説明

テラヘルツ波測定装置およびテラヘルツ波測定方法

【課題】 本発明は、テラヘルツ波を用いて物性の測定を行うテラヘルツ波測定装置およびテラヘルツ波測定方法に関する。
【解決手段】 本発明のテラヘルツ波測定装置は、本発明のテラヘルツ波測定装置は、パルスレーザーをポンプ光とプローブ光とに分割するビームスプリッターと、ポンプ光の入射によりテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生器と、入射されたプローブ光から複数のパルスを生成するパルス列発生部と、パルス列をテラヘルツ波検出器に入射し、テラヘルツ波検出器に入射されたテラヘルツ波の電場の時間的変化を複数のパルスに基づいて測定するテラヘルツ波測定部とを備える、よう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いて物性の測定を行うテラヘルツ波測定装置およびテラヘルツ波測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波は周波数が0.1THz〜10THzの周波数を持つ電磁波であり、プラスチックや紙、布などのソフトマテリアルを透過し、また物質特有の吸収スペクトル、いわゆる指紋スペクトルを有するために物質の同定が可能である。
【0003】
テラヘルツ波測定の方法の一つとしてテラヘルツ時間領域分光法が知られている。その方法を用いた測定の原理は、テラヘルツ波の伝播経路に被測定物を置き、この被測定物を透過したテラヘルツ波の電場の時間波形を測定すると共に、テラヘルツ波の伝播経路に何も置かない状態で同様にテラヘルツ波の時間波形を測定する。2つの測定で得られた時間波形をフーリエ変換してテラヘルツ波の振幅と位相(時間遅れ)の情報、即ちスペクトルを求める。このスペクトルを既知の物質のスペクトルとパターンマッチングすることにより被測定物を同定するものである。
【0004】
テラヘルツ波測定装置としての構成と動作の一般例を次に説明する。まず、光源として超短パルスレーザーを用い、この超短パルスレーザーをビームスプリッターにより2つに分割して一方のビームをポンプ光(励起光)、他方をプローブ光(検出光)とする。ポンプ光をテラヘルツ波発生用光伝導アンテナ(以降、テラヘルツ波発生器、または単に発生器とも言う)に入射してテラヘルツ波を発生させ、集光して被測定物に照射する。テラヘルツ波の照射により被測定物を透過したテラヘルツ波はテラヘルツ波検出用光伝導アンテナ(以降、テラヘルツ波検出器、または単に検出器とも言う)に入射する。一方、プローブ光は時間遅延ステージを介してテラヘルツ波検出器に入射する。テラヘルツ波検出器では、プローブ光の入射したタイミングのテラヘルツ波電場に比例した電流が流れ、その電流をロックインアンプなどにより測定する。時間遅延ステージを徐々に動かすことにより、テラヘルツ波に対するプローブ光のタイミングが徐々に変化し、テラヘルツ波の電場の実時間変化(上記の時間波形)が測定できる。更に、時間波形をフーリエ変換して被測定物の分光スペクトルを取得できる。
【0005】
この分光スペクトルの周波数分解能は時間波形の測定範囲の逆数になるため、周波数分解能を向上させるには時間波形の測定範囲を広げる必要がある。そのため、ロックインアンプで検出信号を測定しながら時間遅延ステージで長い(例えば10mm程度)距離を動かす必要があり、測定時間が長いという問題があった。
【0006】
この問題に対し、被測定物を透過した時間波形の測定範囲をパルス近傍のみに限定し、時間波形の振幅および位相(時間遅れ)情報のみを測定することにより、時間波形の測定時間を短縮する方法が知られている。
【0007】
また、テラヘルツ波検出器および検出信号測定器からなる複数のテラヘルツ波検出手段を設け、プローブ光を複数に分岐して光路差を変えたものをそれぞれのテラヘルツ波検出器に入射することによって、テラヘルツ波時間波形における複数の点を1回のパルスで同時に取得する方法が知られている。例えば、4つの異なる光路差をつけたプローブ光を4組のテラヘルツ波検出手段に入射することによって時間遅延ステージの移動距離を1/4とし、時間波形の取得時間を1/4に短縮するものである。
【0008】
更に、階段状のミラーにプローブ光を入射し、反射距離の違いにより時間遅延を起こさせる光学遅延素子を設け、テラヘルツ波測定に適用することが知られている。例えば、各段の長さが5μmで幅が25μmで1000段の光学遅延素子にプローブ光を入射することによって、33fsec刻みで33psecの空間的な光学遅延のついたプローブ光を生成し、プローブ光ビーム内で光学遅延の付いた各領域を分岐してテラヘルツ波検出器に入射するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ch.Fattinger and D.Grischkowsky, “TeraHz Beams”, Applied Physics Letters, Vol.54, 490-492 (1989).
