説明

ターゲット交換式プラズマ発生装置

【目的】本発明は、2つのターゲットの位置を独立に調整することができるターゲット交換式プラズマ発生装置を提供することを目的とする。
【構成】本発明は、真空アーク放電によりプラズマを発生させるプラズマ発生装置に具備されるターゲット交換機構6が、主モータMにより半回転駆動される主ホルダ32と、これらの直径方向の対向位置に設けられた収容部32a、32bと、収容部32a、32bに回転自在に収納された副ホルダ16、18と、これらを自転させる2つの副モータM、Mと、副ホルダ16、18をその自転軸方向に昇降させるスライダS、Sと、副ホルダ16、18に嵌合されるターゲットT、Tから構成され、主ホルダ32を半回転させてターゲットT、Tの位置を交換し、主ホルダ32の不動時にターゲットT、Tを放電位置と研磨位置に独立に昇降自転駆動するターゲット交換式プラズマ発生装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空アーク放電によりプラズマを発生させるプラズマ発生装置に関し、更に詳細には、真空アークプラズマの供給源(以下、「ターゲット」と称す)が複数配設され、放電位置に電極として配設されたターゲットと研磨位置で放電面が研磨されたターゲットの位置を交換するターゲット交換機構を具備するターゲット交換式プラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ中で固体材料の表面に薄膜を形成したり、イオンを注入したりすることにより、固体の表面特性が改善されることが知られている。金属イオンや非金属イオンを含むプラズマを利用して形成した膜は、固体表面の耐磨耗性・耐食性を強化し、保護膜、光学薄膜、透明導電性膜などとして有用なものである。金属イオンや非金属イオンを含むプラズマを発生する方法として、真空アークプラズマ法がある。この真空アークプラズマ法では、陰極であるターゲットの放電面と陽極の間に生起されたアーク放電により放電面近傍にアークスポットが形成される。所定のアーク電流が保持されることにより、アークスポットは自己持続性を有し、ターゲット材料のイオンからなる真空アークプラズマ(以下、単に「プラズマ」とも称す)がアークスポットから放出される。ターゲット材料の蒸発・侵食(エロージョン)などによって形成された放電面の孔(以下「孔部」と称す)が存在すると、アークスポットは不安定となり、アークスポットを維持するためには、より大きなアーク電流が必要となる。従って、従来のプラズマ発生装置では、孔部の形成によりターゲットの放電面が消耗した場合、プラズマの断続的生成を一時中断して真空チャンバを開け、ターゲットを交換する必要があり、必要な真空度を再び達成するのに1日を超える時間がかかることがあった。
【0003】
特開2005−240182号公報(特許文献1)には、長期間の連続使用を可能にするため、2つのターゲットが併設され、真空アークプラズマの生成により放電面が消耗したターゲットと放電面の研磨が完了したターゲットの位置を同一の真空チャンバ内で交換することが可能な従来のターゲット交換式プラズマ発生装置が記載されている。図10は、特許文献1に記載される従来のターゲット交換式プラズマ発生装置の断面図である。従来のターゲット交換式プラズマ発生装置102では、ストライカ120が設置されたプラズマ発生部104に第1ターゲットtが配設され、グラインダgを有する研磨機が設置されたターゲット研磨部108には、第2ターゲットtが配設されている。第1ターゲットtの放電面TS1とこれと接触状態にあるストライカ120に電流を流した状態で、ストライカ120を放電面TS1から引き離すことによって、プラズマの発生が誘起される。即ち、第1ターゲットtと第2ターゲットtはターゲット交換手段106を構成するホルダ132上に載置されており、第1ターゲットtは放電位置に、そして第2ターゲットtは研磨位置にある。前記ホルダ132は回転軸148を備えており、回転機構mによって回転することができる。従って、プラズマの生成により消耗したターゲットTと未使用又は放電面TS2に研磨処理等のトリミングが施された第2ターゲットtの位置を交換することができる。
