説明

ダンパー装置、搬送装置、および記録装置

【課題】ダンパー力の変化が抑制されたダンパー装置、このようなダンパー装置を備えた搬送装置、および記録装置を提供する。
【解決手段】ストッパー140を、用紙に対する移動を規制する規制位置から移動の規制を解除する解除位置へ時間差を有して動作させるダンパー装置であって、用紙の移動方向に沿った第1摺動面SPを有するベース110と、第1摺動面と粘性部材Gを介して対向する第2摺動面TPを有すると共に、ストッパーを規制位置に位置させることになる第1の位置と、ストッパーを解除位置に位置させることになる第2の位置との間を摺動するスライダー120と、を備え、少なくともスライダーが摺動して第1の位置または第2の位置のいずれか一方に位置したとき、スライダーの摺動方向前側の端部と対応する位置において、ベースとスライダーとの間に粘性部材を貯留する隙間領域SP1が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパー装置、このダンパー装置を備えた搬送装置、およびこの搬送装置を備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体(例えばインク)を記録媒体(例えば用紙)に付着させて記録を施す記録装置の一種として、記録部(例えば記録ヘッド)から用紙にインクを噴射して所定の画像(文字や図形などを含む)を記録するようにしたインクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター」と呼ぶ)が知られている。このプリンターは、複数の用紙を積層状態に載置した給紙カセット(以下、単に「カセット」と呼ぶ)から、最上位の用紙を取り出して記録部側に一枚ずつ給送することによって、用紙に画像を記録するようになっている。そのため、このプリンターには、複数の用紙が積層状態に載置されたカセットを用紙の積層方向と直交する方向に沿って挿抜することで着脱可能に装着するための装着部と、その装着部に装着された状態にあるカセットから用紙を一枚ずつ取り出して順次に記録部側に給送するための給紙ローラーが設けられている。
【0003】
また、このプリンターにおいて、カセットが装着される装着部の内奥、すなわち、その装着部に装着された状態にあるカセットの挿入方向前側の端面と対向することになる部位には、給紙ローラーによってカセット側から取り出されて給送される用紙を一枚ずつ分離しながら記録部に案内するための分離斜面が形成されている。このため、カセットが使用者によって装着部に装着される場合において、装着部への挿入速度が速い場合などには、慣性力によりカセット内から積層状態の用紙が挿入方向に移動して上り勾配の分離斜面に乗り上げてしまう場合がある。そうなると、分離斜面によって用紙を一枚ずつ分離することができず、用紙が複数枚重なって給送される重送という搬送状態が生じるため、紙詰まりなどの不具合を起こす虞がある。
【0004】
この不具合を回避する手段として、特許文献1には、用紙の給紙方向で下流側の端部(以下、「紙先端部」と呼ぶ)がカセットの挿入方向に移動するのを規制するために上側の退避位置から下側の規制位置に下降するシャッター部材が設けられている。そして、このシャッター部材が各用紙の紙先端部と当接した状態にある下側の規制位置から上側の退避位置に上昇する際に、そのシャッター部材の下端部が給紙方向の上流側に向かって回動されるようになっている。これにより、シャッター部材に当接した状態にある各用紙の紙先端部が積層方向の上位側になるにつれて順次給紙方向下流側に位置した傾斜状態に揃うことを可能としている。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、シャッター部材を回動させつつ退避位置にスライドさせているため、これらの動作をシャッター部材に行わせる回転機構およびスライド機構を設けるためのスペースが必要となる。また、これらシャッター部材、回転機構およびスライド機構を退避位置に収容するためのスペースも必要となる。したがって、これらの必要スペースにより、プリンターが大型化してしまう。
【0006】
そこで、例えば、カセットの挿入方向前側への用紙の移動を規制する規制面を有するとともに、挿入方向に倒れるように回転動作する規制部材を設けた構造が提案されている。すなわち、この場合は、用紙の移動を規制面で規制してその勢いを抑制した後、所定の時間差を有した回転動作によって規制面が倒れて分離斜面から退避することによって用紙の移動の規制を解除する。従って、用紙は分離斜面に乗り上げることなく、一枚ずつ分離されながら記録部に案内されるようになっている。これにより、シャッター部材、回転機構およびスライド機構を退避位置に収容するための大きなスペースを必要とせず、規制部材の回転動作に要する機構分のスペース増加で済むので、プリンターの大型化が抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−335769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、規制部材の回転動作において、用紙の規制後に倒れ始めるまで所定の時間差が生じるようにするため、ダンパー装置が用いられている。すなわち、規制部材に用紙の移動を規制する規制位置からその規制を解除する解除位置に到る回転動作をさせるために相対的に移動(摺動)する第1部材と第2部材において、この2つの部材が摺動時に対向する摺動面間に粘性部材を介在させたダンパー装置によって、規制部材の回転動作において所定の時間差を生じさせている。
【0009】
