説明

タイト結合を開放するための方法

本発明は、血液脳関門及び/又は血液網膜関門のタイト結合の一時的、可逆的かつ制御された開放のためのRNA干渉(RNAi)の方法及び使用をに関する。この方法は、血液脳関門及び/又は血液網膜関門の開放を必要とする多くの疾病及び疾患の治療に用いることができる。このような方法は一般に、siRNA、miRNA、shRNA又は、その細胞内での存在がsiRNA又はshRNAを生産することになるRNAi誘導ベクターのような、タイト結合タンパク質を標的として血液脳関門及び/又は血液網膜関門を開放するRNAi誘導剤の使用を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液脳関門及び/又は血液網膜関門のタイト結合の一時的、可逆的かつ制御された開放のための、siRNA、miRNA、shRNA又は、その細胞内での存在がsiRNA又はshRNAを生産することになるRNAi誘導ベクターのような、タイト結合タンパク質を標的として血液脳関門及び/又は血液網膜関門を開放するRNAi誘導剤を用いた方法及びRNA干渉(RNAi)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脳は、栄養及び酸素を必要とすると同時にこの敏感な組織への循環により送達され得る他の潜在的に有害な因子、例えばウイルスもしくは細菌粒子、またはアナフィラトキシン(免疫システムの副産物として生成される潜在的に破壊的な粒子)からの保護を必要とするエネルギー要求器官である。このため、脳に血液を供給する微細な毛細血管(血液脳関門(BBB))の壁を覆うそれらの細胞は、その名前が意味するように、脳の微小血管系の微細な毛細血管を覆う隣接する内皮細胞間の空間を殆どゼロに小さくし、緊密なシールを形成する「タイト結合」を発生させている。しかしながら、酸素は依然としてこれらの細胞から拡散することができ、かつ他の必須物質は、内皮細胞の膜内にある特殊なトランスポーターにより脳に送達され得る。
【0003】
血液脳関門を破壊したり、薬理的物質が脳毛細血管の内皮細胞を横切ることができるデリバリーシステムを設計するために、多くの試みがなされている(Pardridge et al., 2005)。しかしながら、血液脳関門の完全な破壊は、脳の機能にとって悲惨な結果をもたらすことになる。従来の試みは、タイト結合(TJ)の構造を包括的に理解することなく、TJタンパク質をエンコードする転写物を除去し得る技術無しで、そのような物質の脳または網膜毛細血管の内皮細胞への全身送達の手段無しで行われてきた(Miller, 2002)。
【0004】
最近では、「ミクロのトロイの木馬」と呼ばれる遺伝子組み換えタンパク質が文献に記載されており、その称するところでは、内在の受容体介在による輸送プロセスを経てBBBを横切るとされている(Pardridge et al., 2006)。2007年には、修正されているがやはり類似の方法を使用し、レンチウイルスベクター系を用い、アポリポタンパク質Bのその受容体「低比重リポタンパク質受容体」(LDLR)への結合ドメインを活用したタンパク質のBBBを横切る標的送達が報告されている。この報告は、経細胞通路を介したタンパク質の送達が実行可能であることを証明しているが、これらの方法は依然として、CNSへの送達による組み換えられた結合部位からのペプチド分解を目的としている(Spencer BJ and Verma M, 2007)。BBBを横切る分子の受容体介在の経細胞送達は、更なる研究にとって相変わらず面白い方法であるが、細胞間通路を含む利用可能な他の方法が存在する。
【0005】
一般に、BBBの内皮細胞を横切る成分の輸送は、3つの経路を介して起こり得る。即ち、上述したように特別なトランスポーターが介在し得る経細胞経路、小胞輸送、又は隣接する内皮細胞間の輸送を可能にする細胞間通路である(Reese and Karnovsky, 1967; Edwards, 2001; Wolburg and Lippoldt, 2002)。脳の毛細血管は非常に低流量の液相トランスサイトーシスを呈し、BBBにおける個々の細胞間の細胞間経路が、体内の他のあらゆる微小血管におけるよりも相当緊密なTJにより閉じられている。従って、TJは、BBBに関連する低透過率特性の重要な要素を代表するものである(Matter K and Balda MS, 2003)。
【0006】
BBBに関連するTJは、occludin、接合部接着分子、(JAM)、claudin−1、−5、−12及びZO−1、−2、−3を含む細胞内及び膜貫通タンパク質の複合体から構成される(Fanning et al., 1998; Zahraoui et al., 2000)。
【0007】
claudinは、BBB機能において重要な役割を果たす。claudinファミリーの約20のメンバーについても文献に記載されており、claudin−1、−5、−12がBBBのTJにおいて優勢である(Bazzoni, 2006)。claudinは、occludinのように、内皮細胞膜を4度架橋して、それらのC末端を介してZO−1と相互作用する(Kausalya et al., 2001)。繊維芽細胞におけるoccludin及びclaudin−1の同時発現は、TJ上の鎖において細胞の周辺部に両タンパク質の共存を生じることを示している(Furuse et al., 1998)。メイデンダービー犬腎臓(MDCK)細胞におけるclaudin−1の過剰発現は、経細胞電気抵抗(TER)を増加させ、単層における蛍光イソチオシアネート(FITC)デキストランの流れを減少させることが示されている(Inai et al., 1999)。
【0008】
国際公開WO02/014499(Immunex)は、claudinファミリーの新たなメンバー、claudin−19、−21、−22に関する。この用法は、これらclaudinの細胞外結合ドメインを標的とするポリペプチドフラグメントの生成に関するものであるが、組み換えタンパク質の生産についても記述している。
【0009】
claudin−5は、マウスにおいてノックアウトしたときに、800Da未満の分子に対してBBBをサイズ選択的に緩める4回膜貫通タンパク質である。claudin−5は、内皮細胞特異的であると考えられる(Turksen K and Troy TC, 2004)。claudin5−/−マウスが報告されており、BBBはこれらの動物において弱められる。一連のトレーサー分子実験及び磁気共鳴画像法(MRI)を通じて、claudin−5の除去が、約800Daまでの分子に対してバリアーを透過可能にすることにより、バリアーの機能を弱めつつ、それより大きな分子に対してそのまま不透過であり、出血又は浮腫の形跡を全く示さないバリアーを形成できることが分かった(Nitta et al., 2003)。しかしながら、これらのノックアウトマウスは死亡率が非常に高く、数時間しか生存しなかった。そのようなことで、これらのノックアウトマウスはBBBの生理学を研究するのに用いることはできず、別のモデルが必要である。
【0010】
タイト結合を開いて、粘膜細胞間輸送を増進させる別のシステムが開発されている。例えば、国際公開WO04/003145(Nastech)及び国際公開WO05/058362(Nastech)はいずれも、有効成分の必要な生物学的利用能を維持しつつ、注射に対する別の投与経路を提供する必要性を扱っている。国際公開WO04/003145(Nastech)は、生物学的活性剤、粘膜細胞間輸送を可逆的に増進し得るclaudin−5を標的とする透過増進剤の粘膜送達に関する。これらの透過増進剤は、claudin−5の細胞外結合ドメインに対して作られたペプチドであり、これはこのタンパク質の隣接する細胞の類似のタンパク質との同型相互作用を仲介する。国際公開WO05/058362(Nastech)は、鼻内のタイト結合を開くための方法に関し、これも同様にJAM1、claudin−4及びoccludinに対する広範な拮抗体の粘膜投与から構成される。
【0011】
しかしながら、これらの進歩にも拘わらず、多くの薬剤は、BBBを横切ることができないので、依然として効果がない。そこで、BBBを横切る薬剤送達を増進するように操作し得る分子メカニズムを確認するために、脳毛細血管の内皮細胞及び網膜細胞のTJを理解することを目的とする多くの努力が行われている。
【0012】
BBBを制御して開くことは、実現できれば、以前は不可能であった脳への薬剤の実験的送達の方法を提供し、かつ血液脳関門及び/又は血液網膜関門に関連する多くの状態の治療への扉を開くことができる。
【0013】
更に、BBBを制御して開くことは、神経変性疾患及び精神神経疾患の実験動物モデルの確立を可能にし、かつ現在は有効な治療の見込みが殆ど又は全くない範囲の状態で治療剤を、例えば神経変性状態の範囲でCNSへの神経機能を調節する薬剤を制御して送達するための道を作ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、これらの問題の少なくとも一部を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一の側面によれば、血液脳関門を一時的、可逆的かつサイズ選択的に開放するための方法であって、血液脳関門及び/又は血液網膜関門のタイト結合の一時的、可逆的かつ制御された開放のためのRNA干渉(RNAi)の使用からなる方法が提供される。
【0016】
相補的な二重鎖RNAのサイレンシング効果は、最初にRichard Joergensenにより1990年にペチュニアで観察され、共抑制と呼ばれた。RNAサイレンシングは次に、Andrew Fire及びその同僚によってCエレガンス(線虫)で確認され、RNA干渉(RNAi)の用語が生み出された。この遺伝子サイレンシング現象はその後に、多くの真核細胞内に高度に保存されることが分かった。このように、RNAiは、哺乳類細胞及び動物双方において有効であることが示されている。
【0017】
siRNAの作用を受けたRNAiの重要な特徴は、RNAの二重鎖という特徴と、小さなオーバーハング及びRNAの介在ループを有するdsRNAが標的遺伝子の抑制をもたらすことが示されているにも拘わらず、一本鎖RNAの大きな突出(オーバーハング)部分が存在しないことである。本明細書では、本明細書中の用語siRNA及びRNAiは互いに交換可能であるものと理解される。更に、当該技術分野で周知のように、RNAi技術はshRNA、miRNA、若しくはshRNA又は他のRNAi誘導剤により実行することができる。本明細書では、一般にsiRNAについて言及しているが、shRNA、miRNA又はその細胞内での存在が標的転写物を標的としたsiRNA又はshRNAの生産となるRNAi誘導ベクターを含むあらゆる他のRNA誘導剤を用い得ることが理解される。
【0018】
RNA干渉は多段階プロセスであり、一般に標的遺伝子に対して配列が相同な二重鎖RNA(dsRNA)により活性化される。長いdsRNAを器官の細胞内に導入することは、相同遺伝子転写物の配列特異的分解に繋がる。長いdsRNA分子は、Dicerとして知られる内在のリボヌクレアーゼの作用により小さな(例えば、21〜23ヌクレオチド(nt))干渉RNA(siRNA)に変形される。siRNA分子は、ヘリカーゼ活性及びエンドヌクレアーゼ活性を有する、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれるタンパク質複合体と結合する。ヘリカーゼ活性は、RNA分子の二重鎖を巻き戻し、アンチセンス鎖が標的RNA分子と結合することを可能にする。エンドヌクレアーゼ活性は、アンチセンス鎖が結合した部位で標的RNAを活性分解する。従って、RNAiは、一本鎖(ssRNA)RNA分子が標的RNA分子と結合して、標的RNAを分解するリボヌクレアーゼをリクルートするので、アンチセンス作用メカニズムである。
【0019】
本発明では、「RNAi誘導剤」又は「RNAi分子」を使用するが、これには例えば、標的転写物を標的とするsiRNA、miRNA若しくはshRNA、又はその細胞内での存在が標的転写物を標的とするsiRNA若しくはshRNAを生産することになるRNAi誘導ベクターが含まれる。このようなsiRNA又はshRNAは、標的転写物の領域と相補的なRNAの部分を有する。基本的に、「RNAi誘導剤」又は「RNAi分子」は、RNA干渉を介して標的タイト結合タンパク質の発現を下方制御する。好ましくは、タイト結合タンパク質を標的とするsiRNA、miRNA又はshRNAを使用する。
【0020】
特に、前記方法は、タイト結合タンパク質を標的とする有効量のsiRNA又はshRNAの対象への送達を含む。siRNAのような有効量のRNAi誘導剤を用いてBBBを開き、目的の疾患を治療する活性剤の通過を可能にすることが理解される。好ましくは、送達が全身経路を介して行われる。
【0021】
この本発明の側面によれば、前記方法は、脳毛細血管内皮細胞及び/又は網膜内皮細胞において血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一次的なRNAi仲介抑制を生じて、理想的には15kDa未満の分子の脳毛細血管内皮細胞及び/又は網膜内皮細胞を通して脳血管関門を横切る透過を可能にする。この範囲で血液バリアーを開くことは、一般に10〜15kDA、好ましくは13kDaの最大分子量を有するsiRNA及び/又は一般に約2kDA未満、好ましくは1kDa以下の分子量を有する低分子量の薬剤が血液脳関門を横切ることを可能にする。当然ながら、15kDaより大きい分子の分子が血液脳関門を横切ることができるように血液脳関門を開放し得ることが理解される。
【0022】
理想的には、前記方法は、siRNA、miRNA又はshRNAなどのようなRNAi誘導剤の対象への全身ハイドロダイナミックデリバリーを含む。とは言え、非ハイドロダイナミック全身デリバリー法を用いることができる。
【0023】
RNAi誘導剤(siRNA、shRNA及びmiRNAなどを含む)の送達に適した他の送達方法も使用することができる。例えば、RNAi誘導剤の幾つかの送達剤は、次のカチオン性ポリマー、修飾カチオン性ポリマー、ペプチド分子トランスポーター、脂質、リポゾーム及び/又は非カチオン性ポリマーからなる非限定的な群から選択される。ウイルスベクター送達システムも使用することができる。例えば、別の送達経路には、RNAi誘導剤(siRNA、shRNA及びmiRNAを含む)、及び組み換えDNA分子を生じることになる細胞の変換前の遺伝子構築物のアンチセンスRNA(asRNA)の直接送達が含まれる。これは、遺伝子構築物の転写を生じ、siRNA、shRNA及びmiRNAだけでなく、asRNAのようなRNAi誘導剤をエンコードし、細胞及び器官内にRNAi誘導剤の一時的かつ安定な発現を提供する。例えば、このような別の送達経路は、タイト結合タンパク質を標的とするsiRNA(又はshRNA)をエンコードするヌクレオチド配列からなるレンチウイルスベクターの使用を含むことができる。このようなレンチウイルスベクターは、ウイルス粒子内に含まれ得るものである。アデノ随伴ウイルス(AAV)も使用することができ、これらの送達ビヒクルとしての使用は詳細に後述する。
【0024】
本発明の第二の側面によれば、本発明によるRNAi誘導剤、好ましくはsiRNA、miRNA又はshRNAなどの送達が、細胞間通路の作用、BBBの生理学を研究し、かつ以前はBBBを横切ることはできなかったがBBBを横切る薬剤の作用を試験するための実験的モデルの生成において有用である。
【0025】
本発明の第三の側面によれば、本発明は、血液脳関門又は血液網膜関門が関係する多くの疾患又は疾病の治療に適応可能である。
【0026】
本発明の第四の側面によれば、タイト結合タンパク質を標的として、血液脳関門の細胞間通路の可逆的、一時的かつ制御されたサイズ選択的開放を生じる、好ましくはsiRNA、miRNA又はshRNAなどであるRNAi誘導剤と、明確な疾病又は疾患の治療のための活性剤とからなる、好ましくは全身送達に適した医薬組成物が提供される。理想的には、前記活性剤は生物学的に活性な治療薬である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、claudin−5タンパク質及びmRNAのレベルの定量化の結果を示す。
【図2】図2は、脳の微小血管におけるclaudin−5の発現及び局所化の免疫組織化学分析の結果を示す。
【図3】図3は、claudin−5の抑制後のclaudin−1、Tie−2及びoccludinの発現の結果を示す。
