説明

ゼロ膨張材料で作製された複合構造物およびその製造方法

【課題】より高い費用対効果の製造を達成できる、ゼロ膨張材料で作製されるガラスセラミックスの複合構造物を提供する。
【解決手段】ゼロ膨張材料、特にZerodur(登録商標)などのガラスセラミックで作られ、少なくとも1つの接着層17、19、26、28、30、32により結合される構成部品からなる複合構造物10が定義される。複合構造物10は、ゼロ膨張材料に関する有利な特性、特に極めて低い熱膨張係数、最大150℃での強度、最小限のガス放出を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼロ膨張材料で作製された複合構造物、特にZerodur(登録商標)などのガラスセラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるゼロ膨張材料は、従来技術において一般的に使用されており、精密工学、とりわけ光学分野において数多くの適用例を有する。
たとえば多くの天体鏡は、出願人により製造販売されるZerodur(登録商標)ガラスセラミックで作られている。たとえばこのようなゼロ膨張材料は、出発ガラスを適切に熱処理することにより部分的に結晶し、これにより、ある一定の温度領域でのほぼゼロ熱膨張を達成できるリチウムアルミノ珪酸塩ガラスセラミック(LASガラスセラミックス)でもよい。他のゼロ膨張材料はULE(登録商標)としてCorning社により販売されている。後者の材料は、TiO2でドーピングされスート工程で製造された石英ガラスである。他の周知のゼロ膨張材料はClearceram(登録商標)である。
【0003】
本願においてゼロ膨張材料は、たとえば0℃ないし50℃の適用温度範囲での熱膨張係数が±0.5・10-6/K未満である材料と理解するものである。より狭い意味で、ゼロ膨張材料は、0℃ないし50℃の適用温度領域での熱膨張係数が±0.1・10-6/K未満である材料、特に±0.05・10-6/K未満であり、特に±0.02・10-6/K未満である材料を示す。
【0004】
このようなゼロ膨張材料からより大きい光学部品を生産するには、それぞれの構成部品が非常に均質でなければならなく、このため、気泡などの混入を全て防止することが不可避であるため、工程は常に極めて高価で複雑となる。ブランクの製造において、ガラスブランクが大きければ大きいほど、キャスティング法でのブランクの製造はより困難となる。ゼロ膨張材料によって大きい構成部品を製造する際には、セラミック工程での量の変化による亀裂形成を避け、構成部品に可能な限り応力をかけないようにするために、特にセラミック工程(ガラスセラミックへの変換)の間、十分ゆっくり熱処理を行わなければならない。この熱処理に伴う手間および費用はかなり大きなものとなる。
【0005】
構成部品の重量は、外部空間における適用だけではなく、他の適用においても実質的な役割を果たす場合がある。このため、たとえば、ゼロ膨張材料で作製された望遠鏡は、これまで長い間「軽量」構造として製造されてきた。すなわち、構成部品はその体積のかなりの部分を除去するように機械加工されてきたのである。このように重量は、より堅固な構成部品に対し、それぞれの軽量構成部品の強度を顕著に減少させることなく、大幅に(たとえば約50%ないし85%)減少される。
【0006】
軽量構成部品の機械加工では、研削法のみが用いられ、また、適切な構造物を製造するには特別な工具、たとえばレリーフ(浮彫り)研削工具で作業することが不可欠であるため、かなりの費用および手間がかかる。その上、軽量構造物を製造する堅固な構成部品の機械工作が可能な範囲は非常に限られている。このような態様で製造できる構造物はほんのわずかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的はしたがって、先に説明してきた不利益を可能な限り避けることができ、かつより高い費用対効果の製造を達成できる、ゼロ膨張材料で作製されるガラスセラミックス、特にプリズムまたは鏡などの複合構造物を提供することである。
このような複合構造物を製造するための適切な方法もまた同様に開示されるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的は本発明にしたがったゼロ膨張材料の複合構造物、特にプリズムまたは鏡によって達成され、ゼロ膨張材料、特にZerodur(登録商標)などのガラスセラミックで作製された複数の構成部品を含み、かかる構成部品は、少なくとも1つの接着層によって接着されている。
