説明

タービン動翼および蒸気タービン

【課題】翼先端に設けられたインテグラルカバーと翼有効部との境界に発生する応力を低減することができ、前縁の耐エロージョン性を向上させることができるタービン動翼およびこのタービン動翼を備えた蒸気タービンを提供することを目的とする。
【解決手段】タービン動翼10の先端部のインテグラルカバー40は、前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の背側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に形成された背側カバー41と、前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の腹側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に形成された腹側カバー42とを備える。背側カバー41と腹側カバー42とが凹凸連結構造を有して少なくとも1つの接触面で接触し、接触面における上流側を向く法線方向N1と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角が90〜150度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン動翼に係り、翼先端に設けられたインテグラルカバーと翼有効部との境界に発生する応力を低減し、前縁の耐エロージョン性を向上させたタービン動翼およびこのタービン動翼を備える蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒸気タービンの低圧段におけるタービン動翼の振動特性を改善するために、遠心力によるタービン動翼の捻り戻り(以下、アンツイストという)の作用を利用して、タービン動翼の相互間を連結するインテグラルカバーを有するタービン動翼が使用されている。この動翼振動抑制機能を備えたタービン動翼について、様々な形状が提案されている(例えば、特許文献1−2参照。)。
【0003】
また、蒸気タービンの低圧段の最終段付近の蒸気は、水分を多く含んだ湿り蒸気となる。また、最終段に近い段落におけるタービン動翼の長翼化にともない、タービン動翼の先端部の周速度は増加し、水滴がタービン動翼に衝突し、タービン動翼がエロージョンによる非常に激しい損傷を受けることがある。このエロージョンによるタービン動翼の損傷は、タービン動翼の信頼性および耐久性を、遠心力や振動応力と相乗して低下させる原因となることがある。そのためエロージョンによるタービン動翼の損傷を防止するための手段として、タービン動翼の前縁に水分排出用の溝を設け、静翼から飛散してきた水分が後段のタービン動翼へ飛散するのを抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献1−3参照。)。
【0004】
また、タービン動翼の耐エロージョン性を向上させるその他の手段として焼入れがある。エロージョンによる損傷が激しいタービン動翼の先端付近の前縁部に焼入れを施すことにより、ステライト等のエロージョンシールド板と同等の硬度をタービン動翼の前縁部に持たせることができる。これによって、タービン動翼の前縁部に耐エロージョン性を付与することができる。この焼入れ技術では、タービン動翼本体の先端の前縁部を焼入れするため、溶接などで問題となる溶接欠陥、異種金属間の剥離、繰り返しエロージョンシールド板を張り替えることによるタービン動翼母材の疲労限界の低下等が抑制される。そのため、タービン動翼の信頼性および品質の安定性が向上する(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0269401号明細書
【特許文献2】特開平11−159302号公報
【特許文献3】米国特許第5261785号明細書
【特許文献4】特開平11−182204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1および特許文献2記載のタービン動翼では、インテグラルカバーがタービン動翼本体と一体的に形成され、翼入口から翼出口までを覆う構造を有する。そのため、遠心力によるタービン動翼のアンツイストが生じる際、インテグラルカバーの変位量が増加し、インテグラルカバーとタービン動翼との境界に過大な応力が発生する。
【0006】
また、一般的に、蒸気の湿り度の高い段落のタービン動翼では、静翼から飛散してくる水滴の衝突による損傷が発生する。特に、特許文献3記載のタービン動翼のように、タービン動翼本体とインテグラルカバーとの間に段差を有する場合には、静翼から飛散した水滴が翼半径方向の外周に排出される際にインテグラルカバーの側面に衝突して損傷を与えることがある。
