説明

ダイシングテープ及び半導体ウエハ加工方法

【課題】 耐水性に優れるため、ダイシング工程で切削水が浸入せず、切削水で膨潤が発生せず、チップ裏面へ切削ダストが付着することなく、大口径の半導体ウエハから薄型の半導体チップを効率よくピックアップできるダイシングテープ及びこれを用いた半導体ウエハの加工方法を提供する。
【解決手段】 基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層を有するダイシングテープであり、該粘着剤層が、分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマー、光重合開始剤及び数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドを用いた放射線硬化性粘着剤層であり、
該ダイシングテープを、23℃で50%RHの条件下でシリコンミラー面に貼合した後、23℃で50%RHの条件下で24時間経過後の、放射線硬化前における剥離力が、0.5N〜3.5N/25mmであるダイシングテープ、半導体ウエハの加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシングテープに関する。特に、本発明は、半導体ウエハなどを素子小片に切断分離(ダイシング)する際に、当該半導体ウエハなどの被切断体を固定するために用いる半導体ウエハダイシングテープに関する。
また本発明は、ダイシングテープを用いた半導体ウエハ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン、ガリウム、砒素などを材料とする半導体ウエハは、大径の状態で製造された後、素子小片に切断分離(ダイシング)され、更にマウント工程に移される。この際、半導体ウエハはダイシングテープに貼付され保持された状態でダイシング工程、洗浄工程、エキスパンド工程、ピックアップ工程、マウント工程の各工程が施される。前記ダイシングテープとしては、プラスチックなどの基材樹脂フィルム上にアクリル系粘着剤等の粘着剤層が塗布、形成されたものが用いられている。
前記ピックアップ工程では、ダイシング工程で得られた素子小片(以下、半導体チップともいう。)同士の間隙を広げて、半導体チップをピックアップしやすくすることが行われることが多い。すなわち、図2に示すように、ピックアップする半導体チップ12が貼合されたダイシングテープ1を突き上げピン13により、点状または線状で持ち上げまたはこすりつけ、当該半導体チップ12とダイシングテープ1の剥離を助長した状態で、上部から吸着コレット11等の真空吸着により半導体チップ12をピックアップする方式が主流となっている。
【0003】
近年、半導体ウエハは大口径化、薄型化の傾向にあり、また酸によるウエハ裏面のエチング工程が加わっていることがある。そこで、エッチング処理が施されたウエハ裏面に貼合して、ダイシング工程終了後にピックアップしても、ウエハ裏面への粘着剤層などに起因する汚染物の少ないダイシングテープが求められている。このために、分子量10以下の低分子量成分の含有量が10質量%以下の粘着剤層を有する再剥離用粘着シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、薄型化された半導体ウエハの破損の防止を目的として、ウエハ裏面研削工程が終了した後、数時間以内に、半導体ウエハをダイシングテープ又はシートに貼り付けるケースが増加している。半導体ウエハをウエハ裏面研削工程の後、数時間以内の状態では、半導体ウエハの研削面には自然酸化膜が全面的に形成されておらず、未酸化状態の活性な原子が存在する活性面が存在するため、ウエハ裏面に汚染物が付着し、ピックアップ性が悪化するという問題が生じている。この問題に対し、ヒドロキシ基含有化合物又はその誘導体を特定量含有する粘着剤層を用いたダイシング用粘着テープ又はシートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、特許文献1に記載の再剥離用粘着シートのように、低分子量成分の含有量を少なくしても、汚染物を十分低減することは困難である。また、本発明者らは、特許文献2に記載のダイシング用粘着テープ又はシートを用いて、切削水をかけながらダイシングラインに沿ってダイシング工程を行った。その場合に、切削水により粘着剤層が膨潤し、ダイシング部が蛇行し、想定したラインで切断することができないことが判明した。また、特許文献2記載のダイシング用粘着テープ又はシートでは、放射線硬化前の粘着力が不十分で、切削水により、ダイシング時に半導体チップの端部が剥離され、チップ裏面に切削ダストが付着する問題があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−234136号公報
【特許文献2】特開2008−60434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐水性に優れるため、ダイシング工程で切削水が浸入することがなく、切削水で膨潤が発生せず、チップ裏面へ切削ダストを付着させることなく、大口径の半導体ウエハから薄型の半導体チップを効率よくピックアップできるダイシングテープ及びこれを用いた半導体ウエハの加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、分子内に放射線重合性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマーと、光重合開始剤と、特定の数平均分子量のポリプロピレンオキシドを用いてなる粘着剤層が基材樹脂フィルム上に形成されたダイシングテープは、耐水性に優れ、ダイシング工程における粘着剤の膨潤をおさえ、チップ裏面への切削ダスト付着を抑制でき、半導体ウエハの裏面研削の直後に、研削面としての活性面に、貼合した場合においても、容易に剥離させることができることを見出した。
本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0007】
すなわち本発明は、
<1>基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層が形成されたダイシングテープであって、該粘着剤層が、分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマーと、光重合開始剤と、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドを用いてなる放射線硬化性粘着剤層であって、
該ダイシングテープを、23℃で50%RHの条件下でシリコンミラー面に貼合した後、23℃で50%RHの条件下で24時間経過後の、放射線硬化前における剥離力(対シリコンミラー面、剥離角度:90°、引張速度:50mm/min、23℃で50%RH)が、0.5N〜3.5N/25mmであることを特徴とするダイシングテープ、