【特許文献1】特開2005−240182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図10に示した従来のターゲット交換式プラズマ発生装置は、1つの高さ調節器149により回転軸148上に設置されたホルダ132の位置を上下に変化させ、第1ターゲットtと第2ターゲットtの高さ位置が調節されていた。また、第1ターゲットtと第2ターゲットtの自転させる場合においても、図10と同じ従来のターゲット交換式プラズマ発生装置では、1つの駆動手段によって行われていた。即ち、放電位置と研磨位置にある2つのターゲットの高さやストライカ120の放電面TS1に対する接触位置や放電面TS2のトリミングの位置を独立に変更することが不可能であり、各ターゲットの消耗量や必要なアーク電流等に応じた微調整を行うことができなかった。しかしながら、必ずどちらか一方のターゲットを用いてプラズマの生成が行われること、2つのターゲットの研磨処理による消耗量にはずれが生じることから、複数のターゲットを独立に昇降して高さを調整したり、ターゲットの自転を制御することが求められていた。特に、異なる組成を有する2種のターゲットを配設する場合、ターゲットの消耗量には、大きな差異が生じる場合があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、放電位置にあるターゲットと研磨位置にあるターゲットの位置を交換できると共に、2つのターゲットの位置を独立に調整することができるターゲット交換式プラズマ発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、真空雰囲気下で陰極となるターゲットと陽極の間に真空アーク放電によりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記ターゲットの放電面を研磨するターゲット研磨部と、前記プラズマ発生部の放電位置に配設されるターゲットと前記ターゲット研磨部の研磨位置に配設されるターゲットの位置を交換するターゲット交換機構を具備するターゲット交換式プラズマ発生装置において、前記ターゲット交換機構は、主モータにより半回転駆動される主ホルダと、前記主ホルダの直径方向の対向位置に設けられた2つの収容部と、2つの前記収容部に回転自在に収納された2つの副ホルダと、2つの前記副ホルダを自転させる2つの副モータと、2つの前記副ホルダをその自転軸方向に昇降させる2つのスライダと、2つの前記副ホルダに嵌合される2つの前記ターゲットから構成され、前記主ホルダを半回転させて2つの前記ターゲットの位置を交換し、前記主ホルダの不動時に2つの前記ターゲットを前記放電位置と前記研磨位置に独立に昇降自転駆動するターゲット交換式プラズマ生成装置である。
【0007】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記自転軸の先端に前記副ホルダと着脱可能な接続手段が設けられ、前記接続手段が脱離時に前記副モータと前記スライダは前記主ホルダから分離されて、前記副ホルダを収納した前記主ホルダだけが半回転して前記ターゲットの位置が交換され、前記接続手段の係着時に前記自転軸を上昇させて前記副ホルダを前記主ホルダから分離させ、前記2つのターゲットの各々を放電位置及び研磨位置に独立に配置させるターゲット交換式プラズマ生成装置である。
【0008】
本発明の第3の形態は、第2の形態において、前記接続手段がチャック機構からなるターゲット交換式プラズマ生成装置である。
【0009】
本発明の第4の形態は、第1の形態において、前記自転軸の先端に前記副ホルダが固着され、前記自転軸を上昇させて前記副ホルダを前記主ホルダから分離させて、前記2つの前記ターゲットの各々を放電位置及び研磨位置に独立に配置し、前記自転軸を下降させて前記副ホルダを前記主ホルダの前記収容部に内装し、前記主ホルダを半回転して前記ターゲットの位置を交換する際に前記副モータと前記スライダを一体に半回転させるターゲット交換式プラズマ生成装置である。
【0010】
