説明

ターボチャージャの軸受構造

【課題】タービンホイールとコンプレッサホイールとを連結するロータリーシャフトが流体軸受にて回動可能に支持されたターボチャージャにあって、ロータリーシャフトのホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することのできるターボチャージャの軸受構造を提供する。
【解決手段】流体軸受50a,50bは、フローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bとインペラのロータリーシャフト41との間に潤滑油による流体層を形成し、流体層を介してロータリーシャフト41を回動可能に支持する。フローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bは、流体層に生じる旋回流の影響によって発生するロータリーシャフト41の歳差運動におけるロータリーシャフト41の傾きを案内するためにテーパ状に形成されており、歳差運動の支点とインペラの重心との距離を大きくすることにより歳差運動におけるインペラの慣性モーメントを増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タービンホイール及びコンプレッサホイールをロータリーシャフトによって連結したインペラを流体軸受によって支持するターボチャージャの軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の吸気効率を高める過給機としてターボチャージャが広く知られている。ターボチャージャでは、内燃機関から排出される排気をタービンホイールに吹き付けることにより、排気のエネルギを利用してタービンホイールを回転させる。これにより、ロータリーシャフトを介してこのタービンホイールと連結されたコンプレッサホイールが回転し、吸入空気が強制的に内燃機関の燃焼室内に送り込まれるようになる。
【0003】
従来、こうしたターボチャージャのロータリーシャフトを回動可能に支持する軸受構造としては、玉軸受を用いるものの他、特許文献1に記載されるように、ハウジングから吐出される潤滑油により流体層を形成し、この流体層を介してロータリーシャフトを支持する流体軸受を用いたものを挙げることができる。
【0004】
図11に示されるように、こうした流体軸受を用いた軸受構造にあっては、ハウジング1に形成された2つの支持孔2にタービンホイールとコンプレッサホイールとを連結するロータリーシャフト3を挿通させるとともに、同ロータリーシャフト3と各支持孔2との間に円筒状のフローティングメタル4をそれぞれ介在させている。各支持孔2には潤滑油を吐出する潤滑油供給口5が設けられており、潤滑油供給口5から吐出される潤滑油により、支持孔2の内周とフローティングメタル4の外周との間に流体層が形成される。また、フローティングメタル4に設けられた潤滑油導入孔6を通じてフローティングメタル4の内周側に潤滑油が導入されることにより、フローティングメタル4の内周とロータリーシャフト3との間にも潤滑油による流体層が形成される。そして、これら流体層を介してロータリーシャフト3がハウジング1内に回動可能に支持されるようになる。
【0005】
こうした軸受構造によれば、ロータリーシャフト3の回転力は、フローティングメタル4の内周とロータリーシャフト3との間に形成された流体層を介してフローティングメタル4に伝達され、フローティングメタル4はロータリーシャフト3を中心に回転するようになる。その結果、ロータリーシャフト3の回転抵抗を大幅に低減することができるとともに、フローティングメタル4の内周と外周の両側において潤滑油による冷却が行われるようになるため、軸受部分の焼付きを効果的に抑制することができる。
【特許文献1】特開昭56−138423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ロータリーシャフト3の回転速度の上昇に伴って潤滑油による流体層には、図12(a),(c)に破線矢印で示されるように旋回流が発生するようになる。尚、図12(a),(c)においてロータリーシャフト3はその軸線Lを中心に破線矢印にて示される方向に回転するものとする。そして、この旋回流の影響によってロータリーシャフト3は、図12(a),(c)に矢印で示されるように、フローティングメタル4内で旋回運動するようになり、その結果、図12(b)に示されるように、ロータリーシャフト3が歳差運動をするようになることが知られている。
【0007】
こうした歳差運動によるロータリーシャフト3の振動は、ホワール振動とも呼ばれ、微小な振動ではあるがロータリーシャフト3の回転速度の変化に関わらず一定の周波数域の音を発生する。そして、この音は、ロータリーシャフト3の回転速度の上昇に伴って周波数が変化するターボ音等とは異なり、車両の走行状態との相関がほとんどないため運転者に違和感を与えやすく、騒音として認識されやすい。
【0008】
尚、こうしたホワール振動に起因する騒音の発生は、上記のようにハウジング1とロータリーシャフト3との間にフローティングメタル4を介在させ、その内周と外周との両面に潤滑油による流体層を形成するようにした軸受構造のみならず、フローティングメタル4を設けずに、支持孔2とロータリーシャフト3との間に形成される流体層を介してロータリーシャフト3を支持するもの等、流体軸受を用いた軸受構造を有するターボチャージャにあっては、概ね共通するものである。
【0009】
本願発明者は、図12(b)に示されるように、フローティングメタル4の内径やロータリーシャフト3の形状等々によって決まる歳差運動の支点Pと、タービンホイール及びコンプレッサホイールを含むインペラ全体の重心Gとの距離Dを大きくするほど、ロータリーシャフト3が歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントが大きくなり、歳差運動するために必要なエネルギが大きくなることに着目し、インペラの重心Gから歳差運動の支点Pまでの距離Dをより大きくすることによって歳差運動の発生を抑制することができることを実験によって確認した。
【0010】
