説明

チタニアドープ石英ガラス及びその製造方法

【解決手段】ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスと可燃性ガス及び支燃性ガスをバーナ先端部から噴出させ、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを可燃性ガス及び支燃性ガスにより酸化又は火炎加水分解させて得た合成シリカ−チタニア微粒子を回転すると共に所定速度で後退するターゲット上に堆積すると同時に溶融ガラス化してチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造する際、バーナの先端部と成長するインゴット先端部との距離が250mm以上とすることを特徴とするチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【効果】本発明によれば、厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布が少なく、EUVリソグラフィ用部材として好適なチタニアドープ石英ガラスを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUVリソグラフィ用として好適なチタニアドープ石英ガラス及びチタニアドープ石英ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子製造時のリソグラフィプロセスでの露光光源の短波長化が進み、極端紫外光(EUV:Extreme Ultraviolet)を使用したリソグラフィへの移行が有望視されている。
【0003】
EUVリソグラフィでは反射型光学系が採用されることになる。EUVリソグラフィにおいては、基板等のリソグラフィ光学系で用いられる各部材に到達した熱による僅かな熱膨張によってもリソグラフィ精度に悪影響を及ぼす。従って、反射ミラー、マスク、ステージ等の各部材には低熱膨張材料の使用が必須となる。低熱膨張材料としては、チタニアをドープした石英ガラスが公知である。チタニアを一定量添加することで石英ガラスを低熱膨張化することができる。
【0004】
EUVリソグラフィ用部材には低熱膨張性の均一化も必要とされる。低熱膨張性の均一化を図るためには、第一に石英ガラスに添加するチタニアの量を均一にすることが重要である。そのため、例えば特開2004−315351号公報(特許文献1)には、TiO2濃度の最大値と最小値との差を30mm×30mmの範囲で0.06質量%以下にすること、石英ガラス中のTiO2濃度に依存して変化する屈折率の変動幅(Δn)を30mm×30mmの範囲で2×10-4以下にすることが開示されている。
【0005】
また、チタニアドープ石英ガラスの低熱膨張性に影響を与える物性としては、チタニアドープ石英ガラス中のOH基濃度が知られている。例えば、特表2008−505827号公報(特許文献2)には、700重量ppmから1000重量ppmの範囲の平均OH含有量を有しており、石英ガラスブランクの厚みについて平均した主要機能方向の面でのOH含有量変化は±50ppmを超えないことにより、石英ガラスの光学特性ならびに熱特性をできるだけ均一に保つことができるとの開示がなされている。
【0006】
一方、特開2005−022954号公報(特許文献3)には、ガラスの熱膨張係数がほぼゼロとなる温度範囲であるゼロ膨張の温度範囲の広さにガラスの仮想温度が関連し、ゼロ膨張の温度範囲を広げるために、仮想温度は950℃以下が好ましく、900℃以下がより好ましく、850℃以下であることが特に好ましいことが開示されている。ここで、ガラス中のOH基濃度が高いと構造緩和が早いため、温度分布のつき易い径の大きなガラス体を製造する場合に仮想温度分布がつき易く、OH基濃度は600ppm以下であることが好ましく、より好ましくは400ppm以下、特に好ましくは200ppm以下であることが示されている。加えて、OH基濃度のばらつきが大きい場合には、位置により構造緩和時間の差が大きくなり、仮想温度に差が生じるおそれがあるため、チタニアドープ石英ガラス中のOH基濃度のばらつきは、50ppm以内が好ましく、より好ましくは30ppm以内、特に好ましくは10ppm以内であることも開示されている。
【0007】
このように、チタニアドープ石英ガラス中のOH基濃度が低熱膨張性に与える影響は多大であり、そのため、チタニアドープ石英ガラス中のOH基濃度の絶対量、分布を規定することの重要性が伺える。
【0008】
更に特表2008−505827号公報(特許文献2)には、有利な実施形態として主要機能方向(シリンダ軸)に対して垂直な633nmでの応力複屈折(SDB)は最大5nm/cmであり、基本的な成分は勾配が50(nm/cm)/cmを超えないこととの複屈折に関する開示がなされている。
【0009】
また、特表2008−182220号公報(特許文献4)では、材料内の応力に比例するリターデーションから算出した山対谷ストリエーションレベル、又はRMSストリエーションレベルを規定している。山対谷ストリエーションレベル及びRMSストリエーションレベルはガラスでつくられたレンズ及び窓素子の光透過に悪影響を及ぼすため、低減する必要があることが開示されている。
【0010】
特開2008−505043号公報(特許文献5)には、400〜700nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率が70%以上であること、300〜3,000nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率が70%以上であることが開示されている。70%未満ではレーザー干渉計を用いた測定機器などによる、均質性や表面平滑性を管理するための検査がしにくくなるなど、検査や評価において不都合を生じる可能性がある。また、可視光や紫外光を透過させて使用する部材の場合、透過光強度が低下するためである。
【0011】
このように、低熱膨張材料ひいてはEUVリソグラフィ光学部材用低熱膨張材料には低熱膨張性や表面平滑性を得るために、材料に関する数多くの物性値の規定が存在する。
【0012】
