説明

テーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置

【課題】テーブル形式データによる運転において、バイト工具等の刃先やエンドミル工具等の径が変わっても、刃先R補正量や工具径補正量を変更するだけで、テーブル形式データの修正を不要とすることが可能なテーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置を提供すること。
【解決手段】刃先R補正または工具径補正が指令されたか否かを判断し、指令された場合にはステップSA20へ移行し、指令されていない場合にはステップSA50へ移行し(SA10)、刃先R補正または工具径補正のスタートアップ処理を実行し(SA20)、刃先R補正または工具径補正のメイン処理を実行し(SA30)、補正方向の変更またはキャンセルが行われたか否かを判断し、キャンセルが行われた場合にはステップSA10へ戻り処理を継続し、キャンセルが行われない場合にはステップSA30へ戻り処理を継続し(SA40)、刃先R補正または工具径補正のキャンセル処理を実行し(SA50)、処理を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や産業用機械を制御する数値制御装置に関し、特に、該数値制御装置で制御される機械の各軸が同期して動作するテーブル形式データ(パステーブル運転データ)を用いるパステーブル運転を行う数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テーブル形式データによる運転では、例えば、プログラム経路の各点を通過する時刻をテーブル形式データ(パステーブル運転データ)により指定することによって、全ての軸が時間に同期して動作する。このように、時間、軸位置、あるいは主軸位置を基準にした軸(可動軸)の位置を設定したテーブル形式データをメモリに格納しておき、該テーブル形式データを順次読み出しながら各軸を駆動する機能(パステーブル運転機能)を備えた数値制御装置は、特許文献1や特許文献2に開示されるように公知の技術である。前記パステーブル運転機能によって、従来の加工プログラムに囚われない自由な工具の動作が可能になり、加工時間の短縮や加工の高精度化を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−177604号公報
【特許文献2】特開2003−303005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
背景技術で説明したように、従来のテーブル形式データによる運転(パステーブル運転)では、プログラム経路の各点を通過する時刻をテーブル形式データ(パステーブル運転データ)により指定することにより、全ての軸が時間に同期して動作する。
【0005】
しかし、テーブル形式データによる運転(パステーブル運転)に対して、NCプログラムによる運転におけるバイト工具などの刃先が持っている丸みによる誤差分を補正する刃先R補正や、エンドミル工具等の工具の半径値を補正する工具径補正を行った場合、プログラム経路と刃先R中心経路や工具中心経路が異なるため、これらの補正を行った軸において指定された時刻との同期ずれが発生する。そのため、従来のテーブル形式データによる運転(パステーブル運転)では、バイト工具などの刃先やエンドミル工具などの径が変る度に、その誤差分(径の変化分)を考慮して、テーブル形式データを修正する必要があった。
【0006】
ここで図36および図37を用いて、従来のテーブル形式データによる運転(パステーブル運転)の例を説明する。図36は、工具交換前の従来技術に係るパステーブル運転の例を説明する図である。また、図37は、工具交換後の従来技術に係るパステーブル運転の例を説明する図である。
【0007】
図36(b)に示されるテーブル形式データ(パステーブル運転データ)に従って、図36(a)に示されるように、工具2は前記パステーブルのプログラム経路に沿ってワーク4を加工し、加工形状6を生成する。この時に使用する工具2としてはバイト工具などであり、その半径を2.0mmとしている。
【0008】
図37(a)は、図36に示される半径2.0mmの工具2を半径3.0mmの工具3に交換してワーク4を加工することを図示している。また、図36(a)と同様にワーク4に加工形状6を生成するために、図37(b)に示されるように、工具交換に伴ってテーブル形式データ(パステーブル運転データ)のプログラム経路を変更する必要がある。
【0009】
上述したように、従来のテーブル形式データによる運転(パステーブル運転)では、バイト工具などの刃先が持っている丸みによる誤差分を補正する刃先R補正や、エンドミル工具等の工具の半径値を補正する工具径補正ができなかったため、バイト工具などの刃先やエンドミル工具等の径が変わる度に、その誤差分を考慮して、テーブル形式データ(パステーブル運転データ)を修正し直す必要があり、手間がかかり問題であった。
【0010】
そこで本発明の目的は、テーブル形式データ(パステーブル運転データ)による運転において、バイト工具等の刃先やエンドミル工具等の径が変わっても、刃先R補正量や工具径補正量を変更するだけで、テーブル形式データの修正を不要とすることが可能なテーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1に係る発明は、時間、軸位置、あるいは主軸位置を基準とし、基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、前記基準となる軸あるいは主軸とは別の軸あるいは主軸の位置とを対応させたテーブル形式データをメモリに格納しておき、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、前記基準となる軸あるいは主軸とは別の軸あるいは主軸の位置を順次読み出し、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置に同期して、前記別の軸あるいは主軸の位置に同期して前記別の軸あるいは主軸の位置を制御する数値制御装置において、刃先R補正量または工具径補正量を記憶する記憶手段と、テーブル形式データへの刃先R補正または工具径補正の有効および無効を指令する指令手段と、前記テーブル形式データと前記刃先R補正量または工具径補正量から、工具の進行に伴って前記テーブル形式データのブロックに対して補正する前記別の軸あるいは主軸の位置の補正量を算出する補正量算出手段と、前記補正量算出手段により算出された補正量から前記別の軸あるいは主軸の位置を算出する算出手段と、刃先R補正または工具径補正を行うことにより生じる、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、前記別の軸あるいは主軸の位置の同期ずれを補正した前記別の軸あるいは主軸の位置を出力する出力手段と、を有することを特徴とするテーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置である。