しかしながら、例えば粘性部材がグリスやオイルのような流体である場合は、2つの部材の当接面間に介在する粘性部材が当接面からはみ出して、2つの部材の当接面以外の他の部分に付着して失われてしまうことが生じやすい。このため、ダンパー力が変化してしまう虞がある。また、他の部分に粘性部材が付着することによって、ダンパー装置を汚してしまったり、さらにはプリンターを汚してしまったりする虞もある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためなされたものである。その主な目的は、ダンパー力の変化が抑制されたダンパー装置を提供することにある。さらには、このようなダンパー装置を備えた搬送装置、および記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のダンパー装置は、対象物と当接することにより該対象物の移動を規制可能な規制部材を、前記対象物に対する移動を規制する規制位置から前記対象物に対する移動の規制を解除する解除位置へ時間差を有して動作させるダンパー装置であって、前記対象物の移動方向に沿った第1摺動面を有する第1部材と、前記第1部材の第1摺動面と粘性部材を介して対向する第2摺動面を有すると共に、その第2摺動面以外の部位において前記規制部材と係合した状態で、前記規制部材を前記規制位置に位置させることになる第1の位置と、前記規制部材を前記解除位置に位置させることになる第2の位置との間を摺動する第2部材と、を備え、少なくとも前記第2部材が摺動して前記第1の位置および前記第2の位置のいずれか一方に位置したとき、前記第2部材の摺動方向前側の端部と対応する位置において、前記第1部材と前記第2部材との間に前記粘性部材を貯留する隙間領域が形成される。
【0012】
この構成によれば、第2摺動面から摺動方向前側へ掻き出された粘性部材を、第2部材の摺動方向前側の端部において第1部材との間に形成した隙間領域に貯留するので、粘性部材が第2摺動面近傍に維持されることになる。従って、掻き出された粘性部材が他の部分に付着して失われることが抑制されるので、第1摺動面と第2摺動面との間に安定して粘性部材を介在させることができるので、ダンパー力の変化が抑制される。また、掻き出された粘性部材が他の部分に付着することによってダンパー装置を汚してしまうことを抑制することができる。
【0013】
本発明のダンパー装置において、前記第1摺動面と前記第2摺動面との対向面積は、前記第2部材が前記第1の位置と前記第2の位置との間を摺動する間一定であるとともに、前記隙間領域は、前記第2摺動面に保持される前記粘性部材の保持量を超える余剰分の前記粘性部材を貯留可能な空間領域を有している。
【0014】
この構成によれば、第1摺動面と第2摺動面との間に保有できる保持量を超える粘性部材を、第2部材の摺動方向前側の端部において形成した隙間領域に貯留することができる。従って、粘性部材が第2摺動面の近傍に維持されるとともに、原理的に粘性部材が他の部分に付着することがないので、第1摺動面と第2摺動面との間に安定して粘性部材を介在させることができる。この結果、ダンパー力の変化が抑制されるとともに、掻き出された粘性部材によってダンパー装置を汚してしまうことを抑制することができる。
【0015】
本発明のダンパー装置において、前記第2摺動面の前記摺動方向と交差する断面での形状は、前記摺動方向と交差する方向に凹凸が繰り返して形成された形状である。
この構成によれば、第1摺動面と対向する第2摺動面の延べ面積を多くすることができる。従って、第2摺動面について、平面視での許容面積が小さい場合であっても、粘性部材を介して第1摺動面と広い面積で対向させることができるので、ダンパー力を大きくすることができる。また、形成する凹凸の形状に応じて延べ面積を調節することができるので、ダンパー装置のダンパー力を所望する大きさに設定することも可能である。
【0016】
本発明のダンパー装置において、前記第1部材に対して前記第2部材を前記第1の位置または前記第2の位置に位置決めする位置決め部を、前記第1部材および前記第2部材の前記第2摺動面以外の領域に形成した。
【0017】
この構成によれば、第2部材が第1の位置と第2の位置との間を摺動する場合、第2摺動面の第1摺動面に対向する面積が変化しないようになるので、ダンパー力の変化を抑制することができる。
【0018】
本発明のダンパー装置において、前記第2部材が前記第1の位置に位置したとき、前記第2部材が前記対象物に最も近づくとともに、前記隙間領域は、前記第2部材が前記第1の位置へ摺動する摺動方向前側の前記第2摺動面の端部において形成される。
【0019】
この構成によれば、対象物と近い側にある第2摺動面の端部において、粘性部材を貯留する隙間領域が形成されるので、対象物に対して第2摺動面から掻き出された粘性部材が付着することが抑制される。
【0020】
本発明の搬送装置は、上記構成を有するダンパー装置と、前記ダンパー装置における前記規制部材によって移動規制された対象物を搬送する搬送手段と、を備えた。
この構成によれば、上記構成を有するダンパー装置と同様の効果を奏する搬送装置を実現することができる。
【0021】
本発明の記録装置は、上記搬送装置と、前記搬送装置によって搬送される対象物に対して記録を施す記録手段と、を備えた。
この構成によれば、上記構成を有するダンパー装置と同様の効果を奏する記録装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態のプリンターの概略構成を示す模式図。
【図2】実施形態のダンパー装置の構成を示す斜視図。
【図3】実施形態のダンパー装置のダンパー機構を説明する分解斜視図。
【図4】ダンパー装置の動作を説明する図で、(a)はダンパー装置の平面図、(b)は規制位置の状態を示す模式図、(c)は解除位置の状態を示す模式図。
【図5】(a)は摺動面の形状を示す断面図、(b)は粘性グリスのグリス量とダンパー力の関係を説明するグラフ。
【図6】比較例で、(a)(b)はダンパー装置の構成を示す断面図、(c)〜(F)は粘性グリスの挙動の説明図。
【図7】実施形態で、(a)は規制位置において形成された粘性グリスを貯留する空間領域を説明するためのダンパー装置の斜視図、(b)はダンパー装置の断面図。
【図8】実施形態で、(a)は解除位置において形成された粘性グリスを貯留する空間領域を説明するためのダンパー装置の斜視図、(b)はダンパー装置の断面図。
【図9】変形例となるダンパー装置の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のダンパー装置について、これを備えた搬送装置を有する記録装置としてのプリンターにおいて具体化した実施形態について、図を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態のプリンター11は、筐体状をなすフレーム12内に、装着部13、給送部14、分離部15、搬送手段としての搬送部16、記録手段としての記録部17、及び排出部18を備えている。なお、これらは、プリンター11において記録が施される対象物としての用紙Pの搬送経路に沿って順次に配置されている。
【0024】