【非特許文献2】Pradarutti,B.; Matthaus,G.; Riehemann,S.;Notni,G.; Note,s.; Tunnertrmann,A., “Advanced analysis concepts for terahertz time domain imaging”, Optics Communications, Vol.278, 248〜254 (2007).
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特願2005−507238(WO2004/113885)
【特許文献2】特開2010−127831
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記に示したように、テラヘルツ時間領域分光法によるテラヘルツ波測定においては、テラヘルツ波の時間波形を高い分解能で測定するために時間遅延ステージの移動距離を長くする必要があり、測定時間が長いという問題があった。
【0012】
また、上記した時間波形の測定範囲をパルス近傍のみに限定する方法は、被測定物が薄いか屈折率が小さい場合は問題がないが、厚みや屈折率が大きい場合は時間波形の測定において測定範囲を狭くできず、この点の考慮がなされていないという問題がある。
【0013】
また、プローブ光を複数に分岐して光路差を変え、複数のテラヘルツ波検出手段を設ける方法は測定時間を短縮できるが、ロックインアンプなどの高価な増幅器を複数台備える必要があるためコストが増大すると言う問題がある。また、光学系も複雑になるため、調整に時間が掛かる、言う問題もある。
【0014】
また、階段状のミラーを設けて反射距離の違いにより時間遅延を起こさせる光学遅延素子を用いる方法は、プローブ光のビーム内で光学遅延の付いた各領域を分岐してそれぞれ別のテラヘルツ検出器に入射する必要があり、上記と同様にロックインアンプなどの高価な増幅器が多数必要になるためコストが増大し、光学系も非常に複雑になる。
【0015】
本発明は、上記の問題を解決するために考案されたもので、安価で、且つ簡素な構成でテラヘルツ波の時間波形を短時間に測定することが可能なテラヘルツ波測定装置とテラヘルツ波測定方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の一観点によれば、本発明のテラヘルツ波測定装置は、パルスレーザーをポンプ光とプローブ光とに分割するビームスプリッターと、ポンプ光の入射によりテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生器と、入射されたプローブ光から複数のパルスを生成するパルス列発生部と、パルス列をテラヘルツ波検出器に入射し、テラヘルツ波検出器に入射されたテラヘルツ波の電場の時間的変化を複数のパルスに基づいて測定するテラヘルツ波測定部とを備えるテラヘルツ波測定装置が提供される。
【0017】
また、発明の他の一観点によれば、本発明のテラヘルツ波測定方法は、パルスレーザーをポンプ光とプローブ光とに分割するビーム分割手順と、ポンプ光を入射してテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生手順と、プローブ光を入射しプローブ光から複数のパルスを生成するパルス列発生手順と、パルス列をテラヘルツ波検出器に入射し、テラヘルツ波検出器に入射されたテラヘルツ波の電場の時間的変化を複数のパルスに基づいて測定するテラヘルツ波測定手順と、を有するテラヘルツ波測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のテラヘルツ波測定装置およびテラヘルツ波測定方法により、生成した複数のパルスにより一括してテラヘルツ波の時間波形が取得できるので、時間遅延ステージの移動はパルス列のパルス数分の1の移動で済み、測定時間を短縮可能なテラヘルツ波測定装置及びテラヘルツ波測定方法を提供することができる。また、本発明のテラヘルツ波測定装置は、パルス列発生器を一般的な構成に新たに付加するだけでよいので、短時間の測定を可能としながら、安価で、かつ簡素な構成で提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1のテラヘルツ波測定装置の構成例である。