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記出力手段は、テーブル形式データを先読みし、工具の進行方向の変更点を取得する取得手段と、前記取得手段により取得した工具の進行方向の変更点から工具がワークの内側を回るか外側を回るかを判定する判定手段と、前記判定手段による判定の結果、工具がワークの内側を回る場合、補正後の工具の経路における工具方向の変更点で同期ずれが解消されるまで工具を停止し、工具がワークの外側を回る場合は、プログラム経路に無い移動を行う区間において、同期ずれが解消されるまでプログラムによる移動量に一定の移動パルスを加算する加算手段と、を有することを特徴とする請求項1に記載のテーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置である。
請求項3に係る発明は、前記加算手段により求められた加算結果の値が、設定リミット値を超えるか否かを判断し、リミット値を超えた場合にアラームとするアラーム手段を有することを特徴とする請求項2に記載のテーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、テーブル形式データ(パステーブル運転データ)による運転において、バイト工具等の刃先やエンドミル工具等の径が変わっても、刃先R補正量や工具径補正量を変更するだけで、テーブル形式データの修正を不要とすることが可能なテーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態が実行するテーブル形式データによる運転機能の概要図である。
【図2】本発明に係るパステーブル運転(工具交換前)の例を説明する図である。
【図3】本発明に係るパステーブル運転(工具交換後)の例を説明する図である。
【図4】出発点でG42指令(工具の進行方向の右側に補正)を行った時の工具の刃先R中心点の刃先R中心経路とプログラム経路を表した図である(工具の進行方向が直線から直線に変更される場合)。
【0015】
【図5】出発点でG42指令(工具の進行方向の右側に補正)を行った時の工具の刃先R中心点の刃先R中心経路とプログラム経路を表した図である(工具の進行方向が直線から円弧に変更される場合)。
【図6】刃先R補正または工具径補正指令を含むテーブル形式データ(パステーブル運転データ)を説明する図である。
【図7】図6のプログラム経路において、刃先R補正量または工具径補正量をrとした時の工具位置を表す表である。
【図8】図6と図7に示される、刃先R補正量または工具径補正量をrとした時の、プログラム経路と工具位置の関係を説明する図である。
【図9】G40指令を行ったときの工具の刃先R中心経路とプログラム経路とを説明する図である(工具の進行方向が直線から直線に変更される場合)。
【図10】G40指令を行ったときの工具の刃先R中心経路とプログラム経路とを説明する図である(工具の進行方向が円弧から直線に変更される場合)。
【図11】刃先R補正量または工具径補正量をrとした時のプログラム経路の一例を表す表である。
【図12】図11のプログラム経路において、刃先R補正量または工具径補正量をrとした時の工具位置を表す表である。
【図13】図11と図12に示される、刃先R補正量または工具径補正量をrとした時の、プログラム経路と工具位置の関係を説明する図である。
【図14】刃先R補正または工具経補正中に工具の進行方向が変化しワークの内側を工具が回る場合であって、工具の進行方向が直線から直線に変更される場合を説明する図である。
【図15】刃先R補正または工具経補正中に工具の進行方向が変化しワークの内側を工具が回る場合であって、工具の進行方向が直線から円弧に変更される場合を説明する図である。
【図16】刃先R補正または工具経補正中に工具の進行方向が変化しワークの内側を工具が回る場合であって、工具の進行方向が円弧から直線に変更される場合を説明する図である。
【図17】刃先R補正または工具経補正中に工具の進行方向が変化しワークの内側を工具が回る場合であって、工具の進行方向が円弧から円弧に変更される場合を説明する図である。
【図18】工具がワークの内側を回る場合の、刃先R補正または工具径補正指令を含むテーブル形式データ(パステーブル)を説明する図である。
【図19】図18に示されるテーブル番号2000において、刃先R補正量または工具径補正量をrとした時の工具位置の一例を表す表である。
【図20】図18と図19に示される、刃先R補正量または工具径補正量をrとした時のプログラム経路と工具位置を説明する図である。
【図21】プログラム経路の進行方向が直線から直線に変わる際に、刃先R中心がどのような経路を通るかを説明する図である。
【図22】プログラム経路の進行方向が直線から円弧に変わる際に、刃先R中心がどのような経路を通るかを説明する図である。
【図23】プログラム経路の進行方向が円弧から直線に変わる際に、刃先R中心がどのような経路を通るかを説明する図である。
【図24】プログラム経路の進行方向が円弧から円弧に変わる際に、刃先R中心がどのような経路を通るかを説明する図である。
【図25】刃先R補正量または工具径補正量をrとし、L5とL6の間で同期ずれが解消すると仮定した時のプログラム経路の一例を表す表である。
【図26】刃先R補正量または工具径補正量をrとし、工具位置の一例を表す表である。
【図27】図25と図26に示される、刃先R補正量または工具径補正量をrとし、L5とL6の間で同期ずれが解消すると仮定した時のプログラム経路と工具位置の関係を説明する図である。
【図28】本発明に係る刃先R補正または工具径補正を行うアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図29】本発明に係る刃先R補正または工具径補正を行うスタートアップ処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図30】本発明に係る刃先R補正または工具径補正を行うメイン処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図31】本発明に係る刃先R補正または工具径補正のキャンセル処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。
【図32】本発明に係る各軸の補正量を算出する手段を説明する図である。
【図33】本発明に係る刃先R補正または工具径補正の中心経路の交点Sを算出する手段を説明する図である。
【図34】本発明に係るプログラム経路に無い移動を行う区間の始点と終点を算出する手段を説明する図である。
【図35】本発明の一実施形態の数値制御装置の要部ブロック図である。
