ディスクブレーキ
【課題】 前進側制動時における圧痕の発生防止と、後進側制動時におけるラトル音の抑制を図ることのできるディスクブレーキを提供する。
【解決手段】 ディスクDに対してピストン7を対向配置したキャリパ本体2と、ディスクDの両側に対を成して配置される複数のブレーキパッド9を設け、キャリパ本体2に、前進制動時にブレーキパッド9からの制動トルクを受ける前進トルク受け面14aと、後進制動時にブレーキパッド9からの制動トルクを受ける後進トルク受け面14bを設ける。前進トルク受け面14aのみにブレーキパッド9の当接するガイド部材18を設け、後進トルク受け面14bはブレーキパッド9に直接当接させる。キャリパ本体2はガイド部材18よりも硬度の低い材料によって形成する。
【解決手段】 ディスクDに対してピストン7を対向配置したキャリパ本体2と、ディスクDの両側に対を成して配置される複数のブレーキパッド9を設け、キャリパ本体2に、前進制動時にブレーキパッド9からの制動トルクを受ける前進トルク受け面14aと、後進制動時にブレーキパッド9からの制動トルクを受ける後進トルク受け面14bを設ける。前進トルク受け面14aのみにブレーキパッド9の当接するガイド部材18を設け、後進トルク受け面14bはブレーキパッド9に直接当接させる。キャリパ本体2はガイド部材18よりも硬度の低い材料によって形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の車軸回転の制動に用いられるディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のディスクブレーキとして、ディスクを両側から挟みこむブレーキパッドが対向型のピストンで押圧されるものが知られている。このディスクブレーキはアルミニウム合金等で形成されたキャリパ本体にブレーキパッドが摺動自在に保持され、各ブレーキパッドが押圧手段によってディスクの側面に圧接されるようになっている。そして、この種のブレーキでは、制動時にブレーキパッドがディスクを通して回転方向の反力を受けるため、キャリパ本体のパッド保持部にトルク受け面が形成されている。
【0003】
ところが、この種のディスクブレーキの場合、キャリパ本体がアルミニウム合金等の比較的硬度の低い金属材料で形成されると、制動時の大きなトルク入力によってトルク受け面に圧痕が生じることが懸念される。
このため、これに対処するものとして、トルク受け面に鋼材等の硬質材料から成るガイド部材を設けるようにしたものが案出されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−21463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この従来のディスクブレーキにおいては、ディスク回転方向両側のトルク受け面に同様の硬質材料のガイド部材が配置されているため、車両前進時と後進時とでの制動に関する要求性能をともに満たすことが難しい。
即ち、車両前進時の制動では、前進トルク受け面に大きな制動トルクが頻繁に作用するために、圧痕の発生防止等が強く望まれるが、車両後進時の制動では、制動時の車両速度が低く、後進トルク受け面に作用する制動トルクが小さいことから、圧痕の発生防止等よりもむしろラトル音(打音)の低減が要望される。このラトル音は、特に、車両前進時に前進トルク受け面側に押し付けられていたブレーキパッドやパッドの裏金が車両後進時の制動によって後進トルク受け面側に急激に衝突し、それによって発生するものである。このため、前進制動時の圧痕の発生防止等を考慮してガイド部材を硬質材質によって形成した場合、後進制動時にラトル音がより発生し易くなってしまう。
【0005】
そこでこの発明は、前進側制動時における圧痕の発生防止と、後進側制動時におけるラトル音の抑制を図ることのできるディスクブレーキを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両の車軸とともに回転するディスクの両側にディスクパス部を介して対向配置された複数の押圧手段を有するキャリパ本体を備え、ディスクの両側に対を成して配置されるブレーキパッドを前記キャリパ本体にディスク軸方向へ摺動可能に支持させたディスクブレーキにおいて、キャリパ本体は、前進制動時に前記各ブレーキパッドからの制動トルクを受ける前進トルク受け面と、後進制動時に前記各ブレーキパッドからの制動トルクを受ける後進トルク受け面とを有し、前記前進トルク受け面と前記後進トルク受け面とは前記ディスク周方向で対称の位置に形成され、前記前進トルク受け面のみに前記ブレーキパッドの当接するガイド部材が設けられるとともに、後進トルク受け面は前記ブレーキパッドに直接当接し、前記キャリパ本体は前記ガイド部材よりも硬度の低い材料から成るようにした。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記押圧手段は前記ディスクの片面毎に複数のピストンを備え、前記ブレーキパッドは前記各ピストンに対応して設けられ、キャリパ本体は、各ブレーキパッドのディスク周方向両側に対称形状の前進及び後進トルク受け面が夫々設けられるとともに、前進トルク受け面側のみに前記ガイド部材が設けられるようにした。
【0008】
請求項3に記載の発明は、車両の車軸とともに回転するディスクの両側にディスクパス部を介して対向配置された複数の押圧手段を有するキャリパ本体を備え、ディスクの両側に対を成して配置されるブレーキパッドを前記キャリパ本体にディスク軸方向へ摺動可能に支持させ、車両の制動時に前記各ブレーキパッドが当接する前記キャリパ本体のトルク受け面に各々ガイド部材が設けられてなるディスクブレーキにおいて、後進制動時に前記ブレーキパッドが当接する後進トルク受け面のガイド部材は、前進制動時に前記ブレーキパッドが当接する前進トルク受け面のガイド部材よりも硬度が低くなるようにした。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記キャリパ本体がアルミニウムからなり、前記ガイド部材が鋼材からなるようにした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、車両前進の際の制動時にはブレーキパッドが硬度の高いガイド部材を介して前進トルク受け面に当接し、車両後進の際の制動時にはブレーキパッドが硬度の低いキャリパ本体の後進トルク受け面に当接して当接衝撃を緩和されるため、前進側制動時における圧痕防止を図りつつ、後進側制動時におけるラトル音の発生を有効に抑制することができる。
