説明

チューブポンプ

【課題】 回転速度の大きいポンプにおいても潤滑作用が長期間にわたって安定して行われるチューブポンプを提供する。
【解決手段】
弾性材料からなる加圧部材4の外周側縁に、加圧部材4の軸方向に突出する耳片11をリング状に形成し、この耳片11を円筒室2の側壁2b、2cに摺接させるようにした。従って、チューブ3が急激に圧迫された場合でも耳片11と側壁2b、2cとの摺接部を通り抜ける潤滑剤8は少なくなり、潤滑剤8がチューブ表面とその周辺に留まるようになるので、回転速度の大きいポンプにおいても潤滑作用が長期間維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円筒室の内周面に沿わせてリング状に配置したチューブを、その内側に配置されて偏心運動するリング状加圧部材により一方向に圧迫してポンプ作用を行うチューブポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のチューブポンプは、加圧部材の動作に伴ってチューブに引っ張り力が加わるのでこの引っ張り力を軽減し、また円筒室や加圧部材との摩擦などによるチューブの損傷をなくすために、グリースなどの潤滑剤をチューブやその周辺に塗布することが一般的に行われている。この潤滑剤の効果を長期にわたって保持するために、加圧部材にグリース溜めを設けてこのグリース溜めから加圧部材の外周面に潤滑剤を供給することが提案されている。
【特許文献1】特開平11−13648号公報
【0003】
この種のチューブポンプには、金属などの硬い材料で形成された加圧部材でチューブを直接加圧するタイプと、加圧部材の外周部にゴムなどの弾性材料からなる外リングを設けてこの外リングでチューブを加圧するタイプとがあるが、いずれの場合でも加圧部材と円筒室の側壁との間にはある程度の間隙が存在している。ポンプの回転速度が高くなると急激にチューブが圧迫されるようになるため、瞬間的に加わる大きな圧力によって潤滑剤が加圧部材と円筒室側壁との間隙から円筒室の中心部方向、すなわち加圧部材を回転駆動する偏心カムなどが設けられている部分に押し出されやすくなる。押し出された潤滑剤にはチューブの部分に戻る力は作用しないためそこに留まったままになり、仮にグリース溜めを設けてもその容量には限りがあるため、運転を続けるにつれて潤滑を必要とするチューブ表面はほとんど潤滑剤のない状態になってしまい、長期間安定して潤滑作用を発揮させることは困難となる。この現象は特に回転速度の大きいポンプにおいて顕著となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明はこれらの点に着目し、潤滑剤が加圧部材の中心部方向に押し出されることを防止し、回転速度の大きいポンプにおいても潤滑作用が長期間にわたって安定して行われるようにすることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために、この発明のチューブポンプでは、弾性材料からなる加圧部材の外周側縁に、加圧部材の軸方向に突出する耳片をリング状に形成し、この耳片を円筒室の側壁に摺接させるようにしている。
【0006】
上記耳片としては、外周側に形成された第1の耳片とこの第1の耳片の内周側に形成された第2の耳片とで構成してもよく、その場合には第1の耳片と第2の耳片の間に潤滑剤の溜まり溝が形成される。
【0007】
上記のように耳片を2重に形成する場合には、第1の耳片は撓みやすく、第2の耳片は撓みにくく構成されることが望ましい。この場合、第1の耳片に複数個の切り欠きを設けてもよい。
【発明の効果】
【0008】
加圧部材の耳片が円筒室の側壁に摺接してチューブがシールされた状態となっているので、潤滑剤が耳片と側壁との摺接部を通り抜けて加圧部材の中心部方向に押し出されにくくなり、チューブが圧迫された場合に潤滑剤はチューブの長手方向に逃げるようになる。このため、急激に圧迫された場合でも耳片と側壁との摺接部を通り抜ける潤滑剤は少なくなって潤滑剤がチューブ表面とその周辺に留まるようになり、潤滑作用を長期間維持することが可能となる。