この発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、その目的は、タービンホイールとコンプレッサホイールとを連結するロータリーシャフトが流体軸受にて回動可能に支持されたターボチャージャにあって、ロータリーシャフトのホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することのできるターボチャージャの軸受構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、タービンホイールとコンプレッサホイールとをロータリーシャフトによって連結したインペラを回動可能に支持するターボチャージャの軸受構造であって、前記ロータリーシャフトが挿通された支持孔内に吐出される潤滑油によって同支持孔と前記ロータリーシャフトとの間に潤滑油による流体層を形成し、同流体層を介して前記ロータリーシャフトを回動可能に支持するターボチャージャの軸受構造において、前記流体層に生じる旋回流の影響によって発生する前記インペラの歳差運動の支点と、前記インペラの重心との距離を大きくすることにより前記歳差運動における前記インペラの慣性モーメントを増大させる慣性モーメント増大手段を備えることをその要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、流体層の旋回流の影響によって発生するインペラの歳差運動の支点とタービンホイール及びコンプレッサホイールを含むインペラ全体の重心との距離を大きくすることにより、ロータリーシャフトが歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントを大きくすることができる。これにより、歳差運動を生じさせるために必要なエネルギが大きくなり、歳差運動の発生が抑制されるようになる。その結果、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができるようになる。
【0013】
尚、歳差運動の支点の位置は、支持孔の内径やロータリーシャフトの形状等々、同ロータリーシャフトの支持態様に基づいて推定することができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造において、前記慣性モーメント増大手段として前記支持孔の内周面には前記歳差運動の支点が前記インペラの重心から離間するように前記歳差運動における前記ロータリーシャフトの傾きを案内するためのテーパ面が形成されることをその要旨とする。
【0014】
具体的には、請求項2に記載の発明によるようにロータリーシャフトを支持する支持孔の内周面に歳差運動の支点がインペラの重心から離間するように歳差運動におけるロータリーシャフトの傾きを案内するテーパ面を形成することにより歳差運動の支点とインペラの重心との距離が大きくなるようにこの支点の位置を移動させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のターボチャージャの軸受構造において、前記テーパ面は前記各ホイールのうち前記インペラの重心に近い方のホイールに近づくほど前記支持孔の内径が次第に大きくなる態様にて形成されることをその要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、インペラの重心に近い方のホイールに近づくほど支持孔の内径が次第に大きくなるようにテーパ面を形成するようにしているため、このテーパ面によって案内される歳差運動の支点は、インペラの重心から遠い方のホイール側に位置するようになる。そのため、ロータリーシャフトが歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントをより大きくすることができ、ホワール振動に起因する騒音の発生をより好適に抑制することができるようになる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造において、円筒状のフローティングメタルに挿通したロータリーシャフトを同フローティングメタルとともに前記支持孔に内挿するとともに、同支持孔と前記フローティングメタルの外周面との間、及び前記フローティングメタルの内周面と前記ロータリーシャフトとの間に前記潤滑油による流体層をそれぞれ形成し、それら流体層を介して前記ロータリーシャフトを回動可能に支持するターボチャージャの軸受構造であって、前記慣性モーメント増大手段として前記フローティングメタルの内周面には前記歳差運動の支点が前記インペラの重心から離間するように前記歳差運動における前記ロータリーシャフトの傾きを案内するテーパ面が形成されることをその要旨とする。
【0018】
上記請求項4に記載の発明によるように、支持孔とロータリーシャフトとの間に円筒状のフローティングメタルを介在させる軸受構造にあっても、フローティングメタルの内周面に歳差運動におけるロータリーシャフトの傾きを案内するテーパ面を形成することにより、歳差運動の支点とインペラの重心との距離が大きくなるようにこの支点の位置をずらすことができる。これにより、上記請求項2に記載の発明と同様に、歳差運動の発生を抑制し、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができるようになる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のターボチャージャの軸受構造において、前記テーパ面は前記各ホイールのうち前記インペラの重心に近い方のホイールに近づくほど前記フローティングメタルの内径が次第に大きくなる態様にて形成されることをその要旨とする。
【0020】
上記構成によれば、インペラの重心に近い方のホイールに近づくほどフローティングメタルの内径が次第に大きくなるようにテーパ面を形成するようにしているため、このテーパ面によって案内される歳差運動の支点は、インペラの重心から遠い方のホイール側に位置するようになる。そのため、ロータリーシャフトが歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントをより大きくすることができ、ホワール振動に起因する騒音の発生をより好適に抑制することができるようになる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のターボチャージャの軸受構造において、複数のフローティングメタルによって前記ロータリーシャフトを支持するものであって、各フローティングメタルの内周面には、その傾斜角度が等しく設定されるとともに同一の円錐面上に位置するように前記テーパ面がそれぞれ形成されることをその要旨とする。
【0022】
複数のフローティングメタルによってロータリーシャフトを支持する軸受構造にあっては、上記請求項6に記載の発明によるように各フローティングメタルの内周面にそれぞれ形成するテーパ面の傾斜角度を等しく設定するとともに、それらが同一の円錐面上に位置するように形成することにより、それらテーパ面が協働して歳差運動におけるロータリーシャフトの傾きを案内するようになり、歳差運動の支点をより好適にインペラの重心から遠い方のホイール側に移動させることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項2〜6のいずれか一項に記載のターボチャージャの軸受構造において、前記テーパ面は、同テーパ面によって案内される前記ロータリーシャフトの傾斜角度が同ロータリーシャフトの傾き得る最大傾斜角度よりも小さくなるようにその傾斜角度が設定されてなることをその要旨とする。
【0024】
歳差運動によるインペラの重心移動量が小さいほど、換言すれば、歳差運動におけるロータリーシャフトの傾斜角度が小さいほど、ホワール振動の振動エネルギが小さくなり、それに伴う騒音も小さくなる。
【0025】
