説明

セルロースエステルフィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】溶融製膜方法により作製されたセルロースエステルフィルムの従来の問題点を解決し、光学性能に優れたセルロースエステルフィルムを提供する。更に、それを用いた偏光板、及び液晶表示装置を提供する。
【解決手段】溶融製膜法により作製されたセルロースエステルフィルムであって、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルのうち少なくとも一種を0.05〜2.0質量%含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融製膜方法により作製され、光学性能に優れたセルロースエステルフィルム、それを用いた偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルフィルムは透明性、光学的等方性に優れているため各種の光学フィルムに適用されている。また、アルカリ鹸化処理によってフィルム表面を親水化することが出来るため、偏光子との接着性が良く、特に偏光板保護フィルムに適している。
【0003】
一方、従来セルロースエステルフィルムは溶液製膜法によって製膜されるのが一般的だったが、近年、溶融製膜法による製膜検討が進められている。溶融製膜法で製膜したセルロースエステルフィルムは、溶液製膜法で製膜したセルロースエステルフィルムに比べて、熱劣化による着色(黄変)が起こり易いという問題がある。
【0004】
また、溶融製膜したセルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして用いた場合、偏光子との接着性が劣化することが分かった。これは、溶融製膜したセルロースエステルフィルムの水に対する接触角(以下、単に「接触角」とする。)が溶液製膜した場合に比べて高いため、アルカリ鹸化処理によって表面が親水化される速度が遅いためと考えられる。
【0005】
溶融製膜したセルロースエステルフィルムの接触角が高くなる理由は分かっていないが、鹸化処理などで接触角を下げたセルロースエステルフィルムを加熱すると、接触角が高くなる現象が観察されることがある。これは、表面に極性基が存在する状態がエネルギー的に不安定なため、加熱して流動性が増すと、より安定な状態になるためにフィルム内部に極性基が潜り込むためと考えられる。溶融製膜した場合も、押出しから冷却までの温度が高い時に極性基が内部に潜り込み易い状態になるため、結果的に溶液製膜した場合よりも、接触角が高くなると推定される。
【0006】
近年、偏光板メーカーの生産性向上のため、アルカリ鹸化処理の時間は短くなる傾向にあり、この影響はより顕著になってきている。この対策としてアルカリ鹸化処理液のアルカリ濃度を上げる、アルカリ鹸化液の液温を上げる、などの方法が考えられるが、これらの方法では鹸化液中にセルロースエステルフィルムの添加剤が溶出して鹸化液を汚染し、偏光板の故障の原因となることが分かった。
【0007】
また、液晶ディスプレイが一般化してくるのに伴い、様々な環境条件下で使用されるようになって来ているため、従来よりも高温、高温高湿、紫外線などに対する耐久性の必要性が増してきている。特に、高温または高温高湿における偏光板の寸法変化、高温高湿、紫外線による偏光子または液晶の劣化が懸念される。
【0008】
検討の結果、同じ組成であっても溶融製膜法で作られたセルロースエステルフィルムは溶液製膜法で作られたセルロースエステルフィルムに比べて弾性率が低いことが分かった。このために溶融製膜法で作製したセルロースエステルを偏光板保護フィルムとした場合、出来上がった偏光板を高温(例えば90℃)、高温高湿(例えば60℃90%RH)の耐久性評価をすると、偏光板保護フィルムが偏光子の収縮を抑えきれず、偏光板の寸法変化が大きくなるということが分かった。
【0009】
なお、特許文献1〜3には、グリセリン脂肪酸エステルまたはジグリセリン脂肪酸エステルを添加する例が記載されている。この方法では接触角を低下させることはできるが、いずれも可塑剤として添加しているため、添加量が2%以上と多く、弾性率が低下しすぎるために偏光板の寸法変化が大きくなり、また鹸化工程への溶出量が増えるために偏光板の故障も起こることがわかった。
【特許文献1】特開2004−131670号公報
【特許文献2】特開2007−51304号公報
【特許文献3】特開2007−144883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、溶融製膜方法により作製されたセルロースエステルフィルムの従来の問題点を解決し、光学性能に優れたセルロースエステルフィルムを提供することである。更に、それを用いた偏光板、及び液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0012】
1.溶融製膜法により作製されたセルロースエステルフィルムであって、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルのうち少なくとも一種を0.05〜2.0質量%含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【0013】
2.流涎方向の延伸倍率と流涎方向と垂直の方向の延伸倍率の合計が20〜300%となる範囲内で延伸されたことを特徴とする前記1に記載のセルロースエステルフィルム。
【0014】
3.ペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステルのうち少なくとも一種を2〜20質量%含有することを特徴とする前記1又は2に記載のセルロースエステルフィルム。
【0015】
4.前記1〜3のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムを使用したことを特徴とする偏光板。
【0016】
5.前記4に記載の偏光板を使用したことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記手段により、溶融製膜方法により作製されたセルロースエステルフィルムの従来の問題点を解決し、光学性能に優れたセルロースエステルフィルムを提供することができる。更に、それを用いた偏光板、及び液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のセルロースエステルフィルムは、溶融製膜法により作製されたセルロースエステルフィルムであって、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルのうち少なくとも一種を0.05〜2.0質量%含有することを特徴とする。この特徴は、請求項1〜5に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0019】
本発明の実施態様としては、流涎方向(以下、適宜、「MD方向」という。)の延伸倍率と流涎方向と垂直の方向(以下、適宜、「TD方向」という。)の延伸倍率の合計が20〜300%となる範囲内で延伸された態様であることが好ましい。また、当該セルロースエステルフィルムは、ペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステルのうち少なくとも一種を2〜20質量%含有することが好ましい。
【0020】
本発明のセルロースエステルフィルムは、特に液晶表示装置に使用される偏光板に好適に用いることができる。
【0021】
以下、本発明とその構成要素、及び発明を実施するための最良の形態・態様等について詳細な説明をする。
【0022】
<グリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル>
本発明に用いられるグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エルシン酸、12−ヒドロキシオレイン酸などの、炭素数が12〜22の脂肪族脂肪酸から選ばれた一種または二種以上の混合物を主成分とするものである。
【0023】
本発明において、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノエステル及びジエステルを主成分とすることが好ましい。
【0024】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、モノエステル、ジエステル及びトリエステルを主成分とすることが好ましい。また、前記炭素数が12〜22の脂肪族脂肪酸でエステル化されていないヒドロキシル基はヒドロキシル基のままでも良いし、酢酸でエステル化しても良い。
【0025】
なお、加熱時の揮発性による製造加工装置の汚染或いは環境の汚染防止、セルロースエステルとの相溶性等の観点から、前記炭素数は、12〜22であることが好ましい。また、保存時の防臭、変色防止等の観点から、不飽和脂肪酸より飽和脂肪酸のエステルが好ましい。
【0026】
グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルの添加量は、0.05質量%〜2.0質量%であるが、0.1質量%〜1.5質量%であることがより好ましい。添加量が少なすぎると必要な効果が得られず、添加量が多すぎるとブリードアウトが発生し、また、偏光板寸法変化、偏光板の故障が劣化する。
【0027】
グリセリン、ジグリセリン、ソルビトールと上記脂肪酸類とのエステル化反応は牛脂、豚脂、鶏脂、魚油、大豆油、コーン油、ナタネ油、パーム油、ヒマワリ油、サフラワー油、ヒマシ油或いはそれらの水素添加油の一種または二種以上の混合物とグリセリン、ジグリセリン、ソルビトールとのエステル交換反応によって得られた反応物を分子蒸留、溶剤分別、再結晶、カラムクロマトグラフィー、超臨界ガス抽出などの方法により分別して得られるが、一般的には分子蒸留が製造の簡便さ、品質および価格などの面から適当である。
【0028】
グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルのいずれかを用いることで、本発明の溶融製膜フィルムの着色(黄変)、微小な表面欠陥を改善することができる。これは、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルが滑剤のような働きをして、押出し機、流涎ダイ内などの滞留を改善し、また、金属と溶融樹脂の摩擦を減らして、摩擦熱による発熱や応力の発生を防いでいるためと考えられる。
【0029】
また、われわれの検討によって水に対する接触角も改善できることが分かった。この理由は分かっていないが、界面活性剤のような働きをして、溶融製膜したフィルムの表面状態を変化させていると考えられる。
【0030】
<セルロースエステル>
本発明に用いるセルロースエステルには特に限定はないが、セルロースの炭素数2〜22程度のカルボン酸エステルであることが好ましく、芳香族カルボン酸のエステルでもよく、特にセルロースの炭素数2から6の低級脂肪酸エステルであることがより好ましい。
【0031】
水酸基に結合するアシル基は、直鎖であっても分岐していてもよく、また環を形成していてもよい。更に別の置換基が置換していてもよい。
【0032】
好ましいセルロースエステルの例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等や、特開平10−45804号、同08−231761号公報、米国特許第2,319,052号明細書等に記載されているようなセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0033】
本発明に好ましいセルロースエステルとしては、下記式(1)及び(2)を同時に満足するものが好ましい。
【0034】
式(1):2.0≦X+Y≦3.0
式(2):0≦Y≦1.5
式中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基またはブチリル基の置換度である。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0035】
本発明に用いられるセルロースエステルの数平均分子量は、溶融粘度、機械的強等の観点から、60,000〜300,000の範囲が好ましく、70,000〜200,000のものがより好ましい。
【0036】
本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が1.4〜3.0であることが好ましく、さらに好ましくは1.4〜2.2の範囲である。Mw/Mnをこの範囲にすることで、セルロースエステルフィルムを延伸した時の白濁が起きにくくなり、弾性率が上昇し易くなる。Mw/Mnの値が小さい方が分子量の分布が小さいため、ポリマー分子が配向しやすく、また空隙の少ない均質なフィルムになり易いためと考えられる。
