説明

セルロース加水分解のためのインプリント生体模倣触媒

本開示は、セルロースなどのグルコースポリマー、およびセロビオースなどのオリゴマーを、その後のエタノール生成のためにグルコースに加水分解するのに有用な方法および生体模倣触媒を記載する。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
石油精製品は何十年もの間主要なエネルギー源であった。残念なことに、過剰な需要と漸減する供給により、石油精製品および原油製品の価格はいずれも近年劇的に上昇している。さらに、石油製品は、燃焼すると、進行中の地球温暖化危機の実質的な一因となる。石油製品に関連する多くの問題の結果として、代替エネルギー源の探索におおいに興味が持たれている。石油系燃料の1つの代替品はエタノールである。
【0002】
エタノールは典型的には、構造を図1に示す、スクロースまたはグルコースのいずれかの酵母発酵によって生成される(Wang, M., et al. Effect of Fuel Ethanol Use on Fuel-Cycle Energy and Greenhouse Gas Emission; Argonne National Laboratory: Argonne, 1999(非特許文献1))。石油系燃料をエタノールで置き換える可能性はすでにうまくいくことが示されている。例えば、ブラジルでは、サトウキビ由来のエタノールが石油系燃料の代わりとして大規模に用いられている(Sperling, D.; Gordon, D., Two billion cars: driving toward sustainability. Oxford University Press: New York, 2009(非特許文献2))。
【0003】
エタノールは代替燃料源として有望であることが判明しているが、米国においてエタノール生成の成長を妨害してきた多くの障壁がある。具体的には、エタノールを生成するのに必要な原料、例えば、スクロースおよびグルコースは一般的な食料である。例えば、スクロースはグルコースおよびフルクトースからなる非還元二糖で、主にショ糖またはテンサイから生成される。グルコースは植物デンプン(α-連結グルコシドの反復ポリマー)の加水分解によって生成され、主にトウモロコシ由来である。エタノールを生成するのに必要な原料に対する需要は食物に対する需要と競合し、食物および燃料の両方の価格が上がる結果となる。トウモロコシ由来のエタノールの利点の可能性は、トウモロコシを原料とするエタノールが正味の気候温暖化効果を有しうることを示した研究によってさらに低減している(Crutzen, P. J., et al., Atmospheric Chemistry and Physics 2008, 8, (2), 389-395(非特許文献3))。
【0004】
トウモロコシを原料とするエタノールの生成に関連する問題のいくつかを軽減する試みにおいて、エタノール産業はその注目をセルロースからグルコースを作り出す方法に向けた。セルロースはβ-1,4-連結グルコシドからなるポリマーであり、ほぼすべての植物材料中に見いだすことができる。したがって、セルロースをグルコースに加水分解する効率的な方法があれば、エタノール生成施設は地球上の植物によって通常生成される年間推定1011トンのセルロースを利用することが可能となるであろう。
【0005】
大量のセルロースは、トウモロコシの茎や葉、サトウキビのバガス、またさらにはセルロースから生じるくずなどの作物の残り物から得ることもできよう。これらの材料は持続可能で、収集が容易、かつ非常に安価である(Saha, B. C., et al. In Fuel ethanol production from corn fiber - Current status and technical prospects, 1998; Humana Press Inc: 1998; pp 115-125(非特許文献4); Tucker, M. P., et al. In Conversion of distiller's grain into fuel alcohol and a higher-value animal feed by dilute-acid pretreatment, 2004; Humana Press Inc: 2004; pp 1139-1159(非特許文献5))。セルロースのショ糖を上回る別の利点は、セルロースの加水分解が、酵母にとってスクロースよりも有利となるグルコースだけを生じることである。
【0006】
セルロースは地球上で確かに最も大量の生物材料ではあるが、セルロースを直接グルコースに加水分解するのは簡単なことではない。加水分解に関連する困難により、大規模なセルロース加水分解におけるほとんどの努力は、セルロースの加水分解を触媒する酵素の一種であるセルラーゼの使用に焦点が合わされてきた。セルロースを加水分解するために必要とされる非常に高い温度およびpH条件下でより安定であるよう操作された改変酵素の調製にも研究の焦点が合わされてきた(Sun, Y.et al. Bioresource Technology 2002, 83, (1), 1-11; Wright, J. D. Chemical Engineering Progress 1988, 84, (8), 62-74.(非特許文献6))。
【0007】
セルロースをグルコースに加水分解することが可能なセルラーゼの調製においていくらかの成功が見られたにも関わらず、最も熱に安定なセルラーゼでさえも高価で、比較的短命である。さらに、酵素による加水分解は典型的には所望の反応を達成するのに数日を要する。セルラーゼ酵素を分離して再使用することも難しく、これらの試薬を用いる任意の工程はより高価となる。これらの様々な問題の組み合わせは、リグノセルロース材料からのエタノールの経済的な生成を大きく妨害する。したがって、エキソグルコシダーゼ(セルロースオリゴ糖または多糖から末端グルコース残基を切断する酵素)および/またはエンドグルコシダーゼ(グルコースポリマーを内部連結で切断する酵素)を模倣しうる1つまたは複数の無機触媒を開発し、使用することは有用であろう。
【0008】
無機触媒は、それらの生物学的な相手とは異なり、過酷な条件をうまく耐容することができ、活性が損なわれることなく繰り返し用いることができる。さらに、無機触媒が現在公知の酵素よりも活性が低かったとしても、無機触媒は著しい商業的重要性を有しうる。例えば、シリカを基にするゼオライトは対応する酵素の100分の1の活性であるが、生成価格は1000分の1で、セルロース加水分解に必要な条件下で100倍安定であり、これは酵素に基づく技術に対する商業的に魅力的な代替物であろう。
【0009】
様々な目的のために無機触媒を調製するための最近の努力は、分子インプリンティングを用いる戦略に焦点を合わせてきた(Gupta, R., et al. Biotechnology Advances 2008, 26, (6), 533-547(非特許文献7); Katz, A., et al. Nature 2000, 403, (6767), 286-289(非特許文献8))。分子インプリンティングにおいて、インプリンティング鋳型は、その周りで架橋可能なモノマーが共重合してキャスト様シェルを形成する型としてはたらく。いかなる特定の理論にも縛られたくはないが、所与のインプリンティング反応においてモノマーは鋳型と、共有結合および/または非共有結合による相互作用を通じて複合体を形成すると考えられる。モノマーを続いて鋳型存在下で重合させる。
【0010】
重合後、インプリンティング鋳型を除去し、サイズおよび形状が鋳型に相補的な空洞を露出する。これらの空洞は、基本的にインプリンティング鋳型の陰画で、続いて鋳型、または鋳型に類似の分子と選択的に再結合することが可能である。この鋳型を含まないポリマーまたはコポリマーは「分子インプリントポリマー」(「MIP」)と呼ぶことができる。MIPは生物学的受容体認識の最も重要な特徴を有する。
【0011】
MIPは、前述のとおり、架橋ポリマーを含みうる。MIPはアモルファス金属酸化物またはゼオライトも含みうる。金属酸化物およびゼオライトは様々な公知の技術を用いてインプリントすることができる。いくつかの場合には、生成した空洞または細孔はインプリンティング分子のポリマーの誘導された嵌合である。これらのポリマーを続いて、インプリント構造が耐えうるかなりの熱エネルギーを用いて、MIPにより加水分解することができる。
【0012】
薬剤、農薬、アミノ酸、ペプチド、ヌクレオチド塩基、ステロイド、および糖類を含むが、それらに限定されるわけではない、多様な鋳型がMIPを調製するのに適している。標的分子の誘導体を鋳型として用いることもできる。これらの誘導体は典型的には、親標的分子の三次元構造および官能性を模倣するが、特性が改善されたMIPを生じる。改善された特性の例には、触媒反応の速度上昇、触媒寿命の延長、高温での安定性増大、または様々なpHでの安定性増大が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0013】
現在、分子インプリンティングへの少なくとも4つのアプローチがある。これらの技術はインプリンティングのために、基質類似体、遷移状態類似体、生成物類似体、および補助因子を含む、様々な分子を用いる。
【0014】
基質類似体の使用は、基質とマトリックスとの間の反応複合体を模倣する化合物の使用を含む。触媒基は、プリント種によってそれらを「誘引する」ことにより部位に誘導され、続いて真の基質の結合後に触媒として作用することになる。誘引分子はいずれの反応種にも類似点がほとんどないため、基質阻害を避けることができる。この戦略を用いる際の初期の試みは、エステル分解活性を有するインプリントマトリックスの調製であった。これらのマトリックスにおいて、コバルト(II)イオンを用いて、インプリンティング工程中に触媒活性のあるビニルイミダゾール基および鋳型を配位結合させた。続いて基質(メチオニンまたはロイシンのp-ニトロフェニルエステル)を部位に誘導することで、活性化アミノ酸類似体の加速された基質特異的加水分解が引き起こされた。
