タービン動翼
【課題】翼形状を変更することなく動翼の慣性モーメントを低減させつつ、動翼背面の根元部分における応力集中の発生を抑えて、強度および耐久性を向上させることができる動翼背面形状を備えたタービン動翼を提供することを課題とする。
【解決手段】回転軸19が連結される軸状のハブ部9と該ハブ部9の周囲に複数形成される翼部11とを一体に形成したタービン動翼1において、前記ハブ部9は回転軸方向の一端側である背面7に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面7に回転軸19の中心線Lを中心として環状の凹形状部21が形成され、該凹形状部21の前記回転軸方向の断面形状が、楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した楕円の長円弧Cによって形成され、かつ前記長軸bの位置が前記背面7に一致するように形成される。
【解決手段】回転軸19が連結される軸状のハブ部9と該ハブ部9の周囲に複数形成される翼部11とを一体に形成したタービン動翼1において、前記ハブ部9は回転軸方向の一端側である背面7に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面7に回転軸19の中心線Lを中心として環状の凹形状部21が形成され、該凹形状部21の前記回転軸方向の断面形状が、楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した楕円の長円弧Cによって形成され、かつ前記長軸bの位置が前記背面7に一致するように形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャ等のラジアルタービンや、斜流タービンにおける動翼に関する発明であり、特に動翼の背面形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用、舶用等のターボチャージャのタービン動翼において、タービン動翼の慣性モーメントが大きいと、図7に示すようにエンジン回転数の立ち上がり、給気圧力の立ち上がりの応答性が悪くなり、結果的に、ターボチャージャ等を含むエンジンシステム全体のタイムラグを発生させる問題があった。
【0003】
このため、タービン動翼の慣性モーメントを下げる方法として、翼形状自体を切除等によって調整して対応するものが知られている。
例えば、図8に示すような翼01の後縁03の高さを減少させるために、翼01の外周のシュラウドライン05を下げる方法、または図9に示すような翼01の厚さを、翼01'に薄肉化する方法、または翼01の前縁07までの全高を抑えて小径のタービンとする方法等が知られている。
【0004】
しかし、この翼01の後縁03高さの減少や、翼01の肉厚の薄肉化では、タービン動翼の効率低下の要因や強度面での要求を満たさなくなる可能性があり、小径のタービンを適用する場合には、特にターボチャージャでは、最大トルク点と最大出力点との流量差を逃がす必要があり、システム全体の効率が低下する問題があった。
【0005】
そこで、翼形状を変更せずに、慣性モーメントを低減させる方法として、動翼の背面部に、肉抜きの凹形状を形成する提案がされている。
【0006】
例えば、特許文献1(特開平10−54201号公報)には、図10に示すように、タービン動翼011のブレード013が設けられているハブ015の端面016に、軸方向環状凹部017が形成されている。
また、特許文献2(実開昭63−83430号公報)には、図11に示すように、タービン動翼020のブレード022が設けられているハブ024の端面025に、軸方向環状凹部026が形成されている。この凹部026は、周方向に4箇所、軸方向に沿って設けられ、断面形状が略三角形に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−54201号公報
【特許文献2】実開昭63−83430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、特許文献2においては、肉抜きの凹形状によって慣性モーメントを低減させて応答性の向上を図ることが可能となるが、特許文献1では、図10の凹形状の先端部019は、曲率半径が小さく急な曲率変化による応力集中が発生しやすく、また特許文献2においても、図11の凹形状の先端部028は急な曲率変化によって応力集中が発生しやすい。
このため、ハブ部材の動翼背面の根元部分において、応力集中が生じやすく強度や耐久性の面で問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、これら問題に鑑みてなされたもので、翼形状を変更することなく動翼の慣性モーメントを低減させつつ、動翼背面の根元部分における応力集中の発生を抑えて、強度および耐久性を向上させることができる動翼背面形状を備えたタービン動翼を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本出願の第1発明は、回転軸が連結される軸状のハブ部と該ハブ部の周囲に複数形成される翼部とを一体に形成したタービン動翼において、
前記ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に回転軸中心を中心として環状の凹形状部が形成され、該凹形状部の前記回転軸方向の断面形状が、楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した曲線形状によって形成され、かつ前記長軸の位置が前記背面に一致するように形成されることを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に環状の凹形状部が形成され、その断面形状が、楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した曲線形状によって形成され、かつ前記長軸の位置が前記背面に一致するように形成されるため、凹形状部の曲率が滑らかに変化し、曲率半径を大きく取れることができ、該凹形状部に発生する応力集中を、図10、11に示す従来技術のような凹形状の先端部における急な曲率変化によって生じる応力集中より低減できる。
