説明

ダブルクラッチ変速機

【課題】本発明は、アイドラ軸が不要なままの構造で、後進段の減速比を大きくすることが可能なダブルクラッチ変速機を提供する。
【解決手段】本発明のダブルクラッチ変速機は、後進用のギヤ機構21として、第1あるいは第2の出力軸40,41に配置された低速段の被駆動ギヤ37と一体に回転するようにアイドラギヤ60を設け、第1および第2の出力軸40,41に、後進用の被駆動ギヤ33から出力する一方の出力軸40の終減速比を他方の出力軸41の終減速比より大きく設定させた出力ギヤ42,43を設ける構造を採用した。これにより、アイドラ軸が不要なコンパクトな構造でありながら、大きな減速比の後進段が確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのクラッチと2つの入力軸とを用いて、動力伝達が断たれるのを最小限に抑えたシンクロ機構による連続的な変速を可能としたダブルクラッチ変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両(自動車)の自動変速機には、常時噛合い式(駆動ギヤと被駆動ギヤとが噛合う)のギヤ機構を用いて、動力伝達のロスを抑えながら連続的な変速を可能としたダブルクラッチ変速機と呼ばれる変速機がある。
【0003】
このダブルクラッチ変速機には、駆動ギヤを有する2つの入力軸と2つのクラッチを用いた入力系、被駆動ギヤやシンクロ機構を有する2つの出力軸を用いた出力系を組み合わせた構造が用いられている。具体的には、入力系として、例えば複数の前進変速段を偶数の変速段と奇数の変速段との変速段グループに分け、奇数の変速段グループの各駆動ギヤを、それぞれクラッチとつながる第1の入力軸又はその入力軸周囲で回転する第2の入力軸の一方に設け、偶数の変速段グループの各駆動ギヤをその一方に設けて、各クラッチから第1あるいは第2の入力軸へエンジン回転力を伝達する構造が用いられる。また出力系としては、第1および第2の入力軸と並行に設けた第1および第2の出力軸に、各駆動ギヤと噛合う各被駆動ギヤを、当該被駆動ギヤへ回転力を伝えるシンクロ機構と共に、振り分けた構造が用いられる。
【0004】
こうした入・出系によると、例えば奇数の変速段のシフトが完了し、クラッチから第1の入力軸へ入力されるエンジン回転力が変速されて一方の出力軸から出力されているときを利用して、次段の偶数変速段の駆動ギヤをシンクロ機構で他方の出力軸から伝達される車速にシンクロさせて、次段の変速に備えておける。このため、次段に変速するときは、第1の入力軸をつないでいるクラッチを切り、残るクラッチを入れて第2の入力軸からの動力伝達へ切り替えれば、即座に、隣りの偶数段の変速段へシフトされる。さらに隣の奇数段の次変速を行なうときも、第2の入力軸を通じてエンジン回転力を伝達している間に、第1の入力軸上の次段の奇数段の変速段を車速にシンクロさせて次段の変速に備えておけば、両クラッチの切替えにより、隣りの奇数段の変速段へのシフトが完了するので、低速変速段〜高速変速段、例えば1速から6速まで、動力伝達のロスを抑えながら変速、すなわち迅速に1速から6速まで連続的に変速が行える。
【0005】
ところで、ダブルクラッチ変速機では、後進段の切り換えは、出力系に前進段用のギヤ機構とは別に後進用のギヤ機構を装備することが行なわれている。多くは、入力軸に配設した低速用の駆動ギヤを、別途、第3の出力軸に設けたアイドラギヤを介して、第1および第2の出力軸の一方に後進用の被駆動ギヤに噛み合わせる構造が用いられる。つまり、該後進用の駆動ギヤと共に設けたシンクロ機構を作動させると、第2の出力軸から、第3の出力軸を経由したアイドラギヤからの後進用の出力(逆回転)が出力される構造が用いてある。
【0006】
