説明

セルロース膜およびそれを用いた積層材料

【課題】膜の乾燥時や膜を含む積層材料の成形加工時における加熱後でも、無色で透明性を維持し、かつハンドリング性と加工性に優れるセルロース膜を提供する。
【解決手段】少なくとも酸化セルロースを含むセルロース膜の、120℃で3時間加熱した後のLab表色系におけるb値と加熱する前のb値との差が、加熱する前のb値の30%以下である。さらに、120℃で1時間加熱した後のLab表色系におけるb値と加熱する前のb値との差が、加熱する前のb値の20%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性フィルム材料、塗工膜として使用可能なセルロース材料に関し、さらに詳しくは、セルロース材料を用いたセルロース膜およびそれを用いた積層材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心が高まる中、従来の石油系樹脂に対し、天然由来の澱粉やセルロース、キチンキトサンなどの各種天然多糖類とその誘導体が、バイオマス材料として注目されている。これらの中でも、地球上で最も多量に生産されているセルロースは、繊維状で高い結晶性を有し、高強度、低線膨張率であり、化学的安定性や生体への安全性に優れることから、機能性材料として注目されている。特に、微細セルロース繊維は、近年、紙力増強剤、ろ過補助剤、食品添加物などに利用され、盛んに開発が進められている。
【0003】
微細セルロース繊維として、例えば特許文献1に、N−オキシル化合物存在下で共酸化剤を用いセルロースを酸化処理すると、軽微な分散処理により、セルロース微結晶を得られることが記載されている。また、微細セルロース繊維を利用した例として、特許文献2には、ガスバリア用材料として用いる例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−209217号公報
【特許文献2】特開2009−57552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、微細セルロース繊維の具体的な利用方法は記載されていない。また、特許文献2の実施例により製造したガスバリア性成形体(キャストフィルム)や塗工膜は、酸化セルロース中に酸化の中間体であるアルデヒド基を含むため、セルロース膜の乾燥時や、セルロース膜を含む積層材料の成形加工時に高温に加熱した際には、着色し透明性が低下する問題がある。さらに、セルロース層は、その結晶性の高さから、弾性率が高く、硬く脆い膜質であるため、キャストフィルムのハンドリング性が低く割れやすい、塗工膜も、加工時あるいは加工後にクラックが入りやすく、ガスバリア性を十分に発揮できないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、膜の乾燥時や膜を含む積層材料の成形加工時における加熱後でも、無色で透明性を維持し、かつハンドリング性と加工性に優れるセルロース膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明において上記課題を達成するために、まず、請求項1に係る発明は、少なくとも酸化セルロースを含むセルロース膜であって、120℃で3時間加熱した後のLab表色系におけるb値と加熱する前のb値との差が、加熱する前のb値の30%以下であることを特徴とするセルロース膜、としたものである。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、120℃で1時間加熱した後のLab表色系におけるb値と加熱する前のb値との差が、加熱する前のb値の20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース膜、としたものである。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、引張り弾性率が6GPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロース膜、としたものである。
【0010】
また、請求項4に係る発明は、前記酸化セルロースが、ニトロキシラジカル誘導体を触媒とし、亜ハロゲン酸またはその塩を共酸化剤とし、弱酸性から中性条件下で処理した酸化セルロースであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のセルロース膜、としたものである。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、前記酸化セルロースが、酸化処理され、分子中に0.1mmol/g以上2mmol/g以下のカルボキシル基を導入した酸化セルロースであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のセルロース膜、としたものである。
