説明

タンパク質、部分タンパク質および/もしくは部分ペプチド、またはそれらのプロファイルに基づく体外診断システム

【課題】 生体の正常と正常以外の状態の評価判別方法の提供。
【解決手段】 正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において該インタクトなタンパク質の少なくとも1つの部分タンパク質または部分ペプチドとして存在する場合、該タンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する方法であって、生体試料中の該インタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドの種類、存在量および/または存在比を測定し、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得ることを含む、生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は体外診断薬分野において、疾患の診断、投薬効果評価、疾患の予後判定および健康診断における疾患の早期診断ためのバイオマーカーを用いた診断技術分野に関する。また、本発明は医薬品開発分野において創薬ターゲットの探索など医薬品開発に有効な生体分子などをスクリーニングするための解析技術に関する。さらに、本発明は基礎研究レベル、臨床研究レベルおよび医薬診断分野において、生物試料のタンパク質およびペプチドの質量分析を用いたタンパク質の存在量および存在比の違いを計測する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の正常と正常以外の状態を呈する試料を用いてその差違を判別する手段としては、一般的には体外診断薬において用いられてきた技術が主たる従来技術である。体外診断薬のうち最も多いのが、血液中の成分を分析することで診断検査を行うものである。本分野における従来技術では、血液中の単独の特定のタンパク質または分子量1万以下のいわゆるペプチドの存在量、あるいは酵素タンパク質の場合は活性の測定を行って、正常(健常人)試料と疾患試料との明らかな差をもって診断の一助としてきた。すなわちあらかじめ一定数の健常人と疾患患者由来の試料における単独もしくは複数の特定のタンパク質またはペプチドの量もしくは活性量を計測し、異常値と正常値の範囲を決め、評価する試料を同様の方法で測定し、異常値と正常値のどちらの範囲に属するかによって検査評価を行うものである。
【0003】
具体的な計測方法としては、試料をそのまま、またはあらかじめ希釈しておき、単独または複数の特定のタンパク質またはペプチドの量を、基質と反応させると発色する酵素によって標識された特異的1次抗体または2次抗体を用いて、試料の発色量で計測する酵素結合免疫吸着測定法(ELISA; enzyme linked immmunosorbent assay)や化学発光測定法(CLIA; chemiluminescent immunoassay)と1次抗体または2次抗体に結合させたラジオアイソトープを用いて計測する放射性免疫測定法(RIA; radioimmunoassay)、タンパク質が酵素の場合は直接基質を与えて産生物を発色などで計測する酵素活性測定法などがある。また酵素の基質分解産物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析する方法もある。これらの計測ターゲットは分解などを受けていないタンパク質(以下インタクトなタンパク質)であり、分解産物を計測する検査方法として、唯一アルツハイマー病におけるアミロイドベータタンパク質の難溶性分解産物であるAβ42がある。これはアルツハイマー病の発症要因のひとつと考えられている難溶性Aβ42を骨髄液や血液中で計測する検査方法(特許文献1参照)である。ここでタンパク質の分解とは細胞内で起こるプロセシングやタンパク質の寿命による分解を主とするペプチド断片生成を伴うタンパク質の構造変化とし、タンパク質の消化分解とはこれに加えて細胞外でおこるペプチド断片を生ずるタンパク質分解を含めたものと定義する。
【0004】
臨床における体外診断薬として質量分析を用いた計測はまだ行われていないが、研究レベルでは国内外でタンパク質のディファレンシャル解析技術としてタンパク質の質量分析が広く用いられている。もともと従来のタンパク質発現解析技術として二次元電気泳動法が広く用いられてきた。しかしタンパク質や1万以下の分子量のペプチドは検出感度が十分でないため、最近では生体試料をカラムクロマトグラフィーによって分画し、その画分に含まれるタンパク質とペプチドを質量分析によって分析する手法がある。またカラムクロマトグラフィーではなく、前処理としてプロテインチップを用いて質量分析する方法や、前処理として磁気ビーズを用いて質量分析する方法がある。またインタクトなタンパク質の解析を目的としてトリプシンなどで分解した後、上記の方法で質量分析まで行う方法も報告されている(特許文献2参照)。しかしいずれもインタクトなタンパク質の性質を利用して、そのまま分画し、または特異的に吸着するタンパク質分子を選別して質量分析で解析するものである。
【特許文献1】特開平07-51096号公報
【特許文献2】特開2004-333274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術を用いた正常と正常以外の状態を呈する生体から得られた試料を用いてその差違を判別する診断は、タンパク質やその部分ペプチドを単独で検出するものであり、生体中のタンパク質およびその部分タンパク質やその部分ペプチドを網羅的に検出し、該タンパク質およびその部分ペプチドの存在パターンやプロファイルを得て、正常と正常以外の状態を判別診断する方法はなかった。また、従来法では、疾患に罹患している被験体の病態の進行度を正確に判定することはできなかった。さらに、従来法では、感度(sensitivity)と特異性(specificity)はトレードオフの関係にあり、感度かつ特異性の両方が充分高い診断システムはなかった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、正常と正常以外の状態を呈する生体から得られた試料において、正常状態と正常以外の状態の差違を判別するため、1つ以上の特定のタンパク質、1つ以上のその消化分解産物タンパク質等の部分タンパク質、および/または1つ以上のその消化分解産物ペプチド等の部分ペプチドの種類ならびにその存在量もしくは存在比を計測し、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得て、生体の正常と正常以外の状態の評価判別を可能にすることである。さらに、本発明が解決しようとする課題は、病態の進行度を正確に判定することであり、さらに、感度と特異性の両方が高い診断システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、生体の正常と正常以外の状態を正確に評価判別する方法について鋭意検討を行い、正常状態においてインタクトなタンパク質として存在するタンパク質が正常以外の状態において、翻訳合成の低下を引き起こすように制御され、または消化分解され種々の消化分解産物ペプチド(消化分解産物タンパク質)として部分ペプチド(部分タンパク質)を生成し、またはタンパク質の翻訳合成においてスプライシング異常等により、部分タンパク質や部分ペプチドとして翻訳合成されること、正常以外の状態の一例である疾患状態において、疾患の進行とともに消化分解または翻訳合成されるタンパク質の種類や生成する部分タンパク質や部分ペプチドの種類や量が変動することを見出した。本発明者らは、生体から得た生体試料中のこれらのタンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの種類および量を測定することにより、正常状態と正常以外の状態を正確に判別することができ、さらに正常以外の状態において、疾患の進行度等を評価することができることを見出した。本発明者らは、さらに、これらのタンパク質や消化分解産物タンパク質や消化分解産物ペプチド等の部分タンパク質や部分ペプチドを酵素免疫吸着測定法や質量分析法を用いることにより、一度に多数のタンパク質および消化分解産物タンパク質や消化分解産物ペプチド等の部分タンパク質や部分ペプチドを測定することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の態様は、以下の通りである。
[1] 正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において該インタクトなタンパク質の少なくとも1つの部分タンパク質または部分ペプチドとして存在する場合、該タンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する方法であって、生体試料中の該インタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドの種類、存在量および/または存在比を測定し、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得ることを含む、生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する方法。
[2] 正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において少なくとも1つの消化分解産物タンパク質またはペプチドに消化分解される場合、タンパク質、消化分解産物タンパク質および消化分解産物ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する方法であって、生体試料中の該インタクトなタンパク質、消化分解産物タンパク質および/または消化分解産物ペプチドの種類、存在量および/または存在比を測定し、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得ることを含む、生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する[1]の方法。
[3] 2種類以上のインタクトなタンパク質、部分タンパク質、部分ペプチド、消化分解産物タンパク質および/または消化分解産物ペプチドをマーカーとして用いる[1]または[2]の方法。
[4] インタクトなタンパク質が血液中に存在するタンパク質である[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5] 部分タンパク質または部分ペプチドが正常状態の生体におけるインタクトなタンパク質のプロテアーゼの作用による消化分解産物である[2]〜[4]のいずれかの方法。
【0009】
[6] 部分タンパク質または部分ペプチドが正常状態の生体におけるインタクトなタンパク質の部分的発現産物である[1]、[3]および[4]のいずれかの方法。
[7] 正常状態以外の状態が、炎症、前がん病変、がんまたは進行がんである[1]〜[6]のいずれかの方法。
[8] 正常状態、慢性肝炎、肝硬変および肝がんを評価判別し得る[1]〜[7]のいずれかの方法。
[9] 検出が酵素もしくは蛍光標識抗体法または質量分析法により行われる[1]〜[8]のいずれかの方法。
[10] 正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において該インタクトなタンパク質の少なくとも1つの部分タンパク質または部分ペプチドとして存在する場合、該タンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別するための装置であって、インタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドに特異的に結合する物質を含む捕捉部、測定部および解析部を含む装置。
【0010】
[11] 正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において少なくとも1つの消化分解産物タンパク質またはペプチドに消化分解される場合、該タンパク質、消化分解産物タンパク質および消化分解産物ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別するための装置であって、インタクトなタンパク質、消化分解産物タンパク質および/または消化分解産物ペプチドに特異的に結合する物質を含む捕捉部、測定部および解析部を含む[10]の装置。
[12] 免疫沈降および質量分析によりタンパク質/部分ペプチドプロファイルを得る、[10]または[11]の装置。
[13] 捕捉部がインタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドに特異的に結合する抗体またはアプタマーを固相化した担体である[10]〜[12]のいずれかの装置。
[14] 測定部が光検出手段または質量分析計である[10]〜[13]のいずれかの装置。
[15] 正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において該インタクトなタンパク質の少なくとも1つの部分タンパク質または部分ペプチドとして存在する場合、該タンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、正常以外の状態の病態、または進行度を評価判別するためのキットであって、少なくともインタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドに特異的に結合する物質を固相化した担体を含むキット。
【0011】
[16] 正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において少なくとも1つの消化分解産物タンパク質またはペプチドに消化分解される場合、該タンパク質、消化分解産物タンパク質および消化分解産物ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、正常以外の状態の病態、または進行度を評価判別するためのキットであって、少なくともインタクトなタンパク質、消化分解産物タンパク質および/または消化分解産物ペプチドに特異的に結合する物質を固相化した担体を含む[15]のキット。
