説明

ターボ型真空ポンプ

【課題】気体を高真空から大気圧まで圧縮できるターボ型真空ポンプで、回転体を高速且つ高精度に回転保持でき、安価にて製造できるターボ型真空ポンプを提供する。
【解決手段】ポンプの略全長に延びる回転軸1と、ケーシング2内に回転翼と固定翼とを交互に配置することによって形成された翼排気部10と、軸受モータ部50を備えたターボ型真空ポンプにおいて、回転軸1をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受40を用い、気体軸受の固定側部位41の両面にスパイラル溝45を形成し、回転軸1に固定された上側回転側部位42と下側回転側部位43とにより、スパイラル溝45の形成された固定側部位41を挟み込むようにし、下側回転側部位43の前記スパイラル溝45との対向面と反対の面、および下側回転側部位43と軸方向に対向する固定翼63の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素43a,63aを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ型真空ポンプに係り、特に大気圧から高真空まで排気可能でオイルフリーのターボ型真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体製造装置等において、チャンバ内の気体を排気して清浄な高真空(又は超高真空)を得るのにターボ型真空ポンプが用いられている。このターボ型真空ポンプには、吸気口と排気口とを有するポンプハウジング内にターボ分子ポンプ段、ネジ溝ポンプ段および渦流ポンプ段を順次配設し、これらポンプ段の回転翼を固定した回転軸を静圧気体軸受で支持するタイプの真空ポンプや、吸気口と排気口とを有するケーシング内に多段の排気ポンプ段を配設し、ポンプ段の回転翼を固定した回転軸を動圧型のラジアル気体軸受と、動圧型スラスト気体軸受と永久磁石とを併用したスラスト軸受とにより支持するタイプの真空ポンプ等がある。このように、転がり軸受を用いることなく、気体軸受を用いて回転軸を支持することにより、ガス流路のみならず、軸受部等も含めたポンプ全体に油を用いる必要がないオイルフリーのターボ型真空ポンプを構成するようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−285987号公報
【特許文献2】特開平6−193586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気体を超高真空から大気圧まで圧縮させる真空ポンプでは、大気圧付近の翼のクリアランスは、気体の逆流量を低減させ圧縮性能を高めるために、微小なクリアランスにする必要がある。また、気体を超高真空から大気圧まで圧縮させると、その圧力差によるスラスト荷重が作用する。以上のことより、ターボ型真空ポンプにおいて、ポンプ段の回転翼を有した回転体を支持する軸受としては、機械式のボールベアリングが採用されているが、機械的な接触があるため、回転体を高速で回転させることができない。ボールベアリング以外では、回転体を数ミクロン(μm)から数十ミクロン(μm)の精度で回転保持することができる気体軸受がある。気体軸受によりポンプ段の回転翼を有した回転体を支持するようにしたターボ型真空ポンプは、例えば、特開2002−285987号公報(特許文献1)や特開平6−193586号公報(特許文献2)に記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載された気体軸受を用いて、超高真空から大気圧までの圧力差により生ずるスラスト荷重と同等の荷重を発生させるには、気体軸受のクリアランスをより狭くしなければならず、部品精度の限界、もしくは加工及び寸法計測能力の限界に達してしまう。すなわち、このように、極めて小さいクリアランスの気体軸受を製作することは、加工や計測の面から困難性があるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、気体を高真空から大気圧まで圧縮できるターボ型真空ポンプで、回転体を高速且つ高精度に回転保持でき、かつ安価に製造できるターボ型真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明の第1の態様は、ポンプの略全長に亘って延びる回転軸と、ケーシング内に回転翼と固定翼とを交互に配置することによって形成された翼排気部と、前記回転軸に回転駆動力を与えるモータと前記回転軸を回転自在に支承する軸受とを有した軸受モータ部を備えたターボ型真空ポンプにおいて、前記回転軸をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受を用い、該気体軸受の固定側部位の両面にスパイラル溝を形成し、前記回転軸に固定された上側回転側部位と下側回転側部位とにより、前記スパイラル溝の形成された固定側部位を挟み込むようにし、前記下側回転側部位の前記スパイラル溝との対向面と反対の面、および前記下側回転側部位と軸方向に対向する固定翼の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素を形成したことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、回転軸と回転軸に固定された回転翼を含む回転体をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受を採用したことにより、回転体を軸方向に数ミクロン(μm)から数十ミクロン(μm)の精度で回転保持することが可能となる。
ポンプ排気部の排気作用による排気側(排気側の圧力P2)と吸気側(吸気側の圧力P1)の差圧(P2−P1)によるスラスト力をFp、回転体自重をFm、気体軸受による上方への反発力をFδdu(δduは気体軸受の上側のクリアランス)、気体軸受による下方への反発力をFδdl(δdlは気体軸受の下側のクリアランス)とすると、力の釣り合いは、次式で表される。
Fp+Fδdu=Fm+Fδdl
差圧によるスラスト力Fpが大きいと(回転体自重による力Fmよりも相当大きい)、気体軸受の反発力FδdlはFδduよりも大きく、且つその差も大きくなければならない。そうなるためには、気体軸受40のクリアランスδdlは、非常に小さくなければならず、気体軸受40の微小クリアランス部での接触の可能性が高くなる。
