説明

ターゲット物質供給装置

【課題】LPP型EUV光源装置のプラズマ発生室にターゲット物質を供給するターゲット物質供給装置において、ターゲット物質の温度を安定させる。
【解決手段】このターゲット物質供給装置は、外部から供給されるターゲット物質を冷却して液化するための液化室108と、液化室108において液化されたターゲット物質を噴出するためのノズル102と、液化室108内においてターゲット物質の温度を制御するためのロッド109、冷却装置110、ヒータ111、温度センサ112、及び、温度制御部113と、ノズル102内においてターゲット物質の温度を制御するためのロッド114、冷却装置115、ヒータ116、温度センサ117、及び、温度制御部118とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット物質にレーザビームを照射することにより極端紫外(EUV:extreme ultra violet)光を発生するLPP(laser produced plasma:レーザ生成プラズマ)方式の極端紫外光源装置のプラズマ発生室にターゲット物質を供給するターゲット物質供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴って光リソグラフィも微細化が急速に進展しており、次世代においては、100〜70nmの微細加工、更には50nm以下の微細加工が要求されるようになる。そのため、例えば、50nm以下の微細加工の要求に応えるべく、波長13nm程度のEUV光源と縮小投影反射光学系(reduced projection reflective optics)とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
EUV光源としては、レーザビームをターゲットに照射することによって生成されるプラズマを用いたLPP(laser produced plasma:レーザ生成プラズマ)光源(以下において、「LPP式EUV光源装置」ともいう)と、放電によって生成されるプラズマを用いたDPP(discharge produced plasma)光源と、軌道放射光を用いたSR(synchrotron radiation)光源との3種類がある。これらの内でも、LPP光源は、プラズマ密度をかなり大きくできるので黒体輻射に近い極めて高い輝度が得られ、ターゲット物質を選択することにより必要な波長帯のみの発光が可能であり、ほぼ等方的な角度分布を持つ点光源であるので光源の周囲に電極等の構造物がなく、2πsteradという極めて大きな捕集立体角の確保が可能であること等の利点から、数十ワット以上のパワーが要求されるEUVリソグラフィ用の光源として有力であると考えられている。
【0004】
図6は、LPP方式のEUV光の生成原理を説明するための図である。図6に示すEUV光源装置は、レーザ発振器901と、集光レンズ等の集光光学系902と、ターゲット供給装置903と、ターゲットノズル904と、EUV集光ミラー905とを備えている。レーザ発振器901は、ターゲット物質を励起させるためのレーザビームをパルス発振するレーザ光源である。集光レンズ902は、レーザ発振器901から射出したレーザビームを所定の位置に集光する。また、ターゲット供給装置903は、ターゲット物質をターゲットノズル904に供給し、ターゲットノズル904は、供給されたターゲット物質を所定の位置に噴射する。
【0005】
ターゲットノズル904から噴射されたターゲット物質にレーザビームを照射することにより、ターゲット物質が励起してプラズマが発生し、そこから様々な波長成分が放射される。
EUV集光ミラー905は、プラズマから放射された光を反射集光する凹面状の反射面を有している。この反射面には、所定の波長成分(例えば、13.5nm付近)を選択的に反射するために、例えば、モリブデン及びシリコンを交互に積層した膜(Mo/Si多層膜)が形成されている。それにより、プラズマから放射された所定の波長成分が、出力EUV光として露光装置等に出力される。
【0006】
なお、ターゲット物質として、キセノン(Xe)等の常温において気体の物質を用いる場合には、ターゲットノズル904の上流側に、ターゲット物質を加圧冷却することにより液化させる機構を設けることもある(例えば、下記の特許文献1参照)。
特許文献1には、液体プラズマターゲット物質を供給するためのターゲット供給システムであって、ガス状態のターゲット物質を供給する供給源と液化するためにガスの温度を低くする熱交換器とを含むターゲット供給システムと、ターゲット供給システムから液体を受け取る入力端と出力端とそれらの間の狭いスロート部とを含み、液体ドロップレットを出力端を通して放出するノズルと、液体ドロップレットを加熱しEUV放射を生成するレーザビームを液体ドロップレットに照射するレーザビーム源とを具備するLPP方式のEUV光源が掲載されている。
【0007】
また、ターゲットノズル904にピエゾ素子を設け、ターゲットノズル904を振動させながら液体のターゲット物質を噴射させることにより、ターゲット物質の液滴(ドロップレット)を形成することができる。
