説明

ゾルピデム酒石酸塩含有内用液剤

【課題】長時間保存しても析出が生じない安定なゾルピデム酒石酸塩およびpH調節剤を含有する内用液剤を提供する。
【解決手段】ゾルピデム酒石酸塩およびpH調節剤を含む内用液剤であって、該液剤のpHが2.0〜7.0である液剤。さらなる態様において、甘味剤をさらに含む上記内用液剤。当該内用液剤は、長期間保存した場合にも析出が生じず、安定で、かつゾルピデム酒石酸塩特有の苦味等の不快な味がマスキングされており、服用しやすいといった特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルピデム酒石酸塩を含有する内用液剤に関し、更に詳細には、長期間保存しても析出が生じず、安定で、かつ服用しやすいといった特徴を有する、ゾルピデム酒石酸塩含有内用液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系のベンゾジアゼピン(BZD)受容体には2つのサブタイプ、ω1とω2受容体が含まれる。ω1受容体は小脳、嗅球、淡蒼球、大脳皮質第4層等に主として存在しており、ω2受容体は筋緊張に関与する脊髄や記憶に関与する海馬に主として存在する。ベンゾジアゼピン構造を有する化合物は、ω1とω2受容体の両方に親和性を示し、したがって催眠鎮静作用と他の作用、例えば抗痙攣作用、抗不安作用および筋弛緩作用間との分離が悪い。
【0003】
(+)−N,N,6−トリメチル−2−p−トリルイミダゾ[1,2−a]ピリジン−3−アセトアミドヘミL−酒石酸塩(一般名:ゾルピデム酒石酸塩)は、非ベンゾジアゼピン構造を有し、ω1受容体に選択的に作用する速効性の短時間型睡眠薬である。薬理学的および臨床薬理学的には、選択的な睡眠鎮静作用を有し、しかも生理的睡眠パターンに近い睡眠をもたらすため、入眠障害、熟眠障害のみならず、作用持続時間が短いにもかかわらず途中覚醒、早朝覚醒にも効果を示し、翌朝までの持ち越し効果が少ない。また、反復投与しても耐薬性、依存性が形成されにくく、増量なしで長時間安定した作用を示すことが知られている。
【0004】
現在、ゾルピデム酒石酸塩の製剤としては、錠剤のみが、「マイスリー(登録商標)錠」の商品名で市販されている。睡眠薬であるゾルピデム酒石酸塩含有製剤を、就寝前に寝室など水を得ることが困難な場所でも服用可能とすることは大変有用であり、患者の利便性、服用性をより高めた製剤が望まれている。そこで、これまでに種々の製剤、例えば口腔内崩壊錠、ゼリー、フィルム等が検討されており、例えば以下の特許文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−238451号公報
【特許文献2】特開2008−81448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ゾルピデム酒石酸塩を含む液剤について詳細かつ具体的に検討した文献は存在しない。例えば特許文献1にはゾルピデム酒石酸塩を含む液剤が示唆されているが、当該文献は液剤について具体的に開示しておらず、製剤化において直面する下記のような課題について何ら認識していない。事実、患者にとってより服用しやすい内用液剤は、原薬の析出し易さや易分解性、さらには原薬が有する苦味等の不快な味の問題から、未だ開発されていない。
【0007】
すなわち、ゾルピデム酒石酸塩は中性では水に難溶性であり、高濃度の液剤とすることが困難である。内用液剤中の原薬濃度が低い場合には、患者は大量の液剤を就寝前に服用しなければならず、不便である。酸性条件ではゾルピデム酒石酸塩は水に溶解しやすく、高濃度の液剤とすることが可能であるが、液剤の安定性が不良となり、経時的に析出したり、不純物が増加したりする。このため、ゾルピデム酒石酸塩を含有する経口投与用の内用液剤は、溶解性と安定性の両方に優れた液剤とすることが困難であるという問題があった。
【0008】
また、ゾルピデム酒石酸塩は苦味等を有する物質であることが知られている。このため、ゾルピデム酒石酸塩を含有する経口投与用の内用液剤は、服用しづらく、魅力的な製剤とすることが困難であるという問題もあった。
【0009】
したがって本発明は、ゾルピデム酒石酸塩を含有する内用液剤において、
1)安定性・溶解性共に優れた液剤とすること
2)原薬が有する苦味等の不快な味を矯味し、服用性に優れた液剤とすること
を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1)安定性・溶解性共に優れた液剤とすること
本発明者らは、内用液剤のpHを2〜7とすることにより、ゾルピデム酒石酸塩含有内用液剤の安定性・溶解性が改善されることを見出した。すなわち、ゾルピデム酒石酸塩含有製剤を内用液剤とする場合、pHが高い方が安定性に優れ、不純物の増加を抑制して長期間保存しても安定である一方、溶解性はpHが低い方が良く、原薬の析出が抑えられることを見出し、かかる知見に基づいて内用液剤のpHを約2〜7とすることで、上記課題1)を解決した。かかるpHとすることによって、液剤中のゾルピデム酒石酸塩濃度を、例えば約0.1〜10mg/mLとすることができる。
【0011】
2)原薬が有する苦味等の不快な味を改善し、服用性に優れた液剤とすること
本発明者らは、甘味剤の甘味特性と、甘味剤を加えた製剤の経時的な安定性等を考慮して鋭意検討を行った結果、ゾルピデム酒石酸塩含有内用液剤における至適の甘味剤およびその至適配合量を見出した。これにより、本発明により得られる内用液剤は、良好な服用性を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、長期間保存しても析出が生じず、安定で、かつゾルピデム酒石酸塩特有の苦味等の不快な味がマスキングされており、服用しやすいといった特徴を有する、ゾルピデム酒石酸塩含有内用液剤を提供することが可能となる。したがって不眠症等に悩まされる患者は、就寝前に寝室など水を得ることが困難な場所でも、ゾルピデム酒石酸塩製剤を比較的少量の液剤として服用することができるので、本発明によるゾルピデム酒石酸塩含有内用液剤は、従来の製剤と比較して、非常に利便性の高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
したがって第1の態様において、本発明は、ゾルピデム酒石酸塩およびpH調節剤を含む内用液剤であって、該液剤のpHが2.0〜7.0である液剤(本発明の内用液剤)を提供する。当該液剤のpHは、好ましくは2.5〜5.5、例えば3.0〜4.5、より好ましくは3.5〜4.5、特に好ましくは3.5〜4.0である。
【0014】
本発明の内用液剤に含まれるゾルピデム酒石酸塩は、式
【化1】

