説明

テトラフルオロホウ酸塩の精製方法

【課題】 ホウ酸やテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解生成物の含有量が極めて少ない高純度のテトラフルオロホウ酸塩に簡便に、かつ収率良く精製することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 本発明のテトラフルオロホウ酸塩の精製方法は、一般式X(BF)m(ここで、前記Xは、4級アンモニウム、4級ホスホニウム、アンモニウム、IA族元素、IIA族元素及びIIIB族元素からなる群より選択される少なくとも何れか1つを示し、mは自然数であり、Xの価数に等しい。)で表されるテトラフルオロホウ酸塩に含まれるホウ酸又はテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解生成物に対し過剰となる量のフッ化水素酸を、該テトラフルオロホウ酸塩に添加することにより、該加水分解生成物の少なくとも何れかと反応させてホウフッ化水素酸を生成させ、前記フッ化水素酸の留去に伴い、前記ホウフッ化水素酸を除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロホウ酸塩の精製方法に関し、より詳細には、電気二重層キャパシタ等の非水電解液電池の電解質として使用されるテトラフルオロホウ酸塩中に含まれる不純物としてのホウ酸又はテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解生成物を除去することが可能なテトラフルオロホウ酸塩の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バッテリーや電気二重層キャパシタをはじめとする電気化学デバイスの出力密度、エネルギー密度向上の要求が高まっており、それと同時に、長期的に使用した際の性能劣化を如何に低く抑えられるかということも重要な課題となっている。なかでも電気二重層キャパシタはバッテリーと比較して化学反応を伴わない為、性能劣化が起こりにくいことが長所の一つである。その信頼性を高く維持するには使用する電解質に含まれる不純物の含有量の制御が必要不可欠である。電気二重層キャパシタの電解質としては4級アンモニウムテトラフルオロボレートがしばしば使用される。テトラフルオロボレートアニオンは電気化学的な耐酸化性に優れており、分子容がコンパクトでありながらマイナス電荷が分散しており、電気伝導性に優れるためである。
【0003】
テトラフルオロホウ酸ナトリウムやテトラフルオロホウ酸リチウム、4級アンモニウムテトラフルオロホウ酸等のテトラフルオロホウ酸塩は、水との共存下に於いて、下記の反応式のように加水分解を起こすことが知られている(下記、非文献特許1参照)。
【0004】
【化1】

【0005】
非水電解液電池の電解質にホウ酸をはじめとするテトラフルオロホウ酸塩の加水分解生成物が含まれていると、例えば、下記特許文献1に開示されている通り、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池、電解コンデンサー等の非水電解液電池にとって耐電圧の低下、長期的なサイクル特性の低下の原因となる。このためテトラフルオロホウ酸塩を製造する際、前記反応に示される加水分解生成物([BF(OH)4−n(nは1〜3の自然数))及びホウ酸の混入量を極力小さくすることが望まれる。
【0006】
電気二重層キャパシタの電解質として多用されている4級アンモニウムテトラフルオロホウ酸は、従来、4級アンモニウムハライド等とホウフッ化水素酸水溶液とを反応させアニオン部分を塩交換させることによって得られていた。例えば、下記特許文献2には、4級アンモニウムハライド(ハライドはクロライド、ブロマイド)とホウフッ化水素酸水溶液とを反応させて4級アンモニウムテトラフルオロホウ酸を得る製造方法が開示されている。また、下記特許文献3には、4級アンモニウムヒドロキシドとホウフッ化水素酸水溶液とを反応させる製造方法が開示されている。更に、下記特許文献4及び5には、4級アンモニウム重炭酸塩とホウフッ化水素酸水溶液とを反応させる製造方法が開示されている。
【0007】
前述の通り、テトラフルオロホウ酸塩の製造にはホウフッ化水素酸水溶液が使用されることが多いが、テトラフルオロホウ酸アニオンは水溶液中に於いて加水分解しており、[BF(OH)4−n(nは1〜3の自然数)及びホウ酸等の不純物が含まれる。また、通常使用されるホウフッ化水素酸水溶液の濃度は40重量%程度なので、余分な水を大量に除去する必要がある。工業的には加熱操作によって水分除去を行うことが有利だが、加熱によりテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解は加速され、得られるテトラフルオロホウ酸塩にはホウ酸を始めとした種々の加水分解生成物が不純物として混入してしまう。この様に、従来よりテトラフルオロホウ酸塩の製造に於いては、前記不純物の混入という問題がつきまとう。従って、テトラフルオロホウ酸塩中から不純物をいかに簡便に除去し、高純度のテトラフルオロホウ酸塩が得られるか否かが課題となっている。