【0037】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で測定することができる。これらを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出し、その比(Mw/Mn)を計算することができる。
【0038】
高速液体クロマトグラフィーを用いた数平均分子量、重量平均分子量の測定条件は以下の通りである。
【0039】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に得ることが好ましい。
【0040】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることが出来る。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。
【0041】
本発明に係るセルロースエステルは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応が行われる。
【0042】
アシル化剤が酸クロライドの場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0043】
セルロースエステルを構成するグルコース単位の6位には、2位及び3位と異なり、反応性の高い一級ヒドロキシル基が存在し、この一級ヒドロキシル基は、硫酸を触媒とするセルロースエステルの製造過程で硫酸エステルを優先的に形成する。
【0044】
そのため、セルロースのエステル化反応において、触媒硫酸量を増加させることにより、通常のセルロースエステルに比べて、グルコース単位の6位よりも2位及び3位の平均置換度を高めることができる。
【0045】
更に、必要に応じて、セルロースをトリチル化すると、グルコース単位の6位のヒドロキシル基を選択的に保護出来るため、トリチル化により6位のヒドロキシル基を保護し、エステル化した後、トリチル基(保護基)を脱離することにより、グルコース単位の6位よりも2位及び3位の平均置換度を高めることが出来る。具体的には、特開2005−281645号記載の方法で製造されたセルロースエステルも好ましく用いることができる。
【0046】
尚、合成されたセルロースエステルは、精製して低分子量成分を除去したり、未酢化または低酢化度の成分を濾過で取り除いたりすることも好ましく行われる。
【0047】
また、混酸セルロースエステルの場合には、特開平10−45804号公報に記載の方法で得ることができる。
【0048】
また、セルロースエステルは、セルロースエステル中の微量金属成分によっても影響を受ける。これらは製造工程で使われる水に関係していると考えられるが、不溶性の核となり得るような成分は少ない方が好ましく、鉄、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンは、有機の酸性基を含んでいる可能性のあるポリマー分解物等と塩形成することにより不溶物を形成する場合があり、少ないことが好ましい。
【0049】
本発明に用いられるセルロースエステルのアルカリ土類金属含有量は、1〜50ppmの範囲であることが好ましい。アルカリ土類金属含有量が上記の範囲であればリップ付着物が軽減され、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティング部で破断を生じない。さらに1〜30ppmの範囲が好ましい。ここでいうアルカリ土類金属とはCa、Mgの総含有量のことであり、X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて測定することができる。
【0050】
本発明に用いられるセルロースエステル中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜45ppmの範囲であることが好ましい。これらは塩の形で含有していると考えられる。残留硫酸含有量が上記の範囲であると、熱溶融時のダイリップ部の付着物が軽減され、また、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際の破断を生じない。さらに1〜30ppmの範囲が好ましい。残留硫酸含有量は、ASTM−D817−96に規定の方法より測定することができる。
【0051】
本発明に用いられるセルロースエステル中の遊離酸含有量は、1〜500ppmであることが好ましい。遊離酸含有量が上記の範囲であるとダイリップ部の付着物が軽減され、また、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際の破断を生じない。さらに1〜100ppmの範囲であることが好ましく、さらに破断しにくくなる。特に1〜70ppmの範囲が好ましい。遊離酸含有量はASTM−D817−96に規定の方法より測定することができる。
【0052】
<ペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステル>
本発明に用いられるペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステルはペンタエリスリトールの4個のヒドロキシル基の水素原子の一部または全部を芳香族系カルボン酸でエステル化したものである。
【0053】
好ましい芳香族カルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、安息香酸のベンゼン環にメトキシ基やヒドロキシル基などの極性基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上持つ芳香族カルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。特に、安息香酸が好ましい。
【0054】
また、ペンタエリスリトールの4個のヒドロキシル基の内、少なくとも2個以上が芳香族系カルボン酸でエステル化してあることが好ましい。芳香族系カルボン酸でエステル化されていないヒドロキシル基は他の種類のカルボン酸でエステル化しても良いし、エステル化せずにヒドロキシル基のまま残っていても良い。
【0055】
ペンタエリスリトールのエステル化に用いられる芳香族系カルボン酸以外のカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族カルボン酸、脂環族カルボン酸などを用いることが出来る。脂環族カルボン酸を用いると、透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。好ましいカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0056】
脂肪族カルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。酢酸を用いるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0057】
好ましい脂肪族カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることが出来る。好ましい脂環族カルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0058】
また、芳香族カルボン酸の芳香環、脂環族カルボン酸のシクロアルキル基は置換されていてもよい。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、フェノキシ基、アセチル基、プロピオニル基等の炭素数2〜8のアシル基、またアセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等の炭素数2〜8の無置換のカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0059】
アルコキシ基としては、炭素数1〜8のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−オクチルオキシ、イソプロポキシ、イソブトキシ、2−エチルヘキシルオキシ、もしくはt−ブトキシ等の各アルコキシ基などである。
【0060】
シクロアルコキシ基としては炭素数1〜8のシクロアルコキシ基が挙げられ、具体的には、シクロプロピルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等の基が挙げられる。
【0061】
アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、γ−フェニルプロピル基等の基が挙げられる。
【0062】
アリールオキシ基としては、フェノキシ基が挙げられる。
【0063】
アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等が挙げられる。
【0064】
アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基等の炭素数2〜8のアシル基が挙げられる。(アシル基の炭化水素基としては、アルキル、アルケニル、アルキニル基を含む)
カルボニルオキシ基としては、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等の炭素数2〜8のアシルオキシ基(アシル基の炭化水素基としては、アルキル、アルケニル、アルキニル基を含む。)、またベンゾイルオキシ基等のアリールカルボニルオキシ基が挙げられる。
【0065】
オキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、またフェノキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基を表す。
【0066】
オキシカルボニルオキシ基としては、メトキシカルボニルオキシ基等の炭素数1〜8のアルコキシカルボニルオキシ基を表す。
【0067】
本発明に用いられるペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステルは、ペンタエリスリトールとカルボン酸または酸クロライドのエステル化反応で容易に得られる。場合によっては予め作製されたペンタエリスリトールエステルをカルボン酸化合物とエステル交換することでも作製できる。本発明のペンタエリスリトールエステル化合物は、1%減量温度(Td1)が250℃以上であることが好ましく、より好ましくは280℃以上であり、特に好ましくは300℃以上である。
【0068】
本発明に用いられるペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステルの添加量は、本発明の効果、ブリードアウト等の観点から、2質量%から20質量%であることが好ましく、4質量%から15質量%であることがより好ましい。
【0069】
ペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステルはセルロースエステルとの相溶性が良いため、溶液製膜法でも可塑剤として優れた特性を持っているが、溶融製膜法では更に溶融粘度の低減と揮発による工程汚染の抑制の点でも好ましい。
【0070】
また、偏光板保護フィルムとした時に、高温高湿条件での偏光子劣化を抑制する効果も優れている。
【0071】
<添加剤>
本発明は、セルロースエステルを含む溶融物をフィルム状に成形することを特徴とするが、溶融物には、セルロースエステル以外の添加剤を含有させる。添加剤の添加量については、全ての添加剤を合計してセルロースエステルフィルム全体の2〜50質量%であることが好ましい。
【0072】
好ましい添加剤について以下に述べる。
【0073】
《可塑剤》
本発明に係るセルロースエステルフィルムの製造においては、フィルム形成材料中に少なくとも1種の可塑剤を2〜30質量%含有する。
【0074】
可塑剤とは、一般的には高分子中に添加することによって脆弱性を改良したり、柔軟性を付与したりする効果のある添加剤であるが、本発明においては、セルロースエステル単独での溶融温度よりも溶融温度を低下させるため、また同じ加熱温度においてセルロースエステル単独よりも可塑剤を含むフィルム構成材料の溶融粘度を低下させるために、可塑剤を添加する。また、セルロースエステルの親水性を改善し、セルロースエステルフィルムの平衡含水率を改善するためにも添加されるため疎水化剤としての機能を有する。
【0075】
ここで、フィルム構成材料の溶融温度とは、該材料が加熱され流動性が発現された状態の温度を意味する。セルロースエステルを溶融流動させるためには、少なくともガラス転移温度よりも高い温度に加熱する必要がある。
【0076】
ガラス転移温度以上においては、熱量の吸収により弾性率あるいは粘度が低下し、流動性が発現される。しかしセルロースエステルは高温下では溶融と同時に熱分解によってセルロースエステルの分子量の低下が発生し、得られるフィルムの力学特性等に悪影響を及ぼすことがあるため、なるべく低い温度でセルロースエステルを溶融させる必要がある。
【0077】
