説明

ダイナミックダンパ

【課題】ダイナミックダンパが振動体に対し片持ち状態で取り付けられた場合にも、その振動減衰特性を確保する技術を提供する。
【解決手段】ダイナミックダンパ3は、ダンパブラケット5と質量体7とゴム弾性体9とを備えている。ダンパブラケット5は、エンジンブラケット13に固定される固定部25と、該固定部25からエンジンブラケット13の外側へ張り出す底壁部15と、該底壁部15の張り出し方向と平行に、該底壁部15に対して略垂直に立設される側壁部35,35とを有している。質量体7は、底壁部15及び側壁部35,35にそれぞれゴム弾性体9を介して連結されている。固定部25には、張り出し方向に延びて側壁部35,35と接続されている補強壁部45,45が該固定部25に対して略垂直に立設されている。補強壁部45,45は、側壁部35,35と非平行な部分を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体に取り付けられてその振動を抑制するダイナミックダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば自動車のエンジンのような振動発生源やエンジンマウント、サスペンションメンバのような振動の伝達経路となる部材(以下、振動体と総称する)に付加振動系を取り付けて、所定の周波数域において振動体の振動を吸収し、その振動レベルを低下させるようにしたダイナミックダンパが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、底板と、該底板に立設された対向する一対の側板とを備えた断面コ字状のブラケットに、該側板間に挟まれるよう質量体を配置し、該質量体の両サイドと該各側板とをゴム製の連結体で連結したダイナミックダンパが開示されている。
【0004】
このダイナミックダンパの底板を振動発生源に固定すると、振動体の振動がゴム製の連結体に剪断力として作用することから、共振周波数を低く設定するのに有利となる。
【特許文献1】特開2005−188716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のもののように、底板に立設された側板に質量体を連結したダイナミックダンパを振動体に取り付ける際、振動体の直上など振動体近傍に質量体を配置するスペースが確保できない場合には、振動体から振動体周辺の空いたスペースに底板を突出させ、この突出させた部分に側板を立設し、該側板に弾性体を介して質量体を支持させることが多い。
【0006】
しかしながら、振動体に対し、ダイナミックダンパをこのような片持ち状態で取り付けた場合、以下のような問題がある。すなわち、振動体の振動周波数が高くなると、ブラケットの底板自体が振動し、ダイナミックダンパが質量体とブラケットとの2自由度の振動系となり、本来ダイナミックダンパが狙いとする周波数域とは異なる周波数域に共振点が現れるため、狙いとする所定の周波数域において振動体の振動を吸収することが困難になる。
【0007】
このような現象が生じると、質量体とブラケットとで構成される共振点を、狙いとする周波数域までチューニングのみによって動かすことは困難であり、また、底板の振動を抑制するために、ブラケットの底板を厚くして底板自体の振動を抑制することも考えられるが、限られたスペースで底板を厚くするのには限界があり、底板の振動を抑制するまでには至らない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ダイナミックダンパが振動体に対し片持ち状態で取り付けられた場合にも、その振動減衰特性を確保する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明では、振動体に取り付けられることでブラケットにおける固定側となる部分に補強壁部を設け、これを振動体から張り出すことでブラケットにおける自由側となる部分と接続することにより、当該補強壁部をこれら自由側の部分に対するリブと機能させるようにしている。
【0010】
すなわち、第1の発明は、振動体に取り付けられてその振動を抑制するダイナミックダンパであって、上記振動体に固定される固定部と、該固定部から上記振動体の外側へ張り出す底壁部と、該底壁部の張り出し方向と平行に、該底壁部に対して略垂直に立設されている側壁部とを有するブラケットと、上記底壁部及び上記側壁部にそれぞれゴム弾性体を介して連結されている質量体とを備え、上記固定部には、張り出し方向に延びて上記側壁部と接続されている補強壁部が該固定部に対して略垂直に立設されており、上記補強壁部は、上記側壁部と非平行な部分を有していることを特徴とするものである。
【0011】
第1の発明によれば、固定部は、振動体に固定されることによってブラケットにおける固定側となる一方、該固定部から振動体の外側へ張り出す底壁部は、該ブラケットにおける自由側となる。
