説明

チャート、画像形成装置及びそのプログラム

【課題】色調整用チャートの中からざらつき感の大きなパッチや色の違いの大きなパッチをオペレータが選択しないようにする。
【解決手段】印刷システム1では、ユーザーPC10がインクジェットプリンター20に色調整用シートの作成指示を出力することにより、インクジェットプリンター20が色調整用チャートを印刷する。ユーザーPC10のプリンタードライバー18aは、基準色で塗りつぶされる基準パッチを起点として所定方向に沿って色情報の差が等間隔となるように各パッチを並べることを基本態様とし、所定方向に沿って並ぶ各パッチの粒状性指標又は色差に基づいて基本態様を変更し、該変更した態様で色調整用チャートが印刷されるようインクジェットプリンター20を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の画像形成装置としては、正確なカラーマッチングを簡単に行うことができるものが知られている。例えば、特許文献1では、印刷に使用する画像形成装置からRGB値がリンクされているカラーパレットチャートを出力させ、出力サンプルから所望の色を選択し、その色にリンクしたRGB値をユーザーカラー登録で入力するものが提案されている。こうした画像形成装置では、該装置が実際に出力したサンプル色を見ながら、その装置が出力する印刷色の指定を行うことが可能となり、その装置で実際に印刷されたありのままの色を直接指定することができる。ここで、カラーパレットチャートは、例えば、色相を一定値とした場合に、縦方向に明度の数値を10間隔、横方向に彩度の数値を10間隔でパッチを並べた一覧表として印刷される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−129549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したカラーパレットチャートでは、色情報の差が等間隔となるようにパッチを並べたものであるため、縦方向あるいは横方向に沿ってパッチを探していくと、急にざらつき感が大きくなる(粒状性が悪くなる)ことがあった。正確なカラーマッチングを行う場合、カラーパレットチャートの中からこのようにざらつき感の大きなパッチを選択することはほとんどないが、パッチの大きさ等は同じであるため、一目でざらつき感の良し悪しを判断できるものではなかった。このため、カラーマッチングを行う場合に、相当な注意力が必要であった。なお、ざらつき感のほかに色の違いが急に変わることもある。
【0005】
本発明の画像形成装置は、色調整用チャートの中からざらつき感の大きなパッチや色の違いの大きなパッチをオペレータが選択しないようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のチャートは、
第1のパッチと、
前記第1のパッチとは色が異なる第2のパッチと、
を備え、
前記第2のパッチの態様は、前記第1のパッチの粒状性と前記第2のパッチの粒状性、又は、前記第2のパッチの前記第1のパッチからの色差に基づいて定められているものである。
【0008】
このチャートによれば、チャートの中からざらつき感の大きなパッチや色の違いの大きなパッチをオペレータが選択しないようにすることができる。
【0009】
本発明の画像形成装置は、
一色で塗りつぶしたパッチを複数並べた色調整用チャートを作成可能な画像形成装置であって、
印刷媒体へ印刷する印刷手段と、
基準色で塗りつぶされる基準パッチを起点として所定方向に沿って色情報の差が所定間隔となるように各パッチを並べることを基本態様とし、前記所定方向に沿って並ぶ各パッチの粒状性指標又は色差に基づいて前記基本態様を変更し、該変更した態様で前記色調整用チャートが印刷されるよう前記印刷手段を制御する印刷制御手段と、
を備えたものである。
【0010】
この画像形成装置では、所定方向に沿って並ぶ各パッチの粒状性指標又は色差に基づいて基本態様を変更し、該変更した態様で色調整用チャートを印刷する。色情報の差とは、例えば、RGBデータのR,G,Bのいずれかの階調値の差又はCMYKデータのC,M,Y,Kのいずれかの階調値の差である。基本態様で各パッチを所定方向に沿って並べた場合には、その方向に沿って順にパッチを見ていったときに1つのパッチだけ急にざらつき感が大きくなったとしても気づかないことがあるが、ざらつき感に関連する粒状性指標の差を考慮して基本態様を変更するため、オペレータはざらつき感の大きなパッチを選択することが少なくなる。また、基本態様で各パッチを所定方向に沿って並べた場合には、その方向に沿って順にパッチを見ていったときに1つのパッチだけ急に色の違いが大きくなったとしても気づかないことがあるが、色の違いに関連する色差を考慮して基本態様を変更するため、オペレータは色の違いの大きいパッチを選択することが少なくなる。