また、この発明においては、キャリパ本体の後進トルク受け面にガイド部材を設けないことから、部品点数の削減によって製造コストを低減することができる。
【0011】
特に、請求項2に記載の発明は、ディスクの片面毎にピストンとともにブレーキパッドが複数設けられているディスクブレーキに適用するため、前進側制動時における圧痕防止と後進側制動時におけるラトル音の抑制を図りつつ、ガイド部材の設置数の大幅な減少によってより大きなコスト削減効果を得ることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、車両前進の際の制動時にはブレーキパッドが硬度の高いガイド部材を介して前進トルク受け面に当接し、車両後進の際の制動時には、ブレーキパッドが硬度の低いガイド部材に当接して当接衝撃を緩和されるため、前進側制動時における圧痕防止を図りつつ、後進側制動時におけるラトル音の発生を有効に防止することができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明によれば、キャリパ本体がアルミニウムから成り、ガイド部材が鋼材から成るため、前進側制動時における圧痕防止と後進側制動時におけるラトル音の抑制を特に有効に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下説明する複数の実施形態においては、同一部分には同一符号を付して、重複する説明を省略するものとする。
【0015】
最初に、図1〜図4に示す第1の実施形態のディスクブレーキについて説明する。
このディスクブレーキは、車軸と一体に回転するブレーキディスク(ディスク)Dと、車体側に固定されるブレーキキャリパ1を備え、ブレーキキャリパ1のキャリパ本体2がアルミニウム合金によって一体ブロックとして形成されている。尚、図中矢印Fは、ブレーキディスクDの車両前進時における回転方向を示している。なお、この実施形態において、キャリパ本体2のアルミニウム合金の硬度は約Hv90となっている。
【0016】
キャリパ本体2は、図2に示すように側面視が略円弧状に形成され、その円弧の内周側に、ディスクDの外周縁部を覆う案内溝(図示せず)が形成されている。この案内溝は、ディスクDの車体内側の面に臨む内側壁3と、同車体外側の面に臨む外側壁4と、ディスクDの外周側を跨ぐように両側壁3,4を連結する外周壁5(ディスクパス部)によって形成されている。内側壁3と外側壁4のディスク軸方向での対向面には、図3に示すように片側三つのボア6a,6b,6cがディスク回転方向に沿って配置され、これらの各ボア6a,6b,6cに押圧手段であるピストン7が進退自在に収容されている。このピストン7はディスク制動のための油圧作動ピストンであり、キャリパ本体2の給排口8(図1参照)から供給されるブレーキ液によって作動する。この実施形態のブレーキキャリパ1は、所謂対向ピストン型の6ポッドキャリパの構成となっている。
【0017】
キャリパ本体2には、ディスクDの両側面に圧接される一対のブレーキパッド9がディスク軸線に沿う方向に進退変位可能に保持されている。各ブレーキパッド9は、ディスクDの側面に直接圧接される摩擦材10と、この摩擦材10を支持する裏金11から成り、この裏金11の背面側が前記各ピストン7によって押圧されるようになっている。また、ブレーキパッド9は側面視が略円弧状に形成され、ディスク回転方向の両端に相互に平行な端面9a,9bが形成されている。即ち、ブレーキパッド9のディスク回転方向の両端は対称形状となっている。そして、各裏金11の両端部上縁には支持ボス部12が突設され、キャリパ本体2にディスク軸線方向に沿って取り付けられたパッドピン13に、これらの支持ボス部12が摺動自在に挿入支持されている。
【0018】
キャリパ本体2の内側壁3と外側壁4の向かい合う面には、前記ブレーキパッド9を摺動自在に収容支持するガイド溝14が夫々形成されている。各ガイド溝14のディスク回転方向の端面14a,14bは、制動時にブレーキパッド9がディスクDに押し付けられたときに、ディスクDからブーキパッド9に作用する回転方向の反力(トルク)を受ける部分であり、これらの端面14a,14bはディスクDの周方向で対称の位置に形成されている。以下では、このうちの車両前進時の制動の際にトルクを受ける側の端面14aを前進トルク受け面14aと呼び、車両後進時の制動の際にトルクを受ける側の端面14bを後進トルク受け面14bと呼ぶものとする。
【0019】
また、キャリパ本体2の外周壁5には、ディスク半径方向に貫通する一対の窓15,16が設けられ、これらの窓15,16に跨るようにカバースプリング17が取り付けられている。このカバースプリング17は、左右のブレーキパッド9を常時前進トルク受け面14a方向に付勢している。
【0020】
キャリパ本体2の各前進トルク受け面14aには、図3,図4に示すような断面略コ字形状のガイド部材18が夫々取り付けられている。この各ガイド部材18は、前進トルク受け面14aの上部コーナと下部コーナに係止される上下の屈曲片18a,18bを有し、下部側の屈曲片18bがキャリパ本体2にビス止めされている。そして、ガイド部材18は、キャリパ本体2を形成するアルミニウム合金よりも硬度の高い材料、例えば、鋼材(例えば、Hv120の硬度を有するもの)等によって形成されている。
【0021】
このため、車両前進時に制動が行われた場合には、各ブレーキパッド9の端面9aがガイド部材18に押し付けられて摺動し、各ブレーキパッド9に作用する制動トルクがガイド部材18を介してトルク受け面14aに受け止められる。したがって、車両前進の際の制動時に大きな制動トルクがブレーキパッド9に繰り返し作用した場合においても、ブレーキバッド9が硬度や融点の低いトルク受け面14aに対して直接当接することがなく、このことからキャリパ本体2に圧痕や熱変形等が生じることがない。
【0022】
一方、キャリパ本体2の各後進トルク受け面14bは、前進トルク受け面14a側のようなガイド部材18は配置されておらず、ブレーキパッド9の端面9bに対し直接当接し得るようになっている。
【0023】