【0008】
一方、下記の非特許文献1には、液体アルゴンや液体酸素のドロップレットをノズルから低圧ガス中に噴射すると、ドロップレット化する以前に、ジェットの状態で固化することが掲載されている。これは、周囲の圧力が急激に低下することにより、ジェット表面が急激に気化し、その気化潜熱によってジェットが凍結してしまうものと考えられる。このようにドロップレットが固化してしまうことは、安定したEUV光を得るには好ましいことではない。そこで、従来より、LPP式EUV光源装置において、ドロップレットの固化を防止することが行われている。
【0009】
図7は、ジェットの固化を防止し、ドロップレットを生成することが可能な従来のLPP式EUV光源装置を示す模式図である。図7に示すLPP式EUV光源装置は、液滴生成室910と、ピエゾドライバ916と、EUV光を生成するためのプラズマ発生が行われるプラズマ発生室930と、プラズマ発生室930においてターゲット物質の液滴を照射するレーザ光L2を発生するレーザ光源931と、レーザ光源931から出射したレーザ光L2をレーザ光照射点933に導くレンズ932と、制御部935とを含んでいる。液滴生成室910とプラズマ発生室930とは、液滴生成室910に設けられた開口部910aを通じて接続されている。
【0010】
液滴生成室910には、ピエゾ素子913が設けられたノズル912と、バッファガスを導入するためのバッファガス導入路914と、排気ポンプ915とが設けられている。また、ピエゾ素子913には、ピエゾ素子913に供給される駆動信号を発生するピエゾドライバ916が接続されている。
【0011】
ノズル912の上流側には、外部からターゲット物質導入路917を介してターゲット物質(例えば、Xe等)が供給される液化室918が配置されている。液化室918には、液化室918を冷却するためのロッド919の一方の端部である冷却端919aが接続されている。ロッド919の他方の端部は、冷却装置920(例えば、パルスチューブ冷凍機、液体窒素等)に接続されている。また、ロッド919には、ロッド919の温度を微調整するためのヒータ921が設けられている。さらに、液化室918には、温度センサ922(例えば、熱電対等)が設けられており、冷却装置920、ヒータ921、及び、温度センサ922は、温度制御部923に接続されている。温度制御部923は、温度センサ922を利用して液化室918の温度をモニタリングしながら冷却装置920を駆動させて液化室918を冷却することにより、液化室918内のターゲット物質をEUV光の生成に適した温度に冷却液化する。さらに、温度制御部923は、ヒータ921を適宜駆動させて、ロッド919の温度を微調整することにより、液化室918内のターゲット物質の温度を微調整することができる。
【0012】
外部から供給されるターゲット物質は、図中の点線で示すように、ターゲット物質導入路917を介して液化室918に導入され、液化室918内において冷却液化される。液化されたターゲット物質は、ノズル912から液滴生成室910内に噴射される。
【0013】
ピエゾ素子913は、ピエゾドライバ916から供給される駆動信号に基づいて伸縮することにより、ノズル912に所定の周波数fの振動を与える。このように、ノズル912を介して、ノズル912から噴射されるターゲット物質の流れ(ターゲット噴流)を擾乱させることにより、繰り返して滴下するターゲット物質の液滴911を生成することができる。即ち、ターゲット噴流の速度をv、ターゲット噴流に生じた振動の波長をλ(λ=v/f)、ターゲット噴流の直径をdとした場合に、所定の条件(例えば、λ/d=4.51)を満たすときに、均一な大きさの理想的な液滴が形成される。このターゲット噴流に生じさせる擾乱の周波数fは、レイリー周波数と呼ばれている。実際には、λ/d=3〜8程度であれば、ほぼ均一な大きさの液滴が形成される。EUV光源装置において一般的に用いられるノズルから噴射されるターゲット噴流の速度vは20m/s〜30m/s程度であるので、直径が10μm〜100μm程度の液滴を形成する場合に、ノズルに与えるべき周波数は、数10kHz〜数100kHz程度となる。以下において、このようにして1秒間あたりに生成される液滴の数のことを、液滴生成周波数、又は、単に生成周波数という。
【0014】
バッファガス導入路914は、ヘリウムガス(He)、窒素ガス(N2)等の不活性なガスをバッファガスとして導入するために設けられている。ここで、キセノン(Xe)のように、常温常圧において気体状態である物質を液体ターゲットとして用いる場合には、先に説明したように高真空チャンバ内において、ノズルから噴出したターゲット物質が凍結して、ドロップレット化を阻害するため、それを回避しなくてはならない。そのため、液滴生成室910にバッファガスを導入し、ノズル912近傍の圧力がターゲット物質の飽和蒸気圧以上となるようにしている。このバッファガスは、開口部910aを通じてプラズマ発生室930にも導入されてしまうので、上記のように、EUV光の吸収が比較的少ない気体を用いることが望ましい。
【0015】