ところが、こうしたアイドラギヤが付いた第3の出力軸を設ける構造は、別途、第1および第2の出力軸と同様、入力軸と並行に第3の出力軸を配置することが求められるために、ダブルクラッチ変速機の大形化が伴う。
【0007】
そこで、特許文献1に開示されているように一方の出力軸に設けてある低速段用の被駆動ギヤ(低速段用の駆動ギヤと噛合うギヤ)にアイドラギヤを取着し、同アイドラを他方の出力軸に設けてある後進用の被駆動ギヤに噛合わせて、一方の出力軸がアイドラ軸を兼ねようにした技術が提案されている。
【特許文献1】特表2003−503662公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
同構造は、確かにアイドラ用の第3の出力軸が不要になるので、ダブルクラッチ変速機のコンパクト化が図れるものの、後進用の減速比は、低速段の駆動ギヤと被駆動ギヤとの噛合い、アイドラギヤと後進用の被駆動ギヤとの噛合いに依存しているために、大きくするのは難しい。近時ではダブルクラッチ変速機のコンパクト化のために、歯車径の小さいギヤを用いる傾向にあるが、このような場合、ギヤの制約から、後進段に適した大きな減速比を確保することは難しい。
【0009】
そこで、本発明の目的は、アイドラ軸が不要なままの構造で、後進段の減速比を大きくすることが可能なダブルクラッチ変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、所定の2グループに分けた複数の前進変速段のうちの一方の変速段グループの各駆動ギヤを有する第1の入力軸と、他方の変速段グループの各駆動ギヤを有し第1の入力軸の周囲で該第1の入力軸の軸心回りに回転可能な第2の入力軸と、これら第1および第2の入力軸の一端部にそれぞれ設けられエンジン回転力を第1あるいは第2の入力軸に伝達するクラッチとを有して構成される入力系と、第1および第2の入力軸と並行に配設された第1および第2の出力軸を有し、第1および第2の入力軸の駆動ギヤと噛合う前進用の被駆動ギヤが、各被駆動ギヤへ回転力を伝えるシンクロ機構と共に、第1および第2の出力軸に設けられた前進変速用のギヤ機構と、第1および第2の出力軸のうちの一方の出力軸に後進用の被駆動ギヤおよび該後進用の被駆動ギヤへ回転力を伝えるシンクロ機構が設けられた後進用のギヤ機構とを有する出力系とを備え、後進用のギヤ機構は、第1および第2の出力軸の他方の出力軸に配置された低速段の被駆動ギヤと一体に回転するように組み付けられ後進用の被駆動ギヤと噛合うアイドラギヤと、第1および第2の出力軸に設けられ、後進用の被駆動ギヤからの回転力を出力する一方の出力軸の終減速比が他方の出力軸の終減速比より大きく設定された出力ギヤとを組み合わせて構成されることとした。
【0011】
請求項2に記載の発明は、低速段の被駆動ギヤが2速用の被駆動ギヤであることとした。
【0012】
請求項3に記載の発明は、アイドラギヤは、低速段の被駆動ギヤに隣接するとともに、低速段の被駆動ギヤへ回転力を伝えるシンクロ機構に隣接しないこととした。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、後進段は、低速段の駆動ギヤと同被駆動ギヤの噛合いがもたらす低速段の減速比、アイドラギヤと後進用の被駆動ギヤの噛合いがもたらす後進用の減速比に加え、さらに出力ギヤの減速比が加わる減速比となるので、アイドラ軸が不要な構造まま、つまり、コンパクト化を図りつつ、後進段の減速比が大きくできる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、設置自由度の高い2速用の被駆動ギヤで、十分に後進段に適した大きな減速比が確保できる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、アイドラギヤがシンクロ機構と隣接しないため、シンクロ機構の影響を受けることなくアイドラギヤのギヤ径を設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[一実施形態]