【0008】
こうした課題を背景に、非水電解液用テトラフルオロホウ酸塩のホウ酸を低減するための精製方法として、下記特許文献1には、得られたテトラフルオロホウ酸塩をアルコール中に於いて再結晶する方法が開示されている。また、下記特許文献6には、テトラフルオロホウ酸塩中に含まれるホウ酸をアルコール類によりエステル化し、続いて蒸留操作により留去する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、アルコール類等の有機溶媒中で再結晶させ、ホウ酸の含有量を低減させる精製方法に於いては、有機溶媒に対する溶解度が高いテトラフルオロホウ酸塩の場合には、その精製工程を繰り返す必要があり、収率が低下するという問題がある。更に、テトラフルオロホウ酸塩の中には常温溶融塩も存在し、こうした場合、再結晶できないといった問題点が生じる。また、ホウ酸をアルコール類によりエステル化して除去をする方法に於いては、ホウ酸の含有量が高い場合には有機溶媒を大量に使用する必要があり、工業的に大量生産をする方法として適切ではないといった問題もある。
【特許文献1】特開2000−315630号公報
【特許文献2】特開2000−226360号公報
【特許文献3】特開2001−247522号公報
【特許文献4】特開平11−315055号公報
【特許文献5】特開2000−109487号公報
【特許文献6】特開2004−319817号公報
【非特許文献1】Boron Trifluoride and Its Derivates,P87
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、ホウ酸やテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解生成物の含有量が極めて少ない高純度のテトラフルオロホウ酸塩に簡便に、かつ収率良く精製することが可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、テトラフルオロホウ酸塩の精製方法について検討した。その結果、下記構成を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明に係るテトラフルオロホウ酸塩の精製方法は、前記の課題を解決する為に、一般式X(BF)m(ここで、前記Xは、4級アンモニウム、4級ホスホニウム、アンモニウム、IA族元素、IIA族元素及びIIIB族元素からなる群より選択される少なくとも何れか1つを示し、mは自然数であり、Xの価数に等しい。)で表されるテトラフルオロホウ酸塩に含まれるホウ酸又はテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解生成物に対し過剰となる量のフッ化水素酸を、該テトラフルオロホウ酸塩に添加することにより、該加水分解生成物の少なくとも何れかと反応させてホウフッ化水素酸を生成させ、前記フッ化水素酸の留去に伴い、前記ホウフッ化水素酸を除去することを特徴とする。
【0013】
前記方法によれば、テトラフルオロホウ酸塩にフッ化水素酸を添加することにより、不純物として含まれるホウ酸及びテトラフルオロホウ酸アニオン([BF(OH)4−n(nは1〜3の自然数))等の加水分解生成物とフッ化水素酸とを反応させる。この反応により、前記加水分解生成物よりも沸点又は分解温度の低いホウフッ化水素酸が生成する。更に、未反応の残存しているフッ化水素酸を留去することにより、従来よりも容易に加水分解生成物を除去することができる。即ち、前記方法によれば、従来繰り返し行われていた精製工程が不要となり、収率の低下を抑制することができる。また、ホウ酸をアルコール類によりエステル化して除去をする方法に於いては、有機溶媒を大量に使用する必要があったが、本発明に於いてはその有機溶媒も不要である。その結果、防爆設備を導入する必要もなく、製造コストを低減し工業的な実施を可能にする。
【0014】
前記X(BF)mで表されるテトラフルオロホウ酸塩が、常温溶融塩としての4級アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩であってもよい。
【0015】