かかる方法に関し、本発明の目的は、ゼロ膨張材料、特にZerodur(登録商標)などのガラスセラミックからなる複数の構成部品が、少なくとも1つの接着層により結合される方法により達成される。
【0009】
本発明の技術的課題はこのような態様により完全に解決される。
本発明はゼロ膨張材料処理における接着結合剤の使用に対する従来技術における偏見を克服するものである。現在まで、ゼロ膨張材料で作られた精密部品は常に、十分高いレベルの精度を確実に有するための構造、かつ特に、有利に低いほぼゼロの熱膨張係数を得るための構造が不可欠であると考えられてきた。本発明でゼロ膨張材料で作られた複合構造物は、接着用の化合物を使用しても、十分高い精度で製造することができることを示している。
【0010】
さらに本発明は、ゼロ膨張材料は、期待される厳しい要件を満たすことが可能であることを示す。これらの要件には、
−最大150℃の温度での十分な強度、
−高温多湿の状態での強度、たとえば研摩時、またはゼロ膨張材料がかかる気候条件下で使用される場合での強度、
−低ガス放出レベル、
−十分低い熱膨張係数、
があげられる。
【0011】
接着層が十分薄いのであれば、熱膨張特性は、接着層のはるかに大きい熱膨張によりわずかな程度だけ損なわれるだけであり、その結果、一緒に接合される構成部品で作られた複合構造物は、ほとんどの用途において、特に熱膨張に関し、技術スペックを満たすことができる。
このため本発明によると、各接着層の厚みは最大で1mm、好ましくは最大で0.5mm、さらに好ましくは最大で0.2mm、さらに好ましくは最大で0.1mmとなる。
【0012】
これにより本発明による複合構造物は、0℃ないし50℃の間の温度範囲で、最大で0.1・10-6/K、好ましくは最大で0.05・10-6/K、さらに好ましくは最大で0.02・10-6/Kの低い熱膨張係数を有する。
接着層は好ましくはエポキシ樹脂接着剤からなる。
後者は、室温で硬化できる二液型接着剤であってもよい。
【0013】
基質材料としてのエポキシ樹脂と、硬化剤としての変性アミンとから作製された接着剤、たとえば、Loctite(登録商標)Hysol(登録商標)型、特にLoctite(登録商標)Hysol(登録商標)9491からなる接着層は、特に適切であると判明された。
このような接着剤は、十分安定しており、低ガス放出レベルを有し、さらに、より高温で湿潤な環境において十分な強度を有する。さらに、室温から150℃まで変化する温度での操作にもまた特に有利であり、かつ20℃ないし70℃の間の温度範囲で約6.3・10-5/Kである熱膨張係数は、複合構造物を製造するのに十分薄い接着層において十分低く、その(全体の)熱膨張係数は、±0.5・10-6/Kより低く、特に±0.1・10-6/Kより低く、さらに±0.02・10-6/K程度までも低い場合もありえる。
【0014】
代替手段として、約70℃ないし150℃の温度で硬化できる一液形エポキシ樹脂接着剤からなる接着層もまた、有利であることが判明しており、たとえばLoctite(登録商標)Hysol(登録商標)9509を有利に使用することができる。Loctite(登録商標)Hysol(登録商標)9502およびEpo−Tek(登録商標)353ND−Tは、さらなる有利な代替手段であることが判明された。
【0015】
本発明の他の実施形態において、複合構造物は、互いに平行に配置され、外部表面で互いに接着された複数の管状スペーサを含み、管状スペーサの第1の端部で鏡の構成部品に接着され、管状スペーサの第2の端部で支持要素に接着されている。
この管はたとえば円形または多角形の断面を有するものであってもよい。かかる実施形態により、特に望遠鏡に適用する際に重要となる、特に安定した高品質の複合構造物の製造が可能となる。
【0016】
なおプリズムとしての一実施形態において、複合構造物はまた、単一のプレート形状、またはともに接着される立方体の要素から作製されてもよい。
本発明の好ましい展開において接着層は、150℃で24時間硬化した後の質量減が1重量%未満である接着剤からなる。
かかる接着剤を使用すると、複合構造物の最終的な処理時の高温により起こりうる不利益を避けることが可能である。このような最終処理には一般に、温度が約100℃ないし150℃にまで上昇しうる研磨およびコーティングが含まれる。このようにして、所望しない質量減を避けることができ、同時に、複合構造物の光学的にアクティブな表面に沈殿されうる、ガス放出による生成物によって生じる複合構造物のいかなる損傷をも避けることができる。
【0017】
本発明の他の実施形態において、突合わせ面を有する2つの構成部品が結合され、少なくとも1つの凹部が、かかる構成部品の少なくとも1つの前記面に設けられ、かかる凹部は、もう一方の構成部品の対向する前記面とともに空隙を形成し、この空隙のみが接着剤で満たされ、適用温度より高い温度で硬化される。