それに対し、ポンプ内部を真空にできれば、差圧P2−P1は小さくなり、発生するスラスト力Fpも小さくなる。その結果、気体軸受のクリアランスδdlは大きくなる。
【0009】
本発明によれば、下側回転側部位のスパイラル溝との対向面と反対の面、および下側回転側部位と軸方向に対向する固定翼の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素を形成しているため、この遠心翼要素により気体を排気側から吸気側に向けて圧縮排気することができる。そのため、ポンプ内部を真空にでき、その結果、差圧P2−P1により発生するスラスト力Fpを低減することができ、気体軸受のクリアランスδdlを所望の大きさに保つことができる。したがって、気体軸受のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、ポンプの略全長に亘って延びる回転軸と、ケーシング内に回転翼と固定翼とを交互に配置することによって形成された翼排気部と、前記回転軸に回転駆動力を与えるモータと前記回転軸を回転自在に支承する軸受とを有した軸受モータ部を備えたターボ型真空ポンプにおいて、前記回転軸をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受を用い、前記回転軸に固定された気体軸受の回転側部位の両面にスパイラル溝を形成し、固定側の上下に分割された上側固定側部位と下側固定側部位とにより、前記スパイラル溝の形成された回転側部位を挟み込むようにし、前記下側固定側部位と軸方向に対向する回転翼の面と反対の面、および該回転翼と軸方向に対向する固定翼の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素を形成したことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、回転軸と回転軸に固定された回転翼を含む回転体をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受を採用したことにより、回転体を軸方向に数ミクロン(μm)から数十ミクロン(μm)の精度で回転保持することが可能となる。
そして、本発明によれば、下側固定側部位と軸方向に対向する回転翼の面と反対の面、および該回転翼と軸方向に対向する固定翼の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素を形成しているため、この遠心翼要素により気体を排気側から吸気側に向けて圧縮排気することができる。そのため、ポンプ内部を真空にでき、その結果、差圧P2−P1により発生するスラスト力Fpを低減することができ、気体軸受のクリアランスδdlを所望の大きさに保つことができる。したがって、気体軸受のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記遠心翼要素が形成された部位より排気側にある回転翼または固定翼に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素を少なくとも一段形成したことを特徴とする。
本発明によれば、気体を半径方向に圧縮排気しポンプ内部を真空化する遠心翼要素を複数段設けることになり、ポンプ内部の圧力を更に下げることができる。その結果、差圧P2−P1により発生するスラスト力Fpを更に低減することができ、気体軸受のクリアランスδdlを所望の大きさに保つことができる。したがって、気体軸受のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
【0013】
本発明の好ましい態様は、前記翼排気部と該翼排気部の下流側のポンプ内部とを接続するバイパスラインを設けたことを特徴とする。
本発明によれば、翼排気部と該翼排気部の下流側のポンプ内部とを接続することにより、翼排気部の下流側のポンプ内部を真空にすることができる。そのため、排気側(排気側の圧力P2)と吸気側(吸気側の圧力P1)の差圧P2−P1により発生するスラスト力Fpを低減することができ、気体軸受のクリアランスδdlを所望の大きさに保つことができる。したがって、気体軸受のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
【0014】
本発明の好ましい態様は、前記バイパスラインに開度調整機構を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、バイパスラインに設けた開度調整機構により、ポンプ内部の真空圧力P2を制御できるので、スラスト力Fpを制御でき、回転体の軸方向位置を制御することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下に列挙する効果を奏する。
(1)回転軸と回転軸に固定された回転翼を含む回転体をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受を採用したことにより、回転体を軸方向に数ミクロン(μm)から数十ミクロン(μm)の精度で回転保持することが可能となる。そして、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素を形成しているため、遠心翼要素により気体を排気側から吸気側に向けて圧縮排気することができる。したがって、ポンプ内部を真空にでき、その結果、排気側と吸気側の差圧により発生するスラスト力を低減することができ、気体軸受のクリアランスを所望の大きさに保つことができ、気体軸受のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
(2)翼排気部と該翼排気部の下流側のポンプ内部とを接続することにより、翼排気部の下流側のポンプ内部を真空にすることができるため、排気側と吸気側の差圧は小さくなり、発生するスラスト力も小さくなる。したがって、気体軸受のクリアランスを所望の大きさに保つことができ、気体軸受のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