本発明の第5の形態は、第1〜第4のいずれかの形態において、前記プラズマ発生部は、前記ターゲットが前記放電位置に配置されたときに放電隔壁により密閉されたプラズマ発生室内に配置され、研磨機からなる前記ターゲット研磨部は前記ターゲットが前記研磨位置に配置されたときに研磨隔壁により密閉されたターゲット研磨室内に配置され、前記研磨機により前記ターゲットから放出される研磨粉が前記研磨室内に密封されるターゲット交換式プラズマ生成装置である。
【0011】
本発明の第6の形態は、第1〜第5のいずれかの形態において、前記プラズマ発生部は、電気的中性の外壁と前記外壁の内側に設けられた陽極内壁の内部に形成されるターゲット交換式プラズマ生成装置である。
【0012】
本発明の第7の形態は、第6の形態において、前記ターゲット近傍位置の前記外壁管の外周にターゲットコイルを配置し、前記プラズマ発生部のプラズマ出口側にフィルタコイルを配置し、前記ターゲットコイルにより発生する安定化磁場を前記フィルタコイルにより発生するプラズマ進行磁場と逆相(カプス)又は同相(ミラー)に形成するターゲット交換式プラズマ生成装置である。
【0013】
本発明の第8の形態は、前記第1〜7のいずれかの形態において、前記プラズマ発生部の前記放電位置に配置されるターゲットの近傍に前記ターゲットの前記放電面にアーク放電を誘起するストライカを配置し、回動手段により前記ストライカを支点の周りに回動させ、前記ストライカのトルク反力を測定して前記ストライカ先端が前記放電面に当接したことを検出するターゲット交換式プラズマ生成装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の形態によれば、前記ターゲット交換機構が、主モータにより半回転駆動される主ホルダと、前記主ホルダの直径方向の対向位置に設けられた2つの収容部と、2つの前記収容部に回転自在に収納された2つの副ホルダと、2つの前記副ホルダを自転させる2つの副モータと、2つの前記副ホルダをその自転軸方向に昇降させる2つのスライダと、2つの前記副ホルダに嵌合される2つの前記ターゲットから構成されるから、前記主ホルダを半回転させて2つの前記ターゲットの位置を交換すると共に、前記主ホルダの不動時に2つの前記ターゲットを前記放電位置と前記研磨位置に独立に昇降自転駆動することができる。即ち、主ホルダと副ホルダが独立に駆動されるよう構成され、ターゲット毎にプラズマ発生部にあるストライカやターゲット研磨部のグライダ等との位置関係を好適な位置に設定することができる。また、各ターゲットを独立に自転させ、ストライカと放電面の接触位置やトリミングの位置を適宜に調整することができる。尚、モータとしては、電気モータやエアシリンダによるアクチュエータ等の種々の駆動手段を用いることができる。従って、2つターゲットの研磨処理による消耗量にずれが生じる場合においても、ターゲットを独立に昇降して高さを調整して、真空アーク放電や研磨処理に適した位置に2つのターゲットを配設することができる。尚、研磨処理とは、消耗したターゲットの放電面を予め設計された形状にトリミングすることであり、種々の方法を含み、例えば、グラインダ以外に電気研磨などを利用することができる。
【0015】
本発明の第2の形態によれば、前記自転軸の先端に前記副ホルダと着脱可能な接続手段が設けられ、前記接続手段が脱離時に前記副モータと前記スライダは前記主ホルダから分離されて、前記副ホルダを収納した前記主ホルダだけが半回転して前記ターゲットの位置が交換され、前記接続手段の係着時に前記自転軸を上昇させて前記副ホルダを前記主ホルダから分離させることができる。従って、前記自転軸、副モータ及びスライダを主ホルダと共に半回転させること無く、ターゲットを交換することができ、主ホルダの構造を比較的簡単にできるから、装置の耐久性を向上させることができる。
【0016】
本発明の第3の形態によれば、前記接続手段がチャック機構からなるから、前記自転軸の先端に前記副ホルダをより確実に着脱することができる。即ち、チャック機構の開閉により、比較的簡単な操作で副ホルダと自転軸の着脱を行うことができる。
【0017】