フィルム構成材料の溶融温度を低下させるためには、セルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつ可塑剤を添加することで達成することができる。
【0078】
上記、ペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステルも可塑剤としての作用を持つ。
【0079】
《ペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステル以外の可塑剤》
本発明のセルロースエステルフィルムには、必要に応じてペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステル以外の可塑剤を添加しても良い。用いることのできる可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、3価以上の芳香族多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、糖エステル系化合物、アクリル系ポリマーなどを用いることが出来る。特に好ましくは、多価アルコール系可塑剤である。また、リン酸エステル系可塑剤の添加量は偏光度の耐久性の観点から6質量%以下とすることが好ましい。
【0080】
可塑剤は、1%減量温度(Td1)が250℃以上であることが好ましく、より好ましくは280℃以上であり、特に好ましくは300℃以上である。
【0081】
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0082】
多価アルコールエステルに用いられる多価アルコールは、次の一般式(1)で表される。
【0083】
一般式(1):R1−(OH)n
式中、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性水酸基またはフェノール性水酸基を表す。
【0084】
好ましい多価アルコールの例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン、ジグリセリン、ガラクチトール、イノシトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトールなどを挙げることができる。中でもグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0086】
本発明の多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸などを用いることが出来る。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると、透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0087】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。酢酸を用いるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0088】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることが出来る。
【0089】
好ましい脂環族モノカルボン酸としては炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましく、具体的にはシクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸などが挙げられる。
【0090】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上持つ芳香族モノカルボン酸を挙げることができる。特に、安息香酸が好ましい。
【0091】
これらの脂環族モノカルボン酸および芳香族モノカルボン酸は置換されていてもよく、好ましい置換基としては、ハロゲン原子、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい)、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい。)、フェノキシ基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等によってさらに置換されていてもよい。)、アセチル基、プロピオニル基等の炭素数2〜8のアシル基、またアセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等の炭素数2〜8の無置換のカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0092】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、揮発性、相溶性等の観点から、分子量300〜1500の範囲であることが好ましく、400〜1000の範囲であることが更に好ましい。
【0093】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0094】
多価アルコールエステルは、公知の方法により合成できる。前記モノカルボン酸と、前記多価アルコールを例えば、酸の存在下縮合させエステル化する方法、また、有機酸を予め酸クロライドあるいは酸無水物としておき、多価アルコールと反応させる方法、有機酸のフェニルエステルと多価アルコールを反応させる方法等があり、目的とするエステル化合物により、適宜、収率のよい方法を選択することが好ましい。
【0095】
ポリエステル系可塑剤としては、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を用いることが好ましい。好ましいポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(i)で表させる。
【0096】
一般式(i):B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数2〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(i)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0097】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ一種または二種以上の混合物として使用することができる。
【0098】
ポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、一種または二種以上の混合物として使用される。
【0099】
また、本発明の芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0100】
本発明の芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ一種または二種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0101】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは400〜2000、より好ましくは500〜1500の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0102】
3価以上の芳香族多価カルボン酸エステル系可塑剤としてはトリメシン酸エステル、トリメリット酸エステルまたはピロメリット酸エステルであることが好ましい。芳香族多価カルボン酸とエステルを形成するアルコールは炭素数1〜8のアルコールであることが好ましい。
【0103】
特に好ましい3価以上の芳香族多価カルボン酸エステル系可塑剤の例としては、トリメシン酸トリブチル、トリメシン酸トリヘキシル、トリメシン酸トリ2−エチル−ヘキシル、トリメシン酸トリシクロヘキシル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリヘキシル、トリメリット酸トリ2−エチル−ヘキシル、トリメリット酸トリシクロヘキシル、ピロメリット酸テトラブチル、ピロメリット酸テトラヘキシル、ピロメリット酸テトラ2−エチル−ヘキシル、ピロメリット酸テトラシクロヘキシル、などが上げられるが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
グリコレート系可塑剤としては、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等を用いることが出来る。この他、アセチルトリブチルシトレートなどのクエン酸エステル系可塑剤、エポキシ化オイル系可塑剤なども使用することができる。
【0105】
《糖エステル化合物》
本発明のセルロースエステルフィルムは、フラノース構造およびピラノース構造から選ばれる少なくとも一種の構造が1〜12個結合した糖化合物の水酸基をエステル化した糖エステル化合物を含む溶融組成物を溶融製膜することが好ましい。
【0106】
本発明の糖化合物としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、アラビノース、ラクトース、スクロース、セロビオース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースなどが挙げられるが、特にフラノース構造とピラノース構造を両方有するものが好ましい。例としてはスクロースが挙げられる。
【0107】
本発明の糖エステル化合物は、糖化合物の有する水酸基の一部または全部が酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸などのカルボン酸でエステル化されているものである。エステル化は一種類のカルボン酸で行っても良いし、二種以上の混合酸で行っても良い。
【0108】
《アクリル系ポリマー》
本発明では、添加剤の他に光学特性を調整するために、重量平均分子量が500以上350,000以下であるアクリル系ポリマーを含む溶融組成物を溶融製膜することが好ましい。
【0109】
アクリル系ポリマーとしては、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル、などを主成分とするホモポリマー、または共重合ポリマーを挙げることができる。また、N−ビニルピロリドン等のビニル類、スチレン、4−ヒドロキシスチレン等のスチレン類、アクリロイルモルフォリン等のアクリルアミド類などを共重合成分として含有させることも好ましい。
【0110】
これらポリマー可塑剤は一種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを二種以上併用して用いてもよい。
【0111】
《酸化防止剤、熱劣化防止剤》
本発明では、酸化防止剤、熱劣化防止剤としては、通常知られている劣化防止剤(酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミンなど)を使用することができる。特に、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系化合物のものを好ましく用いることができる。劣化防止剤については、特開平3−199201号公報、特開平5−1907073号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報に記載がある。
【0112】
上記フェノール系化合物としては、2,6−ジアルキルフェノールの構造を有するものが好ましく、例えば、チバ・ジャパン(株)から、Irganox1076、Irganox1010という商品名で市販されているものが好ましい。
【0113】
上記リン系化合物は、例えば、住友化学(株)から、SumilizerGP、ADEKA(株)からADK STAB PEP−24G、ADK STAB PEP−36及びADK STAB 3010、チバ・ジャパン(株)からIRGAFOS P−EPQ、堺化学(株)からGSY−P101という商品名で市販されているものが好ましい。
【0114】
上記ヒンダードアミン系化合物は、例えば、チバ・ジャパン(株)から、Tinuvin144及びTinuvin770、ADEKA(株)からADK STAB LA−52という商品名で市販されているものが好ましい。
【0115】
上記イオウ系化合物は、例えば、住友化学(株)から、Sumilizer TPL−R及びSumilizer TP−Dという商品名で市販されているものが好ましい。
【0116】
上記二重結合系化合物は、住友化学(株)から、Sumilizer GM及びSumilizer GSという商品名で市販されているものが好ましい。
【0117】
さらに、酸捕捉剤として米国特許第4,137,201号明細書に記載されているような、エポキシ基を有する化合物を含有させることも可能である。
【0118】