排気ポンプ915は、液滴生成室910内を所望の真空度に維持すると共に、生成された液滴911の表面から蒸発した蒸発ガスを外部に排出する。
【0016】
プラズマ発生室930には、排気ポンプ934が設けられている。排気ポンプ934は、開口部910aを通過してプラズマ発生室930に導入された液滴911の表面から蒸発した蒸発ガスや、液滴生成室910から漏れ出したバッファガス等の不要な物質を外部に排出することにより、プラズマ発生室930内を所望の真空度(例えば、1Pa以下)に維持する。
【0017】
レーザ光源931から出射したレーザ光L2は、レンズ932によって集光され、プラズマ発生室930内のレーザ光照射点933を所定の繰り返し動作周波数(例えば、10kHz)で照射する。このようなプラズマ発生室930において、液滴911が、レーザ光照射点933を通過する際にレーザ光L2を照射されると、ターゲット物質がプラズマ化してEUV光が放射される。このようにして生成されたEUV光は、例えば、Mo−Si膜が形成された反射光学系により、露光装置等に導かれる。
【0018】
制御部935は、ノズル912の径やターゲット物質の噴射速度等に応じてピエゾドライバ916の液滴生成周波数を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許6,324,256(図3)
【非特許文献1】谷本(M. Tanimoto)、「固体ペレットを生成するための極低温の実験的な装置(Cryogenic Experimental Device for Production of Solid Pellets)」、第7回核融合技術シンポジウム会報(Proceedings of the 7th Symposium on Fusion Technology)、1972年、p.267−272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
近年、安定したEUV光を得るためには、液滴911の温度を比較的狭い温度幅内に制御する必要があることが判明してきた。これは、ターゲット物質をノズルから噴出する際のターゲット温度が高いと、噴出後のジェットの位置安定性、ひいては液滴の安定性が不安定になるからである。理想的には、ターゲット物質が流路内で凍結しない、凝固点直上の温度が望ましい。しかしながら、従来は、図7に示すように、液化室918においてターゲット物質の温度を制御していた。そのため、液化室918の下流に位置するノズル912の温度がバッファガスの影響を受けて上昇し、ノズル912から噴射される液滴911の温度がEUV光の生成に適した温度より高くなってしまい、液滴911の位置や軌道が安定せず、安定したEUV光を得ることができないということが生じていた。
【0021】
このようなことを防止するために、液化室918内のターゲット物質の温度を凍結しない下限温度に制御することが考えられる。しかしながら、そのようにしても、液化室918から出たターゲット物質はノズル912を通過するので、液滴911の温度を安定させることができず、安定したEUV光を得ることができない。また、液滴911の温度を所望の温度にするためには、液化室918内のターゲット物質の温度を凍結しない下限ぎりぎりの温度に制御する必要があり、ややもすればターゲット物質が液化室918内において凍結してしまい、液滴911がノズル912から噴出されないことも起こり得る。
【0022】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、LPP型EUV光源装置のプラズマ発生室にターゲット物質を供給するターゲット物質供給装置において、プラズマ発生室に供給されるターゲット物質の温度を安定させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係るターゲット物質供給装置は、レーザ生成プラズマ方式の極端紫外光源装置のプラズマ発生室にターゲット物質を供給するターゲット物質供給装置であって、外部から供給されるターゲット物質を冷却して液化するための液化室と、液化室において液化されたターゲット物質を噴出するためのノズルと、液化室内においてターゲット物質の温度を制御するとともに、ノズル内においてターゲット物質の温度を制御するための温度制御手段とを具備する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、プラズマ発生室に供給されるターゲット物質の温度を安定させることができる。これにより、安定したEUV光を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたEUV光源装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたEUV光源装置の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたEUV光源装置の構成を示す模式図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたEUV光源装置の構成を示す模式図である。