本発明の第4の形態によれば、前記自転軸の先端に前記副ホルダが固着され、前記自転軸を上昇させて前記副ホルダを前記主ホルダから分離させて、前記2つの前記ターゲットの各々を放電位置及び研磨位置に独立に配置し、前記自転軸を下降させて前記副ホルダを前記主ホルダの前記収容部に内装し、前記主ホルダを半回転して前記ターゲットの位置を交換する際に前記副モータと前記スライダを一体に半回転させることができる。前記自転軸の先端に前記副ホルダが固着されているから、自転軸と記副ホルダの着脱に伴う部品の磨耗や不純物の発生を抑制することができる。また第1の形態と同様に、前記主ホルダの不動時に2つの前記ターゲットを前記放電位置と前記研磨位置に独立に昇降自転駆動することができる。
【0018】
本発明の第5の形態によれば、前記プラズマ発生部は、前記ターゲットが前記放電位置に配置されたときに放電隔壁により密閉されたプラズマ発生室内に配置され、研磨機からなる前記ターゲット研磨部は前記ターゲットが前記研磨位置に配置されたときに研磨隔壁により密閉されたターゲット研磨室内に配置され、前記研磨機により前記ターゲットから放出される研磨粉が前記研磨室内に密封されるから、プラズマ発生部をよりクリーンな状態に保持することができる。即ち、放電障壁と研磨障壁により2重に遮蔽され、清浄な状態をより長く保持することができる。また、主ホルダの上面に研磨粉を捕集する受部を設けることもできる。
【0019】
本発明の第6の形態によれば、前記プラズマ発生部は、電気的中性の外壁と前記外壁の内側に設けられた陽極内壁の内部に形成されるから、プラズマ発生装置の安全性を向上させることができる。即ち、プラズマ発生装置の外壁に電圧が印かさせることが無く、本装置の取扱いを比較的安全に行うことができる。
【0020】
本発明の第7の形態によれば、前記ターゲット近傍位置の前記外壁管の外周にターゲットコイルを配置し、前記プラズマ発生部のプラズマ出口側にフィルタコイルを配置し、前記ターゲットコイルにより発生する安定化磁場を前記フィルタコイルにより発生するプラズマ進行磁場と逆相(カプス)又は同相(ミラー)に形成するから、適宜にプラズマの安定化又はプラズマの生成効率を向上させることができる。発生する真空アークは、放電面上で振動して不安定となる場合があるが、プラズマの進行磁場とは逆相(カプス)の磁場を印加することにより、真空アークが安定化する結果が得られており、より安定にプラズマを生成することができる。また、同相(ミラー)の磁場を形成した場合、プラズマの生成効率を向上させることができる。
【0021】
本発明の第8の形態によれば、前記プラズマ発生部の前記放電位置に配置されるターゲットの近傍に前記ターゲットの前記放電面にアーク放電を誘起するストライカを配置し、回動手段により前記ストライカを支点の周りに回動させ、前記ストライカのトルク反力を測定して前記ストライカ先端が前記放電面に当接したことを検出するから、高効率に研磨処理を行うことができる。従来、ストライカは、重力又は駆動時に加えられた力の慣性により、放電面に接触する場合が多かったが、一定のトルクを維持して接触時のトルク反力を測定することにより、ストライカの接触を高精度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置2の断面図である。本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置2は、第1ターゲットの放電面があるプラズマ発生部4、第2ターゲットTの放電面TS2があるターゲット研磨部8及びこれらのターゲットを交換するターゲット交換機構6から構成される。プラズマ発生部4では、ターゲットTの放電面TS1と陽極内壁24の間に真空アークプラズマを発生させる前段階として、ストライカ20をターゲットTの放電面TS1から引き離すと電気スパークを生起してプラズマの発生を誘起する。図示しないが、ストライカ20には、このストライカ20を支点の周りに回動させてトルク反力を測定する測定手段が設置されており、ストライカ20の先端が放電面TS1に当接したことを検出することができる。尚、プラズマが発生すると放電面TS1には、孔部が形成される。即ち、孔部内のターゲット材料が蒸発してプラズマを形成する。更に、プラズマ発生部4は、外壁26で覆われ、後述の安定化磁場を発生させるターゲットコイル28が付設されている。
【0023】