<2>基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層が形成されたダイシングテープであって、該粘着剤層が、アクリルポリマーと、分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する化合物と、光重合開始剤と、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドを用いてなる放射線硬化性粘着剤層であって、
該ダイシングテープを、23℃で50%RHの条件下でシリコンミラー面に貼合した後、23℃で50%RHの条件下で24時間経過後の、放射線硬化前における剥離力(対シリコンミラー面、剥離角度:90°、引張速度:50mm/min、23℃で50%RH)が、0.5N〜3.5N/25mmであることを特徴とするダイシングテープ、
<3>前記ポリプロピレンオキシドがポリオキシプロピレン−グリセリルエーテルであることを特徴とする<1>又は<2>記載のダイシングテープ、
<4>半導体ウエハの加工方法であって、ウエハ裏面研削工程の後、1時間以内に、半導体ウエハの研削面に、<1>〜<3>のいずれか1項記載のダイシングテープを貼合しダイシングして個片化した半導体チップを得る工程、放射線の照射によって放射線硬化性粘着剤層を硬化せしめ、個片化された半導体チップをピックアップする工程を具備することを特徴とする半導体ウエハの加工方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、耐水性に優れるため、ダイシング工程で切削水が浸入することがなく、切削水で膨潤が発生せず、チップ裏面へ切削ダストを付着させることなく、大口径の半導体ウエハから薄型の半導体チップを効率よくピックアップできるダイシングテープ及びこれを用いた半導体ウエハの加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のダイシングテープの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のダイシングテープを用いて半導体チップをピックアップする工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のダイシングテープについて図面を参照して説明する。図1に示されるように、本発明のダイシングテープ1は、基材樹脂フィルム2上に、粘着剤層3及び必要に応じて設けられるセパレータ4が形成されている。図1には、基材樹脂フィルム2の一方の面に粘着剤層3が設けられたダイシングテープが示されているが、基材樹脂フィルム2のうち、粘着剤層3が設けられた他方の面にも粘着剤層を設けてもよい(図示せず)。
【0011】
本発明のダイシングテープは、基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面の粘着剤層は、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドを含有している。このため、研削後の自然酸化膜が全面的に形成されていない状態の不安定なウエハ研削面に、該ダイシングテープを貼合した場合、不安定なウエハ研削面と、粘着剤層を構成する粘着剤との間で、化学的な結合が生じるのを抑制又は防止し、切断されて得られた半導体チップを容易にピックアップすることができる。また、ポリプロピレンオキシドの数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であることから、粘着剤の耐水性を損なうことがなく、粘着剤層がダイシング工程中に切削水に晒されても、粘着剤の膨潤を抑制することができる。
【0012】
1.基材樹脂フィルム
基材樹脂フィルム2としては、特に制限されるものでなく、従来の基材樹脂フィルムの中から適宜選択して用いることができる。粘着剤層3に用いられる粘着剤として放射線硬化性樹脂を用いるため、基材樹脂フィルム2は、ダイシング後に切断されて得られた半導体チップをピックアップできる程度に粘着剤層の粘着力を低減できる程度に放射線を透過することが必要である。使用する基材樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、およびポリブテンのようなポリオレフィン、スチレン−水添イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−水添ブタジエン−スチレン共重合体およびスチレン−水添イソプレン/ブタジエン−スチレン共重合体のような熱可塑性エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、およびエチレン−(メタ)アクリル酸金属塩系アイオノマーのようなエチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル等のエンジニアリングプラスチック、軟質ポリ塩化ビニル、半硬質ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、天然ゴムならびに合成ゴムなどの高分子材料が好ましい。また、これらの群から選ばれる2種以上が混合されたものもしくは複層化されたものでもよく、粘着剤層との接着性によって任意に選択することができる。基材樹脂フィルムの厚さは、特に制限するものではないが、好ましくは10〜500μmであり、より好ましくは40〜300μm、特に好ましくは70〜150μmである。
【0013】
2.放射線硬化性粘着剤層
本発明のダイシングテープにおいて、基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面側の粘着剤層は、分子内に放射線重合性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマー(X)と、ポリイソシアネートと、光重合開始剤と、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドから構成される放射線硬化性粘着剤層により形成されている。また本発明のダイシングテープにおいて、基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層が形成されたダイシングテープであって、該粘着剤層が、上記のアクリルポリマー(X)を含んでもよいアクリルポリマーと、分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する化合物と、光重合開始剤と、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドを用いてなる放射線硬化性粘着剤層により形成されている。
該放射線硬化型粘着剤層の厚みとしては、特に制限されないが、1〜30μmであることが好ましい。放射線硬化型粘着剤層の厚みが薄すぎるとダイシングの際に被加工物が剥離し、切断加工されたチップを保持できず、チップ飛びが発生することがある。一方、放射線硬化性粘着剤層が厚すぎると、被加工物をダイシングする際に発生する振動の振動幅が大きくなり、チップにチッピングと呼ばれる欠けが発生したり、チップの側面や表面にダイシング時に巻き上げられた粘着剤屑が付着し、チップを汚染することがある。
