説明

テープ材料上の金属/CNT−及び/又はフラーレン複合体コーティング

本発明は、向上された摩擦係数及び/又は良好な接触抵抗及び/又は良好なフレッチング腐食耐性及び/又は良好な磨耗耐性及び/又は良好な変形性を有する、金属テープ上の金属/カーボンナノチューブ(CNT)−及び/又はフラーレン複合体コーティング、又は事前に打ち抜きされた金属テープに関する。本発明は、更に、本発明によってコーティングされた金属テープの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上された摩擦係数、良好な接触抵抗(Kontaktuebergangaswiderstand)、良好なフレッチング腐食耐性(Reibkorrosionsbestaendigkeit)、良好な磨耗耐性、及び良好な変形性を有する、金属テープ上の金属/カーボンナノチューブ(CNT)−及び/又はフラーレン複合体コーティングに関する。本発明は、更に、本発明によりコーティングされた金属テープの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、1991年に飯島澄男(Sumio Iijima)によって発見された(S. Iijima, Nature, 1991, 354, 56(非特許文献1)を参照)。飯島は、フラーレン発生器のカーボンブラック中に、所定の反応条件下で、直径わずか10nmであるが、数マイクロメートルの長さのチューブ状構造物を発見した。彼が発見した化合物は、多数の同心のグラファイトチューブからなり、これは多層カーボンナノチューブ(multi−wall carbon nanotubes、 MWCNT)と名付けられた。その後直ぐに、飯島と市橋(Ichihashi)によって、直径わずか約1nmほどの単層のCNTが発見され、これは、応じて、単層カーボンナノチューブ(Single−Wall Carbon−Nanotubes、 SWCNT)と名づけられた(S. Iijama, T. Ichihashi, Nature, 1993, 363, 6430(非特許文献2)参照)。
【0003】
CNTの突出した性質として、例えば、その約40GPaあるいは1TPaという機械的引っ張り強度及び剛性(鋼の20倍、あるいは5倍の高さ)などが挙げられる。
【0004】
CNTは導電性材料としてばかりでなく、半導体材料としても存在する。カーボンナノチューブは、フラーレンのファミリーに属し、そして1nm〜数100nmの直径を有する。カーボンナノチューブは、炭素からなる微視的に小さいチューブ状の構造物(分子ナノチューブ)である。その壁は、フラーレンの壁のように、又はグラファイトの面のように炭素だけから構成されていて、その際、その炭素原子は、六角形のハニカム構造を取っており、それぞれが三つの結合相手を取っている(sp−混成化によって与えられる)。チューブの直径は大抵1〜50nmの範囲内にあるが、その際、わずか0.4nm径しかないチューブも製造されている。個々のチューブについては数ミリメートルの長さ、及びチューブ束については20cmまでの長さがすで達成されている。
【0005】
カーボンナノチューブの合成は、通常、気相又はプラズマから炭素を堆積することによって行われる。電子産業では、とりわけ許容負荷電流(Strombelastbarkeit)及び熱伝導率に関心が持たれている。許容負荷電流は、銅線の場合よりも、概算で1000倍高く、室温での熱伝導率は、自然に存在する最高の熱伝導体であるダイアモンドの場合のほぼ二倍の、6,000W/m*Kである。
【0006】
上述したように、カーボンナノチューブはフラーレンのグループに属する。高い対称性を示す、炭素原子からなる球形の分子がフラーレンと称され、これは、炭素の第三の同素体(ダイアモンド及びグラファイトに次ぐ)である。フラーレンの製造は、通常、減圧下及び保護ガス雰囲気(例えば、アルゴン)下で、抵抗加熱でもって、又はアーク放電中でグラファイトを蒸発させることによって行われている。副生成物として、上述したカーボンナノチューブがしばしば生じる。フラーレンは、半導体の性質から超伝導体の性質を有する。
【0007】
従来技術において、カーボンナノチューブを慣用的なプラスチックと混合させることが知られている。それによって、プラスチックの機械特性が著しく向上される。更に、電気伝導性プラスチックの製造が可能であり、例えば、静電防止フィルムを伝導性にするのに、ナノチューブがすでに使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Iijima, Nature, 1991, 354, 56
【非特許文献2】s. S. Iijama, T. Ichihashi, Nature, 1993, 363, 6430
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電気機械部材、例えば、プラグ−ソケットコネクタ、スイッチ、リレーばね(Relaifedern)、直接プラグ脱着可能なリードフレーム(Stanzgitter)および類似品などは、スズ−又は銀又はNiコーティングを用いた今日の仕上げの仕方では、劣った摩擦係数及び/又は接触抵抗、小さい磨耗耐性及び/又は劣った変形性の問題を有する。カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンを、これらの特性を向上させるために使用することは、これまで従来技術において知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明の課題は、上述の欠点を克服した電気機械部材、すなわち向上された摩擦係数及び/又は良好な接触抵抗及び/又は良好な磨耗耐性及び/又は良好な変形性を有する電気機械部材を提供することである。