(3)バイパスラインに設けた開度調整機構により、ポンプ内部の真空圧力を制御できるので、スラスト力を制御でき、回転体の軸方向位置を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るターボ型真空ポンプの実施形態について図1乃至図12を参照して説明する。なお、図1乃至図12において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明に係るターボ型真空ポンプの一実施態様を示す縦断面図である。図1に示すように、ターボ型真空ポンプは、ポンプの略全長に亘って延びる回転軸1と、ケーシング2内に回転翼と固定翼とを交互に配置することによって形成された翼排気部10と、回転軸1に回転駆動力を与えるモータと回転軸を回転自在に支承する軸受とを有した軸受モータ部50を備えている。前記ケーシング2は、翼排気部10を収容する上ケーシング3と、軸受モータ部50を収容する下ケーシング4とから構成されており、上ケーシング3の上端部に吸気口5が形成され、下ケーシング4の下部に排気口6が形成されている。
【0018】
前記翼排気部10は、上ケーシング3の吸気口側から下方に向かって、タービン翼排気部11、第1遠心翼排気部21、第2遠心翼排気部31を順次配置して構成されている。タービン翼排気部11は、多段の回転翼としてのタービン翼12と、タービン翼12の直後流側に配置された多段の固定翼17とを備えている。多段のタービン翼12は、概略円柱状のタービン翼部13に一体に形成されており、タービン翼部13のボス部14には中空部15が形成されている。中空部15の底部15aには貫通孔15hが形成されており、貫通孔15hにボルト16が挿通されるようになっている。すなわち、ボルト16を貫通孔15hに挿通し、回転軸1の上部のねじ孔1sに螺合することにより、タービン翼部13は回転軸1に固定されている。
【0019】
一方、多段の固定翼17は、上ケーシング3内に積層されたスペーサ18によって挟持されることにより上ケーシング3内に固定されている。これにより、タービン翼排気部11において、回転翼としてのタービン翼12と、固定翼17とが交互に配置される構成になっている。
前記第1遠心翼排気部21は、多段の回転翼としての遠心翼22と、遠心翼22の直後
流側に配置された多段の固定翼23とを備えている。遠心翼22は、多段に積層されるとともに回転軸1の外周に嵌合されている。あるいは、キー等の固定手段によって回転軸1に固定されてもよい。また固定翼23も上ケーシング3内に多段に積層されている。これにより、第1遠心翼排気部21において、回転翼としての遠心翼22と、固定翼23とが交互に配置される構成になっている。各遠心翼22は、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼溝からなる遠心翼要素22aを有している。以下、遠心翼22は、適宜、回転翼22とも云う。
【0020】
前記第2遠心翼排気部31は、多段の回転翼としての遠心翼32と、遠心翼32の直後流側に配置された多段の固定翼33とを備えている。遠心翼32は、多段に積層されるとともに回転軸1の外周に嵌合されている。あるいは、キー等の固定手段によって回転軸1に固定されてもよい。また固定翼33も上ケーシング3内に多段に積層されている。これにより、第2遠心翼排気部31において、回転翼としての遠心翼32と、固定翼33とが交互に配置される構成になっている。各遠心翼32は、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼溝からなる遠心翼要素32aを有している。以下、遠心翼32は、回転翼32とも云う。
前記第2遠心翼排気部31の直後流側には、回転軸1と回転軸1に固定された回転翼12,22,32を含む回転体をスラスト方向に支承する気体軸受40が設けられている。
【0021】
図2は、図1のA部を示す図であり、気体軸受40およびその周辺部の翼要素を示す要部拡大図である。図2に示すように、気体軸受40は、上ケーシング3に固定された固定側部材(固定側部位)41と、固定側部材(固定側部位)41を挟むように上下に配置された上側回転側部材(上側回転側部位)42と下側回転側部材(下側回転側部位)43とから構成されている。上側回転側部材(上側回転側部位)42と下側回転側部材(下側回転側部位)43は、回転軸1に固定されている。固定側部材(固定側部位)41の両面にはスパイラル溝45,45が形成されている。回転側の上下に分割された部材(部位)、すなわち、上側回転側部材(上側回転側部位)42と下側回転側部材(下側回転側部位)43とにより、スパイラル溝45,45の形成された固定側部材(固定側部位)41を挟み込む構造としている。そして、上側回転側部材(上側回転側部位)42には、固定側部材(固定側部位)41のスパイラル溝45との対向面と反対の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素42aを形成している。遠心翼要素42aは、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼溝からなっている。
【0022】
また、下側回転側部材(下側回転側部位)43には、固定側部材(固定側部位)41のスパイラル溝45との対向面と反対の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素43aを形成している。遠心翼要素43aは、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼溝からなっている。そして、下側回転側部材(下側回転側部位)43と軸方向に対向する固定翼63の面にも、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素63aを形成している。なお、前記遠心翼要素43a,63aは、下側回転側部材(下側回転側部位)43と、下側回転側部材(下側回転側部位)43と軸方向に対向する固定翼63の少なくとも一方に設ければよい。
【0023】
図3は、図2のIII矢視図である。図3に示すように、固定側部材(固定側部位)41の表面には、略全面に亘って多数のスパイラル溝45が形成されている(図3においては、一部のスパイラル溝のみ示す)。
【0024】
