説明

チタノシリケートの製造方法およびオキシムの製造方法

【課題】 優れた触媒寿命を有するチタノシリケートを簡便に製造する方法を提供し、さらに、高い転化率でケトンをアンモキシム化反応させて、長期間にわたり触媒寿命を維持しつつ、良好な選択率でオキシムを製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明のMWW構造を有するチタノシリケートの製造方法は、ケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤を混合する工程(1)、工程(1)により得られた混合物を熱処理して懸濁液を得る工程(2)、工程(2)により得られた懸濁液とチタン化合物とを混合する工程(3)、工程(3)により得られた混合物を熱処理した後、生じた結晶を分離する工程(4)および工程(4)により得られた結晶を焼成する工程(5)を含む。本発明のオキシムの製造方法は、前記MWW構造を有するチタノシリケートの存在下に、ケトンを過酸化物及びアンモニアによりアンモキシム化反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MWW構造を有するチタノシリケートの製造方法と、該製造方法により得られたMWW構造を有するチタノシリケートの存在下に、ケトンを過酸化物及びアンモニアによりアンモキシム化反応させてオキシムを製造する方法とに関する。オキシムは、例えば、アミドやラクタムの原料等として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、ケトンを過酸化物及びアンモニアによりアンモキシム化反応させてオキシムを製造する方法において、MWW構造を有するチタノシリケートが触媒の1つとして用いられている。
かかるチタノシリケートの製造方法としては、ケイ素化合物、ホウ素化合物、チタン化合物、水及び構造規定剤を混合した後、熱処理する方法(非特許文献1)や、ケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤を混合した後、熱処理し、次いで、濾過、洗浄後、得られた結晶とチタン化合物とを混合して、再度熱処理する方法(特許文献1)が提案されている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/074421号パンフレット
【非特許文献1】ケミストリー・レターズ(Chemistry Letters)、(日本)、2000年、p.774−775
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法で得られたチタノシリケートは、チタノシリケートの触媒寿命の点で、必ずしも満足できるものではなかった。また、特許文献1に記載の方法では、1回目の熱処理後、一旦、濾過、洗浄して結晶を取得した後、チタン化合物を混合して、2回目の熱処理を行うため、操作が煩雑で、コスト面などで不利であった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、優れた触媒寿命を有するチタノシリケートを簡便に製造する方法を提供し、さらに、高い転化率でケトンをアンモキシム化反応させて、長期間にわたり触媒寿命を維持しつつ、良好な選択率でオキシムを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、ケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤を混合した後、熱処理して得られた懸濁液にチタン化合物を混合し、再度熱処理した後、生じた結晶を分離し、この結晶を焼成することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明のMWW構造を有するチタノシリケートの製造方法は、以下の工程(1)〜工程(5)を含むことを特徴とする。
工程(1):ケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤を混合する工程
工程(2):工程(1)により得られた混合物を熱処理して懸濁液を得る工程
工程(3):工程(2)により得られた懸濁液とチタン化合物とを混合する工程
工程(4):工程(3)により得られた混合物を熱処理した後、生じた結晶を分離する工程
工程(5):工程(4)により得られた結晶を焼成する工程
【0008】
また、本発明のオキシムの製造方法は、前記本発明のチタノシリケートの製造方法により得られたMWW構造を有するチタノシリケートの存在下に、ケトンを過酸化物及びアンモニアによりアンモキシム化反応させるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ケトンのアンモキシム化反応における触媒として優れた触媒寿命を有するチタノシリケートを簡便に製造することができる、という効果が得られる。そして、かかるチタノシリケートの存在下に、高い転化率でケトンをアンモキシム化反応させて、長時間にわたり触媒寿命を維持しつつ、良好な選択率でオキシムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のチタノシリケートの製造方法は、上述した工程(1)〜工程(5)を含む。以下、各工程について説明する。
【0011】
工程(1)は、ケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤を混合する工程である。
