説明

セルロースアシレートフィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】高湿高温下でもブリードアウトが抑制され、かつ光学特性の湿度依存性が少ないセルロースアシレートフィルムを提供すること。
【解決手段】下記セルロースアセテート(A)と下記セルロースアシレート(B)とを、セルロースアセテート(A)/セルロースアシレート(B)が質量比で90/10〜40/60の範囲内で混合して得られる、アシル基の全置換度が2.6〜2.95であり、アセチル基の置換度が2.2〜2.9であり、かつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.05〜0.40であるセルロースアシレートと、
該セルロースアシレートに対して30〜65質量%の可塑剤とを含有するセルロースアシレートフィルム。
セルロースアセテート(A):アセチル基の置換度が2.7〜2.95であるセルロースアセテート
セルロースアシレート(B):アシル基の全置換度が2.0〜2.9でありかつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.3〜1.9であるセルロースアシレート

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルム、偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースアシレートフィルムはその強靭性と難燃性から写真用支持体や各種光学材料に用いられてきた。特に、近年は液晶表示装置用の光学透明フィルムとして多く用いられている。セルロースアシレートフィルムは、光学的に透明性が高いことと、光学的に等方性が高いことから、液晶表示装置のように偏光を取り扱う装置用の光学材料として優れており、これまで偏光子の保護フィルムや、斜め方向からの見た表示を良化(視野角補償)できる光学補償フィルムとして用いられてきた。
【0003】
セルロースアシレートを光学フィルムとして使用する場合の多くは光学性能や力学物性の観点から可塑剤を添加した状態で使用される。可塑剤はセルロースアシレート(綿)に対して10〜20質量%程度添加されることが一般的である。
しかし、例えば、液晶表示装置の光学補償フィルムなどとして望まれる光学性能や力学物性は多様化しており、可塑剤をより多く入れることで様々な機能性を発揮することが必要となってきている。特に高温、高湿環境下でもブリードアウト(泣き出し)がなく、かつ、光学特性の湿度依存性がないセルロースアシレートフィルムが求められている。
セルロースアシレートの湿熱耐久性や光学特性の湿度依存性を向上させようとする場合、アセチル基の置換度を上げ、疎水的な可塑剤をより多く入れることで疎水化する方法があるが、セルロースアセテート自体が親水的であるため疎水的な可塑剤を一定量以上入れるとフィルム製膜時や湿度や熱に一定期間曝されつづけた場合(湿熱経時)にブリードアウトが発生して白化してしまうため必要量の可塑剤を入れることができない。
【0004】
特許文献1にはアシル基の種類と置換度を特定の範囲に制御したセルロースアシレートを用いたフィルムが記載されている。
また、特許文献2にはアセチル置換度が高いセルロースアシレートを用いたフィルムが記載されている。
しかし、特許文献1及び2に記載のセルロースアシレートフィルムでは、湿熱耐久性(ブリードアウトの抑制)の向上と光学特性の湿度依存性の向上を両立することはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−105129号公報
【特許文献2】特許第3829902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高湿高温下でもブリードアウトが抑制され、かつ光学特性の湿度依存性が少ないセルロースアシレートフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、上記課題は以下の構成によって解決されることを見出した。
【0008】
1.
下記セルロースアセテート(A)と下記セルロースアシレート(B)とを、セルロースアセテート(A)/セルロースアシレート(B)が質量比で90/10〜40/60の範囲内で混合して得られる、アシル基の全置換度が2.6〜2.95であり、アセチル基の置換度が2.2〜2.9であり、かつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.05〜0.40であるセルロースアシレートと、
該セルロースアシレートに対して30〜65質量%の可塑剤とを含有するセルロースアシレートフィルム。
セルロースアセテート(A):アセチル基の置換度が2.7〜2.95であるセルロースアセテート
セルロースアシレート(B):アシル基の全置換度が2.0〜2.9でありかつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.3〜1.9であるセルロースアシレート
2.
前記可塑剤が、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸の少なくとも一方と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールとを含む混合物から得られ、両末端がヒドロキシル基である重縮合エステルである、上記1に記載のセルロースアシレートフィルム。
3.
前記可塑剤が、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸の少なくとも一方と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールと、モノカルボン酸とを含む混合物から得られ、両末端がモノカルボン酸エステル誘導体からなる重縮合エステルである、上記1に記載のセルロースアシレートフィルム。
4.
更に、可塑剤として、含窒素芳香族化合物を含有する、上記2又は3に記載のセルロースアシレートフィルム。
5.
前記含窒素芳香族化合物の含有量が前記セルロースアシレートに対して20質量%以下である、上記4に記載のセルロースアシレートフィルム。
6.
前記炭素数3〜6のアシル基がプロピオニル基及びブチリル基から選ばれる少なくとも1種である、上記1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
7.
前記セルロースアセテート(A)と前記セルロースアシレート(B)の混合比が質量比で(A)/(B)=90/10〜50/50である、上記1〜6のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
8.
偏光膜と少なくとも1つの保護フィルムとを含む偏光板であって、該少なくとも1つの保護フィルムが上記1〜7のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムである偏光板。
9.
上記1〜7のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム、又は上記8に記載の偏光板を有する液晶表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれは、高湿高温下でもブリードアウトが抑制され、かつ光学特性の湿度依存性が少ないセルロースアシレートフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、下記セルロースアセテート(A)と下記セルロースアシレート(B)とを、セルロースアセテート(A)/セルロースアシレート(B)が質量比で90/10〜40/60の範囲内で混合して得られる、アシル基の全置換度が2.6〜2.95であり、アセチル基の置換度が2.2〜2.9であり、かつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.05〜0.40であるセルロースアシレートと、
該セルロースアシレートに対して30〜65質量%の可塑剤とを含有するセルロースアシレートフィルムに関する。
セルロースアセテート(A):アセチル基の置換度が2.7〜2.95であるセルロースアセテート
セルロースアシレート(B):アシル基の全置換度が2.0〜2.9でありかつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.3〜1.9であるセルロースアシレート
【0011】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0012】
[セルロースアシレート]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記セルロースアセテート(A)と下記セルロースアシレート(B)とを、セルロースアセテート(A)/セルロースアシレート(B)が質量比で90/10〜40/60の範囲内で混合して得られる、アシル基の全置換度が2.6〜2.95であり、アセチル基の置換度が2.2〜2.9であり、かつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.05〜0.40であるセルロースアシレートを含有する。
セルロースアセテート(A):アセチル基の置換度が2.7〜2.95であるセルロースアセテート
セルロースアシレート(B):アシル基の全置換度が2.0〜2.9でありかつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.3〜1.9であるセルロースアシレート
【0013】
(セルロースアシレート原料綿)
本発明に用いられるセルロースアシレートの原料であるセルロースとしては、綿花リンターや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0014】
(セルロースアシレートの置換度)
本発明に用いられるセルロースアシレートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素数が2のアセチル基、及び炭素数3〜6のアシル基である。また、炭素数7から22のアシル基を更に有していてもよい。
本発明において、セルロースアシレートにおけるセルロースの水酸基へのアシル基の置換度については、アシル基の全置換度が2.6〜2.95であり、アセチル基の置換度が2.2〜2.9であり、かつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.05〜0.40である。
置換度は、セルロースの水酸基に置換する酢酸、及び炭素数3〜6の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって算出することができる。測定方法としては、ASTM D−817−91に準じて実施することができる。
【0015】
本発明においては、セルロースアシレートのアシル基の全置換度が2.6〜2.95であり、2.7〜2.92であることが好ましく、2.8〜2.92であることがより好ましい。
アシル基の全置換度が2.6以上であれば透湿性や含水率の点で優れ、アシル置換度が2.95以下であれば製膜用ドープにする際の溶剤への溶解性の点で優れたセルロースアシレートとすることができ好ましい。
【0016】
セルロースアシレートのアセチル基の置換度が2.2〜2.9であり、2.4〜2.85であることが好ましい。
アセチル基の置換度が2.2以上であれば透湿性や含水率の点で優れ、アセチル基の置換度が2.9以下であれば光学性能の点で優れたセルロースアシレートフィルムとすることができ好ましい。
【0017】
セルロースアシレートにおける炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.05〜0.40であり、0.10〜0.30であることが好ましい。
炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.05以上であれば光学性能の湿度依存性やブリードアウトの抑制の点で優れ、炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.4以下であればフィルムの透明性の点で優れたセルロースアシレートフィルムとすることができ好ましい。
【0018】
セルロースの水酸基に置換する炭素数3〜6のアシル基は、1種でも2種類以上の混合物でもよい。このようなアシル基が置換したセルロースアシレートとしては、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、又はアルケニルカルボニルエステルなどであり、それぞれ更に置換された基を有していてもよい。
炭素数3〜6のアシル基としては、プロピオニル基、ブタノイル基(ブチリル基)、i−ブタノイル基、t−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基などを挙げることができ、好ましくはプロピオニル基、又はブタノイル基である。
