説明

テラヘルツ波発生装置及びテラヘルツ波発生方法

【課題】高効率にテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生装置及び発生方法を提供すること。
【解決手段】パルス時間幅が350fs〜10psで、パルスエネルギーが2μJ〜1Jの短パルスレーザ光を発生するパルス光源1と、パルス光源1から発生された短パルスレーザ光のパルスフロントPF0を光軸zと直交する面に対して所定の角度α傾斜させるパルスフロント傾斜手段2と、パルスフロント傾斜手段2で所定の傾斜角度αに傾斜された短パルスレーザ光が入射されてテラヘルツ波を発生する非線形結晶3と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
テラヘルツ波は周波数が0.1〜10THz(波長が30μm〜3000μm)の電磁波であり、波長が赤外〜遠赤外領域とほぼ一致する。テラヘルツ波帯はこれまで未開拓電磁波であったが、この周波数帯の電磁波の特徴を生かした時間領域分光、タイム・オブ・フライト法による形状や膜厚測定、イメージング及びトモグラフィーによる材料のキャラクタリゼーション、環境計測、生物や医学への応用などが検討され、近年重要になってきている。本発明は、テラヘルツ波の応用に必要不可欠なテラヘルツ波発生装置及びテラヘルツ波発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力のテラヘルツ波を発生させるために、テラヘルツ波発生用非線形結晶中でのポンプ光(励起光)のパルスフロントを、テラヘルツ波の位相速度とポンプ光の群速度とで決まる特定の角度に傾斜させ、非線形結晶の光整流効果でポンプ光パルスフロントの法線ベクトル方向に高強度のテラヘルツ波を発生させる方法が開発されている(例えば、非特許文献1〜3参照。)。
【非特許文献1】J. Hebling et al., ” Velocity matching by pulse front tilting for large-area THz-pulse generation “, Opt. Express Vol. 10, pp1161-1166 (2002)
【非特許文献2】M. C. Hoffmann et al., ”Efficient terahertz generation by optical rectification at 1035 nm “, Opt. Express Vol. 15, pp11706-11713 (2007)
【非特許文献3】J. Hebling et al., ” Tunable THz pulse generation by optical rectification of ultrashort laser pulses with tilted pulse fronts “, Appl. Phys. B Vol.78, pp593-599 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の光整流効果を用いたテラヘルツ波の発生では、非線形結晶に入射させるポンプ光パルスの尖頭値を高めるためにポンプ光パルスのパルス時間幅を300fs以下、理想的には200fs以下にしなければならない。
【0004】
ポンプ光パルスのパルス時間幅が300fs以下の場合、発生するテラヘルツ波のエネルギーはポンプ光パルスのエネルギーに比例するが、ポンプ光パルスエネルギーが大きくなると飽和してしまい、エネルギーの大きなテラヘルツ波を効率よく発生することができない。
【0005】
なお、上記のテラヘルツ波のエネルギーが飽和する理由は、ポンプ光パルスのピークパワー(尖頭値)が高いことによる2フォトン及び3フォトン吸収に基づくと解釈されている(非特許文献2参照。)。また、非線形結晶の表面付近で発生したテラヘルツ波が非線形結晶中を伝播する過程で、テラヘルツ波のスペクトルの一部がフォノンに吸収される現象も関与していると考えられる。
【0006】
