説明

チェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法

【課題】油溜まり用盲溝を刻設する拡径用センターピンと中空状ダイピンの長期にわたる摩耗損傷を抑制して優れた疲労強度を発揮できるチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法を提供すること。
【解決手段】鍛造工程で円筒鋼材106の内周面側母線方向に多数の油溜まり盲溝112を形成するチェーン用油溜まり盲溝付ブシュ100の製造方法であって、円筒鋼材106の一端が盲溝付け用ダイD6に内包された中空状ダイピンHPの盲溝付け用突起HP1に被嵌された後、円筒鋼材106の他端から一端に向けて挿し入れた拡径用センターピンEPが中空状ダイピンHPの先端内周部HP3に当て止め保持された状態で盲溝付け用突起HP1を円筒鋼材106の内周面に押し付け、盲溝付け用ポンチP6が円筒鋼材106の他端を押圧しながら盲溝付け用ダイD6内に押し込まれて円筒鋼材106の内周面111を盲溝付け用突起HP1に対して摺動させること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンの連結ピンに対して回動自在に嵌挿するブシュとして好適に用いられるチェーン用ブシュに関するものであって、特に、潤滑油の油溜まりとなる油溜まり用盲溝を内周面側母線方向に多数形成したチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、円筒軸受は、その内周面内にシャフト、ピン等の回転軸を挿入することにより、このような回転軸の軸受体、チェーンのブシュ等の滑り軸受として使用されている。
そして、このような円筒軸受には、軸受面となる内周面とシャフト、ピン等との潤滑性を向上させるために、その内周面母線方向と平行な潤滑油の油溜まりとなる有底の溝、要するに、油溜まり用盲溝が内周面側に多数形成されている。
【0003】
このような円筒軸受を製造する従来の方法として、図11に示すような複数の盲溝付け用突起を設けた中空状ダイピンHPと、円筒鋼材506の端部を押圧する盲溝付け用ポンチP6に同心状に一体的に備えられた拡径用センターピンEPを用いた方法がある。
すなわち、円筒鋼材506は、図12の(a)に示すように、中空状ダイピンHPを内部に設けている盲溝付け用円筒状ダイD6と拡径用センターピンEPの間に配置され、盲溝付け用ポンチP6を前進させると、図12の(b)に示すように、円筒鋼材506は、その端部が盲溝付け用ポンチP6に当接して前進して、盲溝付け用円筒状ダイD6に押し込まれ、盲溝付け用円筒状ダイD6内に固定配置されている中空状ダイピンHPが円筒鋼材506の内部に差し込まれる。また、盲溝付け用ポンチP6に備えられた拡径用センターピンEPも、溝付け用ポンチP6の前進にともなって、中空状ダイピンHPの中空部に押し込まれ、中空状ダイピンHPを拡径させて、円筒鋼材506の内周面に溝付け用突起HP1を圧入させる。
さらに、盲溝付け用ポンチP6を前進させると、図12の(c)に示すように、円筒鋼材506は、拡径用センターピンEPが押し込まれて拡径させた状態の中空状ダイピンHPを差し込みながら前進し、円筒鋼材506の内周面に圧入されている溝付け用突起HP1を円筒鋼材506に対して相対的に摺動させて、母線方向に沿って半円形断面を有する盲溝が刻設されて盲溝付け加工が施される。
その後、前述した盲溝付け用ボンチP6を後退させると、図12の(d)に示すように、拡径用センターピンEPは後退して、中空状ダイピンHPを元の状態に縮径して、円筒鋼材506から抜き取られる。次いで、図12の(e)に示すように、ストリッパS6を前進させると、円筒鋼材506を盲溝付け用円筒状ダイD6および中空状ダイピンHPから取り出され、換言すれば、円筒鋼材506から中空状ダイピンHPが相対的に抜き取られて、複数の油溜まり用盲溝512が内周面511に刻設された盲溝付き円筒軸受507となる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−330997号公報(第4〜5頁、図8、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のような製造方法では、油溜まり用盲溝512を刻設する際に拡径用センターピンEPと中空状ダイピンHPとが相互に強い押圧力で摺動するため、中空状ダイピンHPの摩耗寿命が著しく低下するという問題があった。
また、中空状ダイピンHPには、製造時に拡径の繰り返しによる金属疲労を生じるが、拡径用センターピンEPを通過させる中空部分が不可欠な形状となっているため、中空状ダイピンHPの強度を増すことが困難であるという問題があった。