このため、車両後進時に制動が行われた場合には、各ブレーキパッド9の端面9bがキャリパ本体2の剥き出しの後進トルク受け面14bに直接当接する。キャリパ本体2は前述のように比較的硬度の低いアルミニウム合金によって形成されているため、ブレーキパッド9が後進トルク受け面14bに当接する際には、アルミニウムの弾性によって当接衝撃を充分に緩衝される。したがって、車両後進時の制動では、後進トルク受け面14bのアルミニウムの弾性によってラトル音の発生が抑制される。
【0024】
また、この実施形態のディスクブレーキは、後進トルク受け面14b側にガイド部材を配置する必要がないため、部品点数が削減され、製造コストの低減が可能となる。
【0025】
さらに、このディスクブレーキ装置は、キャリパ本体102の製造方法を以下のように工夫することによって、左車輪用のブレーキと右車輪用のブレーキでキャリパ本体102を共用することができる。
【0026】
図5〜図7は、左右共用化を可能したキャリパ本体102を示すものであり、図5は、ガイド部材18を取り付ける前の状態、図6,図7は、夫々左右異なる車輪用としてガイド部材18を取り付けた状態を示している。
キャリパ本体102は、アルミニウムでの鋳造時に、図5(A),(B)に示すようにトルク受け面14a,14bにガイド部材18の厚みと同等高さの突起20a,20bを夫々形成する。
次に、図6(A),(B)に示すようにキャリパ本体102を左右一方の車輪用として使用する場合には、前後一方のトルク受け面14aの突起20aを他方のトルク受け面14bの突起20bよりも多く切削加工等によって切除して、そこにガイド部材18を取り付ける。また、図7(A),(B)に示すようにキャリパ本体101を左右逆側の車輪用として使用する場合には、他方のトルク受け面14bの突起20bを一方のトルク受け面14aの突起20bよりもより多く切削加工等によって切除し、同様にそこにガイド部材18を取り付ける。この場合、切削加工等でより多く切除する量は、ガイド部材18の厚みと同じとする。
【0027】
このように、予め、鋳造時に前後のトルク受け面14a,14bにガイド部材18の厚みよりも大きい高さの突起20a,20bを形成しておき、ガイド部材18を取り付ける側の突起20aまたは20bをより多く切除するのは、ガイド部材18の取り付けによって前後のトルク受け部の間の中心とブレーキパッドの長手方向の中心がオフセットし、それによってブレーキパッドに偏磨耗が生じるのを防止するためである。
【0028】
したがって、この例のようにして左車輪用と右車輪用でキャリパ本体102を共用するようにした場合には、ブレーキパッドの偏磨耗を招くことなく製造効率の向上を図ることができる。
【0029】
つづいて、図8〜図10に示す第2の実施形態について説明する。
この実施形態のディスクブレーキの場合、ブレーキキャリパ1のキャリパ本体202は第1の実施形態と同様にアルミニウムによって一体ブロックとして形成されているが、キャリパ本体202の内側壁3と外側壁4に、相互に対向するピストン7,7がディスク回転方向に並んで各2つずつ設けられ、各ピストン7の前面側に対応するブレーキパッド9A,9Bが1つずつ配置されている。そして、内側壁3と外側壁4には、夫々各2つブレーキパッド9A,9Bを摺動自在に保持するためのガイド溝14A,14Bが形成され、各ガイド溝14A,14Bの周方向両側に前進トルク受け面14Aa,14Baと後進トルク受け面14Ab,14Bbが夫々形成されている。尚、各ガイド溝14A,14Bはディスク周方向両側に対称形状を成して形成されている。
【0030】
このディスクブレーキは、第1の実施形態と同様に各ガイド溝14A,14Bの前進トルク受け面14Aa,14Ba側のみに鋼材等の高硬度材料からなるガイド部材218A,218Bが取り付けられ、後進トルク受け面14Ab,14Bbは、ブレーキパッド9A,9Bの端面に対してキャリパ本体202のアルミニウムが剥き出しになっている。各ガイド部材218A,218Bは、図10に示すように内側壁3のディスク側に屈曲した屈曲片218Aa,218Baを備え、この各屈曲片218Aa,218Baが内側壁3にビス止めされている。
【0031】
この実施形態のディスクブレーキは、ディスク片面当たりのブレーキパッド9A,9Bが2つであるが、各ブレーキパッド9A,9Bにつき、前進トルク受け面14Aa,14Ba側のみに高硬度のガイド部材218A,218Bが配置されているため、第1の実施形態と同様に、車両前進時の制動では前進トルク受け面14Aa,14Baの圧痕や溶融の発生を防止し、車両後進時の制動ではラトル音の発生を確実に抑制することができる。
【0032】
ただし、第1の実施形態に対してブレーキパッド数が2倍であるため、ガイド部材218A,218Bの設置数が減ることによるコスト削減効果は大きくなる。なお、この実施形態においては、ブレーキパッド9A,9Bに対して夫々1つのピストン7を対応させて設けているが、これに限らず、1つのブレーキパッドに対して複数(例えば2つ)のピストンを配設したものでも良い。
【0033】
次に、図11,図12に示す第3の実施形態について説明する。
このディスクブレーキは、ピストン7やブレーキパッド309の配置数等は第1の実施形態と同様であるが、ブレーキパッド309の裏金311にディスク回転方向の前後に延出する係止フック30が一体に形成され、この係止フック30がキャリパ本体302に突設されたステイ31に引っ掛け状態で係止される点が大きく異なっている。つまり、第1の実施形態では、制動時にブレーキパッドに作用する回転方向の制動トルクをディスクDの回出側(回転方向の出口側)で押し返して受け止めるようになっているが、この実施形態では、ブレーキパッド309に作用する回転方向の制動トルクをディスクDの回入側(回転方向の入口側)で係止フック30とステイ31による係合部で引っ張ることで受け止めるようになっている。
【0034】
したがって、このディスクブレーキでは、車輪前進時にディスク回入側にあるステイ31Aの前面が前進トルク受け面314aとなり、車両後進時にディスク回入側にあるステイ31Bの前面が後進トルク受け面314bとなっている。そして、この実施形態の場合にも、前進トルク受け面314a側にのみ高硬度材料から成るガイド部材318が取り付けられ、後進トルク受け面314bにはガイド部材が設けられず、係止フック30が直接当接するようになっている。なお、ガイド部材318は、図12に示すように上下に屈曲片318a,318bが形成され、この屈曲片318a,318bをステイ31の上下面に係止させた状態で屈曲片318bがステイ31にビス止めされている。
