説明

ターボチャージャケーシングの製造方法

【課題】小さな加工誤差を達成して出力データのばらつきを減少させつつ効率を向上させることが可能なターボチャージャケーシングの製造方法を提供すること。
【解決手段】タービンホイールを支持しつつ当該ターボチャージャケーシング1におけるプレートシェル8に結合された支持フランジ2を含んで構成されたターボチャージャケーシング1の製造方法であって、プレートシェル8を、タービンホイールとの間に間隔を形成する当該プレートシェル8における面部12において、プレートシェル8の支持フランジ2との結合後に計測するステップと、タービンホイールの支持フランジ2及びプレートシェル8に対する相対位置を調整するために、プレートシェル8の計測値に応じて支持フランジ2を機械加工するステップを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の特徴を備えたターボチャージャケーシングの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原動機付き車両(以下単に「車両」という。)用の内燃機関には、燃料消費率(燃費)を低減することができることから、ターボチャージャが搭載される。このターボチャージャは、その使用中に大きな機械的な負荷(特に熱的な負荷)にさらされる。また、車両の重量が大きくなることにより燃料消費率が悪化しないよう、このターボチャージャはできるだけ軽量であることが好ましい。
【0003】
上記のような高い負荷にさらされつつ軽量化されたものにおいて寿命の延長を図るために、特許文献1には、プレートシェル型に構成されるとともに、排気をガイドする部材が基本的なあるいはシールされた外部構造から分離された過給機が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第10022052号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際には、上記のようなプレートシェル型の構造に過給機の構造を変更することにより、加工技術的には大きな問題が生じることになる。また、従来技術における鋳鉄製のケーシングも、機械的に加工され、過給機ケーシングとタービンホイールの間の間隔についてわずかな誤差が生じることがある。そして、この過給機ケーシングとタービンホイールの間の間隔が過給機の効率に大きな影響を及ぼすものとなっている。
【0006】
一方、プレートシェル型のケーシングは例えば深絞り加工や打抜加工などの変形工程における許容誤差のみを満たし、この得られた誤差は、機械的な切削加工による場合よりも大きな規模となってしまう。さらに、熱による接合過程において誤差の拡大が生じてしまう。また、加工技術的に引き起こされる誤差の変動により、プレートシェル型の過給機ケーシングは、鋳鉄製のものに比して出力データに関して大きなばらつきが見られる。
【0007】
本発明は上記問題にかんがみてなされたもので、その目的とするところは、小さな加工誤差を達成して出力データのばらつきを減少させつつ効率を向上させることが可能なターボチャージャケーシングの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、請求項1記載の特徴による方法によって達成される。なお、各従属請求項には本発明の他の実施形態が記載されている。
【0009】
本発明による方法は、タービンホイールを支持しつつ当該ターボチャージャケーシングにおける少なくとも1つのプレートシェルに結合された支持フランジを含んで構成されたターボチャージャケーシングに関している。ここで、このプレートシェルは、タービンホイールと共に間隔を形成している。そして、本発明においては、前記プレートシェルを、前記タービンホイールとの間に間隔を形成する当該プレートシェルにおける面部において、前記プレートシェルの前記支持フランジとの結合後に計測するようになっている。このとき、タービンホイールは変更不能な形状を有しているとともに、プレートシェルの相対位置は、変形技術的あるいは接続技術的に生じる誤差に基づき、支持フランジに対して様々なものとなる。
【0010】
しかし、このような間隔のばらつきがタービンホイールとの間に間隔を形成するプレートシェルにおける上記面部についてのものでない限り、このようなばらつきは問題とはならない。そして、支持フランジは、そのプレートシェルにおける計測値に応じて機械加工(切削加工)されるとともに、タービンホイールの支持フランジ及びプレートシェルとの間の相対位置が調整されるよう合わせられる。
【0011】
すなわち、本発明は、プレートシェルの変形時における加工精度を向上させるものではなく、プレートシェルの変形及び接合後、すなわちプレートシェルの支持フランジに対する相対位置に影響するすべての加工工程が終了した後に計測を行い、タービンホイールの位置をプレートシェルの位置に対して適合させるものである。これまでは、支持フランジに対してあらかじめ固定された位置を占めるタービンホイールを最終的に設けるために、フランジをあらかじめ形成された部材として機械加工し、その後、ターボチャージャケーシングの形成に必要なプレートシェルをこのフランジに結合させていた。
【0012】
本発明に基づく方法によれば、プレートシェル型のターボチャージャケーシングの内部構造とタービンホイールの間に所定の間隔を形成することが可能である。これにより、高い加工精度における軽量な構造においても、ターボチャージャシステムについて最高の効率を得ることが可能である。さらに、大量生産されるターボチャージャ全体において均等な出力の増大を図ることができ、このようなターボチャージャケーシングを備えたエンジンあるいは車両はそれ相応の大きな出力を得ることが可能である。
【0013】
また、本発明の1つの利点として、内部構造におけるプレートシェルとタービンホイールの間の最小間隔を得ることでこれら部材の接触(いわゆる「こすれ(Anstreifen)」)を防止することが可能である点が挙げられる。そして、このような接触を防止することで、構造全体の寿命の延長を図ることができる。なお、本発明による方法は、ターボチャージャケーシング及びターボチャージャマニホルドケーシングに応用可能である。
【0014】