【0019】
本発明に用いられるセルロースアシレートは炭素数7から炭素数が22のアシル基を更に有していてもよい。セルロースの水酸基に置換してもよい炭素数7から炭素数が22のアシル基としては、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基でもよく、1種でも2種類以上の混合物でもよい。このようなアシル基が置換したセルロースアシレートとしては、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、又は芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれ更に置換された基を有していてもよい。
炭素数7〜22のアシル基としては、へプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。
【0020】
(セルロースアシレートの重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700が好ましく、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が該上限値以下であれば、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなりすぎることがなく流延によるフィルム作製が容易にできるので好ましい。重合度が該下限値以上であれば、作製したフィルムの強度が低下するなどの不都合が生じないので好ましい。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定できる。この方法は特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
【0021】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜4.0であることが更に好ましく、2.3〜3.4であることが最も好ましい。
また、セルロースアシレートの数平均分子量Mnは、4×10〜30×10であることが好ましく、6×10〜10×10であることがより好ましい。
【0022】
更にセルロースアシレートの低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。
なお、低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量部に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量部分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
【0023】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造時に使用される際には、セルロースアシレートの含水率は、2質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1質量%以下であり、特には0.7質量%以下の含水率を有するセルロースアシレートである。一般に、セルロースアシレートは水を含有しており、含水率2.5〜5質量%程度が知られている。本発明でセルロースアシレートの好ましい含水率にするためには、乾燥することが必要であり、その方法は目的とする含水率になれば特に限定されない。これらのセルロースアシレートは、その原料綿や合成方法は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて7頁〜12頁に詳細に記載されている。
【0024】
本発明においてセルロースアシレートは、1種又は異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合して用いることができる。
【0025】
本発明におけるセルロースアシレートは、アセチル基の置換度が2.7〜2.95であるセルロースアセテート(A)と、アシル基の全置換度が2.0〜2.9であり、かつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.3〜1.9であるセルロースアシレート(B)との混合物である。これにより得られるセルロースアシレートフィルムのヘイズを低くすることができるため好ましい。
【0026】
前記セルロースアセテート(A)において、透湿性や含水率の観点から、アセチル基の置換度は2.7〜2.95であることが好ましく、2.8〜2.95であることがより好ましい。
また、前記セルロースアセテート(A)において、透湿性や含水率の観点から、アシル基の全置換度は2.7〜2.95であり、2.8〜2.95であることが好ましい。
【0027】
前記セルロースアシレート(B)において、セルロースアセテート(A)との相溶性の観点から、炭素数3〜6のアシル基の置換度は0.3〜1.9であり、0.5〜1.5であることが好ましい。
炭素数3〜6のアシル基としては、プロピオニル基、ブタノイル基、i−ブタノイル基、t−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基などを挙げることができ、好ましくはプロピオニル基、又はブタノイル基である。
前記セルロースアシレート(B)において、光学性能の湿度依存性とセルロースアセテート(A)との相溶性の観点から、アシル基の全置換度は2.0〜2.9であり、2.3〜2.8であることが好ましい。
【0028】
泣き出しの抑制効果と光学性能の湿度依存性、偏光板形態に加工した際の湿熱耐久性の観点から、前記セルロースアセテート(A)とセルロースアシレート(B)の混合比は、質量比で(A)/(B)=90/10〜40/60であり、90/10〜50/50であることが好ましく、80/20〜60/40であることがより好ましい。
【0029】
前記のとおり、セルロースアセテート(A)とセルロースアシレート(B)の混合物である混合後のセルロースアシレートのアシル基の全置換度は2.6〜2.95であり、2.7〜2.92であることが好ましい。
セルロースアセテート(A)とセルロースアシレート(B)の混合物である混合後のセルロースアシレートのアセチル基の置換度は2.2〜2.9であり、2.4〜2.85であることが好ましい。
セルロースアセテート(A)とセルロースアシレート(B)の混合物である混合後のセルロースアシレートの炭素数3〜6のアシル基の置換度は0.05〜0.40であり、0.10〜0.30であることが好ましい。
2種以上のセルロースアシレートの混合物のアシル基の置換度は混合される各セルロースアシレートのアシル基の質量平均として算出することができる。本発明におけるアシル基の置換度の測定方法としては、ASTM D−817−91に準じて実施することができる。
【0030】
[可塑剤]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記セルロースアシレートに対して30〜65質量%の可塑剤を含有する。
【0031】
本発明のセルロースアシレートフィルムに用いることのできる可塑剤としては特に限定されないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステルオリゴマー系可塑剤、糖エステル系可塑剤、含窒素芳香族化合物系可塑剤、エチレン性不飽和モノマー共重合体系可塑剤などが挙げられる。
好ましくはフタル酸エステル系化合物、多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステルオリゴマー系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、糖エステル系可塑剤、含窒素芳香族化合物系可塑剤であり、より好ましくはポリエステルオリゴマー系可塑剤である。
特にポリエステルオリゴマー系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤と糖エステル系可塑剤はセルロースアシレートとの相溶性が高く、ブリードアウト低減、低ヘイズ及び低透湿度の効果が高く、また温湿度変化や経時による可塑剤の分解及びフィルムの変質や変形が生じ難いため、好ましい。同様な観点で、更には、ポリエステルオリゴマー系可塑剤及び糖エステル系可塑剤が好ましく、特にポリエステルオリゴマー系可塑剤が好ましい。
【0032】
本発明において、可塑剤は1種のみで用いてもよいし、2種以上を混合して使用することもできる。
【0033】
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいて、可塑剤の含有量は、セルロースアシレートに対して30〜65質量%であり、光学性能の湿度依存性とブリードアウトの観点から、40〜60質量%であることが好ましく、45〜55質量%であることがより好ましい。
【0034】
(リン酸エステル系可塑剤)
リン酸エステル系可塑剤としては特に限定されないが、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート(BDP)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートなどが挙げられる。
【0035】
(フタル酸エステル系可塑剤)
フタル酸エステル系可塑剤としては特に限定されないが、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、メチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレートなどが挙げられる。
【0036】
(グリコレート系可塑剤)
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0037】
(多価アルコールエステル系可塑剤)
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0038】
本発明に好ましく用いることのできる多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。
特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0039】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースアシレートとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基或いはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量がこの範囲であると、低揮散で、透湿性、セルロースアシレートとの相溶性も良好であって好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化されていてもよいし、一部がOH基のまま残っていてもよい。
【0040】
(ポリエステルオリゴマー系可塑剤)
本発明におけるポリエステルオリゴマーは、ジオールとジカルボン酸とから、例えば、混合して得られる重縮合体である。
ポリエステルオリゴマーの数平均分子量は800〜5000であることが好ましく、850〜3000がより好ましく、900〜2000が更に好ましく、900〜1250が特に好ましい。ポリエステルオリゴマーの数平均分子量は800以上であれば揮発性が低くなり、セルロースアシレートフィルムの延伸時の高温条件下における揮散によるフィルム故障や工程汚染を生じにくくなる。また、2500以下であればセルロースアシレートとの相溶性が高くなり、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。
ポリエステルオリゴマーの数平均分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することができる。
例えば、カラム(東ソー(株)製 TSKgel Super HZM−H、TSKgel Super HZ4000及びTSKgel Super HZ2000)の温度を40℃として、溶離液としてTHFを用い、流速を0.35ml/minとし、検出をRI、注入量を10μl、試料濃度を1g/lとし、また標準試料としてポリスチレンを用いて行うことができる。
【0041】
ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらジカルボン酸は、ポリエステルオリゴマー中には、ジオール残基とのエステル結合するジカルボン酸残基として含まれる。
【0042】
(芳香族ジカルボン酸残基)
芳香族ジカルボン酸残基は、ジオールと芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合体に含まれる。