他方、拡径用センターピンEPも、中空状ダイピンHPの中空部分に進入させるために、その外径が小さくならざるを得ず、しばしば破損するという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題、すなわち、本発明の目的は、上述したような従来技術の問題点を解決するものであって、油溜まり用盲溝を刻設する拡径用センターピンと中空状ダイピンの長期にわたる摩耗損傷を抑制して優れた疲労強度を発揮できるとともに薄肉の円筒鋼材であっても油溜まり用盲溝を高精度に刻設できるチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず、本請求項1に係る発明は、多数の盲溝付け用突起を先端外周部に備えるとともに複数の拡径用スリットをピン長手方向に沿って設けた中空状ダイピンと該中空状ダイピンの先端外周部を拡径する拡径用センターピンと該拡径用センターピンに同心円状に遊嵌されてピン長手方向に相対的に摺動する盲溝付け用ポンチと該盲溝付け用ポンチを受け入れる盲溝付け用ダイとを少なくとも用いた鍛造工程で円筒鋼材の内周面側母線方向に多数の油溜まり盲溝を形成するチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法であって、前記円筒鋼材の一端が前記盲溝付け用ダイに内包された中空状ダイピンの盲溝付け用突起に差し込まれた後、前記円筒鋼材の他端から一端に向けて挿し入れた拡径用センターピンが前記中空状ダイピンの先端内周部に差し込まれて当て止め保持された状態で前記中空状ダイピンの盲溝付け用突起を円筒鋼材の内周面に押し付け、次いで、前記拡径用センターピンに遊嵌された盲溝付け用ポンチが前記円筒鋼材の他端を押圧した状態で盲溝付け用ダイ内に押し込まれて前記円筒鋼材の内周面を中空状ダイピンの盲溝付け用突起に対して摺動させながら多数の油溜まり盲溝を形成することによって、前記課題を解決したものである。
【0007】
また、本請求項2に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法は、請求項1に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法の構成に加えて、前記拡径用センターピンが前記中空状ダイピンの先端内周部に楔状に差し込まれて当て止め係合するダイピン係合用凸部を備えて前記中空状ダイピンを拡径するようになっていることによって、前記課題をさらに解決したものである。
【0008】
さらに、本請求項3に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法は、請求項1または請求項2に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法の構成に加えて、前記拡径用センターピンの後端部に設けられて拡径用センターピンを中空状ダイピンの先端内周部に向けて押圧する第1押圧手段と前記盲溝付け用ポンチを拡径用センターピンに摺動させて盲溝付け用ポンチのみを円筒鋼材の他端に向けて押圧する第2押圧手段とが、それぞれ単独で押圧自在となるように設けられていることによって、前記課題をさらに解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法は、多数の盲溝付け用突起を先端外周部に備えるとともに複数の拡径用スリットをピン長手方向に沿って設けた中空状ダイピンとこの中空状ダイピンの先端外周部を拡径する拡径用センターピンと該拡径用センターピンに同心円状に遊嵌されてピン長手方向に相対的に摺動する盲溝付け用ポンチと該盲溝付け用ポンチを受け入れる盲溝付け用ダイとを少なくとも用いた鍛造工程で円筒鋼材の内周面側母線方向に多数の油溜まり盲溝を形成することにより、チェーンの連結ピンに対して回動自在に嵌挿するブシュとして好適に用いられるとともに、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0010】
すなわち、本請求項1に係るチェーン用油溜まり盲溝付プシュの製造方法は、円筒鋼材の一端が盲溝付け用ダイに内包された中空状ダイピンの盲溝付け用突起に被嵌された後、円筒鋼材の他端から一端に向けて挿し入れた拡径用センターピンが中空状ダイピンの先端内周部に差し込まれて当て止め保持された状態で中空状ダイピンの盲溝付け用突起を円筒鋼材の内周面に押し付け、次いで、拡径用センターピンに遊嵌された盲溝付け用ポンチが円筒鋼材の他端を押圧した状態で盲溝付け用ダイ内に押し込まれて円筒鋼材の内周面を中空状ダイピンの盲溝付け用突起に対して摺動させながら多数の油溜まり盲溝を形成することによって、円筒鋼材の内周面に油溜まり用盲溝を刻設する際に従来のように拡径用センターピンと中空状ダイピンとが相互に摺動することなく拡径用センターピンが中空状ダイピンの先端内周部に差し込まれて当て止め保持された状態となっているため、拡径用センターピンと中空状ダイピンの長期にわたる摩耗損傷を抑制して優れた疲労強度を発揮できるとともに、油溜まり用盲溝を高精度に刻設できる。
