説明

テンショナ

【課題】張力の増加および軽量化に好適なテンショナを提供する。
【解決手段】テンショナ1のピボットシャフト5を、テンションカップ7から分離させて、テンションカップ7に対して嵌合可能であり且つ相対移動阻止手段(5A、7C)を介して互いに一体化可能であり、しかもテンションカップ7に比較して強度の高い金属材料により構成し、固定ボルト6のピボットシャフト5への締付け力を前記相対移動阻止手段を介してテンションカップ7に伝達してテンションカップ7の底部を固定対象部材Eに押付けるよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト駆動装置やチェーン駆動装置のベルトやチェーンの張力を適切に保持するテンショナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から先端にテンションプーリを有するアームのボス部をピボットシャフトにより揺動自在に枢支し、前記ピボットシャフトと一体に形成したテンショナカップと前記アーム部との間にアームを回転方向に付勢するねじりコイルスプリングを配置することにより、テンションプーリをベルト等に圧接させて所定の張力を与えるテンショナは一般に知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このテンショナにおいては、前記アームのボス部を揺動自在に支持し且つねじりコイルスプリングの一端を係止するテンショナカップの底部を固定部材に当接させ、ピボットシャフトを固定ボルトにより締付けることで、固定するよう構成している。
【特許文献1】特開2006−9923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のテンショナにおいては、テンションプーリによりベルトに与える張力に対する反力を、テンショナカップの底部と固定部材との摩擦力により受止める構造としている。このため、前記張力を増加させる場合には、前記摩擦力も増加させる必要があり、テンショナカップを固定部材に押付ける固定ボルトの締付け力が増加される。
【0005】
しかしながら、上記従来例も含めて従来のテンショナにおいては、ピボットシャフトを含むテンショナカップがアルミニウム合金をダイカスト成形した鋳造部品で構成されており、前記増加する締付け力に耐える構造とするためには、特にピボットシャフト部分の肉厚を増加させる必要があり、大型で重量の大きいものが要求されることとなる。
【0006】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、張力の増加および軽量化に好適なテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ベルト若しくはチェーンが掛け回されるテンションプーリを回転自在に支持するアームと、このアームのボス部と嵌合して該アームを揺動自在に支承するピボットシャフトを備えたテンショナカップと、前記アームのボス部と前記ピテンショナカップとの間に配置されて前記アームを一方の揺動方向に付勢するねじりコイルばねと、を備え、前記テンショナカップのピボットシャフトを貫通して固定対象部材に締付ける固定ボルトにより、ピボットシャフトを固定対象部材側に押圧してテンショナカップの底部を固定対象部材に所定の面圧により接触させて固定されるテンショナにおいて、前記ピボットシャフトを、テンショナカップから分離させて、テンショナカップに対して嵌合可能であり且つ相対移動阻止手段を介して互いに一体化可能であり、しかもテンショナカップに比較して強度の高い金属材料により構成し、固定ボルトのピボットシャフトへの締付け力を前記相対移動阻止手段を介してテンショナカップに伝達してテンショナカップの底部を固定対象部材に押付けるよう構成した。
【発明の効果】
【0008】
したがって、本発明では、テンショナのピボットシャフトをテンショナカップから分離させて、テンショナカップに対して嵌合可能であり且つ相対移動阻止手段を介して互いに一体化可能であり、しかもテンショナカップに比較して強度の高い金属材料により構成し、固定ボルトのピボットシャフトへの締付け力を前記相対移動阻止手段を介してテンショナカップに伝達してテンショナカップの底部を固定対象部材に押付けるよう構成したため、ベルト張力の増加のために固定ボルトの軸力を増加させても、ピボットシャフトに加わる締付け力を相対移動阻止手段により確実にテンショナカップのボス部および底部に伝達して固定対象部材との接触面圧が増加され、両者間の座面摩擦力が高められ、座面滑りが防止されて、確実にテンショナを取付けることができる。しかも、テンショナカップ全体を強度の高い金属材料で構成することなく、ピボットシャフトのみを強度の高い金属材料で構成するのみであるため、テンショナの軽量化・低コスト化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のテンショナの一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1は本発明を適用したテンショナの第1実施形態を示す断面図、図2はピボットシャフトの拡大断面図、図3は本実施形態におけるテンショナカップ底部の面圧分布を示す説明図、図4は比較例のテンショナカップ底部の面圧分布を示す説明図である。
