説明

テーラードブランク材の溶接構造部材

【課題】 本発明は、特に自動車のシャーシーのフレーム(メンバー)やアームのように繰返し荷重がかかる部材にテーラードブランク材を適用した際、その溶接部両側に特定のノッチを設けることで溶接部の応力集中を緩和する溶接構造部材を提供する。
【解決手段】 突合せ溶接またはマッシュシーム溶接されたテーラードブランク材であって、そのテーラードブランク材の溶接部がフランジ端を形成している構造部材において、該構造部材のフランジ幅D(mm)に対し、ノッチ深さd(mm)をD/10≦d≦D/4で、かつノッチ底中心からテーラードブランク溶接部の薄手側の止端部までの長さl(mm)を、2.0d≦l≦3.0d、ノッチ底の曲率半径ρ(mm)をd≦ρ<(d2 +l2 )/2dを満たすノッチをテーラードブランク溶接部の両側に設けることを特徴とする溶接構造部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードブランク材を適用した構造部材の溶接部の応力緩和に関するもので、特に自動車のシャーシーのフレーム(メンバー)やアームのように繰返し荷重がかかる部材にテーラードブランク材を適用した箇所の溶接部の応力が緩和された溶接構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のシャーシーには、車体重量軽減および車体強度アップの観点からサブフレームとして図1に示すようなテーラードブランク材の適用が検討されている。
【0003】
このテーラードブランク材が、自動車のシャーシーに用いられる場合、図2(a)に示すようにテーラードブランク材1同士、或いはテーラードブランク材と他の部材とが溶接されている溶接部材で構成されるのが一般的であるが、このテーラードブランク材の溶接部2には、自動車走行時に、タイヤまたはタイヤを保持するアーム類から、繰返し引張り、或いは繰返し曲げに曝され、その結果、図2(b)に示すように溶接部にその溶接段差や溶着金属の形状に起因する応力集中によるき裂Kが発生し、重大な事故に繋がる恐れがある。
【0004】
一般に構造体の溶接部への応力集中の緩和については様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、構造部材を繋ぐ連結部材を構造部材に取り付けるためのブラケットのフランジ側面の片側に円弧状の切欠きを形成する方法が提案されているが、取り付け部材が剛性であることからブラケットの隅肉溶接部近傍のピン孔に荷重がかかり、応力の流れが偏よるという点では応力緩和の効果があるも、部材がテーラードブランク材のように薄手材で、極限まで形状最適化した部材では断面積が減少することにより円弧状の切欠き底からき裂が進展するという問題がある。また、ブラケット自体が極限設計されておらず、大きな円弧による応力緩和しか期待できないという問題がある。
【0005】
また、特許文献2には、サスペンションアーム部とこれに相互に連結するビーム部との接合端部に応力集中が起こることを緩和するために、ビーム部接合部の車幅方向内側に第二の溶接縁部の延長線近傍に至る深さのノッチを形成する方法が提案されているが、これは2部材が直角に組み込まれ、その一方の部材をもう一方に溶接している端部が一方の部材に対して斜めであり、かつその止端部付近でその角度を変化させている場合に有効な手段であるが、角度変化のないテーラードブランク材の溶接近傍での応力緩和には適用できないという問題がある。
【0006】
更に、特許文献3には、自動車のトーションビーム式サスペンションにおいて、トーションビームとトレーリングアームとの連結部における応力集中を緩和する脆弱部を連結部以外の部位に設けることで連結部の強度低下を防止する提案がなされているが、この技術は、大きな変形を許容する部材の隅肉溶接部の止端部における大きな円弧形成による応力集中緩和対策であるため、そのまま本発明が対象とするテーラードブランク材が適用される自動車のシャーシーのフレーム(メンバ)やアームに適用した場合には剛性が不足するためテーラードブランク材の溶接近傍での応力緩和には適用できないという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2004−169864号公報
