説明

タンクの底板取替方法

【課題】側板をジャッキアップする際に側板下部の変形を防止し、またアニュラープレートの切断を容易にし、さらに側板下端部の開先加工を容易にして、アニュラープレート等底板の取替え施工を安全かつ容易に行えるタンクの底板取替方法を提供する。
【解決手段】タンク側板1下端のアニュラープレート2の一部を円形又は多角形のリング状に残してアニュラープレート2を切断し、側板1下端にリング状のアニュラープレートを2残した状態で所定高さまでジャッキアップし、このジャッキアップした状態で、新旧アニュラープレート等底板3の搬入出を行い、側板1下端の開先加工を行った後、ジャッキダウンして側板1下端部の溶接施工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は平底円筒形状タンクの底板を、部分的、若しくは全体にわたって新規な底板に取り替える施工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油タンクなどの側板下部に位置する外周環状の底板、つまりアニュラープレート等の底板は、雨水が浸入しやすく、また、大きな荷重を受けて変形し、腐食や損傷を発生し易いので、定期的に板厚の検査をし、腐食や損傷の著しいものは、従来からピース工法、ジャッキアップ工法、窓開け工法などを用いて新規の底板に取り替えていた。
【0003】
従来の特公昭55−41990号(特許文献1)は、ピース工法の事例であり、一区画の既設のアニュラープレート及び側板下部を切断して取去り、新規のアニュラープレートを挿入して仮結合し、両板間にくさびを打込み、サポートピースを固着し、さらにホールディングピースを固定し、タンクのアニュラープレートを取り替える方法である。
【0004】
従来の特公平2−5222号(特許文献2)は、ピース工法にジャッキアップ工法を組み合わせた工法であり、側板の下部を数区画に分けて順次水平に溶断し、ガイドピースを内外両側のアニュラープレートに固着し、側板の下部の一部を溶断して窓孔を数箇所開設し、この窓孔に爪付きジャッキを設置し、サポートピースとガイドピースを取付けて支持しながら順次タンク全周にわたって施工するようにした貯油タンクのアニュラープレート及び底板交換工法である。
【0005】
従来の特許第3709902号(特許文献3)は、本出願人に係る発明の底端板取替方法の改善されたジャッキアップ工法であって、図1及び図2に示すように、タンクの側板下端部と接続する既設底板を切り欠いてタンク内外を貫通する開孔部を設け、この開孔部に断面U字状のブラケットを設置し、このブラケットの鍔にジャッキを係合して施工するタンクのジャッキアップ工法である。
【0006】
【特許文献1】特公昭55−41990号
【特許文献2】特公平2−5222号
【特許文献3】特許第3709902号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来例の(特許文献1)特公昭55−41990号、ピース工法によるタンクのアニュラープレート取替え方法は、側板下部を切断して取去るため、側板高さの減少と、接続配管の高さ調整の手間が多くかかった。
【0008】
従来のピース工法にジャッキアップ工法を組み合わせた工法の発明(特許文献2)特公平2−5222号は、側板の下部の一部を溶断して窓孔を開設し、この窓孔に爪付きジャッキを設置し、サポートピースとガイドピースを取付けて支持しながら順次タンク全周にわたって施工するため、側板の切断と修復に手間と配慮を要した。
【0009】
さらに、本出願人に係る従来の発明(特許文献3)特許第3709902号は、タンクの側板下端部と接続する既設底板を切り欠いてタンク内外を貫通する開孔部を設け、この開孔部に断面U字状のブラケット及びジャッキを設けて施工するタンクのジャッキアップ工法であるが、補強治具を用いないと、ジャッキアップした際に側板下端部が湾曲変形し損傷などする恐れがあった。
さらに、基礎上にある側板及びアニュラープレートを切断する取替方法を採用しているため、アニュラープレートがタンク基礎に長い間押圧されて付着しアニュラープレートを引きはがし難い上に、切断作業時にタンク基礎を損傷してしまう心配があった。
【0010】