また、EUVリソグラフィ用部材として使用するに際しては、低熱膨張性の均一化も同時に必要とされる。チタニアドープ石英ガラスの低熱膨張性の均一化には、ドープするチタニア濃度、不純物濃度、仮想温度等が影響すると思われ、それぞれのファクターを相殺することにより全体として低熱膨張性の均一化を図ることが可能であり、また各ファクターそれぞれを均一にすることでもチタニアドープ石英ガラスの低熱膨張性の均一化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−315351号公報
【特許文献2】特表2008−505827号公報
【特許文献3】特開2005−022954号公報
【特許文献4】特表2008−182220号公報
【特許文献5】特開2008−505043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、本発明者らは、EUVリソグラフィ用部材としてのチタニアドープ石英ガラスに関して鋭意研究を進めた結果、TiO2濃度、屈折率、OH基濃度、複屈折及び300〜3,000nmの内部透過率の物性値を規定の範囲にすることでは、特にEUVリソグラフィ用光学部材として不適当な場合があり、必ずしもEUVリソグラフィ用部材として適当ではない場合があること、特に吸収端波長が均一ではなく分布を有する場合には、EUVリソグラフィ用部材として使用した場合に熱ヒステリシスを発生し易いことが分かった。
【0015】
そこで、本発明は、EUVリソグラフィ用部材として厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布の少ないチタニアドープ石英ガラス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達したもので、本発明は、下記のチタニアドープ石英ガラス及びその製造方法を提供する。
請求項1:
ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスと可燃性ガス及び支燃性ガスをバーナ先端部から噴出させ、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを可燃性ガス及び支燃性ガスにより酸化又は火炎加水分解させて得た合成シリカ−チタニア微粒子を回転すると共に所定速度で後退するターゲット上に堆積すると同時に溶融ガラス化してチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造する際、バーナの先端部と成長するインゴット先端部との距離を250mm以上とすることを特徴とするチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
請求項2:
インゴットの成長軸とバーナの原料ガス噴射用中心管ノズル軸とのなす角度が126°以上である請求項1記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
請求項3:
バーナが、中心に原料ガス噴射用中心管を有する中心多重管部とその外側にマルチノズル部を有するものであり、バーナのマルチノズル部及び中心多重管部のそれぞれに供給される支燃性ガスとしての酸素ガスと可燃性ガスとしての水素ガスがマルチノズル部、中心多重管部の少なくとも一方で反応量論比より酸素過多であることを特徴とする請求項1又は2記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
請求項4:
上記可燃性ガスとしての水素ガスのバーナから噴射されるに際しての線速が100m/sec以下であり、原料ガスの線速が30m/sec以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
請求項5:
上記可燃性ガス、支燃性ガス、ケイ素源原料ガス、及びチタン源原料ガスの各々の供給流量の変動を±1体積%以内に制御する請求項1乃至4のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
請求項6:
厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布が10nm以下であることを特徴とするチタニアドープ石英ガラス。
請求項7:
厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長が270nm以上であることを特徴とする請求項6記載のチタニアドープ石英ガラス。
請求項8:
厚さ5mmあたりの波長350〜800nmにおける見かけ透過率が70%以上であることを特徴とする請求項6又は7記載のチタニアドープ石英ガラス。
請求項9:
チタンを除く金属不純物の総和が100ppb以下であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
請求項10:
水素分子濃度が5×1017分子/cm3以下であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
請求項11:
チタニアを3〜10質量%含有することを特徴とする請求項6乃至10のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
請求項12:
仮想温度が925℃以下であることを特徴とする請求項6乃至11のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
請求項13:
仮想温度分布が50℃以下であることを特徴とする請求項6乃至12のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
請求項14:
請求項6乃至13のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラスから形成されたことを特徴とするEUVリソグラフィ用部材。
請求項15:
EUVリソグラフィ用フォトマスク基板であることを特徴とする請求項14記載のEUVリソグラフィ用部材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布が少なく、EUVリソグラフィ用部材として好適なチタニアドープ石英ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明におけるバーナ角度及びバーナ距離を示す説明図である。
【図2】本発明の実施例で用いたチタニアドープ石英ガラス製造用バーナのガス噴出口の横断面図を示す。