その結果、動翼背面の根元部分における応力集中を回避でき強度や耐久性を向上できる。また、環状の凹形状部による肉抜きによって、タービン動翼の慣性モーメントも低減できる。
【0012】
一般に、応力集中係数αは、図6で示すような関係にあり、応力集中係数αは、横軸に示されるρ(切欠きの円弧半径)/t(切欠き深さ)が大きくなるに従って小さくなる関係にあるため、ρ(切欠きの円弧半径)を大きくするか、t(切欠き深さ)を小さくすることで、応力集中係数αを小さくできる。
【0013】
従って、本発明のように、凹形状部の断面形状が楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した曲線形状によって形成し、かつ長軸の位置を背面に一致するように形成することで、凹形状部における応力集中係数を従来技術のような凹形状の先端部における急な曲率変化より小さくすることができ、ρ(切欠きの円弧半径)を大きくするとともに、t(切欠き深さ)を小さくすることができ、ハブ部背面の動翼根元部分における応力集中を低減できる。
【0014】
また、本出願の第2発明は、回転軸が連結される軸状のハブ部と該ハブ部の周囲に複数形成される翼部とを一体に形成したタービン動翼において、前記ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に回転軸中心を中心として環状の凹形状部が形成され、該凹形状部の前記回転軸方向の断面形状が、円弧または楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状の一部からなり、かつ該円弧の中心または前記長軸の位置が前記背面よりハブ部の外側に位置するとともに前記長軸が前記背面と平行となるように形成されることを特徴とする。
【0015】
かかる第2発明によれば、前記第1発明と同様に応力集中係数を低減して、応力集中を低減することができる。しかも、第2発明においては、円弧の中心または長軸対称の曲線形状を形成する該長軸を背面よりハブ部の外側に位置させるので、前記第1発明における長軸対称の曲線形状の曲率半径よりも大きい半径に設定できるようになり、第1発明に比べて、応力集中係数をより小さくすることが可能となり、ハブ部背面の根元部分における応力集中を一層低減できる。
【0016】
また、第1発明および第2発明において、好ましくは、前記背面と前記円弧または前記長軸対称の曲線形状との交点のうち外周側の位置を前記翼部直径の略半分に位置させ、内周側の位置を前記背面と前記回転軸との交点近傍に位置させるとよい。
【0017】
かかる構成によれば、ハブ部の背面と円弧または長軸対称の曲線形状との交点のうち外周側の位置を、翼部直径の略半分の位置に位置させたので、翼部を保持するハブ部外周側の部分に十分な肉厚を確保できる。
また、ハブ部と翼部とは一体に鋳造等によって製造されるとともに、高速で回転するため、バランスとりための肉抜き等のスペースが必要となるが、そのスペースとしてハブ部の背面の凹形状部の外周側に平面部を残すことができる。
【0018】
また、第1発明および第2発明において、好ましくは、前記凹形状部の断面形状には直線部が存在しないとよい。
すなわち、円弧形状または楕円形状等の長軸対称曲線形状だけによって形成されるため、直線部が介在すると直線部とこれら曲線形状との交差部における形状変化による応力集中の発生の可能性を極力回避でき、背面の根元部分における応力集中の発生を効果的に抑えることができる。
【0019】
さらに、第1発明および第2発明において、好ましくは、前記長軸対称の曲線形状が楕円からなり、該楕円の短径は前記動翼の直径の3〜10%であるよい。
かかる3〜10%は、応力および慣性モーメントの数値解析結果に基づいて、3%より小さくなると凹形状としての肉抜きによる慣性モーメントの低減効果が得られず、また、10%を超えると深さが深くなり、翼部を保持するハブ部外周側の部分の肉厚に影響して、タービン動翼全体の強度に悪影響を及ぼすため、この範囲に設定するとよい。
【発明の効果】
【0020】
第1発明によれば、翼形状を変更することなく動翼の慣性モーメントを低減させつつ、動翼背面の根元部分における応力集中の発生を抑えて、強度および耐久性を向上させることができる動翼背面形状を備えたタービン動翼を提供できる。
また、第2発明によれば、前記第1発明と同様に応力集中係数を低減して、応力集中を低減することができる。
しかも、本第2発明においては、円弧の中心または長軸対称の曲線形状を形成する該長軸を背面よりハブ部の外側に位置させるので、前記第1発明における長軸対称の曲線形状の曲率半径よりも大きい半径に設定できるようになり、第1発明に比べて、応力集中係数をより小さくすることが可能となり、ハブ部背面の根元部分における応力集中を一層低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態におけるタービン動翼の断面図である。
【図2】第2実施形態におけるタービン動翼の断面図である。
【図3】第3実施形態におけるタービン動翼の断面図である。
【図4】応力ピーク比率および慣性モーメントの比較説明図である。
【図5】図4に示す比較例1、2の説明図である。
【図6】応力集中係数αの一般的特性図である。
【図7】タービン動翼のレスポンス特性を示す説明図である。
【図8】翼形状の変更例の説明図である。
【図9】翼形状の変更例の説明図である。
【図10】従来技術の説明図である。
【図11】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0023】
(第1実施形態)
車両用、舶用等のターボチャージャのタービン動翼を例に説明する。図1はこのタービン動翼1の軸方向断面図を示し、タービン動翼(以下動翼という)1は、軸状に形成されるとともに、外周側面3、先端面5、後端面(背面)7を有したハブ部9と、該ハブ部9の外周側面3に複数形成された翼部11とが、射出成形、鋳造、焼結等によって一体に成形されている。
【0024】
外周側面3は、ハブ部9の先端面5から背面7に向かうに従って徐々に大径になるように湾曲した形状に形成され、この湾曲した面上に翼部11が軸方向に沿って複数枚立設されている。
