説明

ターボ機械のロータ

【課題】疲労強度や製品寿命が向上するターボ機械のロータの提供。
【解決手段】回転軸6の端部6aに設けられると共に軸方向において第1の線膨張係数を有する羽根車11と、回転軸6の端部6aに向けて羽根車11を軸方向に締め付けると共に軸方向において第1の線膨張係数よりも大きな第2の線膨張係数を有するテンションボルト13と、テンションボルト13によって回転軸6の端部6aに向けて羽根車11と共に軸方向に締め付けられ、軸方向両側における接触端面14aが該軸方向に対して垂直に形成されると共に第2の線膨張係数よりも大きな第3の線膨張係数を有する熱膨張部材14と、を有するターボ圧縮機1のロータ100を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ機械のロータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、産業用のターボ機械として、複数段階に空気等を圧縮するターボ圧縮機が開示されている。このターボ圧縮機のロータは、回転軸の端部に連結された羽根車を有し、歯車列を介して駆動モータによって回転する構成となっている。
この回転軸の端部に設けられる羽根車は、テンションボルト(ボルト締結体)によって連結されている。このボルト締結体は、回転軸の端部に向けて羽根車を軸方向に締め付けることにより軸力を発現させ、回転軸から羽根車へのトルク伝達を円滑にさせる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−133745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術のように、別体で形成される羽根車とボルト締結体とは、材質の違いから、軸方向における線膨張係数が異なり、熱変位によって、ボルト締結体の締め付けによる軸力が、装置運転時・装置停止時において必然的に変動する。
疲労強度の向上や製品寿命のさらなる延長のためには、装置運転時・装置停止時に繰り返される当該軸力の変動による応力振幅差を小さく抑えることが望ましい。
【0005】
本発明は、上記課題点に鑑みてなされたものであり、疲労強度や製品寿命が向上するターボ機械のロータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、回転軸の端部に設けられると共に軸方向において第1の線膨張係数を有する羽根車と、上記回転軸の端部に向けて上記羽根車を上記軸方向に締め付けると共に上記軸方向において上記第1の線膨張係数よりも大きな第2の線膨張係数を有するボルト締結体と、上記ボルト締結体によって上記回転軸の端部に向けて上記羽根車と共に上記軸方向に締め付けられ、上記軸方向両側における接触端面が該軸方向に対して垂直に形成されると共に上記第2の線膨張係数よりも大きな第3の線膨張係数を有する熱膨張部材と、を有するターボ機械のロータを採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、装置運転時において、羽根車とボルト締結体との熱膨張差によって軸力の低下が生じても、羽根車と共に締め付けられている熱膨張部材が、羽根車やボルト締結体よりも割合的に大きく熱膨張し、その軸方向に垂直な接触端面によって、当該軸力の低下を補う軸力を発現させるため、装置運転時・装置停止時における軸力の変動による応力振幅差を小さく抑えることができる。
【0007】
また、本発明においては、上記熱膨張部材は、上記軸方向において上記回転軸の端部と上記羽根車との間に配設されているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、軸方向における回転軸の端部と羽根車との間は、羽根車の根元部に対応しており、当該根元部は、吸気側である羽根車の先端部に比べて、装置運転時において温度が高くなる部位であるため、当該部位に熱膨張部材を配設することで、応力振幅差を小さく抑える熱膨張作用を適切に発現させることができる。
【0008】
また、本発明においては、上記熱膨張部材の上記軸方向における長さは、上記軸方向において上記羽根車に締め付け力が作用する長さに基づいて設定されているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、羽根車とボルト締結体との熱膨張差による軸力の低下は、軸方向において羽根車に締め付け力が作用する長さに対応するため、当該長さに基づいて、熱膨張部材の軸方向における長さを設定する。
