説明

ダブルビーム型分光光度計

【課題】 水平置き状態で大形の試料を測定可能とする。
【解決手段】
試料側光束Sは試料21の下面に対し略鉛直方向に入射し、上方に透過した光は反射鏡M1で屈曲されて検出器を備えた積分球24へ送られる。一方、試料側光束Sと平行に入射する対照側光束Rは反射鏡M2〜M4により試料21を迂回するように屈曲されて積分球24に導入される。従って、試料21の大きさや形状に合わせたホルダを用意する必要もなく、試料位置をずらすことにより測定位置を自由に変えることができる。また、従来の標準試料室11を利用する場合には、可動反射鏡22、23を光路中に挿入し、反射鏡M5〜M7により水平面上を平行に進行する光束とすればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料側光束及び対照側光束の二系統の光路を有するダブルビーム型分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
図2は、従来から知られている一般的なダブルビーム型分光光度計の光路構成の一例を示す図である。この分光光度計は、例えば試料セルに収容された液体試料の吸光度又は透過率を測定するためのものである。図2において、光源1から発した光はモノクロメータ2に導入され、所定波長を有する単色光が取り出される。この単色光は反射鏡3によりセクタ鏡4に送られ、軸Aを中心に回転するセクタ鏡4にて試料側及び対照側の二方向に交互に振り分けられる。標準試料室11内には、溶媒のみを収容した対照側セル12と試料溶液を収容した試料側セル13とが載置されている。セクタ鏡4で反射された対照側光束Rは反射鏡5を介して対照側セル12に照射され、対照側セル12を通過した後に集光鏡7により反射・集光されて光検出器10の受光面へと導かれる。
【0003】
一方、セクタ鏡4の反射鏡面に当たらなかった試料側光束Sは、反射鏡6を介して試料側セル13に照射され、試料側セル13を通過した後に集光鏡8により反射・集光され、更に折返し平面鏡9にて反射されて光検出器10の受光面へ導かれる。対照側セル12を通過した対照側透過光束R'と試料側セル13を通過した試料側透過光束S'とは、セクタ鏡4の回転に同期して交互に光検出器10に導入されるから、この両者の受光信号の強度差又は強度比を用いて吸光度を計算することができる。
【0004】
このようなダブルビーム型分光光度計では、試料側光束Sと対照側光束Rとの対称性をできる限り保つことが好ましいため、通常、両光束S、Rの光路は同一水平面上で且つ平行に設定されている。また、同一のメーカから市販される複数機種の分光光度計に対して試料室等の付属装置を共用化できるように、同一メーカ内では両光束S、R間の離間距離d(通常100〜200mm程度)は統一されていることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来の光路構成では、定められた大きさの試料セルに収容された液体試料を測定する場合には問題はないが、固体試料、特に大形の固体試料を測定しようとする場合に、試料側光束Sと対照側光束Rとの離間距離dが試料の大きさを制限する要因となる。即ち、大きな試料はその一部を測定可能な大きさに切り出さなければならず、このような切り出しが不可能である大形の試料は測定が行えない。近年、この種の分光光度計の測定対象の一つである半導体用シリコンウエハや液晶表示板の大形化が急速に進んでおり、上述したような一般に設定されている離間距離dを保った状態で測定を行う標準試料室では測定できないケースが非常に多くなっている。
【0006】
また、上述したような従来の構成では、光束が試料中を水平方向に通過するため、例えばシリコンウエハや液晶表示板のような薄形形状の試料を試料室内にセットするには、試料を垂直に保持する保持機構が必要となる。このような保持機構はコストを要し、セッティングにも手間が掛かる。このようなことから、固体試料を測定する場合、試料を水平置きできる構造であることが好ましい。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その主たる目的は、大きなサイズの固体試料を水平に載置した状態で測定することが可能であるダブルビーム型分光光度計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明は、試料側光束及び対照側光束の二光束を用いるダブルビーム型分光光度計において、試料の下面又は上面に対して試料側光束を入射すると共に、該試料の上面又は下面から出射した透過光束を反射光学系により該試料の上下方向の投影面の外側に配置した検出器へ導入する一方、前記試料側光束と略平行に進む対照側光束を1乃至複数の反射面を有する反射光学系により前記試料を迂回するように屈曲させて前記検出器に導入する光路構成を有して成ることを特徴としている。
【0009】
即ち、この構成では、試料側光束及び対照側光束は共に試料の下面又は上面に当たるように進行し、試料側光束はそのまま直進して試料中を透過するのに対し、対照側光束は試料の手前で反射光学系により試料側光束と直交又は斜交する方向に屈曲され、試料に当たることなく検出器に到達する。
【0010】
また、本発明に係るダブルビーム型分光光度計では、前記試料側光束及び対照側光束の光路中に退避自在の反射鏡を挿入することにより両光束を屈曲させ、必要に応じて更に他の反射光学系を利用し、試料側光束及び対照側光束が共に水平面上であって或る所定の光束離間間隔で平行に入射することを前提とした試料室へ両光束を導入する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上の説明のように、本発明に係るダブルビーム型分光光度計によれば、従来は測定が困難であったような大きなサイズの試料を水平置きした状態で測定することができる。水平置きでは、試料に適合した大きさのホルダを用意する必要がなく、特に、ここで測定対象としている固体試料では溶液試料測定のためのセルと異なり大きさや形状が多様であるので、特別なホルダを用いることなく単に載置するだけで測定ができ、しかも測定部位が自由に変えられることは、コストの削減と共に測定作業の省力化に大きく寄与する。
