説明

チェーン式無段変速伝動機構

【課題】全プーリ比域で、チェーンのリンクピンと、プーリシーブ面との間の摩擦係数を増大させ得るようにして、伝動効率を高めたチェーン式無段変速伝動機構を提供する。
【解決手段】プライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12に対するチェーン13の巻き掛け円弧径が同じになるプーリ比1のチェーン巻き掛け状態において、チェーン13の巻き掛け円弧よりも内周側におけるプーリシーブ11a,12aのシーブ面領域に多数の円周条溝21を設ける。ロー側プーリ比で行われるコースティング走行時は、チェーン13のリンクピンの両端面と、プライマリプーリシーブ11aとの接触領域において、摩擦係数の不足をプライマリプーリシーブ11aの円周条溝21が解消し得る。ハイ側プーリ比で行われるドライブ走行時も同様に摩擦係数の不足により伝動効率の低下が顕著になるが、この問題を、セカンダリプーリシーブ12aの円周条溝21が解消し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無終端チェーンと、この無終端チェーンを無段変速可能に巻き掛けしたV溝プーリとから成るチェーン式無段変速伝動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このチェーン式無段変速伝動機構は、例えば特許文献1に記載のごとく、無終端チェーンをプーリのV溝に掛け渡して動力伝達可能となす一方、この動力伝達中に、プーリV溝を画成する軸線方向対向シーブの間隔を変更してプーリV溝の溝幅を変更することによりプーリに対する無終端チェーンの巻き掛け径を連続的に変化させ、上記の無段変速が可能となるよう構成する。
【0003】
他方で無終端チェーンは、多数のリンク板を順次、その両端におけるリンクピン挿通孔内のリンクピンで数珠繋ぎに連結して連続円環状に構成する。
そして各リンクピンの両端面は、プーリV溝の側壁を提供する軸線方向対向シーブの対向シーブ面と接触するよう傾斜させ、
当該リンクピンの傾斜両端面がプーリの対向シーブ面と摩擦接触することにより上記の動力伝達を可能ならしめる。
【0004】
よって、リンクピンの傾斜両端面とプーリ対向シーブ面との間における摩擦係数を大きくすることが、チェーン式無段変速伝動機構の伝動効率を向上させる意味合いにおいて肝要である。
【0005】
かようにリンクピンの傾斜両端面とプーリ対向シーブ面との間における摩擦係数を大きくする技術として従来、例えば特許文献1に記載のごとく、リンクピンの傾斜両端面にリンクピン移動方向へ連なる条溝を設ける技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−226401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記した先の提案技術にあっては、プーリ対向シーブ面と摩擦接触するリンクピンの両端面に条溝を設けるため、以下の問題を生ずる。
リンクピンは、多数のリンク板を順次、数珠繋ぎに連結するため、多数個存在し、これら多数のリンクピンに条溝を設けるのでは、各リンクピンの両端面に条溝を設ける必要があることもあって、条溝の加工工数が膨大になることから、また小さなリンクピンへの加工であることから、条溝の加工費が嵩んで大幅なコスト高になるのを避けられない。
【0008】
また、駆動側プーリに対するチェーンの巻き掛け円弧径よりも従動側プーリに対するチェーンの巻き掛け円弧径が小さくなるオーバードライブ変速比で、対向シーブによるリンクピン挟圧力不足により、これら対向シーブおよびリンクピン間に滑りが発生し、伝動効率が悪化するという問題が新たに分かったが、
リンクピンに条溝を設ける場合、課題を生じる変速比で条溝を利用しつつ、課題を生じない変速比においては不必要な条溝を利用しない(無駄な加工を避け、かつ、加工された部位については耐久性を向上させる)ということができない。
【0009】
本発明は、プーリシーブ面に条溝を設ければ、上記の問題をことごとく解消し得るとの観点から、この着想を具体化したチェーン式無段変速伝動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明によるチェーン式無段変速伝動機構は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の要旨構成の基礎前提となるチェーン式無段変速伝動機構を説明するに、これは、
無終端チェーンと、この無終端チェーンを無段変速可能に巻き掛けしたV溝プーリとから成り、