本発明に於いては、前記テトラフルオロホウ酸塩が常温溶融塩としての4級アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩であっても、好適に加水分解生成物の除去が可能になり、高純度のテトラフルオロホウ酸塩が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のテトラフルオロホウ酸塩の精製方法について、以下に説明する。本発明の精製方法は、一般式X(BF)mで表されるテトラフルオロホウ酸塩中に含まれるホウ酸又はテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解生成物の少なくとも何れかを除去するものであり、過剰のフッ化水素酸を添加することによりホウフッ化水素酸を生成させた後、フッ化水素酸の留去に伴い、ホウフッ化水素酸を除去するものである。
【0017】
前記Xは、4級アンモニウム、4級ホスホニウム、アンモニウム、IA族元素、IIA族元素、及びIIIB族元素からなる群より選択される少なくとも何れか1つを表す。また、mは自然数であり、Xの価数に等しい。
【0018】
前記4級アンモニウムとしては、テトラアルキルアンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、チアゾリウムカチオン、オキサゾリウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン等が挙げられるがこの限りではない。主な例として以下の化合物が挙げられる。
【0019】
テトラアルキルアンモニウムカチオンとしては、テトラエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、ジメチルエチルプロピルアンモニウム、メチルエチルプロピルブチルアンモニウム、N,N−ジメチルピロリジニウム、N−エチル−N−メチルピロリジニウム、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム、N−エチル−N−プロピルピロリジニウム、N,N−ジメチルピペリジニウム、N−メチル−N−エチルピペリジニウム、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム、N−エチル−N−プロピルピペリジニウム、スピロ−N,N’−ビピリジニウム、スピロ−N,N’−ビピペリジニウム、スピロ−N−ピペリジニウム−N−ピリジニウム、スピロ−N−アジリジニウム−N−ピリジニウム、スピロ−N−アジリジニウム−N−ピペリジニウム、N,N−ジメチルモルホリニウム、N−メチル−N−エチルモルホリニウム、N−メチル−N−プロピルモルホリニウム、N−エチル−N−プロピルモルホリニウム、トリメチルメトキシメチルアンモニウム、ジメチルエチルメトキシメチルアンモニウム、ジメチルプロピルメトキシメチルアンモニウム、ジメチルブチルメトキシメチルアンモニウム、ジエチルメチルメトキシメチルアンモニウム、メチルエチルプロピルメトキシメチルアンモニウム、トリエチルメトキシメチルアンモニウム、ジエチルプロピルメトキシメチルアンモニウム、ジエチルブチルメトキシメチルアンモニウム、ジプロピルメチルメトキシメチルアンモニウム、ジプロピルエチルメトキシメチルアンモニウム、トリプロピルメトキシメチルアンモニウム、トリブチルメトキシメチルアンモニウム、トリメチルエトキシメチルアンモニウム、ジメチルエチルエトキシメチルアンモニウム、ジメチルプロピルエトキシメチルアンモニウム、ジメチルブチルエトキシメチルアンモニウム、ジエチルメチルエトキシメチルアンモニウム、トリエチルエトキシメチルアンモニウム、ジエチルプロピルエトキシメチルアンモニウム、ジエチルブチルエトキシメチルアンモニウム、ジプロピルメチルエトキシメチルアンモニウム、ジプロピルエチルエトキシメチルアンモニウム、トリプロピルエトキシメチルアンモニウム、トリブチルエトキシメチルアンモニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム、N−エチル−N−メトキシメチルピロリジニウム、N−プロピル−N−メトキシメチルピロリジニウム、N−ブチル−N−メトキシメチルピロリジニウム、N−メチル−N−エトキシメチルピロリジニウム、N−メチル−N−プロポキシメチルピロリジニウム、N−メチル−N−ブトキシメチルピロリジニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピペリジニウム、N−エチル−N−メトキシメチルピロリジニウム、N−メチル−N−エトキシメチルピロリジニウム、N−プロピル−N−メトキシメチルピロリジニウム、N−メチル−N−プロポキシメチルピロリジニウム等が挙げられるがこれらの限りではない。
【0020】