【図4】図4は、脳の凍結切片におけるclaudin−1及びclaudin−5の2重免疫染色の結果を示す。
【図5】図5は、443ダルトンの分子に対するBBB完全性の評価の結果を示す。
【図6】図6は、claudin−5 siRNAのハイドロダイナミック尾静脈デリバリー後24、48、72時間及び1週間におけるHoechst33342及びFD−4の同時灌流を示す。
【図7】図7Aは血液脳関門の完全性を生体内で評価する注射後のMRIスキャンの結果を、図7Bはclaudin−5を標的としたsiRNAの全身投与後のマウス脳におけるMRI画像の濃度分析の結果を、図7Cは定量的なMRI画像の結果を示す。
【図8】図8は、claudin−5タンパク質のアブレーション後のマウスへの20mg/kgのTRWの投与の結果を示す。
【図9】図9は、肝臓結切片における内皮細胞の形態学を示す。
【図10】図10は、肺の凍結切片における上皮細胞形態学を示す。
【図11】図11は腎臓凍結切片における内皮細胞の形態学を示す。
【図12】図12は、心臓凍結切片における内皮細胞の形態学を示す。
【図13】図13は、脳凍結切片におけるoccludin発現の免疫組織化学分析を示す。
【図14】図14は、siRNA注射後の網膜におけるclaudin−5抑制の結果を示す。
【図15】図15は、網膜のフラットマウントにおけるclaudin−5発現の結果を示す。
【図16】図16は、iBRBを横切るGd−DTPA拡散のMRI分析の結果を示す。
【図17】図17は、Hoechst33352(562Da)でのマウスの灌流後の網膜フラットマウントの結果を示す。
【図18】図18は、IMPDH−/−マウスにおけるGTP注射後のERG結果を示す。
【図19】図19は、occludin siRNAのハイドロダイナミック尾静脈送達後のoccludin発現のウェスタンブロット分析の結果を示す。
【図20】図20は、occludin siRNAのハイドロダイナミックデリバリー後のoccludin免疫組織化学の結果を示す。
【図21】図21は、occludinの抑制後のアルブミン免疫組織化学の結果を示す。
【図22】図22は、occludinの抑制後の脳ビブラトーム切片における免疫グロブリン染色の結果を示す。
【図23】図23は、claudin−1 siRNAのハイドロダイナミック尾静脈デリバリー後のclaudin−1発現のウェスタンブロット分析の結果を示す。
【図24】図24は、claudin−1 siRNAのハイドロダイナミック尾静脈デリバリー後24時間及び48時間におけるHoechst(562Da)及びFD−4(4400Da)の灌流の結果を示す。
【図25】図25はハツカネズミclaudin−5 mRNAにおいて実験で使用した1種のclaudin−5 siRNAの位置を示す。
【図26】図26は、claudin−5を標的としたsiRNAのデリバリー後48時間におけるマウス脳の海馬領域のT1強調MRI画像を示す。
【図27】図27は、claudin−5を標的としたsiRNAの大容量尾静脈注射後24時間及び48時間におけるマウスの脳内における血流量及び血液量に関係するMRI情報を示す。
【図28】図28は、試験した各実験群について実験データに適合させた脳血流量及び脳血液量の理論的モデルを示す。
【図29】図29は、B値(X軸)とその上にプロットしたMRI信号強度(Y軸)を示す。
【図30】図30は、claudin−12を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射後の結果を示す。
【図31】図31は、非標的化siRNA又はclaudin−12を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射後の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において、用語「血液脳関門」又はBBBは、血液脳関門(BBB)及び血液網膜関門(BRB)の両方を含むものとして使用されている。詳細に上述したように、血液脳関門(BBB)は、脳の微小血管系の微細な毛細血管を覆う隣接する内皮細胞間の隙間を殆どゼロに小さくして、BBBを横切る栄養素及び酸素の輸送を可能にするが、それと同時に、他の潜在的に有害な物質のBBBを横切る輸送を防止するタイト結合(TJ)を有する。血液網膜関門(BRB)は、所定の物質が網膜の組織に入ることを防止するために、緊密に一対に結合される細胞からなる血液眼関門の一部である。血液網膜関門は2つの構成部分、網膜血管内皮及び網膜色素上皮を有し、これらもまたタイト結合(TJ)を有する。脳血管に類似する網膜血管は、内側血液眼関門を維持する。
【0029】
更に、本明細書に開示される発明は、一般にRNAi技術の使用に関する。理想的には、RNAi誘導剤は、標的転写物を標的としたsiRNA、miRNA若しくはshRNA、又はその細胞内での存在が標的転写物を標的としたsiRNA若しくはshRNAの生産となるRNAi誘導ベクターを含んで使用される。このようなsiRNA又はshRNAは、標的転写物の領域に相補的な部分を有する。このように、RNAiは、特にsiRNA及びshRNA双方を用いて実施することができる。
【0030】
本発明のRNAi誘導剤は、mRNAの翻訳を干渉又は妨害する。このようなRNAi誘導剤は、一本鎖又は二重鎖構造とすることができる。好ましくは、二重鎖構造のRNAi誘導剤の1本の鎖が、少なくとも標的mRNAに相補的な部分配列を有する。阻害性核酸のヌクレオチドは、化学的に修飾されたもの、天然又は人工のものとすることができる。RNAi誘導剤と標的とされたタイト結合標的mRNA間の配列相同性は100%以下であってよいが、理想的には約50%以上、一般には90%以上、より好ましくは少なくとも98%及び99%である。RNAi誘導剤と標的mRNA間の配列相同性の割合は、好ましくは細胞質条件下で、RNAi誘導剤、例えば、siRNAと標的mRNA間に配列特異的な会合を生じるのに十分なものとすべきであることが理解される。
【0031】
このようなsiRNAは、長さが約20程度のヌクレオチドの相補性の領域を有する2つのRNA鎖を有し、更に任意に、1つ又は2つの一本鎖構造のオーバーハング又はループを有する。哺乳動物の細胞では、30塩基対より長いdsRNAが、インターフェロン応答による非特異的な遺伝子抑制を生じる場合がある。しかしながら、両方の3’末端で突出する2つのヌクレオチドを有する21ヌクレオチド合成二重鎖siRNAを導入した細胞は、インターフェロン応答を回避して、配列特異的な遺伝子サイレンシング機能を有効に発揮することが分かっている。しかしながら、合成siRNAのサイレンシング効果は一時的なものである。二重鎖siRNA分子は、RNAiを介して血液脳関門及び/又は血液網膜関門のタイト結合の発現を下方修正するが、その場合に前記siRNA分子の各鎖は独立して長さが約18〜約28ヌクレオチドであり、かつsiRNA分子の1本の鎖が、標的タイト結合タンパク質のRNAに対して、siRNA分子がRNA干渉を介して標的RNAの開裂を行うのに十分な相補性を有するヌクレオチド配列を有する。
【0032】
shRNAでは、単一のRNA鎖が、ステム及びループを有するヘアピン構造を形成し、任意にRNAの5’及び/又は3’部分に1つ又は複数の非対合部分を形成することができる。
【0033】
別の転写後遺伝子サイレンシングプロセスは、ミクロRNA即ちmiRNA、mRNA翻訳を抑制するssRNA種によって仲介される。siRNAのように、miRNAは、エンドヌクレアーゼDicerにより21〜25ヌクレオチド配列に処理されて配列特異的な
遺伝子サイレンシング複合体を形成するRNAプリカーサーに由来する。
【0034】
このように、本発明はRNAi技術を対象とするものであり、理想的には、例えばsiRNA、miRNA及び/又はshRNAにより実施することができる。容易に参照できるように、以下の記載ではsiRNA及びshRNAについて言及している。しかしながら、以下の方法にはsiRNA、miRNA若しくはshRNA又は他のあらゆるRNAi誘導剤を使用できることが理解される。
【0035】
本発明の第一の側面によれば、タイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤、好ましくはsiRNA又はshRNAの対象への送達、好ましくは全身送達により、血液脳関門の細胞間通路を可逆的、一時的及び制御されたサイズ選択的に開放するための方法において、タイト結合タンパク質を標的としたRNAiの使用が提供される。
【0036】
タイト結合タンパク質を標的としたsiRNA又はshRNAの送達が、血液脳関門の細胞間通路の制御された、可逆的かつ一時的開放を生じ、理想的には15kDa未満の分子の脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞を横切る透過を可能にすると、好都合である。理想的には、約1kDa未満のような低分子量の薬剤の送達が容易になる。
【0037】
この本発明の側面の特定の実施例によれば、血液脳関門の細胞間通路の可逆的、一時的かつ制御されたサイズ選択的な開放のための方法であって、タイト結合タンパク質を標的としたsiRNAの送達、好ましくは全身送達からなり、脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞における血液脳関門タイト結合調節ペプチド転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じて15kDa未満の分子の脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞を介して脳血液関門を横切る透過を可能にする方法におけるsiRNAの使用が提供される。
【0038】
タイト結合タンパク質を標的としたsiRNA又はshRNAのようなRNAi誘導剤の使用は、BBBの可逆的、一時的かつサイズ選択的な開放を達成した最初のものである。このBBBの開放は、以下のものを含む多くの様々な用途を有するが、これらに限定されるものではない。
−条件付きTJ調節ペプチドノックアウトマウスの育生により細胞間システムを研究する実験モデルとしての使用。
−広範な医薬生成物の効能を試験する一般的な実験プラットフォームとして条件付きTJ調節ペプチドノックアウトマウスを使用すること。
−以前はBBBを透過し得なかった活性剤に対するBBBの透過率を向上させる使用。
−多くの様々なTJタンパク質を標的として、BBBを横断し得る分子サイズの柔軟性を提供すること。
−細胞間通路及び血液脳関門又は血液網膜関門が関連する多くの疾病又は疾患の治療における使用。
【0039】
以下の記載はsiRNAを用いたRNAi技術に関するものであるが、上述したように、これらの記載はmiRNA、shRNA又は他のRNAi誘導剤を用いたRNAi技術に同等に適用可能である。
【0040】
本願発明者らは、BBBの細胞間通路の開放が、siRNA送達後約24乃至48時間で発生することを見出した。タイト結合タンパク質の発現のレベルは、siRNA送達後約72時間で正常に戻り、従ってBBBは、この時間経過後はもはや開放状態ではない。このように、RNAiを用いたBBBの開放は一時的かつ可逆的なものである。これが本発明の主な利点であり、BBBの完全性がsiRNA送達後に完全に復元される。このBBBの完全性を一時的に弱めて小さい分子の脳内への通過を可能にするという特徴が、潜在的に有害で制御されない永久的な手法でBBBを開放する公知の技術に対する本発明の主な利点を提供するものである。
【0041】
更に、BBBの開放はサイズ選択的でありかつ制御され、理想的には15kDa未満の分子のBBBを横切る透過を可能にする。理想的には、1kDa未満、好ましくは800Da未満の分子が、脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞を通過してBBBの向こう側へ透過することができる。BBBのサイズ選択的な開放が、標的とした様々なTJタンパク質によって異なるものであり得ることは理解される。例えば、occludinが約60kDa乃至80kDaまでの分子の透過を可能にするのに対し、claudin−1、−5、−12は、約2kDa以下の分子の透過を可能にする。
【0042】
理想的には、RNAiを効果的にするには、多量のsiRNAを対象に投与して、脳毛細血管内皮細胞又は網膜細胞における血液脳関門/血液網膜関門のタイト結合タンパク質転写物を除去/抑制する。好ましくは、送達されるsiRNAの量は、対象の体重1μg当たりsiRNA約1μgである。しかしながら、異なる量のsiRNAが考えられることは理解される。例えば、マウスを含むげっ歯動物のような小さい哺乳動物については、この量は約5μgから50μgまで少なくすることができる。理想的には、約20μgの量が使用される。一般に約70kgの体重を有する人間のような大型哺乳動物については、注入するべきsiRNAの適当な量は、0.07〜0.15gの範囲であろう。繰り返すが、様々な量のsiRNAが考えられる。
【0043】
好ましくは、送達が、静脈内送達及び頸動脈内送達のような動脈内送達を含む全身送達により行われる。投与は、直接投与又はカテーテルを介して行うことができる。理想的には、siRNAは全身ハイドロダイナミックデリバリーによって対象に投与される。
【0044】
ハイドロダイナミックデリバリーは、広範囲の核酸を生体内で組織又は他の器官に送達するのに使用し得る効率的かつ安価な方法である。ハイドロダイナミックデリバリーを首尾良く適用することは、対象の血管構造内にオリゴヌクレオチドを含む大きな水相量を高速で注入することに依存する。
【0045】
基本的に、本発明による全身ハイドロダイナミックデリバリーは、siRNAの血管内投与を含む。マウスのようなげっ歯動物では、尾静脈送達を考えることができる。人間又は他の哺乳動物では、頸静脈を介して頸動脈又は心臓に対して直接行う頸動脈内投与が考えられる。人間におけるハイドロダイナミックデリバリーは、大腿静脈におけるラインの挿入後の肝臓門脈を介した投与により行うことも考えられる。特に、人間の脳毛細血管へのsiRNAの送達は、潜在的に頸動脈内投与を介して仲介することができる。別の方法では、例えば300〜400mlまでの量の高濃度のsiRNAを人間の心臓に直接注入することにより、脳毛細血管への送達が増進されることが考えれる。非常に狭いカテーテルを対象の大腿動脈内に挿入し、かつそれを脳底部の一方の頸部動脈内に進ませることにより、投与を行うことができた。この場合、siRNAはカテーテルを通して投与することができる。
【0046】
全身ハイドロダイナミックデリバリーによるオリゴヌクレオチド(即ち、siRNA)の送達の効率は、組織の血管の容積及び圧力を、従って透過率を増加させることにより向上する。透過率は、次の
−血管内静水圧(物理的)又は浸透圧を増加させること、
−注射流体を高速で送達すること(注射流体を高速で注射すること)、
−大容量の注射を用いること、かつ/又は
−TJタンパク質転写物の抑制後にタイト結合の透過率を増加させること
によって増加させることができる。
【0047】
好都合なことに、本願発明者らは、タイト結合タンパク質を標的としたsiRNAの送達のためにハイドロダイナミックデリバリーを用いて、脳毛細血管内皮細胞又は網膜細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じ得ることを見出した。上述したように、これはBBBを開いて、15kDa未満の分子の脳毛細血管内皮細胞又は網膜細胞への透過を可能にする。BBBの送達は、以前は達成されなかった。
【0048】
理想的には、全身ハイドロダイナミック投与に関し、siRNAは溶液にして、好ましくはリン酸緩衝食塩水溶液又は水で送達される。
【0049】
理想的には、前記溶液は対象の体重の5〜10%の間の容積を有する。本願発明者らは、この多量のsiRNAを選択されたタイト結合タンパク質に対して送達することが、非標的化siRNAと比較したとき、脳の微小血管系の透過率を増加させる。
【0050】
理想的には、対象が大型哺乳動物の場合、対象の体重によって、数リットルの範囲内にすることができる。このような大容量は、他の利用可能な治療方法がなく、かつ更に治療介入しなければ対象が死ぬような外傷性脳損傷又は重傷の脳卒中の治療のような場合に望ましいと考えられる。対象がマウスのような小型哺乳動物の場合には、理想的には全量が1〜3mlである。送達されるべき正確な量は、対象の体重に依存することになる。
【0051】