【0012】
また、請求項6に係る発明は、前記酸化セルロースが、数平均繊維径50nm以下のセルロース繊維であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のセルロース膜、としたものである。
【0013】
また、請求項7に係る発明は、さらに、無機層状化合物を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のセルロース膜、としたものである。
【0014】
また、請求項8に係る発明は、基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した請求項1から7のいずれか1項に記載のセルロース膜とを有することを特徴とする積層材料、としたものである。
【0015】
また、請求項9に係る発明は、前記基材が、ポリ乳酸もしくはポリエステルを有する生分解性樹脂材料、バイオマス由来材料、または紙材料からなることを特徴とする請求項8に記載の積層材料、としたものである。
【0016】
また、請求項10に係る発明は、前記基材および前記セルロース膜からなる層の間、または前記基材もしくは前記セルロース膜の少なくとも片面に、更にセラミック蒸着層を有することを特徴とする請求項8または9に記載の積層材料、としたものである。
【0017】
また、請求項11に係る発明は、前記セラミック蒸着層を構成するセラミックが、酸化ケイ素又は酸化アルミニウムからなることを特徴とする請求項10に記載の積層材料、したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生分解性もあり廃棄処理における環境負荷が小さい天然資源であるセルロースを有効に利用し、高耐熱性で高い透明性を有し、かつハンドリング性と加工性に優れるセルロース膜またはセルロース膜を有する積層材料が得られる。これは包装材料、特にガスバリア材、または構造体などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の積層材料の一実施形態を表した断面図である。
【図2】本発明の積層材料の一実施形態を表した断面図である。
【図3】本発明の積層材料の一実施形態を表した断面図である。
【図4】本発明の積層材料の一実施形態を表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明のセルロースフィルムおよびセルロース積層材料は、例えば次の方法で得ることができる。
【0022】
まず、原料となるセルロースを酸化処理しカルボキシル基を導入する。
【0023】
原料としてはセルロース1の結晶構造を有する天然由来のセルロースを用いることができる。原料となる天然由来のセルロースとしては、木材パルプ、非木材パルプ、綿パルプ、バクテリアセルロース、ホヤセルロースなどがある。
【0024】
セルロースの酸化方法としては、ニトロキシラジカル誘導体を触媒とし、亜ハロゲン酸またはその塩を共酸化剤として添加する手法が用いられる。特にTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル)または4−アセトアミドTEMPOを触媒とし、弱酸性から中性条件下、好ましくはpH4〜7で、亜塩素酸ナトリウムを含む水中で行われるTEMPO酸化法が、試薬の入手しやすさ、コスト、反応の安定性の点から好適である。TEMPO酸化法では、従来、次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜ハロゲン酸またはその塩を共酸化剤として用いる手法が広く知られているが、次亜ハロゲン酸またはその塩を用いると、酸化反応の中間体として、セルロース分子中にアルデヒド基が残存してしまうため、加熱時に着色の原因となる。これに対し、亜塩素酸またはその塩は、アルデヒド基を酸化する酸化剤であるため、生成したアルデヒド基は速やかにカルボキシル基へと変換され、セルロース分子中に残存しない。このため、フィルムあるいは塗工膜として用いる際に、加熱による着色を抑えることができる。
【0025】
また、従来用いられているTEMPO酸化法においては、pH10程度のアルカリ条件下で反応を行うためアルデヒド基に起因する脱離反応が頻発し、セルロースの分子量が著しく低下することが知られていた。本発明の実施の形態においては、アルデヒド基の残存が少なく、pH4〜7の弱酸性〜中性の条件で行うことで、セルロースの分子量低下を抑えることができる。酸化セルロースの分子量が大きいと、面内での分子鎖の配向が妨げられるため、弾性率が低下し分子鎖の絡み合いによりフィルムや塗工膜の可撓性が増す効果があると考えられる。