【図5】本発明の第5の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたEUV光源装置の構成を示す模式図である。
【図6】LPP式EUV光源装置のEUV光生成原理を説明するための図である。
【図7】従来のEUV光源装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたLPP方式EUV光源装置の構成を示す模式図である。このEUV光源装置は、液滴生成室100と、ピエゾドライバ106と、EUV光を生成するためのプラズマ発生が行われるプラズマ発生室130と、プラズマ発生室130においてターゲット物質の液滴を照射するレーザ光L1を発生するレーザ光源131と、レーザ光源131から出射したレーザ光L1をレーザ光照射点133に導くレンズ132と、制御部135とを含んでいる。液滴生成室100とプラズマ発生室130とは、液滴生成室100に設けられた開口部100aを通じて接続されている。
【0027】
液滴生成室100には、ピエゾ素子103が設けられたノズル102と、バッファガスを導入するためのバッファガス導入路104と、排気ポンプ105とが設けられている。また、ピエゾ素子103には、ピエゾ素子103に供給される駆動信号を発生するピエゾドライバ106が接続されている。
【0028】
ノズル102の上流側には、外部からターゲット物質導入路107を介してターゲット物質(例えば、Xe等)が供給される液化室108が配置されている。液化室108には、液化室108を冷却するためのロッド109の一方の端部である冷却端109aが接続されている。ロッド109の他方の端部は、冷却装置110(例えば、パルスチューブ冷凍機、液体窒素等)に接続されている。また、ロッド109には、ロッド109の温度を微調整するためのヒータ111が設けられている。さらに、液化室108には、温度センサ112(例えば、熱電対等)が設けられており、冷却装置110、ヒータ111、及び、温度センサ112は、温度制御部113に接続されている。
【0029】
温度制御部113は、温度センサ112を利用して液化室108の温度をモニタリングしながら冷却装置110を駆動させて液化室108を冷却することにより、液化室108内のターゲット物質をEUV光の生成に適した温度に冷却液化する。さらに、温度制御部113は、ヒータ111を適宜駆動させて、ロッド109の温度を微調整することにより、液化室108内のターゲット物質の温度を微調整することができる。
【0030】
ノズル102には、ノズル102を冷却するためのロッド114の一方の端部である冷却端114aが接続されている。ロッド114の他方の端部は、冷却装置115(例えば、パルスチューブ冷凍機、液体窒素等)に接続されている。また、ロッド114には、ロッド114の温度を微調整するためのヒータ116が設けられている。さらに、ノズル102には、温度センサ117(例えば、熱電対等)が設けられており、冷却装置115、ヒータ116、及び、温度センサ117は、温度制御部118に接続されている。
【0031】
温度制御部118は、温度センサ117を利用してノズル102の温度をモニタリングしながら冷却装置115を駆動させてノズル102を冷却することにより、ノズル102内のターゲット物質をEUV光の生成に適した温度に冷却する。さらに、温度制御部118は、ヒータ116を適宜駆動させて、ロッド114の温度を微調整することにより、ノズル102内のターゲット物質の温度を微調整することができる。
【0032】
外部から供給されるターゲット物質は、図中の点線で示すように、ターゲット物質導入路107を介して液化室108に導入され、液化室108内において冷却液化される。液化されたターゲット物質は、ノズル102から液滴生成室100内に噴射される。
【0033】
ピエゾ素子103は、ピエゾドライバ106から供給される駆動信号に基づいて伸縮することにより、ノズル102に所定の周波数fの振動を与える。このように、ノズル102を介して、ノズル102から噴射されるターゲット物質の流れ(ターゲット噴流)を擾乱させることにより、繰り返して滴下するターゲット物質の液滴101を生成することができる。即ち、ターゲット噴流の速度をv、ターゲット噴流に生じた振動の波長をλ(λ=v/f)、ターゲット噴流の直径をdとした場合に、所定の条件(例えば、λ/d=4.51)を満たすときに、均一な大きさの理想的な液滴が形成される。このターゲット噴流に生じさせる擾乱の周波数fは、レイリー周波数と呼ばれている。実際には、λ/d=3〜8程度であれば、ほぼ均一な大きさの液滴が形成される。EUV光源装置において一般的に用いられるノズルから噴射されるターゲット噴流の速度vは20m/s〜30m/s程度であるので、直径が10μm〜100μm程度の液滴を形成する場合に、ノズルに与えるべき周波数は、数10kHz〜数100kHz程度となる。以下において、このようにして1秒間あたりに生成される液滴の数のことを、液滴生成周波数、又は、単に生成周波数という。
【0034】