また、支持孔の内周面又はフローティングメタルの内周面にテーパ面を形成し、このテーパ面によってインペラの歳差運動におけるロータリーシャフトの傾きを案内するようにした場合には、歳差運動におけるロータリーシャフトの傾きがテーパ面の傾斜によって制限されるようになる。ここで、上記請求項7に記載の発明によるように、テーパ面によって案内されるロータリーシャフトの傾斜角度をロータリーシャフトの形状や支持孔、フローティングメタルの内径等々に基づいて決まるロータリーシャフトの最大傾斜角度よりも小さく設定することにより、歳差運動におけるロータリーシャフトの傾斜角度をより小さくすることができ、ホワール振動に伴う騒音をより好適に抑制することができるようになる。
【0026】
尚、テーパ面の傾斜角度を小さくするほどホワール振動の振動エネルギを小さくすることができるが、それに伴ってロータリーシャフトが歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントも小さくなり、ホワール振動自体を抑制する効果が低減してしまう。そこでテーパ面の傾斜角度は、歳差運動の支点とインペラの重心との距離の大きさとの兼ね合いを考慮して、ホワール振動に起因する騒音の発生を好適に抑制できる大きさに設定することが望ましい。
【0027】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造において、一対のフローティングメタルに挿通した前記ロータリーシャフトを同フローティングメタルとともに前記支持孔に内挿するとともに、同支持孔と各フローティングメタルの外周面との間、及び各フローティングメタルの内周面と前記ロータリーシャフトとの間に潤滑油による流体層をそれぞれ形成し、それら流体層を介して同ロータリーシャフトを回動可能に支持するものであり、前記一対のフローティングメタルのうち、前記インペラの重心に近い方のフローティングメタルが他方のフローティングメタルよりも熱膨張係数の大きな材料によって形成されてなることをその要旨とする。
【0028】
フローティングメタルは、ロータリーシャフトの回転に伴う潤滑油の温度上昇に伴って、その温度が上昇し熱膨張するようになる。上記請求項8に記載の構成によれば、熱膨張係数の大きな材料によって形成されたインペラの重心に近い方のフローティングメタルが他方のフローティングメタルよりも大きく熱膨張するようになる。そのため、このフローティングメタルとロータリーシャフトとの間の隙間は、他方のフローティングメタルとロータリーシャフトとの隙間よりも大きくなる。これにより、フローティングメタルの内周面に沿ってロータリーシャフトが旋回運動する場合には、このフローティングメタル内におけるロータリーシャフトの振れ回りが他方のフローティングメタルにおける振れ回りよりも大きくなる。従って、歳差運動の支点が他方のフローティングメタルの近くに位置するようになり、歳差運動の支点をインペラの重心からより遠い位置に移動させることができる。即ち、上記構成によれば、熱膨張係数の異なる一対のフローティングメタルを慣性モーメント増大手段として機能させることでホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができるようになる。
【0029】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造において、前記慣性モーメント増大手段は、前記歳差運動の支点と前記インペラの重心との距離が大きくなるように前記インペラの重心を移動させるものであることをその要旨とする。
【0030】
上記構成によるように、インペラの重心を移動させることによって歳差運動の支点とインペラの重心との距離を大きくすることもでき、これによりロータリーシャフトが歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントを増大させ、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができるようになる。
【0031】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のターボチャージャの軸受構造において、前記ロータリーシャフトの軸方向における一方の端部の回転中心から同ロータリーシャフトの回転軸に沿って延びる中空部を形成することにより前記インペラの重心を移動させることをその要旨とする。
【0032】
一般にターボチャージャのインペラを軽量にするほど過給圧を上昇させる際のレスポンスを向上させることができる。そこで、上記請求項10に記載の発明では、ロータリーシャフトの軸方向における一方の端部の回転中心からロータリーシャフトの軸方向に沿って延びる中空部を形成することにより、インペラの重心を移動させるようにしている。こうした構成によってインペラの重心を移動させることにより、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制するとともに、インペラ全体を軽量化することができ、過給圧上昇時のレスポンスを向上させることができる。またインペラの回転中心であるロータリーシャフトの回転軸に沿って延びる中空部を形成することにより、インペラの回転バランスを崩すことなくその重心を移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1の実施形態)
以下、図1〜3を参照してこの発明をターボチャージャの軸受構造に具体化した第1の実施形態について説明する。図1は、本実施形態のターボチャージャの概略構成を示している。図1に示されるように、このターボチャージャは、センターハウジング10、タービンハウジング20及びコンプレッサハウジング30が互いに組み付けられて一体化されている。
【0034】
センターハウジング10には、タービンホイール42とコンプレッサホイール43とをロータリーシャフト41で連結したインペラ40が支持されている。インペラ40は、タービンホイール42側に配設された流体軸受50aとコンプレッサホイール43側に配設された流体軸受50bとによってそのロータリーシャフト41が支持されることにより、センターハウジング10に回動可能に支持されている。また、センターハウジング10には潤滑油の供給通路11が形成されており、図示しないオイルポンプによって所定の圧力の潤滑油が各流体軸受50a,50bに供給される。
【0035】
ロータリーシャフト41の図1における左側端部に固定されたタービンホイール42には、ロータリーシャフト41の軸線Lを中心にして放射状に延びる複数のブレード42aが設けられている。一方、ロータリーシャフト41の図1における右側端部に固定されたコンプレッサホイール43には、ロータリーシャフト41の軸線Lを中心にして放射状に延びる複数のブレード43aが設けられている。
【0036】
尚、インペラ40にあっては、高温の排気に直接晒されるタービンホイール42の強度を確保するとともに、インペラ40全体の重量を小さくするため、タービンホイール42を耐熱性の高い合金等の材料によって形成することにより補強する一方で、コンプレッサホイール43をアルミニウム等の軽量な材料によって形成することにより軽量化している。そのため、図1に示されるようにインペラ40の重心Gはタービンホイール42側に偏在している。
