説明

テープ基板上の超伝導材料のための方法および装置

【課題】連続的で長さの長い超伝導体リボンまたはテープまたはワイアを形成する方法および装置を提供する。
【解決手段】超伝導層を成長させるために用いる材料を移動するテープ上に連続的に堆積させる。繰り出しリール401および取り込みリール406を使用してそれぞれテープ基板を一定の速度で繰り出し巻き取る。一連のステージを用いてこのテープ上に超伝導層を形成し、超伝導層形成に用いられるテープ基板上に1つまたは複数の材料を堆積させる少なくとも1つの反応炉すなわち反応チャンバ601cと、超伝導体と金属テープ基板の間、または超伝導体層間にバッファ層を堆積させるため、ならびにコーティング層を堆積させる1つまたは複数のチャンバ601a、601bとが備えられる。また、各ステージ間で移行チャンバ701を使用してエッチング・ステージを他の諸ステージと分離することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、超伝導体に関し、詳細には、超伝導材料をテープ基板上に形成する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、同時に出願され本願譲受人に譲渡された2002年7月26日に出願された「テープ基板上の超伝導材料」という名称の米国特許出願第10/206,900号、および同時に出願され本願譲受人に譲渡された2002年7月26日に出願された「テープ基板上に薄膜を形成する方法および装置」という名称の米国特許出願第10/206,783号の関連出願であり、これらの出願に開示された内容は参照により本明細書に組み込まれている。
【0003】
金属中の電気抵抗は、固体を伝播する電子が、完全な並進対称からの偏差のせいで散乱されるために生じる。これらの偏差は、不純物かあるいはフォノン格子振動のどちらかによって発生する。抵抗に対して、不純物は温度に依存しない寄与分を形成し、振動は温度に依存する寄与分を形成する。
【0004】
用途によっては、電気抵抗は極めて望ましくない。たとえば、電力送信においては、電気抵抗は電力損失すなわちロスを生じる。この電力損失は、通常のワイア中では電流に比例して大きくなる、すなわち、P=IR。すなわち、大電流を運ぶワイアは、大量のエネルギーを失う。さらに、変圧器が長いほど、モータが大きいほど、または伝送距離が長いほど、より長いワイアが使用され、損失がより大きくなる。というのは、ワイア中の抵抗はその長さに比例するからである。したがって、たとえ比較的電流が小さくても、ワイアの長さが増大するにつれてより多くのエネルギーがワイア中で失われる。したがって、発電所は、消費者が使用するより多くのエネルギーを発生させる。というのは、エネルギーの一部がワイアの抵抗によって失われるからである。
【0005】
その転移温度T未満に冷却された超伝導体中には抵抗が無い。というのは、散乱機構が電流担体の運動を妨げることができないからである。最も知られた種類の超伝導材料中では、クーパー対として知られる電子対によって電流が運ばれる。2つの負に帯電した電子が結合される機構は、BCS(バーデン クーパー シュリーファー)理論によって説明される。超伝導状態、すなわちT未満で、電子対の結合エネルギーは、フェルミ・エネルギーすなわち固体中の最大占有レベルであるEでのエネルギー・スペクトル中にギャップの開口をもたらす。これによって、対の状態を「通常の」単一電子状態から分離させる。クーパー対の大きさは、一般的に1000Åである可干渉距離によって与えられるが、銅酸化物中では30Åほどに小さくなることができる。1対によって占有される空間は他の多くの対を含み、それによって、対の占有状態の複雑な相互依存関係が形成される。したがって、これらの対を散乱させるには熱エネルギーが不十分である。というのは、対のうちの1つの電子の進行方向を反転させる場合は、その対および他の多くの複雑な相互依存関係に起因する対を破壊する必要があるからである。その結果、これらの対は、電流を妨げられずに運ぶ。超伝導体理論のより詳しい情報についてはエム、ティンカム(M. Tinkham)の「超伝導入門(Introduction to
Superconductivity)」(1975年マグローヒル、ニューヨーク)を参照されたい。
【0006】
多くの様々な材料は、それらのT未満の温度に冷却されると超伝導体になることができる。たとえば、いくつかの古典的なI型超伝導体は、(それらのそれぞれのケルビン温度(K)でのTを共に表すと)カーボン 15K、鉛 7.2K、ランタン 4.9K、タンタル 4.47K、および水銀 4.47Kである。いくつかのII型超伝導体は、高温超電導体の新しい種類の一部であるが、(それらのそれぞれのケルビン温度(K)でのTを共に表すと)Hg0.8Tl0.2Ba2Ca2Cu3O8.33 138K、Bi2Sr2Ca2Cu3O10 118K、およびYBa2Cu3O7-x 93Kである。最後の超伝導体は、その組成、すなわち、イットリウム、バリウム、銅、および酸素の故にYBCO超伝導体としてもよく知られているが、特に電力用として最高の性能で、最高に安定な高温超伝導体とみなされている。YBCOはペロブスカイト構造である。この構造は、金属酸化物構造中に複雑な原子の層構造を有する。図1にイットリウム原子101、バリウム原子102、銅原子103、および酸素原子104を含むYBa2Cu3O7の構造を示す。酸化物超伝導体に関するより詳しい情報は、ロバート、ジェイ、キャバ(Robert J. Cava)の「酸化物超伝導体(Oxide
Superconductors)」(2000年、ジャーナル・オブ・アメリカンセラミック・ソサイアティ(J.