【0009】
また、本発明においては、上記熱膨張部材の上記軸方向における長さは、さらに、上記羽根車の稼動時の遠心力に伴う上記軸方向の変位量に基づいて設定されているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、装置運転時には、さらに遠心力による軸方向の収縮による変位が生じ、これも軸力の低下に繋がるため、当該遠心力に伴う軸方向の変位量に基づいて、熱膨張部材の軸方向における長さを設定する。
【0010】
また、本発明においては、上記熱膨張部材は、上記回転軸のトルクを上記羽根車に伝達するトルク伝達部を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、熱膨張部材をトルク伝達部として兼用することで、より小さな軸力で効率よくトルクを伝達することができる。
【0011】
また、本発明においては、上記熱膨張部材は、上記回転軸の端部と上記羽根車との間を気密にシールするシール部を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、熱膨張部材をシール部として兼用することで、動作環境が腐食雰囲気である場合、ガスケットとして利用できる。
【0012】
また、本発明においては、上記接触端面は、上記ボルト締結体の周りに環状に形成されており、上記接触端面は、第1の表面粗さを有する第1の環状領域と、上記第1の表面粗さと異なる第2の表面粗さを有する第2の環状領域と、を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、熱膨張部材の接触端面に、表面粗さの異なる環状領域を2つ設けることで、一方の環状領域では、表面粗さを大きくし、接触部材との摩擦係数を大きくするトルク伝達部として機能させ、他方の環状領域では、表面粗さを小さくし、接触部材と密に接することでシール性を高めるシール部として機能させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転軸の端部に設けられると共に軸方向において第1の線膨張係数を有する羽根車と、上記回転軸の端部に向けて上記羽根車を上記軸方向に締め付けると共に上記軸方向において上記第1の線膨張係数よりも大きな第2の線膨張係数を有するボルト締結体と、上記ボルト締結体によって上記回転軸の端部に向けて上記羽根車と共に上記軸方向に締め付けられ、上記軸方向両側における接触端面が該軸方向に対して垂直に形成されると共に上記第2の線膨張係数よりも大きな第3の線膨張係数を有する熱膨張部材と、を有するターボ機械のロータを採用することによって、装置運転時において、羽根車とボルト締結体との熱膨張差によって軸力の低下が生じても、羽根車と共に締め付けられている熱膨張部材が、羽根車やボルト締結体よりも割合的に大きく熱膨張し、その軸方向に垂直な接触端面によって、当該軸力の低下を補う軸力を発現させるため、装置運転時・装置停止時における軸力の変動による応力振幅差を小さく抑えることができる。
したがって、本発明では、疲労強度や製品寿命が向上するターボ機械のロータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態におけるターボ圧縮機の主要部を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態におけるターボ圧縮機のロータの構成を示す断面図である。
【図3】本発明の別実施形態における熱膨張部材の接触端面を示す図である。
【図4】本発明の別実施形態におけるターボ圧縮機のロータの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るターボ機械のロータの実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、ターボ機械としてターボ圧縮機を例示する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態におけるターボ圧縮機1の主要部を示す断面図である。
ターボ圧縮機(ターボ機械)1は、駆動モータの出力軸2に接続された歯車装置3と、外部から吸引した空気等のガスGを第一段圧縮機10から、第二段圧縮機20、第三段圧縮機30、第四段圧縮機40の順に導く、不図示のガス流路とを備えている。
【0017】