いずれにしても、上記従来のテラヘルツ波発生装置及び発生方法では、高々、ポンプ光パルスエネルギーに比例するテラヘルツ波しか得られず、テラヘルツ波の発生効率が低かった。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、従来の光整流過程によるテラヘルツ波発生装置及び発生方法より高効率にテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生装置及び発生方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明のテラヘルツ波発生装置は、パルス時間幅が350fs〜10psで、パルスエネルギーが2μJ〜1Jの短パルスレーザ光を発生するパルス光源と、前記パルス光源から発生された前記短パルスレーザ光のパルスフロントを光軸と直交する面に対して所定の角度傾斜させるパルスフロント傾斜手段と、前記パルスフロント傾斜手段で所定の傾斜角度に傾斜された前記短パルスレーザ光が入射されてテラヘルツ波を発生する非線形結晶と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記テラヘルツ波発生装置において、前記非線形結晶から発生されるテラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出手段を備えるものとすることができる。
【0010】
また、前記テラヘルツ波検出手段は、EO(Electro-optic)サンプリング型であり、前記パルス光源から発生される短パルスレーザ光をポンプ光パルスとプローブ光パルスに分割する光分割手段と、前記光分割手段で分割された前記プローブ光パルスの時間遅延を制御する光学遅延手段と、前記光分割手段で分割されたプローブ光パルスを増幅する増幅手段及び或いは前記プローブ光パルスのパルス時間幅を圧縮する圧縮器を備えてもよい。
【0011】
また、前記パルス光源は、ファイバーレーザを含むものとすると良い。
【0012】
上記の課題を解決するためになされた本発明のテラヘルツ波発生方法は、パルス時間幅が350fs〜10psで、パルスエネルギーが2μJ〜1Jの短パルスレーザ光のパルスフロントを光軸と直交する面に対して所定の角度傾斜させるパルスフロント傾斜ステップと、前記パルスフロント傾斜ステップで傾斜させられた前記短パルスレーザ光を非線形結晶に入射させてテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のテラヘルツ波発生装置及び発生方法は、パルス時間幅が350fs〜10psで、パルスエネルギーが2μJ〜1Jの短パルスレーザ光で非線形結晶を励起(ポンプ)するので、前記パルスエネルギーの高次に比例するエネルギーをもつテラヘルツ波を発生することができる。その結果、本発明のテラヘルツ波発生装置及び発生方法は、テラヘルツ波の発生効率が高い。
【0014】
テラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出手段を備えるので、応用性が高い。すなわち、本発明のテラヘルツ波発生装置では、非線形結晶とテラヘルツ波検出手段との間のテラヘルツ波の光路中に被測定対象を配置するだけで被測定対象の特性を測定することができる。
【0015】
プローブ光パルスを増幅する増幅手段を備えていると、パルス光源から発生される短パルスレーザ光の大部分をポンプ光パルスとすることができる。その結果エネルギーの大きなテラヘルツ波を発生することできる。
【0016】
プローブ光パルスのパルス時間幅を圧縮する圧縮器を備えていると、短パルスレーザ光のパルス時間幅が大きくても、圧縮器で圧縮したプローブ光パルスとすることができ、テラヘルツ波の検出分解能が上がる。
【0017】
パルス光源がファイバーレーザであると、バルク光学部品が少なく装置の小型化や信頼性向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態を図面を参照して詳しく説明する。
【0019】
(実施形態1)図1は、実施形態1のテラヘルツ波発生装置の概略構成図である。
【0020】
本実施形態のテラヘルツ波発生装置は、図1に示すように、パルス光源1と、パルスフロント傾斜手段2と、非線形結晶3と、を備えている。
【0021】
パルス光源1には、たとえば繰り返し周波数100kHz、パルス時間幅600fs、中心波長1045nm、平均出力パワー10〜1000mW、パルスエネルギー0.1μJ〜10μJのYbドープファイバーレーザ(IMRA America Inc. D1000)を用いることができる。