【図2】実施例1のテラヘルツ波測定装置のパルス列生成機構の構造例である。
【図3】実施例1のテラヘルツ波測定装置における時間波形測定例である。
【図4】実施例2のテラヘルツ波測定装置の構成例ある。
【図5】実施例3のテラヘルツ波測定装置のパルス列生成機構の構造例である。
【図6】実施例3のテラヘルツ波測定装置の可変パルス列生成ブロックの構造例である。
【図7】実施例3のテラヘルツ波測定装置における異なる時間間隔のパルス列による測定例である。
【図8】実施例4のパルス列生成ブロック例である。
【図9】従来技術のテラヘルツ波時間波形測定装置の構成例である。
【図10】テラヘルツ波光伝導アンテナの構造例である。
【図11】テラヘルツ波時間波形における振幅と位相(時間遅れ)例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の特徴を明確にするために、実施形態の説明の前に一般的な構成のテラヘルツ波測定装置例を図9を用いて説明する。
【0021】
図9において、テラヘルツ波測定装置100の光源は、100fsec程度、若しくはそれ以下で波長が800nm、繰り返し周波数が50MHzの超短パルスレーザー1を用いる。超短パルスレーザー1から出射したビームはビームスプリッター2によりポンプ光3とプローブ光11の2つのビームに分割される。ポンプ光3はミラー4aを介してプラスチック製の集光レンズ8aにより集光されてテラヘルツ波発生器5に入射し、半値幅が1psec程度、若しくはそれ以下のパルステラヘルツ波7(以降、単にテラヘルツ波という)を発生させる。テラヘルツ波発生器5にはバイアス電圧6が印加されている。テラヘルツ波発生器5で発生したテラヘルツ波7は、集光レンズ8b若しくは図示しない放物面ミラーを用いて集光され、被測定物9に入射する。被測定物9を透過したテラヘルツ波7は、再び集光レンズ8cを介してテラヘルツ波検出器10に集光して入射する。
【0022】
ビームスプリッター2で分割されたもう一方のビームであるプローブ光11は、ミラー4b、折り返しミラー12、直動ステージ13、ステージ制御装置14、およびミラー4cから構成される時間遅延機構15に入射する。そして、時間遅延機構15から出射したプローブ光11はミラー4d、ミラー4eおよび集光レンズ8dを介して、テラヘルツ波検出器10に入射される。テラヘルツ波検出器10では、プローブ光11である超短パルスレーザーが入射したタイミングと同じタイミングのテラヘルツ波7の電場に比例した電流が流れる。その電流はピコアンペアオーダーの微小信号であるが、ロックインアンプ16により測定し、測定された値はデータ記録部17で記録される。時間遅延機構15の直動ステージ13を徐々に動かすことにより、テラヘルツ波7に対するプローブ光11の波形取得のタイミングが徐々に変化するので、被測定物9を透過したテラヘルツ波7の電場の実時間変化(時間波形)が測定できる。更に、時間波形をフーリエ変換することにより、テラヘルツ波領域での被測定物9の分光スペクトルを取得できる。なお、前述の背景技術で説明した時間遅延ステージは、ここで説明した時間遅延機構15の直動ステージ13に当たる。
【0023】
上記で説明したテラヘルツ波発生器5は、例えば、図10に示すように、GaAs基板5a上に低温成長GaAs層5bが成膜されており、その上にNiによりダイポール型のアンテナ電極5cが形成されたものである。ダイポールの幅は10μm、間隔は10μmであり、電極間隔は30μmである。基板裏面には、発生したテラヘルツ波7を効率的に自由空間に放射できるように、例えば直径10mmのSi半球レンズ5dが配置されている。このアンテナ電極5c間に電圧源6からバイアス電圧を印加すると、パルス幅が1psecもしくはそれ以下のテラヘルツ波7が球面波で放射される。このテラヘルツ波7をポリエチレンなどのプラスチックで形成された集光レンズ8b(もしくは放物面ミラー)を用いて集光し、被測定物9に入射するのである。テラヘルツ波検出器10の構造はテラヘルツ波発生器5と同一である。