ところで、加工精度は、最終的な精度チェックにより高められる。すなわち、支持フランジの加工後に、プレートシェルにおける危険領域を好ましくは同様の計測装置によって支持フランジについて計測することにより精度チェックする。それにより、梱包又は出荷前に品質を100%チェックすることが可能である。
【0015】
本発明の他の実施形態においては、支持フランジの加工前に、タービンホイールの位置を、支持フランジに後に接続される該タービンホイールの軸受ケーシングに対して計測するようになっている。タービンホイールのその軸受ケーシングに対する位置は、誤差を含んでいる。この誤差を補償するために、最終組立時には支持フランジに当接する軸受ケーシングにおける面に対するタービンホイールの位置が計測される。この測定値は、支持フランジの加工の計算に用いられる。そのため、全体構造における誤差全体を最小化することが可能である。すなわち、タービンホイールと支持ケーシングの間の誤差が考慮される。
【0016】
しかして、ターボチャージャケーシングにおいて存在するような後部が切断された空間における機械加工においては、切りくずの発生が問題となる。このような切りくずは、ターボチャージャケーシングから取り除かなければならないが、そもそも、切りくずをターボチャージャケーシングの内部へ入らないようにするのがより望ましい。そのため、本発明は、支持フランジの機械加工を切りくずがターボチャージャケーシングの内部へ至らないよう行うことを特徴としている。これは、加工中に支持フランジを適当な位置へもたらすことによってなされる。また、ターボチャージャケーシングの内部構造を支持フランジで覆うよう、適当な機械加工工具(切削工具)及び特に適当な切りくず除去手段を用いたり、調整され、又は特に強い冷却/潤滑剤の噴射その他の適当な手段を用いることが考えられる。
【0017】
また、ターボチャージャケーシングにおける支持フランジと隣接する領域を、機械加工時に閉鎖することが望ましい。これにより、再利用可能な特殊な取付を達成することが可能である。さらに、例えばワックス状又はフォーム状の可塑性の材料をターボチャージャケーシングの内部構造へ入れることが考えられる。このようなワックス状又はフォーム状の材料は、機械加工後、熱的プロセス及び/又は化学的プロセスによってターボチャージャケーシングの内部から離間(特に溶出)させられるようになっている。
【0018】
これにより、この可塑性の材料に付着した切りくずの多くは、洗い流され、内部構造から排出されることになる。
【0019】
ところで、プレートシェルの計測は、接触式の計測手段によって行ってもよいし、表面のスキャニングによる非接触の計測としてもよい。
【0020】
計測すべき前記プレートシェルは、二重壁状のターボチャージャケーシングにおいて複数の当該プレートシェルで形成された該ターボチャージャケーシングの内部構造の一構成部材とされるとともに、内部構造における複数のプレートシェルは、互いに溶接されるようになっている。タービンホイールとの間に間隔を形成する各プレートシェルは、支持フランジから離間して配置されているとともに、ある意味ではこの支持フランジに対向している。
【0021】
また、計測すべきプレートシェルの径方向外周には、支持フランジに固定された第2のプレートシェルが溶接されている。そのため、計測すべきプレートシェルは、支持フランジに間接的にのみ結合されている。このような構造は、互いに重なり合った両接合箇所により、無視できる程度の加工誤差を達成できることを示している。支持フランジ、該支持フランジに直接設けられたプレートシェル及び計測すべきプレートシェルの加工誤差は積み重なる(合計される)ものとなっているが、本発明による方法によりこの加工誤差を補償することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、小さな加工誤差を達成して出力データのばらつきを減少させつつ効率を向上させることが可能なターボチャージャケーシングの製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】プレートシェル型のターボチャージャケーシングの断面を計測すべきプレートシェルと共に示す図である。
【図2】計測後にターボチャージャケーシングの支持フランジを機械加工するステップを示す図である。
【図3】タービンホイールを取り付けた、ターボチャージャケーシングの組立状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0025】
図1にはプレートシェル構造のターボチャージャケーシング1が示されており、このターボチャージャケーシング1は、外部構造3と内部構造4を結合する基本的な支持フランジ2を備えている。外部構造3及び内部構造4は外周部で互いに溶接されたそれぞれ2つのプレートシェル5,6,7,8で形成されており、それぞれの支持フランジ2側のプレートシェル5,7は、その外周側で支持フランジ2に固定されている。これらプレートシェル5,7には、その内部側で、それぞれ外部構造3のプレートシェル6と内部構造4のプレートシェル8に結合されている。
【0026】
また、内部構造4は外部構造3から離間して配置されており、内部構造4と外部構造3の間には空隙9が形成されている。この空隙9は、熱にさらされる内部構造4をシールドする役目を果たすものとなっている。また、外部構造3がターボチャージャケーシング1をシールする一方、内部構造4は所望の流体通路を形成している。
【0027】
しかして、内部構造4はその支持フランジ2と反対側でスライド部10を介して外部構造3のプレートシェル6に結合されており、スライド部10の近傍にはターボチャージャケーシング1のアウトレットフランジ11が位置している。
【0028】
ところで、図1に示された支持フランジ2はまだ加工されていない状態であり、斜線で示す部分の内部に点線で示すものが支持フランジ2の最終的な加工後の形状に相当する。ここで、この最終的な加工後の正確な形状は、内部構造4における支持フランジ2とは反対側のプレートシェル8を矢印Pで示す面部12の近傍で計測することにより決定される。なお、各矢印Pは、ここでは単に例示するためのみに示された計測点を示している。このような計測は概略的に示す接触式の計測手段13によってなされ、このとき、この計測手段13は、支持フランジ2側からターボチャージャケーシング1内へ入れられるようになっている。