【0022】
このパルス光源1は、励起パワーを変えることで平均出力パワーを10〜1000mWの範囲で可変である。パルス光源1自身で平均出力パワーを変えることができない場合は、パルス光源1の下流に、たとえば、可変式NDフィルターを配置して、平均出力パワーを可変にしても良い。
【0023】
パルスフロント傾斜手段2は、回折格子2aと、レンズ2b、2cを備えている。2dは、光路折り曲げミラーである。このパルスフロント傾斜手段2は、光軸zと直交する面に平行なパルスフロントPFをもつ短パルスレーザ光を光軸zと直交する面に対して角度α傾斜したパルスフロントPFをもつ短パルスレーザ光にする。
【0024】
なお、パルスフロント傾斜手段2は、回折格子2aだけでも良い。レンズ2b、2cは、パルスフロント傾斜角を可変にするために用いられている。本実施形態では、2aとして回折格子を用いたが、エシェロン(階段格子)でも良い。
【0025】
非線形結晶3には、たとえば0.6%のMgOをドープしたLiNbO3結晶を用いることができる。LiNbO3結晶3は、図1に示すように光軸zと直交する入射面3aに対して角度βの出射面3bを持つように直方体をカットしたものである。角度βは、短パルスレーザ光の結晶3中での群速度Vgrpと発生するテラヘルツ波の位相速度VphTHzとで決まり、次式を満たすように設計されている。
【0026】
phTHz=Vgrpcosβ (1)
非線形結晶3が0.6%のMgOをドープしたLiNbO3結晶の場合、β=64°である。
【0027】
非線形結晶3に入射する短パルスレーザ光のパルスフロントPFの傾斜角αは、非線形結晶3の光整流現象によりテラヘルツ波が効率よく発生されるように、次式を満たすように設計されている。
【0028】
tanα=ngrtanβ (2)
ここで、ngrは短パルスレーザ光の非線形結晶3中での群屈折率である。非線形結晶3が0.6%のMgOをドープしたLiNbO3結晶の場合、α=78°である。
【0029】
したがって、上記のパルスフロント傾斜手段2は、非線形結晶3に入射する短パルスレーザ光のパルスフロントPFの傾斜角α=78°になるように調整される。すなわち、α=78°になるように、本実施形態では、2aにグルーブ数1800本/mmの回折格子を用い、2bに焦点距離100mmのレンズ、2cに焦点距離150mmのレンズを用いた。そして、回折格子2aとレンズ2bとの距離を175mmに、レンズ2bとレンズ2cとの間隔を45mm、レンズ2cから結晶3までの距離を100mmに調節した。なお、このときの結晶3の入射面3aでの短パルスレーザ光のスポット径は約0.7mmであった。
【0030】
本実施形態では、非線形結晶3にMgO:LiNbO3用いたが、LiNbO3、LiTaO3、BBO(βBaB2O2)、LBO(LiB3O5)、KTP(KTiOPO4)、AgGaS2、AgGaSe2等の波長変換用非線形結晶を使用しても良い。
【0031】
また、非線形結晶3は、ZnTe、ZnSe、GaP、GaAs、CdTe、GaSe等のII−VI族系、III−V族系の半導体でも良い。
【0032】
また、非線形結晶3に、KDP(KH2PO4)、DKDP(KD2PO4)、ADP(NH4H2PO4)、KNbO3、BaTiO3、鉛系またはジルコニウム系強誘電体等の強誘電体結晶を使用しても良い。
【0033】
また、非線形結晶3は、PMN(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3)、PZN(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3)、PSN(Pb(Sc1/2Nb1/2)O3)、PST(Pb(Sc1/2Ta1/2)O3)、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3)、PZT(Pb(Zr,Ti)O3)等の鉛系リラクサー及びKTa1-xNbxO3、K1-xLixTaO3、Sr1-xCaxTiO3等の量子常誘電体系リラクサーでも良い。
【0034】
さらに、非線形結晶3にDAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)等の有機非線形結晶を用いることができる。