【0007】
また、エロージョンによる損傷を防止するためにタービン動翼の先端付近の前縁部に焼入れを施す場合、特許文献1および特許文献2記載のタービン動翼では、前縁までインテグラルカバーで覆われているので、焼き入れの際に、インテグラルカバーまで熱が伝わる。そのため、インテグラルカバーが熱変形したり、インテグラルカバーに残留応力が生じるなどの問題があった。特にタービン動翼の材質によっては、タービン動翼の焼入れを施した部分と焼入れを施していない母材との間の引張残留応力により、応力腐食割れおよび疲労による割れを生じ、タービン動翼の信頼性および耐久性を著しく低下させることがあった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、翼先端に設けられたインテグラルカバーと翼有効部との境界に発生する応力を低減することができ、前縁の耐エロージョン性を向上させることができるとともに、前縁に付着した水分を所定の方向に排出することができるタービン動翼およびこのタービン動翼を備えた蒸気タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、翼本体と、前記翼本体の前縁部を除いて、前記翼本体の先端の背側面に沿って後縁端まで前記翼本体と一体的に形成された板状の背側カバーと、前記翼本体の前縁部を除いて、前記翼本体の先端の腹側面に沿って後縁端まで前記翼本体と一体的に形成された板状の腹側カバーとを備え、前記背側カバーと隣接するタービン動翼の腹側カバー、および前記腹側カバーと隣接するタービン動翼の背側カバーを接触させて連結させるようにしたタービン動翼であって、前記翼本体の前記前縁部、前記背側カバーおよび前記腹側カバーの半径方向外側の端面が同一面上に形成され、かつ、前記背側カバーと前記腹側カバーとが凹凸連結構造を有して少なくとも1つの接触面で接触し、前記接触面における上流側を向く法線方向と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角が90〜150度であることを特徴とするタービン動翼が提供される。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、ケーシングと、前記ケーシング内に貫設されたタービンロータと、前記タービンロータに植設された複数段のタービン動翼と、前記ケーシングに、前記タービンロータの軸方向に前記タービン動翼と交互に配設された複数段の静翼とを備える蒸気タービンであって、前記タービン動翼が上記したタービン動翼であることを特徴とする蒸気タービンが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のタービン動翼およびこのタービン動翼を備える蒸気タービンによれば、翼先端に設けられたインテグラルカバーと翼有効部との境界に発生する応力を低減することができ、前縁の耐エロージョン性を向上させることができるとともに、前縁に付着した水分を所定の方向に排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態を図を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る一実施の形態のタービン動翼10を備えた蒸気タービン200の上半ケーシング部の断面を示す図である。
【0014】
図1に示すように、蒸気タービン200は、例えば、内部ケーシング210とその外側に設けられた外部ケーシング211とから構成される二重構造のケーシングを備えている。また、内部ケーシング210内にタービンロータ212が貫設されている。このタービンロータ212には、周方向に並んで複数のタービン動翼10が植設され、タービンロータ212の軸方向に複数段設けられている。また、内部ケーシング210の内側面には、タービンロータ212の軸方向にタービン動翼10と交互になるようにノズル213が配設されている。タービンロータ212と各ケーシングとの間には、作動流体である蒸気の外部への漏洩を防止するために、グランドラビリンス部215が設けられている。さらに、蒸気タービン200には、蒸気入口管214が、外部ケーシング211および内部ケーシング210を貫通して設けられ、さらに蒸気入口管214の端部が、タービン動翼10側に向けて蒸気を導出するノズルボックス216に連通して接続されている。
【0015】
