説明

タイヤ温度制御装置及びタイヤ温度制御方法

【課題】車両の制動が頻繁に行われても、十分な制動力を発生させることができるようにする。
【解決手段】タイヤの接地面の温度を検出する温度検出部と、タイヤの接地面の温度が設定温度以上であるかどうかによって、キャンバ角調整条件が成立するかどうかを判断するキャンバ角調整条件判断処理手段と、キャンバ角調整条件が成立する場合にキャンバ角を調整するキャンバ角調整処理手段とを有する。タイヤの接地面の温度が設定温度以上であると、キャンバ角が調整されるので、接地面の温度が設定温度より高くなるのを防止することができ、摩擦係数が小さくなるのを防止することができる。したがって、車両の制動が頻繁に行われても、十分な制動力を発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ温度制御装置及びタイヤ温度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、走行中の車両を制動するためのブレーキ装置においては、例えば、各車輪のブレーキロータにパッドを押し付けることによって、各車輪の回転を抑制し、制動力を発生させるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−162371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のブレーキ装置においては、車両の制動が頻繁に行われると、十分な制動力を発生させることができない。
【0005】
本発明は、前記従来のブレーキ装置の問題点を解決して、車両の制動が頻繁に行われても、十分な制動力を発生させることができるタイヤ温度制御装置及びタイヤ温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために、本発明のタイヤ温度制御装置においては、タイヤの接地面の温度を検出する温度検出部と、タイヤの接地面の温度が設定温度以上であるかどうかによって、キャンバ角調整条件が成立するかどうかを判断するキャンバ角調整条件判断処理手段と、キャンバ角調整条件が成立する場合にキャンバ角を調整するキャンバ角調整処理手段とを有する。
【0007】
本発明の他のタイヤ温度制御装置においては、さらに、車両が制動されているかどうかを判断する制動状態判断処理手段を有する。
【0008】
そして、前記キャンバ角調整処理手段は、車両が制動されている場合にキャンバ角を調整する。
【0009】
本発明の更に他のタイヤ温度制御装置においては、さらに、前記キャンバ角調整処理手段は、初期状態においてキャンバ角を正の値にする。
【0010】
本発明のタイヤ温度制御方法においては、タイヤの接地面の温度を検出し、タイヤの接地面の温度が設定温度以上であるかどうかによって、キャンバ角調整条件が成立するかどうかを判断し、キャンバ角調整条件が成立する場合に、キャンバ角を調整する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タイヤ温度制御装置においては、タイヤの接地面の温度を検出する温度検出部と、タイヤの接地面の温度が設定温度以上であるかどうかによって、キャンバ角調整条件が成立するかどうかを判断するキャンバ角調整条件判断処理手段と、キャンバ角調整条件が成立する場合にキャンバ角を調整するキャンバ角調整処理手段とを有する。
【0012】
この場合、タイヤの接地面の温度が設定温度以上であると、キャンバ角が調整されるので、接地面の温度が設定温度より高くなるのを防止することができ、摩擦係数が小さくなるのを防止することができる。したがって、車両の制動が頻繁に行われても、十分な制動力を発生させることができる。
【0013】
本発明の他のタイヤ温度制御装置においては、さらに、車両が制動されているかどうかを判断する制動状態判断処理手段を有する。
【0014】
そして、前記キャンバ角調整処理手段は、車両が制動されている場合にキャンバ角を調整する。
【0015】
この場合、車両が制動されている間に、接地面の温度が設定温度より高くなるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両の概念図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車輪駆動部ユニットの平面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるアクチュエータの動作を説明する図である。