まず、装着部13は、フレーム12内の底部側(図1では下部側)に配置され、フレーム12における一つの側面(図1では右側面)に開口した矩形の挿入口19を介してフレーム12の外部と連通している。そして、この挿入口19を介して用紙Pが積層状態に載置されたカセット20を用紙Pの積層方向と直交する方向(図1では左右方向)に挿抜させることにより、カセット20と共に用紙Pを装着部13に対して着脱自在に装着できるようになっている。
【0025】
次に、給送部14は、フレーム12内において装着部13の内奥と対応する位置に配置され、図示しない給送モーターの駆動力に基づき回転するピックアップローラー14aを備えている。そして、挿入口19から装着部13に挿入されたカセット20において積層状態に載置されている用紙Pのうち、最上位の用紙Pを、このピックアップローラー14aの回転によって挿入口19とは反対の方向に給送するようになっている。
【0026】
また、分離部15は、フレーム12内において、装着部13に装着された状態にあるカセット20の挿入方向前側の端面と対向することになる位置に配置され、装着部13側から見た場合に上り勾配の斜面を形成する斜板21を備えている。そして、この斜板21の斜面にて構成される分離斜面21aに対して、給送部14から給送された用紙Pが紙先端を当接させつつ乗り越えるように移動することによって、分離部15は用紙Pを一枚ずつ下流側の搬送部16に送るようになっている。
【0027】
図1に示すように、搬送部16は、フレーム12内において、分離部15から送られた用紙Pを反転させてフレーム12内の上部の記録部17側へ搬送可能な反転搬送路22を形成するように配置されている。そして、その反転搬送路22の上流部には分離ローラー23が設けられると共に、その反転搬送路22の分離ローラー23よりも下流側には複数の中間搬送ローラー24が搬送方向に間隔をおいて設けられている。分離ローラー23は、分離斜面21aで分離されずに重なって送られた用紙Pを分離させて、中間搬送ローラー24が設けられた下流側に用紙Pを一枚ずつ確実に送るようになっている。中間搬送ローラー24は、各々が回転動作することによって用紙Pをカセット20から分離部15への給送方向(図1では左側方向)とは反対方向となる反転搬送方向(図1では右側方向)に反転して搬送し、記録部17に送るようになっている。
【0028】
また、記録部17は、既述したように、フレーム12内の上部に配置され、搬送用ローラー対25、記録ヘッド26、及び用紙Pの支持台となる支持部材27を備えている。記録ヘッド26は、ガイド軸28に沿って、用紙Pの搬送方向と交差する幅方向(図1では紙面と直交する方向)に往復移動可能なキャリッジ29に固定されている。キャリッジ29は、図示しない駆動手段(モーター)によって、ガイド軸28に沿った主走査方向に移動するように駆動されるとともに、その主走査方向における位置が位置検出装置(エンコーダー)30によって検出されることで、その駆動位置が制御されるようになっている。
【0029】
このような構成を有する記録部17に送られた用紙Pは、従動搬送用ローラー31と共に搬送用ローラー対25を構成する駆動搬送用ローラー32の回転に伴って、両搬送用ローラー31,32間に挟持されながら主走査方向と交差する副走査方向に搬送され、記録ヘッド26と支持部材27との間を移動する。このとき、用紙Pは支持部材27に押し付けられて移動するとともに、記録ヘッド26との間にはギャップPGが形成されるようになっている。そして、この状態において、記録ヘッド26は、キャリッジ29の移動とともに用紙Pの幅方向となる主走査方向に移動するとともに、この移動に際して図示しないノズルから、ギャップPGを介して離間する用紙Pに対して記録用の液体としてのインクを噴射することにより画像を形成するようになっている。画像が形成された用紙Pは、その後、排出部18に送られる。
【0030】
排出部18は、排出用ローラー対33と排出用スタッカー34を備えている。用紙Pは、歯車からなる従動排出用ローラー35と共に排出用ローラー対33を構成する駆動排出用ローラー36の回転に伴って、両排出用ローラー35,36間に挟持されながら搬送方向下流側(図1では右側方向)に搬送され、排出用スタッカー34に排出される。こうして、プリンター11において用紙Pに所定の画像が記録される。
【0031】
さらに、図1に示すように、本実施形態のプリンター11は、ピックアップローラー14aの回転によってカセット20から分離部15側に送り出され、分離斜面21aによって一枚ずつ分離されながら搬送部16に送られる用紙Pの受け渡し部分に、ダンパー装置100を備えている。このダンパー装置100と搬送部16とによって、記録部17に対して用紙Pを一枚ずつ安定して供給する搬送装置が構成されている。以下、本実施形態のダンパー装置100について、図を参照して説明する。
【0032】
図2は、本実施形態のダンパー装置100の構造を示す斜視図であり、カセット20が装着部13に未装着である状態を示している。図示するように、ダンパー装置100は、第1部材としてのベース110、第2部材としてのスライダー120、スライダーカセット130、および用紙Pの移動を規制する規制部材としてのストッパー140とを備えている。なお、以降の説明を容易にするため、カセット20の抜き取り方向をD1、挿入方向をD2、これらと直交する方向のうち、用紙Pの厚さ方向をD3、用紙Pの幅方向をD4、と呼称する。
【0033】
ベース110は、プリンター11のフレーム12に固定されている。また、ベース110における用紙Pの幅方向D4の中央部には、スライダー120が摺動する第1摺動面SPが設けられている。なお、本実施形態では、スライダー120は、カセット20の挿入方向D2および抜き取り方向D1に沿う方向を摺動方向としている。この第1摺動面SP、およびスライダー120について、先に図3を用いて説明する。図3は、後述するスライダーカセット130およびストッパー140を取り外すとともに、ベース110からスライダー120を離間した状態で示した斜視図である。
【0034】
図示するように、ベース110に設けられた第1摺動面SPは、摺動方向(挿入方向D2または抜き取り方向D1)と交差する断面での形状が、摺動方向と交差する幅方向D4に凹凸が繰り返し形成された所謂櫛歯形状を有している。そして、複数の凸条の長手方向が挿入方向D2に沿って互いに平行に形成されることによって、厚さ方向D3における平面視で略矩形形状の平面領域を呈する第1摺動面SPが設けられている。
【0035】