【0026】
TEMPO酸化に用いる試薬類は市販のものを容易に入手可能である。反応温度は0〜60℃が好適であり、3〜72時間程度で微細繊維となり分散性を示すのに十分な量のカルボキシル基を導入できる。なお、反応速度を高めるため、次亜ハロゲン酸またはその塩を添加してもよい。ただし、添加量が多すぎるとアルデヒド基が生成しやすくなるため、添加量は触媒に対し1.1当量程度に抑えることが好ましい。
【0027】
カルボキシル基の量はTEMPO酸化条件を適宜設定することにより調整可能である。セルロース繊維は、カルボキシル基の電気的反発力により水中に分散することから、カルボキシル基の含有量が少なすぎると安定的に水中に分散させることができない。また、多すぎると水への親和性が増し耐水性が低下することから、カルボキシル基の含有量は、好ましくは、0.1mmol/g以上2mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.6mmol/g以上2mmol/g以下である。アルデヒド基の量は、加熱時の着色を抑えるため、0.1mmol/g以下であることが好ましい。
【0028】
酸化反応は、他のアルコールを過剰量添加し系内の共酸化剤を完全に消費させることにより停止する。添加するアルコールとしては、反応をすばやく終了させるため、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量アルコールを用いるのが望ましい。この中でも、安全性や酸化により生成する副生成物を考慮し、エタノールが好ましい。
【0029】
酸化反応停止後、生成した酸化セルロースは、ろ過により反応液中から回収することができる。反応停止後の酸化セルロースにおいて、カルボキシル基は金属イオンを対イオンとした塩を形成している。回収の方法としては、カルボキシル基が塩を形成したまま濾別する方法、反応液に酸を添加しpH2〜3に調整しカルボン酸としてから濾別する方法、有機溶剤を添加し凝集させた後に濾別する方法があるが、ハンドリング性や収率、廃液処理の点からカルボン酸に変換し回収する方法が好適である。
【0030】
回収した酸化セルロースは、洗浄を繰り返すことにより精製でき、触媒や塩、イオンなどの残渣を取り除くことができる。洗浄液としては水が好ましい。セルロース中に塩等が残留していると、後述の分散工程にて分散しにくくなるため、複数回洗浄を行うことが好ましい。
【0031】
次に、酸化セルロースを微細セルロース繊維の分散液とする工程を説明する。
【0032】
洗浄した酸化セルロースを微細化する工程としては、まず、酸化セルロースを分散媒である水系媒体に浸漬する。この時、浸漬した液のpHは概ね4程度以下になる。酸化セルロースは水系媒体に不溶であり、浸漬した時点では不均一な懸濁液となっている。次に、アルカリを用いて懸濁液のpHをpH4〜12に調整する。特に、pHをpH7〜12のアルカリ性としカルボン酸塩を形成することにより、カルボキシル基同士の電気的反発が起こりやすくなるため、分散性が向上し微細セルロース繊維を得やすくなる。pH4未満でも機械的分散処理によりセルロースを微細繊維化することは可能だが、分散処理により長時間・高エネルギーを要し、得られる繊維の繊維径もより大きくなる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機アルカリ、または、各種アミン類や水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラn−ブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム、などNROH(Rはアルキル基、またはベンジル基、またはフェニル基、またはヒドロキシアルキル基)で表される水酸化物イオンを対イオンとする第4級アンモニウム化合物、などの有機アルカリが挙げられる。
【0033】
水系媒体への分散処理の方法としては、既に知られている各種分散処理が可能であり、具体的にはホモミキサー処理、回転刃つきミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波ホモジナイザー処理、ナノジナイザー処理、ディスク型レファイナー処理、コニカル型レファイナー処理、ダブルディスク型レファイナー処理、グラインダー処理、ボールミル処理、水中対向処理などがある。この中でも、微細化効率の面から回転刃つきミキサー処理、高圧ホモジナイザー処理、超高圧ホモジナイザー処理、超音波ホモジナイザー処理が分散効率の点から好適である。なお、これらの処理のうち二つ以上の処理方法を組み合わせて分散を行うことも可能である。
【0034】