【0011】
本発明の画像形成装置において、前記印刷制御手段は、前記粒状性指標又は色差に基づいて前記基本態様を変更するにあたり、前記基本態様の各パッチの並べ方、各パッチの大きさ及び各パッチの装飾の少なくとも1つを変更してもよい。
【0012】
本発明の画像形成装置において、前記印刷制御手段は、前記粒状性指標に基づいて前記基本態様を変更するにあたり、各パッチと前記基準パッチとの色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が前記所定方向に沿って大きくなるように不要なパッチを除去してもよい。こうすれば、基準パッチとの粒状性指標の差が大きなパッチつまりざらつき感の大きなパッチは色調整用チャートから除外されるため、オペレータがそうしたパッチを選択することはない。
【0013】
本発明の画像形成装置において、前記粒状性指標に基づいて前記基本態様を変更するにあたり、各パッチと前記基準パッチとの色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が前記所定方向に沿って大きくなっているか否かを判定し、大きくなっていないパッチについてはパッチの大きさを小さくしてもよい。こうすれば、基準パッチとの粒状性指標の差が大きなパッチつまりざらつき感の大きなパッチは小さく印刷されるため、オペレータがそうしたパッチを選択する可能性は低い。
【0014】
本発明の画像形成装置において、前記印刷制御手段は、前記粒状性指標に基づいて前記基本態様を変更するにあたり、各パッチと前記基準パッチとの色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が前記所定方向に沿って大きくなっているか否かを判定し、大きくなっていないパッチについては視覚的に目立たなくなるようにパッチ装飾を変更してもよい。こうすれば、基準パッチとの粒状性指標の差が大きなパッチつまりざらつき感の大きなパッチは視覚的に目立たなくなるようにパッチ装飾が変更されるため、オペレータがそうしたパッチを選択する可能性は低い。
【0015】
本発明のプログラムは、1又は複数のコンピュータを、上述した画像形成装置の印刷制御手段として機能させるためのものである。このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。このプログラムを一つのコンピュータに実行させるか又は複数のコンピュータに分担して実行させれば、本発明の画像形成装置と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の印刷システム1の構成の概略を示す構成図。
【図2】色調整用チャート印刷ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図3】色調整用チャートの一例を示す説明図。
【図4】粒状性指標算出ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図5】基本態様におけるパッチの配置図。
【図6】粒状性指標に基づいて基本態様を変更した後のパッチの配置図。
【図7】粒状性指標に基づいて基本態様を変更した後のパッチの配置図。
【図8】粒状性指標に基づいて基本態様を変更した後のパッチの配置図。
【図9】粒状性指標に基づいて基本態様を変更した後のパッチの配置図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態としての画像形成装置、すなわちユーザーPC10とインクジェットプリンター20とを含む印刷システム1の構成の概略を示す構成図である。
【0018】
ユーザーPC10は、インクジェットプリンター20とデータのやり取りが可能に接続され、CPU12を中心とするマイクロプロセッサーとして構成されており、処理プログラムを記憶したROM14と、一時的にデータを記憶するRAM16と、インクジェットプリンター20のプリンタードライバー18aなどがインストールされたHDD18と、を備える。プリンタードライバー18aには、HDD18などに記憶されたRGBデータからなる画像データを入力してCMYKデータに変換し、そのCMYKデータの階調値を表現するためにインクドットを分散して形成するハーフトーン処理を実行し、ハーフトーン処理されたデータをインクジェットプリンター20に転送すべきデータ順に並べ替え、印刷データをインクジェットプリンター20へ転送するプログラムが含まれる。このほかに、プリンタードライバー18aには、色調整用チャートを作成しインクジェットプリンター20へ出力するプログラムが含まれているが、この点については後で詳しく説明する。
