説明

センターテイクオフ型ステアリング装置

【課題】センターテイクオフ型ステアリング装置において、ラック軸の回り止めを安価に達成すること。
【解決手段】ラック軸10を取り囲む筒状のハウジング27の一端部27aの内周面36に相対回転不能に嵌合保持され、ラック軸10を軸方向Sに摺動自在に支持するラックブッシュ37が設けられている。ラックブッシュ37は、ラック軸10の回動を規制する回動規制部としての平坦面を含んでいる。ラック軸10を支持するためのラックブッシュ37をラック軸10の回り止め部材としても用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センターテイクオフ型ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車両に備えられるラックアンドピニオン式のステアリング装置には、ラック軸とタイロッドとを接続する箇所が、車両の幅方向の中央にされているセンターテイクオフ型のものがある(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開平6−255509号公報
【特許文献2】特開2000−72005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
センターテイクオフ型ステアリング装置では、ラック軸に取り付けられラック軸の径方向外方に延びる連結部材等を介して、ラック軸とタイロッドとが連結される。タイロッドは、ラック軸に対して、ラック軸の径方向にオフセットした位置に配設されることとなり、タイロッドからの力の一部は、上記オフセット量をアーム長とするモーメントとしてラック軸に作用する。このモーメント等に起因するラック軸の回動を防止して、ラックとピニオンとの噛み合い部分に余分な負荷が掛からないようにする必要がある。
【0004】
しかしながら、ラック軸の回動を規制するために専用の回り止め部材を設けると、部品点数が増えてコストが増加してしまう。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、ラック軸の回り止めを安価に達成することのできるセンターテイクオフ型ステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、操舵部材(2)に連動して回転するピニオン(8)の回転を車両の幅方向(A)に延びるラック軸(10)の直線変位に変換し、この直線変位を受けて車輪(13)を転舵するためのタイロッド(11)を車両の幅方向(A)の中央位置(A1)から延ばすようにしたセンターテイクオフ型ステアリング装置(1)において、上記ラック軸(10)を取り囲む筒状のハウジング(27)と、ハウジング(27)の一端(27a)の内周(36)に相対回転不能に嵌合保持され、ラック軸(10)を軸方向(S)に摺動自在に支持するラックブッシュ(37)とを備え、ラックブッシュ(37)は、ラック軸(10)の回動を規制する回動規制部(41a)を含んでいることを特徴とするものである(請求項1)。
【0006】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
本発明によれば、ラック軸を支持するためのラックブッシュをラック軸の回り止めとしても用いることができる。専用の回り止め部材を別途設ける必要がなく、部品点数を少なくしてコスト安価にできる。
【0007】
また、本発明において、上記ラック軸(10)の一端(10a)はハウジング(27)の一端(27a)から突出しており、ラック軸(10)の上記一端(10a)に、上記タイロッド(11)を連結するための連結部材(12)が取り付けられている場合がある(請求項2)。この場合、ラック軸の他端側のみをハウジングが支持することとなり、ハウジングの全長を短くできる。
【0008】
また、本発明において、上記回動規制部(41a)は、ラックブッシュ(37)の周方向(B)と交差し且つラックブッシュ(37)の軸方向(S)に延びる平坦面(41a)を含み、回動規制部(41a)としての上記平坦面(41a)は、ラック軸(10)の外周面(42)に形成された平坦面(42a)と合致している場合がある(請求項3)。この場合、ラックブッシュおよびラック軸に平坦面を設けるという簡易な構成で、ラック軸の回り止めを達成できる。
【0009】
また、本発明において、上記ラックブッシュ(37)は合成樹脂を含んでいる場合がある(請求項4)。この場合、ラックブッシュとラック軸との摩擦抵抗を少なくしてラック軸の滑らかな摺動を実現できるとともに、ラックブッシュを硬質に形成してラック軸の回動を確実に規制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態にかかるセンターテイクオフ型ステアリング装置としての電動パワーステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。図2は、図1のII−II線に沿う要部の断面図である。