【図36】従来技術に係るパステーブル運転(工具交換前)の例を説明する図である。
【図37】従来技術に係るパステーブル運転(工具交換後)の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。なお、従来技術の説明と同一の構成や類似の構成については同じ符号を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態が実行するテーブル形式データによる運転機能の概要図である。本発明の実施形態では、図1の概要図において、後述して説明する図28,図29,図30,図31を用いて説明するアルゴリズムの処理を実行する。
なお、以降では説明のために補正を行う平面をX−Y平面と仮定するが、X−Y平面以外の平面や、3次元空間にも本発明は同様に適用可能である。
【0017】
X軸用パステーブルTx、Y軸用パステーブルTyを備えている。X軸用パステーブルTxは、基準位置に対して、X軸位置が記憶されている。また、Y軸用パステーブルTyは、基準位置に対して、Y軸位置が記憶されている。主軸に取り付けられたポジションコーダからのパルス(主軸位置)または軸に取り付けられたポジションコーダからのパルス(軸位置)または基準とする外部パルス発生部からの時間を基準とするパルスが、カウンタ101に入力され計数される。以降は簡略化のため、軸位置を省略して記述する。
【0018】
このカウンタ101の計数値にオーバライド手段に設定されているオーバライド値が乗算器102で乗じられ基準位置カウンタ103に格納される。この基準位置カウンタ103は、パステーブル運転機能が指令された時点でリセットされる。基準位置カウンタ103の値が基準位置としてX軸、Y軸パステーブル補間処理部104x,104zに入力される。基準位置カウンタ103の値が基準位置としてX軸,Y軸パステーブル補間処理部104x,104yでは、X軸パステーブルTx,Y軸パステーブルTyを参照して基準位置に対するX軸,Y軸の指令位置を求め、処理周期での移動量を求め該移動量を指令として加算器106x,106yに出力する。
【0019】
基準位置カウンタ103の値がさらに、刃先R補正または工具径補間処理部107xt,107ytに入力される。刃先R補正または工具径補間処理部107xt,107ytは、処理周期毎、刃先R補正または工具径補正テーブルTtを参照し、刃先R補正または工具径補正に係る補正量を補間して補間補正量を加算器106x,106yにそれぞれ出力する。加算器106x,106yで加算された結果の値が各制御軸モータ105x,105yに出力されることにより、X,Y軸を基準位置に合わせて同期運転することができる。
【0020】
本発明は、テーブル形式データ(パステーブル運転データ)による運転において、バイト工具などの刃先やエンドミル工具等の径が変っても、刃先R補正量や工具径補正量を変更するだけで、テーブル形式データの修正を不要とするものである。従来技術における問題点を解決するため、本発明では、工具の外周と加工面が接する点を通る時刻が、テーブル形式データによってプログラムされた時刻と一致するように、工具の進行速度を制御する手段を備える。
【0021】
図2は、本発明に係るパステーブル運転(工具交換前)の例を説明する図である。また、図3は、本発明に係るパステーブル運転(工具交換後)の例を説明する図である。図2(b)に示されるテーブル形式データ(パステーブル運転データ)に従って、図2(a)に示されるように、工具2は前記パステーブル運転データのプログラム経路に沿ってワーク4を加工し、加工形状6を生成する。この時に使用する工具2としてはバイト工具などであり、その半径を2.0mmとしている。図2(a)に示されるように、本発明においては、加工形状6とパステーブル運転データにより設定されたプログラム経路とは一致する。
【0022】
図3(a)は、図2(a)に示される半径2.0mmの工具2を半径3.0mmの工具3に交換してワーク4を加工することを図示している。また、図3(b)は、図2(b)と同様にワーク4に加工形状6を生成するために用いられるテーブル形式データ(パステーブル運転データ)である。図2(b)に示されるテーブル形式データ(パステーブル運転データ)と図3(b)に示されるテーブル形式データ(パステーブル運転データ)とを対比すると理解できるが、本発明では、工具の半径を変更しても、テーブル形式データ(パステーブル運転データ)を変更することなく、ワーク4に対して同じ加工形状6を生成することができる。
なお、テーブル形式データとしては前述したX軸用パステーブルTx,Y軸用パステーブルTy、刃先R補正または工具径補正Ttの3種類のテーブルが個別に存在し、それぞれが平行して動作するが、以降は図2(b)や図3(b)のように1つのテーブルにまとめて表現する。
【0023】
<スタートアップ処理>
次に、本発明に係るパステーブル運転において、刃先R補正または工具径補正の有効を指令した場合の処理であるスタートアップ処理について説明する。
本発明の実施形態において、刃先R補正または工具径補正では、一例として、以下の指令が可能である。
・G42指令:工具の進行方向の右側に補正を行う指令
・G41指令:工具の進行方向の左側に補正を行う指令
・G40指令:刃先R補正または工具径指令をキャンセルする指令
これらの指令は、工作機械を制御する数値制御装置が有する公知の指令である。
G42指令とG41指令とを切り換えた場合もスタートアップ処理を実行する。また、G42指令またはG41指令が有効な状態からG40指令を行った場合の動作については、<キャンセル処理>として後述する。
刃先R補正または工具径補正が無効の状態で、刃先R補正または工具径補正の有効を指令するブロックを実行した場合、その時点から次に工具の進行方向が変化する直前に刃先R補正または工具径補正が完了するように、等速で補正を行う。ここでブロックとは、一つの基準値から次の基準値までの区間を意味する。
【0024】
図4や図5は、出発点でG42指令(工具の進行方向の右側に補正)を行った時の工具
の刃先R中心点の刃先R中心経路とプログラム経路を表した図である。なお、工具の工具中心経路の場合も工具の刃先R中心経路の場合と同様であるので、これ以降、刃先R中心経路を例として説明する。
【0025】
図4は、工具の進行方向が直線から直線に変更される場合である。刃先R補正を行わない場合、刃先R中心点8は実線矢印で示されるプログラム経路を通ってワーク4を加工する。この場合、加工誤差が生じてしまう。一方、G42指令によって本発明に係る刃先R補正を行った時、刃先R中心点8は破線矢印で示される刃先R中心経路を通ってワーク4を加工する。G42指令による刃先R補正は、刃先R中心点8が工具の進行方向が変化する点Sに到達する時に補正が完了する。
【0026】