放射線硬化性粘着剤層の厚みとしては、特に3〜20μmであることが好適である。数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドを含有する放射線硬化型粘着剤層の厚みを3〜20μmにすることにより、ダイシングの際の被加工物の固定もより一層確実にすることができ、ダイシングの際の被加工物のチッピングやチップへの粘着剤屑の付着を、より一層低減することができる。
【0014】
(1)アクリルポリマー(X)
放射線硬化性粘着剤層を形成するための粘着剤としては、分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマー(X)をベースポリマーとして用いることができる。分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマー(X)としては、(メタ)アクリル酸エステルを構成成分(a)とするとともに、該(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能なモノマー(共重合性モノマー)中(側鎖、主鎖中または主鎖の末端など)に、放射線硬化性炭素−炭素二重結合が導入されたモノマーを構成成分(b)とするアクリルポリマー(X)を挙げることができる。このアクリルポリマー(X)と後述のポリプロピレンオキシドを併用することにより、凝集力や耐熱性などの改質を図ることができる。
【0015】
(アクリルポリマーの構成成分(a))
前記アクリルポリマーの構成成分(a)としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
前記アクリルポリマー(X)を製造する方法としては、特に制限されないが、例えば、前記アクリルポリマーの構成成分(a)と、官能基を有するモノマーを用いて共重合して、官能基を有するアクリル系ポリマーを調製した後、該官能基を有するアクリルポリマー中の官能基と反応し得る官能基と炭素−炭素二重結合とを有する化合物を、該官能基を有するアクリルポリマーに、炭素−炭素二重結合の放射線硬化性(放射線重合性)を維持した状態で、縮合反応又は付加反応させることにより、調製することができる。上記アクリルポリマー(X)は、縮合反応又は付加反応等により放射線硬化性炭素−炭素二重結合を導入するため、また、好ましくは、架橋剤により質量平均分子量(Mw)を高めるために、水酸基やカルボキシル基、グリシジル基などの官能基を有することが好ましい。
官能基を有するアクリルポリマーとしては、前記構成成分(a)の(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり、かつ官能基を有するモノマー(共重合性モノマー)を共重合することによって得ることができる。(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり、かつ水酸基を有するモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリルレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり、かつカルボキシル基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸)、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり、かつグリシジル基を有するモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマー(X)は、半導体ウエハ等の被加工物の汚染防止などの観点から、低分子量物の含有量が少ないものが好ましい。この観点から、アクリルポリマー(X)の質量平均分子量(Mw)としては、10万以上であることが好ましく、さらには20万〜200万であることが好適である。なお、アクリルポリマーの質量平均分子量(Mw)が、小さすぎると、半導体ウエハなどの被加工物に対する汚染防止性が低下し、大きすぎると放射線硬化型粘着剤層を形成するための粘着剤組成物の粘度が極めて高くなり、ダイシングテープの製造が困難となる。また、分子内に炭素−炭素二重結合を有するアクリル系ポリマーは粘着性発現の観点から、ガラス転移点が−70℃〜0℃であることが好ましく、更に好ましくは、−65℃〜−20℃である。ガラス転移点が低すぎるとポリマーの粘度が低くなりすぎ、安定した塗膜形成が困難となり、ガラス転移点が高すぎると、粘着剤が硬くなりすぎ、被着体に対する濡れ性が悪化する。
【0018】
(2)アクリルポリマー(Y)
本発明のダイシングテープの粘着剤層として、上記のアクリルポリマー(X)に代わり、またアクリルポリマー(X)とともに、それ以外のアクリルポリマー(Y)を使用することができる。アクリルポリマー(Y)としては、(メタ)アクリル酸エステル成分をモノマー主成分(重合体中の質量%が50%を越える)とし、該(メタ)アクリル酸エステル成分に対して、共重合が可能なモノマー成分とを共重合したものなどが挙げられる。
【0019】
アクリル系重合体において、モノマー主成分としての(メタ)アクリル酸エステル成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
(3)架橋剤
架橋剤を適宜用いることにより、粘着力を適宜制御することができる。架橋剤としては、特に制限されず、従来の架橋剤を用いることができるが、例えば、ポリイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン樹脂系架橋剤、尿素樹脂系架橋剤、酸無水化合物系架橋剤、ポリアミン系架橋剤、カルボキシル基含有ポリマー系架橋剤等から適宜選択して用いることができる。架橋剤の使用量としては特に制限されず、目的とする粘着力が得られる範囲内で適宜調整可能であるが、アクリルポリマー(X)及び/又はアクリルポリマー(Y)100質量部に対して0.01〜10質量部であることが好ましい。架橋剤の配合量が少なすぎると十分な架橋構造を得ることができず、一方、架橋剤の配合量が多すぎると、粘着剤のポットライフが短くなり、ダイシングテープの製造中に短時間でゲル化してしまう、もしくは、ダイシングテープとして製造可能であったとしても、貼り付け時に粘着性を発現できなくなる、といった問題が発生する。
なお、アクリルポリマー(X)及び/又はアクリルポリマー(Y)を架橋剤により架橋させる際には、アクリルポリマーとして、架橋剤に対して反応性を有する官能基を有していることが必要である。また、架橋剤として水酸基に対して反応性を有する架橋剤を用いることにより、後述のポリプロピレンオキシドを架橋構造中に取り込むことが可能となり、ポリプロピレンオキシドが被着体界面へ移行し、被着体表面を汚染することを防ぐことができる。水酸基に対して反応性を有する架橋剤としては、ポリイソシアネート系架橋剤、ポリグリシジルエーテル系架橋剤、シロキサン系架橋剤などを好適に用いることが可能である。
