説明

ディスクブレーキ

【課題】制動時においてディスクの径方向に関するパッドの位置を安定させ、ブレーキの鳴き性能を向上させる。
【解決手段】パッド30が、ディスク50の回転方向に対応する端部においてガイド部36を有するとともに、このガイド部が、マウント10に形成された支持部12に対し、ディスク50の回転軸線に沿った方向への移動が可能で、かつ、ディスク50の径方向への移動が一定量に規制された状態で支持されているディスクブレーキであって、前記パッド30は、該パッドがディスク50の回転方向へ移動したときに、ガイド部36の内外二箇所においてマウント10側の受承部14に受け止められるトルク受け部38を備えている。そして、パッド30のトルク受け部38およびマウント10の受承部14が、相互に対応するテーパー形状に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキに関し、特にパッドがマウントに対してディスクの回転軸線に沿った方向へ移動可能で、かつ、ディスクの径方向への移動が一定量に規制された状態で支持されている形式のディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクブレーキについては、例えば特許文献1に開示された技術が既に知られている。この技術では、パッドの裏板が、ディスクの回転方向に対応する端部においてガイド部を備えている。一方、マウントは、パッドのガイド部を支持する溝形状の支持部を備えている。そして、ガイド部が、支持部に対してディスクの回転軸線に沿った方向への移動可能で、かつ、ディスクの径方向への移動が一定量に規制された状態で支持されている。また、パッドは、ガイド部の内側もしくは外側においてトルク受け部を備えている。このトルク受け部は、パッドがディスクの回転方向へ移動したときに、マウント側の受承部に受け止められる。
【特許文献1】特許第3303780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
パッドには常に振動が入っており、かつ、パッドのガイド部とマウントの支持部との間には、ディスクの径方向へのガイド部の移動を許容するための所定のクリアランスがあるため、ディスクの径方向に関するパッドの位置が振動によって常に変動する。この結果、制動時においてもディスクの径方向に関するパッドの位置が安定せず、ブレーキの鳴き性能が不安定となる。
【0004】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、制動時においてディスクの径方向に関するパッドの位置を安定させ、ブレーキの鳴き性能を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、パッドが、ディスクの回転方向に対応する端部においてガイド部を有するとともに、このガイド部が、マウントに形成された支持部に対し、ディスクの回転軸線に沿った方向への移動が可能で、かつ、ディスクの径方向への移動が一定量に規制された状態で支持されているディスクブレーキであって、前記パッドは、該パッドがディスクの回転方向へ移動したときに、ガイド部の内外二箇所においてマウント側の受承部に受け止められるトルク受け部を備えている。そして、パッドのトルク受け部およびマウントの受承部が、相互に対応するテーパー形状に設定されている。
【0006】
この構成によれば、制動時にパッドがディスクの回転方向に移動して、そのトルク受け部がマウントの受承部に接触したとき、相互のテーパー形状によってパッドの位置が常に一定になるように自動調整される。これにより、制動時にディスクの径方向に関するパッドの位置が安定し、ブレーキの鳴き性能が向上する。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載されたディスクブレーキであって、外側の前記トルク受け部のテーパー角度と、内側の前記トルク受け部のテーパー角度とが略等しく、また外側の前記受承部のテーパー角度と、内側の前記受承部のテーパー角度とが略等しく設定されている。
これにより、制動時にパッドのトルク受け部がマウントの受承部に受け止められたときのパッドの位置が安定する。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載されたディスクブレーキであって、前記パッドが前記ディスクの回転方向に移動したときに、内外の前記トルク受け部が前記ガイド部から離れたパッドの内外縁部近くの部位において前記受承部に接触するように設定されている。
これにより、制動時にパッドのトルク受け部がマウントの受承部に受け止められたときのパッドのぐらつきが抑えられ、その自動調整位置がさらに安定する。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載されたディスクブレーキであって、前記パッドのガイド部とマウントの支持部との間に、このガイド部の内外二箇所において弾性体が設けられている。
これにより、パッドがディスクの回転方向への作用力を受けていない非制動時においても、ディスクの径方向に関するパッドの振動が弾性体で吸収され、振動に基づく異音発生が抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて説明する。
