説明

ディスクブレーキ装置

【課題】摩擦材の経時変化に関係なくブレーキ鳴きを抑制することが可能なディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】パッド保持体18が、(c-1)ブレーキパッド16がディスクロータの摺接面に押し付けられた際に、パッド16のトレーリング側の一部を当接させてそのパッド16のディスクロータの回転に伴う周方向への移動を制限する第1制限部80と、(c-2)パッド16のリーディング側の一部を当接させてそのパッド16の第1制限部回りの回動を制限する第2制限部82とを有し、その第1制限部80とディスクロータの回転中心Oとを結ぶ線分を直径とする円C1の内側に、パッド16の摩擦材34が存在しないように構成する。摩擦材34の摺接面上のすべての点に作用する力の第1制限部回りのモーメントを同じ方向にして、パッド16の第1制限部回りの回動を常に同じ方向にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクロータとブレーキパッドとの摩擦により制動力を発生させるディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置は、一般的に、(A)車輪とともに回転するディスクロータと、(B)摩擦材を有するブレーキパッドと、(C)ブレーキパッドを、摩擦材がディスクロータの摺接面に対向するように、かつ、ディスクロータの摺接面に対して接近離間可能に保持するパッド保持体と、(D)ブレーキパッドをディスクロータの摺接面に押し付けるシリンダを有するキャリパとを備え、ディスクロータとブレーキパッドとの摩擦により制動力を発生させる構造とされる。そして、ディスクブレーキ装置では、従来から、ディスクロータとブレーキパッドとの摩擦に起因して生じるそれらの間の振動、いわゆるブレーキ鳴きが問題となっており、そのブレーキ鳴きを抑制するために、例えば、下記特許文献に記載されているディスクブレーキ装置が存在する。
【特許文献1】特開平1−145437号公報
【特許文献2】特開平7−77229号公報
【特許文献3】特開平7−27115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載されているディスクブレーキ装置は、ブレーキパッドがディスクロータの摺接面に押し付けられた際に、パッド保持体が、ブレーキパッドをそれのトレーリング側のみにおいて拘束する構造とされている。このような構造の場合、ブレーキパッドのリーディング側が、ディスクロータの回転軸線方向に振動しやすいと考えられるため、ブレーキ鳴きを抑制できるとは言い難い。それに対して、特許文献2,3に記載されているディスクブレーキ装置は、ブレーキパッドをそれのトレーリング側とリーディング側との2箇所において拘束する構造とされている。具体的に言えば、パッド保持体が、ブレーキパッドがディスクロータの摺接面に押し付けられた際に、ブレーキパッドのトレーリング側の一部を当接させてそのブレーキパッドのディスクロータの回転に伴う周方向への移動を制限するとともに、ブレーキパッドのリーディング側の一部を当接させてそのブレーキパッドのトレーリング側の支持点回りの回動を制限するようにされている。
【0004】
ディスクブレーキ装置においては、ブレーキが使用されるほど、ブレーキパッドの摩擦材は摩耗することになる。上記特許文献に記載されているディスクブレーキ装置においては、摩擦材が偏摩耗した場合等のように摩擦材の摩耗した状態によっては、例えば、摩擦材がそれ全体としてディスクロータから受ける力の方向が変わること等により、ブレーキパッドの動作が、摩擦材が摩耗する前と異なるような事態が生じる場合がある。そのような場合には、パッド保持体により拘束される際のブレーキパッドの姿勢が安定しないため、ブレーキパッドが充分に拘束されず、ブレーキ鳴きが生じる可能性が高くなってしまうのである。