[17] インタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドに特異的に結合する物質が抗体またはアプタマーである[15]または[16]のキット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被験体由来の生体試料中の少なくとも1つのインタクトなタンパク質および/または該タンパク質の少なくとも1つの消化分解産物タンパク質や消化分解産物ペプチド等の部分タンパク質や部分ペプチドの種類および量を計測することにより、被験体が正常状態にあるか、あるいは正常以外の状態にあるかを評価判別することができる。また、正常以外の状態が疾患である場合に、疾患の重篤度、すなわち病態の進行度がどの程度かも評価判別することができる。
【0013】
本発明は、また精度および特異性の両方が極めて高い診断システムを提供する。本発明によって精度の高い診断がはじめて可能になる。また、本発明によって、疾患の早期診断が可能になる。本発明の対象疾患は多岐にわたり、多くの薬剤効果判定においても有用性が高い。
【0014】
たとえば、アルツハイマー病においては、前述のようにアミロイドベータタンパク質の難溶性分解産物であるAβ42が、疾患特異的に活性化されるタンパク質分解酵素であるセクレターゼによってインタクトなタンパク質であるアミロイドタンパク質前駆体(APP; Amyloid precurcer protein)の分解がおこることで骨髄液や血液中に検出される。しかしながら、その検出において、早期診断において疾患の発症のタイミングを精度よく検出できるだけの診断精度はない。一方でセクレターゼの活性化を体外でモニターできる手段はない。本発明によってセクレターゼによって分解される複数のタンパク質およびその消化分解産物ペプチドをモニターすることで高精度のアルツハイマー診断システムが提供できる。
【0015】
がんにおいては、がん細胞の発生と同時に、がん細胞が1個または複数個の状態においてすら、まわりの正常細胞を押しのけて増殖する環境にある。その際、正常組織は細胞外マトリックス(ECM)によって細胞同士が接着し組織構築を形成しており、がん細胞はこれを破壊しなければ増殖できない。そこでがん細胞は細胞膜に存在するマトリックスメタロプロテアーゼ(膜型マトリックスメタロプロテアーゼI型;MT1-MMP)によってI型コラーゲンをはじめとする細胞外マトリックスを構成するタンパク質を分解しつつ増殖すると考えられている。またがん組織の繊維芽細胞が発現する膜型マトリックスメタロプロテアーゼII型;MT2-MMPも知られている。とくに転移能が強いがん細胞や悪性化が強く血管
新生能が強いがん細胞の場合は、マトリックスメタロプロテアーゼの活性が高いことが知られており、MT2-MMP欠損マウスでは血管新生や腫瘍増殖能の抑制が報告されている。マトリックスメタロプロテアーゼによって分解される細胞外マトリックスを構成するタンパク質の分解状態と消化分解産物のペプチド、また血液中に存在する血清、血漿タンパク質もこれらのプロテアーゼなどによって分解されると考えられ、本発明によって病変部におけるタンパク質分解酵素の活性化やそれらの分解ペプチドを血液中に検出する手段を提供することができ、高精度のがん診断システムが実現できる。
【0016】
さらに、本発明は、製品としては、体外診断薬分野における診断システム、検査薬キットならびに関連する診断サービス、医療機関や検査診断会社、患者個人からの受託解析ならびに公的研究機関や製薬企業からの受託研究などに応用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、被験体の生体内において正常状態ではインタクトなタンパク質として存在するが、生体が正常以外の状態では該インタクトなタンパク質の部分タンパク質または部分ペプチドが生じるとき、インタクトなタンパク質、部分タンパク質および/またはその部分ペプチドの種類および量を検出すると同時に、インタクトなタンパク質とその部分タンパク質とその部分ペプチドの種類と量の変動を検出することにより被験体が正常状態であるか正常以外の状態であるか、正常以外の状態である場合の病態、または疾患に罹患している場合の疾患の進行度を評価判別する方法である。なお、ペプチドは、一般的には分子量1万以下のアミノ酸が連結したものをいい、アミノ酸残基の数としては数個から50個以下程度のものをいう。本発明においては、インタクトなタンパク質の部分タンパク質および/または部分ペプチドをバイオマーカーとして用い得るが、部分ペプチドという場合、インタクトなタンパク質の有するアミノ酸配列の一部の部分的アミノ酸配列を有するペプチドであって分子量1万以下のものをいい、部分タンパク質という場合、インタクトなタンパク質の有するアミノ酸配列の一部の部分的アミノ酸配列を有するタンパク質であって分子量1万を超えるものをいう。本発明において、インタクトなタンパク質の部分タンパク質および部分ペプチドとは、インタクトなタンパク質の有するアミノ酸配列の一部の部分的アミノ酸配列を有するタンパク質およびペプチドをいい、転写・翻訳による発現合成過程で部分タンパク質または部分ペプチドとして生成する場合と、インタクトなタンパク質として合成された後に、生体内で消化分解を受けて消化分解産物タンパク質または消化分解産物ペプチドとして生成する場合がある。この原因としては、生体が正常以外の状態にあるときに、タンパク質の合成および制御機構が脱制御されることが挙げられる。すなわち、本発明は、生体内のタンパク質の発現合成および/または消化分解を指標として被験体が正常状態であるか正常以外の状態であるかを判別し、また正常以外の状態である場合の病態、または疾患に罹患している場合の疾患の進行度をも評価判別する方法でもある。ここで、評価判別とは、被験体が正常であるか正常以外の状態であるかの決定、被験体が疾患に罹患しているか否かの決定(疾患の診断)、被験体が疾患に罹患している場合の疾患の重篤度の決定および被被験体の疾患に罹患するリスクの決定等をいう。
【0018】
生体が疾患に罹患している等、正常以外の状態にある場合において、正常状態ではインタクトで存在する少なくとも1つのタンパク質が、正常以外の状態において影響を受けその部分タンパク質や部分ペプチドが生成する場合がある。また、インタクトなタンパク質自体の発現合成が影響を受け、インタクトなタンパク質の生成量が変動する場合もある。例えば、正常以外の状態において、タンパク質の発現系が影響を受け、タンパク質の合成量が少なくなるかまたは消失するように変動することがある。また、タンパク質の発現において、転写過程でスプライシングを受け、インタクトなタンパク質の部分タンパク質や部分ペプチドが発現される場合もある。さらに、インタクトなタンパク質として発現合成されたタンパク質が生体内で消化分解されて消化分解産物である少なくとも1つの特定の部分タンパク質断片や部分ペプチド断片を生じることがある。この際に、発現合成が影響されまたは消化分解を受けるタンパク質の種類および量は、正常以外の状態の種類および程度により、例えば疾患の種類や疾患の進行度により異なり、さらに、生成する発現物である部分タンパク質もしくは部分ペプチドまたは消化分解産物であるタンパク質断片もしくはペプチド断片の種類および量も、正常以外の状態の種類および程度により、例えば疾患の種類や疾患の進行度により異なる。すなわち、ある被験体から血清等の生体試料を採取し、試料中のタンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの種類とそれぞれの種類の量を測定した場合、タンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの種類およびそれぞれの量についての情報を含む該試料の特徴あるタンパク質/部分ペプチドプロファイルが得られる。ここで、タンパク質/部分ペプチドプロファイルとは、インタクトなタンパク質、その部分タンパク質およびその部分ペプチドの種類および存在量で示されるタンパク質、その部分タンパク質およびその部分ペプチドの存在パターンをいう。部分タンパク質または部分ペプチドがインタクトなタンパク質の分解産物である場合、タンパク質/消化分解産物ペプチドプロファイルという。このタンパク質/部分ペプチドプロファイルを分析することにより、被験体が正常状態にあるか、または正常以外の状態であるか、さらにどの程度正常を逸した状態であるかを知ることができる。この点、本発明の方法により、病態を判断することができ、本発明において、タンパク質、その部分タンパク質およびその部分ペプチドは病態判別バイオマーカーとして用いることができる。
【0019】
本発明において、バイオマーカーとして少なくとも一つのタンパク質、部分タンパク質または部分ペプチドを用いることができるが、好ましくは2種類以上、さらに好ましくは3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上または10種類以上のタンパク質、部分タンパク質または部分ペプチドを用いる。この場合、異なるタンパク質の組合わせでもよいし、あるタンパク質とそのタンパク質以外のタンパク質の部分ペプチドあるいは部分ペプチドの組合わせであってもよい。また、複数のインタクトなタンパク質のみをバイオマーカーとしてもよい。このように、複数のタンパク質、部分タンパク質または部分ペプチドをバイオマーカーとして用いることにより、正常または正常以外の状態をより正確に判断することができ、また正常以外の状態、例えば疾患の進行状態を的確に判断することができる。
【0020】
なお、本発明において、バイオマーカーを定量してもよいし、定性により存在、非存在を決定してもよい。同じ種類のタンパク質、部分タンパク質または部分ペプチドをバイオマーカーとして用いる場合、各バイオマーカーを定量し、正確な濃度を得た上で、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得た方が正確な判断をし得るが、バイオマーカーの種類が増える場合、それぞれのバイオマーカーの存在または非存在を定性的に測定し、存在または非存在に関するタンパク質/部分ペプチドプロファイルを得れば正確な判断が可能になる。
【0021】
ここでインタクトなタンパク質とは、正常状態で合成され生体中に存在するタンパク質をいい、プレプロタンパク質、プロタンパク質等プロセシングされる前のタンパク質やプロセシングを受けたタンパク質も含まれる。タンパク質の分解とは細胞内で起こるプロセシングやタンパク質の寿命による分解を主とするペプチド断片生成を伴うタンパク質の構造変化とし、タンパク質の消化分解とはこれに加えて細胞外でおこる部分タンパク質断片やペプチド断片を生ずるタンパク質分解を含めたものと定義する。
【0022】
本発明において、生体の正常状態とは、健常状態をいい、典型的には疾患に罹患していない状態をいう。この場合の疾患に罹患しているとは、臨床的に疾患が特定できる場合をいう。一方、正常以外の状態とは、疾患に罹患している状態ばかりではなく、臨床症状は顕在化していないが、将来において疾患に罹り得る状態も含む。例えば、がんに罹患しているか否かは、実際に病理組織の顕微鏡的変化の観察等によりがん組織の存在を発見して初めて判別することができる。しかし、現実には、一連のがんの進行において、正常状態から炎症が生じ、次いで前がん病変が現われ、次いでがんが発生し、さらに進行がんに発展するというように、正常状態から連続的に重篤な疾患へと進んでいく。本発明においては、疾患の進行に伴い特定の1つ以上のタンパク質が発現に関して影響を受け、または消化分解を受け消化分解産物タンパク質や消化分解産物ペプチド等の部分タンパク質や部分ペプチドが生じることに鑑み、該タンパク質およびその1つ以上の部分タンパク質や部分ペプチドからなるタンパク質/部分ペプチドプロファイルを得ることにより、被験体が正常状態であるかどうかを判別することができる。また、正常以外の状態が疾患に罹患している状態である場合に、どの程度疾患が進行した状態であるかを評価判別することが可能になる。さらに、正常ではないが疾患の重篤度が低い場合、将来的に正常状態に戻ることもあれば、より重篤な疾患へと進行することもある。例えば、炎症にかかっている場合、他の病気と同様に、将来的に炎症が治まり正常状態へ戻ることがあるが、炎症の場合は、前がん病変、がん、進行がんへと発展していくことがある。このような場合、炎症はがんに進行するリスクが高いといえる。
【0023】
本発明の方法によれば、被験体の疾患に罹患するリスクの大きさも評価することができ、予防医学にも有用である。さらに、疾患に罹患した患者に投薬治療を行った場合、状態は逆の方向に進み、それに応じてタンパク質/部分ペプチドプロファイルも変動する。これを測定することにより、投薬効果の評価判定を行うこともできる。例えば、ある疾患においてあるタンパク質の部分タンパク質や部分ペプチドが生成する場合、該部分タンパク質や部分ペプチドの存在は生体が疾患に罹患している状態を反映し、該部分タンパク質や部分ペプチドの非存在は生体が疾患に罹患していない状態を反映する。疾患に罹患している生体に該疾患の治療薬である薬剤を投与した場合、疾患が治癒することにより、前記部分タンパク質や部分ペプチドの生体内の存在量が低下するかまたは消失する。従って、該部分タンパク質や部分ペプチドは、薬剤効果判定エンドポイントのためのバイオマーカーとなり得る。本発明の方法により、薬剤効果判定エンドポイントのためのバイオマーカー探索が可能になる。また、疾患の予後を予測することも可能である。さらに、本発明の方法により、創薬ターゲット生体分子をスクリーニングすることができる。生体内のインタクトなタンパク質の多くは生理活性タンパク質として作用している。生体が正常状態にあるときは、該タンパク質の生理活性は、発現合成量の制御、酵素によるプロセシング、酵素による活性化等により制御されている。生理活性を有するインタクトなタンパク質は、その活性を制御する制御部位と活性を発揮する活性部位を有する場合があり、インタクトなタンパク質全体として、生体の状態により活性が制御されている。しかしながら、生体が正常以外の状態にある場合、インタクトなタンパク質の発現が影響を受け、または消化分解されて部分タンパク質や部分ペプチドが生じた場合、部分タンパク質や部分ペプチド自体が活性部位を有しているが、制御部位を有していない場合、生体の状態による活性の制御を受けなくなる場合がある。この場合、部分タンパク質や部分ペプチドは、生体の状態に拘わらず作用し、結果として生体を正常以外の状態、例えば疾患状態に誘導してしまう。また、部分タンパク質や部分ペプチド自体が制御部位を有している場合もあり、この場合は、本来インタクトなタンパク質が受けるべき制御を部分タンパク質や部分ペプチドが受け、ドミナントネガティブ効果により、インタクトなタンパク質が活性の制御から逸脱してしまう。この場合も、部分タンパク質や部分ペプチドの影響で生体を正常以外の状態、例えば疾患状態に誘導してしまう。このように、部分タンパク質や部分ペプチドが疾患等の正常以外の状態の原因物質となっている場合、この部分タンパク質や部分ペプチドの活性を抑えることにより、正常以外の状態を正常状態に回復させることができる。本発明の方法においては、正常以外の状態におけるタンパク質/部分ペプチドプロファイルを得ることができ、部分タンパク質や部分ペプチドの活性を分析することにより、疾患等の原因となる部分タンパク質や部分ペプチドを決定することができる。すなわち、本発明の方法により、創薬ターゲット生体分子をスクリーニングすることができる。