以下、本発明を図1〜図3に示す一実施形態にもとづいて説明する。
【0017】
図1は、例えば前進段が6速、後進段が1速の計7速の変速段をもつ、横置き車載式のダブルクラッチ変速機の概略構成を示していて、図中1はダブルクラッチ変速機の本体部を示している。本体部1は、入力系2と出力系30とを組み合わせた構造が用いられている。このうち入力系2は、複数の駆動ギヤ3〜7が配置される2つの入力軸9、10(本願の第1、第2の入力軸に相当)と2つのクラッチ12,13(第1、第2のクラッチ)とを組み合わせた構造が用いられている。出力系30は、被駆動ギヤ31〜37やシンクロ機構50〜53が配置される2つの出力軸40,41(本願の第1、第2の出力軸に相当)を用いて構成した構造が用いられている。
【0018】
図2には、その詳細な構造となるダブルクラッチ変速機の展開した正断面図が示され、図3には同ダブルクラッチ変速機の側断面図が示されている。これら図2および図3を参照して、入力系2の構造を説明すると、同図中15はクラッチケース、16は同クラッチケース15と直列に連結された変速機ケースを示している。クラッチケース15内には上記クラッチ12,13が収められる。これらクラッチ12,13は、例えばエンジン70の出力軸につながる2組のプッシャプレート12a,13a、入力軸9,10にそれぞれつながる2組の独立した乾式のクラッチ板12b,13bを軸方向に交互に並べて構成され、各プッシャプレート12a,13aの移動(作動)により、各プッシャプレート12a,13aを選択的にクラッチ板12b、13bに密接させたり、離反させたりすることができるようにしてある。
【0019】
変速機ケース16内に上記入力軸9,10が配設される。これら入力軸9,10のうち、入力軸9には、軸心に潤滑油(図示しない)が通る通孔15をもつ軸部材が用いられる。この軸部材がクラッチケース15の開口近くから、変速機ケース16内の深部、詳しくはクラッチ12,13とは反対側の端壁16aの近くまで配置されている。残る入力軸10は、筒形の軸部材から構成され、入力軸9の外周面に嵌挿してある。そして、入力軸9の外面と入力軸10の内面との間には、軸受部となるニードルベアリング11が介装され、双方の入力軸9,10を回転自在としている。なお、11aは、そのニードルベアリング11へ入力軸10内からの潤滑油を導く通孔を示す。入力軸10は、入力軸9のクラッチ12,13側の一端側から、変速機ケース16内に配置された他端側のほぼ半分までを覆っている。そして、2重軸部の中間部は、クラッチケース15と変速機ケース16との間を仕切る端壁16bに組み付けた軸受17aによって支持される。入力軸9の変速機ケース後端側の端部は、端壁16aに組み付けた軸受17bによって支持される。こうした軸受17a,17bの支持により、入力軸9は回転可能に支持され、入力軸10はその入力軸9の軸心回りに回転可能に支持される。クラッチケース15内に突き出た入力軸9の端部は、クラッチ13に連結、具体的にはクラッチ13のクラッチ板13aに連結され、同じく入力軸10の端部は、クラッチ12に連結、具体的にはクラッチ12のクラッチ板12aに連結され、クラッチ13が接続されると、エンジン70から出力される回転力が入力軸9へ伝わり、クラッチ12が接続されると、エンジン70から出力される回転力が入力軸10へ伝わるようにしている。つまり、クラッチ12,13の作動により、エンジン70の回転力が入力軸9あるいは入力軸10へ択一的に伝達されるようにしている。
【0020】