を有する化合物である。ゾルピデム酒石酸塩は、市販されているか、または当業者に既知の方法で、例えば特許公報第昭63−7545(シンセラボ、フランス)に記載のとおりにもしくはそれと同様に製造することができる。
【0015】
本発明の内用液剤において、ゾルピデム酒石酸塩は、約0.1〜10mg/ml、好ましくは約1〜8mg/ml、より好ましくは約4〜6mg/ml、最も好ましくは約5mg/ml含まれる。ゾルピデム酒石酸塩の濃度が低いと、必要用量のゾルピデム酒石酸塩を患者に投与するために要する液剤の量が多くなるため、患者にとって不便である。また、ゾルピデム酒石酸塩の濃度を高めるためには、液剤のpHをより低くする必要があるが、pHが低いゾルピデム酒石酸塩含有液剤は安定性が悪く、保存に不適である。
【0016】
本発明の内用液剤に含まれるpH調節剤には、例えば1種または2種以上の酸、例えば有機酸および/または無機酸が含まれる。有機酸には、例えば酢酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、グルコン酸およびグルコノ−d−ラクトン等が含まれるが、これらに限定されない。無機酸には、例えば塩酸、リン酸、硫酸等が含まれるが、これらに限定されない。これらの酸は、単独で、または2種以上の混合物として用いてもよい。好ましいものは塩酸または酒石酸であり、最も好ましいものは酒石酸である。好ましくは、当該pH調節剤を酸とその塩、例えば酒石酸と酒石酸ナトリウムとして用いることによって、本発明の内用液剤を緩衝化することもできる。例えば酒石酸緩衝液をpH調節剤として用いるとき、pHを効率よく調節するためには多量の酒石酸が必要とされるが、一方で酒石酸が不快な酸味を有し、経時的に変色するため、水性酒石酸緩衝液の濃度を0.01〜0.2M、例えば0.01〜0.1M、特に0.02〜0.035Mとするのが好ましい。
【0017】
本発明の内用液剤において、ゾルピデム酒石酸塩を含有するとは、液剤の原料としてゾルピデム酒石酸塩を用いた液剤を意味しており、液剤中でゾルピデムが酒石酸塩形態であることを要しない。すなわち、液剤中でゾルピデムは、例えばそれ自体として、もしくは他の酸、例えば上記pH調節剤に用いた酸との塩、またはそれらの2種以上の混合物、例えば酒石酸塩と塩酸塩の混合物または遊離形のゾルピデムとゾルピデム酒石酸塩の混合物として存在していてもよい。
【0018】
本発明の内用液剤において、ゾルピデム酒石酸塩を溶解する溶媒としては水が用いられる。当該溶媒には、必要に応じて、他の溶媒、例えば無水エタノール、エタノール、プロピレングリコール、濃グリセリン、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリソルベート60、ポリソルベート80、マクロゴール200、マクロゴール300、マクロゴール400、マクロゴール600、マクロゴール4000、ラウロマクロゴール等を加えることもできる。水:他の溶媒の重量比は、例えば1:1〜100:1、好ましくは4:1〜50:1、さらに好ましくは10:1〜25:1であってよいが、これに限定されない。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、さらに甘味剤を含む上記本発明の内用液剤を提供する。かかる甘味剤としては、例えば糖アルコールおよび/または高甘味度甘味剤が含まれる。糖アルコールは例えば、キシリトール、エリスリトール、D−ソルビトールまたはD−マンニトール等、好ましくはキシリトールを含み、高甘味度甘味剤は例えば、スクラロース、アセスルファムカリウム、サッカリンナトリウムまたはアスパルテーム等、好ましくはスクラロースまたはアセスルファムカリウムを含むが、これらに限定されない。これらの甘味剤は、単独で、または2種以上の混合物として用いてもよい。とりわけ好ましくは、例えばゾルピデム酒石酸塩の苦味を速やかに、かつ強力にマスクするための即時短期作用型甘味剤、例えば精製白糖、還元麦芽糖水飴、キシリトール、アスパルテームおよび/またはアセスルファムカリウムと、ゾルピデム酒石酸塩の後を引く苦味を持続的にマスクするための長期作用型甘味剤、例えば精製白糖、還元麦芽糖水飴および/またはスクラロースとを組み合わせて上記本発明の内用液剤に加えることができる。好ましくは甘味剤は、非う蝕性である。
【0020】
本発明の内用液剤において、上記糖アルコールは、例えば約1〜50重量%、好ましくは約5〜40重量%、より好ましくは約10〜30重量%含まれていてよく、上記高甘味度甘味剤は約0.01〜5重量%、好ましくは約0.02〜2重量%、より好ましくは約0.05〜1重量%含まれていてよい。本発明の内用液剤において、特に好ましい高甘味度甘味剤は、0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.7重量%、より好ましくは0.4〜0.6重量%のスクラロースと、0.05〜0.5重量%、好ましくは0.05〜0.15重量%のアセスルファムカリウムの組合せである。