【図3】本発明の実施例において、得られた試料について各種物性を測定した測定位置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
チタニアドープ石英ガラスにおいては、紫外域に吸収端を有する。これは、酸素の2p軌道を価電子帯の上端、チタンの3d軌道を伝導帯の下端としたバンドギャップに由来するものと思われる。そのためチタニアドープ石英ガラスでも、一定の吸収端波長を有するはずである。しかし、実際のチタニアドープ石英ガラスでは、製造時、熱処理時又は機械的加工時に発生する様々な構造欠陥、ガラスゆえの各元素の結合角、結合距離の揺らぎが多く、結果として吸収端波長は変化することとなる。
【0020】
吸収端波長を変化させる構造欠陥は明確となっていないが、例えば、≡M−O−O−M≡、≡M−M≡、=M:(Mは、Si又はTi)といったチタニアドープ石英ガラス中の構造欠陥の存在が一因と考えられる。石英ガラスの構造安定性を示す尺度として一般的に仮想温度が用いられるが、これらの構造欠陥は仮想温度として示すことは困難である。
【0021】
吸収端波長の分布が大きいチタニアドープ石英ガラスを、EUVリソグラフィ用部材として使用した場合、熱サイクル(EUV光の露光による部材温度の上昇、露光停止による部材の温度低下を繰り返すこと)による熱ヒステリシスを発生し易い。結果として、吸収端波長の分布が大きいチタニアドープ石英ガラスはEUVリソグラフィ用部材として不適となり易い。
【0022】
現状、EUVリソグラフィの実用化には時間を要するため、熱ヒステリシスに関してはあまり注目されていない。しかし、熱ヒステリシスを伴う部材の形状変化、各種物性変化はEUVリソグラフィの実用化に際して重要な問題となるものと考えられ、熱ヒステリシスを抑制する必要がある。
【0023】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布が10nm以下であり、より好ましくは5nm以下であり、更に好ましくは3nm以下である。本発明のチタニアドープ石英ガラスにおいて、厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布の下限値には特に制限はないが、通常、0.001nm以上であり、特に0.01nm以上である。
【0024】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長が270nm以上であり、より好ましくは275nm以上であり、更に好ましくは277nm以上である。チタニアドープ石英ガラスの厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長が270nmより短い場合、EUVリソグラフィ部材に求められる低熱膨張性が得られにくい。また、本発明のチタニアドープ石英ガラスは、厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長が320nm以下である。好ましくは300nm以下、より好ましくは290nm以下、更に好ましくは285nm以下である。チタニアドープ石英ガラスの厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長が320nmより長い場合は、チタニアドープ石英ガラス中にチタニア微粒子の発生が著しいからである。
【0025】
更に、本発明のチタニアドープ石英ガラスは、厚さ5mmあたりの波長350〜800nmにおける見かけ透過率が70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、更に好ましくは90%以上である。厚さ5mmあたりの波長350〜800nmにおける見かけ透過率が70%より低い場合、部材の位置合わせ、部材の品質検査等が困難になることがあり、精密な位置合わせ、検査が必須とされるEUVリソグラフィ用部材としては不適当である。また、チタニアドープ石英ガラス中の還元種の存在による可視域の透過率低下は吸収端波長にも影響を及ぼす。本発明のチタニアドープ石英ガラスにおいて、厚さ5mmあたりの波長350〜800nmにおける見かけ透過率の上限には特に制限はないが、表面反射による透過率損失を考慮して、通常、95%以下である。
【0026】
本発明のおける吸収端波長とは、両面を精密研磨及び洗浄した厚さ5mmのチタニアドープ石英ガラスの可視−紫外域における見かけ透過率を5回測定し、見かけ透過率が1%以下となった波長の平均値と定義する。透過率測定は透過率計により測定する。具体的にはVARIAN社製Cary400により以下の測定条件で行う。
光源:重水素ランプ
Averaging time:1.0sec
Data interval:0.083nm
Scan rate:4.98nm/min
SBW:3.0nm
測定波長域:330〜260nm
【0027】
なお、波長350〜800nmにおける見かけ透過率の測定に関しては、上記測定条件のうち、測定波長域を350〜800nmに変更して行う。
【0028】
見かけ透過率測定サンプルは、測定時のサンプル厚さが5mm±20μmになるようにスェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨する。更に研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨した後、洗浄する。
【0029】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、チタンを除く金属不純物の総和が100ppb以下であり、より好ましくは50ppb以下であり、更に好ましくは25ppb以下である。金属不純物が多い場合、EUV光の照射により欠陥を生じ、部材の形状変化及び部材の温度上昇の原因となる。また半導体製造プロセスでの被毒の原因ともなる。本発明のチタニアドープ石英ガラスにおけるチタンを除く金属不純物の総和の下限値には特に制限はないが、通常、0.1ppb以上である。金属不純物の測定はチタニアドープ石英ガラスをフッ酸溶液に溶解させた試料をICP−MS分析器により測定する。