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、摩擦材の経時変化に関係なくブレーキ鳴きを抑制することが可能なディスクブレーキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のディスクブレーキ装置は、パッド保持体が、(c-1)ブレーキパッドがディスクロータの摺接面に押し付けられた際に、ブレーキパッドのトレーリング側の一部を当接させてそのブレーキパッドのディスクロータの回転に伴う周方向への移動を制限する第1制限部と、(c-2)ブレーキパッドのリーディング側の一部を当接させてそのブレーキパッドの第1制限部回りの回動を制限する第2制限部とを有し、その第1制限部とディスクロータの回転中心とを結ぶ線分を直径とする円の内側に、ブレーキパッドの摩擦材が存在しないように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のディスクブレーキ装置は、摩擦材の摺接面上のすべての点に作用する力の第1制限部回りのモーメントを同じ方向にできるため、ブレーキパッドのリーディング側を第2制限部によって確実に拘束して、ブレーキ鳴きを抑制することが可能である。つまり、摩擦材が摩耗した場合であっても、第1制限部回りのモーメントの方向は変わらないため、ブレーキパッドを確実に拘束することができる。したがって、本発明のディスクブレーキ装置は、摩擦材の経時変化に関係なくブレーキ鳴きを抑制することが可能である。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(2)項の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項2に(3)項の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項2に(4)項の技術的特徴を付加したものが請求項4に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)(A)車輪とともに回転するディスクロータと、(B)摩擦材を有するブレーキパッドと、(C)そのブレーキパッドを、前記摩擦材が前記ディスクロータの摺接面に対向するように、かつ、前記ディスクロータの摺接面に対して接近離間可能に保持するパッド保持体と、(D)前記ブレーキパッドを前記ディスクロータの摺接面に押し付けるシリンダを有するキャリパとを備え、前記ディスクロータと前記ブレーキパッドとの摩擦により制動力を発生させるディスクブレーキ装置であって、
前記パッド保持体が、(c-1)前記ブレーキパッドが前記ディスクロータの摺接面に押し付けられた際に、前記ブレーキパッドのトレーリング側の一部を当接させてそのブレーキパッドの前記ディスクロータの回転に伴う周方向への移動を制限する第1制限部と、(c-2)前記ブレーキパッドが前記ディスクロータの摺接面に押し付けられた際に、前記ブレーキパッドのリーディング側の一部を当接させてそのブレーキパッドの前記第1制限部回りの回動を制限する第2制限部とを有し、
前記パッド保持体の前記第1制限部と前記ディスクロータの回転中心とを結ぶ線分を直径とする円の内側に、前記ブレーキパッドの摩擦材が存在しないように構成されたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【0010】
一般的に、ディスクブレーキ装置においては、パッド保持体が、車輪とともに回転しない箇所に固定され、ブレーキパッドを、ディスクロータの摺接面に対して接近離間可能とするために、ディスクロータの径方向やそれと交差する方向に多少の移動を許容する状態で保持している。そのため、ブレーキパッドは、ディスクロータの摺接面に押し付けられた際にそれらの間の摩擦に起因して振動する場合、いわゆるブレーキ鳴きが生じる場合がある。本項の態様は、ブレーキパッドがディスクロータに押し付けられた際に、ブレーキパッドをパッド保持体に確実に拘束させることで、ブレーキ鳴きの抑制を図るものである。具体的には、本項に記載のディスクブレーキ装置は、パッド保持体が、(c-1)ブレーキパッドのトレーリング側(ディスクロータの回転方向における前方側)の一部を当接させてそのブレーキパッドのディスクロータの回転に伴う周方向への移動を制限する第1制限部と、(c-2)ブレーキパッドのリーディング側(ディスクロータの回転方向における後方側)の一部を当接させてそのブレーキパッドの第1制限部回りの回動を制限する第2制限部とを有し、ブレーキパッドの摩擦材をディスクロータの回転軸線方向から見た場合に、パッド保持体の第1制限部とディスクロータの回転中心とを結ぶ線分を直径とする円の内側に、ブレーキパッドの摩擦材が存在しないように構成されている。
【0011】