【0035】
次に本実施形態のテラヘルツ波発生装置のテラヘルツ波発生特性を説明する。図2〜図4は、非線形結晶3から発生されたテラヘルツ波THzを図示しないEOサンプリング型検出手段で検出した結果である。
【0036】
図2は、非線形結晶3に入射する短パルスレーザ光(ポンプ光)の平均パワーPAVを14mW、18mW、24mW、32mW、46mW、60mW、90mW、140mW、215mW、370mW、850mWと変化させたときのテラヘルツ波の電場振幅時間分解波形であり、A1はPAV=14mWのときの波形、A2はPAV=18mW、・・・・・A8はPAV=140mWの波形、A9はPAV=215mWの波形、A10はPAV=400mWの波形、A11はPAV=850mWの波形をそれぞれ表している(ただし、A1〜A7は図2では波形が重なっているため付与されていない。)。PAV=215mWの波形A9からピーク値が急激に増大していることが図2から分かる。
【0037】
図3は、図2の波形をフーリエ変換して求めたテラヘルツ波のパワースペクトルで、A11はPAV=850mWのスペクトル、A10はPAV=370mWのスペクトル、A7はPAV=90mWのスペクトルである。
【0038】
図4は、図2のピーク値を縦軸に取り、横軸にPAVを取ってピーク値と平均パワーの関係を図示したグラフである。PAV=215mWのときのA9が直線Sから外れだし、それ以後、急激に(非線形に)電場信号ピーク値が増大することが分かる。PAV=215mWのときの短パルスレーザ光のエネルギーは約2μJ(=215mW/100kHz)であり、これから、パルス時間幅が600fsの場合、短パルスレーザ光のパルスエネルギーが2μJ以上のときテラヘルツ波が効率よく発生することがわかる。したがって、本実施形態のテラヘルツ波発生装置においてパルス光源1に用いたYbドープファイバーレーザの平均出力パワーの可変範囲を200〜1000mWにしたものが、本発明のテラヘルツ波発生装置になる。なお、パルス時間幅が600fs(一定)で平均出力パワーの可変範囲が200〜1000mWであることは、短パルスレーザ光のパルスエネルギーが2〜10μJであることを意味する。
【0039】
図4に示すように、短パルスレーザ光のパルスエネルギーが約2μJを越えると急激にテラヘルツ波のエネルギーが増大するのは、図2及び図3から次のような現象が起きていることによると考えられる。図2からは短パルスレーザ光(励起光)の平均パワー(パルスエネルギー)の増加に伴い電場振幅が急激に増大するが、A11(PAV=850mW、パルスエネルギー8.5μJ)の電場波形においてテラヘルツパルス幅が狭くなっていることが分かる。また、図3からは、AよりA10、A10よりA11とスペクトル幅が拡がることがわかる。
【0040】
図2及び図3からわかる上記の知見から、パルス時間幅が600fsでパルスエネルギーが約2μJ以上の短パルスレーザ光で非線形結晶3が励起されると、非線形結晶3の非線形二次感受率χ(2)を用いた非線形二次過程(χ(2)過程)が多段的(カスケード)に起き、コヒーレント・アンチストークス・ラマン散乱(CARS)とコヒーレント・ストークス・ラマン散乱(CSRS)或いは誘導ラマン散乱(SRS)によって、励起光のスペクトル幅を拡げると共に、非線形結晶3内でパルス圧縮を起こし励起光が短パルス化されるものと考えられる。また、初段のχ(2)過程により発生したテラヘルツ波は、2段目のχ(2)過程により赤外パルスに変換され、この赤外パルスは吸収のない非線形結晶3内を進み、3段目のχ(2)過程によりテラヘルツ波に変換されるため、テラヘルツ波の非線形結晶3による減衰が小さくなると考えられる。
【0041】
本実施形態では、パルス光源に様々なレーザ(チタンサファイアレーザ、イッテルビウム固体レーザ再生増幅器、他)とパルス時間幅伸長器と組み合わせた光源を用いて、様々なパルス時間幅、様々なパルスエネルギーをもつ短パルスレーザ光を発生させ、図4と同様なテラヘルツ波発生特性を調べた。その結果、パルス時間幅が350fs〜10psで、パルスエネルギーが2μJ〜1Jの短パルスレーザ光が非線形結晶に励起光として入射すると、テラヘルツ波の電場信号ピーク値が急激に(非線形に)増大することが分かった。