芳香族ジカルボン酸残基とはポリエステルオリゴマーの部分構造で、ポリエステルオリゴマーを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−COーである。
本発明に用いるポリエステルオリゴマーを構成する全ジカルボン酸残基中の芳香族ジカルボン酸残基比率は特に限定されないが、40mol%〜100mol%であることが好ましく、45mol%〜70mol%であることがより好ましく、50mol%〜70mol%であることが更に好ましい。
芳香族ジカルボン酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られる。また、芳香族ジカルボン酸比率が低くなるとセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0043】
本発明に用いる芳香族ジカルボン酸は、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。
ポリエステルオリゴマーには混合に用いた芳香族ジカルボン酸により芳香族ジカルボン酸残基が形成される。
芳香族ジカルボン酸は、平均炭素数が8.0〜12.0であることが好ましく、8.0〜10.0であることがより好ましく、8.0であることが更に好ましい。この範囲であれば、セルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいため好ましい。また、光学用途として光学補償フィルムに用いるに適した異方性を十分に発現し得るセルロースアシレートフィルムとすることができるため好ましい。
具体的には、芳香族ジカルボン酸は、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸の少なくとも1種を含むことが好ましく、より好ましくはフタル酸、テレフタル酸の少なくとも1種を含み、更に好ましくはテレフタル酸を含む。
すなわち、ポリエステルオリゴマーの形成における混合に、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を用いることで、よりセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいセルロースアシレートフィルムとすることができる。また、芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
フタル酸とテレフタル酸の2種の芳香族ジカルボン酸を併用することにより、常温でのポリエステルオリゴマーを軟化することができ、ハンドリングが容易になる点で好ましい。
ポリエステルオリゴマーを構成する全ジカルボン酸残基中のテレフタル酸残基の含有量は特に限定されないが、40mol%〜95mol%であることが好ましく、40mol%〜70mol%であることがより好ましく、45mol%〜60mol%であることが更に好ましい。
テレフタル酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られる。また、95mol%以下であればセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0044】
(脂肪族ジカルボン酸残基)
脂肪族ジカルボン酸残基は、ジオールと脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合体に含まれる。
本明細書中では、脂肪族ジカルボン酸残基とはポリエステルオリゴマーの部分構造で、ポリエステルオリゴマーを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−COーである。ここでRは2価の炭化水素基を表す。
本発明で好ましく用いられる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
重縮合体には混合に用いた脂肪族ジカルボン酸より脂肪族ジカルボン酸残基が形成される。
脂肪族ジカルボン酸残基は、平均炭素数は特に限定されないが、4.0〜6.0であることが好ましく、4.0〜5.0であることがより好ましく、4.0〜4.8であることが更に好ましい。この範囲であれば、セルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいため好ましい。
具体的には、コハク酸残基を含むことが好ましく、2種用いる場合は、コハク酸残基とアジピン酸残基を含むことが好ましい。
すなわち、ポリエステルオリゴマーの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよく、2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。
コハク酸とアジピン酸の2種の脂肪族ジカルボン酸を用いることにより、ジオール残基の平均炭素数を少なくすることができ、セルロースアシレートとの相溶性の点で好ましい。
また、脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数が4.0未満では合成が困難となるため、使用できない。
【0045】
(ジオール)
ジオール残基は、ジオールとジカルボン酸とから得られたポリエステルオリゴマーに含まれる。
本明細書中では、ジオール残基とはポリエステルオリゴマーの部分構造で、ポリエステルオリオゴマーを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジオールHO−R−OHより形成されるジカルボン酸残基は−O−R−Oーである。ここでRは2価の炭化水素基を表す。
ポリエステルオリゴマーを形成するジオールとしては芳香族ジオール及び脂肪族ジオールが挙げられ、特に限定はされないが、脂肪族ジオールが好ましい。
ポリエステルオリゴマーのジオールは特に限定はされないが、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオール残基を含むことが好ましく、より好ましくは平均炭素数が2.0以上2.8以下であり、更に好ましくは平均炭素数が2.0以上2.5以下の脂肪族ジオール残基である。脂肪族ジオール残基の平均炭素数が3.0より大きいとセルロースアシレートとの相溶性が低く、ブリードアウトが生じやすくなり、また、化合物の加熱減量が増大し、セルロースアシレートェブの乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生する。また、脂肪族ジオール残基の平均炭素数が2.0未満では合成が困難となるため、使用できない。
本発明に用いられる脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール等があり、これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0046】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールの少なくとも1種であり、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールの少なくとも1種である。2種用いる場合は、エチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールを用いることが好ましい。
ポリエステルオリゴマーには混合に用いたジオールによりジオール残基が形成される。
ジオール残基はエチレングリコール残基、1,2−プロパンジオール残基、及び1,3−プロパンジオール残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコール残基又は1,2−プロパンジオール残基であることがより好ましい。
脂肪族ジオール残基のうち、エチレングリコール残基が20mol%〜100mol%であることが好ましく、50mol%〜100mol%であることがより好ましい。
【0047】
(封止)
本発明のポリエステルオリゴマーの両末端は封止、未封止を問わないが、より好ましくは封止しているものである。
ポリエステルオリゴマーの両末端が未封止の場合、重縮合体はポリエステルポリオール(末端がヒドロキシル基)であることが好ましい。
ポリエステルオリゴマーの両末端が封止されている場合、モノカルボン酸と反応させて封止することが好ましい。このとき、該重縮合体の両末端はモノカルボン酸残基となっている。
本明細書中では、モノカルボン酸残基とはポリエステルオリゴマーの部分構造で、ポリエステルオリゴマーを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばモノカルボン酸R−COOHより形成されるモノカルボン酸残基はR−CO−である。モノカルボン酸封止は芳香族モノカルボン酸、脂肪族カルボン酸のどちらを用いても良い。
モノカルボン酸封止の種類は特に限定はされないが、好ましくは脂肪族モノカルボン酸残基であり、炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸残基であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸残基であることが更に好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
ポリエステルオリオゴマーの両末端のモノカルボン酸残基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、重縮合体の加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することが可能である。
例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。
封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
本発明のポリエステルオリゴマーの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止が好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基(アセチル残基と称する場合がある)となることが最も好ましい。
両末端を封止した場合は常温での状態が固体形状となりにくく、ハンドリングが良好となり、また湿度安定性、偏光板耐久性に優れたセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0048】
本発明に係るポリエステルオリゴマーの合成は、常法によりジオールとジカルボン酸とのポリエステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、本発明に係るポリエステルオリゴマーについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0049】
本発明のポリエステルオリゴマーが含有する原料の脂肪族ジオール、ジカルボン酸エステル、又はジオールエステルのセルロースアシレートフィルム中の含有量は、1質量%未満が好ましく、0.5質量%未満がより好ましい。ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、アジピン酸ジ(ヒドロキシエチル)、コハク酸ジ(ヒドロキシエチル)等が挙げられる。ジオールエステルとしては、エチレンジアセテート、プロピレンジアセテート等が挙げられる。
【0050】
ポリエステルオリゴマーの水酸基価の測定は、日本工業規格 JIS K3342(廃止)に記載の無水酢酸法当を適用できる。ポリエステルオリゴマーがポリエステルポリオールである場合は、水酸基価が55以上220以下であることが好ましく、100以上140以下であることが更に好ましい。
【0051】
(糖エステル系可塑剤)
糖エステル系可塑剤で好ましいものとしては、フラノース構造又はピラノース構造を1個以上12個以下有する化合物中の水酸基の少なくとも1つをエステル化したエステル化合物が挙げられる。
【0052】
フラノース構造又はピラノース構造を1個以上12個以下有する化合物中の水酸基の少なくとも1つをエステル化したエステル化合物としては、
フラノース構造又はピラノース構造を1個有する化合物(化合物(A1))中の水酸基の全て若しくは一部をエステル化したエステル化化合物
フラノース構造又はピラノース構造の少なくとも1種を2個以上12個以下結合した化合物(化合物(B1))中の水酸基の全て若しくは一部をエステル化したエステル化化合物が挙げられる。
以下、化合物(A1)のエステル化化合物、及び化合物(B1)のエステル化化合物を総称して、糖エステル化合物とも称す。
また、前記エステル化化合物が単糖類(α−グルコース、β−フルクトース)の安息香酸エステル、若しくは下記一般式(5)で表される単糖類の−OR512、−OR515、−OR522、−OR525の任意の2つ以上が脱水縮合して生成したm+n=2〜12の多糖類の安息香酸エステルであることが好ましい。
【0053】
【化1】