よって、この実施形態の場合にも、前述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0035】
さらに次に、図13,図14に示す第4の実施形態と、図15に夫々示す第5の実施形態について説明する。
これらの実施形態は、夫々前述した第1,第3の実施形態にほぼ対応する構成を備えているが、各後進トルク受け面14b,314b側には、前進トルク受け面14a,314aと硬度の異なるガイド部材18−2,318−2が取り付けられている。
【0036】
即ち、前進トルク受け面側のガイド部材18,318は高硬度に形成され、後進トルク受け面側のガイド部材18−2,318−2はそれよりも低い硬度に形成されている。
前進トルク受け面側(以下、「前進側」と呼ぶ)と後進トルク受け面側(以下、「後進側」と呼ぶ)でガイド部材の硬度を変えるにあたっては、例えば、以下(1)〜(3)のような手法を採用することができる。
(1)前進側は高硬度のバネ用ステンレス鋼帯(硬度Hv300)で形成する場合には、後進側は冷間圧延鋼板(硬度Hv120)で形成する。
(2)前進側は鋼材(硬度Hv120)によって形成する場合には、後進側はアルミニウム(硬度約Hv90)で形成する。
(3)前進側と後進側を同じ構造用炭素鋼S15Cで形成する場合、前進側は、焼入れ焼きなまし(1次:900℃から油冷、2次:780℃から水冷。後に、180℃から空冷)で硬度Hv253とし、後進側は、焼きならし(900℃から空冷)で硬度Hv122とする。
【0037】
また、前進側と後進側の硬度はこの他の手法を用いても変えることができるが、その場合、前進側と後進側の硬度差の比率は、前進:後進=1.3:1程度であることが望ましい。
【0038】
これら第4,第5の実施形態の場合、ブレーキパッド9,309の前進側と後進側に夫々ガイド部材18,318,18−2,318−2が配置されているものの、後進側のガイド部材18−2,318−2が、前進側のガイド部材18,318よりも硬度が低く設定されているため、前述の他の実施形態と同様に、車両前進時の制動では前進トルク受け面14a,314aの圧痕や溶融の発生を防止し、車両後進時の制動ではラトル音の発生を抑制することができる。
【0039】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、液圧式のディスクブレーキを例にとり説明したが、押圧手段を電動モータで駆動する電動ブレーキにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の第1の実施形態のディスクブレーキを示す平面図。
【図2】同実施形態のディスクブレーキを示す正面図。
【図3】同実施形態のディスクブレーキを示す図1のA−A線に沿う断面図。
【図4】同実施形態のディスクブレーキのガイド部材を示す斜視図。
【図5】同実施形態の変形例を示すキャリパ本体の平面図(A)と、その図のB−B線に沿う断面図(B)を併せた図。
【図6】同実施形態の変形例を示すキャリパ本体の平面図(A)と、その図のC−C線に沿う断面図(B)を併せた図。
【図7】同実施形態の変形例を示すキャリパ本体の平面図(A)と、その図のD−D線に沿う断面図(B)を併せた図。
【図8】この発明の第2の実施形態のディスクブレーキを示す平面図。
【図9】同実施形態のディスクブレーキを示す図8のE−E線に沿う断面図。
【図10】同実施形態のディスクブレーキのガイド部材を示す斜視図。
【図11】この発明の第3の実施形態のディスクブレーキを示す断面図。
【図12】同実施形態のディスクブレーキのガイド部材を示す斜視図
【図13】この発明の第4の実施形態のディスクブレーキを示す平面図。
【図14】同実施形態のディスクブレーキを示す図13のF−F線に沿う断面図。
【図15】この発明の第5の実施形態のディスクブレーキを示す断面図。
【符号の説明】
【0041】
2,102,202,302…キャリパ本体
5…外周壁(ディスクパス部)
7…ピストン(押圧手段)
9,309…ブレーキパッド
14a,14Aa,14Ba,314a…前進トルク受け面
14b,14Ab,14Bb,314b…後進トルク受け面
18,218A,218B,318,18−2,318−2…ガイド部材
D…ディスク
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の車軸回転の制動に用いられるディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のディスクブレーキとして、ディスクを両側から挟みこむブレーキパッドが対向型のピストンで押圧されるものが知られている。このディスクブレーキはアルミニウム合金等で形成されたキャリパ本体にブレーキパッドが摺動自在に保持され、各ブレーキパッドが押圧手段によってディスクの側面に圧接されるようになっている。そして、この種のブレーキでは、制動時にブレーキパッドがディスクを通して回転方向の反力を受けるため、キャリパ本体のパッド保持部にトルク受け面が形成されている。
【0003】
ところが、この種のディスクブレーキの場合、キャリパ本体がアルミニウム合金等の比較的硬度の低い金属材料で形成されると、制動時の大きなトルク入力によってトルク受け面に圧痕が生じることが懸念される。
このため、これに対処するものとして、トルク受け面に鋼材等の硬質材料から成るガイド部材を設けるようにしたものが案出されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−21463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この従来のディスクブレーキにおいては、ディスク回転方向両側のトルク受け面に同様の硬質材料のガイド部材が配置されているため、車両前進時と後進時とでの制動に関する要求性能をともに満たすことが難しい。