前記ターゲット研磨部8では、グラインダ34がグラインダ回転軸36を介して駆動手段であるグライダ用モータMに接続されており、グラインダ34によりターゲットTの放電面TS2を研磨することができる。ターゲット研磨部8で放電面TS2に研磨処理を施すことにより、プラズマの生成により形成された放電面TS2の孔部を消失させることができる。更に、ターゲット研磨部8は、研磨部外壁12と研磨隔壁38で覆われており、放電面TS2に研磨処理を施しても、研磨粉等がターゲット研磨部8から真空チェンバ内の他の場所に放出されることを防止又は抑制することができる。
【0024】
図1のターゲット交換機構6は、真空チャンバの外壁33内に設けられ、主モータMにより半回転駆動される主ホルダ32、この主ホルダ32の直径方向の対向位置に設けられた第1収容部32aと第2収容部32b、これらの収容部に回転自在に収納され得る第1副ホルダと第2ホルダから構成されている。更に、第1副モータM1には第1自転軸42が接続され、第2副モータM2には第2自転軸が接続され、これらの自転軸の先端には、2つの副ホルダと着脱自在な第1チャック42aと第2チャック44aが設けられている。図中では、第1副ホルダ16の第1接合部30に第1チャック42aが挿入され、第2副ホルダの第2接合部31にチャック44aが挿入され、各副ホルダと各自転軸を結合させている。従って、第1副モータM1により第1自転軸32aを回転させれば、第1副ホルダ16に嵌合される第1ターゲットTを回転させ、同様に、第2副モータM1の駆動により第2ターゲットTを回転させることができる。更に、第1自転軸42を昇降する第1スライダSと第2自転軸44を昇降する第2スライダSが設けられ、各々独立に第1ターゲットTと第2ターゲットTを昇降することができる。
【0025】
図2は、本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置2において2つの副ホルダ16、18が主ホルダ32に収容される場合の装置断面図である。以下、既に説明した符号については、その説明を省略する。第1チャック42aと第2チャック44aが閉じた状態で、第1スライダS及び第2スライダSにより第1自転軸42と第2自転軸44を降下させている。各チャックは、第1接合部30と第2接合部から抜かれ、第1副ホルダ16が第1収容部32aに、第2副ホルダ18が第2収容部32bに収容されている。各チャック42a、44aが主ホルダ32の最下部より下方に位置することにより、主ホルダ32は、矢印のように、主モータMにより半回転させることができ、ターゲット位置を交換することができる。これらの動作過程については後述する。
【0026】
図3及び図4は、本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置2において2つのホルダ16、18が各自転軸42、44に固定されている場合の装置断面図である。図3及び図4では、2つの副ホルダ16、18が各自転軸42、44に固定されている。図4に示すように、副ホルダ16、18が各収容部32a、32bに収容され、第1ターゲットTと第2ターゲットTの位置が交換される場合、第1及び第2自転軸42、44も主ホルダ32と共に回転することになる。従って、各自転軸42、44の回転できるよう、自転軸外壁31a、31bも管状に形成されている。
【0027】
図5の(5A)は、本発明に係るターゲット交換式プラズマ生成装置2のプラズマ発生部4周辺の断面概略図である。電源37により電線39、40を介して陽極内壁24及びストライカ20aと第ターゲットTの間に電圧が印加される。外壁26は、陽極内壁24と接触しておらず、絶縁部材35a、35bにより電気的中性が保たれている。接触位置にあるストライカ20aをストライカ20bの位置方向へ引き離すことにより、放電面TS1と陽極内壁24の間に真空アーク放電が誘起される。ストライカ20a(又は20b)は、回転手段21に取り付けられており、離れた位置にあるストライカ20bを放電面Tsに接触させる場合、回転手段21により接触したストライカ20aのトルク反力を検出し、接触状態にあることが判断される。更に、プラズマ発生部4のプラズマ出口側には、フィルタコイル50が配設されてプラズマ進行磁場B1が形成される。ターゲットコイル28により発生する安定化磁場B1は、プラズマ進行磁場B2とは逆相(カプス)に形成されており、安定したプラズマの生成が可能になる。(5B)に示すように、ターゲットコイル28により発生する安定化磁場B1が同相(ミラー)の場合、アークスポットの安定性は低下するが、プラズマの生成効率が向上することが分かっている。