蒸気入口管214を経て、ノズルボックス216内に流入した蒸気は、タービン動翼10に向けて噴出される。噴出された蒸気は、各段落のノズル213とタービン動翼10との間の蒸気通路を通り、タービンロータ212を回転させる。また、膨張仕事をした蒸気の大部分は、排気され、例えば、低温再熱管(図示しない)を通りボイラ(図示しない)に流入する。また、膨張仕事をした蒸気の一部は、冷却用蒸気として内部ケーシング210と外部ケーシング211との間に導かれ、グランドラビリンス部215または膨張仕事をした蒸気の大部分が排気される排気経路から排気される。なお、蒸気タービン200の構成は、上記した構成に限定されるものではない。
【0016】
次に、本発明に係る一実施の形態のタービン動翼10の構成について説明する。
【0017】
図2は、本発明に係る一実施の形態のタービン動翼10を背側から見たときの平面図である。図3は、本発明に係る一実施の形態のタービン動翼10の先端部を示す斜視図である。図4は、本発明に係る一実施の形態のタービン動翼10a、10b、10cを上方から見たときの平面図である。図5は、参考例として示すタービン動翼を上方から見たときの平面図である。
【0018】
図2に示すように、タービン動翼10は、翼高さ方向に沿って順に翼根部20、翼有効部30およびインテグラルカバー40を備えている。ここでは、タービン動翼10として、タービンロータ212の周方向に並んで複数形成され、かつロータ翼車の凹状の翼溝に、タービンロータ212の軸方向に挿入される、いわゆる軸方向挿入翼根部形式のタービン動翼を一例として示している。なお、タービン動翼10は、軸方向挿入翼根部形式のタービン動翼に限られるものではなく、例えば、タービンロータの周方向に加工された凹凸にタービン動翼を挿入し、タービン動翼側からロータ翼車を抱え込む鞍形翼根部形式のタービン動翼であってもよく、またこの他、フォーク形の植込みであってもよい。
【0019】
翼根部20は、タービンロータ212の翼溝に挿入される植込部21と、この植込部21と翼有効部30との間に形成されるシャンク部22とを備えている。
【0020】
植込部21は、軸方向挿入翼根部形式の嵌め合い凹凸形状を有し、その凹凸形状は、タービンロータ212の翼溝の形状に対応している。この嵌め合い凹凸形状によって、タービン動翼10が、タービンロータ212の半径方向へ抜けることを防止している。
【0021】
タービン動翼10の先端部に設けられたインテグラルカバー40は、翼有効部30の前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の背側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に形成された板状の背側カバー41と、翼有効部30の前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の腹側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に形成された板状の腹側カバー42とを備えている。ここで、翼有効部30と一体的に形成されるとは、例えば、切削加工などによって、1つの母材から、翼有効部30、背側カバー41および腹側カバー42が一体的に形成されることを意味する。したがって、本実施の形態においては、前縁部31を含む翼有効部30の半径方向外側(先端部)端面と背側カバー41の半径方向外側端面、および腹側カバー42の半径方向外側端面が同一面と形成している。
【0022】
ここで、前縁部31とは、前縁端から翼型中心線に沿って後縁方向に、最も後縁に位置する水分排出用溝から数mm程度の範囲をいう。また、翼型中心線とは、翼型の上面と下面との中点を順々に結んで得られる曲線、いわゆるキャンバーラインである。また、前縁部31に表面硬質処理を施してもよい。表面硬質処理として、例えば、材料に熱処理を施し硬度を上げる火炎焼入れ等や、材料表面に物理的圧縮残留応力を発生させるショットピーニング等の方法が挙げられる。
【0023】
なお、上記したように、前縁部31を前縁端から翼型中心線に沿って後縁方向に、最も後縁に位置する水分排出用溝から数mm程度に設定することで、インテグラルカバー40が表面硬質処理による熱の影響を受けることを防止することができる。これによって、前縁部31に表面硬質処理を施す際、インテグラルカバー40が熱変形したり、インテグラルカバー40に残留応力が発生したりするのを防止することができる。さらに、引張残留応力によるインテグラルカバー40内の不均一な応力分布の発生を抑制することができる。特に、タービン動翼10は、回転時に遠心力による翼のアンツイストが生じ、隣接するタービン動翼10との接触により、インテグラルカバー40とタービン動翼10との境界で応力集中が生じるが、残留応力の発生が抑制されることで、この境界での応力集中が低減される。また、前縁部31に表面硬質処理を施すことで、エロージョンによる損傷を防止することができる。