歯車装置3は、ギアケース4内において出力軸2の端部に接続された第一歯車5と、回転軸6に設けられた第二歯車7と、回転軸8に設けられた第三歯車9とを有する。第一歯車5は、第二歯車7及び第三歯車9とそれぞれ噛合して設けられている。これにより、駆動モータの出力軸2の回転と同期して、回転軸6及び回転軸8が回転することとなる。
【0018】
回転軸6は、出力軸2と平行に配置され、ギアケース4に対し回転自在に軸支される。回転軸6の一端部には、第一段圧縮機10の羽根車11が設けられ、他端部には、第二段圧縮機20の羽根車21が設けられている。
一方、回転軸8は、出力軸2に平行で且つ回転軸6とは出力軸2を挟んで反対側に配置され、ギアケース4に対し回転自在に軸支される。回転軸8の一端部には、第三段圧縮機30の羽根車31が設けられ、他端部には、第四段圧縮機40の羽根車41が設けられている。
【0019】
羽根車11,21,31,41は、ラジアルインペラであり、軸方向で吸気したガスGを半径方向に導出する不図示の3次元的ねじれを含むブレードを有する。羽根車11,21,31,41の周りには、それぞれディフューザ流路が設けられており、半径方向に導出したガスGを、当該流路において圧縮・昇圧し、また、さらにその周りに設けられたスクロール流路によって次の段の圧縮機に供給することができる。
【0020】
上記構成のターボ圧縮機1によれば、駆動モータの出力軸2を回転駆動させると、ガスGが、第一段圧縮機10の吸気口12から導入されて第一段圧縮される。その後、ガスGは、不図示のガス流路を介して、第二段圧縮機20の吸気口22、第三段圧縮機30の吸気口32、第四段圧縮機40の吸気口42、の順に導入されて多段圧縮され、当該多段圧縮されたガスGは、ターボ圧縮機1に接続された不図示の内燃機関等の装置に供給されることとなる。
【0021】
続いて、図2を参照して、ターボ圧縮機1のロータの構成について説明する。
図2は、本発明の実施形態におけるターボ圧縮機1のロータ100の構成を示す断面図である。
なお、以下の説明では、ロータとして、第一段圧縮機10のロータ100を例示して説明する。
【0022】
ロータ100は、回転軸6の端部6aに設けられる羽根車11と、回転軸6の端部6aに向けて羽根車11を軸方向に締め付けるテンションボルト(ボルト締結体)13と、テンションボルト13によって回転軸6の端部6aに向けて羽根車11と共に軸方向に締め付けられる熱膨張部材14とを有する。
【0023】
テンションボルト13は、その先端部に雄ネジ15が形成されたものであって、部材(羽根車11及び熱膨張部材14)の取り付けに際して引張力が付加され、その反力(軸力)によって、基端部と先端部の間に配置された部材を、軸方向において締め付け(押圧)する構成となっている。本実施形態のテンションボルト13は、回転軸6と別体で設けられ、その基端部に形成された雄ネジ16によって、回転軸6の端部6aに締結固定されている。
【0024】
一方、羽根車11の中心部には、テンションボルト13を挿通するための貫通穴11aが形成されている。貫通穴11aの軸方向における長さは、テンションボルト13の軸方向における長さよりも短く、その先端開口部からテンションボルト13の雄ネジ15が突出している。そして、この雄ネジ15にナット17を螺合させ、テンションボルト13の引張による所定の軸力を発現させることで、羽根車11及び熱膨張部材14が、常に緩みなく回転軸6の端部6aに締結固定される。
【0025】
羽根車11とテンションボルト13とは、材質の違いから軸方向における線膨張係数が異なっている。本実施形態では、例えば、羽根車11がチタン系金属材から形成され、テンションボルト13が鉄系金属材から形成されており、羽根車11の線膨張係数(第1の線膨張係数)よりも、テンションボルト13の線膨張係数(第2の線膨張係数)の方が大きい構成となっている。
【0026】
熱膨張部材14は、上記第2の線膨張係数よりも大きな第3の線膨張係数を有しており、羽根車11及びテンションボルト13よりも割合的に大きく熱膨張可能な構成となっている。熱膨張部材14は、例えば、上記金属材から形成される羽根車11及びテンションボルト13に対し、アルミ系金属材から形成されている。また、熱膨張部材14は、軸方向両側における接触端面14aが該軸方向に対して垂直に形成されており、熱膨張によって接触端面14aに接触する部材に対して面直方向(軸方向)に軸力を作用させることが可能な構成となっている。
【0027】
熱膨張部材14は、テンションボルト13周りに環状に形成され、全体で略ワッシャー形状を有している。この熱膨張部材14は、軸方向において回転軸6の端部6aと羽根車11との間、すなわち、羽根車11の根元部に配設されている。