入力軸9,10には、駆動ギヤ3〜7が所定の2つの変速段グループに分けられて設けられる。具体的には、前進変速段(1〜6速)は偶数の変速段と奇数の変速段との変速段グループに分けられ、そのうちの奇数の変速段グループに相当する駆動ギヤ3〜5が入力軸9に設けられている、具体的には、奇数の変速段グループの駆動ギヤは、軸受17bと隣接した地点(変速機の後端側)から、1速用の駆動ギヤ3、3速用の駆動ギヤ4、5速用の駆動ギヤ5の順で、入力軸10から突き出た軸部分9a(入力軸9)に設けてある。
【0021】
偶数の変速段グループに相当する駆動ギヤは、入力軸10に設けられる。具体的には、偶数の変速段グループの駆動ギヤは、変速機後端側の端部から、4速・6速兼用の駆動ギヤ6、2速用の駆動ギヤ7の順で、入力軸10に設けてある。これにより、クラッチ13が接続されると、エンジン70の回転力が奇数段の駆動ギヤ3〜5へ伝わり、クラッチ12が接続されると、エンジン70の回転力が偶数段の駆動ギヤ6,7へ伝わるようにしてある。
【0022】
一方、出力系30を図2および図3を参照して説明すると、出力軸40,41は、いずれも変速機ケース16内に、入力軸9,10と並行に配設されている。特に図3に示されるように出力軸40は2重軸構造の入力軸9,10を挟んだ上側に地点に配設され、出力軸41は同入力軸9,10を挟んだ下側の地点に配置されている。これら出力軸40,41は、いずれもクラッチ12,13側の端部を端壁16bで揃えて入力軸9,10と並行に配置されている。そして、揃えた各軸端は端壁16bに組み込まれた各軸受38a、38bにより回転可能に支持されている。残る各出力軸40,41の変速機後端側となる軸端は、端壁16aに組み込まれた各軸受39a,39bにより回転可能に支持されている。また出力軸40,41のクラッチ12,13側の端部には、それぞれ出力ギヤ42,43が設けられている。これら出力ギヤ42,43の減速比は、上側に配置される出力軸40の終減速比が、下側に配置される出力軸41の終減速比よりも大きくなるように設定してある。これら出力ギヤ42,43が変速機ケース16の側部に組み付けたデファレンシャル機構44に噛合させてある。具体的には、デファレンシャル機構44は、変速機ケース16の側部に形成したデフケース45内に、各要素、具体的にはピニオンギヤ45a〜45dの組み合わせで形成される差動ギヤ部45e、同差動ギヤ部45eへ回転を入力するリングギヤ46(リダクションギヤ)、差動ギヤ部45eで分配された回転力を左右駆動輪(図示しない)へ伝える車軸47a,47bを有して構成してある。出力ギヤ42,43は、このデファレンシャル機構44のリングギヤ46に噛合させてある。
【0023】
こうした出力軸40,41に、出力軸40の変速段数を出力軸41の変速段数より少なくなるように、上記被駆動ギヤ31〜36が振り分けて設けてある。具体的には、出力軸40には、軸受39a側から、駆動ギヤ5と噛合う5速用の被駆動ギヤ31、駆動ギヤ6と噛合う4速用の被駆動ギヤ32、後進用の被駆動ギヤ33の順で、3つの被駆動ギヤが配置されている。出力軸41には、軸受39b側から、駆動ギヤ3と噛合う1速用の被駆動ギヤ34、駆動ギヤ4と噛合う3速用の被駆動ギヤ35、駆動ギヤ6と噛合う6速用の被駆動ギヤ36、駆動ギヤ7と噛合う2速用の被駆動ギヤ37の順で、4つの被駆動ギヤが配置されている。これら被駆動ギヤ31〜37が、いずれも軸受となるニードルベアリング48を用いて、出力軸40,41の外周面に回転自在に支持させてある。
【0024】
こうした被駆動ギヤ31〜37のレイアウトに合わせて、上記シンクロ機構50〜53も振り分けて、出力軸40,41に設けてある。具体的には、出力軸40には、被駆動ギヤ32(4速用)と被駆動ギヤ33(後進用)間の軸部分に、シフト方向が二方向タイプの4速・後進選択用のシンクロ機構50が配置され、被駆動ギヤ31(5速用)を挟んだ軸受39a側の軸部分に、シフト方向が一方向タイプの5速選択用のシンクロ機構51が配置されている。また出力軸41には、被駆動ギヤ34(1速用)と被駆動ギヤ35(3速用)間の軸部分に、シフト方向が二方向タイプの1速・3速選択用のシンクロ機構52が配置され、被駆動ギヤ36(6速用)と被駆動ギヤ37(2速用)間の軸部分に、シフト方向が二方向タイプの6速・2速選択用のシンクロ機構53が配置されている。こうした各ギヤ、シンクロ機構の配列により、変速段数の差分、上側の出力軸40の端部を、下側の出力軸41に対して、クラッチ12,13側へ退避させている。