【0024】
さらに、図2および図3に示すように、前縁部31の背側に翼高さ方向に翼先端(すなわち、インテグラルカバー40の外周側端面と同じ高さ)まで達する水分排出用の溝32を設けてもよい。この溝32は、少なくとも1つ設けられていればよく、複数設けられてもよい。ここで、例えば、ノズル213中を通過してきた水滴には、小さな粒径の水滴から比較的大きな粒径の水滴まで存在し、これらがタービン動翼10の前縁部31の背側に衝突して付着する。そこで、上記した溝32を設けることで、タービン動翼10の前縁部31の背側に付着した水分を遠心力を利用して速やかにタービン動翼半径方向外周部へ排出することが可能となる。これによって、タービン動翼10の前縁部31の背側に付着した水分がさらにタービン動翼10の下流側へ流れることを防ぐことができる。なお、前縁部31は、後述するインテグラルカバー40の流体入口側端面45よりも上流側に突出して設けられている。
【0025】
また、図4に示すように、インテグラルカバー40a、40b、40cは、タービン動翼10bの背側カバー41bと、このタービン動翼10bに隣接するタービン動翼10aの腹側カバー42a、およびタービン動翼10bの腹側カバー42bと、このタービン動翼10bに隣接するタービン動翼10cの背側カバー41cを接触させて連結させるように構成されている。また、背側カバー41a、41b、41cと腹側カバー42a、42b、42cとが凹凸連結構造を有している。
【0026】
図4に示すように、インテグラルカバー40bには、タービン動翼10bの背側および腹側に、隣接するインテグラルカバー40a、40cと連結する連結面43、44が形成されている。そして、これらの連結面43、44は、タービン動翼10bの回転方向に対して所定の角度を有し、互いに予め決められた距離を有した位置関係にあり略平行する2つの傾斜面43A1(44A1)、傾斜面43B1(44B1)と、これら2つの傾斜面を結ぶ接触面43C1(44C1)の3つの面から構成され、全体でクランク状の面を構成している。さらに、インテグラルカバー40bは、タービン動翼10bの回転方向とほぼ平行で、前縁部31の下流側端部と上記した傾斜面44B1とを結ぶ流体入口側端面45と、タービン動翼10bの後縁端部に設けられるとともに、タービン動翼10bの回転方向とほぼ平行で、上記した傾斜面43A1と傾斜面44A1とを結ぶ流体出口側端面46とで構成されている。
【0027】
このように構成されたインテグラルカバー40bでは、傾斜面43A1は、隣接する他のタービン動翼10aのインテグラルカバー40aの傾斜面43A2と当接または微小な間隙を有して対峙され、傾斜面44A1は、隣接する他のタービン動翼10cのインテグラルカバー40cの傾斜面44A2と当接または微小な間隙を有して対峙される。このように、傾斜面43A1は、必ずしも傾斜面43A2と当接する必要はなく、また、傾斜面44A1は、必ずしも傾斜面44A2と当接する必要はない。
【0028】
また、傾斜面43B1は、隣接する他のタービン動翼10aのインテグラルカバー40aの傾斜面43A2と微小な間隙を有して対峙され、傾斜面44B1は、隣接する他のタービン動翼10cのインテグラルカバー40cの傾斜面44B2と微小な間隙を有して対峙される。
【0029】
また、接触面43C1は、隣接する他のタービン動翼10aのインテグラルカバー40aの接触面43C2と当接し、接触面44C1は、隣接する他のタービン動翼10cのインテグラルカバー40cの接触面44C2と当接する。
【0030】
上記したように、タービン動翼10のインテグラルカバー40において、隣接するタービン動翼10のインテグラルカバー40と少なくとも1つの接触面を有して接触する構成を備えている。
【0031】
ここで、図4に示すように、接触面43C1および接触面43C2は、これらの接触面における上流側(流体入口側)を向く法線方向N1と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角度θ1が90〜150度となるように構成されている。この角度θ1の範囲が好ましいのは、角度θ1が90度より小さい場合には、タービン動翼が遠心力による翼のねじり戻り、いわゆるアンツイストを生じた際に、接触面がそれぞれ離れる方向に作用して連結構造として機能しなくなることがあるためである。一方、角度θ1が150度より大きい場合には、接触面43C2(接触面43C1)と、傾斜面43B1とがなす角度γが小さくなり、この角度γを形成する部分の幅が狭くなり、この部分に発生する応力が高くなるからである。なお、角度θ1は、接触面の反力を確保する観点から、120〜150度となるように構成されることがさらに好ましい。なお、タービンロータ軸方向は、蒸気の流入方向と同じである。
