説明

セルロース繊維強化複合体の製造方法、セルロース繊維強化複合体、及びセルロース繊維強化複合体製造用材料

【課題】セルロース繊維強化複合体の製造方法において、原料中において細径化セルロース繊維の分散を保ったまま、原料を合成することにより高分子化合物中に細径化セルロース繊維が分散したセルロース繊維強化複合体を提供する。
【解決手段】磨砕工程において高分子化合物の前駆体である液体多価アルコール類中にパルプを分散した状態で、磨砕機に通してセルロース繊維を解し、その後に該液体多価アルコール類の水酸基と化学結合する官能基を複数有する化合物と反応させて高分子化合物を合成し成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維で強化されたセルロース繊維強化複合体の製造方法、セルロース繊維で強化されたセルロース繊維強化複合体、及びそれらの製造に適したセルロース繊維強化複合体製造用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くから、熱硬化性樹脂に木粉或いは木材パルプ等を添加して成形物を製造することは行われてきたが、現在、プラスチック等の廃棄物問題が深刻化しており、崩壊性プラスチックや生分解性プラスチックが開発されている。例えば、特許文献1には、ミクロフィブリルしたセルロースに熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させて高強度複合材料を提供することが記載されている。
ところが、セルロース繊維の繊維集合体に樹脂を含浸させる製造方法においては、加工が難しく、量産性に乏しい。特に、機能紙研究会誌No.24,5−12頁,1985年や特開平10−248872号公報に記載されている0.1μm以下の径のミクロフィブリル化セルロース繊維の形態を維持するために水分中に分散している状態から乾燥しつつ成形しようとすると、保水力が高く、成形体にするためには大量の水分を蒸発させて乾燥しなければならず、体積が例えば2分の1〜5分の1になるなど大きな収縮にともなう歪みを克服する必要がある。
【0003】
また、特許文献2には、溶融混練、例えばニーダーにて混練しながらセルロース繊維を解して樹脂中にミクロフィブリルセルロースを分散させる技術が開示されている。
しかしこの方法でも、樹脂を高温で溶融させながら成形する必要があり、高温と高圧とを必要とし、繊維を含む溶融樹脂の溶融粘度の高さから複雑な形状への成形が難しい。
【特許文献1】特開2003−201695号公報
【特許文献2】特開2005−42283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、細径化セルロースを含むセルロース繊維を高分子化合物中に配することにより成形されるセルロース繊維強化複合体の成形性を高めた簡便な製造方法を提供することを目的とする。
また、細径化セルロースと親和性が高い媒体自身を高分子化合物に変化させることによって、セルロース繊維と高分子化合物の親和力の高いセルロース繊維強化複合体を提供することを目的とする。
また、セルロース繊維強化複合体の製造に適した材料を提供することを目的とする。
なお、この明細書においては、繊維径が10nm〜400nmの範囲内のセルロース繊維を細径化セルロース繊維と定義している。特許請求の範囲では外延を明確化する必要があるが、前述の定義は、特許請求の範囲があいまいになる恐れがあるため、この明細書中でのみ使用される特別の定義である。セルロース繊維の繊維径が400nm以下のセルロース繊維を得るには、紙又はパルプの繊維径が通常μmオーダーであるから何らかの人為的処理を加える必要がある。ここで繊維径は、例えば走査型顕微鏡で測定できる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明に係るセルロース繊維強化複合体の製造方法は、繊維径が10nm〜400nmの範囲内のセルロース繊維(以下細径化セルロース繊維という)を含む液状の多価アルコール又は液状かつ複数の水酸基を有する多価アルコールの誘導体(以下多価アルコールと誘導体とを合わせて液体多価アルコール類という)を準備する第1の工程と、液体多価アルコール類の水酸基と化学結合する官能基を複数有する化合物とを反応させて高分子化合物を形成する第2の工程とを備えるものである。
【0006】