【0054】
前記一般式中の安息香酸は更に置換基を有していてもよく、例えばアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基が挙げられ、更にこれらのアルキル基、アルケニル基、フェニル基は置換基を有していてもよい。
好ましい化合物(A1)及び化合物(B1)の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
化合物(A1)の例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、或いはアラビノースが挙げられる。
化合物(B1)の例としては、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース或いはケストース挙げられる。このほか、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
これらの化合物(A1)及び化合物(B1)の中で、特にフラノース構造とピラノース構造を両方有する化合物が好ましい。例としてはスクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。また、化合物(B1)において、フラノース構造若しくはピラノース構造の少なくとも1種を2個以上3個以下結合した化合物であることも、好ましい態様の1つである。
【0055】
本発明における化合物(A1)及び化合物(B1)中の水酸基の全て若しくは一部をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。
【0056】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0057】
上記化合物(A1)及び化合物(B1)をエステル化したエステル化化合物の中では、エステル化によりアセチル基が導入されたアセチル化化合物が好ましい。
これらアセチル化化合物の製造方法としては、例えば、特開平8−245678号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0058】
上記化合物(A1)及び化合物(B1)のエステル化化合物に加えて、オリゴ糖のエステル化化合物を、フラノース構造若しくはピラノース構造の少なくとも1種を3〜12個結合した化合物として適用できる。
オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼ等の酵素を作用させて製造されるもので、本発明に適用できるオリゴ糖としては、例えば、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。
オリゴ糖も上記化合物(A1)及び化合物(B1)と同様な方法でアセチル化できる。
【0059】
(エチレン性不飽和モノマー共重合体系可塑剤)
エチレン性不飽和モノマー共重合体を構成するエチレン性不飽和モノマーは、特に限定はされないが、下記のものが好ましく用いられる。
例えば、メタクリル酸及びそのエステル誘導体(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アクリル酸及びそのエステル誘導体(アクリル酸メチル、アクリル酸エチルアクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸ジエチレングリコールエトキシレート、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アルキルビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等)、アルキルビニルエステル(ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、スチレン誘導体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなど)、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和化合物等を挙げることが出来る。これらは1種単独で、又は2種以上混合して、前記分子内に後述する一般式(6)で表される部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーと共重合させることができる。
これらエチレン性不飽和モノマーの内、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル)、アルキルビニルエステル(ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、スチレン誘導体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなど)が好ましく、メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルが更に好ましく、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0060】
本発明に用いられるエチレン性不飽和モノマーの数平均分子量は特に限定されないが、800〜30000が好ましく、より好ましくは900〜10000であり、更に好ましくは1000〜5000であり、特に好ましくは1000〜3000である。
数平均分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することができる。
例えば、カラム(東ソー(株)製 TSKgel Super HZM−H、TSKgel Super HZ4000及びTSKgel Super HZ2000)の温度を40℃として、溶離液としてTHFを用い、流速を0.35ml/minとし、検出をRI、注入量を10μl、試料濃度を1g/lとし、また標準試料としてポリスチレンを用いて行うことができる。
【0061】
(含窒素芳香族化合物系可塑剤)
含窒素芳香族化合物系可塑剤は、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、プリンのいずれかを母核とし、置換可能ないずれかの位置にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アミド基、アリール基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、又は複素環基を置換基として有するものである。
【0062】
以下に含窒素芳香族化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によって限定されるものではない。
【0063】
【化2】