【0012】
そして、張り出し方向に延びる補強壁部を固定部に対して略垂直に立設し、該補強壁部を底壁部に対して略垂直に立設された側壁部と接続することにより、該補強壁部が底壁部に対して該底壁部と直交する方向における剛性を高めるためのリブとして機能する。これにより、ダイナミックダンパを振動体に片持ち状態で取り付けた場合にも、底壁部の剛性が高められ、その振動が抑えられる。
【0013】
加えて、補強壁部は、側壁部と非平行な部分を有しているので、側壁部に対して該側壁部と直交する方向における剛性を高めるためのリブとして機能する。これにより、側壁部を介して側壁部と直交する方向における底壁部の剛性が高められ、その振動が抑えられる。
【0014】
以上により、底壁部及び側壁部の剛性が高まることでブラケット全体の剛性が向上し、ダイナミックダンパが1自由度の振動系に近づくことから、ダイナミックダンパの狙いとする周波数とは異なる周波数域に共振点が現れのを抑えることができる。したがって、ダイナミックダンパが振動体に対し片持ち状態で取り付けられた場合にも、その振動減衰特性を確保することができる。
【0015】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記補強壁部は、上記側壁部における上記固定部側の端部と接続されているとともに、上記底壁部と直交する方向から見て、上記側壁部の端部から該側壁部と直交する方向における上記質量体とは反対側に膨らむように湾曲していることを特徴とする。
【0016】
第2の発明によれば、補強壁部は、側壁部における固定部側の端部と接続されているので、例えば、側壁部における質量体とは反対側の面で接続される場合と比較して、ダイナミックダンパ自体をコンパクトにすることができる。
【0017】
また、補強壁部は、側壁部に対して質量体とは反対側に膨らむように湾曲しているので、その延びる方向と湾曲形状とが相俟って、該側壁部及び底壁部とそれぞれ直交する方向におけるブラケット全体の剛性を一層高めることができる。これにより、振動体の周波数が高くなった場合にも、ダイナミックダンパの振動減衰特性をより確保しやすくなる。
【0018】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記補強壁部は、その下端が上記固定部の縁部に接続されているとともに、張り出し方向から見て、その下端部が上記側壁部と直交する方向における上記質量体とは反対側に膨らむように湾曲していることを特徴とする。
【0019】
このように、補強壁部を2方向で湾曲させることにより、ブラケットの剛性がより一層高まり、ダイナミックダンパの振動減衰特性をより一層確保しやすくなる。
【0020】
第4の発明は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記補強壁部は、上記固定部及び上記側壁部と一体に形成されていることを特徴とする。
【0021】
第4の発明によれば、補強壁部が固定部及び側壁部と一体に形成されているので、例えば補強壁部を溶接によって固定部及び側壁部と接続しているものに比べて、これら各部分の断面性能の低下が抑えられる。したがって、ブラケットの剛性を確実に高めてその振動を抑えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るダイナミックダンパによれば、底壁部に立設された側壁部と非平行な部分を有する補強壁部を固定部に立設し、該補強壁部を側壁部と接続することにより、該補強壁部が側壁部及び底壁部とそれぞれ直交する方向でリブとして機能するので、これら両方向におけるブラケット自体の振動を抑えて、振動体の周波数が高くなった場合にも振動減衰特性を確保することがことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1は、エンジンマウントとその上方に配置されているダイナミックダンパとを示す図である。エンジンマウント1は、エンジン(図示せず)と車体(図示せず)との間に介在されて、該エンジンの静荷重を支持するとともに、該エンジンからの振動を吸収し又は減衰させて、車体への振動の伝達を抑制する機能を有している。このエンジンマウント1は、エンジンブラケット13を介して被支持体であるエンジンに取り付けられる概略円柱状の連結金具11と、これをゴム弾性体23を介して下方から支持する円筒状の支持金具17とを備えており、該支持金具17の外周面における車両前後方向にそれぞれ溶接された脚部19,19と車幅方向に延びる車体側ブラケット21によって、図示しない車体フレームに固定されるようになっている。上記ゴム弾性体23は、図示しないダイヤフラムによって下端が閉じられ、その内部に液体の封入される液室が形成されており、該液室が図示しないオリフィス盤によって上下2室に仕切られている。
【0025】
