求項21】
請求項20の組成物であって、当該組成物がEG4もCIP1も含有しない組成物。
【請求項22】
請求項20の組成物であって、当該組成物は、組換えEG4も組換えCIP1も含有しない組成物。
【請求項23】
請求項20の組成物であって、当該組成物は組換えEG4を含有せず、かつ組換えCIP1を含有しない組成物。
【請求項24】
請求項20−23のいずれかの請求項の組成物であって、当該混合セルラーゼ組成物が主としてプライマリーセルラーゼを含む組成物。
【請求項25】
(a) エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びβ-グルコシダーゼを含有する混合セルラーゼ組成物、と
(b) 組換えスオレニン
を主として含む酵素組成物。
【請求項26】
請求項20−25のいずれかの請求項の組成物であって、当該混合セルラーゼ組成物中のセルラーゼのスオレニンに対する比率(重量:重量)が、約20:1と約1:5の間である組成物。
【請求項27】
請求項20−25のいずれかの請求項の組成物であって、当該混合セルラーゼ組成物中のセルラーゼのスオレニンに対する比率(重量:重量)が、約10:1と約1:2の間である組成物。
【請求項28】
請求項20−25のいずれかの請求項の組成物であって、当該混合セルラーゼ組成物中のセルラーゼのスオレニンに対する比率(重量:重量)が、約5:1と約1:1.5の間である組成物。
【請求項29】
請求項20−25のいずれかの請求項の組成物であって、当該スオレニンとセルラーゼがほぼ等量(重量:重量)で含有される組成物。
【請求項30】
請求項20−25のいずれかの請求項の組成物であって、セルロース性基質に対するセルラーゼの効率に関し、当該組成物中のスオレニンの量(重量:重量)は、当該組成物中のほぼ等量のセルラーゼ(重量:重量)を置き換えるものである組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−518576(P2011−518576A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507611(P2011−507611)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/042102
【国際公開番号】WO2009/134878
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(509240479)ダニスコ・ユーエス・インク (81)
【Fターム(参考)】