【0030】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、水素分子濃度が5×1017分子/cm3以下であり、より好ましくは1×1017分子/cm3以下であり、更に好ましくは、ラマン分光法による測定において、水素分子に起因する4,135cm-1付近におけるピークが検出限界以下である。水素分子を多く含有するチタニアドープ石英ガラスの場合、所望の形状へチタニアドープ石英ガラスを熱成型するに際して、チタニアドープ石英ガラス中に気泡等の内包物を発生し易く、水素分子はなるべく少なくすることが好適である。
【0031】
なお、本発明における水素分子濃度の測定は、日本分光(株)製NRS−2100、励起光源として4Wアルゴンイオンレーザを用い、Zurnal Pril;adnoi Spektroskopii Vol. 46 No.6 pp987〜991 June 1987に記載の方法によって測定した。検出限界は7.5×1016分子/cm3であった。
【0032】
また、EUVリソグラフィの露光温度域において低熱膨張化させるために、本発明のチタニアドープ石英ガラスは、チタニアを3〜10質量%含有することが望ましい。5〜9質量%含有することがより好ましく、更に好ましくは6.7〜7.7質量%含有することであり、特に好ましくは6.8〜7.3質量%含有することである。なお、チタニアの含有量はプローブ径10μmでEPMA法により測定した。検出したチタンがすべてチタニア(TiO2)として存在すると見なし、算出した。また厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長を270〜320nmにする上でもチタニア濃度は重要である。
【0033】
更に、本発明のチタニアドープ石英ガラスは、0〜100℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有し、好ましくは10〜80℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有することであり、より好ましくは20〜60℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有することであり、更に好ましくは20〜50℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有することであり、特に20〜40℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有することが最も好ましい。熱膨張係数及び熱膨張曲線の測定はアルバック理工(株)製LIX−2を用い、6mmφ×12mmL、両端を砲弾型に鏡面研磨したサンプルにより測定した。
なお、熱膨張係数がゼロになる温度は、上記のチタニア濃度及び仮想温度をそれぞれ操作することにより所望の温度に制御することができる。例えば、熱膨張係数がゼロになる温度を30℃付近にする場合には、チタニア濃度を6.8〜7.3質量%、仮想温度を850℃以下に制御することが好ましい。
【0034】
本発明のチタニアドープ石英ガラスの仮想温度は、925℃以下であり、より好ましくは850℃以下、更に好ましくは800℃以下、特に好ましくは775℃以下である。本発明のチタニアドープ石英ガラスにおける仮想温度の下限値には特に制限はないが、通常、500℃以上である。更に仮想温度の分布はチタニアドープ石英ガラスの熱膨張係数に影響するため、本発明のチタニアドープ石英ガラスの仮想温度分布(ΔFT)は、50℃以下、特に25℃以下が好ましく、より好ましくは20℃以下であり、更に好ましくは15℃以下である。本発明のチタニアドープ石英ガラスにおける仮想温度分布の下限値には特に制限はないが、通常、0.1℃以上である。なお、チタニアドープ石英ガラスの仮想温度はJ.Non−Cryst.Solids 185 (1995) 191.記載の方法で測定することができる。
【0035】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、900℃、100時間の熱処理によるOH基濃度の減少量が100ppm以下であることが望ましく、より望ましくは50ppm以下、更に望ましくは20ppm以下であり、実質的にOH基濃度の減少がないこと、つまり900℃、100時間の熱処理前後でOH基濃度変化が測定誤差範囲内あることが最適である。900℃、100時間の熱処理によってOH基濃度が大きく変化することによって、チタニアドープ石英ガラスのOH基濃度分布が大きくなること、同時に仮想温度、複屈折に影響を及ぼすため、結果としてチタニアドープ石英ガラスの熱特性が変化することが考えられる。
【0036】
また、本発明のチタニアドープ石英ガラスにおける900℃、100時間の熱処理によるOH基濃度の減少量の最大値と最小値の差が50ppm以下であることが望ましく、より望ましくは20ppm以下であり、更に望ましくはOH基濃度の減少量の最大値と最小値の差が実質的にないことである。900℃、100時間の熱処理によるOH基濃度の減少量に大きな差がある場合、熱特性に分布を有するため、EUVリソグラフィ用部材として不適となり易い。
【0037】
本発明のチタニアドープ石英ガラスにおける900℃、100時間熱処理後のOH基濃度は300ppm以上950ppm以下が望ましく、より望ましくは400ppm以上850ppm以下であり、500ppmより多く750ppmより少ないことが更に望ましい。また、500ppmより多く700ppmより少ないことが最も望ましい。OH基濃度が300ppmより少ない場合、チタニアドープ石英ガラスの可視域の透過率に吸収が見られる場合が多い。また、OH基濃度が950ppmより多い場合は、所望の形状へチタニアドープ石英ガラスを熱成型するに際して、チタニアドープ石英ガラス中に気泡等の内包物を発生し易く適当でない。
【0038】
本発明におけるチタニアドープ石英ガラスのOH基濃度の測定は、日本分光(株)製FT/IR−300Eを使用した。3,000〜5,000cm-1の領域をスキャンスピード2cm-1、積算回数20回として得た吸収スペクトルの4,762cm-1と4,202cm-1を直線で結んだラインをベースラインとし、4,522cm-1付近のピーク高さを吸収係数とした。OH基濃度の算出は換算式(式1)を用いた。
OH基濃度(ppm)=(4,522cm-1における吸光係数)/T×4,400
(式1)
但し、Tは測定サンプルの厚さ(cm)である。
【0039】
