説明

チタン金属表面をチタンのナノメートル粒子で機能化する方法及び機能化された製品

ナノメートル寸法の二酸化チタン懸濁液を適用することにより、チタン表面に抗菌特性を付与し得る方法について、述べる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン金属表面処理の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チタンは、インプラント学(特に歯科矯正)に使用される部品の製造に広く利用されている。この使用の点で、斯かる移植物の種々の構成部品の表面が殺菌及び/又は制菌作用を発揮する能力は、明らかに重要である。
【0003】
特許文献1(本願出願人と同人)は、ナノ粒子の形態の二酸化チタンを調製する方法、及びこの方法で得られる、水と適当な複合溶媒(例えば、ポリエチレングリコール)との混合物に懸濁された二酸化チタンのナノメートル粒子からなる相対分散液(relative dispersion)について、述べている。この特許出願は、光触媒コーティングを調製するための上記懸濁液の実用性についても、言及している。
【0004】
同様に、特許文献2は、水性懸濁液中でナノ粒子の形態の二酸化チタンを調製する方法、及びそれ自体の相対懸濁液の調製方法について、述べている。
【特許文献1】イタリア国特許出願FI2004A000252号明細書
【特許文献2】イタリア国特許出願FI2006A000030号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、チタン金属表面を、チタンのナノメートル粒子で機能化する方法を参照し、この方法は:
機能化の対象の製品を、二酸化チタンのナノメートル粒子の懸濁液に浸漬し;
完全に湿潤した場合、この製品を加熱して、溶媒を除去し;
処理された表面へのナノメートル粒子の固定性を向上するように、この製品を、熱サイクルに付す、ものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の特許出願で言及する二酸化チタンのナノメートル粒子の懸濁液は、それ自体、特にチタン表面の処理に役立つことが驚くべきことに見出され、人工器官又はその部品、特にこの金属で形成された歯科用部品の場合に極めて有用且つ興味深いことが見出される殺菌又は制菌作用を付与し得る。
【0007】
特許文献1により十分に示されているように、本発明に使用し得るアナターゼTiOの粒子の懸濁液を調製する方法は、下記のステージを有する。
【0008】
i)チタンアルコキシドを、適当な複合溶媒(complexing solvent)と反応させるステージ;
ii)ステージi)に由来の溶液を、少量となるまで、蒸留するステージ;及び
iii)水とともに、上記の複合溶媒及び1つ以上の重縮合阻害剤を、ステージii)に由来の溶液に添加し、その後、還流下で反応混合物を加熱し、所望のナノメートル粒子懸濁液を得るステージ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
チタンアルコキシドは、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタン n−プロポキシド、チタンイソプロポキシド、チタン n−ブトキシド、及びチタンイソブトキシドから好ましく選択され、なかでも、チタンイソプロポキシドが好ましい。
【0010】
本発明の方法に典型的に使用される複合溶媒は、例えば、200〜600の分子量を有するポリエチレングリコールである。10,000以上の分子量のより長い鎖を有するポリエチレングリコールを使用してもよく、ジエチレングリコールが好ましい。
【0011】
用語「重縮合阻害剤」は、少なくとも1種類の鉱酸と、1種類の有機酸とを有する混合物を典型的に意味し、ここで、鉱酸は、塩酸、硝酸、硫酸、過塩素酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸からなる群から例えば選択されてもよく、有機酸は、好ましくは、酢酸である;重縮合阻害剤は、塩酸及び酢酸の混合物が好ましい。
【0012】
添加される重縮合阻害剤の量は、鉱酸の量が反応混合物の全量に対して0.1〜10容量%となる一方で、有機酸の量が反応混合物の全量に対して1〜20容量%となるように、添加される。
【0013】
また、上記の特許文献2は、アナターゼTiO粒子の水懸濁液の調製方法について十分に示し且つ主張している。
【0014】
この方法によると、チタン塩を、鉱酸及び非イオン性界面活性剤の存在下、熱条件で水と反応させ、得た溶液を、その後、少量へと可能に低減させるものである。既に上記の特許文献1で定義したチタン塩及び鉱酸の一般的且つ好適な定義は、有効であるところ、「非イオン性界面活性剤」は、エーテル又はエステル型の極性機能を有するものを意味し、好ましくは、TritonX−100(TX−100)である。