【0024】
テラヘルツ波検出器10では、被測定物9をテラヘルツ波7の伝播路中に置かない場合と置いた場合のテラヘルツ波の時間波形を測定する。図11の上の図は被測定物9を置かない場合の波形を示し、下の図は被測定物9を置いた場合の波形を示している。下の図に示されるように、被測定物9を通過することで振幅と位相が変化していることが判る。
【0025】
(実施例1)
本発明のテラヘルツ波測定装置101を、図1を用いて説明する。図1はテラヘルツ波測定装置101の構成例を示し、図9に示した従来技術のテラヘルツ波測定装置100に合わせて描いた図である。図1において図9と異なる箇所は、プローブ光11がテラヘルツ波検出器10に入射する前にパルス列生成機構20を設けた点であり、他の構成は図9と同一である(図9と同じ構成要素は同一の符号を付けている)。パルス列生成機構20は、ビームエキスパンダー21とパルス列生成ブロック22とで構成する。
【0026】
パルス列生成機構20について、図2を参照して詳細を説明する。図2(a)は、パルス列生成ブロック22の形状を側面図(左側の図)と正面図(右側の図)で示した図である。パルス列生成ブロック22は、屈折率が1.5の光学ガラスを素材として用い、側面図に示すように幅が3mm、高さが3mmの6段の階段を形成している。パルス列生成ブロック22の正面は18mmの正方形を成している。ここでは、階段を形成した段差面(図2(a)の正面図)にプローブ光を入射する。入射面と、その反対側の裏面には無反射コートを施し、この面からの反射を抑制している。パルス列生成ブロック22の形成方法は、ガラスブロックを研削加工した後に光学研磨しているが、両面に無反射コートした厚さ3mmのガラス板を組み合わせて密着させてもよい。いずれの方法でも一般的なガラス加工技術を用いて安価に作成することが可能である。
【0027】
パルス列は、図2(b)に示すようにパルス列生成ブロック22の入射面側にビームエキスパンダー21を配置し、ビームエキスパンダー21にプローブ光11を入射して生成する。より詳細には、ビームエキスパンダー21に右方から入射したプローブ光11はビームエキスパンダー21で直径18mmのビーム径になるように拡大されて出射し、パルス列生成ブロック22に入射する。パルス列生成ブロック22に入射したブロック光11は屈折率n、厚さTのパルス列生成ブロック22の媒質を通り、(n−1)・T/cだけ時間遅れが生じる(ここで、cは光速である)。各階段において正面から背面に向かう光路のパス(即ち、厚さT)の差により、パルス列生成ブロック22を透過したビームは、5psec間隔で6個のパルス列に空間的・時間的に分割されることになる。パルス列生成ブロック22の最も短いパス(図2(b)の下方の階段)を透過したプローブ光11は、入射したプローブ光11に対して5psecの遅れが生じ、最も長いパス(図2(b)の上方の階段)を透過したプローブ光11は30psecの遅れが生じる。
【0028】
図2(c)は、生成されたパルス列を模式的に示した図である。左の図は、入射したプローブ光11に対して生成されたパルス列を示している。また、右の図は、パルス列生成ブロック22から出射したプローブ光11のビームスポットにおける時間遅れを模式的に示した図である。左の図で各ビームの強度が中央部で強くなっている理由は、入射したプローブ光11のビーム内の強度分布はガウス分布を成しており、最も強度が強いビームスポットの中央部分は右の図に示されるようにビームスポットにおける時間遅れの15psecや20psecに対応していることによる。
【0029】
なお、実施例1では、パルス列生成ブロック22の階段を形成した面から拡大したプローブ光11を入射したが、階段を形成した面の反対の面からプローブ光11を入射させてもよい。
【0030】