第2の発明に係るセルロース繊維強化複合体の製造方法は、第1の発明に係るセルロース繊維強化複合体の製造方法において、第1の工程は、紙又はパルプを原料として、セルロース繊維の繊維径が10nm〜400nmの範囲内に入るものが存在するように液体多価アルコール類中において原料に物理的な力を加えて繊維を解すことにより、細径化セルロース繊維を含む液体多価アルコール類を準備する工程を含むものである。
【0007】
第3の発明に係るセルロース繊維強化補強複合体の製造方法は、第1の発明に係るセルロース繊維強化複合体の製造方法において、第1の工程は、紙又はパルプを原料として、セルロース繊維の繊維径が10nm〜400nmの範囲内に入るものが存在するように原料を、水の沸点よりも高い沸点又は分解温度を有する液体多価アルコール類と水ととともに磨砕することにより、細径化セルロース繊維及び水を含む液体多価アルコール類を準備する工程を含み、細径化セルロースと水と多価アルコールとを水の沸点以上の温度にすることにより水分を蒸発させて減水する工程を含むものである。
なお、この明細書及び特許請求の範囲において、水よりも高い沸点又は分解温度を有するとは、沸点を有する場合には沸点が水の沸点よりも高ければよく、沸点を有しない場合には分解温度が水の沸点より高ければよいことを意味している。
【0008】
第4の発明に係るセルロース繊維強化複合体の製造方法は、第1の発明に係るセルロース繊維強化複合体の製造方法において、第1の工程は、紙又はパルプを原料として、セルロース繊維の繊維径が10nm〜400nmの範囲内に入るものが存在するように水中において原料に物理的な力を加えてセルロース繊維を解す第1前処理工程と、第1前処理工程で製造された水を含むセルロース繊維の集合体において、水の沸点よりも高い沸点又は分解温度を有する液体多価アルコール類を加えて又は液体多価アルコール類と少なくとも水の一部と置換する第2前処理工程と、
を含むものである。
【0009】
第5の発明に係るセルロース繊維強化複合体は、第1〜4の発明のいずれかのセルロース繊維強化複合体の製造方法により製造されるものである。
【0010】
第6の発明に係るセルロース繊維強化複合体は、第5の発明のセルロース繊維強化複合体において、高分子化合物中に気泡を有することを特徴とするものである。
【0011】
第7の発明に係るセルロース繊維強化複合体製造用材料は、細径化セルロース繊維が高分子化合物に分散されたセルロース繊維強化複合体を製造するためのセルロース繊維強化複合体製造用材料であって、液体多価アルコール類と、細径化セルロース繊維を含むセルロース繊維集合体とを備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明に係るセルロース繊維強化複合体の製造方法によれば、細径化セルロース繊維を含む液体多価アルコールが液体でかつ高分子化合物の合成原料であるため、流動性を活用して型により自由に形態を定めることができ或いは連続的に生産できる。
【0013】
第2の発明に係るセルロース繊維強化複合体の製造方法によれば、紙やパルプと一緒に多価アルコール類を媒体としてセルロース繊維を解すので、多価アルコール類の濃度が高く、水酸基と化学結合する複数の官能基を持つ化合物との化学反応を容易に行え、安定した成形性を得られるという効果がある。
【0014】
第3又は第4の発明に係るセルロース繊維強化複合体の製造方法によれば、紙やパルプと一緒に多価アルコール類及び水を媒体としてセルロース繊維を解すので、多価アルコール類と水との割合を調整でき、反応に水を用いる場合或いは反応に水が阻害要因とならない場合には安価な水を媒体の一部に使用できることによる利点がある。
【0015】
第5の発明に係るセルロース繊維強化複合体によれば、多価アルコール類が水酸基を有するのでセルロース繊維と高分子化合物の親和力が高く、セルロース繊維による強化を十分に引き出せたセルロース繊維強化複合体を得ることができるという効果がある。
【0016】
第6の発明に係るセルロース繊維強化複合体によれば、セルロース繊維と高分子化合物の親和力の高い上に、気泡による空隙によって密度調整ができるという効果がある。
【0017】
第7の発明に係るセルロース繊維強化複合体製造用材料によれば、多価アルコール類とセルロース繊維集合体が混合され水分量が少ないので、セルロース繊維が分散された高分子化合物を形成するために、液体多価アルコール類の水酸基と化学結合する官能基を複数有する化合物とを反応させるのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明のセルロース繊維強化複合体の製造方法及び、それによるセルロース繊維強化複合体について説明する。
【0019】