一方、スライダー120には、この第1摺動面SPの凹凸形状に対して粘性部材としての粘性グリスを介して所定の間隔を有して対向するように第2摺動面TPが形成されている。すなわち、第2摺動面TPは、第1摺動面SPと幅方向D4において略同じ範囲に渡って、第1摺動面SPの凹凸形状との間に隙間を有して対向するように、凹凸が繰り返し形成された所謂櫛歯形状を有している。また、第2摺動面TPの各凹凸形状は、第1摺動面SPの凹凸形状よりも、その複数の凸条の長手方向の寸法が短く形成されている。従って第2摺動面TPは、厚さ方向D3における底面視で、挿入方向D2に沿った長さが第1摺動面SPよりも短い略矩形形状の平面領域を呈して設けられている。
【0036】
そして、スライダー120は、この第2摺動面TPを第1摺動面SPとの間に粘性グリスを介在させながら、ベース110の第1摺動面SP上を、付勢手段としての一対のコイルばねB1a,B1bによって挿入方向D2に付勢されて移動できるようになっている。なお、コイルばねB1a,B1bは、厚さ方向D3における平面視で、第2摺動面TPを挟んで平面的に重ならない位置にそれぞれ配設され、その一端はスライダー120に設けられたばね支持部123a,123bにそれぞれ支持または固定されている。
【0037】
また、スライダー120における第2摺動面TPが設けられた面と反対側の面には、所謂フック型の形状を呈した突出部121が形成されている。この突出部121には、幅方向D4に貫通するとともに抜き取り方向D1側に開口端を有する所定幅のスリット状の係合空間125が抜き取り方向D1に向けて下がり勾配となるように斜状に設けられている。この係合空間125には、図2に示したように、後述するストッパー140の係合ピン145が係合するようになっている。
【0038】
図2に戻り、スライダーカセット130は、その幅方向D4における両側の端部分139がベース110と係合するとともに、その係合状態を保ちながら挿入方向D2に沿って往復移動できるようになっている。また、スライダーカセット130は、付勢手段としての一対のコイルばねB2aおよびコイルばねB2b(図4参照)によって、抜き取り方向D1に常時付勢されるようになっている。
【0039】
コイルばねB2aおよびコイルばねB2bは、一端がベース110に他端がスライダーカセット130にそれぞれ支持または固定されるように挿入された圧縮ばねである。また、コイルばねB2aおよびコイルばねB2bは、厚さ方向D3における平面視でコイルばねB1a,B1bと平面的に重ならない幅方向D4の両端付近の位置にそれぞれ配設されている。なお、スライダー120のばね支持部123a,123bに一端が固定されたコイルばねB1a,B1bの他端は、スライダー120のばね支持部123a,123bと対向するようにスライダーカセット130に設けられたばね支持部(図4(b)(c)に片側のばね支持部130bのみ図示)にそれぞれ支持または固定されている。
【0040】
またスライダーカセット130には、厚さ方向D3における平面視での中央部分に開口部130hが設けられ、この開口部130h内にスライダー120の突出部121が位置するようになっている。そして、この開口部130hの挿入方向D2における開口縁辺135は、スライダー120が挿入方向D2に移動した場合にスライダー120の突出部121の一部となる係止部122と当接するように形成されている。従って、スライダーカセット130は、開口部130hの開口縁辺135によって、スライダー120の挿入方向D2への移動を規制するようになっている。
【0041】
一方、スライダーカセット130には、プリンター11に挿入されるカセット20の挿入方向D2側の端部が図2中に太線矢印で示したように移動して当接する当接部131が形成されている。なお、本実施形態では、スライダーカセット130において、この当接部131とほぼ同じ位置であってカセット20が当接する面と反対側の面に、コイルばねB2aおよびコイルばねB2b、さらにコイルばねB1aおよびコイルばねB1bの他端が支持または固定されるようになっている。
【0042】
図2に示すように、ストッパー140は、挿入方向D2と対向する方向側に略平坦な規制面141が形成されている。規制面141は、用紙Pの移動を規制する位置(これを「規制位置」と呼ぶ)において、分離斜面21aに対して交差する方向(ここでは挿入方向D2と直交する厚さ方向D3)になるように設定されている。また、ストッパー140は、厚さ方向D3側の端部において回転軸部146が形成されるとともに、ベース110に対して規制面141がこの回転軸部146を支点として回動可能になるよう取り付けられている。また、ストッパー140には、幅方向D4の両側端から規制面141と反対側に向けて平行に延びる一対の壁部が形成されている。そして、この一対の壁部間に軸方向が幅方向D4に延びる円柱状の係合ピン145が支持されている。この係合ピン145は、前述したスライダー120の突出部121に設けられた係合空間125と係合して所謂カム機構を構成するようになっている。このカム機構によって、ストッパー140の規制面141は、スライダー120の挿入方向D2への移動とともに基端側の回転軸部146を中心に回転し、その先端部分が挿入方向D2側に傾くようになっている。この傾きによって、規制面141は分離斜面21aよりも大きく傾斜した状態となる。
【0043】
このように構成されたダンパー装置100は、挿入方向D2に挿入されたカセット20に積層状態に載置された複数枚の用紙Pの挿入方向D2への移動に伴って生ずる用紙Pが有する力(慣性力)Fd(図2中に太線白抜き矢印で示す)を規制面141にて受け止める。こうすることによって、積層された各用紙Pにおける挿入方向D2の側端面Pseを規制するのである。その後、時間差を有して用紙Pの挿入方向D2への移動の規制を解除するように、ストッパー140を、その規制面141が挿入方向D2側に分離斜面21aよりも大きく倒れた位置(これを「解除位置」と呼ぶ)になるように動作させる。このストッパー140が時間差を有して倒れる動作を、図4を用いて説明する。
【0044】
図4(a)は、カセット20が装着部13に未装着である状態におけるダンパー装置100を、厚さ方向D3における平面視で模式的に示した平面図である。図4(b)は、図4(a)のダンパー装置100を幅方向D4から見た場合の模式図である。また、図4(c)は、カセット20が装着完了した状態におけるダンパー装置100を、幅方向D4から見た場合の模式図である。なお、図4(b)(c)では、説明を容易にするため構成部材を必要に応じて断面で示している。
【0045】