【0019】
インクジェットプリンター20は、用紙Pを副走査方向(図1で奥から手前の方向)に搬送する紙送り機構41と、紙送り機構41によりプラテン46上に搬送された用紙Pに対して主走査方向(図1で左右の方向)の移動を伴って印刷ヘッド24に形成されたノズルからインク滴を吐出して印刷を行なうプリンター機構21と、装置全体をコントロールするコントローラー60と、を備える。プラテン46の主走査方向一端(図1で右端)には、印刷ヘッド24のノズル面を封止するキャッピング装置50が設置されており、プラテン46の主走査方向他端(図1で左端)には、ノズルの目詰まりを防止するために定期的に印刷ヘッド24のノズルからインク滴を吐出するフラッシングを行なうためのフラッシングエリア48が設けられている。
【0020】
プリンター機構21は、キャリッジガイド28によりガイドされながら主走査方向に往復動可能なキャリッジ22と、キャリッジガイド28の一端側と他端側にそれぞれ設置されたキャリッジモーター34および従動ローラー35と、キャリッジモーター34と従動ローラー35とに掛け渡されると共にキャリッジ22に取り付けられたキャリッジベルト32と、キャリッジ22に搭載され溶媒としての水に顔料粒子を分散させたシアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y),ブラック(K)の各色のインクを貯留し各色毎に独立して交換が可能なインクカートリッジ26と、インクカートリッジ26からそれぞれ供給された各インクに加圧してインク滴を吐出する複数のノズルが形成された印刷ヘッド24と、を備える。キャリッジ22は、キャリッジモーター34によりキャリッジベルト32を駆動することにより、主走査方向に往復動されるようになっている。なお、キャリッジ22の背面側には、キャリッジ22の主走査方向における位置を検出するキャリッジポジションセンサー36が取り付けられている。このキャリッジポジションセンサー36は、フレーム58にキャリッジガイド28に沿って配置されたリニア式の光学スケール36aと、光学スケール36aに対向するようキャリッジ22の背面に取り付けられ光学スケール36aを光学的に読み取る光学センサー36bとにより構成されている。
【0021】
紙送り機構41は、用紙Pをプラテン46上に搬送させる搬送ローラー42と、搬送ローラー42を回転駆動する搬送モーター44と、を備える。搬送モーター44は、その回転軸に回転量を検出するロータリーエンコーダー49が取り付けられており、ロータリーエンコーダー49からの回転量に基づいて駆動制御されている。なお、ロータリーエンコーダー49は、図示しないが、所定回転角間隔で目盛りが付されたロータリースケールと、ロータリースケールの目盛りを読み取るためのロータリースケールセンサーとにより構成されている。
【0022】
キャッピング装置50は、印刷ヘッド24をキャッピング装置50に対向する位置(いわゆるホームポジション)に移動させた状態でノズル面を封止することによりノズル内のインクの乾燥を防止したり、ノズル面を封止した状態でノズル内のインクを吸引することにより印刷ヘッド24をクリーニングしたりする。キャッピング装置50は、印刷ヘッド24のノズル面を密閉するために上方が開口された略直方体のキャップ51の他に、キャップ51の底部に接続されたチューブ(図示せず)や、チューブに取り付けられた吸引ポンプ(図示せず)などを備えている。このキャッピング装置50は、印刷ヘッド24をクリーニングする場合には、キャップ51により印刷ヘッド24のノズル面を封止した状態で吸引ポンプを駆動することにより、印刷ヘッド24のノズル面とキャップ51とにより形成される内部空間を負圧とし、ノズル内のインクを強制的に吸引する。
【0023】