【0015】
酸に対するチタンアルコキシドのモル比は、0.005〜15であり、好ましくは5〜6である。また、反応温度は、通常、15〜95℃であり、好ましくは、45〜55℃である。反応時間は、12〜72時間であり、好ましくは、24時間である。
【0016】
さらに、上記の両文献で述べるように、上記の両方の場合、Tiは、遷移金属から選択された金属でドープされてもよく、特に、本発明のステップi)又は代替的にステップiii)において、塩を添加したAg、Cu及びCeから選択される。この様式において、本発明の方法により、Ag、Cu又はCeでドープされたTiOの懸濁液が形成され、UV光の照射がない場合であっても、それ自体触媒活性を示すことが可能となる。
【0017】
複合剤及び水性懸濁液の両方を有する本発明に使用される懸濁液を調製する例示的な例を下記に示す。
【0018】
(例)
Tiイソプロポキシドから出発して、水/ジエチレングリコール中にアナターゼTiOを有するナノメートル粒子懸濁液の調製
(例1)
5.53Lのジエチレングリコールを、5.54Lのチタンイソプロポキシドを添加した20Lのフラスコに導入する。この反応混合物を、攪拌下、5分間載置し、その後、120℃に加熱して、少量となるまで、形成したイソプロピルアルコールを留去する。11.1Lのジエチレングリコール、125mLの32〜33%(w/w)塩酸、2.07Lの氷酢酸及び125mLの脱イオン水を添加する;温度を180℃とし、この混合物を、還流下、2時間保持する。
【0019】
(例2)
5gの濃塩酸、75gのTX−100及び水を添加して750gとしたものを、外部ジャケットにおいて循環する透熱性油で加熱した2Lの反応器に導入する。その温度を、50℃とする。その後、50gのTi[OCH(CH(TIP)を即座に添加し、白色の凝集沈殿物の形成がすぐに観察される。
【0020】
7時間後、非常に安定な透明のゾルが形成される。
【0021】
このようにして得た懸濁液を、その後、チタン金属部品の表面の機能化に用いる。
【0022】
特に、機能化の対象の製品を、この懸濁液に浸漬し、表面が完全に湿潤するように可能に回転する。その後、加熱し、最終的に、ナノメートル粒子の処理された表面上への固定が向上するように、熱サイクルに付される。
【0023】
初期のバス(bath)に使用する懸濁液は、一般的に、0.1〜15%、好ましくは1%のナノメートルサイズの二酸化チタンを含有し、且つ0.005〜0.5%、好ましくは0.05%の可能な銀を含有する。なお、これらの百分率は、溶液の重量に対して算出したものである。初期の加熱の唯一の機能は、溶媒の除去を加速することであり、例えば、約120℃のオーブン中で実行されてもよい。
【0024】
次の熱サイクルは、周囲温度から開始して、0.1〜10℃/分の増加する温度勾配で400〜850℃まで加熱するものであって、30〜240分の時間、保持され、処理された製品は、周囲温度まで自由に冷却される。
【0025】
本発明による方法は、接地した表面(ground surface)上で行われてもよいが、好ましくは、表面は、二酸化チタンの懸濁液に浸漬される前に、この目的で通常使用される技術に従って媒染(mordanting)に付されてもよい。
【0026】
所望の殺菌特性を付与する目的で本発明に従ってチタン製品を処理する幾つかの例を下記に示す。
【0027】
(例3)
構造化した非平滑表面を得るように、歯科矯正インプラント用のチタンスクリューを、各種酸の混合物を用いた媒染(本技術分野公知の方法)に付した。これを、1重量%の二酸化チタンのナノメートル粒子を含有するジエチレングリコール中の処方製品に浸漬し、攪拌下、5秒間保持した。
【0028】
その後、このスクリューを、120℃のオーブンに1時間載置し、溶媒蒸発を惹起した。このステップにおいて、二酸化チタンのナノメートル粒子は、スクリューの表面上に堆積する。その後、このスクリューを、高温で処理し、ナノメートル粒子を金属に安定的に固定する。上記の熱サイクルは、最後の2時間、650℃まで加熱し、その後2時間保持し、その後、周囲温度まで自由に冷却することからなる。
【0029】
(例4)
歯科矯正インプラント用の接地したチタンスクリューを、総含量1%の二酸化チタンである二酸化チタンのナノメートル粒子上に吸着された0.05%の銀のナノメートル粒子を含有するジエチレングルコール中の処方製品に浸漬し、攪拌下、5秒間保持した。
【0030】
その後、このスクリューを、120℃のオーブンに1時間載置し、溶媒蒸発を惹起した。このステップにおいて、二酸化チタンのナノメートル粒子は、スクリューの表面上に堆積する。その後、このスクリューを、高温で処理し、ナノメートル粒子を金属に安定的に固定する。上記の熱サイクルは、最後の2時間、650℃まで加熱し、その後2時間保持し、その後、周囲温度まで自由に冷却することからなる。
【0031】
(例5)