図4(a)(b)に示すように、カセット20がスライダーカセット130の当接部131に当接するまでの未装着の状態では、スライダーカセット130は、コイルばねB2a,B2bのばね力F2a,F2bによって、抜き取り方向D1に付勢されている。従って、スライダーカセット130は、開口部130hの開口縁辺135がスライダー120における突出部121の係止部122を抜き取り方向D1側に押圧することにより、スライダー120が挿入方向D2へ移動しないように規制している。また、このときスライダー120は抜き取り方向D1へ移動しないように、ベース110に設けられた度当て部118(図7参照)に対して抜き取り方向D1側に向けて形成された度当て対向部128(図7参照)が当接することによって位置決めされている。こうしてスライダー120は、スライダーカセット130の開口縁辺135およびベース110の度当て部118が位置決め部として機能することによって、ストッパー140の規制面141を用紙Pの移動を規制する規制位置(図2に実線で示すように垂立した位置)に維持させることになる第1の位置に保持される。
【0046】
なお、本実施形態では、スライダー120が第1の位置に保持された状態において、コイルばねB1a,B1bは、わずかに圧縮されている状態である。こうすることによって、コイルばねB1a,B1bは、スライダー120とスライダーカセット130との間において、安定して固定された状態が維持できるようになっている。
【0047】
次に、カセット20が装着されると、スライダーカセット130は、当接部131がカセット20によって押し込まれて、挿入方向D2に移動する。このため、図4(c)に示したように、スライダー120の移動を規制していた開口縁辺135が挿入方向D2に移動してスライダー120(具体的には突出部121の背面(挿入方向D2側の面)である係止部122)から離れる。このとき、スライダーカセット130の移動に伴ってコイルばねB1a,B1bが圧縮される。圧縮されたコイルばねB1a,B1bは、スライダー120に対して挿入方向D2へ移動させるばね力を与える。この結果、図4(c)に二点鎖線で示したように、スライダー120が挿入方向D2に移動するので、ストッパー140は係合ピン145と係合空間125とのカム機構の作用によって図中二点鎖線で示したように先端部分が挿入方向D2側に倒れる。こうして、ストッパー140は、用紙Pの移動規制状態を解除する解除位置(図2に二点鎖線で示すように傾斜した位置)となる。
【0048】
なお、このときスライダー120はベース110に設けられた度当て部119(図7参照)に対して挿入方向D2側に向けて形成された度当て対向部129(図7参照)が当接することによって位置決めされ、挿入方向D2において予め定められた位置まで移動するようになっている。こうして、スライダー120は、ベース110の度当て部119位置決め部として機能することによって、ストッパー140の規制面141を用紙Pの移動の規制を解除する解除位置に維持させることになる第2の位置に保持される。
【0049】
一方、カセット20が装着部13から抜き取られると、コイルばねB2a,B2bの付勢力によってスライダーカセット130が抜き取り方向D1側に押されて移動して、スライダー120を、第2の位置から第1の位置に戻すようになっている。すなわち、移動を開始したスライダーカセット130は、その開口縁辺135がスライダー120(係止部122)と当接する。そして、スライダーカセット130は、この当接状態を維持しつつコイルばねB2a,B2bの付勢力によって移動することによって、スライダー120を抜き取り方向D1に移動させる。この結果、スライダー120は、第2の位置から、カセット20が装着される前の位置つまり第1の位置に戻されることになる。そして、このスライダー120の第2の位置から第1の位置への戻りに合わせて、ストッパー140はカム機構によって回転し、その規制面141が倒れた状態から元の状態、つまり解除位置から規制位置に戻るように構成されている。
【0050】
さて、このスライダー120の第1の位置から第2の位置への移動において、図4(a)に示したスライダー120の第2摺動面TPは、ベース110の第1摺動面SP上を挿入方向D2へ移動する。この第2摺動面TPの移動に際して、前述するように、それぞれ凹凸形状を呈する第1摺動面SPとスライダー120の第2摺動面TPとの間に、粘性部材としての粘性グリスを介在させることによってスライダー120の移動を遅くするダンパー機構が構成されている。このダンパー機構について図5を用いて説明する。なお、図5(a)は、第1摺動面SPおよび第2摺動面TPを抜き取り方向D1から見た場合の模式図である。また、図5(b)は、粘性グリスのグリス量とダンパー力の関係を示すグラフである。
【0051】
図5(a)に示すように、ベース110の第1摺動面SPとスライダー120の第2摺動面TPとには、幅方向D4において互いに対向している領域幅TPAに渡って、定められた離間距離を有するように、それぞれの凹凸形状が形成されている。従って、この離間距離によって形成される総離間空間GKSを粘性グリスで満たすことによって、最大のダンパー力を得ることができる。すなわち、図5(b)に示したように、ダンパー力(N)は、グリス量(g)の増加とともに上昇し、第1摺動面SPに塗布されたグリス量が、総離間空間GKSを満たすグリス量GFになったとき、ほぼ最大値を呈することになる。
【0052】
ところで、図4(a)に示すように、第1摺動面SPの凹凸状は、第2摺動面TPの挿入方向D2における移動範囲、すなわち第1の位置から第2の位置に渡って形成されている。従って第1摺動面SPは第2摺動面TPよりも広い領域を有している。また、第1摺動面SPと第2摺動面TPとの対向面積は、スライダー120が第1の位置と第2の位置との間を摺動する間一定である。そこで、本実施形態では、図5(b)に示すように、粘性グリスを、第1摺動面SPと第2摺動面TPとが対面した状態での両摺動面SP,TP間の総離間空間GKSを満たすグリス量GFを超えるグリス量GSで第1摺動面SPに塗布するようにした。こうすることによって、余剰グリス量GYを備えた第1摺動面SPを第2摺動面TPが移動する場合においては、第2摺動面TPと第1摺動面SPとの間に粘性グリスが満たされた状態が常に安定して形成される確率が高くなる。
【0053】