【0029】
そして、計測点の分析及び面部12の支持フランジ2に対する相対位置を決定した後、支持フランジ2の、図2に概略的に示すような機械加工(切削加工)がなされる。この支持フランジ2は、図1において点線で示した形状に加工され、正確な外形形状はプレートシェル8の面部12の位置によって決定されるようになっている。
【0030】
図3には、軸受ケーシング15を介して支持フランジ2に支持されたタービンホイール14が取り付けられた状態が示されている。タービンホイール14あるいは該タービンホイール14の軸受ケーシング15が支持フランジ2内に取り付けられる前に、機械加工によって不意の加工誤差が生じないよう、あるいは軸受ケーシング15をタービンホイール14と共に支持フランジ2あるいは内部構造4における計測されたプレートシェル8に対して正確に位置するよう、チェックのために、機械加工された支持フランジ2を再度計測することが考えられる。
【0031】
本発明の方法によれば、計測することにより極端に誤差の大きな形状を有するターボチャージャケーシング1を取り除くことが可能であるため、いかなる場合においても、ターボチャージャケーシング1が所定の誤差範囲外となることがない。
【0032】
なお、本発明の方法を全体的に自動化されたデータ処理装置によって行うのが好ましい。ここで、このデータ処理装置は、入力パラメータとして計測された計測値を分析し、これに基づき、タービンホイール14と面部12の間に間隔16が正確に生じるよう支持フランジ2の形状を算出するようになっている。
【符号の説明】
【0033】
1 ターボチャージャケーシング
2 支持フランジ
3 外部構造
4 内部構造
5,6,7,8 プレートシェル
9 空隙
10 スライド部
11 アウトレットフランジ
12 面部
13 計測手段
14 タービンホイール
15 軸受ケーシング
16 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンホイール(14)を支持しつつ当該ターボチャージャケーシング(1)における少なくとも1つのプレートシェル(8)に結合された支持フランジ(2)を含んで構成されたターボチャージャケーシング(1)の製造方法であって、
a)前記プレートシェル(8)を、前記タービンホイール(14)との間に間隔(16)を形成する当該プレートシェル(8)における面部(12)において、前記プレートシェル(8)の前記支持フランジ(2)との結合後に計測するステップと、
b)前記タービンホイール(14)の前記支持フランジ(2)及び前記プレートシェル(8)に対する相対位置を調整するために、前記プレートシェル(8)の計測値に応じて前記支持フランジ(2)を機械加工するステップ
を行うことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記タービンホイール(14)の位置を、該タービンホイール(14)の軸受ケーシング(15)における前記支持フランジ(2)に隣接する面に対して計測し、この計測値を前記支持フランジ(2)の機械加工に反映させることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記支持フランジ(2)の機械加工を、切りくずが前記ターボチャージャケーシング(1)の内部へ至らないよう行うことを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記ターボチャージャケーシング(1)における前記支持フランジ(2)と隣接する領域を、機械加工時に閉鎖することを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記領域を、ワックス状又はフォーム状の材料で閉鎖することを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記ワックス状又はフォーム状の材料を、機械加工後、熱的プロセス及び/又は化学的プロセスによって前記ターボチャージャケーシング(1)の内部から離間させることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記プレートシェル(8)の計測を接触式の計測手段(13)により行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記プレートシェル(8)の計測を非接触式に行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
計測すべき前記プレートシェル(8)を、二重壁状の前記ターボチャージャケーシング(1)において複数の当該プレートシェル(8)で形成された該ターボチャージャケーシング(1)の内部構造(4)の一構成部材とするとともに、前記内部構造(4)における複数の前記プレートシェル(7,8)を、互いに溶接することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
計測すべき前記プレートシェル(8)を、他のプレートシェル(7)を介して前記支持フランジ(2)に間接的に結合することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−236906(P2011−236906A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102971(P2011−102971)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(504258871)ベンテラー アウトモビールテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (60)
【氏名又は名称原語表記】Benteler Automobiltechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Elsener Strasse 95, D−33102 Paderborn, Germany
【Fターム(参考)】