【0028】
図6は、本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置2が設置されたプラズマ処理装置の断面概略図である。プラズマ発生部4では、真空アーク放電によりターゲット材料イオン、電子、陰極材料中性粒子(原子及び分子)といった真空アークプラズマ構成粒子が放出されると同時に、サブミクロン以下から数百ミクロン(0.01〜1000μm)の大きさの陰極材料微粒子(以下「ドロップレットD」と称する)も放出される。生成されたプラズマPは、プラズマ進行路54を進行し、屈曲部51において屈曲磁場発生器52、52により形成された磁場によって第2進行路へ進行する。このとき、ドロップレットDは、電気的に中性であり磁場の影響を受けないため、ドップレット進行路56を直進し、ドロップレット捕集部56aに捕集される。また、ドップレット進行路56及びプラズマPの各進行路の内壁には、ドロップレットDが衝突して付着するバッフル59及び66aが設けられている。
【0029】
第2進行路には、プラズマ進行磁場を発生させる第2磁場発生器が設置されており、プラズマPが進行する。内壁に複数のバッフル66aが設けられた拡径管66内を進行し、残存するドロップレットDが前記バッフル66aに衝突して付着し、さらにドロップレットDが除去される。ドロップレットDが除去されたプラズマPは第3磁場発生器71、71の磁場によりプラズマ処理部74に供給され、被処理物3をプラズマ処理することができる。本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置2では、2つのターゲットを交換してプラズマの生成と放電面の研磨を断続的に繰り返すことができるから、高効率にプラズマ処理を行うことができる。
【0030】
図7及び9は、本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置2において各ターゲットT、Tが放電位置と研磨位置にある場合の動作過程を示す説明図である。(7A)では、第1ターゲットTがプラズマ発生部4の放電位置にあってプラズマPが生成され、第2ターゲットTがターゲット研磨部8の研磨位置にあり、放電面TS2が平坦な面となるまで、グラインダGにより研磨される。プラズマPの生成により形成される放電面Tsの孔部が大きくなり、真空アーク放電によるプラズマの生成効率が低下すると、(7B)に示すように、モータMの駆動により第1自転軸が回転し、第1副ホルダを介して第1ターゲットも回転し、放電面TS1の新たな位置にストライカ20が接触できるようになる。従って、プラズマの生成効率が回復し、所定量のプラズマPを発生させることができる。従って、第1ターゲットTの放電面には、複数の孔部が形成される。一方、ターゲット研磨部8では、第2ターゲットTの回転によりグラインダGが放電面TS2に接触する位置を変えることができ、第2ターゲットTに複数の孔部が形成されていても、グラインダGで研磨することにより孔部を消失させることができる。
【0031】
図8の(8A)では、スライダS、Sにより、第1ホルダ16に固定されたターゲットTと及び第2ホルダ18に固定されたターゲットTを降下させ、主ホルダ32の各収容部32a、32bに収容している。(8B)は、(8A)の状態から各自転軸を更に降下させ、主モータMにより主ホルダ32を半回転させた状態を示しており、各ターゲット及び副ホルダの位置が交換されている。
【0032】
図9は、本発明において各自転軸と副ホルダに固定されている場合の動作過程を示す説明図である。図9に示した実施形態は、図3及び4に示したターゲット交換式プラズマ発生装置に対応しており、(9A)に示した放電位置及び研磨位置から各スライダS、Sにより各ターゲットT、Tを降下させ、主ホルダ32に収容して半回転させたものである。この場合、各回転軸42、44、各副モータM、M及び各スライダS、Sの位置も交換される。