ディスクブレーキ装置は、一般的に、制限されたスペース(例えば、車輪のディスクホイール内)に収容されるように、コンパクト化が図られる。そのため、従来のディスクブレーキ装置においては、摩擦材の摺接面を大きくし、それらを保持する部分を小さくするために、ブレーキパッドの一構成要素であり摩擦材が固着される部材は、摩擦材より僅かに大きい大きさとされている。つまり、パッド保持体のブレーキパッドを当接させる箇所が、摩擦材の近くに設けられた構成のディスクブレーキ装置が、一般的である。
【0012】
ところが、第1制限部が摩擦材の近くに設けられると、パッド保持体の第1制限部とディスクロータの回転中心とを結ぶ線分を直径とする円(以下、「規定円」と呼ぶ場合がある)の内側と外側との両者に、摩擦材が存在することになる。そのように規定円の内側と外側との両者に摩擦材が存在する場合、規定円の内側に存在する摩擦材の摺接面上の点においてディスクロータから受ける力の第1制限部回りのモーメントと、規定円の外側に存在する摩擦材の摺接面上の点においてディスクロータから受ける力の第1制限部回りのモーメントとは、互いに逆方向のモーメントとなってしまう。それに対して、本項の態様にによれば、ブレーキパッドの摩擦材上のすべての点において、ディスクロータから受ける力の第1制限部回りのモーメントを同じ方向とすることができることから、ブレーキパッドのリーディング側を、ブレーキパッドの第1制限部回りの回動を制限する第2制限部によって確実に拘束して、ブレーキ鳴きを抑制することが可能となっている。
【0013】
また、規定円の内側と外側との両者に摩擦材が存在する場合において、例えば、摩擦材が偏摩耗等したことによって、摩擦材全体としての第1制限部回りのモーメントが、摩耗する前と後とで逆方向となる場合がある。そのような場合には、ブレーキパッドを第2制限部によって拘束できないため、ブレーキ鳴きが生じ易くなってしまうのである。それに対して、本項の態様では、摩擦材が偏摩耗した場合であっても、第1制限部回りのモーメントは常に摩擦材が摩耗する前と同じ方向であるため、ブレーキパッドをトレーリング側とリーディング側との2箇所において確実に拘束して、ブレーキ鳴きを抑制することができる。したがって、本項の態様によれば、摩擦材の経時変化に関係なくブレーキ鳴きを抑制することが可能となっているのである。
【0014】
上記規定円の内側にブレーキパッドの摩擦材が存在しないようにするためには、第1制限部の位置を摩擦材から遠くに離すことで容易に実現するが、先にも述べたように制限されたスペースに収容されることを考慮して、第1制限部を設定する必要がある。つまり、第1制限部は、それが摩擦材からできる限り離れることなく、規定円の内側にブレーキパッドの摩擦材が存在しないように配置されることが望ましいのである。
【0015】
なお、本項に記載のディスクブレーキ装置は、ディスクロータの回転中心とブレーキパッドの摩擦材の位置,形状とに基づいて、第1制限部の位置が設定されてもよく、ディスクロータの回転中心と第1制限部の位置とに基づいて、ブレーキパッドの摩擦材の位置,形状が設定されてもよい。ただし、後者の態様では、制限されたスペースの中で第1制限部から摩擦材を遠ざけるためには、摩擦材の摺接面を小さくしなければならない場合がある。そのように摩擦材の摺接面を小さくしてしまうと、摩擦材の寿命が低下することが考えられる。つまり、その摩擦材の寿命の低下を防止するためには、従来のディスクブレーキ装置に用いられているものと同等以上の摺接面の面積を有する摩擦材を採用することが望ましい。したがって、摩擦材の寿命の低下を防止するという観点からすれば、その従来のディスクブレーキ装置に用いられている摩擦材の位置,形状とディスクロータの回転中心とに基づいて、第1制限部の位置が設定されることが望ましいのである。ちなみに、本項に記載のディスクブレーキ装置は、第1制限部,第2制限部の各々を、少なくとも車両が前進する場合におけるパッド保持体のトレーリング側,リーディング側に設けたものとすることができる。
【0016】
(2)当該ディスクブレーキ装置が、前記パッド保持体の前記第1制限部と前記ディスクロータの回転中心とを結ぶ線分を直径とする円に、前記ブレーキパッドの摩擦材の摺接面の周縁が接するように構成された(1)項に記載のディスクブレーキ装置。
【0017】
本項に記載の態様によれば、前記規定円の内側にブレーキパッドの摩擦材が存在しない構成という条件下で、第1制限部を摩擦材のできる限り近くに配置したディスクブレーキ装置を実現することが可能となる。つまり、本項の態様は、ディスクブレーキ装置を制限されたスペースに配設するために、特に有効な態様である。
【0018】
(3)前記第1制限部が、