【図5】タイヤの温度特性を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態における制御部の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1の実施の形態におけるキャンバ角の状態を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態におけるタイヤの温度特性を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態におけるキャンバ角の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図2は本発明の第1の実施の形態における車両の概念図である。
【0019】
図において、11は車両の本体を表すボディ、WLF、WRF、WLB、WRBは、ボディ11に対して回転自在に配設された前方左側、前方右側、後方左側及び後方右側の車輪であり、互いに独立させて回転させることができるようになっている。そして、車輪WLF、WRFによって前輪が、車輪WLB、WRBによって後輪が構成される。
【0020】
また、13は操舵装置(操作部材)としてのステアリングホイール、14は加速操作部材としてのアクセルペダル、15は減速操作部材としてのブレーキペダルであり、運転者がステアリングホイール13を操作して回転させると、ステアリングホイール13の回転に応じて車輪WLF、WRFに舵角が付与され、車両を旋回させることができる。また、運転者がアクセルペダル14を踏み込むと、アクセルペダル14の踏込量に応じて車両を加速することができ、運転者がブレーキペダル15を踏み込むと、ブレーキペダル15の踏込量に応じて車両を制動することができる。なお、前記舵角は、ステアリングホイール13の回転に応じて車輪WLF、WRFの向きが変化させられたときの、車両の前後方向と車輪WLF、WRFの向きとが成す角度である。
【0021】
そして、前記車両を制動するために図示されないブレーキ装置が配設される。該ブレーキ装置は、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに配設されたブレーキロータ、摩擦材であるパッド、該パッドを前記ブレーキロータに押し付ける図示されないホイールシリンダ等を備え、運転者が前記ブレーキペダル15を踏み込むと、前記パッドが前記ブレーキロータに押し付けられ、ブレーキロータとパッドとの間に摩擦力が発生させられ、該摩擦力によって各車輪WLF、WRF、WLB、WRBの回転が抑制される。
【0022】
なお、ブレーキロータに代えてブレーキドラムを、パッドに代えてシューを使用し、ホイールシリンダによってシューをブレーキドラムに押し付けることにより、ブレーキドラムとシューとの間に摩擦力を発生させ、該摩擦力によって各車輪WLF、WRF、WLB、WRBの回転を抑制することもできる。
【0023】
そして、16は車両の全体の制御を行う制御部、31〜34は、それぞれ、ボディ11と各車輪WLF、WRF、WLB、WRBとの間に配設され、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBを独立させて回転させ、かつ、各車輪WLF、WRFに舵角及びトウ角をそれぞれ独立させて形成し、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を独立させて付与する車輪駆動部、38は、各車輪WLF、WRFに舵角及びトウ角を、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与するために油圧を発生させる油圧制御部である。
【0024】
なお、前記ステアリングホイール13、制御部16、車輪駆動部31〜34、油圧制御部38等によって旋回制御装置が、各車輪WLF、WRF、WLB、WRB及び各車輪駆動部31〜34によって、前方左側、前方右側、後方左側及び後方右側の車輪駆動部ユニット41〜44が構成される。
【0025】
本実施の形態においては、舵角を、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBのそれぞれに独立させて形成するようになっているが、車輪WLF、WRFだけに独立させて形成することもできる。また、前記各車輪駆動部31〜34は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに対応させて配設されるようになっているが、ボディ11における所定の1箇所に配設することもできる。
【0026】
次に、前記各車輪駆動部ユニット41〜44の構造について説明する。この場合、各車輪駆動部ユニット41〜44の構造は互いに同じであるので、車輪駆動部ユニット41についてだけ説明する。
【0027】
図3は本発明の第1の実施の形態における車輪駆動部ユニットの平面図、図4は本発明の第1の実施の形態におけるアクチュエータの動作を説明する図である。
【0028】