コントローラー60は、図示しないCPUを中心とするマイクロプロセッサーとして構成されており、各種のプログラムを実行したりデータを記憶したりする機能を有する。このコントローラー60には、キャリッジポジションセンサー36からのキャリッジ22の位置や、ロータリーエンコーダー49からの搬送ローラー42の回転量が入力され、コントローラー60からは印刷ヘッド24への駆動信号や搬送モーター44への駆動信号,キャリッジモーター34への駆動信号,吸引ポンプへの駆動信号などが出力される。また、コントローラー60は、ユーザーPC10からの印刷指示や印刷データを受け付けたりする。なお、コントローラー60には、印刷バッファー領域が設けられており、ユーザーPC10から印刷データが受け付けられると、受け付けた印刷データは印刷バッファー領域に記憶される。
【0024】
次に、こうして構成された本実施形態の印刷システム1のユーザーPC10の動作、特に、色調整用チャートを作成するときの動作について説明する。図2は、ユーザーPC10のCPU12により実行される色調整用チャート作成ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、ユーザーが図示しないキーボードやマウスの操作により色調整用チャートの作成指示を入力したときに開始される。色調整用チャートとは、ユーザーが自分の所望する色とこのインクジェットプリンター20で用紙に印刷された色とを一致させるために利用するカラーチャートのことである。
【0025】
この色調整用チャートは、本実施形態では、図3に示すように、3×3の合計9個のパッチを並べたブロックを合計3ブロック(パッチ数は3×3×3の合計27個)有するものとする。3つのブロックは横方向に並んでいる。左端のブロックは、ユーザーによって予め設定された色のパッチ(基準パッチ)が左上に配置され、そこから右方向にRGBデータのブルー(B)の値が大きくなるように、また下方向にRGBデータのグリーン(G)の値が大きくなるように、縦横3×3の合計9個のパッチを並べたものである。中央のブロックは、基準パッチのRGBデータと比べてRの値が1大きく、G,Bの値が同じであるパッチが左上に配置され、そこから右方向にRGBデータのブルー(B)の値が大きくなるように、また下方向にRGBデータのグリーン(G)の値が大きくなるように、縦横3×3の合計9個のパッチを並べたものである。右端のブロックは、基準パッチのRGBデータと比べてRの値が2大きく、G,Bの値が同じであるパッチが左上に配置され、そこから右方向にRGBデータのブルー(B)の値が大きくなるように、また下方向にRGBデータのグリーン(G)の値が大きくなるように、縦横3×3の合計9個のパッチを並べたものである。
【0026】
図2の色調整用チャート作成ルーチンが開始されると、CPU12は、まず、基準色に関するRGBデータを入力し、そのRGBデータを今回の色調整用チャートの基準色に設定する(ステップS100)。具体的には、図示しないディスプレイに基準色に関するRGBデータの入力を促す画面を表示し、ユーザーがそのRGBデータを入力するのを待って、そのRGBデータを今回の色調整用チャートの基準色に設定する。ここでは、ユーザーは自分の所望する色に近いRGBデータを知っているものとする。
【0027】
続いて、CPU12は、生成すべきパッチの個数を設定する(ステップS102)。上述したように、色調整用チャートは、3×3の合計9個のパッチから成るブロックを3つ有しているため、合計27個のパッチを有するが、ここでは後述するように不要なパッチを間引いて色調整用チャートを作成するため、27個を超えるパッチが必要となる。こうしたことから、本実施形態では、余裕を見て6×6×6の合計216個を、生成すべきパッチの個数として設定するものとする。
【0028】
続いて、CPU12は、生成すべきパッチのすべてについて粒状性指標を算出する(ステップS104)。上述したとおり、生成すべきパッチは、216個存在する。それらのRGBデータは、基準色のRGBデータのR,G,Bの値をそれぞれr,g,bとすると、Rは値r〜(r+5)、Gは値g〜(g+5)、Bは値b〜(b+5)の中から組み合わせたものである。
【0029】
CPU12は、粒状性指標を図4の粒状性指標算出ルーチンにしたがって算出する。まず、対象となるパッチの画像を取得する(ステップS200)。本実施形態では、1インチ×1インチの画像を取得するものとし、解像度は360dpi、ピクセル数は360×360ピクセル、画像データはRGBデータとする。R,G,Bの各データは0〜255のいずれかの階調値で表されているものとする。
【0030】