【0037】
センターハウジング10の図1における左側端部に組み付けられたタービンハウジング20には、タービンホイール42の外周を囲むように延びるスクロール通路21と、ロータリーシャフト41の軸線L方向に延びる排出ポート22とが形成されている。このスクロール通路21は図示しない内燃機関の排気通路と連通されており、同内燃機関の燃焼室からの排気がこの排気通路を介してスクロール通路21に送り込まれる。
【0038】
また、タービンハウジング20内には、タービンホイール42の外周を囲むように、タービンホイール42の周方向に沿って延びスクロール通路21と連通する導入通路23が形成されている。スクロール通路21の排気は、この導入通路23を通じてタービンホイール42に向けて吹き付けられる。これにより、タービンホイール42が軸線Lを中心に回転するようになる。その後、排気は排出ポート22に排出されて、排気通路に戻される。
【0039】
一方、センターハウジング10の図1における右側端部に組み付けられたコンプレッサハウジング30には、ロータリーシャフト41の軸線L方向に延びる吸入ポート31と、コンプレッサホイール43の外周を囲むように延びて図示しない内燃機関の吸気通路と連通するコンプレッサ通路32とが形成されている。更に、コンプレッサハウジング30には、吸入ポート31を介してコンプレッサハウジング30内に導入された空気をコンプレッサ通路32へ送り出すための送出通路33が設けられている。これにより、排気が吹き付けられることによりタービンホイール42が回転すると、このタービンホイール42とロータリーシャフト41を介して連結されたコンプレッサホイール43が軸線Lを中心に回転し、空気が吸入ポート31、送出通路33及びコンプレッサ通路32を介して内燃機関の吸気通路へ強制的に送り出されるようになる。
【0040】
こうしたターボチャージャにおいて、タービンホイール42とコンプレッサホイール43とを連結しているロータリーシャフト41は非常に高速で回転する。本実施形態におけるターボチャージャにあっては、このロータリーシャフト41のジャーナル部分の焼付きを抑制すべく、潤滑油による流体層が形成される流体軸受50a,50bによってロータリーシャフト41を支持するようにしている。
【0041】
次に図2を参照して、この軸受構造について更に詳しく説明する。尚、図2は図1において二点鎖線で囲まれた部分Xを拡大して示している。
図2に示されるように、流体軸受50aはセンターハウジング10におけるタービンホイール42側に形成された支持部12aに、流体軸受50bはコンプレッサホイール43側に形成された支持部12bにそれぞれ設けられている。各支持部12a,12bには、断面円形状の支持孔13a,13bがそれぞれ形成されており、支持孔13aには円筒状のフローティングメタル51aが、支持孔13bには円筒状のフローティングメタル51bがそれぞれ内挿されている。また、これら支持孔13a,13bには、図2に示されるようにフローティングメタル51a,51bに挿通された状態でロータリーシャフト41が内挿されている。そして、流体軸受50aのフローティングメタル51aは一対のスナップリング53によって、流体軸受50bのフローティングメタル51bはスナップリング53とスラストベアリング54とによって、その軸方向の移動がそれぞれ規制されている。
【0042】
フローティングメタル51a,51bはこのようにセンターハウジング10内に配設された状態において、図2に示されるようにタービンホイール42側ほどその内径が次第に大きくなるように内周面52a,52bがテーパ状に形成されている。また、これら内周面52a,52bは、図2に二点破線で示されるように同一の円錐面上に位置するように形成されており、その傾斜角度θ、即ち図2における水平方向に対する傾斜角度θがロータリーシャフト41の傾き得る最大傾斜角度θmaxよりも小さく設定されている。
【0043】
尚、ロータリーシャフト41の最大傾斜角度θmaxは、ロータリーシャフト41が図2の水平方向に対して最も大きく傾くとき、具体的には、ロータリーシャフト41がフローティングメタル51aにおける点Y及びフローティングメタル51bにおける点Zに接触するまで傾くときの傾斜角度であり、その角度はフローティングメタル51a,51bの内径及びロータリーシャフト41の形状等に基づいて推定することができる。
【0044】
図2に示されるようにセンターハウジング10に形成された供給通路11は、各支持孔13a,13bに潤滑油を吐出する吐出通路11a,11bを含んで構成されている。また、各フローティングメタル51a,51bには、その内周面52a,52b側から放射状に延びて外周に連通する貫通孔55が複数(本実施形態では6つ)形成されている。上述したように供給通路11を通じて供給される潤滑油は、吐出通路11a,11bを通じて支持孔13a,13b内に吐出され、この貫通孔55を通じて内周面52a,52b側に導入される。これにより、支持孔13a,13bの内周面とフローティングメタル51a,51bの外周面との間、及びフローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bとロータリーシャフト41との間には潤滑油による流体層がそれぞれ形成される。
【0045】
上述したようにタービンホイール42に排気が吹き付けられるとロータリーシャフト41がタービンホイール42とともに回転する。ロータリーシャフト41の回転力は、フローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bとロータリーシャフト41との間に形成された流体層を介してフローティングメタル51a,51bに伝達され、フローティングメタル51a,51bはロータリーシャフト41の軸線Lを中心に回転するようになる。その結果、ロータリーシャフト41の回転抵抗を大幅に低減することができるとともに、フローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bと外周面の両側において潤滑油による冷却が行われるようになるため、軸受部分の焼付きを効果的に抑制することができる。
【0046】
ところが、ロータリーシャフト41の回転速度の上昇に伴ってロータリーシャフト41とフローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bとの間に形成された流体層には旋回流が発生するようになる。そして、この旋回流の影響によってロータリーシャフト41はフローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bに沿って旋回運動するようになり、その結果、ロータリーシャフト41がセンターハウジング10内で歳差運動するようになる。
【0047】