即ち、車両前進時の制動では、前進トルク受け面に大きな制動トルクが頻繁に作用するために、圧痕の発生防止等が強く望まれるが、車両後進時の制動では、制動時の車両速度が低く、後進トルク受け面に作用する制動トルクが小さいことから、圧痕の発生防止等よりもむしろラトル音(打音)の低減が要望される。このラトル音は、特に、車両前進時に前進トルク受け面側に押し付けられていたブレーキパッドやパッドの裏金が車両後進時の制動によって後進トルク受け面側に急激に衝突し、それによって発生するものである。このため、前進制動時の圧痕の発生防止等を考慮してガイド部材を硬質材質によって形成した場合、後進制動時にラトル音がより発生し易くなってしまう。
【0005】
そこでこの発明は、前進側制動時における圧痕の発生防止と、後進側制動時におけるラトル音の抑制を図ることのできるディスクブレーキを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両の車軸とともに回転するディスクの両側にディスクパス部を介して対向配置された複数の押圧手段を有するキャリパ本体を備え、ディスクの両側に対を成して配置されるブレーキパッドを前記キャリパ本体にディスク軸方向へ摺動可能に支持させたディスクブレーキにおいて、キャリパ本体は、前進制動時に前記各ブレーキパッドからの制動トルクを受ける前進トルク受け面と、後進制動時に前記各ブレーキパッドからの制動トルクを受ける後進トルク受け面とを有し、前記前進トルク受け面と前記後進トルク受け面とは前記ディスク周方向で対称の位置に形成され、前記前進トルク受け面のみに前記ブレーキパッドの当接するガイド部材が設けられるとともに、後進トルク受け面は前記ブレーキパッドに直接当接し、前記キャリパ本体は前記ガイド部材よりも硬度の低い材料から成るようにした。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記押圧手段は前記ディスクの片面毎に複数のピストンを備え、前記ブレーキパッドは前記各ピストンに対応して設けられ、キャリパ本体は、各ブレーキパッドのディスク周方向両側に対称形状の前進及び後進トルク受け面が夫々設けられるとともに、前進トルク受け面側のみに前記ガイド部材が設けられるようにした。
【0008】
請求項3に記載の発明は、車両の車軸とともに回転するディスクの両側にディスクパス部を介して対向配置された複数の押圧手段を有するキャリパ本体を備え、ディスクの両側に対を成して配置されるブレーキパッドを前記キャリパ本体にディスク軸方向へ摺動可能に支持させ、車両の制動時に前記各ブレーキパッドが当接する前記キャリパ本体のトルク受け面に各々ガイド部材が設けられてなるディスクブレーキにおいて、後進制動時に前記ブレーキパッドが当接する後進トルク受け面のガイド部材は、前進制動時に前記ブレーキパッドが当接する前進トルク受け面のガイド部材よりも硬度が低くなるようにした。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記キャリパ本体がアルミニウムからなり、前記ガイド部材が鋼材からなるようにした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、車両前進の際の制動時にはブレーキパッドが硬度の高いガイド部材を介して前進トルク受け面に当接し、車両後進の際の制動時にはブレーキパッドが硬度の低いキャリパ本体の後進トルク受け面に当接して当接衝撃を緩和されるため、前進側制動時における圧痕防止を図りつつ、後進側制動時におけるラトル音の発生を有効に抑制することができる。
また、この発明においては、キャリパ本体の後進トルク受け面にガイド部材を設けないことから、部品点数の削減によって製造コストを低減することができる。
【0011】
特に、請求項2に記載の発明は、ディスクの片面毎にピストンとともにブレーキパッドが複数設けられているディスクブレーキに適用するため、前進側制動時における圧痕防止と後進側制動時におけるラトル音の抑制を図りつつ、ガイド部材の設置数の大幅な減少によってより大きなコスト削減効果を得ることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、車両前進の際の制動時にはブレーキパッドが硬度の高いガイド部材を介して前進トルク受け面に当接し、車両後進の際の制動時には、ブレーキパッドが硬度の低いガイド部材に当接して当接衝撃を緩和されるため、前進側制動時における圧痕防止を図りつつ、後進側制動時におけるラトル音の発生を有効に防止することができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明によれば、キャリパ本体がアルミニウムから成り、ガイド部材が鋼材から成るため、前進側制動時における圧痕防止と後進側制動時におけるラトル音の抑制を特に有効に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下説明する複数の実施形態においては、同一部分には同一符号を付して、重複する説明を省略するものとする。
【0015】
最初に、図1〜図4に示す第1の実施形態のディスクブレーキについて説明する。
このディスクブレーキは、車軸と一体に回転するブレーキディスク(ディスク)Dと、車体側に固定されるブレーキキャリパ1を備え、ブレーキキャリパ1のキャリパ本体2がアルミニウム合金によって一体ブロックとして形成されている。尚、図中矢印Fは、ブレーキディスクDの車両前進時における回転方向を示している。なお、この実施形態において、キャリパ本体2のアルミニウム合金の硬度は約Hv90となっている。
【0016】
キャリパ本体2は、図2に示すように側面視が略円弧状に形成され、その円弧の内周側に、ディスクDの外周縁部を覆う案内溝(図示せず)が形成されている。この案内溝は、ディスクDの車体内側の面に臨む内側壁3と、同車体外側の面に臨む外側壁4と、ディスクDの外周側を跨ぐように両側壁3,4を連結する外周壁5(ディスクパス部)によって形成されている。内側壁3と外側壁4のディスク軸方向での対向面には、図3に示すように片側三つのボア6a,6b,6cがディスク回転方向に沿って配置され、これらの各ボア6a,6b,6cに押圧手段であるピストン7が進退自在に収容されている。このピストン7はディスク制動のための油圧作動ピストンであり、キャリパ本体2の給排口8(図1参照)から供給されるブレーキ液によって作動する。この実施形態のブレーキキャリパ1は、所謂対向ピストン型の6ポッドキャリパの構成となっている。
【0017】