これらの酸化防止剤等は、再生使用される際の工程に合わせて適宜添加する量が決められるが、一般には、フィルムの主原料である樹脂に対して、0.05〜5質量%の範囲で添加される。
【0119】
これらの酸化防止剤、熱劣化防止剤は、一種のみを用いるよりも数種の異なった系の化合物を併用することで相乗効果を得ることができる。例えば、ラクトン系、リン系、フェノール系および二重結合系化合物の併用は好ましい。
【0120】
《リターデーション調整剤》
本発明のセルロースエステルフィルムにおいてリターデーションを調整するための化合物を含有させてもよい。
【0121】
リターデーションを調整するために添加する化合物は、欧州特許第911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物を使用することが出来る。
【0122】
また二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。該芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族性ヘテロ環であることが特に好ましく、芳香族性ヘテロ環は一般に不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環を有する化合物が特に好ましい。
【0123】
《着色剤》
本発明においては、着色剤を使用することが好ましい。着色剤と言うのは染料や顔料を意味するが、本発明では、液晶画面の色調を青色調にする効果またはイエローインデックスの調整、ヘイズの低減を有するものを指す。
【0124】
着色剤としては各種の染料、顔料が使用可能だが、アントラキノン染料、アゾ染料、フタロシアニン顔料などが有効である。
【0125】
《その他の添加剤》
本発明のセルロースエステルフィルムには、前記化合物以外に、通常のセルロースエステルフィルムに添加することのできる添加剤を含有させることができる。
【0126】
これらの添加剤としては、紫外線吸収剤、微粒子等を挙げることができる。
【0127】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明においては、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0128】
本発明のセルロースエステルフィルムに添加される紫外線吸収剤は、分子内に芳香族環を2つ以上有する紫外線吸収剤が、特に好ましく用いられる。
【0129】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。高分子型の紫外線吸収剤としてもよい。本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましい。本発明に用いられる紫外線吸収剤の具体例として、例えばチバ・ジャパン(株)製のTINUVIN109、TINUVIN171、TINUVIN326、TINUVIN327、TINUVIN328、TINUVIN900、TINUVIN928、ADEKA(株)製のLA−31等を好ましく用いることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤は単独で用いても良いし、二種以上の混合物であっても良い。
【0130】
紫外線吸収剤の使用量は化合物の種類、使用条件などにより一様ではないが、セルロースエステルフィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、セルロースエステルフィルムに対して0.5〜4.0質量%が好ましく、0.6g〜3.5質量%がさらに好ましい。
【0131】
本発明に使用される微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。
【0132】
微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。また、マット剤微粒子は有機物によって表面処理されていることが、フィルムのヘイズを低下できるため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどがあげられる。
【0133】
微粒子の平均径が大きい方がマット効果は大きく、平均径の小さい方は透明性に優れるため、本発明においては、微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましいのは7〜20nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されることが好ましい。
【0134】
セルロースエステルフィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.05〜1質量%であることが好ましく、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成のセルロースエステルフィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0135】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、商品名がアエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600,NAX50(以上日本アエロジル(株)製)などを使用することができる。
【0136】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0137】
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0138】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vがセルロースエステルフィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。
【0139】
<溶融製膜方法>
本発明の光学フィルムは、溶融流延によって形成されることを特徴とする。本願において、「溶融製膜」とは、セルロースエステル及び可塑剤などの添加剤を含む組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性のセルロースエステルを含む溶融物を流延することと定義する。
【0140】
溶液流延法において用いられる溶媒(例えば塩化メチレン等)を用いずに、加熱溶融する成形法は、溶融押出し成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度及び表面精度などに優れるセルロースエステルフィルムを得るためには、溶融押出し成形法が優れている。
【0141】
以下、溶融押し出し成形法を例にとり、本発明の光学フィルムの製造方法について説明する。光学フィルムの製造方法において、溶融押し出しの条件は、他のポリエステル等の熱可塑性樹脂に用いられる条件と同様にして行うことができる。
【0142】
《セルロースエステルと添加剤の溶融ペレット製造工程》
溶融押出に用いる複数の原材料は、通常あらかじめ混錬してペレット化しておくことが好ましい。
【0143】
ペレット化は、公知の方法でよく、例えば、乾燥セルロースエステルや可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出機に供給し一軸や二軸の押出機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷または空冷し、カッティングすることでできる。
【0144】
マット剤やUV吸収剤などは、高濃度のマスターペレットを作製して、フィルム製膜時に押出機中でメインのペレットと混合してもよい。
【0145】
原材料は、押出する前に乾燥しておくことが原材料の分解を防止する上で重要である。特にセルロースエステルは吸湿しやすいので、除湿熱風乾燥機や真空乾燥機で70〜140℃で3時間以上乾燥し、水分率を200ppm以下、更に100ppm以下にしておくことが好ましい。
【0146】
添加剤は、押出機に供給する前に混合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。酸化防止剤等少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておくことが好ましい。
【0147】
真空ナウターミキサーなどが乾燥と混合を同時にできるので好ましい。また、フィーダー部やダイからの出口など空気と触れる場合は、除湿空気や除湿した窒素ガスなどの雰囲気下にすることが好ましい。
【0148】
また、押出機への供給ホッパー等は保温しておくことが吸湿防止できるので好ましい。
【0149】
押出機は、せん断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。例えば、二軸押出機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
【0150】
ニーダーディスクは混錬性を向上できるが、せん断発熱に注意が必要である。ニーダーディスクを用いなくても混合性は十分である。ベント孔からの吸引は必要に応じて行えばよい。低温であれば揮発成分はほとんど発生しないのでベント孔なしでもよい。
【0151】
ペレットの色は、黄味の指標であるb*値が−5〜10の範囲にあることが好ましく、−1〜8の範囲にあることがさらに好ましく、−1〜5の範囲にあることがより好ましい。b*値は分光測色計CM−3700d(コニカミノルタセンシング(株)製)で、光源はD65(色温度6504K)を用い、視野角10°で測定することができる。
【0152】
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行うことが好ましい。ペレット化せずに、原材料の粉末をそのままフィーダーで押し出し機に供給してフィルム製膜することも可能である。
【0153】
《セルロースエステルと添加剤の溶融物をダイから押し出す工程》
ペレットなどの材料は予め乾燥させておくことが好ましい。真空または減圧乾燥機や除湿熱風乾燥機等で水分を200ppm以下、好ましくは100ppm以下に乾燥させることが望ましい。
【0154】
除湿熱風や真空または減圧下で乾燥したポリマーを一軸や二軸タイプの押し出し機を用いて溶融し、リーフディスクタイプのフィルターなどでろ過して異物を除去した後、流涎ダイからフィルム状に流延し、冷却ロール上で固化させる。
【0155】
押出し機は、市場で入手可能な種々の押出し機を使用可能であるが、溶融混練押出し機が好ましく、単軸押出し機でも二軸押出し機でもよい。
【0156】
供給ホッパーから押し出し機へ導入する部位、および押出し機内は窒素ガス等の不活性ガスで置換するか、あるいは減圧することにより、酸素の濃度を下げることが酸化分解を抑制する点で好ましい。
【0157】
押出し機内の光学フィルム構成材料の溶融温度は、光学フィルム構成材料の粘度や吐出量、製造するシートの厚み等によって好ましい条件が異なるが、150〜300℃が好ましく、180〜270℃がより好ましく、200〜260℃がさらに好ましい。温度が低すぎると溶解不良や溶融粘度の上昇が発生し、温度が高すぎると材料の熱分解が起こる。
【0158】
押出し時の溶融粘度は、10〜100000ポイズ、好ましくは100〜10000ポイズである。溶融粘度が高すぎると圧力の上昇によって、押出し機内での滞留時間が長くなる。押出し機内での光学フィルム構成材料の滞留時間は短い方が好ましく、5分以内、好ましくは3分以内、より好ましくは2分以内である。
【0159】
滞留時間は、押出し機の種類、押出す条件にも左右されるが、材料の供給量やL/D、スクリュー回転数、スクリューの溝の深さ等を調整することにより短縮することが可能である。
【0160】
押出し機のスクリューの形状や回転数等は、光学フィルム構成材料の粘度や吐出量等により適宜選択される。本発明において押出し機でのせん断速度は、1/秒〜10000/秒、好ましくは5/秒〜1000/秒、より好ましくは10/秒〜100/秒である。
【0161】
押出し機から押し出された溶融樹脂は、流延ダイに送られ、流延ダイのスリットから光学フィルム状に押し出される。流延ダイはシートや光学フィルムを製造するために用いられるものであれば特に限定はされない。
【0162】
流延ダイの材質としては、ハードクロム、炭化クロム、窒化クロム、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化チタン、超鋼、セラミック(タングステンカーバイド、酸化アルミ、酸化クロム)等を溶射もしくはメッキし、表面加工としてバフ、#1000番手以降の砥石を用いるラッピング、#1000番手以上のダイヤモンド砥石を用いる平面切削(切削方向は樹脂の流れ方向に垂直な方向)、電解研磨、電解複合研磨等の加工を施したもの等が挙げられる。流延ダイのリップ部の好ましい材質は、流延ダイ4と同様である。またリップ部の表面精度は0.5S以下が好ましく、0.2S以下がより好ましい。