【0064】
【化3】

【0065】
【化4】

【0066】
【化5】

【0067】
【化6】

【0068】
【化7】

【0069】
【化8】

【0070】
【化9】

【0071】
【化10】

【0072】
【化11】

【0073】
【化12】

【0074】
【化13】

【0075】
【化14】

【0076】
【化15】

【0077】
【化16】

【0078】
【化17】

【0079】
【化18】

【0080】
【化19】

【0081】
【化20】

【0082】
(物性)
前記含窒素芳香族化合物は、分子量が100〜1000であることが好ましく、150〜700であることがより好ましく、150以上450以下であることが最も好ましい。
【0083】
(含窒素芳香族化合物の添加量)
また、本発明のフィルムは、前記セルロースアシレート樹脂に対する、前記含窒素芳香族化合物の合計含有量が20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。ただし、本発明のセルロースアシレートフィルムは、前述のとおり、セルロースアシレートに対して30〜65質量%の可塑剤を含有する。なお、前記含窒素芳香族化合物は前記一般式(A−1)〜(H−1)で表される化合物に限定されない。
【0084】
[その他の添加剤]
本発明のセルロースアシレートフィルムには、前記可塑剤の他に、各調製工程において用途に応じた種々の低分子、高分子添加剤(例えば、劣化防止剤、紫外線防止剤、レターデーション(光学異方性)調節剤、剥離促進剤、他の可塑剤、赤外吸収剤、マット剤など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば融点が20℃以下と20℃より高い紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。更にまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースアシレート溶液(ドープ)作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。
【0085】
(劣化防止剤)
本発明のセルロースアシレート溶液には公知の劣化(酸化)防止剤、例えば、フェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤をすることが好ましい。酸化防止剤の添加量は、セルロースアシレートに対して、0.05〜5.0質量%であることが好ましい。
【0086】
(紫外線吸収剤)
本発明のセルロースアシレート溶液には、偏光板又は液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、セルロースアシレートに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0087】
紫外線吸収剤として具体的には、下記のUV−1〜UV−3を挙げることができるが、添加する紫外線吸収剤はこれらに限定されない。
【0088】
【化21】