上記エンジンブラケット13は、アルミダイキャスト製であり、図2及び図3に示すように、全体として丸みを帯びた形状に形成されている。エンジンブラケット13の車幅方向外側の端部には、上下方向に貫通する貫通孔13aが形成されており、該貫通孔13aに上記エンジンマウント1の連結金具11が嵌合取付される。このエンジンブラケット13は該貫通孔13aが形成されている部分から車幅方向内側に行くに従って下方に延びているとともに、下方に行くに従って車両前後方向前側及び後側に拡がっている。
【0026】
上記エンジンブラケット13には、その車幅方向中央部に、車両前後方向に並んで上方に延びる一対のダンパ支承部13b,13bが形成されている一方、その車幅方向内側の端部に車両前後方向に並んで下方に突起する3つのエンジン固定部13d,13d,13dが形成されている。
【0027】
上記ダンパ支承部13b,13bは、後述するダイナミックダンパ3の固定部25(図3(b)の二点鎖線)が水平に載置されるように、その上端がフラットに形成されている。また、各ダンパ支承部13b,13bには、ダイナミックダンパ3締結用のボルト27,27が螺合されるボルト挿通孔13c,13cがそれぞれ形成されている。
【0028】
一方、エンジン固定部13d,13d,13dは、エンジンが水平に載置されるように、その上端がフラットに形成されている。また、各エンジン固定部13d,13d,13dには、エンジン締結用のボルト(図示せず)を挿通するためのボルト挿通孔13e,13e,13eがそれぞれ形成されている。
【0029】
ダイナミックダンパ3は、上記エンジンブラケット(振動体)13に取り付けられてその振動を吸収することで、エンジンのチェーンノイズを抑制するものである。このダイナミックダンパ3は、図4〜図7に示すように、金属製のダンパブラケット(ブラケット)5と、該ダンパブラケット5で支持されている金属製の質量体7と、該質量体7をダンパブラケット5に連結するゴム弾性体9とを備えている。
【0030】
上記ダンパブラケット5は、エンジンブラケット13に固定される固定部25と、該固定部25と面一な底壁部15と、該底壁部15に立設されている一対の側壁部35,35とを有している。
【0031】
上記固定部25は、上記エンジンマウント1の連結金具11の外周面(エンジンブラケット13の貫通孔13aの周縁)に沿うように、車両前後方向に二叉に分かれた前側固定片25a及び後側固定片25bを有している。より具体的には、固定部25は、上記連結金具11の車幅方向内側の外周面に沿うような半円弧とこれよりも小径の2つ円弧を滑らかに繋いだような輪郭に形成されている。
【0032】
これら両固定片25a,25bには、固定部25をエンジンブラケット13にボルト締結するためのボルト挿通孔25c,25dがそれぞれ形成されている。これらボルト挿通孔25c,25dに挿通されたボルト27,27を、上記ダンパ支承部13b,13bのボルト挿通孔13c,13cに螺合させて締め付けることにより、ダンパブラケット5がエンジンブラケット13に締結固定される。なお、車両前後方向後側のボルト挿通孔25dは、エンジンブラケット13に形成されたボルト挿通孔13c,13cの公差を吸収するために長穴になっている。
【0033】
上記底壁部15は、上記固定部25と一体に形成されており、車両前後方向に延びる長方形板状をなしている。この底壁部15は、図2に示すように、固定部25を固定点とする片持ち梁のように、該固定部25から上記エンジンブラケット13の外側(車幅方向内側)へ張り出している。
【0034】
上記一対の側壁部35,35は、車両前後方向前側の側壁部35aと後側の側壁部35bとからなり、車幅方向(底壁部15の張り出し方向)と平行に(に沿って)該底壁部15に対して略垂直に立設されている。より具体的には、前側及び後側側壁部35a,35bは、底壁部15の車両前後方向の延長部分をそれぞれR加工で90度折り曲げることによって形成されており、底壁部15の車両前後方向両端部からそれぞれ上方に延びている。これにより、ダンパブラケット5は、図6に示すように、車幅方向から見て角部がR加工された断面略コ字状に形成されている。
【0035】
上記質量体7は、車両前後方向に延びる金属製の直方体であり、その底面が底壁部15の上面に、また、その長手方向の両端面が対向する側壁部35a,35bの車両前後方向内側の面にそれぞれゴム弾性体9を介して連結されている。換言すると、質量体7の下側のゴム弾性体9bは、質量体7の底面と底壁部15の上面とに加硫接着されているとともに、質量体7の側方のゴム弾性体9a,9aは、質量体7の車両前後方向両端面と側壁部35a,35bの内側面とに加硫接着されている。
【0036】