Am. Ceram. Soc)83巻、1号、5〜28頁)を参照されたい。
【0007】
YBCO超伝導体特有の問題、および酸化物超伝導体一般の問題は、それらがそれらの酸化物特性の故に製造し難く、それらの複雑な原子構造の故に超伝導形状に製造することが難しいことである。構造中の最小の欠陥、たとえば、原子構造の不規則化または化学組成の変化が、それらの超伝導特性を破壊し、または深刻に劣化させることがある。欠陥は多くの原因、なかんずく、不純物、不適切な材料濃度、不適切な材料相、不適切な温度、粗末な原子構造、および基板への不適切な材料供給から生じ得る。
【0008】
薄膜YBCO超伝導体は、パルス・レーザ堆積、スパッタリング、有機金属堆積、物理気相成長、および化学気相成長を含む多くの方法で製作することができる。薄膜YBCO超伝導体の堆積の場合の2つの典型的な方法を本明細書で例として説明する。第1の方法は、図2に示すように反応チャンバ200中でウェハ基板上に有機金属化学気相成長(MOCVD)によってYBCOを形成する。この製作方法は半導体デバイスのものと類似している。ウェハ基板をホルダー201上に載置する。この基板をヒータ202で加熱する。また、このウェハ基板を回転させ、それによって基板ウェハ上へのより均一な堆積ならびに基板のより均一な加熱を可能にする。ガス状の材料を入口204からシャワー・ヘッド203によって基板に供給する。このシャワー・ヘッド203は、基板ウェハ上に材料の層流を供給する。この材料は加熱されたウェハ上に集まり超伝導体を成長させる。余剰な材料は、ポンプに結合した排気口208を経由してチャンバ200から除去する。チャンバ200の壁面上への望まない材料の堆積を防ぐために、冷却液を壁面中のジャケット205に流す。シャワー・ヘッド203の内側に材料が蓄積するのを防ぐために冷却液をシャワー・ヘッド中のコイル206に流す。ドア207は、被膜/基板試料の挿入および取り出しのためにチャンバ200の内側へアクセス可能にする。この被膜の処理は光学ポート209からモニタすることができる。
【0009】
第2の方法では、連続的な金属テープ基板301を使用する可能性を含む、基板上へのパルス・レーザ堆積によってYBCOを形成する。このテープ基板301は、反応チャンバ300の内側で2つのローラ302および303によって支持する。ローラ302は、YBCOの成長を可能にする温度までテープ301を加熱するヒータ304を備える。この材料305は、一般的にはエキシマ・レーザ306によってターゲットを照射することによってYBCOターゲットから柱状噴流状に蒸発させる。次いで、この柱状噴流蒸気が基板301上にYBCO超伝導膜を形成する。ローラ302および303は、レーザ・ターゲットを通過したテープの連続的な運動を可能にし、したがってテープ上へのYBCO材料の連続的な被覆を可能にする。レーザ306はチャンバ300の外部にあり、レーザ306からのビームは光学ポート307を経由してチャンバ300に入射することに留意されたい。次いで、得られたテープを切断し、YBCO超伝導体材料の層を有するテープまたはリボンを形成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記で説明した高温超電導体薄膜の形成方法のどちらも電力用の銅(または他の金属)ワイアの置き換えに使用できるYBCOの長い長さのテープまたはリボンを作製することができない。第1の方法は、超伝導体材料の小片をウェハ上に作製することを可能にするに過ぎない、たとえば、バッチ・プロセス。第2に方法は、数フィート(ただし、1フィートは30.3cmである)の長さのテープを作製するのに使用できるだけであり、厚さ数ミクロンの超伝導膜を作り出すのに複数パスを使用する。第2の方法は、約5フィート(約1.5メートル)の実際上の限界がある。より長いテープにはより長い加熱チャンバが必要になる。より長い加熱ローラも必要になる。テープはローラ302を離した後で冷却し、したがって必要な温度まで加熱バックアップをするのにより長い時間を要する。チャンバの他方の側を冷却しつつ、チャンバの一方の側を加熱すると、金属基板上に形成されたYBCO層および他の層中に熱クラックが誘導されることもある。第2の方法によって作り出された小片のテープを一緒にスライスして長さが長いテープを形成することができるが、おまけに小片が超伝導体であるので、接合技法が高品質な高温超電導体の接合部を得るまでにはまだ至っていない。その結果、現在の超伝導体形成のための構成は、超伝導材料の長く連続的なテープを形成することができない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、連続的で長さの長い超伝導体リボンまたはテープまたはワイアを形成するように、金属リボンまたはテープまたはワイア上に、超伝導体好ましくはYBCOを連続的に形成することを可能にする、当技術分野でニーズのある構成用のシステムまたは方法を対象とする。本明細書で使用する超伝導ワイアという用語には、電流を運ぶために使用されるどんな超伝導素子も含まれることに留意されたい。
【0012】
これらおよび他の目的、態様、および技術的な利点は、移動するテープ上に超伝導体層を成長させるのに使用される材料を連続的に堆積させるシステムおよび方法によって実現される。本発明は、繰り出しリールを使用してテープ基板を一定速度で繰り出すことが好ましい。次いで、本発明は、初期化ステージを使用して、超伝導体層を成長させる前にテープ基板を予備加熱および/または予備処理することが好ましい。予備加熱は、テープ基板の熱衝撃を低下させるのに望ましい。予備加熱は、超伝導体層を成長させる前にテープ基板から汚染物質を減少させるのに望ましい。次いで、本発明は、少なくとも1つの反応炉すなわち反応チャンバを使用して、超伝導体層を形成するのに使用されるテープ基板上に1つまたは複数の材料を堆積させることが好ましい。本発明は、アニール・ステージを使用して超伝導体層を仕上げ、超伝導テープを冷却することが好ましい。本発明は、巻き取りリールを使用して超伝導テープを巻き取ることが好ましい。本発明は、任意選択で超伝導テープ上に保護コーティングを堆積させるコーティング・ステージを使用することができる。また、本発明は、任意選択で超伝導テープの適正な特性を保証する品質管理ステージを使用することもできる。さらに、本発明は、任意選択で初期化ステージに入れる前にテープから潤滑油および/または他の汚染物質を除去する予備洗浄ステージを使用することもできる。
【0013】