【0015】
この戦略は、α-フルオロケトンの脱ハロゲン化水素に関与するメカニズムを研究するためにも評価されている。この反応において、インプリントマトリックスにより促進される触媒反応は、溶液反応と比べて、脱フッ素化水素速度の約600倍の増大をもたらした(kcat/kuncatにより計算、ここでkcat=触媒反応の速度であり、kuncatは非触媒反応の速度である)。同じ反応を逆の系でも達成することができ、その系ではポリマーにおけるアミノ酸の配置用の誘引物質としてカルボン酸プリント分子が用いられた。
【0016】
ベンズイソキサゾールの異性化も試験されている。この試験において、マトリックスにおけるピリジニル基の配置用の基質類似体としてインドールが用いられた。得られたマトリックスは非常に効率的であることが示され、触媒溶液反応に比べての速度増強[(kcat/KM)/kuncat]は40,000であった。基質戦略は無水安息香酸のジニトロフェノール分解のためにも用いられており、ここでは鋳型として対応するベンズアミドが用いられた。
【0017】
分子インプリント材料による触媒反応への別のアプローチは、鋳型としての遷移状態類似体(TSA)の使用である。遷移状態類似体を用いる場合、マトリックスの認識部位を所与の反応の遷移状態を安定化するように設計し、それにより反応の遷移エネルギーを低下させて反応速度の増大を引き起こす。例えば、エステル加水分解の遷移状態をホスホネート誘導体によって模倣することができ、これはいくつかの分子インプリント材料の調製において用いられた特徴である。
【0018】
重合可能なアミジン誘導体を用いてホスホン酸エステルをインプリントする場合に、TSAアプローチが用いられた。ホスホン酸エステルに類似のカルボン酸エステルの加水分解について触媒が試験され、触媒効率の増強が得られた。相対反応速度はインプリントマトリックスでは非触媒溶液反応に比べて100倍高く、基準ポリマーよりも効率が5倍であった。
【0019】
生成物類似体もいくつかの場合に鋳型として用いられている。しかし、これらの鋳型を用いて調製した触媒ポリマーは、阻害に対して感受性でありうる。しかし、適当な鋳型の選択によってこの阻害を克服することができる。例えば、二酸化テトラクロロチオフェンと無水マレイン酸との間のディールス-アルダー反応の触媒を作るために、生成物類似体が用いられている。
【0020】
ディールス-アルダー反応は固有のエントロピー障壁を有し、効率的な触媒反応が起こるためには、ジエンおよびジエノフィルの十分な安定化を達成する必要がある。この試験において、生成物類似体である無水クロレンド酸がインプリンティングプロトコルにおける鋳型として用いられた。鋳型の賢明な選択の結果、阻害は最小限に抑えられた。得られたマトリックスはディールス-アルダー反応の速度を約270倍に増大させた。
【0021】
別の戦略はインプリント補助因子の使用である。天然酵素は、作用対象のタンパク質に反応性求電子基を有する側鎖がないことが多いため、効率的な触媒反応を可能にするために補助因子を利用することがよくある。補助因子は基転移反応を可能にする。加えて、補助因子はそれが必要とされる位置に容易に輸送されうる。そのような補助因子は、例えば、カルボニル基の分極を促進し、水分子に結合する際にルイス酸として作用しうる金属イオンを含んでいてもよい。加えて、補酵素は、レドックス工程、(脱)カルボキシル化およびアミノ基転移などのいくつかの反応を促進しうる。
【0022】
例えば、インプリンティングプロトコルにおいて、多くの酵素に共通の補酵素ピリドキサルリン酸を用いての酵素反応に関与する化学が用いられた。N-ピリドキシル-L-フェニルアラニンアニリドが鋳型として用いられた。得られたインプリントポリマーの、遊離ピリドキサルとフェニルアラニンとの間の付加物生成を触媒する能力について、分析が行われた。基準ポリマーに比べて8倍の速度増大が記録された。
【0023】
金属配位補助触媒反応の例が、クラスIIアルドラーゼ模倣体の調製において報告されている。反応性中間生成物の類似体(ジベンゾイルメタン)とコバルト(II)イオンとの複合体が、ポリスチレンを基にするコポリマー系において4-ビニルピリジンと共にインプリントされた。ポリマーはアセトフェノンとベンズアルデヒドの縮合を触媒して、カルコンを生成することができ、得られた活性は溶液反応よりも8倍高かった。基質選択性および真のターンオーバーを記録することができた。
【0024】
前述の態様に加えて、試験によりメソ孔質有機-無機シリカ触媒をセルロースのサブユニットの加水分解に用いうることも明らかにされている。例えば、Bootsma, J. A., et al., Applied Catalysis a-General 2007, 327, (1), 44-51(非特許文献9)およびBootsma, J. A., et al., Bioresource Technology 2008, 99, (12), 5226-5231(非特許文献10)参照。これらの参考文献中に記載される工程の活性化エネルギーは、均質な有機酸を用いてのセルロース加水分解反応について報告されているものと類似であることが判明した。これらの試験はセルロースの加水分解に無機触媒を用いる可能性を示しているが、これらの参考文献中に記載されるシリカ触媒は天然酵素の特異性を欠き、セルロースサブユニットのグルコース以外の化合物への実質的な分解を引き起こす。
【0025】
したがって、セルロースからのエタノールの大量生成を達成するために、発酵前にセルロースをグルコースに加水分解するための、規模拡大が可能で、化学的に強健、かつ経済的な方法が切実に必要とされているが、まだ条件に合うものはない。本発明はこの必要性を満たすものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Wang, M., et al. Effect of Fuel Ethanol Use on Fuel-Cycle Energy and Greenhouse Gas Emission; Argonne National Laboratory: Argonne, 1999
【非特許文献2】Sperling, D.; Gordon, D., Two billion cars: driving toward sustainability. Oxford University Press: New York, 2009
【非特許文献3】Crutzen, P. J., et al., Atmospheric Chemistry and Physics 2008, 8, (2), 389-395
【非特許文献4】Saha, B. C., et al. In Fuel ethanol production from corn fiber - Current status and technical prospects, 1998; Humana Press Inc: 1998; pp 115-125
【非特許文献5】Tucker, M. P., et al. In Conversion of distiller's grain into fuel alcohol and a higher-value animal feed by dilute-acid pretreatment, 2004; Humana Press Inc: 2004; pp 1139-1159
【非特許文献6】Sun, Y.et al. Bioresource Technology 2002, 83, (1), 1-11; Wright, J. D. Chemical Engineering Progress 1988, 84, (8), 62-74.
【非特許文献7】Gupta, R., et al. Biotechnology Advances 2008, 26, (6), 533-547
【非特許文献8】Katz, A., et al. Nature 2000, 403, (6767), 286-289
【非特許文献9】Bootsma, J. A., et al., Applied Catalysis a-General 2007, 327, (1), 44-51
【非特許文献10】Bootsma, J. A., et al., Bioresource Technology 2008, 99, (12), 5226-5231
【発明の概要】
【0027】
本発明は、少なくとも1つのグルコース基質に結合し、それをグルコースに加水分解することが可能な、インプリントメソ孔質シリカ触媒を目的とする。本発明はさらに、この触媒の調製方法ならびに加水分解反応のためのこの触媒の使用法を含む。
【0028】
特定の態様において、本発明は、生体模倣触媒を含みうる。触媒はポリマーシリカマトリックス、該マトリックスにインプリントされた少なくとも1つの活性部位、および該活性部位における少なくとも1つの酸性官能基を含みうる。
【0029】
特定の態様において、少なくとも1つの酸性官能基はフェノール、カルボン酸、およびスルホン酸からなる群より選択される。
【0030】
いくつかの態様において、活性部位は少なくとも1つのグルコース基質に結合可能である。
【0031】
本発明はさらに、生体模倣触媒の調製方法を含む。方法は、少なくとも1つのテトラオルトケイ酸塩を少なくとも1つのシランと、インプリンティング分子存在下で反応させて、該インプリンティング分子で含浸されたポリマーシリカマトリックスを生成する段階を含む。前記少なくとも1つのシランの少なくとも1モルパーセントは酸官能基化シランである。方法はさらに、含浸されたポリマーシリカマトリックスを単離する段階;および前記インプリンティング分子を洗浄または燃焼により除去して、該インプリンティング分子の構造をインプリントしたシリカマトリックスを生成する段階を含む。
【0032】
特定の態様において、少なくとも1つのテトラオルトケイ酸塩は以下の式I、II、III、およびIVからなる群より選択される:

式中、R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;G1はC1-C6アルキル、

である。
【0033】
特定の態様において、R1はそれぞれの場合にCH2CH3である。
【0034】
特定の態様において、少なくとも1つのシランは以下の式V、VI、またはVIIのうち1つの化合物である:

式中、R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;
R2は、それぞれの場合に独立に、

であるか、またはR4および

からなる群より選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり;
R3は、R4および

からなる群より選択される置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり;
R4は、SH、NH2、OH、CO2H、またはSO3Hであり;かつ
R5は、H、NH2、OH、SO2Cl、CO2H、またはSO3Hであり;
ただし、R4がSHであるか、またはR5がSO2Clである場合、チオールまたはクロロスルホニル基は、前記インプリンティング分子の前記除去後にSO3Hに酸化される。
【0035】
本発明はさらに、グルコースの生成方法であって、グルコース基質を溶媒に溶解する段階および該溶媒中の該グルコース基質を少なくとも1つの生体模倣触媒と接触させて、該グルコース基質をグルコースに加水分解する段階を含む方法を提供する。この態様において、生体模倣触媒はポリマーシリカマトリックス、該マトリックスにインプリントされた少なくとも1つの活性部位、および該活性部位における少なくとも1つの酸性官能基を含み;かつ
特定の態様において、溶媒はイオン性液体または溶融塩である。
【0036】
本発明はさらに、生体模倣触媒の調製方法であって、少なくとも1つのテトラオルトケイ酸塩を少なくとも1つの官能基化インプリンティング分子および任意に少なくとも1つのシランと反応させて、該官能基化インプリンティング分子で含浸されたポリマーシリカマトリックスを生成する段階;そのように含浸された該ポリマーシリカマトリックスを単離する段階;およびそのように含浸された該ポリマーシリカマトリックスから、該インプリンティング分子を加水分解または燃焼により除去して、該インプリンティング分子の構造をインプリントしたシリカマトリックスを生成する段階を含む方法を含む。
【0037】
特定の態様において、前記少なくとも1つのテトラオルトケイ酸塩は前述の式I、II、III、およびIVからなる群より選択され、式中、R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;G1はC1-C6アルキル、

である。
【0038】
特定の態様において、R1はそれぞれの場合にCH2CH3である。
【0039】
特定の態様において、少なくとも1つのシランは前述の式V、VI、またはVIIのうち1つの化合物であり、式中、R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;R2は、それぞれの場合に独立に、

であるか、またはR4および

からなる群より選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり;
R3は、R4および

からなる群より選択される置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり;
R4は、NH2、OH、CO2H、またはSO3Hであり;かつ
R5は、H、NH2、OH、CO2H、またはSO3Hである。
【0040】
他の態様において、官能基化インプリンティング分子は、以下の式VIII、IX、X、およびXIからなる群より選択される少なくとも1つの多官能基化リンカーで官能基化されたインプリンティング分子を含む:

式中、R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;G2はC1-C6アルキルであり、ただしG2は任意であり、したがってG2が不在の場合、G2に連結して示した炭素とケイ素との間に一重結合が形成され;かつG3はNまたはOである。
【0041】
特定の態様において、シランは任意ではなく、前記テトラオルトケイ酸塩、シラン、および官能基化インプリンティング分子は約100:20:80から約100:95:5の配分で存在する。
【0042】
本発明はさらに、エタノールの生成方法であって、グルコース基質を溶媒に溶解する段階;該溶媒中の該グルコース基質を少なくとも1つの生体模倣触媒と接触させて、該グルコース基質をグルコースに完全または部分的に加水分解する段階;該グルコースを単離する段階;および該グルコースをエタノールに変換する段階を含む方法を含む。生体模倣触媒はポリマーシリカマトリックス;該マトリックスにインプリントされた少なくとも1つの活性部位、および該活性部位における少なくとも1つの酸性官能基を含みうる。
【0043】
本発明はさらに、官能基化インプリンティング分子の調製方法であって、インプリンティング分子を多官能基化リンカー前駆体と反応させる段階;および該官能基化インプリンティング分子を単離する段階を含む方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0044】
前述の概要、ならびに以下の本発明の好ましい態様の詳細な説明は、添付の図面と共に読めばよりよく理解されるであろう。本発明を例示する目的のために、図面において現在好ましい態様を示す。しかし、本発明は示した正確な配置および手段に限定されないことが理解されるべきである。
【0045】
【図1】図1は、先行技術において公知のセルロース、グルコース、フルクトース、およびセロビオースの構造を示す図である。
【図2】図2は、ゾル-ゲル化学を用いての分子インプリンティングの模式図である。
【図3】図3は、本発明のMIP触媒における酸性部位の数(mM[H+]/g触媒)を示すグラフである。
【図4】図4は、121℃でセロビオースの加水分解のために7.5%MPTMSを用いて調製したMIPの活性を示すグラフである。
【図5】図5は、121℃で本明細書に記載の様々なMIPによるセロビオースの加水分解によって生成したグルコースの量(μg)を示すグラフである(混入グルコースおよびセロビオースの自己加水分解により生成したグルコースを除去するよう補正)。
【図6】図6は、セロビオースのグルコースへの変換を示すグラフであって、データは用いた様々なMIPの酸性部位の数および表面積を補うために規準化している。
【図7】図7は、水性環境におけるグルコース生成マイクロリアクターのグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
発明の詳細な説明
本発明は、セルロースまたはセルロース誘導体の最後の接触加水分解のための新規MIPおよびこれらの構造の調製方法を含む。特定の態様において、MIPはグルコース基質をインプリントしたアモルファス金属酸化物および/またはゼオライトを含む。特定の態様において、MIPはエンドグルコシダーゼ、エキソグルコシダーゼ、および/またはグルコシダーゼの遷移状態類似体をさらにインプリントすることができる。
【0047】
本明細書に記載のとおりに調製するMIPは、グルコース基質を可溶性または部分的に可溶性とする条件下でグルコース基質と混合する場合に、グルコース基質がMIPによって加水分解されうるような、粉末形態で製造することができる。
【0048】
本明細書に記載の調製方法の一つの態様において、架橋可能なモノマーを1つまたは複数のインプリンティング分子存在下で重合する。重合のために少なくとも1つのモノマーが存在し、特定の場合には、1つまたは複数の追加のコモノマーが存在しうる。重合中のインプリンティング分子の存在は、得られるMIP内のインプリント、または記憶部位の生成を引き起こす。インプリントのサイズおよび形状はインプリンティング分子のサイズおよび形状に相補的である。生じたポリマーからインプリンティング分子を除去することで、本明細書に記載のMIPが得られる。
【0049】
本明細書に記載のMIPは酵素模倣体として挙動することができ、ここでMIPはβ-1,4-グリコシド結合を、触媒がない以外は同じ条件下でβ-1,4-グリコシド結合が自発的に加水分解する速度を超える速度で加水分解することができる。本発明の一つの態様において、MIPはエキソグルコシダーゼと同様に作用する。本発明の別の局面において、MIPはグルコース基質に結合することができる。本発明のさらに別の局面において、MIPはナノ構造ゼオライトを含む。本発明のさらに別の局面において、MIPはアモルファス金属酸化物を含む。
【0050】
本発明の別の態様において、MIPはエンドグルコシダーゼと同様に作用する。本発明の一つの局面において、MIPはグルコース基質に結合することができる。本発明のさらに別の局面において、MIPはナノ構造ゼオライトを含む。本発明のさらに別の局面において、MIPはアモルファス金属酸化物を含む。
【0051】
本発明は、酵素模倣体として挙動するMIPを含む組成物も含み、ここでMIPはβ-1,4-グリコシド結合を、MIP触媒が存在しない以外は同じ条件下での自発的なβ-1,4-グルコース結合加水分解の速度を超える速度で加水分解する。本発明の一つの態様において、MIPはグルコース基質に結合する。本発明の別の態様において、MIPはアギルコンに連結したグルコシドの遷移状態類似体に結合する。本発明の一つの局面において、MIPはナノ構造ゼオライトを含む。本発明の別の局面において、MIPはアモルファス金属酸化物を含む。
【0052】
本発明は、反応平衡を生成物生成にシフトするMIPを含む組成物も含む。一つの態様において、MIPは反応生成物を分子インプリントした吸着剤を含み、ここで吸着剤は可逆的かつ回収可能な様式で新しく生成した生成物を除去するよう作用する。一つの局面において、MIPはインプリンティング分子および/または遷移状態ヘキソースからなる群より選択される1つまたは複数の基質をインプリントしたポリマーを含む。別の局面において、MIPは分子インプリントしたポリマーヒドロゲルを含む。好ましい局面において、インプリントしたヒドロゲルはグルコースに結合する。
【0053】
本発明はさらに、セルロースからグルコースを誘導する方法であって、分子インプリントしたポリマー(MIP)を用いる段階を含み、MIPがβ-1,4-グリコシド結合を加水分解する方法を含む。本発明の一つの態様において、方法は、反応にエキソグルコシダーゼを模倣するMIPを加える段階を含む。本発明の別の態様において、方法は、反応にエンドグルコシダーゼを模倣するMIPを加える段階を含む。本発明の一つの局面において、MIPはグルコース基質および/またはアギルコンに連結したグルコシドの遷移状態類似体に結合する。
【0054】
本発明はさらに、セルロースからグルコースを誘導する方法であって、単一の反応において複数のMIPを組み合わせ、それぞれのMIPが反応の異なる成分として作用する方法を含む。本発明の方法の一つの態様において、1つまたは複数のMIPをセルロースがグルコースに変換される反応に加え、ここでMIPはエキソグルコシダーゼとして作用する。別の局面において、さらなるMIPを同じ反応に加え、ここでMIPはエンドグルコシダーゼとして作用する。本発明のさらに別の態様において、吸着剤MIPを同じ反応に加え、ここで反応平衡は生成物生成にシフトする。本発明の好ましい局面において、吸着剤MIPは生成物を可逆的に吸着し、ここで生成物はグルコースである。
【0055】
さらなる態様において、本発明は、少なくとも1つのグルコース基質を結合し、それをグルコースに加水分解することが可能な、インプリントメソ孔質シリカ触媒を目的とする。本発明はさらに、この触媒の調製方法ならびに加水分解反応のためのこの触媒の使用法を含む。したがって本発明は、セルロースをグルコースに変換する組成物および方法であって、この工程を触媒する天然酵素の活性(および場合によると特異性)を模倣する、工程における非酵素加水分解を用いての組成物および方法を提供する。
【0056】
定義
本明細書において用いられる以下の用語はそれぞれ、本項においてそれに関連づける意味を有する。
【0057】
冠詞「a」および「an」は、本明細書において冠詞の文法的対象の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために用いる。例として、「要素(an element)」は1つの要素または複数の要素を意味する。
【0058】
本明細書において用いられる「インプリンティング分子」なる語句は、特定のグルコース基質をグルコースに加水分解することが可能なインプリント触媒を調製するために用いうる、ポリマー、オリゴマー、およびモノマー化合物を意味する。インプリンティング分子の例には、セルロース、セロビオース、セロビオースよりも長いが、セルロースよりも短い、直鎖オリゴマーβ(1-4)連結グルコース鎖、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロース;デンプン、グリコーゲン、アミロース、デキストラン、およびそれらの誘導体などであるが、それらに限定されるわけではない、直鎖および分枝α-連結グルコースオリゴマーおよびポリマー;スクロース、ラクトース、およびトレハロース;フルクタン(インスリンとも呼ぶ);ペクチン;グリコサミノグリカン;寒天、アラビアゴム、ならびにカラゲナン(karageenan)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。インプリンティング分子にはさらに、グルコースならびに他の公知のヘキソースおよびペントースなどのモノマー化合物が含まれうる。D-グルコース6-リン酸などのグルコース誘導体も、他の公知のグルコース誘導体と同様に含まれる。
【0059】
「グルコース基質」なる語句およびその変形は、インプリント触媒を用いてグルコースに加水分解しうる、ポリマーおよびオリゴマー化合物を意味する。グルコース基質の例には、セルロース、セロビオース、セロビオースよりも長いが、セルロースよりも短い、直鎖オリゴマーβ(1-4)連結グルコース鎖、ならびにデンプン、グリコーゲン、アミロース、デキストラン、およびそれらの誘導体などであるが、それらに限定されるわけではない、直鎖および分枝α-連結グルコースオリゴマーおよびポリマーが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0060】
本明細書において用いられる「Cx-Cy」アルキルなる指定は、所与のアルキル基における可能な炭素の数を意味する。例えば、C1-C6アルキルなる語句は1から6個の炭素を有するアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、イソプロピル、イソブチル、イソペンチル、イソヘキシル、ネオペンチル、ネオヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2-エチルプロピル、および2-エチルブチルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。同様に、C1-C3アルキルなる語句は1〜3個の炭素を有するアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、シクロプロピル、およびイソプロピルが含まれる。
【0061】
本明細書において用いられる「活性官能基」なる語句は、スルホン酸基、カルボン酸基、およびフェノール基などであるが、それらに限定されるわけではない、酸性官能基を意味する。
【0062】
本明細書において用いられる「シラン」なる用語は、アルキルトリアルコキシシランおよびジアルキルジアルコキシシランを含む分子のクラスをひとまとめにして意味する。
【0063】
本明細書において用いられる「約」とは、そのような変動が開示する方法を実施するのに適当である、明示された値からの±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0.1%の変動を含む。
【0064】
本明細書において用いられる「MIP」または「分子インプリントポリマー」とは、インプリンティング鋳型存在下で重合またはそれ以外で構築された、有機ポリマーもしくはコポリマー、シリカを基にするポリマー、ゼオライト、または本明細書に記載の他の材料などの材料を意味する。
【0065】
メタクリル酸を基にする分子インプリントポリマー
メタクリル酸を基にするMIPは、メタクリル酸(ここで酸はグルコース基質の結合を切断するのに適した活性官能基として役立つ)および架橋剤をインプリンティング分子存在下で重合することにより調製することができる。特定の態様において、インプリンティング分子:メタクリル酸:架橋剤の割合は1:16:80でありうる。しかし、割合は約1:98:1から約10:40:40のモル比でありうる。
【0066】
例示的な架橋剤には、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、ビニルエーテル、エポキシド、メタクリルアミド、ビニルベンゼン、α-メチルビニルベンゼン(アルファ-メチルスチレンまたはAMS)、ジビニルベンゼン、マレイン酸および関連する誘導体、ならびにフマル酸および関連する誘導体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0067】
メタクリル酸を基にするMIPの重合は、L. H. Sperling, Introduction to Physical Polymer Science, Chapter 1, pp. 1-21, John Wiley and Sons, New York, 1986、およびR. B. Seymour and C. E. Carraher, Polymer Chemistry, Chapters 7-11, pp. 193-356, Dekker, New York, 1981の教科書に記載の反応法により達成することができる。フリーラジカルメカニズムが一例である。重合を加速するために熱およびUVの両方を適用することができる。