図に示されるように、前記車輪駆動部ユニット41は車輪WLF及び車輪駆動部31を備え、前記車輪WLFは、アルミニウム合金等によって形成されたホイール18、及び該ホイール18の外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ19を備える。そして、前記車輪駆動部31は、円形の形状を有する車輪駆動板としてのキャンバプレート45、該キャンバプレート45に取り付けられ、ホイール18内に収容された走行用の駆動部としてのモータ(ホイールモータ)46、前記キャンバプレート45を揺動させる揺動用の駆動部としてのアクチュエータ47、前記キャンバプレート45とアクチュエータ47とを連結する連結部材としてのジョイント部(ユニバーサルジョイント)51等を備える。
【0029】
前記モータ46は、前記キャンバプレート45に固定されたステータ48、該ステータ48内に配設され、回転自在に配設された図示されないロータ、該ロータに取り付けられ、先端にホイール18が固定された出力軸49等を備える。そして、前記アクセルペダル14が踏み込まれると、アクセルペダル14の踏込量に比例してモータ46が駆動され、回転速度が増減させられる。
【0030】
また、前記アクチュエータ47は、第1〜第3の駆動部材としての油圧シリンダ53〜55を備え、該各油圧シリンダ53〜55は、前記ボディ11に固定されたシリンダ部61〜63、及び該各シリンダ部61〜63に対して進退自在に配設されたロッド部64〜66を備え、該各ロッド部64〜66はジョイント部51を介してキャンバプレート45と連結される。
【0031】
なお、本実施の形態においては、走行用の駆動部としてモータ46が配設されるようになっているが、モータ46に代えてエンジンを使用することもできる。その場合、エンジンによって発生させられた回転を、プロペラシャフト、ディファレンシャル装置、ドライブシャフト等の回転伝達系を介して、駆動輪として機能する車輪に伝達することができる。
【0032】
ところで、前記キャンバプレート45の中心Oを通り、車両の前後方向(長さ方向)に延びる軸をxa軸とし、車両の左右方向(幅方向)に延びる軸をya軸とし、車両の上下方向(高さ方向)に延びる軸をza軸としたとき、前記各油圧シリンダ53〜55を駆動し、各ロッド部64〜66を矢印A、B方向に進退させることによって、キャンバプレート45を、xa軸を中心にして矢印C、D方向に回動させたり、za軸を中心にして矢印E、F方向に回動させたりすることができる。そのために、前記キャンバプレート45におけるza軸上の上端の近傍の所定の位置を第1の位置st1とし、該第1の位置st1より車両の前後方向における後側の所定の位置を第2の位置st2とし、前記第1の位置st1より車両の前後方向における前側の所定の位置を第3の位置st3としたとき、第1〜第3の位置st1〜st3に各ジョイント部51が配設され、各ジョイント部51を介してキャンバプレート45とロッド部64〜66とが全方向に回動自在に連結される。なお、本実施の形態において、前記第1〜第3の位置st1〜st3は、前記キャンバプレート45の円周方向において等ピッチ角で、120〔°〕の間隔を置いて設定される。
【0033】
そして、前記油圧制御部38によって油圧を発生させ、発生させられた油圧を前記各シリンダ部61〜63に対して選択的に給排することによって車輪WLFに舵角、トウ角及びキャンバ角を付与することができる。すなわち、車輪WLFが図示されない路面に対して垂直に、かつ、ボディ11(図2)に対して平行に置かれる状態(図4)を中立状態としたとき、該中立状態において、ロッド部64を所定の量だけ矢印A方向に移動(後退)させ、ロッド部65、66を同じ量だけ矢印B方向に移動(前進)させると、車輪WLFは矢印C方向に回動させられ、車輪WLFに負の値のキャンバ角(ネガティブキャンバ)が付与される。また、前記中立状態において、ロッド部64を所定の量だけ矢印B方向に移動(前進)させ、ロッド部65、66を同じ量だけ矢印A方向に移動(後退)させると、車輪WLFは矢印D方向に回動させられ、車輪WLFに正の値のキャンバ角(ポジティブキャンバ)が付与される。
【0034】
さらに、前記中立状態において、ロッド部65を所定の量だけ矢印A方向に移動(後退)させ、ロッド部66を同じ量だけ矢印B方向に移動(前進)させると、車輪WLFは矢印E方向に回動させられ、車輪WLFに正の値の舵角及びトウ角が付与される。また、前記中立状態において、ロッド部65を所定の量だけ矢印B方向に移動(前進)させ、ロッド部66を同じ量だけ矢印A方向に移動(後退)させると、車輪WLFは矢印F方向に回動させられ、車輪WLFに負の値の舵角及びトウ角が付与される。
【0035】
ところで、前記各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにおいては、ホイール18の外周に嵌合させてタイヤ19が配設される。そして、車両の加速時(発進時も含む。)及び定速走行時においては、各タイヤ19と路面との間に、回転を阻止する方向に摩擦力が発生し、該摩擦力によって車両を加速(発進)したり、定速走行させたりすることができる。また、車両の制動時においては、各タイヤ19と路面との間に、回転を維持する方向に摩擦力が発生し、該摩擦力を制動力として利用し、車両を制動することができる。