図2に示すように、回転軸1と回転軸1に固定された回転翼を含む回転体をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受40を採用したことにより、回転体を軸方向に数ミクロン(μm)から数十ミクロン(μm)の精度で回転保持することが可能となる。この気体軸受40を構成している回転体側の部位、すなわち、上側回転側部材(上側回転側部位)42に、気体を半径方向に圧縮する遠心翼要素42aを一体に形成する。気体軸受40と遠心翼の微小クリアランスの方向は同じスラスト方向であるので、遠心翼要素42aの翼クリアランスも、気体軸受40のクリアランスとほぼ同等に(または気体軸受のクリアランスより若干大きく)設定可能である。すなわち、上側回転側部材(上側回転側部位)42に、気体を半径方向に圧縮する遠心翼要素42aを形成しているので、上側回転側部材(上側回転側部位)42は、遠心翼を構成するとともに軸方向の位置決めをする気体軸受40の一部を構成することになる。このように、軸方向の位置決めをする上側回転側部材(上側回転側部位)42に、気体を半径方向に圧縮する遠心翼要素42aを形成しているので、遠心翼要素42aの翼クリアランスを精度よく制御することができる。
【0025】
また、回転軸1と回転軸1に固定された回転翼を含む回転体(ロータ)は、その圧縮作用により、差圧によるスラスト力を受けるが、下側回転側部材(下側回転側部位)43の前記スパイラル溝45との対向面と反対の面、および下側回転側部材(下側回転側部位)43と軸方向に対向する固定翼63の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素43a(63a)を形成していることにより、ポンプ内部を真空にでき、その結果、差圧によるスラスト力を低減することができ、回転体を安定に回転させることができる。以下、この点について説明する。
図1に、ポンプを縦置きした場合の力の釣り合いを示す。
図1に示すように、ポンプ排気部の排気作用による排気側(排気側の圧力P2)と吸気側(吸気側の圧力P1)の差圧(P2−P1)によるスラスト力をFp、回転体自重をFm、気体軸受40による上方への反発力をFδdu(δduは気体軸受の上側のクラアランス)、気体軸受40による下方への反発力をFδdl(δdlは気体軸受の下側のクラアランス)とすると、力の釣り合いは、次式で表される。
Fp+Fδdu=Fm+Fδdl
差圧によるスラスト力Fpが大きいと(ロータ自重による力Fmよりも相当大きい)、気体軸受の反発力FδdlはFδduよりも大きく、且つその差も大きくなければならない。そうなるためには、気体軸受40のクリアランスδdlは、非常に小さくなければならず、気体軸受40の微小クリアランス部での接触の可能性が高くなる。
【0026】
本実施形態によれば、図2に示すように、下側回転側部材(下側回転側部位)43の前記スパイラル溝45との対向面と反対の面、および下側回転側部材(下側回転側部位)43と軸方向に対向する固定翼63の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素43a(63a)を形成しているため、遠心翼要素43a(63a)により気体を排気側から吸気側に向けて圧縮排気することができる(矢印Bで示す)。そのため、ポンプ内部を真空にでき、その結果、差圧P2−P1により発生するスラスト力Fpを低減することができ、気体軸受40のクリアランスδdlを所望の大きさに保つことができる。したがって、気体軸受40のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
【0027】
次に、軸受モータ部50について説明する。図1に示すように、軸受モータ部50は、回転軸1に回転駆動力を与えるモータ51と、回転軸1をラジアル方向に支承する上ラジアル磁気軸受53,下ラジアル磁気軸受54と、翼排気部10の排気作用による排気側と吸気側の差圧により生ずるスラスト力を打ち消す方向に作用するスラスト磁気軸受55を備えている。モータ51は高周波モータから構成されている。上ラジアル磁気軸受53,下ラジアル磁気軸受54,スラスト磁気軸受55は、いずれも能動型磁気軸受である。磁気軸受53,54,55のいずれかに異常が発生したときに、回転翼と固定翼とが接触することを防止するために、回転軸1を半径方向および軸方向に支承する上保護ベアリング81と下保護ベアリング82とが設けられている。
【0028】
スラスト磁気軸受55は、電磁石を有した上スラスト磁気軸受56と、電磁石を有した下スラスト磁気軸受57と、回転軸1の下部に固定されたターゲットディスク58とから構成されている。スラスト磁気軸受55においては、上下スラスト磁気軸受56,57によりターゲットディスク58を挟み込むようにし、上下スラスト磁気軸受56,57の電磁石によりターゲットディスク58を吸引し、翼排気部10の排気作用による排気側と吸気側の差圧により生ずるスラスト力を打ち消すようにしている。上述したように、下側回転側部材(下側回転側部位)43の前記スパイラル溝45との対向面と反対の面、および下側回転側部材(下側回転側部位)43と軸方向に対向する固定翼63の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素43a(63a)を形成しているため、ポンプ内部を真空にでき、その結果、差圧より生ずるスラスト力Fpを低減することができるが、スラスト磁気軸受55の上下スラスト磁気軸受56,57の電磁石によりターゲットディスク58を吸引し、翼排気部10の排気作用による排気側と吸気側の差圧により生ずるスラスト力を完全に打ち消すようにしている。これにより、気体軸受40の上下のクリアランスを等しく(δdu=δdl)できる。なお、遠心翼要素43a(63a)により排気側と吸気側の差圧を小さくできるため、スラスト磁気軸受55の容量を小さくすることができる。
【0029】
図4は、気体軸受40およびその周辺部の翼要素の他の実施形態を示す要部拡大図である。図4に示すように、気体軸受40は、回転軸1に固定された回転側部材(回転側部位)141と、回転側部材(回転側部位)141を挟むように上下に配置された上側固定側部材(上側固定側部位)142と下側固定側部材(下側固定側部位)143とから構成されている。上側固定側部材(上側固定側部位)142と下側固定側部材(下側固定側部位)143は、上ケーシング3に固定されている。回転側部材(回転側部位)141の両面にはスパイラル溝145,145が形成されている。固定側の上下に分割された部材(部位)、すなわち、上側固定側部材(上側固定側部位)142と下側固定側部材(下側固定側部位)143とにより、スパイラル溝145,145の形成された回転側部材(回転側部位)141を挟み込む構造としている。