前記ディスクロータの回転中心と前記摩擦材の周方向の中心とを通る直線に平行で、かつ、その直線からトレーリング側に最も離れている前記摩擦材の摺接面周縁の接線上に配置された(1)項または(2)項に記載のディスクブレーキ装置。
【0019】
先にも述べたように、従来のディスクブレーキ装置において、第1制限部は、摩擦材の近くに配置されていた。具体的には、例えば、第1制限部が、摩擦材のトレーリング側の端部付近に配置されたディスクブレーキ装置が存在する。本項の態様は、そのようなディスクブレーキ装置である場合に、第1制限部の位置を、上記の接線上で、従来の位置からディスクロータの回転中心に近い位置に変更するという簡便な方法で、設定することができる。なお、前記規定円が摩擦材の周縁に接する態様と合わせれば、第1制限部を、より適切に配置することできる。
【0020】
(4)前記摩擦材の摺接面周縁のトレーリング側かつ径方向内側のコーナ部に位置し、前記ディスクロータの回転中心と前記摩擦材の周方向の中心とを通る直線に直交する直線が接する点を規定点と定義するとともに、
その規定点と前記ディスクロータの回転中心とを結ぶ線分の垂直二等分線と、その規定点における前記摩擦材の摺接面周縁の法線とを定義した場合において、
前記第1制限部が、それら垂直二等分線と法線との交点を中心として前記規定点と前記ディスクロータの回転中心とを通る円の円周上に設けられた(1)項または(2)項に記載のディスクブレーキ装置。
【0021】
本項に記載の態様は、ディスクロータの回転中心と、ブレーキパッドの摩擦材の位置,形状とから、第1制限部を設定する方法を具体化した態様である。ブレーキパッドの摩擦材は、一般的に、概して長方形に近い形状とされている。そして、摩擦材が前記規定円の内側に存在しないようにするとともに、第1制限部を摩擦材のできる限り近くに配置するためには、摩擦材の4つの角のうちトレーリング側かつ径方向内側の角の近傍が、前記規定円に接することが望ましい。そこで、本項の態様は、その摩擦材のトレーリング側かつ径方向内側のコーナ部に接するように、第1制限部を決定するようにされている。したがって、本項の態様によれば、従来のディスクブレーキ装置に用いられている摩擦材の位置,形状とディスクロータの回転中心とに基づいて第1制限部を設定できるため、摩擦材の摺接面を小さくした場合のように摩擦材の寿命を低下させることはなく、逆に、摩擦材から第1制限部を遠ざけたことにより、摩擦材の摺接面を大きくできる場合がある。なお、本項の態様は、規定円に摩擦材の摺接面の周縁が接する態様の一態様であると考えることができる。
【0022】
(5)前記パッド保持体が、車両の前進時に前記ディスクロータが回転する場合と、車両の後退時に前記ディスクロータが回転する場合との各々に対応して、前記第1制限部となる2つの第1制限部、および、前記第2制限部となる2つの第2制限部を有する(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のディスクブレーキ装置。
【0023】
本項に記載の態様は、車両が前進する場合のブレーキ操作と、後退する場合のブレーキ操作とのいずれの場合においても、摩擦材の経時変化に関係なく、ブレーキパッドをそれのトレーリング側とリーディング側との2箇所で拘束して、ブレーキ鳴きを抑制することが可能である。
【実施例】
【0024】
以下、請求可能発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。また、〔発明の態様〕の各項の説明に記載されている技術的事項を利用して、下記の実施例の変形例を構成することも可能である。
【0025】
<第1実施例>
請求可能発明の第1実施例であるディスクブレーキ装置10を図1,図2に示す。図1は、ディスクブレーキ装置10の正面図であり、図2は、断面図(図1におけるA−A断面)である。本ディスクブレーキ装置10は、車輪と一体的に回転するディスクロータ12と、車輪とともに回転しない車両の一部、具体的には、ステアリングナックル14(図2参照)に配設された1対のブレーキパッド16との摩擦により制動力を発生させるものである。ディスクブレーキ装置10は、それらディスクロータ12および1対のブレーキパッド16と、ステアリングナックル14に固定されて1対のブレーキパッド16を保持するパッド保持体としてのマウンティング18と、そのマウンティング18に支持されたキャリパ20とを含んで構成される。なお、図1,2においては、ディスクブレーキ装置10の構造を分かりやすくするために、ディスクロータ12は、二点鎖線で位置と形状を示している。
