説明

ダイヤモンド切削工具

【課題】耐摩耗性と耐欠損性に優れた単結晶ダイヤモンドチップを備えたダイヤモンド切削工具を提供する。
【解決手段】十二面体単結晶ダイヤモンド5の(113)面を研磨加工、または、レーザー加工によりカットし、単結晶ダイヤモンドチップ4の逃げ面4Bとして使用する。十二面体単結晶ダイヤモンド5の(113)面は、最も硬く対摩耗性の大きな(111)面と同等の硬さと対摩耗性を有する面である。この逃げ面4Bに対して、逃げ角α1が10°になる面をすくい面4Aとして設定すれば、このすくい面4Aは、十二面体単結晶ダイヤモンド5の(111)面に一致する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削工具、特に、金型や転写ロール等の耐摩耗性の大きな材料を切削して長寿命であり、従来から切削の対象としたアルミニウムや銅等の非鉄金属材料、繊維強化プラスチックやセラミックス等の非金属材料を鏡面加工できるダイヤモンド切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶ダイヤモンドチップを備えたダイヤモンド切削工具は、刃先を鋭利に創成できるため、銅やアルミニウム等の非鉄金属材料の鏡面切削用工具として使用される。このような単結晶ダイヤモンドチップは、下記特許文献にその例を見ることができる。例えば、特許文献1には、研磨の容易さと研磨による原石の目減りが少ないという理由から、すくい面を(110)面とし、逃げ面を(001)面とすることが開示されている。
【0003】
また、特許文献2に示すダイヤモンド切削工具は、すくい面を(110)面とし、逃げ面を(111)面と(110)面の中間的結晶面にしている。しかし、このような(110)面、(001)面、(111)面と(110)面の中間的結晶面は、研磨の容易さと研磨による原石の目減りが少ないという点からは好ましいが、切削工具としては、耐摩耗性、耐欠損性の点からは最適と言えるものではなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平6−126512号公報
【特許文献2】特開平5−245705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来よりも耐摩耗性と耐欠損性に優れた単結晶ダイヤモンドチップを備えたダイヤモンド切削工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、十二面体単結晶ダイヤモンドを原石とした単結晶ダイヤモンドチップをその先端に有したダイヤモンド切削工具であって、結晶格子面(111)面をすくい面とするとともに、結晶格子面(113)面の内、前記(111)面と約80°の角度をなして交差する結晶格子面を逃げ面としたことを特徴とするダイヤモンド切削工具である。
【0007】
第2番目の発明は、第1番目の発明のダイヤモンド切削工具において、すくい角を−5°から10°までの間の角度に選び、その結果、逃げ角は15°から0°までの間にあることを特徴とするダイヤモンド切削工具である。
【0008】
第3番目の発明は、第2番目の発明のダイヤモンド切削工具において、上記すくい面は、前記十二面体単結晶ダイヤモンドをレーザー加工することによって形成されたものであることを特徴とするダイヤモンド切削工具である。
【0009】
第4番目の発明は、第3番目の発明のダイヤモンド切削工具において、上記すくい面と上記逃げ面の交線に形成される切れ刃は、集束イオンビーム加工によって形成されたものであることを特徴とするダイヤモンド切削工具である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダイヤモンド切削工具では、単結晶ダイヤモンドチップの逃げ面を結晶格子面(113)面とし、すくい面を、結晶格子面(113)面の内、前記(111)面と約80°の角度をなして交差する結晶格子面としている。
【0011】