これによる利点として、複合体の形状、特に熱膨張係数が、主にゼロ膨張材料で作られ接着された構成部品により決定されるということと、空隙内の接着用化合物には、ほんのわずかな主に局所的な影響しか与えないということがあげられる。
【0018】
本発明のさらに他の実施態様によると、適用温度範囲内で負の熱膨張係数を有するゼロ膨張材料で作られた2つの構成部品が、適用温度範囲内で正の熱膨張係数を有する接着層によって互いに接着される。
この実施態様において、構成部品の大きさおよび熱膨張係数、ならびに接着層の厚さおよび熱膨張係数は、複合構造物の全体の熱膨張係数が適用温度範囲内で最小になされるように、互いにマッチされることが好ましい。
【0019】
このような態様で、適用範囲内で最小になされた熱膨張係数を有する複合構造物を作製することが可能である。ここで、この係数はゼロであってもよい。
本発明の複合構造物は、ゼロ膨張材料を必要とし、可能な限りの軽量化、および/または、コスト節減が望まれる、考えうるあらゆる応用分野に採用することが可能である。
これらの分野には、望遠鏡の台座、液晶ディスプレイリゾグラフィのマイクロリトグラフィ用構成部品、光学バンク等の用途を含んでいる。また、地球上の利用に加えて、大気圏外空間での適用も考えうる。
【0020】
上述されたまたは以下に説明する本発明の特徴は、それぞれの場合で特定された組み合わせのみに適用されるものではなく、本発明の範囲から逸脱することなく、他の組み合わせまたは単独で適応されうることは自明である。
本発明のこの他の特徴および利点は、図面を参照にしながら下記の好ましい態様の説明により明らかにされるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明にしたがった複合構造物の可能な実施形態の概略図を鏡(ミラー)の態様で、参照番号10で全体として示している。
複合構造物10は、鏡の構成部品12、支持要素14、および複数の管16、18、20、22、24を有し、これらすべてがZerodur(登録商標)ガラスセラミックからなる。
【0022】
鏡の構成部品12は外部表面が凹形に研摩され、最終的な寸法にしたがって磨かれたのち、一般にミラーコーティング(図示せず)がなされる。鏡の構成部品12は下側に平坦な表面を有する。支持要素14は2つの平面を有する平坦な円筒形部品である。図2により詳細を示しており、特に、鏡の構成部品12は複数の管状の構成部品により鏡の構成部品12に接合されているが、図1では管16、18、20、22、24のみに参照番号が付されている。管は、両端部が平坦になるように研摩され、管16から24の端部はそれぞれ接着層17および19によって、構成部品12と支持要素14とにそれぞれ接合されている。また管16、18、20、22、24もまた、接着層26、28、30、32によって隣接する管の外部表面に接合されている。
【0023】
接着層17、19、26、28、30、32は、室温で硬化する特別な二液型エポキシ樹脂接着剤であるLoctite(登録商標)Hysol(登録商標)9491接着剤からなり、米国コネチカット州ロッキー・ヒルのLoctite社(ヘンケルグループのメンバー企業)から入手可能である。接着剤は詳細には、軸方向端部に、それぞれの接着層17、19の厚さが最大で0.5mm、好ましくは最大で0.2mm、最も好ましくは最大で0.1mmとなるように塗布される。この接着剤の熱膨張係数は20℃ないし70℃の間の温度範囲内で約63・10-6/Kである。この温度範囲内でのZerodur(登録商標)の熱膨張係数の最も高い品質レベルは、約0±0.02・10-6/Kである。
【0024】
0.1mmの厚さの接着層を有する全長が100mmの構成部品では、結果として生じる総膨張αtotalは約0.04・10-6/Kないし0.08・10-6/Kである。0.2mmの総厚さを有する2つの接着層が使用される場合には、結果として生じる熱膨張係数αtotalは約0.1・10-6/Kから0.2・10-6/Kである。
接着層が比較的高い熱膨張係数を有する場合であっても、非常に薄い接着層を組み合わせると、結果としてほとんどの適用例において十分低い熱膨張がもたらされる。したがって、接着層は通常、約0.1mmの可能な限りの薄さで塗布される。
【0025】
好ましい粘着剤であるLoctite(登録商標)Hysol(登録商標)9491は室温で優れたせん断強度を有し、さらに、最大150℃の高温においても十分優れたせん断強度を有する。