次に図3を参照して、実施例1のテラヘルツ波測定装置101の作用について説明する。図3(a)は、被測定物9がない場合のテラヘルツ波の波形であり、図3(b)は被測定物9を伝播路中に置いた場合の波形を示す。また、図3(c)はテラヘルツ波検出器10に入射したパルス列を示す。テラヘルツ波検出器10では、前述の通り、プローブ光11の入射したタイミングと同じタイミングのテラヘルツ波電場を測定できる。5psec間隔で6個のパルス列をテラヘルツ波検出器10に入射すると、テラヘルツ波7の5psec置きの電場の和に比例した電流が流れる。従って、時間遅延機構15を5psec分、即ち0.75mm(ミラーを動かすことで往復分の距離が伸びるので移動距離は、遅延時間×光速×(1/2)となる。5psecの遅延させるためには、(5×10-12)×(3×108)/2=7.5×10-4mとなる)動かしながら、テラヘルツ波検出器10の電流信号を測定することによって、テラヘルツ波7の時間波形を取得できる。更に、被測定物9により生じるテラヘルツ波7の時間遅れが30psecあっても、時間遅延機構15を動かす距離はパルス列の時間間隔である5psec分であり、高速化を実現できる。
【0031】
以上で説明したように、実施例1のテラヘルツ波測定装置101では、一般的な構成のテラヘルツ波測定装置100にビームエキスパンダー21およびパルス列生成ブロック22からなるパルス列生成機構20を追加するだけの簡易な構成で、時間波形を短時間で取得することが可能である。また、パルス列生成機構20は安価な材料で製作でき、大幅なコストアップにはならない。
【0032】
(実施例2)
実施例1では、プローブ光11を階段状のパルス列生成ブロック22に「透過」させて等間隔のパルス列を生成させたが、実施例2では、プローブ光11を階段状のパルス列生成ブロック34に「反射」させて等間隔のパルス列を生成させものである。
【0033】
実施例1と同様に、実施例2のテラヘルツ波測定装置102の構成を図4に示すが、パルス列生成機構30以外の構成については実施例1と同様であるので、パルス列生成機構30のみについて説明する。
【0034】
図4に示すように、パルス列生成機構30はビームエキスパンダー31、ミラー32、ビームスプリッター33、およびパルス列生成ブロック34から構成する。ビームエキスパンダー31は実施例1のビームエキスパンダー21と同一のものである。パルス列生成ブロック34は実施例1のパルス列生成ブロック22の表面に高反射コートをしたものでよく、寸法も同様である。次に、パルス列生成の仕組みを説明する。
【0035】
まず、実施例1と同様にプローブ光11のレーザービームをビームエキスパンダー31に入射し、直径18mmのビーム径になるように拡大する。ビーム径が拡大されたプローブ光11は、ミラー32、ビームスプリッター33を介してパルス列生成ブロック34に入射する。階段状のパルス列生成ブロック34で反射したプローブ光11のビームは、反射位置の違いにより光路差が生じ、5psec間隔で6個のパルス列に空間的、時間的に分割される。このパルス列をビームスプリッター33により反射してテラヘルツ波検出器10に入射する。なお、本発明の実施例2のテラヘルツ波測定装置102の作用は実施例1と同様である。
【0036】
以上で説明したように、実施例2のテラヘルツ波測定装置102では、ビームエキスパンダー31、ミラー32、ビームスプリッター33、パルス列生成ブロック34からなるパルス列生成機構30を追加するだけの簡易な構成で、時間波形を短時間で取得することが可能である。また、パルス列生成機構20は安価に製作できるので大幅なコストアップにはならない。更に、反射光学系で構成しているため、媒質の波長分散によるパルス幅の伸張がないため、より正確に時間波形を取得できる。
【0037】
(実施例3)
実施例3も、実施例2と同様にプローブ光11を階段状の反射面に反射させてパルス列を生成するものであるが、実施例3では階段を移動して反射面の光路差を変え、2種類の異なる等間隔のパルス列を生成するものである。
【0038】
実施例3は、図5に示すようにパルス列生成機構40は、実施例2のパルス列生成機構30のパルス列生成ブロック34以外の構成については実施例2と同様であるので、パルス列生成ブロック34に対応する可変パルス列生成ブロック50のみについて説明する。
【0039】