バッファガス導入路104は、ヘリウムガス(He)、窒素ガス(N2)等の不活性なガスをバッファガスとして導入するために設けられている。ここで、キセノン(Xe)のように、常温常圧において気体状態である物質を液体ターゲットとして用いる場合には、先に説明したようにターゲット物質が固化するおそれがあるので、それを回避しなくてはならない。そのため、液滴生成室100にバッファガスを導入し、液滴近傍の圧力がターゲット物質の飽和蒸気圧以上となるようにしている。このバッファガスは、開口部100aを通じてプラズマ発生室120にも導入されてしまうので、上記のように、EUV光の吸収が比較的少ない気体を用いることが望ましい。
【0035】
排気ポンプ105は、液滴生成室100内を所望の真空度に維持すると共に、生成された液滴101の表面から蒸発した蒸発ガスを外部に排出する。
【0036】
プラズマ発生室130には、排気ポンプ134が設けられている。排気ポンプ134は、開口部100aを通過してプラズマ発生室130に導入された液滴101の表面から蒸発した蒸発ガスや、液滴生成室100から漏れ出したバッファガス等の不要な物質を外部に排出することにより、プラズマ発生室130内を所望の真空度(例えば、1Pa以下)に維持する。
【0037】
レーザ光源131から出射したレーザ光L1は、レンズ132によって集光され、プラズマ発生室130内のレーザ光照射点133を所定の繰り返し動作周波数(例えば、10kHz)で照射する。このようなプラズマ発生室130において、液滴101が、レーザ光照射点133を通過する際にレーザ光L1を照射されると、ターゲット物質がプラズマ化してEUV光が放射される。このようにして生成されたEUV光は、例えば、Mo−Si膜が形成された反射光学系により、露光装置等に導かれる。
制御部135は、ノズル102の径やターゲット物質の噴射速度等に応じてピエゾドライバ106の液滴生成周波数を制御する。
【0038】
このように、本実施形態によれば、ロッド114、冷却装置115、温度センサ117、及び、温度制御部118を用いることにより、ノズル102を冷却することで、ノズル102内のターゲット物質の温度を制御することができる。これにより、ノズル102から噴出する液滴101の温度を安定させることができ、安定したEUV光を得ることが可能である。また、ヒータ116を更に用いることにより、ノズル102の温度を微調整することが可能であり、ノズル102内のターゲット物質の温度を微調整することが可能である。
【0039】
なお、本実施形態においては、1組のロッド114、冷却装置115、ヒータ116、温度センサ117、及び、温度制御部118を用いることにより、ノズル102内のターゲット物質の温度を制御することとしているが、2組以上のロッド、冷却装置、ヒータ、温度センサ、及び、温度制御部を用いることにより、ノズル102内のターゲット物質の温度を制御するようにしても良い。そのようにすれば、ノズル102内のターゲット物質の温度をより高精度に制御することが可能である。
【0040】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図2は、本発明の第2の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたLPP方式EUV光源装置の構成を示す模式図である。
【0041】
本実施形態においては、先に説明した第1の実施形態におけるロッド109及び114に代えて、2つの冷却端を有するロッド119を含んでいる。ロッド119の第1の冷却端119aは、液化室108に接続され、ロッド119の第2の冷却端119bは、ノズル102に接続されている。また、ロッド119の第3の端部は、冷却装置110に接続されている。そして、ロッド119の冷却端119aの近傍には、ヒータ111が設けられ、ロッド119の冷却端119bの近傍には、ヒータ116が設けられている。
【0042】
冷却装置110、ヒータ111、116、及び、温度センサ112、117は、温度制御部120に接続されている。
温度制御部120は、温度センサ112、117を利用して液化室108及びノズル102の温度をモニタリングしながら冷却装置110を駆動させて液化室108及びノズル102を冷却することにより、液化室108及びノズル102内のターゲット物質を冷却する。また、温度制御部120は、ヒータ111を適宜駆動させることにより、ロッド109の冷却端119aの温度を微調整することで、液化室108内のターゲット物質の温度を微調整することができる。さらに、温度制御部120は、ヒータ116を適宜駆動させることにより、ロッド109の冷却端119bの温度を冷却端119aの温度とは別に微調整することで、ノズル102内のターゲット物質の温度を微調整することができる。
【0043】
このように、本実施形態によれば、ロッド119、冷却装置110、温度センサ112、117、及び、温度制御部120を用いることにより、液化室108内のターゲット物質を冷却液化することができるとともに、ノズル102内のターゲット物質の温度を制御することができる。これにより、ノズル102から噴出する液滴101の温度を安定させることができ、安定したEUV光を得ることが可能である。