【0032】
また、図4に示すように、傾斜面43A1および傾斜面43A2は、これらの傾斜面における下流側(流体入口側)を向く法線方向N2と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角度θ2が「α」〜「α+30」度となるように構成されている。ここで、αは、タービン動翼10aの後縁側への翼型中心線の延長線Rと、隣接するタービン動翼10bの背側カバー41bの下流側の端面、すなわち前述した流体出口側端面46とがなす角である。この角度θ2の範囲が好ましいのは以下の理由による。
【0033】
すなわち、傾斜面43A1および傾斜面43A2の流体流出側の端部は動翼10aの後縁近傍とするのが通常である。この条件の下、角度θ2を小さくすると接触面43C1および接触面43C2の長さを長く取ることができるので好ましいが、角度θ2が「α」度より小さい場合には、接触面43C2の延長線が翼断面の内側に入る形状となるという問題が生じる。一方、角度θ2が、「α+30」度より大きい場合には、接触面43C2の延長線が翼断面の内側に入る形状とはならないものの、接触面43C1および接触面43C2の長さを十分に取ることができなくなる。したがって、カバーの形状と、接触面43C1および接触面43C2における運転時の十分な接触力を確保するためには角度θ2は上述の範囲とするのが好ましい。
【0034】
なお、インテグラルカバー40cの背側カバー41cと、インテグラルカバー40bの腹側カバー42bとにおける連結面44における構成は、上記したインテグラルカバー40bの背側カバー41bと、インテグラルカバー40aの腹側カバー42aとにおける連結面43における構成と同じである。すなわち、接触面44C1および接触面44C2は、これらの接触面における上流側を向く法線方向と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角度が90〜150度となるように構成されている。また、傾斜面44A1および傾斜面44A2は、これらの傾斜面における下流側を向く法線方向と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角度が「α」〜「α+30」度となるように構成されている。ここで、αは、タービン動翼10bの後縁側への翼型中心線の延長線と、隣接するタービン動翼10cの背側カバー41cの下流側の端面、すなわち流体出口側端面46とがなす角である。
【0035】
上記したように、本発明に係る一実施の形態のタービン動翼10によれば、前縁部31をインテグラルカバー40の流体入口側端面45よりも上流側に突出して設け、上記した範囲に角度θ1および角度θ2を設定することで、図4に示す、翼理論断面の主軸Mと、この主軸Mに平行で、背側カバー41bの外側に最も突出した端部を通る直線Lとの距離Sを短くすることができる。
【0036】
ここで、比較のため、図5に示す参考例としてのタービン動翼100における距離Sについて説明する。図5に示すタービン動翼100は、翼有効部110上に、平行四辺形の板状のインテグラルカバー111が備えられている。インテグラルカバー111の流体入口側端面112は、前縁部114の下流側端部からタービン動翼100の回転方向とほぼ平行となる面で構成される。一方、インテグラルカバー111の流体出口側端面113は、後縁端部からタービン動翼100の回転方向とほぼ平行となる面で構成される。なお、前縁部114は、インテグラルカバー111の流体入口側端面112よりも上流側に突出して設けられている。この図5に示したタービン動翼100における場合、インテグラルカバー111の背側の外側に最も突出した端部は、隣接する翼有効部110を超えた位置に存在するため、翼理論断面の主軸Mに平行で、この端部を通る直線Lと主軸Mとの距離Sは、本発明に係る一実施の形態のタービン動翼10における距離Sよりも長くなる。
【0037】
ここで、翼理論断面とは、翼断面であり、翼理論断面の主軸Mとは、翼断面の図心を通る直交2軸のうち、その軸に対する断面2次モーメントが最小の軸のことである。
【0038】
このように、本発明に係る一実施の形態のタービン動翼10では、上記した距離Sを短くすることができるので、遠心力による翼のアンツイストが生じる際、インテグラルカバー40の端部の変位量が抑制され、インテグラルカバー40と翼有効部30との境界に発生する応力を低減することが可能となる。