分散処理を行うと、懸濁液は目視上均一な透明分散液となる。分散液の透過率を分光光度計により測定すると、波長660nm、光路長1cmにおいて70%以上の透過率となる。分散処理により酸化セルロースは微細化し、微細セルロース繊維となる。分散処理後の微細セルロース繊維は、数平均繊維径(繊維の短軸方向の幅)が50nm以下であることが好ましい。微細セルロース繊維の繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)により確認できる。分散が不十分・不均一で、一部に繊維径の大きいものが含まれていると、分散液を製膜した際、膜の透明性や平滑性、ガスバリア性が低下してしまう問題がある。
【0035】
次に、微細セルロース繊維分散液を、キャスト法または基材上にコーティング、押出しにより製膜した後、乾燥させ剥離するなどの方法により、セルロース膜として自立膜を形成することができる。セルロース膜は、セルロースフィルムとして単体で使用する他、図1のように、基材11にセルロース膜12をラミネートし、積層材料10のセルロース被膜として使用したり、基材11上に微細セルロース繊維分散液をコーティングしてセルロース膜12を形成し、積層材料10のセルロース塗工膜として使用したりすることもできる。セルロース膜12は、図1のように、基材11の片面のみに設けてもよく、基材11の両面に設けてもよい。
【0036】
この際、乾燥エネルギーを低下させるため、分散媒が水とアルコールの混合液であると好適である。さらに、アルコールとの混合液であると、乾燥後の塗膜に分散媒が残りにくく緻密な膜が形成できるため、フィルムの機械的強度と耐水性を向上させることができる。アルコールは、コストや沸点の面から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールの低分子量アルコールが好ましい。
【0037】
また、微細セルロース繊維分散液は、例えば、ディッピング法、ロールコート法、ダイコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、スプレー法など公知の塗工方法によって基材上に塗工し、塗工膜とすることができる。塗膜をオーブン等により乾燥させることにより基材上に微細セルロース繊維の被膜が形成できる。この際、塗液の表面張力を低下させて、はじきを抑えるため、かつ乾燥エネルギーを低下させるため、分散媒が水とアルコールの混合液であると好適である。また、上記と同様の理由により、塗工膜の機械的強度やガスバリア性も向上させることができる。アルコールは、上記の様な低分子量アルコールが好ましい。
【0038】
セルロース膜を基材の片面に形成する場合には、乾燥後の被膜の厚さが0.01μm以上100μm以下となるように形成することが好ましく、特に、0.01μm以上50μm以下とすることが好ましい。膜厚が薄すぎると被膜にピンホールなどの欠陥ができやすく、反対に膜厚が厚すぎるとコストが高くなり不利である。なお、被膜を基材の両面に形成する場合、被膜の厚さは、0.01μm以上20μm以下とすることが好ましい。
【0039】
基材となる材料は、用途に応じて適宜選ぶことが可能であり、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ乳酸(PLA)などの各種ポリエステル、ナイロンなどの各種ポリアミド、などのプラスチック類のほか、紙材料などが挙げられる。特に、基材が、ポリ乳酸もしくはポリエステルを有する生分解性樹脂材料、酢酸セルロースやでんぷん樹脂、バイオポリエチレンなどのバイオマス由来材料、または紙材料であることが好ましい。基材上に形成されるセルロース膜も生分解性であるため、基材が生分解性を持つ材料や紙材料を用いることにより、廃棄特性に極めて優れた積層材料となる。基材の厚みは、要求特性によって任意に選択することができ、また、複数の基材を組み合わせて用いることも可能である。基材には、セルロース膜との密着性を高めるため、コロナ放電処理やプラズマ処理、紫外線照射などの表面改質処理を予め施してもよい。
【0040】
本発明のセルロース膜の形成の際には、添加剤としてアミノ基、エポキシ基、水酸基、カルボジイミド基、ポリエチレンイミン、イソシアネートなどの反応性官能基を有する化合物を、微細セルロース繊維分散液に添加しても良い。これらの添加剤は、酸化セルロース中の水酸基、カルボキシル基と反応し被膜の各性能、特に膜強度、耐水性、耐湿性、または基材との密着性向上に効果がある。
【0041】