そして、翼部11の前縁13が径方向に向かって外周側に設けられ、翼部11の後縁15が軸方向に向かって内周側に形成され、流動ガスが径方向外側から前縁13に導入されて、軸方向に向かって後縁15から排出されることで、ハブ部9に回転力が発生するようになっている。
【0025】
また、背面7には、回転軸19を連結する溶接棚部17が円周状に突設され、該溶接棚部17に回転軸19の先端が溶接部22にて結合される。なお、この回転軸19の接続構造は、溶接によらずにハブ部9の中心部を中空状に形成して、中空形状内に回転軸を嵌合させて結合する構造であってもよい。
【0026】
さらに、ハブ部9の背面7には回転軸19周りに中心線Lを中心に環状の凹形状部21が形成されている。該凹形状部21の回転軸方向の断面形状は、図1に示すように、楕円形(長軸対称の曲線形状)Gからなっている。すなわち、楕円の短径aと長径bからなる楕円の長円弧Cで形成されている。この楕円の長円弧Cは、長軸の長径bを背面7の面と一致させて、長径bで分割された形状となっている。つまり、凹形状部21を形成する曲線形状は直線部がない単一の楕円の長円弧Cよって形成されている。
【0027】
長円弧Cと背面7との外周側の交点Aの位置は、翼部11の直径Dの略半分に位置され、内周側の交点Bの位置は、溶接棚部17の上面と背面7とが垂直に交わる交点に位置されている。
交点Aの位置を、翼部11の直径Dの略半分の位置に位置させたので、翼部11を保持するハブ部9の外周側の部分に十分な肉厚Nを確保でき、凹形状部21の形成によってタービン動翼1全体の強度低下がないようにできる。
また、ハブ部9と翼部11とは一体に鋳造等によって製造されるとともに、動翼1自体は高速で回転するため、回転時のバランスを取る必要があるため、その肉抜き等のスペースが必要となるが、そのスペースとして背面7の凹形状部21の外周側に平面Hが確保される。
【0028】
このような理由を基に交点Aの位置が設定されている。また、交点Bについては、溶接棚部17の上面に連続的かつ滑らかに凹形状部21の内面が繋がることによって、応力集中の発生個所を極力減らすことができるためである。つまり、仮に、交点Bの位置が溶接棚部17の上面より段差状に外周側に位置されたとすると、その交点Bには角部が形成され、そこに応力集中が生じるおそれがある。
【0029】
ここで、応力集中係数について説明する。一般に、応力集中係数αは、材料力学の文献(機械工学便覧)には図6で示すような関係が示されている。この例は両側切り欠きの場合を示すものであるが、応力集中係数αは、横軸に示されるρ(切欠きの円弧半径)/t(切欠き深さ)が大きくなるに従って小さくなる関係にある。このため、ρ(切欠きの円弧半径)を大きくするか、t(切欠き深さ)を小さくすることで、応力集中係数αを小さくすることができることが分かる。
【0030】
従って、ρ(切欠きの円弧半径)を大きくするか、t(切欠き深さ)を小さくするために、凹形状部21の断面形状を楕円の長円弧形状によって形成することで、応力集中係数を従来技術のような凹形状の先端部における急な曲率変化より小さくすることができ、さらに、背面7の肉抜きをも可能とすることができる。
その結果、翼部11の形状を変更することなく動翼1の慣性モーメントを低減させつつ、背面7の根元部分における応力集中の発生を抑えて、強度および耐久性を向上させることが可能になる。
【0031】
次に、背面7の根本部分に生じる応力の数値解析結果について図4、5を参照して説明する。
図4の横軸における、比較例1は、図5(a)のように凹形状部が形成されていないタービン動翼30の場合であり、比較例2は、図5(b)のように凹形状部の断面形状が水滴形状32で従来技術として説明した図10、11の形状に近いものであり、凹形状の深さが深く先端部の曲率半径が小さく尖った形状のタービン動翼34の場合である。実施例1〜4は、本実施形態の図1に示す楕円の長円弧形状による場合であり、実施例1は翼部11の直径Dと楕円の短径aとの比(D/a)が10%の場合、実施例2はD/aが6%の場合、実施例3はD/aが5%の場合、実施例4はD/aが4%の場合をそれぞれ示す。
また、縦軸は、比較例2の応力ピーク値を100%とした場合の比率と、比較例1の慣性モーメントを100%とした場合の比率とをそれぞれ示す。
【0032】
この図4を基に各ケースを比較すると、応力ピーク値については、比較例2の水滴形状の凹形状部の場合が最も応力ピーク値が大きくその値を100%として、他のケースを見ると、比較例1は凹形状部が形成されないため最も小さい、そして実施例1から4にかけて順次小さくなることが分かった。すなわち、楕円の短径aが小さくなり凹形状部の深さが浅くなるに従ってベースの比較例2に近づくことが確認できた。
【0033】
また、慣性モーメントについては、凹形状部がない比較例1が最も大きくその値を100%として、他のケースを見ると、水滴形状の比較例2が最も小さく、実施例1から4にかけて順次大きくなることが分かった。すなわち、楕円の短径aが小さくなり凹形状部の深さが浅くなるに従ってベースの比較例1に近づくことが確認できた。
【0034】
以上の比較より、比較例1のように凹形状部が形成されていないものは、発生する集中応力は小さいが慣性モーメントが大きく、また比較例2のような水滴形状のような形状では、慣性モーメントは小さいが大きい集中応力の発生があることが確認できた。
本発明では、この比較例1と比較例2との両者の中間的な特性を得ることができ、慣性モーメントを低減させつつ、背面7の根元部分における応力集中の発生を抑えることが可能になる。
【0035】
なお、D/aの比率の設定については、実施例1〜4に示すような慣性モーメントとピーク応力との関係を有するため、タービン動翼の使用条件によって予め設定するとよい。 また、D/aの比率の範囲については、応力および慣性モーメントの数値解析結果より図4に示す4〜10%を含めて3〜10%が適切である。
なぜならば、3%より小さくなると凹形状としての肉抜きによる慣性モーメントの低減効果が得られず、また、10%を超えると深さが深くなり過ぎて、翼部を保持するハブ部外周側の部分の肉厚に影響して、タービン動翼全体の強度に悪影響を及ぼすため、この範囲に設定するとよい。
【0036】