【0039】
また、本発明に係る一実施の形態のタービン動翼10によれば、翼有効部30の前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の背側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に背側カバー41が設けられ、かつ翼有効部30の前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の腹側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に腹側カバー42が設けられているため、効率よく蒸気が膨張仕事をすることができ、タービン効率を向上させることができる。
【0040】
なお、タービン動翼10の構成は、上記した構成に限られるものではない。図6は、本発明に係る一実施の形態の他の構成を備えるタービン動翼10a、10b、10cを上方から見たときの平面図である。
【0041】
タービン動翼10a、10b、10cの先端部に設けられたインテグラルカバー40a、40b、40cは、翼有効部30の前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の背側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に形成された板状の背側カバー41a、41b、41cと、翼有効部30の前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の腹側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に形成された板状の腹側カバー42a、42b、42cとを備えている。ここで、翼有効部30と一体的に形成されるとは、例えば、切削加工などによって、1つの母材から、翼有効部30、背側カバー41a、41b、41cおよび腹側カバー42a、42b、42cが一体的に形成されることを意味する。
【0042】
ここで、前縁部31は、タービンロータ軸方向に沿う方向にオーバハング状に屈曲している。なお、前縁部31とは、前縁端から翼型中心線に沿って後縁方向に3mm程度の範囲をいう。また、前縁部31に、前述した表面硬質処理と同様の表面硬質処理を施してもよい。また、前縁部31の背側に前述した溝32と同様の溝32を設けてもよい。なお、前縁部31は、後述するインテグラルカバー40の流体入口側端面45よりも上流側に突出して設けられている。
【0043】
また、図6に示すように、インテグラルカバー40a、40b、40cは、タービン動翼10bの背側カバー41bと、このタービン動翼10bに隣接するタービン動翼10aの腹側カバー42a、およびタービン動翼10bの腹側カバー42bと、このタービン動翼10bに隣接するタービン動翼10cの背側カバー41cを接触させて連結させるように構成されている。また、背側カバー41a、41b、41cと腹側カバー42a、42b、42cとが凹凸連結構造を有している。
【0044】
図6に示すように、インテグラルカバー40bには、タービン動翼10bの背側および腹側に、隣接するインテグラルカバー40a、40cと連結する連結面43、44が形成されている。そして、これらの連結面43、44は、タービン動翼10bの回転方向に対して所定の角度を有する傾斜面43A1(44A1)と、この傾斜面43A1(44A1)とV字状の凹凸連結構造を構成する接触面43C1(44C1)の2つの面から構成されている。さらに、インテグラルカバー40bは、タービン動翼10bの回転方向とほぼ平行で、前縁部31の下流側端部と上記した接触面44C1とを結ぶ流体入口側端面45と、タービン動翼10bの後縁端部に設けられるとともに、タービン動翼10bの回転方向とほぼ平行で、上記した傾斜面43A1と傾斜面44A1とを結ぶ流体出口側端面46とで構成されている。
【0045】
このように構成されたインテグラルカバー40bでは、傾斜面43A1は、隣接する他のタービン動翼10aのインテグラルカバー40aの傾斜面43A2と当接または微小な間隙を有して対峙され、傾斜面44A1は、隣接する他のタービン動翼10cのインテグラルカバー40cの傾斜面44A2と当接または微小な間隙を有して対峙される。このように、傾斜面43A1は、必ずしも傾斜面43A2と当接する必要はなく、また、傾斜面44A1は、必ずしも傾斜面44A2と当接する必要はない。
【0046】