セルロース繊維は、複合材料の強度を向上させる材料である。セルロース繊維の繊維径が大きいということは、繊維同士の近接点が少なくなるということである。あまり繊維径が大きなもばかりであると、近接点の数が少なくなり、セルロース繊維の引っ張り強度を複合材料の強度に十分に反映させることができない。そのため、セルロース繊維を細く裂いて、近接点の数を増やすことが好ましい。セルロース繊維の径は、バクテリアセルロース単繊維径が4nm程度であることから、下限を10nmとする。しかし、下限以下のセルロース繊維が含まれてはいけないという意味ではない。
【0020】
一方、セルロース繊維の上限も、セルロース繊維の細径化を進める程度の目安であって、400nm以下の細い繊維が見られる程度までセルロース繊維を解すことが好ましいということであって、400nm以上の径のセルロース繊維が含まれてはいけないということを意味するものではない。
【0021】
なお、セルロース繊維の長さについては限定されないし、限定することは難しい。この発明では、例えば特開2007−51266号公報に記載されているような、いわゆるミクロフィブリル化と呼ばれる処理までは至らない状態で使用されている紙又はパルプなどのセルロース繊維を、特開2007−51266号公報に記載されているのと類似する手法によってミクロフィブリル化とよばれ状態又はその一歩手前の状態まで解すことをまず第1段階と考えているが、セルロース繊維を解すといっても蜘蛛の巣状になるなど、完全に一本一本が分かれることにならないから繊維長は規定しないのである。また、その状態でも十分に高分子化合物中に強化繊維として存在させることができる。
【0022】
まず、紙又はパルプを出発原料として細径化セルロースを準備する。ここでいうパルプとしては、クラフトパルプ、サルファイトパルプなど木材から化学処理して得られる化学パルプ、また、リファイナーやグラインダーなどの機械的処理によってパルプかされたセミケミカルパルプ、古紙から再生された再生パルプが例示される。
例えば、特開2005−42283号公報に記載されているように、紙又はパルプは、前処理として、公知のリファイナー処理を経ていることが好ましい。しかし、必ずしもリファイナー処理が必須ではない。磨砕工程における磨砕機の通過回数等を増やすなど設計事項によって対応できるからである。
【0023】
(第1実施形態)
以下、この発明の第1実施形態によるセルロース繊維強化複合体の製造方法について図1を用いて説明する。
まず、パルプを準備する。ここではパルプを原料として用いたが、パルプに限らず、紙類、例えば新聞紙あるいは牛乳パックなどの古紙でもよい。即ち、木材などからリグニンを取り除いたセルロース繊維を主体とする素材であればよく、パルプや紙と呼ばれるものに限られるものではない。しかし、材料が安定的に供給可能であり、材料の安定性つまり変質し難く保管が容易である点に鑑みれば、パルプと紙が適している。
【0024】
次に、解繊工程K11において、準備したパルプを解繊機によって解繊する。例えば、スウィングカッターが超高速で回転する、株式会社山本百馬製作所製の商品名「アトムズ」や特開平8−215595号公報に記載されている第1解繊機などの乾式の解繊機を用いて解繊する。リファイナーなどの湿式の解繊機では、多量の水分を含有することとなり、好ましくない。
例えば、特開平8−215595号公報に記載されている第1解繊機、つまり固定ドラムと、固定ドラム内に設けられて固定ドラムの刃と協働して解繊する回転刃と、固定ドラム内に気流を生じさせる気体吸引部と、解繊物を排出するためのスクリーンを備えるものを用いると、パルプのセルロース繊維同士の絡みを乾式で解すことができる。つまり綿状になったセルロース繊維の集合体を得ることができる。セルロース繊維を綿状にすることは、つまりセルロース繊維の長さを短くしすぎないので好ましい。しかし、セルロース繊維強化複合体に要求される仕様が様々であることから、後述の磨砕工程を経ることによって繊維径を小さくしたとき、所望の縦横比となるのであれば解繊工程K11において粉状にしてもよい。
特開平8−215595号公報に記載の解繊では、更に第2解繊機によって水を含ませたパルプを解繊する工程を備えているが、含ませる水が少量で後述する注型・合成工程K16における合成の妨げとならない程度であれば、特開平8−215595号公報に記載の解繊を活用する場合に、第2解繊機による解繊工程を省略しなくてもよい。もし、水分を含ませたくなければ、水分を含ませる工程を省略して第1解繊機による工程でとどめてもよい。
【0025】