【0025】
二方向タイプのシンクロ機構50,52,53には、いずれも軸部分にスプライン嵌合されたシンクロナイザハブ55の外周部に、シンクロナイザスリーブ56を軸方向にスライド可能に組み付け、シンクロナイザハブ55の両側の配置された各ギヤに一対のシンクロナイザコーン57を形成し、同シンクロナイザコーン57の外周のコーン面に一対のシンクロナイザリング58を嵌挿した構造が用いられている(符号はシンクロ機構50,52に図示)。これにより、シンクロナイザスリーブ56を軸方向のいずれかの方向へスライドさせると、シンクロナイザリング58とシンクロナイザコーン57との摩擦により、回転速度差を減らしながら、出力軸40や出力軸41と各変速段の被駆動ギヤとが係合され(同期噛合)、両間で回転力の伝達が行なわれるようにしている。
【0026】
一方向タイプのシンクロ機構51は、二方向タイプのシンクロ機構50,52のうち、片側のシンクロナイザコーン57、シンクロナイザリング58を省いて、軸受39aから離れる一方向をシフト方向だけとした構造が用いられている。つまり、シンクロナイザスリーブ56を被駆動ギヤ31へスライドさせると、摩擦により、回転速度差を減らしながら、出力軸40と5速用の被駆動ギヤ31とが係合されるようにしている。
【0027】
また被駆動ギヤ37(2速用)のうち、シンクロ機構53側とは反対側の側部には、後進用のアイドラギヤ60が同心的に取着されている。アイドラギヤ60には、被駆動ギヤ37より歯車径が小さいギヤが用いられている。このアイドラギヤ60は、出力軸40の後進用の被駆動ギヤ33と噛合っていて、シンクロ機構50により、後進用の被駆動ギヤ33を出力軸40に係合させると、出力軸40から、2速変速段の減速比、後退速段の減速比、さらには回転軸40の終減速比で減速された逆回転の出力が、デファレンシャル機構44へ伝達されるようにしてある。
【0028】
つまり、前進用の被駆動ギヤ31,32,34〜37およびシンクロ機構50〜53の組み合わせから、前進変速用のギヤ機構20を構成し、後進用の被駆動ギヤ33、シンクロ機構50、アイドラギヤ60、出力ギヤ42,43の組み合わせから、後進用のギヤ機構21を構成している。
【0029】
一方、全長の短い出力軸40の変速機後端側の端部(退避した端部)には、パーキングギヤ61が設けられている。このパーキングギヤ61は、シンクロ機構51の外側(軸端側)と隣接して設けられている。このパーキングギヤ61は、図3に示されるように変速機ケース16に組み付けられたギヤロック用の爪部材62と係脱可能となっていて、パーキング時、爪部材62との係合から出力軸40がロックできるようにしている。
【0030】
他方、各クラッチ12,13の接・断動作(プッシャプレート12a,13a)や各シンクロ機構50〜53のシフト選択動作は、例えばECUの指令により制御されるアクチュエータ(いずれも図示しない)で行なわれる。そして、ダブルクラッチ変速機は、ECUに設定された変速情報にしたがい、動力伝達が断たれるロスを最小限に抑えつつ自動変速が行なわれるようにしてある。
【0031】