前記ケイ素化合物としては、例えば、テトラエチルオルソシリケートのようなテトラアルキルオルソシリケート、シリカ(ヒュームドシリカ)等が挙げられる。
前記ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、無水ホウ酸等が挙げられる。
前記構造規定剤は、層状構造を形成するためのテンプレートとして用いられるものであり、例えば、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン等の従来公知の構造規定剤が使用できる。
前記各原材料の使用割合は、ケイ素化合物中のケイ素を基準にして、ホウ素化合物はホウ素として0.1〜2モル倍であり、水は3〜50モル倍であり、構造規定剤は0.3〜3モル倍であることが好ましい。
【0012】
前記各原材料(ケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤)の混合は、50℃以下の温度で行うことが好ましく、より好ましくは0〜50℃、さらに好ましくは10〜50℃の温度で混合するのがよい。前記各原料の混合は、通常は室温で行われる。各原材料の混合時の温度が50℃を超えると、不活性な酸化チタン粒子の生成量が増加するおそれがある。
【0013】
前記各原材料(ケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤)の混合方法には、特に制限はなく、例えば、これら全てを一括して混合してもよいし、順次混合していってもよい。とりわけ、液体である原材料を先に混合した後に固体である原材料を混合するのが、均一に攪拌しやすい点で好ましい。
【0014】
工程(2)は、工程(1)により得られた混合物を熱処理して懸濁液を得る工程である。この工程において、ケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤の混合物は、熱処理によって水熱合成反応に付され、その結果、懸濁液となる。本発明においては、この工程での熱処理を「第1段階の水熱合成反応」と称することもある。
【0015】
水熱合成とは、高温の水とくに高温高圧の水の存在の下に行われる物質の合成および結晶成長法をいい(「岩波 理化学辞典」、第4版、株式会社岩波書店、1987年、p.647参照)をいい、具体的には、前記各原材料を混合し、オートクレーブ中、自圧下に100〜200℃程度の温度で加熱して、数時間〜数日間、攪拌することにより行われる。水熱合成反応における条件は、特に制限されるものではなく、通常の反応条件を採用することができる。
【0016】
工程(3)は、工程(2)により得られた懸濁液とチタン化合物とを混合する工程である。
前記チタン化合物としては、例えば、テトラ−n−ブチルオルソチタネートのようなテトラアルキルオルソチタネート、ペルオキシチタン酸テトラ−n−ブチルアンモニウムのようなペルオキシチタン酸塩、ハロゲン化チタン等が挙げられる。
【0017】
前記チタン化合物の使用量は、該チタン化合物中のチタン基準で、ケイ素化合物中のケイ素1モルに対して、通常0.01〜0.10モル、好ましくは0.05〜0.10モルであるのが、触媒性能の点でよい。
【0018】
前記懸濁液とチタン化合物との混合は、少なくとも水熱合成反応時の反応温度よりも低い温度で行なわれる。好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で混合するのがよい。具体的には、通常、工程(2)で得られた懸濁液の温度を室温程度まで下げた後に、チタン化合物を加える。例えば、工程(2)の水熱合成反応に引き続き、該反応温度と同温度になっている懸濁液にチタン化合物を混合した場合など、懸濁液とチタン化合物との混合時の温度が高すぎると、不活性な酸化チタン粒子の生成量が増加するおそれがある。
【0019】
前記懸濁液とチタン化合物とを混合するに際しては、これらとともに、その他の成分(例えば、工程(1)で混合したケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤のうちのいずれか1種以上)をも加えることもできる。その場合、その他の成分は、チタン化合物とあらかじめ混合し、均一な溶液にしておくことが好ましい。懸濁液とチタン化合物(もしくはチタン化合物とその他の成分との混合物)との混合方法には、特に制限はなく、例えば、両者を一括して混合してもよいし、いずれか一方に他の一方を滴下するか、両者を同時滴下するなどして混合してもよい。
【0020】
工程(3)の開始時機(すなわち、工程(2)における第1の水熱合成反応を終える時機)は、特に制限されないが、例えば、第1段階の水熱合成反応開始から1日後以降10日後以内、好ましくは3日後以降7日後以内とするのが、生産性の点ではよい。
【0021】
工程(4)は、工程(3)により得られた混合物を熱処理した後、生じた結晶を分離する工程である。この工程においては、まず、工程(3)で得られた混合物(すなわち、前記懸濁液とチタン化合物との混合物)を熱処理して水熱合成反応に付し、その結果、生じた結晶を分離する。本発明においては、この工程での熱処理を「第2段階の水熱合成反応」と称することもある。
第2段階の水熱合成反応の条件等は、特に制限されるものではなく、第1段階の水熱合成反応の条件として前述した条件等と同様でよい。但し、第1段階および第2段階の水熱合成の反応時間の合計は、生産性を考慮すると、10日間以内とするのが好ましい。
【0022】