しかしながら、このように粘性グリスが第1摺動面SPに対して余剰に塗布された状態である場合、この余剰の粘性グリスがスライダー120の移動に伴って掻き出されることになる。このとき、掻き出された粘性グリスが、第1摺動面SPから他の部分に付着しないようにすることが必要である。粘性グリスが他の部分に付着して減少すると、第1摺動面SPを移動する第2摺動面TPは、第1摺動面SPとの間において粘性グリスが満たされない状態が発生してダンパー力が減少してしまうことになるからである。こうなった場合、スライダー120は速く移動してしまうことになるので、ストッパー140の移動について設定された時間差が少なくなってしまい、その結果、用紙Pの移動規制が不十分になってしまう虞がある。
【0054】
ここで、本実施形態に対する比較例として、このような粘性グリスの減少が生じやすいダンパー装置の例を、図6を用いて説明する。図6(a)は、カセット20が未装着状態でスライダー120cが第1の位置にある状態におけるダンパー装置100cを、幅方向D4と直交する面で切断した場合の断面図である。図6(b)は、カセット20が装着完了した状態でスライダー120cが第2の位置にある状態におけるダンパー装置100cを、幅方向D4と直交する面で切断した場合の断面図である。また、図6(c)〜(f)は、ダンパー装置100cにおいて、ベース110cに対してスライダー120cが摺動する場合の粘性グリスの挙動を模式的に示した説明図である。なお、図6(a)(b)ではスライダーカセットを省略している。また、本実施形態のダンパー装置100と同じ機能を有する構成部材については、同符号に「c」を付して表記し、ここではその説明を省略する。
【0055】
図6(a)(b)に示したように、ダンパー装置100cは、ストッパー140cが用紙Pの移動を規制する規制位置にある場合、図中矢印E1に示した領域において、スライダー120cの移動方向側端部がベース110cに直接当接するように構成されている。また、ストッパー140cが用紙Pの移動規制の解除位置にある場合は、図中矢印E2に示した領域において、スライダー120cの移動方向側端部はベース110cに直接当接するように構成されている。従って、粘性グリスGは、この当接部分において、図6(c)から図6(f)までの図示した挙動を繰り返す。
【0056】
すなわち、図6(c)に示すように、移動(摺動)するスライダー120cは、その移動方向(図中、白抜き矢印)側端部の先頭部分に、掻き出された粘性グリスGの溜りが少なからず形成される。この状態で図6(d)に示すように、スライダー120cがベース110cに当接すると、先頭部分に溜まっていた粘性グリスGが、ベース110cとスライダー120cとの間で押し潰されて広がる。そして、図6(e)に示すように、広がった粘性グリスGは、例えば第1摺動面SP以外の面に押し出され、例えば、ベース110cの表面(図では上面)に付着する。すると、図6(f)に示すように、ベース110cから離間するようにスライダー120cが移動しても、表面に付着した粘性グリスGは、第1摺動面SPに戻されることなく、そのまま表面に残った状態になる。
【0057】
従って、比較例のダンパー装置100cは、第1摺動面SPにおいて塗布された粘性グリス量が減少してしまうため、ダンパー力が減少してしまう。また、第1摺動面SP以外に付着した粘性グリスは、ダンパー装置100cの他の部分にさらに広がって付着する虞もあり、このような場合は、用紙Pを汚してしまうなどの不具合を生じることも考えられる。
【0058】
そこで、本実施形態のダンパー装置100では、カセット20が装着部13から抜かれてスライダー120が第2の位置から第1の位置に移動するとき、その移動方向側端部における移動方向前側においてベース110との間に隙間領域が形成されるように構成されている。また、スライダー120が第1の位置から第2の位置に移動して、ストッパー140が用紙Pの移動規制の解除状態を呈する位置になったとき、その移動方向側端部における移動方向前側においてベース110との間に隙間領域が形成されるように構成されている。以下、前者について図7を用いて、また後者について図8を用いて、それぞれ説明する。なお、図7および図8においては、説明の都合上スライダーカセット130を取り除いた状態で図示している。
【0059】
図7(a)は、スライダー120が第1の位置、すなわちストッパー140が用紙Pの移動を規制する規制位置にあるダンパー装置100を示した斜視図である。図7(b)は、同じくスライダー120が第1の位置にある状態におけるダンパー装置100を、幅方向D4から見た場合を模式的に示した断面図である。また、図8(a)は、スライダー120が第2の位置、すなわちストッパー140が用紙Pの移動の規制を解除する解除状態にあるダンパー装置100を示した斜視図である。図8(b)は、同じくスライダー120が第2の位置にある状態におけるダンパー装置100を、幅方向D4から見た場合を模式的に示した断面図である。
【0060】
図7(a)に示すように、ストッパー140が用紙Pの移動を規制する規制位置では、スライダー120は第1の位置に位置する。このとき、例えばスライダー120がその前の解除位置に対応する第2の位置に位置していた場合は、抜き取り方向D1に移動して、挿入方向D2および抜き取り方向D1の双方向への移動が規制された状態となることによって第1の位置に位置するようになっている。つまり、スライダー120は、第1の位置において、前述するように挿入方向D2への移動がスライダーカセット130の開口縁辺135によって規制される。一方、抜き取り方向D1への移動は、図中矢印E3で示したように、ベース110に形成された度当て部118とスライダー120に形成された度当て対向部128とが当接することで規制されるようになっている。なお、度当て部118と度当て対向部128は、厚さ方向D3における平面視で、平面的に第1摺動面SP(第2摺動面TP)と重ならない位置に形成されている。
【0061】
そして、スライダー120が第1の位置に位置した状態において、図示するように、本実施形態のベース110の形状は、スライダー120の抜き出し方向側端部124との間において隙間S1を有した壁部114となっている。この結果、図7(b)に示したように、スライダー120の移動方向(抜き取り方向D1)の前側には、隙間S1によって粘性グリスGを貯留する隙間領域SP1が形成されるようになっている。この隙間領域SP1は、少なくとも粘性グリスGの余剰分(余剰グリス量GY)に相当する空間領域を有している。
【0062】