図6は、可変パルス列生成ブロック50の構成をより詳細に示し、図6(a)に正面図を、図6(b)に側面図を示す。入射するプローブ光11を反射する面が正面である。図6に示されるように、可変パルス列生成ブロック50は反射体51、バネ53、押し当て板54、直動ステッピングモーターステージ55を有している。反射体51は、厚さ3mmのガラス板の一つの端面を光学研磨し反射コート52を施したもので6枚を重ね合わせている。反射コート52を施した面が正面である。それぞれの反射体51は、正面と反対方向(図6(b)の右方向)にバネ53によって付勢されている。また、反射体51の背面は押し当て板54によって押し当てられている。そして、その押し当て板54は直動ステッピングモーターステージ55により下方の端部を支点として反射体51を図6(b)の左右に可動させることができる。即ち、直動ステッピングモーターステージ55を制御することで、6段の反射体の段差を変えることができる、これにより生成されるパルス列の時間間隔を変えることができる。パルス列生成の仕組みは実施例2と同様であるので省略する。
【0040】
次に、実施例3のテラヘルツ波測定装置の作用を説明する。テラヘルツ波の時間波形を短時間で取得できることは言うまでもないが、2種類のパルス列間隔でテラヘルツ波時間波形を取得し、解析することでより正確に位相(時間遅れ)情報を取得することが可能である。例えば、テラヘルツ波領域での屈折率が1.3で厚みが22mmの媒質(時間遅れは22psec)を測定する例で考える。図7は、図7(a)にテラヘルツ波の波形を、図7(b)に5psecのパルス列と測定波形を、そして図7(c)に6psecのパルス列と測定波形を示している。図7(b)に示すように、パルス列の時間間隔を5psecとした場合には、図7(b)の右図に示されるように2psecの位置にテラヘルツ波パルスのピークが測定され、被測定物の時間遅れが5N+2psec(Nは整数)と推測できる。一方、パルス列の時間間隔を6psecにして測定した場合には、図7(c)の右図に示されるように4psecの位置にピークが測定され、被測定物の時間遅れが6M+4psec(Mは整数)と推測できる。これら2つの測定結果から、(N,M)=(4,3)、(8,6)、(12,9)等に推測できるが、6個のパルス列でテラヘルツ波パルスを測定できていることを考慮すると、(N,M)=(4,3)と確定でき、時間遅れが22psecであることを検出できる。一般的な方法では、22psec分だけ時間遅延機構15を動かす必要があったが、本発明の実施例3のテラヘルツ波測定装置では、5+6=11psec分だけ時間遅延機構15を動かせばよいので、時間波形の取得時間の短縮が実現できる。もちろん、パルス列数が多い場合、理論的には(2つのパルス列間隔の最小公倍数)×(整数)psecの不確かさは残るが、テラヘルツ波が透過できる媒質の屈折率と厚さを考慮すると、ほぼ問題ない。
【0041】
以上で説明したように、本発明の実施例3のテラヘルツ波測定装置では、ビームエキスパンダー31やミラー32、可変パルス列生成ブロック50、直動ステッピングモーターステージ55などの比較的安価で製作可能なパルス列生成機構40を追加するだけの簡易な構成で、時間波形を短時間で取得することが可能である。更に、パルス列の時間間隔を変えられるため、例えば2種類の時間間隔で時間波形を取得し解析することで、より正確に位相(時間遅れ)情報を取得できる。
【0042】
(実施例4)
上記に示した実施例では、生成したパルス列の強度は入射したプローブ光11のビーム内の強度分布に基づいて一定ではなかった。実施例4では、生成したパルス列の強度を一定とするものである。ここでは、実施例2に示した反射型のパルス列生成ブロック34をパルス列生成ブロック60に置き換えて、パルス列の強度を一定とする方法を示す。
【0043】
図8はパルス列生成ブロック60の例を示し、図8(a)は実施例4のパルス列生成ブロック60の構造を正面図と側面図で示し、図8(b)は反射面の入射光(プローブ光11)の強度分布とその入射光に基づいて反射される各反射面の強度を示している。
【0044】
