説明

セレギリン含有貼付製剤

【課題】セレギリンを長期間、安定的に、低副作用で投与し得るセレギリン含有貼付製剤を提供すること。
【解決手段】(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミン及び/又はその薬学的に許容し得る塩、粘着剤、並びに、1分子中に2個以上のエステル結合を有する、25℃で液状の成分を含有する粘着剤層が、支持体の少なくとも片面に形成されてなる貼付製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミン(以下、「セレギリンのフリー体」と称す)及び/又はその薬学的に許容し得る塩(以下、「セレギリンの塩」と称し、該塩及び前記「セレギリンのフリー体」の両者を包括的に「セレギリン」と称す)を含有する貼付製剤に関する。具体的には、皮膚面に貼付して、セレギリンを皮膚から生体内へ連続的に投与するための貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性薬物であるセレギリンは、抗パーキンソン病治療薬として有効であり、モノアミン酸化酵素(MAO)の阻害剤として知られている。MAOには、A型(MAO−A)、B型(MAO−B)の異なったサブタイプが存在し、経口投与製剤としてのセレギリンはB型の選択的阻害剤とされている。しかし、セレギリンを多量に経口投与することによってMAO−B選択性は低下し、消化管に多く存在するMAO−Aの阻害も見られ副作用を示すことがこれまでに報告されている。また、セレギリンの体内での代謝は速く、経口投与で血中濃度を一定に保つことは困難である。
【0003】
貼付製剤で投与した場合、一般には、薬物の吸収量(吸収速度)は製剤中の薬物濃度に依存し、受動拡散にて皮膚中へ薬物が移行する。よって、製剤中の薬物濃度の低下により皮膚への移行速度が低下することが知られている。しかし、薬物の血中濃度の変化は、薬物の有効性と副作用を考えると、小さくする必要がある。
【0004】
上記のことから、皮膚へのセレギリン移行速度(透過速度)の低下を抑え、一定速度を保ち得る貼付製剤の開発が望まれた。
【0005】
一般に、体内へ一定速度で薬物吸収をさせるためには、薬物含有層の薬物濃度の急激な低下を抑える必要があり、そのために、薬物放出制御膜を持ったリザーバー型の貼付製剤や、薬物を結晶化等により放出制御を行うマトリックス型の貼付製剤などが知られている。
【0006】
しかし、リザーバー型は膜にその制御を依存しているため、製造過程での傷等でその効果が著しく損なわれ、短時間に薬物の放出が生じる場合があり、それによる薬物の毒性が発現する可能性がある。また、薬物が液体である場合、結晶化による放出制御は困難となる。
【0007】
上述の方法以外にも、薬物含量を高くすることで濃度低下を軽減する方法がある。薬物含量を高くする方法として、製剤の厚みを増す方法や、組成での比率を高める方法等があるが、前者は貼付時の剥がれが生じやすいことが経験的に知られ、後者においては粘着物性の低下を引き起こすという問題がある。
【0008】
放出制御方法としては、上記以外に、製剤中の薬物拡散速度を低下させることで、結果として放出速度を低下させる方法があるが、この場合は透過速度が一定にならず、最大透過速度を示した後、速度の減衰が見られる。特に皮膚への移行率、つまりは皮膚透過性が高い液状薬物においては、長時間にわたり一定速度で薬物を放出させるのが困難となる。よって、薬物放出性に依存せずに、皮膚中への薬物の移行を抑制する効果のある物質が望まれる。
【0009】
なお、中鎖脂肪酸トリグリセリドやアジピン酸ジイソプロピルは、皮膚透過促進剤として知られているが(特許文献1〜3)、皮膚中への薬物移行を抑制する作用があることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−281570号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/082888号パンフレット
【特許文献3】特開平10−218793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、セレギリンを長期間、安定的に投与し得る貼付製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、セレギリンを含有する粘着剤層中に特定の液状成分を含有させることにより、皮膚中へのセレギリンの移行が抑制されて、皮膚中へのセレギリンの移行速度(透過速度)が長期にわたって安定化し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1](−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミン及び/又はその薬学的に許容し得る塩、粘着剤、並びに、1分子中に2個以上のエステル結合を有する、25℃で液状の成分を含有する粘着剤層が、支持体の少なくとも片面に形成されてなる貼付製剤。