また、図4に示すように、気体軸受40を構成する上側固定側部材(上側固定側部位)142の上方に、回転翼32および固定翼33が配置されている。そして、回転翼32の翼排気面には、遠心翼要素32aが形成されている。遠心翼要素32aは、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼溝からなっている。
【0030】
図4に示す実施形態においては、気体軸受40を構成する下側固定側部材(下側固定側部位)143の下方に、回転翼62および固定翼63が配置されている。そして、下側固定側部材(下側固定側部位)143と軸方向に対向する回転翼62の面と反対の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素62aを形成している。また、この回転翼62と軸方向に対向する固定翼63の面にも、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素63aを形成している。なお、前記遠心翼要素62a,63aは、下側固定側部材(下側固定側部位)143と軸方向に対向する回転翼62の面と反対の面と、この回転翼62と軸方向に対向する固定翼63の面の少なくとも一方の面に設ければよい。
【0031】
図4に示す実施形態によれば、図2に示す実施形態と同様に、回転体をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受40を採用したことにより、回転体を軸方向に数ミクロン(μm)から数十ミクロン(μm)の精度で回転保持することが可能となる。
本実施形態によれば、図4に示すように、下側固定側部材(下側固定側部位)143と軸方向に対向する回転翼62の面と反対の面、およびこの回転翼62と軸方向に対向する固定翼63の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素62a(63a)を形成しているため、遠心翼要素62a(63a)により気体を排気側から吸気側に向けて圧縮排気することができる(矢印Cで示す)。したがって、ポンプ内部を真空にでき、その結果、排気側(排気側の圧力P2)と吸気側(吸気側の圧力P1)の差圧P2−P1により発生するスラスト力Fpを低減することができ、気体軸受40のクリアランスδdlを所望の大きさに保つことができ、気体軸受40のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
【0032】
図5は、気体軸受40およびその周辺部の翼要素の更に他の実施形態を示す要部拡大図である。図5に示す実施形態の気体軸受の構成は、図2に示す実施形態の気体軸受の構成と同様である。すなわち、気体軸受40は、上ケーシング3に固定された固定側部材(固定側部位)41と、固定側部材(固定側部位)41を挟むように上下に配置された上側回転側部材(上側回転側部位)42と下側回転側部材(下側回転側部位)43とから構成されている。固定側部材(固定側部位)41の両面にはスパイラル溝45,45が形成されている。上側回転側部材(上側回転側部位)42と下側回転側部材(下側回転側部位)43とにより、スパイラル溝45,45の形成された固定側部材(固定側部位)41を挟み込む構造としている。そして、上側回転側部材(上側回転側部位)42には、固定側部材(固定側部位)41のスパイラル溝45との対向面と反対の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素42aを形成している。また、下側回転側部材(下側回転側部位)43の前記スパイラル溝45との対向面と反対の面、および下側回転側部材(下側回転側部位)43と軸方向に対向する固定翼63の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素43a(63a)を形成している。
【0033】
図5に示す実施形態においては、気体軸受40を構成する下側回転側部材(下側回転側部位)43の下方に、複数段の回転翼62および固定翼63が配置されている。そして、回転翼62の下面の翼排気面には、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素62aが形成されている。また、固定翼63の上面の翼排気面には、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素63aが形成されている。なお、前記遠心翼要素62a,63aは、回転翼62と、この回転翼62と軸方向に対向する固定翼63の少なくとも一方の面に設ければよい。
図5に示す実施形態によれば、下側回転側部材(下側回転側部位)43の前記スパイラル溝45との対向面と反対の面、および下側回転側部材(下側回転側部位)43と軸方向に対向する固定翼63の面の少なくとも一方の面に、遠心翼要素43a(63a)を形成していることに加えて、下側回転側部材(下側回転側部位)43の下方に配置された回転翼62,固定翼63の少なくとも一方に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素62a(63a)を形成しているため、前記遠心翼要素43a(63a)による排気作用(矢印Bで示す)に加えて、該遠心翼要素43a(63a)の下段の遠心翼要素62a(63a)により気体を排気側から吸気側に向けて圧縮排気することができる(矢印Dで示す)。このように、図5に示す実施形態においては、気体を半径方向に圧縮排気しポンプ内部を真空化する遠心翼要素を複数段設けているため、ポンプ内部の真空圧力を更に下げることができ、排気側(排気側の圧力P2)と吸気側(吸気側の圧力P1)の差圧P2−P1により発生するスラスト力Fpを更に低減することができる。したがって、気体軸受40のクリアランスδdlを所望の大きさに保つことができ、気体軸受40のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
【0034】
