説明

チルトヒンジ並びにこのチルトヒンジを備えた電子機器

【課題】簡単な構成で、小径化かつ小型化を図り得るチルトヒンジを提供せんとする。
【解決手段】開閉可能に連結される第1及び第2の筐体の一方に取り付けられる小径で長さの短い底部付き円筒状のシリンダと、このシリンダの開放端側に設けられ、第1及び第2の筐体の残りの他方に取り付けられるフランジ部材と、シリンダ或はフランジ部材のいずれか一方に固定され、他方に回転可能に軸支されたヒンジシャフトと、フリクション機能と吸い込み機能を有するフリクションカム機構とから成り、このフリクションカム機構を、シリンダの底部又はフランジ部材の片面に設けられた第1カム部と、ヒンジシャフトをその中心部軸方向に挿通させ、第1カム部と対向する側に第2カム部を有し、シリンダ内において軸方向へスライド可能かつ非回転に設けられたカム部材と、第1カム部と第2カム部とを互いに圧接させる弾性手段とで構成したことで解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機、電子辞書、ノートパソコン、PDA(Personal Data Assistant)、カーナビゲーション装置等のような小型の電子機器における第1の筐体である機器本体と第2の筐体であるディスプレイ装置とを互いに開閉可能に連結するチルトヒンジ並びにこのチルトヒンジを備えた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記の如き携帯電話機、電子辞書、ノートパソコン、PDA、カーナビゲーション装置等の小型の電子機器では、第1の筐体である機器本体に対して第2の筐体であるディスプレイ装置が開閉装置を介して開閉可能に取り付けられている。この開閉装置としては、ディスプレイ装置を機器本体に対して任意の角度で停止保持し得るようにするためのチルトヒンジが用いられている。
【0003】
この種のチルトヒンジとして、例えば下記特許文献1〜3に記載の如きものが提案されている。それらのチルトヒンジは、機器本体に取り付けられるブラケットと、ブラケットに回転可能に支持されると共にディスプレイ装置が取り付けられるヒンジシャフトと、このヒンジシャフトの軸方向に移動可能であると共にヒンジシャフトに回転可能で、かつ、ブラケットに拘束される固定フリクションディスクと、ヒンジシャフトの軸方向に移動可能であると共にヒンジシャフトと共に回転する回転フリクションディスクと、ヒンジシャフトに設けられ、固定フリクションディスクと回転フリクションディスクとを互いに軸方向に圧接する複数の皿バネとを備えて、フリクションディスクの摺動面にスラスト方向の摩擦力が発生し、この摩擦力の作用により発生したフリクショントルクによって、ディスプレイ装置が機器本体に対して任意の角度で停止保持されるようになっていた。
【0004】
これら特許文献1〜3に記載されているチルトヒンジは、鍔部と固定フリクションディスク又はヒンジシャフト支持部との間、固定フリクションディスクとヒンジシャフト支持部との間、固定フリクションディスクと皿バネとの間にそれぞれ回転フリクションディスクを設けて、ヒンジシャフトとブラケットとの間の摺動面積を大きくすることによって必要なフリクショントルクを創出できるので、軸方向の長さが長くなっても径方向の長さを短くすることができ、前記の如き小型の電子機器に用いられてきた。
【0005】
しかし、近年、電子機器の小型化及び薄型化がさらに進み、チルトヒンジもこれに対応できるものが望まれている。この要請に答えるために、チルトヒンジを小径化しようとするとフリクションディスクの径を小さくせざるを得ず、そうするとフリクション面積が減少することから、必要なフリクショントルクを得ようとするために、フリクションディスク同士をより強く圧接しなくてはならないことから、弾性手段として圧縮コイルスプリングを用いざるを得ない。そうすると。チルトヒンジの長さが長くなって小型化の要請に答えられなくなるというジレンマがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3655498号公報
【特許文献2】特許第3402317号公報