このように、ゴム弾性体9を介して質量体7をダンパブラケット5で支持することにより、エンジンブラケット13の上下方向の振動に対しては主としてゴム弾性体9a,9aのせん断方向(上下方向)での撓みがダンパとして機能し、同様にエンジンブラケット13の水平方向の振動に対してはゴム弾性体9bのせん断方向(水平方向)での撓みがダンパとして機能して各方向の振動を減衰させる。
【0037】
ここで、ダイナミックダンパ3は固定部25を固定点とする片持ち状態でエンジンブラケット13に取り付けられることから、エンジンブラケット13の振動周波数が高くなると、ダンパブラケット5の底壁部15自体が振動し、ダイナミックダンパ3が質量体7とダンパブラケット5との2自由度の振動系となり、本来ダイナミックダンパ3が狙いとする周波数域よりも低い周波数域に共振点が現れるおそれがある(図8及び図9参照)。
【0038】
そこで、本発明のダイナミックダンパ3では、特に底壁部15の剛性を高めてダンパブラケット5全体の剛性を向上させるための補強壁部45,45が、上記固定部25及び側壁部35a,35bと一体に形成されている。
【0039】
上記補強壁部45,45は、車両前後方向前側の補強壁部45aと後側の補強壁部45bとからなり、これら前側及び後側補強壁部45a,45bは、車幅方向(張り出し方向)に延びるように前側及び後側固定片25a,25bに対してそれぞれ略垂直且つ一体に立設されているとともに、前側及び後側側壁部35a,35bとそれぞれ一体接続されている。そして、これら前側及び後側補強壁部45a,45bは、それぞれ側壁部35a,35bと非平行な部分(湾曲部)を有している。
【0040】
より具体的には、前側補強壁部45aは、前側側壁部35aにおける車幅方向外側(固定部25側)の端部と一体接続されていて、車幅方向外側(底壁部15の張り出し方向におけるエンジンブラケット13側)に延びているとともに、平面視で(底壁部15と直交する方向から見て)、前側側壁部35aの車幅方向外側の端部から車両前後方向前側(側壁部35a,35bと直交する方向における質量体7とは反対側)に膨らむように湾曲している。一方、後側補強壁部45bは、後側側壁部35bにおける車幅方向外側の端部と一体接続されていて、車幅方向外側に延びているとともに、平面視で、後側側壁部35bの車幅方向外側の端部から車両前後方向後側に膨らむように湾曲している。
【0041】
このように、補強壁部45a,45bを車幅方向外側に延ばすことにより、補強壁部45a,45bが底壁部15に対して、上下方向における剛性を高めるためのリブとして機能する一方、補強壁部45a,45bを車両前後方向前側及び後側に膨らむように湾曲させることにより、補強壁部45a,45bが底壁部15及び側壁部35a,35bに対して、該車両前後方向における剛性を高めるためのリブとして機能する。したがって、車両前後方向及び上下方向における底壁部15の剛性が高まり、ダンパブラケット5全体の剛性が向上する。なお、補強壁部45a,45bを対向する側壁部35a,35bの内側ではなく外側に湾曲させているので、ゴム弾性体9を加硫成形する際、型抜き作業が容易となる。
【0042】
また、前側補強壁部45aは、その下端が前側固定片25aの車両前後方向前側の縁部に一体接続されているとともに、車幅方向(底壁部15の張り出し方向)から見て、その下端部が車両前後方向前側(前側側壁部35aと直交する方向における質量体7とは反対側)に膨らむように湾曲している。一方、後側補強壁部45bは、その下端が後側固定片25bの車両前後方向後側の縁部に一体接続されているとともに、車幅方向から見て、その下端部が車両前後方向後側(後側側壁部35bと直交する方向における質量体7とは反対側)に膨らむように湾曲している。このように、補強壁部45a,45bの下端部をそれぞれ車両前後方向前側及び後側に曲げることにより、ダンパブラケット5全体の剛性が向上する。
【0043】
以上のように、本発明のダイナミックダンパ3では、補強壁部45a,45bが固定部25及び側壁部35a,35bと一体に形成されていることから、エンジンブラケット13に片持ち状態で取り付けられた場合にも、補強壁部45a,45bが設けられていないダイナミックダンパに比して、上下方向及び車両前後方向における共振周波数が、図8及び図9に示すように改善される。
【0044】
図8は、加振機(図示せず)の供試体取付台に取り付けたダイナミックダンパを水平方向に振動させることによって得られた、振動体(供試体取付台)の振動周波数とダイナミックダンパの共振倍率との関係を模式的に示すグラフ図であり、また、図9は、同じく加振機の供試体取付台に取り付けたダイナミックダンパを上下方向に振動させることによって得られた、振動体の振動周波数とダイナミックダンパの加速度との関係を模式的に示すグラフ図である。なお、図8及び図9において、破線は、補強壁部45a,45bが設けられていないダイナミックダンパを供試体取付台に片持ち状態で取り付け場合(以下、従来のダイナミックダンパという)の測定値を、実線は、本実施形態のダイナミックダンパ3を供試体取付台に片持ち状態で取り付け場合の測定値をそれぞれ示す。