[2]25℃で液状の成分の分子量が900以下である、前記[1]記載の貼付製剤。
[3]25℃で液状の成分の含有量が、10重量%以上である、前記[1]又は[2]記載の貼付製剤。
[4]25℃で液状の成分が、中鎖脂肪酸トリグリセリド及び/又は中鎖脂肪酸ジグリセリドである、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の貼付製剤。
[5]25℃で液状の成分が、炭素数6〜10の直鎖飽和ジカルボン酸のジエステルである、請求項[1]〜[3]のいずれかに記載の貼付製剤。
[6]粘着剤がアクリル系粘着剤である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の貼付製剤。
[7](−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミンの薬学的に許容し得る塩が、塩酸塩である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の貼付製剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、セレギリンを長期間、安定的に投与できる、副作用の懸念が少ない、セレギリン貼付製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1〜3及び比較例1〜3のヘアレスマウス皮膚における透過速度の推移を示す。
【図2】実施例1、3及び比較例1、2の水中放出率の推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の貼付製剤は、セレギリンを経皮吸収させるためのものであり、その粘着剤層にセレギリンを含有し、抗パーキンソン治療薬や抗うつ薬として用いられ得る。また、その他の用途としては、抗アルツハイマー、抗てんかん、船酔い予防、統合失調症の治療、神経細胞の機能維持・保護、アセチルコリン系神経伝達改善、緑内障の治療、老化防止、HIV−関連認知機能障害の治療、ADHD(注意欠陥多動障害)の治療などが挙げられる。
【0018】
本発明の貼付製剤の有効成分であるセレギリンは、粘着剤層に溶解状態、分散状態及び/又は結晶状態にて含有させることができる。
【0019】
セレギリンの薬学的に許容し得る塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩又は硫酸塩などの無機酸との塩、及び酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩又はコハク酸塩などの有機酸との塩が挙げられる。これらの塩のうち、金属水酸化物等で中和させた場合に、粘着剤層の凝集力の低下や凝集破壊を抑制し製剤の安定化に寄与する塩化ナトリウムなどの金属塩化物を生ぜしめる点で、塩酸塩(以下、「塩酸セレギリン」とも称す)が好ましい。
【0020】
粘着剤層中のセレギリンの含有量は、粘着剤層の総重量の通常0.5〜30重量%、好ましくは1〜20重量%の範囲である。かかる含有量が、0.5重量%よりも少ないと、所望の治療・予防効果を得られない可能性があり、逆に30重量%より多いと、高濃度セレギリンによる副作用が発現する可能性がある。
【0021】
本発明で使用される支持体としては、特に限定はされないが、セレギリンや後述の液状成分が支持体中を通って背面から失われて含有量が低下しないもの、即ちこれらの成分が不透過性を有する材料が好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、アイオノマー樹脂等からなるフィルム、金属箔又はこれらのラミネートフィルム等が挙げられる。これらのうち、支持体として粘着剤層との接着性(投錨性)を向上させるために支持体を上記材料からなる無孔性フィルムと多孔性フィルムとのラミネートフィルムとし、多孔性フィルム側に粘着剤層を形成することが好ましい。
【0022】
上記の多孔性フィルムとしては、粘着剤層の投錨性が良好であれば特に限定されないが、例えば、紙、織布、不織布、機械的に穿孔処理したシート等が挙げられ、特に紙、織布、不織布が好ましい。かかる多孔性フィルムの厚みは、投錨力の向上及び貼付製剤の柔軟性を考慮して、通常10〜500μm程度であり、プラスタータイプや粘着テープタイプのような薄手の貼付製剤の場合は、通常10〜200μm程度である。また、織布や不織布の場合は、これらの目付量を5〜30g/mとすることが投錨力の向上の点で好ましい。
【0023】
本発明における粘着剤層は、支持体の少なくとも片面に形成される。本発明における粘着剤層に含有する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルエステル系粘着剤などが挙げられる。なかでも、貼付製剤としての皮膚接着性の観点から、アクリル系重合体を含むアクリル系粘着剤が好ましい。