この発明は、前述の従来工法における問題点を解決するためになされたもので、側板をジャッキアップする際に側板下部の変形を防止し、またアニュラープレートの切断を容易にし、さらに側板下端部の開先加工を容易にして、アニュラープレート等底板の取替え施工を安全かつ容易に行えるタンクの底板取替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載のタンクの底板取替方法は、タンク側板下端のアニュラープレートの一部を円形又は多角形のリング状に残してアニュラープレートを切断し、側板下端にリング状のアニュラープレートを残した状態で所定高さまでジャッキアップし、このジャッキアップした状態で、新旧アニュラープレート等底板の搬入出を行い、側板下端の開先加工を行った後、ジャッキダウンして側板下端部の溶接施工を行うものである。
【0012】
また、請求項2記載のタンクの底板取替方法は、請求項1記載のタンクの底板取替方法において、前記タンク側板下端のアニュラープレートの一部を円形又は多角形のリング状に残して行うアニュラープレートの切断は、側板及びアニュラープレートをタンク基礎から浮かせる程度ジャッキアップして離陸させた状態で行うものである。
【0013】
また、請求項3記載のタンクの底板取替方法は、タンク側板下部の適宜な位置にジャッキアップ治具を取付ける工程と、上記ジャッキアップ治具を用いて側板及びアニュラープレートをタンク基礎から浮かせる程度ジャッキアップして離陸させる工程と、この浮かせた状態で側板下端のアニュラープレートの一部を円形又は多角形のリング状に残してアニュラープレートを切断する工程と、側板下端にリング状のアニュラープレートを残した状態でジャッキアップする工程と、ジャッキアップした状態で既設のアニュラープレート等底板を切断してタンク外部に搬出し、新規アニュラープレート等底板をタンク内部に搬入して溶接結合する工程と、ジャッキアップした状態でリング状アニュラープレートと側板との溶接部を除去してリング状アニュラープレートを側板から切り放す工程と、ジャッキアップ中の側板下端部の開先を加工する工程と、上記ジャッキアップ治具を用いて新規アニュラープレート上に側板を降下着座させる工程と、上記開先部を溶接することによって側板と新規アニュラープレートとを結合する工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のタンクの底板取替方法によれば、タンク側板の下端に一部残した円形又は多角形リング状のアニュラープレートがジャッキアップ時の側板の変形防止の補強材として機能するため、安全なジャッキアップ状態を維持して、アニュラープレート等底板の取替えをすることができる。また、側板及びリング状アニュラープレートを所定高さ位置までジャッキアップしているため、リング状アニュラープレートの溶接部除去作業と切放し作業、及び側板下端の開先加工がやり易く、作業手順良くタンクの底板を取替えることができる。また、側板下端部を切断しないため、タンク高さを減じることなくタンク容量を確保することができる。
【0015】
請求項2記載のタンクの底板取替方法によれば、タンク側板下端のアニュラープレートの切断は、側板及びアニュラープレートをタンク基礎から浮かせる程度ジャッキアップして離陸させた状態で行うので、基礎に密着したアニュラープレートが浮いているため、タンク基礎を損傷することなく切断することができ、またアニュラープレートが基礎から引き離されているため、火花や切断片の跳ね返りを生じることなく作業性良く切断することができる。
【0016】
請求項3記載のタンクの底板取替方法によれば、ジャッキアップ治具を用いて側板及びアニュラープレートをタンク基礎から浮かせて離陸させる工程によって基礎に密着したアニュラープレートが浮いた状態となり、この浮いた状態で側板下端のアニュラープレートの一部をリング状に残して切断する工程によってタンク基礎を損傷することなく、また火花や切断片の跳ね返りを生じることなく作業性良く切断することができる。また、リング状のアニュラープレートを残した状態でジャッキアップする工程によってジャッキアップ時の側板の変形防止の補強材として機能し、安全なジャッキアップ状態を維持しながら新旧アニュラープレート等底板を搬入出することができる。さらにまた、ジャッキアップした状態でリング状アニュラープレートを側板から切り放して側板下端部の開先を加工する工程によって作業性が良く、側板を降下着座させ開先部を溶接する工程によって作業能率良くアニュラープレート等底板の取替え復旧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明に係るタンクの底板取替方法の実施形態例について、図1乃至図6に基づいて説明する。
図1はタンク側板下部の外周位置にジャッキアップ治具を取付けた状態を示し、図2は側板とアニュラープレートを浮かせる程度ジャッキアップした状態を示し、図3はアニュラープレートを浮かせた状態で円形又は多角形のリング状に残すように切断する状況を示す。