図8(a)に示すように、パルス列生成ブロック60は円筒形のガラスブロックを階段状に研削加工した入射面(正面が入射面となる)に高反射コート61を施したものであり、実施例2と同様に階段の高さは3mmと一定であるが、階段の幅を各段で変えている。入射されるプローブ光11のレーザービームの強度は、ビームスポット内で図8(b)に示すようなガウス分布で示されるため、各段の幅を調整して空間的・時間的に分割されたパルス列の各強度を一定になるようにしている。各円筒の半径は、例えばビーム直径18mmのビームをビーム半径内の強度を6等分することを考えると、d1=1.806mm、d2=3.69mm、d3=5.752mm、d4=8.176mm、d5=11.418mm、d6=18mmとすればよい。こうすることで、各段の反射面からの強度は一定となる。即ち、P1=P2=P3・・=P6。
【0045】
実施例4のテラヘルツ波測定装置の時間波形の測定においても、複数のパルス列によりその間隔分だけ時間遅延ステージを動かすことで時間波形を測定できることは、他の実施例と同様である。更に、パルス列の強度が一定であるため、位相情報だけでなく、振幅情報もより正確に取得することが可能である。
【0046】
本発明の実施例4のテラヘルツ波測定装置は、実施例2と同様にパルス列生成機構20を安価に製作できるので大幅なコストアップにはならない。更に、パルス列の強度が一定であるため、位相情報だけでなく振幅情報も正確に取得することができる。
【0047】
なお、実施例1に示した透過型のパルス列生成ブロック22を置き換える場合は、図8の高反射コート61を設けず、替わりに無反射膜を階段を形成した面とその反対面に設ける。拡大したプローブ光11の入射は階段を形成した面、またはその反対面から行なう。
【0048】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は各実施例に記載された構成、条件等に限られるものではなく、各種の変更が可能である。例えば、テラヘルツ波を発生させる手段としてテラヘルツ波光伝導アンテナを用いたが、ZnTeなどの非線形光学結晶、Si、GaPなどの半導体材料を用いることが可能である。また、テラヘルツ波を検出する手段でも、ZnTeなどの非線形光学結晶を用い、プローブ光の偏光方向の傾きとしてテラヘルツ電場を検出してもよい。更に、ここでは被測定物の1点を透過したテラヘルツ波の時間波形を取得する構成で説明してきたが、テラヘルツ波の光軸と垂直な平面上で被測定物を2次元走査することによりテラヘルツ波特性の2次元分布を知ることができる。
【0049】
なお、上記した実施例はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0050】
1 超短パルスレーザー
2 ビームスプリッター
3 ポンプ光
4a、4b、4c、4d、4e ミラー
5 テラヘルツ波発生用光導電アンテナ(テラヘルツ波発生器)
5a GaAs基板
5b 低温成長GaAs層
5c アンテナ電極
5d Si半球レンズ
6 バイアス電圧
7 テラヘルツ波
8a、8b、8c、8d 集光レンズ
9 被測定物
10 テラヘルツ波検出用光導電アンテナ(テラヘルツ波検出器)
11 プローブ光
12 折り返しミラー
13 直動ステージ
14 ステージ制御装置
15 時間遅延機構
16 ロックインアンプ
17 データ記録部
20 パルス列生成機構
21 ビームエキスパンダー
22 パルス列生成ブロック
30 パルス列生成機構
31 ビームエキスパンダー
32 ミラー
33 ビームスプリッター
34 パルス列生成ブロック
40 パルス列生成機構
50 可変パルス列生成ブロック
51 反射体
52 反射コート
53 バネ
54 押し当て板
55 直動ステッピングモーターステージ
60 パルス列生成ブロック
61 高反射コート
100 テラヘルツ波測定装置
101 テラヘルツ波測定装置
102 テラヘルツ波測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザーをポンプ光とプローブ光とに分割するビームスプリッターと、