また、接触面43C1は、隣接する他のタービン動翼10aのインテグラルカバー40aの接触面43C2と当接し、接触面44C1は、隣接する他のタービン動翼10cのインテグラルカバー40cの接触面44C2と当接する。
【0047】
上記したように、タービン動翼10のインテグラルカバー40において、隣接するタービン動翼10のインテグラルカバー40と少なくとも1つの接触面を有して接触する構成を備えている。
【0048】
ここで、図6に示すように、接触面43C1および接触面43C2は、これらの接触面における上流側(流体入口側)を向く法線方向N1と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角度θ1が90〜150度となるように構成されている。この角度θ1の範囲が好ましいのは、角度θ1が90度より小さい場合には、タービン動翼が遠心力による翼のねじり戻り、いわゆるアンツイストを生じた際に、接触面がそれぞれ離れる方向に作用して連結構造として機能しなくなることがあるためである。一方、角度θ1が150度より大きい場合には、接触面43C2(接触面43C1)と、流体入口側端面45とがなす角度γが小さくなり、この角度γを形成する部分の幅が狭くなり、この部分に発生する応力が高くなるからである。なお、角度θ1は、接触面の反力を確保する観点から、120〜150度となるように構成されることがさらに好ましい。
【0049】
また、図6に示すように、傾斜面43A1および傾斜面43A2は、これらの傾斜面における下流側(流体出口側)を向く法線方向N2と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角度θ2が「α」〜「α+30」度となるように構成されている。ここで、αは、タービン動翼10aの後縁側への翼型中心線の延長線Rと、隣接するタービン動翼10bの背側カバー41bの下流側の端面、すなわち前述した流体出口側端面46とがなす角である。この角度θ2の範囲が好ましいのは以下の理由による。
【0050】
すなわち、傾斜面43A1および傾斜面43A2の流体流出側の端部は動翼10aの後縁近傍とするのが通常である。この条件の下、角度θ2を小さくすると接触面43C1および接触面43C2の長さを長く取ることができるので好ましいが、角度θ2が「α」度より小さい場合には、傾斜面43A2の延長線が翼断面の内側に入る形状となるという問題が生じる。一方、角度θ2が、「α+30」度より大きい場合には、傾斜面43A2の延長線が翼断面の内側に入る形状とはならないものの、接触面43C1および接触面43C2の長さを十分に取ることができなくなる。したがって、カバーの形状と、接触面43C1および接触面43C2における運転時の十分な接触力を確保するためには角度θ2は上述の範囲とするのが好ましい。
【0051】
なお、インテグラルカバー40cの背側カバー41cと、インテグラルカバー40bの腹側カバー42bとにおける連結面44における構成は、上記したインテグラルカバー40bの背側カバー41bと、インテグラルカバー40aの腹側カバー42aとにおける連結面43における構成と同じである。すなわち、接触面44C1および接触面44C2は、これらの接触面における上流側を向く法線方向と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角度が90〜150度となるように構成されている。また、傾斜面44A1および傾斜面44A2は、これらの傾斜面における下流側を向く法線方向と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角度が「α」〜「α+30」度となるように構成されている。ここで、αは、タービン動翼10bの後縁側への翼型中心線の延長線と、隣接するタービン動翼10cの背側カバー41cの下流側の端面、すなわち流体出口側端面46とがなす角である。
【0052】
この他の構成のタービン動翼10においても、前述した一実施の形態のタービン動翼10と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、前縁部31をインテグラルカバー40の流体入口側端面45よりも上流側に突出して設け、上記した範囲に角度θ1および角度θ2を設定することで、図6に示す、翼理論断面の主軸Mと、この主軸Mに平行で、背側カバー41bの外側に最も突出した端部を通る直線Lとの距離Sを短くすることができる。このように、距離Sを短くすることができることによって、遠心力による翼のアンツイストが生じる際、インテグラルカバー40の端部の変位量が抑制され、インテグラルカバー40と翼有効部30との境界に発生する応力を低減することが可能となる。