【特許文献3】特開2001−12451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のチルトヒンジの上記の如き問題点やジレンマを解決することを課題とするものであり、ヒンジの小径化と共に、軸方向の長さも短くして小型化の要請に答えることができた上で、必要なフリクショントルクを創出できる小型のチルトヒンジを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、請求項1に記載の本発明に係るチルトヒンジは、互いに開閉可能に連結される第1の筐体と第2の筐体のいずれか一方に取り付けられる小径で長さの短い底部付き円筒状のシリンダと、このシリンダの開放端側に設けられ、前記第1の筐体と第2の筐体の残りの他方に取り付けられるフランジ部材と、前記シリンダの中心部軸方向に設けられ、前記シリンダ或は前記フランジ部材のいずれか一方に固定され、他方に回転可能に軸支されたヒンジシャフトと、フリクション機能と吸い込み機能を有するフリクションカム機構とから成り、このフリクションカム機構を、前記シリンダの底部或は前記フランジ部材の片面のいずれか一方に設けられた第1カム部と、前記ヒンジシャフトをその中心部軸方向に挿通させ、前記第1カム部と対向する側に第2カム部を有し、前記シリンダ内において軸方向へスライド可能かつ非回転に設けられたカム部材と、前記第1カム部と前記第2カム部とを互いに圧接状態にするために前記シリンダ内に設けられた弾性手段とで構成したこと、を特徴とする。
【0009】
請求項2に記載のチルトヒンジは、前記ヒンジシャフトを、前記シリンダ或は前記フランジ部材に一体、或は別体に設けることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載のチルトヒンジは、前記カム部材を前記シリンダ内において軸方向へスライド可能かつ非回転に設けるに当たり、前記カム部材を前記ヒンジシャフトと係合させることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載のチルトヒンジは、前記カム部材を前記シリンダ内において軸方向へスライド可能かつ非回転に設けるに当たり、前記カム部材を前記シリンダと係合させることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載のチルトヒンジは、前記第1カム部を、前記フランジ部材の側に設けることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載のチルトヒンジは、前記第1カム部と第2カム部の各凸部を、その上面を平坦に形成することを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載のチルトヒンジは、前記弾性手段が、皿バネ、スプリングワッシャ、或はゴム部材であることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の本発明に係る電子機器は、前記請求項1乃至7のいずれか1項に記載のチルトヒンジを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
前記構成を有する請求項1〜7に係るチルトヒンジは、部品点数の少ない簡単な構成と、小型かつ小径とすることができる構成で、第2の筐体の第1の筐体に対する所定の閉成角度からの閉成操作時、或は所定の開成角度からの開成操作時に吸い込み機能を持たせることができた上に、さらに、第2の筐体の第1の筐体に対する使用開成角度においてフリーストップに停止保持させることができるものである。
【0017】
請求項8に記載の電子機器においては、前記請求項1乃至7のいずれか1項に記載のチルトヒンジの利点を生かした電子機器を提供し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るチルトヒンジを用いた電子機器の斜視図である。
【図2】本発明に係るチルトヒンジの外観斜視図であり、(a)は一方の側から見た斜視図、(b)は他方の側から見た斜視図である。
【図3】本発明に係るチルトヒンジの中心軸に沿った断面図である。
【図4】本発明に係るチルトヒンジの分解斜視図である。
【図5】本発明に係るチルトヒンジのシリンダの底部に設けた第1カム部を示す斜視図である。
【図6】本発明に係るチルトヒンジのフリクションカム機構の動作を説明するために中心軸に沿って割って見た説明図である。
【図7】本発明に係るチルトヒンジの他の実施例を示す中心軸に沿った断面図である。
【図8】本発明に係るチルトヒンジの更に他の実施例を示す中心軸に沿った断面図である。
【図9】本発明に係るチルトヒンジの更に他の実施例を示す中心軸に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係るチルトヒンジの実施例を図面に基づいて説明する。以下の説明では、電子機器として電子辞書を例に挙げて説明するが、本発明に係る電子機器には、電子辞書に限らず携帯電話機、PDA、カーナビゲーション装置、ノートパソコン、その他の電子機器が含まれるものである。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明に係るチルトヒンジを用いた例えば電子辞書2と、A視の部分に設置されたチルトヒンジ1とを拡大して示している。この電子辞書2は、機器本体を構成するところの上面にキーボード部21aを設けた第1の筐体21と、ディスプレイ装置22aを設けた第2の筐体22とを有し、本発明に係るチルトヒンジ1は、第1の筐体21と第2の筐体22を開閉可能に支持する開閉用ヒンジとして用いられている。この例の場合、電子辞書2の第1の筐体21のヒンジ取付部211にチルトヒンジ1のシリンダ11を固定し、また、前記第2の筐体22のヒンジ取付部221にチルトヒンジ1のフランジ部材124を固定することにより、電子辞書2の第1の筐体21と第2の筐体22とを互いに開閉可能なように連結してある。尚、シリンダ11を第2の筐体22側へ取り付け、フランジ部材124を第1の筐体21側へ取り付けても良い。