次に、解繊されたパルプに多価アルコール類を混合する混合工程K12を実施する。混合は、例えば解繊されたパルプを、容器中の多価アルコール類に入れ、密閉した容器を遊星運動させながら脱気と同時に攪拌することにより行う。このような攪拌・脱泡装置として、例えば、特開平6−205956号公報に記載されている「流動性物質の混合装置」がる。また、倉敷紡績株式会社製の攪拌・脱泡装置である商品名「マゼルスター」などがある。
特別な装置を用いずもっと簡単に行うのであれば、多価アルコール類を入れた容器の中に解繊されたパルプを入れて浸漬しておくだけでもよい。また、大量に生産する場合には、連続して混合することが好ましい。いずれの混合方法においても、多価アルコール類が引火点を有するものが多いため乾燥窒素雰囲気中で混合することが好ましい。また、多価アルコール類とパルプを馴染ませるため、攪拌・脱泡後に例えば24時間常温にて乾燥窒素雰囲気中で保管する。
【0026】
次に磨砕工程K13に進む。磨砕工程K13では、磨砕機として、例えば、特開2007−100246号公報に記載されているような磨砕機、具体的な例を挙げると増幸産業株式会社製の商品名「スーパーマスコロイダー」や株式会社栗田機械製作所製の商品名「ピュアファインミル」を使用する。
図2に磨砕機の要部の断面を模式的に示す。図2の磨砕機は、互いに対抗する一対の円盤状の砥粒板1,2と、砥粒板1,2の間にパルプと多価アルコール類の混合物を供給するための供給管3と、下側の砥粒板2を回転させるための駆動モータ4と、駆動モータ4からの駆動力を下側の砥粒板2に伝達する駆動軸5とを備えている。砥粒板1,2は、図2に示すように、対向部の回転中心近傍に被磨砕物を滞留させる磨砕チャンバー6を形成する凹部を有している。また、磨砕チャンバー6には混合物の流れを整えて、砥粒板1,2の対向面に形成される磨砕スペース7に混合物を安定して送り込むための送り用回転羽根8が配設されている。
特開2007−100246号公報では、セルロース繊維を裂いて細く解す工程を、解繊したパルプを大量の水分中に分散して行っている。しかし、ここでは、大量の多価アルコール類を用いる。多価アルコール類は引火点を有するものが多いため窒素雰囲気中で磨砕工程K13を行うことが好ましい。
ここで使用する多価アルコール類は、従来、セルロース繊維を解すために用いられていた水の粘度に比べてきわめて高い粘度を有しており、数十倍〜数千倍に達する。そのため、磨砕機には、ポンプで加圧しながら供給管3を通して供給する。多価アルコール類が水酸基を有すること及び粘度があがることによって、セルロース繊維を解す効率を高めることができる。パルプと多価アルコール類の混合物を加圧しながら供給する流体用ポンプは公知のポンプを用いることができる。
セルロース繊維を解すのは、1度磨砕機を通しただけでは不十分であることは、特開2007−100246号公報の記載からも分かる。通す回数は、砥粒板の粒度の差や砥粒板の間隔や回転数の違い、あるいは水と多価アルコール類のセルロース繊維との親和性の違いや液体の粘度の違いなどから適宜設計される。
磨砕工程K13では、例えば複数台の磨砕機を砥粒板の粒度を徐々に細かくし、間隔を徐々に狭くなるように設定して並べ、順次複数台の磨砕機を通過するように設定して連続的に生産するようにしてもよい。また、セルロース繊維を解すのに、従来使用されている高圧ホモジナイザーを用いてもよい。
磨砕工程K13において、磨砕機を何度も通過することで、セルロース繊維の繊維径が10nm〜400nmになるものが含まれるものが得られる。
【0027】
磨際工程K13を経て、細径化セルロース繊維を含む多価アルコール類が得られたところで、多価アルコール類と化学反応を起こして高分子化合物を形成するため、多価アルコール類の水酸基と化学反応を起こす官能基を有する化合物との混合を行う。
第2の混合工程K14では、後述する注型・合成工程K15で合成を行えるように混合する。もし、混合することで合成が開始する場合には、後述の注型・合成工程K16と混合工程15を同時に行ってもよい。
例えば多価アルコール類としてジエチレングリコールを用いて細径化セルロース繊維を生成したときに、そのジエチレングリコールを用いて硬質ポリイソシアヌレートフォームを製造する場合には、例えばポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート100重量部に対して8重量部のジエチレングリコールを添加する。また、フロン21重量部、シリコーン整泡剤1重量部、および触媒としてオクチル酸カリ・アミンの分子量200のポリオキシエチレングリコール溶液を5重量部添加する。なお、ジエチレングリコールの8重量部の中には、セルロース繊維の重量は含まれていない。例えば、磨砕工程K13において、ジエチレングリコールと細径化セルロース繊維を含むセルロース繊維を重量比にして、4対1の割合で得られたのであれば、セルロース繊維の重量は2重量部であり、磨砕工程K13で得られた混合物の添加は合計10重量部となる。