【0024】
本発明におけるアクリル系粘着剤は、通常、モノマー成分として少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む重合体であり、好ましくは主たるモノマー成分が(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合し得る他のモノマー(以下、単に「他のモノマー」という)との共重合体である。
【0025】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は、人の皮膚への粘着性の観点から、炭素数4以上が好ましく、特に好ましくは炭素数が4〜13であり、直鎖でも、分岐鎖でもよい。具体的には、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、へキシル、へプチル、n−オクチル、イソオクチル、sec−オクチル、tert−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル等が挙げられ、好ましくは2−エチルヘキシルである。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは1種又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0026】
他のモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、アクリルアミドメチルスルホン酸等のスルホキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル等のヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルアミノエチルエステル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールエステル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキレングリコールエステル;(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニル−2−ピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクタム、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン等のビニルを有する化合物等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用される。なかでも、粘着物性の観点から、カルボキシル基含有モノマー(好ましくはアクリル酸)、ヒドロキシル基含有モノマー(好ましくはアクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル)、アミド基を有する(メタ)アクリル酸誘導体(好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド)、N−ビニル−2−ピロリドン、酢酸ビニル等が好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルと他のモノマーとの共重合比は特に限定されず、得られる共重合体の重量平均分子量等の分子量特性に応じて適宜設定されるが、一般的には(メタ)アクリル酸アルキルエステル:他のモノマー=50〜97:50〜3、好ましくは65〜95:35〜5の重量比で配合して共重合した共重合体が特に好ましい。
【0028】
好ましい共重合体としては、例えば、アクリル酸2−エチルへキシルエステルとN−ビニル−2−ピロリドンとアクリル酸との共重合体、アクリル酸2−エチルへキシルエステルとアクリル酸2−ヒドロキシエチルエステルと酢酸ビニルとの共重合体、アクリル酸2−エチルへキシルエステルとアクリル酸との共重合体等が挙げられ、共重合体の粘着特性の観点から、より好ましくは、アクリル酸2−エチルへキシルエステルとN−ビニル−2−ピロリドンとアクリル酸からなる共重合体であり、アクリル酸2−エチルへキシルエステル:N−ビニル−2−ピロリドン:アクリル酸=50〜90:10〜30:0〜5の重量比で配合して共重合した共重合体が特に好ましい。
【0029】
粘着剤層中の粘着剤の含有量は、粘着剤層の総重量の通常20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%の範囲である。かかる含有量が、20重量%よりも少ない場合、貼付剤の皮膚接着力の維持が困難となる可能性があり、逆に90重量%より多い場合、強い皮膚接着力による皮膚刺激が発生する可能性がある。
【0030】