本発明は、初期化ステージと反応チャンバの間、反応チャンバとアニール・ステージの間、およびもし1つ以上のチャンバを使用する場合は反応チャンバ間に移行チャンバを使用することが好ましい。追加の反応チャンバまたは反応炉を使用して基板と高温超伝導(HTS)膜あるいはHTS膜の上面または層間のコーティング層との間にバッファ層を設けることもできる。この移行チャンバは、ステージまたは反応炉それぞれを他のステージおよび/または反応炉から分離し、それによって、1つのステージまたは反応炉から他のステージまたは反応炉への二次汚染を防ぐ。この移行チャンバは、テープの温度を維持および/または調節することを可能にする加熱素子を含むことが好ましい。この移行チャンバは、超伝導体またはバッファ層を最適に維持するために転移チャンバ中の環境を制御する少なくとも1種のガスの導入を可能にする少なくとも1つのポートを含むことが好ましい。この移行チャンバは、テープが移行チャンバを通って移行する際にそれを保持する少なくとも1つの支持部を含むことが好ましい。
【0014】
この反応炉は、テープが反応炉を通って移行する際にそれを保持する少なくとも1つの支持部を含むことが好ましい。また、この反応炉は、テープの速度ならびに超伝導体層の材料の堆積および/または成長速度に関連するテープ移動の方向に長さを有する加熱システムを含むことも好ましい。したがって、テープの一部分が反応炉の反応領域(薄膜成長領域)を通る際に、このテープの一部分を所望の材料厚さ(好ましくは、1μmから最大10μmを超えるまで)が実現するのに充分長く加熱する。この反応炉は、好ましくは、シャワー・ヘッドを使用してテープ上に材料の層流ももたらす。さらに、この反応炉は、好ましくは、冷却システムを使用して望まない位置に材料が蓄積するのを低減させる。
【0015】
本発明を使用して、それだけには限らないが、YBCO、YBa2Cu3O7-x、NbBa2Cu3O7-x、LaBa2Cu3O7-x、Bi2Sr2Ca2Cu3Oy、Pb2-xBixSr2Ca2Cu3Oy、Bi2Sr2Ca1Cu2Oz、Tl2Ba2CaCu2Ox、Tl2Ba2Ca2Cu3Oy、Tl1Ba2Ca2Cu3Oz、Tl1-xBixSr2-yBayCa2Cu4Oz、Tl1Ba2CalCu2Oz、Hg1Ba2Ca1Cu2Oy、Hg1Ba2Ca2Cu3Oy、MgB2、酸化銅、希土類金属酸化物、および他の高温超伝導材料を含む様々な超伝導材料からなる超伝導テープを形成することができる。さらに、本発明は、それだけには限らないが、有機金属化学気相成長(MOCVD)、パルス・レーザ堆積、直流/高周波スパッタリング、有機金属堆積、分子ビームエピタキシ、およびゾル・ゲル処理法を含む多くの様々な薄膜堆積法に対して効果を及ぼすことができる。
【0016】
先に、以後の本発明の詳細な説明がより良く理解されるために本発明の態様および技術的な利点をやや大まかに概説した。以後、本発明の追加の態様および利点を説明するが、それらは本発明の特許請求の範囲の主題を形成する。当然のことながら当業者なら、開示された概念および具体的な実施形態は、本発明の同じ目的を実施するための他の構造を修正または設計する場合のベースとして容易に使用できる。また、当然のことながら当業者なら、このような等価な構造は添付の特許請求の範囲で説明したような本発明の精神および範疇から逸脱しないことを理解するはずである。本発明をその構成および適用方法の両方に関して特徴付けると考えられる新規な態様は、他の目的および利点と共に、添付の図に関連して考察したとき以下の説明からよりよく理解されるであろう。しかし、図のそれぞれは図示し説明するためだけに提供され、本発明を限定するものではないことをはっきりと理解すべきである。
【0017】
次に、本発明をより完全に理解するために、添付の図面に関連してなされた以下の説明を参照する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図4は、本発明を使用して高温超伝導(HTS)材料の連続的テープを製造するシステム400の実施形態の概略図である。このシステム400は、協働して超伝導(SC)材料を金属基板上に堆積させ、それによって、HTS材料が大きくてよく配向した粒子状態および主として小角度の粒界状態で自動的に整列するようにするいくつかのステージを有する。この原子配向によって、高い電流密度、たとえば、100,000アンペア/cm以上のJcが可能になる。
【0019】
この金属基板は、好ましくは、厚さ10/1000〜1/1000インチ(0.00254.〜0.000254cm)の金属箔テープ408である。このテープは望む幅にすることができる。たとえば、このテープは得られるHTSテープが大量の電流を運ぶことができるよう広くすることができ、あるいは、得られるHTSテープがより幅が狭いストリップ片に切断することができるよう広くすることもできる。
【0020】
このテープ408は、好ましくは、ニッケルおよび/またはニッケル合金からなり、HTS材料の成長を促進させる予め決められた原子配列を有する。また、このテープは、ニッケル、銀、パラジウム、白金、銅、アルミニウム、鉄、タングステン、タンタル、バナジウム、クロム、スズ、亜鉛、モリブデン、チタンを含むこともできる。このようなテープは、オークリッジ国立研究所によって記述されている。テープ408はHTS層を支え、したがって、強いだけでなく、延性すなわち可塑性がなければならない。本明細書で説明したように、テープの一方の側だけをHTS層でコーティングするが、両側をHTS層でコーティングすることもできることに留意されたい。
【0021】
このテープ408は、好ましくは、繰り出しリール401によって繰り出す。この繰り出しリール401は、テープを一定速度で供給する連続的な供給リールである。この繰り出しリールは(巻き取りリール406とともに)好ましくは、張力を制御してテープのたるみ(張力過小)ならびにテープの伸びまたは破断(張力過大)を防ぐ。処理の際に(たとえば、テープを高温に加熱すると)テープのたるみまたは伸びのどちらかによって、HTS層が損傷されあるいは破壊されることがある。最も好ましくは、テープが繰り出しリール401から巻き取りリール406まで通過する際に張力制御装置411によってコンピュータ409がテープの張力を制御する。
【0022】