図1は、車両用のディスクブレーキを表した平面図である。図2は、図1のA-A矢視方向の断面図である。図3は、同じく図1のB-B矢視方向の断面図である。これらの図面で示すように、本実施の形態では浮動型ディスクブレーキを対象としている。このディスクブレーキは、マウント10、キャリパ20、一対のパッド30を備えている。そして、マウント10は、車両側の部材(図示省略)に取り付けられ、ディスク50のインナ側と、アウタ側とのそれぞれにおいて、パッド30を一つずつ支持している(図1,2)。
【0011】
キャリパ20は、二本のスライドピン22を通じてマウント10に取り付けられている。これらのスライドピン22は、マウント10に対してスライド可能に支持されているとともに、キャリパ20に対して固定されている。したがって、キャリパ20はマウント10に対し、スライドピン22によってディスク50の回転軸線に沿った方向(図2の左右方向)へ往復移動できるように支持されている。なお、マウント10とキャリパ20との間におけるスライドピン22の外周は、ダストブーツ23で被われている(図1)。
【0012】
キャリパ20は、ディスク50のインナ側にピストン24を備え、アウタ側に爪26を備えている。制動時におけるピストン24の作動により、インナ側のパッド30がディスク50に押し付けられる。これと併行してキャリパ20がピストン24とは逆方向へ移動し、爪26を通じてアウタ側のパッド30がディスク50に押し付けられる。
【0013】
パッド30は、摩擦材32と裏板34とによって構成されている(図1,2)。この摩擦材32が制動時にディスク50に押し付けられ、ディスク50の回転に対して摩擦力を付与する。裏板34は、金属製または樹脂製であって、摩擦材40の裏面に固定されている。この裏板34は、ディスク50の回転方向に対応する両端部、すなわちディスク回出側(図3の右側)とディスク回入側(図3の左側)とにおいて、それぞれガイド部36を備えている。これらのガイド部36は、個々にディスク50の回転方向へ突出した凸形状となっている。また、ガイド部36は、図3で示すパッド30の中央点aとディスク50の回転軸心(図示省略)とを結ぶ直線bに対し、中央点aで直交する直線c上に設けられている。
なお、ディスク回出側およびディスク回入側とは、車両の前進時においてディスク50が図3の矢印R方向へ回転(正転)していることを基準としたものである。
【0014】
図4は、図3の一部(ディスク回出側)を拡大して表した断面図である。この図面からも明らかなように、パッド30の裏板34は、ガイド部36の内外二箇所においてトルク受け部38を備えている。つまり、外側のトルク受け部38はガイド部36よりもディスク50の外周側に位置し、内側のトルク受け部38はガイド部36よりもディスク50の回転軸心側に位置している。これらのトルク受け部38は、図3で示す直線cに対して所定の角度で傾斜したテーパー形状に設定されている。そして、外側および内側のトルク受け部38は、互いのテーパー角度がそれぞれ略等しく設定されている。
【0015】
マウント10には、ディスク50の回転方向に関する両側において支持部12がそれぞれ形成されている(図3)。これらの支持部12は、パッド30(裏板34)の両ガイド部36を個々に受け入れて支持する凹形状に設定されている。また、支持部12は、ディスク50の回転軸線に沿った方向(パッド30の厚み方向)へ延びており、この方向へガイド部36が移動できるようになっている。ガイド部36は支持部12に対し、ディスク50の径方向への移動が一定量に規制された状態で支持されている。つまり、支持部12とガイド部36との相互間には、ディスク50の径方向に関して僅かなクリアランスが設けられている。
【0016】
マウント10は、支持部12の内外二箇所において受承部14を備えている。外側の受承部14は支持部12よりもディスク50の外周側に位置し、内側の受承部14は支持部12よりもディスク50の回転軸心側に位置している。これらの受承部14は、パッド30(裏板34)のトルク受け部38と対応する傾きのテーパー形状に設定されている。したがって、外側および内側の受承部14は、トルク受け部38と同様に互いのテーパー角度がそれぞれ略等しく設定されている。そして、制動時にパッド30がディスク50の回転方向へ移動したときは、ディスク回出側においてトルク受け部38と受承部14とが、他の部位よりも先に接触する。つまり、マウント10とパッド30とにおいて、受承部14とトルク受け部38との間のクリアランスが、他の部位のクリアランスよりも小さく設定されている。
【0017】
支持部12とガイド部36との間には、サポート部材40が組み込まれている。図5は、サポート部材40を表した外観斜視図である。図6は、ガイド部36とサポート部材40との関係を表した説明図である。サポート部材40は、板バネ材による一体成形品であって、嵌合部分42と一対の弾性体44とを備えている。嵌合部分42は、断面コの字状をしており、マウント10の支持部12に組み付けられる。一対の弾性体44は、嵌合部分42の上下壁42aの一端部から反転させた格好で、嵌合部分42内に向けて延びている。
【0018】
これらの弾性体44の間に、パッド30のガイド部36が位置する(図6)。これによって弾性体44が図5の自由状態から図6のように弾性変形し、ガイド部36はディスク50の径方向に関して内外両側から付勢力を受ける。つまり、ガイド部36は支持部12に対し、弾性体44によって浮動状態で支持されている。また、弾性体44は、パッド30(ガイド部36)がディスク50に近づくほど、その弾性変形量が多くなる。したがって、ガイド部36はパッド30をディスク50から押し離す方向の付勢力も受ける。
【0019】