図5は、工具の進行方向が直線から円弧に変更される場合を図示している。刃先R補正を行わない場合、刃先R中心点8は実線矢印で示されるプログラム経路を通ってワーク4を加工する。一方、G42指令によって本発明に係る刃先R補正を行った時、刃先R中心点8は破線矢印で示される刃先R中心経路を通ってワーク4を加工する。G42指令による刃先R補正は、刃先R中心点8が工具の進行方向が変化する点Sに到達する時に補正が完了する。
【0027】
次に、図6、図7、および図8を用いて、刃先R補正量をrとした時の、プログラム経路と工具位置の関係を説明する。なお、工具径補正量をrとした時も同様に説明できる。
【0028】
図6は、刃先R補正または工具径補正指令を含むテーブル形式データ(パステーブル運転データ)を説明する図である。
パステーブル番号1000には、時間(時刻)または主軸位置の各ブロック(L0,L1,L2,L3,L4,L5,L6,L7,L8)に対して、X軸のプログラム経路、Y軸のプログラム経路、および、刃先R補正または工具径補正指令が設定されている。L0におけるG42指令の後、次に進行方向が変化する時刻(主軸位置)は図6に示されるL5の点である。なお、図6において、(G42)の表記は、G42指令のブロックではないが、L1〜L8の各ブロックがモーダル情報としてG42指令を指令されていることを意味する。
【0029】
図7は、図6のプログラム経路において、刃先R補正量をrとした時の工具の位置である刃先R中心点の刃先R中心経路を表す表である。ここでは、刃先R補正量を例として説明する。図8は、図6と図7に示される、刃先R補正量をrとした時の、プログラム経路と刃先R中心経路の関係を説明する図である。図6においてL0のブロックに刃先R指令であるG42指令が設定され、ブロックL1〜L8がG42の指令をモーダル情報として有していることから、刃先R補正量をrとした場合、各ブロックにおいて補正を行うと、工具のY軸の位置が補正される。工具の進行方向が変化する交点S(図8参照)は、この例では、L5が工具の進行方向の変化する点である。
【0030】
<刃先R補正または工具径補正のメイン処理>
次に、本発明に係るパステーブル運転において、刃先R補正または工具径補正のメイン処理について説明する。刃先R補正または工具径補正中に工具の進行方向が変化する場合、工具が、ワークの内側を回る場合とワークの外側を回る場合の2つの場合がある。
以下、それぞれの場合について説明する。なお、図14〜図20は、工具がワークの内側を回る場合を説明する図である。また、図21〜図27は、工具がワークの外側を回る場合を説明する図である。
【0031】
(工具がワークの内側を回る場合)
プログラム経路の交点におけるワーク側の角度が180度を超える場合に該当する。この場合、プログラム経路よりも工具の移動経路の方が短くなることから、同期ずれを解消するために刃先R中心経路の交点(工具の進行方向が変化する点S)で工具は一旦停止する。前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置に対し、工具の位置の同期ずれが解消した瞬間から、工具は同期を開始する。それにより、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、工具の外周とワークの接点位置を同期させることができる。
【0032】
図14は、刃先R補正中に工具の進行方向が変化しワークの内側を工具が回る場合であって、工具の進行方向が直線から直線に変更される場合を説明する図である。刃先R補正された工具の刃先R中心は図示されたように刃先R中心経路を通り移動しながらワーク4を加工する。プログラム経路よりも工具の移動経路である刃先R中心経路の方がプログラム経路の点線の区間だけ短くなることから、同期ずれを解消するために刃先R中心経路の交点Sで工具は一旦停止する。前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置に対し、工具の位置の同期ずれが解消した瞬間から、工具は同期を開始する。それにより、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、工具の外周とワークの接点位置を同期させることができる。一旦停止する時間は、交点Sからプログラム経路に対して垂線を引き、該垂線とプログラム経路との交点と交点の間の区間である。この区間は数学的に計算して求めることができる。
【0033】
図15は、刃先R補正中に工具の進行方向が変化しワークの内側を工具が回る場合であって、工具の進行方向が直線から円弧に変更される場合を説明する図である。刃先R補正された工具の刃先R中心は図示されたように刃先R中心経路を通り移動しながらワーク4を加工する。プログラム経路よりも工具の移動経路である刃先R中心経路の方がプログラム経路の点線の区間だけ短くなることから、同期ずれを解消するために刃先R中心経路の交点Sで工具は一旦停止する。前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置に対し、工具の位置の同期ずれが解消した瞬間から、工具は同期を開始する。それにより、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、工具の外周とワークの接点位置を同期させることができる。
【0034】
図16は、刃先R補正中に工具の進行方向が変化しワークの内側を工具が回る場合であって、工具の進行方向が円弧から直線に変更される場合を説明する図である。
刃先R補正された工具の刃先R中心は図示されたように刃先R中心経路を通り移動しながらワーク4を加工する。プログラム経路よりも工具の移動経路である刃先R中心経路の方がプログラム経路の点線の区間だけ短くなることから、同期ずれを解消するために刃先R中心経路の交点Sで工具は一旦停止する。前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置に対し、工具の位置の同期ずれが解消した瞬間から、工具は同期を開始する。それにより、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、工具の外周とワークの接点位置を同期させることができる。
【0035】
図17は、刃先R補正中に工具の進行方向が変化しワークの内側を工具が回る場合であって、工具の進行方向が円弧から円弧に変更される場合を説明する図である。
刃先R補正された工具の刃先R中心は図示されたように刃先R中心経路を通り移動しながらワーク4を加工する。プログラム経路よりも工具の移動経路である刃先R中心経路の方がプログラム経路の点線の区間だけ短くなることから、同期ずれを解消するために刃先R中心経路の交点Sで工具は一旦停止する。前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置に対し、工具の位置の同期ずれが解消した瞬間から、工具は同期を開始する。それにより、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、工具の外周とワークの接点位置を同期させることができる。