【0009】
上記耳片を第1の耳片と第2の耳片の2重構造にしたものでは、第1の耳片と円筒室の側壁との摺接部を通り抜けた潤滑剤は溜まり溝内を自由に移動できるので圧迫時の圧力が低減される。このため、潤滑剤は第2の耳片と円筒室の側壁との摺接部を通り抜けないで溜まり溝に留まるようになり、加圧部材の中心部方向にまで押し出されてしまうことがなくなる。
【0010】
また、第1の耳片を撓みやすく、第2の耳片を撓みにくくしたものでは、圧迫時には第1の耳片が溜まり溝方向に撓んで潤滑剤が容易に溜まり溝までは押し出されるが、圧迫がなくなった時には逆に外周方向に撓んで潤滑剤がチューブ方向に戻りやすくなる。更に第1の耳片に複数個の切り欠きを設けた場合には、圧迫されていない箇所にある切り欠きを通って潤滑剤がチューブ方向に容易に戻るので圧迫時の圧力が一層低減され、加圧部材の中心部方向への潤滑剤の押し出されが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0012】
図1は第1の実施例を示すもので、チューブの左側が圧迫されており、右側が圧迫されていない状態の断面図である。なお、チューブポンプの全体は例えば前記の特許文献に開示されているような構成となっているが、全体の構造を示す図はこの出願の発明に直接関係がないので省略する。
【0013】
図において、1は円筒室2を形成した本体ケース1aと蓋1bとで構成されるポンプハウジング、3は円筒室2の内周面2aに沿わせてリング状に配置されたチューブであり、その両端はポンプハウジング1に形成されている導出部(図示せず)から外部に引き出されている。なお、チューブ3はゴムや合成樹脂等で構成されているが、図では斜線等による断面表示は省略してある。4はチューブ3の内側に配置されたリング状の加圧部材であり、内リング4aの外側にゴム等の弾性材料からなる外リング4bがはめられている。この弾性材料としては、例えば硬度70°前後のNBRが用いられる。5は加圧部材4の内側に配置された偏心ローター、6は回転軸である。偏心ローター5は回転軸6に固定されており、その外周部5aが加圧部材4の内リング4aの内周面4cに摺接しながら回転し、加圧部材4を内周面2aに沿って偏心運動させるように構成されている。7は回転軸6を駆動するための減速機付きモータであり、本体ケース1aの外面に設けられている。
【0014】
11は外リング4bの外周面4cの両側縁から加圧部材4の軸方向、すなわち図の上下方向に突設された耳片であり、外周面4dに沿って全周に連続形成され、本体ケース1aと蓋1bの内面で構成されている円筒室2の側壁2b及び2cにそれぞれ摺接するような寸法で設けられている。
【0015】
この実施例のチューブポンプは上記のように構成されており、チューブ3には充分な潤滑剤8が塗布され、チューブ3の周囲の円筒室2の内周面2a、側壁2b、2c及び外リング4bの外周面4dにも潤滑剤8が付着した状態で組み立てられている。ポンプが運転されると、加圧部材4が偏心運動してチューブ3を一方向に順次圧迫してポンプ作用が行われる。図1の左側のようにチューブ3が圧迫されて偏平になると、チューブ3とその周辺に塗布されていた潤滑剤8はチューブ3の長手方向に逃げるか、加圧部材4と側壁2b及び2cの間から円筒室2の中心部方向に逃げるしかない。しかし、耳片11がその先端を側壁2b及び2cに接触して摺動しているので側壁2b、2cとの間は塞がれた状態になっており、潤滑剤8は加圧部材4の中心部方向に押し出されないでチューブ3の周辺に留まり、潤滑作用が長期間維持されるのである。
【0016】
図2は第2の実施例の要部の断面図であり、外周側に形成された第1の耳片11aとこの耳片11aの内周側に形成された第2の耳片11bとを設けて耳片を2重構造としたものである。すなわち、第1の耳片11aを図1と同様に外リング4bの外周面4dの両側縁に形成し、第2の耳片11bはこれより小径に形成して各耳片11a、11bを円筒室2の側壁2b及び2cに摺接させてあり、耳片11aと11bの間は潤滑剤の溜まり溝11cとなっている。