さらに、添加剤として無機層状化合物を添加して使用してもよい。無機層状化合物とは、層状構造を有する結晶性の無機化合物をいい、例えば、カオリナイト族、スメクタイト族、マイカ族等に代表される粘土鉱物をあげることができる。無機層状化合物である限り、その種類、粒径、アスペクト比等は、その要求特性に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。一般的には、スメクタイト族の無機層状化合物として、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等をあげることができ、これらの中でも、塗液中の安定性や、塗工性等の点から好ましいものとしてモンモリロナイトをあげることができる。無機層状好物の添加は、特にガスバリア性の向上に効果がある。分散液中の微細セルロース繊維および無機層状化合物の重量比(微細セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)は、95/5〜25/75の範囲であることが好ましい。無機層状化合物の配合量が少ないとガスバリア性を十分に得ることができず、多すぎると無機層状化合物の薄片化が不十分となるため膜のガスバリア性に加え透明性も劣ってしまうため好ましくない。
【0042】
この他、本発明の効果を阻害しないレベルで、テトラエトキシシラン(TEOS)など有機金属化合物あるいは有機金属化合物の加水分解物、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、分散剤等の添加剤等を配合することもできる。
【0043】
積層材料のガスバリア性をいっそう向上させる場合、セラミック蒸着層を設けてもよい。真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(CVD法)等の真空プロセスにより、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機物の蒸着膜を形成し使用することができる。その蒸着膜の好ましい膜厚は、当該積層材料の用途や蒸着膜の膜組成等に応じて異なるが、通常、数十Å以上5000Å以下の範囲が好ましく、50Å以上3000Å以下がより好ましい。この蒸着膜が薄すぎるとピンホール等が生じて蒸着膜の連続性が維持されなくなり、反対に厚すぎると可撓性が低下し、クラックが発生しやすくなる。本発明のセルロースフィルムおよびセルロース塗工膜によれば、特にセラミック蒸着膜と組み合わせたとき、透明性が高く可撓性に優れるガスバリア材料が得られる。
【0044】
積層材料に設けるセラミック蒸着層は、図2のセラミック蒸着層23のように、基材21とセルロース膜22との間に設けてもよく、図3のセラミック蒸着層33のように、セルロース膜32の表面や、図4のセラミック蒸着層43のように、基材41のセルロース膜42の設けていない面に設けてもよい。
【0045】
さらに、必要に応じて、上述の基材及び複合被膜の他、さらにヒートシールを可能とする熱可塑性樹脂層、印刷層、保護層等を積層することができる。この場合、積層する各層は、溶融押出により積層してもよく、接着剤を用いて積層してもよい。
【0046】
本発明のセルロース膜は、120℃で3時間加熱した後のLab表色系におけるb値と加熱する前のb値との差が、加熱する前のb値の30%以下であることが好ましい。また、120℃で1時間加熱した後のLab表色系におけるb値と加熱する前のb値との差が、加熱する前のb値の20%以下であることが、さらに好ましい。この範囲を満たすことにより、高温に加熱した際の着色を防止し、透明性を維持することができる。また、このセルロース膜を積層材料として用いた場合、積層材料に要求される透明性を十分に満たすことができる。
【0047】
ここで、Lab表色系におけるb値とは、黄−青の軸で表される色調の数値である。セルロース膜は、加熱すると黄変し、Lab表色系におけるb値が大きく変化し、透明性が低下するため、透明性を表す指標として、b値を用いることができる。
【0048】
また、本発明のセルロース膜は、引張り弾性率が6GPa以下であることが好ましい。この範囲を満たすことにより、加工時あるいは加工後にセルロース膜にクラックが入りにくくなり、セルロース膜をガスバリア性フィルムとして用いた場合、十分なガスバリア性を発揮することができる。また、本発明のセルロース膜は、非常に反応性の高い官能基であるアルデヒド基の量が少ないため、分子間あるいは分子内で架橋を起こしにくいものと考えられる。従来のセルロース膜では、三次元的な架橋を起こしやすく弾性率が高くなるため、硬く脆い膜となるのに対し、本発明のセルロース膜は、弾性率を低く抑えることができ、ハンドリング性や加工性を向上させることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
(酸化セルロースの調製)
セルロースとして汎用的に入手可能な針葉樹漂白パルプを用いた。