このような複合構造物を処理する際には、エンドユーザ(鏡のメーカー)が研磨およびコーティング工程を行なうが、ここで最高温度は最大約150℃に達する場合もある。好ましいLoctite(登録商標)Hysol(登録商標)9491接着剤はこのような高温で十分高い強度を有するものである。好ましい接着剤はまた、研磨中または高い湿度などのようにさまざまな気候条件下で起こりうる天候の影響に対しても十分な抵抗性を有する。
【0026】
好ましいLoctite(登録商標)Hysol(登録商標)9491接着剤は一連のエポキシ樹脂接着剤から選択されている。
測定された試験基準を以下に示す。
1.強度
ここで優先されるものは高圧せん断強度であり、研削された表面および研磨された縁部を有する、それぞれ10×22mm2の大きさのサンプルを使用して圧力せん断試験が行われた。
2.耐候性
強度は、温度85℃、相対湿度(RH)85%で100時間後に(他の条件は上記の1と同様で)測定された。
3.耐熱性
強度は、150℃で24時間熱処理した後に(他の条件は上記の1と同様で)室温で測定された。
【0027】
また強度は150℃(他の条件は上記の1と同様で)でも測定された。
4.ガス放出特性
サンプル重量は150℃での熱処理の前後に測定され、さらに、熱重量分析(TGA)も行なわれた。
かかる試験は、多くの利用可能なエポキシ樹脂接着剤から選択された多くの接着剤で行われた。紫外線で硬化された接着剤の使用は、いかなる十分に均質な接合も達成できないため、不適当であるとして、当初から除かれた。
【0028】
表1は、候補にあげられ試験された接着剤の概要を示す。
表2には、種々の接着剤の強度試験結果がまとめられている。
前述したように、圧力せん断試験は、10×22mm2の大きさの、研磨された縁部を有する研削された表面で行われた。縦行はそれぞれ、室温で、85℃、85%の相対湿度で100時間の後に、150℃で24時間の後に、そして150℃でなされた試験の結果を示す。
【0029】
最後に表3は、接着剤のガス放出特性を示すもので、150℃で24時間熱処理を行なった際の重量損失がパーセントで示されている。
好ましいLoctite(登録商標)Hysol(登録商標)9491接着剤は一方では、すべての試験基準において優れた強度値を示し、また他方では、同様に優れた低ガス放出レベルを示す。150℃で24時間後、1重量%未満の重量損失が測定された。この接着剤にはまた、室温で硬化するという利点がある。
【0030】
特に高い強度値と、低ガス放出レベルとが組み合わされたLoctite(登録商標)Hysol(登録商標)9509は、他の好ましい接着剤であると考えられる。
しかしながら後者は、120℃(好ましくは120℃で60分間)で硬化しなければならない一液型エポキシ樹脂接着剤である。
生産上、より手間がかかるこの不利な点が許容できるならば、かかる接着剤は、より大きい強度の達成を可能にするものであるため、好ましい。
【0031】
図3は、本発明にしたがって、Zerodur(登録商標)で作製された複合構造物の他の可能な実施形態を示すものであり、全体として参照番号40で示される。この構造物は、Zerodur(登録商標)からなる、第1の構成部品41と第2の構成部品42とを含む。構成部品41、42は、それらの表面で互いに接着されている。図面は単に1つの可能な形状および配置を示すのみであり、接着層44の厚さは縮尺に完全に合致するものではないことを理解されたい。
【0032】
前述されたように接着層44の厚さは非常に薄く、好ましくは0.2mm未満であり、特に好ましくは約0.1mmである。
前述されたように複合体40の熱膨張は、接着層44にもかかわらず、非常に小さく保たれる。
図4は、本発明にしたがって、Zerodur(登録商標)で作製された複合構造物の他の可能な実施形態を示すものであり、全体として参照番号50で示されている。この構造物は2つの構成部品51および52からなる複合構造物である。2つの構成部品51および52はたとえば、Zerodur(登録商標)からなる。構成部品51、52はそれらの2つの平坦な表面53および54で互いに結合されている。57および58に示されるように、2つの表面53および54の間に形成された空隙55、56のみで受けられる接着剤によりこれらの接合が達成される。結合は、空隙55、56の外部では、接着剤を伴わない。適用範囲が最大130℃に達するとき、接着剤はたとえば150℃の、適用範囲より高い温度で硬化される。
【0033】
動作において、熱膨張特性は主に構成部品51、52の膨張特性により決定され、空隙55、56に受けられた接着剤はわずかな程度のみ決定に関わる。接着剤によって引き起こされた熱膨張、応力その他の効果は、かなりの程度まで局所的に制限され、複合体50の特性にはほんのわずかな影響を及ぼすのみである。
