説明

ターゲットの製造方法

【課題】 大型基板に高品質のセラミックス薄膜をスパッタ形成するための大型のターゲットを提供する。
【解決手段】 材料粉末Pをプレス成形により板状に圧縮成形して、プレス成形体11を形成するプレス成形工程と、複数のプレス成形体11を互いに接触させて板状に並べ、これらプレス成形体11を冷間等方圧加圧により圧縮して一体に接合し、プレス成形体11よりも大面積の板状のCIP接合体13を形成するCIP工程と、CIP接合体13を焼成して、板状の焼成体14を形成する焼成工程とを有するターゲットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングに用いられるターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスからなるターゲットをスパッタすることによりセラミックス薄膜をガラス等の基板に形成する方法が知られている。スパッタリングにより高品質のスパッタ薄膜を形成するためには、セラミックスターゲットの密度が高く均一であることが求められる。
【0003】
たとえば特許文献1では、金型プレス装置を用いて比較的低いプレス圧力で材料粉末を成形した後、CIP(冷間等方圧加圧:Cold Isostatic Pressing)を複数回行って高密度にプレスした圧粉体を焼成することにより、均一かつ高密度な成形体を製造することが提案されている。
【0004】
このように製造されたターゲットは、スパッタ装置においてバッキングプレート上に固定されて、基板に対向するように設置される。バッキングプレートは、ターゲットを保持するとともに、スパッタリング時のターゲットを冷却するために用いられる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−182732号公報
【特許文献2】特開2007−245211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、太陽電池やフラットパネルディスプレイなどの大型化に伴い、大型の基板にセラミックス薄膜を形成することができる大型のセラミックスターゲットが求められている。しかしながら、前述の方法で大型のセラミックスターゲットを製造するには金型の大型化が必要となり、多大なコストを要するという問題がある。また金型が大きい場合には十分なプレス圧を得られず圧粉体の密度が低くなり、セラミックスターゲットの品質が低下しやすく、高品質な薄膜を形成することが難しいという問題がある。
【0007】
このため、金型プレス装置に比較して大型化が容易なCIPにより大型の圧粉体を成形することが考えられる。CIPでは、材料粉末を型に充填する際の充填密度が不均一であると、圧粉体の密度も不均一になるので、材料粉末を均一に充填することが重要である。しかしながら、CIPの成形型が大型であると、材料粉末を均一に充填することが難しく、圧粉体の密度を均一にすることが困難になる。また、CIPにより大型の圧粉体を成形すると、反りや表面の凹凸が生じやすいため、材料歩留まりが悪いという問題もある。
【0008】
あるいは、小型のプレス金型装置を用いて製造した小型の焼成体を複数枚バッキングプレート上に並べて固定することにより、面積の大きいセラミックスターゲットを製造することが考えられる。この場合、各焼成体の密度を高く均一にすることは比較的容易であるが、焼成体の熱膨張差による割れを防止するために、焼成体間に隙間を設けて配置する必要があり、スパッタ処理時にこの隙間や焼成体の角部で異常放電が発生し、高品質の薄膜を形成することができないおそれがある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、大型基板に高品質のセラミックス薄膜をスパッタ形成するための大型のターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、材料粉末をプレス成形により板状に圧縮成形して、プレス成形体を形成するプレス成形工程と、複数の前記プレス成形体を互いに接触させて板状に並べ、これらプレス成形体を冷間等方圧加圧により圧縮して一体に接合し、前記プレス成形体よりも大面積の板状のCIP接合体を形成するCIP工程と、前記CIP接合体を焼成して、板状の焼成体を形成する焼成工程とを有するターゲットの製造方法である。
ここで、プレス成形とは、金型間に設けられたキャビティに材料を充填し、このキャビティを一軸又は二軸方向に縮小させるように加圧することにより、材料をプレス成形する方法である。
【0011】
この製造方法において、各プレス成形体を小型にしておくことにより、プレス装置を大型化せずにプレス成形により形成できる。また、プレス成形を用いることにより、プレス成形体の密度を均一化することが容易である。このプレス成形体を並べてCIPによりさらに圧縮し、接合するので、反りや表面の凹凸を生じさせずに、高密度かつ均一で大型のCIP接合体を形成できる。したがって、本発明の製造方法によれば、大面積を有し、密度が高く均一である高品質なターゲットの製造が可能となる。
【0012】
前記CIP工程において、プレス成形体同士の接合部の外面に、隣接する両プレス成形体間にわたる接続部材を前記各プレス成形体に接触させて配置しておき、これらプレス成形体にさらに前記接続部材を一体に接合することが好ましい。この場合、焼成の際に各プレス成形体に収縮量の差が生じても、これらプレス成形体同士を接続部材が接続しているので、接合部で各ターゲット部材間に隙間が生じるのを防止できる。
【0013】