次に、図3を参照してこのロータリーシャフト41の歳差運動について説明する。尚、図3(a)は本実施形態の軸受構造におけるロータリーシャフト41の歳差運動の態様を示す模式図であり、図(b)は一般の軸受構造におけるロータリーシャフト41の歳差運動の態様を示す模式図である。尚、説明の便宜上、これら図3(a),(b)にあっては、フローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bとロータリーシャフト41との間隔や、ロータリーシャフト41の傾き等を誇張して示している。
【0048】
図3(b)に示されるように一般の軸受構造にあっては、タービンホイール42側、コンプレッサホイール43側の各フローティングメタル51は同じ諸元のものが使用されている。また、各フローティングメタル51の内周面52にはテーパ面が形成されておらず、その内径は一定である。そのため、ロータリーシャフト41の回転速度の上昇に伴ってロータリーシャフト41とフローティングメタル51の内周面52との間に形成された流体層に旋回流が発生し、ロータリーシャフト41が各フローティングメタル51の内周面52に沿って旋回運動するようになった場合には、ロータリーシャフト41が図3(b)に示されるように各フローティングメタル51の中間を支点Pxとする歳差運動をするようになる。
【0049】
一方で、図3(a)に示されるように本実施形態の軸受構造にあっては、上述したようにフローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bがタービンホイール42側ほどその内径が次第に大きくなるテーパ面によって形成されている。そのため、ロータリーシャフト41が各フローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bに沿って旋回運動するようになった場合には、内周面52a,52bとロータリーシャフト41とが近接した部分における流体層の厚さが一定になるようにロータリーシャフト41の傾きが案内されるようになる。これにより、歳差運動においてロータリーシャフト41と内周面52a,52bとが平行になるようにロータリーシャフト41が傾き、図3(a)に示されるようにロータリーシャフト41の歳差運動の支点Pは一般の軸受構造における歳差運動の支点Pxよりもコンプレッサホイール43側に位置するようになる。即ち本実施形態の軸受構造にあっては、歳差運動の支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dが一般の軸受構造における歳差運動の支点Pxと重心Gとの距離Dxよりも更に大きくなる。
【0050】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)上記第1の実施形態では、フローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bをテーパ状に形成し、このテーパ面によって歳差運動におけるロータリーシャフト41の傾きを案内することにより、歳差運動の支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dが大きくなるようにこの支点Pの位置を移動させている。こうして流体層の旋回流の影響によって発生するインペラ40の歳差運動の支点Pとタービンホイール42及びコンプレッサホイール43を含むインペラ40全体の重心Gとの距離Dを大きくすることにより、ロータリーシャフト41が歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントを大きくすることができる。これにより、歳差運動を生じさせるために必要なエネルギが大きくなり、歳差運動の発生が抑制されるようになる。その結果、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができるようになる。
【0051】
(2)インペラ40の重心Gに近いタービンホイール42に近づくほどフローティングメタル51a,51bの内径が次第に大きくなるようにその内周面52a,52bを傾斜させるようにしているため、この内周面52a,52bによって案内される歳差運動の支点Pは、インペラ40の重心Gから遠いコンプレッサホイール43側に位置するようになる。そのため、ロータリーシャフト41が歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントをより大きくすることができ、ホワール振動に起因する騒音の発生をより好適に抑制することができるようになる。
【0052】
(3)各フローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bの傾斜角度θを等しく設定するとともに、それらが同一の円錐面上に位置するように形成しているため、それら内周面52a,52bが協働して歳差運動におけるロータリーシャフト41の傾きを案内するようになる。そのため、より確実に歳差運動の支点Pをインペラ40の重心Gから遠いコンプレッサホイール43側に移動させることができる。
【0053】
(4)歳差運動によるインペラ40の重心移動量が小さいほど、換言すれば、歳差運動におけるロータリーシャフト41の傾斜角度が小さいほど、ホワール振動の振動エネルギが小さくなり、それに伴う騒音も小さくなる。また、上記第1の実施形態によるように、フローティングメタル51a,51bの内周面52a,52bによってインペラ40の歳差運動におけるロータリーシャフト41の傾きを案内する場合には、歳差運動におけるロータリーシャフト41の傾きが内周面52a,52bの傾斜によって制限されるようになる。上記第1の実施形態では、内周面52a,52bの傾斜角度θをロータリーシャフト41の最大傾斜角度θmaxよりも小さく設定するようにしているため、歳差運動におけるロータリーシャフト41の傾斜角度をより小さくすることができ、ホワール振動に伴う騒音をより好適に抑制することができるようになる。
【0054】
尚、フローティングメタル51a,51bの傾斜角度θを小さくするほどホワール振動の振動エネルギを小さくすることができるが、それに伴ってロータリーシャフト41が歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントも小さくなり、ホワール振動自体を抑制する効果が低減してしまう。そこで内周面52a,52bの傾斜角度θは、歳差運動の支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dの大きさとの兼ね合いを考慮して、ホワール振動に起因する騒音の発生を好適に抑制できる大きさに設定することが望ましい。
【0055】