該プーリのV溝を画成する軸線方向対向シーブの間隔を変更することにより、上記の無段変速が可能なものである。
【0011】
本発明は、かかるチェーン式無段変速伝動機構において、
上記無終端チェーンが摩擦接触する上記軸線方向対向シーブの対向シーブ面にそれぞれ、連続条溝を設けた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0012】
上記した本発明のチェーン式無段変速伝動機構にあっては、無終端チェーンが摩擦接触する対向シーブ面にそれぞれ連続条溝を設けたため、
無終端チェーンと対向シーブ面との間の油膜発生を遮断することで、油膜によるすべりが低減されて摩擦係数が向上し、また、相対的に接触面圧が高くなって、プーリ比の如何に関わらず、これら両者間の摩擦係数が増大し、全域で伝動効率を向上させることができる。
【0013】
また、上記摩擦係数の増大により、無終端チェーンおよび対向シーブ面間の要求摩擦係数を達成するのに必要な、対向シーブ面によるチェーン挟圧力が低くてよくなり、そのためのエネルギー消費が少なくなると共に、チェーン挟圧力の低下によりチェーン式無段変速伝動機構の耐久性を向上させることもできる。
【0014】
更に、シーブ面に連続条溝を設けて上記の効果が奏し得られるようにしたため、連続条溝を設ける部品点数および箇所が極めて少なく、連続条溝の加工工数を大幅に低下させ得るし、更に大きなプーリシーブへの連続条溝の加工であることもあって、条溝の加工費を大幅に節減することができ、コスト的に大いに有利である。
【0015】
また、上記したごとく所定の変速比で課題が顕著になるのに対応して条溝を設けることができるため、無駄な加工を避け、かつ、加工された部位については耐久性を向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の着想を適用可能なチェーン式無段変速伝動機構を例示する概略側面図である。
【図2】図1に示したチェーン式無段変速伝動機構のセカンダリプーリ側における巻き掛け伝動部を示す詳細側面図である。
【図3】図2に示したセカンダリプーリ側チェーン巻き掛け伝動部の詳細を示す縦断面図である。
【図4】図1〜3における無終端チェーンのリンクピンを示す全体斜視図である。
【図5】図4に示したリンクピンの端面と、プーリシーブ面との間における摩擦力の変化特性を、油膜が介在していない全接触時と、油膜が介在している場合とで比較して示す特性線図である。
【図6】本発明の第1実施例になるチェーン式無段変速伝動機構を示す、図1と同様な概略側面図である。
【図7】図6に示したチェーン式無段変速伝動機構のプライマリプーリシーブおよびセカンダリプーリシーブを、同図のVII−VII線上で断面とし、矢の方向にして示す詳細断面図である。
【図8】本発明の第2実施例になるチェーン式無段変速伝動機構のプライマリプーリシーブおよびセカンダリプーリシーブを示す、図7と同様な詳細断面図である。
【図9】本発明の第3実施例になるチェーン式無段変速伝動機構のプライマリプーリシーブおよびセカンダリプーリシーブを、図8のA部相当箇所で拡大して示す詳細拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1〜3は、本発明の着想を適用可能なチェーン式無段変速伝動機構を示し、
図1は、該チェーン式無段変速伝動機構10の概略側面図、図2,3はそれぞれ、そのセカンダリプーリ側における巻き掛け伝動部の詳細側面図および縦断面図である。
【0018】
図1において、11は、チェーン式無段変速伝動機構10の駆動側プーリであるプライマリプーリ、12は、従動側プーリであるセカンダリプーリをそれぞれ示す。
これらプライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12間に無終端チェーン13を掛け渡して設け、
チェーン式無段変速伝動機構10は、この無終端チェーン13を介しプライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12間で動力伝達を行い得るものとする。
【0019】
プライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12はそれぞれ、回転軸線方向に正対する対向シーブ11a,12a(図1では便宜上、手前側のシーブを除去して、向こう側のシーブのみを示す)を具え、これら対向シーブ11a間および対向シーブ12a間にプーリV溝を画成したV溝プーリとする(対向シーブ12a間に画成されたプーリV溝を図3に示す)。