【0021】
本発明のチルトヒンジ1は、図1〜図6に示す如く、底部112を有する円筒状のシリンダ11と、フランジ部材124と、ヒンジシャフト12と、カム部材13と、複数の皿バネ14a〜14eからなる弾性手段14とから構成され、シリンダ11とフランジ部材124がヒンジシャフト12を介して相対的に回転可能となるように構成されている。
【0022】
シリンダ11は、拡大して図示してあるが、実際には例えば外径が5mm以下、長さが10mm以下というように小径で長さの短い底付き円筒形状を呈し、図示(とくに図5)する如く、内周面114と外周面115を有する円筒状の胴部111の一方に底部112が設けられ、他方に開口部117が設けられている。底部112の中心部軸方向にはヒンジシャフト12の先端側の軸支孔116が設けられている。また、底部112の内面側には第1カム部113が一体的に形成され、後述のカム部材13に形成された第2カム部133と作用して、フリクショントルクの発生やチルト動作、吸込み動作等の所定の機能を達成するようになっている。それらの機能を達成するため、第1カム部113は、とくに図5に示したように、軸支孔116を挟んで等間隔に設けられた上部が平坦な一対の凸部1131と、この一対の凸部1131の間に同じく軸支孔116を挟んで等間隔に設けられた底部が平坦な一対の凹部1132と、各凸部1131から各凹部1132に向けての傾斜部1133とで形成されている。尚、この凸部1131と凹部1132の配置位置、形状、大きさ等については限定がない。
【0023】
また、シリンダ11の外周面115には、前記ヒンジ取付部211の取付孔212(図3参照)へ取り付けた際の回り止め用の凸条係止部1151が、当該シリンダ11の外周面115を軸方向へ削除することにより、対向位置に一対形成されている。このように構成すると、シリンダ11の外径が広がらずチルトヒンジ1の小径化かつ小型化に寄与できるものである。さらに、シリンダ11は、通常は焼結金属製であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0024】
フランジ部材124は、シリンダ11の開口部117側を塞ぐようにして設けられている。このフランジ部材124の外径はシリンダ11と略同じであり、第2の筐体22のヒンジ取付部221に設けた取付孔222に挿入係止される。このフランジ部材124の外周の対向位置には、取付孔222内での回転を防止するために、その外周面を削除することによって軸方向へ回転防止用の凸条係止部126が一対設けられている。
【0025】
フランジ部材124の一側部からは、ヒンジシャフト12が一体に突設されている。このフランジ部材124とヒンジシャフト12は、一体に成型された焼結金属製であっても良いが、このものに限定されず、例えば旋盤加工による引き物であっても良い。ヒンジシャフト12は、主軸部121を有し、図3、4に示す如く、複数の皿バネ14a〜14eからなる弾性手段14とカム部材13とが装着された上で、前記シリンダ11の中心軸に沿ってシリンダ11内部に挿入されている。主軸部121の先端は、シリンダ11の底部112に設けた前記軸支孔116を回転可能に貫通し、軸支孔116から突き出した先端部にフリクションワッシャ15を嵌め合わせた上で、主軸部121の先端部をかしめることで、拡径したかしめ部128(図2、図3参照)を形成している。フリクションワッシャ15は、その主体部151に前記ヒンジシャフト12の変形先端を挿通係合させる変形孔152を設けたものである。
【0026】
ヒンジシャフト12の主軸部121のフランジ部材124に近い側は、その軸直角断面が円形の装着部122として形成されている。この装着部122に嵌め合わせられる複数枚(図示した実施例では5枚)の弾性手段14を構成する皿バネ14a〜14eは、とくに図4に示したように、それぞれ円形の挿通孔141a〜141eを有し、当該挿通孔141a〜141eにヒンジシャフト12の装着部122を挿通することにより、これらの皿バネ14a〜14eはヒンジシャフト12の装着部122上でその軸方向に変位可能に装着されている。即ち、弾性手段14の皿バネ14a〜14eに対する軸方向の加圧力の増減に応じた皿バネ自体の変形が自由に許容されるような状態で、ヒンジシャフト12の装着部122上に装着されている。
【0027】