【0163】
この流延ダイのスリットは、そのギャップが調整可能なように構成されている。
【0164】
流延ダイのスリットを形成する一対のリップのうち、一方は剛性の低い変形しやすいフレキシブルリップであり、他方は固定リップである。
【0165】
そして、多数のヒートボルトが流延ダイの幅方向に一定ピッチで配列されている。各ヒートボルトには、埋め込み電気ヒーターと冷却媒体通路とを具えたブロックが設けられ、各ヒートボルトが各ブロックを縦に貫通している。
【0166】
ヒートボルトの基部はダイ本体に固定され、先端はフレキシブルリップの外面に当接している。そしてブロックを常時空冷しながら、埋め込み電気ヒーターの入力を増減してブロックの温度を上下させ、これによりヒートボルトを熱伸縮させて、フレキシブルリップを変位させて光学フィルムの厚さを調整する。
【0167】
ダイ後流の所要箇所に厚さ計を設け、これによって検出されたウェブ厚さ情報を制御装置にフィードバックし、この厚さ情報を制御装置で設定厚み情報と比較し、同装置から来る補正制御量の信号によってヒートボルトの発熱体の電力またはオン率を制御するようにすることもできる。
【0168】
ヒートボルトは、好ましくは、長さ20〜40cm、直径7〜14mmを有し、複数、例えば数十本のヒートボルトが、好ましくはピッチ20〜40mmで配列されている。
【0169】
ヒートボルトの代わりに、手動で軸方向に前後動させることによりスリットギャップを調節するボルトを主体とするギャップ調節部材を設けてもよい。
【0170】
ギャップ調節部材によって調節されたスリットギャップは、通常200〜2000μm、好ましくは300〜1000μm、より好ましくは400〜800μmである。
【0171】
押出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。
【0172】
ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体を複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し接触箇所を焼結し一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、ろ過精度を調整できる。
【0173】
フィルターはろ過精度の異なるろ過材を組み合わせて多層体としたものが好ましい。また、ろ過精度を順次上げていく構成としたり、ろ過精度の粗、密を繰り返す方法をとることで、フィルターのろ過寿命が延び、異物やゲルなどの補足精度も向上できるので好ましい。
【0174】
ダイに傷や異物が付着するとスジ状の欠陥が発生する場合がある。このような欠陥のことをダイラインと呼ぶが、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、押し出し機からダイまでの配管には樹脂の滞留部が極力少なくなるような構造にすることが好ましい。ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。
【0175】
押し出し機やダイなどの溶融樹脂と接触する内面は、表面粗さを小さくしたり、表面エネルギーの低い材質を用いるなどして、溶融樹脂が付着し難い表面加工が施されていることが好ましい。具体的には、ハードクロムメッキやセラミック溶射したものを表面粗さ0.2S以下となるように研磨したものが挙げられる。
【0176】
可塑剤などの添加剤は、あらかじめ樹脂と混合しておいてもよいし、押し出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
【0177】
《冷却ロール》
本発明の冷却ロールには特に制限はないが、高剛性の金属ロールで内部に温度制御可能な熱媒体または冷媒体が流れるような構造を備えるロールであり、大きさは限定されないが、溶融押出されたフィルムを冷却するのに十分な大きさであればよく、通常冷却ロールの直径は100mmから1m程度である。
【0178】
冷却ロールの表面材質は、炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、チタンなどが挙げられる。更に表面の硬度をあげたり、樹脂との剥離性を改良するため、ハードクロムメッキや、ニッケルメッキ、非晶質クロムメッキなどや、セラミック溶射等の表面処理を施すことが好ましい。
【0179】
冷却ロールは、肉厚が20〜30mm程度のシームレスな鋼管製で、表面が鏡面に仕上げられている。
【0180】
冷却ロール表面の表面粗さは、Raで0.1μm以下とすることが好ましく、更に0.05μm以下とすることが好ましい。ロール表面が平滑であるほど、得られるフィルムの表面も平滑にできるのである。もちろん表面加工した表面は更に研磨し上述した表面粗さとすることが好ましい。
【0181】
本発明の冷却ロールは少なくとも一つであり、二つ以上有しているのが好ましい。一つしかない場合、冷却ロールの表面温度Trは、Tg−50≦Tr≦Tgに設定される。二つ以上の場合、第1冷却ロールと第2冷却ロールの表面温度は、Tg−50≦Tr1≦Tg、Tg−50≦Tr2≦Tgに設定される。
【0182】
好ましくは、Tr2>Tr1であり、0<Tr2−Tr1<50である。
【0183】
このことにより、冷却ロール上への添加剤の凝結量がコントロールされ、さらにセルロースフィルムに再溶融されることになる。
【0184】
セルロースエステルフィルムと第1および第2冷却ロールとの接触時間によっても再溶解を促進することができるが、本発明においては1.0秒以上、3.0秒以下が好ましい。
【0185】
なお、接触時間は、フィルムとローラとが接しはじめる接点と剥離されはじめる接点との円周の距離と、フィルムの搬送速度から算出した秒数で表した。
【0186】
第2冷却ロールの周速度R2は第1冷却ロールの周速度R1よりも大きいことが好ましい。つまりこの2つのロール間のフィルムに張力が働き、フィルムと第1ロールとの密着性が高まる。この周速度の比は1.00〜1.05の範囲が好ましく、1.05を超えるとフィルムが破断する危険性がある。同様に、第3以降のロール周速度がその直前の冷却ロールの周速度より大きいことが好ましい。
【0187】
《弾性タッチロール》
冷却ロールに当接するタッチロールは、表面が弾性を有し、冷却ロールへの押圧力によって冷却ロールの表面に沿って変形し、冷却ロールとの間にニップを形成することができる、弾性タッチロールであることが好ましい。
【0188】
本発明の弾性タッチロールとしては、特許第3194904号、特許第3422798号、特開平03−124425号、特開平08−224772号、特開平07−100960号、特開平10−272676号公報、WO97−028950号明細書、特開平11−235747号、特開2002−36332号、特開2002−36333号、特開2005−172940号や特開2005−280217号公報に記載されているような弾性タッチロールを使用することができる。
【0189】
本発明で用いる弾性タッチロールは、金属製外筒と内筒との2重構造になっており、その間に冷却流体を流せるように空間を有しているものである。
【0190】
更に、金属製外筒は弾性を有していることにより、タッチロール表面の温度を精度よく制御でき、かつ適度に弾性変形する性質を利用して、長手方向にフィルムを押圧する距離が稼げるとの効果を有することにより、液晶表示装置で画像を表示したときに、明暗のスジや斑点むらがないという本発明の効果が得られるのである。
【0191】
金属製外筒の肉厚の範囲は、0.003≦(金属製外筒の肉厚)/(タッチロール半径)≦0.03であれば、適度な弾性となり好ましい。タッチロールの半径が大きければ金属外筒の肉厚が厚くても適度に撓むことが出来る。金属製外筒の肉厚があまり薄すぎると強度が不足し、破損の懸念がある。一方、厚すぎると、ロール質量が重くなりすぎ、回転むらの懸念がある。従って、金属外筒の肉厚は、0.1〜5mmであることが好ましい。
【0192】
弾性タッチロールの直径は100mm〜600mm、ロール有効幅L=500〜1600mmで、r/L<1で横長の形状が好ましい。
【0193】
金属外筒表面の表面粗さは、算術平均粗さRaで0.1μm以下とすることが好ましく、更に0.05μm以下とすることが好ましい。ロール表面が平滑であるほど、得られるフィルムの表面も平滑にできるのである。
【0194】
金属外筒の材質は、平滑で、適度な弾性があり、耐久性があることが求められる。炭素鋼、ステンレス、チタン、電鋳法で製造されたニッケルなどが好ましく用いることができる。更にその表面の硬度をあげたり、樹脂との剥離性を改良するため、ハードクロムメッキや、ニッケルメッキ、非晶質クロムメッキなどや、セラミック溶射等の表面処理を施すことが好ましい。表面加工した表面は更に研磨し上述した表面粗さとすることが好ましい。
【0195】
内筒は、炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、チタンなどの軽量で剛性のある金属製内筒であることが好ましい。内筒に剛性をもたせることで、ロールの回転ぶれを抑えることができる。内筒の肉厚は、外筒の2〜10倍とすることで十分な剛性が得られる。
【0196】
内筒には更にシリコーン、フッ素ゴムなどの樹脂製弾性材料が被覆されていてもよい。
【0197】
冷却流体を流す空間の構造は、ロール表面の温度を均一に制御できるものであればよく、例えば、巾方向に行きと戻りが交互に流れるようにしたり、スパイラル状に流れるようにすることでロール表面の温度分布の小さい温度制御ができる。
【0198】
冷却流体は、特に制限はなく、使用する温度域に合わせて、水やオイルを使用できる。
【0199】
弾性タッチロールの表面温度Tr0は、フィルムのガラス転移温度(Tg)より低いことが好ましい。Tgより高いと、フィルムとロールとの剥離性が劣る場合がある。Tg−50℃〜Tgであることが更に好ましい。
【0200】
本発明で用いる弾性タッチロールは、巾方向の中央部が端部より径が大きいいわゆるクラウンロールの形状とすることが好ましい。
【0201】
タッチロールは、その両端部を加圧手段でフィルムに押圧するのが一般的であるが、この場合、タッチロールが撓むため、端部にいくほど強く押圧されてしまう現象がある。ロールをクラウン形状にすることで高度に均一な押圧が可能となるのである。
【0202】
本発明で用いる弾性タッチロールの幅は、フィルム幅よりも広くすることで、フィルム全体を冷却ロールに密着できるので好ましい。また、ドロー比が大きくなると、フィルムの両端部がネックイン現象により耳高(端部の膜厚が厚くなる)になる場合がある。
【0203】
この場合は、耳高部を逃げるように、金属製外筒の幅をフィルム幅より狭くしてもよい。あるいは、金属製外筒の外径を小さくして耳高部を逃げてもよい。
【0204】
弾性タッチロールの撓みを防止するため、冷却ロールに対してタッチロールの反対側にサポートロールを配してもよい。
【0205】
弾性タッチロールの汚れを清掃する装置を配してもよい。清掃装置としては、例えば、ロール表面を必要により溶剤を浸透させた不織布などの部材をロールに押し当てる方法、液体中にロールを接触させる方法、コロナ放電やグロー放電などのプラズマ放電によりロール表面の汚れを揮発させる方法などが好ましく用いることができる。
【0206】
弾性タッチロールの表面温度Tr0を更に均一にするため、タッチロールに温調ロールを接触させたり、温度制御された空気を吹き付けたり、液体などの熱媒体を接触させてもよい。
【0207】
本発明では、更に弾性タッチロール押圧時のタッチロール線圧を9.8N/cm以上、147N/cm以下にすることが好ましい。線圧がこの範囲よりも小さいと、ダイラインを十分に解消することができなくなる。
【0208】
線圧とは、弾性タッチロールがフィルムを押圧する力を押圧時のフィルム幅で除した値である。線圧を上記の範囲にする方法は、特に限定はなく、例えば、エアーシリンダーや油圧シリンダーなどでロール両端を押圧することができる。
【0209】
サポートロールにより弾性タッチロールを押圧することで、間接的にフィルムを押圧してもよい。
【0210】
タッチロールによってダイラインを良好に解消するためには、タッチロールが光学フィルムを挟圧するときの光学フィルムの粘度が適切な範囲であることが重要となる。
【0211】
また、セルロースエステルは温度による粘度の変化が比較的大きいことが知られている。
【0212】
光学フィルムのガラス転移温度をTgとしたとき、押出されたフィルムがタッチロールに挟圧される直前のタッチロール側フィルム表面温度Ttを、Tg<Tt<Tg+110℃とすることが好ましい。
【0213】
即ち、タッチロールに挟圧される直前のフィルムの温度Ttが上記の範囲にすると、フィルムを挟圧するときのフィルムの粘度を適切な範囲に設定することができ、ダイラインの矯正が可能となり、また、フィルム表面とロールが均一に接着し、ダイラインの矯正が可能となる。
【0214】
好ましくはTg+10℃<Tt<Tg+90℃、さらに好ましくはTg+20℃<Tt<Tg+70℃である。