テトラアルキルホスホニウムカチオンとしては、テトラエチルホスホニウム、テトラメチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、トリエチルメチルホスホニウム、トリメチルエチルホスホニウム、ジメチルジエチルホスホニウム、トリメチルプロピルホスホニウム、トリメチルブチルホスホニウム、ジメチルエチルプロピルホスホニウム、メチルエチルプロピルブチルホスホニウム等が挙げられる。
【0021】
イミダゾリウムカチオンとしては、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム等が挙げられるがこれらの限りではない。ピラゾリウムカチオンとしては1,2−ジメチルピラゾリウム、1−メチル−2−エチルピラゾリウム、1−プロピル−2−メチルピラゾリウム、1−メチル−2−ブチルピラゾリウム等が挙げられるがこれらの限りではない。ピリジニウムカチオンとしてはN−メチルピリジニウム、N−エチルピリジニウム、N−プロピルピリジニウム、N−ブチルピリジニウム等が挙げられるがこれらの限りではない。トリアゾリウムカチオンとしては、1−メチルトリアゾリウム、1−エチルトリアゾリウム、1−プロピルトリアゾリウム、1−ブチルトリアゾリウム等が挙げられるがこれらの限りではない。
【0022】
ピリダジニウムカチオンとしては1−メチルピリダジニウム、1−エチルピリダジニウム、1−プロピルピリダジニウム、1−ブチルピリダジニウム等が挙げられるがこれらの限りではない。チアゾリウムカチオンとしては、1,2−ジメチルチアゾリウム、1,2−ジメチル−3−プロピルチアゾリウム等が挙げられるがこれらの限りではない。オキサゾリウムカチオンとしては、1−エチル−2−メチルオキサゾリウム、1,3−ジメチルオキサゾリウム等が挙げられるがこれらの限りではない。ピリミジニウムカチオンとしては、1,2−ジメチルピリミジニウム、1−メチル−3−プロピルピリミジニウム等が挙げられるがこれらの限りではない。ピラジニウムカチオンとしては、1−エチル−2−メチルピラジニウム、1−ブチルピラジニウム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
前記4級ホスホニウムとしては、テトラエチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム等のテトラアルキルホスホニウムカチオン等が挙げられる。
【0024】
前記IA族元素としては特に限定されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が好ましい。
【0025】
前記IIA族元素としては特に限定されないが、ベリリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム等が好ましい。
【0026】
前記IIIB族元素としては特に限定されないが、アルミニウム、ガリウム等が好ましい。
【0027】
尚、テトラフルオロホウ酸塩が4級アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩(常温溶融塩)である場合、従来行われていた再結晶による精製方法では精製が不可能であった。しかし、本発明の精製方法では前記の様な常温溶融塩の場合にも簡便に精製を行うことができる。
【0028】
フッ化水素酸の添加量はテトラフルオロホウ酸塩中の加水分解生成物に対し化学量論比に於いて過剰量となる程度であれば効果が得られ、例えばテトラフルオロホウ酸塩が固体の場合はこれを完溶させるだけのフッ化水素酸を添加すれば足りる。より具体的には、工業的な実用性の観点からテトラフルオロホウ酸塩の重量に対して0.01重量倍〜10重量倍、より好ましくは0.2重量倍〜2重量倍である。添加量が0.01重量倍未満であると、フッ化水素酸に対し未反応の加水分解生成物が多く含まれる結果、これらの不純物の除去を十分に行うことができない場合がある。その一方、添加量が10重量倍を超えると、添加したフッ化水素酸の留去工程が長時間必要であるという不都合な場合がある。尚、テトラフルオロホウ酸塩中の加水分解生成物の含有量は、カールフィッシャー水分測定により間接的に検出することができる。例えば、加水分解生成物がホウ酸の場合、検出量は水とほぼ同じ重量で検出される(厳密には水に対し0.87倍)。従って、フッ化水素酸の添加量の設定は、カールフィッシャー水分測定値を目安に、ホウ酸をホウフッ化水素酸にするのに必要な化学量論比以上となる様にすれば足りる。
【0029】
また、前記フッ化水素酸としては特に限定されず、例えば無水フッ化水素酸が使用できる。フッ化水素酸の濃度としては、20〜100重量%が好ましく、より好ましくは50〜100重量%、更に好ましくは75〜100重量%である。
【0030】