測定サンプルの同一位置で5回測定を繰り返し、平均値を測定値とした。なお、本発明におけるOH基濃度測定値は、同一測定位置において±2ppmの範囲で変動した。従って、900℃、100時間の熱処理前後において、同一サンプルの同一位置での測定値が±2ppmの範囲にある場合は、OH基濃度の減少量の最大値と最小値の差が実質的にないものと見なした。
【0040】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板、EUVリソグラフィ装置の反射光学系用ミラー材等のEUVリソグラフィ用部材の素材として好適であるが、特にウェハ上に高画質かつ微細なパターンの転写が可能となるため、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板、EUVリソグラフィ装置の反射光学系用ミラー材として最も好適である。
【0041】
KrF又はArFエキシマレーザ用のチタニアを含まない純粋な石英ガラスの場合においては、吸収端波長を変化させる構造欠陥の生成を抑制する方法に関する研究は数多く知られている。しかし、同様の方法をチタニアドープ石英ガラスに適用しても構造欠陥を抑制することはできず、独自の方法を採用する必要があり、またチタニアドープ石英ガラス製造時のパラメータを様々に制御する必要があることが分かった。
【0042】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、石英ガラス製造炉内に設けたバーナに、水素ガスを含む可燃性ガス及び酸素ガスを含む支燃性ガスを供給して燃焼させることによりバーナ先端に形成される酸水素炎中に、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを供給して、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを酸化又は火炎加水分解することにより酸化ケイ素、酸化チタン及びそれらの複合体微粒子を、バーナ先端前方に配設したターゲット上に付着堆積させると同時に溶融ガラス化させながら成長させる直接法によりインゴットを作製し、得られたインゴットを熱間成型して所定の形状に成型後、成型後のインゴットをアニール処理することによって製造することができるが、本発明のチタニアドープ石英ガラスは、上記可燃性ガス、支燃性ガス、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスの各々の供給流量の変動を±1体積%以内に制御すると共に、上記石英ガラス製造炉内の冷却用に吸入する空気、石英ガラス製造炉からの排気及び石英ガラス製造炉周囲の外気の各々の温度の変動を±2.5℃以内に制御して、上記ターゲットを5rpm以上の回転数で回転させ、上記微粒子をターゲット上に付着させて製造することにより得ることができる。
【0043】
チタニアドープ石英ガラスの製造炉は、竪型及び横型のいずれも使用することができるが、種材等のターゲットの回転数は5rpm以上、好ましくは15rpm以上、更に好ましくは30rpm以上である。なお、回転数の上限は、通常200rpmである。これはチタニアドープ石英ガラス中の脈理、歪み等の構造的、組成的に不均一な領域は回転するターゲットのチタニアドープ石英ガラスが成長する部分の温度の不均一性に大きく依存して発生するからである。そこで、ターゲットであるターゲットの回転数を上げ、チタニアドープ石英ガラスが成長する部分の温度を均一化することでチタニアドープ石英ガラスの構造的、組成的に不均一な領域の発生を抑えることができる。
【0044】
更に、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスはバーナの同一ノズルに支燃性ガスとともに供給し、チタニアドープ石英ガラスを製造することにより、構造的、組成的に不均一な領域の発生を抑制できる。ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス及び支燃性ガスは、あらかじめ混合された後、ラインミキサー等により組成の均一化を図ることが好ましい。
【0045】
本発明において、チタニアドープ石英ガラス製造に際して使用するバーナは、中心多重管部及びマルチノズル部から構成されたバーナであることが好ましい。中心多重管部は原料ガスを噴射するノズルを中心とし、同心円状に複数のノズルを配した構造を有している。同複数のノズルには支燃性ガス、可燃性ガスのいずれかを供給する。一方、マルチノズル部は原料ガスを噴射する中心ノズルに対して同心円状に配した小口径の支燃性ガスを噴射するノズルを有し、同小口径ノズルの間から可燃性ガスを噴射する構造からなる。
【0046】
具体的には、図2に示すバーナ構造を有することが好ましい。即ち、図2において、バーナ1は、中心部に中心多重管部A、その外側にマルチノズル部Bを有する。中心多重管部Aは、その中心に原料ガス噴射中心管(ノズル)11が設けられ、その外側に第1の支燃性ガス供給管12、その外側に第1の可燃性ガス供給管13、その外側に第2の支燃性ガス供給管14、その外側に第2の可燃性ガス供給管15をそれぞれ包囲してなるものである。一方、マルチノズル部Bは、上記第2の可燃性ガス供給管15の外側にこれを包囲して第1の外殻管16が配設され、更にこの第1の外殻管16の外側にこれを包囲して第2の外殻管17が配設され、第2の可燃性ガス供給管15と第1の外殻管16との間に多数の第3の支燃性ガス供給管18が上記原料ガス噴射中心管11と同心円状にかつ三列に亘って配設され、これら第3の支燃性ガス供給管18の間から可燃性ガスが供給されるようになっていると共に、第1の外殻管16と第2の外殻管17との間にも多数の第4の支燃性ガス供給管19が同様に同心円状に一列配設され、これら第4の支燃性ガス供給管19の間から可燃性ガスが供給されるようになっているものである。
【0047】
なお、本発明におけるチタニアドープ石英ガラスの製造に際して、バーナの中心多重管部は3重管以上であることが好ましく、より好ましくは5重管以上である。バーナの中心多重管部が少ない場合には、吸収端波長の分布が大きくなる傾向があるからである。また、外殻管の個数は上記に限られず、1個でもよい。
【0048】