前記第2段階の水熱合成反応により生じる結晶は、層状チタノシリケートである。この層状チタノシリケートの層構造は、具体的には、X線回折パターンにおける001面ないし002面のピークの存在により、確認することができる(例えば、前記非特許文献1のほか、第33回石油・石油化学討論会講演要旨;触媒、2001年、第43巻、p158−160;ケミカル・コミュニケーションズ(Chemical Communications)(英国)、2002年、p1026−1027;触媒、2002年、第44巻、p468−470;等参照)。そして、この層状チタノシリケートの層構造は、焼成により、結晶シートの層間脱水縮合が生じて三次元結晶構造が形成されることで、MWW構造に変換される。この構造変換は、具体的には、X線回折パターンにおいて、前記001面ないし002面のピークが消失することにより確認することができる(前記各文献参照)。
【0023】
結晶(層状チタノシリケート)を分離するには、例えば、第2段階の水熱合成反応で得られた反応液を濾過し、必要に応じて、得られた濾残を洗浄すればよい。このとき、濾過および洗浄の条件や方法は、特に制限されるものではなく、通常の条件や方法に従い行うことができる。例えば、洗浄は、濾残を水により洗液のpHが4〜10の範囲になる程度まで洗浄すればよい。さらに、濾残として分離した結晶には、必要に応じて、乾燥を施すことができる。乾燥の条件や方法も、特に制限されるものではなく、通常の条件や方法に従い行うことができ、例えば、50〜150℃で1〜24時間程度乾燥すればよい。また、乾燥をスプレードライヤーを用いて行うと、乾燥と同時に、粒径1〜1000μm程度の粒子に成形することができる点で有利である。
【0024】
工程(5)は、工程(4)により得られた結晶(層状チタノシリケート)を焼成する工程である。焼成条件は、特に制限されるものではなく、例えば、200〜700℃程度の温度で1〜24時間程度加熱すればよい。
【0025】
なお、工程(4)により得られた結晶(層状チタノシリケート)には、焼成に供する前に、必要に応じて、酸処理を施してもよい。酸処理を行うことにより、チタノシリケート骨格に導入されたホウ素および骨格外のチタンを除去することができ、得られたチタノシリケートの触媒活性を向上させることができる。
【0026】
酸処理に用いることができる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、炭酸、リン酸のような無機酸、ギ酸、酢酸のような有機酸が挙げられる。これらの中でも特に、硝酸、硫酸が好ましい。酸の使用量は、特に制限されるものではなく、チタノシリケート骨格に導入されたホウ素および骨格外のチタンを充分に除去できる範囲で適宜設定すればよい。酸処理の処理温度や処理時間は、特に制限されるものではなく、適宜設定すればよい。なお、酸処理を施した場合には、その処理後、工程(4)と同様の分離、洗浄および乾燥等を行うことができる。
【0027】
本発明の製造方法で得られるチタノシリケートは、MWW構造を有する結晶性チタノシリケートであり(以下、MWW構造を有する結晶性チタノシリケートを「Ti−MWW」と称することがある)、ここで、MWWとは、国際ゼオライト学会〔International Zeolite Association(IZA)〕が定めるゼオライトの構造コードの1つである。なお、MWW構造を有する化合物の具体例としては、MCM−22、SSZ−25、ITQ−1、ERB−1、PSH−3等が挙げられる。
【0028】
ここで言う、チタノシリケートとは、骨格を構成する元素として、チタン、ケイ素及び酸素を含むものであり、実質的にチタン、ケイ素及び酸素のみから骨格が構成されるものであってもよいし、骨格を構成する元素としてさらにホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム等、チタン、ケイ素及び酸素以外の元素を含むものであってもよい。
【0029】
本発明の製造方法で得られるTi−MWWにおける、ケイ素に対するチタンの原子比(Ti/Si)は、通常0.005〜0.1、好ましくは0.01以上である。なお、このチタノシリケートがチタン、ケイ素及び酸素以外の元素を含む場合、ケイ素に対する含有元素の原子比は、通常0.05以下、好ましくは0.02以下である。また、酸素は、酸素以外の各元素の原子比及び酸化数に対応して存在しうる。かかるチタノシリケートの典型的な組成は、ケイ素を基準(=1)として、次式で示すことができる。
【0030】
SiO2・xTiO2・yMOn/2
(式中、Mはケイ素、チタン及び酸素以外の少なくとも1種の元素を表し、nは該元素の酸化数であり、xは0.005〜0.1であり、yは0〜0.05である。)
【0031】
本発明の製造方法で得られるTi−MWWに含まれるチタンがチタノシリケートに占める含有比率(Ti含有率)は、通常0.4%以上、好ましくは1%以上である。
【0032】
かくしてMWW構造を有するチタノシリケートを得ることができる。そして、このチタノシリケートの存在下に、ケトンを過酸化物及びアンモニアによりアンモキシム化反応させることにより、長時間にわたり触媒寿命を維持しつつ、高い転化率でケトンをアンモキシム化反応させて良好な選択率でオキシムを製造することができる。なお、かかるチタノシリケートは、該反応以外のエポキシ化やオキシム化等の酸化反応における触媒としても長期間にわたり高い活性を発揮することが期待されるものである。
【0033】
触媒として用いるTi−MWWは、バインダーを用いて又は用いずに、粒状やペレット状等に成形して使用してもよいし、担体に担持して使用してもよい。