【0044】
なお、本実施形態においては、2つの冷却端を有するロッド119を用いることとしているが、3つ以上の冷却端を有するロッドを用いるようにしても良い。そのようなロッドを用いる場合に、1つの冷却端を液化室108に接続し、他の冷却端をノズル102に接続するようにしても良い。そのようにすれば、ノズル102内のターゲット物質の温度をより高精度に制御することが可能である。
【0045】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図3は、本発明の第3の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたLPP方式EUV光源装置の構成を示す模式図である。
【0046】
本実施形態においては、先に説明した第1の実施形態におけるロッド114に代えて、ロッド121を含んでいる。ロッド121の冷却端121aは、液滴生成室100に接続され、ロッド121の他の端部は、冷却装置115に接続されている。ロッド121の冷却端121aの近傍には、ヒータ116が設けられている。
【0047】
また、先に説明した第1の実施形態においては、温度センサ117がノズル102に設けられていたが、本実施形態においては、温度センサ117は、液滴生成室100に設けられている。
【0048】
温度制御部118は、温度センサ117を利用して液滴生成室100の温度をモニタリングしながら冷却装置115を駆動させて、液滴生成室100内のバッファガスを冷却する。このようにバッファガスが冷却されることにより、ノズル102が冷却され、ノズル102内のターゲット物質が冷却される。さらに、温度制御部118は、ヒータ116を適宜駆動させることにより、液滴生成室100内のバッファガスの温度を微調整することができる。このようにバッファガスの温度が微調整されることにより、ノズル102の温度が微調整される。このようにノズル102の温度が微調整されることにより、ノズル102内のターゲット物質の温度が微調整される。
【0049】
このように、本実施形態によれば、冷却装置115、温度センサ117、温度制御部118、及び、ロッド121を用いることにより、液滴生成室100内のバッファガスの温度を制御することができる。このようにバッファガスの温度を制御することで、ノズル102を介してノズル102内のターゲット物質の温度を安定させることができ、安定したEUV光を得ることが可能である。
【0050】
なお、先に説明した第1の実施形態においては、ロッド114の冷却端114a及び温度センサ117がノズル102に接続されており(図1参照)、ロッド114を通すための開口及び温度センサ117に接続する配線を通すための開口を液滴生成室100に設ける必要があった。
一方、本実施形態においては、ロッド121の冷却端121a及び温度センサ117が液滴生成室100に接続されている。そのため、ロッド121を通すための開口及び温度センサ117に接続する配線を通すための開口を液滴生成室100に設ける必要がなく、液滴生成室100を簡易な構造とすることができる。
【0051】
また、本実施形態においては、2つのロッド109、121を用いることとしているが、先に説明した第2の実施形態におけるロッド119のように2つの冷却端を有するロッドを用いるようにしても良い。そのようなロッドを用いる場合に、1つの冷却端を液化室108に接続し、他の冷却端を液滴生成室100に接続するようにすれば良い。
【0052】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図4は、本発明の第4の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたLPP方式EUV光源装置の構成を示す模式図である。
【0053】
先に説明した第3の実施形態においては、温度センサ117が液滴生成室100に設けられている(図3参照)。一方、本実施形態においては、温度センサ117は、ノズル102に設けられている。そのため、温度制御部118は、温度センサ117を利用してノズル102の温度をモニタリングしながら冷却装置115を駆動させて液滴生成室100内のバッファガスを冷却することができる。また、温度制御部118は、ヒータ116を適宜駆動させることにより、ロッド121の温度を微調整し、液滴生成室100内のバッファガスの温度を微調整することができる。これにより、ノズル102を介してノズル102内のターゲット物質の温度を微調整することができる。ノズル102の温度を直接モニタリングすることにより、第3の実施形態に比べてより正確な温度調整が可能である。
【0054】
このように、本実施形態によれば、液滴生成室100内のバッファガスの温度を制御することで、ノズル102内のターゲット物質の温度を高精度に安定させることができ、安定したEUV光を得ることが可能である。
【0055】
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