尚、弾性手段14の皿バネ14a〜14eの形状や枚数、配置方法は、図示した実施例に限定されず、必要とされる弾性率や配置空間等の条件に応じて各種各様の形状や枚数、或は配置形態が可能である。但し、あまり枚数が多くなると、チルトヒンジの小型化の要請に沿わなくなろう。
【0028】
また、本発明において好適に用いられる皿バネ以外の弾性手段としては、スプリングワッシャやゴム部材が挙げられ、これらによっても、省スペースで高弾性率の弾性手段を構成できる。
【0029】
ヒンジシャフト12の前記装着部122よりも先端側は、カム部材装着部123として形成され、その外周面には軸方向に延びる4本のスプライン溝127が形成されており、カム部材13をヒンジシャフト12の前記カム部材装着部123の軸方向に移動可能、かつ、前記ヒンジシャフト12に対して回転不可能なように保持するようになっている。即ち、カム部材13のヒンジシャフト挿通孔132の軸直角断面の形状は円形ではなく、前記4本のスプライン溝127が形成された前記ヒンジシャフト12のカム部材装着部123の軸直角断面形状に対応する略十字形に形成されており、これによりカム部材13とヒンジシャフト12とは相対的に回転しないようになっている。
【0030】
前記カム部材13は、図4に示す如く、その主体部131に前記ヒンジシャフト挿通孔132が設けられると共に、前記シリンダ11の底部112の内面の前記第1カム部113と対向する面に、第2カム部133が形成されている。尚、図示した実施例において、第2カム部133には、とくに図4に示したように、ヒンジシャフト挿通孔132を挟んで等間隔に設けられた上部が平坦で幅の広い一対の凸部1331と、この一対の凸部1331の間に同じくヒンジシャフト挿通孔132を挟んで等間隔に設けられた底部が平坦で幅の狭い一対の凹部1332と、各凸部1331から各凹部1332に向けての傾斜部1333とで形成されている。尚、この凸部1331と凹部1332の配置位置、形状、大きさ等については、通常第1カム部113と関連するが限定はない。また、第1カム部113と第2カム部133の形状は相互に入れ替えても良い。このカム部材13は、前記弾性手段14の皿バネ14a〜14eによってヒンジシャフト12の先端側へ向けて付勢され、カム部材13の前面の第2カム部133が、シリンダ11の底部内面の第1カム部113に圧接せしめられるようになっている。尚、カム部材13も、通常は焼結金属製であるが、鍛造、鋳造その他の手段によって、製造されても良い。
【0031】
上記の如き構成において、前記シリンダ11とフランジ部材124をヒンジシャフト12を支点に相対的に回転させると、カム部材13はヒンジシャフト12と一緒に、シリンダ11に対して相対的に回転する。従って、カム部材13に形成された第2カム部133と、これに圧接せしめられるシリンダ11に形成された第1カム部113との、両者のカム部の凹凸形態に応じて、シリンダ11とヒンジシャフト12との間の回転トルクが変化する。このとき、カム部材13は弾性手段14の皿バネ14a〜14eのばね力の作用下に、ヒンジシャフト12のカム部材装着部123上でその軸方向に前記第1及び第2カム部の凹凸形態に応じてスライドする。したがって、シリンダ11の第1カム部113と、カム部材13の第2カム部133と、弾性手段14とでフリクションカム機構17を構成している。シリンダ11内には必要に応じて図示してない潤滑用のグリスが充填される。
【0032】
前記第1カム部113と第2カム部133の形状は、前記第1の筐体21と第2の筐体22が所定の閉成角度に来たときに、それ以降は弾性手段14の皿バネ14a〜14eの復元力により閉成位置まで自動回転(いわゆる吸込み動作)するよう形成されている。尚、第1カム部113と第2カム部133の具体的な形状は様々な形態が可能であり、例えば、前記吸込み動作の開始位置、第2の筐体22の回転トルクの大小、その他の各種設計条件に応じて各種各様に設計変更されるものである。
【0033】
以下、前記チルトヒンジ1の作用効果について説明する。
【0034】
チルトヒンジ1のシリンダ11は、互いに開閉可能に連結されるべき第1の筐体21のヒンジ取付部211に設けた取付孔212へ挿入固定され、フランジ部材124は、第2の筐体22のヒンジ取付部221に設けた取付孔222へ挿入固定される。
【0035】
第1の筐体21と第2の筐体22とが閉成状態にあるときは、前記シリンダ11側の第1カム部113の凹部1132へ、カム部材13の第2カム部133の凸部1331が嵌まり込んだ状態にあって、第2の筐体22を第1の筐体21に対し閉成状態でロックしているので、他のロック手段を必要とはしない。
【0036】