【0011】
その課題は、カーボンナノチューブ及び/又はフラーレン、及び金属からなるコーティングを含む金属テープによって解決される。
【0012】
本発明において金属テープとは、とりわけ銅及び/又は銅合金、アルミニウム及び/又はアルミニウム合金、又は鉄及び/又は鉄合金からなる、特に金属テープ、あるいは電気機械部材であると解される。
【0013】
好ましくは、金属テープは、有利には、その両面上に供された拡散防止層(Diffusionssperrschicht)を含む。金属テープは、非絶縁体であるべきである。それゆえ、その拡散防止層は遷移金属を含むか、あるいはそれからなるのが好ましい。好ましい遷移金属は、例えば、Mo、B、Co、Fe/Ni、Cr、Ti、W又はCeである。
【0014】
カーボンナノチューブは、金属テープ上に柱状に配置されており、これは、後述する本発明の方法によって達成できる。カーボンナノチューブは、単層又は多層のカーボンナノチューブであることができ、これは、同様に、本発明の方法によって制御できる。フラーレンは、好ましくは、金属テープ上に球の形状で配置されている。
【0015】
上記のコーティングは、好ましくは、グラフェンも含有することができる。
【0016】
sp−混成化された炭素原子の単原子層をグラフェンという。グラフェンはその平面に沿って、非常に良好な電気及び熱伝導性を示す。グラフェンの製造は、グラファイトをその基底面(Basalebenen)に分割することによって行われる。その際、最初に酸素が層間に挿入される(interkaliert)。その酸素は、炭素と部分的に反応し、そして層の相互反発作用をもたらす。引き続いて、グラフェンは懸濁され、そして使用目的に応じて、例えば、ポリマー中に埋め込んだり、あるいは本発明におけるように、金属テープのコーティング成分として使用されたりする。
【0017】
個々のグラフェン層を製造するための更なる手段は、六方晶の炭化ケイ素表面を、1400℃を超える温度に加熱することである。ケイ素の蒸気圧が炭素原子のそれよりも高いために、ケイ素原子が炭素原子よりも速く蒸発する。そのとき、表面上に単結晶グラファイトの薄層が形成され、これは、少数のグラフェン単層から構成されている。
【0018】
好ましい実施形態において、グラフェン及び/又はカーボンナノチューブ及び/又はフラーレンは複合体を形成する。これは、グラフェンとカーボンナノチューブ、グラフェンとフラーレン、フラーレンとカーボンナノチューブ、又は三成分の全部が、一緒に複合体を形成できることを意味する。特に好ましくは、グラフェンは、カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンに対して直交して配列されており、その際、それらは、例えば、軸方向でチューブを閉じ、あるいは、グラフェン及びフラーレンは、カーボンナノチューブに対して直交して配列されている。フラーレンに対するグラフェンの直交配列は、いわば、フラーレンに対するグラフェンの接線状配置を意味する。カーボンナノチューブに対するフラーレンの直交配列は、王笏(Zepter)のようなものを想起させ得るもので、その際、フラーレンは、カーボンナノチューブの端部にある。
【0019】
金属テープは、好ましくは0.06〜3mm、特に好ましくは0.08〜2.7mmの厚さを有する。
【0020】
本発明の対象は、カーボンナノチューブ及び/又はフラーレン、及び金属でコーティングされた金属テープの製造方法でもあり、該方法は、
a) 拡散防止層で金属テープをコーティングする工程、
b) 前記拡散防止層上に核形成層を供する工程、
c) 前記工程a)及びb)で処理された金属テープを、ガス状有機化合物含有雰囲気にさらす工程、
d) 200℃〜1,500℃の温度でカーボンナノチューブ及び/又はフラーレンを前記金属テープ上に形成する工程、
e) 前記カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンに金属を侵入させる(Durchdringen)工程、
を含む。
【0021】
本発明による方法において、金属テープを、その両面的で拡散防止層でコーティングすることが好ましい。この拡散防止層上には、核形成層が有利に供され、これは、カーボンナノチューブの柱状成長及び/又はフラーレンの堆積を援助する。本発明の方法で使用される核形成層は、元素周期表のFe族、第8亜族、第9亜族及び第10亜族の金属から選択される金属塩を好ましく含む。
【0022】
そのように処理された金属テープは、引き続いて、好ましくは炭化水素雰囲気である雰囲気にさらされる。特に好ましくは、その炭化水素雰囲気はメタン雰囲気であり、その際、更には、その雰囲気あるいは炭化水素雰囲気に、キャリアーガスが添加される。キャリアーガスとしては、例えばアルゴンが用いられる。
【0023】