【0020】
無終端チェーン13は、図2,3に明示するごとく、多数のリンク板14を順次、その両端におけるリンクピン挿通孔14a内のリンクピン15で数珠繋ぎに連結して連続円環状に構成すると共に、リンク板14を図3のごとく、リンクピン15に植設したリテーナピン16でリンクピン15に対して抜け止めする。
【0021】
リンクピン15はそれぞれ、全体を図4に示すように湾曲背面15aを有し、この湾曲背面15aが背中合わせになるよう一対一組となして、リンク板14の両端におけるリンクピン挿通孔14a内に挿通する。
そしてリンクピン15の両端面15bはそれぞれ図3,4に示すごとく、プライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12のプーリV溝側壁を提供する軸線方向対向シーブ11a(詳しくは、両者の対向シーブ面)および軸線方向対向シーブ12a(詳しくは、両者の対向シーブ面)と摩擦接触するよう傾斜させる。
【0022】
かくて無終端チェーン13は、プーリ巻き付き領域においてリンクピン15を、プライマリプーリ11の対向シーブ11a間およびセカンダリプーリ12の対向シーブ12a間に挟圧され、プライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12間での動力伝達を行うことができる。
【0023】
なお、プライマリプーリ11の対向シーブ11aは、その一方を固定シーブとし、他方を軸線方向にストローク制御可能な可動シーブとする。
また、セカンダリプーリ12の対向シーブ12aは、プライマリプーリ11の可動シーブと同じ側におけるシーブ(図3の左側におけるシーブ)を固定シーブとし、プライマリプーリ11の固定シーブと同じ側におけるシーブ(図3の右側におけるシーブ)を軸線方向にストローク制御可能な可動シーブとする。
【0024】
かくて前記の動力伝達中、プライマリプーリ11の可動シーブを固定シーブに対し接近させてプーリV溝幅を狭くすると同時に、セカンダリプーリ12の可動シーブを固定シーブから遠ざけてプーリV溝幅を広くするにつれ、
無終端チェーン13は、プライマリプーリ11に対する巻き掛け径を増大されると共に、セカンダリプーリ12に対する巻き掛け径を小さくされ、チェーン式無段変速伝動機構10は図1に示す最ハイ変速比選択状態に向け無段変速下にアップシフト可能である。
【0025】
逆に、プライマリプーリ11の可動シーブを固定シーブから遠ざけてプーリV溝幅を広くすると同時に、セカンダリプーリ12の可動シーブを固定シーブに対し接近させてプーリV溝幅を狭くするにつれ、
無終端チェーン13は、プライマリプーリ11に対する巻き掛け径を小さくされると共に、セカンダリプーリ12に対する巻き掛け径を増大され、チェーン式無段変速伝動機構10は図1に示す最ハイ変速比選択状態から図示せざる最ロー変速比選択状態に向け無段変速下にダウンシフト可能である。
【0026】
<リンクピンおよびシーブ面間の摩擦係数増大対策>
上記したチェーン式無段変速伝動機構の伝動効率を向上させるためには、リンクピン15の傾斜両端面15bがプーリ対向シーブ11a,12a(対向シーブ面)と摩擦接触して、無終端チェーン13を介し前記の動力伝達を行うため、リンクピン15の傾斜両端面15bとプーリ対向シーブ11a,12a(対向シーブ面)との間における摩擦係数を大きくすることが肝要である。
【0027】
ここでリンクピン15の傾斜両端面15bとプーリ対向シーブ11a,12a(対向シーブ面)との間における摩擦係数を考察する。
【0028】
リンクピン15の傾斜両端面15bとプーリ対向シーブ11a,12a(対向シーブ面)との間に油膜が介在せず両者が全接触している場合の摩擦力(摩擦係数)は、リンクピン15がプーリに巻き込まれて侵入する位置と、プーリの巻き込み領域から脱出する位置との間において、図5にαで示すごとくに変化する。
なお、プーリ進入位置とプーリ脱出位置の間で摩擦力が急に大きくなるリンクピン位置が存在するが、これは、無終端チェーン13が対向シーブ面11a,12aの最も内周側に入りこんだタイミングで、両シーブによるリンクピン15の把持が安定するために生じる現象と考えられる。
【0029】
しかし、チェーン式無段変速伝動機構10はプライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12と、無終端チェーン13との間における伝動部を潤滑する必要があり、リンクピン15の傾斜両端面15bとプーリ対向シーブ11a,12a(対向シーブ面)との間には油膜が介在する。
【0030】