特定の用量が特定の時間内に、例えば哺乳動物の体重の1グラム当たり毎秒0.05ml未満の速度で送達されると好都合である。明確な容量を短時間で導入することが、この投与経路を補助する。
【0052】
この本発明の側面のある実施例によれば、マウスの全身ハイドロダイナミックデリバリーは、約1ml/秒の流量でマウスの尾静脈内に約1〜3mlの液体でsiRNAを注入することを含む。
【0053】
別の実施例では、siRNAを、高濃度のsiRNAの低容量溶液での使用を含む非ハイドロダイナミック方法を用いて投与することができる。同様の濃度のsiRNAを全身ハイドロダイナミック方法に用いることができる。一般に、人間のような大型哺乳動物について全量で70〜200mlが考えられる。このように、非ハイドロダイナミックデリバリーについて使用される体重に基づいた容積率は、ハイドロダイナミック方法の容積よりも非常に低い。
【0054】
別の方法には、哺乳動物のpol IIまたはpol IIIプロモーター、及びT7ポリメラーゼを含む転写システムを用いて開発されたプラスミドDNA発現siRNAが含まれる。siRNAコード化プラスミドによる遺伝子サイレンシングの有効性は、DNA導入効率に依存し、かつまた一時的なsiRNA発現を生じる。このような別の方法については、本明細書中に後述する。
【0055】
本発明によるsiRNAの送達は、BBBの一時的、可逆的かつサイズ選択的開放を生じる。この開放は、選択した特定のsiRNA及び送達条件によって制御することができる。例えば、特定のTJタンパク質siRNAを選択することによって、BBBの脳内皮細胞又は網膜細胞に対する様々なサイズの分子の透過を可能にすることができる。
【0056】
更に、本発明は、さもなければ除かれるであろう脳又は網膜のあらゆる領域への小分子の送達のための非侵襲的技術を意味している。従前、これは不可能であり、薬剤のBBBへの送達に関する公知の方法は侵襲的なものであり、かつ多くの危険を伴っている。例えば、濃縮糖液によってBBB細胞を一時的に収縮させることは、脳腫瘍の治療においてBBBを崩壊させるのに使用されている。これは一時的に化学療法剤が脳内に通過して腫瘍に到達することを可能にする。しかしながら、このような治療は重大なリスクを伴い、かつ所定の環境においてのみ使用することができる。しかしながら、BBBはサイズ選択的でないやり方で崩壊され、この方法は問題の薬剤を送達しようとする小さな時間枠だけを考慮している(http://www.ohsu.edu/bbb/bbbdtherapy.html)。このように、制御することができ、かつ血液脳関門を開くためにそのような深刻な副作用がない、別のBBBを開くための治療を提供することが非常に望ましい。
【0057】
更に、公知のTJ関連タンパク質ノックアウトマウスは、BBB機能が弱められかつ有害であるという意味で多くの欠点を有し、これらノックアウトマウスに関連する死亡率は高い。本発明は、一時的なノックアウトを提供することによってこれらの問題を解消し、それにより公知のTJタンパク質ノックアウトマウスに関連する死亡率を解消する。
【0058】
本発明のRNAiの技術は、siRNA、miRNA若しくはshRNAまたは他のRNAi誘導剤であるかによらず、血液脳関門及び/又は血液網膜関門からのTJ関連タンパク質を標的とする。例えば、BBBを開くのに使用されるsiRNAはTJタンパク質を標的とする。理想的には、タイト結合タンパク質は、脳微小血管系のタイト結合に関連する膜貫通タンパク質から選択される。一般に、標的mRNA、タイト結合タンパク質転写物に対する配列同一性を有するsiRNA配列の領域は、長さが14〜30ヌクレオチド、例えば16〜24ヌクレオチド、より好ましくは18〜22ヌクレオチド、最も好ましくは長さが19〜21ヌクレオチドである。siRNAは、標的mRNAによりコード化されたタンパク質の生成をsiRNA薬剤が抑制するのに十分な相補性をタイト結合タンパク質の標的mRNAに対して有する。このsiRNAは平滑末端構造のものでも、その3’又は5’端末に、好ましくはその両方の端末にオーバーハングを有するものでも良い。オーバーハングは、長さが短いことが好ましく、例えば30ヌクレオチド未満、好ましくは20ヌクレオチド未満、より好ましくは10ヌクレオチド未満、更に好ましくは5ヌクレオチド未満、最も好ましくは3ヌクレオチド未満の長さである。一般に、オーバーハングは、長さが2ヌクレオチドである。
【0059】
このように、本発明のsiRNAは、一般に長さが30ヌクレオチド未満であり、一本鎖又は二重鎖構造とすることができる。より長いsiRNAは、酵素的に又は化学的に切断されて、30ヌクレオチド未満、一般には上述したように21〜23ヌクレオチドの長さを有するsiRNAを生成し得る開裂部位を有するものとすることができる。siRNAが対応する標的mRNAとの配列相同性を共有することが理解される。配列相同性は、100%以下とすることができ、siRNAと標的mRNA間での配列特異的会合を生じるのに十分なものとすべきである。典型的なsiRNAは、インターフェロンシグナル伝達経路を活性化しない。本発明の最も好ましい実施例は、標的mRNA、タイト結合タンパク質との100%配列同一性を有するsiRNAからなる。しかしながら、siRNAがRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を標的mRNAに分解のために案内するのに十分な相同性を有するような、100%未満の相同性を有する他の配列(一般にRNAi誘導剤に関連して上述したもの)を用いることができる。
【0060】
標的mRNAに関するsiRNAの限定的変異もまた考えられる。本発明のsiRNAは、理想的にはヌクレオチドオーバーハングを有することが理解される。例えば、siRNAは2つのヌクレオチドオーバーハング(例えばUU)を有することができ、従ってsiRNAは、19ヌクレオチド二重鎖領域を有するように対にした21ヌクレオチドセンス鎖と21ヌクレオチドアンチセンス鎖を有することになる。オーバーハングにおけるヌクレオチドの数は、5’及び3’末端のそれぞれにおいて約1乃至約6の範囲内の相同ヌクレオチドオーバーハングとすることができ、好ましくは5’及び3’末端のそれぞれにおいて約2〜4、より好ましくは約3の相同ヌクレオチドオーバーハングである。
【0061】
更に、前記siRNAは、例えば投与の際により安定であるように、化学的に修飾することができる。ヌクレオチドオーバーハングは、例えばヌクレアーゼ耐性を向上させるように修飾することができる。例えば、3’オーバーハングは、ヌクレアーゼ耐性を改善するために、2’デオキシヌクレオチド、例えばTTで構成することができる。
【0062】
これら膜貫通タンパク質の一種には、接合部接着分子(JAM)が含まれる。別の実施例では、タイト結合関連分子が、次のoccludin、claudin及び/又はzonula occludin(ZO−1、ZO−2、ZO−3)の1種又は2種以上から選択される。
【0063】
典型的なsiRNAの配列及び関連する標的配列を以下に提供する。本発明のある特定の実施例によれば、タイト結合関連分子は、claudin−1乃至−19及び/又は−21の1種又は2種以上から選択される。好ましくは、タイト結合関連分子が、claudin−1、−5及び/又は−12である。
【0064】
本発明の好適実施例によれば、タイト結合関連分子は、claudin−5である。理想的には、前記siRNAはclaudin−5遺伝子の保存領域から選択される。特に、claudin−5
siRNAは、以下の配列(5’乃至3’)を有する。
【0065】
【化1】

【0066】
本発明の別の好適実施例によれば、タイト結合関連分子はclaudin−1である。理想的には、前記siRNAは、claudin−1遺伝子の保存領域から選択される。特に、claudin−1
siRNAは以下の配列(5’乃至3’)を有する。
【0067】
【化2】

【0068】
本発明の更に別の好適実施例によれば、タイト結合関連分子はoccludinである。理想的には、前記siRNAは、occludin遺伝子の保存領域から選択される。特に、occludin
siRNAは以下の配列(5’乃至3’)を有する。
【0069】
【化3】

【0070】
本発明の好適実施例によれば、タイト結合関連分子はclaudin−12である。理想的には、前記siRNAは、claudin−12遺伝子の保存領域から選択される。特に、claudin−5
siRNAは以下の配列(5’乃至3’)を有する。
【0071】
【化4】

【0072】
siRNAを設計する技術は同業者によく知られているので、本明細書では詳細な説明を省略する。
【0073】
本発明において使用するsiRNAは、単一のTJ調節ペプチドを標的とし得ることが理解される。別の実施例では、異なるTJタンパク質を標的とした1種又は2種以上のsiRNAを同時に用いることができる。例えば、数種類の異なるタイプのclaudinタンパク質を標的としたsiRNAが考えられる。異なるTJタンパク質を標的としたsiRNAの組み合わせを用いる場合、重要な側面は、タイト結合全体の完全性が維持されるべきことである。
【0074】
本発明のこの側面のある実施例によれば、siRNAの組み合わせには、claudin−1とclaudin−5、claudin−12とclaudin−5、claudin−12とclaudin−1を含むことができる。別の実施例では、claudin−1、claudin−5及びclaudin−12を一緒に用いることができる。また、occludinも1種又は2種以上のclaudinのタイプと組み合わせることができる。これらの組み合わせは、制御されかつサイズ選択的であるという特徴をもってBBBにおける透過率を更に増加させると考えられる。
【0075】
また、これらのTJタンパク質を標的として、shRNAを選択することもできる。TJタンパク質を標的とするshRNAは、結局前記siRNAと同じセンス配列及びアンチセンス配列を有することになる。唯一の相違点は、それらが、ヘアピン構造を形成しかつ送達ベクターにそれらがクローン化されることを可能にする次のヌクレオチドUAUCAAGAGからなる短いヘアスピンを有することである。
【0076】
理想的には、誘導ベクターをshRNA送達に用いて、さもなければ生じるであろう、問題のTJタンパク質を標的としたshRNAの連続的な発現及びその結果であるこれらTJ標的タンパク質の連続的な抑制を防止する。例えば、脳又は網膜の特定の領域に高度に局所化されることになるAAV仲介送達を用いてshRNAを送達することができる。好ましくは、特定の薬剤を投与したときにTJタンパク質を標的としたshRNAの誘導発現を可能にする誘導AAVベクターを使用する。このような誘導AAVベクターはclaudin−5のようなタイト結合標的タンパク質の一時的な抑制を可能にする。
【0077】
本発明の第2の側面によれば、本発明によるsiRNA、miRNAまたはshRNA等のようなRNA誘導剤の送達が、BBBの細胞間通路及び生理学の作用を研究するために使用される実験動物モデルの生成において使用することができる。このタイプの動物モデルは、BBBの細胞間通路を可逆的、一時的かつ制御されたサイズ選択的な手法で開くので、公知のBBBノックアウトマウスに関連した高い死亡率を解消する。このような、一時的にBBBタイト結合タンパク質を抑制してBBBを開放する条件付きタイト結合タンパク質ノックアウトマウスを用いて、広範囲の薬理生成物(以前はBBBを透過し得なかったような生成物を含む)の効果を試験し、かつ/又は細胞間システムを研究することができる。
【0078】
そのようにして、この方法は、動物モデルにおいて、以前はBBBを貫通し得なかった様々な活性剤を試験するために、及び脳及び網膜機能に影響を及ぼす疾病及び疾患の新たな治療を生成するために用いることができる。好ましくは、この方法によって、さもなければ血管脳関門を横断し得ない広範囲の薬物の評価のための理想的な実験プラットホームの生成が可能になる。このように、この方法は神経変性疾患及び精神神経疾患などについて、実験動物モデルの確立を考えることができる。
【0079】
本発明の第3の側面によれば、脳又は網膜の疾病又は疾病の治療のための薬剤の製造において、その方法が、脳毛細血管内皮細胞及び/又は網膜内皮細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じ、かつ脳または網膜の疾病又は疾患の治療を目的として、15kDa未満の活性剤の透過及び送達を可能にする、siRNA標的タイト結合タンパク質の送達、好ましくは全身送達による血液脳関門の細胞間通路の可逆的、一時的かつ制御されたサイズ選択的開放からなるような、タイト結合タンパク質を標的とした、siRNA、miRNA又はshRNAなどのようなRNAi誘導剤の使用が提供される。
【0080】
タイト結合タンパク質を標的とした前記RNAi誘導剤、好ましくはsiRNA(miRNAまたはshRNAなど)は一時的に血液脳関門を開放して、血液脳関門を横切る活性剤の送達を可能にする。理想的には、前記方法は、前記siRNA又はshRNAの投与後の前記活性剤の連続投与からなる。これによって、前記活性剤が投与されたときに細胞間通路が開放されることは確保され、前記活性剤は脳毛細血管内皮細胞及び/又は網膜内皮細胞を通過して、脳及び/又は網膜に到達することができる。しかしながら、活性剤の送達を、RNAi誘導剤より以前に又はそれと共に/同時に行うことも考えられる。
【0081】
本発明のこの側面は、BBB又はBRBが関係する多くの疾病又は疾患の治療に適用することができる。これらには神経変性疾患(アルツハイマー病、多発性硬化症などのような)、脳卒中及び外傷性脳損傷(TBI)、感染プロセス及び炎症性疼痛、加齢黄斑変性(AMD)、緑内障及び糖尿病性網膜症を含む網膜疾患が含まれるが、これらに限定されるものではない。例えば本発明は、現在は効果的は治療の見込みが殆ど又は全く提供されていない神経変性又は他の状態の範囲において治療薬を中枢神経系(CNS)に制御して送達するために使用することができる。
【0082】
本発明のこの側面によれば、特定の疾病の治療には一般に、BBBを横切る活性剤の送達と同時の又はそれ以前のBBBの開放が含まれる。前記活性剤は、理想的には、BBBの開放後に、例えばsiRNA送達後24時間又は48時間後に送達される。別の実施例では、上述したように、前記活性剤はRNAi誘導剤と同時に又はそれより前に投与することができる。
【0083】
前記活性剤は、神経機能を調節する薬剤、化学療法薬、抗腫瘍剤、網膜機能を調節する薬剤及び非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)のような従来の薬品から選択することができる。そのように、前記活性剤はあらゆる従来の生理活性治療薬とすることができる。
【0084】
別の実施例では、前記活性剤が高張溶液、好ましくは高張食塩水又は糖液とすることができる。このような高張溶液は、外傷性脳損傷の治療において使用され、水分が障害後の脳から排除され得るようにすることができ、重要なことに、脳浮腫の発生を防止することができる。マンニトール、糖液を本発明に用いることもできる。マンニトールは従来の「マンニトール浸透圧療法」において使用されるが、マンニトールは、従来のように使用したとき、BBBを横断できない。マンニトールは、浸透圧利尿剤及び弱い腎臓の血管拡張剤として機能する。
【0085】
前記活性剤はまた、低分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムまたはタンパク質、ポリペプチド又はペプチドとし得ることが理解される。
【0086】
好適実施例によれば、前記活性剤は、治療されている疾病又は疾患を標的とする、siRNA、miRNA又はshRNAなどを含む更なるRNAi誘導剤とし、それによりBBBの開放後に、更なるRNAi誘導剤が脳内に送達されて、特定の疾病又は疾患を治療できるようにする。
【0087】
この本発明の側面は、ここで幾つかの特定の疾病又は状態及び1つのRNAi誘導剤siRNAに関して検討するが、shRNA又はmiRNAのような他のRNAi誘導剤をも使用することができる。
【0088】