【0089】
(レターデーション発現剤)
本発明ではレターデーションを発現するため、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として用いることができる。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物は一様配向した場合に光学的に正の1軸性を発現することが好ましい。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物の分子量は、300ないし1200であることが好ましく、400ないし1000であることがより好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合、光学特性とくにReを好ましい値に制御するには、延伸が有効である。Reの上昇はフィルム面内の屈折率異方性を大きくすることが必要であり、一つの方法が延伸によるポリマーフィルムの主鎖配向の向上である。また、屈折率異方性の大きな化合物を添加剤として用いることで、更にフィルムの屈折率異方性を上昇することが可能である。例えば上記の2つ以上の芳香環を有する化合物は、延伸によりポリマー主鎖が並ぶ力が伝わることで該化合物の配向性も向上し、所望の光学特性に制御することが容易となる。
【0090】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液晶性化合物等が挙げられる。より好ましくは、上記トリアジン化合物又は棒状化合物である。
少なくとも2つの芳香環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。
【0091】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物の添加量はセルロースアシレートに対して質量比で0.05%以上10%以下が好ましく、0.5%以上8%以下がより好ましく、1%以上5%以下が更に好ましい。
(剥離促進剤)
セルロースアシレートフィルムの剥離抵抗を小さくする添加剤としては界面活性剤に効果の顕著なものが多くみつかっている。好ましい剥離剤としては燐酸エステル系の界面活性剤、カルボン酸あるいはカルボン酸塩系の界面活性剤、スルホン酸あるいはスルホン酸塩系の界面活性剤、硫酸エステル系の界面活性剤が効果的である。また上記界面活性剤の炭化水素鎖に結合している水素原子の一部をフッ素原子に置換したフッ素系界面活性剤も有効である。
剥離剤の添加量はセルロースアシレートに対して0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%が更に好ましく、0.1〜0.5質量%が最も好ましい。
【0092】
(マット剤微粒子)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、マット剤として微粒子を含有することができる。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/Lが好ましく、100〜200g/Lが更に好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)35頁〜36頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースアシレートフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【0093】
[セルロースアシレートフィルムの製造方法]
(製膜工程)
本発明におけるセルロースアシレートフィルムの製造方法は、公知のセルロースアシレートフィルムを作製する方法等を広く採用でき、ソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を流延することでフィルムを製造することができる。
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル及び炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及びCOO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0094】
溶液流延時におけるセルロースアシレートを含む溶液(ドープ)中に含まれる全溶剤中、セルロースアシレートに対して良溶剤として働く溶剤の比率は79〜95質量%であることが好ましく、82〜94質量%がより好ましく、87〜92質量%が最も好ましい。
【0095】
冷却されたドラム上に流延する際はドープのゲル化のため貧溶剤が一定比率必要であり、良溶剤比率は79質量%以上87質量%未満が好ましく、79質量%以上85質量%未満がより好ましく、79質量%以上83質量%未満が最も好ましい。
基層用ドープと表層用ドープとを共流延する際には基層用ドープ中の良溶剤比率は79質量%以上87質量%未満が好ましく、79質量%以上85質量%未満がより好ましく、79質量%以上83質量%未満が最も好ましい。表層用ドープ中の良溶剤比率は83質量%以上95質量%未満が好ましく、85質量%以上95質量%未満がより好ましく、87質量%以上92質量%未満が最も好ましい。
【0096】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1又は2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることが更に好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリド(ジクロロメタン)が、代表的なハロゲン化炭化水素である。
2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
なお、セルロースアシレートに対して良溶剤とは、セルロースアシレートが室温(20℃)での質量パーセント濃度で10質量%以上溶ける溶剤であり、例えば、メチレンクロリド、クロロホルム、アセトン、酢酸メチルなどが挙げられる。貧溶剤とは、セルロースアシレートが室温での質量パーセント濃度で10質量%未満しか溶けない溶剤であり、例えば、メタノール、エタノール、ブタノールなどが挙げられる。
【0097】
一般的な方法でセルロースアシレート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温又は高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法及び装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特に、メチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることが更に好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、前述した任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧及び加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、更に好ましくは80〜110℃である。
【0098】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0099】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレテートフィルムを製造することができる。
ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延及び乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0100】
溶液流延時においてセルロースアシレートを含む溶液を10℃以下に冷却された金属支持体(ドラム又はバンド)上に流延しフィルムを製膜することが好ましい。10℃以下に冷却された金属支持体上に流延することにより、ドープのゲル化を促進することができるためドラム上から剥ぎ取ることができ両面から素早く乾燥できるので、製膜する上で好ましい。冷却温度は、−20度以上0度以下が好ましく、−15度以上−5度以下がより好ましい。
ドープは、流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラム又はバンドから剥ぎ取り、更に100℃から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラム又はバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0101】
(共流延)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、溶液流延製膜方法により製膜した後、延伸することにより製造したものであることが好ましい。また、複数のドープを共流延により、同時又は逐次で多層のフィルムを製膜することが好ましい。所望のレターデーション値を有するフィルムとすることができるためである。
なお、本発明においては、共流延により2層構造のセルロースアシレートフィルムを製膜する場合、金属支持体に接する層を基層、該基層上に設ける層を表層とする。また、3層以上の多層のセルロースアシレートフィルムの場合、金属支持体に接する層とそれとは反対側(空気側)の最表面層を表層とし、該2つの表層の間にある層のうち少なくとも1層を基層とする。
本発明では得られたセルロースアシレート溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースアシレート液を流延してもよい。複数のセルロースアシレート溶液を流延する場合、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出すセルロースアシレートフィルム流延方法でもよい。更に又、特開昭61−94724号の各公報に記載の外側の溶液が内側の溶液よりも貧溶媒であるアルコール成分を多く含有させることも好ましい態様である。
【0102】
あるいは、また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により金属支持体に成型したフィルムを剥離し、金属支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことにより、フィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液でもよいし、異なるセルロースアシレート溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースアシレート層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押出せばよい。さらの本発明のセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。
【0103】
従来の単層液では、必要なフィルム厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押出すことが必要であり、その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良であったりして問題となることが多かった。この解決として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に金属支持体上に押出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができた。
【0104】
共流延の場合、内側と外側の厚さは特に限定されないが、好ましくは外側が全膜厚の1〜50%であることが好ましく、より好ましくは2〜30%の厚さである。ここで、3層以上の共流延の場合は金属支持体に接した層と空気側に接した層のトータル膜厚を外側の厚さと定義する。
【0105】
共流延の場合、置換度の異なるセルロースアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースアシレートフィルムを作製することもできる。例えば、TAC(トリアセチルセルロース)層/DAC(ジアセチルセルロース)層/TAC層といった構成のセルロースアシレートフィルムを作ることも、DAC層/TAC層/DAC層といった構成のセルロースアシレートフィルムを作ることも出来る。
また、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースアシレートアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースアシレートフィルムを作製することもできる。例えば、マット剤は、表層に多く、又は表層のみに入れることが出来る。可塑剤、紫外線吸収剤は表層よりも内部層(基層を含む)に多くいれることができ、内部層のみにいれてもよい。又、内部層と表層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えば表層に低揮発性の可塑剤及び/又は紫外線吸収剤を含ませ、内部層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。また、剥離剤を金属支持体側の表層のみ含有させることも好ましい態様である。
また、冷却ドラム法で金属支持体を冷却して溶液をゲル化させるために、表層に貧溶媒であるアルコールを内部層より多く添加することも好ましい。表層と内部層のTgが異なっていても良い。
また、流延時のセルロースアシレートを含む溶液の粘度も表層と基層で異なっていても良く、表層の粘度が内部層の粘度よりも小さいことが好ましいが、内部層の粘度が表面層の粘度より小さくてもよい。
【0106】
(乾燥工程、延伸工程)
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述べる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロール群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。本発明のフィルムの製造では、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、ウェブ中の残留溶媒量が120質量%未満の時に延伸することが好ましい。
【0107】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。ウェブ中の残留溶媒量の更に好ましい範囲は70質量%以下であり、より好ましくは10質量%〜50質量%、特に好ましくは12質量%〜35質量%である。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
延伸倍率は、1.05〜1.5であることが好ましく、1.15〜1.4であることがより好ましい。
また、延伸は縦方向に行っても横方向に行っても両方向に行ってもよく、好ましくは少なくとも縦方向に行う。本発明のセルロースアシレートフィルムは幅方向に延伸されて得られたものであり、該延伸倍率が、搬送方向に対して垂直な方向に5%以上100%以下であることが好ましい。延伸倍率を5%以上とすることにより、より適切にReを発現させることができ、ボーイングを良好なものとすることができる。また、延伸倍率を50%以下とすることにより、ヘイズを低下させることができる。延伸の詳細については特開2010−250298号公報の記載などを参照できる。
【0108】
(熱処理工程)
本発明のフィルムの製造方法は乾燥工程終了後に熱処理工程を設けることが好ましい。当該熱処理工程における熱処理は乾燥工程終了後に行われればよく、延伸/乾燥工程後直ちに行って良いし、あるいは乾燥工程終了後に後述する方法で一旦巻き取った後に、熱処理工程だけを別途設けても良い。本発明においては乾燥工程終了後に一旦、室温〜100℃以下まで冷却した後において改めて前記熱処理工程を設けることが好ましい。これは熱寸法安定性のより優れたフィルムを得られる点で有利であるからである。同様の理由で熱処理工程直前において残留溶媒量が2質量%未満、好ましくは0.4質量%未満まで乾燥されていることが好ましい。
このような処理によりフィルムの収縮率を小さくできる理由は明確ではないが、延伸工程にて延伸される処理を経たフィルムにおいては、延伸方向の残留応力が大きいため、熱処理によって前記残留応力が解消されることにより、熱処理温度以下の領域での収縮力が低減されるものと推定される。
【0109】
熱処理は、搬送中のフィルムに所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法により行われる。
熱処理は150〜200℃の温度で行うことが好ましく、160〜180℃の温度で行うことが更に好ましい。また、熱処理は1〜20分間行うことが好ましく、5〜10分間行うことが更に好ましい。
熱処理温度が200℃を超えて長時間加熱すると、フィルム中に含まれる可塑剤の飛散量が増大するため問題となる場合がある。
【0110】
なお前記熱処理工程において、フィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。この収縮を可能な限り抑制しながら熱処理することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましく、幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンター方式)が好ましい。更に、フィルムの幅方向及び搬送方向に、それぞれ0.9倍〜1.5倍に延伸することが好ましい。
【0111】
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、更に±1度の範囲であることが好ましい。又は、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、更に±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0112】
[加熱水蒸気処理]
また、延伸処理されたフィルムは、その後、100℃以上に加熱された水蒸気を吹き付けられる工程を経て製造されても良い。この水蒸気の吹付け工程を経ることにより、製造されるセルロースアシレートフィルムの残留応力が緩和されて、寸度変化が小さくなるので好ましい。水蒸気の温度は100℃以上であれば特に制限はないが、フィルムの耐熱性などを考慮すると、水蒸気の温度は、200℃以下となる。
【0113】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0114】
[セルロースアシレートフィルムの表面処理]
セルロースアシレートフィルムは、表面処理を施すことが好ましい。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理又は紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7−333433号公報に記載のように、下塗り層を設けることも好ましい。
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理においてセルロースアシレートフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
偏光板の透明保護膜として使用する場合、偏光子との接着性の観点から、酸処理又はアルカリ処理、すなわちセルロースアシレートに対する鹸化処理を実施することが特に好ましい。
表面エネルギーは55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上75mN/m以下であることが更に好ましい。