以上のように構成されたディスクブレーキにおいて、パッド30のガイド部36は、既に説明したようにディスク50の径方向に関して弾性体44で浮動状態に支持されている。これに加えて、パッド30には常に振動が入っているため、パッド30がディスク50の径方向に動いて位置が安定しない。制動時にはパッド30がディスク50から摩擦力を受け、このディスク50の回転方向へ移動する。このとき、ディスク回出側においては、パッド30のトルク受け部38がマウント10の受承部14に接触して受け止められる。
この結果、トルク受け部38と受承部14とのテーパー形状により、ガイド部36が図3の直線c上に位置するように調整される。つまり、ディスク50の径方向に関するパッド30の位置が一定になるように自動調整される。このため、制動時におけるパッド30の位置が安定し、ブレーキの鳴き性能が向上する。
【0020】
また、トルク受け部38が受承部14で受け止められるとき、このトルク受け部38がガイド部36から離れたパッド30の内外縁部近く(図面の上下端部近く)において受承部14に接触するように、相互のテーパー角度を設定することが好ましい。これにより、パッド30のぐらつきが抑えられ、既に述べたようにトルク受け部38および受承部14において、個々の外側と内側とのテーパー角度が略等しく設定されていることも相まって、制動時におけるパッド30の自動調整位置がさらに安定する。
【0021】
特に、前輪用のディスクブレーキにおいては、車両の旋回状態で制動をかけた場合に、ディスク50の傾きによってパッド30がディスク50の外周方向へずれ上がる現象が生じ易い。この現象もトルク受け部38と受承部14との接触によるパッド30の位置調整によって解消される。なお、ディスクブレーキの非制動時において、ディスク50の径方向に関するパッド30の振動は、弾性体44で吸収される。また、弾性体44はパッド30をディスク50から押し離す方向へ付勢しているので、非制動時のパッド30はディスク50から積極的に押し離される。
【0022】
以上は本発明を実施するための最良の形態を図面に関連して説明したが、この実施の形態は本発明の趣旨から逸脱しない範囲で容易に変更または変形できるものである。
例えば、トルク受け部38と受承部14とのテーパー形状は、図7で示すように図3,4とは逆の傾きにすることも可能である。また、図面で示す実施の形態では、マウント10の支持部12とパッド30のガイド部36との間に弾性体44を設けた浮動型ディスクブレーキについて説明した。しかしながら、弾性体44を廃止して支持部12とガイド部36との間にクリアランスだけを設定した形式のディスクブレーキに対しても本発明を適用することは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】車両用のディスクブレーキを表した平面図。
【図2】図1のA-A矢視方向の断面図。
【図3】図1のB-B矢視方向の断面図。
【図4】図3の一部(ディスク回出側)を拡大して表した断面図。
【図5】サポート部材を表した外観斜視図。
【図6】ガイド部とサポート部材との関係を表した説明図。
【図7】実施の形態の変更例を図4と対応させて表した断面図。
【符号の説明】
【0024】
10 マウント
12 支持部
14 受承部
30 パッド
36 ガイド部
38 トルク受け部
44 弾性体
50 ディスク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッドが、ディスクの回転方向に対応する端部においてガイド部を有するとともに、このガイド部が、マウントに形成された支持部に対し、前記ディスクの回転軸線に沿った方向への移動が可能で、かつ、前記ディスクの径方向への移動が一定量に規制された状態で支持されているディスクブレーキであって、
前記パッドは、該パッドが前記ディスクの回転方向へ移動したときに、前記ガイド部の内外二箇所において前記マウント側の受承部に受け止められるトルク受け部を備え、前記パッドの前記トルク受け部および前記マウントの前記受承部が、相互に対応するテーパー形状に設定されているディスクブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載されたディスクブレーキであって、
外側の前記トルク受け部のテーパー角度と、内側の前記トルク受け部のテーパー角度とが略等しく、また外側の前記受承部のテーパー角度と、内側の前記受承部のテーパー角度とが略等しく設定されているディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたディスクブレーキであって、
前記パッドが前記ディスクの回転方向に移動したときに、内外の前記トルク受け部が前記ガイド部から離れたパッドの内外縁部近くの部位において前記受承部に接触するように設定されているディスクブレーキ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載されたディスクブレーキであって、
前記パッドの前記ガイド部と前記マウントの前記支持部との間に、このガイド部の内外二箇所において弾性体が設けられているディスクブレーキ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−161878(P2006−161878A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351117(P2004−351117)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】