第1実施形態においては、凹形状部21の断面形状として楕円形Gについて説明したが、長軸対称曲線として楕円形に近似した卵形についても同様のことが言える。すなわち、卵形の曲線形状は楕円形と半円弧とがつながった形状となり、楕円形だけでなく円弧とつながった形状をしていても、凹形状部の曲率が滑らかに変化し、曲率半径を大きく取れることができる形状であればよい。ただし直線部が存在してはならない、すなわち、円弧形状または楕円形状等の長軸対称曲線形状だけによって形成されることで、凹形状部の曲率が滑らかに変化するようになる。直線部が介在すると直線部とこれら曲線形状との交差部において、形状変化が生じやすく、応力集中が発生しやすくなるからである。
【0037】
(第2実施形態)
次に、図2を参照して第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成部材と同一のものには同一符号を付して説明を省略する。
ハブ部40の背面42に、回転軸19の中心線Lを中心として形成された環状の凹形状部44の回転軸方向の断面形状が、図2に示すように、楕円形G'からなっていて、短径a'と長径b'からなる楕円の長円弧Eで形成されている。この楕円の長円弧Eは、長径b'を背面42とは一致せず。背面42の面位置から距離sだけハブ部40の外側方向に移動した位置に位置させ、楕円の長円弧形状の一部によって形成されている。つまり、凹形状部44を形成する曲線形状は直線部がなく単一の楕円の長円弧によって形成されている。
【0038】
また、距離sは大きく移動するに従って、長径b'を大きく取ることができるようになるため、前記第1実施形態で説明した図4の比較例1のベース形状に近づけることができるようになる。
距離sの移動方向については、ハブ部40の内部方向へ移動し、長軸の長径b'がハブ部40内に位置される場合には、凹形状部44の断面形状の上下辺に直接部が存在し、長円弧Eとのつながり部に曲率の変化が生じ、応力集中が発生するおそれがあるため、距離sは背面42の位置からハブ部40の外側(図2の左側)に移動させる必要がある。
なお、長円弧Eと背面42との外周側の交点Aの位置と内周側の交点Bの位置は、第1実施形態と同一である。
【0039】
かかる第2実施形態によれば、前記第1実施形態と同様に応力集中係数を低減して、応力集中を低減することができる。しかも、第2実施形態においては、楕円の長径b'の位置を背面42よりハブ部40より外側に位置されるので、第1実施形態における楕円の長円弧Cの曲率半径より大きく設定できるようになるため、第1実施形態に比べて、応力集中係数をより小さくすることが可能になり、背面42の根元部分における応力集中を一層低減できる。
【0040】
(第3実施形態)
次に、図3を参照して第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態、第2実施形態で説明した構成部材と同一のものには同一符号を付して説明を省略する。
第3実施形態は、第2実施形態の楕円に対して円形の円弧によって、凹形状部50の形状を形成するものである。
【0041】
動翼1のハブ部52の背面54に、回転軸19の中心線Lを中心として形成された環状の凹形状部50の回転軸方向の断面形状が、図3に示すように、半径Rの円弧形状からなっていて、円周の一部の円弧Fで形成されている。この円弧Fの中心Pは、第2実施形態と同様に、背面54の面位置から距離sだけハブ部52の外側に移動した位置に位置されている。つまり、凹形状部50を形成する曲線形状は直線部がなく単一の円弧によって形成され、しかも半円弧より小さい円弧形状によって形成されている。
【0042】
円弧Fと背面54との外周側の交点Aの位置と内周側の交点Bの位置は、第1実施形態と同一である。
【0043】
かかる第3実施形態によれば、第2実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、円形状の円弧の一部の曲線を用いて凹形状部50を形成するため、楕円形や卵形等の長軸対称曲線形状の断面形状に比べて製造、加工が容易となる。また、A点、B点間の距離が一定の場合で、溶接棚部17の突出量が限られている場合に、溶接部22に掛からないようにして楕円形や卵形等の長軸対称曲線形状の曲率半径に比べて、より小さい曲率半径の設定が可能となる等、凹形状部50の形状設定の自由度が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、翼形状を変更することなく動翼の慣性モーメントを低減させつつ、動翼背面の根元部分における応力集中の発生を抑えて、強度および耐久性を向上させることができる動翼背面形状を備えるので、タービン動翼に用いることに適している。
【符号の説明】
【0045】
1 タービン動翼
9 ハブ部
5 先端面
7、42、54 背面
11 翼部
17 溶接棚部
19 回転軸
21、44、50 凹形状部
22 溶接部
A 凹形状部と背面との交点
B 背面と回転軸との交点
C、E 楕円の長円弧
D 翼部の直径
F 円弧
G、G' 楕円形
L 中心線
N 肉厚
H 平面
S 距離
P 円弧の中心
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャ等のラジアルタービンや、斜流タービンにおける動翼に関する発明であり、特に動翼の背面形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用、舶用等のターボチャージャのタービン動翼において、タービン動翼の慣性モーメントが大きいと、図7に示すようにエンジン回転数の立ち上がり、給気圧力の立ち上がりの応答性が悪くなり、結果的に、ターボチャージャ等を含むエンジンシステム全体のタイムラグを発生させる問題があった。
【0003】
このため、タービン動翼の慣性モーメントを下げる方法として、翼形状自体を切除等によって調整して対応するものが知られている。
例えば、図8に示すような翼01の後縁03の高さを減少させるために、翼01の外周のシュラウドライン05を下げる方法、または図9に示すような翼01の厚さを、翼01'に薄肉化する方法、または翼01の前縁07までの全高を抑えて小径のタービンとする方法等が知られている。
【0004】
しかし、この翼01の後縁03高さの減少や、翼01の肉厚の薄肉化では、タービン動翼の効率低下の要因や強度面での要求を満たさなくなる可能性があり、小径のタービンを適用する場合には、特にターボチャージャでは、最大トルク点と最大出力点との流量差を逃がす必要があり、システム全体の効率が低下する問題があった。