テープ速度は、いくつかの因子、たとえば、反応チャンバの寸法、堆積した材料の所望の厚さ、層の成長速度、反応温度、光束等に依存する。約3cm/分の好ましい速度が、厚さ約0.5〜5μmのYBCO HTS層を連続的に成長させるのに適する。しかし、(それだけには限らないが)所望の厚さ、成長速度、使用される材料、材料濃度等などの因子に応じて、1〜20cm/分の速度を使用することができる。調節できるセットであり得るステッパ・モータを含む速度制御装置410を、テープの速度に対して使用することが好ましい。最も好ましくは、テープが繰り出しリール401から巻き取りリール406まで通過する際に速度制御装置410によってコンピュータ409がテープの速度を制御する。この繰り出しリールは、やはりコンピュータ409に接続された速度制御装置も備えることに留意されたい。
【0023】
このテープ408は、清浄でなければならず、潤滑および/または他の汚染物質があってはならない。このような汚染物質は、材料の堆積を妨げ、堆積した材料を化学的に汚染させ、かつ得られる薄膜構造を歪ませることがあり、大抵の場合、超伝導特性に悪影響を及ぼす。蒸気の油性洗浄剤または洗浄剤を予備洗浄ステージ412において使用してテープが初期化ステージ402に入る前にテープを洗浄することができる。あるいは、機械的な洗浄器、たとえば、ローラ・ワイパーを使用してテープを洗浄することもできる。他の代替法は、液体洗浄剤、たとえば、アセトンを有する超音波浴を使用したテープの洗浄である。残留洗浄剤はテープの初期化ステージ402によって蒸発または/燃焼されるはずである。予備洗浄ステージ412は、蒸発処理、機械的処理、または浴処理の組合せだけでなく、蒸発処理、機械的処理、または浴処理を複数回適用できることに留意されたい。さらに、このステージは、システム400から分離して操作することもできる。次いで、得られる洗浄済みテープを再度巻き取り、システム400中でテープ401として使用する。
【0024】
超伝導層を成長させる前に初期化ステージ402では、テープ基板408を予備加熱および/または予備処理する。このステージでは、テープ408の温度を約500℃まで上げる。この温度は、室温と次のステージの温度の間にある。この処理によってテープ基板の熱衝撃を低減させる。予備処理は、上面の超伝導体層を含む表面層を成長させる前にテープ基板から汚染物質を減少させる。また、このステージは金属を覆う元々ある酸化物も除去する。このステージは、好ましくは脱酸素剤、たとえば、水素(H)、アンモニア(NH)、および/または一酸化炭素、ならびにアルゴン(および/または非反応性ガス、たとえば、N)を含む還元雰囲気を有する。この脱酸素剤は、金属表面の酸化物と反応してそれを裸の金属に還元する。表面の金属酸化物は、HTS層の原子配列を乱して、超伝導特性に影響を及ぼすので除去すべきである。
【0025】
初期化ステージ402の実施形態の例を図5に示す。このステージは、好ましくは石英または非反応性材料(たとえば、ステンレス鋼)からなる少なくとも1つの支持部501を備える。他の材料としては、金、白金、酸化アルミニウム、LaAlO3、SrTiO3、および/または他の金属酸化物材料を含むことができる。この支持部は、テープを引っ掛けたり、あるいはねじれさせたりしないように滑らかに研磨すべきである。というのは、それによって、基板の原子配列が乱れ、低品質のHTS膜が生じるからである。また、この支持部は、たるみを防ぐのにちょうど必要な大きさでなければならならず、それによって、テープとの接触を最小にし汚染を防ぐ。ヒータ502は、テープの加熱に使用する。このヒータ502は、複数のステージ、たとえば、502a、502b、および502cを備え、各ステージはテープを所望の温度までプラス方向に加熱する。これによって、テープ基板の熱衝撃が低減される。この実施形態において、ヒータが支持パイプ508を備えることに留意されたい。このパイプは、ガスおよび/または他の材料がこのパイプに入るかまたはパイプから出ることあるいはその両方を可能にする複数のポート(図示せず)を有する。テープは、テープ・ポート506からこのステージに入り、テープ・ポート507からステージを出て行く。これらのテープ・ポート506および507は、移行チャンバ701上のもののように狭いスリットである必要はないことに留意されたい。あるいは、狭いスリットが移行チャンバの部分になく、代わりにテープ・ポート506および507が狭いスリットを備えてもよい。材料ポート504および505は、それぞれこのステージの環境を規定するために使用するガスの入口および出口を提供する。ステージ402の外部温度を下げるために冷却パイプ503を設けることもでき、あるいは、このステージ402内に冷却ジャケットを直接設けてもよい。
【0026】
下表に、初期化ステージの環境の実施した例を示す。これらの値は、好ましい値であり使用可能な値であるが、これらは例としてのみ示されている。なお、SCCMは標準立方センチメートル/分である。
【0027】
【表1】

【0028】
次のステージは堆積ステージ403である。このステージは好ましくは、超伝導体層がその上に堆積されるテープ基板上に1つまたは複数の材料を堆積させる少なくとも1つの反応炉すなわち反応チャンバ601を含む。図6Aに示すようにこの区域は、図7Aの移行チャンバ701によって分離することができる複数の反応チャンバ601a、601b、および601cを含むことができる。特定の超伝導体は、様々な材料の堆積、様々な濃度、様々な温度、様々な圧力、および/またはそれらの組合せが必要なことがあり、それには複数の異なる動作環境が必要とされる。各チャンバは好ましくは同一であるが、しかし、特定の環境が特に長いまたは特に短い成長時間を必要とし、および/または、層がより厚くまたはより薄くなければならない場合は、これらのチャンバをテープの移動方向でより長くまたはより短く作ることができる。テープは一定速度で移動するので時間は距離と同一となり、より長い堆積時間が必要(および/またはより厚い被膜が必要)な場合は、反応ゾーンがより長くまたは成長速度がより速くなるはずであり、逆も成り立つ。同様にテープ速度を変えると堆積時間も変わる。たとえば、テープを遅くすると堆積時間が長く膜厚が厚くなり、逆も成り立つ。
【0029】