本発明の貼付製剤は、1分子中に2個以上のエステル結合を有する液状成分を粘着剤層中に含有する。かかる液状成分は、25℃で液状の成分であり、また、その分子量は、所望の物性を担保する観点から、通常、900以下であり、好ましくは、700以下である。分子量が900を超えると、分子間力が強くなり、可塑化作用が弱くなる。また、当該液状成分における1分子中のエステル結合は好ましくは2〜3である。分子量の下限は特に限定はされないが、分子量が小さいと吸収速度が速くなり効果の持続が期待できなくなることから、150以上が好ましい。
【0031】
当該液状成分としては、前記条件を満たす限り特に制限されないが、例えば、グリセリン脂肪酸トリエステル(脂肪酸トリグリセリド)、グリセリン脂肪酸ジエステル(脂肪酸ジグリセリド)、フタル酸ジエステル、クエン酸トリエステル(例えば、クエン酸トリエチル等)、アセチルクエン酸トリエステル(例えば、アセチルクエン酸トリブチル等)、炭素数6〜10の直鎖飽和ジカルボン酸のジエステル(例えば、アジピン酸ジエステル、セバシン酸ジエステル、ピメリン酸ジエステル、スベリン酸ジエステル、アゼライン酸ジエステル、マロン酸ジエステル、コハク酸ジエステル、グルタル酸ジエステル、フタル酸ジエステル等)、プロピレングリコール脂肪酸ジエステル等が挙げられ、好ましくは、グリセリン脂肪酸トリエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、アジピン酸ジエステル、セバシン酸ジエステルである。これらは一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記以外の他の液状成分(例、アルコール類、有機酸(酢酸、乳酸等)、グリセリン、水等)と併用してもよい。
【0032】
グリセリン脂肪酸トリエステルは、好ましくは中鎖脂肪酸トリグリセリドであり、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、グリセリンにエステル結合している3つの脂肪酸の少なくとも1つが中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸であるトリグリセリド、より好ましくは、グリセリンにエステル結合している3つの脂肪酸の少なくとも2つが中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸であるトリグリセリド、最も好ましくは、グリセリンにエステル結合している3つの脂肪酸のすべてが中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸であるトリグリセリドである。
【0033】
また、中鎖脂肪酸トリグリセリドはグリセリンにエステル結合している中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸種が一種類のみのトリグリセリド(例えば、グリセリンにエステル結合している中鎖脂肪酸がカプリル酸のみのカプリル酸トリグリセリド、カプリン酸のみのカプリン酸トリグリセリドなど)が用いられても良いし、グリセリンにエステル結合している中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸種が複数種であるトリグリセリド(例えば、グリセリンにエステル結合している中鎖脂肪酸がカプリル酸とカプリン酸である(カプリル酸・カプリン酸)トリグリセリドや、カプリル酸とカプリン酸とラウリン酸である(カプリル酸・カプリン酸・ラウリン酸)トリグリセリドなど)が用いられても良い。本発明の中鎖脂肪酸トリグリセリドには、一種類の中鎖脂肪酸トリグリセリドのみが用いられても良いし、複数種の中鎖脂肪酸トリグリセリドの混合物が用いられても良い。
【0034】
また、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、天然物からの抽出物であってもよいし、合成物であってもよい。また、市販品も利用可能であり、例えば、花王株式会社製の「ココナード」、クローダ社製の「クロダモル GTCC」、日油株式会社製の「パセナート 810S」等が挙げられる。
【0035】
グリセリン脂肪酸ジエステルは、好ましくは中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸ジグリセリドであり、例えば、中鎖脂肪酸がカプリル酸のみのカプリル酸ジグリセリドが挙げられる。グリセリン脂肪酸ジエステルは、天然物からの抽出物であってもよいし、合成物であってもよい。また、市販品も利用可能である。
【0036】
アジピン酸ジエステルは、アジピン酸にエステル結合しているアルコール残基の炭素数が1〜5であるジエステルが好ましく、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル等が挙げられ、中でも、アジピン酸ジイソプロピルが特に好ましい。
【0037】