【0215】
押圧時のフィルム温度を上記範囲にする方法は特に限定はないが、例えば、ダイと冷却ロール間の距離を近づけて、ダイと冷却ロール間での冷却を抑制する方法やダイと冷却ロール間を断熱材で囲って保温したり、あるいは熱風や赤外線ヒーターやマイクロ波加熱等により加温する方法が挙げられる。
【0216】
フィルム表面温度およびロール表面温度は非接触式の赤外温度計で測定できる。具体的には、非接触ハンディ温度計(IT2−80、(株)キーエンス製)を用いてフィルムの幅手方向に10箇所を被測定物から0.5mの距離で測定する。
【0217】
弾性タッチロール側フィルム表面温度Ttは、搬送されているフィルムをタッチロールをはずした状態でタッチロール側から非接触式の赤外温度計で測定したフィルム表面温度のことをさす。
【0218】
本発明のセルロースエステルフィルムの写像性C値はクシ歯0.125mmの透過測定において90以上100以下であることを特徴としている。この写像性C値は、最後の冷却ロールを通過した時点での写像性である。
【0219】
冷却ロール通過後の写像性は、凝結物がフィルム表面に再溶融したセルロースエステルフィルムの状態を表す指標として相関のあるものである。C値が大きいほど、再溶融の進んでいることが実験的に確認されている。
【0220】
なお、写像性C値は、スガ試験機株式会社の写像性測定器ICM−IDPで透過(0度)測定、光学クシ歯0.125mmで測定した写像性(光沢値C値%)を表す。
【0221】
《ダイから押し出された溶融物を冷却ロールと弾性タッチロールとの間に押圧しながら流延する工程》
本発明においては、流延ダイの開口部(リップ)から冷却ロールまでの部分を70kPa以下に減圧させることにより、上記、ダイラインの矯正効果がより大きく発現する。
【0222】
好ましくは減圧は50〜70kPaである。流延ダイの開口部(リップ)から冷却ロールまでの部分の圧力を70kPa以下に保つ方法としては、特に制限はないが、流延ダイからロール周辺を耐圧部材で覆い、減圧する等の方法がある。
【0223】
このとき、吸引装置は、装置自体が昇華物の付着場所にならないようヒーターで加熱する等の処置を施すことが好ましい。本発明では、吸引圧が小さすぎると昇華物を効果的に吸引できないため、適当な吸引圧とする必要がある。
【0224】
セルロースエステルを含む溶融物は他の熱可塑性樹脂と比較して、溶融粘度が高く、延伸もしにくい。
【0225】
そのため、ドロー比が大きいと搬送方向で膜厚変動が生じやすく、又、テンター工程で延伸する際にも破断しやすくなるという問題があり、せいぜいドロー比7〜8程度で実施していたのであるが、本発明では、セルロースエステルを含む溶融物をダイからフィルム状に押出し、ドロー比10以上30以下として得られたフィルムを、弾性タッチロールで冷却ロールに押圧しながら搬送する。
【0226】
ドロー比とは、ダイのリップクリアランスを冷却ロール上で固化したフィルムの平均膜厚で除した値である。ドロー比をこの範囲とすることで、液晶表示装置で画像を表示したときに、明暗のスジや斑点状むらがなく、生産性の良好な偏光板保護フィルムが得られるのである。
【0227】
ドロー比は、ダイリップクリアランスと冷却ロールの引き取り速度により調整できる。ダイリップクリアランスは、900μm以上が好ましく、更に1mm以上2mm以下が好ましい。大きすぎても、小さすぎても斑点状むらが改善されない場合がある。
【0228】
冷却ロールと弾性タッチロールでフィルムをニップする際のタッチロール側のフィルム温度をフィルムのTg以上Tg+110℃以下にすることは、フィルム表面の写像性を調整するために好ましい。このような目的で使用する弾性体表面を有するロールは、公知のロールが使用できる。
【0229】
冷却ロールからフィルムを剥離する際は、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
【0230】
《ロール清掃設備》
本発明の製造装置には、ドラムおよびロールを自動的に清掃する装置を付加させることが好ましい。清掃装置については特に限定はないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール、粘着ロール、ふき取りロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、レーザーによる焼却装置、或いはこれらの組み合わせなどがある。
【0231】
清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0232】
《延伸工程》
本発明では、上記のようにして得られたフィルムは冷却ロールに接する工程を通過後、更に少なくとも1方向に1.01〜3.0倍延伸することが好ましい。延伸によりスジの改良などの面品質の向上、リターデーションの調整などを行うことができる。
【0233】
好ましくは縦(フィルム搬送方向)、横(巾方向)両方向にそれぞれ1.1〜2.0倍延伸することが好ましい。
【0234】
延伸する方法は、公知のロール延伸機やテンターなどを好ましく用いることができる。
【0235】
本発明のセルロースエステルフィルムを光学補償機能を有するフィルムとして用いる場合は、所望のリターデーション特性が得られるように温度、倍率を選ぶことができる。
【0236】
通常、延伸倍率は1.01〜3.0倍、好ましくは1.1〜2.0倍であり、延伸温度は、通常、フィルムを構成する樹脂のTg〜Tg+50℃、好ましくはTg〜Tg+40℃の温度範囲で行われる。
【0237】
延伸倍率が小さすぎるとスジの改良が十分でなかったり、所望のリターデーションが得られない場合があり、大きすぎると破断してしまう場合がある。延伸温度が低すぎると破断してしまう場合があり、高すぎるとスジの改良が十分でなかったり、所望のリターデーションが得られない場合がある。
【0238】
延伸は、幅手方向で制御された均一な温度分布下で行うことが好ましい。好ましくは±2℃以内、さらに好ましくは±1℃以内、特に好ましくは±0.5℃以内である。
【0239】
また延伸工程には公知の熱固定条件、冷却、緩和処理を行ってもよく、目的とするフィルムに要求される特性を有するように適宜調整することができる。
【0240】
位相フィルムの物性と液晶表示装置の視野角拡大のための位相フィルムの機能付与するために、上記延伸工程、熱固定処理は適宜選択して行われている。このような延伸工程、熱固定処理を含む場合、加熱加圧工程は、それらの延伸工程、熱固定処理の前に行うようにする。
【0241】
上記の方法で作製したセルロースエステルフィルムのリターデーション調整や寸法変化率を小さくする目的で、フィルムを長手方向や幅手方向に収縮させてもよい。
【0242】
長手方向に収縮するには、例えば、巾延伸を一時クリップアウトさせて長手方向に弛緩させる、または横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることによりフィルムを収縮させるという方法がある。
【0243】
後者の方法は一般の同時二軸延伸機を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行うことが出来る。必要により任意の方向(斜め方向)の延伸と組み合わせてもよい。長手方向、巾手方向とも0.5%から10%収縮させることで光学フィルムの寸法変化率を小さくすることができる。
【0244】
延伸によってフィルムの弾性率を上げることができるため、延伸は溶融製膜したセルロースエステルフィルムの弾性率の低さを補う手段として有効である。また、延伸することで溶融製膜したセルロースエステルフィルムの接触角が下がることが分かった。これは、延伸でフィルムが延ばされることによって体積あたりの表面積が増える結果、フィルム内部に潜り込んでいた極性基が表面に出てくるためと考えられる。
【0245】
光学フィルムとして位相差フィルムを製造し、さらに偏光板保護フィルムの機能を複合させる場合、屈折率制御を行う必要が生じるが、その屈折率制御は延伸操作により行うことが可能である。
【0246】
位相差フィルムの延伸工程において、セルロース樹脂の1方向に1.0〜2.0倍及び光学フィルム面内にそれと直交する方向に1.01〜2.5倍延伸することで、必要とされるリターデーションRo及びRthを制御することができる。ここで、Roとは面内リターデーションを示し、Rthとは厚み方向リターデーションを示す。
【0247】
位相差機能を有する場合Roは20〜200nm、Rthは90〜400nmであり、RthとRoの比Rth/Roは、0.5〜4が好ましく、特に1〜3が好ましい。
【0248】
なお、フィルムの遅相軸方向の屈折率Nx、進相軸方向の屈折率Ny、厚み方向の屈折率Nz、フィルムの膜厚をd(nm)とすると、
Ro=(Nx−Ny)×d
Rth={(Nx+Ny)/2−Nz}×d
として表される。(測定波長590nm)
リターデーションのバラツキは小さいほど好ましく、通常±10nm以内、好ましくは±5nm以下、より好ましくは±2nm以下である。
【0249】
遅相軸方向の均一性も重要であり、フィルム巾方向に対して、角度θ1が−1〜+1°の範囲にあることが好ましく、更に−0.5〜+0.5°の範囲にあることが好ましく、特に−0.1〜+0.1°の範囲にあることが好ましい。これらのばらつきは延伸条件を最適化することで達成できる。
【0250】
このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器社製)を用いて行うことができる。
【0251】
θ1が各々上記関係を満たすことは、光漏れを抑制または防止することに寄与し、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現に寄与する。
【0252】
位相差フィルムの面内方向のリターデーションRo分布は、5%以下に調整することが好ましく、より好ましくは2%以下であり、特に好ましくは、1.5%以下である。
【0253】
また、光学フィルムの厚み方向のリターデーションRth分布を10%以下に調整することが好ましいが、さらに好ましくは、2%以下であり、特に好ましくは、1.5%以下である。
【0254】
位相差フィルムにおいて、リターデーション値の分布変動が小さい方が好ましく、液晶表示装置に位相差フィルムを含む偏光板を用いるとき、該リターデーション分布変動が小さいことが色ムラ等を防止する観点で好ましい。
【0255】
延伸は、例えば光学フィルムの長手方向及びそれと光学フィルム面内で直交する方向、即ち幅方向に対して、逐次または同時に行うことができる。
【0256】
互いに直行する二軸方向に延伸することにより、得られる光学フィルムの膜厚変動が減少できる。位相差フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなり、液晶ディスプレイに用いたとき着色等のムラが問題となることがある。
【0257】
光学フィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。以上のような目的において、互いに直交する二軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する二軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に1.0〜2.0倍、幅方向に1.01〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に1.01〜1.5倍、幅方向に1.05〜2.0倍に範囲で行うことが必要とされるリターデーション値を得るためにより好ましい。
【0258】
延伸後、光学フィルムの端部をスリッターにより製品となる幅にスリットして裁ち落とした後、エンボスリング及びバックロールよりなるナール加工装置によりナール加工(エンボッシング加工)を光学フィルム両端部に施し、巻取り機によって巻き取ることにより、光学フィルム(元巻き)中の貼り付きや、すり傷の発生を防止する。ナール加工の方法は、凸凹のパターンを側面に有する金属リングを加熱や加圧により加工することができる。
【0259】
なお、光学フィルム両端部のクリップの把持部分は通常、変形しており、光学フィルム製品として使用できないので、切除されて、原料として再利用される。
【0260】
次に、光学フィルムの巻取り工程は、円筒形巻き光学フィルムの外周面とこれの直前の移動式搬送ロールの外周面との間の最短距離を一定に保持しながら光学フィルムを巻取りロールに巻き取るものである。かつ巻取りロールの手前には、光学フィルムの表面電位を除去または低減する除電ブロア等の手段が設けられている。
【0261】
本発明の光学フィルムの製造に係わる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の巻き取り方法で巻き取ることができる。なお、光学フィルムの巻取り時の初期巻取り張力が90.2〜300.8N/mであるのが好ましい。
【0262】
本発明の方法における光学フィルムの巻き取り工程では、温度20〜30℃、湿度20〜60%RHの環境条件にて、光学フィルムを巻き取ることが好ましい。