【0011】
そして、本請求項2に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法は、本請求項1に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法が奏する効果に加えて、拡径用センターピンが中空状ダイピンの先端内周部に楔状に差し込まれて当て止め係合するダイピン係合用凸部を備えて中空状ダイピンを拡径するようになっていることにより、拡径用センターピンが楔状に差し込まれて中空状ダイピンの先端内周部を拡径する際の拡径力が著しく軽減されるとともに中空状ダイピンの先端内周部が拡径された状態で確実に当て止め保持されるため、従来のような中空状ダイピンの中空部分全域に亙って繰り返される拡径動作に起因した苛酷な金属疲労を回避でき、また、拡径用センターピンと中空状ダイピンとが従来のものに比べて高強度で大径のピン形状を呈しているため、拡径用センターピンと中空状ダイピンの長寿命化を達成できる。
【0012】
さらに、本請求項3に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法は、本請求項1または請求項2に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法が奏する効果に加えて、拡径用センターピンの後端部に設けられて拡径用センターピンを中空状ダイピンの先端内周部に向けて押圧する第1押圧手段と盲溝付け用ポンチを拡径用センターピンに摺動させて盲溝付け用ポンチのみを円筒鋼材の他端に向けて押圧する第2押圧手段とがそれぞれ単独で押圧自在となるように設けられていることにより、第1押圧手段と連動することなく単独の第2押圧手段が盲溝付け用ポンチを介して円筒鋼材の他端を確実に押圧した状態で盲溝付け用ダイ内に押し込むため、従来の盲溝付け用ポンチや拡径用センターピンのような拡径しながら円筒鋼材の一端を押圧して油溜まり用盲溝を刻設するものに比べて、円筒鋼材の内周面側母線方向に油溜まり用盲溝をより高精度に刻設できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施例を図1乃至図10に基づいて説明する。図1は、本発明により製造されるチェーン用油溜まり盲溝付ブシュ100の斜視図であり、図2乃至図10は、本発明のチェーン用油溜まり盲溝付ブシュ100の製造方法を説明する図である。
【0014】
まず、本発明により製造されるチェーン用油溜まり盲溝付ブシュ100は、図1に示すように、母線状継目がない円筒鋼材106の内周面側111、すなわち、円筒鋼材106の内周面側母線方向に多数の油溜まり用盲溝112が中空状ダイピンHPと拡径用センターピンEPとを用いて形成されており、この油溜まり用盲溝112における溝長手方向の始端部112aと終端部112bが封止された溝形態となっている。
【0015】
したがって、本発明によって得られたチェーン用油溜まり盲溝付ブシュ100は、油溜まり用盲溝112が円筒鋼材106の内周面111のみに開口して連結ピンに対向した状態となり、油溜まり用盲溝112に注入された潤滑油が長時間の使用によっても溝長手方向の始端部112aと終端部112bから流出することなく保持されて良好な潤滑性能を維持するようになっている。
【0016】
そこで、本発明に係るチェーン用油溜まり盲溝付ブシュ100の製造方法は、図2に示すような棒状の鋼材を所定長さに切断加工して得られた円柱状のチップ101に、図3乃至図7に示すような据え込み工程、芯出し工程、第1次押出し工程、第2次押出し工程、底抜き工程などからなる鍛造加工、図8乃至図9に示すような盲溝付け加工、図10に示すような矯正加工を順次施すものであり、これらの加工について以下に詳しく説明する。
【0017】
すなわち、図2に示すような棒状の鋼材を所定長さに切断加工された円柱状のチップ101は、図3の(a)に示すような据え込み工程において、チップ用ポンチP1により内部段差形状d1を備えたチップ用円筒状ダイD1に押し込まれて、据込み加工が施された後、ノックアウトピンNP1によリチップ用円筒状ダイD1から取り出されて、図3の(b)に示すような外周面および切断端面が矯正された円柱状チップ102となる。