【0021】
本発明の範囲は作用機序によって限定されるものではないが、当該甘味剤を本発明の内用液剤に添加することは、単にゾルピデム酒石酸塩が有する苦味等の不快な味をマスキングするだけでなく、内用液剤の安定性を改善することができ、それによって長期保存が可能となる。
【0022】
また、本発明の内用液剤には、必要であれば、医薬液体製剤に通常用いられる添加剤をさらに加えることができる。かかる添加剤には、例えばアルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の粘稠剤、ソルビン酸またはその塩、安息香酸またはその塩、パラベン類(パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル等)等の保存剤、天然着色料(カラメル、β−カロチン等)、合成着色料(食用色素、リン酸リボフラビンナトリウム等)等の着色料、オレンジ油、レモン油、メントール、バニリン、果実系フレーバー(ストロベリー、パイナップル、オレンジ、アップル、レモン、ライム、グレープフルーツ等)、生薬系フレーバー(ハーブ、ミント等)、ドリンク系フレーバー(ココア、紅茶、ラムネ等)、菓子系フレーバー(チョコレート、ヨーグルト等)等の香料等が含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の内用液剤は、例えば液体製剤の製造において当業者が通常使用可能な方法によって、例えば常套の混合、懸濁、溶解等によって製造することができる。例えば、糖アルコールや高甘味度甘味剤、その他の添加物を精製水に溶解させ、次いで、ゾルピデム酒石酸塩を加え、攪拌し、十分に懸濁させた後、pH調節剤を加えpHを調節することで、ゾルピデム酒石酸塩を溶解させ、その後、精製水を添加し容量を調節して、本発明の内用液剤を製造することができる。あるいは、本発明の内用液剤は、上記各工程を任意の順序で行って、例えば最初にゾルピデム酒石酸塩を精製水に加え、攪拌し、十分に懸濁させた後、pH調節剤を加えpHを調節することで、ゾルピデム酒石酸塩を溶解させ、その後、糖アルコールや高甘味度甘味剤、その他の添加物を該溶液に加え、精製水を添加し容量を調節して、本発明の内用液剤を製造することができる。
【0024】
かくして得られた本発明の内用液剤を、例えばバイアル、滴瓶またはアルミニウム分包等の容器に充填することができる。ゾルピデム酒石酸塩は光分解性物質であるため、当該容器は遮光性のもの、例えば着色ガラス容器、アルミニウム分包等であることが望ましい。当該容器は単回または複数回、好ましくは単回投与量の本発明の内用液剤を充填することができる。単回投与量は、患者が必要とする薬剤の量、本発明の内用液剤の濃度等に依存して決定されるが、例えば本発明の内用液剤が5mg/mlのゾルピデム酒石酸塩を含むとき、5mgのゾルピデム酒石酸塩を必要とする患者には単回投与量として本発明の内用液剤1mlを投与することができる。
【0025】
本発明の内用液剤は、例えばω1受容体の調節に応答する疾患または状態、例えば不眠症を有する対象、特にヒト患者に投与することができる。対象が必要とする投与量は、対象の年齢、性別、体重、処置する疾患または状態の重症度、対象の耐薬性等に依存して変化するが、通常の技術を有する医師等であれば、容易に対象が必要とする投与量を決定または予測することができる。好ましくは、ヒト患者において必要とされる投与量は、例えば1〜30mg/日、好ましくは2.5〜15mg/日、より好ましくは5〜10mg/日である。
【0026】
本発明の内用液剤の安定性および矯味性は、当該技術分野における通常の評価方法、例えば下記実施例に記載の方法によって示される。例えば安定性は、50℃で1日〜2週間保存後、液剤の外観を観察し、そして液剤中のゾルピデム酒石酸塩分解生成物の含有量を、例えばクロマトグラフ法等を用いて測定することによって評価することができる。このような試験により、本発明の内用液剤は、例えば外観が変化せず、分解生成物もほとんど生じない(例えば、0.05重量%未満)。
【実施例1】
【0027】
純度試験
下記実施例において、各ゾルピデム酒石酸塩含有内用液剤の安定性を評価するため、純度試験を下記条件の液体クロマトグラフィーで行った。クロマトグラフ検体は、0.67mgゾルピデム酒石酸塩を含むように各液剤を取り、これを移動相で1mLまで希釈して製造した。
【表1】