セバシン酸ジエステルは、セバシン酸にエステル結合しているアルコール残基の炭素数が1〜4であるジエステルが好ましく、例えば、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル等が挙げられ、中でも、セバシン酸ジイソプロピルが特に好ましい。
【0038】
液状成分の含有量は、粘着剤層の総重量の10重量%以上であり、好ましくは、15重量%以上である。かかる含有量が、10重量%未満であると、貼付製剤を皮膚から剥離する時の皮膚刺激が強くなる可能性がある。さらに、皮膚への吸収量が不足し、持続的な薬物の移行を困難にするおそれがある。また、含有量の上限値は、とくに限定されないが、皮膚への粘着性の観点から、通常、70重量%以下であり、好ましくは、50重量%以下である。
【0039】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層は非架橋でもよいが、過度の可塑化を防ぐ場合に架橋処理を施してもよい。その場合、粘着剤層に架橋処理を施すための架橋剤としては、例えば、有機金属化合物、金属アルコラート、又は金属キレート化合物等が挙げられる。具体的には、有機金属化合物としては、例えば、ジルコニウム、亜鉛アラニネート、酢酸亜鉛、グリシンアンモニウム亜鉛等が挙げられ、金属アルコラートとしては、例えば、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、アルミニウムイソプレピレート、アルミニウムsec−ブチレート等が挙げられ、金属キレート化合物としては、例えば、ジ−iso−プロポキシビス(アセチルアセトン)チタネート、テトラオクチレングリコールチタネート、アルミニウムイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等が挙げられる。なお、好ましく用いられる架橋剤は金属キレート化合物である。なかでもエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートがより好ましい。架橋処理には、上記架橋剤を1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
粘着剤に架橋処理を施す場合の架橋剤の含有量は、架橋剤や粘着剤の種類によって異なるが、架橋処理を施す粘着剤100重量部に対して、通常0.05〜0.6重量部、好ましくは0.12〜0.4重量部の範囲である。
【0041】
本発明の貼付製剤には、セレギリンの吸収性を高めるために、粘着剤層に金属水酸化物を含有させることができる。金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0042】
粘着剤層の厚さは、皮膚面への貼付や剥離性の点から、通常、10〜300μmであり、好ましくは、50〜200μmである。
【0043】
粘着剤層には必要に応じて、各種顔料、各種充填剤、安定化剤、薬物溶解補助剤、薬物溶解抑制剤、金属塩化物等の添加剤を配合することができる。
【0044】
粘着剤層は、皮膚接着性の観点から疎水性粘着剤層が好ましく、非含水系の粘着剤層が好ましい。ここにいう非含水系の粘着剤層は、必ずしも完全に水分を含まないものに限定されるわけではなく、空中湿度、皮膚等に由来する若干量の水分を含むものは包含される。ここにいう若干量の水分とは、支持体と粘着剤層の積層体の含水率として、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下、もっとも好ましくは1重量%以下である。ここで、支持体と粘着剤層の積層体の含水率とは、カールフィッシャー電量滴定法により測定される、存在する場合剥離ライナーを剥離した支持体と粘着剤層の積層体中に含まれる水の重量割合(支持体と粘着剤層の積層体の総重量に対する水の重量パーセンテージ)を意味し、具体的には次のとおりである。すなわち、温度23±2℃および相対湿度40±5%RHに制御された環境下で、存在する場合の剥離ライナーを有する試料を所定の大きさに打ち抜いて、試験片を作製する。その後、試験片から存在する場合の剥離ライナーを除去して水分気化装置へ投入する。水分気化装置内で試験片を140℃で加熱し、これにより発生した水分を、窒素をキャリヤーとして滴定フラスコへと導入し、カールフィッシャー電量滴定法により、試料の含水率(重量%)を測定する。
【0045】
本発明の貼付製剤の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の製造方法により製造することができる。
【0046】
まず、エタノールなどの溶媒を用いてセレギリンのフリー体及び/又はセレギリンの塩を含有する薬物含有溶液を調製する。
【0047】
なお、粘着剤層に金属水酸化物を含有させる場合は、セレギリンのフリー体及び/又はセレギリンの塩を、エタノールなどの溶媒に溶解及び/又は分散した金属水酸化物と混合攪拌し薬物含有溶液を調製する。
【0048】