【0010】
図1において、テンショナ1は、ベルトB若しくはチェーンが掛け回されるテンションプーリ2と、テンションプーリ2を回転可能に支持するアーム3と、アーム3のボス部4をそのピボットシャフト5に揺動可能に支持し且つ固定ボルト6によりエンジンブロック等の固定部材Eに締付け固定されるテンショナカップ7と、テンションカップ7とアーム3との間に介在されてアーム3を回転方向に付勢するねじりコイルばね8と、を備える。
【0011】
前記テンションプーリ2は、アーム3の先端に配置した軸3Aに、転がり軸受3Bを介して回転可能に取付けられている。前記転がり軸受3Bは軸3Aにねじ結合したボルト3Cの頭部に係合する抜け止めプレート3Dによりその内輪が抜け止め固定され、軸受3B側面がカバーされている。
【0012】
前記テンションカップ7は、中央部に配置されたピボットシャフト5と、ピボットシャフト5を支持し固定部材Eに接触する底部7Aと、底部7Aの外周からピボットシャフト5の周りに筒状に立上って形成された外筒部7Bとを備える。前記ピボットシャフト5と係合する中央のボス部7Cと前記底部7Aおよび外筒部7Bは、アルミニウム合金をダイカスト成形した鋳造部品により一体に形成されている。
【0013】
前記ピボットシャフト5は、前記底部7Aと一体に形成されたボス部7Cの穴に先端部が圧入された筒状の鉄系材料より形成されている。前記ピボットシャフト5は、先端部がボス部7Cの穴に圧入され、中途部に設けたフランジ5Aの側面が前記ボス部7Cの先端面に係合され、前記フランジ5Aから起立した軸部分には、L型ブッシュ10を介してアーム3のボス部4を回動可能に支持するよう構成している。前記ピボットシャフト5の先端は前記底部7Aの固定部材Eへ接触する底面より若干後退した位置に設定されている。
【0014】
前記ピボットシャフト5の軸部分の端面には、前記アーム3のボス部4に対して前記L型ブッシュ10を介して当接する金属製の押さえ板11が配置されている。前記押さえ板11とピボットシャフト5とは、押さえ板11に設けた穴とピボットシャフト5に設けた貫通穴5Bとを貫通させて固定ボルト6の軸部が挿入され、固定ボルト6の先端ねじ部を固定部材Eへねじ締結して、固定ボルト6の頭部と固定部材Eとの間で締付けることで、前記底部7Aの底面を固定部材Eへ高い面圧を持って摩擦接触させて、テンションカップ7が固定される。前記アーム3のボス部4と押さえ板11の外周との間には、ラビリンスシールが構成されている。
【0015】
前記テンションカップ7の外筒部7Bは、その先端縁とアーム3のボスとの間でラビリンスシールを構成している。前記テンションカップ7の底部7A、ボス部7C、外筒部7B、および、アーム3のボス部4とで形成される環状の空間には、一端が底部7A若しくは底部7A近傍の外筒部7Bに係止され、他端がアーム3のボス部4に係止されたアーム3を回転付勢させるねじりコイルばね8が収容されている。ねじりコイルばね8のアーム3のボス部4との間には、ねじりコイルばね8の端部に係合し且つアーム3と一体回転するばね座12が配置されている。前記ばね座12の外周とテンションカップ7の外筒部7Bとの間には、筒状の摩擦リング13が配置され、アーム3の回動運動に対するダンパを構成している。
【0016】
前記ねじりコイルばね8は、ねじりながら軸線方向に圧縮して装着されており、ばね8の両端部が、テンションカップ7とばね座12に固定されている。従って、このねじりコイルばね8のねじり復元力により、アーム3は一方の揺動端側に常時付勢されるため、アーム3先端のテンションプーリ2に掛け回されたベルトBには、適度な張力が自動的に付与されることとなる。
【0017】
前記テンショナ1においては、テンションプーリ2によりベルトBに与える張力に対する反力は、テンションカップ7の底部7Aと固定部材Eとの摩擦力により受止める構造となっている。前記ベルトBに与える張力を増加させる場合には、テンションカップ7を固定部材Eに押付ける固定ボルト6の締付け力を増加することにより、前記摩擦力が増加される。
【0018】
前記固定ボルト6の締付け力は、鉄系材料で構成したピボットシャフト5に入力され、ピボットシャフト5に設けたフランジ5Aを介してテンションカップ7のボス部7Cに入力され、ボス部7Cを経由して底部7Aに伝達され、底部7Aの底面と固定部材Eとの面圧を上昇させ、両者間の摩擦力が増加される。