【0024】
その他、本発明において生体の正常状態には、軽い炎症を有している状態、ストレスを受けている状態、妊娠状態等疾患とは言えないが健常ではない状態も含む。疾患とはい得ないこのような状態においても、正常状態では生体内でインタクトなタンパク質として存在するタンパク質の発現が影響を受け、または該タンパク質が消化分解を受け、その部分消化分解産物タンパク質、部分消化分解産物ペプチド、部分的発現産物タンパク質、部分的発現産物ペプチド等の部分タンパク質や部分ペプチドが生成し、タンパク質/部分ペプチドプロファイルが変動し得る。
【0025】
本発明が対象とする正常以外の状態は、限定されないが、例えば、進行がん、がん、前がん病変、前がん病変を呈する前の炎症状態が挙げられる。ここで、前がん状態とは、ほとんどの例で悪性新生物の発生が起こると考えられる状態をいい、臨床的に、または病理組織の顕微鏡的変化によって認められる場合も認められない場合も含む。がんとしては、食道がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん、膵がん、胆管がん、乳がん、肺がん、肺腺がん、腎がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮体がん、子宮頚がん、鼻咽喉がん、甲状腺がん、卵巣がん、皮膚がん、白血病、骨髄腫、リンパ腫、リンパ肉腫等が含まれ、前がん状態として、これらのがんが発生した初期の状態が含まれる。さらに、例えば、胃潰瘍、胃炎、肝炎、肝硬変、肺線維症等が含まれる。さらに、疾患またはそれに類する状態ばかりではなく、生体がストレスを受けている状態、妊娠している状態等も本発明の方法により、判別することができる。ここで、ストレスを受けている状態とは、高温や低音による刺激、放射線や騒音による刺激などの物理的ストレッサー、酸素の欠乏・過剰、薬害、栄養不足などの化学的ストレッサー、病原菌の侵入などの生物的ストレッサー、人間関係トラブル、精神的な苦痛、怒り・不安・憎しみ・緊張などの精神的ストレッサー等の何らかの刺激が生体に加えられた結果、生体が変調を示している状態をいう。
【0026】
本発明において、正常状態においてインタクトな状態で存在するタンパク質が、正常以外の状態で発現に影響を受けインタクトなタンパク質の生成量が変動し、またはインタクトな状態で存在するタンパク質の部分タンパク質や部分ペプチドが生成するメカニズムは限定されない。
【0027】
例えば、正常以外の状態になるとタンパク質の転写・翻訳系が影響を受け、タンパク質の合成が減少し、または阻害され、合成されるインタクトなタンパク質の量が変動する。また、インタクトなタンパク質の転写においてスプライシングが異常になり、タンパク質の部分タンパク質や部分ペプチドが合成される。すなわち、インタクトなタンパク質が有するアミノ酸配列の部分的アミノ酸配列を有する部分タンパク質や部分ペプチドが合成される。
【0028】
さらに、インタクトなタンパク質が消化分解されるメカニズムは限定されないが、主に正常以外の状態におけるタンパク質分解酵素の活性化、高発現が挙げられる。例えば、がん状態或いは前がん状態において、細胞において、マトリックスメタロプロテアーゼ等のメタロプロテアーゼ、エラスターゼ、カテプシン等が活性化される。本発明においては、これらのプロテアーゼによるタンパク質の消化分解も含まれるが、他のプロテアーゼによる消化分解や、プロテアーゼによらない消化分解も含まれる。また、正常状態においてインタクトな状態で存在するタンパク質が、正常以外の状態で消化分解されるメカニズムは一つではなく、複数のメカニズムが関与し得る。例えば、疾患の進行状態において、活性化されるプロテアーゼの種類や活性化の程度が異なれば、消化分解を受けるタンパク質の種類やタンパク質の消化分解を受ける部位も変わり、また消化分解産物の種類や量比も変わる。従って、タンパク質/消化分解産物ペプチドプロファイルが疾患の種類や進行度によって変動する。
【0029】
インタクトなタンパク質がプロテアーゼにより消化分解されて消化分解産物タンパク質または消化分解産物ペプチドを生成する場合、本発明の方法によりプロテアーゼの量および/または活性を計測することも可能である。従って、本発明の方法は、生体内のタンパク質を分解するプロテアーゼの量および/または活性を計測することにより、生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する方法をも包含する。
【0030】
対象とするインタクトなタンパク質も限定されず、正常状態ではインタクトなタンパク質として生体内に存在するタンパク質であって、生体が正常以外の状態にある場合に、合成が減少または消失するか、転写・翻訳過程でスプライシングを受け部分タンパク質や部分ペプチドとして合成されるか、または消化分解されて消化分解産物タンパク質や消化分解産物ペプチドを生じるあらゆるタンパク質が含まれる。このようなタンパク質は、例えば正常状態にある被験体の血清等の体液および正常以外の状態にある被験体の血清等の検体試料を等電点電気泳動およびSDS-PAGEを組み合せた二次元電気泳動に同時にかけ、電気泳動により移動したタンパク質を適当な方法で染色しスポットとして顕在化させた場合に、正常状態では存在し、正常以外の状態では消失または薄くなるスポットのタンパク質が挙げられる。従って、正常状態の被験体から得た生体試料と疾患患者から得た生体試料について二次元電気泳動を行ったときは、後者で消失または薄くなったスポットのタンパク質を選択することができる。二次元電気泳動は公知の方法で行うことができ、また市販の電気泳動装置を用いて行うことができる。また、二次元電気泳動の代わりに、例えば2種類のクロマトグラフィーを用いた、二次元HPLCを用いてもよい。この場合の2種類のクロマトグラフィーは、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等の公知のクロマトグラフィーから選択すればよい。この際、二次元HPLCを自動的に行い各画分について自動的に質量分析を行う自動装置を用いることにより、一度の大量の試料を迅速に調べることができる。タンパク質として、例えば、血液中に存在する血清、血しょうタンパク質が挙げられる。血液中に存在する血清、血しょうタンパク質とは、生体内で産生され、血液中に分泌され得るタンパク質をいう。血液中に存在するタンパク質は、疾患に罹患している生体の病変部を通過する際に、病変部で活性化されたプロテアーゼにより消化分解され得る。具体的には、例えば、α1-アンチトリプシン、ハプトグロビン、ブラディキニン、補体C3f、アポリポプロテインC1、フィブリノゲンα鎖、フィブリノペプチドA like、補体C4A、アポリポプロテインA1、インターαトリプシンインヒビター、α2マクログロブリン、ゲルソリン(Gelsolin)、ヘパリンコファクターII等が挙げられる。本発明の方法において、バイオマーカーとして用い得るタンパク質の例として、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、28に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。正常状態と正常以外の状態でプロファイルが変動する部分タンパク質または部分ペプチドがどのインタクトタンパク質に由来するかは、両者のアミノ酸配列を比較することにより決定することができる。なお、これらの部分タンパク質や部分ペプチドに糖鎖が付加されている場合もある。上記タンパク質の部分タンパク質や部分ペプチド等、本発明の方法においてバイオマーカーの例として、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、27、29に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。本発明は、これらの部分ペプチドも包含する。本発明は、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、27、29に表されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、付加したアミノ酸配列からなるペプチドも含み、これらのペプチドも本発明の方法においてバイオマーカーとして用いることができる。ここで、「1個または数個」とは「1個または3個」、「1個または2個」または「1個」をいう。
【0031】
なお、疾患によっては、インタクトなタンパク質、その部分タンパク質またはその部分ペプチドに糖鎖が付加されることがある。本発明は、これらの糖鎖の付加を指標に正常状態と正常状態以外の状態等を評価判別する方法も包含し、これらの糖鎖が付加したタンパク質、部分タンパク質、部分ペプチドもバイオマーカーとして用い得る。
【0032】
図1に本発明の概念を示す。図1では、種々の正常以外の状態において、正常状態でインタクトなタンパク質の変動の例を示してある。図1では、正常以外の状態が心筋梗塞、高血圧およびがんの場合を示してあるが、変動の態様は様々であり、図1の例には限定されない。例えば、ある疾患D1において(図1左)、正常状態でインタクトなタンパク質として存在しているタンパク質Xが消化分解され、ペプチドA、BおよびCが生成する。また、別の疾患D2において(図1中央)、タンパク質XはD1の場合とは別の部位で消化分解を受け、ペプチドDおよびEが生成する。典型的には、タンパク質Xはプロテアーゼにより消化分解され、疾患D1と疾患D2で活性化するプロテアーゼが異なり、消化分解を受ける部位が異なってくる。また、図1ではタンパク質が消化分解を受ける場合の例を示してあるが、疾患D1においてタンパク質Aの転写翻訳機構が影響を受け、ペプチドA、BおよびCが発現合成されることもある。さらに別の疾患D3において(図1右)、正常状態でインタクトなタンパク質として存在している別のタンパク質Yが消化分解され、ペプチドF、GおよびHが生成する。図では、インタクトなタンパク質、消化分解されたペプチド、ならびにペプチドの質量分析計による分子量測定の結果を示してある。図には示されていないが、インタクトなタンパク質量も消化分解を受けることにより減少するか、または消失する。各疾患において存在するインタクトなタンパク質および各ペプチドの種類および量が各疾患におけるタンパク質/部分ペプチドプロファイルであり、該プロファイルを得ることで被験体が正常状態にあるか、正常以外の状態にあるかを知ることができ、さらに正常以外の状態がどういう状態かを知ることができる。すなわち、あらかじめ、各状態とタンパク質/部分ペプチドプロファイルを関連付けておくことにより、得られたプロファイルから状態を評価判別することができる。勿論、この際インタクトなタンパク質、それぞれのペプチドのすべてについてのプロファイルを得る必要は必ずしもなく、そのうちの一つ以上の変動を知ることにより、被験体が正常状態にあるか、正常以外の状態にあるかを知ることができ、さらに正常以外の状態がどういう状態かを知ることができる。また、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得る場合、特定のインタクトなタンパク質を対象にしてもよいし、タンパク質を限定せず、生体試料中に存在するタンパク質およびその部分ペプチドのプロファイルを網羅的に得てもよい。このように網羅的なプロファイルを得ることにより、インタクトなタンパク質から部分ペプチドの変動に関連したあらゆる正常以外の状態を判定することができる。
【0033】
図2は、正常以外の状態において、タンパク質が消化分解されて部分ペプチドが生成するメカニズムを示す。図2は例としてがんの場合を示してある。図2もメカニズムの一例であり、このメカニズムには限定されない。図2の場合、がん細胞においてプロテアーゼが活性化し、がん細胞周辺の血管中でのプロテアーゼ活性が高まる、正常状態でインタクトな状態で存在するあるタンパク質は、がん細胞においてもインタクトなタンパク質として合成されるが、細胞から外の血液中に分泌されるとがん細胞周囲の血管中のプロテアーゼの作用により消化分解を受け、消化分解を受けたペプチドが血液中に存在するようになる。図2の右は正常状態でのタンパク質/部分ペプチドプロファイル(上)およびがん等の正常以外の状態でのタンパク質/部分ペプチドプロファイル(下)を示す。図2右に示されるように、正常状態では、血液中にインタクトなタンパク質(図2右上の矢印)が多く存在するが、正常以外の状態では、インタクトなタンパク質が消化分解を受けて部分ペプチドへと変化するので、インタクトなタンパク質(図2右下の矢印)の量が減少し、それよりも分子量の小さい部分ペプチド(図2右下における、矢印のピークよりも左側に存在するピーク)の量が増加する。なお、図2ではインタクトなタンパク質ががん細胞で合成される場合を示してあるが、インタクトなタンパク質の合成部位は限定されない。例えば、がん部から離れた生体組織において合成されたインタクトなタンパク質が血液中に分泌された場合、がん細胞の周辺の血管を通過する際に、その部分の血管内でプロテアーゼ活性が高まっていることがあり、消化分解を受け得る。
【0034】