キャリパ本体2には、ディスクDの両側面に圧接される一対のブレーキパッド9がディスク軸線に沿う方向に進退変位可能に保持されている。各ブレーキパッド9は、ディスクDの側面に直接圧接される摩擦材10と、この摩擦材10を支持する裏金11から成り、この裏金11の背面側が前記各ピストン7によって押圧されるようになっている。また、ブレーキパッド9は側面視が略円弧状に形成され、ディスク回転方向の両端に相互に平行な端面9a,9bが形成されている。即ち、ブレーキパッド9のディスク回転方向の両端は対称形状となっている。そして、各裏金11の両端部上縁には支持ボス部12が突設され、キャリパ本体2にディスク軸線方向に沿って取り付けられたパッドピン13に、これらの支持ボス部12が摺動自在に挿入支持されている。
【0018】
キャリパ本体2の内側壁3と外側壁4の向かい合う面には、前記ブレーキパッド9を摺動自在に収容支持するガイド溝14が夫々形成されている。各ガイド溝14のディスク回転方向の端面14a,14bは、制動時にブレーキパッド9がディスクDに押し付けられたときに、ディスクDからブーキパッド9に作用する回転方向の反力(トルク)を受ける部分であり、これらの端面14a,14bはディスクDの周方向で対称の位置に形成されている。以下では、このうちの車両前進時の制動の際にトルクを受ける側の端面14aを前進トルク受け面14aと呼び、車両後進時の制動の際にトルクを受ける側の端面14bを後進トルク受け面14bと呼ぶものとする。
【0019】
また、キャリパ本体2の外周壁5には、ディスク半径方向に貫通する一対の窓15,16が設けられ、これらの窓15,16に跨るようにカバースプリング17が取り付けられている。このカバースプリング17は、左右のブレーキパッド9を常時前進トルク受け面14a方向に付勢している。
【0020】
キャリパ本体2の各前進トルク受け面14aには、図3,図4に示すような断面略コ字形状のガイド部材18が夫々取り付けられている。この各ガイド部材18は、前進トルク受け面14aの上部コーナと下部コーナに係止される上下の屈曲片18a,18bを有し、下部側の屈曲片18bがキャリパ本体2にビス止めされている。そして、ガイド部材18は、キャリパ本体2を形成するアルミニウム合金よりも硬度の高い材料、例えば、鋼材(例えば、Hv120の硬度を有するもの)等によって形成されている。
【0021】
このため、車両前進時に制動が行われた場合には、各ブレーキパッド9の端面9aがガイド部材18に押し付けられて摺動し、各ブレーキパッド9に作用する制動トルクがガイド部材18を介してトルク受け面14aに受け止められる。したがって、車両前進の際の制動時に大きな制動トルクがブレーキパッド9に繰り返し作用した場合においても、ブレーキバッド9が硬度や融点の低いトルク受け面14aに対して直接当接することがなく、このことからキャリパ本体2に圧痕や熱変形等が生じることがない。
【0022】
一方、キャリパ本体2の各後進トルク受け面14bは、前進トルク受け面14a側のようなガイド部材18は配置されておらず、ブレーキパッド9の端面9bに対し直接当接し得るようになっている。
【0023】
このため、車両後進時に制動が行われた場合には、各ブレーキパッド9の端面9bがキャリパ本体2の剥き出しの後進トルク受け面14bに直接当接する。キャリパ本体2は前述のように比較的硬度の低いアルミニウム合金によって形成されているため、ブレーキパッド9が後進トルク受け面14bに当接する際には、アルミニウムの弾性によって当接衝撃を充分に緩衝される。したがって、車両後進時の制動では、後進トルク受け面14bのアルミニウムの弾性によってラトル音の発生が抑制される。
【0024】
また、この実施形態のディスクブレーキは、後進トルク受け面14b側にガイド部材を配置する必要がないため、部品点数が削減され、製造コストの低減が可能となる。
【0025】
さらに、このディスクブレーキ装置は、キャリパ本体102の製造方法を以下のように工夫することによって、左車輪用のブレーキと右車輪用のブレーキでキャリパ本体102を共用することができる。
【0026】
図5〜図7は、左右共用化を可能したキャリパ本体102を示すものであり、図5は、ガイド部材18を取り付ける前の状態、図6,図7は、夫々左右異なる車輪用としてガイド部材18を取り付けた状態を示している。
キャリパ本体102は、アルミニウムでの鋳造時に、図5(A),(B)に示すようにトルク受け面14a,14bにガイド部材18の厚みと同等高さの突起20a,20bを夫々形成する。
次に、図6(A),(B)に示すようにキャリパ本体102を左右一方の車輪用として使用する場合には、前後一方のトルク受け面14aの突起20aを他方のトルク受け面14bの突起20bよりも多く切削加工等によって切除して、そこにガイド部材18を取り付ける。また、図7(A),(B)に示すようにキャリパ本体101を左右逆側の車輪用として使用する場合には、他方のトルク受け面14bの突起20bを一方のトルク受け面14aの突起20bよりもより多く切削加工等によって切除し、同様にそこにガイド部材18を取り付ける。この場合、切削加工等でより多く切除する量は、ガイド部材18の厚みと同じとする。
【0027】
このように、予め、鋳造時に前後のトルク受け面14a,14bにガイド部材18の厚みよりも大きい高さの突起20a,20bを形成しておき、ガイド部材18を取り付ける側の突起20aまたは20bをより多く切除するのは、ガイド部材18の取り付けによって前後のトルク受け部の間の中心とブレーキパッドの長手方向の中心がオフセットし、それによってブレーキパッドに偏磨耗が生じるのを防止するためである。
【0028】
したがって、この例のようにして左車輪用と右車輪用でキャリパ本体102を共用するようにした場合には、ブレーキパッドの偏磨耗を招くことなく製造効率の向上を図ることができる。
【0029】
つづいて、図8〜図10に示す第2の実施形態について説明する。
この実施形態のディスクブレーキの場合、ブレーキキャリパ1のキャリパ本体202は第1の実施形態と同様にアルミニウムによって一体ブロックとして形成されているが、キャリパ本体202の内側壁3と外側壁4に、相互に対向するピストン7,7がディスク回転方向に並んで各2つずつ設けられ、各ピストン7の前面側に対応するブレーキパッド9A,9Bが1つずつ配置されている。そして、内側壁3と外側壁4には、夫々各2つブレーキパッド9A,9Bを摺動自在に保持するためのガイド溝14A,14Bが形成され、各ガイド溝14A,14Bの周方向両側に前進トルク受け面14Aa,14Baと後進トルク受け面14Ab,14Bbが夫々形成されている。尚、各ガイド溝14A,14Bはディスク周方向両側に対称形状を成して形成されている。