鹸化処理及び表面エネルギーについては、特開2010−79241号公報の記載などを参照することができる。
【0115】
(膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚は20μm〜180μmが好ましく、20μm〜100μmがより好ましく、20μm〜80μmが更に好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚むらは、搬送方向及び幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%が更に好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0116】
(フィルムのレターデーション)
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、及び面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0117】
本発明のセルロースアシレートフィルムは偏光板の保護フィルムとして好ましく用いることができる。本発明のセルロースアシレートフィルムは位相差を持たないフィルムとしても使用できる。その場合には590nmで測定したReは-10〜10nmのものが好ましく、-5〜5nmのものがより好ましく、-3〜3nmのものが更に好ましい。Rthはー20〜20nmのものが好ましく、−10〜10nmのものがより好ましく、−5〜5nmのものが更に好ましい。これらの光学特性を有するセルロースアシレートフィルムは、例えばIPSモード用として好ましい。
また、様々な液晶モードに対応した位相差フィルムとしても好ましく用いることができる。本発明の位相差フィルムは本発明のセルロースアシレートフィルムを含む。
本発明のセルロースアシレートフィルムを位相差フィルムとして用いる場合、590nmで測定したReは30〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜100nmのものが更に好ましい。Rthは70〜400nmのものが好ましく、100〜300nmのものがより好ましく、100〜250nmのものが更に好ましい。
【0118】
セルロースアシレートフィルムのより好ましい光学特性は液晶モードによって異なる。
VAモード用としては590nmで測定したReは30〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜100nmのものが更に好ましい。Rthは70〜400nmのものが好ましく、100〜300nmのものがより好ましく、100〜250nmのものが更に好ましい。
TNモード用としては590nmで測定したReは0〜100nmのものが好ましく、20〜90nmのものがより好ましく、50〜80nmのものが更に好ましい。Rthは20〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜120nmのものが更に好ましい。
TNモード用では前記レターデーション値を有するセルロースアシレートフィルム上に光学異方性層を塗布して光学補償フィルムとして使用できる。
【0119】
(フィルムのヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムのヘイズは透明性の観点から、0.01〜2.0%であることが好ましい。より好ましくは0.05〜1.5%であり、0.1〜1.0%であることが更に好ましい。ヘイズの測定は、ヘイズメーター“HGM−2DP”{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−6714に従って測定することができる。
【0120】
(分光特性、分光透過率)
セルロースアシレートフィルムの試料13mm×40mmを、25℃、60%RHで分光光度計“U−3210”{(株)日立製作所}にて、波長300〜450nmにおける透過率を測定することができる。傾斜幅は72%の波長−5%の波長で求めることができる。限界波長は、(傾斜幅/2)+5%の波長で表し、吸収端は、透過率0.4%の波長で表すことができる。これより380nm及び350nmの透過率を評価することができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、偏光板の液晶セルに面した保護フィルムの対向側に用いる場合には、上記方法により測定した波長380nmにおける分光透過率が45%以上95%以下であり、かつ波長350nmにおける分光透過率が10%以下であることが好ましい。
【0121】
(ガラス転移温度)
本発明のセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度は120℃以上が好ましく、140℃以上が更に好ましい。
ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定したときにフィルムのガラス転移に由来するベースラインが変化しはじめる温度と再びベースラインに戻る温度との平均値として求めることができる。
また、ガラス転移温度の測定は、以下の動的粘弾性測定装置を用いて求めることもできる。本発明のセルロースアシレートフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御(株)製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点を、昇温時に貯蔵弾性率が急激に減少しフィルムが軟化し始める温度であり、ガラス転移領域に移行し始める温度であるため、ガラス転移温度Tg(動的粘弾性)とする。
【0122】
(フィルムの平衡含水率)
本発明のセルロースアシレートフィルムの平衡含水率は、偏光板の保護膜として用いる際、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーとの接着性を損なわないために、膜厚のいかんに関わらず、25℃、80%RHにおける平衡含水率が、0〜4%であることが好ましい。0.1〜3.5%であることがより好ましく、1〜3%であることが特に好ましい。平衡含水率が4%以下であれば、光学補償フィルムの支持体として用いる際に、レターデーションの湿度変化による依存性が大きくなりすぎることがなく好ましい。
含水率の測定法は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置“CA−03”及び“VA−05”{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で測定し、水分量(g)を試料質量(g)で除して算出することができる。
【0123】
(フィルムの透湿度)
フィルムの透湿度は、JIS Z−0208をもとに、60℃、95%RHの条件において測定することができる。
透湿度は、セルロースアシレートフィルムの膜厚が厚ければ小さくなり、膜厚が薄ければ大きくなる。そこで膜厚の異なるサンプルでは、基準を80μmに設け換算する必要がある。膜厚の換算は、下記数式に従って行うことができる。
数式:80μm換算の透湿度=実測の透湿度×実測の膜厚(μm)/80(μm)
【0124】
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4 共立出版)の285頁〜294頁「蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)」に記載の方法を適用することができる。
【0125】
本発明のセルロースアシレートフィルムの透湿度は、500〜4000g/m・24hであることが好ましい。1000〜3000g/m・24hであることがより好ましく、1500〜2500g/m・24hであることが特に好ましい。透湿度が25000g/m・24h以下であれば、フィルムのRe値、Rth値の湿度依存性の絶対値が0.5nm/%RHを超えるなどの不都合が生じることがなく、好ましい。
【0126】
(フィルムの寸度変化)
本発明のセルロースアシレートフィルムの寸度安定性は、60℃、90%RHの条件下に24時間静置した場合(高湿)の寸度変化率、及び90℃、5%RHの条件下に24時間静置した場合(高温)の寸度変化率が、いずれも0.5%以下であることが好ましい。
より好ましくは0.3%以下であり、更に好ましくは0.15%以下である。
【0127】
(フィルムの弾性率)
本発明のセルロースアシレートフィルムの弾性率は、フィルムの製膜時の搬送性の観点から1.0Gpa以上であることが好ましい。具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン(株)製万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、25℃、60RH%雰囲気中、引張速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めることができる。
【0128】
この場合、添加剤の種類や配合量、セルロースアシレートの分子量分布やセルロースアシレートの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなセルロースアシレートフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0129】
[位相差フィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明の透明セルロースアシレートフィルムを用いることで、Re値及びRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
【0130】
位相差フィルムは本発明のセルロースアシレートフィルム上に少なくとも一種の液晶性化合物を含有する光学異方性層を有しても良い。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースアシレートフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して所望の位相差値を有する位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0131】
また、場合により、本発明のセルロースアシレートフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つセルロースアシレートフィルムから形成してもよいし、本発明のセルロースアシレートフィルムから形成してもよい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物又は棒状液晶性化合物が好ましい。例えば、ディスコティック液晶性化合物の例としては、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物等が知られている。
【0132】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基の間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0133】
[機能性層]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、更に機能性層を有してもよい。セルロースアシレートフィルム上に機能性層を有する機能性フィルムは単層フィルムであっても、2層以上の積層構造を有していてもよい。ここで、後述する本発明の偏光板は、機能性層を含むことが好ましいが、本発明のセルロースアシレートフィルムが機能性層を有する態様であっても、偏光板に本発明のセルロースアシレートフィルムを組み込むときにその他の機能性フィルムを重ねあわせてもよい。
その他にも、輝度向上フィルムとしての使用や、前方散乱層、アンチグレア層(防眩層)、ガスバリア層、滑り層、帯電防止層、下塗り層、保護層を有するものでもよい。
機能性層を形成するための各成分や形成方法などは公知の文献などに記載のものを用いることができる。
【0134】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子の両側に保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が本発明のセルロースアシレートフィルムである。すなわち、本発明のフィルムは、偏光板用保護フィルムに用いられることが好ましい。偏光板は前述の如く、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロ−スエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
特に本発明のフィルムを用いた偏光板は高温高湿条件下での劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【0135】
本発明の偏光板は、本発明のセルロースアシレートフィルムを有する。本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板用保護フィルムとして用いる場合、偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成、若しくは偏光板用保護フィルム/偏光子/本発明の偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、更に視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた表示装置を提供することができる。
【0136】
〔液晶表示装置〕
本発明の液晶表示装置は、液晶セル及びその両側に配置された2枚の偏光板を含む液晶表示装置であって、該偏光板のうち少なくとも1枚が本発明の偏光板である。
本発明の液晶表示装置は、液晶セルが、IPSモード、VAモード又はTNモードの液晶セルであることが好ましく、VAモードセルであることが、本発明のフィルムが前記好ましい範囲のRe及びRthを発現する観点から特に好ましい。
【実施例】
【0137】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0138】
〔実施例1〜18、比較例1〜22〕
[セルロースアシレートフィルムの製膜]
表1に記載された原料(パルプ又はリンター)から製造されたセルロースアセテート(A)、及びセルロースアシレート(B)を用い、表1に記載した添加量でセルロースアセテート(A)、セルロースアシレート(B)、可塑剤1、可塑剤2をミキシングタンクに添加し、更に溶剤(ジクロロメタンを86.5質量部、メタノールを13.5質量部からなる混合溶剤)を加え、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過し、セルロースアシレートドープを調製した。溶液流延法によりフィルムを製膜し、実施例1〜18、比較例1〜22に使用した。
なお、ドープのセルロースアシレート濃度は22質量%になるように調整した。ドープを濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後更に焼結金属フィルター(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、更にメッシュフイルタで濾過した後にストックタンクに入れた。
【0139】
(溶液流延法)
フィルム製造設備を用いてフィルムを製造した。インラインミキサーでドープを攪拌して流延ドープを得た。
流延バンドの走行方向における周面の速度を20m/分〜100m/分の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延バンドの周面の温度を、0℃〜35℃の範囲内でほぼ一定となるように保持した。
流延ダイは、流延ドープを周面上に流延し、周面に流延膜を形成した。自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラを用いて、流延バンドから流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取った。
剥取不良を抑制するために流延バンドの速度に対する剥取速度(剥取ローラドロー)を100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。湿潤フィルムは、渡り部、テンター部、及び乾燥室へ順次搬送された。渡り部、テンター、及び乾燥室は、湿潤フィルムに乾燥空気をあてて、所定の乾燥処理を行った。この乾燥処理によって得られるフィルムを冷却室に送った。各工程での乾燥処理中の温度は75℃以下で一定となるように行った。冷却室では、フィルムを30℃以下になるまで冷却した。
その後、フィルムに、除電処理、ナーリング付与処理などを行った後、巻取室に搬送した。巻取室では、プレスローラで所望のテンションを付与しつつ、フィルムを巻き取った。フィルム製造設備により製造されたフィルムは、幅が1300〜2500mmであり、いずれも膜厚が50μmであった。
【0140】
以上のとおり、作製したフィルム試料に対して以下の評価を行った。評価結果は表1に示した。
【0141】
(湿熱耐久性:ブリードアウト)
フィルム試料を80℃、相対湿度90%の環境に120時間放置し、ブリードアウトの有無を目視にて下記基準で評価した。
○:ブリードアウトが無く、フィルムが透明
×:ブリードアウトが発生し、フィルムが白化
【0142】
(光学特性の湿度依存性)
フィルム試料を25℃、相対湿度30%の環境に3時間放置した後の550nmでのRth30%と、25℃、相対湿度80%の環境に3時間放置した後の550nmでのRth80%を求め、ΔRth=Rth30%−Rth80%(nm)を求めた。
【0143】
(ヘイズ)
ヘイズの測定は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmを、25℃、60%RHでヘイズメーター「HGM−2DP」{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−6714に従って測定した。
測定したヘイズ値が1.0%を超えている場合を×、1.0%以下である場合を○として表1に記載した。
なお、製膜した時点でヘイズが×である試料については、上記湿熱耐久性の試験は行わなかった。
【0144】
(含水率)
含水率の測定法は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置「CA−03」及び「VA−05」{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で測定し、水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0145】
また、その他の物性の評価として、いくつかのセルロースアシレートフィルム試料について、ガラス転移温度(Tg)、透湿度、及び弾性率を測定した。
(ガラス転移温度)
セルロースアシレートフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御(株)製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点を、昇温時に貯蔵弾性率が急激に減少しフィルムが軟化し始める温度であり、ガラス転移領域に移行し始める温度であるため、ガラス転移温度Tg(動的粘弾性)とした。
(透湿度)
JIS Z−0208をもとに、60℃、95%RHの条件において測定した。
(フィルムの弾性率)
東洋ボールドウィン(株)製万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、255℃、60RH%雰囲気中、引張速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0146】
【表1】