触媒として用いるTi−MWWは、反応混合物の液相に懸濁させて固相として存在させるのがよく、その割合は、液相に対して通常0.1〜10重量%程度とするのがよい。また、Ti−MWWの触媒活性の低下を抑制すること等を目的として、シリカゲル、ケイ酸、結晶性シリカ等のチタノシリケート以外のケイ素化合物を共存させてもよい。
【0034】
前記ケトンは、脂肪族ケトンであってもよいし、脂環式ケトンであってもよいし、芳香族ケトンであってもよく、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。また、前記ケトンは、例えば、アルカンの酸化により得られたものであってもよいし、2級アルコールの酸化(脱水素)により得られたものであってもよいし、アルケンの水和及び酸化(脱水素)により得られたものであってもよい。
【0035】
前記ケトンの具体例としては、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトンのようなジアルキルケトン;メシチルオキシドのようなアルキルアルケニルケトン;アセトフェノンのようなアルキルアリールケトン;ベンゾフェノンのようなジアリールケトン;シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、シクロドデカノンのようなシクロアルカノン;シクロペンテノン、シクロヘキセノンのようなシクロアルケノン等が挙げられる。これら中でも、シクロアルカノンが好ましい。
【0036】
前記過酸化物の具体例としては、過酸化水素のほか、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドのような有機過酸化物が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素が反応性の点で好ましい。
過酸化水素は、通常、いわゆるアントラキノン法により製造され、一般に濃度10〜70重量%の水溶液として市販されているので、この過酸化水素水溶液を用いることができる。また、過酸化水素は、金属パラジウムを担持した固体触媒の存在下に有機溶媒中で水素と酸素を反応させることにより製造することもでき、この方法による過酸化水素を使用する場合には、反応混合物から触媒を分離して得られる過酸化水素の有機溶媒溶液を使用することができる。
【0037】
前記過酸化物の使用量は、ケトン1モルに対して、通常0.5〜3モル、好ましくは0.5〜1.5モルとするのがよい。なお、前記過酸化物には、例えば、リン酸ナトリウムのようなリン酸塩、ピロリン酸ナトリウムやトリポリリン酸ナトリウムのようなポリリン酸塩、ピロリン酸、アスコルビン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトロトリ酢酸、アミノトリ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等が添加されていてもよい。
【0038】
前記アンモニアは、ガス状のものを用いてもよいし、液状のものを用いてもよく、また、水や有機溶媒の溶液として用いてもよい。
【0039】
前記アンモニアの使用量は、反応混合物の液相におけるアンモニア濃度が1重量%以上となるように調整するのがよい。このように、反応混合物の液相中のアンモニア濃度を1重量%以上とすることにより、原料のケトンの転化率と目的物のオキシムの選択率を高めることができ、ひいては目的物のオキシムの収率を高めることができる。反応混合物の液相におけるアンモニア濃度は、好ましくは1.5重量%以上となるようにするのがよく、一方、その上限は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下となるようにするのがよい。なお、アンモニア使用量の目安は、ケトン1モルに対して、通常1モル以上、好ましくは1.5モル以上である。
【0040】
前記アンモキシム化反応は、溶媒中で行うこともできる。このときの反応溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンのような芳香族化合物、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、t−アミルアルコールのようなアルコール、水等が挙げられる。これらの中でも、アルコールや水が好ましく、特に、アルコールと水の混合溶媒が反応性の点でより好ましい。
【0041】
前記アンモキシム化反応は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。特に、反応系内に、ケトン、過酸化物及びアンモニアを供給しながら、反応系内から反応混合物を抜き出すことにより連続式で行うことが、生産性および操作性の点からは、望ましい。
【0042】
回分式反応は、例えば、反応器にケトン、アンモニア、触媒及び溶媒を入れ、攪拌下、この中に過酸化物を供給することにより行ってもよいし、反応器にケトン、触媒及び溶媒を入れ、攪拌下、この中に過酸化物及びアンモニアを供給することにより行ってもよいし、反応器に触媒及び溶媒を入れ、攪拌下、この中にケトン、過酸化物及びアンモニアを供給することにより行ってもよい。
【0043】
連続式反応は、例えば、反応器内に触媒が懸濁した反応混合物を存在させるようにして、この中にケトン、過酸化物、アンモニア及び溶媒を供給しながら、反応器からフィルター等を介して反応混合物の液相を抜き出すことにより、好適に行うことができる。