図1および図2を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結されているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結されている中間軸5と、この中間軸5に自在継手6を介して連結されているピニオン軸7と、ピニオン軸7の先端部に設けられたピニオン8に噛み合うラック9を形成して車両の幅方向Aに延びるラック軸10とを有している。
【0011】
ラック軸10の一端部10aには、一対のタイロッド11を連結するための連結部材12が取り付けられている。車輪としての各転舵輪13が車両前方を略真っ直ぐ向いている操舵中立状態(図1に示す状態)において、連結部材12は、車両の幅方向Aの中央位置A1に位置している。ラック軸10の軸方向Sと幅方向Aとは平行である。
連結部材12は、ラック軸10の径方向に張り出した張出部14を含んでいる。張出部14は、球面継手等からなる一対の継手15を介して一対のタイロッド11の対応する一端部11aとそれぞれ連結されている。各タイロッド11は、上記中央位置A1から延びており、各タイロッド11の他端部11bが、対応するナックルアーム16を介して対応する転舵輪13にそれぞれ連結されている。
【0012】
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転は中間軸5等を介してピニオン8に伝達され、操舵部材2と連動して回転するピニオン8およびラック9によって、車両の幅方向Aに沿うラック軸10の直線変位に変換される。これにより各タイロッド11等を介して各ナックルアーム16の回動を引き起こし、転舵輪13の転舵が達成される。
【0013】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連なる入力軸としての第1の操舵軸17と、自在継手4に連なる出力軸としての第2の操舵軸18とを有している。これら第1および第2の操舵軸17,18はトーションバー19を介して同軸上に互いに連結されている。
トーションバー19の近傍には、トーションバー19のねじれに起因する第1の操舵軸17と第2の操舵軸18との相対回転変位量を検出するトルクセンサ20が設けられている。このトルクセンサ20の検出信号は、制御部21に与えられる。
【0014】
制御部21は、トルクセンサ20からの検出信号や車速センサ22からの検出信号等に基づいて、ドライバ23を介して操舵補助用の電動モータ24の駆動を制御する。これにより、電動モータ24が駆動し、その出力回転(動力)が、平行軸歯車機構等の減速機構25で減速されて、第2の操舵軸18へ伝達される。
第2の操舵軸18に伝えられた動力は、さらに中間軸5等を介して、上記ラック軸10、タイロッド11およびナックルアーム16を含む舵取り機構26に伝えられ、運転者の操舵が補助される。
【0015】
ラック軸10の一部は、筒状のハウジング27に取り囲まれている。ハウジング27は、アルミ、鉄等を用いて形成されており、車体側部材28,29に支持されている。ハウジング27内には、ピニオン軸7が挿通されており、ピニオン8を挟んで配置された一対の軸受30,31を介してピニオン軸7がハウジング27に回転自在に支持されている。
ハウジング27の一端部27aと他端部27bとの間の中間部27cには、収容孔32が形成されている。収容孔32は、ラック軸10を挟んでピニオン8と対向している。この収容孔32にサポートヨーク33が収容されている。
【0016】
サポートヨーク33は、ラック軸10を当該ラック軸10の軸方向Sに摺動自在に支持する凹面部33aを有しており、この凹面部33aに沿うように、低摩擦の摺接板46が取り付けられている。摺接板46の形状は、ラック軸10のラック9の背面10cの形状と合致している。摺接板46とラック軸10の背面10cとが互いに摺接している。
収容孔32には、ねじ部材34がねじ込まれており、ねじ部材34とサポートヨーク33との間にばね部材35が介装されている。ばね部材35は、サポートヨーク33をラック軸10側に付勢している。これにより、ラック9とピニオン8との噛み合いのガタを詰めている。
【0017】
図1を参照して、ハウジング27の一端部27aの内周面36には、筒状のラックブッシュ37が嵌合保持されている。ラックブッシュ37は、ラック軸10を軸方向Sに摺動自在に支持するものであり、例えば、合成樹脂を用いて形成されている。
上記合成樹脂として、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(TPEE)、その他の熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリアセタール(POM)等の低摩擦係数の合成樹脂を例示できる。ラックブッシュ37の合成樹脂として、自己潤滑性を有していることが好ましい。