従って、リンクピン15の傾斜両端面15bとプーリ対向シーブ11a,12a(対向シーブ面)とが全接触することはなく、リンクピン15の傾斜両端面15bとプーリ対向シーブ11a,12a(対向シーブ面)との間における摩擦力(摩擦係数)は、図5にβで示すごとくに全接触時の摩擦力α(摩擦係数)よりも、全域において油膜の介在により小さくなる。
【0031】
そのため、リンクピン15の傾斜両端面15bとプーリ対向シーブ11a,12a(対向シーブ面)との間にスリップを生じ易く、チェーン式無段変速伝動機構の伝動効率を悪化させるという問題を生ずる。
【0032】
この問題は、プーリ11,12に対する無終端チェーン13の巻き掛け円弧径が小さい領域において、つまり大(ロー側)プーリ比で行われるコースティング(惰性)走行時は、リンクピン15の傾斜両端面15bと、プライマリプーリシーブ11aとの接触領域において顕著に表れ、また、小(ハイ側)プーリ比で行われるドライブ(駆動)走行時は、リンクピン15の傾斜両端面15bと、セカンダリプーリシーブ12aとの接触領域において顕著に表れる。
これは、図5の摩擦力が急に大きくなるリンクピン位置より前で生じる油膜介在時の摩擦力の低下代が、無終端チェーン13の巻き掛け円弧径が小さいときに特に大きくなるためと考えられる。
【0033】
上記の問題に対しては、リンクピン15を対向シーブ11a間、および対向シーブ12a間に挟圧する可動シーブの推力を大きくしてリンクピン挟圧力を増大させることが考えられる。
しかしこの対策では、可動シーブ推力の増大分だけエネルギー消費が多くなると共に、リンクピン挟圧力の増大によりチェーン式無段変速伝動機構の耐久性が低下するという別の問題を生じ、抜本的な解決策たり得ない。
【0034】
そこで本実施例においては図6,7に示すように、プライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12に対する無終端チェーン13の巻き掛け円弧径が同じになるプーリ比1のチェーン巻き掛け状態において、無終端チェーン13の巻き掛け円弧を含む円よりも内周側におけるシーブ11a,12aのシーブ面領域に多数の連続条溝21を設ける。
【0035】
これら連続条溝21は、リンクピン15の移動方向に沿うよう延在させ、好ましくは、プライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12の軸心に同心の円周条溝とし、相互に等間隔に配置して設ける。
なお連続条溝(円周条溝)21は、幅および深さが例えばμmオーダーの微小なものとし、例えば、砥石による研磨加工等により刻設することができる。
【0036】
ところでリンクピン15は、シーブ11a間、および12a間に挟圧されるとき、図7の波線状態から実線で示すように変形されてシーブ11a,12aのシーブ面に接触するが、
相互に隣り合う円周条溝21の間隔(左端の溝の左端から右隣の溝の右端までの距離)を図7に明示するごとく、シーブ11a,12a(シーブ面)に対するリンクピン15(端面15b)のプーリ径方向(図7の左右方向)接触幅Wcよりも小さくする。
【0037】
また、円周条溝21を設けたシーブ11a,12aのシーブ面は、その硬度を、これらシーブ面に摩擦接触するリンクピン15の端面15bよりも高硬度となす。
【0038】
<第1実施例の効果>
上記した第1実施例の構成によれば、リンクピン15の端面15bが接触するシーブ11a,12aのシーブ面に連続条溝(円周条溝)21を設けたため、
これら連続条溝(円周条溝)21が、リンクピン15の端面15bとシーブ11a,12aのシーブ面との間における接触面積を減じて面圧を高めると共に、リンクピン15の端面15bとシーブ11a,12aのシーブ面との間に介在しようとする過剰な油膜を排除する用をなす。
従って、リンクピン15の端面15bとシーブ11a,12aのシーブ面との間における摩擦係数が増大し、チェーン式無段変速伝動機構10の伝動効率を向上させることができる。
【0039】
そして連続条溝(円周条溝)21を、プライマリプーリ11およびセカンダリプーリ12とも、プーリ比1よりも内周側におけるシーブ面領域に配置して設けたため、
前記した通り摩擦係数の不足により伝動効率の低下が顕著になるシーブ面領域のみに連続条溝(円周条溝)21を設けることとなり、最小限の連続条溝(円周条溝)21により、プーリ比の全域で上記の効果を達成することができ、連続条溝(円周条溝)21の加工費を節減し得る。
すなわち、所定の変速比で課題が顕著になるのに対応して条溝を設けることができるため、無駄な加工を避け、かつ、加工された部位については耐久性を向上させることができるようになる。