本発明におけるチタニアドープ石英ガラスの製造に際して、バーナのマルチノズル部及び中心多重管部のそれぞれに供給される支燃性ガスとしての酸素ガスと可燃性ガスとしての水素ガスがマルチノズル部、中心多重管部の少なくとも一方で反応量論比より酸素過多であることが好ましく、更に好ましくはマルチノズル部、中心多重管部の双方で反応量論比より酸素過多であることが好ましい。バーナのマルチノズル部、中心多重管部の双方で反応量論比より水素過多である場合、厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布が10nmより大きくなることが多くなる場合がある。この場合、H2/O2比<2となるように酸素量を調節することが好ましく、より好ましくはH2/O2比≦1.9であり、更に好ましくはH2/O2比≦1.8である。またH2/O2比の下限は1.5であることが好ましい。H2/O2比が1.5より低い場合には好適なインゴット成長面温度を維持できず、更にはインゴット成長面の温度分布を生み易く、EUVリソグラフィ用素材として使用することが困難となる場合があるからである。
【0049】
本発明において、可燃性ガスとしてバーナから噴射される水素ガスの線速は100m/sec以下であり、より好ましくは90m/sec以下である。可燃性ガスとしてバーナから噴射される水素ガスの線速が100m/secより高い場合も製造されたチタニアドープ石英ガラスは900℃、100時間の熱処理によってOH基濃度の減少量が大きくなり易く、また350〜800nmにおける厚さ5mmでの見かけ透過率が低下すると同時に、吸収端波長の分布が大きくなり、EUVリソグラフィ用部材として使用した場合に熱ヒステリシスを生じるおそれがあるからである。また、場合によっては製造したチタニアドープ石英ガラスインゴット内にチタニアの微粒子が発生し、EUVリソグラフィ用素材として使用することが困難となることもある。なお、水素ガスの線速は40m/sec以上、特に60m/sec以上であることが好ましい。水素ガスの線速が40m/secより遅い場合には、チタニアドープ石英ガラスを900℃、100時間熱処理した場合のOH基濃度減少量を小さくする上、またOH基濃度減少量の最大値と最小値の差を50ppm以下にする上では効果的である一方、インゴット成長面に温度分布を生み易く、結果として吸収端波長の分布が大きくなり易く、仮想温度分布を大きくし、またOH基濃度が300ppm以下になる場合もある。
【0050】
また原料ガスの線速は30m/sec以上であることが好ましく、40m/sec以上であることがより好ましい。原料ガスの線速が30m/secより遅いとチタニアドープ石英ガラスインゴットの成長速度が低下し、生産性が悪くなる場合がある。一方、原料ガスの線速は80m/sec以下が好ましく、より好ましくは70m/sec以下である。原料ガスの線速が80m/secより速いと厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布が10nmよりも大きくなる場合がある。
【0051】
これまで、チタニアドープ石英ガラスの製造において、製造時のバーナ先端部と成長するインゴット先端部との距離(以後、バーナ距離)及びインゴットの成長軸とバーナの原料ノズル軸(原料ガス噴射用中心管ノズル軸)とのなす角度(以後、バーナ角度)はチタニアドープ石英ガラスの物性を左右するファクターとしてさほど重要視されてこなかった。しかし、厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布を10nm以下に抑える上で、また厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長を270〜320nmにする上で、更には厚さ5mmあたりの波長350〜800nmにおける見かけ透過率を70%以上にする上で、ノンドープの石英ガラス製造時のバーナ距離及びバーナ角度とは異なることが分かった。
【0052】
即ち、本発明において図1は、バーナ1とターゲット上に形成されたインゴット2との位置関係を示すが、図1に図解したバーナ距離Dは250mm以上、好ましくは265mm以上である。ノンドープの石英ガラス製造時より1.2倍以上長い距離となっている。ノンドープの石英ガラスに比べて、構造欠陥の発生を抑制するために原料ガスの反応に時間を必要とするためと考えられる。また、本発明のチタニアドープ石英ガラスにおいて、バーナ距離Dは通常350mm以下である。350mmより長い場合には、インゴットの成長に良好な温度を保持することが困難である。
【0053】
本発明において、バーナ角度αは126°以上、より好ましくは128°以上である。ノンドープの石英ガラス製造時が一般的に125°以下であるのに対し、より高角度での成長が好ましい。当該バーナ角度を保持することにより成長面温度の均熱化が維持でき、結果として吸収端波長分布の少ないチタニアドープ石英ガラスが製造でき、また仮想温度分布も抑制することができる。なお、本発明のチタニアドープ石英ガラスにおいてバーナ角度は、生産性を考慮して140°以下である。
【0054】
ここで、インゴット2は、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスの酸化又は火炎加水分解によって形成された合成シリカ−チタニア微粒子が図示していないターゲットに堆積すると同時に溶融ガラス化することにより形成されるが、この堆積・溶融ガラス化によるインゴット2の成長が、常時、図1において点Pで行われるように、ターゲット及びその上に形成されたインゴットは、上述したように、回転しながら点Pから離れるように(つまり、図1中右方向に)所定速度で後退する。この後退は、連続的に又は間欠的に行われ、その速度は上記堆積・溶融ガラス化が点Pで行われるような速度である。これにより上記バーナ距離D及びバーナ角度αは、常に一定に保たれる。
【0055】
ケイ素源原料ガスは公知の有機ケイ素化合物等を使用することができ、具体的には、四塩化ケイ素、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等の塩素系シラン化合物、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン等が使用できる。
【0056】
チタン源原料ガスも公知の化合物を使用することができ、具体的には、四塩化チタン、四臭化チタン等のチタンハロゲン化物、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン等のチタンアルコキシド等を使用できる。