【0005】
そこで、翼形状を変更せずに、慣性モーメントを低減させる方法として、動翼の背面部に、肉抜きの凹形状を形成する提案がされている。
【0006】
例えば、特許文献1(特開平10−54201号公報)には、図10に示すように、タービン動翼011のブレード013が設けられているハブ015の端面016に、軸方向環状凹部017が形成されている。
また、特許文献2(実開昭63−83430号公報)には、図11に示すように、タービン動翼020のブレード022が設けられているハブ024の端面025に、軸方向環状凹部026が形成されている。この凹部026は、周方向に4箇所、軸方向に沿って設けられ、断面形状が略三角形に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−54201号公報
【特許文献2】実開昭63−83430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、特許文献2においては、肉抜きの凹形状によって慣性モーメントを低減させて応答性の向上を図ることが可能となるが、特許文献1では、図10の凹形状の先端部019は、曲率半径が小さく急な曲率変化による応力集中が発生しやすく、また特許文献2においても、図11の凹形状の先端部028は急な曲率変化によって応力集中が発生しやすい。
このため、ハブ部材の動翼背面の根元部分において、応力集中が生じやすく強度や耐久性の面で問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、これら問題に鑑みてなされたもので、翼形状を変更することなく動翼の慣性モーメントを低減させつつ、動翼背面の根元部分における応力集中の発生を抑えて、強度および耐久性を向上させることができる動翼背面形状を備えたタービン動翼を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本出願の第1発明は、回転軸が連結される軸状のハブ部と該ハブ部の周囲に複数形成される翼部とを一体に形成したタービン動翼において、
前記ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に回転軸中心を中心として環状の凹形状部が形成され、該凹形状部の前記回転軸方向の断面形状が、楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した曲線形状によって形成され、かつ前記長軸の位置が前記背面に一致するように形成されることを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に環状の凹形状部が形成され、その断面形状が、楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した曲線形状によって形成され、かつ前記長軸の位置が前記背面に一致するように形成されるため、凹形状部の曲率が滑らかに変化し、曲率半径を大きく取れることができ、該凹形状部に発生する応力集中を、図10、11に示す従来技術のような凹形状の先端部における急な曲率変化によって生じる応力集中より低減できる。
その結果、動翼背面の根元部分における応力集中を回避でき強度や耐久性を向上できる。また、環状の凹形状部による肉抜きによって、タービン動翼の慣性モーメントも低減できる。
【0012】
一般に、応力集中係数αは、図6で示すような関係にあり、応力集中係数αは、横軸に示されるρ(切欠きの円弧半径)/t(切欠き深さ)が大きくなるに従って小さくなる関係にあるため、ρ(切欠きの円弧半径)を大きくするか、t(切欠き深さ)を小さくすることで、応力集中係数αを小さくできる。
【0013】
従って、本発明のように、凹形状部の断面形状が楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した曲線形状によって形成し、かつ長軸の位置を背面に一致するように形成することで、凹形状部における応力集中係数を従来技術のような凹形状の先端部における急な曲率変化より小さくすることができ、ρ(切欠きの円弧半径)を大きくするとともに、t(切欠き深さ)を小さくすることができ、ハブ部背面の動翼根元部分における応力集中を低減できる。
【0014】
また、本出願の第2発明は、回転軸が連結される軸状のハブ部と該ハブ部の周囲に複数形成される翼部とを一体に形成したタービン動翼において、前記ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に回転軸中心を中心として環状の凹形状部が形成され、該凹形状部の前記回転軸方向の断面形状が、円弧または楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状の一部からなり、かつ該円弧の中心または前記長軸の位置が前記背面よりハブ部の外側に位置するとともに前記長軸が前記背面と平行となるように形成されることを特徴とする。
【0015】
かかる第2発明によれば、前記第1発明と同様に応力集中係数を低減して、応力集中を低減することができる。しかも、第2発明においては、円弧の中心または長軸対称の曲線形状を形成する該長軸を背面よりハブ部の外側に位置させるので、前記第1発明における長軸対称の曲線形状の曲率半径よりも大きい半径に設定できるようになり、第1発明に比べて、応力集中係数をより小さくすることが可能となり、ハブ部背面の根元部分における応力集中を一層低減できる。
【0016】
また、第1発明および第2発明において、好ましくは、前記背面と前記円弧または前記長軸対称の曲線形状との交点のうち外周側の位置を前記翼部直径の略半分に位置させ、内周側の位置を前記背面と前記回転軸との交点近傍に位置させるとよい。
【0017】
かかる構成によれば、ハブ部の背面と円弧または長軸対称の曲線形状との交点のうち外周側の位置を、翼部直径の略半分の位置に位置させたので、翼部を保持するハブ部外周側の部分に十分な肉厚を確保できる。
また、ハブ部と翼部とは一体に鋳造等によって製造されるとともに、高速で回転するため、バランスとりための肉抜き等のスペースが必要となるが、そのスペースとしてハブ部の背面の凹形状部の外周側に平面部を残すことができる。