上記の例では、イソシアネート15℃、ポリオール20℃としたときのミキシングタイムが10秒、クリームタイムが19秒、ゲルタイム33秒、ライズタイム42秒である。
【0028】
攪拌羽根を液に十分浸した状態から回転数を0→1500rpm以上に急激に上昇させる。この攪拌羽根による攪拌はミキシングタイム内にすばやく行う。
次に、ミキシングタイム内での攪拌後、すばやく金型内に注入する。クリームタイムからライズタイムを経過して後、加熱炉で熟成してから取り出す(注型・合成工程K15)。
取り出したセルロース繊維強化複合体のカッティングなどによって必要な部分を切り出したりして、セルロース繊維強化複合体の成形体を完成する(仕上げ工程)。
このように例示したイソシアネートとポリオールとの反応において発泡させると成形体に気泡が形成されるので、密度の調整を行うことができるという効果がある。
他の例として、混合工程K14においてまず、多価アルコール類としてエチレングリコールやプロピレングリコールやグリセリンなどを開始剤として用い、細径化セルロース繊維を含むポリオールを得ることもできる。また、ポリエステルの合成原料として、細径化セルロース繊維を分散した多価アルコール類を用いることもできる。
このように、混合工程K14において、後工程の注型・合成工程K15にて化合物と反応させるための前処理としての合成を行わせることもある。
得られたポリオールに、アミン触媒などの触媒、必要に応じて製泡剤や発泡剤や架橋剤、及び必要に応じて離型剤や顔料や難燃剤などの添加剤を加えてA液をつくる。一方、トルエンジイソシアネートなどのイソシアネートをB液として準備する。そして、A液にB液を添加してすばやく混合する。また、多価アルコールの誘導体であるポリオールを多価アルコール類として用い細径化セルロースを含むポリオールを磨砕工程を経て生成することもできる。
次の注型・合成工程K15においては、型に注入する以外にも、ベルトコンベア上に混合したA液とB液を流して板状に成形する場合もある。或いは、建物の壁に吹き付けて、壁の上で合成させることも可能である。
板状に成形したときに、ボードを所定の大きさに切り出したり、不要な耳の部分をカットしたりする仕上げ工程K16を行う。また、壁に吹き付けて形成することもこの発明における注型・合成工程K15に含まれる概念である。壁に吹き付けるなどした場合には、更にその上に他の素材を形成したり、断熱材として使用するために、鉄製や木製の板で覆ったりする工程が仕上げ工程K16になる。
例えば、A液としては、スクロール系ポリエーテルポリオール,OHV450が100重量部、トリクロロエチルホスフェート(難燃剤)が15重量部、ジメチルシクロヘキシルアミン(触媒)が1.5重量部、シリコーン整泡剤が1.5重量部、水が0.5重量部、フロン11が30重量部、B液としては、ポリメリックMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)が128重量部用いる。ポリエーテルポリオールには1重量部の細径化セルロースが含まれる。このときのミキシングタイムは10秒程度である。
【0029】
以上説明したように、多価アルコール類には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールが含まれる。また、これらの混合物でもよい。
さらには、多価アルコール類には、多価アルコールを合成して形成されるポリオールが含まれる。ポリオールの中にも液状でかつ、水の沸点よりも高い沸点を有するものが存在する。
多価アルコール類には、多価アルコールから誘導され、混合工程K14で混合される化合物と合成可能な液状の化合物が含まれる。液状である必要があるのは、磨砕工程K13でセルロース繊維を磨砕するには、液体中にパルプを入れておくためである。そのため、粘度の調整が必要な場合には、他の粘度調整剤を添加してもよい。
【0030】
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態によるセルロース繊維強化複合体の製造方法について図3を用いて説明する。
まず、パルプを準備する。解繊工程K21においては、上述の解繊工程K11と同様に準備したパルプを解繊機によって解繊する。