この閉成状態から第2の筐体22を第1の筐体21に対して次第に開いて行くときは、フランジ部材124と一体のヒンジシャフト12が少しずつ回転し、ヒンジシャフト12と一緒に回転するカム部材13の第2カム部133の凸部1331が、シリンダ11の底部112の内面の第1カム部113の凹部1132を脱し、凸部1131へ次第に乗り上げて行く(第1カム部113の傾斜部1133と第2カム部133の傾斜部1333とが摺動)ことになるが、このとき、カム部材13は弾性手段14の皿バネ14a〜14eの弾力に抗してシリンダ11の底部112から次第に離れて行くことになる(図6参照)。そのため、この状態で第2の筐体22を開いて行くためには、弾性手段14によって圧接させられる第1カム部113の傾斜部1133と第2カム部133の傾斜部1333との間の摩擦抵抗(フリクショントルクを形成)と、フリクションワッシャ15とシリンダ11の底部112の外側との間の摩擦抵抗に抗して比較的強い力で開く必要がある。尚、この状態で第2の筐体22から手を放すと、弾性手段14の皿バネ14a〜14eの復元力で、第2の筐体22は元の閉成状態へ戻ってしまう。
【0037】
第2の筐体22を所定角度まで開き、第2カム部133の凸部1331と第1カム部113の凸部1131とが接触した状態になると、そこからしばらくは両方の上面が平坦な凸部1331と1131同士が接触して摺動することとなって摩擦力が生じ、この摩擦力とフリクションワッシャ15の摩擦力とにより、その途中で手を放しても、第2の筐体22は第1の筐体21に対して任意の開閉角度でフリーストップに停止保持されるものである。
【0038】
第2の筐体22をさらに開いて行くと、全開状態でカム部材13の第2カム部133の凸部1331が、第1カム部113の次の凹部1132の中に嵌まり込む位置に達し、弾性手段14の皿バネ14a〜14eの復元力で、当該凸部1331は凹部1132の中に吸い込み機能によって自動的に嵌まり込み、第2の筐体22は開成状態でロックされることになる。この開成角度は実施例のもので180°である。
【0039】
全開状態の第2の筐体22を閉じるときは、上記操作と逆の手順を経て、当初の閉成状態に復帰する。尚、閉成状態に達する直前の段階においても、弾性手段14の皿バネ14a〜14eの復元力により、第2カム部133の凸部1331が第1カム部113の凹部1132の中に自動的に嵌まり込むため、閉成操作時の吸込み動作が行われるものである。
【実施例2】
【0040】
図7には、本発明に係るチルトヒンジの他の実施例が、その中心軸に沿った断面図で示されている。この実施例2のチルトヒンジ1Aにおいては、フランジ部材124に、シリンダ11の内部へ嵌入するボス部124aが形成され、シリンダ11とフランジ部材124が相対回転する際の芯ずれを防止し得るようになっている。他の構成要素は、実施例1のものと同様であり、同一の構成要素については同一の指示記号を付してある。
【実施例3】
【0041】
図8には、さらに他の実施例が示されている。実施例1では、ヒンジシャフト12とフランジ部材124とが一体に形成されていたが、この実施例3のチルトヒンジ1Bにおいては、ヒンジシャフト120がフランジ部材1240から独立の部材として構成されている。即ち、ヒンジシャフト120のフランジ部材1240側には例えば断面略楕円形状の変形軸部1243が形成され、この変形軸部1243をフランジ部材1240に設けた変形取付孔1244へ挿入させ、その露出側端部をかしめてかしめ部1245を形成させることにより、ヒンジシャフト120がフランジ部材1240に固定されている。ヒンジシャフト120の他端部は、これまでの実施例と同様にフリクションワッシャ150を介してかしめ部1246とし、シリンダ11の底部112に回転可能に保持するようになっている。
【実施例4】
【0042】
図9には、さらに他の実施例が示されている。この実施例4のチルトヒンジ1Cでは、シリンダ33の底部331側から軸支孔333を介して頭部341付きで両側を削り取ることによって形成させた断面略楕円形状のヒンジシャフト34を頭部341と底部331との間にフリクションワッシャ35を介在させた上で挿入させ、その先端をフランジ部材36に固定させてある。この固定手段は、断面略楕円形状のヒンジシャフト34をフランジ部材36に設けた変形取付孔361に通し、その露出端をかしめてかしめ部342を形成させることにより固定させてある。そしてフランジ部材36側にシリンダ33内に嵌入させたボス部362を設けると共に、このボス部362に第1カム部363を設け、カム部材37をその軸心部軸方向に設けた挿通孔371にヒンジシャフト34を回転可能に挿通させると共に、その外周の対向位置に設けた一対のガイド凸部373をシリンダ33の内壁に設けた一対のガイド溝334と係合させることにより、非回転かつ軸方向へスライド可能に設けられている。カム部材37には第1カム部363と対向する側に第2カム部372が設けられている。第1カム部363と第2カム部372の構成と、皿バネ14a〜14eから成る弾性手段14の構成は実施例1のものと同じである。このように構成しても本発明の目的は達成できる。