【0036】
なお、タイヤ19と路面との間の摩擦係数μは、タイヤ19の材料、接地面(トレッド)に形成された溝のパターン(以下「溝パターン」という。)等によって異なり、摩擦係数μが大きいほど前記各摩擦力が大きくなり、その結果、路面をグリップする力、すなわち、グリップ力が大きくなり、車両の加速性及び制動性を高くすることができる。
【0037】
次に、前記構成の車両の制御装置について説明する。
【0038】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【0039】
図において、16は制御部、WLF、WRF、WLB、WRBは車輪、20はステアリングホイール13(図2)の操作量を検出する操作量検出部としての操作量センサ、s1はシリンダ部61(図3)に対して油圧の給排を行う制御弁、s2はシリンダ部62に対して油圧の給排を行う制御弁、s3はシリンダ部63に対して油圧の給排を行う制御弁、ε1は各車輪WLF、WRFに形成された舵角を検出する舵角検出部としての舵角センサ、ε2は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBのキャンバ角を検出するキャンバ角検出部としてのキャンバ角センサである。
【0040】
本実施の形態においては、運転者がステアリングホイール13を操作したときの操作量に基づいて前記アクチュエータ47が駆動され、各車輪WLF、WRFに舵角が形成されるようになっているが、ステアリングホイール13を操作することによって直接各車輪WLF、WRFを揺動させて舵角を形成することもできる。なお、前記舵角センサε1によって舵角を検出することができるほかに、制御部16の図示されない舵角検出処理手段が舵角検出部として機能し、舵角を検出することができる。この場合、前記舵角検出処理手段は、舵角検出処理を行い、前記操作量を読み込み、図示されない記憶装置に形成された舵角マップを参照し、ステアリングホイール13の操作量に基づいて各車輪WLF、WRFの舵角を検出する。
【0041】
前記制御部16は、ステアリングホイール13の操作量が操作量センサ20によって検出されると、アクチュエータ47を駆動し、各車輪WLF、WRFに前記操作量に応じた舵角を形成する。該形成された舵角は、舵角センサε1によって検出され、制御部16に送られ、フィードバック制御が行われる。また、制御部16は、後述されるように、アクチュエータ47を駆動し、検出された舵角に応じたキャンバ角を各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与する。付与されたキャンバ角は、キャンバ角センサε2によって検出され、制御部16に送られ、フィードバック制御が行われる。
【0042】
ところで、前述されたように、摩擦係数μは、タイヤ19の材料、溝パターン等によって異なる。ところが、前記タイヤ19は主としてゴム材料から成り、ゴム材料は、理論上、周囲の温度が高くなるほど変形しやすくなり、摩擦係数が大きくなるが、実際には、所定の温度(フラッシュ温度)(以下「ピーク温度」という。)でゴム材料の特性が変化し、前記ピーク温度より高い領域においては、温度が高くなるほど摩擦係数が小さくなる。
【0043】
したがって、加速及び制動が繰り返され、タイヤ19と路面との間で摩擦力が発生するのに伴って、摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって接地面の温度が高くなると、摩擦係数μも変化する。なお、加速時にタイヤ19と路面との間で発生する摩擦力は、制動時にタイヤ19と路面との間で発生する摩擦力より小さく、摩擦力によって発生する摩擦熱の量が少ないので、加速時における接地面の温度の変化量及び摩擦係数μの変化量は制動時より少ない。したがって、加速時において接地面の温度が摩擦係数μに与える影響を無視することができる。
【0044】
次に、タイヤ19における接地面の温度と摩擦係数μとの関係について説明する。
【0045】
図5はタイヤの温度特性を示す図である。なお、図において、横軸に時間を、縦軸にタイヤ19の接地面の温度τ、及び摩擦係数μを採ってある。
【0046】
まず、タイミングt1で接地面の温度τ及び摩擦係数μは初期状態に置かれ、接地面の温度τは周囲の温度と同じ初期値τ0に、摩擦係数μは基準値μ0にされる。そして、制動が頻繁に行われて接地面の温度τが高くなると、摩擦係数μもそれに伴って高くなる。そして、タイミングt2で接地面の温度τがピーク温度τpになると、摩擦係数μがピーク値μpを採り、その後、タイミングt3、t4で接地面の温度τが更に高くなると、摩擦係数μは急激に低くなり、基準値μ0より低い値を採るようになる。
【0047】
このように、接地面の温度τがピーク温度τpより高くなり、摩擦係数μが基準値μ0より低い値を採ると、十分な制動力を発生させることができなくなってしまう。