【0042】
パルス時間幅が350fs〜10psで、パルスエネルギーが2μJ〜1Jの短パルスレーザ光のピークパワーは0.2MW〜2.8TWであるが、ピークパワーが高すぎると、多光子吸収やフォノンによる吸収によりテラヘルツ波の電場信号ピーク値の増大率の低下が起き且つ非線形結晶の光損傷及び破壊が起きやすくなる。したがって、パルス時間幅が350fs〜10psで、パルスエネルギーが2μJ〜1mJの短パルスレーザ光が好ましい。この場合の短パルスレーザ光のピークパワーは、0.2MW〜2.8GWである。
【0043】
(実施形態2)本実施形態のテラヘルツ波発生装置は、実施形態1のテラヘルツ波発生装置にテラヘルツ波検出手段を付加した以外は実施形態1のテラヘルツ波発生装置と同じである。同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0044】
本実施形態のテラヘルツ波発生装置は、図5に示すように非線形結晶3から発生されるテラヘルツ波THzを受波する位置にテラヘルツ波検出手段4を備えている。
【0045】
テラヘルツ波検出手段4として、液体ヘリウム冷却ボロメータ(Infrared Labs.製)やパイロメータ等を用いることができる。
【0046】
本実施形態のテラヘルツ波発生装置は、テラヘルツ波検出手段4を備えているので、非線形結晶3とテラヘルツ波検出手段4の間のテラヘルツ波THz光路中に被測定対象を配置するだけで、非測定対象の物理量を測定することができる。
【0047】
(実施形態3)本実施形態のテラヘルツ波発生装置は、実施形態2のテラヘルツ波発生装置のテラヘルツ波検出手段がEOサンプリング型に変更され、且つそれに伴って必要な光学系が付加されたものである。同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0048】
本実施形態のテラヘルツ波発生装置は、図6に示すように、パルス光源1から発生される短パルスレーザ光を非線形結晶3を励起するポンプ光Lpuとプローブ光Lprとに分割する光分割手段6と、プローブ光Lprの時間遅延を制御する光学遅延手段7と、EOサンプリング型テラヘルツ波検出手段5とを備えている。
【0049】
光分割手段6として、たとえばビームスプリッタを用いることができる。ビームスプリッタ6は、部分反射・部分透過板である。ビームスプリッタ6で反射された短パルスレーザ光がプローブ光Lprになり、透過された短パルスレーザ光がポンプ光Lpuになる。通常、テラヘルツ波を発生させるためのポンプ光Lpuを強くする必要があり、たとえば、反射率5%、透過率95%のビームスプリッタ6が使用される。
【0050】
光学遅延手段7は、交差ミラー7aと交差ミラー7aを矢印A方向に移動させる移動機構7bとを備え、ポンプ光Lpuで非線形結晶3が励起されて発生されるテラヘルツ波THzに対してプローブ光Lprに時間的な遅れ或いは進みを発生させる。なお、移動機構7bは、パソコン14で制御される。7cは、光路折り曲げミラーである。
【0051】
EOサンプリング型テラヘルツ波検出手段5は、EO(電気光学)結晶5a、1/4波長板5b、検光子5c、バランス検出器5dを備えている。5eは、レンズである。EO結晶5aには、(110)面で軸出しされた厚さ1mmのCdTe結晶を使用することができる。
【0052】
なお、EO結晶5aは、ZnTe、ZnSe、GaP、GaAs、CdTe、GaSe等のII−VI族系、III−V族系の半導体でも良い。
【0053】
また、EO結晶5aとしては、MgO:LiNbO3、LiNbO3、LiTaO3、BBO、LBO、KTP、AgGaS2、AgGaSe2等の波長変換用非線形結晶を使用しても良い。
【0054】
また、EO結晶5a にKDP、DKDP、ADP、KNbO3、BaTiO3、鉛系またはジルコニウム系強誘電体等の強誘電体結晶を使用しても良い。
【0055】
また、EO結晶5a は、PMN、PZN、PSN、PST、PLZT、PZT等の鉛系リラクサー及びKTa1-xNbxO3、K1-xLixTaO3、Sr1-xCaxTiO3等の量子常誘電体系リラクサーでも良い。
【0056】
さらに、EO結晶5a にDAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)等の有機非線形結晶を用いることができる。