【0028】
試験例1:ゾルピデム酒石酸塩含有液剤に対するpHの影響
1mg/mLおよび10mg/mLのゾルピデム酒石酸塩水溶液を、適当な量の塩酸または水酸化ナトリウムを用いてpH2.0、pH4.0、pH6.0に調製し、25℃または50℃の条件下で、それぞれ1日間、4日間、2週間(1mg/mL、50℃のみ)保存した。その後、純度試験によってゾルピデム酒石酸塩分解生成物の濃度を測定し、液剤の析出を肉眼観察により評価した。結果を下記表に示す。
析出評価基準:
(−)析出なし。
(±)僅かに析出あり。
(+)析出あり。
(++)著しい析出あり。
【表2】

【表3】

【0029】
全ての検体において、25℃、50℃共に1日では変化がなかった。4日後の検体ではpH2.0で、若干分解生成物の増加が見られた。1mg/mL、50℃の検体のみ2週間まで試験を延長したところ、pH2.0の検体で更に分解生成物が増加した。4日後では、10mg/mLと1mg/mLでは差が見られなかった。
【実施例2】
【0030】
試験例2:ゾルピデム酒石酸塩内用液剤におけるpH調節剤の種類の検討
10mg/mLのゾルピデム酒石酸塩水溶液に、以下の表に示す種々の酸を加え、pH4.0に調整した。50℃または60℃の条件下で、それぞれ1週間、2週間(1mg/mL、50℃のみ)保存した。純度試験、析出観察を上記のとおりに行って、評価した。結果を下記表に示す。
【表4】