【0040】
ちなみに、大(ロー側)プーリ比で行われるコースティング(惰性)走行時は、リンクピン15の傾斜両端面15bと、プライマリプーリシーブ11aとの接触領域において、摩擦係数の不足により伝動効率の低下が顕著になるが、この問題を、プライマリプーリシーブ11aの連続条溝(円周条溝)21が解消し得る。
【0041】
また、小(ハイ側)プーリ比で行われるドライブ(駆動)走行時は、リンクピン15の傾斜両端面15bと、セカンダリプーリシーブ12aとの接触領域において、摩擦係数の不足により伝動効率の低下が顕著になるが、この問題を、セカンダリプーリシーブ12aの連続条溝(円周条溝)21が解消し得る。
【0042】
なお本実施例では連続条溝21を、プライマリプーリシーブ11aおよびセカンダリプーリシーブ12aの円周方向に延在させて設けた円周条溝により構成したため、
プーリ周方向におけるリンクピン15の摩擦係数が増大(溝や溝のエッジに沿った摺動抵抗が相対的に大きいことを利用)して上記の効果を奏し得る反面、プーリ径方向におけるリンクピン15の摩擦係数が増大するのを抑制(溝や溝のエッジを横切る摺動抵抗が相対的に小さいことを利用)して、変速時に必要な可動シーブの推力が増大するのを回避することができる。
【0043】
また、上記プーリ周方向における摩擦係数の増大により、リンクピン15の端面15bとシーブ11a,12aのシーブ面との間における要求摩擦係数を達成するのに必要な、対向シーブ11aおよび12aによるリンクピン挟圧力が小さくてよくなり、
そのためのエネルギー消費が少なくなると共に、チェーン挟圧力の低下によりチェーン式無段変速伝動機構10の耐久性を向上させることもできる。
【0044】
更に、プーリシーブ11a,12aのシーブ面に連続条溝(円周条溝)21を設けて上記の効果が奏し得られるようにしたため、
連続条溝(円周条溝)21を設ける部品点数および箇所が極めて少なく、連続条溝(円周条溝)21の加工工数を大幅に低下させ得るし、更に大きなプーリシーブ11a,12aへの連続条溝(円周条溝)21の加工であることもあって、連続条溝(円周条溝)21の加工費を大幅に節減することができ、コスト的に大いに有利である。
【0045】
また、相互に隣り合う連続条溝(円周条溝)21の間隔を図7に明示するごとく、シーブ11a,12a(シーブ面)に対するリンクピン15(端面15b)のプーリ径方向(図7の左右方向)接触幅Wcよりも小さくしたため、
リンクピン15の傾斜両端面15bと、プーリシーブ11a,12aとの接触領域に、絶えず連続条溝(円周条溝)21を存在させ得ることとなり、当該接触領域からの油膜の排除を確実にして、前記の効果を保証することができる。
【0046】
加えて、連続条溝(円周条溝)21を設けたプーリシーブ11a,12aのシーブ面を、その硬度が、これらシーブ面に摩擦接触するリンクピン15の端面15bよりも高硬度であるような構成としたため、
連続条溝(円周条溝)21を設けたプーリシーブ11a,12aのシーブ面が早期に摩耗して連続条溝(円周条溝)21が消失するのを回避することができ、連続条溝(円周条溝)21による前記の効果を長期不変に維持し得る。
【0047】
<第2実施例の構成>
図8は、本発明の第2実施例になるチェーン式無段変速伝動機構のプーリシーブ11a,12aを示し、該プーリシーブ11a,12aのシーブ面に設ける連続条溝(円周条溝)21を、本実施例においては特に以下のごときものとする。
【0048】
つまり、連続条溝(円周条溝)21の溝幅Wgを、相互に隣り合う連続条溝(円周条溝)21の間における平面部22の幅Wfよりも小さくする。
【0049】
<第2実施例の効果>
かかる第2実施例の構成によれば、平面部22の幅Wfが相対的に大きいことから、連続条溝(円周条溝)21を設けたプーリシーブ11a,12aのシーブ面が早期に摩耗して連続条溝(円周条溝)21が消失するのを回避することができ、連続条溝(円周条溝)21による前記の効果を長期不変に維持し得る。
【0050】
<第3実施例の構成>
図9は、本発明の第3実施例になるチェーン式無段変速伝動機構のプーリシーブ11a,12aを、図8のA部に相当する箇所で拡大して示す。
本実施例においては、相互に隣り合う連続条溝(円周条溝)21の間における平面部22を特に、以下のごときものとする。
【0051】
つまり当該平面部22に、連続条溝(円周条溝)21の開口縁(図9の右方)へ向かうにつれ、連続条溝(円周条溝)21の底部に接近するクラウニング23を設ける。
【0052】
<第3実施例の効果>