【0048】
そこで、本実施の形態においては、車両の制動が頻繁に行われた場合に、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されるキャンバ角θを調整することによって、各接地面の温度τがピーク温度τpより高くなるのを防止し、十分な制動力を発生させることができるようにしている。
【0049】
図6は本発明の第1の実施の形態における制御部の動作を示すフローチャート、図7は本発明の第1の実施の形態におけるキャンバ角の状態を示す図、図8は本発明の第1の実施の形態におけるタイヤの温度特性を示す図である。なお、図8において、横軸に時間を、縦軸にタイヤ19の接地面の温度τ、キャンバ角θ及び摩擦係数μを採ってある。
【0050】
この場合、前記制御部16の図示されない制動状態判断処理手段は、制動状態判断処理を行い、車両が制動されているかどうかを判断する。そのために、該制動状態判断処理手段は、前記ブレーキペダル15に配設された図示されないブレーキスイッチの信号を読み込み、ブレーキペダル15が踏み込まれたかどうかによって、ブレーキがオンであるかどうかを判断し、ブレーキがオンである場合、車両が制動されていると判断し、ブレーキがオンでない場合、車両が制動されていないと判断する。そして、車両が制動されている場合、前記制御部16の図示されないキャンバ角取得処理手段は、キャンバ角取得処理を行い、前記キャンバ角センサε2によって検出されたキャンバ角θを読み込む。
【0051】
また、前記制御部16の図示されない温度取得処理手段は、温度取得処理を行い、温度検出部としての温度センサ81によって検出された接地面の温度τを読み込む。前記制御部16、温度センサ81等によってタイヤ温度制御装置が構成される。なお、前記温度センサ81は、前記ボディ11の所定の箇所において、各タイヤ19と対向させて配設され、各タイヤ19の接地面の温度τを検出する。前記温度センサ81として赤外線センサを使用することができる。
【0052】
続いて、前記制御部16の図示されないキャンバ角調整条件判断処理手段は、キャンバ角調整条件判断処理を行い、接地面の温度τを読み込むとともに、前記記憶装置から、あらかじめ設定され記録された設定温度、本実施の形態においては、ピーク温度τpを読み出し、接地面の温度τ及びピーク温度τpに基づいてキャンバ角調整条件が成立したかどうかを判断する。
【0053】
そして、前記キャンバ角調整条件判断処理手段は、接地面の温度τがピーク温度τp以上である場合、キャンバ角調整条件が成立したと判断し、接地面の温度τがピーク温度τpより低い場合、キャンバ角調整条件が成立しないと判断する。
【0054】
なお、前記ピーク温度τpは、タイヤ19を加熱し、各温度において摩擦係数μを測定した場合の摩擦係数μが最大値を採るときの値に設定され、前記記憶装置に記録される。本実施の形態において、設定温度は、ピーク温度τpにされるが、ピーク温度τpに基づいて所定の演算式で算出された値にすることもできる。
【0055】
そして、キャンバ角調整条件が成立すると、制御部16の図示されないキャンバ角調整処理手段は、キャンバ角調整処理を行い、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されているキャンバ角θを調整する。本実施の形態においては、初期状態において、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに正のキャンバ角θが付与され、前記キャンバ角調整処理手段は、キャンバ角調整条件が成立すると、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに正負逆のキャンバ角を付与する。
【0056】
図8に示されるように、タイミングt11で接地面の温度τ、キャンバ角θ及び摩擦係数μは初期状態に置かれ、接地面の温度τは周囲の温度と同じ初期値τ0に、キャンバ角θは正の所定の値に、摩擦係数μは基準値μ0にされる。この場合、前記キャンバ角θが正の値を採るので、図7に示されるように、タイヤ19は、接地面の幅方向におけるボディ11(図2)から離れた側の部分、すなわち、タイヤ19の外側部分Soにおいて路面82と接触する。
【0057】
そして、制動が頻繁に行われて、外側部分Soにおいて摩擦熱が発生することによって前記接地面の温度τが高くなると、摩擦係数μもそれに伴って高くなる。そして、タイミングt12で接地面の温度τがピーク温度τpと等しくなり、摩擦係数μがピーク値μpを採ると、キャンバ角θは徐々に小さくされ、タイミングt13で負の値を採る。このとき、図7に示されるように、タイヤ19は、接地面の幅方向におけるボディ11に近接する側の部分、すなわち、タイヤ19の内側部分Siにおいて路面82と接触するようになる。
【0058】