図6は、本発明に係るターボ型真空ポンプの他の実施態様を示す縦断面図である。図1乃至図6に示すターボ型真空ポンプは、図1に示すターボ型真空ポンプにバイパスラインを付加した構成を有するものである。すなわち、図6に示す実施形態においては、翼排気部10と翼排気部10の下流側のポンプ内部とを接続するバイパスライン70を設けている。バイパスライン70の一端は、最上段の翼排気部であるタービン翼排気部11と、次段の翼排気部である第1遠心翼排気部21との境界部近傍に接続されており、バイパスライン70の他端は、気体軸受40の直下流のポンプ内部に接続されている。そして、バイパスライン70には、バイパスライン70内の流路の開度を調整するための開度調整機構71が設けられている。開度調整機構71には、例えば、微流量調整用のメータリング・バルブ等が用いられている。このメータリング・バルブは、オリフィス内に挿入されたテーパー・ステム・チップの上下動により開度を調整し、流量を調整するようになっている。なお、オリフィス径は例えば0.81〜3.25mmであり、ステム・チップのテーパー角度は例えば1〜5度であり、材質は例えば真鍮または316ステンレス鋼である。
図6に示す実施形態における気体軸受40およびその周辺部の翼要素の構成は、図2乃至図5に示す実施形態のものと同様である。
なお、バイパスライン70の一端の接続位置は、真空が形成される翼排気部10の位置であれば任意の位置でよく、バイパスライン70の他端の接続位置は、気体軸受40の下流側のポンプ内部の位置であれば任意の位置でよい。
【0035】
図6に示すターボ型真空ポンプによれば、翼排気部10と翼排気部10の下流側のポンプ内部とを接続することにより、翼排気部10の下流側のポンプ内部を真空にすることができる。そのため、排気側(排気側の圧力P2)と吸気側(吸気側の圧力P1)の差圧P2−P1により発生するスラスト力Fpを低減することができ、気体軸受のクリアランスδdlを所望の大きさに保つことができる。したがって、気体軸受のクリアランス部での接触を防止することができ、回転体を安定して回転させることができる。
また、バイパスライン70に設けた開度調整機構71により、ポンプ内部の圧力P2を制御できるので、スラスト力Fpを制御でき、回転体(ロータ)の軸方向位置を制御することができる。
【0036】
図7は、本発明に係るターボ型真空ポンプの更に他の実施態様を示す縦断面図である。図1乃至図6に示すターボ型真空ポンプは、翼排気部10の排気作用による排気側と吸気側の差圧により生ずるスラスト力を打ち消す方向に作用するスラスト磁気軸受55を備えていたが、図7に示すターボ型真空ポンプは、このスラスト磁気軸受55に代えて、上スラスト磁気軸受を設けたものである。すなわち、軸受モータ部50は、回転軸1に回転駆動力を与えるモータ51と、回転軸1をラジアル方向に支承する上ラジアル磁気軸受53,下ラジアル磁気軸受54と、回転体を軸方向に吸引する上スラスト磁気軸受56を備えている。モータ51は高周波モータから構成されている。上ラジアル磁気軸受53,下ラジアル磁気軸受54,上スラスト磁気軸受56は、いずれも能動型磁気軸受である。上スラスト磁気軸受56は、電磁石によりターゲットディスク58を吸引するように構成されており、回転体を軸方向に吸引するように構成されている。
【0037】
図7に示すターボ型真空ポンプは、図2乃至図5に示す遠心翼要素を備えてもよく、また図6に示すバイパスラインを備えてもよい。
本発明によれば、遠心翼要素やバイパスラインによってポンプ内部を真空にでき、その結果、差圧P2−P1により発生するスラスト力Fpを低減することができるため、図7に示すように、上スラスト磁気軸受56だけ設けてもよい。
【0038】
次に、図1乃至図7に示すターボ型真空ポンプの翼排気部10の翼要素の構成について説明する。
図8(a)、(b)は、タービン翼排気部11のタービン翼部13を示す図である。図8(a)は、タービン翼部13を吸気口側から見た平面図であり、ケーシング2の吸気口5に最も近い最上段のタービン翼12のみを示した図であり、図8(b)は、タービン翼12を放射状に中心に向かって見た図を平面上に部分的に展開した図である。図8(a)および図8(b)に示すように、タービン翼部13は、ボス部14と、タービン翼12とを有している。タービン翼12はボス部14の外周部に放射状に取り付けられた板状の複数の羽根12aを備えている。ボス部14には、中空部15及び貫通孔15hが形成されている。羽根12aは、回転軸1の中心軸線からβ1(例えば、10〜40度)だけねじれた捩れ角をもって取り付けられている。その他のタービン翼12の構成は、最上段のタービン翼12の構成と同じであるが、羽根の枚数、羽根の取付角度β1、ボス部14の羽根を取り付けた部分の外径、羽根の長さなどは、適宜変えてもよい。
【0039】
図9(a)、(b)、(c)は、タービン翼排気部の固定翼17を示す図である。図9(a)は、ケーシング2の吸気口5に最も近い最上段の固定翼17を吸気口側から見た平面図であり、図9(b)は、固定翼17を放射状に中心に向かって見た図を平面上に部分的に展開した図であり、図9(c)は、図9(a)のIX−IX線断面図である。固定翼17は、円環状の円環部18と、円環部18の外周部に放射状に取り付けられた板状の羽根17aとを備えている。円環部18の内周部は軸孔19を形成し、軸孔19を回転軸1(図1参照)が貫通している。羽根17aは、回転軸1の中心軸線からβ2(例えば、10〜40度)だけねじれた捩れ角をもって取り付けられている。その他の固定翼17の構成は、最上段の固定翼17の構成と同じであるが、羽根の枚数、羽根の取付角度β2、円環部の外径、羽根の長さなどは、適宜変えてもよい。
【0040】
図10(a)、(b)は、第1遠心翼排気部21の遠心翼22を示す図である。図10(a)は、ケーシング2の吸気口5に最も近い最上段の遠心翼22を吸気口側から見た平面図であり、図10(b)は、遠心翼22の正面断面図である。高真空側の遠心翼である遠心翼22は、ボス部24を有する略円板状の基部25と、基部25の一方の表面上に形成される遠心翼要素22aとを備える。ボス部24には、回転軸1が挿通される貫通孔24hが形成されている。遠心翼22の回転方向は、図10(a)において時計方向である。
【0041】
遠心翼要素22aは、図10(a)に示すような渦巻き状の遠心溝からなる。遠心翼要素22aを構成する渦巻状の遠心溝は、回転方向に対して後ろ向き(回転方向とは反対向き)にガス流れ方向に延びる構造であり、ボス部24の外周面から基部25の外周縁まで達している。その他の遠心翼22の構成は、最上段の遠心翼22の構成と同じであるが、遠心溝の個数や形状、ボス部の外径、遠心溝により形成される流路の長さなどは、適宜変えてもよい。
【0042】