従って、逃げ面とすくい面の両方が、硬さと対摩耗性を有する面となり、逃げ角も10°前後の適切な角度が得られるため、耐摩耗性と耐欠損性に優れた単結晶ダイヤモンドチップを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の実施例のダイヤモンド切削工具を示し、(1)は平面図、(2)は(1)の側面図である。図2(1)は図1(1)のP部拡大図、図2(2)は図1(2)のQ部拡大図である。図3は、本発明の実施例の単結晶ダイヤモンドチップの原石となる十二面体単結晶ダイヤモンドを示し、(1)は十二面体単結晶ダイヤモンドの斜視図、(2)は(1)のC軸方向から見たR矢視図、(3)は(2)のS矢視図である。
【0013】
図1に示すように、本発明の実施例のダイヤモンド切削工具1は、シャンク2の上に台金3を固定し、台金3の上に単結晶ダイヤモンドチップ4をろう付けしている。シャンク2と台金3は、超硬合金で作られている。
【0014】
図2の拡大図に示すように、単結晶ダイヤモンドチップ4は、刃先角θが、例えば、33°で、すくい面4Aと逃げ面4B、落とし面4Cを有している。すくい面4Aと逃げ面4Bの交線に円弧状の切れ刃4Dが形成されている。一般的には、単結晶ダイヤモンドチップ4の切れ刃4Dの角部は、丸みが無いか、無視できるほどに丸みが小さく角張っている。これをピン角というが、必要に応じて意図的に微小半径Rの丸みを付けることもある。本発明の実施例では、切れ刃4Dの微小半径Rは、例えば、2μmで、研磨が難しい超微細加工となるため、集束イオンビーム(Focused Ion Beam)加工により形成されている。集束イオンビームが達する深さには制約があるので、逃げ面4Bの高さHは、50μm程度にし、その下部を図示のように落とす(つまり、落とし面4Cを形成する)のが好ましい。
【0015】
すくい面4Aは、この例の場合、すくい角を0°とし、十二面体単結晶ダイヤモンド5の結晶格子面(111)面に設定している。また、逃げ面4Bは、結晶格子面(113)面の内、前記(111)面と約80°の角度をなして交差する結晶格子面に設定している。
【0016】
結晶格子面(113)面には、同じ(113)面であっても、結晶格子面(111)面との交差角度との関係で見たとき、異なる3つの面(約30°、約59°、及び、約80°で交差する3つの面)が存在する。この内、約80°で交差する面は、結晶格子面(111)面に直交する面からは、約10°だけ偏った面である。この約10°という角度は単結晶ダイヤモンド切削工具において、通常採用されている逃げ角の大きさに相当する。
【0017】
発明者は、このことから、結晶格子面(111)面をすくい面とし、且つ、結晶格子面(113)面の内、特に上記80°をなす面を、逃げ面とするという選択と組み合わせが最適であり、これにより、各面はそれ自体耐摩耗性に優れているだけでなく、ダイヤモンド工具として最適の角度関係がえられということを見いだした。
【0018】
なお、落とし面4Cの落とし角α2は20°で、十二面体単結晶ダイヤモンド5の(113)面を研磨加工して形成されている。
【0019】
次ぎに、上記した単結晶ダイヤモンドチップ4を十二面体単結晶ダイヤモンド5からカットする方法について説明する。図3に示すように、単結晶ダイヤモンドチップ4の原石となる十二面体単結晶ダイヤモンド5は、十二個の(110)面で構成されている。a、b、c、3つの直交する矢印は、十二面体単結晶ダイヤモンド5の3つの主軸を表す座標軸である。
【0020】
図3(3)に示すように、十二面体単結晶ダイヤモンド5の(113)面を研磨加工、または、レーザー加工によりカットし、単結晶ダイヤモンドチップ4の逃げ面4Bとして使用する。この逃げ面4Bとして使用する(113)面は、最も硬く対摩耗性の大きな(111)面と、同等の硬さと対摩耗性を有する面である。
【0021】
この逃げ面4Bに対して、逃げ角α1が10°になる面をすくい面4Aとして設定すれば、このすくい面4Aは、十二面体単結晶ダイヤモンド5の(111)面に一致する。十二面体単結晶ダイヤモンド5の(113)面と(111)面との間の角度は、正確には10.02°となる。
【0022】