【0036】
図18は、工具がワークの内側を回る場合の、刃先R補正または工具径補正指令を含むテーブル形式データ(パステーブル運転データ)を説明する図である。パステーブル番号2000は、時間または主軸位置の各ブロック(L0,L1,L2,L3,L4,L5,L6)に対して、X軸のプログラム経路、Y軸のプログラム経路、および、刃先R補正または工具径補正指令が設定されている。L0〜L6のブロックにはモーダル情報としてG42指令が設定されている。ブロックL3が工具の進行方向の変更点である。
【0037】
図19は、図18に示されるテーブル番号2000において、刃先R補正量または工具径補正量をrとした時の工具位置の一例を表す表である。図20は、図18と図19に示される、刃先R補正量をrとした時のプログラム経路と工具位置を説明する図である。この場合、L2→L3→L4の区間だけプログラム経路よりも工具の移動経路(刃先R中心経路)の方が短くなることから、同期ずれを解消するために刃先R中心経路の交点(工具の進行方向が変化する点S)で工具は一旦停止する。
【0038】
(工具がワークの外側を回る場合)
次に、工具がワークの外側を回る場合を説明する。
工具がワークの外側を回る場合は、プログラム経路の交点における、ワーク側の角度が180度以下の場合に該当する。図21〜図27は、プログラム経路の進行方向が変わる際に、刃先R中心がどのような経路を辿るかを説明する図である。
【0039】
プログラム経路の進行方向が変わる際には、プログラムに指令のない移動を行う必要がある。この移動区間は、図21〜図24,図27に点線のみの区間として示されている。点線のみの区間では、一定値の移動パルスを制御周期毎に出力することにより、工具の移動が行われる。しかし、この間も前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置は進み続けるため、点線のみの区間の移動が終了した時、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置に対し、工具の位置は同期ずれが発生している。この同期ずれを解消するため、点線のみの区間が終了した後、同期ずれが解消されるまで、プログラム指令による移動パルスに一定値の移動パルスを加算する。
【0040】
一定値の移動パルスに関しては、パラメータで設定できる他、G41指令またはG42指令と同時に以下のようにプログラム指令を行うことよっても設定可能である。そして、一定値は任意の値を設定可能である。
L0G42P8:(数値制御装置の制御周期毎に最小設定単位8つずつ補正を行う)
【0041】
図21は、工具がワークの外側を回る場合、プログラム経路の進行方向が直線から直線に変わる際に、刃先R中心がどのような経路を通るかを説明する図である。点線のみの点線区間では、工具は一定値の移動パルス出力により移動し、破線と点線の重なった重複区間では、補正による遅れを一定値の移動パルスを加算して遅れを取り戻し、同期ずれを解消する。
【0042】
図22は、プログラム経路の進行方向が直線から円弧に変わる際に、刃先R中心がどのような経路を通るかを説明する図である。点線のみの点線区間では、工具は一定値の移動パルス出力により移動し、破線と点線の重なった重複区間では、補正による遅れを一定値の移動パルスを加算して遅れを取り戻し、同期ずれを解消する。
【0043】
図23は、プログラム経路の進行方向が円弧から直線に変わる際に、刃先R中心がどのような経路を通るかを説明する図である。点線のみの点線区間では、工具は一定値の移動パルス出力により移動し、破線と点線の重なった重複区間では、補正による遅れを一定値の移動パルスを加算して遅れを取り戻し、同期ずれを解消する。
【0044】
図24は、プログラム経路の進行方向が円弧から円弧に変わる際に、刃先R中心がどのような経路を通るかを説明する図である。点線のみの点線区間では、工具は一定値の移動パルス出力により移動し、破線と点線の重なった重複区間では、補正による遅れを一定値の移動パルスを加算して遅れを取り戻し、同期ずれを解消する。
【0045】
図25は、工具がワークの外側を回る場合の、刃先R補正または工具径補正指令を含むテーブル形式データ(パステーブル運転データ)を説明する図である。パステーブル番号3000は、時間または主軸位置の各ブロック(L0,L1,L2,L3,L4,L5,L6,L7)に対して、X軸のプログラム経路、Y軸のプログラム経路、および、刃先R補正または工具径補正指令が設定されている。L0〜L7のブロックにはモーダル情報としてG42指令が設定されている。ブロックL3が工具の進行方向の変更点である。
【0046】
図26は、図25に示されるテーブル番号3000において、刃先R補正量または工具径補正量をrとし、L5とL6の間で同期ずれが解消すると仮定した時の工具位置の一例を表す表である。ブロックL4のX1およびY1、ブロックL5のX2およびY2は、点線区間(点線のみの区間と、および、点線および破線の重複区間)を移動する際に設定される一定値の移動パルスの設定値によって変化する。
【0047】
図27は、図25と図26に示される、刃先R補正量または工具径補正量をrとし、L5とL6の間で同期ずれが解消すると仮定した時のプログラム経路と工具位置の関係を説明する図である。
【0048】
<キャンセル処理>
次に、パステーブル運転において、刃先R補正または工具径補正の無効を指令した場合の処理であるキャンセル処理について説明する。
刃先R補正または工具径補正が有効の状態で、刃先R補正または工具径補正の無効を指令するブロックを実行した場合、その時点から次に工具の進行方向が変化する直前に刃先R補正または工具径補正による補正量が0(ゼロ)となるように、等速で補正を行う。
【0049】
図9や図10は、G40指令を行った時の工具の刃先R中心経路とプログラム経路を表した図である。なお、工具の工具中心経路の場合も工具の刃先R中心経路の場合と同様であるので、これ以降、刃先R中心経路を例として説明する。
【0050】
図9は、工具の進行方向が直線から直線に変更される場合である。刃先R中心経路を通って移動する工具は、G40指令によって工具の進行方向が変化する点S1から刃先R補正の補正量が0(ゼロ)になるように等速で補正量のキャンセルがなされる。刃先R中心点8は破線矢印で示される刃先R中心経路を通って、G40指令の後、次に進行方向が変化する時刻(工具の進行方向が変化する点S2)に補正量が0になる動作が完了する。
【0051】
また、図10は、工具の進行方向が円弧から直線に変更される場合である。刃先R中心経路を通って移動する工具は、G40指令によって工具の進行方向が変化する点S1から刃先R補正の補正量が0(ゼロ)になるように等速で補正量のキャンセルがなされる。工具2は破線矢印で示される刃先R中心経路を通って、G40指令の後、次に進行方向が変化する時刻(工具の進行方向が変化する点S2)に補正量が0になる動作が完了する。