【0068】
ポリマー材料を架橋剤存在下、例えば、熱またはUV光線などの照射によって架橋することができる。架橋を促進するために、光または熱開始剤に加えて触媒を用いることもできる。そのような開始剤および触媒は市販されている。当技術分野において公知のアクリレート化学法を、例えば、米国特許第5,459,176号;A. Sassi, Polymer Applications for Biotechnology, (D. Soane ed. Prentice Hall 1992);およびEncyclopedia of Polymer Science and Engineering (M. Bikales, Overberger, Menges eds., Wiley 1988)に記載のとおりに用いることができ、これらの開示は参照により本明細書に組み入れられる。アクリルまたはアクリルアミド架橋の硬化を加速するために、UV光線を、Irgacure(商標)および/またはDarocur(商標)(Ciba Specialty Chemicals, Tarrytown, N. Y.)などの1つまたは複数の開始剤と共に用いることができる。
【0069】
メタクリル酸を基にするMIPの生成方法
本明細書に記載のメタクリル酸を基にするMIPの典型的な調製において、インプリンティング分子を孔形成(porogeic)溶媒と混合する。孔形成溶媒は、重合中に孔を形成するおよび/またはポリマー鎖を移動させるのに適した溶媒である。高度架橋またはマクロ孔質樹脂の形成におけるそのような溶媒の特徴および使用は、米国特許第4,224,415号に記載されている。
【0070】
孔形成溶媒は、共重合されるモノマー混合物を溶解するが、コポリマーを溶解しないものである。加えて、孔形成溶媒は重合条件に対して不活性である。例には、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘプタンおよびイソオクタンのようなC6-C12飽和脂肪族炭化水素ならびにtert-アミルアルコール、sec-ブタノールおよび2-エチルヘキサノールのようなC4-C10アルカノールが含まれる。芳香族炭化水素およびC6-C12飽和脂肪族炭化水素ならびにそれらの混合物も有用である。
【0071】
続いてメタクリル酸を加え、必要があれば超音波処理により溶解を助ける。ジメタクリル酸エチレングリコール(EDMA)およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を続いて加える。混合物を氷水浴中で冷却し、N2を約5分間スパージする。
【0072】
すべての反応物を溶媒中で混合したら、いくつかの方法の1つを用いて重合を誘導しうる。特定の態様において、重合を約366nmのUV照射を用いて誘導することができる。(CAMAG 23200, Bubendorf, CH)。処理を典型的には約0から約20℃で約36から約48時間進行させる。より高温を用いることもできるが、照射により低温で調製したポリマーはより高い認識能力を示すことが明らかにされている。いかなる特定の理論にも縛られたくはないが、インプリント形成およびその後の認識に必要な、水素結合などの弱い非共有結合による相互作用は、好ましいエントロピーゆえに、より低温でより強いとも考えられる。他の態様において、重合を45℃でフリーラジカル開始剤としてABDV(2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル)バレロニトリル)および溶媒としてアセトニトリルを用いて誘導することもできる。
【0073】
前述の手順により、バルクポリマーモノリスが調製される。次いで、このポリマーモノリスを粉砕機で粉砕し、湿式ふるいにかけることができる。直径が25μm未満の粒子を集める。アセトンまたはエタノール中で繰り返し沈降させることにより、集めた粒子から微粒子を除去し、最後に真空乾燥器で乾燥する。
【0074】
次いで、インプリンティング分子を適当な溶媒で抽出することができる。特定の態様において、メタノール:酢酸=90:10(v/v)溶液を用いることができる。インプリンティング分子が発色団を有しているか否かに応じて、適当な波長(すなわち254nm)での分光光度モニタリングにより完全な除去を確実に行うことができる。反応にインプリンティング分子を含まないこと以外は同じ手順を用いて、対照または基準ポリマーを調製することができる。
【0075】
ポリ(アリルアミン)由来MIP
メタクリル酸からMIPを調製するのに加えて、MIPをポリ(アリル)アミンから調製することができる。特定の態様において、ポリ(アリルアミン)由来MIPを、水性ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAA-HCl)を、例えば、D-グルコース6-リン酸(「GSP」)などのインプリンティング分子と組み合わせることによって調製することができる。特定の態様において、D-グルコース6-リン酸は、モノバリウム塩(「GSP-Ba」)などの塩でありうる。水性ポリ(アリルアミン)は任意の濃度でありうるが、好ましくは、溶液は25%w/vである。
【0076】
ポリ(アリルアミン)およびインプリンティング分子を適当な時間混合して、インプリンティング分子とポリ(アリルアミン)との結合を確実にすることができる。次いで、PAA-HClの一部をNaOH水溶液などの適当な塩基で中和する。次いで、得られた遊離アミンを、エピクロロヒドリン(EPI)などの架橋剤で処理して、ゲルを生成することができる。
【0077】
ゲルの生成後、得られたMIPを終夜放置して、確実に架橋を完了させる。次いで、MIPを、例えば、その最も広い部分が約4mmでありうる四角形、または任意の他の形状に切断することができる。次いで、該四角形をNaOH水溶液などの適当な塩基で適当な時間洗浄して、インプリンティング分子および/または未反応のポリ(アリルアミン)および架橋剤の除去を確実に完了またはほぼ完了させる。次いで、塩基洗浄したMIPを、流出洗液のpHをモニターしながら脱イオン水で洗浄して、いかなる残留NaOHも除去することができる。
【0078】
NaOHの除去は、ゲルと終夜平衡させた後、流出溶液が塩基性でなくなれば(pH<6.5)十分であると考えることができる。次いで、得られたMIPを約50℃の乾燥器内で乾燥することができる。
【0079】
インプリンティング分子の除去を定量的に評価することができる。例えば、インプリンティング分子がGSPである場合、MIP中に残留している全リン濃度(したがってD-グルコース6-リン酸のモル量)をHach D2010分光光度計および全リンを定量するために用いる酸過硫酸塩消化法であるHach法8190を用いて分光光度的に定量することができる。
【0080】
GSPインプリントの有無を、以下の手順を用いて定量することができる:GSPインプリントを含む新しく合成したヒドロゲルを、既知の量の脱イオン水に入れ、24時間撹拌することができる。ろ過した一定量を取り、Hach全リン試験のためにメスフラスコで適当に希釈する。希釈した試料のpHをチェックして、確実に6.5から7.5の間とし、全リンについて試験する。水洗液中のリン濃度は、合成に用いたGPSすべてがDI水洗浄溶液中に含まれる場合に予測される値の7%未満となるべきである。次いで、この同じポリマーを4M NaOH溶液に入れ、24時間撹拌して、結合したGSPを除去する。次いで、ろ過した一定量を取り、試料のpHをHClを用いて6.5から7.5の間に調節する。ポリマーを新しい4M NaOH溶液に入れ、さらに24時間撹拌する。次いで、この溶液を全リンについて試験する。塩基洗液中の全リン濃度は通常、インプリントゲルからの全GSP-Ba鋳型除去後に予測される値の95%である。
【0081】
ポリ(アリルアミン)由来MIPのグルコース基質結合能力を、Wizeman and Kofinas, 2001, Biomaterials 22:1485-91に記載のバッチリアクター試験によって評価する。本明細書に記載の手順に従い、MIPを純粋なグルコースもしくはフルクトースの水溶液もしくは緩衝化溶液(約50mg/ml)または2つの糖の1:1混合物を含む溶液に加えることができる。特定の態様において、分析に有用な緩衝化溶液は、BES(N,N-ビス[2-ヒドロキシエチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)および塩化ナトリウム(NaCl)を用いて調製することができる。
【0082】
試験溶液と結合能力を評価するMIPとを合わせた後、混合物を約4時間撹拌しながら平衡させることができる。次いで、ろ過した試験溶液の一定量を取り出して、試験溶液中に残留する糖の濃度を定量する。これらのデータを用いて、結合能力をWizeman and Kofinas, 2001, Biomaterials 22:1485-91に記載のとおりに計算することができる。グルコース濃度を、Hach DR2010分光光度計およびStanbioの酵素グルコース試薬を用いて比色により定量することができる。フルクトース濃度を、Van Creveldによって最初に開発され、後にOppelによって改変された手順(Browne and Zerban, eds. Physical and Chemical methods of sugar analysis. NY: Wiley; 1941, pg 961)を用いて比色により定量することができる。
【0083】
MIP触媒調製
試料調製のために、各触媒を両親媒性物質含有(インプリント触媒のため)または両親媒性物質なし(対照触媒のため)緩衝液のいずれか中、4℃で約1〜2分間インキュベートした後、凍結乾燥する。用いる緩衝液はpH8.0または7.5の10mMトリス-HCl(0.2mM Ca2+含有)である。凍結乾燥後、活性化または非活性化試料を無水溶媒(または溶媒混合物):典型的には、無水ベンゼンまたはベンゼン/エタノール、95:5(v/v)もしくは90:10(v/v)または酢酸エチルで少なくとも3回洗浄(得られた懸濁液を撹拌した後、遠心沈降)する。溶媒は両親媒性物質の溶解性に基づき、触媒に対する任意の有害な影響を最小限にするために、注意深く選択しなければならない。未洗浄の触媒調製物は、洗浄対照に比べた場合、非水性媒質中で同様の活性を生じることに留意すべきである。洗浄後、試料を少なくとも3時間減圧乾燥する。
【0084】
MIP触媒の非水性検定
所与の量の洗浄(インプリントまたは対照)触媒粉末を、栓をしたスクリューキャップ付きバイアル中の所与の体積の基質含有反応媒質に懸濁し、10秒間超音波処理し、25℃、250rpmで振盪する。反応の進行を、定期的に反応混合物の10mlの一定量を抜き出すことによりモニターする。一定量を処理し、順相HPLCまたは逆相HPLCにより分析する。または、反応を標準の誘導体化手順を用いてGCによりモニターすることもできる。すべての場合に、同時に起こる基質の消失および生成物の蓄積を追跡する。
【0085】
または、トリチウム化基質(例えば、比活性10〜100Ci/mmol)を1mlのアセトニトリル/酢酸、95:5(v/v)中、室温で15時間インキュベートすることができる。次いで、ポリマー粒子を遠心沈降(1000×g、5分間)し、上清200μl中の放射能を液体シンチレーション計数により測定する。
【0086】
水性検定
MIP(5mg)を1mlの緩衝液(例えば、0、1、10、または50%いずれかのエタノールを含む、20mMクエン酸ナトリウム、pH3、4.5もしくは6、20mMリン酸ナトリウム、pH7.3、20mM、または炭酸ナトリウム、pH9.2)中、室温で15時間インキュベートする。遠心沈降後、3ngのトリチウム化基質(例えば、10〜100Ci/mmol)および競合リガンド(50nMから2mMの範囲)を含む、上清400ml中の放射能を液体シンチレーション計数により測定する。
【0087】
シランを基にする生体模倣触媒
本明細書の他所に記載のとおり、天然酵素の活性を模倣する1つの戦略はいわゆる「分子インプリンティング」法である。この方法において、架橋ポリマー、アモルファス金属酸化物、またはゼオライトを、得られるマトリックスの形成中にその中に構造がインプリントされる1つまたは複数の分子存在下で合成する。インプリンティングに対して感受性の特に有用な架橋ポリマーは、Siを基にするポリマーである。これらのポリマーは多くのSi-O連結、およびより低いパーセンテージのSi-R連結を含み、ここでRは様々に置換されたアルキル、アリール、または他の非酸素官能基でありうる。
【0088】
Siを基にするポリマーの有用性を考慮に入れて、本明細書に記載の触媒は、1つまたは複数のインプリンティング分子をインプリントしたポリマーシリカマトリックスであり、少なくとも1つ、特定の態様において、複数の活性部位を含む触媒を生じる。触媒の活性部位はグルコース基質の1つまたは複数の変種に結合することが可能である。いったん活性部位がグルコース基質に結合すると、戦略的に活性部位内に位置する活性官能基はグルコース基質と反応して、グリコシド結合を分解するか、またはそうではなく分解を補助する。
【0089】
触媒のシリカマトリックスを、ゾル/ゲル化学を用いて調製することができる。分子インプリントしたSiを基にするゾル-ゲルネットワークの、天然または改変酵素を上回る1つの主要な長所は、優れた熱安定性である。ケイ素を基にする材料は、工業的規模でのセルロースの加水分解に必要な高温および低pHに容易に耐えることができる。Siを基にする触媒の天然酵素を上回るさらなる利点には、回収可能性および費用対効果の高さが含まれる。
【0090】
シリカマトリックスを、1つまたは複数のテトラオルトケイ酸塩を1つまたは複数のシランと共に重合することにより調製することができる。本明細書に記載の触媒のシリカマトリックスを調製するのに有用なテトラオルトケイ酸塩は、以下の式I、II、IIIまたはIVのいずれかの構造を有しうる。本明細書に記載の重合のために有用なシランは、以下の式V、VI、およびVIIの構造を有しうる。