【0057】
非線形結晶3から発生されたテラヘルツ波THzは、二つの軸外し放物面鏡8a、8bでコリメートされ、CdTe結晶5aに集光照射される。
【0058】
一方、光学遅延手段7で時間遅延が制御されたプローブ光Lprは、1/2波長板9で偏光が制御され、レンズ10で折り曲げミラー11と軸外し放物面鏡8bの孔を介してCdTe結晶5aに集光照射される。
【0059】
EO結晶5aは、テラヘルツ波THzが照射されて誘起される光電場によって、プローブ光Lprの偏光を回転させる。
【0060】
1/4波長板5bは、テラヘルツ波THzによりEO結晶5aに誘起される複屈折によって生じるプローブ光Lprの偏光回転を任意に回転させる。
【0061】
バランス検出器5dは、テラヘルツ波THzによるEO結晶5aに誘起される複屈折で生じるプローブ光Lprの偏光回転量を、差動増幅機構を用いて抽出して微量検出する。
【0062】
12はボックスカー、13はAD変換器、14はパソコンである。
【0063】
テラヘルツ波THzとプローブ光LprがEO結晶5a内で時間的に重なったときのみ、テラヘルツ波THzによる複屈折をプローブ光Lprが受け、これにより、直線偏光のプローブ光Lprが楕円偏光化される。複屈折量は、テラヘルツ波THzの強度に比例する。複屈折を受けたプローブ光Lprは、1/4波長板5bで楕円偏光の主軸が回転し、検光子5cに入射される。検光子5cは、入射されたプローブ光Lprをp偏光とs偏光とに分岐し、バランス検出器5dに入射させる。すると、バランス検出器5dは、上記二つの偏光成分の光信号の強度差に比例する電気信号をボックスカー12に出力する。ここで、この電気信号は、テラヘルツ波THzによる電気光学効果を受けたプローブ光Lprの複屈折量であり、この複屈折量はテラヘルツ波THzの強度に比例する。プローブ光Lprを時間遅延して、この電気信号をパソコン14に取り込むことで、図2に示すようなテラヘルツ波THzの電場振幅時間分解波形が得られる。
【0064】
本実施形態のテラヘルツ波発生装置は、EOサンプリング型テラヘルツ波検出手段5を備えているので、テラヘルツ波THzの位相情報も利用することができる。その結果、軸外し放物面鏡8a、8b間に配置された被測定対象を、たとえばタイム・オブ・フライト法を用いて計測することができ、応用性が格段に拡がる。
【0065】
(実施形態4)本実施形態のテラヘルツ波発生装置は、プローブ光を増幅する増幅器とプローブ光のパルス時間幅を圧縮する圧縮器とを付加した以外、実施形態3のテラヘルツ波発生装置と同じである。同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0066】
本実施形態のテラヘルツ波発生装置は、図7に示すように、プローブ光Lprの光路中に光増幅器15と圧縮器16とを備えている。
【0067】
光増幅器15としては、ファイバ増幅器を使用することができる。ファイバ増幅器としては、モード変換器を備えたマルチモードファイバ増幅器(特開平11−74593参照。)を用いると良い。この増幅器でプローブ光Lprを増幅すると、ビーム品質を劣化させることなく、強いプローブ光にすることができるからである。その結果、光分割手段6で短パルスレーザ光の殆どをポンプ光Lpuに分割することができる。また、EOサンプリング型検出手段5でテラヘルツ波THzを高感度に検出することができる。
【0068】
また、光増幅器15として、コア部に利得媒質をドープしたラージモードエリア・フォトニック結晶ファイバを用いても良い。この増幅器の場合、レーザダイオードで励起されたファイバ中にプローブ光Lprを通過させることでプローブ光Lprが増幅される。コア部にドープされる利得媒質がYbの場合、波長980nmのレーザダイオードを励起光源として用いることができる。
【0069】
また、光増幅器15として、Ybキュービコン・ファイバ増幅器(L Shah, et. al. “ High energy femtosecond Yb cubicon fiber amplifier ” ,Opt. Express Vol. 13, pp4717-4722 (2005)参照。)を用いても良い。この増幅器で増幅されたプローブ光Lprは、増幅器の伸長器と圧縮器16との間の3次分散ミスマッチを補償するので、圧縮器16で圧縮されたプローブ光Lprがペデスタルフリーの短パルス光になる。その結果、EOサンプリング型検出手段5でテラヘルツ波THzを高分解に検出することができる。