図6Aに、反応炉601の実施形態の例を示す。この反応炉は、好ましくは石英または非反応性材料(たとえば、ステンレス鋼)からなる少なくとも1つの支持部604を備える。他の材料としては、金、白金、酸化アルミニウム、LaAlO3、SrTiO3、および/または他の金属酸化物材料を含むことができる。この支持部は、テープを引っ掛けたり、あるいはねじれさせたりしないように滑らかに研磨すべきである。というのは、それによって、基板の原子配列を乱し、低品質のHTS膜をもたらすからである。また、この支持部は、たるみを防ぐのにちょうど必要な大きさでなければならならず、それによって、テープとの接触を最小にし汚染を防ぐ。この支持部は、加熱素子613、たとえば、ランプによってもたらされる熱を補完するヒータを備えることができる。これによって、支持部がヒート・シンクの働きをするのを防ぐ。反応炉の両側に石英、非反応性材料(たとえば、ステンレス鋼)、あるいは石英または非反応性材料で裏打ちされた他のいくつかの材料を備えることができる。他の非反応性材料としては、金、白金、酸化アルミニウム、LaAlO3、SrTiO3、および/または他の金属酸化物材料を含むことができる。このテープは、テープ・ポート605からこのステージに入り、狭いテープ・ポート606からこのステージを出て行く。これらのテープ・ポート605および606は、移行チャンバ701上のもののように狭いスリットである必要はないことに留意されたい。あるいは、狭いスリットが移行チャンバの部分になく、代わりにテープ・ポート605および606が狭いスリットを備えてもよい。材料ポート607は、このステージで使用される材料の出口を提供する。図6Dの反応炉601の底面図に示すように、これらのポート607は反応炉601中の材料の層流を促進させるように構成する。言い換えれば、材料はシャワー・ヘッド603から流入し、次いでポート607から流出する。
【0030】
この反応炉601は、ランプ602およびシャワー・ヘッド(配給ヘッド)603を含む。図6Bおよび6Cに、それぞれ、図6Aに示すランプ602およびシャワー・ヘッド603の構成の側面図および上面図を示す。図6Eに、シャワー・ヘッド、基板、および、支持部の斜視図を示す(図中ランプ602は省略していることに注意)。ランプは、材料の堆積を可能にする所望の温度までテープを加熱する。また、ランプは、成長速度を大幅に増進させる、すなわち、反応種の表面拡散を増進させることによって成長速度を増大させる紫外光および可視光も提供し、それによって、厚い層の急速な成長、ならびに、より速いテープ速度および/またはより小さい反応炉が可能になる。ランプは、反射器を使用して光をシャワー・ヘッド603の直下の区域である反応区域609上に向ける。これによってチャンバ壁面に対する熱流束を低下させる。このランプは、好ましくは、石英ハロゲン・ランプであり、ランプ602の長さに沿って延びる複数の電球608を備える。他の紫外/可視(UV/V)光源、たとえば、キセノン放電光、水銀光、およびエキシマ・レーザ光も使用できることに留意されたい。シャワー・ヘッド603は、キャリア・ガスで混合された反応物質蒸気の層流を基板テープ408の反応炉の堆積領域までもたらす。このシャワー・ヘッド603は、好ましくは、石英で作るが、ステンレス鋼などの他の非反応性材料で作ってもよい。他の材料としては、金、白金、酸化アルミニウム、LaAlO3、SrTiO3、および/または他の金属酸化物材料を含むことができる。
【0031】
シャワー・ヘッドの下の区域は反応炉の堆積領域である。この領域の大きさは、たとえば、テープ速度、堆積速度、チャンバ圧等、所望の厚さの被膜を製造する他のシステム特性に関連して選択する。テープ408は、堆積領域にないときは、材料がテープをコーティングするのを防ぐようにシールド612によって覆う。
【0032】
配給ヘッド603の配置および寸法は基板408の幅に応じて変わる。たとえば、図6Bに示すように、幅B612を有する基板408の場合、支持部604の幅A613は、好ましくは、Bよりわずかに小さく、たとえばB−2mmである。しかし、AはB±2mmの範囲の値にすることができる。シャワー・ヘッドの幅C610はBより大きいことが好ましく、たとえばB+10mmである。しかし、CはB+15mm〜B−2mmの範囲の値にすることができる。シャワー・ヘッドと基板の間隔D611は、好ましくはB以上である。しかし、DはB/2以上の値にすることができる。
【0033】
また、ランプ・ハウジングは、好ましくはランプ反射器の一部分として冷却ジャケット610を備える。たとえば、水、オイル、グリコール等の様々な冷却液をこのジャケット中で使用することができる。また、反応炉の両側に冷却ジャケットおよび/または冷却パイプ614を備えることもできる。この(これらの)冷却ジャケットは、反応チャンバの外部温度を安全な範囲に低下させるだけでなく、反応種の化学反応が生じない温度まで壁面温度を低下させることによって壁面上の望まない堆積材料の蓄積を低減させる。
【0034】
この反応炉は、好ましくは、品質管理ポート611も含む。このポートは、堆積プロセスの際にテープを観察可能にし、かつ/あるいはテープの品質をテストするためにアクセス可能にする。
【0035】
基板で結合して堆積被膜、たとえば、HTS、バッファ層、オーバーコート層を形成する堆積材料(反応化学物質)またはプリカーサをプリカーサ・システム407で供給する。知られたシステムとしては、ガス調製システム、液体調製システム、固体調製システム、およびスラリ調製システムが含まれる。固体プリカーサ供給システムは、一般に、固体プリカーサを、分離した加熱容器中で揮発させ、容器にキャリア・ガスを通し、次いで、キャリア・ガス/プリカーサ蒸気を反応チャンバに流す。これらの固体プリカーサは、蒸発用の1つのマス状に固体として分離または混合することができる。スラリ・プリカーサ供給システムは、溶媒中に溶解してスラリを形成するプリカーサの全てまたは一部を含む高濃度のスラリの少量を、高温ゾーンを備える分離したチャンバ中で蒸発させる。液体プリカーサ供給システムは、溶媒中に溶解したプリカーサの全てまたは一部を含む少量の液体溶液を、高温ゾーンを備える分離したチャンバ中で蒸発させる。次いで、この蒸発したプリカーサをテープ408に供給するために反応炉のシャワー・ヘッド内に注入する。液体プリカーサ溶液は、反応炉のシャワー・ヘッドに注入するために噴霧化し、次いで蒸発させる。
【0036】
YBCO超伝導体と連続的金属箔とを一体化させるために、好ましくは3つの反応炉を使用する。第1の反応炉はバッファ層を提供し、第3の反応炉はYBCO層を提供する。この第1反応炉601aは、バッファの薄層、好ましくは酸化セリウム(CeO)を堆積させる。このバッファ層は、金属基板と超伝導層の間で他の速度の拡散を防ぐのに充分であり、かつ、原子的に配列した後のバッファ層または超伝導体層をその上に成長させる原子的に配列したテンプレートを提供する。この層は、次の2つの反応炉に比べて比較的低温で堆積させ、ニッケルを酸化から防ぐ。この酸化は、後続の層がその上で成長するニッケル基板表面の原子構造を破壊する。この反応炉はフォーミング・ガスたとえば水素の還元環境中で動作するが、酸化物層も成長させることに留意されたい。これは、反応炉内に酸素も供給されることを意味する。(標準気圧に比べて)比較的低圧のため、爆発の危険は無い。以下の表に、第1反応炉の環境の実施した例を示す。これらの値は、好ましい値であり使用可能な値であるが、これらは例としてのみ示している。