【0019】
図3および図4は、本実施形態のテンショナ1と比較例のテンショナにおける前記底部7Aの底面と固定部材Eとの面圧分布を示したものである。比較例としては、強度の高い鉄系材量のカラーCをピボットシャフトとしてテンショナカップ7のセンターホールに圧入することにより、固定ボルトによる締付け力に耐えるテンショナとした。
【0020】
図4に示す比較例においては、固定ボルトによる軸力を前記圧入部分で受ける構成になっているため、高軸力を固定ボルトに与えると、カラーCが接している半径方向中心部に近い側でテンションカップ7の底部7Aの面圧が高いピークをもち、外周側に移るに連れて面圧が急激に低下される分布状態となる。これは、ボルトの軸力により、前記圧入部でカラーCとテンショナカップ7との間に滑りが生じ、テンションカップ7のボス側における軸力負担が充分に発揮されないことから生ずる。このことは、面圧分布の中心が内周側に集中され、得られる摩擦力(摩擦トルク)を大きくできないことを意味する。このため、底面での座面滑りの防止機能が充分に発揮されず、確実にテンショナを取付けることができないことを意味する。
【0021】
一方、本実施形態のテンショナ1においては、図3に示すように、底面の内周側での面圧が高くなっているが、底面の外周側においてもある程度の面圧が確保されている。即ち、底面の内周側から外周側に向かってなだらかに面圧が低下され、面圧分布の中心が外周側に移動され、得られる摩擦力(摩擦トルク)を大きくすることができる。これは、ピボットシャフト5の先端と固定部材Eとは所定の隙間が設定されて直接接触しないようにすること、および、ピボットシャフト5のフランジ5Aからテンションカップ7のボス部7Cに直接ボルト6の軸力を伝達していることに起因して、固定ボルト6の軸力は、その全量がテンションカップ7のボス部7Cに入力され、ボス部7Cと一体成形されている底部7Aに伝達される。このため、底面での座面滑りを防止して、確実にテンショナ1を取付けることができる。
【0022】
また、上記構成のテンショナ1においては、比較例のように、テンションカップ7に圧入のみにより鉄系材料のカラーCを取付けるものと相違して、ピボットシャフト5のフランジ5Aからテンションカップ7のボス部7Cに直接ボルト6の軸力を伝達しているため、支持するアーム3およびテンションプーリ2の高さ位置寸法が加えるボルト6の軸力によっても変化することが無く、高軸力の入力時にもベルトセンタ位置を確保することができ、ベルトアライメントずれの防止が可能である。
【0023】
さらに、また、本実施形態のテンショナ1においては、フランジ5Aを備えたピボットシャフト5のみを鉄系材料にすることで高軸力に対応することができるため、テンションカップ7全体を鉄系材料で形成するものと比較して、低コスト化、軽量化が可能であると共に、一本の固定ボルト6により固定することができるため、組付作業性を向上させることができる。
【0024】
なお、上記実施形態において、ピボットシャフト5とテンションカップ7とがテンションカップ7のボス部7C先端とピボットシャフト5のフランジ5Aとを軸方向面により当接させるものについて説明したが、図示はしないが、テンショナカップのボス部側に座面から離れるに連れて径が大きくなるテーパ穴を設ける一方、ピボットシャフトに前記テーパ穴に合致するテーパを設けるものであってもよく、またテンショナカップに設けるボス部が廃止されて底部と外筒部のみで形成される一方、ピボットシャフトをテンショナカップの外筒部内周および底部上面に係合するフランジを設けるものであってもよい。
【0025】
また、上記実施形態において、ピボットシャフト5の構成材料として、鉄系材料を使用するものについて説明したが、図示はしないが、テンショナカップ7の構成材料より機械的強度が高い材料、例えば、金属材料であってもよく、また、テンショナカップ7の構成材料として、アルミニウム合金のダイカスト成形による鋳造部品を使用するものについて説明したが、図示はしないが、その他の金属材料、例えば、軽金属材料であってもよく、その他の樹脂材料であってもよい。
【0026】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0027】