セルロース18g(絶乾質量換算)をpH4.8の酢酸ナトリウム緩衝液700gに加え撹拌し、膨潤させた後ミキサーにより解繊した。ここに緩衝液560gと、4−アセトアミドTEMPOを1.8gと亜塩素酸ナトリウム15.3gを加え、0.16mol/L濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液63gを添加し、60℃で48h酸化反応を行った。その後、エタノール10gを添加し、反応を停止した。続いて反応溶液に0.5NのHClを滴下しpHを2まで低下させた。ナイロンメッシュを用いてこの溶液をろ過し、固形分をさらに水で数回洗浄し、反応試薬や副生成物を除去し、固形分濃度4%の水を含有した酸化セルロースを得た。
【0051】
(官能基の導入量の測定)
絶乾質量換算で0.2gの湿潤酸化セルロースをビーカーに量りとり蒸留水を加えて60gとした。0.1Mの塩化ナトリウム水溶液を0.5mL加え、0.5Mの塩酸でpHを3とした後0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して伝導度測定を行った。測定はpHが11程度になるまで続けた。弱酸の中和段階に相当する部分がカルボキシル基量となるので、得られた伝導度曲線から水酸化ナトリウムの添加量を読み取ると、カルボキシル基量は1.60mmol/gであった。
次に、絶乾質量換算で2g湿潤酸化セルロースに0.5Mの酢酸20mLと蒸留水60mLと亜塩素酸ナトリウム1.8gを加えpH4に調整し48時間反応させた。この後上記と同様の手法でカルボキシル基量を測定したところ1.61mmol/gであった。これよりアルデヒド基量は0.01mmol/gと算出できた。
【0052】
(微細セルロース繊維分散液の調製)
上記により調整した固形分濃度4%の酸化セルロース100g(固形分4g)に蒸留水を加えて400gの酸化セルロース懸濁液とした。水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調整した。調製した分散液を回転刃つきミキサーにて90分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。
【0053】
<実施例2>
(無機層状化合物を添加した微細セルロース分散液の調製)
上記により調整した固形分濃度4%の酸化セルロース50g(固形分2g)、モンモリロナイト(平均粒子径:100〜500nm)2gに蒸留水を加えて400gの懸濁液とした。水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調整した。調製した分散液を回転刃つきミキサーにて90分間処理し、モンモリロナイト添加微細セルロース繊維分散液を得た。
【0054】
<比較例1>
(酸化セルロースの調製)
セルロースとして汎用的に入手可能な針葉樹漂白パルプを用いた。
セルロース30g(絶乾質量換算)を蒸留水600gに加え撹拌し、膨潤させた後ミキサーにより解繊した。ここに蒸留水1200gと、予め蒸留水200gに溶解させたTEMPOを0.3g、臭化ナトリウム3gの溶液を加え、2mol/L濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液86gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に20℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5NのNaOH水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。そして、3時間反応させた時点で、エタノール30gを添加し、反応を停止した。続いて反応溶液に0.5NのHClを滴下しpHを2まで低下させた。ナイロンメッシュを用いてこの溶液をろ過し、固形分をさらに水で数回洗浄し、反応試薬や副生成物を除去し、固形分濃度7%の水を含有した酸化セルロースを得た。
【0055】
(官能基の導入量の測定)
実施例と同様にして官能基導入量の測定を行った結果、カルボキシル基量は1.60mmol/g、アルデヒド基量は0.12mmol/gであった。
【0056】
(微細セルロース繊維分散液の調製)
上記により調整した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水を加えて400gの酸化セルロース懸濁液とした。水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調整した。調製した分散液を回転刃つきミキサーにて90分間処理し、微細セルロース繊維分散液を得た。
【0057】
(セルロースフィルム)
実施例1、2および比較例1の微細セルロース繊維分散液を、角型プラスチック容器に流し込み、50℃で一晩乾燥させ、続いて120度で1時間乾燥させることによりセルロースフィルムを得た。得られたセルロースフィルムの厚さは、それぞれ14.2μmと15.0μmであった。
【0058】