また、熱膨張部材14の軸方向における長さ(厚み)tは、装置運転時における羽根車11とテンションボルト13との熱変位に追従できる長さに設定されている。
【0028】
具体的に、羽根車11の第1の線膨張係数をα、テンションボルト13の第2の線膨張係数をα、熱膨張部材14の第3の線膨張係数をαとし、装置運転時と装置停止時の温度差をΔTと、また、軸方向において羽根車11に締め付け力が作用する長さをLとすると、下式(1)で表すことができる。
【0029】
【数1】

【0030】
式(1)を展開すると、長さtは、長さLを変数として、下式(2)で表すことができる。すなわち、熱膨張部材14の軸方向における長さtは、軸方向において羽根車11に締め付け力が作用する長さLに基づいて設定される。
【0031】
【数2】

【0032】
例えば、第1の線膨張係数α=8.8×10−6(/℃)、第2の線膨張係数α=11.8×10−6(/℃)、第3の線膨張係数α=23.9×10−6(/℃)、長さL=100(mm)と仮定して式(2)に代入すると、装置運転時における羽根車11とテンションボルト13との熱変位に追従できる熱膨張部材14の長さtは、12.5(mm)となる。
ところで、実際には、部品内部に温度分布ができており、一部が所定温度になっている。したがって、上記計算例は、部品内部が均一に所定温度になると仮定した場合の簡易計算である。
【0033】
続いて、上記構成のロータ100による作用効果について説明する。なお、以下の説明においても、説明の容易化のため、部品内部が均一に所定温度になると仮定して説明する。
装置停止時において、ロータ100の温度は、常温(例えば20℃)であるが、装置運転時、すなわちロータ100が増速回転し、所定の稼動回転数に達すると所定温度(例えば150℃)まで昇温する。
【0034】
この装置運転時において、羽根車11とテンションボルト13との材質の違いによる熱膨張差によって、テンションボルト13によって付与される軸力の低下が生じ得る。しかしながら、この装置運転時において、羽根車11と共に締め付けられている熱膨張部材14が、第3の線膨張係数を有することにより、羽根車11やテンションボルト13よりも割合的に大きく熱膨張する。そうすると、熱膨張部材14は、その軸方向に垂直な接触端面14aによって面直方向(軸方向)に回転軸6の端部6a及び羽根車11を押し出して、テンションボルト13を引張させ、当該軸力の低下を補う軸力を発現させる。このため、装置運転時・装置停止時における軸力の変動による応力振幅差が小さく抑えられる。
【0035】
また、羽根車11とテンションボルト13との熱膨張差による軸力の低下は、軸方向において羽根車11に締め付け力が作用する長さLに対応するため、長さLに基づいて、熱膨張部材14の軸方向における長さtを設定することによって、熱膨張部材14を、羽根車11とテンションボルト13との熱変位を埋めるように追従して熱膨張させることができる。このため、当該軸力の低下を補う軸力を適正化して、軸力の変動による応力振幅差をより小さく抑えることができる。
【0036】
また、熱膨張部材14は、軸方向において回転軸6の端部6aと羽根車11との間に配設されている。軸方向における回転軸6の端部6aと羽根車11との間は、羽根車11の根元部に対応しており、当該根元部は、ガスGが吹き付けられる吸気側である羽根車11の先端部(ナット17が設けられる部位)に比べて、装置運転時において温度が高くなる部位である(例えば、先端部が50℃、根元部が150℃となる)。したがって、高温となる当該根元部に熱膨張部材14を配設することで、応力振幅差を小さく抑える熱膨張作用を適切に発現させることができる。
【0037】
さらに、羽根車11の根元部は、高温となる最大外径側(トレーディングエッジ側)からの熱伝導により昇温するため、吸気側である羽根車11の先端部に比べて、外乱の影響(例えば、吸気するガスGの温度や流量の変動の影響)が少ない。このため、外乱の影響による温度変化で、装置運転時において、熱膨張部材14が頻繁に軸方向に伸長、収縮してしまうといった事態は殆ど生じなく、それによる軸力の変動による応力振幅差の発生を防止できる。
【0038】