【0052】
次に、図11、図12、および図13を用いて、刃先R補正量をrとした時の、プログラム経路と工具位置の関係を説明する。なお、工具径補正量をrとした時も同様に説明できる。
【0053】
図11は、刃先R補正または工具径補正指令を含むテーブル形式データ(パステーブル運転データ)を説明する図である。図11のパステーブル番号1000には、時間または主軸位置の各ブロック(L0,L1,L2,L3,L4,L5,L6,L7,L8)に対して、X軸のプログラム経路、Y軸のプログラム経路、および、刃先R補正または工具径補正指令が設定されている。L0〜L1はモーダル情報としてG41指令が指令されており、L2でG40指令がなされている。次に進行方向が変化する時刻(主軸位置)は図11に示されるL7の点である。なお、図11において、(G41)の表記は、G41指令のブロックではないが、L1〜L4の各ブロックがモーダル情報としてG41指令を指令されていることを意味する。また、(G40)の表記は、L3〜L8の各ブロックがモーダル情報としてG40指令を指令されていることを意味する。
【0054】
図12は、図11のプログラム経路において、刃先R補正量または工具径補正量をrとした時の工具位置(刃先R中心経路)を表す表である。なお、工具の工具中心経路の場合も工具の刃先R中心経路の場合と同様であるので、これ以降、刃先R中心経路を例として説明する。図13は、図11と図12に示される、刃先R補正量をrとした時の、プログラム経路と工具位置の関係を説明する図である。図11においてL2のブロックに刃先R指令または工具径補正指令をキャンセルする指令であるG40指令が設定されていることから、刃先R補正量をrとした場合、各ブロックにおいて補正を行うと、図12に示されるように、工具2のY軸の位置が補正される。工具の進行方向が変化する点Sは、この例では、L7が工具の進行方向の変化する点である。
【0055】
図28は、本発明に係る刃先R補正または工具径補正を行うアルゴリズムを説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。なお、これ以降のフローチャートにおいて、用いられる工具が刃先R補正を行う工具の場合は刃先R補正を行い、工具径補正を行う工具の場合は工具径補正を行うことを意味する。
フローチャートの処理はG40指令またはG41指令またはG42指令が指令された場合にスタートする。
【0056】
●[ステップSA10]刃先R補正または工具径補正が指令されたか否かを判断し、指令された場合にはステップSA20へ移行し、指令されていない場合にはステップSA50へ移行する。
●[ステップSA20]刃先R補正または工具径補正のスタートアップ処理を実行する。
●[ステップSA30]刃先R補正または工具径補正のメイン処理を実行する。
●[ステップSA40]補正方向の変更またはキャンセルが行われたか否かを判断し、補正方向の変更またはキャンセルが行われた場合にはステップSA10へ戻り処理を継続し、補正方向の変更またはキャンセルが行われない場合にはステップSA30へ戻り処理を継続する。なお、補正の方向の変更とは、G41指令からG42指令への変更,または、G42指令からG41指令への変更を意味する。キャンセルはG40指令を意味する。
●[ステップSA50]刃先R補正または工具径補正のキャンセル処理を実行し、処理を終了する。
【0057】
図29は、本発明に係る刃先R補正または工具径補正を行うスタートアップ処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA200]刃先R補正または工具径補正の対象平面を構成する2軸の移動指令値から、合成速度を算出する。
●[ステップSA201]刃先R補正または工具径補正の補正量と補正方向から各軸の補正量をそれぞれ算出する。
●[ステップSA202]位置指令値に各軸の補正量を加算し、補正後の移動指令値を算出する。
●[ステップSA203]テーブル形式データを先読みし、工具の進行方向の変更点を取得する。
●[ステップSA204]工具の進行方向の変更点到達時に補正が完了するように補正量を補間して出力する。
●[ステップSA205]補正量の加算により各軸に速度超過が発生か否か判断し、超過した場合にはステップSA206へ移行し、超過しない場合には処理を終了する。
【0058】
図30は、本発明に係る刃先R補正または工具径補正を行うメイン処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA300]テーブル形式データを先読みし、工具の進行方向の変更点を取得する。
●[ステップSA301]ワークの内側を工具が回るか否かを判断し、内側を回る場合にはステップSA302へ移行し、内側を回らない場合にはステップSA304へ移行する。
●[ステップSA302]刃先R補正を行ったときの刃先R中心経路、または、工具径補正を行った時の工具中心経路の交点Sを算出する。
●[ステップSA303]同期ずれが解消されるまで交点Sで工具停止し、同期ずれが解消すると動作開始する。
●[ステップSA304]プログラム経路に無い移動を行う区間の始点と終点を算出する。
●[ステップSA305]プログラム経路に無い移動を行う区間の始点から終点まで、一定値の移動パルスを出力する。
●[ステップSA306]同期ずれが解消されるまで、プログラム(テーブル形式データ)による移動量に一定値の移動パルスを加算して出力する。
●[ステップSA307]ステップSA306におけるプログラムによる移動量に一定値の移動パルスを加算することにより速度超過が発生したか否かを判断し、速度超過が発生した場合にはステップSA308へ移行し、速度超過が発生しない場合には処理を終了する。
●[ステップSA308]速度超過アラームを発生し、処理を終了する。
【0059】
図31は、本発明に係る刃先R補正または工具径補正のキャンセル処理のアルゴリズムを説明するフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA500]テーブル形式データを先読みし、工具の進行方向の変更点を取得する。
●[ステップSA501]工具の進行方向の変更点到達時に補正量が0となるように補正量を補間して出力する。なお、補正量は、図29のステップSA201に示される各軸の補正量を意味する。
●[ステップSA502]補正量の加算により速度超過が発生したか否かを判断し、速度超過が発生した場合にはステップSA503へ移行し、速度超過が発生していない場合には処理を終了する。
●[ステップSA503]速度超過アラームを発生し、処理を終了する。
【0060】
<各軸の補正量を算出する手段>
(図29のステップSA201を参照)