なお、回分式、連続式のいずれの場合も、反応器には、過酸化物の分解を防ぐ観点から、グラスライニングされたものやステンレススチール製のものが好ましく用いられる。
【0044】
前記アンモキシム化反応の反応温度は、通常50〜120℃、好ましくは70〜100℃とするのがよい。また、反応圧力は常圧でもよいが、反応混合物の液相にアンモニアを溶解させ易くするためには、通常、絶対圧で0.2〜1MPa、好ましくは0.2〜0.5MPaの加圧下に反応を行うのが好ましい。加圧下で行なう場合、窒素やヘリウム等の不活性ガスを用いて、圧力を調整してもよい。
【0045】
前記アンモキシム化反応で得られた反応混合物からオキシムを回収する際の後処理操作については、特に制限はなく、通常の方法に従って適宜行えばよい。例えば、反応混合物から触媒を濾過やデカンテーション等により分離した後、液相を蒸留に付すことにより、オキシムを分離、回収することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
ここで、各実施例および比較例で得られたチタノシリケート(Ti−MWW)のTi含有率(Ti−MWW中に占めるチタン総量の含有比率)はICP分析により測定した。また、オキシムの製造における液相の分析はガスクロマトグラフィーにより行った。
【0047】
なお、オキシムの製造におけるTi−MWWの触媒寿命は、オートクレーブ内の酸素濃度を目安に判断した。つまり、過酸化物として過酸化水素を使用した場合、触媒活性が低下してくると、過酸化水素の熱分解に伴う酸素生成量が増大し、系内の酸素濃度が急激に上昇するので、酸素濃度が急激に上昇する時点までの反応時間が長いほど、触媒寿命が長いと言える。
【0048】
<ICP分析>
試料を白金皿に秤り取り、フッ化水素酸および硝酸を加え、加温して蒸発乾固させた後、炭酸ナトリウムおよびホウ酸を加えてバーナーで融解させ、得られた融解物に希塩酸を加えて加温し、定容として供試液を得た。この供試液中のTiをICP発光分析装置(セイコー電子工業製「SPS4000」)にてICP分析し、試料中のTi含有率を求めた。
【0049】
(参考例−種晶の調製)
ビーカーに、純水445.87g、ピペリジン77.53g、テトラ−n−ブチルオルソチタネート11.07gを入れ、空気雰囲気下、室温で均一になるまで攪拌した後、ホウ酸53.93gを加えて均一になるまで攪拌した。得られた水溶液にヒュームドシリカ(CABOT社製「CAB−O−SIL M−7D」)39.20gを加えて室温で1時間攪拌した後、混合液をオートクレーブに移してオートクレーブを密閉した。この混合液を、攪拌しながら、オートクレーブをヒータで加熱することにより、5時間かけて室温から170℃まで昇温した後、同温度で7.5日間加熱して水熱合成を行った。得られた懸濁液を濾過し、濾残を洗液のpHが10以下になるまで洗浄した後、110℃で16時間乾燥し、白色粉末44.40gを得た。この白色粉末30gを2M硝酸900g中で16時間加熱還流した後、濾過し、濾残を洗液のpHが4以上になるまで洗浄した。得られた白色粉末を乾燥後、530℃で10時間焼成して、Ti含有率は2.1%のTi−MWWを得た。
【0050】
(実施例1)
[チタノシリケートの製造]
ビーカーに、純水343g、ピペリジン78g、及びホウ酸54gを入れ、空気雰囲気下、室温で均一になるまで攪拌した。得られた水溶液に、ヒュームドシリカ(CABOT社製「CAB−O−SIL M−7D」)39gを加えて1時間攪拌した後、種晶として参考例で得たTi−MWWを0.4g加えた。得られた混合液をオートクレーブに移してオートクレーブを密閉し、攪拌しながらこの混合液を170℃まで昇温した後に同温度で5日間加熱して第1段階の水熱合成反応を行った。
【0051】
次に、一旦加熱を中断してオートクレーブを室温まで冷却した後、オートクレーブ内の反応液に、あらかじめテトラ−n−ブチルオルソチタネート9g、ピペリジン19g及び純水114gを混合して均一になるまで室温で1時間攪拌した溶液を加えた。次いで、再度オートクレーブを密閉し、第1段階の水熱合成反応と同様に170℃まで昇温した後に同温度で2日間加熱して第2段階の水熱合成反応を行った。
【0052】
得られた懸濁液を濾過し、濾残を洗液のpHが10以下になるまで洗浄した後、110℃で16時間乾燥し、白色粉末46gを得た。この白色粉末30gを2M硝酸900g中で8時間加熱還流した後、濾過し、濾残を洗液のpHが4以上になるまで洗浄した。得られた白色粉末を110℃で乾燥後、530℃で10時間焼成して、Ti含有率が1.2%のTi−MWW(1)を得た。
【0053】
[オキシムの製造]
容量1Lのオートクレーブを反応器として用い、この中に、シクロヘキサノンを19.63g/時間、含水t−ブチルアルコール(水12重量%)を34g/時間、及び50重量%過酸化水素水を15.64g/時間の速度で供給し、かつアンモニアを、反応混合物の液相中に2重量%の濃度で存在するように供給しながら、反応器からフィルターを介して反応混合物の液相を抜き出すことにより、温度95℃、圧力0.35MPa(絶対圧)、滞留時間6時間の条件で連続式反応を行った。この間、反応器内の反応混合物中には、液相に対し0.2重量%の割合で上記Ti−MWW(1)を存在させた。
【0054】