したがって、上述の本実施形態によれば、回転軸6の端部6aに設けられると共に軸方向において第1の線膨張係数を有する羽根車11と、回転軸6の端部6aに向けて羽根車11を軸方向に締め付けると共に軸方向において第1の線膨張係数よりも大きな第2の線膨張係数を有するテンションボルト13と、テンションボルト13によって回転軸6の端部6aに向けて羽根車11と共に軸方向に締め付けられ、軸方向両側における接触端面14aが該軸方向に対して垂直に形成されると共に第2の線膨張係数よりも大きな第3の線膨張係数を有する熱膨張部材14と、を有するターボ圧縮機1のロータ100を採用することによって、装置運転時において、羽根車11とテンションボルト13との熱膨張差によって軸力の低下が生じても、羽根車11と共に締め付けられている熱膨張部材14が、羽根車11やテンションボルト13よりも割合的に大きく熱膨張して、軸方向に垂直な接触端面14aによって、当該軸力の低下を補う軸力を発現させるため、装置運転時・装置停止時における軸力の変動による応力振幅差を小さく抑えることができる。
したがって、本実施形態では、装置運転・装置停止を繰り返しても疲労の蓄積が小さく抑えられるため、疲労強度や製品寿命が向上するターボ圧縮機1のロータ100を提供することができる。
【0039】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0040】
例えば、上記実施形態では、熱膨張部材14の軸方向における長さtは、軸方向において羽根車11に締め付け力が作用する長さLに基づき、式(2)によって設定すると説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、装置運転時には、さらに羽根車11にかかる遠心力による軸方向の収縮による変位が生じ、これも軸力の低下に繋がるため、当該遠心力に伴う軸方向の変位量に基づいて、熱膨張部材14の軸方向における長さtを設定しても良い。
当該遠心力に伴う軸方向の変位量を考慮すると、熱膨張部材14の軸方向における長さtは、下式(3)で表すことができる。
【0041】
【数3】

【0042】
式(3)におけるXは、ロータ100の稼動時の回転数であり、また、βは、当該回転数に基づく羽根車11の軸方向における変位量を示す物性値である。
このように、熱膨張部材14の軸方向における長さtを、さらに、羽根車11の稼動時の遠心力に伴う軸方向の変位量に基づいて設定することで、装置運転時・装置停止時における軸力の変動による応力振幅差をより小さく抑えることができる。
【0043】
また、例えば、熱膨張部材14の材質・表面粗さを変えることによって、回転軸6の端部6aや羽根車11等の接触部材との摩擦係数を大きくすることで、熱膨張部材14をトルク伝達部として兼用させ、より小さな軸力で効率よくトルクを伝達することができる。軸力が小さくなると、相対的に応力振幅差も小さくなるので、疲労強度や製品寿命を向上させることができる。
また、例えば、動作環境が腐食雰囲気である場合、熱膨張部材14の材質によってはシール部として兼用でき、ガスケットとして利用できる。これにより、耐食性が向上する。
【0044】
例えば、図3に示すように、熱膨張部材14の接触端面14aに、表面粗さの異なる環状領域を2つ設けることで、上記トルク伝達部と上記シール部とを両立させる構成を採用しても良い。
図3に示すように、接触端面14aは、第1の表面粗さを有する第1の環状領域Aと、当該第1の表面粗さと異なる第2の表面粗さを有する第2の環状領域Bとを有する。
【0045】
第1の環状領域Aは、第2の環状領域Bよりも外径側に配置され、第1の表面粗さは第2の表面粗さよりも大きく(粗く)形成されている。これにより、第1の環状領域Aにおいては、接触部材との摩擦係数を大きくするトルク伝達部として機能させることができる。また、外径側は、内径側よりもトルク伝達に関しては有利である。
【0046】
一方、第2の環状領域Bは、第1の環状領域Aよりも内径側に配置され、第2の表面粗さは第1の表面粗さよりも小さく(密に)形成されている。これにより、第2の環状領域Bにおいては、接触部材と密に接することでシール性を高めるシール部として機能させることができる。
なお、トルク伝達性よりもシール性を優先して確保したい場合には、図3に示す第1の環状領域Aと第2の環状領域Bとの配置を逆に、すなわち、表面粗さが小さい第2の環状領域Bを外径側に、表面粗さが大きい第1の環状領域Aを内径側に配置しても良い。
【0047】
また、例えば、上記実施形態では、熱膨張部材14は、軸方向において回転軸6の端部6aと羽根車11との間に配設されていると説明したが、後段の第二段圧縮機20、第三段圧縮機30、第四段圧縮機40のロータにおいては、ガスGの温度も昇圧して高温となり、羽根車21,31,41の先端部と根元部との温度分布による温度差も小さくなる場合には、当該先端部、すなわち、軸方向において羽根車11とナット17との間に熱膨張部材14を配設しても良い。