前記ポンプ光の入射によりテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生器と、
入射された前記プローブ光から複数のパルスを生成するパルス列発生部と、
前記パルス列をテラヘルツ波検出器に入射し、該テラヘルツ波検出器に入射された前記テラヘルツ波の電場の時間的変化を前記複数のパルスに基づいて測定するテラヘルツ波測定部と
を備えることを特徴とするテラヘルツ波測定装置。
【請求項2】
前記パルス列発生部は、
前記プローブ光のビーム径を拡大するビーム径拡大部と、
所定の屈折率を有する媒質で構成され、段差が一定の階段状を成す第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とを有するパルス列生成ブロックとを有し、
入射した前記プローブ光のビーム径を前記ビーム径拡大部により拡大し、ビーム径を拡大した該プローブ光を前記パルス列生成ブロックの第1の面から前記第2の面に、または該第2の面から該第1の面に透過させて前記複数のパルスを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波測定装置。
【請求項3】
前記パルス列発生部は、
前記プローブ光のビーム径を拡大するビーム径拡大部と、
段差が一定の階段状を成す反射面を有するパルス列生成ブロックとを有し、
入射した前記プローブ光のビーム径を前記ビーム径拡大部により拡大し、ビーム径を拡大した該プローブ光を前記パルス列生成ブロックの前記反射面で反射させて前記複数のパルスを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波測定装置。
【請求項4】
前記パルス列発生部は、
前記プローブ光のビーム径を拡大するビーム径拡大部と、
一つの面に反射面を有する複数の反射体が同一方向に該反射面を向けて階段状に配置され、該配置された階段状の段差が可変自在の可変反射部と、該可変反射部の段差を制御する段差制御部とを備えるパルス列生成ブロックとを有し、
入射した前記プローブ光のビーム径を前記ビーム径拡大部により拡大し、ビーム径を拡大した該プローブ光を、前記段差制御部により第1の段差と第2段差にそれぞれ制御された前記可変反射部の反射面で反射させて2種類の前記複数のパルスを生成し
前記テラヘルツ波測定部は、前記パルス列発生部により生成された前記2種類の複数のパルスをそれぞれ前記検出器に入射し、該検出器に入射された前記テラヘルツ波の電場の時間的変化を測定する
ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波測定装置。
【請求項5】
前記複数のパルスは、時間的に等間隔である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載のテラヘルツ波測定装置。
【請求項6】
前記パルス列発生部で生成された前記複数のパルスは、パルスの強度が一定である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載のテラヘルツ波測定装置。
【請求項7】
パルスレーザーをポンプ光とプローブ光とに分割するビーム分割手順と、
前記ポンプ光を入射してテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生手順と、
前記プローブ光を入射し、該プローブ光から複数のパルスを生成するパルス列発生手順と、
前記パルス列をテラヘルツ波検出器に入射し、該テラヘルツ波検出器に入射された前記テラヘルツ波の電場の時間的変化を前記複数のパルスに基づいて測定するテラヘルツ波測定手順と
を有することを特徴とするテラヘルツ波測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−58073(P2012−58073A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201496(P2010−201496)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】