【0012】
また、本発明によれば、単に反射鏡を光路中に挿入する又は光路から退避させるといった非常に簡単な構成でもって、通常の試料セルを使った溶液測定や標準で用意されている付属装置を利用した測定と、上述したような大形の固体試料の測定との切替えを行うことができる。従来、標準試料室を利用した測定から大形試料の測定への切替えを行うには、標準試料室を取り外し、その代わりに大形試料室への導入光学系を別途取り付けるという面倒な作業が必要であったが、このような作業は不要になり、きわめて簡単な作業で切替えを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のダブルビーム型分光光度計の一実施形態を図1により説明する。図1は本発明の一実施形態による分光光度計の光路構成を示す斜視図であり、図2における反射鏡5、6以降の光路のみを示している。また、図1中では、試料21は円盤薄型形状であるが、光路をわかり易く示すためにその一部を破断して示している。
【0014】
図1において、対照側光束Rと試料側光束Sとは平行に、下方から鉛直上方に向けて大形試料用試料室20に入射される。可動反射鏡22、23はそれぞれ光路中への挿入位置と光路からの退避位置との間で移動自在に設けられており、大形の試料21を測定する際には何れも退避位置に置かれ、標準試料室11内に設置された試料を測定する場合には両者共に挿入位置に置かれる。
【0015】
大形試料用試料室20内において、試料21は図示せぬ試料台又はホルダにより水平に載置される。具体的には、例えば、試料側光束Sの照射位置が開口した孔を有する試料台とし、この試料台上に試料21を載置すればよい。試料側光束Sは試料21の下面に対し略鉛直方向に照射され、試料21中を上方に通過した光は反射鏡M1でほぼ垂直に屈曲されて、検出器を内蔵する積分球24に入射される。
【0016】
一方、対照側光束Rは、試料21の手前に配置された反射鏡M2でほぼ垂直方向に屈曲され、更に大形試料用試料室20へ入射する試料側光束Sの光路から十分に離れた位置に配置された反射鏡M3と、更にその鉛直上方に設けられた反射鏡M4でそれぞれほぼ垂直に屈曲されて積分球24に入射する。即ち、対照側光束Rは試料21を迂回するように複数回(この例では3回)屈曲されて積分球24に到達する。ここで、検出器として積分球を利用するのは、固体試料を通過する際に光束が鉛直線上からずれるように僅かに屈曲した場合でも、広がった光束を収束して検出器に送ることができるからである。従って、積分球を利用することは、本発明においては必須ではない。
【0017】
このような光路構成によれば、大形試料用試料室20へ入射する際の光束離間距離dの制限を受けることなく、大きなサイズの試料を測定することができる。また、試料21の位置を水平方向に移動させるだけで、任意の位置の透過光を測定することができる。
【0018】
標準試料室11内にセットした試料(この例では対照側セル12及び試料側セル13)を測定する場合には、可動反射鏡22、23を光路中に挿入する。すると、可動反射鏡22で反射された試料側光束Sは反射鏡M5、M6で屈曲されて、試料側セル13に向けて水平方向に進行する光路を与えられる。一方、可動反射鏡23で反射された対照側光束Rは反射鏡M7で屈曲されて、試料側光束Sと同一水平面上において試料側光束Sと平行で離間距離がdである光路となる。これにより、従来から使用されている標準試料室11やそのほかの各種の付属装置など、光束離間距離がdで水平入射を前提とした各種装置がそのまま利用できる。
【0019】
勿論、可動反射鏡22、23は着脱自在の反射鏡であってもよい。また、大形試料用試料室20への入射光を上方から鉛直下方に向けて入射させ、試料側光束Sが試料を上から下に貫通する光路構成とすることもできる。また、大形試料用試料室20への入射光を水平方向から入射させ、大形試料用試料室20内において両光束を反射鏡で上向きに屈曲させる光路構成としてもよい。
【0020】
なお、上記実施形態は一例であって、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正を行えることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態であるダブルビーム型分光光度計の光路構成図。
【図2】従来の一般的なダブルビーム型分光光度計の光路構成図。
【符号の説明】
【0022】
11...標準試料室 12、13...試料セル 20...大形試料用試料室 21...試料 22、23...可動反射鏡 24...積分球(検出器) M1〜M7...反射鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料側光束及び対照側光束の二光束を用いるダブルビーム型分光光度計において、試料の下面又は上面に対して試料側光束を入射すると共に、該試料の上面又は下面から出射した透過光束を反射光学系により該試料の上下方向の投影面の外側に配置した検出器へ導入する一方、前記試料側光束と略平行に進む対照側光束を1乃至複数の反射面を有する反射光学系により前記試料を迂回するように屈曲させて前記検出器に導入する光路構成を有して成ることを特徴とするダブルビーム型分光光度計。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−24906(P2007−24906A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250356(P2006−250356)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【分割の表示】特願2000−35724(P2000−35724)の分割
【原出願日】平成12年2月14日(2000.2.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】