尚、上記第1の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記第1の実施形態では、フローティングメタル51a,51bの傾斜角度θをロータリーシャフト41の最大傾斜角度θmaxよりも小さく設定する構成を示したが、内周面52a,52bの傾斜角度θは、必ずしもロータリーシャフト41の最大傾斜角度θmaxよりも小さくなくてもよい。即ち、傾斜角度θをロータリーシャフト41の最大傾斜角度θmaxよりも大きく設定した場合であっても、ロータリーシャフト41が歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントを大きくすることにより、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができればよい。
【0056】
・一対の流体軸受50a,50bによってロータリーシャフト41を支持する軸受構造を例示したが、この発明はこうした構成に限定されるものではない。例えば、一つの流体軸受によってロータリーシャフト41を支持する軸受構造であってもこの発明を適用することができる。具体的には図4に示されるようにフローティングメタル151の内周面152をタービンホイール42側ほどその内径が次第に大きくなるテーパ状に形成することにより、歳差運動の支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dを大きくし、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができる。
【0057】
・また、フローティングメタルを介さずに支持孔にロータリーシャフトを挿通させ、支持孔とロータリーシャフトとの間に形成される流体層を介してロータリーシャフトを支持する軸受構造にあってもこの発明を適用することができる。具体的には、図5に示されるようにセンターハウジング10の支持孔113の内周面をタービンホイール42側に近づくほどその内径が次第に大きくなるようにテーパ状に形成することにより、歳差運動の支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dを大きくすることができる。
【0058】
・上記実施形態ではタービンホイール42側に近づくほどその内径が次第に大きくなるようにフローティングメタル又は支持孔の内周面を傾斜させる構成を示した。これに対して、これらの内周面の傾斜によって歳差運動におけるロータリーシャフト41の傾きを案内し、インペラ40の重心Gと歳差運動の支点Pとの距離Dを大きくすることのできるものであれば、内周面の傾斜方向や傾斜角度は適宜変更して採用することができる。例えば、図6(a)に示されるように、タービンホイール42側のフローティングメタル251aにあってはその内周面252aをタービンホイール42側に近づくほどその内径が次第に大きくなるテーパ状に形成する一方、コンプレッサホイール43側のフローティングメタル251bにあってはその内周面252bをコンプレッサホイール43側に近づくほどその内径が次第に大きくなるテーパ状に形成する構成を採用することもできる。こうした構成を採用した場合であっても、これら内周面252a,252bの傾斜角度を調整することにより、図6(a)に示されるようにロータリーシャフト41が歳差運動する際の支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dを図6(b)に示される一般の軸受構造における歳差運動の支点Pxとインペラ40の重心Gとの距離Dxよりも大きくすることができ、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができる。
【0059】
・また、複数のフローティングメタルのうちいくつかのフローティングメタルにのみテーパ面を形成する構成や、フローティングメタルの内周面の一部、又はセンターハウジングの支持孔の内周面の一部をテーパ状にする構成を採用した場合であってもその傾斜角度を適宜調節することにより歳差運動の支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dを一般の軸受構造における距離Dxよりも大きくすることができる。
(第2の実施形態)
以下、図7及び図8を参照して第2の実施形態について説明する。本実施形態は第1の実施形態とフローティングメタルの構成が異なるものであるため、同様の部材については同一の符号を付すのみとしてその説明を割愛し、両者の相違点を中心に説明する。尚、図7は、本実施形態にかかる軸受構造における流体軸受50a,50b近傍を拡大して示す断面図である。
【0060】
本実施形態の軸受構造にあっては、一対の流体軸受50a,50bのうち、インペラ40の重心Gに近いタービンホイール42側の流体軸受50aにおけるフローティングメタル351aをコンプレッサホイール43側の流体軸受50bにおけるフローティングメタル351bよりも熱膨張係数の大きな材料によって形成するようにしている。
【0061】
具体的には、図7に示されるように鋼で形成したフローティングメタル351bをコンプレッサホイール43側の支持孔13b内に配設する一方、この鋼よりも熱膨張係数の大きな真鍮によって形成したフローティングメタル351aをタービンホイール42側の支持孔13a内に配設するようにしている。尚、図7に示されるように本実施形態にあってはフローティングメタル351a,351bの形状は互いに同一である。
【0062】
次に、図8を参照して本実施形態の軸受構造の作用について説明する。尚、図8は本実施形態の軸受構造におけるロータリーシャフト41の歳差運動の態様を示す模式図である。尚、説明の便宜上、図8にあっては、フローティングメタル351a,351bの内周面352a,352bとロータリーシャフト41との間隔や、ロータリーシャフト41の傾き等を誇張して示している。
【0063】
図8に示されるように、フローティングメタル351a,351bは、ロータリーシャフト41の回転に伴う潤滑油の温度上昇に伴って、その温度が上昇し熱膨張するようになる。このとき、インペラ40の重心Gに近いタービンホイール42側のフローティングメタル351aは、鋼よりも熱膨張係数の大きな真鍮で形成されているため、鋼で形成されたフローティングメタル351bよりも大きく熱膨張するようになる。そのため、フローティングメタル351aの内径d1は、コンプレッサホイール43側のフローティングメタル351bの内径d2よりも大きくなり、フローティングメタル351aとロータリーシャフト41との間の隙間は、フローティングメタル351bとロータリーシャフト41との隙間よりも大きくなる。これにより、ロータリーシャフト41がフローティングメタル351a、351bの内周面352a,352bに沿って旋回運動するようになった際には、フローティングメタル351a内におけるロータリーシャフト41の振れ回りがフローティングメタル351b内における振れ回りよりも大きくなる。従って、ロータリーシャフト41の歳差運動の支点Pがフローティングメタル351bの近くに位置するようになり、歳差運動の支点Pが一般の軸受構造と比較してインペラ40の重心Gからより遠い位置に移動するようになる。
【0064】