【0031】
次に、解繊されたパルプに多価アルコール類と水を混合する混合工程K22実施する。混合は、例えば上述の混合工程K12と同様に、密閉した容器を遊星運動させながら脱気と同時に攪拌することにより行う。容器に入れる多価アルコール類と水とパルプの重量比は適宜選択される。例えば、多価アルコール類として、ポリプロピレングリコール(以下PPGという)が100重量部に対し、水100重量部とパルプ1重量部の割合で添加する。
【0032】
次に磨砕工程K23に進む。磨砕工程K23では、上述の磨砕工程K13と同様の磨砕機を用い、大量の多価アルコール類と水の混合物を用いる。多価アルコール類は引火点を有するものが多いが、水を混合することであるため、多価アルコール類のみを単独で使用する場合に比べ引火しにくくなるが、窒素雰囲気中又は二酸化炭素雰囲気中で磨砕工程K23を行うことが好ましい。
磨砕機を通す回数、つまり磨砕機で解す回数は、砥粒板の粒度の差や砥粒板の間隔や回転数の違い、あるいは水と多価アルコール類との混合物のセルロース繊維との親和性の違いや液体の粘度の違いなどから適宜設計される。例えば、PPG100重量部、水100重量部、パルプ1重量部からなる混合物を10〜20回程度磨砕機に通す。
【0033】
磨砕工程K23を経て、細径化セルロース繊維を含む水と多価アルコール類との混合物が得られたところで、次に、減水工程K24aにおいて、多価アルコール類と水と細径化セルロース繊維を含む混合物から水を除去又は減じる。
減水のために先ず、液体と固体の割合を調整する。磨砕工程K23においては、例えば砥粒板と砥粒板との隙間からセルロース繊維を液体によって押し出す必要があることから、多量の液体を要する。しかし、後述する注型・合成工程K25においては、セルロース繊維強化複合体のマトリックスの原料である多価アルコール類と強化繊維成分であるセルロース繊維の割合は、セルロース繊維強化複合体のマトリックスと強化繊維成分を所望の割合にあわせて設定する必要があり、その前工程の減水工程K24aにおいて、多価アルコール類と水からなる液体成分を、スクリーンなどによって濾すことにより、液体成分を減らして後述の注型・合成工程K25に合わせて調整し易くする。同時に、液体成分を減らすことにより混合物の熱容量が小さくなるので、液体成分中の水分を減じる際の必要エネルギーを下げる効果がある。例えば、磨砕工程K23において得られたPPG100重量部、水100重量部、セルロース繊維1重量部からなる混合物をスクリーンで濾してPPGと水の混合液体100重量部に対してセルロース繊維のコンテントを10重量部まで上げる。
【0034】
次に、例えば減圧脱水を行い、PPGと水の混合液対中における水の割合を下げる。例えば、PPGを多価アルコール類として選択した場合には、減圧した乾燥窒素雰囲気下で、130℃に保って、水分含有率をPPG100重量部に対して、3重量部程度にまで低減する。冷却後、アミン触媒を添加した水を加えて水分量をPPG100重量部に対し5重量部間に調整する。多価アルコール類の沸点は減圧によって低下するが、水の沸点も低下するので相対的に水の沸点よりも高い沸点を多価アルコール類が有していれば減水できる。
【0035】
多価アルコール類と化学反応を起こして高分子化合物を形成するため、多価アルコール類の水酸基と化学反応を起こす官能基を有する化合物との混合を行う。例えば、PPG100重量と水5重量部とセルロース繊維10重量部とトリレンジイソシアネート57重量部とを混合する。例えば、混合は、4000rpmの攪拌機によりミキシングタイム内にすばやく行う。
【0036】
次に、ミキシングタイム内での攪拌後、すばやく金型内に注入する。クリームタイムからライズタイムを経過して後、加熱炉で熟成してから取り出す(注型・合成工程K25)。例えば、PPG100重量と水5重量部とセルロース繊維10重量部とトリレンジイソシアネート57重量部とを混合して注型した場合、金型ごと100℃の恒温槽に入れ、1時間後に脱型する。
取り出したセルロース繊維強化複合体をカッティングなどによって必要な部分を切り出したりして、セルロース繊維強化複合体の成形体を完成する(仕上げ工程K26)。
なお、第2実施形態の説明では、多価アルコールから誘導されたPPGを中心に例に挙げて説明したが、第1実施形態のように、多価アルコールを用いても良いことはいうまでもない。多価アルコールを用いて細径化セルロース繊維を得るか、多価アルコールからの誘導体を用いて細径化セルロース繊維を得るかは、どのような高分子化合物を所望するかによって変わるのであって、沸点または分解温度が水の沸点を超えている液状の多価アルコール類であれば第2実施形態において適用可能である。