かかる第3実施例の構成によれば、リンクピン15の両端面15bが図7に示すごとくプーリシーブ11a,12aのシーブ面に接するとき、連続条溝(円周条溝)21の開口縁にエッジ当たりするのを、平面部22のクラウニング23が緩和し得て、リンクピン15の両端面15bが当該エッジ当たりにより損傷されたり、発熱して無段変速伝動機構を温度上昇させるのを緩和することができる。
【0053】
<その他の実施例>
なお上記した各実施例においては、連続条溝(円周条溝)21を図6に示すごとく、プーリシーブ11a,12aの内周寄りシーブ領域だけに設けたが、プーリシーブ11a,12aの全シーブ領域に設けてもよいのは言うまでもない。
【0054】
また連続条溝21は、上記した各実施例における円周条溝に限られるものでなく、プーリ円周方向へ延在するものであれば前記の作用効果を奏することができ、例えば螺旋状に延在する螺旋条溝であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 チェーン式無段変速伝動機構
11 プライマリプーリ
11a プライマリプーリシーブ
12 セカンダリプーリ
12a セカンダリプーリシーブ
13 無終端チェーン
14 リンク板
14a リンクピン挿通孔
15 リンクピン
15a 湾曲背面
15b 端面
21 連続条溝(円周条溝)
22 平面部
23 クラウニング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無終端チェーンと、この無終端チェーンを無段変速可能に巻き掛けしたV溝プーリとから成り、
該プーリのV溝を画成する軸線方向対向シーブの間隔を変更することにより、前記無段変速が可能なチェーン式無段変速伝動機構において、
前記無終端チェーンが摩擦接触する前記軸線方向対向シーブの対向シーブ面にそれぞれ、連続条溝を設けたことを特徴とするチェーン式無段変速伝動機構。
【請求項2】
請求項1に記載されたチェーン式無段変速伝動機構において、
前記連続条溝は、前記シーブ面の円周方向に延在させて設けた円周条溝であることを特徴とするチェーン式無段変速伝動機構。
【請求項3】
請求項2に記載されたチェーン式無段変速伝動機構において、
相互に隣り合う前記円周条溝の間隔を、前記シーブ面に対する前記無終端チェーンのプーリ径方向接触幅よりも小さくしたことを特徴とするチェーン式無段変速伝動機構。
【請求項4】
請求項2または3に記載されたチェーン式無段変速伝動機構において、
前記円周条溝の溝幅を、相互に隣り合う前記円周条溝の間における平面部の幅よりも小さくしたことを特徴とするチェーン式無段変速伝動機構。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載されたチェーン式無段変速伝動機構において、
相互に隣り合う前記円周条溝の間における平面部に、前記円周条溝の開口縁へ向かうにつれ、該円周条溝の底部に接近するクラウニングを設けたことを特徴とするチェーン式無段変速伝動機構。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載されたチェーン式無段変速伝動機構において、
前記V溝プーリのうち、駆動側V溝プーリのシーブ面に設ける前記円周条溝は、プーリ比1よりも内周側におけるシーブ面領域に配置したものであることを特徴とするチェーン式無段変速伝動機構。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1項に記載されたチェーン式無段変速伝動機構において、
前記V溝プーリのうち、従動側V溝プーリのシーブ面に設ける前記円周条溝は、プーリ比1よりも内周側におけるシーブ面領域に配置したものであることを特徴とするチェーン式無段変速伝動機構。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載されたチェーン式無段変速伝動機構において、
前記連続条溝を設けたシーブ面の硬度が、該シーブ面に摩擦接触する前記無終端チェーンのシーブ面接触部位よりも高硬度にされていることを特徴とするチェーン式無段変速伝動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−251578(P2012−251578A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123274(P2011−123274)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】