以上説明した第2の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)上記第2の実施形態によれば、熱膨張係数の異なるフローティングメタル351a,351bをロータリーシャフト41の歳差運動における支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dをより大きくする慣性モーメント増大手段として機能させることにより、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができるようになる。
【0065】
尚、上記第2の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記第2の実施形態では、タービンホイール42側のフローティングメタル351aを真鍮で形成するとともに、コンプレッサホイール43側のフローティングメタル351bを鋼で形成する構成を示したが、これは本発明を具体化した構成の一例である。即ち、一対のフローティングメタルのうち、インペラ40の重心に近い方のフローティングメタルを他方のフローティングメタルよりも熱膨張係数の大きな材料によって形成する構成であれば、各フローティングメタルを形成する材料の組み合わせは適宜変更することができる。
(第3の実施形態)
以下、図9及び図10を参照して第3の実施形態について説明する。本実施形態は第1の実施形態とインペラ及びフローティングメタルの構成が異なるものであるため、同様の部材については同一の符号を付すのみとしてその説明を割愛し、両者の相違点を中心に説明する。尚、図9は本実施形態のインペラ40の断面図、図10は本実施形態の軸受構造における流体軸受50a,50b近傍を拡大して示す断面図である。
【0066】
図9に示されるように本実施形態のインペラ40にあっては、ロータリーシャフト41におけるコンプレッサホイール43側の端部の回転中心からその軸線Lに沿って延びる中空部41aを形成するようにしている。尚、この中空部41aはロータリーシャフト41にドリル等で所定の深さの穴を形成することにより容易に形成することができる。このように中空部41aを形成することにより、コンプレッサホイール43側が軽くなるため、図9に示されるようにインペラ40の重心Gは、中空部41aが形成されていない場合のインペラの重心Gxの位置よりも更にタービンホイール42側に移動するようになる。
【0067】
また、図10に示されるように本実施形態の軸受構造にあっては、一般の軸受構造と同様にタービンホイール42側の流体軸受50a及びコンプレッサホイール43側の流体軸受50bの双方において同一のフローティングメタル51を使用している。そのため、ロータリーシャフト41が歳差運動する際の支点Pは図10に示されるように各フローティングメタル51の中間に位置するようになる。ここで、本実施形態では、インペラ40に中空部41aを形成することにより、インペラ40の重心Gの位置を一般のインペラの重心Gxの位置よりも更にタービンホイール42側に移動させているため、図10に示されるようにロータリーシャフト41の歳差運動の支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dが一般の軸受構造におけるこれらの距離よりも更に大きくなる。
【0068】
以上説明した第3の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)インペラ40の重心Gを移動させることによって歳差運動の支点Pとインペラ40の重心Gとの距離Dをより大きくするようにしているため、ロータリーシャフト41が歳差運動によって振れ回る際の慣性モーメントを大きくすることができ、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制することができるようになる。
【0069】
(2)ターボチャージャのインペラ40を軽量にするほど過給圧を上昇させる際のレスポンスを向上させることができる。上記第3の実施形態では、ロータリーシャフト41の軸方向におけるタービンホイール42側の端部の回転中心からロータリーシャフト41の軸線Lに沿って延びる中空部41aを形成することにより、インペラ40の重心Gを移動させるようにしている。こうした構成によってインペラ40の重心Gを移動させることにより、ホワール振動に起因する騒音の発生を抑制するとともに、インペラ40全体を軽量化することができ、過給圧上昇時のレスポンスを向上させることができる。またインペラ40の回転中心であるロータリーシャフト41の軸線Lに沿って延びる中空部41aを形成することにより、インペラ40の回転バランスを崩すことなくその重心を移動させることができる。
【0070】
尚、上記第3の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・ロータリーシャフト41のコンプレッサホイール43側の端部から軸線Lに沿って延びる中空部41aを形成する構成を示したが、吸入ポート31を介してコンプレッサハウジング30に導入された空気がこの中空部41aに入り込むと、吸入空気の流れに乱れが生じることも考えられる。そこで、この中空部41aの開口部に栓をすることにより、こうした吸入空気の乱れを抑制することもできる。
【0071】
・上記第3の実施形態にあっては、インペラ40に中空部41aを形成することによりコンプレッサホイール43側を軽くする構成を示したが、その他、タービンホイール42側を重くする構成等、インペラ40の重心Gを移動させる具体的な方法は適宜変更することができる。
【0072】
尚、上記第1〜3の各実施形態の構成を組み合わせて適用することもできる。例えば、フローティングメタルの内周面にテーパ面を形成し、歳差運動の支点Pを移動させる構成と、インペラの一方を軽量化することにより、インペラ40の重心Gを移動させる構成とを併せて採用し、支点Pと重心Gとの距離Dを更に大きくする構成を採用することもできる。
【0073】
また、上記第1〜3の各実施形態では、インペラ40の重心Gがタービンホイール42側に偏在している構成を例示したが、この発明は、このようにタービンホイール42側に重心Gが偏在しているインペラ40を備えたターボチャージャの軸受構造に限定されるものではない。インペラの重心Gの位置に応じて、テーパ面を傾斜させる方向やその傾斜角度、熱膨張係数の異なるフローティングメタルの配設態様を変更することにより、ロータリーシャフトの歳差運動の支点Pとインペラの重心Gとの距離Dをより大きくすることができる。また、フローティングメタル又はセンターハウジングの支持孔の内径やロータリーシャフトの形状等によって推定されるフローティングメタルの歳差運動における支点Pの位置に応じて、インペラの重心を移動させる方向を適宜変更して採用することにより、ロータリーシャフトの歳差運動の支点Pとインペラの重心Gとの距離Dをより大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかるターボチャージャの概略構成を示す断面図。
【図2】同実施形態にかかるターボチャージャの部分Xを拡大して示す断面図。