図3は、正常以外の状態において、タンパク質が部分的に発現されて部分ペプチドが生成するメカニズムを示す。図3の左上の矩形部は、細胞を示す。細胞内のリボソームによりタンパク質が合成されるが、正常状態ではインタクトなタンパク質が合成され、インタクトなタンパク質として分泌される(図3左上矩形部内の右)。一方、正常以外の状態では、細胞内のプロテアーゼが活性化し、インタクトなタンパク質が消化分解を受け、部分ペプチドとして分泌される。このため、正常状態の血液中のタンパク質/部分ペプチドプロファイルは、図3の右のようになり、正常以外の状態の血液中のタンパク質/部分ペプチドプロファイルは、図3の下のようになる。プロファイルを示す図中の矢印、およびピークの意味は図2と同様である。
【0035】
本発明の方法において、生体試料中のタンパク質/部分ペプチドプロファイルを調べるが、用いる生体試料は限定されない。例えば、生体から採取し得る液体試料、例えば全血、血清、血しょう、尿、唾液等が挙げられる。なお、生体試料の保存状態によっては、生体試料中のタンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドがさらに分解を受けることもあるので、生体試料は凍結融解を繰り返さずに用いるのが好ましい。また、生体試料中にプロテアーゼインヒビター等を添加してもよい。
【0036】
生体試料中のタンパク質の種類および量は種々の方法で測定することができる。以下に例示するが、それらには限定されない。以下の例では、インタクトなタンパク質とその部分ペプチドの例について示してあるが、部分ペプチドの代わりに部分タンパク質を用いてもよい。
【0037】
1.酵素免疫吸着測定法(ELISA)
特定のインタクトなタンパク質とその部分ペプチドに対する抗体をあらかじめ特殊な化学修飾をしたマイクロタイタープレート等の担体に結合させる。結合は、物理的吸着、官能基を利用した共有結合等、公知の方法で行うことができる。使用する抗体は(1)特定のタンパク質の完全長のみを認識する抗体、(2)部分ペプチドのみを認識する抗体、(3)特定のタンパク質とその部分ペプチドの両方を認識する抗体のすべて、または上記(1)と(2)、(1)と(3)、もしくは(2)と(3)の組み合わせでもよい。試料を原液または緩衝液で段階希釈後、抗体を結合させたマイクロタイタープレートにこれを適当量加え、インキュベーションする。その後洗浄し、捕捉されなかったタンパク質および部分ペプチドを除く。次に蛍光もしくは化学発光物質または酵素を結合させた2次抗体を加えインキュベーションする。検出はそれぞれの基質を加えた後、蛍光もしくは化学発光物質または酵素反応による可視光を計測することによって評価判定を行う。
【0038】
また、部分ペプチドがより多くなる場合は、用いる抗体の種類を多くし、あるいは組合わせを多くすればよい。
【0039】
この例は、抗体を用いた方法であるが、抗体の代わりにインタクトなタンパク質またはその部分ペプチドに結合し得る物質を用いてもよい。例えば、アプタマー等を用いることができる。
【0040】
本発明は、酵素免疫吸着測定法により、正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において少なくとも1つの部分ペプチドとして生成するタンパク質、例えば消化分解ペプチドに消化分解されるタンパク質において、生体試料中の該インタクトなタンパク質およびその部分ペプチドの種類および存在量もしくは存在比を検出することを含む、生体の正常状態と正常以外の状態を評価判別するための装置をも包含する。該装置は、少なくとも抗体もしくはアプタマー固定部(捕捉部)ならびに測定部を含む。抗体またはアプタマー固定部は、抗体またはアプタマーを固相化したスライドガラス、96ウェルタイタープレート等の固相担体からなる。また、測定部は、分光光度計、蛍光分光光度計等の光検出手段からなる。さらに、本発明の装置は、得られたデータを解析する解析部を含んでいてもよく、解析部はデータ処理装置および解析用ソフトウェアを含む。
【0041】
2.マイクロアレイ(マイクロチップ)を用いた方法
マイクロアレイとは、担体(基板)上に測定しようとする物質に結合し得る物質を整列(アレイ)固定化させたデバイスを総称していう。本発明の場合、上記1のように、インタクトなタンパク質および部分ペプチドに対する抗体またはアプタマーを整列固定化させて用いればよい。マイクロアレイの担体としては、スライドガラス、ニトロセルロース膜等種々のものを用いることができる。固定化は、上記1の場合と同様に行うこともできるが、市販のマイクロアレイヤーやスポッターを用いることにより容易に行うことができる。マイクロアレイ法においては、固相化量は少なくてすみ、測定しようとするタンパク質濃度もフェクトモルオーダーで足りる。また、一枚の担体の上に数百から数万の物質を整列固定化することが可能であるので、測定しようとするタンパク質および部分ペプチドの種類および量が多い場合に適している。測定は、上記1と同様に、固相化した抗体等に、生体試料を添加し、マイクロアレイ上に測定しようとするタンパク質または部分ペプチドを結合させ、次に蛍光もしくは化学発光物質または酵素を結合させた2次抗体を加えインキュベーションする。検出はそれぞれの基質を加えた後、蛍光もしくは化学発光物質または酵素反応による可視光を計測すればよい。
【0042】
本発明は、マイクロアレイを用いた方法により、正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において少なくとも1つの部分ペプチドとして生成するタンパク質、例えば消化分解ペプチドに消化分解されるタンパク質において、生体試料中の該インタクトなタンパク質およびその部分ペプチドの種類および存在量もしくは存在比を検出することを含む、生体の正常状態と正常以外の状態を評価判別するための装置をも包含する。該装置の構成は、上記1に記載の装置の構成と同様である。
【0043】
3.質量分析法
タンパク質および分解産物ペプチド等の部分ペプチドを質量分析計を用いた質量分析法により解析することもできる。質量分析計は、試料導入部、イオン化室、分析部、検出部、記録部等を含む。イオン化法としては電子衝撃イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、フィールドデソープション(FD)法、二次イオン化(SIMS)法、高速原子衝突(FAB)法、matrix-assisted laser desorption ionization(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法等を用いればよい。また、分析部は、二重収束質量分析計、四重極型質量分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計等が用いられる。
【0044】
例えば、特定のタンパク質とその部分ペプチドに対する抗体をあらかじめ特殊な化学修飾をしたマイクロビーズもしくは基板(プロテインチップ)に結合させる。マイクロビーズは磁気ビーズであってもよい。基板の素材は問わない。使用する抗体は(1)特定のタンパク質の完全長のみを認識する抗体、(2)部分ペプチドのみを認識する抗体、(3)特定のタンパク質とその部分ペプチドの両方を認識する抗体のすべて、または上記(1)と(2)、(1)と(3)、もしくは(2)と(3)の組み合わせでもよい。試料を原液または緩衝液で段階希釈後、抗体を結合させたマイクロビーズまたは基板にこれを適当量加え、インキュベーションする。その後洗浄し、捕捉されなかったタンパク質および部分ペプチドを除く。その後、マイクロビーズまたは基板上に捕捉されたタンパク質および部分ペプチドをMALDI-TOF-MS、SELDI-TOF-MSなどを用いた質量分析によって分析し、各タンパク質および部分ペプチドのピークの質量数とピーク強度を計測する。SELDIとはチップ表面の化学官能基や固定化された分子を利用して、試料中から特定の性質を有する分子をチップ上に捕捉し、その後にレーザーを照射することにより捕捉された分子の脱離・イオン化を行う方法をいう。質量分析の前にトリプシンなどの特定のタンパク質分解酵素によってすべてペプチドに分解してもよい。これらの計測から得られたタンパク質および部分ペプチドの質量分析ピーク(質量スペクトル)とピークパターン(質量スペクトルパターン)をソフトウェアによって解析し、試料の評価判定を行う。質量分析による質量スペクトルおよび質量スペクトルパターンからインタクトなタンパク質およびその部分ペプチドの生体試料中での存在パターンがわかり、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得ることができる。
【0045】
本発明は、質量分析を用いた方法により、正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において少なくとも1つの部分ペプチドとして生成するタンパク質、例えば消化分解ペプチドに消化分解されるタンパク質において、生体試料中の該インタクトなタンパク質およびその部分ペプチドの種類および存在量もしくは存在比を検出することを含む、生体の正常状態と正常以外の状態を評価判別するための装置をも包含する。該装置は、少なくとも抗体もしくはアプタマー固定部(捕捉部)ならびに質量分析計(測定部)を含む。さらに、本発明の装置は、得られたデータを解析する解析部を含んでいてもよく、解析部はデータ処理装置および解析用ソフトウェアを含む。
【0046】
さらに、上記の方法の他、二次元電気泳動を用いた方法、表面プラズモン共鳴を用いた方法等によっても、タンパク質および部分ペプチドを解析することが可能である。
【0047】
従来の技術では、体の正常と正常以外の状態におけるインタクトなタンパク質だけを計測しており、その合成過程において生成する部分タンパク質およびその分解過程で生ずる消化分解産物のペプチドを計測することはできなかった。またインタクトなタンパク質とその合成過程において生成する部分タンパク質およびその分解過程で生ずる消化分解産物のペプチドの両方を計測できる装置も存在しなかった。
【0048】
本発明の方法により従来達成できなかった病態特異的バイオマーカーを診断に利用できるようになる。本発明で提供する手段と方法は、生体の正常と正常以外の状態におけるインタクトなタンパク質および/またはその合成過程において生成する部分タンパク質ならびにインタクトなタンパク質および/またはその分解過程で生ずる消化分解産物のペプチドの計測を可能にする。
【0049】
計測対象物のインタクトなタンパク質とその合成過程において生成する部分タンパク質およびその分解過程で生ずる消化分解産物のペプチドに対して作製したそれぞれの抗体を使用することで、計測対象物を選択的に捕捉することができ、従来技術のELISA、RIA、CLIAなどを使用してそれぞれの捕捉量を計測することで、体の正常と正常以外の状態におけるインタクトなタンパク質とその合成過程において生成する部分ペプチドおよびその分解過程で生ずる消化分解産物のペプチド量もしくは存在比が計測できるようになった。
【0050】
また質量分析法を用いるシステムでは、計測対象物のインタクトなタンパク質とその合成過程において生成する部分タンパク質およびその分解過程で生ずる消化分解産物のペプチドに対して作製したそれぞれの抗体をマイクロビーズやプロテインチップに結合させることで、感度に優れスループットの高い計測が可能になった。MALDI-TOF-MSなどを用いた質量分析の感度は通常attoモルからzeptoモルレベルであり、ELISA、RIA、CLIAなどよりも優れている。
【0051】
本発明は、正常状態にある被験体(健常人)および正常以外の状態にある被験体から採取した検体試料を二次元電気泳動に供し、両方の検体試料の電気泳動パターンを比較し、正常状態で検出されるが正常以外の状態で消失または減少するタンパク質、部分タンパク質もしくは部分ペプチド、あるいは正常状態では検出されないが正常以外の状態で検出されるタンパク質、部分タンパク質もしくは部分ペプチドを同定し、正常状態と正常以外の状態を判別するためのバイオマーカーをスクリーニングする方法も包含する。ここで、二次元電気泳動は、等電点電気泳動およびSDS-PAGEを組み合せた二次元電気泳動が好ましい。また、被験体から採取した検体試料を二次元電気泳動に供し、前記バイオマーカーの有無を指標に被験体が正常状態にあるか、または正常以外の状態にあるかを判定する方法をも包含する。
【実施例】
【0052】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
実施例1 肝がん患者および健常人由来血清タンパク質の二次元電気泳動解析
(1) 方法
肝がん患者および健常人から得た血清タンパク質100μgをそれぞれ以下のような二次元電気泳動にて解析した。
一次元目の等電点電気泳動は、血清タンパク質を、8M尿素を含む緩衝液に溶解し、13 cmの固定化pH勾配(pH4〜7)ストリップ上で80,000 volt 時間泳動した。泳動後のタンパク質を還元アルキル化した後に、二次元目のSDS電気泳動(ゲル濃度15%、ゲル長 16 cm)を行い、ゲル中のタンパク質を銀染色(Silver Staining)した。
【0054】
(2)結果
本方法において、およそ500のタンパク質由来スポットが検出された。図4が肝がん患者(HCC)由来の血清タンパク質のパターンであり、図5が健常人由来のものである。図中丸で囲んだものは肝がん患者において検出されなかった血清タンパク質である。そのうち、Aはα-1 アンチトリプシンであり、Bはハプトグロビンである。この結果はα-1 アンチトリプシンならびにハプトグロビンが肝がん患者血清において消失していることを示している。
【0055】
実施例2 酵素免疫法(ELISA)による肝がん患者および健常人血清中のα-1 トリプシンインヒビター量の測定
(1) 方法
市販のキットおよび自作の抗体を用いてELISAをおこなった。96穴(ウエル)の培養プレートに抗α-1 トリプシンインヒビター抗体(1次抗体)希釈液を添加して室温で1時間放置して抗体をプレートに吸着させた。溶液除去後、プレートへの抗原の非特異的結合を防ぐために3%血清アルブミン溶液を添加し1時間室温で放置した。溶液除去後に、適当に段階希釈した標準血清、がん患者血清、および健常人血清をそれぞれ別のウエルに入れて、室温1時間放置した。0.1%の界面活性剤を含むバッファーを用いて各ウエルを4回洗浄した。更にそこに酵素(ペルオキシダーゼ)で標識された2次抗体希釈液を添加し、1時間放置後に各ウエルを4回洗浄した。最後に、酵素作用を受けて発色する酵素基質の溶液を加えて30分放置した。各ウエルの吸光度を光度計を用いて測定した。測定結果を標準血清中のα-1 トリプシンインヒビター量を100ユニットとして、それと比較して計算することで、それぞれのがん患者血清ならびに健常人血清中のα-1 トリプシンインヒビター量をユニットで表した。