【0018】
また、第1発明および第2発明において、好ましくは、前記凹形状部の断面形状には直線部が存在しないとよい。
すなわち、円弧形状または楕円形状等の長軸対称曲線形状だけによって形成されるため、直線部が介在すると直線部とこれら曲線形状との交差部における形状変化による応力集中の発生の可能性を極力回避でき、背面の根元部分における応力集中の発生を効果的に抑えることができる。
【0019】
さらに、第1発明および第2発明において、好ましくは、前記長軸対称の曲線形状が楕円からなり、該楕円の短径は前記動翼の直径の3〜10%であるよい。
かかる3〜10%は、応力および慣性モーメントの数値解析結果に基づいて、3%より小さくなると凹形状としての肉抜きによる慣性モーメントの低減効果が得られず、また、10%を超えると深さが深くなり、翼部を保持するハブ部外周側の部分の肉厚に影響して、タービン動翼全体の強度に悪影響を及ぼすため、この範囲に設定するとよい。
【発明の効果】
【0020】
第1発明によれば、翼形状を変更することなく動翼の慣性モーメントを低減させつつ、動翼背面の根元部分における応力集中の発生を抑えて、強度および耐久性を向上させることができる動翼背面形状を備えたタービン動翼を提供できる。
また、第2発明によれば、前記第1発明と同様に応力集中係数を低減して、応力集中を低減することができる。
しかも、本第2発明においては、円弧の中心または長軸対称の曲線形状を形成する該長軸を背面よりハブ部の外側に位置させるので、前記第1発明における長軸対称の曲線形状の曲率半径よりも大きい半径に設定できるようになり、第1発明に比べて、応力集中係数をより小さくすることが可能となり、ハブ部背面の根元部分における応力集中を一層低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態におけるタービン動翼の断面図である。
【図2】第2実施形態におけるタービン動翼の断面図である。
【図3】第3実施形態におけるタービン動翼の断面図である。
【図4】応力ピーク比率および慣性モーメントの比較説明図である。
【図5】図4に示す比較例1、2の説明図である。
【図6】応力集中係数αの一般的特性図である。
【図7】タービン動翼のレスポンス特性を示す説明図である。
【図8】翼形状の変更例の説明図である。
【図9】翼形状の変更例の説明図である。
【図10】従来技術の説明図である。
【図11】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0023】
(第1実施形態)
車両用、舶用等のターボチャージャのタービン動翼を例に説明する。図1はこのタービン動翼1の軸方向断面図を示し、タービン動翼(以下動翼という)1は、軸状に形成されるとともに、外周側面3、先端面5、後端面(背面)7を有したハブ部9と、該ハブ部9の外周側面3に複数形成された翼部11とが、射出成形、鋳造、焼結等によって一体に成形されている。
【0024】
外周側面3は、ハブ部9の先端面5から背面7に向かうに従って徐々に大径になるように湾曲した形状に形成され、この湾曲した面上に翼部11が軸方向に沿って複数枚立設されている。
そして、翼部11の前縁13が径方向に向かって外周側に設けられ、翼部11の後縁15が軸方向に向かって内周側に形成され、流動ガスが径方向外側から前縁13に導入されて、軸方向に向かって後縁15から排出されることで、ハブ部9に回転力が発生するようになっている。
【0025】
また、背面7には、回転軸19を連結する溶接棚部17が円周状に突設され、該溶接棚部17に回転軸19の先端が溶接部22にて結合される。なお、この回転軸19の接続構造は、溶接によらずにハブ部9の中心部を中空状に形成して、中空形状内に回転軸を嵌合させて結合する構造であってもよい。
【0026】
さらに、ハブ部9の背面7には回転軸19周りに中心線Lを中心に環状の凹形状部21が形成されている。該凹形状部21の回転軸方向の断面形状は、図1に示すように、楕円形(長軸対称の曲線形状)Gからなっている。すなわち、楕円の短径aと長径bからなる楕円の長円弧Cで形成されている。この楕円の長円弧Cは、長軸の長径bを背面7の面と一致させて、長径bで分割された形状となっている。つまり、凹形状部21を形成する曲線形状は直線部がない単一の楕円の長円弧Cよって形成されている。
【0027】
長円弧Cと背面7との外周側の交点Aの位置は、翼部11の直径Dの略半分に位置され、内周側の交点Bの位置は、溶接棚部17の上面と背面7とが垂直に交わる交点に位置されている。
交点Aの位置を、翼部11の直径Dの略半分の位置に位置させたので、翼部11を保持するハブ部9の外周側の部分に十分な肉厚Nを確保でき、凹形状部21の形成によってタービン動翼1全体の強度低下がないようにできる。
また、ハブ部9と翼部11とは一体に鋳造等によって製造されるとともに、動翼1自体は高速で回転するため、回転時のバランスを取る必要があるため、その肉抜き等のスペースが必要となるが、そのスペースとして背面7の凹形状部21の外周側に平面Hが確保される。
【0028】
このような理由を基に交点Aの位置が設定されている。また、交点Bについては、溶接棚部17の上面に連続的かつ滑らかに凹形状部21の内面が繋がることによって、応力集中の発生個所を極力減らすことができるためである。つまり、仮に、交点Bの位置が溶接棚部17の上面より段差状に外周側に位置されたとすると、その交点Bには角部が形成され、そこに応力集中が生じるおそれがある。
【0029】
ここで、応力集中係数について説明する。一般に、応力集中係数αは、材料力学の文献(機械工学便覧)には図6で示すような関係が示されている。この例は両側切り欠きの場合を示すものであるが、応力集中係数αは、横軸に示されるρ(切欠きの円弧半径)/t(切欠き深さ)が大きくなるに従って小さくなる関係にある。このため、ρ(切欠きの円弧半径)を大きくするか、t(切欠き深さ)を小さくすることで、応力集中係数αを小さくすることができることが分かる。
【0030】
従って、ρ(切欠きの円弧半径)を大きくするか、t(切欠き深さ)を小さくするために、凹形状部21の断面形状を楕円の長円弧形状によって形成することで、応力集中係数を従来技術のような凹形状の先端部における急な曲率変化より小さくすることができ、さらに、背面7の肉抜きをも可能とすることができる。