【0021】
(4)放射線硬化性成分
本発明の放射線硬化性粘着剤層を形成する粘着剤中には、放射線硬化後の物性を制御するために、前記のアクリルポリマー(X)のほかに、放射線硬化性成分が含まれていてもよい。また、アクリルポリマーが放射線硬化性でない場合(例えば、上記のアクリルポリマー(Y)しか含まない場合など)は、下記の放射線硬化性成分を含むことが必要である。
放射線硬化性成分としては、放射線硬化性炭素−炭素二重結合を含有する基(「炭素−炭素二重結合含有基」と称する場合がある)などの放射線重合性(放射線の照射による重合性)の官能基を有する化合物であれば特に制限されず、モノマー成分、オリゴマー成分のいずれであってもよい。具体的には、放射線硬化性成分としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と、多価アルコールとのエステル化物;エステルアクリレートオリゴマー;2−プロペニル−ジ−3−ブテニルシアヌレート等の炭素−炭素二重結合含有基を有しているシアヌレート系化合物;トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2−メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、2−ヒドロキシエチル ビス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ビス(2−アクリロキシエチル) 2−[(5−アクリロキシヘキシル)−オキシ]エチルイソシアヌレート、トリス(1,3−ジアクリロキシ−2−プロピル−オキシカルボニルアミノ−n−ヘキシル)イソシアヌレート、トリス(1−アクリロキシエチル−3−メタクリロキシ−2−プロピル−オキシカルボニルアミノ−n−ヘキシル)イソシアヌレート、トリス(4−アクリロキシ−n−ブチル)イソシアヌレート等の炭素−炭素二重結合含有基を有しているイソシアヌレート系化合物などが挙げられる。放射線硬化性成分としては、分子中に、炭素−炭素二重結合含有基を、平均2個以上含んでいるものを好適に用いることができる。放射線硬化性成分の粘度は、特に制限されない。放射線硬化性成分は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。放射線硬化性成分の配合量は、特に制限されるものではないが、ピックアップ時、すなわち、放射線照射後の引き剥がし粘着力を低下させることを考慮すると、前記アクリルポリマー(X)及び/又はアクリルポリマー(Y)100質量部に対して5〜50質量部配合することができる。放射性硬化性成分の構造(特に、二重結合基価数)にもよるが、放射線硬化性成分が多すぎると放射線硬化後の粘着剤層の脆性が増し、ピックアップ工程時、ダイシングテープをエキスパンドした際に粘着剤層のひび割れが生じたり、ニードルで突いた部分でチップ裏面に糊残りが生じるピンマークと呼ばれる不具合が生じたりする恐れがある。放射線硬化性成分が少なすぎると、ピックアップ時の剥離性が不十分となる。
【0022】
(4)光重合開始剤
粘着剤中には、放射線を照射した際に、効率よく、分子内に炭素−炭素二重結合を有する前記アクリルポリマー(X)や放射線硬化性成分の重合、硬化を行うために、光重合開始剤を含む。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル系開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3´−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン等のベンゾフェノン系開始剤;α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α´−ジメチルアセトフェノン、メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1等の芳香族ケトン系開始剤;ベンジルジメチルケタール等の芳香族ケタール系開始剤;チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ドデシルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系開始剤、ベンジル等のベンジル系開始剤、ベンゾイン等のベンゾイン系開始剤の他、α−ケトール系化合物(2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノンなど)、芳香族スルホニルクロリド系化合物(2−ナフタレンスルホニルクロリドなど)、光活性オキシム系化合物(1−フェノン−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムなど)、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、アシルホスフォナートなどが挙げられる。光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
光重合開始剤の配合量としては、分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマー(X)及び/又はアクリルポリマー(Y)100質量部に対して0.5〜30質量部、好ましくは1〜20質量部の範囲から適宜選択することができる。
【0023】
(5)ポリプロピレンオキシド
ポリプロピレンオキシドとしては、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であれば特に制限されず、従来のポリプロピレンオキシドの中から適宜選択することができる。ポリプロピレンオキシドの数平均分子量は、好ましくは、4000〜10000、さらに好ましくは、4000〜10000である。ポリプロピレンオキシドの数平均分子量が大きすぎると、ポリプロピレンオキシドと前記アクリルポリマー(X)との親和性が悪く、被着体の汚染が生じる。ポリプロピレンオキシドの数平均分子量が小さすぎると、粘着剤層の耐水性が不十分となり、切削水により粘着剤層が膨潤し、ダイシングラインの蛇行が生じる。
被着体に対する汚染の観点から、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下、さらに好ましくは、4000〜10000のポリオキシプロピレン−グリセリルエーテルが好ましい。数平均分子量がこの範囲のポリオキシプロピレン−グリセリルエーテルを用いることで、ポリプロピレンオキシド分子内の水酸基数が2から3に増えるため、ポリイソシアネート等の架橋剤との反応により、ポリプロピレンオキシドを架橋構造中に取り込まれる確率が増し、ポリプロピレンオキシドが被着体界面へ移行し、被着体表面の汚染を低減することができる。
【0024】