歯科矯正インプラント用の媒染されたチタンスクリューを、総含量0.1%の二酸化チタンである二酸化チタンのナノメートル粒子上に吸着された0.005%の銀のナノメートル粒子を含有する水中の処方製品に浸漬し、攪拌下、5秒間保持した。
【0032】
その後、このスクリューを、120℃のオーブンに1時間載置し、溶媒蒸発を惹起した。このステップにおいて、二酸化チタンのナノメートル粒子は、スクリューの表面上に堆積する。その後、このスクリューを、高温で処理し、ナノメートル粒子を金属に安定的に固定する。上記の熱サイクルは、最後の2時間、750℃まで加熱し、その後2時間保持し、その後、周囲温度まで自由に冷却することからなる。
【0033】
(例6)
1重量%の二酸化チタンを含有する二酸化チタンのナノメートル粒子の水溶液を、小型の平滑なチタンプレートの一側面上に噴霧した。この小型のプレートを、120℃のオーブンに1時間載置し、溶媒蒸発を惹起した。その後、この小型のプレートを、高温で処理し、ナノメートル粒子を金属に安定的に固定する。上記の熱サイクルは、最後の2時間、800℃まで加熱し、その後2時間保持し、その後、周囲温度まで自由に冷却することからなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン金属表面を、チタンのナノメートル粒子で機能化する方法であって:
機能化の対象の製品を、二酸化チタンのナノメートル粒子の懸濁液に浸漬し;
完全に湿潤した場合、この製品を加熱して、溶媒を除去し;
処理された表面へのナノメートル粒子の固定性を向上するように、この製品を、熱サイクルに付すことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記製品をナノメートルサイズの二酸化チタンの懸濁液に浸漬する前に、表面を媒染することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
初期のバスに使用する懸濁液は、0.1〜15%のナノメートルサイズの二酸化チタンを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記懸濁液は、1%の二酸化チタンを含有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記懸濁液は、0.005〜0.5%、好ましくは0.05%の銀を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱サイクルは:
周囲温度から開始して、0.1〜10℃/分の上り勾配で400〜850℃の温度まで加熱するステップと;
30〜240分の時間の間、前記温度で保持するステップと;
周囲温度まで自由に冷却するステップと;
を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記の二酸化チタンのナノメートル粒子の懸濁液は:
i)チタンアルコキシドを、適当な複合溶媒で処理するステップと;
ii)ステップi)に由来の溶液を、少量となるまで、蒸留するステップと;
iii)ステップii)に由来の溶液に、水とともに、前記複合溶媒及び1つ以上の重縮合阻害剤を添加し、その後、この反応混合物を還流下で加熱して、所望のナノメートル粒子の懸濁液を得るステップと;
を有する工程で得られることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記の二酸化チタンのナノメートル粒子の懸濁液は:
チタン塩を、鉱酸及び非イオン性界面活性剤の存在下、熱条件で水と反応するステップと;
得た溶液を、少量に可能に低減するステップと;
を有する工程で得られることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法を用いて、二酸化チタンのナノメートル粒子でコートしたチタン金属表面。
【請求項10】
前記表面は、歯科矯正用の人工器官又はその部品のものであることを特徴とする請求項9に記載の金属表面。
【請求項11】
歯科矯正用の人工器官又はその部品であって、
その表面は、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の二酸化チタンのナノメートル粒子でコートされていることを特徴とする人工器官又はその部品。

【公表番号】特表2009−525405(P2009−525405A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552819(P2008−552819)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051030
【国際公開番号】WO2007/088199
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(507185118)コロロッビア イタリア ソシエタ ペル アチオニ (7)
【Fターム(参考)】