【0026】
ちなみに、図に示したディスクブレーキ装置10は、右前輪に対応するものであり、図1は、車両右側から眺めた図である。つまり、この図における右回りが、車両の前進時におけるディスクロータ12の回転方向に対応する。そして、以下の説明において、ディスクロータ12の回転方向における前方側をトレーリング側、後方側をリーディング側と呼ぶ場合がある。詳しく言えば、前進時においては、図1における右側がトレーリング側,左側がリーディング側であり、後退時においては、左側がトレーリング側,右側がリーディング側である。
【0027】
マウンティング18は、ディスクロータ12の周縁部を跨いだ状態で、2本のボルト30によりステアリングナックル14に設けられた取付部に固定されている。そのマウンティング18に保持される1対のブレーキパッド16は、裏金32に摩擦材34が固着されたものであり、その裏金32には、ディスクロータ12の周方向における両側の端部の各々に凸部36が形成されている。一方、マウンティング18には、それのディスクロータ12の内側(車幅方向における車体中央側)に位置する部分と外側(車輪側)に位置する部分とに、それぞれ、1対の凹部38が形成されている。そして、そのマウンティング18は、1対の凹部38の各々に裏金32の1対の凸部36の各々が嵌め入れられた状態で、ブレーキパッド16を保持している。そのような構成により、1対のブレーキパッド16は、その各々の摩擦材34がディスクロータ12の両側面の各々の外周に近い部分(以下、「摺接面」という場合がある)に対向するように、かつ、その摺接面に対して接近離間可能に、マウンティング18に保持されている。
【0028】
なお、マウンティング18の凹部38には、サポートプレート40が取り付けられている。そのサポートプレート40が弾性変形することによって、ブレーキパッド16は、ディスクロータ12の周方向や径方向(以下、単に「周方向」,「径方向」という場合がある)への多少の移動が許容されるとともに、後に詳しく説明するようにキャリパ20によってブレーキパッド16がディスクロータ12に接近させられた場合に離間する方向に付勢されるようになっている。また、ブレーキパッド16の前進時におけるリーディング側(図1における左側)の凸部36には、パッドウェアインジケータ42が取り付けられており、ブレーキパッド16は、マウンティング18に対して前進時におけるトレーリング側(図1における右側)に押し付けられた状態とされている。つまり、ブレーキパッド16は、前進時におけるトレーリング側かつ径方向内側のコーナ部が、マウンティング18に当接した状態となっている(図1において破線で示している)。
【0029】
上記マウンティング18には、キャリパ20が、図2に示すように、ディスクロータ12および1対のブレーキパッド16を跨ぐ状態で支持されている。キャリパ20は、キャリパ本体50とピストン52とを含んで構成され、そのキャリパ本体50は、ピストン52が嵌合されたハウジング部54と、そのハウジング部54から延び出すアーム部56とを有している。つまり、キャリパ20は、シリンダを有するものとなっている。キャリパ本体50には、1対のスライドピン58がディスクロータ12の回転軸線方向(以下、単に「回転軸線方向」という場合がある)に延びる状態で固定されている。キャリパ20は、その1対のスライドピン58がマウンティング18に形成された1対の摺動孔60に挿入されることで、キャリパ本体50が回転軸線方向に移動可能な状態で支持されている。キャリパ20は、マウンティング18に支持された状態において、ピストン52が、ディスクロータ12の内側に保持されたブレーキパッド16に近接させられるとともに、アーム部56の先端が、ディスクロータ12の外側に保持されたブレーキパッド16に近接させられた状態となっている。そして、キャリパ20のシリンダには、キャリパ本体50に設けられた接続孔62から作動液が流入・流出させられるようになっている。ちなみに、キャリパ本体50のハウジング部54とピストン52との間には、シリンダ内の液密を保つためのシール64と、シリンダ内への水,埃等の異物の侵入を防止するためのブーツ66が設けられている。
【0030】