図11(a)、(b)は、第2遠心翼排気部31の遠心翼32を示す図である。図11(a)は、ケーシング2の吸気口5に最も近い最上段の遠心翼32を吸気口側から見た平面図であり、図11(b)は、遠心翼32の正面断面図である。大気圧側の遠心翼である遠心翼32は、略円板状の基部35と、基部35の一方の表面上に形成される遠心翼要素32aとを備える。基部35には、回転軸1が挿通される貫通孔35hが形成されている。遠心翼32の回転方向は、図11(a)において時計方向である。
【0043】
遠心翼要素32aは、図11(a)に示すような渦巻き状の遠心溝からなる。遠心翼要素32aを構成する渦巻状の遠心溝は、回転方向に対して後ろ向き(回転方向とは反対向き)にガス流れ方向に延びる構造であり、略円板状の基部35の内周部から外周縁まで達している。その他の遠心翼32の構成は、最上段の遠心翼32の構成と同じであるが、遠心溝の個数や形状、遠心溝により形成される流路の長さなどは、適宜変えてもよい。
【0044】
図10および図11に示すように、大気圧側の遠心翼32と高真空側の遠心翼22とを比較すると、大気圧側の遠心翼32における遠心翼要素32aの溝部深さは浅く(もしくは凸部高さは低く)、高真空側の遠心翼22における遠心翼要素22aの溝部深さは深く(もしくは凸部高さは高く)設定されている。すなわち、高真空に向かうに従い遠心翼要素の遠心溝の溝部深さは深く(もしくは凸部高さは高く)なっていく。要するに、高真空側に向かうに従い、排気速度が大きくなっていく。
【0045】
次に、図1乃至図11に示すように構成されたターボ型真空ポンプの作用を説明する。
タービン翼排気部11におけるタービン翼12が回転することによって、ポンプの吸気口5から軸方向にガスが導入される。タービン翼12を使用することにより排気速度を大きくすることができ、比較的多量の気体を排気することができる。吸気口5から導入されたガスは、最上段のタービン翼12を通過して固定翼17により減速され圧力が上昇する。同様に下流側のタービン翼12及び固定翼17により軸方向に排気され、圧力が上昇する。
【0046】
タービン翼排気部11から第1遠心翼排気部21に流入したガスは、最上段の遠心翼22に導入され、最上段の遠心翼22と最上段の固定翼23との相互作用、すなわち当該ガスの粘性によるドラッグ作用、さらに遠心翼要素22aの回転による遠心作用により、遠心翼22の基部25の表面に沿って外周側へ向かわせるガスの圧縮、排気が行われる。すなわち、最上段の遠心翼22に導入されたガスは、当該遠心翼22に対して図10(b)中、略軸方向27に導入され、渦巻状の遠心溝を通って外周側に向かう遠心方向28に流れ、圧縮され、排気される。
【0047】
最上段の遠心翼22によって外周側へ向かって圧縮されたガスは、次に最上段の固定翼23に流れ込み、固定翼23の鉛直方向に延びる内周面によって、略軸方向に方向を変え、固定翼23の表面側にある渦巻状ガイド(図示せず)が設けられた空間へ流れ込む。そして、最上段の遠心翼22が回転することによって、固定翼23の渦巻状ガイドと、最上段の遠心翼22の基部25の裏面とのガスの粘性によるドラッグ作用によって、最上段の固定翼23の表面に沿って内周側へ向かわせるガスの圧縮、排気が行われる。最上段の固定翼23の内周側に達したガスは、最上段の遠心翼22のボス部24の外周面によって、略軸方向に方向が変わり、下流側の遠心翼22に導入される。下流側の遠心翼22及び固定翼23により、同様のガスの圧縮、排気が行われる。
【0048】
第1遠心翼排気部21から第2遠心翼排気部31に流入したガスは、最上段の遠心翼32に導入され、最上段の遠心翼32と最上段の固定翼33との相互作用、すなわち当該ガスの粘性によるドラッグ作用、さらに遠心翼要素32aの回転による遠心作用により、最上段の遠心翼32の基部35の表面に沿って外周側へ向かわせるガスの圧縮、排気が行われる。次に、最上段の固定翼33に流れ込み、固定翼33の鉛直方向に延びる内周面によって、略軸方向に方向を変え、固定翼33の表面側にある渦巻状ガイド(図示せず)が設けられた空間へ流れ込む。そして、最上段の遠心翼32が回転することによって、固定翼33の渦巻状ガイド(図示せず)と、最上段の遠心翼32の基部35の裏面とのガスの粘性によるドラッグ作用によって、最上段の固定翼33の表面に沿って内周側へ向かわせるガスの圧縮、排気が行われる。最上段の固定翼33の内周側に達したガスは、略軸方向に方向が変わり、下流側の遠心翼32に導入される。下流側の遠心翼32及び固定翼33により、同様のガスの圧縮、排気が行われる。そして、第2遠心翼排気部31から排出されたガスは、排気口6から真空ポンプの外部に排出される。
【0049】
図12は、ターボ型真空ポンプにおける翼クリアランスによる性能比較を示すグラフであり、排気圧が760Torrで、遠心翼1段で取得できる差圧と回転速度の関係を示す図である。図12において、横軸は、真空ポンプの回転速度(min−1)を表し、縦軸は、差圧(Torr)を表す。翼クリアランスが25μmの場合と40μmの場合とを比較して示す。図13に示すように、翼クリアランスが25μmの場合、遠心翼1段で、10万回転/分(min−1)の回転速度にて、約300Torrの差圧を取得することができる。これに対して、翼クリアランスが40μmの場合、遠心翼1段で、10万回転/分(min−1)の回転速度にて、約250Torrの差圧を取得することができる。すなわち、翼クリアランスが25μmから40μmまで15μm変化すると、性能は、グラフに示すように低下する。このことからも、気体軸受40と遠心翼要素43a(63a)等を用いて翼クリアランスを微小に設定できる本発明の効果が分かる。
【0050】
本発明においては、ラジアル方向の軸受には、磁気軸受を用いた例を示したが、これが気体軸受であっても当然構わない。また、本発明は、大気圧領域で効果を得るためのものである。この大気圧領域の翼要素の上流側に、概略10Torr以下の真空にて、従来、ターボ分子ポンプで採用されている、円筒ネジ溝ロータ、遠心翼、タービン翼の少なくとも一つが用いられても、当然構わない。この領域で使用する遠心翼は、本発明の微小クリアランス遠心翼と排気原理は同じであるが、大気圧領域に比べて真空度が高く、逆流も少なくなるので、大気圧領域の遠心翼のように微小に設定されたものではなく、汎用ターボ分子ポンプの翼クリアランス(0.1〜1mm程度)であっても構わない。