【0056】
図6はその結果をグラフで示したものである。3通りの方法すなわち3通りの1次抗体と2次抗体の組み合わせA、B、Cで実験をおこなった結果をまとめたものである。
【0057】
Aは市販のELISAキットの1次抗体と2次抗体、Bはα-1 トリプシンインヒビターのN末端に特異的な抗体を1次抗体に、C末端に特異的な抗体を2次抗体に使用した。Cでは肝がん患者に特異的に認められるα-1 トリプシンインヒビターのペプチド断片に特異的な抗体を1次および2次抗体として使用した。上記ペプチド断片は、肝がんのバイオマーカー候補として本発明者が独自の方法で見出したものである。また、標準血清としては、AならびにBでは、市販のプールした正常人血清を、また、Cでは、本発明者が入手したプールした肝がん患者由来血清を用いた。
【0058】
(2) 結果
本実験では、本発明者が見出した二つの現象、すなわち、(i)二次元電気泳動法では肝がん患者において正常人で観察される(生の、分解を受けていない)α-1 アンチトリプシンがほとんど検出されない(消失している)。(ii)一方、本発明者独自の2D-HPLC-MALDI-TOF/MS法では、肝がん患者に特異的に特定のα-1 アンチトリプシンペプチド(配列番号24)が検出される。
【0059】
これらの現象をELISA法にて再現するために、1次および2次抗体を作成することによって上述したBおよびCの方法を考案した。
【0060】
図6に見られるように、Aの市販のキットを用いた方法では、肝がん患者と正常人との間に差異は認められない(112.6 units vs 105.7 units)が、Bの方法では、二次元電気泳動の結果を反映した結果、すなわち、正常人に比べて肝がん患者の血清中のα-1 アンチトリプシン量は顕著に減少している(25.7 units vs 101.5 units)。一方、Cの方法では、肝がん患者においては正常人と比較して顕著に、α-1 アンチトリプシン由来のペプチドの量が増加していた(99.1 units vs 24.4 units)。以上のように本発明者は、独自の抗体を作成することによって、肝がん患者血清において本発明者が別の実験で見出した、分解を受けていない生のα-1 アンチトリプシンタンパク質が減少し、そのタンパク質由来の特定のペプチドが増加しているという現象、を反映できる独自のELISAシステムを確立することに成功した。
【0061】
実施例3 免疫沈降法/MS解析による疾患バイオマーカーペプチドの検出
(1) 方法
免疫沈降法
1-a) 抗体(IgG)結合ゲル作成
ポリクローナル抗α1-アンチトリプシン抗体(IgG)(Bethyl社)の糖鎖部分と、反応基としてヒドラジル基を持つゲル(Affi-Gel Hz, Bio-Rad社)とを共有結合させて抗体結合ゲルを作成した。
【0062】
0.15 M NaClを含む20 mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.0)に溶解した抗α1-アンチトリプシンIgG 500μl(0.5 mg/ml, 0.25 mg IgG)に95 mM NaIO4 150μlを加え、暗所室温で1時間反応させて糖鎖の環状構造を開裂させた。1.0 M NaClを含む0.1 M酢酸ナトリウムバッファー(pH 4.5)で膨潤したBio-Gel P6 DG (Bio-Rad社)でNaIO4の脱塩とIgG溶液のバッファー交換を行った後、上記ゲル 100μlを添加して室温で24時間カップリング反応を行った。5,800×gで1分間遠心分離を行い、抗体が結合したゲルを回収した。抗体結合量は上清の280 nmにおける吸光度を測定し、IgGの吸光係数E1%280nm=13.8にて濃度換算を行い、結合した抗体量を評価した。
【0063】
1-b) 免疫沈降
健常人、肝炎、肝硬変、肝がん患者由来血清5μlに0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を495μl加えて10分間煮沸した。その後、YM10(ミリポア社)で遠心ろ過を行いろ液を回収した。ろ液に抗体非結合ゲル25μlを添加して4℃で2時間温置し、遠心分離により非特異的に吸着するタンパク質・ペプチドを除去した上清を得た。この上清に抗体結合ゲルを10μl添加し、4℃で2時間抗原抗体反応を行った。遠心により抗体結合ゲルを沈降させて上清部分を除去し、0.15 M NaClを含む20 mM Tris-HClバッファー(pH 8.0)で抗体結合ゲルを洗浄したのち、超純水で更に洗浄した。
【0064】
1-c) 特異結合ペプチドの回収
抗体結合ゲルに0.5 Mギ酸を25μl添加し5分間室温で静置し、特異的に結合したペプチドを抗体結合ゲルから遊離させ、遠心により上清を回収した。
【0065】
MALDI-TOF型質量分析機による質量分析
MALDI サンプルプレートに、特異結合ペプチド1μlとマトリックス溶液(10 mg/ml α- シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA), 50%アセトニトリル, 0.1% TFA) 1μlを添加し、MALDI-TOF型質量分析機により全ペプチドの質量を測定し、解析を行った。
【0066】
(2) 結果
Affi-Gel Hzと結合した抗α1-アンチトリプシン抗体量は1μg IgG/μl ゲルであった。
【0067】
図7に質量分析の結果を示す。グラフの上から順に健常人、肝炎、肝硬変、肝がん患者から得られたペプチドの質量パターンを表している。縦軸は相対強度、横軸は質量である。
【0068】
全サンプルに共通のペプチドとは別に、疾患由来特異的なペプチドが見つかった。
全サンプルに共通なペプチド――― [2]、[5]、[7]
肝炎特異的なペプチド――― [3]、[9]
肝硬変特異的なペプチド――― [12]
肝がん特異的なペプチド――― [4]、[11]
【0069】
健常人ならびに肝炎、肝硬変、肝がん患者血清由来ペプチドを抗α1-アンチトリプシン抗体により免疫沈降したところ、すべての血清に共通のペプチド(上記[2]、[5]、[7])に加えて、それぞれの患者に特有のペプチド由来マススペクトル([3]、[9]、[12]、[4]、[11])が得られた。この結果は、それぞれの疾患において異なるタンパク質分解酵素あるいはそのセットが活性化されており、その結果として、同一タンパク質から、それぞれの疾患に特異的なペプチドが生じていること、そしてそれらが本方法により検出されたこと、を意味する。すなわち、本実験によって、同一タンパク質由来の異なるペプチドが疾患特異的なバイオマーカーになること、そして本方法によりそれらを検出できることが明らかになった。
【0070】
実施例4 二次元液体クロマトグラフィー(2D-LC)MALDI-TOF/MSによる肝疾患診断マーカーペプチドの探索
(1) 方法
健常人ならびに肝炎、肝硬変、肝がん患者の血清25μlの各々に475μlの0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を加え、100℃で15分間煮沸した。その後、分子量1万以下のペプチドを回収するためにミリポア社YM-10を用いて限外ろ過をおこなった。回収サンプルを二次元HPLC(SCX陽イオン交換ならびにC18逆相カラム)を用いて1サンプルあたり1,140に分画した。分画されたすべてのサンプルはオンラインで接続されたスポッティングロボット(AccuSpotと命名)を用いて質量分析機(AXIMA CFR plus)サンプル台上にスポットし、マトリックス溶液(α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸, CHCA)を混合して共結晶化後にレーザーを照射しリフレクトロンモードで質量を自動測定した。健常人コントロールと疾患サンプルとの発現差異ペプチドの検出は、我々が開発したソフト、ディファレンシャルディスプレイビューワー(Differential Display Viewer)を用いておこなった。発現量に差異の認められたペプチドは、そのまま質量分析機AXIMA QITでMS/MSならびにMSのn乗解析にてアミノ酸配列を決定し、由来タンパク質を同定した。
【0071】
(2) 結果
上記2D-LC MALDI-TOF/MS法を用いて、健常人ならびに肝炎、肝硬変、肝がん患者血清由来ペプチドを網羅的に差異解析した結果、疾患特異的に検出された、あるいは検出されなかったペプチド断片が以下のように同定された。
【0072】
下のアミノ酸配列は2つの配列のセットを示しているが、1番目の配列の配列全体はインタクトなペプチドもしくはタンパク質の構成アミノ酸の配列を示す。1番目の配列の下線部およびそれぞれの2番目の配列からなるペプチドが検出されたペプチド断片である。1はN末端であることを表す。
【0073】
〔1〕ブラディキニン 配列番号2のブラディキニン由来ペプチドが肝炎患者に特異的に検出された
インタクトタンパク質 1 RPPGFSPFR(配列番号1)
ブラディキニン由来ペプチド RPPGFSPF(配列番号2)
【0074】
〔2〕補体 C3f 配列番号4の補体C3f由来ペプチドが肝炎患者で特異的に検出された
インタクトタンパク質 1 SSKITHRIHW ESASLLR(配列番号3)
補体C3f 由来ペプチド HW ESASLL(配列番号4)
【0075】
〔3〕アポリポプロテイン C1 配列番号6のアポリポプロテイン C1由来ペプチドが肝硬変患者で検出できなかった
インタクトタンパク質 1 TPDVSSALDK LKEFGNTLED KARELISRIK QSELSAKM(配列番号5)
アポリポプロテイン C1由来ペプチド DVSSALDK LKEFGNTLED(配列番号6)
【0076】
〔4〕フィブリノーゲンα鎖 配列番号8のフィブリノーゲンα鎖由来ペプチドが肝がん患者に特異的に検出された
インタクトタンパク質
001 MFSMRIVCLV LSVVGTAWTA DSGEGDFLAE GGGVRGPRVV ERHQSACKDS
051 DWPFCSDEDW NYKCPSGCRM KGLIDEVNQD FTNRINKLKN SLFEYQKNNK
101 DSHSLTTNIM EILRGDFSSA NNRDNTYNRV SEDLRSRIEV LKRKVIEKVQ
151 HIQLLQKNVR AQLVDMKRLE VDIDIKIRSC RGSCSRALAR EVDLKDYEDQ
201 QKQLEQVIAK DLLPSRDRQH LPLIKMKPVP DLVPGNFKSQ LQKVPPEWKA
251 LTDMPQMRME LERPGGNEIT RGGSTSYGTG SETESPRNPS SAGSWNSGSS
301 GPGSTGNRNP GSSGTGGTAT WKPGSSGPGS TGSWNSGSSG TGSTGNQNPG
351 SPRPGSTGTW NPGSSERGSA GHWTSESSVS GSTGQWHSES GSFRPDSPGS
401 GNARPNNPDW GTFEEVSGNV SPGTRREYHT EKLVTSKGDK ELRTGKEKVT
451 SGSTTTTRRS CSKTVTKTVI GPDGHKEVTK EVVTSEDGSD CPEAMDLGTL
501 SGIGTLDGFR HRHPDEAAFF DTASTGKTFP GFFSPMLGEF VSETESRGSE
551 SGIFTNTKES SSHHPGIAEF PSRGKSSSYS KQFTSSTSYN RGDSTFESKS
601 YKMADEAGSE ADHEGTHSTK RGHAKSRPVR GIHTSPLGKP SLSP (配列番号7)
【0077】
フィブリノーゲンα鎖由来ペプチド
GSESGIFTNTKESSSHHPGIAEFPSRG(配列番号8)
【0078】
〔5〕フィブリノペプチドA like 配列番号9のフィブリノペプチドA like由来ペプチドが肝がん患者で検出できなかった
インタクトタンパク質
001 MFSMRIVCLV LSVVGTAWTA DSGEGDFLAE GGGVRGPRVV ERHQSACKDS
051 DWPFCSDEDW NYKCPSGCRM KGLIDEVNQD FTNRINKLKN SLFEYQKNNK
101 DSHSLTTNIM EILRGDFSSA NNRDNTYNRV SEDLRSRIEV LKRKVIEKVQ
151 HIQLLQKNVR AQLVDMKRLE VDIDIKIRSC RGSCSRALAR EVDLKDYEDQ
201 QKQLEQVIAK DLLPSRDRQH LPLIKMKPVP DLVPGNFKSQ LQKVPPEWKA
251 LTDMPQMRME LERPGGNEIT RGGSTSYGTG SETESPRNPS SAGSWNSGSS
301 GPGSTGNRNP GSSGTGGTAT WKPGSSGPGS TGSWNSGSSG TGSTGNQNPG
351 SPRPGSTGTW NPGSSERGSA GHWTSESSVS GSTGQWHSES GSFRPDSPGS
401 GNARPNNPDW GTFEEVSGNV SPGTRREYHT EKLVTSKGDK ELRTGKEKVT
451 SGSTTTTRRS CSKTVTKTVI GPDGHKEVTK EVVTSEDGSD CPEAMDLGTL
501 SGIGTLDGFR HRHPDEAAFF DTASTGKTFP GFFSPMLGEF VSETESRGSE
551 SGIFTNTKES SSHHPGIAEF PSRGKSSSYS KQFTSSTSYN RGDSTFESKS
601 YKMADEAGSE ADHEGTHSTK RGHAKSRPVR GIHTSPLGKP SLSP (配列番号9)
【0079】
フィブリノペプチドA like由来ペプチド
DSGEGDFLAEGGGV(配列番号10)
【0080】
〔6〕補体C4A 配列番号12の補体C4A由来ペプチドが肝がんおよび肝硬変患者で検出された
インタクトタンパク質
0001 MRLLWGLIWA SSFFTLSLQK PRLLLFSPSV VHLGVPLSVG VQLQDVPRGQ