研磨ロスを最小にするために、この大粒の十二面体単結晶ダイヤモンド5を、レーザー加工により(111)面で2等分すれば、ほぼ同一形状の2個の単結晶ダイヤモンドチップを得ることができる。このレーザー加工で2等分した(111)面を、単結晶ダイヤモンドチップ4のすくい面4Aとして使用する。また、(111)面はへき開しやすい面であるので、へき開により、十二面体単結晶ダイヤモンド5を(111)面で2等分してもよい。さらに、すくい面4Aに平行に、ろう付け面4Eを研磨加工により形成する。ろう付け面4Eは、単結晶ダイヤモンドチップ4を台金3へろう付けする面である。
【0023】
すくい面4A、ろう付け面4Eは、十二面体単結晶ダイヤモンド5の最も硬い面(111)面であるため、研磨が非常に困難であるが、十二面体単結晶ダイヤモンド5の(110)面側に若干傾斜させれば研磨が可能となる。逃げ面4Bの逃げ角α1は、10°が好ましいが、逃げ角α1が0°から15°の範囲になるように、すくい面4A、ろう付け面4Eを研磨加工してもよい。
【0024】
また、すくい面4Aのすくい角は0°が好ましいが、−5°から10°の範囲になるように、すくい面4Aに対してろう付け面4Eを傾斜して研磨加工してもよい。
【0025】
逃げ面4Bが(110)面に形成された従来の単結晶ダイヤモンドチップでは、端面の直径が40mmのレンズ金型(材質がアンバー)の加工で、単結晶ダイヤモンドチップが寿命となった。これに対し、逃げ面4Bを(113)面に形成した本発明の実施例の単結晶ダイヤモンドチップ4の切削試験では、ワンパスで、端面の直径が80mmのレンズ金型(材質がアンバー)の加工が可能で、従来の4倍の切削面積の加工が可能となり、耐摩耗性と耐欠損性に優れた単結晶ダイヤモンドチップを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例のダイヤモンド切削工具を示し、(1)は平面図、(2)は(1)の側面図である。
【図2】(1)は図1(1)のP部拡大図、(2)は図1(2)のQ部拡大図である。
【図3】本発明の実施例の単結晶ダイヤモンドチップの原石となる十二面体単結晶ダイヤモンドを示し、(1)は十二面体単結晶ダイヤモンドの斜視図、(2)は(1)のR矢視図、(3)は(2)のS矢視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 ダイヤモンド切削工具
2 シャンク
3 台金
4 単結晶ダイヤモンドチップ
4A すくい面
4B 逃げ面
4C 落とし面
4D 切れ刃
4E ろう付け面
5 十二面体単結晶ダイヤモンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
十二面体単結晶ダイヤモンドを原石とした単結晶ダイヤモンドチップをその先端に有したダイヤモンド切削工具であって、
結晶格子面(111)面をすくい面とするとともに、結晶格子面(113)面の内、前記(111)面と約80°の角度をなして交差する結晶格子面を逃げ面としたこと
を特徴とするダイヤモンド切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載されたダイヤモンド切削工具において、
すくい角を−5°から10°までの間の角度に選び、その結果、逃げ角は15°から0°までの間にあることこと
を特徴とするダイヤモンド切削工具。
【請求項3】
請求項2に記載されたダイヤモンド切削工具において、
上記すくい面は、前記十二面体単結晶ダイヤモンドをレーザー加工することによって形成されたものであること
を特徴とするダイヤモンド切削工具。
【請求項4】
請求項3に記載されたダイヤモンド切削工具において、
上記すくい面と上記逃げ面の交線に形成される切れ刃は、集束イオンビーム加工によって形成されたものであること
を特徴とするダイヤモンド切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−291864(P2009−291864A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146391(P2008−146391)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(502304275)マイクロ・ダイヤモンド株式会社 (2)
【Fターム(参考)】