外傷性脳障害(TBI)におけるストレス応答は、BBBを横切る水分の拡散の停止によって現れ、頭蓋内圧及び脳浮腫の急激な増加を招く。TBI後の脳浮腫及び頭蓋内圧の上昇を管理する従来の治療には、食塩水又は糖治療を含む高浸透圧療法及び高張療法が含まれる。例えば、浸透圧利尿剤は一般に、血漿と脳細胞との間に浸透圧勾配を確立し、かつBBBを越えて血管コンパートメント内に水分を引き込むので、TBIを治療するのに用いられている。別の実施例では、高張食塩水が、細胞内から水分を排除し、組織圧及び細胞のサイズを小さくすることによって、脳浮腫の減少を生じさせる。TBIの急性処置については、患者にマンニトール及び高張食塩水を与えて、脳内の水分拡散の浸透圧変化の解決を試みる。しかしながら、マンニトール及び高張食塩水は、24時間まで有効なだけであり、この時間より長く腫張が発生した場合、患者は死亡するか恒久的な脳の障害が残ることになる。このように、マンニトール及び高張食塩水は、深刻な循環血流量の低下、低血圧及び過カリウム血症のような副作用の意味で重大な欠陥を有し、必要とされる正しい投与量を確認することに困難がある。更に、濃縮糖液により一時的にBBB細胞を収縮をさせることは、上述したように脳腫瘍の治療においてBBBを崩壊させるのに使用されており、非常に有害な副作用を有する場合があり、最後の頼みとしてのみ使用され、全ての患者に適しているものではない。実際、BBBを開くマンニトールの使用は、BBBを選択的に制御して開くことにはならず、脳に更なる損傷を生じる場合がある。従って、TBI又は脳卒中を取り扱う別の治療方法を提供する必要がある。
【0089】
本発明のこの側面によれば、外傷性脳損傷又は脳卒中の治療のための薬剤の製造において、その方法が、脳毛細血管内皮細胞における血液脳血管タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じ、かつ任意に、高張食塩水又は糖液のような活性剤の投与後に血液脳関門を横切る水分の透過及び自由な拡散、頭蓋内圧の低下及び/又は脳浮腫の減少を可能にする、タイト結合タンパク質を標的としたsiRNAの送達、好ましくは全身送達による血液脳関門の細胞間通路の可逆的、一時的かつ制御されたサイズ選択的開放からなる、siRNAの使用が提供される。
【0090】
この血液脳関門を横切る水分の一時的、可逆的かつ制御された自由な透過及び自由な拡散を可能にする能力は、外傷性脳損傷(TBI)又は重傷の脳卒中のような状態において非常に重要である。これらの状態では、水分の脳から血液への拡散の停止が、頭蓋内圧の増加を生じさせ、脳浮腫及び場合によっては死又は重い廃疾を招くことがある。本発明は、水分の脳から血液への拡散を可能にし、かつ頭蓋内圧及び/又は脳浮腫の作用を低下させる新たな治療法を提供する。従って、予期しないことであるが好都合なことに、タイト結合タンパク質を標的としたsiRNAの使用によって、BBBを越えた水分の拡散が増進される。これによって、TBI、特に急性のTBIに関連する脳浮腫における別の介入の手段が提供される。タイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤を使用することは、BBBが開いている72時間までの時間に制御された可逆的な方法でTBIを有する対象の脳から水分の自由な拡散を可能にする。高張溶液(例えば、マンニトール又は高張食塩水)のような活性剤を任意にsiRNAと共に用いて、24〜48時間後にBBBが開くまでの初期に水分の拡散を容易にする浸透圧勾配を提供することができる。
【0091】
このように、タイト結合タンパク質を標的とした前記siRNAは、それ自体で又は高浸透圧療法及び高張食塩水/糖治療又はマンニトール浸透圧療法のような従来のTBI又は脳卒中療法と組み合わせて(連続的に又は同時に)使用できることが理解される。
【0092】
特定の実施例によれば、本発明の方法は、高度に制御された方法で脳から血液への水分の流れを可能にし、マンニトール/高張食塩水又は糖療法と組み合わせて用いることができる。好都合なことに、siRNA及びマンニトール/高張食塩水療法は同時につぎ込むことができ、マンニトール/高張食塩水は約24時間後に作用を停止するので、BBBの制御された開放は、更に水分の流れが脳からBBBを通して可能であるように開始する。
【0093】
本発明の別の側面によれば、神経変性疾患又は精神神経疾患の治療のための薬剤の製造において、その方法が、脳毛細血管内皮細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じ、神経機能を調整する15kDa未満の活性剤の脳毛細血管内皮細胞への透過及び送達を可能にするように、タイト結合タンパク質を標的としたsiRNAの送達、好ましくは全身送達による血液脳関門の細胞間通路の可逆的、一時的かつ制御されたサイズ選択的開放からなる、siRNAの使用が提供される。神経機能を調整する前記薬剤は、従来の神経変性疾患又は精神神経疾患のためのあらゆる従来の治療とすることができる。
【0094】
加齢黄斑変性(AMD)は、米国の175万人以上の市民に影響を与えており、60歳以上の人における視力障害及び失明の主な原因である。AMDを発生させるとして知られている最大の危険因子は加齢であるが、滲出型AMDの視覚上の危険因子には、軟性ドルーゼン、黄斑色素変化、及び脈絡膜新生血管が含まれる。AMDに関連する別の危険因子には、喫煙、肥満、高血圧及び家族歴陽性が含まれる。AMDは、2つの基本的な形態、即ち非滲出型AMD又は滲出型AMDで現れ、後者は血管透過性及び出血が関連している。より深刻な滲出型では、脈絡毛細管床から生まれた新しい血管が網膜の斑の下側に発生し、網膜と網膜色素上皮(RPE)との間の網膜下腔内に成長する。この新たに出芽した血管が、漿液及び血液を神経感覚網膜の下側に漏出させ、黄斑浮腫及び網膜剥離を招いて、視覚歪(変視症)及び霧視の症状を生じさせる。
【0095】
緑内障は複合病であり、目の繊維柱帯網の変性及び/又は篩骨篩板が関係している場合があり、排水路の異状機能及び/又は視神経乳頭の変性を生じる。その結果、神経節(網膜の出力ニューロン)が死に、視野の狭窄及び/又は喪失を生じ、治療しない場合には、相当な割合で深刻な視覚障害を招く。
【0096】
開放隅角緑内障の大部分の場合には、所謂正常眼圧緑内障の数が現在増えていることが確認されているにも拘わらず、眼圧の上昇が関係している。圧力の上昇を示すような場合には、減圧点眼薬が疾病の進行を遅らせる上で重要な価値を有する場合が多い。しかしながら、眼圧を軽減するのに外科的介入が必要な場合があり、かつ幾つかの開放隅角緑内障は治療不応性になる。
【0097】
開放隅角緑内障は、現時点でイギリス諸島の最大100万人に影響を与えている。この疾病の大部分は多重遺伝子性又は多因子性であるが、この疾病の幾つかは明らかなメンデル比に従って遺伝子、即ち常染色体優性の意味で遺伝している。このような幾つかの疾病では、所謂ミオシリン遺伝子内での変異が確認されている(Stone et al, Science, 275,1997, 668-670)。更に、多因子性の病気の最大4%では、同様の変異に遭遇している。従って、イギリス諸島の4万人又はそれ以上の人がミオシリン遺伝子内の変異により生じた緑内障を患っている。
【0098】
糖尿病性網膜症、即ち糖尿病の結果としてしばしば発生する目の損傷は、血液網膜関門の破壊に関係している。血液網膜関門は、糖尿病性網膜症を有する患者ではより漏れやすくなる。
【0099】
本発明のこの側面によれば、網膜の疾病の治療のための薬剤の製造において、その方法が、血液脳関門又は血液網膜関門の細胞間通路の可逆的、一次的かつ制御されたサイズ選択的開放からなり、該方法が、脳毛細血管内皮細胞及び/又は網膜内皮細胞における血液脳関門又は血液網膜関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じ、かつ網膜機能を調節する15kDa未満の活性剤の脳毛細血管内皮細胞及び/又は網膜毛細血管内皮細胞を横切る透過及び送達を可能にする、タイト結合タンパク質を標的としたsiRNAの送達、好ましくは全身送達からなるRNAiの使用が提供される。本発明のこの側面には、BBB又はBRBを開放して、網膜機能を調節する活性剤の網膜毛細血管内皮細胞を横切る透過及び送達を可能にすることによる網膜の疾病の治療が含まれる。
【0100】
網膜機能を調整する前記活性剤は、上述した状態のためのあらゆる従来の治療法であって良い。更に、例えば血管内皮増殖因子受容体(VEGF)調節不全は、加齢黄斑変性(AMD)の重要なメディエータであり、従って網膜へのこれらの阻害剤の送達を増加させることが、AMDの進行を有意に阻害し得る。これまで、これらのVEGF受容体の低分子阻害剤は、血液網膜関門を横切ることができなかった。これは、本発明の重要な利点である。
【0101】
本発明の更に別の実施例によれば、脳腫瘍の治療のための薬剤の製造において、その方法が、脳毛細血管内皮細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一次的RNAi仲介抑制を生じかつ15kDa未満の抗腫瘍薬又は化学療法薬の脳毛細血管内皮細胞への透過及び送達を可能にする、タイト結合タンパク質を標的としたsiRNAの送達、好ましくは全身送達による血液脳関門の細胞間通路の可逆的、一時的かつ制御されたサイズ選択的開放からなる、siRNAの使用が提供される。
【0102】
従って、本発明のこの側面により、脳腫瘍のような状態の治療にとって通常は余分なものとなり、今日までBBBを横切ることができなかった従来の化学療法薬又は抗腫瘍薬の送達を増進させるために使用し得るBBB/BRBの一時的な開放が提供される。
【0103】
本発明のあらゆる側面の典型的な実施例では、前記対象が牛、馬、マウス、ラット、犬、豚、山羊、又は霊長動物(Macaque)のような哺乳動物である。より好適な実施例では、前記対象が人間、例えば健康な人間又は現在ではBBBを横切る薬剤を利用できないことにより治療不応である疾病若しくは疾患と診断され又は予告された人である。
【0104】
本発明の第4の側面によれば、タイト結合タンパク質を標的として、送達に適した血液脳関門の細胞間通路の可逆的、一次的かつ制御されたサイズ選択的開放を生じるsiRNAの製薬上許容できる溶液と、特定された疾病又は疾患の治療のための活性剤からとなる医薬組成物が提供される。
【0105】
前記活性剤は、神経機能を調節する活性剤、化学療法薬、抗腫瘍薬、網膜機能を調節する薬剤、及び非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)又は上述したような高張溶液のような従来の医薬から選択することができる。特定の例は、上記記載に示した通りである。
【0106】
別の実施例では又は更に加えて、前記活性剤はまた、低分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム又はタンパク質、ポリペプチド又はペプチドとすることができる。理想的には、前記活性剤は、治療している疾病又は疾患を標的とする更なるsiRNAであり、それによってBBBの開放後に、更なるsiRNA分子が脳内に送達されて特定の疾病又は疾患を治療できるようにする。
【0107】
理想的には、前記医薬組成物は、全身ハイドロダイナミックデリバリーに適しており、製薬的に許容できる担体内に存在する。
【0108】
前記siRNA及び活性剤が同時投与又は連続投与に適したもので有り得ることは理解される。従って、siRNAは単独で又は活性剤と組み合わせて投与することができる。にも拘わらず、BBBが開いた後の連続投与は、幾つかの活性剤にとって好ましい送達方法である。
【0109】
本発明の更に別の側面によれば、血液脳関門の細胞間通路の可逆的、一次的かつ選択されたRNAi仲介サイズ選択的な開放のために、脳毛細血管内皮細胞又は網膜細胞において血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の一時的かつ可逆的RNAi仲介抑制を生じ、かつ15kDa未満の分子の脳毛細血管内皮細胞又は網膜細胞への透過を可能にする、タイト結合タンパク質を標的としたsiRNA有効量の送達、好ましくは全身送達の過程からなる方法が提供される。
【0110】
本発明の更に別の側面によれば、血液脳関門の細胞間通路の一時的、可逆的かつ制御されたRNAi仲介サイズ選択的な開放からなる、疾病又は疾患の治療のための方法であって、前記方法が、
前記疾患又は疾病を発症する虞がある対象を識別する過程と、
RNAi誘導剤の送達好ましくは全身送達により、タイト結合タンパク質を標的とした有効量の、好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA又は、その細胞内での存在がsiRNA又はshRNAの生産となるRNAi誘導ベクターであるRNAi誘導剤を投与して、脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じ、かつ理想的には15kDa未満の、前記疾患又は疾病の治療に使用される活性剤の脳毛細血管内皮細胞及び/又は網膜内皮細胞への透過を可能にする過程と、
前記疾患又は疾病の治療に適した活性剤を投与する過程とからなる方法が提供される。
【0111】
好都合なことに、この方法によって、薬剤又は他の活性剤に対するBBBの透過率が増加する。
【0112】
本願発明者らは従前に、問題の領域即ちBBBへのsiRNAのハイドロダイナミック及び非ハイドロダイナミックデリバリーの双方を論じてきた。
【0113】
BBBを横切る分子の経細胞、受容体仲介送達のような他の送達方法が考えられる。例えば、siRNAは、エレクトロポレーション又は脂質媒介トランスフェクションを用いて送達することができる。別の送達方法には、カチオン性ポリマー、修飾カチオン性ポリマー、ペプチド分子トランスポーター、脂質、リボゾーム、非カチオン性ポリマー及び/又はウイルスベクターをRNAi誘導剤の送達のために使用することが含まれる。
【0114】
更に別の送達方法には、BBBへの送達に作用するように前記siRNAを封入すること又は共役化することがある。上述したように、「ミクロのトロイの木馬」と称される遺伝子組み換えタンパク質を用いて、BBBへの送達に作用させることができる。今では、細胞の形質膜を横切ってsiRANの拡散を可能にするために、siRNAを例えばコレステロール部位で化学的に修飾する多くの方法がある。基本的に、これらのコレステロールで修飾した、claudin−5又はタイト結合タンパク質を標的とするsiRNAは、ハイドロダイナミック注入を必要とすることなく、投与することができる。
【0115】
他のウイルス仲介送達システムが考えらる。例えば、BBBを横切るタンパク質の標的送達は、レンチウイルスベクターシステムの影響を受ける場合がある。
【0116】
別の実施例では、モザイクベクター粒子について上述したが、これは特に脈管構造へのアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子の標的送達に大きな見込みが有ることを示している(Stachler MD他、2006)。更に、Work LM他(2006)は、AAV粒子上に独特のカプシド修飾を行うことによって、その脳に関連するものを含む特定のウイルス床にウイルスベクターを標的化することが可能になることを示している。この技術は、送達ベクターにクローン化するために短いヘアピンを用いる場合にsiRNAを使用するときに必要である。上述したように、このような誘導ベクターシステムによって、血液脳関門の制御された一時的な抑制が得られる。
【0117】
このように、本発明のこの側面によれば、claudin−5の抑制に特異的な抗生物質/薬物性shRNA(短いヘアピンRNA)配列を含む内皮細胞特異型AAVを生成して、claudin−5に対するshRNAを含むAAVによる脳微小血管系内皮細胞の感染後にBBB又はBRBを誘導開放するための方法を提供することができる。他のウイルスベクターも考えることができる。
【0118】
更に、最近では、Szymanski他(2007)が、FDA承認の薬剤ミフェブリストン(MFP)により制御され、かつ基本的にAAVウイルス粒子内にパッケージ化されかつその後に送達されるのに十分小さい流動プラスミドpBRESの発生について報告している。pBRESはモジュラーに設計され、トランス活性化誘導タンパク質、TAからなり、薬剤MFPと相互作用して問題の導入遺伝子、即ちshRNA(調節プロモーター(例えば、6×Gal4/TAT)から)の発現を可能にするプロモーターの選択により駆動される。この最小のプロモーターが標準的なPol II要素を用いて設計されているので、Pol IIIプロモーターを必要とする従来のshRNA遺伝子を駆動することは考えられず、shRNA配列をマイクロRNA(miRNA)バックボーン(shRNAmirs)でpcDNA 6.2-GW/EmGFP-miRにクローン化すべきである(BLOCK-iT Pol Il miRNAi Expression Vector Kit; Invitrogen cat.