【0263】
このように、光学フィルムの巻き取り工程での温度及び湿度を規定することにより、厚み方向リターデーション(Rth)の湿度変化の耐性が向上する。
【0264】
巻き取り工程における温度が20〜30℃の範囲であれば、シワの発生がなく、光学フィルム巻品質劣化もない。
【0265】
また、光学フィルムの巻き取り工程における湿度が20〜60%RHであれば、帯電しにくく、光学フィルム巻品質劣化も削減され、巻品質に優れ、貼り付き故障もなく、搬送性の劣化もない。
【0266】
光学フィルムをロール状に巻き取る際の、巻きコアとしては、円筒上のコアであれは、どのような材質のものであってもよいが、好ましくは中空プラスチックコアであり、プラスチック材料としては加熱処理温度にも耐える耐熱性プラスチックであればどのようなものであってもよく、フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0267】
またガラス繊維等の充填材により強化した熱硬化性樹脂が好ましい。例えば、中空プラスチックコア:FRP製の外径6インチ(以下、1インチは2.54cmである。)、内径5インチの巻きコアが用いられる。
【0268】
これらの巻きコアへの巻き数は、100巻き以上であることが好ましく、500巻き以上であることがさらに好ましく、巻き厚は5cm以上であることが好ましく、光学フィルム基材の幅は80cm以上であることが好ましく、1m以上であることが特に好ましい。
【0269】
本発明の光学フィルムの製造において、ロール長さは、生産性と運搬性を考慮すると、長さは10〜5000mが好ましく、より好ましくは50〜4500mである。
【0270】
このときの光学フィルムの幅は、偏光子の幅や製造ラインに適した幅を選択することができるが、0.5〜4.0m、好ましくは0.6〜3.0mの幅で光学フィルムを製造してロール状に巻き取ることが好ましい。
【0271】
本発明のセルロースエステルフィルムは、隣接する山の頂点から谷の底点までの高さが300nm以上であり、傾きが300nm/mm以上の長手方向に連続するスジがないことが好ましい。
【0272】
スジの形状は、表面粗さ計を用いて測定したもので、具体的には、ミツトヨ製SV−3100S4を使用して、先端形状が円錐60°、先端曲率半径2μmの触針(ダイヤモンド針)に測定力0.75mNの加重をかけながら、測定速度1.0mm/secでフィルムの巾方向に走査し、Z軸(厚み方向)分解能0.001μmとして断面曲線を測定する。
【0273】
この曲線から、スジの高さは、山の頂点から谷の底点までの垂直距離(H)を読み取る。スジの傾きは、山の頂点から谷の底点までの水平距離(L)を読み取り、垂直距離(H)を水平距離(L)で除して求める。
【0274】
《光学フィルム》
本願において、「光学フィルム」とは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種表示装置に用いられる機能フィルムのことであり、詳しくは液晶表示装置用の偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、ハードコートフィルム、防眩フィルム、帯電防止フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルム等である。
【0275】
光学フィルムの膜厚は10〜200μmが好ましく、25〜90μmが更に好ましい。フィルムがこの範囲より薄すぎると強度が不足し、厚すぎると偏光板作製工程などで生産性が低下する。
【0276】
位相差フィルムを、VAモードまたはTNモードの液晶セルの表示品質の向上に適したリターデーション値を有するように調整し、特にVAモードとして上記のマルチドメインに分割してMVAモードに好ましく用いられるようにするには、面内リターデーションRoを30nmよりも大きく、95nm以下に、かつ厚み方向リターデーションRthを70nmよりも大きく、400nm以下の値に調整することが求められる。
【0277】
上記の面内リターデーションRoは、二枚の偏光板がクロスニコルに配置され、偏光板の間に液晶セルが配置された構成であるときに、表示面の法線方向から観察するときを基準にしてクロスニコル状態にあるとき、表示面の法線から斜めに観察したとき、偏光板のクロスニコル状態からのずれが生じ、これが要因となる光漏れを、主に補償する。
【0278】
厚さ方向のリターデーションは、上記TNモードやVAモード、特にMVAモードにおいて液晶セルが黒表示状態であるときに、同様に斜めから見たときに認められる液晶セルの複屈折を主に補償するために寄与する。
【0279】
液晶表示装置において、液晶セルの上下に偏光板が二枚配置された構成である場合、厚み方向リターデーションRthの配分を選択することができ、上記範囲を満たしかつ厚み方向リターデーションRthの両者の合計値が140nmよりも大きくかつ500nm以下にすることが好ましい。
【0280】
液晶表示装置において、一方の偏光板に例えば市販の偏光板保護フィルムとして面内リターデーションRo=0〜4nm及び厚み方向リターデーションRth=20〜50nmで厚さ35〜85μmのTACフィルムが使用されている場合、他方の偏光板に配置される位相差フィルムは、面内リターデーションRoが30nmよりも大きく95nm以下であり、かつ厚み方向リターデーションRthが140nmよりも大きく400nm以下であるものを使用することにより、表示品質が向上し、かつ光学フィルムの生産面からも好ましい。
【0281】
前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースエステルを含む組成物を共押出しして、積層構造の光学フィルムを作製することもできる。
【0282】
例えば、スキン層/コア層/スキン層といった構成の光学フィルムを作ることができる。
【0283】
例えば、マット剤は、スキン層に多く、またはスキン層のみに入れることができる。可塑剤、紫外線吸収剤はスキン層よりもコア層に多く入れることができ、コア層のみに入れてもよい。
【0284】
また、コア層とスキン層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えば、スキン層に低揮発性の可塑剤及び/または紫外線吸収剤を含ませ、コア層に可塑性に優れた可塑剤、あるいは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。
【0285】
スキン層とコア層のガラス転移温度が異なっていてもよく、スキン層のガラス転移温度よりコア層のガラス転移温度が低いことが好ましい。
【0286】
このとき、スキン層とコア層の両者のガラス転移温度を測定し、これらの体積分率より算出した平均値を上記ガラス転移温度Tgと定義して同様に扱うこともできる。
【0287】
また、溶融流延時のセルロースエステルを含む溶融物の粘度もスキン層とコア層で異なっていてもよく、スキン層の粘度>コア層の粘度でも、コア層の粘度≧スキン層の粘度でもよい。
【0288】
(偏光板)
本発明のセルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。
【0289】
本発明の光学フィルムをアルカリ鹸化処理し、処理した光学フィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
【0290】
もう一方の面にも本発明の光学フィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明の光学フィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムは市販の光学フィルムを用いることができる。
【0291】
例えば、市販の光学フィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。
【0292】
あるいは、さらにディスコチック液晶、棒状液晶、コレステリック液晶等の液晶化合物を配向させて形成した光学異方層を有している光学補償フィルムを兼ねる偏光板保護フィルムを用いることも好ましい。例えば、特開2003−98348号公報記載の方法で光学異方性層を形成することができる。
【0293】
本発明の光学フィルムと組み合わせて使用することによって、平面性に優れ、安定した視野角拡大効果を有する偏光板を得ることができる。
【0294】
あるいは、光学フィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等の光学フィルムをもう一方の面の偏光板保護フィルムとして用いてもよい。
【0295】
上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、同6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
【0296】
偏光板の主たる構成要素である偏光膜とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0297】
偏光膜は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0298】
偏光膜の膜厚は5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。
【0299】
該偏光膜の面上に、本発明のセルロースエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。
【0300】
偏光膜は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸と垂直方向(通常は幅方向)には伸びる。偏光板保護用フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光膜の延伸方向の収縮量が大きい。
【0301】
通常、偏光膜の延伸方向は偏光板保護用フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板保護用フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑えることが重要である。本発明の光学フィルムは極めて寸法安定性に優れるため、このような偏光板保護フィルムとして好適に使用される。
【0302】
即ち60℃90%RHの条件での耐久性試験によっても波打ち状のむらが増加することはなく、耐久性試験後に視野角特性が変動することなく良好な視認性を提供することができる。
【0303】
偏光板保護フィルム製造に際し、延伸の前または後で帯電防止層、ハードコート層、易滑性層、接着層、防眩層、バリアー層等の機能性層を塗設してもよい。この際、コロナ放電処理、プラズマ処理、薬液処理等の各種表面処理を必要に応じて施すことができる。
【0304】
製膜工程において、カットされた光学フィルム両端のクリップ把持部分は、粉砕処理された後、あるいは必要に応じて造粒処理を行った後、同じ品種の光学フィルム用原料としてまたは異なる品種の光学フィルム用原料として再利用してもよい。
【0305】
(液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルム(位相差フィルムを兼ねる場合も含む。)として含む偏光板は、通常の偏光板と比較して高い表示品質を発現させることができ、特にマルチドメイン型の液晶表示装置、より好ましくは複屈折モードによってマルチドメイン型の液晶表示装置への使用に適している。
【0306】
本発明の偏光板は、MVA(Multi−domain Vertical Alignment)モード、PVA(Patterned Vertical Alignment)モード、CPA(Continuous Pinwheel Alignment)モード、OCB(Optical Compensated Bend)モード、IPS(In Plane Switching)モード等に用いることができ、特定の液晶モード、偏光板の配置に限定されるものではない。
【0307】
液晶表示装置は本発明により表示品質が改良され、コントラストの改善や偏光板の耐性が向上したことにより、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
【0308】
位相差フィルムを含む偏光板を少なくとも含む液晶表示装置においては、本発明の光学フィルムとしての偏光板保護フィルムを含む偏光板を、液晶セルに対して、一枚配置するか、あるいは液晶セルの両側に二枚配置する。
【0309】
このような構成において、本発明の光学フィルムとしての偏光板保護フィルムは、液晶セルを光学的に補償することができる。
【0310】
本発明の偏光板を液晶表示装置に用いる場合は、液晶表示装置の偏光板の内の少なくとも一つの偏光板を、本発明の偏光板とすればよい。
【0311】