使用される接着剤は、Loctite(登録商標)Hysol(登録商標)9491またはLoctite(登録商標)Hysol(登録商標)9509であることが好ましい。
【0034】
図5に、本発明にしたがった複合体の液晶ディスプレイリゾグラフィでの潜在的用途を、液晶ディスプレイステッパ60のプリズム68の態様で概略図で示す。プリズム68は、Zerodur(登録商標)などのゼロ膨張材料で作られた構成部品から組み立てられ、接着される。これにより、プリズム68が堅固な構造で設計された場合と比較して、重量を実質的に減少させることができる。当然、接着層は常に、光学的にアクティブな表面が悪影響を受けないような複合構造物上の部分に設けられる。
【0035】
本発明の方法を使用することでいかなる他の複合構造物をも作製することが当然、可能であることもまた理解されたい。
複合構造物を、ゼロ膨張材料で作られた結合構成部品で製造するときの他の方法としては、例えば0℃ないし50℃の間の適用範囲内の熱膨張のわずかに負の係数を有するゼロ膨張材料を使用することがあげられる。
【0036】
この場合、構成部品の幾何学的寸法、接着層の厚さ、ゼロ膨張材料の負の熱膨張係数、および接着剤の正の熱膨張係数は、複合構造物の熱膨張係数が適用範囲内で最小にされ、事実上ゼロに達するようにマッチ(合致)させてもよい。
Zerodur(登録商標)などのリチウムアルミノ珪酸塩(LAS)ガラスセラミックの製造中の熱処理は、たとえば、0℃ないし50℃の適用範囲のゼロ膨張材料Zerodur(登録商標)の熱膨張係数が−0.1・10-6/Kであるように制御されてもよい。
【0037】
このことは接着剤の正の熱膨張が完全に補償できることを意味する。このような材料で作られた、全長が100ミリメートルの2つの構成部品を備えた複合構造物は、接着層の厚さが0.2mmであり、熱膨張係数は50・10-6/Kである。このため総膨張がちょうどゼロとなる。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】凹面鏡として使用される本発明による複合構造物の第1の実施形態を示す細長の断面図である。
【図2】図1の複合構造物の断面図を示す。
【図3】本発明にしたがった複合構造物の他の実施形態を断面図で示す。
【図4】本発明にしたがった複合構造物のさらに他の実施形態を断面図で示す。
【図5】本発明にしたがった複合構造物を、液晶ディスプレイリゾグラフィの分野における液晶ディスプレイステッパ装置に使用されるプリズムの態様で、簡単な概略図で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼロ膨張材料、特にガラスセラミックスで作られた複合構造物、特にプリズム(68)または鏡(10)であって、ゼロ膨張材料、特にZerodur(登録商標)などのガラスセラミックスで作られた複数の構成部品(12、14、16、18、20、22、24;41、42;51、52、)を含み、前記構成部品は、少なくとも1つの接着層(17、19、26、28、30、32;44、57、58)によって互いに結合されている、ゼロ膨張材料で作られた複合構造物。
【請求項2】
突合わせ面(53、54)を有する少なくとも2つの構成部品(51、52)を含み、
前記構成部品のうちの少なくとも1つ(51)の前記面(53)に、少なくとも1つの凹部が設けられ、前記凹部は、他の前記構成部品(52)の対向する前記面(54)とともに空隙(55、56)を形成し、前記凹部は、適用温度より高温で硬化される接着剤で満たされている請求項1に記載の複合構造物。
【請求項3】
各接着層(17、19、26、28、30、32;44、57、58)の厚さは、好ましくは最大で1mm、好ましくは最大で0.5mm、好ましくは最大で0.2mm、特に好ましくは最大で0.1mmである請求項1または2に記載の複合構造物。
【請求項4】
0℃ないし50℃の間の温度範囲内での熱膨張係数が、最大で0.5・10-6/K、好ましくは最大で0.1・10-6/K、より好ましくは最大で0.05・10-6/K、さらに好ましくは最大で0.02・10-6/Kである請求項1、2または3に記載の複合構造物。
【請求項5】
ゼロ膨張材料で作られ、適用温度範囲内で負の熱膨張係数を有する2つの構成部品を有し、前記2つの構成部品は、前記適用温度範囲内で正の熱膨張係数を有する接着層によって接合されている先行する請求項のいずれかに記載の複合構造物。
【請求項6】