【0053】
また、翼有効部30の前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の背側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に背側カバー41が設けられ、かつ翼有効部30の前縁部31を除いて、翼有効部30の先端の腹側面に沿って後縁端まで翼有効部30と一体的に腹側カバー42が設けられているため、効率よく蒸気が膨張仕事をすることができ、タービン効率を向上させることができる。
【0054】
以上、本発明を一実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る一実施の形態のタービン動翼を備えた蒸気タービンの上半ケーシング部の断面を示す図。
【図2】本発明に係る一実施の形態のタービン動翼を背側から見たときの平面図。
【図3】本発明に係る一実施の形態のタービン動翼の先端部を示す斜視図。
【図4】本発明に係る一実施の形態のタービン動翼を上方から見たときの平面図。
【図5】参考例としてのタービン動翼を上方から見たときの平面図。
【図6】本発明に係る一実施の形態の他の構成を備えるタービン動翼を上方から見たときの平面図である。
【符号の説明】
【0056】
10,10a,10b,10c…タービン動翼、20…翼根部、21…植込部、22…シャンク部、30…翼有効部、31…前縁部、32…溝、40,40a,40b,40c…インテグラルカバー、41,41a,41b,41c…背側カバー、42,42a,42b,42c…腹側カバー、43…連結面、43A1,43A2,43B1,43B2,44A1,44A2,44B1,44B2…傾斜面、43C1,43C2,44C1,44C2…接触面、45…流体入口側端面、46…流体出口側端面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼本体と、
前記翼本体の前縁部を除いて、前記翼本体の先端の背側面に沿って後縁端まで前記翼本体と一体的に形成された板状の背側カバーと、
前記翼本体の前縁部を除いて、前記翼本体の先端の腹側面に沿って後縁端まで前記翼本体と一体的に形成された板状の腹側カバーと
を備え、前記背側カバーと隣接するタービン動翼の腹側カバー、および前記腹側カバーと隣接するタービン動翼の背側カバーを接触させて連結させるようにしたタービン動翼であって、
前記翼本体の前記前縁部、前記背側カバーおよび前記腹側カバーの半径方向外側の端面が同一面上に形成され、かつ、
前記背側カバーと前記腹側カバーとが凹凸連結構造を有して少なくとも1つの接触面で接触し、前記接触面における上流側を向く法線方向と、上流側から下流側へ向かうタービンロータ軸方向とのなす角が90〜150度であることを特徴とするタービン動翼。
【請求項2】
前記凹凸連結構造を構成する前記接触面よりも後縁側の傾斜面における下流側を向く法線方向と、前記タービンロータ軸方向とのなす角θが以下の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載のタービン動翼。
α≦θ≦α+30
(ただし、αは、後縁側への翼型中心線の延長線と、隣接する翼の前記背側カバーの下流側の端面とがなす角)
【請求項3】
前記前縁部の背側に翼高さ方向に向かって翼先端まで達する少なくとも1つの水分排出用の溝が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のタービン動翼。
【請求項4】
前記前縁部は、表面硬質処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のタービン動翼。
【請求項5】
ケーシングと、
前記ケーシング内に貫設されたタービンロータと、
前記タービンロータに植設された複数段のタービン動翼と、
前記ケーシングに、前記タービンロータの軸方向に前記タービン動翼と交互に配設された複数段の静翼と
を備える蒸気タービンであって、
前記タービン動翼が請求項1乃至4のいずれか1項記載のタービン動翼であることを特徴とする蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−53822(P2010−53822A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221616(P2008−221616)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】