金属テープ上におけるカーボンナノチューブ及び/又はフラーレンの形成は、通常、200℃〜1,500℃の温度で行われる。200℃〜900℃の温度の場合、主に多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が形成される。900℃超〜約1,500℃の温度の場合、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)が優先的に形成される。カーボンナノチューブの品質は、湿性環境中でその成長が行われるときに向上させることができる。金属テープ上におけるカーボンナノチューブの形成は柱状に起こり、これは核形成層によって支援される。フラーレンは、金属テープ上に球形状に優先的に堆積する。
【0024】
その後更に、カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンに金属を侵入させる。金属としては、上述した金属、Sn、Ni、Ag、Au、Pd、Cu又はW並びにそれらの合金が使用される。
【0025】
カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンに金属を侵入させるには、好ましくは、真空法、例えばCVD(化学蒸着)又はPVD(物理蒸着)によって、または電解的に、無電流還元的に行われるか、あるいは溶融/浸潤によって行われる。
【0026】
好ましくは、コーティング中へはグラフェンも導入される。好ましくは、グラフェン及び/又はカーボンナノチューブ及び/又はフラーレンが複合体を形成する。これは、グラフェンとカーボンナノチューブとが、グラフェンとフラーレンとが、フラーレンとカーボンナノチューブとが、又はそれら三成分の全部が一緒に複合体を形成できることを意味する。特に好ましくは、グラフェンは、カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンに対して直行して配列されていて、その際、それらは、例えば、軸方向でチューブを閉じ、あるいはグラフェン及びフラーレンは、カーボンナノチューブに対して直行して配列されている。フラーレンに対するグラフェンの直交配列は、いわば、フラーレンに対するグラフェンの接線配置を意味する。カーボンナノチューブに対するフラーレンの直交配列は、王笏(Zepter)のようなものを想起させ、その際、フラーレンはカーボンナノチューブの端部にある。
【0027】
そのように製造された、金属及びカーボンナノチューブ及び/又はフラーレン(及びグラフェン)でコーティングされた金属テープは、向上された摩擦係数、良好な接触抵抗、良好な磨耗耐性、及び良好な変形性を特徴とし、それゆえ、例えば、プラグ−ソケットコネクタ、スイッチ、リレーばねおよび類似品などのための電気機械部材として卓越している。とりわけ、上述した複合体の形態のグラフェンとの組み合わせにおいて、水平方向及び垂直方向において電気及び熱伝導性を付与することができ、これは非常に有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ及び/又はフラーレン及び金属からなるコーティングを含む金属テープ。
【請求項2】
前記金属テープの両面上に拡散防止層を更に含む、請求項1に記載の金属テープ。
【請求項3】
前記拡散防止層が、非絶縁体であることを特徴とする、請求項2に記載の金属テープ。
【請求項4】
前記拡散防止層が、遷移金属を含むことを特徴とする、請求項2又は3に記載の金属テープ。
【請求項5】
前記コーティングの金属が、Sn、Ni、Ag、Au、Pd、Cu、W又はそれらの合金を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の金属テープ。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが、前記金属テープ上に柱状に配列されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の金属テープ。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブが、単層の又は多層のカーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の金属テープ。
【請求項8】
前記金属テープが、0.06〜3mmの厚さを有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の金属テープ。
【請求項9】
前記コーティングがグラフェンを含有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つに記載の金属テープ。
【請求項10】
前記グラフェン及び/又はカーボンナノチューブ及び/又はフラーレンが、複合体を形成していることを特徴とする、請求項9に記載の金属テープ。
【請求項11】
前記グラフェン及び/又はフラーレンが、前記カーボンナノチューブに対して直交して配列されているか、あるいは前記グラフェンが前記カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンに対して直交して配列されていることを特徴とする、請求項9に記載の金属テープ。
【請求項12】
前記金属テープが、事前に打ち抜き(vorgestanzt)されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つに記載の金属テープ。
【請求項13】
カーボンナノチューブ及び/又はフラーレン及び金属でコーティングされた金属テープの製造方法であり、
a) 拡散防止層で金属テープをコーティングする工程、