数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドとしては、ユニオールD−4000(数平均分子量4000)((商品名)、日油株式会社製)、プレミノールS4007(数平均分子量5000)((商品名)、旭硝子株式会社製)、プレミノールS4011(数平均分子量10000)((商品名)、旭硝子株式会社製)等を挙げることができる。数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテルとしては、ユニオールTG−4000(数平均分子量4000)((商品名)、日油株式会社製)、旭硝子株式会社製)、プレミノールS3006(数平均分子量5000)((商品名)、旭硝子株式会社製)、プレミノールS3011(数平均分子量10000)((商品名)、旭硝子株式会社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
数平均分子量が3000よりも大きく10000以下のポリプロピレンオキシドの配合量としては、分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマー(X)及び/又はアクリルポリマー(Y)100質量部に対して0.1〜3質量部、好ましくは0.5〜2.5質量部の範囲から適宜選択することができる。ポリプロピレンオキシドの配合量が少なすぎると、自然酸化膜が全面的に形成されていない状態の不安定なウエハ研削面に、ダイシング用粘着テープ又はシートが貼り合わせた場合に大口径の半導体ウエハから薄型の半導体チップを効率よくピックアップことができない。ポリプロピレンオキシドの配合量が多すぎると、放射線硬化前における粘着性が不十分となり、ダイシング時にチップの端部が剥離し、チップ裏面に切削ダストが付着する。
【0026】
放射線硬化型粘着剤層を形成するための粘着剤組成物中には、必要に応じて、例えば、粘着付与剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、軟化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤等の公知の添加剤などが含まれていてもよい。
【0027】
3.ダイシングテープ
本発明における粘着剤層は、従来の方法で基材樹脂フィルム上に形成することができる。例えば、放射線硬化性粘着剤層を、基材樹脂フィルムに塗布して形成する方法や、粘着剤を、セパレータ(例えば、離型剤が塗布されたプラスチック製フィルム又はシートなど)上に塗布して粘着剤層を形成した後、該粘着剤層を基材樹脂フィルムの所定の面に転写する方法により、基材樹脂フィルム上に粘着剤層を形成することができる。なお、粘着剤層は単層の形態を有していてもよく、積層された形態を有していてもよい。
セパレータ4は、粘着剤層3を保護する目的のため、ラベル加工のため、また粘着剤を平滑にする目的のために、必要に応じて設けられる。セパレータの構成材料としては、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルムなどが挙げられる。セパレータの表面には粘着剤層からの剥離性を高めるため、必要に応じてシリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理等の剥離処理が施されていても良い。また、必要に応じて、粘着シートが環境紫外線によって反応してしまわないように、紫外線防止処理が施されていてもよい。セパレータの厚みは、通常10〜100μm、好ましくは25〜50μm程度である。
本発明のダイシングテープは、23℃、50%RHの条件下でシリコンミラー面に貼合した後、23℃、60%RHの条件下で1時間経過後の、放射線硬化前における剥離力(対シリコンミラー面、剥離角度:90°、引張速度:50mm/min、23℃で50%RH)が、0.5〜3.5N/25mmである。この範囲内の粘着力を有するダイシングテープは、切削水により、ダイシング時に半導体チップの端部が剥離され、チップ裏面に切削ダストが付着する問題を防止する効果を奏することができる。
上記の剥離力が0.5〜3.5N/25mmであれば本発明の目的を達成することができる。
【0028】
4.半導体ウエハの加工方法
本発明のダイシングテープは、被切断物である半導体部品へ貼り付けるマウント工程の後に、常法に従ってダイシングに供され、更に放射線照射、ピックアップ工程へと移される。半導体部品としてはシリコン半導体、化合物半導体、半導体パッケージ、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
マウント工程は、通常、ウエハ裏面研削工程や、ウエハ裏面研削工程に続いて行われる破砕層除去工程などの後に、連続して(ウエハ裏面研削工程や破砕層除去工程の直後に)、または短期間のうちに(ウエハ裏面研削工程や破砕層除去工程が終了してから数時間以内に)実施される。マウント工程では、通常、半導体ウエハ等の被加工物と、ダイシングテープとを、被加工物における研削面と、粘着剤層とが接触する形態で重ね合わせ、圧着ロールを用いた押圧手段などの従来の押圧手段により押圧しながら、被加工物とダイシングテープとの貼り付けを行う。
ダイシング工程は、ブレードを高速回転させ、被切断体を所定のサイズに切断する。ダイシングは、ダイシングテープの一部まで切込みを行なうフルカットと呼ばれる切断方式等を採用できる。ダイシング後には、放射線、特に好ましくは、紫外線の照射により粘着剤層を硬化させ、粘着性を低下させ、ダイシングテープから半導体チップの剥離を容易に行うことができる。
放射線、特に好ましくは、紫外線照射の後は、ピックアップ工程に供される。ピックアップ工程では、エキスパンド工程を設けることができる。ピックアップ方法としては、特に限定されず、従来の種々のピックアップ方法を採用することができる。例えば、個々の切断片を、ダイシングテープからニードルによって突き上げ、突き上げられた切断片をピックアップ装置によってピックアップする方法などが挙げられる。
【実施例】
【0029】
次に本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
アクリル酸ブチルおよび2−ヒドロキシエチルアクリレートを7:3の割合で、酢酸エチル中で常法により共重合させて、アクリル共重合体を含む溶液(アクリル共重合体含有溶液A1)を得た。
次に、前記アクリル系共重合体含有溶液A1に、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、また、触媒としてジラウリン酸ジブチルスズを加えて、50℃で24時間反応させて、側鎖の末端に炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマー(X)を含む溶液A2を得た。
続いて、前記、側鎖の末端に炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマー(X)を含む溶液A2の100質量部に対して、光重合開始剤として商品名「イルガキュア651」(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製):2.5質量部と、ポリイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業社製):0.5質量部と、ポリプロピレンオキシドとして数平均分子量4000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテル(商品名「ユニオールTG−4000」(日油株式会社製)):2質量部とを加えて、紫外線硬化性アクリル粘着剤溶液B1を得た。