【0018】
ラックブッシュ37は、後述するように、ハウジング27との相対回転が不能とされている。ハウジング27の上記内周面36には、ラックブッシュ37に隣接してストッパ38が圧入嵌合されており、ラックブッシュ37のハウジング27からの抜けが防止されている。ラックブッシュ37は、ストッパ38と内周面36の環状の段部36aとに挟まれている。
【0019】
ハウジング27の一端部27aから、ラック軸10の一端部10aを含む一部が突出しており、ラック軸10がハウジング27に片持ち支持されている。この突出した一端部10aに前記連結部材12が取り付けられている。ハウジング27の一端部27aの外周面39と連結部材12との間に、ダストブーツ40が架け渡されている。このダストブーツ40は、ゴム等の弾性部材を蛇腹状に形成して伸縮自在にしてあり、ラック軸10の軸方向Sの変位に伴って伸縮する。ラック軸10に雨水等の異物が付着することを防止している。
【0020】
図3は、図1のIII−III線に沿う要部の断面図である。図1および図3を参照して、本実施の形態の特徴とするところは、ラックブッシュ37に、ラック軸10の回動を規制する回動規制部としての平坦面41aが設けられている点にある。
平坦面41aは、ラックブッシュ37の内周面41の一部を起伏させてなり、ラックブッシュ37の周方向Bと交差し且つラックブッシュ37の軸方向に延びている。ラックブッシュ37の軸方向は、軸方向Sと一致している。平坦面41aは、ラックブッシュ37の軸方向の全域に形成されており、断面形状が直線状をなしている。ラックブッシュ37の内周面41の断面形状はD形形状とされており、平坦面41a以外の部分が円弧状部41bとされている。
【0021】
平坦面41aの形状は、ラック軸10の中間部10dのうちラック9が形成されていない部分の外周面42に形成された平坦面42aの形状と合致している。平坦面42aは、ラックブッシュ37の軸方向に延びている。中間部10dの外周面42の断面形状は、ラックブッシュ37の内周面41の断面形状と合致している。
ラックブッシュ37の外周面43の断面形状は、ハウジング27の一端部27aの内周面36の断面形状に合致している。ラックブッシュ37の外周面43には、この外周面43を周方向Bに起伏してなる平坦面43aが設けられており、ラックブッシュ37がハウジング27に相対回転不能に保持されている。
【0022】
ラックブッシュ37の平坦面43aは、ラックブッシュ37の周方向Bと交差し且つラックブッシュ37の軸方向に延びている。平坦面43aは、ラックブッシュ37の軸方向の全域に亘って形成されており、周方向Bに間隔をあけて一対設けられている。
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下の作用効果を発揮することができる。すなわち、ラック軸10を支持するためのラックブッシュ37をラック軸10の回り止めとしても用いることができる。専用の回り止め部材を別途設ける必要がなく、部品点数を少なくしてコスト安価にできる。
【0023】
また、ラック軸10の一端部10aを、ハウジング27の一端部27aから突出するようにしている。ラック軸10の他端部10b側の一部分のみが、ラックブッシュ37やサポートヨーク33等を介してハウジング27で支持される。軸方向Sに関するハウジング27の全長を短くできる。
さらに、ラックブッシュ37をハウジング27に相対回動不能に保持しておき、ラックブッシュ37に平坦面41aを設けるとともにラック軸10に平坦面42aを設けるという簡易な構成で、ラック軸10の回り止めを達成できる。
【0024】
また、低摩擦係数の合成樹脂を用いてラックブッシュ37を形成していることにより、ラックブッシュ37とラック軸10との摩擦抵抗を少なくしてラック軸10の滑らかな摺動を実現できるとともに、ラックブッシュ37を硬質に形成してラック軸10の回動を確実に規制し、且つ耐久性を保つことができる。
また、例えば、ラック軸とタイロッドとを連結するための連結部材からボルトを延ばし、このボルトをハウジングに形成した長孔に挿通してラック軸に結合し、ボルトに外嵌した筒状のカラーが長孔内を移動するようにした、いわゆるスライダ構造を採用し、カラーと長孔の周面との当接によりラック軸の回動を規制することも考えられる。しかしながら、この場合、連結部材を挟んだ両側に、長孔を覆うダストブーツを設ける必要がある等、部品点数が多くなってしまう。
【0025】
一方、本実施の形態では、ラック軸10の一端部10a側をハウジング27から突出させて、この一端部10a側にのみダストブーツ40を設けており、部品点数が少ない。