【0048】
また、例えば、上記実施形態では、ボルト締結体として、テンションボルト13を例示したが、羽根車11と接触するボルト締結体(例えば、羽根車11が雌ねじ、ボルト締結体が雄ねじのケース、あるいは、ボルト締結体で羽根車11と回転軸6を固定するケース等)を採用しても良い。
【0049】
また、羽根車11と接触するボルト締結体を採用する場合、羽根車11からの伝熱によりボルト締結体の温度上昇が十分に見込めるため、部品内部における温度分布が小さくなり、上述した熱膨張部材14による軸力低下を低減(応力振幅の低減)する効果を十分に得ることが出来る。
【0050】
一方で、図4に示すテンションボルト13のように、羽根車11と接触しないボルト締結体を採用する場合、羽根車11からの伝熱によるボルト締結体の温度上昇が十分でなく、部品内部における温度分布が大きくなって、場合によっては逆に軸力が増加(応力振幅の増加)することがある。この場合には、線膨張係数が大きく熱変位し易い熱膨張部材14を空冷や潤滑油等の冷媒による熱交換等で冷却して収縮させれば、軸力の増加を低減(応力振幅の低減)することができる。したがって、より確実に応力振幅の低減を図るために、さらに、熱膨張部材14を冷却する冷却装置を別途設けても良い。
【符号の説明】
【0051】
1…ターボ圧縮機(ターボ機械)、6…回転軸、6a…端部、11…羽根車、13…テンションボルト(ボルト締結体)、14…熱膨張部材、14a…接触端面、100…ロータ、A…第1の環状領域(トルク伝達部)、B…第2の環状領域(シール部)、L…長さ、t…長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の端部に設けられると共に軸方向において第1の線膨張係数を有する羽根車と、
前記回転軸の端部に向けて前記羽根車を前記軸方向に締め付けると共に前記軸方向において前記第1の線膨張係数よりも大きな第2の線膨張係数を有するボルト締結体と、
前記ボルト締結体によって前記回転軸の端部に向けて前記羽根車と共に前記軸方向に締め付けられ、前記軸方向両側における接触端面が該軸方向に対して垂直に形成されると共に前記第2の線膨張係数よりも大きな第3の線膨張係数を有する熱膨張部材と、
を有することを特徴とするターボ機械のロータ。
【請求項2】
前記熱膨張部材は、前記軸方向において前記回転軸の端部と前記羽根車との間に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のターボ機械のロータ。
【請求項3】
前記熱膨張部材の前記軸方向における長さは、前記軸方向において前記羽根車に締め付け力が作用する長さに基づいて設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のターボ機械のロータ。
【請求項4】
前記熱膨張部材の前記軸方向における長さは、さらに、前記羽根車の稼動時の遠心力に伴う前記軸方向の変位量に基づいて設定されていることを特徴とする請求項3に記載のターボ機械のロータ。
【請求項5】
前記熱膨張部材は、前記回転軸のトルクを前記羽根車に伝達するトルク伝達部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のターボ機械のロータ。
【請求項6】
前記熱膨張部材は、前記回転軸の端部と前記羽根車との間を気密にシールするシール部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のターボ機械のロータ。
【請求項7】
前記接触端面は、前記ボルト締結体の周りに環状に形成されており、
前記接触端面は、第1の表面粗さを有する第1の環状領域と、前記第1の表面粗さと異なる第2の表面粗さを有する第2の環状領域と、を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のターボ機械のロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−44312(P2013−44312A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184563(P2011−184563)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】