no.K4935-00)。得られたEmGFPタグ付加shRNAmirは次に切り取られて、調節プロモーターの後にpBRES内に挿入することができる。更に、shRNAの適当でない発現に対して更に保護を加えるために、TAタンパク質(次にshRNA発現誘導を招くことになる)は、脳内皮内で他の組織と比較して高度な発現を駆動するトランスフェリン、claudin−12、Tie−2又はp糖プロテインのプロモーターを用いて駆動される。生物情報分析後に得られたこれらの遺伝子からの推定プロモーターは、次にHUVEC(ATCC no.CRL−1730)及びbend.3(ATCC no.CRL−2299)内皮細胞系におけるEGFPの発現を駆動するときに効率及び組織特異性を試験することができ、最も効率的なプロモーターが前記誘導システムに組み込まれてTAタンパク質を駆動することになる。最後に、得られたMFP−誘導、内皮特異型shRNA発現pBRESプラスミドは、直線化され、かつAAVシャトルベクターpAAV2 CMVにクローン化され、血管内皮への送達のためにカプシド修飾AAV1にパッケージされる。
【0119】
今日まで、AAV−1の使用における主な制限は、しかしながら、効率的な小規模精製戦略がないことであった。しかしながら最近では、2つのAAV−1カプシドタンパク質修飾が、ベクター粒子の簡単な精製を容易にしつつ、血管遺伝子導入を大きく増進し得ることが開示されている。脈間系を覆う内皮細胞の内腔面上に存在するインデグリンを標的とするべく十分に特徴付けられたRGD4C修飾を含むカプシドタンパク質と、アビジンアフィニティークロマトグラフィーによるモザイク粒子の代謝的ゼオチン化及び効率的な精製を可能にする修飾を含むカプシドタンパク質とからなるモザイクベクター粒子を用いて、今では高効率で特異的に内皮細胞を導入する修飾AAV−1粒子を生成することが可能である(Stachler & Bartlett, 2006)。このように、特にBBB及び/又はBRBへのshRNAの送達のためにAAV−1を使用することが、今では実用的に実行可能である。
【0120】
本明細書中、「からなる」などの用語及びその活用形、及び用語「を含む」並びにそれらの活用形は、相対的に相互に変換可能であると解され、もっとも広く解釈すべきものと考えられる。
【0121】
本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲において様々に変形又は変更することができる。
【0122】
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【0123】
以下に本発明を、以下の非限定的な図面及び実施例を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、claudin−5タンパク質及びmRNAのレベルの定量化の結果を示している。
【0124】
図1Aは、siRNAのハイドロダイナミック尾静脈デリバリー後24、48、72時間におけるclaudin−5発現のウェスタンブロット分析である。使用したコントロールには、非注射のコントロール、PBS注射のコントロール及び非標準化(ロドプシン)siRNA注射コントロールの各マウスが含まれる。siRNAの送達後24時間におけるclaudin−5発現のウェスタンプロット分析は、非注射、PBS注射及び非標準化siRNA注射のマウスと比較したとき、発現の現象を示した。この抑制はまた、注射後48時間(CLDN5 A+B;2つの異なるマウスからのリゼイト)においても明確であった。claudin−5のレベルは、同じ列におけるβ−アクチンの対応するレベルと比較したとき、claudin−5 siRNAの送達後72時間及び1週間におけるコントロール群に類似していた(図1A)。
【0125】
図1Bは、コントロール群−非注射コントロール、PBF注射コントロール及び非標準化(ロドプシン)siRNA注射コントロールのマウスと比較したsiRNAの注射後におけるclaudin−5 mRNAのRT−PCR分析を示している。RT−PCR分析は、claudin−5 mRNAのレベルが、検査後Tukey-Kramer法によるANOVA後にP=0.0427(*)であるコントロール群と比較して、siRNAの注射後24時間で大きく減少したことを示しつつ、P=0.0478(*)であるclaudin−5 siRNAの注射後48時間における抑制をも示している。claudin−5 mRNAのレベルは、注射後72時間(P=0.0627)及び1週間(P=0.2264)において、非標準化コントロール群と比較して大きく変化しておらず、0.05より大きいP値を示し、有意でないことを表している(図1B)。
【0126】
図2は、脳の微小血管におけるclaudin−5の発現及び局所化の免疫組織化学分析の結果を示しており、非注射、PBS注射及び非標準化コントロールのマウスの脳微小血管系における染色パターンが全ての時点において連続的かつ独特なことを表している(赤色=claudin−5、青色−DAPI=核)。この染色パターンは、claudin−5 siRNAの送達後24時間において減少しかつ非連続的であることを示し、注射後48時間には発現が顕著に減少している。claudin−5 siRNAの注射後72時間におけるclaudin−5染色の現れかたは明確であるが連続的ではなく、注射後1週間では、claudin−5の発現がコントロール群のそれに似ていることを示している。目盛は20μmである。これらの結果は、少なくとも5つの別個の実験の典型である。
【0127】
図3は、claudin−5の抑制後のclaudin−1、Tie−2及びoccludinの発現の結果を示している。claudin−5 siRNAの送達後24、48、72時間及び1週間におけるclaudin−1(23kDa)発現のウェスタンブロット分析は、いずれの時点においても変化がないことを示した。anti−Tie−2(140kDa)抗体でブロットをプローブした時、この内皮細胞特異型チロシンキナーゼ受容体の発現のレベルには、いずれの時点においても、いずれの処置によっても、全く顕著な変化が観察されなかった(図3A)。また、タイト結合タンパク質occludinの発現のレべルは、siRNAの送達後の全ての時点において変化しないままであることを示した(図3B)。
【0128】
図4は、脳の凍結切片におけるclaudin−1及びclaudin−5の2重免疫染色の結果を示している。claudin−5を標的としたsiRNAの注射後に適当なコントロールを用いて脳の凍結切片をラットanti−claudin−1抗体及びラビットanti−claudin−5抗体で染色した。使用した2次抗体はラットIgG(Cy3;赤)及びラビットlgG(Cy2;緑)であった。図2における結果と同様に、claudin−5の染色パターンは、siRNAの注射後48時間(図4B)において非常にばらばらにかつ不連続に現れた。claudin−5 siRNAの注射後72時間におけるclaudin−5染色の現れかたは明らかなものであったが、コントロール群(図4C)ほど強いものではなかった。注射後の各時点において、claudin−1の発現のレベルは、コントロール群において観察されたそれに似た状態で現れた。
【0129】
図5は、443ダルトンの分子に対するBBB完全性の評価の結果を示している。BBB完全性は、全てのコントロール群の微小血管内における緑色蛍光として観察された。しかしながら、claudin−5を標的としたsiRNAの注射後24時間では、検出した蛍光が、同じ時点におけるコントロール群と対照して、拡散してかつ微小血管の外側にあった。claudin−5 siRNAの注射後48時間では、ビオチン化分子の分布が脳実質において豊富であったが、この透過性は、コントロール群と比較したとき、siRNAの送達後72時間においても明らかであった。claudin−5を標的としたsiRNAの注射後1週間におけるマウスでは、ビオチン化試薬が5分間の灌流後に実質に沈着しないことが観察された。EZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinが、脳の微小血管内に観察された。24時間及び48時間における目盛は約200μmを示している。72時間及び1週間の時点における目盛は約100μmを示している。全てのトレーサー実験は、マウスにおいて少なくとも5回繰り返した。
【0130】
図6は、claudin−5 siRNAのハイドロダイナミック尾静脈デリバリー後24、48、72時間及び1週間におけるHoechst33342及びFD−4の同時灌流を示すことにより、脳及び網膜の微小血管からのHoechst H33342染料の溢出の結果を示している。脳微小血管からのHoechst H33342の溢出は、コントロール群と比較したとき、claudin−5 siRNAの送達後24時間及び48時間における周囲の神経細胞及びグリア細胞の核の顕著な染色により明示されている。この溢出は、claudin−5を標的としたsiRNAの注射後72時間又は1週間における切片では明らかでなかった。siRNA注射後のあらゆる時点において又はコントロール群において脳実質組織には、FD−4の溢出が全く観察されなかった。これは、claudin−5のRNAi仲介標的化のサイズ選択的な特徴を強調している。目盛は約20μmである(図6A)。
【0131】
また、Hoechstの溢出は、12μmの網膜凍結切片において明らかであり、内顆粒層(INL)は、CLDN5 siRNAの送達後24時間において染色されたことを、外顆粒層(ONL)は、48時間において顕著に染色されたことを示している。全てのコントロール群において、Hoechst染色は、もっぱら網膜血管の核内に現れ、網膜内に外網状層(OPL)まで拡散している。目盛は約20μmである。(IPL)内網状層、(GCL)神経節細胞層(図6B)。
【0132】
図7Aは、血液脳関門の完全性を生体内で評価する注射後のMRIスキャンの結果を示している。磁気共鳴画像法(MRI)造影剤Gd−DTPAを用いて、claudin−5転写物のアブレーション後のマウスにおけるBBB完全性を、コントロール群−非注射コントロール、BPS注射コントロール及び非標準化(ロデプシン)siRNA注射コントールのマウスと比較して確認した。同図の左側の画像は、Gd−DTPAの注射前のマウス脳の映像であり、右側の画像はGd−DTPAの注射後のマウス脳の映像である。これらの画像は、冠状断像的に撮影され、脳の腹面から背面(下側の画像)に向けて移動し、その間の画像は、海馬領域及び皮質領域内の映像を示している。claudin−5 siRNAの注射後24時間及び48時間において、Gd−DTPAがBBBを横切り、脳内に沈着したことが観察された。また、目では動物のコントロール群と比較したとき、強いコントラストが48時間の時点で観察されたが、他の時点ではそうではなかった。Gd−DTPA(742Da)の実質内への最も大きな浸透及び沈着は、claudin−5を標的としたsiRNA注射後24時間及び48時間において発生した。(全てのMRIスキャンは最低で2回繰り返した)。この造影剤の浸透は、コントロール群のマウスには存在せず、claudin−5を標的としたsiRNAの注射後72時間又は1週間におけるマウスにも存在しなかった。
【0133】
図7Bは、claudin−5を標的としたsiRNAの全身投与後のマウス脳におけるMRI画像の濃度分析の結果を示している。各時点において及び各処置について、小脳、海馬及び皮質の選択した領域におけるMRIスキャンの濃度分析は結合され、図7Bにおいて棒グラフとして表されている。これらの領域には、コントロール群と比較したとき、claudin−5 siRNAの注射後24時間(**P<0.05)及び48時間(**P<0.05)においてコントラストが大きく増加した。
【0134】
図7Cは、定量的なMRI画像の結果を示している。図7Cの画像は、以下を表している。即ち赤の端部はマウスのMRIスキャンにおける各ピクセルについて決定される、線形回帰の傾斜の変化が非常に小さいことを示している。緑色の領域は、Gd−DTPA沈着の速度に少し変化があることを示し、かつ青色の領域は大きな変化があることを表している。図7Cにおける定量的画像の下側のグラフは、Gd−DTPA注射後の28分間に亘る左心室における強度の変化を示している。同グラフのデータは、X軸上の分単位の時間(X軸上の1単位は、128秒の長さ)に対する信号強度の自然対数(ln)(Y軸)として描いた。赤線は、非標準化コントロールsiRNA注射マウスを表し、黄線はclaudin−5を標的としたsiRNAの注射後24時間の時点を表し、緑線はclaudin−5 siRNAの注射後48時間の時点を表している。細線=14の時点における強度の生データ、太線=各時点について数学的に計算した線形回帰、破線=カイ2重評価法を用いた線形回帰の標準誤差。
【0135】
図8は、claudin−5タンパク質のアブレーション後のマウスへの20mg/kgのTRWの投与の結果を示している。このグラフは、非標的化siRNAの尾静脈注射後48時間マウスとclaudin−5を標的としたsiRNAの注射後48時間のマウスにおける20mg/kgのTRH投与時に観察された移動度の顕著な変化を描いている。BBBが弱められたとき、claudin−5を標的としたsiRNAの送達後48時間におけるTRW注射後の行動出力は、非標準化コントロールマウスにおいて観察されたそれ(**P=0.0041)よりも5倍以上長い時間維持される移動度の有意な停止で現れた。
【0136】
図9は、肝臓結切片における内皮細胞の形態学を示している。マウス肝臓の12μm凍結切片を、claudin−5を標的としたsiRNAの注射後にかつ適当なコントロール群を用いて準備した。前記切片における茶色/紅バラ色の発色性染色は、肝臓微小血管及び特にこの微小血管を覆う内皮細胞において結合するGriffonia simplicifoliaイソレクチンを表している。全ての切片及び全ての処置において、前記肝臓の微小血管は類似しかつ崩壊していないことが表れている。各切片はヘマトキシリンで対比染色した。
【0137】
図10は、肺の凍結切片における上皮細胞形態学を示している。マウス肺の凍結切片はHRP標識Griffonia simplicifolia-イソレクチンB4で染色した。肺組織を微小血管が広く覆っていることは明確であるが、これら血管の形態学は、全ての実験群においてかつ注射後の全ての時間において変わらないままである。切片は、ヘマキトシリン対比染色した。
【0138】
図11は腎臓凍結切片における内皮細胞の形態学を示している。マウス腎臓凍結切片は、siRNAの注射後に、かつ適当なコントロール群を用いて準備し、次にHRP標識Griffonia
simplicifolia-イソレクチンB4で染色した。茶色/紅バラ色の染色が、全ての処置においてかつsiRNA注射後の全ての時点において無傷の腎臓微小血管を示している。切片は、ヘマトキシリンで対比染色した。
【0139】
図12は、心臓凍結切片における内皮細胞の形態学を示している。マウス心臓をsiRNAの送達後24、48、72時間及び1週間で解剖し、かつ適当なコントロールを用いた。12μm切片を準備し、かつGriffonia
simplicifolia-イソレクチンB4で染色したのち、心臓関連微小血管は、全ての時点でかつ全てのsiRNA処置について類似の形態学を示した。切片はヘマトキシリンで対比染色した。
【0140】
図13は、脳凍結切片におけるoccludin発現の免疫組織化学分析を示している。脳の微小血管におけるoccludin発現及び局所化の免疫組織化学分析は、全てのマウスの微小血管系における全ての時点での連続的かつ独特の染色パターンを示した(赤;Alexa568=occludin;青−DAPI=核)。
【0141】
図14は、siRNA注射後の網膜におけるclaudin−5抑制の結果を示している。網膜タンパク質リゼイトにおけるclaudin−5発現のウェスタンブロット分析は、claudin−5に対するsiRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射後48時間における発現の減少を示した。発現のレベルは、非注射PBS注射及び非標準化siRNA注射のマウスと同様のレベルに戻ることが観察された。
【0142】
図15は、網膜のフラットマウントにおけるclaudin−5発現の結果を示している。非標的化siRNAを受けるマウス及びclaudin−5 siRNA注射後24、48及び72時間におけるマウスからの網膜フラットマウントにおけるclaudin−5発現の免疫組織化学分析は、網膜微小血管を覆う内皮細胞の周辺部におけるclaudin−5の局所化の減少を示した。このclaudin−5の発現の減少は網膜微小血管透過率の増加を伴った。
【0143】
図16は、iBRBを横切るGd−DTPA拡散のMRI分析の結果を示している。MRI分析のコントラストを増強したのち、claudin−5を標的としたsiRNAの注射後48時間のマウスにおいてiBRBが弱められることが明らかである。これは、Gd−DTPAが血管構造から血管外腔に通過したことから、目の硝子体内における影像コントラストの増加として説明される。
【0144】
図17は、Hoechst33352(562Da)でのマウスの灌流後の網膜フラットマウントの結果を示している。Hoechst33352でのマウスの灌流後に、網膜を切り分けてフラットマウントした。Hoechst33352は、claudin−5を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射後24時間及び48時間におけるマウスの網膜において、非注射のマウス、PBSのみを受けたマウス又は非標的化siRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射を受けたマウスと比較したとき、血管外核を染色したことが示された。
【0145】
図18は、IMPDH−/−マウスにおけるGTP注射後のERG結果を示している。野生C−57マウスにおける杆体応答が、左目及び右目双方において793uVであることが観察された。生後11カ月IMPDH−/−では、しかしながら、杆体応答は、右目及び左目それぞれにおいて50.8uV及び2.48uVであることが観察された。しかしながら、claudin−5の抑制及び次のERGを行う時点でのGTPの注射後に、杆体の記録は、右目及び左目についてそれぞれ193uV及び121uVのb波を示し、大きく増加することを示した。この杆体応答における増加は、claudin−5の抑制及びGTPの注射後の更に3つのIMPDH−/−マウスにおいて観察された。
【0146】
図19は、occludin siRNAのハイドロダイナミック尾静脈送達後のoccludin発現のウェスタンブロット分析の結果を示している。occludinの発現のレベルは、occludin siRNA(4)の注射後24時間にoccludin siRNA(2)よりも少ない程度まで減少することが示された。しかしながら、occludin siRNA(1)及びoccludin siRNA(2)の注射後48時間では、occludin発現のレベルが、非標的化siRNAの注射を受けたマウスと比較して大きく減少した。
【0147】
図20は、occludin siRNAのハイドロダイナミックデリバリー後のoccludin免疫組織化学の結果を示している。脳微小血管系におけるoccludinの連続的な染色パターンは、occludin siRNAの注射後24時間に崩壊することが観察された。この不連続な染色パターンはまた、occludin siRNA(1)及び(2)についても48時間の時点で明らかであった。しかしながら、occludin siRNA(3)及び(4)の注射後48時間の染色パターンは、非標的化コントロールにおいて観察されたそれと同様のレベルに戻っていた。