【0037】
(第3実施形態)
次に、この発明の第3実施形態によるセルロース繊維強化複合体の製造方法について図4を用いて説明する。
まず、パルプを準備する。解繊工程K31においては、上述の解繊工程K11と同様に準備したパルプを解繊機によって解繊する。
【0038】
次に、解繊されたパルプに水を混合する混合工程K32を実施する。混合は、例えば上述の混合工程K12と同様に、密閉した容器を遊星運動させながら脱気と同時に攪拌することも可能であるが、タンク中において羽攪拌などにより行う方が簡便である。水をパルプの分散媒体として用いる場合には、多価アルコール類に比べて粘度が低いためエアーなどの巻き込みが少なく、脱泡工程を省いてもセルロース繊維を解す効率について差は少ない。例えば、水100重量部に対して、パルプ1.5〜6重量部の割合で混合する。混合工程K32においては、パルプを水に馴染ませるために、例えば24時間常温常圧にて保管する。
【0039】
次に磨砕工程K33に進む。磨砕工程K33では、上述の磨砕工程K13と同様の磨砕機を用い、大量の水との混合物を用いる。例えば、パルプ1.5〜6重量部と水100重量部の混合物を用いる。磨砕機を通す回数、つまり磨砕機で解す回数は、砥粒板の粒度の差や砥粒板の間隔や回転数の違い、あるいは水とパルプの割合の違いなどから適宜設計される。例えば、水100重量部とパルプ1重量部からなる混合物を10〜20回程度磨砕機に通す。
【0040】
磨砕工程K33を経て、細径化セルロース繊維を含む水との混合物が得られたところで、次に、多価アルコール類を水と細径化セルロースとの混合物に添加して混合する(混合工程K34a)。例えば、水酸基価400のPPG100重量部を水100重量部に対して添加して混合する。減水工程K34bにおいて、多価アルコール類と水と細径化セルロース繊維を含む混合物から水を除去又は減じる。例えば、PPG100重量部、水100重量部、細径化セルロース繊維1重量部から130℃で減圧脱水を行い、水を8重量部まで低減させる。減圧しなくても水の沸点以上に混合物を加熱することで脱水は可能である。
減水のために先ず、液体と固体の割合を調整してもよい。上述の例ではセルロース繊維の含有量がPPG100重量部に対して1重量部の割合だが、スクリーンなどで濾して固形分であるセルロース繊維のコンテントを上げることもでき、例えばPPG100重量部に対してセルロース繊維を2重量部とすることもできる。
磨砕工程K33においては、例えば砥粒板と砥粒板との隙間からセルロース繊維を液体によって押し出す必要があることから、多量の液体を要する。しかし、後述する注型・合成工程K35においては、セルロース繊維強化複合体のマトリックスの原料である多価アルコール類と強化繊維成分であるセルロース繊維の割合は、セルロース繊維強化複合体のマトリックスと強化繊維成分を所望の割合にあわせて設定する必要があり、その前工程の減水工程K34bにおいて、多価アルコール類と水からなる液体成分を、スクリーンなどによって濾すことにより、液体成分を減らして後述の注型・合成工程K35に合わせて調整し易くする。
【0041】
多価アルコール類と化学反応を起こして高分子化合物を形成するため、多価アルコール類の水酸基と化学反応を起こす官能基を有する化合物との混合を行う(混合工程K34c)。例えば、PPG100重量と水8重量部とセルロース繊維1重量部と4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート230重量部とを混合する。例えば、混合は、ミキサーで7秒間攪拌する。
【0042】
次に、ミキシングタイム内での攪拌後、すばやく金型内に注入する。クリームタイムからライズタイムを経過して後、加熱炉で熟成してから取り出す(注型・合成工程K25)。脱型後、取り出したセルロース繊維強化複合体をカッティングなどによってセルロース繊維強化複合体の成形体を完成する(仕上げ工程K36)。しかし、上記第1〜第3実施形態において示した仕上げ工程K16〜K36は発明にとって必須の工程ではない。
【0043】
以上第1実施形態から第3実施形態において説明したように、水の沸点よりも高い沸点または分解温度を有する多価アルコール類に細径化セルロースを分散し、多価アルコール類100重量部に対して水分の含有量が10重量部を超えないものは、高分子化合物の合成に使いやすいものである。水の含有量が10重量部を超えても使えないわけではないが、用途を広げるためには、少ない方がよく、ここでは10重量部を一つの目安としている。また、多価アルコール類とセルロース繊維の混合物は、化学的にも安定で取り扱いも容易であって、流通にも適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態に係るセルロース繊維強化複合体の一製造方法を示す工程図である。