【0091】
上の式中、R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルでありうる。
【0092】
R2は、それぞれの場合に独立に、R4および

からなる群より選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルでありうる。または、R2

でありうる。
【0093】
R3は、R4および

からなる群より選択される置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルでありうる。
【0094】
R4は、SH、NH2、OH、CO2H、またはSO3Hでありうる。
【0095】
R5は、H、SO2Cl、NH2、OH、CO2H、またはSO3Hでありうる。
【0096】
G1はC1-C6アルキル(C1-C5アルキルで置換されていてもよい1,3,2-ジオキサシレタン、C1-C4アルキルで置換されていてもよい1,3,2-ジオキサシロラン、またはC1-C3アルキルで置換されていてもよい1,3,2-ジオキサシリナンが形成されるような)、



でありうる。
【0097】
R4がSHであるか、またはR5がSO2Clである場合、チオールまたはクロロスルホニル基は、所与の基を加水分解するのに適した官能基を提供するために、SO3Hに酸化されうる。R4がSHである場合、酸化剤は、例えば、H2O2でありうる。R5がSO2Clである場合、酸化剤は、例えば、水でありうる。
【0098】
テトラオルトケイ酸塩およびシランの重合は、酸または塩基が触媒となりえ、水、標準の有機溶媒、およびイオン性液体を含む様々な溶媒中で起こりうる。適当なイオン性液体の例には、塩化N-エチルピリジニウム、X=Cl、Br、SCN、BF4、またはPF6であるBMIM+X-(BMIM+=1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム)、およびAMIM+Cl-(AMIM=塩化1-アリル-3-メチルイミダゾリウム)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。有用な有機溶媒には、N,N-DMF、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン、クロロホルム、NMP、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ならびにその混合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0099】
適当な酸性触媒には、無水および水性HCl、p-トルエンスルホン酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、および当業者には公知の他の酸が含まれるが、それらに限定されるわけではない。適当な塩基性触媒には、NaOH、CaOH2、MgOH2、およびNH4OHが含まれる。
【0100】
インプリンティング分子による分子インプリンティングは、重合反応中に起こる。インプリンティング工程の一つの態様において、インプリンティング分子を重合反応に直接加える。加えるインプリンティング分子の量は、インプリンティング分子のサイズ(分子量)および溶解性を含むいくつかの因子に依存することになる。その間の全または部分増加を含む、約1から約99モルパーセントのインプリンティング分子(シランおよびテトラオルトケイ酸塩の全モル量に基づき)を加えることができる。
【0101】
本発明の方法によって生成される触媒がグリコシド結合を切断しうるように、シランの少なくとも一部を、スルホン酸、カルボン酸、またはフェノールなどの酸性基で官能基化することができる。酸官能基化シランの例には、前述の式V、VI、およびVIIの化合物、ならびにトリエトキシシリルプロピルマレアミド酸、およびN-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、3酢酸、3ナトリウム塩などの化合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0102】
特定の態様において、官能基化シランの量は、その間の全または部分増加のいくらかおよびすべてを含む、ポリマー材料を調製するために用いたシランの全量の約1から約50モルパーセントでありえ、残りは非官能基化シランである。具体的態様において、官能基化シランの量は、シランの全量の約1から約40パーセント、約1から約30パーセント、約1から約25パーセント、約1から約20パーセント、約1から約15パーセント、約1から約10パーセント、または約1から約5モルパーセントでありうる。
【0103】
前述の態様のそれぞれについて、ポリマーマトリックスは重合反応中に存在するインプリンティング分子の周りに生成する。結果として、インプリンティング分子はシリカマトリックスの中または上に含浸されることになる。
【0104】
重合が完了すれば、反応フラスコ中の溶媒を除去することができる。溶媒の除去は、触媒マトリックスの溶解性に応じて、最初の粉砕段階の前または後に行うことができる。得られるポリマーマトリックスが反応溶媒に可溶性である場合、溶媒を、例えば、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で除去することができる。または、溶媒を様々な公知の凍結乾燥技術の1つを用いて除去することもできる。別の態様において、溶媒を超臨界CO2で洗浄することもできる。得られるシリカマトリックスが反応溶媒に不溶性であるか、または出発原料よりも実質的に溶解性が低い場合、シリカマトリックス材料を反応溶媒からろ去することもできる。
【0105】
反応容器から溶媒を除去するために標準の蒸発技術を用いうるが、好ましい方法ではない。具体的には、減圧下で溶媒を除去すると、シリカマトリックス中で新しく形成された活性部位で、またはその近辺で表面張力が生じる。この表面張力は溶媒の液体/気体転移中にマトリックスを損傷、収縮、またはそれ以外に変形させうる。したがって、これらの落とし穴の可能性を軽減する工程が好ましい。1つのそのような方法は超臨界乾燥である。
【0106】
超臨界CO2を用いての超臨界乾燥は、典型的な揮発工程に起因する表面張力関連のいかなる問題も軽減するため、有用である。超臨界CO2洗浄は、十分に高い温度で実施すれば、マトリックス中に存在するいかなるインプリンティング分子も燃焼除去するよう作用することもできる。
【0107】
次いで、乾燥固体を粉砕して、特定のサイズを有するシリカ粒子を得る。粉砕工程の完了後、粒子を溶媒で洗浄して、工程によって現れたいかなるインプリンティング分子も除去することができる。次いで、粒子を超臨界CO2で乾燥することができる。または、もしくは加えて、粉砕した固体中に存在するいかなるインプリンティング分子も燃焼しきるように、粉砕した固体を十分に高い温度まで加熱することもできる。過剰のインプリンティング分子がすべて除去されれば、得られたシリカ粒子を有効性について試験することができる。
【0108】
本明細書に記載の触媒の調製方法の別の態様において、官能基化インプリンティング分子を用いることができる。官能基化インプリンティング分子は、例えば、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カルバミン酸エステル(ウレタン)、または炭酸エステル結合を通じて多官能性リンカーに一時的に結合されているインプリンティング分子である。
【0109】
多官能性リンカーの例には、以下の式VIII〜XIの化合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。これらの化合物それぞれにおいて、R1は本明細書において前述したとおりである。G2は任意であり、したがってG2が不在の場合、G2に連結して示した炭素とケイ素との間に一重結合が形成される。存在する場合、G2はC1-C6アルキルである。G3はOまたはNでありうる。