反応開始から5.5時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.3%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.5%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は98.9%であった。また、反応開始から129時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.9%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.5%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は99.4%であった。さらに、反応を継続したところ、反応開始から148時間後にオートクレーブ内の酸素濃度が急激に上昇したため、この時点で反応を終了した。
【0055】
(実施例2)
[チタノシリケートの製造]
テトラ−n−ブチルオルソチタネートの使用量を11gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、Ti含有率が1.8%のTi−MWW(2)を得た。
【0056】
[オキシムの製造]
Ti−MWW(1)に変えて上記のTi−MWW(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で連続式反応を行った。
反応開始から5.5時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.6%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.7%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は99.3%であった。また、反応開始から68時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.9%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.7%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は99.6%であった。さらに、反応を継続したところ、反応開始から136時間後にオートクレーブ内の酸素濃度が急激に上昇したため、反応を終了した。
【0057】
(実施例3)
[チタノシリケートの製造]
テトラ−n−ブチルオルソチタネートの使用量を13gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、Ti含有率が2.6%のTi−MWW(3)を得た。
【0058】
[オキシムの製造]
Ti−MWW(1)に変えて上記のTi−MWW(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で連続式反応を行った。
反応開始から5.5時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.5%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.7%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は99.2%であった。また、反応開始から142時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.9%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.6%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は99.5%であった。さらに、反応を継続したところ、反応開始から154時間後にオートクレーブ内の酸素濃度が急激に上昇したため、反応を終了した。
【0059】
(比較例1)
[チタノシリケートの製造]
ビーカーに、純水446g、ピペリジン77g、及びテトラ−n−ブチルオルソチタネート9gを入れ、空気雰囲気下、室温で均一になるまで攪拌した後、ホウ酸54gを加えて室温で均一になるまで攪拌した。得られた水溶液に、ヒュームドシリカ(CABOT社製「CAB−O−SIL M−7D」)40gを加えて1時間攪拌した後、種晶として参考例で得たTi−MWWを0.5g加えた。得られた混合液をオートクレーブに移してオートクレーブを密閉した後、攪拌しながらこの混合液を170℃まで昇温した後に同温度で7日間加熱して水熱合成反応を行った。
【0060】
得られた懸濁液を濾過し、濾残を洗液のpHが10以下になるまで洗浄した後、110℃で16時間乾燥し、白色粉末77gを得た。この白色粉末30gを2M硝酸900g中で16時間加熱還流した後、濾過し、濾残を洗液のpHが4以上になるまで洗浄した。得られた白色粉末を110℃で乾燥後、530℃で10時間焼成して、Ti含有率が1.1%のTi−MWW(C1)を得た。
【0061】
[オキシムの製造]
Ti−MWW(1)に変えて上記のTi−MWW(C1)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で連続式反応を行った。