【0030】
このディスクブレーキは、第1の実施形態と同様に各ガイド溝14A,14Bの前進トルク受け面14Aa,14Ba側のみに鋼材等の高硬度材料からなるガイド部材218A,218Bが取り付けられ、後進トルク受け面14Ab,14Bbは、ブレーキパッド9A,9Bの端面に対してキャリパ本体202のアルミニウムが剥き出しになっている。各ガイド部材218A,218Bは、図10に示すように内側壁3のディスク側に屈曲した屈曲片218Aa,218Baを備え、この各屈曲片218Aa,218Baが内側壁3にビス止めされている。
【0031】
この実施形態のディスクブレーキは、ディスク片面当たりのブレーキパッド9A,9Bが2つであるが、各ブレーキパッド9A,9Bにつき、前進トルク受け面14Aa,14Ba側のみに高硬度のガイド部材218A,218Bが配置されているため、第1の実施形態と同様に、車両前進時の制動では前進トルク受け面14Aa,14Baの圧痕や溶融の発生を防止し、車両後進時の制動ではラトル音の発生を確実に抑制することができる。
【0032】
ただし、第1の実施形態に対してブレーキパッド数が2倍であるため、ガイド部材218A,218Bの設置数が減ることによるコスト削減効果は大きくなる。なお、この実施形態においては、ブレーキパッド9A,9Bに対して夫々1つのピストン7を対応させて設けているが、これに限らず、1つのブレーキパッドに対して複数(例えば2つ)のピストンを配設したものでも良い。
【0033】
次に、図11,図12に示す第3の実施形態について説明する。
このディスクブレーキは、ピストン7やブレーキパッド309の配置数等は第1の実施形態と同様であるが、ブレーキパッド309の裏金311にディスク回転方向の前後に延出する係止フック30が一体に形成され、この係止フック30がキャリパ本体302に突設されたステイ31に引っ掛け状態で係止される点が大きく異なっている。つまり、第1の実施形態では、制動時にブレーキパッドに作用する回転方向の制動トルクをディスクDの回出側(回転方向の出口側)で押し返して受け止めるようになっているが、この実施形態では、ブレーキパッド309に作用する回転方向の制動トルクをディスクDの回入側(回転方向の入口側)で係止フック30とステイ31による係合部で引っ張ることで受け止めるようになっている。
【0034】
したがって、このディスクブレーキでは、車輪前進時にディスク回入側にあるステイ31Aの前面が前進トルク受け面314aとなり、車両後進時にディスク回入側にあるステイ31Bの前面が後進トルク受け面314bとなっている。そして、この実施形態の場合にも、前進トルク受け面314a側にのみ高硬度材料から成るガイド部材318が取り付けられ、後進トルク受け面314bにはガイド部材が設けられず、係止フック30が直接当接するようになっている。なお、ガイド部材318は、図12に示すように上下に屈曲片318a,318bが形成され、この屈曲片318a,318bをステイ31の上下面に係止させた状態で屈曲片318bがステイ31にビス止めされている。
よって、この実施形態の場合にも、前述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0035】
さらに次に、図13,図14に示す第4の実施形態と、図15に夫々示す第5の実施形態について説明する。
これらの実施形態は、夫々前述した第1,第3の実施形態にほぼ対応する構成を備えているが、各後進トルク受け面14b,314b側には、前進トルク受け面14a,314aと硬度の異なるガイド部材18−2,318−2が取り付けられている。
【0036】
即ち、前進トルク受け面側のガイド部材18,318は高硬度に形成され、後進トルク受け面側のガイド部材18−2,318−2はそれよりも低い硬度に形成されている。
前進トルク受け面側(以下、「前進側」と呼ぶ)と後進トルク受け面側(以下、「後進側」と呼ぶ)でガイド部材の硬度を変えるにあたっては、例えば、以下(1)〜(3)のような手法を採用することができる。
(1)前進側は高硬度のバネ用ステンレス鋼帯(硬度Hv300)で形成する場合には、後進側は冷間圧延鋼板(硬度Hv120)で形成する。
(2)前進側は鋼材(硬度Hv120)によって形成する場合には、後進側はアルミニウム(硬度約Hv90)で形成する。
(3)前進側と後進側を同じ構造用炭素鋼S15Cで形成する場合、前進側は、焼入れ焼きなまし(1次:900℃から油冷、2次:780℃から水冷。後に、180℃から空冷)で硬度Hv253とし、後進側は、焼きならし(900℃から空冷)で硬度Hv122とする。
【0037】
また、前進側と後進側の硬度はこの他の手法を用いても変えることができるが、その場合、前進側と後進側の硬度差の比率は、前進:後進=1.3:1程度であることが望ましい。
【0038】
これら第4,第5の実施形態の場合、ブレーキパッド9,309の前進側と後進側に夫々ガイド部材18,318,18−2,318−2が配置されているものの、後進側のガイド部材18−2,318−2が、前進側のガイド部材18,318よりも硬度が低く設定されているため、前述の他の実施形態と同様に、車両前進時の制動では前進トルク受け面14a,314aの圧痕や溶融の発生を防止し、車両後進時の制動ではラトル音の発生を抑制することができる。
【0039】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、液圧式のディスクブレーキを例にとり説明したが、押圧手段を電動モータで駆動する電動ブレーキにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の第1の実施形態のディスクブレーキを示す平面図。
【図2】同実施形態のディスクブレーキを示す正面図。
【図3】同実施形態のディスクブレーキを示す図1のA−A線に沿う断面図。
【図4】同実施形態のディスクブレーキのガイド部材を示す斜視図。
【図5】同実施形態の変形例を示すキャリパ本体の平面図(A)と、その図のB−B線に沿う断面図(B)を併せた図。
【図6】同実施形態の変形例を示すキャリパ本体の平面図(A)と、その図のC−C線に沿う断面図(B)を併せた図。
【図7】同実施形態の変形例を示すキャリパ本体の平面図(A)と、その図のD−D線に沿う断面図(B)を併せた図。