【0018】
次いで、図4の(a)に示すような芯出し工程において、前述した据え込み加工により得られた円柱状チップ102は、上下反転させた状態で、芯出し用ポンチP2により内部段差形状d2を備えた芯出し用円筒状ダイD2に押し込まれ、芯出し用ポンチP2の円板状突起p1で芯出し加工が施された後、ノックアウトピンNP2により芯出し用円筒状ダイD2から取り出されて、図4の(b)に示すような一端面に凹部103aが形成された凹部付き円柱状鋼材103となる。
【0019】
そして、図5の(a)に示すような第1次押出し工程において、前述した芯出し加工により得られた凹部付き円柱状鋼材103は、再び上下反転させた状態で、押圧用ポンチP3により押圧用円筒状ダイD3に押し込まれ、押圧用円筒状ダイD3内に固定配置したダイピンDP3に当接させた状態で第1次押出し加工が施されて、図5の(b)に示すような厚肉の底部104aが形成された厚底付き円筒鋼材104となる。
【0020】
さらに、図6の(a)に示すような第2次押出し工程において、前述した第1次押出し加工により得られた厚底付き円筒鋼材104は、押圧用ポンチP4により押圧用円筒状ダイD4に押し込まれ、押圧用円筒状ダイD4内に固定配置した押圧用ダイピンDP4に当接させた状態で第2次押出し加工を行った後、ストリッパS4により押圧用円筒状ダイD4から取り出されて、図6の(b)に示すような薄肉の底部105aが形成された薄底付き円筒鋼材105となる。
【0021】
そして、図7の(a)に示すような底抜き工程において、前述した第2次押出し加工により得られた薄底付き円筒鋼材105は、再び上下反転させて、底抜き用ポンチP5により底抜き用円筒状ダイD5に押し込まれ、底抜き用円筒状ダイD5内に固定配置した底抜き用ダイピンDP5に当接させた状態で、底抜き加工により薄肉の底部105aを取り去った後、ストリッパS5により底抜き用円筒状ダイD5から取り出されて、図7の(b)に示すような両端が開口された母線状継目がない円筒鋼材106となる。
【0022】
なお、両端が開口された母線状継目がない円筒鋼材106を得るまでの工程は、これに限定されるものではなく、両端が開口された母線状継目がない円筒鋼材106を製造することができれば、いかなる製造工程でもよい。
【0023】
次に、上述したような据え込み工程、芯出し工程、第1次押出し工程、第2次押出し工程、底抜き工程などからなる鍛造加工を施してなる母線状継目がない円筒鋼材106は、図8、図9に示すような本発明の特徴である盲溝付け加工が施される。
【0024】
ここで、前述した盲溝付け加工に用いる主たる工具は、図8乃至図9に示すような多数の盲溝付け用突起HP1を先端外周部に備えるとともに複数の拡径用スリットHP2をピン長手方向に沿つて設けた中空状ダイピンHPと、この中空状ダイピンHPの先端外周部を拡径する拡径用センターピンEPと、この拡径用センターピンEPに同心円状に遊嵌されてピン長手方向に相対的に摺動する盲溝付け用ポンチP6と、この盲溝付け用ポンチP6を受け入れる盲溝付け用ダイD6からなっている。
これらの拡径用センターピンEPと中空状ダイピンHPは、ほぼ同じピン外径を有するとともに、拡径用センターピンEPが中空状ダイピンHPの先端内周部HP3に楔状に差し込まれて係合するダイピン係合用凸部EP1を備えて中空状ダイピンHPを拡径するようになっている。
【0025】
さらに、拡径用センターピンEPの後端部には、この拡径用センターピンEPのダイピン係合用凸部EP1を中空状ダイピンHPの先端内周部HP3に向けて押圧するガススプリングなどからなる第1押圧手段GS1が設けられている。
そして、前述した盲溝付け用ポンチP6を拡径用センターピンEPに対して摺動させて盲溝付け用ポンチP6のみを円筒鋼材106の他端に向けて押圧する進退自在のプレスアームなどからなる第2押圧手段GS2が単独で押圧自在となるように設けられている。
【0026】
そこで、図9に示すような盲溝付け加工工程について、以下に詳しく説明する。
まず、図9の(a)に示すように、前述した底抜き工程により得られた母線状継目がない円筒鋼材106が、中空状ダイピンHPを内包している盲溝付け用円筒状ダイD6と拡径用センターピンEPの間に配置される。
そして、図9の(b)に示すように、前述した第1押圧手段GS1により拡径用センターピンEPを介して盲溝付け用ポンチP6を一体に前進させると、この盲溝付け用ポンチP6が当接する円筒鋼材106を前進させて盲溝付け用円筒状ダイD6内に押し込み、盲溝付け用円筒状ダイD6に内包されて固定された中空状ダイピンHPの溝付け用突起HP1に円筒鋼材106の一端が被嵌される。すなわち、中空状ダイピンHPの溝付け用突起HPが円筒鋼材106の内周面111側に差し込まれる。