【表5】

【0031】
アスコルビン酸を含む検体のみ顕著に純度が悪くなった。またアスコルビン酸を含む検体は黄色に変色した。アスコルビン酸を含む検体以外のものでは、変化は見られなかった。
【実施例3】
【0032】
試験例3:ゾルピデム酒石酸塩含有内用液剤の苦味マスキング
精製水にα−シクロデキストリン(CD−α)10gを溶解させた後、ゾルピデム酒石酸塩0.1gを添加、懸濁させ、1%塩酸を適量加えてpH4.0に調節し、水を加えて全量100gとした。また、β−シクロデキストリン(CD−β)1.6gを用いて同様にゾルピデム酒石酸塩含有内用液剤を調製した。苦味の評価(研究員3名)を行ったところ、CD−αで包摂した内用液剤は苦味を若干緩和していたが、不十分であった。CD−βで包摂した内用液剤は、苦味が緩和されていなかった。
【0033】
1mg/mLのゾルピデム酒石酸塩水溶液に、以下の表に示す甘味剤を加え、塩酸を用いてpH4.0に調整した。得られた各製剤の苦味を評価した(研究員3名)。結果を下記表に示す。
○:苦味を緩和している △:苦味を若干緩和している ×:苦味を緩和できていない
【表6】

※アセスルファムカリウムは0.1%程度ならば問題なく溶解した。
【0034】
甘味剤を加えた製剤中のゾルピデム酒石酸塩の安定性を評価するため、上記甘味剤を含む各製剤を60℃の条件下で、それぞれ1週間保存した。純度試験、析出観察を上記のとおりに行って、評価した。結果を下記表に示す。
【表7】

※精製白糖、還元麦芽糖水飴、キシリトールについては、開始時の純度試験は行わなかった。
【0035】
より長期間の甘味剤を加えた製剤中のゾルピデム酒石酸塩の安定性を評価するため、各種甘味剤を含む各製剤を50〜60℃で、4週間目まで保存し、純度試験を行った。結果を下記表に示す。
【表8】

【0036】
液剤中の原薬の安定性が良いものとして、アセスルファムカリウム、サッカリンナトリウム、スクラロース、アスパルテーム、キシリトール、還元麦芽糖水飴等があったが、アスパルテームは液中での安定性が良くないことが知られており、長期保存することにより甘味が低下する恐れがある。一方、アセスルファムカリウムやスクラロースは液中での安定性が良く、甘味が維持されると考えられた。
【実施例4】
【0037】
製剤例
以上の結果を元に、下記の様にして本発明の内用液剤を製造した。
精製水に精製水にキシリトール、スクラロース、アセスルファムカリウムを溶解させた後、ゾルピデム酒石酸塩を添加、懸濁させ、1%塩酸を適量添加しpH4.0に調節した。次いで、精製水で全量200mLに調整し、ゾルピデム酒石酸塩製剤を製造した。
【表9】

【0038】
製剤例において、キシリトール、スクラロース、アセスルファムカリウム、塩酸、精製水は下記のものを使用した。
キシリトール:キシリトール(東和化成工業株式会社製)
スクラロース:スクラロース(P)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
アセスルファムカリウム:サネット(ニュートリノヴァ・ジャパン株式会社製)
塩酸:塩酸(宮澤薬品株式会社製)
精製水:精製水(自社製)
また、上記におけるキシリトール、塩酸、精製水は第十五改正日本薬局方記載のものを使用し、スクラロースは医薬品添加物規格2003に記載のものを使用し、アセスルファムカリウムは自社規格のものを使用した。
【0039】
各製剤の純度試験の結果を示す。
製剤の各温度条件における分解生成物割合(重量%)
【表10】

溶解性は良好であった。
【0040】
別の製剤例として、下記表の処方を示す。キシリトールを精製水に溶解させた後、ゾルピデム酒石酸塩を添加、懸濁した後、緩衝剤を添加しpHを調節することでゾルピデム酒石酸塩を溶解させる。その後、残りの添加剤を順次、添加、溶解させる。その後、必要に応じて5%酒石酸または5%L−酒石酸ナトリウムを添加し、pH3.75に調節する。その後、精製水を添加し容量を調節することによって、ゾルピデム酒石酸塩内用液剤100mLを製造する。
【表11】