図5は、本発明の第5の実施形態に係るターゲット物質供給装置を用いたLPP方式EUV光源装置の構成を示す模式図である。
【0056】
本実施形態においては、先に説明した第3及び第4の実施形態における冷却装置115、ヒータ116、温度センサ117、温度制御部118、及び、ロッド121に代えて、ロッド122、冷却装置123、ヒータ124、温度センサ125、及び、温度制御部126を含んでいる。
【0057】
ロッド122の冷却端122aは、バッファガス導入路104に接続され、ロッド122の他の端部は、冷却装置123に接続されている。また、ロッド122の冷却端122aの近傍には、ヒータ124が設けられている。さらに、バッファガス導入路104には、温度センサ125が設けられており、冷却装置123、ヒータ124、及び、温度センサ125は、温度制御部126に接続されている。
【0058】
温度制御部126は、温度センサ125を利用してバッファガス導入路104の温度をモニタリングしながら冷却装置123を駆動させて、バッファガス導入路104内のバッファガスを冷却することができる。また、温度制御部126は、ヒータ124を適宜駆動させることにより、ロッド122の温度を微調整することで、バッファガス導入路104内のバッファガスの温度を微調整することができる。
【0059】
このように、本実施形態によれば、ロッド122、冷却装置123、ヒータ124、温度センサ125、及び、温度制御部126を用いることにより、バッファガス導入路104内のバッファガスの温度を制御することで、ノズル102内のターゲット物質の温度を安定させるように制御することができ、安定したEUV光を得ることが可能である。
【0060】
先に説明した第3及び第4の実施形態においては、ロッド121の冷却端121aが液滴生成室100に接続されている(図3及び図4参照)。一方、本実施形態においては、ロッド122の冷却端122aは、バッファガス導入路104に接続されている。このように、本実施形態においては、バッファガスをバッファガス導入路104において冷却することができるので、ノズルの冷却効率を先に説明した第3及び第4の実施形態よりも向上させることができる。
【0061】
なお、ここでは、温度センサ125をバッファガス導入路104に設けることとしているが、温度センサ125をノズル102に設けるようにしても良い。
また、本実施形態において、第3及び第4の実施形態における冷却装置115、ヒータ116、温度センサ117、温度制御部118、及び、ロッド121(図3及び図4参照)を更に含むこととしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、露光装置等に用いられるLPP型EUV光源装置のプラズマ発生室にターゲット物質を供給するターゲット物質供給装置において利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
100、910…液滴生成室、101、911…液滴、102、912…ノズル、103、913…ピエゾ素子、104、914…バッファガス導入路、105、134、915、934…排気ポンプ、106、916…ピエゾドライバ、107、917…ターゲット物質導入路、108、918…液化室、109、114、119、121、122、919…ロッド、110、115、920…冷却装置、111、116、124、921…ヒータ、112、117、125、922…温度センサ、113、118、120、126、923…温度制御部、130、930…プラズマ発生室、131、931…レーザ光源、132、932…レンズ、133、933…レーザ光照射点、135、935…制御部、901…レーザ発振器、902…集光レンズ、903…ターゲット供給装置、904…ターゲットノズル、905…EUV集光ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ生成プラズマ方式の極端紫外光源装置のプラズマ発生室にターゲット物質を供給するターゲット物質供給装置であって、
外部から供給されるターゲット物質を冷却して液化するための液化室と、
前記液化室において液化されたターゲット物質を噴出するためのノズルと、
前記液化室内においてターゲット物質の温度を制御するとともに、前記ノズル内においてターゲット物質の温度を制御するための温度制御手段と、
を具備するターゲット物質供給装置。
【請求項2】
前記温度制御手段が、第1及び第2の温度制御装置を含み、
前記第1の温度制御装置が、
その一端が前記液化室に接続された第1の熱伝導部材と、
前記第1の熱伝導部材の他端に接続され、前記第1の熱伝導部材を冷却するための第1の冷却装置と、
前記液化室に設けられた第1の温度センサと、
前記第1の温度センサを用いて前記液化室の温度をモニタリングしながら前記第1の冷却装置を駆動させることにより、前記液化室内のターゲット物質の温度を制御するための第1の制御部と、
を有し、
前記第2の温度制御装置が、
その一端が前記ノズルに接続された第2の熱伝導部材と、