【0148】
図21は、occludinの抑制後のアルブミン免疫組織化学の結果を示している。脳ビブラトーム切片におけるアルブミンの免疫組織化学分析は、(3)及び(4)の番号を付したsiRNAの注射後24時間における血管外アルブミンを示した。これは、siRNA注射後24時間において70kDaまでの分子のBBBの通過を可能にする程度に細胞間通路が弱められていることを示唆している。Hoechstの灌流による青色の染色は、BBBが562Daの分子に対して弱められた証拠を示している。
【0149】
図22は、occludinの抑制後の脳ビブラトーム切片における免疫グロブリン染色の結果を示している。occludinの抑制後のマウス免疫グロブリンのためのマウス脳切片の染色は、IgGの脳内への通過が全くないことを示した。マウスIgGは約150000Daの分子量を有し、occludinを抑制したときも以前として脳から排除されていることが明らかである。
【0150】
図23は、claudin−1 siRNAのハイドロダイナミック尾静脈デリバリー後のclaudin−1発現のウェスタンブロット分析の結果を示している。claudin−1を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック尾静脈デリバリー後、注射後24時間において、claudin−1のレベルが、siRNA(2)及び(4)を用いたときに減少したことが観察された。この抑制は、注射後48時間の時点におけるclaudin−1 siRNA(4)においてのみ明らかであり、claudin−1 siRNA(1)については24時間の時点において明確でないにも拘わらず、この特定のsiRNAが注射後48時間にclaudin−1発現を大きく減少させた。
【0151】
図24は、claudin−1 siRNAのハイドロダイナミック尾静脈デリバリー後24時間及び48時間におけるHoechst(562Da)及びFD−4(4400Da)の灌流の結果を示している。claudin−1を標的としたある範囲のsiRNAの送達後、Hoechst及びFD−4の混合物が、マウス内で灌流し、脳のビブラトーム切片を準備した。使用した全てのclaudin−1 siRNAにおいて、周囲の神経細胞が、同じ時点における非標的化コントロールマウスと比較したとき、明らかに青色の蛍光を発していたことから、脳の微小血管からのHoechstの拡散の証拠があったことは明らかである。全ての場合において、FD−4は、血管内に残ることが観察された。
【0152】
図25はハツカネズミclaudin−5 mRNAにおいて実験で使用した1種のclaudin−5 siRNAの位置(SEQ ID No.2に対応するsiRNA anti−sense sequence−5’−AGACCCAGAAUUUCCAACGUU−3’)を示している。ハツカネズミclaudin−5 mRNAにおけるこのsiRNAの標的配列は、3’−AACGTTGGAAATTCTGGGTCT−5’である。
【0153】
図26は、claudin−5を標的としたsiRNAのデリバリー後48時間におけるマウス脳の海馬領域のT1強調MRI画像を示しており、Gd−DTPAが脳微小血管から溢出している脳内のコントラストが強調して明確に示されている。Gd−DTPAは742ダルトンの分子量を有し、その脳内への透過は、siRNAの送達後24時間及び48時間においてのみ観察された。
【0154】
図27は、claudin−5を標的としたsiRNAの大容量尾静脈注射後24時間及び48時間におけるマウスの脳内における血流量及び血液量に関係するMRI情報を示している。このデータによって、2つの事柄に関する情報、即ち平均通過時間(MTT)及び毛細血管通過時間(CTT)が得られる。MTTは、ラベリングしたスピンがラベリング面(頸動脈の画像スライスから1cmまで)から画像スライスまで移動するのに要する時間を表している。
【0155】
図28は、試験した各実験群について実験データに適合させた脳血流量及び脳血液量の理論的モデルを示している。これらは、各グループについて殆ど同じであり、図27に示した棒グラフの結果に一致している。
【0156】
図29は、B値(X軸)とその上にプロットしたMRI信号強度(Y軸)を示しており、非標的化siRNA又はclaudin−5を標的としたsiRNAの注射後24時間及び48時間におけるマウスの脳内の水分拡散の速度に変化がないこと示している。この脳から血液への水分の拡散が一定の速度であることは、一次的なBBBの開放それ自体がマウス脳内における水分の拡散になんら強い影響を与えていないことを示唆している。
【0157】
図30は、claudin−12を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射後の結果を示している。claudin−12の染色パターンは、非標的化コントロールsiRNA注射後48時間における脳微小血管系に関係していることが観察された。しかしながら、claudin−12を標的としたsiRNAの注射後48時間において、脳の微小血管における発現のレベルは、試験した両方のsiRNA(即ち、CLDN12 siRNA(3)及びCLDN12 siRNA(4))において減少することを示した。
【0158】
図31は、非標的化siRNA又はclaudin−12を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射後の結果を示している。マウスは、左心室を通して、FITC−デキストラン−4及びHoechst33342(562Da)を含む溶液を灌流させた。claudin−12を標的としたsiRNAの注射後に、血管外の核の染色により明示されるように、微小血管系からHoechstの溢出があったことが観察された。FT−4は、非標的化siRNA及びclaudin−12を標的としたsiRNAの注射後の双方において微小血管内に観察された。
【実施例】
【0159】
実施例1
claudin−5を標的としたsiRNAの全身ハイドロダイナミック微小脈デリバリーを用いたC57/BL−6マウスの血液脳関門におけるclaudin−5発現の生体内抑制
材料
claudin−5を標的としたsiRNA設計のWebベースのプロトコル
既知のcDNA配列の保存領域を標的としたsiRNAを選択した。これを行うため、マウスからのcDNA配列は、Reynolds他(2004)により概略が記述されている基準から元々引き出された最新のウェブベースのプロトコル(Dharmacon, Ambion, Genescript)を条件としてclaudin−5遺伝子及び完全な相同性を有する領域について整合させた。この検討において使用したclaudin−5 siRNAの配列は以下の通りであった。
【0160】
【化5】

【0161】
ヒトロドプシンを標的とした非標的化コントロールsiRNAを、ロドプシンが網膜の光受容体細胞においてのみ、かつ脳の松果腺において低レベルで発現する(O'Reilly、M他、2007)ことから、非標的化コントロールとして用いた。
【0162】
【化6】

【0163】
プロトコル
大容量のハイドロダイナミック注射によるマウス(murine)BBBへのsiRNAの生体内送達及びそれに続くRNA並びにタンパク質分析
高速高圧大容量尾静脈注射を行った(Kiang他、2005)。体重20〜30gの野生C57/Bl6マウスを、60ml容量のプラスチック管内に個々に拘束した。突出する尾を60Wのランプで注射前に5分間温め、尾静脈を下側からの照明で明確に見えるようにした。20μgの標的化siRNA、又はPBSで体重のg量での10%のml量での容積に調整した非標的化siRNA若しくはPBS単体を、26ゲージ(26G 3/8)の針を用いて1ml/秒の速度で尾静脈に注射した。24、48、72時間及び1週間後、脳を液体窒素中で微粉末に粉砕し、かつ次に62.5mMのトリス(Tris)、2%SDS、10mMのジチオトレイトール、10μlのプロテアーゼ阻害剤カクテル/100mlを含むライシスバッファー(Sigma Aldrich、アイルランド)を用いることにより、タンパク質を全脳組織から分離した。ホモジネートを10,000gで20分間4℃で遠心分離し、claudin−5分析のために上清を除去した。
【0164】
簡単に言えば、タンパク質サンプルを12%SDS−PAGEゲル上で分離し、ウェット式エレクトロブロッティング装置を用いてニトロセルロース膜に一晩転写した。タンパク質の転写の効率は、Ponceau-S溶液(Sigma Aldrich、アイルランド)を用いて決定した。非特異的結合部位は、前記膜を室温でトリス干渉生理食塩水(TBS)(トリス0.05M、NaCl150mM、pH7.5)中、5%脱脂粉乳により2時間インキュベートすることによってブロックした。膜をTBSで短時間洗浄し、かつポリクローナル・ラビット抗claudin−5(Zymed Laboratories、サンフランシスコ、CA)(1:500)又はポリクローナル・ラビット抗β−アクチン(Abcam、ケンブリッジ、UK)(1:1000)によりインキュベートした。抗体を膜で一晩4℃でインキュベートした。膜をTBSで洗浄し、西洋わさびフェルオキシラーゼ(HRP)共役を有する2次抗ラビット(lgG)抗体により3時間室温でインキュベートした。増強化学ルミネセンス(ECL)を用いて免疫複合体を検出した。
【0165】
siRNAの送達後の同じ時点で、トリゾール(インビトロジェン)を用いて全RNAを脳から分離した。次に、RNAをRNase-free DNase(Promega、マジソン、WI、米国)で処理し、かつ次にクロロフォルム抽出し、イソプロパノール沈澱させ、RNAグレードのエタノール75%で洗浄し、かつRNase-フリー水100μlに再懸濁させた。
【0166】
リアルタイムRT−PCR分析
RNAを、Quantitect Sybr
Green Kitを用いて、製造者(Qiagen-Xeragon)が概略説明するように、LightCycler(Roche Diagnostics、ルイス、英国)上で以下の条件:50℃20分間;95℃15分間;94℃15秒間、57℃20秒間、72℃10秒間の38サイクルで、リアルタイムRT−PCRにより分析した。
【0167】
増幅した配列のプライマー(Sigma-Genosys、ケンブリッジ、英国)は次のとおりであった。
【0168】
【化7】

【0169】
cDNAフラグメントをclaudin−5及びβ−アクチンから、各RNAサンプルについて少なくとも4回増幅した。結果は、同様に標準化した適当な対照実験から得られた結果の割合として表した。非標的化コントロールsiRNAと対比した逆数の値により、claudin−5発現の抑制の割合が得られた。平均値、標準偏差及びpooled t検定は、GraphPad Prism(登録商標)を用いて計算した。差はP<0.05において統計学的に有意と考えられる。
【0170】
分析のための共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)を用いたclaudin−5の間接的免疫染色
脳凍結切片を、PBS中5%正常ヤギ血清で20分間室温でブロックした。1次抗体(ラビット抗claudin−5、Zymed、カルフォルニア)を切片上で一晩4℃でインキュベートした。このインキュベーション後、切片をPBS中で3度洗浄し、かつ次に5%NGSで室温で再びブロックした。ラビットIgG−Cy3 2次抗体を前記切片で2時間37℃でインキュベートし、その後PBSで3回洗浄した。全部の切片をDAPIにより原液1mg/ml溶液の1:5000の希釈率で30秒間対比染色した。染色した切片の分析はOlympus FluoView TM FV1000共焦点顕微鏡により行った。
【0171】
ビオチン化トレーサー分子の灌流によるBBB完全性の評価
claudin−5をエンコードする転写物のRNAi仲介アブレーション後、トレーサー分子を用いて、BBBのTJが影響を受けた範囲を決定した。ビオチン化試薬EZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotin(Pierce)(2mg/mlのEZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotin,443Daの体重1ml/g)、をclaudin−5 siRNAのハイドロダイナミックデリバリー後24、48、72時間及び1週間におけるマウスの左心室を介して5分間灌流させた。トレーサー分子による灌流後脳全体を切り分けてpH7.4の4%PFA中に一晩4℃で置き、かつ次にPBSで4×15分間洗浄した。スクロースによる凍結保護の後、凍結切片をクリオスタット(凍結切片作成機)で−20℃で切断し、蛍光プローブFITCに共役化したストレプトアビジンによりインキュベートした。これによって、脳の微小血管からの分子量443Daのビオチン化試薬の漏れの評価が可能となった。全切片を4’、6−ジアミジン−2−フェニルインドール−ジハイドロクロライド(DAPI;Sigma Aldrich、アイルランド)により原液1mg/ml溶液の1:5000の希釈率で30秒間対比染色し、かつ切片をOlympus FluoView TM FV1000共焦点顕微鏡を用いて可視化した。
【0172】
562ダルトン及び4400ダルトンの分子に対するBBB/BRB透過率の評価
562ダルトンの分子に対する脳及び網膜微小血管の透過率を測定するために、claudin−5 siRNAのハイドロダイナミックデリバリー後24、48、72時間及び1週間において、100μg/mlのHoechst染料H33342(Sigma Aldrich、アイルランド)及び1mg/mlのFITC−デキストラン−4(FD−4)を含むPBSの体重当たり500μl/gを用いてマウスを左心室を通して灌流させた。灌流後、脳全体を切り分けかつpH7.4の4%PFA中に一晩4℃で置き、かつ次にPBSで4×15分間洗浄した。次に、脳を4%アガロース中に包埋し、Vibratome(登録商標)を用いて50μm切片を切断した。眼全体を取り除きかつ4%PFAで固定し、PBSによる洗浄及びショ糖勾配を用いた冷凍保護の後、クリオスタットを用いて12μm冷凍切片を切断した。Olympus FluoView TM FV1000共焦点顕微鏡による網膜冷凍切片の分析後、アドビ(登録商標)Photoshop(登録商標)を用いて画像を正しく配向した。
【0173】
磁気共鳴イメ−ジング
siRNAの注射に続いてかつ適当なコントロールを用いて、アクティブ磁気シールドUSR Magnetを有する小げっ歯類専用Bruker BioSpec70/30(即ち、7T、ボア径30cm)を用いて、BBB完全性をMRIにより生体内で評価した。マウスをイソフルオランで麻酔し、生理学的にモニターし(ECG、呼吸及び温度)、動物体温を37℃に維持するためのシステムを組み込んだMRI互換型支持クレードル上に置いた。次に、前記クレードルをMRIスキャナー内に配置した。正確な配置は、最初の高速パイロット画像を得ることによって確保され、次にこれを用いて正しいジオメトリーが後の全てのMRI実験においてスキャンされる。MRIスキャナー内に挿入すると、脳の高解像度解剖画像が得られた(平面100μm及び交差面500μm空間分解能)。次にBBB完全性を、尾静脈を介して投与したGd−DTPA(ガドリニウム・ジエチレン−トリアミン五酢酸)の0.1mM/L/kgボーラスの注射前後において高解像度T1強調MR画像に可視化した。
【0174】
IMPDH−/−マウスの網膜電図検査分析及びGTP注射
claudin−5を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック注射を受けたIMPDH−/−マウスを一晩暗順応させ、薄暗い赤ランプの下で網膜電図検査を準備した。1%シクロペントラート(cyclopentalate)及び2.5%フェニレフリンのインストールにより瞳孔散大を行った。ケタミン(体重15g当たり2.08mg)及びキシラジン(体重15g当たり0.21mg)の腹腔内注射により動物を麻酔させた。動物が一端麻酔されると、GTPを腹腔内に注射した。ERGは、麻酔薬の投与後10分に開始した。ガンツフェルトボウル内で前記マウスに標準規格の光のフラッシュ照射を行って、網膜の均一な照明を確実にした。ERG応答は、Vidisic(Dr Mann Pharma、ドイツ国)を導電剤としてかつ角膜水化を維持するために用いて金線電極(Roland
Consulting Gmbh)により両眼から同時に記録した。前記眼は、眼球の背後に配置した小さいプラスチックバンドにより検査の間中前方下垂した位置に保持した。基準電極及び接地電極を皮下に、側頭眼角から約1mm及び尾の前方へそれぞれ配置した。体温は、直腸温度探針により制御された加温装置を用いて37℃に維持した。応答は、RetiScan RetiPort電子生理学装置(Roland Consulting
Gmbh)を用いて分析した。前記プロトコールは、人間の網膜電図検査に関してInternational
Clinical Standards Committeeが承認したものに基づいたものであった。
【0175】
フラットマウントした網膜の免疫組織化学分析
眼全体を4%パラホルムアルデヒド中で4時間固定し、その後リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。網膜を眼から切り分け、かつ0.5%トリトンX−100及び5%正常ヤギ血清(NGS)を含むPBSを用いたインキュベーションによりブロック/透過化した。次に網膜を、1%NGS及び希釈率1:50のラビット抗claudin−5抗体(Zymed)を含む透過化バッファー中で一晩インキュベートした。2時間に亘ってPBSで10回洗浄した後、蛍光プローブCy−3と共役化したラビットIgG抗体で網膜を6時間室温でインキュベートした。2時間に亘ってPBSで10回洗浄した後、網膜をフラットマウントし、かつ共焦点顕微鏡を用いて観察した。
【0176】
主要器官の内皮細胞形態学
claudin-5を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック注射後、冷凍切片を心臓、肺及び腎臓の主要器官全部について準備した。器官の内皮細胞を染色するために、切片をHRP標識Griffonia simplicifoliaイソレクチンB4により一晩4℃でインキュベートした。
【0177】
結果
CLDN5 siRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射がclaudin-5発現を減衰する
claudin-5 siRNA20μmの送達後、マウスを24,48,72時間及び1週間そのままに置き、その後脳を切り開いてタンパク質及びRNAを上述したように分離した。24時間後、claudin-5の発現は、コントロール(非注射)、PBS注射コントロール及び非標的化(ロドプシン)コントロールと比較したとき、著しく減少した。CLDN5
siRNAを注射しかつその後48時間置いたマウスも同様に、使用したコントロールと比較したとき、claudin-5発現の有意な減少を示した。注射後72時間では、この観察されたclaudin-5発現の減少がそれより明確でなく、発現のレベルがコントロール群で観察されたそれと同様に現れた。claudin-5
siRNAの注射後1週間では、claudin-5発現のレベルが動物のコントロール群のそれと同様であった。全ブロットは、少なくとも3つの別々の実験を表したものである(図1A)。
【0178】