【0037】
【表2】

【0038】
第2反応炉601bは、より高い堆積温度のバッファ層、好ましくは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)バッファを堆積させる。このバッファ層および金属基板のYBCO層内への相互拡散を防ぐ。この反応炉は、O、NO、O、それらの組合せ、または他の酸化剤からなる酸素リッチな環境中、1〜5トルの圧力、600〜700℃の温度で動作する。以下の表に、第2反応炉の環境の実施した例を示す。これらの値は、好ましい値であり使用可能な値であるが、これらは例としてのみ示している。
【0039】
【表3】

【0040】
第3反応炉601cは、やはり酸素リッチな環境中でYBCO層を堆積させる。YBCO層の厚さならびにその化学的純度および結晶品質は、製作された超伝導テープの臨界電流を決定する。この臨界電流はそれを超えるともはや超伝導でなくなる電流である。以下の表に、固体状のプリカーサについての第3反応炉の環境の実施した例を示す。これらの値は、好ましい値であり使用可能な値であるが、これらは例としてのみ示している。
【0041】
【表4】

【0042】
以下の表に、固体(表4)および液体(表5)状のプリカーサについての第3反応炉の環境の実施した例を示す。これらの値は、好ましい値であり使用可能な値であるが、これらは例としてのみ示している。なお、Mは重量モル濃度である。
【0043】
【表5】

【0044】
また、堆積ステージ403は、ステージ402と第1反応炉の間、反応炉間、および最後の反応炉とステージ404の間に移行チャンバ701も含む。図7Aに移行チャンバの実施形態の例を示す。テープは、狭いスリット703から移行チャンバに入り、狭いスリット704から移行チャンバを出て行く。これらのスリットは、ガスおよび他の材料が反応チャンバから移行チャンバまで通過するのを最小にするために使用し、逆も成立する。したがって、この移行チャンバは、ステージまたは反応炉それぞれを他のステージおよび/または反応炉から分離し、それによって、1つのステージまたは反応炉から他のステージまたは反応炉への材料および/またはガスの二次汚染を防ぐ。移行チャンバは、そのどちらかの端部からリークする任意の材料またはガスを制御する真空システム706を含み、通常の反応チャンバ圧より高い圧力および低い圧力のどちらかで動作することができる。
【0045】
この移行チャンバは、好ましくは石英または非反応性材料(たとえば、ステンレス鋼)からなる移動するテープ基板用の少なくとも1つの支持部702を備える。他の材料としては、金、白金、酸化アルミニウム、LaAlO3、SrTiO3、および/または他の金属酸化物材料を含むことができる。この支持部は、テープを引っ掛けたり、あるいはねじれさせたりしないように滑らかに研磨すべきである。というのは、それによって、基板の原子配列を乱し、低品質のHTS膜をもたらすからである。また、この支持部は、たるみを防ぐのにちょうど必要な大きさでなければならならず、それによって、テープとの接触を最小にし汚染を防ぐ。
【0046】
移行チャンバには、移行チャンバ中にある間テープ温度を維持かつ/あるいは調整可能にする1つまたは複数の加熱素子707を含むことができる。このヒータ707は、テープの温度を維持、あるいはその温度をある点、たとえば、それに接続した2つのステージ間の中点に対して(より高くまたはより低くのどちらかに)調整することができる。たとえば、一方の反応炉が550℃で、他方の反応炉が700℃の場合、移行チャンバが625度になるように設定することができる。これによって、テープがステージ間および/または反応炉間を移動するとき、テープの熱衝撃が低減される。この実施形態では、加熱素子707が支持パイプ711を含むことに留意されたい。このパイプ711は、ガスおよび/または他の材料がこのパイプに入るかまたはパイプから出ることあるいはその両方を可能にする複数のポート710を有する。図7Bにポート710を有するパイプ711の側面図を示す。
【0047】
移行チャンバは、好ましくは、移行チャンバ内に少なくとも1種のガス状種を導入可能にする少なくとも1つのポート705を含む。この移行チャンバは、基板上に形成された(各)バッファ層または(各)超伝導体層を安定化あるいは向上させ、あるいは以後の層のテープ上への形成を増進させる。たとえば、移行チャンバはテープに酸素を供給することができ、これは、堆積被膜中の酸素の化学量論を維持するのに役立つ。導入されたどんなガス状材料も真空システム706によって除去され、ステージ/反応炉のどちらにも入って行かない。
【0048】
好ましくは、移行チャンバは冷却ジャケット708も含む。たとえば、水、オイル、グリコール等の様々な冷却液をこのジャケット中で使用することができる。この冷却ジャケットは、反応チャンバの外部温度を安全な範囲に低下させるだけでなく、反応種の化学反応が生じない温度まで壁面温度を低下させることによって壁面上の望まない堆積材料の蓄積を低減させる。
【0049】
この移行チャンバは、好ましくは、品質管理ポート709も含む。このポートは、堆積プロセスの際にテープの観察を可能にし、かつ/あるいはテープの品質をテストするためにアクセス可能にする。
【0050】
以下の表に、移行チャンバ701−1、701−2、701−3、および701−4の環境の実施した例を示す。これらの値は、好ましい値であり使用可能な値であるが、これらは例としてのみ示している。
【0051】
【表6】

【0052】
次のステージは、アニール・ステージ404である。このステージは、基板テープ上の超伝導層中に酸素の化学量論を増加させることができ、完全に処理されたテープを冷却する。このステージの後、テープを超伝導層の劣化無しで通常の大気に曝すことができ、したがって、さらなる移行チャンバは必要ない。テープはこのステージ中に約30〜60分間置かれる。テープは、このステージに入るときには約800〜650℃であり、このステージを出るときには約300℃以下である。このステージでは、テープは酸素雰囲気中にある。