(ア)テンショナ1のピボットシャフト5を、テンションカップ7から分離させて、テンションカップ7に対して嵌合可能であり且つ相対移動阻止手段(5A、7C)を介して互いに一体化可能であり、しかもテンションカップ7に比較して強度の高い金属材料により構成し、固定ボルト6のピボットシャフト5への締付け力を前記相対移動阻止手段を介してテンションカップ7に伝達してテンションカップ7の底部7Aを固定対象部材Eに押付けるよう構成したため、ベルト張力の増加のために固定ボルト6の軸力を増加させても、ピボットシャフト5に加わる締付け力を相対移動阻止手段により確実にテンションカップ7のボス部7Cおよび底部7Aに伝達して固定対象部材Eとの接触面圧が増加され、両者間の座面摩擦力が高められ、座面滑りが防止されて、確実にテンショナ1を取付けることができる。しかも、テンションカップ7全体を強度の高い金属材料で構成することなく、ピボットシャフト5のみを強度の高い金属材料で構成するのみであるため、テンショナ1の軽量化・低コスト化が可能である。
【0028】
(イ)相対移動阻止手段として、ピボットシャフト5の外周部に設けたフランジ5Aとフランジ5Aの側面に接するテンションカップ7のボス部7C先端面とで構成することにより、高いベルト張力を付与するために固定ボルト6の軸力を増加させても、ピボットシャフト5はそのフランジ5Aがボス部7Cに軸方向面で受止められるため、ピボットシャフト5のずれによるベルトアライメントの変化やテンションカップ7底部7Aと固定対象部材Eとの接触面圧分布の変化を抑制することができる。
【0029】
(ウ)ピボットシャフト5の先端を、テンションカップ7のボス部7Cに嵌合するも、その先端はテンションカップ7の底部7Aの固定対象部材Eへの接触面から後退した位置に配置することにより、テンションカップ7底部7Aと固定対象部材Eとの接触面圧分布を半径方向外周側に移動させ、両者間の摩擦力(摩擦トルク)を増加させることができる。
【0030】
(エ)テンションカップ7を軽金属により形成し、ピボットシャフト5は鉄系金属により形成することにより、テンションカップ7全体を鉄系金属で形成することなく、締付け強度の向上が可能となり、軽量化および低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用したテンショナの第1実施形態を示す断面図。
【図2】同じくピボットシャフトの拡大断面図。
【図3】本実施形態におけるテンショナカップ底部の面圧分布を示す説明図。
【図4】比較例のテンショナカップ底部の面圧分布を示す説明図。
【符号の説明】
【0032】
1 テンショナ
2 テンションプーリ
3 アーム
4、7C ボス部
5 ピボットシャフト
6 固定ボルト
7 テンショナカップ
7A 底部
8 ねじりコイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト若しくはチェーンが掛け回されるテンションプーリを回転自在に支持するアームと、このアームのボス部と嵌合して該アームを揺動自在に支承するピボットシャフトを備えたテンショナカップと、前記アームのボス部と前記ピテンショナカップとの間に配置されて前記アームを一方の揺動方向に付勢するねじりコイルばねと、を備え、前記テンショナカップのピボットシャフトを貫通して固定対象部材に締付ける固定ボルトにより、ピボットシャフトを固定対象部材側に押圧してテンショナカップの底部を固定対象部材に所定の面圧により接触させて固定されるテンショナにおいて、
前記ピボットシャフトを、テンショナカップから分離させて、テンショナカップに対して嵌合可能であり且つ相対移動阻止手段を介して互いに一体化可能であり、しかもテンショナカップに比較して強度の高い金属材料により構成し、固定ボルトのピボットシャフトへの締付け力を前記相対移動阻止手段を介してテンショナカップに伝達してテンショナカップの底部を固定対象部材に押付けるよう構成したことを特徴とするテンショナ。
【請求項2】
前記相対移動阻止手段は、ピボットシャフトの外周部に設けたフランジとフランジの側面に接するテンショナカップのボス部先端面とで構成したことを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記ピボットシャフトの先端は、テンショナカップのボス部に嵌合するも、その先端はテンショナカップの底部の固定対象部材への接触面から後退した位置に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のテンショナ。
【請求項4】
前記テンショナカップは軽金属により形成され、前記ピボットシャフトは鉄系金属により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載のテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−321779(P2007−321779A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149476(P2006−149476)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】