※酒石酸バッファーは酒石酸0.74gとL−酒石酸ナトリウム1.54gを精製水に溶かし、52.5gとする。
【0041】
試験例4:ゾルピデム酒石酸塩内用液剤における至適pHの検討
pH4前後でゾルピデム酒石酸塩が十分水に溶解することがわかったので、ゾルピデム酒石酸塩内用液剤安定性の観点から至適pHを検討した。
まず、キシリトールを等量の精製水(85〜90℃)に溶解させた。次に、スクラロース及びアセスルファムカリウムを溶解させた。次に、原薬を十分分散させた。pH調節剤(塩酸または酒石酸)でpHを目的のpHにした(pH3.0、pH3.5、pH4.0、pH4.5)。酸性にする過程で原薬は溶解した。最後に、精製水を添加し、質量補正を行って、以下の試験ゾルピデム酒石酸塩内用液剤を得た。
【表12】

【表13】

【表14】

【0042】
これらの検体について4℃で2週間、25℃で2週間及び60℃で2週間後の安定性を、純度試験によってゾルピデム酒石酸塩分解生成物の濃度を測定し、液剤の析出を肉眼観察して評価した。また、官能試験も行った。
純度試験の結果を次の表に示す。
【表15】

何れの検体も、60℃・2週間でゾルピデム酒石酸塩分解生成物が増加しているが、はっきりとした差は認められなかった。
外観については、4℃・2週間の検体を観察した際、塩酸を用いた検体全てに析出が見られた。析出量はpH3.5>pH3.0>pH4.0>pH4.5であった。一方、酒石酸を使用した検体では、析出は観察されなかった。
味に関しては、酒石酸のpH3.0で独特の風味を感じた。しかし、それ以外の検体はpH調節剤の味はほとんど問題にならなかった。
【0043】
試験例5:変色の確認
下記表の100mL中の基本処方の液剤を60℃・4週間の条件で保存した検体の外観を観察したところ、4℃で4週間保存した検体が透明なのに対し、黄色く変色していた。この変色がどの成分に由来するものであるかを特定するため、水以外の成分のいずれか1つを除いた液剤を調製し、4℃・4週間および60℃・4週間保存後の変色を試験した。
【表16】

【表17】

(透明:-,薄い黄色:+,中程度の黄色:++,濃い黄色:+++)
評価:製剤研究員3名
【0044】
スクラロースを除いた検体を除いた処方で変色が低減されたため、スクラロースの濃度と変色の関係を詳しく検討した。
【表18】

【表19】

白色の紙を背景にして比較したところ、60℃・4週間後の変色は、スクラロース濃度が薄いほど変色も薄かった。ただし、スクラロース0.5gと0.3gの比較で顕著な差は認められなかった。味に関しては、スクラロース0.5%が適切であるという評価であった。
【0045】
酒石酸緩衝液を除いた処方でも変色が低減されたため、酒石酸塩緩衝液の濃度と変色の関係を詳しく検討した。
【表20】

60℃・2週間後の各液剤充填ガラスバイアルを白色の紙を背景にして比較したところ、変色は緩衝液濃度が濃い検体ほど強くなるが、0.03Mの酒石酸緩衝液を用いた検体では許容範囲であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾルピデム酒石酸塩およびpH調節剤を含有する内用液剤であって、該液剤のpHが2〜7である液剤。
【請求項2】
ゾルピデム酒石酸塩の濃度が0.1〜10mg/mlである、請求項1の内用液剤。
【請求項3】
pH調節剤が酸である、請求項1の内用液剤。
【請求項4】
酸が塩酸、リン酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸および酢酸よりなる群から選択される一種または二種以上である、請求項3の内用液剤。
【請求項5】
さらに甘味剤として糖アルコールおよび/または高甘味度甘味料を含む、請求項1〜4のいずれかの内用液剤。
【請求項6】
糖アルコールがキシリトール、エリスリトール、D−ソルビトールまたはD−マンニトールである、請求項5の内用液剤。
【請求項7】
高甘味度甘味料がスクラロース、アセスルファムカリウム、サッカリンナトリウム、アスパルテームである、請求項5の内用液剤。
【請求項8】
1〜8mg/mlのゾルピデム酒石酸塩、酒石酸、キシリトール、スクラロースおよびアセスルファムカリウムを含む内用液剤であって、該液剤のpHが2.5〜5.5である内用液剤。

【公開番号】特開2011−26299(P2011−26299A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138998(P2010−138998)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000169880)高田製薬株式会社 (33)
【Fターム(参考)】