本発明の偏光板において、偏光子からみて本発明の光学フィルムとしての偏光板保護フィルムとは反対側の面には、セルロース誘導体の偏光板保護フィルムが用いられ、汎用のTACフィルム等を用いることができる。液晶セルから遠い側に位置する偏光板保護フィルムは、表示装置の品質を向上する上で、他の機能性層を配置することも可能である。
【0312】
例えば、反射防止、防眩、耐キズ、ゴミ付着防止、輝度向上のためにディスプレイとしての公知の機能層を構成物として含む光学フィルムや、または本発明の偏光板表面に貼付してもよいがこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0313】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらにより限定されるものではない。
【0314】
実施例1
(サンプル1−1の作製)
下記の組成物1を用いて、溶融流延法によりサンプル1−1を作製した。
【0315】
組成物1
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.4、プロピオニル基置換度1.3、分子量Mn=86,000、Mw/Mn=2.5))
100質量部
トリメチロールプロパン・トリベンゾエート 10質量部
IRGANOX−1010(チバ・ジャパン株式会社製) 0.5質量部
PEP−36(ADEKA(株)製) 0.1質量部
Sumilizer−GS(住友化学社株式会社製) 0.3質量部
グリセリン・モノステアレート 0.5質量部
TINUVIN928(チバ・ジャパン株式会社製) 1.5質量部
シーホスターKEP−30(株式会社日本触媒製) 0.1質量部
上記組成物を80℃で6時間乾燥して水分率200ppm以下にし、真空ナウターミキサーで80℃、1Torrで3時間混合しながら更に乾燥して水分率50ppmにした。
【0316】
得られた混合物を二軸式押し出し機を用いて235℃で溶融混合しペレット化した。この際、混錬時のせん断による発熱を抑えるためニーディングディスクは用いずオールスクリュータイプのスクリューを用いた。
【0317】
また、ベント孔から真空引きを行い、混錬中に発生する揮発成分を吸引除去した。なお、押出機に供給するフィーダーやホッパー、押出機ダイから冷却槽間は、乾燥窒素ガス雰囲気として、樹脂への水分の吸湿の防止や酸素の除去を行った。
【0318】
第1冷却ロール及び第2冷却ロールは直径40cmのステンレス製とし、表面にハードクロムメッキを施した。又、内部には温度調整用のオイル(冷却用流体)を循環させて、ロール表面温度を130℃に制御した。
【0319】
弾性タッチロールは、直径20cmとし、内筒と外筒はステンレス製とし、外筒の表面にはハードクロムメッキを施した。外筒の肉厚は2mmとし、内筒と外筒との間の空間に温度調整用のオイル(冷却用流体)を循環させて弾性タッチロールの表面温度を130℃に制御した。
【0320】
上記ペレットを用いて窒素雰囲気下、250℃にて溶融して流延ダイから第1冷却ロール上に押し出し、第1冷却ロールと弾性タッチロールとの間に押出した溶融物を挟圧して成形し、膜厚80μmのサンプル1−1を得た。膜厚は押出量と引取り速度を調整することによって制御した。
【0321】
この際、Tダイのリップクリアランス1.5mm、リップ部平均表面粗さRa0.01μmのTダイを用いた。また、第1冷却ロール上でフィルムを2mm厚の金属表面を有する弾性タッチロールを線圧10kg/cmで押圧した。
【0322】
押圧時のタッチロール側のフィルム温度は、180℃±1℃であった(ここでいう押圧時のタッチロール側のフィルム温度は、第1ロール(冷却ロール)上のタッチロールが接する位置のフィルムの温度を、非接触温度計を用いて、タッチロールを後退させてタッチロールがない状態で50cm離れた位置から幅方向に10点測定したフィルム表面温度の平均値を指す。)。
【0323】
添加剤の組成を表1のように変更した以外はサンプル1−1と同様にして、サンプル1−2〜1−26を得た。
【0324】
得られたサンプル1−1〜1−26を用いて、鹸化後接触角、ブリードアウト、について評価した。
【0325】
《鹸化後接触角》
2Nの水酸化カリウム水溶液を50℃に温調して、サンプル1−1〜1−26を90秒間浸した後、流水で90秒間水洗して鹸化処理を行った。流水から取り出したサンプルは表面の水滴をサンド紙で吸い取り、100℃のオーブンに2分間入れて乾燥した。
【0326】
鹸化処理したサンプルを協和界面科学(株)製の固液界面解析システムDropMater300を用いて水に対する接触角を測定した。滴下する水の量は3μlで、滴下してから15秒後の接触角を測定した。
【0327】
接触角は数値が小さい方が水糊との接着力がよくなり好ましい。接触角は40°以下であれば実用上問題ないが、35°以下であることがより好ましい。
【0328】
《ブリードアウト》
サンプル1−1〜1−26を80℃90%RHのサーモに300時間投入した。また、それとは別に60℃90%RHのサーモに1000時間投入した。サーモから取り出したサンプルを目視でブリードアウトの有無を調べ、以下の基準でランク付けをした。
○:80℃90%RH、60℃90%RHともに発生無し。
△:60℃90%RHで発生無く、80℃90%RHで部分的に発生している。
×:60℃90%RHで発生、または80℃90%RHで前面に発生。
【0329】
ブリードアウトは○レベルが好ましいが、△レベルであれば実用上問題ない。×レベルでは使用環境によっては表面汚れなどの問題が発生する可能性があり好ましくない。
【0330】
上記評価結果を表1に示す。
【0331】
【表1】

【0332】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係るサンプルの接触角は数値が比較例より小さく優れている。また、ブリードアウト皆無ないしそれに近く、この点においても優れていることが分かる。
【0333】
実施例2
組成物1を用いて実施例1と同様の方法で膜厚80μmのセルロースエステルフィルムを溶融製膜し、次いでロール周速差を利用した延伸機によって155℃で搬送方向に1.3倍に延伸した。次に予熱ゾーン、延伸ゾーン、保持ゾーン、冷却ゾーン(各ゾーン間には各ゾーン間の断熱を確実にするためのニュートラルゾーンも有する)を有するテンターに導入し、巾方向に155℃で1.5倍延伸した後、巾方向に2%緩和しながら30℃まで冷却し、その後クリップから開放し、クリップ把持部を裁ち落として、膜厚40μmのサンプル2−1を得た。
【0334】
添加剤の組成および延伸倍率を表2のように変更した以外はサンプル2−1と同様にして、サンプル2−2〜2−7を得た。この時、延伸後の膜厚が40μmになるように、延伸前の膜厚を変化させた。延伸前の膜厚は押出し量と引取り速度を調整することによって制御した。
【0335】
得られたサンプル2−1〜2−7を用いて、鹸化後接触角、ヘイズについて評価した。
【0336】
更に、サンプル2−1〜2−7を用いて、下記方法で偏光板を作製し、偏光板寸法変化を測定した。
【0337】
《ヘイズ》
サンプル2−1〜2−7をJIS K 7136に記載の方法に従ってヘイズを測定した。測定は日本電色工業(株)製濁度計NDH2000を使用した。
【0338】
ヘイズは値が小さい方が好ましく、0.5%以下であれば実用上問題ないが、特に0.35%以下であることが好ましい。
【0339】
(偏光板の作製)
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で6倍に縦延伸して偏光フィルムを作った。
【0340】
次いでサンプル2−1〜2−7を視認側の偏光板保護フィルムとし反対面をコニカミノルタタックKC4UY(コニカミノルタオプト株式会社製)を60℃、2mol/lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液中に2分間浸漬した後、水洗し、100℃で10分間乾燥し、偏光フィルムの両面に完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液からなる接着剤を用いて、当該本発明の偏光板保護フィルムを貼り合わせた偏光板を作製した。
【0341】
<偏光板寸法変化(60℃90%RH1000h)>
作製した偏光板をそれぞれ120mm×120mmサイズに断裁し、該偏光板表面に、流延方向(MD方向)と流涎方向と垂直な方向(TD方向)におよそ100mm間隔でカミソリ等の鋭利な刃物で十文字型の印を付ける。該偏光板を23℃55%RHの環境下で24時間以上調湿し、顕微鏡で処理前のMD方向、TD方向の印間距離L1をそれぞれ測定する。次に、該試料を電気恒温槽を用いて60℃90%RHの環境下で、1000時間処理をした。次いで、高温高湿処理済み試料を、再び23℃55%RHの環境下で24時間調湿し、顕微鏡で処理後のMD方向、TD方向の印間距離L2をそれぞれ測定した。この処理前後の変化率を次式によって求めMD方向、TD方向の寸法変化率をそれぞれ算出した。
【0342】
偏光板寸法変化率=(L2−L1)/L1×100(%)
偏光板寸法変化率の絶対値は小さい方が好ましく、±0.5%以内であれば実用上問題ないが、±0.4%以内であることが好ましい。
【0343】
上記評価結果を表2に示す。
【0344】
【表2】

【0345】
表2に示した結果から明らかなように、本発明に係るサンプルは、鹸化後接触角、ヘイズ、及び偏光板寸法変化において実質上問題がなく、殆どのサンプルは好ましい範囲内にあることが分かる。
【0346】
実施例3
実施例1に示した組成物1のトリメチロールプロパン・トリベンゾエートを表3に示す添加剤と添加量に変更した以外は、サンプル2−1と同様にしてサンプル3−1〜3−18を作製した。サンプル3−1〜3−18を用いて加熱減量、ブリードアウトを測定した。
【0347】
さらに得られたサンプルを用いて、実施例2に記載と同様の方法で偏光板を作製し、偏光子劣化を測定した。
【0348】
《加熱減量》
サンプル約0.1gを細かく断裁し、100℃の窒素雰囲気下で3時間乾燥して、質量(G1)を測定する。さらに、250℃窒素雰囲気下で30分間加熱して、質量(G2)を測定する。下記式にしたがって加熱減量を測定した。
【0349】
加熱減量=(G1−G2)/G1×100 (%)
加熱減量は小さい方が揮発成分による工程汚染を少なくすることが出来るため好ましい。2.0%以下であれば実用上問題ないが、1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0350】
《偏光子劣化》
サンプルを用いて作製した偏光板の全光線透過率を日本電色工業(株)製濁度計NDH2000を用いて測定した。この時、測定時の光の偏光の影響をキャンセルするため、偏光板を基準とそこから90°傾けた状態での2回測定して、その平均値を計算する。偏光板を60℃90%RHの条件で2000時間耐久性試験を行い、前述と同様の方法で耐久性試験後の全光線透過率を測定した。下記式にしたがって耐久性試験前後の全光線透過率変化を計算し、偏光子劣化とした。
【0351】
偏光子劣化=(耐久性試験後の透過率)−(耐久性試験前の透過率)
偏光子劣化は値が小さいほど良い。20%以下であれば実用上問題ないが、10%以下であることが好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0352】
上記の評価結果を表3に示す。
【0353】
【表3】

【0354】
表3に示した結果から明らかなように、本発明に係るサンプルは、加熱減量、ブリードアウト、及び偏光子劣化において実質上問題がなく、殆どのサンプルは好ましい範囲内にあることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融製膜法により作製されたセルロースエステルフィルムであって、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルのうち少なくとも一種を0.05〜2.0質量%含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【請求項2】
流涎方向の延伸倍率と流涎方向と垂直の方向の延伸倍率の合計が20〜300%となる範囲内で延伸されたことを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項3】
ペンタエリスリトールの芳香族系カルボン酸エステルのうち少なくとも一種を2〜20質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムを使用したことを特徴とする偏光板。
【請求項5】
請求項4に記載の偏光板を使用したことを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−173818(P2009−173818A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15971(P2008−15971)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】