前記テトラフルオロホウ酸塩にフッ化水素酸を添加する際、フッ化水素酸は液状で添加してもガス状で添加してもよく、その投入方法は特に限定されるものではない。また、前記テトラフルオロホウ酸塩にフッ化水素酸を添加する際の添加速度は適宜必要に応じて設定すればよく、特に限定されるものではない。但し、フッ化水素酸の添加の際は、該フッ化水素酸の沸点を考慮して約20℃以下となる様に冷却しながら行うのが好ましい。
【0031】
前記フッ化水素酸を前記テトラフルオロホウ酸塩に添加した後、テトラフルオロホウ酸塩中に含まれるホウ酸や加水分解生成物をホウフッ化水素酸に変換させる際の温度としては、−20℃〜200℃が好ましく、0℃〜50℃がより好ましく、0℃〜30℃が更に好ましい。前記温度範囲内で、必要に応じて沸騰しない程度に加熱することもできる。
【0032】
前記テトラフルオロホウ酸塩とフッ化水素酸との反応は、常温でも速やかに進行する。よって、反応時間を長くとる必要はなく、テトラフルオロホウ酸塩にフッ化水素酸を添加後、直ちにフッ化水素酸の除去を行ってもよい。フッ化水素酸の除去方法としては特に限定するものではなく、定法により蒸留でき、減圧又は加熱してもよく、これらを組み合わせてもよい。また、加熱を行いながら、窒素、アルゴン又は空気等、テトラフルオロホウ酸塩と反応しないガスを吹き込んで除去を行うこともできる。前記フッ化水素酸塩を除去する際の温度は、フッ化水素酸の沸点19.9℃以上であれば特に限定されるものではない。また、上限温度としてはテトラフルオロホウ酸塩の分解温度以下であればよい。より具体的には、19.9〜200℃が好ましく、50〜200℃がより好ましく、110〜200℃が更に好ましく、130〜200℃が特に好ましい。
【0033】
本発明の精製方法によって、前記テトラフルオロホウ酸塩に含まれる〔BF(OH)4−n(nは1〜3の自然数)又はホウ酸等の加水分解生成物の含有量が1回の操作で所望の数値に達しない場合には、本発明の精製方法を繰り返し行うことができる。これにより、前記加水分解生成物の含有量を一層低減することができる。
【0034】
本発明の精製方法により得られるテトラフルオロホウ酸塩を含む電解液は、不純物である前記加水分解生成物の総含有量が微量である。この為、耐電圧及び長期信頼性に優れている。その結果、前記電解液を電気二重層キャパシタ、電解コンデンサー又は電池等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0036】
(ホウ酸及びテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解生成物の分析)
ホウ酸及びテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解生成物は、カールフィッシャー滴定法により間接的に検出した。カールフィッシャー滴定法は、下記化学反応式(1)に示すヨウ素と水が定量的、かつ、選択的に反応することを利用した水分の分析方法である。
【0037】
【化2】

【0038】
ホウ酸化合物は、下記化学反応式(2)に示す様に、カールフィッシャー試薬と反応することが知られている(例えば、三菱化学のカールフィッシャー試薬、マニュアル、P41参照)
【0039】
【化3】

【0040】
よって、式(2)の反応を利用してホウ酸化合物の含有量を測定することができる。カールフィッシャー滴定分析の検出値からは、それがホウ酸化合物の含有量であるか、水の含有量であるかは判別し難い。従って、下記の実施例及び比較例に於いては、クルクマ反応により、ホウ酸化合物が含有するか否かの定性試験を行った。クルクマ反応とは、黄色のクルクミン指示薬がホウ酸の作用によって異性化して赤褐色を呈する反応である(例えば、定性分析化学、中巻、イオン反応編、P.315参照)。
【0041】
クルクマ反応によるクルクミン呈色とカールフィッシャー滴定法とにより、ホウ酸化合物を簡便に、間接的に定量できる。クルクミン呈色が起こらない場合、カールフィッシャー滴定法の検出値は水を検出していることを示す。その一方、クルクミン呈色が起きる場合、カールフィッシャー滴定法の検出値にはホウ酸及びホウ酸化合物を含むことを示す。
【0042】
(実施例1)
水分値3000ppm、クルクミン呈色が赤褐色のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート50.0gに対し、無水フッ化水素酸8.5gを添加し均一混合した。その後、130℃の条件下で、窒素5L/minにて3時間フローしながら、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸及び水を留去した。精製後のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート49.8gについて、水分量を測定したところ290ppmであった。また、クルクミン呈色は赤褐色であった。