【0045】
図8に示すように、従来のダイナミックダンパでは、振動の周波数がある程度高くなると、ダンパブラケットの底壁部及び側壁部自体が水平方向に振動し、ダイナミックダンパが質量体とブラケットとの2自由度の振動系となり、本来ダイナミックダンパ3が狙いとする共振周波数Xの高周波数側と低周波数側に2つの共振点が現れた。つまり、狙いとする共振周波数X近傍が極小となり、振動体の振動を吸収することが困難な状態となった。これに対し、本実施形態のダイナミックダンパ3では、ダンパブラケット5の底壁部15及び側壁部35a,35bの水平振動が補強壁部45a,45bによって抑えられ、ダイナミックダンパ3が1自由度の振動系となり、狙い通り(設計通り)の共振周波数Xが得られた。
【0046】
また、図9に示すように、従来のダイナミックダンパでは、振動の周波数がある程度高くなると、ダンパブラケットの底壁部自体が上下に振動することにより、本来ダイナミックダンパ3が狙いとする上下方向における共振周波数Zよりも低い周波数領域に共振点が現れた。これに対し、本実施形態のダイナミックダンパ3では、補強壁部45a,45bが設けられていることにより、ダンパブラケット5の底壁部15の上下振動が抑えられ、狙い通りの高い共振周波数Zが得られることが確認された。
【0047】
−効果−
本実施形態によれば、固定部25は、エンジンブラケット13に固定されることによってダンパブラケット5における固定側となる一方、該固定部25からエンジンブラケット13の外側へ張り出す底壁部15は、該ダンパブラケット5における自由側となる。
【0048】
そして、車幅方向に延びる補強壁部45a,45bを固定部25に対して略垂直に立設し、該補強壁部45a,45bを底壁部15に対して略垂直に立設された側壁部35a,35bと接続することにより、該補強壁部45a,45bが底壁部15に対して上下方向における剛性を高めるためのリブとして機能する。これにより、ダイナミックダンパ3をエンジンブラケット13に片持ち状態で取り付けた場合にも、底壁部15の剛性が高められ、その振動が抑えられる。
【0049】
加えて、補強壁部45a,45bは、側壁部35a,35bと非平行な部分を有しているので、側壁部35a,35bに対して車両前後方向における剛性を高めるためのリブとして機能する。これにより、側壁部35a,35bを介して車両前後方向における底壁部15の剛性が高められ、その振動が抑えられる。
【0050】
以上により、底壁部15及び側壁部35a,35bの剛性が高まることでダンパブラケット5全体の剛性が向上し、ダイナミックダンパ3が1自由度の振動系になることから、ダイナミックダンパ3の狙いとする周波数とは異なる周波数域に共振点が現れのを抑えることができる。したがって、ダイナミックダンパ3がエンジンブラケット13に対し片持ち状態で取り付けられた場合にも、その振動減衰特性を確保することができる。
【0051】
また、補強壁部45a,45bは、側壁部35a,35bにおける車幅方向外側の端部と接続されているので、例えば、前側側壁部35aにおける車両前後方向前側の面で接続される場合や後側側壁部35bにおける車両前後方向後側の面で接続される場合と比較して、ダイナミックダンパ3自体をコンパクトにすることができる。
【0052】
さらに、前側補強壁部45aは前側側壁部35aに対して車両前後方向前側に膨らむように、また、後側補強壁部45bは後側側壁部35bに対して車両前後方向後側に膨らむようにそれぞれ湾曲しているので、その延びる方向と湾曲形状とが相俟って、上下方向及び車両前後方向におけるダンパブラケット5全体の剛性を一層高めることができる。これにより、エンジンブラケット13の周波数が高くなった場合にも、ダイナミックダンパ3の振動減衰特性をより確保しやすくなる。
【0053】
また、車幅方向から見て、前側補強壁部45aはその下端部が車両前後方向前側に膨らむように湾曲して前側固定片25aの縁部に、また後側補強壁部45bはその下端部が車両前後方向後側に膨らむように湾曲して後側固定片25bの縁部にそれぞれ接続されている。このように、補強壁部45a,45bを2方向で湾曲させることにより、ダンパブラケット5の剛性がより一層高まり、ダイナミックダンパ3の振動減衰特性をより一層確保しやすくなる。
【0054】
さらに、補強壁部45a,45bが固定部25及び側壁部35a,35bと一体に形成されているので、例えば補強壁部45a,45bを溶接によって固定部25及び側壁部35a,35bと接続しているものに比べて、これら各部分25,35a,35bの断面性能の低下が抑えられる。したがって、ダンパブラケット5の剛性を確実に高めてその振動を抑えることができる。