次に、CPU12は、RGBデータである画像データをCMYKデータに変換し、CMYKの色ごとに色分版する(ステップS202)。CMYKデータへの変換は、R,G,Bの組合せとインクジェットプリンター20で表現するためのC,M,Y,Kの組合せとを対応づけた色変換LUT(ルックアップテーブル)を用いて行われる。こうした色変換LUTは、周知であるため、詳しい説明は省略する。C,M,Y,Kの各データは0〜255のいずれかの階調値で表されるものとする。
【0031】
次に、CPU12は、色分版後のC,M,Y,Kの各データのハーフトーン処理を行う(ステップS204)。ハーフトーン処理とは、色ごとの階調値に応じて、インクジェットプリンター20が表現可能な階調値に変換する処理をいう。本実施形態では、インクジェットプリンター20が表現可能な階調値は、小ドット、中ドット、大ドット、ドットなしの4値とする。本実施形態では、周知のディザ法を用いてハーフトーン処理を行う。例えば、シアンの階調値が値C1とすると、パッチ全体でシアンの階調値が値C1となるように、予め定められたドットサイズごとのディザマトリクスを用いて画素ごとに4値のいずれかが設定される。なお、ドットの大きさは、インクジェットプリンター20の印刷ヘッド24のノズルに対応する圧電素子に付与する駆動信号を調整することにより変更することができる。また、ディザ法の他に、周知の誤差拡散法を適用してもよい。
【0032】
次に、CPU12は、ハーフトーン処理後のC,M,Y,K各色のドット発生率を算出する(ステップS206)。ここでは、各色のドット数を算出し、各色のドット数を全ピクセル数(360×360ピクセル)で除した値をドット発生率として算出し、各色のドット発生率をベクトルで表現するものとする。例えば、シアン及びブラックのドット数がいずれも36ドット、マゼンダ及びイエローのドット数がゼロだったとすると、36/(360×360)=0.277e−3となり、各色10,000倍して(C,M,Y,K)=(2.7,0,0,2.7)と表現される。
【0033】
次に、CPU12は、各色のドット発生率に基づいて今回対象となったパッチの粒状性指標を算出する(ステップS208)。ここでは、CMYKのベクトル値を下記式に当てはめることにより、粒状性指標を算出するものとする。Yは目立ち難い色であるため係数γは他の係数より小さくし、Kは目立ちやすい色であるため係数θは他の係数より大きくした。具体的には、α=β=0.5,γ=0.1,θ=1.0とした。こうした粒状性指標は、値が大きいほど粒状性が悪い(つまりざらつき感がある)と判断できる。
【0034】
粒状性指標=α×Cのドット発生率+β×Mのドット発生率
+γ×Yのドット発生率+θ×Kのドット発生率
なお、粒状性指標は、上記式に限定されるものではない。例えば、公知の粒状性指標であるRMS(Root Mean Square)やWS(Wiener Spectrum)などが挙げられる。RMSとは、濃度のバラツキ度合いを表す指標であって、一様な信号値を持つ画像データをプリントして得られた略均一濃度のベタ画像を濃度測定して得られたプロファイルの濃度分布の標準偏差である。WSとは、画像に加わる粒状性ノイズの空間周波数特性であり、濃度がほぼ均一の画像の濃度プロファイルを取得し、そのトレンドを除去したプロファイルに対してフーリエ変換を施して得られた値の2乗で表される。
【0035】
その後、CPU12は、生成すべきパッチのすべてについて粒状性指標を算出したか否かを判定し(ステップS210)、まだ残っているパッチがある場合には、残っているパッチの中から対象となるパッチを選択し、再びステップS200以降の処理を実行する。一方、ステップS210で生成すべきパッチのすべてについて粒状性指標の算出が終了していた場合には、このルーチンを終了する。
【0036】
粒状性指標算出ルーチン終了後、図2のフローチャートに戻り、CPU12は、パッチの色情報と粒状性指標とに基づいて、色調整用チャートの各位置にパッチを配置する(ステップS106)。具体的には、基準色で塗りつぶされる基準パッチを起点として所定方向に沿って階調値の差が値1となるように各パッチを並べることを基本態様とし、所定方向に沿って並ぶ各パッチと基準パッチとの粒状性指標に基づいて基本態様を変更する。
【0037】