タイミングt11からt12までの、キャンバ角θが正の値を採っている間、タイヤ19は、外側部分Soにおいて路面82と接触し、摩擦熱を発生させるが、内側部分Siにおいては路面82と接触せず、摩擦熱を発生させない。したがって、図8に示されるように、タイミングt12からt13までの間、キャンバ角θが徐々に小さくされるのに伴って、前記接地面の温度τが低くなり、摩擦係数μもそれに伴って低くなり、タイミングt13で、接地面の温度τは初期値τ0に、摩擦係数μは基準値μ0になる。
【0059】
その後、内側部分Siにおいて摩擦熱が発生することによって前記接地面の温度τが高くなると、摩擦係数μもそれに伴って高くなる。そして、タイミングt14で接地面の温度τがピーク温度τpと等しくなり、摩擦係数μがピーク値μpを採ると、キャンバ角θは徐々に大きくされ、正の値を採る。
【0060】
このように、本実施の形態においては、接地面の温度τがピーク温度τp以上であると、キャンバ角θが変更されるので、接地面の温度τがピーク温度τpより高くなるのを防止することができ、摩擦係数μが小さくなるのを防止することができる。したがって、車両の制動が頻繁に行われても、十分な制動力を発生させることができる。
【0061】
なお、本実施の形態においては、初期状態において、キャンバ角θが正の値を採るようになっているが、初期状態においてキャンバ角θが負の値を採るようにすることもできる。
【0062】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1 制動状態判断処理を行う。
ステップS2 車両が制動されているかどうかを判断する。車両が制動されている場合はステップS3に進み、車両が制動されていない場合はステップS1に戻る。
ステップS3 キャンバ角θを読み込む。
ステップS4 接地面の温度τを読み込む。
ステップS5 接地面の温度τがピーク温度τp以上であるかどうかを判断する。接地面の温度τがピーク温度τp以上である場合はステップS6に進み、接地面の温度τがピーク温度τpより低い場合はステップS1に戻る。
ステップS6 正負逆のキャンバ角θを付与し、処理を終了する。
【0063】
ところで、本実施の形態においては、タイヤ19を、外側部分So又は内側部分Siにおいて路面82と接触させるようにしているが、次に、接地面の幅方向における複数の部分において路面82と接触させることができるようにした本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0064】
図9は本発明の第2の実施の形態におけるキャンバ角の状態を示す図である。
【0065】
図において、WLFは車輪、19はタイヤ、82は路面である。
【0066】
この場合、前記キャンバ角調整処理手段は、キャンバ角調整条件が成立するたびにキャンバ角θを所定の値だけ変更する。
【0067】
したがって、キャンバ角θは、例えば、正の所定の値から段階的に小さくされ、零(0)の値を採った後、更に段階的に小さくされて負の所定の値にされ、その後、段階的に大きくされ、零の値を採った後、更に段階的に大きくされて正の所定の値にされる。その結果、タイヤ19は、接地面の幅方向における複数の部分において路面82と接触することになる。
【0068】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0069】
16 制御部
19 タイヤ
81 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの接地面の温度を検出する温度検出部と、タイヤの接地面の温度が設定温度以上であるかどうかによって、キャンバ角調整条件が成立するかどうかを判断するキャンバ角調整条件判断処理手段と、キャンバ角調整条件が成立する場合にキャンバ角を調整するキャンバ角調整処理手段とを有することを特徴とするタイヤ温度制御装置。
【請求項2】
車両が制動されているかどうかを判断する制動状態判断処理手段を有するとともに、前記キャンバ角調整処理手段は、車両が制動されている場合にキャンバ角を調整する請求項1に記載のタイヤ温度制御装置。
【請求項3】
前記キャンバ角調整処理手段は、初期状態においてキャンバ角を正の値にする請求項1に記載のタイヤ温度制御装置。
【請求項4】
タイヤの接地面の温度を検出し、タイヤの接地面の温度が設定温度以上であるかどうかによって、キャンバ角調整条件が成立するかどうかを判断し、キャンバ角調整条件が成立する場合に、キャンバ角を調整することを特徴とするタイヤ温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−195277(P2010−195277A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44101(P2009−44101)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】