キャリパ20のシリンダに作動液が流入させられると、ピストン52が、車輪側(図2における右側)に向かって移動させられるとともに、キャリパ本体50が、車幅方向における車体中央側(図2における左側)に向かって移動させられることになる。そのことにより、ピストン52およびキャリパ本体50の各々が、1対のブレーキパッド16の各々を、ディスクロータ12の摺接面に押し付けることになる。そして、本ディスクブレーキ装置10は、それらブレーキパッド16とディスクロータ12との摩擦により制動力が発生させられるようになっている。なお、ブレーキパッド16には、補強材として機能するアンチスクイールシム70が取り付けられており、ブレーキパッド16は、そのアンチスクイールシム70を介してピストン52およびキャリパ本体50に押圧され、摩擦材34の摺接面全体が、ディスクロータ12の摺接面に対して均等に押し付けられるようになっている。また、シール64は、キャリパ本体50とピストン52との相対変位によって弾性変形し、その弾性力によって、キャリパ本体50とピストン52とは、図2に示す原位置に戻されるようになっている。
【0031】
車両前進時におけるブレーキ操作によって、ブレーキパッド16がディスクロータ12の摺接面に押し付けられた場合を考える。その場合、ブレーキパッド16は、回転しているディスクロータ12から力を受けて挙動が生じることになるが、そのブレーキパッド16の挙動は、マウンティング18により制限されるようになっている。換言すれば、マウンティング18は、ブレーキパッド16に加わる力を受けるようにされている。図3は、ブレーキパッド16のマウンティング18に対する挙動を示す図(図2におけるB−B断面である)である。なお、この図において、マウンティング18は、ブレーキパッド16を保持する箇所のみを示している。
【0032】
ブレーキパッド16がディスクロータ12の摺接面に押し付けられると、まず、ブレーキパッド16は、ディスクロータ12の回転方向の力を受けることになる。しかし、先にも述べたように、ブレーキパッド16は、それのトレーリング側で径方向内側のコーナ部が、マウンティング18に当接しているため、そのディスクロータ12の回転方向への移動は制限されることになる。つまり、そのマウンティング18のブレーキパッド16に当接している部分が、第1制限部80である。そして、ブレーキパッド16は、マウンティング18の第1制限部80によって拘束されるため、ブレーキパッド16には、第1制限部80回り(図における右回り)に回動させられることになる。そのブレーキパッド16の回動は、主に、リーディング側において、ブレーキパッド16の凸部36が、マウンティング18の凹部38に当接することによって、制限されることになる。つまり、そのマウンティング18の凹部38の上部が、第2制限部82である。
【0033】
一般的に、ディスクブレーキ装置は、制限されたスペース、具体的には、車輪のディスクホイール内に収容されるように設計される。そのため、図4に示すように、従来のディスクブレーキ装置100においては、マウンティング102が大きくならないように、ブレーキパッド104の摩擦材106の近くに第1制限部108が配置されていた。そのように構成されたディスクブレーキ装置100においては、第1制限部108とディスクロータ12の回転中心Oとを結ぶ線分を直径とする円(以下、「規定円」という場合がある)C0の内側に、摩擦材106の一部が存在することになる。つまり、その規定円C0の外側に存在する摩擦材106の摺接面上の点においてディスクロータ12から受ける力の第1制限部108回りのモーメントが、図において右回りのモーメントであるのに対して、規定円C0の内側に存在する摩擦材106の摺接面上の点におけるモーメントは、左回りのモーメントとなる。したがって、ディスクブレーキ装置100においては、規定円C0の内側に存在する部分におけるモーメントによって、ブレーキパッド104のリーディング側の拘束が弱められてしまうことになる。また、例えば、摩擦材106が偏摩耗した場合には、第1制限部108回りのモーメントがほとんど生じないような事態が起こり得る。そのような場合、ブレーキパッド104のリーディング側の拘束が不十分となり、ブレーキ鳴きが生じやすくなってしまうのである。
【0034】
それに対して、本ディスクブレーキ装置10は、図3に示すように、マウンティング18に設けられた第1制限部80とディスクロータ12の回転中心Oとを結ぶ線分を直径とする規定円C1の内側に、摩擦材34が存在しないように構成されている。つまり、摩擦材34の摺接面上のすべての点における第1制限部80回りのモーメントが、図における右回りのものとなる。したがって、本ディスクブレーキ装置10は、ブレーキパッド16のリーディング側を、第2制限部82によって確実に拘束して、ブレーキ鳴きを抑制することが可能である。また、ブレーキパッド16が偏摩耗した場合であっても、常に右回りのモーメントを発生させてブレーキパッド16を右回りに回動させることができるため、ブレーキパッド16をトレーリング側とリーディング側との2箇所において拘束して、ブレーキ鳴きを抑制することができる。したがって、本ディスクブレーキ装置10は、摩擦材34の経時変化に関係なくブレーキ鳴きを抑制することが可能となっている。