【0070】
圧縮器16としては、非線形ファイバやフォトニック結晶ファイバを用いることができる。
【0071】
また、圧縮器16として回折格子対を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施形態1のテラヘルツ波発生装置の概略構成図である。
【図2】図1のテラヘルツ波発生装置で発生したテラヘルツ波をEOサンプリング型検出手段で検出した電場振幅時間分解波形である。
【図3】図2の電場振幅時間分解波形をフーリエ変換して求めたパワースペクトルである。
【図4】図2の電場振幅時間分解波形のピーク値の短パルスレーザ光パワー依存性を示すグラフである。
【図5】実施形態2のテラヘルツ波発生装置の概略構成図である。
【図6】実施形態3のテラヘルツ波発生装置の概略構成図である。
【図7】実施形態4のテラヘルツ波発生装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0073】
1・・・・・・パルス光源
2・・・・・・パルスフロント傾斜手段
3・・・・・・非線形結晶
4・・・・・・テラヘルツ波検出手段
5・・・・・・EOサンプリング型テラヘルツ波検出手段
6・・・・・・光分割手段
7・・・・・・光学遅延手段
15・・・・・光増幅器
16・・・・・圧縮器
PF0、PF1・・ パルスフロント
pu・・・・・ポンプ光パルス
pr・・・・・プローブ光パルス
、z・・・光軸
α・・・・・・所定の傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス時間幅が350fs〜10psで、パルスエネルギーが2μJ〜1Jの短パルスレーザ光を発生するパルス光源と、
前記パルス光源から発生された前記短パルスレーザ光のパルスフロントを光軸と直交する面に対して所定の角度傾斜させるパルスフロント傾斜手段と、
前記パルスフロント傾斜手段で所定の傾斜角度に傾斜された前記短パルスレーザ光が入射されてテラヘルツ波を発生する非線形結晶と、を有することを特徴とするテラヘルツ波発生装置。
【請求項2】
前記非線形結晶から発生されるテラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出手段を備える請求項1に記載のテラヘルツ波発生装置。
【請求項3】
前記テラヘルツ波検出手段は、EO(Electro-optic)サンプリング型であり、
前記パルス光源から発生される短パルスレーザ光をポンプ光パルスとプローブ光パルスに分割する光分割手段と、
前記光分割手段で分割された前記プローブ光パルスの時間遅延を制御する光学遅延手段と、
前記光分割手段で分割されたプローブ光パルスを増幅する増幅手段及び或いは前記プローブ光パルスのパルス時間幅を圧縮する圧縮器を備える請求項2に記載のテラヘルツ波発生装置。
【請求項4】
前記パルス光源は、ファイバーレーザを含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載のテラヘルツ波発生装置。
【請求項5】
パルス時間幅が350fs〜10psで、パルスエネルギーが2μJ〜1Jの短パルスレーザ光のパルスフロントを光軸と直交する面に対して所定の角度傾斜させるパルスフロント傾斜ステップと、
前記パルスフロント傾斜ステップで傾斜させられた前記短パルスレーザ光を非線形結晶に入射させてテラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生ステップと、を有することを特徴とするテラヘルツ波発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−117397(P2010−117397A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288513(P2008−288513)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】