【0033】
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置によれば、プラズマの生成により孔部が複数形成されて消耗したターゲットと研磨処理されたターゲットの位置を交換できると共に、2つのターゲットの高さ位置やストライカとの接触位置等を独立に調整することができるターゲット交換式プラズマ発生装置を提供することができる。例えば、異なる組成を有する2種のターゲットを配設する場合においても、消耗量に応じて好適な位置にターゲットを設置することができる。従って、本発明によれば、真空チャンバを開けること無く、長時間に亘り連続的に又は断続的により安定に真空アークプラズマを生成することができ、被処理物への膜形成やプラズマ処理を高効率に行うプラズマ処理装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置の断面概略図である。
【図2】本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置において、2つの副ホルダが主ホルダに収容される場合の装置概略断面図である。
【図3】本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置において2つのホルダが各自転軸に固定されている場合の装置概略断面図である。
【図4】図3のターゲット交換式プラズマ発生装置において副ホルダが主ホルダに収容されている場合の装置概略断面図である。
【図5】本発明に係るターゲット交換式プラズマ生成装置のプラズマ発生部4周辺の断面概略図である。
【図6】本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置が設置されたプラズマ処理装置の断面概略図である。
【図7】本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置における動作過程の説明図である。
【図8】本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置における動作過程の説明図である。
【図9】本発明に係るターゲット交換式プラズマ発生装置における動作過程の説明図である。
【図10】従来のターゲット交換式プラズマ発生装置の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
2 ターゲット交換式プラズマ発生装置
3 被処理物
4 プラズマ発生部
6 ターゲット交換機構
8 ターゲット研磨部
10 研磨機
12 研磨部外壁
16 第1副ホルダ
18 第2副ホルダ
20 ストライカ
20a ストライカ
20b ストライカ
21 揺動機構
23 ストライカ収容部
24 陽極内壁
25 放電隔壁
26 外壁
28 ターゲットコイル
30 第1接続部
31 第2接続部
32 主ホルダ
32a 第1収容部
32b 第2収容部
33 外壁
34 グラインダ
35a 絶縁部材
35b 絶縁部材
36 グラインダ回転軸
37 電源
38 研磨隔壁
39 電線
40 電線
42 第1自転軸
42a 第1チャック
43 第1自転軸機構
44 第2自転軸
44a 第2チャック
45 第2自転軸機構
48 回転軸
50 フィルタコイル
51 屈曲部
52 屈曲磁場発生器
53 アパーチャ
54 プラズマ進行路
55 進行路外壁
56 ドロップレット進行路
56a ドロップレット捕集部
58 第2進行路
59 バッフル
62 第1磁場発生器
66 拡径管
66a バッフル
68 第2磁場発生器
70 第3進行路
71 第3磁場発生器
74 プラズマ処理部
102 ターゲット交換式プラズマ発生装置
104 プラズマ発生部
106 ターゲット交換機構
108 ターゲット研磨部
116 第1副ホルダ
118 第2副ホルダ
120 ストライカ
132 主ホルダ
142 第1自転軸
144 第2自転軸
148 回転軸
B1 安定化磁場
B2 プラズマ進行磁場
D ドロップレット
G グラインダ
g グラインダ
M 主モータ
第1副モータ
第2副モータ