【図3】(a)は同実施形態の軸受構造におけるロータリーシャフトの歳差運動の態様を示す模式図、(b)は一般の軸受構造におけるロータリーシャフトの歳差運動の態様を示す模式図。
【図4】同実施形態の変更例にかかる軸受構造におけるロータリーシャフトの歳差運動の態様を示す模式図。
【図5】同実施形態の変更例にかかる軸受構造におけるロータリーシャフトの歳差運動の態様を示す模式図。
【図6】(a)は同実施形態の変更例にかかる軸受構造におけるロータリーシャフトの歳差運動の態様を示す模式図、(b)は一般の軸受構造におけるロータリーシャフトの歳差運動の態様を示す模式図。
【図7】この発明の第2の実施形態にかかるターボチャージャの軸受構造を拡大して示す断面図。
【図8】同実施形態の軸受構造におけるロータリーシャフトの歳差運動の態様を示す模式図。
【図9】この発明の第3の実施形態にかかるターボチャージャのインペラの断面図。
【図10】同実施形態にかかる軸受構造を拡大して示す断面図。
【図11】一般のターボチャージャの軸受構造を拡大して示す断面図。
【図12】(a),(b)、(c)は一般のターボチャージャにおけるロータリーシャフトの歳差運動の態様を示す模式図。
【符号の説明】
【0075】
10…センターハウジング、11…供給通路、11a,11b…吐出通路、12a,12b…支持部、13a,13b…支持孔、20…タービンハウジング、21…スクロール通路、22…排出ポート、23…導入通路、30…コンプレッサハウジング、31…吸入ポート、32…コンプレッサ通路、33…送出通路、40…インペラ、41…ロータリーシャフト、41a…中空部、42…タービンホイール、42a…ブレード、43…コンプレッサホイール、43a…ブレード、50a,50b…流体軸受、51a,51b…フローティングメタル、52a,52b…内周面、53…スナップリング、54…スラストベアリング、55…貫通孔、113…支持孔、151…フローティングメタル、152…内周面、251a,251b…フローティングメタル、252a,252b…内周面、351a,351b…フローティングメタル、352a,352b…内周面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンホイールとコンプレッサホイールとをロータリーシャフトによって連結したインペラを回動可能に支持するターボチャージャの軸受構造であって、前記ロータリーシャフトが挿通された支持孔内に吐出される潤滑油によって同支持孔と前記ロータリーシャフトとの間に潤滑油による流体層を形成し、同流体層を介して前記ロータリーシャフトを回動可能に支持するターボチャージャの軸受構造において、
前記流体層に生じる旋回流の影響によって発生する前記インペラの歳差運動の支点と、前記インペラの重心との距離を大きくすることにより前記歳差運動における前記インペラの慣性モーメントを増大させる慣性モーメント増大手段を備える
ことを特徴とするターボチャージャの軸受構造。
【請求項2】
請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造において、
前記慣性モーメント増大手段として前記支持孔の内周面には前記歳差運動の支点が前記インペラの重心から離間するように前記歳差運動における前記ロータリーシャフトの傾きを案内するためのテーパ面が形成される
ことを特徴とするターボチャージャの軸受構造。
【請求項3】
請求項2に記載のターボチャージャの軸受構造において、
前記テーパ面は前記各ホイールのうち前記インペラの重心に近い方のホイールに近づくほど前記支持孔の内径が次第に大きくなる態様にて形成される
ことを特徴とするターボチャージャの軸受構造。
【請求項4】
円筒状のフローティングメタルに挿通したロータリーシャフトを同フローティングメタルとともに前記支持孔に内挿するとともに、同支持孔と前記フローティングメタルの外周面との間、及び前記フローティングメタルの内周面と前記ロータリーシャフトとの間に前記潤滑油による流体層をそれぞれ形成し、それら流体層を介して前記ロータリーシャフトを回動可能に支持するターボチャージャの軸受構造であって、前記慣性モーメント増大手段として前記フローティングメタルの内周面には前記歳差運動の支点が前記インペラの重心から離間するように前記歳差運動における前記ロータリーシャフトの傾きを案内するテーパ面が形成される
請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造。
【請求項5】
請求項4に記載のターボチャージャの軸受構造において、
前記テーパ面は前記各ホイールのうち前記インペラの重心に近い方のホイールに近づくほど前記フローティングメタルの内径が次第に大きくなる態様にて形成される
ことを特徴とするターボチャージャの軸受構造。
【請求項6】
複数のフローティングメタルによって前記ロータリーシャフトを支持するものであって、各フローティングメタルの内周面には、その傾斜角度が等しく設定されるとともに同一の円錐面上に位置するように前記テーパ面がそれぞれ形成される
請求項5に記載のターボチャージャの軸受構造。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか一項に記載のターボチャージャの軸受構造において、
前記テーパ面は、同テーパ面によって案内される前記ロータリーシャフトの傾斜角度が同ロータリーシャフトの傾き得る最大傾斜角度よりも小さくなるようにその傾斜角度が設定されてなる
ことを特徴とするターボチャージャの軸受構造。
【請求項8】
一対のフローティングメタルに挿通した前記ロータリーシャフトを同フローティングメタルとともに前記支持孔に内挿するとともに、同支持孔と各フローティングメタルの外周面との間、及び各フローティングメタルの内周面と前記ロータリーシャフトとの間に潤滑油による流体層をそれぞれ形成し、それら流体層を介して同ロータリーシャフトを回動可能に支持するものであり、前記一対のフローティングメタルのうち、前記インペラの重心に近い方のフローティングメタルが他方のフローティングメタルよりも熱膨張係数の大きな材料によって形成されてなる
請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造。
【請求項9】
請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造において、
前記慣性モーメント増大手段は、前記歳差運動の支点と前記インペラの重心との距離が大きくなるように前記インペラの重心を移動させるものである
ことを特徴とするターボチャージャの軸受構造。
【請求項10】
請求項9に記載のターボチャージャの軸受構造において、
前記ロータリーシャフトの軸方向における一方の端部の回転中心から同ロータリーシャフトの回転軸に沿って延びる中空部を形成することにより前記インペラの重心を移動させる
ことを特徴とするターボチャージャの軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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