【0053】
図8に、アニール・ステージの例を示す。このステージは、好ましくは石英または非反応性材料(たとえば、ステンレス鋼)からなる少なくとも1つの支持部801を備える。他の材料としては、金、白金、酸化アルミニウム、LaAlO3、SrTiO3、および/または他の金属酸化物材料を含むことができる。この支持部は、テープを引っ掛けたり、あるいはねじれさせたりしないように滑らかに研磨すべきである。というのは、それによって、基板の原子配列を乱し、低品質のHTS膜をもたらすからである。また、この支持部は、たるみを防ぐのにちょうど必要な大きさでなければならず、それによって、テープとの接触を最小にし汚染を防ぐ。ヒータ802は、テープの加熱に使用する。このヒータ802は、複数のステージ、たとえば、802a、802b、および802cを備え、各ステージはテープを所望の温度まで低下させる。これによって、テープ基板の熱衝撃が低減される。この実施形態において、ヒータが支持パイプ808を備えることに留意されたい。このパイプは、ガスおよび/または他の材料がこのパイプに入るかまたはパイプから出ることあるいはその両方を可能にする複数のポート(図示せず)を有する。テープは、テープ・ポート806からこのステージに入り、テープ・ポート807からステージを出て行く。これらのテープ・ポート806および807は、移行チャンバ701上のもののように狭いスリットである必要はないことに留意されたい。あるいは、狭いスリットが移行チャンバの部分になく、代わりにテープ・ポート806および807が狭いスリットを備えてもよい。材料ポート804および805は、それぞれこのステージの環境を規定するために使用するガスの入口および出口を提供する。冷却パイプ803をステージ404の外部温度を下げるために設けることもできる。あるいは、冷却ジャケットをこのステージ404内に直接設けてもよい。
【0054】
下表に、アニール・ステージの環境の実施した例を示す。これらの値は、好ましい値であり使用可能な値であるが、これらは例としてのみ示している。
【0055】
【表7】

【0056】
任意選択の封止ステージ405で保護コーティング、たとえば、ラッカ、プラスチック、ポリマ、布、金属(たとえば、銀、金、または銅)でテープをコーティングすることもできる。これらの材料は例としてのみ挙げたのであり、他のコーティングを用いることもできる。
【0057】
任意選択のステージ418で、最終の超伝導テープならびに修理中のテープの適正な特性を保証する品質管理テストを実施する。このステージは、ポート611ならびに/あるいは709を使用できることに留意されたい。さらに、品質管理テストを任意の移行チャンバ701中の任意の反応炉601a、601b、および601c、および/または予備処理ステージまたはアニール後のステージに組み込むこともできる。さらに、品質管理テストをシステム400から離して実施することもできる。この品質管理には、原子配列、温度、反射率、表面形態、厚さ、微小構造、T、J、マイクロ波抵抗等を含むYBCO特性の直接測定または間接測定、あるいは、原子配列、温度、反射率、表面形態、厚さ、微小構造等を含むバッファ層特性またはコーティング層特性の直接測定または間接測定を組み込むことができる。なお、Jは、臨界電流密度すなわちワイアが破壊前に処理できる電流の最大量である。いくつかの超伝導体素子のJは、100,000アンペア/cm以上になることができ、良好な超伝導体素子のJは、500,000アンペア/cm以上になることができる。
【0058】
本発明は、好ましくは、巻き取りリール406を使用して超伝導テープを巻き取る。ワーア・テープ408の長さは繰り出しリールおよび巻き取りリールの大きさのみに制限されることに留意されたい。したがって、入力/出力リールの長さに応じて、テープをどんな所望の長さにすることもできる。たとえば、本発明では、1または2キロメートル(km)あるいはさらに越える長さのワイア・テープを作製することができる。
【0059】
コンピュータ409を使用して本発明の様々な態様を制御することができることに留意されたい。たとえば、コンピュータは、反応炉内に流れる材料の濃度、反応炉または移行チャンバの温度、テープ速度、テープ張力、様々な反応炉内またはステージ内への材料の流入速度、等を制御することができる。これによって、品質管理テストからのフィードバックが可能になりワイア・テープの特性が向上する。
【0060】
システム400は、任意選択で、初期化ステージ402およびアニール・ステージ404それぞれの圧力制御を助ける圧力制御チャンバ414および415を含むこともできる。移行チャンバ701を圧力制御チャンバとして用いることもできる。このような場合、加熱素子707、支持パイプ711、および/またはウォータ・ジャケット708は必要ないこともある。狭いスリットも、チャンバ414とステージ402の間、および/またはチャンバ415とステージ404の間で必要ないことがある。また、このシステムは、初期化ステージ402と通常大気の間、または、チャンバ414(使用していれば)と通常大気の間に追加の移行チャンバ413を使用することもできる。チャンバ413は、通常大気と初期化ステージ402の環境の混合を防ぐ。たとえば、チャンバ413は、通常大気からの酸素が初期化ステージ402に流入するのを防ぎ、初期化ステージからの水素が通常大気に流入するのを防ぐ。
【0061】
このシステムは、真空ポンプ417を使用してシステムの様々な構成部品中の所望の圧力を実現する。液体窒素トラップおよびフィルタ416を使用して反応炉601の排気から材料を除去してポンプ417への損傷を防ぐ。他の構成部品もやはり、このような液体窒素トラップおよび/またはフィルタを使用してそれらに付随するポンプへの損傷を防ぐことができる。
【0062】
図9Aないし9Dに、図4のシステムで作製した本発明の超伝導ワイアにおける相異なる実施態様の例を示す。図9Aに、バッファ層902およびHTS層904を有するテープ基板901を示す。図9Bに、バッファ層902、903、HTS層904、および封止層905を有するテープ基板901を示す。
【0063】