その結果、翼部11の形状を変更することなく動翼1の慣性モーメントを低減させつつ、背面7の根元部分における応力集中の発生を抑えて、強度および耐久性を向上させることが可能になる。
【0031】
次に、背面7の根本部分に生じる応力の数値解析結果について図4、5を参照して説明する。
図4の横軸における、比較例1は、図5(a)のように凹形状部が形成されていないタービン動翼30の場合であり、比較例2は、図5(b)のように凹形状部の断面形状が水滴形状32で従来技術として説明した図10、11の形状に近いものであり、凹形状の深さが深く先端部の曲率半径が小さく尖った形状のタービン動翼34の場合である。実施例1〜4は、本実施形態の図1に示す楕円の長円弧形状による場合であり、実施例1は翼部11の直径Dと楕円の短径aとの比(D/a)が10%の場合、実施例2はD/aが6%の場合、実施例3はD/aが5%の場合、実施例4はD/aが4%の場合をそれぞれ示す。
また、縦軸は、比較例2の応力ピーク値を100%とした場合の比率と、比較例1の慣性モーメントを100%とした場合の比率とをそれぞれ示す。
【0032】
この図4を基に各ケースを比較すると、応力ピーク値については、比較例2の水滴形状の凹形状部の場合が最も応力ピーク値が大きくその値を100%として、他のケースを見ると、比較例1は凹形状部が形成されないため最も小さい、そして実施例1から4にかけて順次小さくなることが分かった。すなわち、楕円の短径aが小さくなり凹形状部の深さが浅くなるに従ってベースの比較例2に近づくことが確認できた。
【0033】
また、慣性モーメントについては、凹形状部がない比較例1が最も大きくその値を100%として、他のケースを見ると、水滴形状の比較例2が最も小さく、実施例1から4にかけて順次大きくなることが分かった。すなわち、楕円の短径aが小さくなり凹形状部の深さが浅くなるに従ってベースの比較例1に近づくことが確認できた。
【0034】
以上の比較より、比較例1のように凹形状部が形成されていないものは、発生する集中応力は小さいが慣性モーメントが大きく、また比較例2のような水滴形状のような形状では、慣性モーメントは小さいが大きい集中応力の発生があることが確認できた。
本発明では、この比較例1と比較例2との両者の中間的な特性を得ることができ、慣性モーメントを低減させつつ、背面7の根元部分における応力集中の発生を抑えることが可能になる。
【0035】
なお、D/aの比率の設定については、実施例1〜4に示すような慣性モーメントとピーク応力との関係を有するため、タービン動翼の使用条件によって予め設定するとよい。 また、D/aの比率の範囲については、応力および慣性モーメントの数値解析結果より図4に示す4〜10%を含めて3〜10%が適切である。
なぜならば、3%より小さくなると凹形状としての肉抜きによる慣性モーメントの低減効果が得られず、また、10%を超えると深さが深くなり過ぎて、翼部を保持するハブ部外周側の部分の肉厚に影響して、タービン動翼全体の強度に悪影響を及ぼすため、この範囲に設定するとよい。
【0036】
第1実施形態においては、凹形状部21の断面形状として楕円形Gについて説明したが、長軸対称曲線として楕円形に近似した卵形についても同様のことが言える。すなわち、卵形の曲線形状は楕円形と半円弧とがつながった形状となり、楕円形だけでなく円弧とつながった形状をしていても、凹形状部の曲率が滑らかに変化し、曲率半径を大きく取れることができる形状であればよい。ただし直線部が存在してはならない、すなわち、円弧形状または楕円形状等の長軸対称曲線形状だけによって形成されることで、凹形状部の曲率が滑らかに変化するようになる。直線部が介在すると直線部とこれら曲線形状との交差部において、形状変化が生じやすく、応力集中が発生しやすくなるからである。
【0037】
(第2実施形態)
次に、図2を参照して第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成部材と同一のものには同一符号を付して説明を省略する。
ハブ部40の背面42に、回転軸19の中心線Lを中心として形成された環状の凹形状部44の回転軸方向の断面形状が、図2に示すように、楕円形G'からなっていて、短径a'と長径b'からなる楕円の長円弧Eで形成されている。この楕円の長円弧Eは、長径b'を背面42とは一致せず。背面42の面位置から距離sだけハブ部40の外側方向に移動した位置に位置させ、楕円の長円弧形状の一部によって形成されている。つまり、凹形状部44を形成する曲線形状は直線部がなく単一の楕円の長円弧によって形成されている。
【0038】
また、距離sは大きく移動するに従って、長径b'を大きく取ることができるようになるため、前記第1実施形態で説明した図4の比較例1のベース形状に近づけることができるようになる。
距離sの移動方向については、ハブ部40の内部方向へ移動し、長軸の長径b'がハブ部40内に位置される場合には、凹形状部44の断面形状の上下辺に直接部が存在し、長円弧Eとのつながり部に曲率の変化が生じ、応力集中が発生するおそれがあるため、距離sは背面42の位置からハブ部40の外側(図2の左側)に移動させる必要がある。
なお、長円弧Eと背面42との外周側の交点Aの位置と内周側の交点Bの位置は、第1実施形態と同一である。
【0039】
かかる第2実施形態によれば、前記第1実施形態と同様に応力集中係数を低減して、応力集中を低減することができる。しかも、第2実施形態においては、楕円の長径b'の位置を背面42よりハブ部40より外側に位置されるので、第1実施形態における楕円の長円弧Cの曲率半径より大きく設定できるようになるため、第1実施形態に比べて、応力集中係数をより小さくすることが可能になり、背面42の根元部分における応力集中を一層低減できる。
【0040】
(第3実施形態)
次に、図3を参照して第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態、第2実施形態で説明した構成部材と同一のものには同一符号を付して説明を省略する。
第3実施形態は、第2実施形態の楕円に対して円形の円弧によって、凹形状部50の形状を形成するものである。
【0041】