本実施形態では、図5に示すパッチの配置を基本態様とする。図5には、図3の色調整用チャートのうちの左端のブロックの基本態様を示したが、他のブロックについても同様である。以下に、基本態様について説明する。ここでは、各パッチの位置をx,y座標で表すものとし、基準位置は(x,y)=(0,0)、基準位置から数えて右方向に1つめの位置は(x,y)=(1,0)、右方向に2つめの位置は(x,y)=(2,0)と表す。基本態様では、(x,y)=(0,0)には基準色からなる第1パッチ(基準パッチ)が配置され、(x,y)=(1,0)には第1パッチのRGBデータと比べてR,Gの階調値が同じでBの階調値が1大きい第2パッチが配置され、(x,y)=(2,0)には第1パッチのRGBデータと比べてR,Gの階調値が同じでBの階調値が2大きい第3パッチが配置される。なお、基本態様では使用されないが、第4〜第6パッチは、第1パッチに比べて、R,Gの階調値が同じでBの階調値がそれぞれ3,4,5大きいものであり、これらは基本態様を変更したときに備えて予備的に作成される。また、基本態様の2行目の位置は(x,y)=(0,−1),(1,−1),(2,−1)であるが、(x,y)=(0,−1)に配置されるパッチは第1パッチのRGBデータと比べてR,Bの階調値が同じでGの階調値が1大きいパッチ、(x,y)=(1,−1)に配置されるパッチは第1パッチのRGBデータと比べてRの階調値が同じでG,Bの階調値がそれぞれ1大きいパッチ、(x,y)=(2,−1)に配置されるパッチは第1パッチのRGBデータと比べてRの階調値が同じでGの階調値が1大きくBの階調値が2大きいパッチである。基本態様の3行目の位置は(x,y)=(0,−2),(1,−2),(2,−2)であるが、(x,y)=(0,−2)に配置されるパッチは第1パッチのRGBデータと比べてR,Bの階調値が同じでGの階調値が2大きいパッチ、(x,y)=(1,−2)に配置されるパッチは第1パッチのRGBデータと比べてRの階調値が同じでGの階調値が2大きくBの階調値が1大きいパッチ、(x,y)=(2,−2)に配置されるパッチは第1パッチのRGBデータと比べてRの階調値が同じでG,Bの階調値がそれぞれ2大きいパッチである。なお、基本態様の2,3行目では使用されないが、1行目と同様、予備的なパッチが作成される。
【0038】
ステップS106では、パッチの粒状性指標に基づいて基本態様を変更するにあたり、各パッチと第1パッチとの色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が右方向に沿って大きく、且つ、下方向に沿って大きくなるように、不要なパッチを削除することにより、基本態様の各パッチの並べ方を変更する。例えば、基本態様の1行目に並ぶ3つのパッチの粒状性指標は、第1パッチが1.0,第2パッチが2.5,第3パッチが1.25だったとする。すると、第2パッチは、第1パッチとの階調値の差が1、粒状性指標の差が1.5であり、両者の合計は2.5となる。第3パッチは、第1パッチとの階調値の差が2、粒状性指標の差が0.25であり、両者の合計は2.25となる。この場合、合計値は右方向に沿って大きくなるように並んでいないため、第2パッチを削除する。そして、(x,y)=(1,0)の位置には第3パッチを配置し、(x、y)=(2,0)の位置には第4パッチを配置する。そして、新たに基本態様の1行目に並んだ3つのパッチにつき、再び色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が右方向に沿って大きくなるように変更する。なお、縦方向に並ぶパッチについても、同様の手順を繰り返し、必要に応じて基本態様を変更する。このようにして基本態様を変更した後のパッチの配置図を図6に示す。
【0039】
次に、CPU12は、全パッチを配置した後、色調整用チャートの印刷データを作成し、それをインクジェットプリンター20へ出力する(ステップS108)。インクジェットプリンター20から出力された色調整用チャートは、各ブロックにおいて、横方向や縦方向に沿って並んだパッチを見たときに粒状性が急に悪化するようなパッチは排除されていることになる。
【0040】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の画像形成装置が本実施形態の印刷システム1に相当し、インクジェットプリンター20が印刷手段に相当し、ユーザーPC10のプリンタードライバー18aが印刷制御手段に相当する。また、RGBデータのR,G,Bの階調値が色情報に相当する。
【0041】
以上説明した本実施形態の印刷システム1によれば、横方向(又は縦方向)に沿って並ぶ各パッチと基準パッチとの粒状性指標に基づいて基本態様を変更し、該変更した態様で色調整用チャートを印刷するため、ざらつき感に関連する粒状性指標の差を考慮して基本態様が変更されることになり、オペレータはざらつき感の大きなパッチを選択することが少なくなる。特に、各パッチと基準パッチとの色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が横方向(又は縦方向)に沿って大きくなるように不要なパッチを削除するため、基準パッチとの粒状性指標の差が大きなパッチつまりざらつき感の大きなパッチは色調整用チャートから除外されることになり、オペレータがそうしたパッチを選択することはなくなる。