claudin-5 mRNAのレベルは、RT−PCR分析により測定し、claudin-5を標的としたsiRNAの注射後24時間に有意な減少を示した。この非常に有意な減少は後の時点で観察されず、claudin-5
mRNAのレベルが非標的化コントロールsiRNAに関して95%まで抑制された(図1B)。注射後24,48,72時間及び1週間におけるclaudin-5
mRNAのレベルは、前記コントロール群において観察されたそれと同様であった(図1B)。
【0179】
claudin-5発現及び局所化は脳毛細血管内皮細胞においてclaudin-5
siRNAの注射後に変容する
脳毛細血管内皮細胞のTJにおけるclaudin-5の発現レベルは、claudin-5発現の抑制後に劇的に変化した。図2に示すように、脳の微小血管におけるclaudin-5発現及び局所化の免疫組織化学分析は、注射後の全時点で非注射、PBS注射、及び非標的化コントロール(ロドプシン)マウスのBBBの内皮細胞の周辺部における線形かつ顕著な染色パターンを示した。
【0180】
claudin-5発現は、非注射、PBS注射、及び非標的化siRNA(ロドプシン)注射のコントロール群の微小血管を覆う内皮細胞の周辺部において線形かつ強かった。しかしながら、claudin-5
siRNAの注射後24時間では、この染色パターンがそれほど強くなく現れ、かつ注射後48時間までに、脳全体に亘って脳毛細血管内皮細胞の周辺部におけるclaudin-5発現の存在に、非注射、PBS注射、又は非標的化siRNA注射のマウスと比較したとき、著しい低下があった。注射後72時間に、claudin-5発現は以前として減衰していたが、線形の染色パターンは凍結切片において明らかであった(図2)。
【0181】
これらの結果は、少なくとも5つの別個の実験の典型である。
【0182】
claudin-5
siRNAがBBBにおける透過性を増進する
図5は、ビオチン化トレーサー分子の拡散による血液脳関門の評価結果を示している。EZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinを、実験条件に晒した後にマウスの左心室を介して灌流させた。蛍光プローブFITCに共役化したストレプトアビジンによる凍結切片のインキュベーションで、BBBの完全性をコントロール群(非注射、PBS注射及び非標的化siRNA)の微小血管内における緑色蛍光として観察した。しかしながら、claudin-5を標的としたsiRNAの注射後24時間に、検出した蛍光が、同じ時点における前記コントロール群と対照して、拡散しかつ微小血管の外側にあることを観察した。claudin-5
siRNAの注射後48時間に、ビオチン化分子の拡散は脳実質において豊富であったが、この透過性はsiRNAの送達後72時間に、同じ時点の前記コントロール群と比較したとき、以前として明確であった。claudin-5を標的としたsiRNAの注射後1週間のマウスにおいて、第一アミン反応性ビオチン化試薬が5分間の拡散後に脳実質に沈着しなかったことを観察した。EZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinが脳の微小血管に残っていることが無傷のBBBによって観察された。
【0183】
全トレーサー実験をマウスにおいて少なくとも5回繰り返した。
【0184】
要約すれば、claudin-5を標的としたsiRNAを脳毛細血管内皮細胞に送達すると、ビオチン化小分子(443Da)に対する透過性の上昇が24時間後に観察された。このBBBを横切る分子の通過が注射後48時間に非常に顕著になり、多量のEZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinが脳の実質組織に浸透した。このBBBを横切る分子の通過は、claudin-5
siRNAの注射後72時間において以前として明確であったが、注射後1週間にBBB弱体化の証拠は無く、EZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinが脳の微小血管内に残っていることを示した(図5)。
【0185】
図6は、ビオチン化トレーサー分子の拡散による血液脳関門の完全性の評価の結果を高倍率で示している。claudin-5を標的としたsiRNAの注射後24時間における第一アミン反応性ビオチン化試薬(443Da)の5分間の拡散で、非注射、PBS注射及び非標的化siRNA注射のマウスと比較したとき、前記分子の脳の実質内への浸透が生じたことを観察した。claudin-5
siRNAの注射後1週間に、EZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinが脳の微小血管内に残って、実質内に沈着していないことを観察した。
【0186】
要約すれば、claudin-5 siRNAの注射後1週間に、BBBが、siRNAの注射後48時間には非常に明確に示されたEZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinの通過を不可能していることは、海馬の歯状回領域における高倍率での脳凍結切片の分析(識別を簡単にするため)に基づいて、明らかであった(図6)。
【0187】
claudin-5
siRNAが652ダルトンの分子に対するBBB及びBRBにおける透過性の増進を生じる
興味深いことに、核染料Hoechst
H33342(562ダルトン)及びFITC標的デキストランFD−4(4400ダルトン)の拡散で、Hoechstの溢出がclaudin-5を標的としたsiRNAの送達後48時間までは観察されたが、この溢出が、EZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinとは異なり、siRNA送達後72時間には明確でなく、562ダルトンの分子に対するバリアー完全性の回復を示唆し、BBBの開放が時間依存型でサイズ選択的であることを意味している。Hoechst H33342染料の脳微小血管からの溢出は、実質における周辺の神経細胞及びグリア細胞の核染色によって証明された。FD−4は脳血管構造の微小血管内に残り、siRNA注射後の全時点で溢出は明らかでなかった(図6B)。更に、網膜冷凍切片の分析で、本願発明者らは、Hoechst H33342が網膜微小血管から溢出し、claudin-5を標的としたsiRNAの送達後48時間まで網膜の内網状層(INL)及び外網状層(OPL)を染色していることを観察した(図6A)。
【0188】
MRI分析はclaudin-5 siRNAの注射後48時間にBBB完全性の減損を示した
図7Aは、血液脳関門の完全性を評価する注射後のMRIスキャンの結果を示している。磁気共鳴イメージング(MRI)造影剤Gd−DTPAを用いて、claudin-5転写物のアブレーション後のマウスのBBB完全性を確認した。claudin-5
siRNAの注射後48時間に、Gd−DTPAがBBBを通過しかつ脳の実質組織に沈着したことを観察した。前記図面の左側の画像はGd−DTPAの注射前のマウス脳の造影コントラストであり、右側の画像はGd−DTPAの注射後のマウス脳の造影コントラストである。前記画像は、脳の腹面から背面に移動して冠状断像に撮影したもので、claudin-5を標的としたsiRNAの注射後48時間におけるGd−DTPA(742Da)の実質への有意な沈着を表している。
【0189】
この造影剤の浸透は、非注射、PBS注射又は非標的化siRNA注射のマウスでは存在せず、claudin-5を標的としたsiRNAの注射後72時間又は1週間のマウスにも存在しなかった。
【0190】
要約すれば、Gd−DTPAの脳実質組織内への浸透は、非注射、PBS注射及び非標的化siRNA注射のマウスと比較したとき、広範で強い造影コントラストとして観察され、サイズで742Daの分子の通過を可能にする程度にBBBが弱体化していることを示していた。claudin-5
siRNAの注射後72時間及び1週間のマウスについて行ったMRIスキャンは、実質組織にGd−DTPAの沈着が無い無傷のバリアーを示し、このBBBの崩壊が一時的な事象であることを強調していた(図7A)。
【0191】
結論
実施例1に示したように、脳微小血管系の内皮細胞へのsiRNAの送達のハイドロダイナミック方法は、claudin-5発現を抑制するのに非常に有効である(図1A及び図1B)。この送達方法は、ほとんど害を与えずかつマウスに十分な耐性があった。ウェスタン法のデータは、claudin-5発現抑制がsiRNAの送達後48時間に最大となり、claudin-5の発現レベルが注射後72時間から1週間の間に正常に戻ることを示した。このように現在は、claudin-5を標的としたsiRNAを用いたBBBの可逆的なRNAi仲介開放が可能である。
【0192】
次に、BBBが、claudin-5ノックアウトマウスと同様に、claudin-5発現を抑制したときに小分子に対して弱体化されたかどうかを測定した。脳微小血管系の内皮細胞の周辺部において、claudin-5のレベルは、使用した全コントロール群の免疫組織化学分析で強くかつ「線形状」であることを示した。しかしながら、claudin-5を標的としたとき、この線形に現れた発現が不連続かつばらばらになり、claudin-5
siRNAの注射後48時間において劇的に低下するように現れた(図2)。更に、ビオチン化EZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinによる5分間のマウスの灌流で、バリアー機能の有意な弱体化が、claudin-5を標的としたsiRNAの送達後72時間までは観察された。EZ-Link TM Sulfo-NHS-Biotinは、分子量が443Daであり、コントロール群で観察されたようにTJが無傷である場合、通常はBBBを通過しない。興味深いことに、この分子は、claudin-5
siRNAの注射後1週間にはもはやBBBを通過せず、このBBB機能の弱体化が、リアルタイムPCR及びウェスタン法の分析に矛盾することなく、一時的で可逆的なプロセスであることを示唆している。
【0193】
この研究の間、これらのマウスに顕著な又は目に付く行動の変化は無かったが、脳のビブラトーム切片及び凍結切片双方の肉眼組織学的検査は、全ての実験条件下で正常に現れた。
【0194】
claudin-5ノックアウトマウスと同様に、前記MRI造影剤Gd−DTPAもまた、siRNA注射後にBBBを横切りかつ脳の実質組織に沈着することが分かった。実際、非常に大量のGd−DTPAがclaudin-5
siRNAの送達後48時間に脳に沈着した。この742Daの分子に対するBBBの崩壊は、claudin-5を標的としたsiRNAの注射後72時間及び1週間においてGd−DTPAの沈着が全く現れなかったことから、一時的な事象であった。これらの結果の有意性は、一時的な事象であることと同様に、443Daの分子がsiRNAの送達後72時間にBBBを横断したのに対し、同じ時点で742Daの分子はそのようにできず(図7A)、562Daの分子はsiRNAの送達後24時間及び48時間にBBBを横断したが、4400Daの分子はそのようにできなかった(図6A及び図6B)ことが観察されたことで証明されるように、claudin-5の抑制がバリアーの透過性にサイズ選択的な変化を生じさせているように現れたことであった。
【0195】
siRNAが尾静脈を介して投与され、かつclaudin-5が肺及び心臓の微小血管の内皮細胞に発現するという事実を考慮すると、本願発明者らは、claudin-5を標的としたsiRNAが肝臓、肺、腎臓又は心臓の内皮細胞形態学に悪影響を与えるかどうか評価したいと考えた。これら器官のそれぞれの凍結切片を、claudin-5を標的としたsiRNAの注射後の全時点でかつ適当なコントロールを組み入れて準備した。切片を、無傷の内皮細胞に結合するHRP標識Griffonia simplicifoliaイソレクチンB4で染色し、内皮細胞形態学が、コントロール群と比較したとき、siRNAの注射後に全時点でかつ全部の主要器官で同様に現れた(図9〜図12)ことを示した。脳及び眼以外の器官におけるclaudin-5の役割が十分には特徴付けられていないが、それがこれら他の器官に関連したタイト結合のサイズ選択的な特性を維持する上で根本的なことではないように見えることに注意することが重要である。
【0196】
最後に、今ではBBB及びBRBの内皮細胞にsiRNA分子を全身送達することが可能である。TJタンパク質claudin-5を標的とした抑制が、バリアーの細胞間透過性を一時的かつサイズ選択的に増加させ、これが、さもなければ脳から排除されていたであろう分子の送達を可能にすることがてきる。
【0197】
実施例2:甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の血液脳関門(BBB)を横切ったclaudin-5抑制マウスへの送達
材料及び方法
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)(Sigma Aldirich、アイルランド)
TRHは、顕著な神経保護作用を有するものとして提案した。これはまた、ラットに投与したとき、「wet dog shake」(全身の身震い)という行動出力を引き起こす。しかしながら、TRHは、その不安定性及びその結果である短い作用の持続時間、並びにBBBを横切る透過が遅いことを含むいくつかの欠点を有する。
【0198】
TRHのclaudin-5抑制マウスへの送達
実施例1のプロトコルに従って、一時的にclaudin-5抑制したマウスを生産した。
【0199】
claudin-5を標的としたsiRNA又は非標的化siRNAの送達後48時間に、20mg/kgの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)を含む溶液200μlをclaudin-5抑制マウスに注射した。TRHを尾静脈に注射しかつ即座に、マウスの行動出力を、それらを透明なPerspex(商品名)箱内で撮影することによって評価した。
【0200】
結果及び結論
図8に示したように、claudin-1タンパク質のアブレーション後、C57/Bl6マウスがTRH20mg/kgの投与で動けない状態にある時間の長さの顕著な変化を観察した。
【0201】
この行動出力は、非標的化コントロールマウスにおいて観察された行動とは有意に異なり、BBBが弱まったときにTRHの送達が有意に増進されたことを明確に示唆した。
【0202】
これらの結果は、実施例1のプロトコルを用いてBBBを開放して、以前は可能でなかった成分のBBBへの送達を可能にできることを示している。これらの結果は、BBBが制御されたサイズ選択的な手法で可逆的かつ一時的に開いたとき、TRH(359.5Da)の送達が有意に増進したことを明確に示唆している。
【0203】
実施例3
claudin-1を標的としたsiRNAの全身ハイドロダイナミック尾静脈デリバリーを用いたC57/BL6マウスの血液脳関門におけるclaudin-1発現の生体内抑制
材料
claudin-1を標的としたsiRNA設計のWebベースのプロトコル
【0204】
【化8】

【0205】
方法
使用したプロトコルは、実施例1で使用したプロトコルと同一であった。
【0206】
結果及び結論
結果を図3A、図23及び図24に示す。
【0207】
この実施例は、claudin-1に向けたsiRNAがBBBにおける細胞間透過性を562ダルトンの分子に対して増加させるが、4400ダルトンの分子に対してはそうでないことを示している。claudin-1の抑制は、claudin-5が抑制されたときに観察されたそれと同様にしてBBBのサイズ選択的に開放させるように現れている。
【0208】
実施例4
claudin-5を標的としたsiRNAの全身ハイドロダイナミック尾静脈デリバリーを用いたC57/BL6マウスの血液脳関門におけるoccludin発現の生体内抑制
材料
occludinを標的としたsiRNA設計のWebベースのプロトコル
【0209】
【化9】

【0210】
方法
使用したプロトコルは、実施例1で使用したプロトコルと同一であった。
【0211】
結果及び結論
結果を図3B、図19、図20、図21及び図22に示す。
【0212】
この実施例は、occludinに向けたsiRNAが、70,000ダルトン超の分子に対して、これが大凡アルブミンの分子量であることから、BBBにおける細胞間透過性を増加させることを示している。しかしながら、BBBにおけるoccludinの抑制が、より大きなサイズ篩い分け限界を生み出す。アルブミンの沈着はoccludin siRNA3及び4の注射後24時間に発生したが、血液中の免疫グロブリン(IgG)の溢出は無かったことが観察された。IgGは、分子量が約120,000ダルトンである。
【0213】
材料
claudin-12を標的としたsiRNA設計のWebベースのプロトコル
【0214】
【化10】

【0215】
方法
使用したプロトコルは、実施例1で使用したプロトコルと同一であった。
【0216】
結果及び結論
claudin-12のレベルは、claudin-12を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射後に減少することを示した(図12)。claudin-12の染色パターンは、非標的化コントロールsiRNAの注射後48時間において脳微小血管系に関連していることが観察された。しかしながら、claudin-12を標的としたsiRNAの注射後48時間に、脳の微小血管における発現のレベルが、試験した両方のsiRNA(即ち、CLDN12
siRNA(3)及びCLDN12
siRNA(4))において減少することを示した。
【0217】
非標的化siRNA又はclaudin-12を標的としたsiRNAのハイドロダイナミック尾静脈注射後に、マウスは、左心室を通して、FITC−デキストラン−4及びHoechst33342(562Da)を含む溶液を灌流させた。claudin−12を標的としたsiRNAの注射後に、血管外の核の染色により明示されるように、微小血管系からHoechstの溢出があったことが観察された。FT−4は、非標的化siRNA及びclaudin−12を標的としたsiRNAの注射後の双方において微小血管内に観察された(図31)。
【0218】
実施例6
claudin-5を標的としたsiRNAの送達後48時間のGd−DTPA
材料及び方法
実施例1のプロトコルに従って、一時的にclaudin-5抑制したマウスを生産した。
【0219】
claudin-5を標的としたsiRNA又は非標的化siRNAの送達後48時間に、Gd−DTPAを含む溶液をclaudin-5抑制マウスに注射した。Gd−DTPAを尾静脈に注射して、Gd−DTPAがBBBを透過するかどうかを評価した。siRNAの注射後にかつ適当なコントロールを用いて、742ダルトンの分子に対するBBB完全性をMRIによって、アクティブ磁気シールドUSR
Magnetを有する小げっ歯類専用Bruker BioSpec70/30(即ち、7T、ボア径30cm)を用いて評価した。マウスをイソフルオランで麻酔し、生理学的にモニターし(ECG、呼吸及び温度)、動物体温を37℃に維持するためのシステムを組み込んだMRI互換型支持クレードル上に置いた。次に、前記クレードルをMRIスキャナー内に配置した。正確な配置は、最初の高速パイロット画像を得ることによって確保され、次にこれを用いて正しいジオメトリーが後の全てのMRI実験においてスキャンされる。MRIスキャナー内に挿入すると、脳の高解像度解剖画像が得られた(平面100μm及び交差面500μm空間分解能)。次にBBB完全性を、尾静脈を介して投与したGd−DTPA(ガドリニウム・ジエチレン−トリアミン五酢酸)の0.1mM/L/kgボーラスの注射前後において高解像度T1強調MR画像に可視化した。Gd−DTPAの注射後、3分T1強調スキャンの繰り返しを30分間に亘って行ったが、図示した画像は、この30分間の最後のスキャンの典型的なものを表している。小脳、海馬及び皮質の結合領域の全濃度測定結果の統計学的分析をANOVAを用いて行い、有意をP値≦0.05により示したが、結果は、図表と脳内のGd−DTPA沈着の速度を示す定量的画像との両方で表している。全部のMRIスキャンを各実験処置から2匹のマウスについて実行した。