【特許文献2】特開平7−276942号公報
【特許文献3】特開平10−236123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、特に自動車のシャーシーのフレーム(メンバー)やアームのように繰返し荷重がかかる部材にテーラードブランク材を適用した際、そのテーラードブランク材の溶接部の両側に特定のノッチを設けることで溶接部の応力集中を緩和する溶接構造部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その要旨は、突合せ溶接またはマッシュシーム溶接されたテーラードブランク材であって、そのテーラードブランク材の溶接部がフランジ端を形成している構造部材において、該構造部材のフランジ幅D(mm)に対し、ノッチ深さd(mm)をD/10≦d≦D/4で、かつノッチ底中心からテーラードブランク溶接部の薄手側の止端部までの長さl(mm)を、2.0d≦l≦3.0d、ノッチ底の曲率半径ρ(mm)をd≦ρ<(d2 +l2 )/2dを満たすノッチをテーラードブランク溶接部の両側に設けることを特徴とするテーラードブランク材を適用した溶接構造部材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、テーラードブランク材を適用した構造部材において、繰返し荷重に曝されるテーラードブランク溶接部の耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、図2(b)に示すようなテーラードブランク材同士、或いはテーラードブランク材と他の部材とを溶接し、テーラードブランク材の溶接部近傍の繰返し荷重でその溶接段差や溶着金属の形状に起因する応力集中に曝される部位のき裂発生を防止するために種々検討を行ったところ、溶接部両側に特定のノッチ4を設けることで溶接部の応力集中を緩和しうることを知見した。すなわち、図3(a)〜(c)に示すようなテーラードブランク材の溶接部近傍の両側にノッチを設けるものである。
【0012】
しかし、このノッチ4の形状はどんな形状のものでも応力集中を緩和できるものではなく、ノッチ深さ、ノッチ底中心からテーラードブランク溶接部の薄手側の止端部までの長さ、ノッチ底の曲率半径が或る一定の条件を満足する場合に完全に応力緩和が可能となることが判明した。その条件とは、図4(a)のテーラードブランク材の突合せ溶接、および図4(b)のマッシュシーム溶接の例に示すように、テーラードブランク材の溶接部がフランジ端を形成している構造部材で、テーラードブランク材の各部位において、フランジ幅をD(mm)とし、ノッチ深さをd(mm)とし、ノッチ底中心からテーラードブランク溶接部の薄手側の止端部までの長さをl(mm)、ノッチ底の曲率半径をρ(mm)とした時、この構造部材のフランジ幅Dに対し、ノッチ深さdをD/10≦d≦D/4で、かつノッチ底中心からテーラードブランク溶接部の薄手側の止端部までの長さlを、2.0d≦l≦3.0d、ノッチ底の曲率半径ρをd≦ρ<(d2 +l2 )/2dを満たす条件で、ノッチをテーラードブランク材の溶接部の両側に設けるものである。
【0013】
ノッチ深さdをこの構造部材のフランジ幅Dに対し、D/10≦d≦D/4とする理由は、d<D/10ではノッチ深さが浅くなりすぎ、溶接部での応力緩和が不十分で、依然として溶接止端部にき裂が発生する。また、d>D/4ではノッチ深さが深くなって応力緩和には効果があるものの平均応力が高くなりすぎてノッチ底にき裂が発生する。このき裂が発生するノッチは厚手側よりも平均応力が高い薄手側で発生する。
また、ノッチ底中心からテーラードブランク溶接部の薄手側の止端部までの長さlを、2.0d≦l≦3.0dとした理由は、l<2.0dでは、ノッチ付与により溶接部の応力緩和には効果があるものの溶接両側に付与した2つのノッチの応力集中が重畳しあって平均応力が高い薄手側のノッチ底にき裂が発生することになる。一方、l>3.0dではノッチ付与による応力緩和領域から溶接部が離れるため溶接止端部にき裂が発生する。
更に、ノッチ底の曲率半径ρをd≦ρ<(d2 +l2 )/2dとする理由は、ρ<dでは、ノッチ付与により溶接部の応力緩和には効果があるものの溶接両側に付与した2つのノッチの応力集中が重畳しあって平均応力が高い薄手側のノッチ底にき裂が発生する。一方、ρ≧(d2 +l2 )/2dでは、付与したノッチが溶接止端部にかかり、溶接止端部のフランジ端が部材の中心側に移動し、付与したノッチの応力緩和領域から外れるため溶接止端部にき裂が発生する。