【0027】
次いで、図9の(C)に示すように、第1押圧手段GS1により拡径用センターピンEPを介して盲溝付け用ポンチP6を一体にさらに前進させると、円筒鋼材106の他端かた一旦に向けて挿し入れた拡径用センターピンEPのダイピン係合用凸部EP1が、中空状ダイピンHPの先端内周部HP3に差し込まれて当て止め保持された状態でさらに楔状に押し込まれて中空状ダイピンHPを拡径させて、円筒鋼材106の内周面111に溝付け用突起HP1が押し付けられて圧入される。
【0028】
そして、図9の(d)に示すように、第2押圧手段GS2により盲溝付け用ポンチP6を介して前述した円筒鋼材106を中空状ダイピンHPの溝付け用突起HP1に被嵌した状態で盲溝付け用ダイD6内に押し込むと、この円筒鋼材106の内周面111に対して溝付け用突起HP1が相対的に摺動して、内周面側母線方向に沿って半円形断面を備えた油溜まり用盲溝112、すなわち、盲溝付け加工が施される。
このとき、拡径用センターピンEPのダイピン係合用凸部EP1が、中空状ダイピンHPの先端内周部HP3に係合して中空状ダイピンHPを拡径しているため、拡径用センターピンEPが中空状ダイピンHPの先端内周部HP3を拡径する際の拡径力を著しく軽減できるとともに中空状ダイピンHPの先端内周部HP3を拡径された状態で確実に保持できるようになっている。
【0029】
その後、図9の(e)に示すように、盲溝付け用ポンチP6を後退させると、拡径用センターピンEPも同伴して後退して円筒鋼材106から抜き取られ、中空状ダイピンHPの先端内周部HP3が元の状態に縮径する。
【0030】
次いで、図9の(f)に示すように、ストリッパS6を前進させると、円筒鋼材106が盲溝付け用円筒状ダイD6および中空状ダイピンHPから取り出され、換言すれば、円筒鋼材106から中空状ダイピンHPが相対的に抜き取られて、複数の油溜まり用盲溝112が内周面111に刻設された盲溝付き円筒鋼材107となる。
【0031】
そして、前述したような盲溝付け加工を施してなる盲溝付き円筒鋼材107は、再び上下反転させて、図10に示すような矯正加工において、矯正用ポンチ7により矯正用円筒状ダイD7に押し込まれ、矯正用円筒状ダイD7内に固定配置した矯正用ダイピンDP7に当接させた状態で、内外周面の矯正加工が行われて、図9の(b)で示されるような、図1に示したような複数の油溜まり用盲溝112を内周面111に備えたチェーン用油溜まり盲溝付ブシュ100となる。
【0032】
以上のような本発明の一実施例であるチェーン用油溜まり盲溝付ブシュ100の製造方法によれば、円筒鋼材106の内周面に油溜まり用盲溝112を刻設する際に従来のように拡径用センターピンEPと中空状ダイピンHPとが相互に摺動することなく拡径用センターピンEPが中空状ダイピンHPの先端内周部HP3に差し込まれて当て止め保持された状態となっているため、拡径用センターピンEPと中空状ダイピンHPの長期にわたる摩耗損傷を抑制して優れた疲労強度を発揮できるとともに、油溜まり用盲溝112を高精度に刻設できる。
【0033】
また、拡径用センターピンEPが楔状に差し込まれて中空状ダイピンHPの先端内周部HP3を拡径する際の拡径力が著しく軽減されるとともに中空状ダイピンHPの先端内周部HP3が拡径された状態で確実に保持されるため、従来のような中空状ダイピンの中空部分全域に亙って繰り返される拡径動作に起因した苛酷な金属疲労を回避でき、また、拡径用センターピンEPと中空状ダイピンHPとが従来のものに比べて高強度で大径のピン形状を呈しているため、拡径用センターピンEPと中空状ダイピンHPの長寿命化を達成できる。
【0034】
さらに、第1押圧手段GS1と運動することなく単独の第2押圧手段GS2が盲溝付け用ポンチP6を介して円筒鋼材106の他端を確実に押圧した状態で盲溝付け用ダイD6内に押し込むため、従来の盲溝付け用ポンチP6や拡径用センターピンEPのような拡径しながら円筒鋼材の一端を押圧して油溜まり用盲溝を刻設するものに比べて、円筒鋼材106の内周面側母線方向に油溜まり用盲溝112をより高精度に刻設できるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明で得られたチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの斜視図。
【図2】本発明の一実施例で用いた円柱状チップの正面図。
【図3】本発明の一実施例における据え込み工程の説明図。
【図4】本発明の一実施例における芯出し工程の説明図。
【図5】本発明の一実施例における第1次押出し工程の説明図。