【0220】
結果
図26は、claudin−5を標的としたsiRNAのデリバリー後48時間におけるマウス脳の海馬領域のT1強調MRI画像を示しており、Gd−DTPAが脳微小血管から溢出している脳内のコントラストが強調して明確に示されている。Gd−DTPAは742ダルトンの分子量を有し、その脳内への透過は、siRNAの送達後24時間及び48時間においてのみ観察された。
【0221】
図27は、claudin−5を標的としたsiRNAの大容量尾静脈注射後24時間及び48時間におけるマウスの脳内における血流量及び血液量に関係するMRI情報を示している。このデータによって、2つの事柄に関する情報、即ち平均通過時間(MTT)及び毛細血管通過時間(CTT)が得られる。MTTは、ラベリングしたスピンがラベリング面(頸動脈の画像スライスから1cmまで)から画像スライスまで移動するのに要する時間を表している。
【0222】
これは曲線の1次モーメント又は平均から計算される。曲線の二次モーメント(分散)から、ラベリングしたスピンが毛細血管床から組織への変換により画像スライス全体に分散されるのに要する時間であるCTTが得られる。群毎に8匹までの動物について、脳の主要な血管又は毛細血管内の血流に有意な差は見ていないが、これは、claudin-5
siRNAを脳の微小血管内皮細胞に送達するのに大容量の注射が必要なことを考えると、相当有望である。
【0223】
図28は、試験した各実験群について実験データに適合させた脳血流量及び脳血液量の理論的モデルを示している。これらは、各グループについて殆ど同じであり、図27に示した棒グラフの結果に一致している。
【0224】
結論
最後に、これらの結果は、脳の大きな血管又は微小血管系における血流量又は血液量の差を全く観察していないことを示しており、脳浮腫の場合には、claudin-5
siRNAが実際に、脳の外傷の部位における水分拡散の速度の増加を可能にできることを示唆している。
【0225】
実施例7
非標的化又はclaudin-5 siRNAを受け取った後24時間又は48時間のマウスの脳内における水分拡散
材料及び方法
実施例1のプロトコルに従って、一時的にclaudin-5抑制したマウスを生産した。
【0226】
claudin-5を標的としたsiRNA又は非標的化siRNAの送達後24時間及び48時間に、マウスをイソフルオランで麻酔し、生理学的にモニターし(ECG、呼吸及び温度)、動物体温を37℃に維持するためのシステムを組み込んだMRI互換型支持クレードル上に置いた。次に、前記クレードルをMRIスキャナー内に配置した。正確な配置は、最初の高速パイロット画像を得ることによって確保され、次にこれを用いて正しいジオメトリーが後の全てのMRI実験においてスキャンされる。MRIスキャナー内に挿入すると、脳の高解像度解剖画像が得られた(平面100μm及び交差面500μm空間分解能)。水分拡散のスキャンに引き続き着手した。広範なb値について画像を得るために、拡散勾配(Stejskal-Taner勾配)を有するスピンエコーEPI画像シーケンスのような標準の拡散イメージングシーケンスを用いた。このようにして、血管コンパートメント内及び脳実質組織内における技術の効果を比較することができる。全実験は、最大磁気勾配強度400mT/mの7T
Bruker小口径システムで行った。画像処理及びADCの計算は、IDLを用いて行った。
【0227】
結果
図29は、B値(X軸)とその上にプロットしたMRI信号強度(Y軸)を示しており、非標的化siRNA又はclaudin−5を標的としたsiRNAの注射後24時間及び48時間におけるマウスの脳内の水分拡散の速度に変化がないこと示している。この脳から血液への水分の拡散が一定の速度であることは、一次的なBBBの開放それ自体がマウス脳内における水分の拡散になんら強い影響を与えていないことを示唆している。
【0228】
最後に、図30に示す結果は、非標的化siRNA又はclaudin-5 siRNAを受け取った後24時間又は48時間のマウスの脳内における水分拡散の速度を示している。基本的に、これらの実験条件下でいずれのマウスも拡散に変化は無い。これは別の重要な観察結果であり、かつ実施例6のように、脳浮腫の場合には、claudin-5
siRNAが実際に、脳の外傷の部位における水分拡散の速度の増加を可能にできることをも示唆している。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における血液脳関門の細胞間通路を一時的、可逆的かつ制御されたサイズ選択的に開放するための方法において使用するための、タイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤。
【請求項2】
前記RNAi誘導剤の前記対象への送達からなり、かつ脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じて、理想的には15kDa未満の分子の脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞の透過を可能にする方法において使用するための請求項1に記載のタイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤。
【請求項3】
前記方法が好ましくは前記RNAi誘導剤の前記対象への全身送達を含み、好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA又は、その細胞内における存在がsiRNA又はshRNAの生産を生じるRNAi誘導ベクターである請求項1又は2に記載のRNAi誘導剤。
【請求項4】
治療での使用のために血液脳関門の細胞間通路を一時的、可逆的かつ制御されたサイズ選択的に開放するためにタイト結合タンパク質を標的とした、好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA又は、その細胞内における存在がsiRNA又はshRNAの生産を生じるRNAi誘導ベクターである請求項1又は2に記載のRNAi誘導剤。
【請求項5】
脳又は網膜の疾病又は疾患の治療のための薬剤の製造において、タイト結合タンパク質を標的とした、好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA又は、その細胞内における存在がsiRNA又はshRNAの生産を生じるRNAi誘導ベクターであるRNAi誘導剤の使用であって、
前記治療が、タイト結合タンパク質を標的とした前記RNAi誘導剤の送達後における血液脳関門の細胞間通路の一時的、可逆的かつ制御されたサイズ選択的な開放からなり、脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞における血液脳関門タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じて、好ましくは15kDa未満の、脳又は網膜の疾病又は疾患の治療に関する活性剤の透過及び送達を可能にするRNAi誘導剤の使用。
【請求項6】
タイト結合タンパク質を標的とした前記RNAi誘導剤が、一時的に血液脳関門を開いて、前記血液脳関門を横切る前記活性剤の送達を可能にし、かつ前記治療が前記活性剤及びRNAi誘導剤の同時投与又は連続投与からなる請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記活性剤が、神経機能を調節する薬剤、網膜機能を調節する薬剤、又は化学療法/抗腫瘍効果を有する薬剤である請求項5又は6に記載の使用。
【請求項8】
外傷性脳損傷又は脳卒中の治療のための薬剤の製造における、請求項5乃至7のいずれかに記載のタイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤の使用であって、
前記治療が、タイト結合タンパク質を標的とした前記RNAi誘導剤の全身送達からなり、脳毛細血管内皮細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じて、前記血液脳関門を横切る水分の透過及び自由拡散、頭蓋内圧の低下、及び/又は脳浮腫の減少を可能にするRNAi誘導剤の使用。
【請求項9】
高張食塩水又は糖液のような活性剤の連続又は同時投与を更に含む請求項8に記載の使用。
【請求項10】
神経変性疾患又は精神神経疾患の治療のための薬剤の製造における、請求項5乃至7のいずれかに記載のタイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤の使用であって、
前記治療が、タイト結合タンパク質を標的とした前記RNAi誘導剤の送達からなり、脳毛細血管内皮細胞における血液脳関門タイト結合調節ペプチド転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じて、好ましくは15kDa未満の、神経機能を調節する活性剤の脳毛細血管内皮細胞を横切る透過及び送達を可能にするRNAi誘導剤の使用。
【請求項11】
脳腫瘍の治療のための薬剤の製造における、請求項5乃至7のいずれかに記載のタイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤の使用であって、
前記治療が、タイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤の送達からなり、脳毛細血管内皮細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じて、好ましくは15kDa未満の、抗腫瘍剤又は化学療法剤の脳毛細血管内皮細胞を横切る透過及び送達を可能にするRNAi誘導剤の使用。
【請求項12】
網膜の疾病の治療のための薬剤の製造における、請求項5乃至7のいずれかに記載のタイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤の使用であって、
前記治療が、タイト結合タンパク質を標的としたRNAi誘導剤の送達からなり、血液脳関門及び/又は血液網膜関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じて、好ましくは15kDa未満の、網膜機能を調節する活性剤の網膜毛細血管内皮細胞及び脳毛細血管内皮細胞を横切る透過及び送達を可能にするRNAi誘導剤の使用。
【請求項13】
送達が全身送達により行われる請求項5乃至12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
高濃度の前記RNAi誘導剤、好ましくはsiRNAを前記対象に送達する請求項5乃至13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
全身送達がハイドロダイナミックデリバリー又は非ハイドロダイナミックデリバリーにより行われる請求項13又は14に記載の使用。
【請求項16】
前記RNAi誘導剤の送達のために、カチオン性ポリマー、修飾カチオン性ポリマー、ペプチド分子トランスポーター、脂質、リポゾーム、非カチオン性ポリマー及び/又はウイルスベクターを使用する請求項5乃至12のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
前記脳毛細血管内皮細胞及び/又は網膜内皮細胞を、1kDa未満、好ましくは800Da未満の分子が透過する請求項5乃至16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
RNAi仲介抑制が、RNAi誘導剤の送達後24時間から開始し、前記RNAi誘導剤の送達後72時間まで持続する請求項5乃至17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
前記タイト結合タンパク質が、膜貫通タンパク質及び/又はタイト結合関連分子から選択される請求項5乃至18のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
前記膜貫通タンパク質が接合部接着分子(JAM)である請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記タイト結合関連分子が、次のoccludin、claudin及び/又はzonula occludenの1種又は2種以上から選択される請求項19に記載の使用。
【請求項22】
前記claudinがclaudin−1乃至claudin−19及び/又はclaudin−21の1種又は2種以上から選択される請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記claudinがclaudin−1、claudin−5及び/又はclaudin−12から選択される請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記RNAi誘導剤が、siRNA、shRNA、その細胞内での存在がsiRNA又はshRNA又はmiRNAの生産を生じるRNAi誘導ベクターである請求項5乃至23のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
前記RNAi誘導剤がsiRNAである請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記siRNAがSEQ ID No.1及び2;3及び4;5及び6;7及び8;9及び10;11及び12;13及び14;15及び16;17及び18;19及び20;21及び22;24及び25;26及び27;28及び29;又は30及び31のいずれか1つから選択される請求項25に記載の使用。
【請求項27】
異なるTJタンパク質を標的とした1種又は2種以上のsiRNAを使用する請求項25又は26に記載の使用。
【請求項28】
a.血液脳関門の細胞間通路の一時的、可逆的かつ制御されたサイズ選択的な開放を生じるべく、タイト結合タンパク質を標的とした、好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA又は、その細胞内での存在がsiRNA又はshRNAの生産となるRNAi誘導ベクターであるRNAi誘導剤と、
b.特定された疾病又は疾患の治療のための活性剤と
からなる医薬組成物。
【請求項29】
全身送達、好ましくは全身ハイドロダイナミックデリバリーに適した請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記活性剤が、神経機能又は網膜機能を調節する薬剤、又は化学療法/抗腫瘍効果を有する薬剤である請求項28又は29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記活性剤が低分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム又はタンパク質、ポリペプチド又はペプチドである請求項28乃至30のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項32】
血液脳関門の細胞間通路を一時的、可逆的かつ制御されたRNAi仲介サイズ選択的に開放するための方法であって、タイト結合タンパク質を標的とした有効量のRNAi誘導剤の送達からなり、それが脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じ、かつ好ましくは15kDa未満の分子の脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞を横切る透過を可能にする方法。
【請求項33】
血液脳関門の細胞間通路の一時的、可逆的かつ制御されたRNAi仲介サイズ選択的な開放からなる、疾病又は疾患の治療のための方法であって、前記方法が、
前記疾患又は疾病を発症する虞がある対象を識別する過程と、
siRNA、miRNA又はshRNAの送達により、タイト結合タンパク質を標的とした有効量の、好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA又は、その細胞内での存在がsiRNA又はshRNAの生産となるRNAi誘導ベクターであるRNAi誘導剤を投与して、脳毛細血管内皮細胞又は網膜内皮細胞における血液脳関門タイト結合タンパク質転写物の可逆的かつ一時的なRNAi仲介抑制を生じ、かつ理想的には15kDa未満の、前記疾患又は疾病の治療に使用される活性剤の脳毛細血管内皮細胞及び/又は網膜内皮細胞への透過を可能にする過程と、
前記疾患又は疾病の治療に適した活性剤を投与する過程とからなる方法。
【請求項34】
全身送達、好ましくは全身ハイドロダイナミックデリバリーを含む請求項32又は33に記載の方法。
【請求項35】
前記疾患又は疾病が、次の神経変性疾患、精神神経疾患、脳腫瘍、網膜疾病、外傷性脳損傷及び/又は脳卒中のいずれか1つから選択される請求項32乃至34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
条件付きタイト結合タンパク質ノックアウトマウスを育成して広範囲の医薬生成物の効果を試験しかつ/又は細胞間システムを研究するべく、血液脳関門の細胞間通路を一時的、可逆的かつ制御されたサイズ選択的に開放するためにタイト結合タンパク質を標的とした、好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA又は、その細胞内における存在がsiRNA又はshRNAの生産を生じるRNAi誘導ベクターであるRNAi誘導剤の使用。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7A1】
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【図7A2】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公表番号】特表2011−501662(P2011−501662A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528430(P2010−528430)
【出願日】平成20年10月13日(2008.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063734
【国際公開番号】WO2009/047362
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(599049945)ザ・プロウボウスト・フェロウズ・アンド・スカラーズ・オブ・ザ・カレッジ・オブ・ザ・ホリー・アンド・アンデバイデッド・トリニティ・オブ・クイーン・エリザベス・ニア・ダブリン (9)
【氏名又は名称原語表記】The Provost Fellows and Scholars of the College of the Holy and Undivided Trinity of Queen Elizabeth Near Dublin
【Fターム(参考)】