【0043】
本発明に係る電子機器(例えば、前記電子辞書2のほか、携帯電話機、PDA、カーナビゲーション装置、ノート型パソコン、その他の小型電子機器を含む。)は、上記の如きチルトヒンジ1を備えてなるものであり、前記の如きチルトヒンジの利点を生かした電子機器となるものである。
【0044】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、シリンダやヒンジシャフトの形状、シリンダに対するヒンジシャフトの取付手段、第1及び第2カム部の凸部と凹部の形状、弾性手段の皿バネの形状や枚数、等々は、チルトヒンジの使用目的、使用状況等により適宜設計変更されるものであり、従って、本発明は特許請求の範囲に含まれるすべての変更実施例を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
上述の如く、本発明は、簡単な構成を持ち、小径かつ小型で必要なフリクショントルクを創出でき、その上第2の筐体の第1の筐体に対する吸い込み機能をも有することから、小型かつ薄型の各種電子機器の第1の筐体と第2の筐体を開閉可能に連結するチルトヒンジ並びにこのチルトヒンジを用いた電子機器として広く利用できるものである。
【符号の説明】
【0046】
1、1A、1B、1C チルトヒンジ
2 電子辞書(電子機器)
11、33 シリンダ
12、120、34 ヒンジシャフト
13、37 カム部材
14 弾性手段
14a〜14e 皿バネ
17 フリクションカム機構
21 第1の筐体
22 第2の筐体
113、363 第1カム部
124、1240、36 フランジ部材
133、372 第2カム部
211、221 ヒンジ取付部
1131、1331 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに開閉可能に連結される第1の筐体と第2の筐体のいずれか一方に取り付けられる小径で長さの短い底部付き円筒状のシリンダと、
このシリンダの開放端側に設けられ、前記第1の筐体と第2の筐体の残りの他方に取り付けられるフランジ部材と、
前記シリンダの中心部軸方向に設けられ、前記シリンダ或は前記フランジ部材のいずれか一方に固定され、他方に回転可能に軸支されたヒンジシャフトと、
フリクション機能と吸い込み機能を有するフリクションカム機構とから成り、
このフリクションカム機構を、前記シリンダの底部或は前記フランジ部材の片面のいずれか一方に設けられた第1カム部と、前記ヒンジシャフトをその中心部軸方向に挿通させ、前記第1カム部と対向する側に第2カム部を有し、前記シリンダ内において軸方向へスライド可能かつ非回転に設けられたカム部材と、前記第1カム部と前記第2カム部とを互いに圧接状態にするために前記シリンダ内に設けられた弾性手段とで構成したことを特徴とする、チルトヒンジ。
【請求項2】
前記ヒンジシャフトは、前記シリンダ或は前記フランジ部材に一体、或は別体に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項3】
前記カム部材を前記シリンダ内において軸方向へスライド可能かつ非回転に設けるに当たり、前記カム部材を前記ヒンジシャフトと係合させることを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項4】
前記カム部材を前記シリンダ内において軸方向へスライド可能かつ非回転に設けるに当たり、前記カム部材を前記シリンダと係合させることを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項5】
前記第1カム部は、前記フランジ部材の側に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項6】
前記第1カム部と前記第2カム部の各凸部は、その上面が平坦に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項7】
前記弾性手段が、皿バネ、スプリングワッシャ、或はゴム部材であることを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項8】
前記請求項1乃至7のいずれか1項に記載のチルトヒンジを備えたことを特徴とする、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−211629(P2012−211629A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77124(P2011−77124)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000124085)加藤電機株式会社 (117)
【Fターム(参考)】