次に、図32を用いて、本発明に係る各軸の補正量を算出する手段を説明する。刃先R補正または工具径補正を行う場合、補正を行う平面を構成する2軸を選択する。さらに、補正を行う平面における工具の進行方向に対して、進行方向の左側に補正を行うか、進行方向の右側に行うかを選択する。以降では、補正を行う平面を構成する2軸としてX軸とY軸を、補正方向として進行方向の左側を選択したと仮定する。
【0061】
前記の設定を行った上で、選択した2軸の移動指令値から、補正を行う平面上での進行方向を算出する。これは、2軸の合成速度を計算した上で、合成速度のX成分とY成分を求めることで算出可能である。X軸が400mm/min、Y軸が300mm/minの速度で移動することを仮定すると、合成速度の大きさは図32に示すように500mm/minとなる。
【0062】
補正方向は進行方向の左側であるため、刃先R補正または工具径補正の補正量をr[mm]とした場合、X軸方向およびY軸方向の補正量は次のようになる。
・X軸方向の補正量:-r*300/500[mm]
・Y軸方向の補正量: r*400/500[mm]
上記より、補正方向を進行方向の左側とした場合の補正量は、下記のように表される。
(X軸方向の補正量)=-r*(Y軸速度)/((X軸速度)2+(Y軸速度)2))1/2
(Y軸方向の補正量)= r*(X軸速度)/((X軸速度)2+(Y軸速度)2))1/2
同様に、補正方向を進行方向の右側とした場合の補正量は、下記のように表される。
(X軸方向の補正量)= r*(Y軸速度)/((X軸速度)2+(Y軸速度)2))1/2
(Y軸方向の補正量)=-r*(X軸速度)/((X軸速度)2+(Y軸速度)2))1/2
【0063】
<工具の進行方向の変化を検知する手段>
(図29のステップSA203、図30のステップSA300、図31のステップSA500を参照)
次に、工具の進行方向の変化を検知する手段について説明する。補正を行う平面における工具の進行方向は、平面を構成する2軸の単位時間あたりの移動量により判断できる。
【0064】
単位時間あたりの移動量が(X,Y)=(0.5,1.0)の場合と、(X,Y)=(1.0,2.0)の場合は、進行方向は同じと判断できる。一方、単位時間あたりの移動量が(X,Y)=(0.5,1.0)の場合と、(X,Y)=(2.0,1.0)の場合は、進行方向は異なると判断できる。
【0065】
従って、工具の進行方向の変化を検出する手段は、以下の方法で実現できる。
(1)補正を行う平面を構成する2軸(X軸とY軸)について、テーブル形式データを先読みし、数値制御装置の制御周期毎の移動量を算出する。
(2)前制御周期のX軸とY軸の移動量をそれぞれX1,Y1とし、現制御周期のX軸とY軸の移動量をそれぞれX2,Y2とした時に、X1/Y1 NEQ X2/Y2となる点を工具の進行方向の変化する点とみなす。なお、NEQは不等号を意味する。
【0066】
また、工具がワークの内側を回る場合と工具がワークの外側を回る場合を区別するために必要な、プログラム経路交点のワーク側角度については、工具の変更点の前後のプログラム経路のベクトルの内積の演算に基づき、ワーク側の角度を求めることができる。
【0067】
<刃先R補正または工具径補正の工具の中心経路の交点Sを算出する手段>
次に、図33を用いて、本発明に係る刃先R補正または工具径補正の中心経路の交点Sを算出する手段を説明する。図33に示されるようにワーク4の内側を工具2が回る場合を考える。
【0068】
最初に、L0からL6までの座標値から、進行方向変更前の刃先R中心経路と、進行方向変更後の刃先R中心経路を、数式で表す。ここでは、進行方向変更前後の中心経路の数式を下記とする。
変更前の中心経路の数式:y=x+1.0
変更後の中心経路の数式:y=10.0
この時の交点Sの座標値は、進行方向変更前後の中心経路の連立方程式を解くことによって得られる。交点S=(9.0,10.0)
上記より、進行方向変更前後の中心経路の数式を
・変更前の中心経路の数式:y=a1+b1
・変更後の中心経路の数式:y=a2+b2
とした場合の交点Sの座標値は、以下のように表される。
交点S=((b2−b1)/(a1−a2),(a12−a21)/(a1−a2))
【0069】
<プログラム経路に無い移動を行う区間の始点と終点を算出する手段>
次に、図34を用いて、本発明に係るプログラム経路に無い移動を行う区間の始点と終点を算出する手段を説明する。
【0070】
工具がワークの外側を回る場合を考える。図34に示されるように、プログラム経路に無い移動を行う区間の始点は、進行方向変更前のプログラム経路の終点L3に対し、刃先R補正または工具径補正を行った点であるL3sとなる。同様に終点は、進行方向変更後のプログラム経路の終点L3に対し、刃先R補正または工具径補正を行った点であるL3eとなる。
L3sおよびL3eの座標値は、前記各軸の補正量を算出する手段により算出可能である。L3sとL3eの間の移動経路に関しては、次の方法が考えられる。
・前記刃先R補正または工具径補正の中心経路の交点Sを算出する手段と同様に、進行方向変更前後の中心経路の式から交点Sを求め、交点Sを経由して移動を行う方法。
・L3を中心とし、始点と終点をそれぞれL3sとL3eとする、半径Rの円弧で移動する方法。
【0071】
次に、図35を用いて、本発明に係るテーブル形式データ(パステーブル運転データ)での制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置を説明する。図35は、本発明の一実施形態の数値制御装置の要部ブロック図である。図35に示される数値制御装置によって、上述したフローチャートに基づくプログラムを実行することにより、刃先R補正または工具径補正を行うことが可能なパステーブル運転を実行できる。
【0072】
CPU51は数値制御装置50を全体的に制御するプロセッサである。CPU51は、ROM52に格納されたシステムプログラムをバス59を介して読み出し、該システムプログラムに従って数値制御装置全体を制御する。RAM53には一時的な計算データや表示データ及び表示器/MDIユニット90を介してオペレータが入力した各種データが格納される。
【0073】
SRAMメモリ54は図示しないバッテリでバックアップされ、数値制御装置50の電源がオフにされても記憶状態が保持される不揮発性メモリとして構成される。SRAMメモリ54中には、図示しないインタフェースを介して読み込まれた加工プログラムや表示器/MDIユニット90を介して入力された加工プログラム等が記憶される。
【0074】
さらに、前述したテーブル形式データ(パステーブル)が予め格納されている。また、ROM52には、加工プログラムの作成及び編集のための処理を実施するための各種システムプログラムがあらかじめ書き込まれている。
【0075】
PMC(プログラマブル・マシン・コントローラ)55は、数値制御装置50に内蔵されたシーケンスプログラムで工作機械の補助装置にI/Oユニット56を介して信号を出力し制御する。また、工作機械の本体に配備された操作盤の各種スイッチ等の信号を受け、必要な信号処理をした後、CPU51に渡す。