図9Cに、バッファ層902、903、および封止層905を有する基板901を含むHTS2層ワイアを示す。バッファ層906および907によって第1HTS層904と第2HTS層907を分離する。バッファ層906をここで使用することができ、それは必ずしも902か903のどちらかと同じものではないことに留意されたい。追加の反応炉、移行チャンバ、および/または図4のシステムにおける他の構成部品を用いてこのワイアを作製して追加の層を形成することができる。また、このワイアは、図4のシステムで処理を繰り返すことによって作製することもできる。言い換えると、第1HTS層の完成後、ワイアを封止層の追加無しで巻き取ることができる。次いで、このスプールを繰り出しリール401に移動させる。次いで、図4のシステムの構成部品のうちの選択された部品を使用して第2HTS層を含む次の層を形成する。
【0064】
図9Dに、基板の両側にHTS層を有するHTS2層ワイアの別の例を示す。追加の反応炉、移行チャンバ、および/または図4のシステムにおける他の構成部品を用いてこのワイアを作製して追加の層を形成することができる。反対側に層を形成するために、テープの底側を処理する必要があるときテープをねじり、あるいは反転させる追加の装置を図4のシステムに取り付ける。また、このワイアは、図4のシステムで処理を繰り返すことによって作製することもできる。言い換えると、第1HTS層の完成後、ワイアを封止層の追加無しで巻き取ることができる。テープの側面を反転させるために巻き取りリール406は、図4に示すようにリールの上部から(時計回りに)巻き取る代わりに、リールの底部からテープを(反時計回りに)巻き取る。次いで、このスプールを繰り出しリール401に移動させる。次いで、図4のシステムでテープを処理して第2HTS層を含む次の層を形成する。
【0065】
本発明のワイアは、電流搬送、配電、電気モータ、発電機、変圧器、漏電制限器、超伝導磁石エネルギー蓄積システム(SMES)、ならびに、(それだけには限定されないが、MRIシステム、吸引形磁気浮上輸送システム、粒子加速器、および電磁流体発電システムを含む)様々な磁石に使用することができる。
【0066】
本発明のシステムを使用して、それだけには限らないが、YBCO、YBa2Cu3O7-x、NbBa2Cu3O7-x、LaBa2Cu3O7-x、Bi2Sr2Ca2Cu3Oy、Pb2-xBixSr2Ca2Cu3Oy、Bi2Sr2Ca1Cu2Oz、Tl2Ba2CaCu2Ox、Tl2Ba2Ca2Cu3Oy、Tl1Ba2Ca2Cu3Oz、Tl1-xBixSr2-yBayCa2Cu4Oz、Tl1Ba2CalCu2Oz、Hg1Ba2Ca1Cu2Oy、Hg1Ba2Ca2Cu3Oy、MgB2、酸化銅、希土類金属酸化物、および他の高温超伝導材料を含む様々な超伝導材料から本発明の超伝導ワイアを形成することができる。また、本発明は、それだけには限らないが、CeO2( or CEO)、 Y2O3-ZrO2(
or YSZ)、Gd2O3、 Eu2O3) 、Yb2O3、 RuO2、LaSrCoO3、MgO、 SiN、 BaCeO2、 NiO、Sr2O3、 SrTiO3、および BaSrTiO3を含む様々なバッファ材料を含むこともできる。
【0067】
本発明およびその利点を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範疇から逸脱することなく、様々な変更、置換、改変を本明細書に加え得ることを理解すべきである。さらに、本出願の範疇は、明細書に説明したプロセス、機械、製造物、物質組成、手段、方法およびステップの具体的な実施形態に限定されるものではない。当業者なら本発明の開示から容易に判るように、本明細書に説明された対応する実施形態とほぼ同じ働きをし、あるいはほぼ同じ結果を実現する、現に存在しまたは後に開発される、プロセス、機械、製造物、物質組成、手段、方法およびステップは、本発明に従って使用することができる。したがって、添付の特許請求の範囲は、このようなプロセス、機械、製造物、物質組成、手段、方法およびステップをその範疇内に含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】YBCO超伝導体の周知の原子構造を示す図である。
【図2】YBCO超伝導体を作製する第1の従来技術の構成を示す図である。
【図3】YBCO超伝導体を作製する第2の従来技術の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態の一例を示す図である。
【図5】本発明の初期化ステージの実施形態を示す図である。
【図6A】本発明の堆積ステージの反応炉の一実施形態を示す図である。
【図6B】本発明の堆積ステージの反応炉の一実施形態を示す図である。
【図6C】本発明の堆積ステージの反応炉の一実施形態を示す図である。
【図6D】本発明の堆積ステージの反応炉の一実施形態を示す図である。
【図6E】本発明の堆積ステージの反応炉の一実施形態を示す図である。
【図7A】本発明の移行チャンバの一実施形態を示す図である。
【図7B】本発明の移行チャンバの一実施形態を示す図である。
【図8】本発明のアニール・ステージの実施形態を示す図である。
【図9A】本発明の超伝導ワイアの一実施形態を示す図である。
【図9B】本発明の超伝導ワイアの一実施形態を示す図である。
【図9C】本発明の超伝導ワイアの一実施形態を示す図である。
【図9D】本発明の超伝導ワイアの一実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ基板で超伝導体ワイアを形成するための方法であって、
前記テープ基板を繰り出すステップと、
前記テープ基板上に超伝導体材料の層を連続的に形成するステップであって、超伝導体材料の前記層の長さが少なくとも10メートルであるステップと、
超伝導体材料の前記層を有する前記テープ基板を巻き取るステップとを含み、
前記形成ステップが、
前記テープ基板に光を供給するステップを含み、前記光が前記テープ基板上に前記超伝導体材料を形成するために使用される材料の成長速度を増大させることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【公開番号】特開2011−60769(P2011−60769A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210554(P2010−210554)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【分割の表示】特願2004−524678(P2004−524678)の分割
【原出願日】平成15年7月23日(2003.7.23)
【出願人】(505024833)メトル、アクサイド、テクナラジズ、インク (2)
【Fターム(参考)】