【0043】
更に、得られたトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートに再度無水フッ化水素酸7.5gを添加し、均一混合した後、前記と同様の条件でフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸及び水を留去した。精製後のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート49.7gについて、水分量を測定したところ19ppmであった。また、クルクミン呈色は黄色であった。
【0044】
(実施例2)
水分値2200ppm、クルクミン呈色が赤褐色の1−エチル−3−メチルイミダソリウムテトラフルオロボレート50.0gに対し、無水フッ化水素酸5.0gを添加し均一混合した。その後、130℃の条件下で、窒素5L/minにて2時間バブリングしながら、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸及び水を留去した。精製後の1−エチル−3−メチルイミダソリウムテトラフルオロボレート49.7gについて、水分量を測定したところ310ppmであった。また、クルクミン呈色は赤褐色であった。
【0045】
更に、得られた1−エチル−3−メチルイミダソリウムテトラフルオロボレートに再度無水フッ化水素酸5.0gを添加し、均一混合した後、前記と同様の条件でフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸及び水を留去した。精製後の1−エチル−3−メチルイミダソリウムテトラフルオロボレート49.6gについて、水分量を測定したところ23ppmであった。また、クルクミン呈色は黄色であった。
【0046】
(実施例3)
水分値2500ppm、クルクミン呈色が赤褐色のリチウムテトラフルオロボレート1001.6gに対し、無水フッ化水素酸130.0gを添加し撹拌して均一混合した。その後、−30℃に冷却して白色固体をろ別した。得られた白色固体を、100℃の湯浴にてフッ化水素酸を留去した。更に、105℃の条件下で、窒素5L/minにて5時間フローしながら、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸及び水を完全に留去した。精製後のリチウムテトラフルオロボレート605.0gについて、水分量を測定したところ41ppmであった。また、クルクミン呈色は黄色であった。
【0047】
(比較例1)
水分値4000ppm、クルクミン呈色が赤褐色のテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート100gに対し、エタノール500gを添加し、90℃に加熱してエタノールに完全に溶解させた。得られた溶液を室温まで自然放冷した後、更に15℃になるまで冷却した。冷却により析出した結晶をろ別し、10℃のエタノールで洗浄した。その後、120℃の条件下で、窒素5L/minにてフローしながら、5時間で乾燥を行った。精製後のテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート75gについて水分量を測定したところ、200ppmであった。また、クルクミン呈色は赤褐色であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式X(BF)m(ここで、前記Xは、4級アンモニウム、4級ホスホニウム、アンモニウム、IA族元素、IIA族元素及びIIIB族元素からなる群より選択される少なくとも何れか1つを示し、mは自然数であり、Xの価数に等しい。)で表されるテトラフルオロホウ酸塩に含まれるホウ酸又はテトラフルオロホウ酸アニオンの加水分解生成物に対し過剰となる量のフッ化水素酸を、該テトラフルオロホウ酸塩に添加することにより、該加水分解生成物の少なくとも何れかと反応させてホウフッ化水素酸を生成させ、
前記フッ化水素酸の留去に伴い、前記ホウフッ化水素酸を除去することを特徴とするテトラフルオロホウ酸塩の精製方法。
【請求項2】
前記X(BF)mで表されるテトラフルオロホウ酸塩が、常温溶融塩としての4級アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩であることを特徴とする請求項1に記載のテトラフルオロホウ酸塩の精製方法。

【公開番号】特開2007−277020(P2007−277020A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102124(P2006−102124)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】