気体軸受は、動圧型、静圧型どちらであっても、本発明の効果に影響はない。静圧型の場合は、外部気体供給手段が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明に係るターボ型真空ポンプの一実施態様を示す縦断面図である。
【図2】図2は、気体軸受およびその周辺部の翼要素を示す要部拡大図である。
【図3】図3は、図2のIII矢視図である。
【図4】図4は、気体軸受およびその周辺部の翼要素の他の実施形態を示す要部拡大図である。
【図5】図5は、気体軸受およびその周辺部の翼要素の更に他の実施形態を示す要部拡大図である。
【図6】図6は、本発明に係るターボ型真空ポンプの他の実施態様を示す縦断面図である。
【図7】図7は、本発明に係るターボ型真空ポンプの更に他の実施態様を示す縦断面図である。
【図8】図8(a)、(b)は、タービン翼排気部のタービン翼部を示す図であり、図8(a)は、タービン翼部を吸気口側から見た平面図であってケーシングの吸気口に最も近い最上段のタービン翼のみを示した図であり、図8(b)は、タービン翼を放射状に中心に向かって見た図を平面上に部分的に展開した図である。
【図9】図9(a)、(b)、(c)は、タービン翼排気部の固定翼を示す図であり、図9(a)は、ケーシングの吸気口に最も近い最上段の固定翼を吸気口側から見た平面図であり、図9(b)は、固定翼を放射状に中心に向かって見た図を平面上に部分的に展開した図であり、図9(c)は、図9(a)のIX−IX線断面図である。
【図10】図10(a)、(b)は、第1遠心翼排気部の遠心翼を示す図であり、図10(a)は、ケーシングの吸気口に最も近い最上段の遠心翼を吸気口側から見た平面図であり、図10(b)は、遠心翼の正面断面図である。
【図11】図11(a)、(b)は、第2遠心翼排気部の遠心翼を示す図であり、図11(a)は、ケーシングの吸気口に最も近い最上段の遠心翼を吸気口側から見た平面図であり、図11(b)は、遠心翼の正面断面図である。
【図12】図12は、ターボ型真空ポンプにおける翼クリアランスによる性能比較を示すグラフであり、排気圧が760Torrで、遠心翼1段で取得できる差圧と回転速度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 回転軸
2 ケーシング
3 上ケーシング
4 下ケーシング
5 吸気口
6 排気口
10 排気部
11 タービン翼排気部
12 タービン翼
13 タービン翼部
14 ボス部
15 中空部
15h 貫通孔
16 ボルト
17 固定翼
18 スペーサ
21 第1遠心翼排気部
22 遠心翼(回転翼)
22a 遠心翼要素
23 固定翼
24 ボス部
24h 貫通孔
25,35 基部
31 第2遠心翼排気部
32 遠心翼(回転翼)
32a 遠心翼要素
33 固定翼
35h 貫通孔
40 気体軸受
41 固定側部材(固定側部位)
42 上側回転側部材(上側回転側部位)
43 下側回転側部材(下側回転側部位)
43a 遠心翼要素
45 スパイラル溝
50 軸受モータ部
51 モータ
53 上ラジアル磁気軸受
54 下ラジアル磁気軸受
55 スラスト磁気軸受
56 上スラスト磁気軸受
57 下スラスト磁気軸受
58 ターゲットディスク
62 回転翼
62a 遠心翼要素
63 固定翼
63a 遠心翼要素
81 上保護ベアリング
82 下保護ベアリング
141 回転側部材(回転側部位)
142 上側固定側部材(上側固定側部位)
143 下側固定側部材(下側固定側部位)
145 スパイラル溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプの略全長に亘って延びる回転軸と、ケーシング内に回転翼と固定翼とを交互に配置することによって形成された翼排気部と、前記回転軸に回転駆動力を与えるモータと前記回転軸を回転自在に支承する軸受とを有した軸受モータ部を備えたターボ型真空ポンプにおいて、
前記回転軸をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受を用い、該気体軸受の固定側部位の両面にスパイラル溝を形成し、前記回転軸に固定された上側回転側部位と下側回転側部位とにより、前記スパイラル溝の形成された固定側部位を挟み込むようにし、
前記下側回転側部位の前記スパイラル溝との対向面と反対の面、および前記下側回転側部位と軸方向に対向する固定翼の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素を形成したことを特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項2】
ポンプの略全長に亘って延びる回転軸と、ケーシング内に回転翼と固定翼とを交互に配置することによって形成された翼排気部と、前記回転軸に回転駆動力を与えるモータと前記回転軸を回転自在に支承する軸受とを有した軸受モータ部を備えたターボ型真空ポンプにおいて、
前記回転軸をスラスト方向に支承する軸受に気体軸受を用い、前記回転軸に固定された気体軸受の回転側部位の両面にスパイラル溝を形成し、固定側の上下に分割された上側固定側部位と下側固定側部位とにより、前記スパイラル溝の形成された回転側部位を挟み込むようにし、
前記下側固定側部位と軸方向に対向する回転翼の面と反対の面、および該回転翼と軸方向に対向する固定翼の面の少なくとも一方の面に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素を形成したことを特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項3】
前記遠心翼要素が形成された部位より排気側にある回転翼または固定翼に、気体を半径方向に圧縮排気する遠心翼要素を少なくとも一段形成したことを特徴とする請求項1または2記載のターボ型真空ポンプ。
【請求項4】
前記翼排気部と該翼排気部の下流側のポンプ内部とを接続するバイパスラインを設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のターボ型真空ポンプ。
【請求項5】
前記バイパスラインに開度調整機構を設けたことを特徴とする請求項4記載のターボ型真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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