前記第2の熱伝導部材の他端に接続され、前記第2の熱伝導部材を冷却するための第2の冷却装置と、
前記ノズルに設けられた第2の温度センサと、
前記第2の温度センサを用いて前記ノズルの温度をモニタリングしながら前記第2の冷却装置を駆動させることにより、前記ノズル内のターゲット物質の温度を制御するための第2の制御部と、
を有する、請求項1記載のターゲット物質供給装置。
【請求項3】
前記温度制御手段が、
その第1の端部が前記液化室に接続され、その第2の端部が前記ノズルに接続された熱伝導部材と、
前記熱伝導部材の第3の端部に接続され、前記熱伝導部材を冷却するための冷却装置と、
前記液化室に設けられた第1の温度センサと、
前記ノズルに設けられた第2の温度センサと、
前記第1及び第2の温度センサを用いて前記液化室及び前記ノズルの温度をモニタリングしながら前記冷却装置を駆動させることにより、前記液化室及び前記ノズル内のターゲット物質の温度を制御するための制御部と、
を有する、請求項1記載のターゲット物質供給装置。
【請求項4】
前記温度制御手段が、前記熱伝導部材の第1及び第2の端部の温度をそれぞれ微調整するための第1及び第2の温度微調整装置を更に具備し、
前記制御部が、前記第1の温度微調整装置を駆動させることにより、前記液化室内のターゲット物質の温度を微調整するとともに、前記第2の温度微調整装置を駆動させることにより、前記ノズル内のターゲット物質の温度を微調整する、請求項3記載のターゲット物質供給装置。
【請求項5】
前記ノズルから噴出されたターゲット物質の固化を防止するためのバッファガスが充填され、前記ノズルから噴出されたターゲット物質が通過可能な開口を有し、前記開口を介して前記プラズマ発生室に接続されたバッファガス室を更に具備し、
前記温度制御手段が、第1及び第2の温度制御装置を含み、
前記第1の温度制御装置が、
その一端が前記液化室に接続された第1の熱伝導部材と、
前記第1の熱伝導部材の他端に接続され、前記第1の熱伝導部材を冷却するための第1の冷却装置と、
前記液化室に設けられた第1の温度センサと、
前記第1の温度センサを用いて前記液化室の温度をモニタリングしながら前記第1の冷却装置を駆動させることにより、前記液化室内のターゲット物質の温度を制御するための第1の制御部と、
を有し、
前記第2の温度制御装置が、
その一端が前記バッファガス室に接続された第2の熱伝導部材と、
前記第2の熱伝導部材の他端に接続され、前記第2の熱伝導部材を冷却するための第2の冷却装置と、
前記ノズル又は前記バッファガス室に設けられた第2の温度センサと、
前記第2の温度センサを用いて前記ノズル又は前記バッファガス室の温度をモニタリングしながら前記第2の冷却装置を駆動させることにより、前記ノズル内のターゲット物質の温度を制御するための第2の制御部と、
を有する、請求項1記載のターゲット物質供給装置。
【請求項6】
前記ノズルから噴出されたターゲット物質の凍結を防止するためのバッファガスが充填され、前記ノズルから噴出されたターゲット物質が通過可能な開口を有し、前記開口を介して前記プラズマ発生室に接続されたバッファガス室を更に具備し、
前記温度制御手段が、第1及び第2の温度制御装置を含み、
前記第1の温度制御装置が、
その一端が前記液化室に接続された第1の熱伝導部材と、
前記第1の熱伝導部材の他端に接続され、前記第1の熱伝導部材を冷却するための第1の冷却装置と、
前記液化室に設けられた第1の温度センサと、
前記第1の温度センサを用いて前記液化室の温度をモニタリングしながら前記第1の冷却装置を駆動させることにより、前記液化室内のターゲット物質の温度を制御するための第1の制御部と、
を有し、
前記第2の温度制御装置が、
その一端が前記バッファガス室にバッファガスを導入するためのバッファガス導入路に接続された第2の熱伝導部材と、
前記第2の熱伝導部材の他端に接続され、前記第2の熱伝導部材を冷却するための第2の冷却装置と、
前記ノズル又は前記バッファガス導入路に設けられた第2の温度センサと、
前記第2の温度センサを用いて前記ノズル又は前記バッファガス導入路の温度をモニタリングしながら前記第2の冷却装置を駆動させることにより、前記ノズル内のターゲット物質の温度を制御するための第2の制御部と、
を有する、請求項1記載のターゲット物質供給装置。
【請求項7】
前記ノズルから噴出されるターゲット物質に所定の周波数の振動を与える手段を更に具備する、請求項1〜6のいずれか1項記載のターゲット物質供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−256608(P2012−256608A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180699(P2012−180699)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【分割の表示】特願2006−196057(P2006−196057)の分割
【原出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】