すなわち、このダブルクラッチ変速機の作用について説明すると、1速への変速は、まず、ECUから出力される変速指令で作動するアクチュエータにより、奇数変速段グループのシンクロ機構52のシンクロナイザスリーブ56が1速側へスライドして、1速用の被駆動ギヤ34と出力軸41とを係合させる。これで、1速の変速段が選択される。その後、同じく変速指令で作動するアクチュエータにより、クラッチ13が接動作される。同クラッチ13の作動により、1速のシフトが完了する。これにより、エンジン70の出力は、入力軸9、1速用の駆動ギヤ3、1速用の被駆動ギヤ34、出力軸41へ伝わる奇数系統の伝達ラインで変速される。そして、変速した回転が、出力ギヤ43から、デファレンシャル機構44へ出力されて、左右の車軸47a,47bに伝わり、車両を1速で走行させる。なお、クラッチ12は断動作。
【0032】
この1速で走行中、2速への変速指令が出力されると、クラッチ13が接動作、クラッチ12が断動作となっている状態を利用して、偶数変速グループのシンクロ機構53のシンクロナイザスリーブ56が2速側へスライドして、2速用の被駆動ギヤ37を、現在の車速で回転している出力軸41に係合させる。これにより、次段となる2速変速段の駆動ギヤ7は、車速にシンクロして、2速の変速段が選択される。つまり、次段の変速準備が整う。その後、クラッチ13の接続を解除しながら、クラッチ12の接続が行なわれ、エンジン70からの動力伝達は、入力軸9から入力軸10へ切り替わる。すると、エンジン70の出力は、入力軸10、2速用の駆動ギヤ7、2速用の被駆動ギヤ37、出力軸40へ伝わる偶数系統の伝達ラインで変速され、その変速した回転が出力ギヤ43から、デファレンシャル機構44へ出力される(2速シフト完了)。この2速への切り替えにより、即座に、車両は、2速走行へ切り替わる。
【0033】
この2速で走行中、3速への変速指令が出力されると、クラッチ12が接動作、クラッチ13が断動作となっている状態を利用して、奇数変速グループのシンクロ機構52のシンクロナイザスリーブ56を3速側へスライドさせて、3速用の被駆動ギヤ35を、現在の車速で回転している出力軸40に係合させる。これにより、次段となる3速変速段の駆動ギヤ4は、車速にシンクロして、3速の変速段が選択される。つまり、次段の変速準備が整う。その後、クラッチ12の接続を解除しながら、クラッチ13の接続が行なわれ、エンジン70の動力伝達は、再び入力軸10から入力軸9へ切り替わる。すると、エンジン70からの出力は、入力軸9、3速用の駆動ギヤ4、3速用の被駆動ギヤ35、出力軸41へ伝わる奇数系統の伝達ラインで変速され、その変速した回転が出力ギヤ43から、デファレンシャル機構44へ出力される(3速シフト完了)。この3速への切り替えにより、即座に、車両は、3速走行へ切り替わる。
【0034】
そして、シンクロ機構50,51,53およびクラッチ12,13により、上記と同様、奇数変速グループ、偶数変速グループで変速段を交互に選択して、クラッチ12,13を交互に切り替えることにより、残る4速、5速、6速の変速段のシフトも、上記した1速〜3速の変速段のときと同様、動力伝達ロスを最小限に抑えながら連続的に変速が行なわれる。
【0035】
また後進変速段への変速は、クラッチ12,13が断動作となっている状態から、シンクロ機構50のシンクロナイザスリーブ56が後進速側へスライドして、後進用の被駆動ギヤ33と出力軸40とを係合させる。これで、後進速の変速段が選択される。その後、クラッチ12の接動作が行なわれる。これにより、エンジン70からの出力は、図2および図3に示されるように入力軸10、2速用の駆動ギヤ7、2速用の被駆動ギヤ37、該ギヤ37に取着されたアイドラギヤ60、後進用の被駆動ギヤ33、出力軸40、出力ギヤ42を経て、デファレンシャル機構44へ伝わる。
【0036】
つまり、後進段は、2速変速段の減速比(低速段の駆動ギヤと被駆動ギヤの噛合いがもたらす)、後進速段の減速比(アイドラギヤと後進用の被駆動ギヤの噛合いがもたらす)に加え、さらに回転軸41の終減速比で減速された逆回転の出力が、デファレンシャル機構44へ伝達される。
【0037】