【0110】
式IX〜XIの化合物それぞれにおけるシリコン種をパラ置換されているとして示しているが、式IX〜XIの化合物は代わりに1つまたは両方のメタ位でパラSi官能基の複製により官能基化されていてもよい。または、フェニル環は示すとおりパラSi置換され、フェニル環は、立体化学的に可能であることを条件に、1つまたは両方のオルト位でパラ位に存在するSi基でさらに官能基化されていてもよい。
【0111】
多官能基化リンカーを、以下の手順による生体模倣触媒の合成において用いることができる。まず、活性化エステル、酸塩化物、塩化スルホニル(例えば、2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン)、イソシアネート、または他の適当な反応性種などの多官能基化リンカー前駆体を、例えば、セロビオースなどのインプリンティング分子上の遊離アルコールと反応させる。得られる生成物は官能基化インプリンティング分子である。所与のインプリンティング分子に結合しうるリンカーの数は、リンカー前駆体の反応性、インプリンティング分子上の遊離アルコールの求核性、ならびに求核性アルコール内およびその周りの立体相互作用によって決定されることになる。
【0112】
次いで、官能基化インプリンティング分子を、式I、II、IIIまたはIVの少なくとも1つによる少なくとも1つのテトラオルトケイ酸塩、および任意に式V、VI、またはVIIの少なくとも1つによる少なくとも1つのシランと混合する。次いで、試薬を酸性触媒を用いて重合する。この重合のために有用な溶媒および触媒は本明細書において前に特定している。様々な成分のモル比は、その間の全または部分増加のすべてを含む、約100:20:80から約100:95:5の範囲でありうる。比はテトラオルトケイ酸塩:シラン:官能基化インプリンティング分子のモル量で表している。
【0113】
重合が完了すれば、シリカマトリックスを、本明細書の他所に示す手順に従って単離し、粉砕することができる。続いて、インプリンティング分子をマトリックスから切除しなければならない。これは、インプリンティング分子をシリカマトリックスに結合している様々な炭酸エステル、カルバミン酸エステル(ウレタン)、カルボン酸エステル、およびスルホン酸エステルの加水分解により達成することができる。加水分解は強酸性または塩基性条件を用いて達成することができる。次いで、シリカマトリックスを、本明細書において前述した任意の乾燥/燃焼技術を用いて、インプリンティング分子から単離することができる。続く粉砕は任意である。任意に粉砕した触媒の活性を公知の技術を用いて検定することができる。
【0114】
カルバミン酸エステル(ウレタン)リンカーを用いる場合、得られるポリマー(加水分解後の)は活性部位に置換アニリンを含むことになる。特定の態様において、アニリンを残留させることもできる。しかし、他の態様において、アニリンのアミンを、テトラフルオロホウ酸ニトロソニウム(NOBF4)または亜硝酸ナトリウム/H2SO4などの公知の試薬を用いてジアゾ化し、フェノール、ニトリル、またはハロゲン化物に変換することができる。ニトリルに変換する場合、ニトリルを続いてカルボン酸に加水分解することができる。ハロゲン化物に変換する場合、化合物をグリニャール試薬に変換し、続いてCO2で反応停止して、カルボン酸を生成することができる。または、ハロゲン化物を、公知のPdまたはPtによるクロスカップリング反応を用いて、別の試薬とカップリングさせることもできる。
【0115】
非連結手順(本明細書の他所に記載)と比べて、多官能基化リンカーを用いる利点は明白である。具体的には、官能基化インプリンティング分子をテトラオルトケイ酸塩およびシランと重合する場合、グルコース基質がグルコースに加水分解される可能性が高くなるように、後にグルコース基質を加水分解するために用いることになる酸性残基をインプリンティング分子によって作られる空洞に配置する。
【0116】
グルコース基質の加水分解
触媒を前述のとおりに調製した後、触媒を以下の手順のいずれかに従って用いることができる。第一の態様において、触媒およびグルコース基質を溶媒に溶解することができる。適当は溶媒には、例えば、イオン性液体が含まれ、その例は本明細書において前述した。イオン性液体は、多くの有機溶媒とは異なり、セルロースおよびその誘導体などのグルコース基質を溶媒和することが可能である。イオン性液体は有用であるが、水、N,N-DMF、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、NMP、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ならびにその混合物などの、標準の有機溶媒を用いることもできる。しかし、任意の前述の溶媒の有用性は、グルコース基質が溶媒中にどれほど溶解性(または不溶性)であるか、ならびに反応を実施する温度に依存することになる。
【0117】
特定の態様において、加水分解反応はイオン性液体を、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、または他の高級アルコールなどの別の溶媒との組み合わせで用いて実施することができる。特定の態様において、溶媒の組み合わせはイオン性液体および水である。いかなる特定の理論にも縛られたくはないが、イオン性液体および水を溶媒として用い、用いるイオン性液体の量が水の量よりも少ない場合、触媒はミセル様構造内にイオン性液体を捕捉し、ミセル様構造がグルコース基質を加水分解するためのマイクロリアクターとなる乳濁液を形成すると考えられる。触媒膜は、グルコース基質の加水分解後にグルコースがマイクロリアクターを出て行くことができるような、半透性であると考えられる。図7参照。これらのマイクロリアクターは、個々のセルロースポリマー(または他のグルコース基質)の、触媒上および/または触媒中に存在する触媒ドメインへの特異的結合を可能にし、同時に、グルコースの水相への高い溶解性に基づき、その後のグルコースの放出を可能にするであろう。触媒は、乳濁液の不安定化および再乳化工程を通じて容易に再利用し、高いセルロース変換率を達成することができる。
【0118】
別の態様において、イオン性液体を用いる水の量を超える量(体積)で用いることもできる。いかなる特定の理論にも縛られたくはないが、この形では、水は触媒により捕捉されてミセル様構造を形成すると考えられる。触媒はイオン性液体/触媒の界面で起こり、このようにして生成されたグルコースは水層中に移動することになる。
【0119】
加水分解反応は、その間の全または部分増加のすべてを含む、約40℃から約400℃の範囲の温度で実施することができる。一つの態様において、加水分解反応は約100から約150℃で行う。反応を行う温度が、どの溶媒を用いうるかを決めることになる。所与の反応における触媒負荷は、反応中に存在するグルコース基質の重量に基づき、0.01重量パーセントから50重量パーセントでありうる。好ましい態様において、触媒負荷は約10重量パーセント未満であり、より好ましくは約5重量パーセント未満、最も好ましくは約1重量パーセント未満である。
【実施例】
【0120】
本発明を以下の実施例に関して記載する。これらの実施例は例示のために示すにすぎず、本発明は決してこれらの実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ本明細書における教示の結果明らかとなる任意の、およびすべての変形を含むと解釈されるべきである。
【0121】
MIP表面積
MIP表面積をBET測定を用いて計算することができる。BET測定を、液体N2を充填したチューブに既知の量の触媒を入れることにより実施した。続いて表面積を、液体N2温度でのクリプトンガスの物理的吸着に基づいて求めた。
【0122】
実施例1−セロビオースをインプリントしたプロピルスルホン酸官能基化シリカの合成
セロビオース(1.6g)を水(52mL)およびHCl(8ml、1M)に溶解した。次いで、反応混合物を50℃で約30分間加熱した。続いて、テトラエチルオルトケイ酸塩(TEOS)(2.98mL)を加え、混合物を50℃で約3時間撹拌した。続いて、0.075当量(「7.5%酸」)のMPTMS((3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン)(TEOSのモル量に基づくモル当量)および4当量の30%H2O2水(MPTMSのモル量に基づく)を加えた。次いで、混合物を100℃の乾燥器内で約24時間加熱して、MIPを生成した。
【0123】
次に、MIPポリマーマトリックス中のセロビオースを除去した。除去は、MIPを還流しているエタノール中で約7時間処理することにより達成した。冷却後、得られた混合物を遠心沈降した。セロビオースを含むエタノールを、遠心沈降により集まった固体塊からデカンテーションにより除去した。次いで、得られた固体を清浄なエタノールに再懸濁し、超音波処理し、再度遠心沈降した。超音波処理/遠心沈降手順をさらに2回繰り返した。
【0124】
BET表面積は390.2m2/gと計算された。
【0125】
前述の手順を、0.02および0.15当量(それぞれ「2%酸」および「15%酸」)のMPTMSを用いても実施した。これらの触媒の表面積は計算しなかった。
【0126】
実施例2−ラクトースをインプリントしたプロピルスルホン酸官能基化シリカの合成
セロビオースの代わりにラクトース(1.68g)を用いた以外は、2%、7.5%、および15%MPTMSを用いて、実施例1で示した手順に従い、ラクトースをインプリントしたMIPを調製した。7.5%MPTMS触媒のBET表面積は409.2m2/gと計算された。
【0127】
実施例3−非インプリントプロピルスルホン酸官能基化シリカの合成
インプリンティング剤を加えなかった以外は、2%、7.5%、および15%MPTMSを用いて、実施例1で示した手順に従い、非インプリントMIPを調製した。7.5%MPTMSのBET表面積は394.1m2/gと計算された。
【0128】
実施例4−酸性部位の総数の計算
既知の質量のMIPを、MIPを加える前にpHを記録した既知の量の0.1M NaClに溶解した。溶液のpHが安定するまで数分間平衡化させた。続いて、溶液のpHがMIP添加前のそのpHに等しくなるまで、0.01M NaOHを溶液に滴加した。加えた0.01M NaOHの体積を記録し、酸のモル数を計算した。図3は、実施例1、2、および3に記載の2%、7.5%、および15%MPTMS由来触媒における酸性部位の総対数(mM/g)を示すグラフである。
【0129】
実施例5−セロビオース加水分解
セロビオースを、実施例1、2、および3で調製した様々な触媒存在下で加水分解した。各実験のために、セロビオース(0.25g)および触媒(0.05g)を水(25mL)に加えた。次いで、混合物を3分間超音波処理し、70℃または121℃のいずれかで、オートクレーブ中に2時間置いた。グルコースを、グルコース検出キットを用いて、340nmのUVにより検出した。7.5%MPTMSで調製した触媒を用いての結果を図4に示す。比較のために、図はセロビオース自体(室温)の加水分解特性、121℃でのセロビオース自体の加水分解特性、および安納温度でのMIP自体のUVスペクトルに対応するデータをさらに含む。
【0130】
本明細書において引用する特許、特許出願、および出版物それぞれおよびすべての開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0131】
本発明を具体的態様に関して開示してきたが、本発明の他の態様および変形物は、当業者によって本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく考案されうることが明らかである。添付の特許請求の範囲はすべてのそのような態様および等価の変形物を含むと解釈されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含む生体模倣触媒:
ポリマーシリカマトリックス、
該マトリックスにインプリントされた少なくとも1つの活性部位、および
該活性部位における少なくとも1つの酸性官能基。
【請求項2】
前記少なくとも1つの酸性官能基がフェノール、カルボン酸、およびスルホン酸からなる群より選択される、請求項1記載の生体模倣触媒。
【請求項3】
前記活性部位が少なくとも1つのグルコース基質に結合可能である、請求項1記載の生体模倣触媒。
【請求項4】
生体模倣触媒の調製方法であって、下記の段階を含む方法:
少なくとも1つのテトラオルトケイ酸塩を少なくとも1つのシランと、インプリンティング分子存在下で反応させて、該インプリンティング分子で含浸されたポリマーシリカマトリックスを生成する段階であって、ここで該少なくとも1つのシランの少なくとも1モルパーセントは酸官能基化シランである、段階;
該含浸されたポリマーシリカマトリックスを単離する段階;および
該インプリンティング分子を洗浄または燃焼により除去して、該インプリンティング分子の構造をインプリントしたシリカマトリックスを生成する段階。
【請求項5】
少なくとも1つのテトラオルトケイ酸塩が以下の式I、II、III、およびIVからなる群より選択される、請求項4記載の方法:

式中、
R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;
G1はC1-C6アルキル、

である。
【請求項6】
R1がそれぞれの場合にCH2CH3である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つのシランが以下の式V、VI、またはVIIのうち1つの化合物である、請求項4記載の方法:

式中、
R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;
R2は、それぞれの場合に独立に、

であるか、またはR4および

からなる群より選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり;
R3は、R4および

からなる群より選択される置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり;
R4は、SH、NH2、OH、CO2H、またはSO3Hであり;かつ
R5は、H、NH2、OH、SO2Cl、CO2H、またはSO3Hであり;
ただし、R4がSHであるかまたはR5がSO2Clである場合、チオールまたはクロロスルホニル基は、前記インプリンティング分子の前記除去後にSO3Hに酸化される。
【請求項8】
グルコースの生成方法であって、下記の段階を含む方法:
グルコース基質を溶媒に溶解する段階;
該溶媒中の該グルコース基質を少なくとも1つの生体模倣触媒と接触させて、該グルコース基質をグルコースに加水分解する段階であって、
ここで該生体模倣触媒は
ポリマーシリカマトリックス
該マトリックスにインプリントされた少なくとも1つの活性部位、および
該活性部位における少なくとも1つの酸性官能基を含む、段階。
【請求項9】
前記溶媒がイオン性液体または溶融塩である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
生体模倣触媒の調製方法であって、下記の段階を含む方法:
少なくとも1つのテトラオルトケイ酸塩を少なくとも1つの官能基化インプリンティング分子および任意に少なくとも1つのシランと反応させて、該官能基化インプリンティング分子で含浸されたポリマーシリカマトリックスを生成する段階;
そのように含浸された該ポリマーシリカマトリックスを単離する段階;および
そのように含浸された該ポリマーシリカマトリックスから、該インプリンティング分子を加水分解または燃焼により除去して、該インプリンティング分子の構造をインプリントしたシリカマトリックスを生成する段階。
【請求項11】
前記少なくとも1つのテトラオルトケイ酸塩が以下の式I、II、III、およびIVからなる群より選択される、請求項10記載の方法:

式中、
R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;
G1はC1-C6アルキル、

である。
【請求項12】
R1がそれぞれの場合にCH2CH3である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのシランが以下の式V、VI、またはVIIのうち1つの化合物である、請求項10記載の方法:

式中、
R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;
R2は、それぞれの場合に独立に、

であるか、またはR4および

からなる群より選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり;
R3は、R4および

からなる群より選択される置換基で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり;
R4は、NH2、OH、CO2H、またはSO3Hであり;かつ
R5は、H、NH2、OH、CO2H、またはSO3Hである。
【請求項14】
前記官能基化インプリンティング分子が、以下の式VIII、IX、X、およびXIからなる群より選択される少なくとも1つの多官能基化リンカーで官能基化されたインプリンティング分子を含む、請求項10記載の方法:

式中、
R1は、それぞれの場合に独立に、C1-C6アルキルまたはフェニルであり;
G2はC1-C6アルキルであり、ただしG2は任意であり、したがってG2が不在の場合、G2に連結して示した炭素とケイ素との間に一重結合が形成され;かつ
G3はNまたはOである。
【請求項15】
前記シランが任意ではなく、前記テトラオルトケイ酸塩、シラン、および官能基化インプリンティング分子が約100:20:80から約100:95:5の配分で存在する、請求項10記載の方法。
【請求項16】
エタノールの生成方法であって、下記の段階を含む方法:
グルコース基質を溶媒に溶解する段階;
該溶媒中の該グルコース基質を少なくとも1つの生体模倣触媒と接触させて、該グルコース基質をグルコースに完全または部分的に加水分解する段階であって、
ここで該生体模倣触媒は
ポリマーシリカマトリックス
該マトリックスにインプリントされた少なくとも1つの活性部位、および
該活性部位における少なくとも1つの酸性官能基を含む、段階;
該グルコースを単離する段階;および
該グルコースをエタノールに変換する段階。
【請求項17】
官能基化インプリンティング分子の調製方法であって、下記の段階を含む方法:
インプリンティング分子を多官能基化リンカー前駆体と反応させる段階;および
該官能基化インプリンティング分子を単離する段階。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−521291(P2012−521291A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502074(P2012−502074)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/025912
【国際公開番号】WO2010/110998
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【出願人】(511230369)
【Fターム(参考)】