また、例えば、サポートヨークとラック軸との互いの摺動部分の断面をV形形状やY型形状にし、サポートヨークによってラック軸の回り止めをすることも考えられる。しかしながら、この場合、ラック軸に軸回りのモーメントが作用したときに、ラック軸が回転しようとしてサポートヨークの摺動面に当たりサポートヨークとラック軸との間に打撃音(コトコト音)が生じて騒音の原因となる。
【0026】
一方、本実施の形態によれば、サポートヨーク33(摺接板46)とラック軸10との互いの摺動部分の断面形状を円弧状にしており、ラック軸10がモーメントを受けたときでも、ラック軸10の回転を円弧状部で受けるので、サポートヨーク33と衝突することを防止でき、騒音の原因となり難い。
本発明は、以上の実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、ラックブッシュ37を鉄等の金属で形成してもよい。さらに、その表面にラック軸10との摩擦係数が低くなるような処理、例えばフッ素等の樹脂コーティングを施してもよい。また、ラック軸10との摩擦係が低くなるように、ラックブッシュの一部または全部を含油効果のある材質、例えば焼結含油材等で構成してもよい。また、ハウジング27の一端部27aに切欠を形成して、ラックブッシュ37をこの切欠に保持させてもよい。また、ハウジング27がラック軸10の全部を取り囲んでいてもよい。
【0027】
さらに、本発明は、ラック軸の中間部に連結部材を配置し、連結部材を挟んだラック軸の両側を支持するようにした両持ちタイプのステアリング装置に適用できる。また、本発明は、電動モータの出力回転を、ボールねじ機構等を介してラック軸に付与するラックアシストタイプの電動パワーステアリング装置に適用でき、また、油圧シリンダの油圧をラック軸に付与する油圧パワーステアリング装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるセンターテイクオフ型ステアリング装置としての電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1のII−II線に沿う要部の断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う要部の断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1…電動パワーステアリング装置(センターテイクオフ型ステアリング装置)、2…操舵部材、8…ピニオン、10…ラック軸、10a…(ラック軸の)一端部(一端)、11…タイロッド、12…連結部材、13…転舵輪(車輪)、27…ハウジング、27a…(ハウジングの)一端部(一端)、36…(ハウジングの一端の)内周面(内周)、37…ラックブッシュ、41a…平坦面(回動規制部)、42…(ラック軸の)外周面、42a…(ラック軸の外周面の)平坦面、A…幅方向、A1…中央位置、B…周方向、S…軸方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材に連動して回転するピニオンの回転を車両の幅方向に延びるラック軸の直線変位に変換し、この直線変位を受けて車輪を転舵するためのタイロッドを車両の幅方向の中央位置から延ばすようにしたセンターテイクオフ型ステアリング装置において、
上記ラック軸を取り囲む筒状のハウジングと、
ハウジングの一端の内周に相対回転不能に嵌合保持され、ラック軸を軸方向に摺動自在に支持するラックブッシュとを備え、
ラックブッシュは、ラック軸の回動を規制する回動規制部を含んでいることを特徴とするセンターテイクオフ型ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、上記ラック軸の一端はハウジングの一端から突出しており、ラック軸の上記一端に、上記タイロッドを連結するための連結部材が取り付けられていることを特徴とするセンターテイクオフ型ステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2において、上記回動規制部は、ラックブッシュの周方向と交差し且つラックブッシュの軸方向に延びる平坦面を含み、
回動規制部としての上記平坦面は、ラック軸の外周面に形成された平坦面と合致していることを特徴とするセンターテイクオフ型ステアリング装置。
【請求項4】
請求項1,2または3において、上記ラックブッシュは合成樹脂を含んでいることを特徴とするセンターテイクオフ型ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−74260(P2008−74260A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256045(P2006−256045)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】