それ故、アイドラ軸が不要な構造を確保したまま、後進段の減速比が大きくできる。つまり、ダブルクラッチ変速機のコンパクト化を図りつつ、後進段の減速比が大きくできる。しかも、出力軸40の終減速比を大きくしたことで、ダブルクラッチ変速機のコンパクト化の要求から、低速前進段や後進段の被駆動ギヤに歯車径の小さなギヤが用いられることがあっても、後進段は十分に大きな減速比が確保できる。
【0038】
そのうえ、出力軸40の終減速比を利用したことで、設置自由度が高い2速用の被駆動ギヤ37にアイドラギヤ60を設けた構造でも、十分に後進段に適した大きな減速比が確保できる。
【0039】
また、アイドラギヤ60が2速用の被駆動ギヤ37を挟んでシンクロ機構53に隣接していないため、アイドラギヤ60のギヤ径はシンクロ機構53によって制限されず、アイダラギヤ60のギヤ径を大きく設定することができる。
【0040】
なお、本発明は上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るダブルクラッチ変速機の概略図。
【図2】同ダブルクラッチ変速機の正断面図。
【図3】同ダブルクラッチ変速機の側断面図。
【符号の説明】
【0042】
2…入力系、3〜7…駆動ギヤ、9,10…入力軸(第1,第2の入力軸),12,13…クラッチ、20…前進変速用のギヤ機構、21…後進用のギヤ機構、30…出力系、31〜37…被駆動ギヤ、40,41…出力軸(第1、第2の出力軸)、50〜53…シンクロ機構、60…アイドラギヤ、42,43…出力ギヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の2グループに分けた複数の前進変速段のうちの一方の変速段グループの各駆動ギヤを有する第1の入力軸と、他方の変速段グループの各駆動ギヤを有し前記第1の入力軸の周囲で該第1の入力軸の軸心回りに回転可能な第2の入力軸と、これら第1および第2の入力軸の一端部にそれぞれ設けられエンジン回転力を第1あるいは第2の入力軸に伝達するクラッチとを有して構成される入力系と、
前記第1および第2の入力軸と並行に配設された第1および第2の出力軸を有し、前記第1および第2の入力軸の駆動ギヤと噛合う前進用の被駆動ギヤが、各被駆動ギヤへ回転力を伝えるシンクロ機構と共に、第1および第2の出力軸に設けられた前進変速用のギヤ機構と、前記第1および第2の出力軸のうちの一方の出力軸に後進用の被駆動ギヤおよび該後進用の被駆動ギヤへ回転力を伝えるシンクロ機構が設けられた後進用のギヤ機構とを有する出力系とを備え、
前記後進用のギヤ機構は、前記第1および第2の出力軸の他方の出力軸に配置された低速段の被駆動ギヤと一体に回転するように組み付けられ前記後進用の被駆動ギヤと噛合うアイドラギヤと、前記第1および第2の出力軸に設けられ、前記後進用の被駆動ギヤからの回転力を出力する一方の出力軸の終減速比が他方の出力軸の終減速比より大きく設定された出力ギヤとを組み合わせて構成される
ことを特徴とするダブルクラッチ変速機。
【請求項2】
前記低速段の被駆動ギヤは、2速用の被駆動ギヤであることを特徴とする請求項1に記載のダブルクラッチ変速機。
【請求項3】
前記アイドラギヤは、前記低速段の被駆動ギヤに隣接するとともに、前記低速段の被駆動ギヤへ回転力を伝えるシンクロ機構に隣接しないことを特徴とする請求項1に記載のダブルクラッチ変速機。
低速段の被駆動ギヤは、2速用の被駆動ギヤであることを特徴とする請求項1に記載のダブルクラッチ変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−321820(P2007−321820A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150421(P2006−150421)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】