反応開始から5.5時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.2%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.5%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は98.7%であった。また、反応開始から127時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は95.9%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は98.1%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は94.1%であった。さらに、反応を継続したところ、反応開始から131時間後にオートクレーブ内の酸素濃度が急激に上昇したため、反応を終了した。
【0062】
(比較例2)
[チタノシリケートの製造]
テトラ−n−ブチルオルソチタネートの使用量を11gに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、Ti含有率が2.1%のTi−MWW(C2)を得た。
【0063】
[オキシムの製造]
Ti−MWW(1)に変えて上記のTi−MWW(C2)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で連続式反応を行った。
反応開始から5.5時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.3%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.5%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は98.7%であった。また、反応開始から117時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.1%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.3%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は98.3%であった。さらに、反応を継続したところ、反応開始から126時間後にオートクレーブ内の酸素濃度が急激に上昇したため、反応を終了した。
【0064】
(比較例3)
[チタノシリケートの製造]
テトラ−n−ブチルオルソチタネートの使用量を13gに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、Ti含有率が2.4%のTi−MWW(C3)を得た。
【0065】
[オキシムの製造]
Ti−MWW(1)に変えて上記のTi−MWW(C3)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で連続式反応を行った。
反応開始から5.5時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.4%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.6%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は99.0%であった。また、反応開始から106時間後に抜き出した液相を分析した結果、シクロヘキサノンの転化率は99.3%、シクロヘキサノンオキシムの選択率は99.4%であり、シクロヘキサノンオキシムの収率は98.7%であった。さらに、反応を継続したところ、反応開始から116時間後にオートクレーブ内の酸素濃度が急激に上昇したため、反応を終了した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)〜工程(5)を含むことを特徴とするMWW構造を有するチタノシリケートの製造方法。
工程(1):ケイ素化合物、ホウ素化合物、水及び構造規定剤を混合する工程
工程(2):工程(1)により得られた混合物を熱処理して懸濁液を得る工程
工程(3):工程(2)により得られた懸濁液とチタン化合物とを混合する工程
工程(4):工程(3)により得られた混合物を熱処理した後、生じた結晶を分離する工程
工程(5):工程(4)により得られた結晶を焼成する工程
【請求項2】
前記チタン化合物の使用量が、該チタン化合物中のチタン基準で、前記ケイ素化合物中のケイ素1モルに対して0.05〜0.10モルである、請求項1記載のチタノシリケートの製造方法。
【請求項3】
工程(3)における混合を50℃以下で行う、請求項1または2に記載のチタノシリケートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のチタノシリケートの製造方法により得られたMWW構造を有するチタノシリケートの存在下に、ケトンを過酸化物及びアンモニアによりアンモキシム化反応させる、オキシムの製造方法。
【請求項5】
アルコールと水との混合溶媒中でアンモキシム化反応を行う、請求項4に記載のオキシムの製造方法。
【請求項6】
前記過酸化物が過酸化水素である、請求項4または5に記載のオキシムの製造方法。
【請求項7】
前記ケトンがシクロアルカノンである、請求項4〜6のいずれかに記載のオキシムの製造方法。

【公開番号】特開2008−308388(P2008−308388A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160641(P2007−160641)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】