上記の薬物含有溶液を、粘着剤(例えば、アクリル系共重合体粘着剤等)、液状成分、及び必要に応じて架橋剤やその他の添加剤等と共に、溶媒又は分散媒に、溶解又は分散させる。なお、セレギリンの塩は粘着剤層に対する溶解性が低いため、分散状態となる傾向がある。粘着剤層の形成に用いる溶媒又は分散媒は、特に限定されず、粘着剤の溶媒等として通常使用されるものを粘着剤の種類、薬物との反応性等を考慮して選択することができる。かかる溶媒又は分散媒としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、2−プロパノール、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0049】
次に、得られた溶液又は分散液を、支持体の片面又は剥離シートの剥離処理面に塗布し、乾燥して粘着剤層を形成する。なお、前記塗布は、例えば、キャスティング、プリンティング、その他の当業者に自体公知の技法により実施可能である。その後、粘着剤層に剥離シート又は支持体を貼り合わせる。かかる剥離シートとしては、使用時に粘着剤層から容易に剥離されるものであれば特に限定されず、例えば、粘着剤層との接触面にシリコーン処理が施されたポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム、あるいは、上質紙又はグラシン紙とポリオレフィンとのラミネートフィルム等が用いられる。該剥離シートの厚みは、通常200μm以下、好ましくは25〜100μmである。なお、架橋処理を行う場合は、剥離シートを粘着剤層上に貼りあわせた後、通常60〜90℃、好ましくは60〜70℃で24〜48時間、エージング処理などを施すことによって架橋反応を促進させて、本発明の貼付製剤を調製する。
【0050】
なお、セレギリンを、粘着剤(例えば、アクリル系共重合体粘着剤等)、並びに、必要に応じて架橋剤その他の添加剤等と共に、溶媒又は分散媒に、溶解又は分散して薬物含有溶液を調製した後、得られた溶液に塩基性化合物及び/又は金属塩化物を混合攪拌し、支持体の片面又は剥離シートの剥離処理面に塗布し、乾燥して粘着剤層を形成し、その後、剥離シート又は支持体を貼り合わせてもよい。
【0051】
本発明の貼付製剤の形状は限定されず、例えば、テープ状、シート状等であってもよい。
【0052】
本発明の貼付製剤の投与量は、患者の年齢、体重、症状などにより異なるが、通常、成人に対して、セレギリン1〜40mgを含有した貼付製剤を皮膚1〜40cmに、2日に1回から1日に2回程度貼り付けるのが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下文中で部及び%とあるのは、特記しない限り、それぞれ重量部及び重量%を意味する。
【0054】
(アクリル系粘着剤の調製)
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)72部、N−ビニル−2−ピロリドン(VP)25部、アクリル酸(AA)3部及びアゾビスイソブチロニトリル0.2部を酢酸エチル中60℃にて溶液重合させて、アクリル系共重合体の溶液を調製した。重量平均分子量は、約180万であった。
【0055】
(実施例1〜3、比較例1〜3のセレギリン含有貼付製剤の作製)
下記表1に示す配合割合に従って、各粘着剤溶液を調整し、酢酸エチルで粘度を調整した。得られた溶液を、ポリエステルフィルム(75μm厚)に乾燥後の厚みが80μmになるように塗布した後、乾燥して粘着剤層を作製した。次いで、かかる粘着剤層をポリエステルフィルム(12μm厚)に貼りあわせた後、60℃で48時間エージング処理を行い、セレギリン含有貼付製剤を作製した。
なお、中鎖脂肪酸トリグリセリドには、「ココナードMT」[トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、花王株式会社製]を用いた。また、表1中、ALCHはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを示し、単位は全て粘着剤層の総重量における重量%である。
【0056】
【表1】

【0057】
(評価試験)
<皮膚透過試験(ヘアレスマウス摘出皮膚)>
実施例1〜3及び比較例1〜3の貼付製剤について、皮膚透過試験を行った。皮膚透過試験の方法は下記のとおりである。
十分に水和させ2.54cmの大きさに打ち抜いたヘアレスマウス摘出皮膚の中央に製剤(サンプル)を貼付し、透過セルにセットした。32℃に保温したレセプター液を流し、フラクションコレクターを作動させ実験を開始した。4、8、12、16、20、24時間毎にレセプター液を回収した。回収したレセプター液のセレギリン含有量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を用いて定量し、透過速度(単位時間(hr)、単位面積(cm)当たりの薬物透過量(μg/cm/hr)を算出した。