【0035】
さらに、本ディスクブレーキ装置10は、図4に示したディスクブレーキ装置100に比較して、第1制限部80が摩擦材34から離れ、裏金32が大きく形成されている。そのことにより、摩擦材34も、ディスクブレーキ装置100の摩擦材106より大きくされている。したがって、本ディスクブレーキ装置10は、ディスクブレーキ装置100に比較して、摩擦材の寿命が長くなっているのである。
【0036】
ちなみに、本ディスクブレーキ装置10においては、ブレーキパッド16およびマウンティング18が、それらの周方向の中心とディスクロータ12の回転中心とを結ぶ直線に対して概ね対象に形成されているため、マウンティング18は、後退時に対応する第1制限部120,第2制限部122を有している。つまり、本ディスクブレーキ装置10は、車両が後退する際のブレーキ操作においても、前進時と同様の効果が得られるのである。
【0037】
次に、本ディスクブレーキ装置10における第1制限部80の決定方法について説明する。第1制限部80は、ブレーキパッド16の周方向の中心とディスクロータ12の回転中心とを結ぶ直線に平行で、かつ、その直線からトレーリング側に最も離れている摩擦材34の摺接面周縁上の接線Lの概ね直線上に設けられており、規定円C1が摩擦材34の摺接面周縁に接するように配置されている。なお、図4におけるディスクブレーキ装置100における第1制限部108の位置も、概ね上記接線L上に設けられている。つまり、、本ディスクブレーキ装置10における第1制限部80の位置は、上記接線L上で、第1制限部108の位置より遠ざけるようにして決定されている。このように、本ディスクブレーキ装置10は、規定円C1が摩擦材34の摺接面周縁に接するという条件下で、第1制限部80が、摩擦材34にできる限り近い位置に設定されているのである。
【0038】
<第2実施例>
図5に、第2実施例のディスクブレーキ装置150の要部を示す。なお、本実施例のディスクブレーキ装置150は、第1制限部の位置、つまり、ブレーキパッド152の形状(裏金154および摩擦材156の形状)およびマウンティング158の形状を除いて、略同様の構成であるため、本実施例のディスクブレーキ装置150の説明においては、第1実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0039】
本実施例のディスクブレーキ装置150が備えるマウンティング158の第1制限部170の決定方法について説明する。本ディスクブレーキ装置150の第1制限部170は、図4に示したディスクブレーキ装置100における摩擦材106の形状,位置とディスクロータ12の回転中心とに基づいて決定されている。まず、摩擦材106の摺接面周縁におけるトレーリング側かつ径方向内側のコーナ部に位置する点であって、ブレーキパッド16の周方向の中心とディスクロータ12の回転中心とを結ぶ直線に直交する直線L0が接する点を、規定点Aと定める。次いで、その規定点Aとディスクロータ12の回転中心Oとを結ぶ線分の垂直二等分線L1と、規定点Aにおける摩擦材の摺接面周縁の法線L2とを定義する。そして、第1制限部170は、それら垂直二等分線L1と法線L2との交点を中心として、規定点Aおよび回転中心Oを通る円C2の円周上に設けられている。つまり、第1制限部170は、ディスクロータ12の回転中心Oの円C2の中心に対して対象な点である。
【0040】
したがって、本ディスクブレーキ装置150は、第1実施例同様に、規定円C2の内側に摩擦材156が存在しないように構成されているため、ブレーキパッド152のリーディング側を第2制限部によって確実に拘束し、ブレーキ鳴きを抑制するとともに、摩擦材156の経時変化に関係なくブレーキ鳴きを抑制することが可能となっている。また、本ディスクブレーキ装置150は、規定円C2が摩擦材156の摺接面の周縁に接する条件下で、第1制限部170が摩擦材156のできる限り近くに配置されており、ブレーキパッド152,マウンティング158が大きくならないようにされているのである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】請求可能発明の第1実施例であるディスクブレーキ装置の正面図である。