図4は、側板及びリング状に残したアニュラープレートを所定高さまでジャッキアップしアニュラープレート等底板を取り替える状況を示す。
図5は、リング状に残したアニュラープレートを内外から削除し、側板下端部を内外から開先加工する状況を示す。
図6は、新規アニュラープレート上に側板をジャッキダウンして溶接施工する状況を示す。
【0018】
1は平底円筒形のタンクを構成する側板、2は側板下端部の底板つまり外周環状のアニュラープレート、3はアニュラープレートの内側に接続する円形平板状の底板である。
図1に示すように、側板1の下部の外周壁面の適宜な位置にブラケット6を取付け、このブラケット6の下部を支持するように、タンク外周のジャッキベース7にジャッキアップ治具4を設置する。このジャッキアップ治具4は、図では示さないが、タンク外周に沿って複数個を隔離して設け、タンク全体を平均にジャッキアップ及びジャッキダウンすることができるようにする。
【0019】
アニュラープレート2、底板3などの底板を取替えるためには、側板1の下端部(X)を切り離す必要があるが、本発明では側板1の下端部(X)の近傍を切断することなく、図のアニュラープレート2の(Y)の位置を切断し、アニュラープレート2の一部分を円形又は多角形リング状の補強リング9として側板1の下端縁に残す。
このように、図の(Y)の位置を切断することによって、側板1の下端部(X)から上部の位置を切断することがなく、或いは窓孔や開孔を設ける必要もない。
【0020】
図2に示す実施形態例では、側板1と共にアニュラープレート2をタンク基礎5から浮かせる程度ジャッキアップさせる。このジャッキアップによってアニュラープレート2の切断位置近傍を、タンク基礎5から約50ミリメートル程度に離陸させてから図の(Y)の位置を切断する。
なお、長い間側板1に押し付けられてタンク基礎5に密着したアニュラープレート2は、ハンマリング等の軽い衝撃を与えてタンク基礎から容易に離脱させ、またアニュラープレート2裏面に付着するタンク基礎5のアスファルトモルタル等も、軽いハンマリングによって簡単に脱落させることができる。
【0021】
図3に示すように、ジャッキアップして浮かせたアニュラープレート2の一部分を、円形又は多角形リング状の補強リング9として残すように(Y)の位置を切断する。
このように、アニュラープレート2の一部分を補強リング9として残すことにより、側板1をジャッキアップする際に側板下部が荷重によって変形する心配がなく、別途変形防止用の補強治具を取付ける必要がない。
上記アニュラープレート2の切断は、ガス切断やアークエアーガウジングによる切断機8を用いて行う。
この切断の際に、アニュラープレート2の切断位置の近傍はタンク基礎5から浮いているため、タンク基礎5のアスファルトモルタル等をガス切断の火炎や熱によって切削や損傷などすることがない。また、この切断作業の際に、アニュラープレート2がタンク基礎5から引き離れているため、アークや切断片などが下方の空間へ抜け出て、上方への跳ね返りを生ずることがなく切断作業がやり易い。
【0022】
図4は、側板1及びリング状に残したアニュラープレートの補強リング9を所定の高さまでジャッキアップし、アニュラープレート等底板を取替える状況を示す。
ジャッキアップされた側板1とタンク基礎5との間を利用して、(A)既設のアニュラープレート2及び底板3をタンク外部に引き出して搬出し、必要に応じてタンク基礎5の修正を行った後、(B)新規のアニュラープレート12及び新規底板13を搬入し、配列して溶接結合する。なお、ジャッキアップする高さは、アニュラープレート2及び底板3を容易に搬出でき、基礎の修正がやり易く、新規アニュラープレート12等底板を容易にタンク内部に搬入でき、さらに暴風時等の緊急時には素早く容易にジャッキダウンできる高さに設定する。
【0023】
図5は、ジャッキアップされた側板1下部の空間を利用して、側板1の下端部(X)の補強リング9を削除して開先部10A、10Bを形成する状況を示す。
補強リング9をタンクの内外両側からアークエアーガウジングやガス切断、グラインダー研削等によって切断除去し、続いて側板下端部の開先加工と整形作業を行って新規アニュラープレートと側板下端部の溶接のための開先部10A、10Bを形成する。
この補強リング9の削除作業、及び側板下端部の開先加工の作業は、タンク内外の両側から適度な高さの姿勢位置で出来るので作業性良く適正に行うことができる。
【0024】