<評価方法>
(セルロースフィルムの測色)
実施例1、2および比較例1のセルロースフィルムを120℃で3時間、さらに180℃で1時間加熱した。加熱前、120℃1、2、3時間加熱後、180℃1時間過熱後の、Lab表色系におけるb値を、コニカミノルタ製色彩色差計CR−300を用いて測定した。
【0059】
(セルロースフィルムの引張り弾性率測定)
実施例1、2および実施例2のセルロースフィルムの25℃における引張り弾性率をエスアイアイ・ナノテクノロジー社製EXSTER DMS6100を用いて測定した。
【0060】
実施例1、2および比較例1のb値および弾性率の測定結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1および2のセルロースフィルムは、120℃加熱後もb値がほぼ一定であったのに対し、比較例1のセルロースフィルムはb値の増加があった。180℃加熱後には、実施例1および2に比べ、比較例1は大幅にb値が増加し、変色(茶色)が明らかであった。また、実施例1および2のセルロースフィルムの弾性率は、比較例1に比べ小さく、比較例1のフィルムが非常に脆く扱いが困難であるのに対し、フィルム取り扱い時に割れやヒビの発生がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のセルロース膜またはセルロース膜を有する積層材料は、包装材料、特にフィルム状のガスバリア材や立体構造体などに利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
10、20、30、40・・・積層材料
1・・・基材
2・・・セルロース膜
3・・・セラミック蒸着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化セルロースを含むセルロース膜であって、
120℃で3時間加熱した後のLab表色系におけるb値と加熱する前のb値との差が、加熱する前のb値の30%以下であることを特徴とするセルロース膜。
【請求項2】
120℃で1時間加熱した後のLab表色系におけるb値と加熱する前のb値との差が、加熱する前のb値の20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース膜。
【請求項3】
引張り弾性率が6GPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロース膜。
【請求項4】
前記酸化セルロースが、ニトロキシラジカル誘導体を触媒とし、亜ハロゲン酸またはその塩を共酸化剤とし、弱酸性から中性条件下で処理した酸化セルロースであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のセルロース膜。
【請求項5】
前記酸化セルロースが、酸化処理され、分子中に0.1mmol/g以上2mmol/g以下のカルボキシル基を導入した酸化セルロースであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のセルロース膜。
【請求項6】
前記酸化セルロースが、数平均繊維径50nm以下のセルロース繊維であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のセルロース膜。
【請求項7】
さらに、無機層状化合物を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のセルロース膜。
【請求項8】
基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した請求項1から7のいずれか1項に記載のセルロース膜とを有することを特徴とする積層材料。
【請求項9】
前記基材が、ポリ乳酸もしくはポリエステルを有する生分解性樹脂材料、バイオマス由来材料、または紙材料からなることを特徴とする請求項8に記載の積層材料。
【請求項10】
前記基材および前記セルロース膜からなる層の間、または前記基材もしくは前記セルロース膜の少なくとも片面に、更にセラミック蒸着層を有することを特徴とする請求項8または9に記載の積層材料。
【請求項11】
前記セラミック蒸着層を構成するセラミックが、酸化ケイ素又は酸化アルミニウムからなることを特徴とする請求項10に記載の積層材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−195660(P2011−195660A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62263(P2010−62263)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】