【0031】
(ダイシングテープの作製)
基材樹脂フィルムとして、片面にコロナ放電処理が施された低密度ポリエチレン製フィルム(厚み:100μm)を用いた。
そして、基材樹脂フィルムのコロナ放電処理面に、前記紫外線硬化性アクリル粘着剤溶液B1を塗布し、80℃で10分間加熱して、加熱架橋させた。これにより、基材樹脂フィルム上に、放射線硬化性粘着剤層としての紫外線硬化性粘着剤層(厚さ:5μm)を形成した。次に、この紫外線硬化性粘着剤層の表面にセパレータを貼り合わせて、紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0032】
(実施例2)
ポリプロピレンオキシドとして数平均分子量5000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテル(商品名「プレミノールS3006」(AGC株式会社製))を用いた以外は実施例1と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0033】
(実施例3)
ポリプロピレンオキシドとして数平均分子量10000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテル(商品名「プレミノールS3011」(AGC株式会社製))を用い、その配合部数を0.5質量部とした以外は実施例1と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0034】
(実施例4)
ポリプロピレンオキシドとして数平均分子量10000であるポリプロピレンオキシド(商品名「プレミノールS4011」(AGC株式会社製))を用い、その配合部数を0.5質量部とした以外は実施例1と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。
【0035】
(実施例5)
アクリル共重合体のモノマーとして、アクリル酸エチルと2−ヒドロキシエチルアクリレートを質量比8:2として得られた紫外線硬化性アクリル粘着剤溶液E1を得た。この溶液E1を用いた以外は実施例1と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0036】
(実施例6)
アクリル共重合体のモノマーとして、アクリル酸エチルと2−ヒドロキシエチルアクリレートを質量比8:2として得られた紫外線硬化性アクリル粘着剤溶液E1(実施例5で用いたのと同じ溶液)を用いた以外は実施例3と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0037】
(実施例7)
実施例1で調製したアクリル共重合体を含む溶液(アクリル共重合体含有溶液A1)100質量部に対して、光重合開始剤として商品名「イルガキュア651」(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製):2.5質量部と、ポリイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業社製):0.5質量部と、ポリプロピレンオキシドとして数平均分子量4000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテル(商品名「ユニオールTG−4000」(日油株式会社製)):2質量部及び放射線硬化性成分としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを10質量部加えたものを用いて、紫外線硬化性アクリル粘着剤溶液を得た。
【0038】
(ダイシングテープの作製)
基材樹脂フィルムとして、片面にコロナ放電処理が施された低密度ポリエチレン製フィルム(厚み:100μm)を用いた。
そして、基材樹脂フィルムのコロナ放電処理面に、前記紫外線硬化性アクリル粘着剤溶液を塗布し、80℃で10分間加熱して、加熱架橋させた。これにより、基材樹脂フィルム上に、放射線硬化性粘着剤層としての紫外線硬化性粘着剤層(厚さ:5μm)を形成した。次に、この紫外線硬化性粘着剤層の表面にセパレータを貼り合わせて、紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0039】
(実施例8)
放射線性硬化成分として添加したジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの配合量を60質量部とした以外は実施例7と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。
【0040】
(実施例9)
ポリイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業社製)の配合部数を2.0質量部とした以外は実施例5と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0041】
(実施例10)
ポリイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業社製)の配合部数を1.0質量部とした以外は実施例6と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0042】
(実施例11)
数平均分子量4000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテルの量を0.25質量部、ポリイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業社製)の配合部数を0.25質量部とした以外は実施例1と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0043】
(実施例12)
放射線性硬化成分として添加したジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの配合量を100質量部、数平均分子量4000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテルの量を1.0質量部、ポリイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業社製)の配合部数を0.25質量部とした以外は実施例7と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0044】
(比較例1)