【0057】
一方、可燃性ガスとしては水素又は水素を含有するものが用いられ、更に必要に応じて一酸化炭素、メタン、プロパン等のガスを併用したものが用いられる。一方、支燃性ガスとしては酸素又は酸素ガスを含むものが用いられる。
【0058】
更に製造したチタニアドープ石英ガラスインゴットは、ミラー、ステージ、フォトマスク基板等のそれぞれのEUVリソグラフィ用部材に合った所定の形状にすべく、1,500〜1,800℃、1〜10時間熱間成型を行うが、予め700〜1,100℃、12〜100時間熱処理を施すことが望ましい。前記の製造炉で製造したチタニアドープ石英ガラスの成長軸と成型軸が平行になるように熱間成型を行う。熱間成型したチタニアドープ石英ガラスはアニール処理する。これらアニール処理は、熱間成型により生じたチタニアドープ石英ガラス中の熱歪みを低下させる効果及び仮想温度を低下させ、仮想温度の分布を抑制する効果がある。またチタニアドープ石英ガラス中の水素分子濃度を低くし、熱間成型時に内包物が発生することを抑制する上で有効である。アニール処理条件は公知の条件を用いることができ、温度700〜1,300℃、大気中で1〜200時間保持すればよい。また、徐冷条件も公知の条件を用いることができ、例えば、上記アニール処理温度から500℃の温度までの冷却を1〜20℃/hrの速度で実施すればよい。更に、アニール処理を施すチタニアドープ石英ガラスは、厚さが10mm以下に予め加工してあることが好ましい。仮想温度分布を抑制する上で効果的であるからである。この場合、厚さは1mm以上であることが好ましい。
【0059】
アニール処理を施したチタニアドープ石英ガラスを、適宜研削加工やスライス加工により所定のサイズに加工した後、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、炭化ケイ素、ダイアモンド、酸化セリウム、コロイダルシリカ等の研磨剤を使用して両面研磨機により研磨することにより、EUVリソグラフィ用部材に形成することが可能である。本発明のチタニアドープ石英ガラスからは、研磨後の基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の最も高い位置と最も低い位置との差(PV平坦度)が200nm以下、好ましくは100nm以下であるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板を形成することができる。なお、PV平坦度はフィゾー型干渉計(ZYGO MARK IV)を用いて測定できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
図2に示すバーナを使用し、表1に記載のガスをそれぞれのノズルに供給して、酸水素炎による四塩化ケイ素、四塩化チタンの酸化又は火炎加水分解反応により生成したSiO2、TiO2を石英製バーナの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着と同時に溶融させることでチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造した。このときのバーナ距離及びバーナ角度も表1に示した。当該製造条件における中心多重管部及びマルチノズル部におけるH2/O2比及び水素ガスの線速を表1に示す。このとき、各種ガスの流量変動は±0.2体積%であった。また、チタニアドープ石英ガラス製造炉へ吸入される空気、排気されるガス、製造炉の外気温の温度変動は±1℃であった。
【0062】
得られた110mmφ×400mmLのインゴットより厚さ6.5mmのサンプルを切り出し、その両面を研削、研磨及び洗浄し、厚さ5.01mmのサンプルを作製した。当該サンプルの中心から径方向に20mm間隔で波長350〜800nmにおける見かけ透過率及びOH基濃度を測定した。更に当該測定サンプルを900℃、100時間大気雰囲気中、大気圧下で熱処理し、再度OH基濃度を径方向に測定した。900℃、100時間、熱処理によるOH基濃度減少量の最大値及び最小値、当該OH基濃度減少量の最大値と最小値の差、900℃、100時間熱処理後のOH基濃度の最大値及び最小値及び波長350〜800nmにおける見かけ透過率測定結果において、最も低い透過率値を表2に示す。
【0063】
残りのチタニアドープ石英ガラスインゴットを1,000℃、大気中、50時間熱処理した後、1,700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。152.4mm×152.4mm角柱状に研削し、チタニアドープ石英ガラスインゴット(I)を得た。当該インゴット(I)から厚さ7mmのスライス基板を切り出した。その後、高純度多孔質炭化ケイ素断熱材を使用した炉内において、大気中で880℃、150時間保持して、500℃まで5℃/hrの速度で徐冷し、アニールした。スェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨した後、研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨、洗浄し、厚さ5.01mmの両面を鏡面化した研磨基板5枚を得た。
【0064】
研磨基板1枚の図3に示す各点において、吸収端波長の測定を行った。測定した吸収端波長のうち、最大値と最小値の差から計算した吸収端波長の分布及び最大値、最小値のそれぞれを表2に示す。
【0065】
当該研磨基板1枚の図3に示す各点おいて、水素分子濃度及び仮想温度を測定した。測定した水素分子濃度の最大値及び仮想温度の最大値及び最小値、最大値と最小値の差から計算した仮想温度分布をそれぞれ表2に示す。
更に、当該研磨基板1枚の金属不純物濃度を測定し、その総和を表2に示す。
【0066】
残りの研磨基板のうち1枚の図3に示す各点におけるTiO2濃度した後、熱膨張特性を測定し、ゼロ膨張温度を計測した。測定したTiO2濃度のうち、最大値及び最小値、ならびにゼロ膨張温度の最大値及び最小値をそれぞれ表2に示す。
【0067】
[実施例2,3,4,6及び比較例1,2]
表1に記載のガス、バーナ距離及びバーナ角度に設定し、チタニアドープ石英ガラスを製造した。その他の条件は実施例1と同一で行った。
【0068】
[実施例5]