図6に示すように、ジャッキアップ治具4を用いて側板1を新規アニュラープレート12上にジャッキダウン、つまり降下着座させる。この際に、ガイドピース14を使用して側板下部を補強し変形を防止するとともに、アニュラープレート12のはね上がりを防止し、図の水平方向の矢印で示すように位置合わせをして、溶着部15にて開先部10A、10Bを溶接施工する。
【0025】
上記のように、側板の下部を切り詰めることがないためタンク側板高さの変更がなく、また側板の下部を切断して窓孔や開孔を設けることもないためタンク側板の修復を要することもなく、側板下部の変形防止を図りジャッキアップして作業性良くアニュラープレート等の底板を取替え復旧することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
底板のみならず基礎が損傷したタンクなど種々の構築物について、取替え、修復施工に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明に係るタンク底板の取替方法の実施形態例で、側板の下部の適宜な位置にジャッキアップ治具を取付けた状態を示す側断面説明図である。
【図2】図1に続いて、側板とアニュラープレートを浮かせる程度ジャッキアップした状態を示す側断面説明図である。
【図3】図2に続いて、アニュラープレートの一部を側板下端部にリング状に残すように切断している状況を示す説明図である。
【図4】図3に続いて、側板及びリング状に残したアニュラープレートを所定高さまでジャッキアップし、アニュラープレート等底板を取り替える状況を示す説明図である。
【図5】リング状に一部残したアニュラープレートを内外の両側から削除し側板下端部を開先加工する状況を示す説明図である。
【図6】図5に続いて、新規アニュラープレート上に側板をジャッキダウンして溶接施工する状況を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1側板
2アニュラープレート
3底板
4ジャッキアップ治具
5基礎
6ブラケット
7ジャッキベース
8切断機
9補強リング
10A、10B 開先部

12新規アニュラープレート
13新規底板
14ガイドピース
15溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク側板下端のアニュラープレートの一部を円形又は多角形のリング状に残してアニュラープレートを切断し、側板下端にリング状のアニュラープレートを残した状態で所定高さまでジャッキアップし、このジャッキアップした状態で、新旧アニュラープレート等底板の搬入出を行い、側板下端の開先加工を行った後、ジャッキダウンして側板下端部の溶接施工を行うことを特徴とするタンクの底板取替方法。
【請求項2】
請求項1記載のタンクの底板取替方法において、前記タンク側板下端のアニュラープレートの一部を円形又は多角形のリング状に残して行うアニュラープレートの切断は、側板及びアニュラープレートをタンク基礎から浮かせる程度ジャッキアップして離陸させた状態で行うことを特徴とする請求項1記載のタンクの底板取替方法。
【請求項3】
タンク側板下部の適宜な位置にジャッキアップ治具を取付ける工程と、上記ジャッキアップ治具を用いて側板及びアニュラープレートをタンク基礎から浮かせる程度ジャッキアップして離陸させる工程と、この浮かせた状態で側板下端のアニュラープレートの一部を円形又は多角形のリング状に残してアニュラープレートを切断する工程と、側板下端にリング状のアニュラープレートを残した状態でジャッキアップする工程と、ジャッキアップした状態で既設のアニュラープレート等底板を切断してタンク外部に搬出し、新規アニュラープレート等底板をタンク内部に搬入して溶接結合する工程と、ジャッキアップした状態でリング状アニュラープレートと側板との溶接部を除去してリング状アニュラープレートを側板から切り放す工程と、ジャッキアップ中の側板下端部の開先を加工する工程と、上記ジャッキアップ治具を用いて新規アニュラープレート上に側板を降下着座させる工程と、上記開先部を溶接することによって側板と新規アニュラープレートとを結合する工程とを有することを特徴とするタンクの底板取替方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−230694(P2008−230694A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77453(P2007−77453)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)
【Fターム(参考)】