前記プレス成形体同士の前記接合部は、これらプレス成形体の側面同士を互いに接触させる傾斜面状であってもよい。また、前記プレス成形体同士の前記接合部は、これらプレス成形体の側面同士を互いに係合させる凹凸面状であってもよい。これらの場合、接合部におけるプレス成形体同士の接触面積が大きくなるので、プレス成形体同士をより強固に接合することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のターゲットの製造方法によれば、均一な密度で大型のターゲットを、プレス装置の大型化を伴わずに製造することができ、高品質なセラミックス薄膜を大型基板に形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のセラミックスターゲットの製造方法において、プレス成形体を形成するプレス成形工程を示す断面模式図である。
【図2】本発明のセラミックスターゲットの製造方法において、複数のプレス成形体を接合してCIP接合体を形成するCIP工程を示す模式図である。
【図3】本発明の製造方法により形成されたセラミックス焼成体を示す平面図である。
【図4】プレス成形体およびCIP接合体の変形例を示す斜視図である。
【図5】プレス成形体およびCIP接合体のさらに別の変形例を示す斜視図である。
【図6】プレス成形体およびCIP接合体のさらに別の変形例を示す斜視図である。
【図7】プレス成形体およびCIP接合体のさらに別の変形例を示す斜視図である。
【図8】プレス成形体およびCIP接合体のさらに別の変形例を示す斜視図である。
【図9】接続部材の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るセラミックスターゲットの製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、材料粉末Pをプレス成形により板状に圧縮成形して、プレス成形体11を形成するプレス成形工程(図1)と、複数のプレス成形体11を互いに接触させて板状に並べるとともに、プレス成形体11同士の接合部の外面に、隣接する両プレス成形体11間にわたる接続部材12を各プレス成形体11に接触させて配置しておき、これらプレス成形体11および接続部材12を冷間等方圧加圧により圧縮して一体に接合し、プレス成形体11よりも大面積の板状のCIP接合体13を形成するCIP工程(図2)と、CIP接合体13を焼成して、板状のセラミックス焼成体14を形成する焼成工程(図3)とを有する。
【0017】
図1に示すプレス成形工程では、プレス装置20により材料粉末Pを板状に圧縮成形して、プレス成形体11を形成する。材料粉末Pは、酸化物系の粉末材料と有機バインダとを含み、加圧により成形され、焼成によりセラミックスとなる。プレス装置20は、一軸方向にプレス圧力を発生する油圧プレス装置であって、ダイプレート21、上パンチ22および下パンチ23の間にキャビティ24が形成される。このキャビティ24に材料粉末Pを充填し、キャビティ24の厚さを小さくするように上パンチ22および下パンチ23を駆動することにより、キャビティ24内の材料粉末Pが圧縮される。
【0018】
このプレス装置20におけるプレス圧力は39.2MPa(400kgf/cm)以上とし、形成されるプレス成形体11の成形密度は40%以上60%以下とする。成形密度の下限を40%に設定することにより、プレス成形体11の形状が維持される。一方、プレス成形体11の成形密度の上限は、CIP工程によりさらに圧縮するために60%に設定する。このプレス成形工程により、材料粉末Pは全体がほぼ均一な密度の板状のプレス成形体11に形成される。
【0019】
なお、このプレス成形工程においては、プレス装置20の可能な出力に対して受圧面積が大きすぎると十分なプレス圧力を得ることができないので、高品質なプレス成形体11を得るのに十分なプレス圧力を達成できる大きさのプレス装置20が用いられる。しかしながら、この製造方法においては、複数枚のプレス成形体11を接合して大面積のCIP接合体13を形成するので、プレス成形体11を大型化する必要はなく、したがって特に大型の金型やプレス装置20を用いる必要はない。
【0020】
図2に示すCIP工程では、複数枚(本実施形態では3枚)のプレス成形体11を冷間等方圧加圧(CIP:Cold Isostatic Pressing)により圧縮して一体に接合し、CIP接合体13を形成する。より具体的には、プレス成形体11を互いに接触させて板状に並べるとともに、隣接するプレス成形体11同士の接合部をわたる接続部材12を各プレス成形体11に接触させて配置し、これらのプレス成形体11および接続部材12をゴム型(図示せず)内に入れて真空封入し、CIP装置(図示せず)での加圧により矢印で図示するように全体を加圧圧縮する。
【0021】
接続部材12は、焼成時の収縮率がプレス成形体11と同程度の材質であることが好ましく、本実施形態ではプレス成形体11と同じく、プレス装置20で材料粉末Pを圧縮して成形して成形された矩形板状の部材である。
【0022】
CIP装置の圧力は166.7MPa(1.7ton/cm)とする。このように圧縮されることにより、互いに隣接するプレス成形体11同士およびプレス成形体11と接続部材12とが接合され、1枚の板状のCIP接合体13が形成される。形成されるCIP接合体13の成形密度は、プレス成形体11の成形密度よりも高く、55%以上65%以下とする。
【0023】