表1に記載のガス、バーナ距離及びバーナ角度に設定し、チタニアドープ石英ガラスインゴットを製造した。当該インゴットを成型した後、セラミックファイバ炉体のマッフル炉内、大気中で1,120℃、150時間保持して、500℃まで5℃/hrの速度で徐冷し、アニールした。その他の条件は実施例1と同一で行った。
【0069】
実施例1,2及び3により作製したチタニアドープ石英ガラスは吸収端波長分布、吸収端波長位置、350〜800nmにおける見かけ透過率、金属不純物の総和、水素分子濃度、TiO2濃度ゼロ膨張温度、仮想温度、仮想温度分布、900℃、100時間熱処理によるOH基濃度減少量及びOH基濃度のいずれにおいても良好な値を示し、EUVリソグラフィ用部材として好適なものとなった。
【0070】
実施例4により作製したチタニアドープ石英ガラスは、350〜800nmにおける見かけ透過率の低下及び水素分子を多く含んでいたが、その他の物性値は良好であった。
【0071】
実施例5により作製したチタニアドープ石英ガラスは、多量の金属不純物を含んでいたが、その他の物性値は良好であった。
【0072】
実施例6により作製したチタニアドープ石英ガラスは、仮想温度分布が大きくなったが、その他の物性値は良好であった。
【0073】
比較例1により作製したチタニアドープ石英ガラスは吸収端波長分布、350〜800nmにおける見かけ透過率、水素分子濃度、900℃、100時間熱処理によるOH基濃度減少量及びOH基濃度が不適当な値となり、また比較例2により作製したチタニアドープ石英ガラスは更に仮想温度分布が大きな値となった。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【符号の説明】
【0076】
1 バーナ
2 インゴット
A 中心多重管部
B マルチノズル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスと可燃性ガス及び支燃性ガスをバーナ先端部から噴出させ、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを可燃性ガス及び支燃性ガスにより酸化又は火炎加水分解させて得た合成シリカ−チタニア微粒子を回転すると共に所定速度で後退するターゲット上に堆積すると同時に溶融ガラス化してチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造する際、バーナの先端部と成長するインゴット先端部との距離を250mm以上とすることを特徴とするチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項2】
インゴットの成長軸とバーナの原料ガス噴射用中心管ノズル軸とのなす角度が126°以上である請求項1記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項3】
バーナが、中心に原料ガス噴射用中心管を有する中心多重管部とその外側にマルチノズル部を有するものであり、バーナのマルチノズル部及び中心多重管部のそれぞれに供給される支燃性ガスとしての酸素ガスと可燃性ガスとしての水素ガスがマルチノズル部、中心多重管部の少なくとも一方で反応量論比より酸素過多であることを特徴とする請求項1又は2記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項4】
上記可燃性ガスとしての水素ガスのバーナから噴射されるに際しての線速が100m/sec以下であり、原料ガスの線速が30m/sec以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項5】
上記可燃性ガス、支燃性ガス、ケイ素源原料ガス、及びチタン源原料ガスの各々の供給流量の変動を±1体積%以内に制御する請求項1乃至4のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項6】
厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長の分布が10nm以下であることを特徴とするチタニアドープ石英ガラス。
【請求項7】
厚さ5mmあたりの見かけ透過率における吸収端波長が270nm以上であることを特徴とする請求項6記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項8】
厚さ5mmあたりの波長350〜800nmにおける見かけ透過率が70%以上であることを特徴とする請求項6又は7記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項9】
チタンを除く金属不純物の総和が100ppb以下であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項10】
水素分子濃度が5×1017分子/cm3以下であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項11】
チタニアを3〜10質量%含有することを特徴とする請求項6乃至10のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項12】
仮想温度が925℃以下であることを特徴とする請求項6乃至11のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項13】
仮想温度分布が50℃以下であることを特徴とする請求項6乃至12のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項14】
請求項6乃至13のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラスから形成されたことを特徴とするEUVリソグラフィ用部材。
【請求項15】
EUVリソグラフィ用フォトマスク基板であることを特徴とする請求項14記載のEUVリソグラフィ用部材。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−72053(P2012−72053A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185426(P2011−185426)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】