動翼1のハブ部52の背面54に、回転軸19の中心線Lを中心として形成された環状の凹形状部50の回転軸方向の断面形状が、図3に示すように、半径Rの円弧形状からなっていて、円周の一部の円弧Fで形成されている。この円弧Fの中心Pは、第2実施形態と同様に、背面54の面位置から距離sだけハブ部52の外側に移動した位置に位置されている。つまり、凹形状部50を形成する曲線形状は直線部がなく単一の円弧によって形成され、しかも半円弧より小さい円弧形状によって形成されている。
【0042】
円弧Fと背面54との外周側の交点Aの位置と内周側の交点Bの位置は、第1実施形態と同一である。
【0043】
かかる第3実施形態によれば、第2実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、円形状の円弧の一部の曲線を用いて凹形状部50を形成するため、楕円形や卵形等の長軸対称曲線形状の断面形状に比べて製造、加工が容易となる。また、A点、B点間の距離が一定の場合で、溶接棚部17の突出量が限られている場合に、溶接部22に掛からないようにして楕円形や卵形等の長軸対称曲線形状の曲率半径に比べて、より小さい曲率半径の設定が可能となる等、凹形状部50の形状設定の自由度が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、翼形状を変更することなく動翼の慣性モーメントを低減させつつ、動翼背面の根元部分における応力集中の発生を抑えて、強度および耐久性を向上させることができる動翼背面形状を備えるので、タービン動翼に用いることに適している。
【符号の説明】
【0045】
1 タービン動翼
9 ハブ部
5 先端面
7、42、54 背面
11 翼部
17 溶接棚部
19 回転軸
21、44、50 凹形状部
22 溶接部
A 凹形状部と背面との交点
B 背面と回転軸との交点
C、E 楕円の長円弧
D 翼部の直径
F 円弧
G、G' 楕円形
L 中心線
N 肉厚
H 平面
S 距離
P 円弧の中心
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が連結される軸状のハブ部と該ハブ部の周囲に複数形成される翼部とを一体に形成したタービン動翼において、
前記ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に回転軸中心を中心として環状の凹形状部が形成され、該凹形状部の前記回転軸方向の断面形状が、楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した曲線形状によって形成され、かつ前記長軸の位置が前記背面に一致するように形成されることを特徴とするタービン動翼。
【請求項2】
回転軸が連結される軸状のハブ部と該ハブ部の周囲に複数形成される翼部とを一体に形成したタービン動翼において、
前記ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に回転軸中心を中心として環状の凹形状部が形成され、該凹形状部の前記回転軸方向の断面形状が、円弧または楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状の一部からなり、かつ該円弧の中心または前記長軸の位置が前記背面よりハブ部の外側に位置するとともに前記長軸が前記背面と平行となるように形成されることを特徴とするタービン動翼。
【請求項3】
前記背面と前記円弧または前記長軸対称の曲線形状との交点のうち外周側の位置を前記翼部直径の略半分に位置させ、内周側の位置を前記背面と前記回転軸との交点近傍に位置させたことを特徴とする請求項1または2記載のタービン動翼。
【請求項4】
前記凹形状部の断面形状には直線部が存在しないことを特徴とする請求項1または2記載のタービン動翼。
【請求項5】
前記長軸対称の曲線形状が楕円からなり、該楕円の短径は前記動翼の直径の3〜10%であることを特徴とする請求項1または2記載のタービン動翼。
【請求項1】
回転軸が連結される軸状のハブ部と該ハブ部の周囲に複数形成される翼部とを一体に形成したタービン動翼において、
前記ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に回転軸中心を中心として環状の凹形状部が形成され、該凹形状部の前記回転軸方向の断面形状が、楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状を該長軸で分割した曲線形状によって形成され、かつ前記長軸の位置が前記背面に一致するように形成されることを特徴とするタービン動翼。
【請求項2】
回転軸が連結される軸状のハブ部と該ハブ部の周囲に複数形成される翼部とを一体に形成したタービン動翼において、
前記ハブ部は回転軸方向の一端側である背面に向かって徐々に大径となる形状を有し、該背面に回転軸中心を中心として環状の凹形状部が形成され、該凹形状部の前記回転軸方向の断面形状が、円弧または楕円形や卵形の長軸対称の曲線形状の一部からなり、かつ該円弧の中心または前記長軸の位置が前記背面よりハブ部の外側に位置するとともに前記長軸が前記背面と平行となるように形成されることを特徴とするタービン動翼。
【請求項3】
前記背面と前記円弧または前記長軸対称の曲線形状との交点のうち外周側の位置を前記翼部直径の略半分に位置させ、内周側の位置を前記背面と前記回転軸との交点近傍に位置させたことを特徴とする請求項1または2記載のタービン動翼。
【請求項4】
前記凹形状部の断面形状には直線部が存在しないことを特徴とする請求項1または2記載のタービン動翼。
【請求項5】
前記長軸対称の曲線形状が楕円からなり、該楕円の短径は前記動翼の直径の3〜10%であることを特徴とする請求項1または2記載のタービン動翼。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−80410(P2011−80410A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233182(P2009−233182)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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