グラインダ用モータ
m 回転機構
P プラズマ
第1スライダ
第1スライダ
第1ターゲット
第2ターゲット
S1 放電面
S2 放電面
第1ターゲット
第2ターゲット
S1 放電面
S1 放電面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気下で陰極となるターゲットと陽極の間に真空アーク放電によりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記ターゲットの放電面を研磨するターゲット研磨部と、前記プラズマ発生部の放電位置に配設されるターゲットと前記ターゲット研磨部の研磨位置に配設されるターゲットの位置を交換するターゲット交換機構を具備するターゲット交換式プラズマ発生装置において、前記ターゲット交換機構は、主モータにより半回転駆動される主ホルダと、前記主ホルダの直径方向の対向位置に設けられた2つの収容部と、2つの前記収容部に回転自在に収納された2つの副ホルダと、2つの前記副ホルダを自転させる2つの副モータと、2つの前記副ホルダをその自転軸方向に昇降させる2つのスライダと、2つの前記副ホルダに嵌合される2つの前記ターゲットから構成され、前記主ホルダを半回転させて2つの前記ターゲットの位置を交換し、前記主ホルダの不動時に2つの前記ターゲットを前記放電位置と前記研磨位置に独立に昇降自転駆動することを特徴とするターゲット交換式プラズマ発生装置。
【請求項2】
前記自転軸の先端に前記副ホルダと着脱可能な接続手段が設けられ、前記接続手段が脱離時に前記副モータと前記スライダは前記主ホルダから分離されて、前記副ホルダを収納した前記主ホルダだけが半回転して前記ターゲットの位置が交換され、前記接続手段の係着時に前記自転軸を上昇させて前記副ホルダを前記主ホルダから分離させ、前記2つのターゲットの各々を放電位置及び研磨位置に独立に配置させる請求項1に記載のターゲット交換式プラズマ発生装置。
【請求項3】
前記接続手段がチャック機構からなる請求項2に記載のターゲット交換式プラズマ発生装置。
【請求項4】
前記自転軸の先端に前記副ホルダが固着され、前記自転軸を上昇させて前記副ホルダを前記主ホルダから分離させて、前記2つの前記ターゲットの各々を放電位置及び研磨位置に独立に配置し、前記自転軸を下降させて前記副ホルダを前記主ホルダの前記収容部に内装し、前記主ホルダを半回転して前記ターゲットの位置を交換する際に前記副モータと前記スライダを一体に半回転させる請求項1に記載のターゲット交換式プラズマ発生装置。
【請求項5】
前記プラズマ発生部は、前記ターゲットが前記放電位置に配置されたときに放電隔壁により密閉されたプラズマ発生室内に配置され、研磨機からなる前記ターゲット研磨部は前記ターゲットが前記研磨位置に配置されたときに研磨隔壁により密閉されたターゲット研磨室内に配置され、前記研磨機により前記ターゲットから放出される研磨粉が前記研磨室内に密封される請求項1〜4のいずれかに記載のターゲット交換式プラズマ発生装置。
【請求項6】
前記プラズマ発生部は、電気的中性の外壁と前記外壁の内側に設けられた陽極内壁の内部に形成される請求項1〜5のいずれかに記載のターゲット交換式プラズマ発生装置。
【請求項7】
前記ターゲット近傍位置の前記外壁管の外周にターゲットコイルを配置し、前記プラズマ発生部のプラズマ出口側にフィルタコイルを配置し、前記ターゲットコイルにより発生する安定化磁場を前記フィルタコイルにより発生するプラズマ進行磁場と逆相(カプス)又は同相(ミラー)に形成する請求項6に記載のターゲット交換式プラズマ発生装置。
【請求項8】
前記プラズマ発生部の前記放電位置に配置されるターゲットの近傍に前記ターゲットの前記放電面にアーク放電を誘起するストライカを配置し、回動手段により前記ストライカを支点の周りに回動させ、前記ストライカのトルク反力を測定して前記ストライカ先端が前記放電面に当接したことを検出する請求項1〜7のいずれかに記載のターゲット交換式プラズマ発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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