0051 VVKGSVFLRN PSRNNVPCSP KVDFTLSSER DFALLSLQVP LKDAKSCGLH
0101 QLLRGPEVQL VAHSPWLKDS LSRTTNIQGI NLLFSSRRGH LFLQTDQPIY
0151 NPGQRVRYRV FALDQKMRPS TDTITVMVEN SHGLRVRKKE VYMPSSIFQD
0201 DFVIPDISEP GTWKISARFS DGLESNSSTQ FEVKKYVLPN FEVKITPGKP
0251 YILTVPGHLD EMQLDIQARY IYGKPVQGVA YVRFGLLDED GKKTFFRGLE
0301 SQTKLVNGQS HISLSKAEFQ DALEKLNMGI TDLQGLRLYV AAAIIEYPGG
0351 EMEEAELTSW YFVSSPFSLD LSKTKRHLVP GAPFLLQALV REMSGSPASG
0401 IPVKVSATVS SPGSVPEVQD IQQNTDGSGQ VSIPIIIPQT ISELQLSVSA
0451 GSPHPAIARL TVAAPPSGGP GFLSIERPDS RPPRVGDTLN LNLRAVGSGA
0501 TFSHYYYMIL SRGQIVFMNR EPKRTLTSVS VFVDHHLAPS FYFVAFYYHG
0551 DHPVANSLRV DVQAGACEGK LELSVDGAKQ YRNGESVKLH LETDSLALVA
0601 LGALDTALYA AGSKSHKPLN MGKVFEAMNS YDLGCGPGGG DSALQVFQAA
0651 GLAFSDGDQW TLSRKRLSCP KEKTTRKKRN VNFQKAINEK LGQYASPTAK
0701 RCCQDGVTRL PMMRSCEQRA ARVQQLDCRE PFLSCCQFAE SLRKKSRDKG
0751 QAGLQRALEI LQEEDLIDED DIPVRSFFPE NWLWRVETVD RFQILTLWLP
0801 DSLTTWEIHG LSLSKTKGLC VATPVQLRVF REFHLHLRLP MSVRRFEQLE
0851 LRPVLYNYLD KNLTVSVHVS PVEGLCLAGG GGLAQQVLVP AGSARPVAFS
0901 VVPTAAAAVS LKVVARGSFE FPVGDAVSKV LQIEKEGAIH REELVYELNP
0951 LDHRGRTLEI PGNSDPNMIP DGDFNSYVRV TASDPLDTLG SEGALSPGGV
1001 ASLLRLPRGC GEQTMIYLAP TLAASRYLDK TEQWSTLPPE TKDHAVDLIQ
1051 KGYMRIQQFR KADGSYAAWL SRDSSTWLTA FVLKVLSLAQ EQVGGSPEKL
1101 QETSNWLLSQ QQADGSFQDP CPVLDRSMQG GLVGNDETVA LTAFVTIALH
1151 HGLAVFQDEG AEPLKQRVEA SISKANSFLG EKASAGLLGA HAAAITAYAL
1201 TLTKAPVDLL GVAHNNLMAM AQETGDNLYW GSVTGSQSNA VSPTPAPRNP
1251 SDPMPQAPAL WIETTAYALL HLLLHEGKAE MADQAAAWLT RQGSFQGGFR
1301 STQDTVIALD ALSAYWIASH TTEERGLNVT LSSTGRNGFK SHALQLNNRQ
1351 IRGLEEELQF SLGSKINVKV GGNSKGTLKV LRTYNVLDMK NTTCQDLQIE
1401 VTVKGHVEYT MEANEDYEDY EYDELPAKDD PDAPLQPVTP LQLFEGRRNR
1451 RRREAPKVVE EQESRVHYTV CIWRNGKVGL SGMAIADVTL LSGFHALRAD
1501 LEKLTSLSDR YVSHFETEGP HVLLYFDSVP TSRECVGFEA VQEVPVGLVQ
1551 PASATLYDYY NPERRCSVFY GAPSKSRLLA TLCSAEVCQC AEGKCPRQRR
1601 ALERGLQDED GYRMKFACYY PRVEYGFQVK VLREDSRAAF RLFETKITQV
1651 LHFTKDVKAA ANQMRNFLVR ASCRLRLEPG KEYLIMGLDG ATYDLEGHPQ
1701 YLLDSNSWIE EMPSERLCRS TRQRAACAQL NDFLQEYGTQ GCQV
(配列番号11)
【0081】
補体C4A由来ペプチド
TLEIPGNSDPNMIPDGDFNSYVRVTASD (配列番号12)
【0082】
〔7〕インターαトリプシンインヒビター 配列番号14のインターαトリプシンインヒビター由来ペプチドが肝がんおよび肝炎患者で検出された
インタクトタンパク質
001 MKPPRPVRTC SKVLVLLSLL AIHQTTTAEK NGIDIYSLTV DSRVSSRFAH
051 TVVTSRVVNR ANTVQEATFQ MELPKKAFIT NFSMNIDGMT YPGIIKEKAE
101 AQAQYSAAVA KGKSAGLVKA TGRNMEQFQV SVSVAPNAKI TFELVYEELL
151 KRRLGVYELL LKVRPQQLVK HLQMDIHIFE PQGISFLETE STFMTNQLVD
201 ALTTWQNKTK AHIRFKPTLS QQQKSPEQQE TVLDGNLIIR YDVDRAISGG
251 SIQIENGYFV HYFAPEGLTT MPKNVVFVID KSGSMSGRKI QQTREALIKI
301 LDDLSPRDQF NLIVFSTEAT QWRPSLVPAS AENVNKARSF AAGIQALGGT
351 NINDAMLMAV QLLDSSNQEE RLPEGSVSLI ILLTDGDPTV GETNPRSIQN
401 NVREAVSGRY SLFCLGFGFD VSYAFLEKLA LDNGGLARRI HEDSDSALQL
451 QDFYQEVANP LLTAVTFEYP SNAVEEVTQN NFRLLFKGSE MVVAGKLQDR
501 GPDVLTATVS GKLPTQNITF QTESSVAEQE AEFQSPKYIF HNFMERLWAY
551 LTIQQLLEQT VSASDADQQA LRNQALNLSL AYSFVTPLTS MVVTKPDDQE
601 QSQVAEKPME GESRNRNVHS GSTFFKYYLQ GAKIPKPEAS FSPRRGWNRQ
651 AGAAGSRMNF RPGVLSSRQL GLPGPPDVPD HAAYHPFRRL AILPASAPPA
701 TSNPDPAVSR VMNMKIEETT MTTQTPAPIQ APSAILPLPG QSVERLCVDP
751 RHRQGPVNLL SDPEQGVEVT GQYEREKAGF SWIEVTFKNP LVWVHASPEH
801 VVVTRNRRSS AYKWKETLFS VMPGLKMTMD KTGLLLLSDP DKVTIGLLFW
851 DGRGEGLRLL LRDTDRFSSH VGGTLGQFYQ EVLWGSPAAS DDGRRTLRVQ
901 GNDHSATRER RLDYQEGPPG VEISCWSVEL (配列番号13)
【0083】
インターαトリプシンインヒビター由来ペプチド
VPDHAAYHPF (配列番号14)
【0084】
〔8〕ゲルソリン(Gelsolin) 配列番号16のゲルソリン由来ペプチドが肝がん患者で検出できなかった
インタクトタンパク質
001 MAPHRPAPAL LCALSLALCA LSLPVRAATA SRGASQAGAP QGRVPEARPN
051 SMVVEHPEFL KAGKEPGLQI WRVEKFDLVP VPTNLYGDFF TGDAYVILKT
101 VQLRNGNLQY DLHYWLGNEC SQDESGAAAI FTVQLDDYLN GRAVQHREVQ
151 GFESATFLGY FKSGLKYKKG GVASGFKHVV PNEVVVQRLF QVKGRRVVRA
201 TEVPVSWESF NNGDCFILDL GNNIHQWCGS NSNRYERLKA TQVSKGIRDN
251 ERSGRARVHV SEEGTEPEAM LQVLGPKPAL PAGTEDTAKE DAANRKLAKL
301 YKVSNGAGTM SVSLVADENP FAQGALKSED CFILDHGKDG KIFVWKGKQA
351 NTEERKAALK TASDFITKMD YPKQTQVSVL PEGGETPLFK QFFKNWRDPD
401 QTDGLGLSYL SSHIANVERV PFDAATLHTS TAMAAQHGMD DDGTGQKQIW
451 RIEGSNKVPV DPATYGQFYG GDSYIILYNY RHGGRQGQII YNWQGAQSTQ
501 DEVAASAILT AQLDEELGGT PVQSRVVQGK EPAHLMSLFG GKPMIIYKGG
551 TSREGGQTAP ASTRLFQVRA NSAGATRAVE VLPKAGALNS NDAFVLKTPS
601 AAYLWVGTGA SEAEKTGAQE LLRVLRAQPV QVAEGSEPDG FWEALGGKAA
651 YRTSPRLKDK KMDAHPPRLF ACSNKIGRFV IEEVPGELMQ EDLATDDVML
701 LDTWDQVFVW VGKDSQEEEK TEALTSAKRY IETDPANRDR RTPITVVKQG
751 FEPPSFVGWF LGWDDDYWSV DPLDRAMAEL AA (配列番号15)
【0085】
ゲルソリン由来ペプチド
GLGLSYLSSHIANVERVPFD(配列番号16)
【0086】
〔9〕アポリポプロテインA1 配列番号18のアポリポプロテインA1由来ペプチドが肝がん患者で検出できなかった
インタクトタンパク質
1 DEPPQSPWDR VKDLATVYVD VLKDSG (配列番号17)
アポリポプロテインA1由来ペプチド
DEPPQSPWDRVKDLATVYVD (配列番号18)
【0087】
〔10〕 α2マクログロブリン 配列番号20のα2マクログロブリン由来ペプチドが肝がん、肝硬変および肝炎患者で検出できた
インタクトタンパク質
0001 MGLLMSRVQY RLESIWSPPA PSFCNMGKNK LLHPSLVLLL LVLLPTDASV
0051 SGKPQYMVLV PSLLHTETTE KGCVLLSYLN ETVTVSASLE SVRGNRSLFT
0101 DLEAENVVLH CVAFAVPKSS SNEEVMFLTV QVKGPTQEFK KRTTVMVKNE
0151 DSLVFVQTDK SIYKPGQTVK FRVVSMDENF HPLNELIPLV YIQDPKGNRI
0201 AQWQSFQLEG GLKQFSFPLS SEPFQGSYKV VVQKKSGGRT EHPFTVEEFV
0251 LPKFEVQVTV PKIITILEEE MNVSVCGLYT YGKPVPGHVT VSICRKYSDA
0301 SDCHGEDSQA FCEKFSGQLN SHGCFYQQVK TKVFQLKRKE YEMKLHTEAQ
0351 IQEEGTVVEL TGRQSSEITR TITKLSFVKV DSHFRQGIPF FGQVRLVDGK
0401 GVPIPNKVIF IRGNEANYYS NATTDEHGLV QFSINTTNVM GTSLTVRVNY
0451 KDRSPCYGYQ WVSEEHEEAH HTAYLVFSPS KSFVHLEPMS HELPCGHTQT
0501 VQAHYILNGG TLLGLKKLSF YYLIMAKGGI VRTGTHGLLV KQEDMKGHFS
0551 ISIPVKSDIA PVARLLIYAV LPTGDVIGDS AKYDVENCLA NKVDLSFSPS
0601 QSLPASHAHL RVTAAPQSVC ALRAVDQSVL LMKPDAELSA SSVYNLLPEK
0651 DLTGFPGPLN DQDDEDCINR HNVYINGITY TPVSSTNEKD MYSFLEDMGL
0701 KAFTNSKIRK PKMCPQLQQY EMHGPEGLRV GFYESDVMGR GHARLVHVEE
0751 PHTETVRKYF PETWIWDLVV VNSAGVAEVG VTVPDTITEW KAGAFCLSED
0801 AGLGISSTAS LRAFQPFFVE LTMPYSVIRG EAFTLKATVL NYLPKCIRVS
0851 VQLEASPAFL AVPVEKEQAP HCICANGRQT VSWAVTPKSL GNVNFTVSAE
0901 ALESQELCGT EVPSVPEHGR KDTVIKPLLV EPEGLEKETT FNSLLCPSGG
0951 EVSEELSLKL PPNVVEESAR ASVSVLGDIL GSAMQNTQNL LQMPYGCGEQ
1001 NMVLFAPNIY VLDYLNETQQ LTPEVKSKAI GYLNTGYQRQ LNYKHYDGSY
1051 STFGERYGRN QGNTWLTAFV LKTFAQARAY IFIDEAHITQ ALIWLSQRQK
1101 DNGCFRSSGS LLNNAIKGGV EDEVTLSAYI TIALLEIPLT VTHPVVRNAL
1151 FCLESAWKTA QEGDHGSHVY TKALLAYAFA LAGNQDKRKE VLKSLNEEAV
1201 KKDNSVHWER PQKPKAPVGH FYEPQAPSAE VEMTSYVLLA YLTAQPAPTS
1251 EDLTSATNIV KWITKQQNAQ GGFSSTQDTV VALHALSKYG AATFTRTGKA
1301 AQVTIQSSGT FSSKFQVDNN NRLLLQQVSL PELPGEYSMK VTGEGCVYLQ
1351 TSLKYNILPE KEEFPFALGV QTLPQTCDEP KAHTSFQISL SVSYTGSRSA