【0042】
ここで、粒状性が急に悪化するのは、ハーフトーン処理後のドットの配置が偏っていること等が考えられるが、その原因は、色変換LUTやディザマトリクスの設定の仕方にあると考えられる。しかし、色変換LUTやディザマトリクスの設定を種々検討したとしても、粒状性が急に悪化するのを防ぐのは困難である。このため、本実施形態のようにパッチの粒状性指標に基づいて基本態様を変更する意義がある。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0044】
例えば、上述した実施形態では、各パッチと基準パッチとの色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が横方向(又は縦方向)に沿って大きくなるように不要なパッチを削除したが、そのような不要なパッチのサイズを小さくしてもよい。例えば、ステップS106において、粒状性指標の値が第1パッチでは1.0,第2パッチでは2.5,第3パッチでは1.25だったため、第1パッチと第2パッチとの粒状性指標の比率つまり1/2.5=0.4と、第1パッチと第3パッチとの粒状性指標の比率つまり1/1.25=0.8を用いて、第2パッチのサイズを第1パッチの0.4倍、第3パッチのサイズを第1パッチの0.8倍に変更してもよい。このときのパッチの配置図を図7に示す。これにより、粒状性のよいパッチは大きく、粒状性の悪いパッチは小さくなるため、オペレータは粒状性の悪いパッチを選択しにくくなり、粒状性のよいパッチをより探し出しやすくなる。この場合、横方向のみならず縦方向も考慮してサイズを算出してもよい。例えば、第2パッチが第1パッチに対して横方向が2倍、縦方向が2.5倍だった場合、第2パッチのサイズを第1パッチの(2+2.5)/2.0=2.25倍としてもよい。なお、分母を2.0としたのは、第1パッチの横方向長さを1.0、縦方向長さを1.0としており、その和が2.0になるからである。また、上述した実施形態のように不要なパッチを間引いた後、色調整用チャートに採用されたパッチについて粒状性指標の比率に応じてパッチサイズを変更してもよい。
【0045】
また、不要なパッチを間引く代わりに、不要なパッチが目立たなくなるように装飾してもよい。例えば、ステップS106において、粒状性指標の値が第1パッチでは1.0,第2パッチでは2.5,第3パッチでは1.25だったため、第1パッチの外枠を最も太くし、第3パッチの外枠を次に太くし、第2パッチの外枠を最も細くしてもよい。このときのパッチの配置図の一例を図8に示す。あるいは、第1及び第3パッチの外枠を青色(粒状性が良好なことを表すカラーとして予めオペレータに知らせてある)、第2パッチの外枠を赤色(粒状性が悪いことを表すカラーとして予めオペレータに知らせてある)としてもよい。このときのパッチの配置図の一例を図9に示す。いずれの場合でも、オペレータは粒状性の悪いパッチを選択しにくくなり、粒状性のよいパッチをより探し出しやすくなる。
【0046】
上述した実施形態では、所定方向に沿って並ぶ各パッチの粒状性指標に基づいて基本態様を変更したが、粒状性指標の代わりに色差を用いてもよい。例えば、各パッチのRGBデータをXYZ三刺激値と呼ばれる色空間を経由してLabデータに変換し、色差を(a2+b2+L21/2として算出し、基本態様の並び方は変えずに、基準パッチに対して色差が大きいものほどパッチのサイズが小さくなるようにしたりパッチの外枠が目立たない装飾となるようにしてもよい。あるいは、各パッチと基準パッチとの粒状性指標との差と色差との合計値が所定方向(例えば右方向や下方向)に沿って大きくなるようにパッチを間引いてもよい。
【0047】
上述した実施形態では、印刷制御手段をユーザーPC10のCPU12としたが、インクジェットプリンター20のコントローラー60としてもよい。この場合、インクジェットプリンター20が本発明の画像形成装置に相当し、プリンタードライバー18aと同様のプログラムがコントローラー60の内部メモリ(ROMなど)に格納されることになる。こうしても、上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0048】