【0017】
この実施例の外リング4bは上記のような形状であり、チューブ3の圧迫時に潤滑剤8が第1の耳片11aと側壁2b、2cとの摺接部を通り抜けて溜まり溝11cに達することがあっても、溜まり溝11cの中は潤滑剤8が自由に移動できるので圧迫時の圧力が低減される。このため、第2の耳片11bと側壁2b、2cとの摺接部を通り抜けて円筒室2の中心部方向にまで押し出されるような高い圧力は潤滑剤8には加わらず、潤滑剤8はチューブ3の周辺に留まるのである。
【0018】
図3は第3の実施例の要部の断面図であり、左側はチューブが圧迫されている側、右側はチューブが圧迫されていない側を示している。この実施例は図2の場合と同様に耳片を2重構造としたものであるが、第1の耳片11aを撓みやすい形状とし、第2の耳片11bを撓みにくい形状としたものである。図の左側に示すように、チューブ3が圧迫された時には圧迫で生じた圧力で耳片11aが溜まり溝11cの方向に撓んで摺接部に隙間が生じ、潤滑剤8が溜まり溝11cまで比較的容易に押し出されるが、円筒室2の中心部方向にまで押し出されるような高い圧力は潤滑剤8には加わらず、潤滑剤8は溜まり溝11cに留まるのである。そして圧迫がなくなった時には、加圧部材4が中心部方向に移動するにつれて耳片11aは外周方向に撓み、側壁2b、2cに付着していた潤滑剤8はそのまま付着状態が維持されるので、結果的に潤滑剤8はチューブ3の周辺に留まることになるのである。
【0019】
図4は第2と第3の実施例のように耳片を2重構造としたものにおいて、第1の耳片11aに複数個の切り欠き11dを設けた例であり、図では切り欠き11dが120°の間隔で3個設けられている。このように、複数個の切り欠き11dを設けた場合には、圧迫により溜まり溝11cまで押し出された潤滑剤8は、圧迫されていない箇所にある他の切り欠き11dを通ってチューブ3の側に容易に戻るので、円筒室2の中心部方向への押し出されは一層生じにくくなる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
この発明は各種のチューブポンプに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施例の概略断面図である。
【図2】別の実施例の要部の概略断面図である。
【図3】他の実施例の要部の概略断面図である。
【図4】更に他の実施例の加圧部材の平面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ポンプハウジング
2 円筒室
2a 内周面
2b、2c 側壁
3 チューブ
4 加圧部材
4b 外リング
8 潤滑剤
11、11a、11b 耳片
11c 溜まり溝
11d 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング本体に形成された円筒室の内周面に沿わせてチューブをリング状に配置し、チューブの内側に設けた加圧部材を上記内周面に沿って偏心運動させることにより、チューブのリング状部を一方向に順次圧迫してチューブ内の流体を送出するチューブポンプにおいて、
弾性材料からなる加圧部材の外周側縁に、加圧部材の軸方向に突出する耳片をリング状に形成し、この耳片を円筒室の側壁に摺接するように構成したことを特徴とするチューブポンプ。
【請求項2】
上記耳片が、外周側に形成された第1の耳片とこの第1の耳片の内周側に形成された第2の耳片とで構成され、第1の耳片と第2の耳片の間に潤滑剤の溜まり溝が形成されている請求項1記載のチューブポンプ。
【請求項3】
第1の耳片は撓みやすく、第2の耳片は撓みにくく構成されている請求項2記載のチューブポンプ。
【請求項4】
第1の耳片に複数個の切り欠きを設けた請求項2又は3記載のチューブポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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