1401 SNMAIVDVKM VSGFIPLKPT VKMLERSNHV SRTEVSSNHV LIYLDKVSNQ
1451 TLSLFFTVLQ DVPVRDLKPA IVKVYDYYET DEFAIAEYNA PCSKDLGNA
(配列番号19)
【0088】
α2マクログロブリン由来ペプチド
VPVRDLKPAIVKVYD (配列番号20)
【0089】
〔11〕フィブリノーゲンα鎖 配列番号22のフィブリノーゲンα鎖由来ペプチドが肝がん患者で検出できた
インタクトタンパク質
001 MFSMRIVCLV LSVVGTAWTA DSGEGDFLAE GGGVRGPRVV ERHQSACKDS
051 DWPFCSDEDW NYKCPSGCRM KGLIDEVNQD FTNRINKLKN SLFEYQKNNK
101 DSHSLTTNIM EILRGDFSSA NNRDNTYNRV SEDLRSRIEV LKRKVIEKVQ
151 HIQLLQKNVR AQLVDMKRLE VDIDIKIRSC RGSCSRALAR EVDLKDYEDQ
201 QKQLEQVIAK DLLPSRDRQH LPLIKMKPVP DLVPGNFKSQ LQKVPPEWKA
251 LTDMPQMRME LERPGGNEIT RGGSTSYGTG SETESPRNPS SAGSWNSGSS
301 GPGSTGNRNP GSSGTGGTAT WKPGSSGPGS TGSWNSGSSG TGSTGNQNPG
351 SPRPGSTGTW NPGSSERGSA GHWTSESSVS GSTGQWHSES GSFRPDSPGS
401 GNARPNNPDW GTFEEVSGNV SPGTRREYHT EKLVTSKGDK ELRTGKEKVT
451 SGSTTTTRRS CSKTVTKTVI GPDGHKEVTK EVVTSEDGSD CPEAMDLGTL
501 SGIGTLDGFR HRHPDEAAFF DTASTGKTFP GFFSPMLGEF VSETESRGSE
551 SGIFTNTKES SSHHPGIAEF PSRGKSSSYS KQFTSSTSYN RGDSTFESKS
601 YKMADEAGSE ADHEGTHSTK RGHAKSRPVR GIHTSPLGKP SLSP
(配列番号21)
【0090】
フィブリノーゲンα鎖由来ペプチド
GSESGIFTNTKESSSHHPGIAEFPSRG (配列番号22)
【0091】
〔12〕α1アンチトリプシン 配列番号24のα1アンチトリプシン由来ペプチドが肝がん、肝硬変、肝炎患者で特異的に検出された
インタクトタンパク質
001 FNKITPNLAE FAFSLYRQLA HQSNSTNIFF SPVSIATAFA MLSLGTKADT
051 HDEILEGLNF NLTEIPEAQI HEGFQELLRT LNQPDSQLQL TTGNGLFLSE
101 GLKLVDKFLE DVKKLYHSEA FTVNFGDTEE AKKQINDYVE KGTQGKIVDL
151 VKELDRDTVF ALVNYIFFKG KWERPFEVKD TEEEDFHVDQ VTTVKVPMMK
201 RLGMFNIQHC KKLSSWVLLM KYLGNATAIF FLPDEGKLQH LENELTHDII
251 TKFLENEDRR SASLHLPKLS ITGTYDLKSV LGQLGITKVF SNGADLSGVT
301 EEAPLKLSKA VHKAVLTIDE KGTEAAGAMF LEAIPMSIPP EVKFNKPFVF
351 LMIEQNTKSP LFMGKVVNPT QK (配列番号23)
【0092】
α1アンチトリプシン由来タンパク質
VKKLYHSEAFTVNFGD (配列番号24)
【0093】
〔13〕インターαトリプシンインヒビター重鎖H4前駆体 配列番号26のインターαトリプシンインヒビター重鎖H4前駆体由来ペプチドが肝がん、肝炎患者で特異的に検出された
インタクトタンパク質
001 MKPPRPVRTC SKVLVLLSLL AIHQTTTAEK NGIDIYSLTV DSRVSSRFAH
051 TVVTSRVVNR ANTVQEATFQ MELPKKAFIT NFSMNIDGMT YPGIIKEKAE
101 AQAQYSAAVA KGKSAGLVKA TGRNMEQFQV SVSVAPNAKI TFELVYEELL
151 KRRLGVYELL LKVRPQQLVK HLQMDIHIFE PQGISFLETE STFMTNQLVD
201 ALTTWQNKTK AHIRFKPTLS QQQKSPEQQE TVLDGNLIIR YDVDRAISGG
251 SIQIENGYFV HYFAPEGLTT MPKNVVFVID KSGSMSGRKI QQTREALIKI
301 LDDLSPRDQF NLIVFSTEAT QWRPSLVPAS AENVNKARSF AAGIQALGGT
351 NINDAMLMAV QLLDSSNQEE RLPEGSVSLI ILLTDGDPTV GETNPRSIQN
401 NVREAVSGRY SLFCLGFGFD VSYAFLEKLA LDNGGLARRI HEDSDSALQL
451 QDFYQEVANP LLTAVTFEYP SNAVEEVTQN NFRLLFKGSE MVVAGKLQDR
501 GPDVLTATVS GKLPTQNITF QTESSVAEQE AEFQSPKYIF HNFMERLWAY
551 LTIQQLLEQT VSASDADQQA LRNQALNLSL AYSFVTPLTS MVVTKPDDQE
601 QSQVAEKPME GESRNRNVHS GSTFFKYYLQ GAKIPKPEAS FSPRRGWNRQ
651 AGAAGSRMNF RPGVLSSRQL GLPGPPDVPD HAAYHPFRRL AILPASAPPA
701 TSNPDPAVSR VMNMKIEETT MTTQTPAPIQ APSAILPLPG QSVERLCVDP
751 RHRQGPVNLL SDPEQGVEVT GQYEREKAGF SWIEVTFKNP LVWVHASPEH
801 VVVTRNRRSS AYKWKETLFS VMPGLKMTMD KTGLLLLSDP DKVTIGLLFW
851 DGRGEGLRLL LRDTDRFSSH VGGTLGQFYQ EVLWGSPAAS DDGRRTLRVQ
901 GNDHSATRER RLDYQEGPPG VEISCWSVEL (配列番号25)
【0094】
インターαトリプシンインヒビター重鎖H4前駆体由来ペプチド
RLAILPASAPPATSNPD (配列番号26)
【0095】
なお、上記部分ペプチドは下に示すように糖鎖が付加された状態で存在した。
RLAILPASAPPATSNPD + -GlcNAc-Hex-GlcNAc-Hex
【0096】
〔14〕 インターαトリプシンインヒビター重鎖H4前駆体
インタクトタンパク質
001 MKPPRPVRTC SKVLVLLSLL AIHQTTTAEK NGIDIYSLTV DSRVSSRFAH
051 TVVTSRVVNR ANTVQEATFQ MELPKKAFIT NFSMNIDGMT YPGIIKEKAE
101 AQAQYSAAVA KGKSAGLVKA TGRNMEQFQV SVSVAPNAKI TFELVYEELL
151 KRRLGVYELL LKVRPQQLVK HLQMDIHIFE PQGISFLETE STFMTNQLVD
201 ALTTWQNKTK AHIRFKPTLS QQQKSPEQQE TVLDGNLIIR YDVDRAISGG
251 SIQIENGYFV HYFAPEGLTT MPKNVVFVID KSGSMSGRKI QQTREALIKI
301 LDDLSPRDQF NLIVFSTEAT QWRPSLVPAS AENVNKARSF AAGIQALGGT
351 NINDAMLMAV QLLDSSNQEE RLPEGSVSLI ILLTDGDPTV GETNPRSIQN
401 NVREAVSGRY SLFCLGFGFD VSYAFLEKLA LDNGGLARRI HEDSDSALQL
451 QDFYQEVANP LLTAVTFEYP SNAVEEVTQN NFRLLFKGSE MVVAGKLQDR
501 GPDVLTATVS GKLPTQNITF QTESSVAEQE AEFQSPKYIF HNFMERLWAY
551 LTIQQLLEQT VSASDADQQA LRNQALNLSL AYSFVTPLTS MVVTKPDDQE
601 QSQVAEKPME GESRNRNVHS GSTFFKYYLQ GAKIPKPEAS FSPRRGWNRQ
651 AGAAGSRMNF RPGVLSSRQL GLPGPPDVPD HAAYHPFRRL AILPASAPPA
701 TSNPDPAVSR VMNMKIEETT MTTQTPAPIQ APSAILPLPG QSVERLCVDP
751 RHRQGPVNLL SDPEQGVEVT GQYEREKAGF SWIEVTFKNP LVWVHASPEH
801 VVVTRNRRSS AYKWKETLFS VMPGLKMTMD KTGLLLLSDP DKVTIGLLFW
851 DGRGEGLRLL LRDTDRFSSH VGGTLGQFYQ EVLWGSPAAS DDGRRTLRVQ
901 GNDHSATRER RLDYQEGPPG VEISCWSVEL (配列番号25)
【0097】
インターαトリプシンインヒビター重鎖H4前駆体由来ペプチド
VPDHAAYHPF (配列番号27)
【0098】
さらに、妊娠中毒症患者についても同様の検討を行い、以下のタンパク質の部分ペプチドが検出された。
〔15〕ヘパリンコファクターII 配列番号29のヘパリンコファクターII由来ペプチドが妊娠中毒症で検出された
インタクトタンパク質
001 MKHSLNALLI FLIITSAWGG SKGPLDQLEK GGETAQSADP QWEQLNNKNL
051 SMPLLPADFH KENTVTNDWI PEGEEDDDYL DLEKIFSEDD DYIDIVDSLS
101 VSPTDSDVSA GNILQLFHGK SRIQRLNIVN AKFAFNLYRV LKDQVNTFDN
151 IFIAPVGIST AMGMISLGLK GETHEQVHSI LHFKDFVNAS SKYEITTIHN
201 LFRKLTHRLF RRNFGYTLRS VNDLYIQKQF PILLDFKTKV REYYFAEAQI
251 ADFSDPAFIS KTNNHIMKLT KGLIKDALEN IDPATQMMIL NCIYFKGSWV
301 NKFPVEMTHN HNFRLNEREV VKVSMMQTKG NFLAANDQEL DCDILQLEYV
351 GGISMLIVVP HKMSGMKTLE AQLTPGVVER WQKSMTNRTR EVLLPKFKLE
401 KNYNLVESLK LMGIRMLFDK NGNMAGISDQ RIAIDLFKHQ GTITVNEEGT
451 QATTVTTVGF MPLSTQVRFT VDRPFLFLIY EHRTSCLLFM GRVANPSRS
(配列番号28)
【0099】
ヘパリンコファクターII由来ペプチド
GSKGPLDQLEK GGETAQSAD (配列番号29)
【0100】
本実験において、本発明者が独自に開発した二次元液体クロマトグラフィー(2D-LC)MALDI-TOF/MS 法を用いて、健常人ならびに肝炎、肝硬変、肝がん患者血清由来のペプチドを網羅的に解析することによって、疾患特異的に出現あるいは消失するペプチドを同定することができた。これらはすべて、タンパク質がそれぞれに特異的なタンパク質分解酵素によって切断されたと思われる断片ペプチドであった。すなわち本実験によって、患者血清中に存在する、疾患特異的に活性化されたタンパク質分解酵素によって生じた断片ペプチドが疾患特異的なバイオマーカーとなりうることが示された。また、本発明者が新たに開発した解析システムがこうしたペプチドを検出できることも明らかになった。
【0101】
実施例5 SELDI-TOF-MSを用いた解析
(1) 方法
SELDI-TOF-MS(サイファージェンバイオシステムズ)を用いて、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がん患者の血清と正常人の血清を測定し、正常サンプル対その他の疾患サンプルとして比較解析を行った。
【0102】
前処理として、Biomek200(BECKMAN COULTER)を使用し、血清を9 M 尿素と1:1.5の割合で、4℃、20分混合し変性させた。このサンプルと1 M 尿素バッファー 1:1の割合で混合し、陰イオン交換レジン(Q CERAMIC HYPER DF)にアプライした。4℃、30分攪拌した後、pH9,7,5,4,3,有機溶媒の順にそれぞれのバッファーで分画した。(pH9:50mM Tris-HCl/0.1%OGP*, pH7:50mM HEPES/0.1%OGP, pH 5:100 mM 酢酸ナトリウム/0.1%OGP, pH4:100mM 酢酸ナトリウム/0.1%OGP pH3:50mM クエン酸ナトリウム/0.1%OGP, 有機溶媒:33.3% イソプロパノール/16.7% アセトニトリル/0.1%TFA)*OGP:1-O-n-オクチル-β-D-グルコピラノシド。この分画サンプルと結合バッファー(0.1M 酢酸ナトリウムpH4)を1:9の割合でプロテインチップのCM10にアッセイした。洗浄バッファー150μl(0.1M 酢酸バッファーpH4)を用いて洗浄を3回行い、ミリQ200μlでリンスを2回行い、自然乾燥させたところに50%SPAを1μl、2回アプライした。
【0103】
使用したプロテインチップはCM10で、測定する基盤の表面が腸イオン交換の性質を持つ官能基(カルボキシメチル)で修飾されている。
【0104】
(2) 結果
図8にゲルビューアによる血清タンパク質プロファイリングを示す。図8は、SELDI-TOF-MS法を用いて正常健常人、C型肝炎の慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がん患者からの血清をデュプリケートで解析した結果を示している。正常コントロ一ル対疾患をCM10で解析した結果である。上から正常4サンプル、慢性肝炎6サンプル、肝硬変(LC)3サンプル、肝細胞がん(HCC)3サンプルである。図8において、表示は質量分析装置で得られたピークの強さintensityをヒートマップに変換したものである。矢印で示すように正常では認められなかったペプチドが、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がん患者に認められる。中には肝硬変で消失するペプチドも認められた。