このように形成されたCIP接合体13を焼成することにより、材料粉末Pの有機バインダが焼失するとともに、酸化物粉粒体が焼結されて、図3に示すセラミックス焼成体14が形成される(焼成工程)。焼成によって各プレス成形体11および接続部材12は収縮し、たとえばプレス成形体11の接合部において隣接する角部同士が離れるように変形する。しかしながら、本実施形態のCIP接合体13では、接続部材12がこの接合部に設けられ、各プレス成形体11に接合されているので、焼成に伴う収縮によってプレス成形体11の角部同士が離れることが防止される。以上のように、複数のプレス成形体11が隙間なく接合された、密度が均一であり大面積を有するセラミックス焼成体14が得られる。
【0024】
セラミックスターゲットは、このように形成されたセラミックス焼成体14に対して機械加工等を施すことにより製造される。すなわち、セラミックス焼成体14の外形を切削して所望の形状としたり、表面を研削して平面度を向上させたりする加工を行う。このように製造されたセラミックスターゲットは、プレス成形によって均一に圧縮された複数のプレス成形体11を冷間等方加圧により接合して大型化したCIP接合体13を焼成してなるので、全体の密度が均一であり、面積が大きく、隙間がない。したがって、このセラミックスターゲットを用いたスパッタ処理により、高品質なセラミックス薄膜を大型基板上に形成することが可能となる。
【0025】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
たとえば、図4に示すように、プレス成形体11Aを台形板として、斜めに形成された端面同士を接合してもよい。この場合、接合部がプレス成形体11A同士を互いに接触させる傾斜面状であるので、前記実施形態の接合部に比較して接合面が大きくなり、より確実にプレス成形体11A同士が接合されたCIP接合体13Aを形成することができる。この場合も、接続部材12を用いてプレス成形体11A同士の剥離を防止することが好ましい。
【0026】
また、図5に示すように、ジグザグ状の接合部により各プレス成形体11B同士を係合させたCIP接合体13Bにおいても、接合面が大きいので、プレス成形体11B同士の接合をより確実にすることができる。
また、図6に示すように、プレス成形体11Cの端面を表面に対して傾斜させ、この傾斜面同士が互いに接触するようにプレス成形体11Cを接合させることにより、接合面を大きくして、CIP接合体13Cにおける接合をより確実することもできる。
また、図7に示すCIP接合体13Dは、プレス成形体11Dの端面に段差を設けることにより、プレス成形体11D同士の接合部がこれらプレス成形体11D同士を互いに係合させる凹凸面状となっている。これにより、CIP接合体13Dにおいても、接合面が大きく設けられ、より確実な接合が図られている。
【0027】
さらに、プレス成形体11Eを縦横に並べて大面積化を図る場合、図8に示すように、各プレス成形体11E同士の接合面が連続しないようにずらすことにより、隣接するプレス成形体11Eが接続部材の役目を果たすので、より大面積のCIP接合体13Eにおいても焼成時の収縮による割れや剥離を防止できる。
【0028】
なお、長方形板状の接続部材12を設けることにより、CIP工程においてプレス成形体に応力が集中し、接続部材12とプレス成形体とが形成する隅部近傍に割れが生じる場合には、図9に示すように、三角形板状の接続部材12Fを用いるように、プレス成形体11と接続部材12Fとの隅部を鈍角にして応力集中を避けることにより、CIP工程におけるCIP接合体13Fの破損を防止することができる。
【符号の説明】
【0029】
11 プレス成形体
12 接続部材
13 CIP接合体
14 セラミックス焼成体
20 プレス装置
21 ダイプレート
22 上パンチ
23 下パンチ
24 キャビティ
P 材料粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料粉末をプレス成形により板状に圧縮成形して、プレス成形体を形成するプレス成形工程と、
複数の前記プレス成形体を互いに接触させて板状に並べ、これらプレス成形体を冷間等方圧加圧により圧縮して一体に接合し、前記プレス成形体よりも大面積の板状のCIP接合体を形成するCIP工程と、
前記CIP接合体を焼成して、板状の焼成体を形成する焼成工程と、
を有することを特徴とするターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記CIP工程において、前記プレス成形体同士の接合部の外面に、隣接する両プレス成形体間にわたる接続部材を前記各プレス成形体に接触させて配置しておき、これらプレス成形体にさらに前記接続部材を一体に接合することを特徴とする請求項1に記載のターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記プレス成形体同士の前記接合部は、これらプレス成形体同士を互いに接触させる傾斜面状であることを特徴とする請求項1または2に記載のターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記プレス成形体同士の前記接合部は、これらプレス成形体同士を互いに係合させる凹凸面状であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−229499(P2010−229499A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78734(P2009−78734)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】