【0076】
表示器/MDIユニット90は、ディスプレイやキーボード等を備えた手動データ入力装置であり、インタフェース57は表示器/MDIユニット90のキーボードからの指令,データを受けてCPU51に渡す。インタフェース58は、操作盤91に接続され、操作盤91からの各種指令を受け取るようになっている。
【0077】
各軸の軸制御回路60、70は、CPU51からの各軸の移動指令量を受けて、各軸の指令をサーボアンプ61、71に出力する。サーボアンプ61、71はこの指令を受けて、X軸,Y軸の各軸のサーボモータ105x,105yを駆動する。各軸のサーボモータ105x,105yは、位置・速度検出器を内蔵し、この位置・速度検出器からの位置、速度フィードバック信号を軸制御回路60、61にフィードバックし、位置・速度フィードバック制御を行う。なお、図35では、位置・速度フィードバックについて省略している。
【0078】
また、スピンドル制御回路80は、主軸回転指令を受け、スピンドルアンプ81にスピンドル速度信号を出力する。スピンドルアンプ81はスピンドル速度信号を受けて、スピンドルモータ82を指令された回転速度で回転させる。位置・速度検出器83は、スピンドルモータ82の回転に同期して帰還パルス(基準パルス)及び1回転信号をスピンドル制御回路80にフィードバックし、速度制御を行う。この帰還パルス(基準パルス)及び1回転信号は、スピンドル制御回路80を介してCPU51によって読み取られ、帰還パルス(基準パルス)はRAM53に設けたカウンタ(図示せず)で計数される。
【0079】
本発明の実施形態では、主軸に取り付けた位置・速度検出器からの帰還パルスを基準パルスとし、主軸を基準軸、X軸(105x),Y軸(105y)を制御軸とする例を示している。制御軸としてはこれらに限定されるものではなく、さらに増加してもよい。増加する場合、増加する制御軸のテーブル形式データ(パステーブル)を不揮発性メモリであるSRAM54に格納し、軸制御回路、サーボアンプ、サーボモータを増加すればよいことになる。
【0080】
また、主軸を基準軸とせず、時間や、外部に基準軸を設けて、該基準軸の移動等に伴ってパルスを発生させ、このパルスを基準パルスとする時には、この基準パルスを計数するカウンタを設ければよい。あるいは、制御軸を基準軸としてもよい。この実施形態では、不揮発性メモリであるSRAM54に、図6、図11、図18などに示されるテーブル形式データ(パステーブル運転データ)が格納されている。そして、SRAM54に記憶されているテーブル形式データで記述されている加工プログラムを実行する。
【符号の説明】
【0081】
2 工具
3 工具
4 ワーク
6 加工形状
8 刃先R中心点
50 数値制御装置
51 CPU
52 ROM
53 RAM
54 SRAM
55 プログラマブル・マシン・コントローラ
56 I/Oユニット
57,58 インタフェース
59 バス
60 軸制御回路
61 サーボアンプ
70 軸制御回路
71 サーボアンプ
80 スピンドル制御回路
81 スピンドルアンプ
82 スピンドルモータ
83 位置・速度検出器
90 表示器/MDIユニット
91 操作盤
101 カウンタ
102 乗算器
103 基準位置カウンタ
105x x軸サーボモータ
105y y軸サーボモータ

S 交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間、軸位置、あるいは主軸位置を基準とし、基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、前記基準となる軸あるいは主軸とは別の軸あるいは主軸の位置とを対応させたテーブル形式データをメモリに格納しておき、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、前記基準となる軸あるいは主軸とは別の軸あるいは主軸の位置を順次読み出し、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置に同期して、前記別の軸あるいは主軸の位置に同期して前記別の軸あるいは主軸の位置を制御する数値制御装置において、
刃先R補正量または工具径補正量を記憶する記憶手段と、
テーブル形式データへの刃先R補正または工具径補正の有効および無効を指令する指令手段と、
前記テーブル形式データと前記刃先R補正量または工具径補正量から、工具の進行に伴って前記テーブル形式データのブロックに対して補正する前記別の軸あるいは主軸の位置の補正量を算出する補正量算出手段と、
前記補正量算出手段により算出された補正量から前記別の軸あるいは主軸の位置を算出する算出手段と、
刃先R補正または工具径補正を行うことにより生じる、前記基準となる時間、軸あるいは主軸の位置と、前記別の軸あるいは主軸の位置の同期ずれを補正した前記別の軸あるいは主軸の位置を出力する出力手段と、
を有することを特徴とするテーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置。
【請求項2】
前記出力手段は、テーブル形式データを先読みし、工具の進行方向の変更点を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得した工具の進行方向の変更点から工具がワークの内側を回るか外側を回るかを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定の結果、工具がワークの内側を回る場合、補正後の工具の経路における工具方向の変更点で同期ずれが解消されるまで工具を停止し、工具がワークの外側を回る場合は、プログラム経路に無い移動を行う区間において、同期ずれが解消されるまでプログラムによる移動量に一定の移動パルスを加算する加算手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のテーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置。
【請求項3】
前記加算手段により求められた加算結果の値が、設定リミット値を超えるか否かを判断し、リミット値を超えた場合にアラームとするアラーム手段を有することを特徴とする請求項2に記載のテーブル形式データでの制御における刃先R補正または工具径補正の機能を備えた数値制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2011−237885(P2011−237885A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106696(P2010−106696)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】