構成部品の熱膨張係数、ならびに接着層の厚さおよび熱膨張係数が互いにマッチする前記構成部品の大きさが、当該複合構造物の全体の熱膨張係数が前記適用温度範囲内で最小となるようにされている請求項5に記載の複合構造物。
【請求項7】
前記接着層(17、19、26、28、30、32;44、57、58)はエポキシ樹脂接着剤からなる先行する請求項のいずれかに記載の複合構造物。
【請求項8】
前記接着層(17、19、26、28、30、32;44、57、58)は室温で硬化できる二液型接着剤からなる請求項7に記載の複合構造物。
【請求項9】
前記接着層(17、19、26、28、30、32;44、57、58)は基質材料としてのエポキシ樹脂と、硬化剤としての変性アミンと、Loctite(登録商標)Hysol(登録商標)型の接着剤と、を含む請求項8に記載の複合構造物。
【請求項10】
前記接着層(17、19、26、28、30、32;44、57、58)は、約70℃ないし150℃の温度で硬化できる一液型エポキシ樹脂接着剤、好ましくは、Loctite(登録商標)Hysol(登録商標)型またはEpo−Tek(登録商標)型の接着剤からなる請求項1ないし7のいずれかに記載の複合構造物。
【請求項11】
管状のスペーサ(16、18、20、22、24)形状で互いに平行に配置され、外部表面で互いに接着され、第1の端部が鏡の構成部品(12)に接着され、第2の端部が支持要素(14)に接着されている複数の構成部品を含む先行する請求項のいずれかに記載の複合構造物。
【請求項12】
前記スペーサ(16、18、20、22、24)は、円形または多角形の断面を有する管として実現されている請求項11に記載の複合構造物。
【請求項13】
前記接着層(17、19、26、28、30、32;44、57、58)は、150℃で24時間硬化したのちの質量減が1重量%未満である接着剤からなる先行する請求項のいずれかに記載の複合構造物。
【請求項14】
ゼロ膨張材料、特にZerodur(登録商標)などのガラスセラミックで作られた複数の構成部品(12、14、16、18、20、22、24;41、42;51、52)が、少なくとも1つの接着層(17、19、26、28、30、32;44、57、58)によって結合される、ゼロ膨張材料で作られる複合構造物(10;40;50;68)の製造方法。
【請求項15】
熱硬化可能な一液型エポキシ樹脂接着剤、または室温で熱硬化可能な二液型エポキシ樹脂接着剤を接合に用いる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記接着層(17、19、26、28、30、32;44;57、58)は、厚さが最大で1ミリメートルであり、好ましくは最大で0.5mm、より好ましくは最大で0.2mm、特に好ましくは最大で0.1mmである請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
突合わせ面(53、54)を有する2つの構成部品(51、52)が結合され、前記構成部品の少なくとも1つ(51)の前記面(53)に、少なくとも1つの凹部が設けられ、前記凹部は他の前記構成部品(52)の対向する前記面(54)とともに空隙(55、56)を形成し、前記空隙(55、56)のみが接着剤で満たされ、適用温度より高温で硬化される請求項14または15に記載の方法。
【請求項18】
適用温度範囲内で負の熱膨張係数を有するゼロ膨張材料で作られた2つの構成部品が、前記適用温度範囲内で正の熱膨張係数を有する接着層によって互いに結合される請求項13または14に記載の方法。
【請求項19】
前記構成部品の大きさおよび熱膨張係数、ならびに前記接着層の厚さおよび熱膨張係数が、前記複合構造物の全体の熱膨張係数が前記適用温度範囲内で最小になるように互いにマッチされている請求項18に記載の方法。
【請求項20】
台座、光学バンクとして、液晶ディスプレイリゾグラフィ、マイクロリトグラフィ、鏡基板の製造、地球上での利用、および大気圏外での利用における、請求項1ないし13のいずれかに記載の複合構造物の利用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−514971(P2008−514971A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532795(P2007−532795)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/009648
【国際公開番号】WO2006/034775
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】