【0105】
矢印で示してある8000〜9000 Daの間の3つのピークが、慢性肝炎と肝硬変、肝細胞がんで検出されているが、正常では検出されていない。以上のことから、3つのピークはこの疾患のバイオマーカー侯補の1つとなる。
【0106】
ゲルビユーアによる血清タンパク質プロファイリングを示す。正常コントロール対疾患をCM1Oで解析した結果である。図9も同様に、1つのサンプルを2重検定で実験した結果を示しており、上から正常4サンプル、慢性肝炎(NR)2サンプル、慢性肝炎(VR)2サンプル、肝硬変(LC)4サンプル、肝細胞がん(HCC)4サンプルである。赤い矢印で示してある15000〜16000 Daの間のピークが、慢性肝炎(VR)で検出されているが、慢性肝炎(NR)では検出されていない。以上のことから、このピークは慢性肝炎に対するIFNの効果を示すマーカーと判断される。
【0107】
実施例6 二次元電気泳動による慢性肝炎と肝硬変の血清タンパク質の解析
;新規肝疾患マーカータンパク質の発見とマルチマーカーによる慢性肝炎と肝硬変の判別
(1) 方法
健常人19例ならびに慢性肝炎患者24例、肝硬変患者20例のそれぞれから得た血清タンパク質100μgを以下のような二次元電気泳動にて解析した。
【0108】
一次元目の等電点電気泳動は、血清タンパク質を、8M尿素2%の界面活性剤CHAPSを含む緩衝液に溶解し、13cmの固定化pH勾配(pH4〜7)ストリップ上で80,000 volt hours泳動した。泳動後ゲル中のタンパク質をそれぞれDTTとヨードアセトアミドを入れた2%SDS緩衝溶液で還元アルキル化した後に、二次元目のSDS電気泳動(ゲル濃度15%、ゲル長16cm)をおこない、ゲル中のタンパク質を銀染色(Silver Staining kit, Amersham社)した。
【0109】
(2) 結果
本実施例において、およそ500のタンパク質由来スポットが検出された。図10上に健常人由来血清タンパク質の、図10下に肝硬変患者由来血清タンパク質の電気泳動パターンの一例を示した。電気泳動パターン図中、丸で囲んだスポットA、B、C、D、Eが検出の有無が試料ごとに変動したものである。Aは肝炎ならびに肝硬変患者由来血清すべてで検出された。一方、スポットB、C、D、Eは健常人のほぼすべて、肝炎患者の大部分で検出されたが、肝硬変患者では多くの試料で検出できなかった。これらのスポットを切り抜き、ゲル中のタンパク質を一晩トリプシン(Promega社)で処理してペプチド断片にした後、C18Tip(Eppendorf社)を用いて脱塩をおこない、マトリックスとしてCHCA(α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸)を加えて共結晶化した。これを質量分析機(AXIMA-CFR、島津製作所)にかけ、上記ペプチドの質量パターンを得て、それをタンパク質同定ソフトMascotにて解析した。その結果図10中に示すように、Aはトランスサイレチン(テトラマー)、Bはα-1アンチトリプシン、Cはハプトグロビンα2鎖、Dはトランスサイレチン(モノマー)、Eはハプトグロビンβ鎖と判明した。表1において、健常人19例、慢性肝炎24例、肝硬変20例のスポットA〜Eの検出の有無に関する結果をまとめて示した(表1)。
【0110】
【表1】

【0111】
表中の1は、正常レベルで検出できたことを、0は、検出できなかったか検出できても極めて小さい強度のスポットであったことを示している。また、表中の健常人、慢性肝炎および肝硬変の欄の下の記号は検体試料番号を示す。
【0112】
本実験において、肝疾患の血清タンパク質マーカーに関し、以下の二点の発見があった。本実験で検出された二次元電気泳動ゲルパターン上のスポットAは慢性肝炎患者および肝硬変患者を健常人と区別する、肝疾患マーカータンパク質である。本実験で検出された二次元電気泳動ゲルパターン上のスポットB、C、D、Eの検出の有無を組み合わせてマルチマーカーとして鑑定することにより、感度、特異性ともに90%以上の確率で肝硬変患者を慢性肝炎患者と区別することができる。本実験で見出された、この新規鑑定法をBEテストと命名した。
【0113】
BEテストにおいて、各スポットを検出できない各試料血清の割合は以下のとおりであった(n=24, 20)。
B; 慢性肝炎 4 %, 肝硬変 60%
C; 慢性肝炎 17%, 肝硬変 60%
D; 慢性肝炎 13%, 肝硬変 40%
E; 慢性肝炎 4%, 肝硬変 75%
【0114】
この結果より、Eが検出されないことを指標にして、感度(Sensitivity)75%および特異性(Specificity)96%で肝硬変を検出することができる。
【0115】
スポットB、C、D、Eのうち、二つ以上のスポットが検出されないケースは、慢性肝炎患者で24例中1例、肝硬変患者で20例中17例認められた。すなわち、スポットB、C、D、Eのうち、二つ以上のスポットが検出されないことを指標にして、感度90%、特異性96%で肝硬変を検出することができる。このうち、BまたはEが検出されないことを指標にして、感度90%、特異性92%で、CまたはEが検出されないことを指標にして、感度95%、特異性80%で、DまたはEが検出されないことを指標にして感度85%、特異性88%で肝硬変を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の方法の概念を示す図であり、正常以外の状態におけるタンパク質/部分ペプチドプロファイルを示す図である。
【図2】本発明の方法の概念を示す図であり、インタクトなタンパク質から部分ペプチドが細胞外における消化分解により生成するメカニズムを示す図である。
【図3】本発明の方法の概念を示す図であり、インタクトなタンパク質から部分ペプチドが細胞内における消化分解により生成するメカニズムを示す図である。
【図4】肝がん患者由来血清タンパク質の二次元電気泳動解析の結果を示す図である。
【図5】健常人由来血清タンパク質の二次元電気泳動解析の結果を示す図である。
【図6】酵素免疫法(ELISA)による肝がん患者および健常人血清中のα-1 トリプシンインヒビター量の測定の結果を示す図である。
【図7】免疫沈降法/MS解析により検出された疾患バイオマーカーペプチドを表す質量分析の結果を示す図である。
【図8】質量分析により測定した慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がん患者の血清と正常人の血清のタンパク質/部分ペプチドプロファイルを示す図である。
【図9】質量分析により測定した慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がん患者の血清と正常人の血清のタンパク質/部分ペプチドプロファイルを示す図である(その2)。
【図10】健常人由来血清タンパク質および肝硬変患者由来血清タンパク質の二次元電気泳動パターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において該インタクトなタンパク質の少なくとも1つの部分タンパク質または部分ペプチドとして存在する場合、該タンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する方法であって、生体試料中の該インタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドの種類、存在量および/または存在比を測定し、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得ることを含む、生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する方法。
【請求項2】
正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において少なくとも1つの消化分解産物タンパク質またはペプチドに消化分解される場合、該タンパク質、消化分解産物タンパク質および消化分解産物ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する方法であって、生体試料中の該インタクトなタンパク質、消化分解産物タンパク質および/または消化分解産物ペプチドの種類、存在量および/または存在比を測定し、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得ることを含む、生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別する請求項1記載の方法。
【請求項3】
2種類以上のインタクトなタンパク質、部分タンパク質、部分ペプチド、消化分解産物タンパク質および/または消化分解産物ペプチドをマーカーとして用いる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
インタクトなタンパク質が血液中に存在するタンパク質である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
部分タンパク質または部分ペプチドが正常状態の生体におけるインタクトなタンパク質のプロテアーゼの作用による消化分解産物である請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
部分タンパク質または部分ペプチドが正常状態の生体におけるインタクトなタンパク質の部分的発現産物である請求項1、3および4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
正常以外の状態が、炎症、前がん病変、がんまたは進行がんである請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
正常状態、慢性肝炎、肝硬変および肝がんを評価判別し得る請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
検出が酵素もしくは蛍光標識抗体法または質量分析法により行われる請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において該インタクトなタンパク質の少なくとも1つの部分タンパク質または部分ペプチドとして存在する場合、該タンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別するための装置であって、インタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドに特異的に結合する物質を含む捕捉部、測定部および解析部を含む装置。
【請求項11】
正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において少なくとも1つの消化分解産物タンパク質またはペプチドに消化分解される場合、該タンパク質、消化分解産物タンパク質および消化分解産物ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別するための装置であって、インタクトなタンパク質、消化分解タンパク質および/または消化分解産物ペプチドに特異的に結合する物質を含む捕捉部、測定部および解析部を含む請求項10記載の装置。
【請求項12】
免疫沈降および質量分析によりタンパク質/部分ペプチドプロファイルを得る、請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
捕捉部がインタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドに特異的に結合する抗体またはアプタマーを固相化した担体である請求項10〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
測定部が光検出手段または質量分析計である請求項10〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において該インタクトなタンパク質の少なくとも1つの部分タンパク質または部分ペプチドとして存在する場合、該タンパク質、部分タンパク質および部分ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別するためのキットであって、少なくともインタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドに特異的に結合する物質を固相化した担体を含むキット。
【請求項16】
正常状態の生体においてインタクトなタンパク質として存在するが、正常以外の状態の生体において少なくとも1つの消化分解産物タンパク質またはペプチドに消化分解される場合、該タンパク質、消化分解産物タンパク質および消化分解産物ペプチドの少なくとも1つをマーカーとして用いる生体の正常状態と正常以外の状態、病態、または病態の進行度を評価判別するためのキットであって、少なくともインタクトなタンパク質、消化分解産物タンパク質および/または消化分解産物ペプチドに特異的に結合する物質を固相化した担体を含む請求項15記載のキット。
【請求項17】
インタクトなタンパク質、部分タンパク質および/または部分ペプチドに特異的に結合する物質が抗体またはアプタマーである請求項15または16に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−284389(P2006−284389A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105309(P2005−105309)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(504019456)株式会社MCBI (9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】