【図2】 本発明のセルロース繊維の磨砕機の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】 本発明の第2実施形態に係るセルロース繊維強化複合体の一製造方法を示す工程図である。
【図4】 本発明の第3実施形態に係るセルロース繊維強化複合体の一製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
1,2 砥粒板、3 供給管、4 電動モータ、5 駆動軸、6 磨砕チャンバー、7 磨砕スペース、8 送り用回転羽根、K13〜K33 磨砕工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が10nm〜400nmの範囲内のセルロース繊維(以下細径化セルロース繊維という)を含む液状の多価アルコール又は液状かつ複数の水酸基を有する多価アルコールの誘導体(以下前記多価アルコールと前記誘導体とを合わせて液体多価アルコール類という)を準備する第1の工程と、
前記液体多価アルコール類の水酸基と化学結合する官能基を複数有する化合物とを反応させて高分子化合物を合成して成形する第2の工程と、
を備える、セルロース繊維強化複合体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程は、
紙又はパルプを原料として、セルロース繊維の繊維径が10nm〜400nmの範囲内に入るものが存在するように液体多価アルコール類中において前記原料に物理的な力を加えて繊維を解すことにより、前記細径化セルロース繊維を含む液体多価アルコール類を準備する工程を含む、請求項1に記載のセルロース繊維強化複合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程は、
紙又はパルプを原料として、セルロース繊維の繊維径が10nm〜400nmの範囲内に入るものが存在するように前記原料を、水の沸点よりも高い沸点又は分解温度を有する液体多価アルコール類と水ととともに磨砕することにより、前記細径化セルロース繊維及び水を含む液体多価アルコール類を準備する工程を含み、前記細径化セルロースと前記水と前記多価アルコールとを水の沸点以上の温度にすることにより水分を蒸発させて減水する工程を含む請求項1に記載のセルロース繊維強化複合体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程は、
紙又はパルプを原料として、セルロース繊維の繊維径が10nm〜400nmの範囲内に入るものが存在するように水中において前記原料に物理的な力を加えてセルロース繊維を解す第1前処理工程と、
前記第1前処理工程で製造された水を含むセルロース繊維の集合体において、水の沸点よりも高い沸点又は分解温度を有する液体多価アルコール類を加えて又は液体多価アルコール類と少なくとも水の一部と置換する第2前処理工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載のセルロース繊維強化複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロース繊維強化複合体の製造方法により製造されるセルロース繊維強化複合体。
【請求項6】
前記高分子化合物中に気泡を有することを特徴とする、請求項5に記載のセルロース繊維強化複合体。
【請求項7】
細径化セルロース繊維が高分子化合物に分散されたセルロース繊維強化複合体を製造するためのセルロース繊維強化複合体製造用材料であって、
水の沸点よりも高い沸点又は分解温度を有する液体多価アルコール類と、細径化セルロース繊維とを含み、前記液体多価アルコール類100重量部に対する水分の含有量が10重量部を超えないセルロース繊維強化複合体製造用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−274200(P2008−274200A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142526(P2007−142526)
【出願日】平成19年4月29日(2007.4.29)
【出願人】(507175429)
【Fターム(参考)】