【図8】この発明の第2の実施形態のディスクブレーキを示す平面図。
【図9】同実施形態のディスクブレーキを示す図8のE−E線に沿う断面図。
【図10】同実施形態のディスクブレーキのガイド部材を示す斜視図。
【図11】この発明の第3の実施形態のディスクブレーキを示す断面図。
【図12】同実施形態のディスクブレーキのガイド部材を示す斜視図
【図13】この発明の第4の実施形態のディスクブレーキを示す平面図。
【図14】同実施形態のディスクブレーキを示す図13のF−F線に沿う断面図。
【図15】この発明の第5の実施形態のディスクブレーキを示す断面図。
【符号の説明】
【0041】
2,102,202,302…キャリパ本体
5…外周壁(ディスクパス部)
7…ピストン(押圧手段)
9,309…ブレーキパッド
14a,14Aa,14Ba,314a…前進トルク受け面
14b,14Ab,14Bb,314b…後進トルク受け面
18,218A,218B,318,18−2,318−2…ガイド部材
D…ディスク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車軸とともに回転するディスクの両側にディスクパス部を介して対向配置された複数の押圧手段を有するキャリパ本体を備え、ディスクの両側に対を成して配置されるブレーキパッドを前記キャリパ本体にディスク軸方向へ摺動可能に支持させたディスクブレーキにおいて、
キャリパ本体は、前進制動時に前記各ブレーキパッドからの制動トルクを受ける前進トルク受け面と、後進制動時に前記各ブレーキパッドからの制動トルクを受ける後進トルク受け面とを有し、前記前進トルク受け面と前記後進トルク受け面とは前記ディスク周方向で対称の位置に形成され、前記前進トルク受け面のみに前記ブレーキパッドの当接するガイド部材が設けられるとともに、後進トルク受け面は前記ブレーキパッドに直接当接し、前記キャリパ本体は前記ガイド部材よりも硬度の低い材料から成ることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記押圧手段は前記ディスクの片面毎に複数のピストンを備えてなり、前記ブレーキパッドは前記各ピストンに対応して設けられ、キャリパ本体は、各ブレーキパッドのディスク周方向両側に対称形状の前進及び後進トルク受け面が夫々設けられるとともに、前進トルク受け面側のみに前記ガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
車両の車軸とともに回転するディスクの両側にディスクパス部を介して対向配置された複数の押圧手段を有するキャリパ本体を備え、ディスクの両側に対を成して配置されるブレーキパッドを前記キャリパ本体にディスク軸方向へ摺動可能に支持させ、車両の制動時に前記各ブレーキパッドが当接する前記キャリパ本体のトルク受け面に各々ガイド部材が設けられてなるディスクブレーキにおいて、
後進制動時に前記ブレーキパッドが当接する後進トルク受け面のガイド部材は、前進制動時に前記ブレーキパッドが当接する前進トルク受け面のガイド部材よりも硬度が低くなっていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項4】
前記キャリパ本体がアルミニウムから成り、前記ガイド部材は鋼材から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のディスクブレーキ。
【請求項1】
車両の車軸とともに回転するディスクの両側にディスクパス部を介して対向配置された複数の押圧手段を有するキャリパ本体を備え、ディスクの両側に対を成して配置されるブレーキパッドを前記キャリパ本体にディスク軸方向へ摺動可能に支持させたディスクブレーキにおいて、
キャリパ本体は、前進制動時に前記各ブレーキパッドからの制動トルクを受ける前進トルク受け面と、後進制動時に前記各ブレーキパッドからの制動トルクを受ける後進トルク受け面とを有し、前記前進トルク受け面と前記後進トルク受け面とは前記ディスク周方向で対称の位置に形成され、前記前進トルク受け面のみに前記ブレーキパッドの当接するガイド部材が設けられるとともに、後進トルク受け面は前記ブレーキパッドに直接当接し、前記キャリパ本体は前記ガイド部材よりも硬度の低い材料から成ることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記押圧手段は前記ディスクの片面毎に複数のピストンを備えてなり、前記ブレーキパッドは前記各ピストンに対応して設けられ、キャリパ本体は、各ブレーキパッドのディスク周方向両側に対称形状の前進及び後進トルク受け面が夫々設けられるとともに、前進トルク受け面側のみに前記ガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
車両の車軸とともに回転するディスクの両側にディスクパス部を介して対向配置された複数の押圧手段を有するキャリパ本体を備え、ディスクの両側に対を成して配置されるブレーキパッドを前記キャリパ本体にディスク軸方向へ摺動可能に支持させ、車両の制動時に前記各ブレーキパッドが当接する前記キャリパ本体のトルク受け面に各々ガイド部材が設けられてなるディスクブレーキにおいて、
後進制動時に前記ブレーキパッドが当接する後進トルク受け面のガイド部材は、前進制動時に前記ブレーキパッドが当接する前進トルク受け面のガイド部材よりも硬度が低くなっていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項4】
前記キャリパ本体がアルミニウムから成り、前記ガイド部材は鋼材から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のディスクブレーキ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−100748(P2007−100748A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288337(P2005−288337)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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