b) 前記拡散防止層上に核形成層を供する工程、
c) 前記工程a)及びb)で処理された金属テープを、ガス状有機化合物含有雰囲気にさらす工程、
d) 200℃〜1,500℃の温度でカーボンナノチューブ及び/又はフラーレンを、前記金属テープ上に形成する工程、
e) 前記カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンに金属を侵入(Durchdringen)させる工程、
を含む、上記の方法。
【請求項14】
前記金属テープが、その両面で前記拡散防止層でコーティングされることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
核形成層として、元素周期表のFe族、第8亜族、第9亜族又は第10亜族の金属から選択される金属塩が使用されることを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記核形成層が、部分的に供されること(部分コーティング)を特徴とする、請求項13〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
前記金属テープが、炭化水素雰囲気にさらされることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
前記炭化水素雰囲気の他に、キャリアーガスが使用されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記金属テープが、ガス状有機化合物を有する、50〜90%の含水量を有する雰囲気にさらされることを特徴とする、請求項13〜18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
前記カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンを形成するための前記温度が、200℃〜900℃であることを特徴とする、請求項10〜16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が形成されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンを形成するための前記温度が、>900℃〜1,500℃であることを特徴とする、請求項13〜19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項23】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)が形成されることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記カーボンナノチューブの形成が、前記金属テープ上に柱状に起こることを特徴とする、請求項13〜23のいずれか一つに記載の方法。
【請求項25】
前記カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンの金属による侵入が、真空法により、電解的に、無電流還元的に遂行されるか、又は溶融/浸潤により遂行されることを特徴とする、請求項13〜24のいずれか一つに記載の方法。
【請求項26】
前記コーティング中へグラフェンが導入されることを特徴とする、請求項13〜25のいずれか一つに記載の方法。
【請求項27】
前記グラフェンが、前記カーボンナノチューブ及び/又はフラーレンに対して直交して配列されるか、あるいは、前記グラフェン及び/又はフラーレンが、前記カーボンナノチューブに対して直交して配列されることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記グラフェン及び/又はカーボンナノチューブ及び/又はフラーレンが複合体を形成することを特徴とする、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
請求項1〜12のいずれか一つに記載の金属テープ、又は請求項13〜28のいずれ一つに記載の方法によって製造された金属テープの、電気機械部材又はリードフレーム(Stanzgitter)としての使用。

【公表番号】特表2012−506356(P2012−506356A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532490(P2011−532490)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/DE2009/001236
【国際公開番号】WO2010/045904
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(508323931)ケイエムイー・ジャーマニー・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コンパニー・コマンディトゲゼルシャフト (6)
【出願人】(501090342)タイコ エレクトロニクス アンプ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハウツンク (65)
【出願人】(511102332)ヴィーラント−ヴェルケ・アクチェンゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】