上記の条件を満たすノッチをテーラードブランク溶接部の片側のみに設けても溶接止端部での応力緩和の効果が低く薄手側の止端部でき裂が発生するので、両側に設けることが必須である。
【実施例】
【0014】
図3(a)に示したテーラードブランク材同士を溶接して構成したテーラードブランク材の溶接構造部材No.1〜No.14を準備し、それぞれに引張・圧縮応力を付与して疲労試験を実施した。長さがそれぞれ300mmで、引張強さ440MPa級の厚さt=1.8mmの鋼板と、270MPa級の厚さt=2.2mの鋼板を、表1に示すフランジ幅を有し、深さ50mmとなるようにプレス成形した後、スポット溶接し、100mm□の断面を有する溶接構造物を製造した。その結果を表1に示した。具体的な試験方法は、従来材であるノッチなし部材(No.1)の疲労限を求め、その疲労限の120%負荷にて疲労試験を実施した。
【0015】
【表1】

【0016】
表1から分かるように、本発明で規定したノッチ条件を満足する部材(No.3、No.5、No.7〜10およびNo.13)は溶接およびノッチ底にも何らき裂が発生せず疲労強度が向上していた。
【0017】
一方、ノッチ深さdが浅いNo.2では溶接部の応力緩和が不十分で従来材のNo.1と同様に溶接止端部にき裂が発生した。また、溶接部からノッチ底までの距離lが小さいNo.4では、ノッチ付与により溶接部の応力緩和効果はあるものの、溶接両側に付与した2つのノッチの応力集中が重畳しあい、平均応力が高い薄手側のノッチ底にき裂が発生した。また、ノッチ底の曲率半径ρを小さくしたNo.6ではノッチ付与により溶接部の応力緩和効果はあるもののノッチ底に応力が集中し、平均応力が高い薄手側のノッチ底にき裂が発生した。
更に、ノッチ底の曲率半径ρを大きくしたNo.11では付与したノッチが溶接止端部にかかり、溶接止端部のフランジ端が部材中心側に移動して付与したノッチの応力緩和領域から外れたため従来材のNo.1と同様に溶接止端部にき裂が発生した。溶接部からノッチ底までの距離lを大きくしたNo.12ではノッチ付与による応力緩和領域から溶接部が離れるため従来材のNo.1と同様に溶接止端部にき裂が発生した。また、ノッチ深さdが深いNo.14ではノッチ付与により溶接部の応力緩和効果はあるものの、部材の平均応力が高くなるためノッチ底にき裂が発生した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】自動車のシャーシーにテーラードブランク材を用いたサブフレームを示す図。
【図2】(a)はテーラードブランク材とその溶接構造を示す図で、(b)は溶接部でのき裂発生状態を示す図。
【図3】(a)、(b)、(c)は各種テーラードブランク材の溶接構造部材の形状の態様を示す図。
【図4】(a)は本発明によるテーラードブランク材の突合せ溶接で構成する場合のノッチ付与条件を示す図で、(b)はマッシュシーム溶接で構成する場合のノッチ付与条件を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突合せ溶接またはマッシュシーム溶接されたテーラードブランク材であって、そのテーラードブランク材の溶接部がフランジ端を形成している構造部材において、該構造部材のフランジ幅D(mm)に対し、ノッチ深さd(mm)をD/10≦d≦D/4で、かつノッチ底中心からテーラードブランク溶接部の薄手側の止端部までの長さl(mm)を、2.0d≦l≦3.0d、ノッチ底の曲率半径ρ(mm)をd≦ρ<(d2 +l2 )/2dを満たすノッチをテーラードブランク溶接部の両側に設けることを特徴とする溶接構造部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−306211(P2006−306211A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129722(P2005−129722)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】