一方、図8(a)に示すように、ストッパー140が用紙Pの移動の規制の解除位置では、スライダー120は第2の位置に位置する。このとき、スライダー120は挿入方向D2に移動したのち、挿入方向D2への移動が規制された状態となることによって第2の位置に位置するようになっている。つまり、スライダー120は、第2の位置において、挿入方向D2への移動は、図中矢印E4で示したように、ベース110に形成された度当て部119とスライダー120に形成された度当て対向部129とが当接することで規制されるようになっている。なお、度当て部119と度当て対向部129は、厚さ方向D3における平面視で平面的に第1摺動面SP(第2摺動面TP)と重ならない位置に形成されている。
【0063】
そして、スライダー120が第2の位置に位置した状態において、図示するように、本実施形態のベース110の形状は、スライダー120の挿入方向側端部126との間において隙間S2を有した壁部116となっている。この結果、図8(b)に示したように、スライダー120の移動方向(挿入方向D2)の前側には、隙間S2によって粘性グリスGを貯留する隙間領域SP2が形成されるようになっている。この隙間領域SP2は、少なくとも粘性グリスGの余剰分(余剰グリス量GY)に相当する空間領域を有している。
【0064】
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第2摺動面TPから摺動方向前側へ掻き出された粘性グリスを、スライダー120の摺動方向前側の端部においてベース110との間に形成した隙間領域SP1,SP2に貯留するので、粘性グリスが第2摺動面TP近傍に維持されることになる。従って、掻き出された粘性グリスが他の部分に付着して失われることが抑制されることによって、第1摺動面SPと第2摺動面TPとの間に安定して粘性部材を介在させることができるので、ダンパー力の変化が抑制される。また、掻き出された粘性グリスが他の部分に付着することによってダンパー装置100を汚してしまうことを抑制することができる。
【0065】
(2)第1摺動面SPと第2摺動面TPとの間に保有できる保持量を超える粘性グリスを、スライダー120の摺動方向前側の端部において形成した隙間領域SP1に全量貯留することができる。従って、粘性グリスが第2摺動面TPの近傍に維持されるとともに、原理的に粘性グリスが他の部分に付着することがないので、第1摺動面SPと第2摺動面TPとの間に粘性グリスを安定して介在させることができる。この結果、ダンパー力の変化が抑制されるとともに、掻き出された粘性グリスによってダンパー装置100を汚してしまうことを抑制することができる。
【0066】
(3)第2摺動面TPの形状を凹凸形状とすることで、第2摺動面TPの延べ面積を多くすることができる。従って、第2摺動面TPについて、平面視での許容面積が小さい場合であっても、粘性グリスを介して第1摺動面SPと広い面積で対向させることができるので、ダンパー力を大きくすることができる。また、形成する凹凸形状に応じて延べ面積を調節することによってダンパー装置100のダンパー力を所望する大きさに設定することも可能である。
【0067】
(4)少なくとも第2摺動面TPから平面的に離れた位置にスライダー120の位置決めのための形状を形成するので、位置決め部は第2摺動面TP以外の領域に形成される。従って、第2摺動面TPにおける凹凸形状を、スライダー120が摺動する間は変化しないように形成することができる。従って、ダンパー力の変化を抑制することができる。また、位置決め部が第2摺動面TPから離れた位置に形成されるので、掻き出された粘性グリスが、この位置決め部つまり他の部分に付着することが抑制される。
【0068】
(5)用紙Pと近い側にある第2摺動面TPの端部において、粘性グリスを貯留する隙間領域SP1が形成されるので、用紙Pに対して第2摺動面TPからはみ出して粘性グリスが付着することが抑制される。
【0069】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、スライダー120の第1の位置および第2の位置の位置決めを行う位置決め部(開口縁辺135、度当て部118,119)を、第1摺動面SPに隣接して形成することとしてもよい。ダンパー装置100において、例えばスペースの制約から、こうした位置決め部を第1摺動面SPに対して平面的に重ならないように形成することができない場合がある。このような場合、以下に示す変形例のごとく、第1摺動面SPと隣接するように位置決め部を設けるようにしてもよい。
【0070】
本変形例を、図9を用いて説明する。図9は上記実施形態の図7(b)に対応した図であり、ストッパー140dが規制位置、従ってスライダー120dが規制位置にある変形例のダンパー装置100dの断面図である。なお、スライダーカセット130は省略している。
【0071】
図示するように、ベース110は、第1摺動面SPの抜き取り方向D1側の端部において、第1摺動面SPの平面から厚さ方向D3において突出するとともに幅方向D4に所定長を有するリブ形状の係止部112が、第1摺動面SPに隣接して設けられている。そして、スライダー120dはこの係止部112と係合することによって、抜き取り方向D1への移動が規制されて第1の位置に位置決めされるようになっている。この位置決め状態において、スライダー120dの抜き取り方向D1の前側には、ベース110の部位である壁部114dが離間して形成されている。つまり、この壁部114dとスライダー120dの抜き取り方向D1側の端部との間で、隙間領域SP1dが形成されるようになっている。
【0072】
従って、スライダー120dの摺動によって抜き取り方向D1側に掻き出された粘性グリスは、この隙間領域SP1dに貯留されることによって他の部分にはみ出すことが抑制される。特に、このようにスライダー120dが第1の位置、すなわち図示しない用紙Pに対して近い側となるスライダー120の端部において隙間領域SP1dが形成されることによって、用紙Pに対して粘性グリスが付着するという不具合の発生が回避される。
【0073】
なお、本変形例では、説明を省略するが、解除位置においてスライダー120dが第2の位置に位置する場合、ベース110の部位である壁部116dとの間において隙間(隙間領域)は形成されないようになっている。掻き出された粘性グリスと用紙Pとの距離が遠く、また、粘性グリスが他の部分に付着する確率が低い場合では、このように必ずしも隙間を形成しなくてもよい。こうすれば、ベース110の装着方向における長さが隙間分長くなることが抑制されるので、ダンパー装置100dが大きくならずに済む。これは、上記実施形態においても同様である。もとより、本変形例においても、上記実施形態と同様に、第2の位置においても、ベース110とスライダー120との間において、挿入方向D2側の端部において隙間(隙間空間)を形成してもよい。