【図2】第1実施例のディスクブレーキ装置の断面図(図1におけるA−A断面)である。
【図3】第1実施例のディスクブレーキ装置におけるブレーキパッドとパッド保持体の制限部との位置関係を示す概略図(図2におけるB−B断面)である。
【図4】ブレーキパッドの摩擦材の近くに第1制限部が配置された従来のディスクブレーキ装置におけるブレーキパッドとパッド保持体の制限部との位置関係を示す概略図である。
【図5】第2実施例のディスクブレーキ装置におけるブレーキパッドとパッド保持体の制限部との位置関係を示す概略図である。
【符号の説明】
【0042】
10:ディスクブレーキ装置 12:ディスクロータ 16:ブレーキパッド 18:マウンティング(パッド保持体) 20:キャリパ 32:裏金 34:摩擦材 36:凸部 38:凹部 50:キャリパ本体 52:ピストン 54:ハウジング部 56:アーム部 80:第1制限部(前進時) 82:第2制限部(前進時) 120:第1制限部(後退時) 122:第2制限部(後退時) 150:ディスクブレーキ装置 152:ブレーキパッド 154:裏金 156:摩擦材 158:マウンティング(パッド保持体) 170:第1制限部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)車輪とともに回転するディスクロータと、(B)摩擦材を有するブレーキパッドと、(C)そのブレーキパッドを、前記摩擦材が前記ディスクロータの摺接面に対向するように、かつ、前記ディスクロータの摺接面に対して接近離間可能に保持するパッド保持体と、(D)前記ブレーキパッドを前記ディスクロータの摺接面に押し付けるシリンダを有するキャリパとを備え、前記ディスクロータと前記ブレーキパッドとの摩擦により制動力を発生させるディスクブレーキ装置であって、
前記パッド保持体が、(c-1)前記ブレーキパッドが前記ディスクロータの摺接面に押し付けられた際に、前記ブレーキパッドのトレーリング側の一部を当接させてそのブレーキパッドの前記ディスクロータの回転に伴う周方向への移動を制限する第1制限部と、(c-2)前記ブレーキパッドが前記ディスクロータの摺接面に押し付けられた際に、前記ブレーキパッドのリーディング側の一部を当接させてそのブレーキパッドの前記第1制限部回りの回動を制限する第2制限部とを有し、
前記パッド保持体の前記第1制限部と前記ディスクロータの回転中心とを結ぶ線分を直径とする円の内側に、前記ブレーキパッドの摩擦材が存在しないように構成されたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
当該ディスクブレーキ装置が、前記パッド保持体の前記第1制限部と前記ディスクロータの回転中心とを結ぶ線分を直径とする円に、前記ブレーキパッドの摩擦材の摺接面の周縁が接するように構成された請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記第1制限部が、
前記ディスクロータの回転中心と前記摩擦材の周方向の中心とを通る直線に平行で、かつ、その直線からトレーリング側に最も離れている前記摩擦材の摺接面周縁の接線上に配置された請求項2に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記摩擦材の摺接面周縁のトレーリング側かつ径方向内側のコーナ部に位置し、前記ディスクロータの回転中心と前記摩擦材の周方向の中心とを通る直線に直交する直線が接する点を規定点と定義するとともに、
その規定点と前記ディスクロータの回転中心とを結ぶ線分の垂直二等分線と、その規定点における前記摩擦材の摺接面周縁の法線とを定義した場合において、
前記第1制限部が、それら垂直二等分線と法線との交点を中心として前記規定点と前記ディスクロータの回転中心とを通る円の円周上に設けられた請求項2に記載のディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−299853(P2009−299853A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157074(P2008−157074)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】