【0058】
試験条件及びHPLC分析条件は、以下のとおりである。
(試験条件)
透過装置:全自動フロースルー拡散セル装置(バンガードインターナショナル社製)
サンプル面積:0.5cm
レセプター液:リン酸緩衝液(pH=7.4、0.02重量%アジ化ナトリウム含む)
流量:約10mL/4hr/セル
(HPLC分析条件)
検出器:紫外吸光光度計(波長;205nm)
カラム:GLサイエンス社製 ODS−3
カラム温度:35℃
移動相:リン酸二水素アンモニウム11.50gを水1000mLに溶かし、リン酸にてpH3.1に調整した。この液900mLに液体クロマトグラフィー用アセトニトリル100mL加えて混和した。
流量:約1.4mL/min
【0059】
結果を、図1に示す。
【0060】
<水中放出試験>
実施例1、3及び比較例1、2の貼付製剤について、水中放出試験を行った。水中放出試験の方法は下記のとおりである。
試験液に32℃の日局溶出試験第2液1000mLを用い、溶出試験法の回転シリンダー法(USP30 <724> Drug Release Apparatus 6)により、毎分50回転で試験を行った。10、20、30、40、60、90、120、240分ごとに試験液を5mL回収した。(回収後には5mLの試験液を加えた。)
回収した試験液のセレギリン含有量はHPLC法を用いて定量した。なお、試験装置に溶出試験機NTR−8000AC(富山産業社製)を用い、HPLC分析条件は前記と同様とした。
結果を、図2に示す。
【0061】
皮膚透過試験(図1)より、中鎖脂肪酸トリグリセリドやアジピン酸ジイソプロピルを40%配合したアクリル系粘着剤配合の貼付製剤(実施例1、3)では、液状成分を有さない貼付製剤(比較例2)よりも透過速度が低く抑えられ、16時間移行の透過速度低下も見られなかった。液状成分を有する貼付製剤において、液状成分を有さない貼付製剤より透過速度が低く抑えられたことは、予測外であった。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドやアジピン酸ジイソプロピル以外の液状成分としてミリスチン酸イソプロピルやラウリン酸ヘキシルを配合した貼付製剤(比較例1、3)では透過促進剤として働き、最大透過速度の上昇及び16時間移行の透過速度低下が見られた。
一方、水中放出試験(図2)では、中鎖脂肪酸トリグリセリド、アジピン酸ジイソプロピル及びミリスチン酸イソプロピルいずれでも、40%配合の貼付製剤において差は見られなかった。液状成分を有さない貼付製剤のみ水中放出性が低かった。かかる結果より、貼付製剤中からの薬物放出性に差は見られないが、液状成分が皮膚へ作用し、皮膚への薬物移行及び薬物透過が抑制されることが考えられた。
また、中鎖脂肪酸トリグリセリド20%配合貼付製剤(実施例2)では40%配合(実施例1)と同様の効果が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミン及び/又はその薬学的に許容し得る塩、粘着剤、並びに、1分子中に2個以上のエステル結合を有する、25℃で液状の成分を含有する粘着剤層が、支持体の少なくとも片面に形成されてなる貼付製剤。
【請求項2】
25℃で液状の成分の分子量が900以下である、請求項1記載の貼付製剤。
【請求項3】
25℃で液状の成分の含有量が、10重量%以上である、請求項1又は2記載の貼付製剤。
【請求項4】
25℃で液状の成分が、中鎖脂肪酸トリグリセリド及び/又は中鎖脂肪酸ジグリセリドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貼付製剤。
【請求項5】
25℃で液状の成分が、炭素数6〜10の直鎖飽和ジカルボン酸のジエステルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の貼付製剤。
【請求項6】
粘着剤が、アクリル系粘着剤である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の貼付製剤。
【請求項7】
(−)−(R)−N,α−ジメチル−N−2−プロピニルフェネチルアミンの薬学的に許容し得る塩が、塩酸塩である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の貼付製剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−190205(P2011−190205A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56674(P2010−56674)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(501228129)株式会社フジモト・コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】