ポリプロピレンオキシドの添加を行わない以外は、実施例1と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0045】
(比較例2)
ポリプロピレンオキシドの代わりに、数平均分子量2000のポリプロピレングリコール(商品名「ポリプロピレングリコール2000」(純正化学株式会社製))を用いた以外は、実施例1と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0046】
(比較例3)
数平均分子量2000のポリプロピレングリコールの量を5質量部とした以外は、比較例2と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0047】
(比較例4)
数平均分子量2000のポリプロピレングリコールの量を10質量部とした以外は、比較例2と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0048】
(比較例5)
ポリプロピレンオキシドとして数平均分子量3000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテル(商品名「ユニオールTG−3000」(日油株式会社製))を用い、その量を5質量部とした以外は、実施例1と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0049】
(比較例6)
ポリプロピレンオキシドとして分子量10000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテル(商品名「プレミノールS3011」(旭硝子株式会社製))を用いた以外は実施例1と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0050】
(比較例7)
ポリプロピレンオキシドとして数平均分子量10000であるポリプロピレンオキシド(商品名「プレミノールS4011」(旭硝子株式会社製))を用いた以外は実施例1と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。
【0051】
(比較例8)
ポリイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業社製)を6.0質量部とした以外は比較例1と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。
【0052】
(比較例9)
ポリプロピレンオキシドとして数平均分子量3000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテル(商品名「ユニオールTG−3000」(日油株式会社製))を用いた以外は実施例1と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。
【0053】
(比較例10)
数平均分子量10000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテル(商品名「プレミノールS3011」(旭硝子株式会社製))の量を1.5質部とした以外は実施例3と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0054】
(比較例11)
数平均分子量4000であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテルの量を0.1質量部とした以外は実施例11と同様にして紫外線硬化性のダイシングテープを作製した。
【0055】
(比較例12)
放射線性硬化成分として添加したジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの配合量を150質量部とした以外は実施例12と同様にして紫外線硬化型のダイシングテープを作製した。
【0056】
実施例1〜12および比較例1〜12で得られたダイシングテープについて、以下試験を行い、その評価結果を表1〜4に示す。
【0057】
<剥離力評価方法>
23℃、50%RHの条件下において、幅25mmの試験片をSiミラーウエハ上に19.6Nのゴムローラーを3往復かけて貼合し、同条件下において24時間放置した後、同じく23℃、50%RHの条件下において、引張試験機を用いて、角度90度、引張速さ50mm/minで試験片を引剥し剥離時の荷重を求めた。これを3回繰り返し、平均値を求めることで剥離力を評価した。
【0058】
<ピックアップ性の評価試験>
実施例1〜12および比較例1〜12で得られたダイシングテープについて、以下の手順に従って試験を行い、ピックアップ性の評価試験を行った。
(1)8インチの半導体ウエハを厚さ50μmまで研削した。
グラインダー:DISCO社製の「DFG−840」
1軸:♯600砥石(回転数:4800rpm、ダウンスピード:P1:3.0μm/sec、P2:2.0μm/sec)
2軸:♯2000砥石(回転数:5500rpm、ダウンスピード:P1:0.8μm/sec、P2:0.6μm/sec)
シリコンウエハの裏面を2軸にて30μm研削後、シリコンウエハの最終厚みが50μmとなるように研削した。
【0059】
(2)(1)の研削終了後5分以内に、各例のダイシングテープを、前記(1)で得られた半導体ウエハの研削面に貼着すると共に、リングフレームに固定した。
(3)(2)でリングフレームに固定された半導体ウエハを、ダイシング装置(ディスコ社製DAD340)を用いて、設定した分割予定ラインに沿って15×10mm角にフルカットした。
(ダイシング条件)
ダイサー:DISCO社製の「DFD−340」
ブレード:DISCO社製の「27HECC」
ブレード回転数:40000rpm
ダイシング速度:100mm/sec
ダイシング深さ:25μm
カットモード:ダウンカット
ダイシングサイズ:15.0×10.0mm
【0060】
(4)ダイシングテープを貼着してから7日間経過した後、ダイシングテープの基材樹脂フィルム側から、紫外線を100mJ/mm照射して粘着剤層を硬化させた後、個片化した半導体チップを、ダイスピッカー装置(キャノンマシナリー社製CAP−300II)を用いてピックアップした。任意の半導体チップ50個を、下記のピックアップ条件でピックアップし、ピックアップが成功した半導体チップ数をカウントし、50個全ての半導体チップのピックアップが成功した場合を○、45〜49個の半導体チップのピックアップが成功した場合を△とし、それ以外は×として、ピックアップ性を評価した。○の評価のみが、ピックアップ性が合格であり、それ以外は不合格である。
(ピックアップ条件)
ダイボンダー:NEC社製「CPS−100」
ピン数:4本
ピンの間隔:7.8×7.8mm
ピン先端曲率:0.25mm
ピン突き上げ量:0.40mm
【0061】
<耐ダスト浸入性>