【0074】
・上記実施形態では、第2摺動面を、幅方向D4において凹凸が連続する所謂櫛歯形状の凹凸形状としたが、必ずしも櫛歯形状に限らず、断面が三角形である凹凸が連続する鋸歯形状としてもよい。あるいは、凹凸がない平坦面としてもよい。要は、粘性グリスを介することでダンパー機能を呈する形状であればよい。
【0075】
・上記実施形態において第1摺動面SPあるいは第2摺動面TPは厚さ方向D3における平面視で略矩形形状の平面領域であることとしたが、必ずしもこれに限らず、例えば円形や三角形など矩形以外の形状であってもよい。
【0076】
・上記実施形態では、隙間領域SP1,SP2は、粘性グリスの余剰分をそれぞれ貯蔵できることとしたが、必ずしも余剰分を貯蔵することができなくてもよい。例えば、余剰分の粘性グリスが隙間領域SP1と隙間領域SP2とに分散して貯留される場合は、分散された粘性グリスに応じた隙間(隙間領域)が少なくとも形成されていればよい。こうすれば、粘性グリスの付着を抑制することが可能である。
【0077】
・上記実施形態では、記録装置をインクジェット式のプリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする記録装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の記録装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記記録装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、記録装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクが挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。記録装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する記録装置がある。あるいは、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の記録装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
11…記録装置としてのプリンター、16…搬送装置を構成する搬送手段としての搬送部、17…記録手段としての記録部、100,100c,100d…ダンパー装置、110…第1部材としてのベース、118,119…位置決め部としての度当て部、120…第2部材としてのスライダー、135…位置決め部としての開口縁辺、140…規制部材としてのストッパー、G…粘性部材としての粘性グリス、P…対象物としての用紙、SP…第1摺動面、TP…第2摺動面、SP1,SP1d,SP2…隙間領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物と当接することにより該対象物の移動を規制可能な規制部材を、前記対象物に対する移動を規制する規制位置から前記対象物に対する移動の規制を解除する解除位置へ時間差を有して動作させるダンパー装置であって、
前記対象物の移動方向に沿った第1摺動面を有する第1部材と、
前記第1部材の第1摺動面と粘性部材を介して対向する第2摺動面を有すると共に、その第2摺動面以外の部位において前記規制部材と係合した状態で、前記規制部材を前記規制位置に位置させることになる第1の位置と、前記規制部材を前記解除位置に位置させることになる第2の位置との間を摺動する第2部材と、を備え、
少なくとも前記第2部材が摺動して前記第1の位置または前記第2の位置のいずれか一方に位置したとき、前記第2部材の摺動方向前側の端部と対応する位置において、前記第1部材と前記第2部材との間に前記粘性部材を貯留する隙間領域が形成されることを特徴とするダンパー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパー装置において、
前記第1摺動面と前記第2摺動面との対向面積は、前記第2部材が前記第1の位置と前記第2の位置との間を摺動する間一定であるとともに、
前記隙間領域は、前記第2摺動面に保持される前記粘性部材の保持量を超える余剰分の前記粘性部材を貯留可能な空間領域を有していることを特徴とするダンパー装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のダンパー装置において、
前記第2摺動面の前記摺動方向と交差する断面での形状は、前記摺動方向と交差する方向に凹凸が繰り返して形成された形状であることを特徴とするダンパー装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のダンパー装置において、
前記第1部材に対して前記第2部材を前記第1の位置または前記第2の位置に位置決めする位置決め部を、前記第1部材および前記第2部材の前記第2摺動面以外の領域に形成したことを特徴とするダンパー装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のダンパー装置において、
前記第2部材が前記第1の位置に位置したとき、前記第2部材が前記対象物に最も近づくとともに、
前記隙間領域は、前記第2部材が前記第1の位置へ摺動する摺動方向前側の前記第2摺動面の端部において形成されることを特徴とするダンパー装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のダンパー装置と、
前記ダンパー装置における前記規制部材によって移動規制された対象物を搬送する搬送手段と、
を備えた搬送装置。
【請求項7】
請求項6に記載の搬送装置と、
前記搬送装置によって搬送される対象物に対して記録を施す記録手段と、
を備えた記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−12145(P2012−12145A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148756(P2010−148756)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】