【0147】
表1において、可塑剤1と可塑剤2の添加量は、セルロースアセテート(A)とセルロースアシレート(B)との合計量に対する割合(質量%)を表す。
なお、表1に記載のポリエステル系添加剤P−1〜23は下記の表2に示すように芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジカルボン酸と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールとを含む混合物から得られ、両末端がヒドロキシル基又はモノカルボン酸エステル誘導体である重縮合エステルである。
【0148】
【表2】

【0149】
【化22】

【0150】
〔実施例19〜28〕
実施例15において、「可塑剤1」をP−1から、それぞれP−2〜P−11に変更した以外は同様にフィルムを作成し、評価した。ヘイズと湿熱耐久性の結果は実施例15と同じく全て○であった。
【0151】
〔実施例29〜38〕
実施例16において、「可塑剤2」をP−23から、それぞれP−12〜P−22に変更した以外は同様にフィルムを作成し、評価した。ヘイズと湿熱耐久性の結果は実施例15と同じく全て○であった。
【0152】
〔比較例23〜32〕
比較例19において、「可塑剤1」をP−1から、それぞれP−2〜P−11に変更した以外は同様にフィルムを作成し、評価した。湿熱耐久性の結果は比較例19と同じく全て×であった。
【0153】
〔比較例33〜43〕
比較例19において、「可塑剤2」をP−23から、それぞれP−12〜P−22に変更した以外は同様にフィルムを作成し、評価した。湿熱耐久性の結果は比較例19と同じく全て×であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記セルロースアセテート(A)と下記セルロースアシレート(B)とを、セルロースアセテート(A)/セルロースアシレート(B)が質量比で90/10〜40/60の範囲内で混合して得られる、アシル基の全置換度が2.6〜2.95であり、アセチル基の置換度が2.2〜2.9であり、かつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.05〜0.40であるセルロースアシレートと、
該セルロースアシレートに対して30〜65質量%の可塑剤とを含有するセルロースアシレートフィルム。
セルロースアセテート(A):アセチル基の置換度が2.7〜2.95であるセルロースアセテート
セルロースアシレート(B):アシル基の全置換度が2.0〜2.9でありかつ炭素数3〜6のアシル基の置換度が0.3〜1.9であるセルロースアシレート
【請求項2】
前記可塑剤が、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸の少なくとも一方と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールとを含む混合物から得られ、両末端がヒドロキシル基である重縮合エステルである、請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
前記可塑剤が、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸の少なくとも一方と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールと、モノカルボン酸とを含む混合物から得られ、両末端がモノカルボン酸エステル誘導体からなる重縮合エステルである、請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
更に、可塑剤として、含窒素芳香族化合物を含有する、請求項2又は3に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
前記含窒素芳香族化合物の含有量が前記セルロースアシレートに対して20質量%以下である、請求項4に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
前記炭素数3〜6のアシル基がプロピオニル基及びブチリル基から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
前記セルロースアセテート(A)と前記セルロースアシレート(B)の混合比が質量比で(A)/(B)=90/10〜50/50である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
偏光膜と少なくとも1つの保護フィルムとを含む偏光板であって、該少なくとも1つの保護フィルムが請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムである偏光板。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム、又は請求項8に記載の偏光板を有する液晶表示装置。

【公開番号】特開2012−144627(P2012−144627A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3501(P2011−3501)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】