ピックアップ評価においてピックアップしたチップについて、光学顕微鏡を用いてチップの裏面を観察し、端部に切削ダストの付着が見られるチップの数をカウントし、50個全ての半導体チップで切削ダストの付着が見られなかった場合を○、45〜49個の半導体チップで切削ダストの付着が見られなかった場合を△とし、それ以外は×として、ダスト浸入の評価とした。○の評価のみが、ピックアップ性が合格であり、それ以外は不合格である。
【0062】
<耐汚染性>
実施例1〜12および比較例1〜12で得られたダイシングテープについて、以下の手順に従って試験を行い、汚染性の評価試験を行った。
(1)5インチの半導体ウエハにダイシングテープを貼合した。
(2)ダイシングテープ貼合から7日間経過した後、ダイシングテープの基材フィルム側から、紫外線を100mJ/mm照射して粘着剤層を硬化させた後、ダイシングテープを剥離した。
(3)下記の条件でX線光電子分光分析を実施、元素ピークの強度比から有機物汚染物量の反定量分析を行い、C1sのatom%が30%未満のものを○、30%以上60%未満のものを△、60%以上のものを×とした。△の場合でも実質的には問題がないため、○及び△の評価が汚染性合格である。
励起X線:単色化AlKα線(1486.6eV)
脱出角:45°
wide scan:1350〜0eV
narrow scan:C1s、N1s、O1s、Si2p
測定領域:1.1mmφ
【0063】
<耐粘着剤膨潤性>
実施例1〜12および比較例1〜12で得られたダイシングテープについて、以下の手順に従って試験を行い、粘着剤層の膨潤汚染性の評価試験を行った。
(1)ダイシングテープを、8インチ、厚さ50μmの半導体ウエハの研削面に貼着すると共に、リングフレームに固定した。
(2)(1)でリングフレームに固定された半導体ウエハを、ダイシング装置(ディスコ社製DAD340)を用いて、設定した分割予定ラインに沿って2×2mm角にフルカットした。
(ダイシング条件)
ダイサー:DISCO社製の「DFD−340」
ブレード:DISCO社製の「27HECC」
ブレード回転数:40000rpm
ダイシング速度:10mm/sec
ダイシング深さ:25μm
カットモード:ダウンカット
ダイシングサイズ:2.0×2.0mm
(3)ダイシング終了後、10分以内に、ダイシングされた半導体ウエハのダイシングラインを光学顕微鏡により観察する。任意の50ラインのうち、粘着剤の膨潤により蛇行したダイシングラインの数をカウントし、50ライン全てのダイシングラインで蛇行が見られなかった場合を○、1〜5のダイシングラインで蛇行が見られた場合を△とし、それ以外は×として、粘着剤の膨潤を評価した。○及び△の評価が粘着剤膨潤性合格である。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
表1〜4に示されるように、粘着剤層にポリプロピレンオキシドを含まない場合はピックアップ性が不合格となり(比較例1、8)、ポリプロピレンオキシドを含む場合でも、シリコンミラー面に貼合した後、23℃で50%RHの条件下で24時間経過後の、放射線硬化前における剥離力が3.5N/25mmよりも大きい場合は僅かながらピックアップミスが発生した(比較例11,12)。また、ポリプロピレンオキシドを含む場合でも、その数平均分子量が3000以下である場合は、粘着剤の膨潤といった問題があり(比較例2〜5、9)、ポリプロピレンオキシドを含む場合でもシリコンミラー面に貼合した後、23℃で50%RHの条件下で24時間経過後の、放射線硬化前における剥離力が0.5N/25mmよりも小さい場合はダスト浸入が発生し、不合格となった(比較例3〜8、10)。
これに対して、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドを用い、シリコンミラー面に貼合した後、23℃で50%RHの条件下で24時間経過後の、放射線硬化前における剥離力が0.5〜3.5N/25mmである実施例では、いずれの評価項目にも合格し、優れた特性を示したが、ポリプロピレンオキシド分子内の水酸基数が2である場合(実施例4)よりも、ポリプロピレンオキシドとして分子内の水酸基数が3であるポリオキシプロピレン−グリセリルエーテルを用いた場合において汚染が少なく、更に良好な結果であった(実施例1〜3、5〜12)。
【符号の説明】
【0069】
1:ダイシングテープ
2:基材樹脂フィルム
3:粘着剤層
4:セパレータ
11:吸着コレット
12:半導体チップ
13:突き上げピン
14:ピンハイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層が形成されたダイシングテープであって、該粘着剤層が、分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有するアクリルポリマーと、光重合開始剤と、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドを用いてなる放射線硬化性粘着剤層であって、
該ダイシングテープを、23℃で50%RHの条件下でシリコンミラー面に貼合した後、23℃で50%RHの条件下で24時間経過後の、放射線硬化前における剥離力(対シリコンミラー面、剥離角度:90°、引張速度:50mm/min、23℃で50%RH)が、0.5〜3.5N/25mmであることを特徴とするダイシングテープ。
【請求項2】
基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層が形成されたダイシングテープであって、該粘着剤層が、アクリルポリマーと、分子内に放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する化合物と、光重合開始剤と、数平均分子量が3000よりも大きく10000以下であるポリプロピレンオキシドを用いてなる放射線硬化性粘着剤層であって、
該ダイシングテープを、23℃で50%RHの条件下でシリコンミラー面に貼合した後、23℃で50%RHの条件下で24時間経過後の、放射線硬化前における剥離力(対シリコンミラー面、剥離角度:90°、引張速度:50mm/min、23℃で50%RH)が、0.5N〜3.5N/25mmであることを特徴とするダイシングテープ。
【請求項3】
前記ポリプロピレンオキシドがポリオキシプロピレン−グリセリルエーテルであることを特徴とする請求項1又は2記載のダイシングテープ。
【請求項4】
半導体ウエハの加工方法であって、ウエハ裏面研削工程の後、1時間以内に、半導体ウエハの研削面に、請求項1〜3のいずれか1項記載のダイシングテープを貼合しダイシングして個片化した半導体チップを得る工程、放射線の照射によって放射線硬化性粘着剤層を硬化せしめ、個片化された半導体チップをピックアップする工程を具備することを特徴とする半導体ウエハの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−216841(P2012−216841A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−84375(P2012−84375)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】