上述した実施形態では、印刷ヘッド24として、圧電素子に電圧を印加することによりこの圧電素子を変形させてインクを加圧する方式を採用するものとしたが、発熱抵抗体(例えばヒーターなど)に電圧を印加することによりインクを加熱して発生した気泡によりインクを加圧する方式を採用するものとしてもよい。
【0049】
上述した実施形態では、印刷手段としてインクジェットプリンター20を採用したが、トナーカートリッジを用いるレーザープリンターや他の形式のプリンターに採用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 印刷システム、10 ユーザーPC、12 CPU、14 ROM、16 RAM、18 HDD、18a プリンタードライバー、20 インクジェットプリンター、21 プリンター機構、22 キャリッジ、24 印刷ヘッド、26 インクカートリッジ、28 キャリッジガイド、32 キャリッジベルト、34 キャリッジモーター、35 従動ローラー、36 キャリッジポジションセンサー、36a 光学スケール、36b 光学センサー、41 紙送り機構、42 搬送ローラー、44 搬送モーター、46 プラテン、48 フラッシングエリア、49 ロータリーエンコーダー、50 キャッピング装置、51 キャップ、58 フレーム、60 コントローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のパッチと、
前記第1のパッチとは色が異なる第2のパッチと、
を備え、
前記第2のパッチの態様は、前記第1のパッチの粒状性と前記第2のパッチの粒状性、又は、前記第2のパッチの前記第1のパッチからの色差に基づいて定められている、
チャート。
【請求項2】
一色で塗りつぶしたパッチを複数並べた色調整用チャートを作成可能な画像形成装置であって、
印刷媒体へ印刷する印刷手段と、
基準色で塗りつぶされる基準パッチを起点として所定方向に沿って色情報の差が所定間隔となるように各パッチを並べることを基本態様とし、前記所定方向に沿って並ぶ各パッチの粒状性指標又は色差に基づいて前記基本態様を変更し、該変更した態様で前記色調整用チャートが印刷されるよう前記印刷手段を制御する印刷制御手段と、
を備えた画像形成装置。
【請求項3】
前記印刷制御手段は、前記粒状性指標又は前記色差に基づいて前記基本態様を変更するにあたり、前記基本態様の各パッチの並べ方、各パッチの大きさ及び各パッチの装飾の少なくとも1つを変更する、
請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記印刷制御手段は、前記粒状性指標に基づいて前記基本態様を変更するにあたり、各パッチと前記基準パッチとの色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が前記所定方向に沿って大きくなるように不要なパッチを除去する、
請求項2又は3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記印刷制御手段は、前記粒状性指標に基づいて前記基本態様を変更するにあたり、各パッチと前記基準パッチとの色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が前記所定方向に沿って大きくなっているか否かを判定し、大きくなっていないパッチについてはパッチの大きさを小さくする、
請求項2又は3に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記印刷制御手段は、前記粒状性指標に基づいて前記基本態様を変更するにあたり、各パッチと前記基準パッチとの色情報の差及び粒状性指標の差の合計値が前記所定方向に沿って大きくなっているか否かを判定し、大きくなっていないパッチについては視覚的に目立たなくなるようにパッチ装飾を変更する、
請求項2又は3に記載の画像形成装置。
【請求項7】
1又は複数のコンピューターを、請求項2〜6のいずれか1項に記載の画像形成装置の前記印刷制御手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−102364(P2013−102364A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245225(P2011−245225)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】