【図6】本発明の一実施例における第2次押出し工程の説明図。
【図7】本発明の一実施例における底抜き工程の説明図。
【図8】本発明の一実施例で用いた中空状ダイピンと拡径用センターピンの使用形態図。
【図9】本発明の一実施例における溝付け工程の説明図。
【図10】本発明の一実施例における矯正加工の説明図。
【図11】従来例で用いた中空状ダイピンと拡径用センターピンの使用形態図。
【図12】従来例における溝付け工程の説明図。
【符号の説明】
【0036】
100 ・・・チェーン用油溜まり盲溝付ブシュ
101 ・・・円柱状のチップ
102 ・・・円柱状チップ
103 ・・・凹部付き円栓鋼材
103a ・・・凹部
104 ・・・厚底付き円筒鋼材
104a ・・・厚肉の底部
105 ・・・薄底付き円筒鋼材
105a ・・・薄肉の底部
106 ・・・円筒鋼材
107 ・・・盲溝付き円筒鋼材
111 ・・・内周面
112 ・・・油溜まり用盲溝
112a ・・・始端部
112b ・・・終端部
D1 ・・・チップ用円筒状ダイ
d1 ・・・内部段差形状
D2 ・・・芯出し用円筒状ダイ
d2 ・・・内部段差形状
D3,D4・・・押圧用円筒状ダイ
D5 ・・・底抜き用円筒状ダイ
D6 ・・・盲溝付け用円筒状ダイ
D7 ・・・矯正用円筒状ダイ
NP1,NP2 ・・・ノックアウトピン
S4,S5,S6・・・ストリッパ
DP3,DP4 ・・・ダイピン
DP5 ・・・底抜き用ダイピン
DP7 ・・・矯正用ダイピン
HP ・・・中空状ダイピン
HP1 ・・・溝付け用突起
HP2 ・・・拡径用スリット
HP3 ・・・先端内周部
EP ・・・拡径用センターピン
EP1 ・・・ダイピン係合用凸部
P1 ・・・チップ用ポンチ
p1 ・・・円板状突起
P2 ・・・芯出し用ポンチ
P3,P4・・・押圧用ポンチ
P5 ・・・底抜き用ポンチ
P6 ・・・盲溝付け用ポンチ
P7 ・・・矯正用ポンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の盲溝付け用突起を先端外周部に備えるとともに複数の拡径用スリットをピン長手方向に沿って設けた中空状ダイピンと該中空状ダイピンの先端外周部を拡径する拡径用センターピンと該拡径用センターピンに同心円状に遊嵌されてピン長手方向に相対的に摺動する盲溝付け用ポンチと該盲溝付け用ポンチを受け入れる盲溝付け用ダイとを少なくとも用いた鍛造工程で円筒鋼材の内周面側母線方向に多数の油溜まり盲溝を形成するチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法であって、
前記円筒鋼材の一端が前記盲溝付け用ダイに内包された中空状ダイピンの盲溝付け用突起に被嵌された後、
前記円筒鋼材の他端から一端に向けて挿し入れた拡径用センターピンが前記中空状ダイピンの先端内周部に差し込まれて当て止め保持された状態で前記中空状ダイピンの盲溝付け用突起を円筒鋼材の内周面に押し付け、
次いで、前記拡径用センターピンに遊嵌された盲溝付け用ポンチが前記円筒鋼材の他端を押圧した状態で盲溝付け用ダイ内に押し込まれて前記円筒鋼材の内周面を中空状ダイピンの盲溝付け用突起に対して摺動させながら多数の油溜まり盲溝を形成することを特徴とするチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法。
【請求項2】
前記拡径用センターピンが、前記中空状ダイピンの先端内周部に楔状に差し込まれて当て止め係合するダイピン係合用凸部を備えて前記中空状ダイピンを拡径するようになっていることを特徴とする請求項1に記載されたチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法。
【請求項3】
前記拡径用センターピンの後端部に設けられて拡径用センターピンを中空状ダイピンの先端内周部に向けて押圧する第1押圧手段と前記盲溝付け用ポンチを拡径用センターピンに摺動させて盲溝付け用ポンチのみを円筒鋼材の他端に向けて押圧する第2押圧手段とが、それぞれ単独で押圧自在となるように設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたチェーン用油溜まり盲溝付ブシュの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−66606(P2009−66606A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234927(P2007−234927)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】