【0055】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、断面コ字状のダンパブラケット5を用いたが、これに限らず、底壁部15とその一端から略垂直に立設さる側壁部35とを有する断面L字状のダンパブラケット5を用いてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、前側補強壁部45aを車両前後方向前側に膨らむように、また、後側補強壁部45bを車両前後方向後側に膨らむようにそれぞれ湾曲させたが、これに限らず、補強壁部45a,45bが側壁部35a,35bと非平行な部分を有していればよく、例えば、側壁部35a,35bに沿って車幅方向外側に延びた後、車両前後方向に曲がるように補強壁部45a,45bを形成してもよいし、車幅方向外側に行くにしたがって車両前後方向前側又は後側に傾斜するように補強壁部45a,45bを形成してもよい。
【0057】
さらに、上記実施形態では、補強壁部45a,45bを、固定部25及び側壁部35a,35bと一体に形成したが、これに限らず、例えば、補強壁部45a,45bを、固定部25及び側壁部35a,35bのいずれか一方又は双方と別体に形成してもよい。
【0058】
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0059】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明は、振動体に対し片持ち状態で取り付けられるダイナミックダンパ等について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係るダイナミックダンパのエンジンブラケットへの取付状態を示す斜視図である。
【図2】ダイナミックダンパのエンジンブラケットへの取付状態を示す側面図である。
【図3】エンジンブラケットを示す図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)のb−b線の矢視断面図である。
【図4】ダイナミックダンパの斜視図である。
【図5】ダイナミックダンパの上面図である。
【図6】ダイナミックダンパの側面図である。
【図7】ダイナミックダンパの下面図である。
【図8】水平方向における振動体の振動周波数とダイナミックダンパの共振倍率との関係を模式的に示すグラフ図である。
【図9】上下方向における振動体の振動周波数とダイナミックダンパの加速度との関係を模式的に示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0062】
3 ダイナミックダンパ
5 ダンパブラケット(ブラケット)
7 質量体
9 ゴム弾性体
13 エンジンブラケット(振動体)
15 底壁部
25 固定部
35a 前側側壁部
35b 後側側壁部
45a 前側補強壁部
45b 後側補強壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体に取り付けられてその振動を抑制するダイナミックダンパであって、
上記振動体に固定される固定部と、該固定部から上記振動体の外側へ張り出す底壁部と、該底壁部の張り出し方向と平行に、該底壁部に対して略垂直に立設されている側壁部とを有するブラケットと、
上記底壁部及び上記側壁部にそれぞれゴム弾性体を介して連結されている質量体とを備え、
上記固定部には、張り出し方向に延びて上記側壁部と接続されている補強壁部が該固定部に対して略垂直に立設されており、
上記補強壁部は、上記側壁部と非平行な部分を有していることを特徴とするダイナミックダンパ。
【請求項2】
請求項1記載のダイナミックダンパにおいて、
上記補強壁部は、上記側壁部における上記固定部側の端部と接続されているとともに、上記底壁部と直交する方向から見て、上記側壁部の端部から該側壁部と直交する方向における上記質量体とは反対側に膨らむように湾曲していることを特徴とするダイナミックダンパ。
【請求項3】
請求項2記載のダイナミックダンパにおいて、
上記補強壁部は、その下端が上記固定部の縁部に接続されているとともに、張り出し方向から見て、その下端部が上記側壁部と直交する方向における上記質量体とは反対側に膨らむように湾曲していることを特徴とするダイナミックダンパ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のダイナミックダンパにおいて、
上記補強壁部は、上記固定部及び上記側壁部と一体に形成されていることを特徴とするダイナミックダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−117016(P2010−117016A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292704(P2008−292704)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】